PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<絶海のアポカリプス>子午線の向こう側

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

絶対に……守り切りますから。


 諸君等に折り入って、尋ねてみたいことがある。
 島との交戦経験はあるか。
 そう、島だ。
 たとえばアクエリア島を自慢の太刀で真っ二つに斬り裂いたことはあるか。
 ないか。そうか。
 では山ならばどうだ。
 あの島の巓きを魔術の一撃で木っ端微塵に砕いたことはあるか。
 城か。戦艦か。
 ああ、これは答えてくれなくて構わない。
 その程度では無理だ。どうにもならない――

                   ――――海洋王国提督バルザック・ビスクワイア

 海は荒れ、雷鳴が轟いている。
 ここから見えるのは、おそらく『尾』であった。
 うねる尾が海を断ち割る度に、迫る高波が船を軋ませる。
 弓なりにたわんだマストが弾けるたび、甲板に亀裂が走る。
 クルーは船に侵入した水をかき出し、破損の応急処置に追われていた。
 度重なる交戦に傷ついた艦隊は、降って湧いた事態にてんてこ舞いの有り様なのであった。

 海洋王国最後の大号令は、このフェデリア海域での小戦闘全てに勝利を収めた。
 大規模と予測された戦域においても同様であった。
 ただ一つの例外、アクアパレスでの死闘を除いて。
 追い詰められたアルバニアはアクアパレスを崩壊させ、そして――この事態を引き起こした。
 果たして、暗い水底から現れたのは竜種であった。
 滅海竜リヴァイアサンを名乗る『それ』は、正に絶望そのものである。

 攻めるか、退くか。
 一体全体どうすればいいのか。
 魔種アプサラスの戦列無敵艦隊アルマデウスを打ち破った一行は、未だ判断しかねていた。
 攻めるならばどうか。
 尾の一撃は、いかな船舶をも転覆せしめるだろう。
 そもそも高波が問題だ。近づくことさえ容易ではない。
 では退くならどうか。
 本格的に退くとなれば、海洋王国大号令はここで終わりだ。
 終わればどうなるのか。アルバニアが生存している以上、廃滅病の進行は決して止まらない。
 この決戦で、更に多くの者が罹患した可能性も大いにある。故に退路はない。
 一時撤退はどうか。
 封じていたアルバニアの権能が回復することになるだろう。結果は同じだ。

 答えは決まっていた。
 攻める他にない。
 ではどうやって攻めるのか。
 海洋王国きっての豪腕キャプテン達が、決死の覚悟で隙を伺い船を飛び込ませるしかないのだろう。
 イレギュラーズはどうにか距離に応じて、出来る限りの打撃をたたき込む。
 海洋王国軍もありったけの砲弾を撃ち尽くすのだ。
 こちらの尾部において、ミクロな問題は水飛沫だ。
 飛沫といったが、それそのものが高圧の水弾や津波のようなものである。
 相手の打撃力を防ぐ為に、高い耐久力が勝負の鍵になるだろう。

「死闘! 絶望! いいじゃない! だって燃えてきたもの!」
 胸を張る『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)は、これで構わないのだろう。鉄帝国軽騎兵隊は、いつでも死ぬ覚悟が出来ているのだから。
 渋い表情で腕を組むゾンメル少佐も、マストに背を預けて紙巻きに火を付けたメヴィ兵長も、やる気に見える。鉄帝国の軍人達はさすがに肝が据わっているのだろう。
 提督の軍事顧問アドラー・ディルク・アストラルノヴァの闘志は、些かも衰えていないように思える。
 海洋王国にとって絶望の青を踏破することは、やはり悲願であるのだ。
 救助から引き上げてきたエルテノール=アミザラッド=メリルナートが犠牲者に祈りを捧げている。その大きな背には不退転の決意が漲っている。
 イレギュラーズにとっても同じだ。世界滅亡の阻止と冠位魔種の打倒、冠位魔種の打倒とリヴァイアサンの撃破はそれぞれ切っても切り離すことが出来ない。
 自身が、仲間達が、苦しんでいる廃滅病の件もある。
 気が進む、進まない以前にやる他ない訳だ。

 ――それで。
 だからといって。
 これは上手くいくのか。

 考えてもみて欲しい。
 相手は山だ。島だ。
 それも動く、高度な知性を持った、神にも等しい存在だ。
 あれは竜――伝承における世界最強の生物なのだ。

 現実に目を塞ぎ、ただ勝てると信じて挑んで良いものなのか。
 そうすれば本当に勝つことが出来るのか。
 答えは断じて『否』だ。
 そんなことは、誰にだって分かっていた。
 ただ進む他に道なんて無かった。
 たとえその先が、ただの地獄に過ぎないとしても。
 我々にはこの方法しか残されていなかったのだ――

GMコメント

 pipiです。
 テールスープって美味しいですよね。
 この戦域で相手にするのは、リヴァイアサンの『尻尾』です。

●重要な備考
 このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはアルバニアの権能復活を指します)

 皆さんはどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。

●目的
 リヴァイアサンの撃破。
 そのために尾部分に出来る限りの打撃を加える。

●ロケーション
 皆さんの艦隊は、後述の『尾撃と高波』を避けるため、荒海の中で敵に近づいたり離れたりしています。
 皆さんは攻撃行動や防御行動、攻撃や回復、支援等の行動を、自由に行うことが出来ます。
 上手いタイミングで行動出来たとして扱います。

●敵
『リヴァイアサンの尾』
 無尽蔵な体力と、理不尽な耐性を保ちます。
 攻撃は効いているのかどうかも分かりません。
 絶大な威力はかすめただけで生命さえ危ぶまれます。
 皆さんの強力な攻撃は、あるいはその鱗を削ることも出来るかもしれません。
 さながら、雨だれで石を穿つように。

 数ターンに一度程度、以下のような攻撃をしてきます。
・竜鱗の飛沫(A):物特レ貫、失血、ダメージ極大
 鱗が飛んできます。

・水砲(A):神特レ範、飛、ダメージ極大
 高圧の水が飛んできます。

・津波(A):神特レ列、飛、ダメージ大
 文字通り。タイダルウェイブです。

・かみのふるめき(A):神特レ域、感電、ショック、炎獄、ダメージ大
 激しい雷撃です。

●尾撃と高波
 海洋王国のキャプテン達は、必死にこれを避けながら接近してくれます。
 いつまで避け続けられるかは分かりません。
 おそらく一撃で搭乗艦が撃沈します。

●味方
 皆さんと一緒に戦ってくれます。

〇海洋王国軍
『ビスクワイヤ提督』サンタ・パウラ号
 皆さんの艦隊の指揮官です。戦闘経験豊富なおじさんです。

『エルテノール=アミザラッド=メリルナート』と部下達。
 ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)さんの関係者です。
 バックアップは万全です。後衛で多数のスループ船を運用して主に救助にあたります。

『海洋海軍』×けっこう沢山
 カットラスやピストルで武装しています。

『アドラー・ディルク・アストラルノヴァ』
 ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)さんの関係者です。強いです。

『伏見 桐志朗』
 Ring・a・Bell(p3p004269)さんの関係者です。強いです。

『アドラー家臣団』×そこそこ
 凄腕のサーベル使いの飛行種達です。

〇鉄帝国軍
『ゾンメル少佐』
 鉄帝国海軍の高級将校です。
 HP、回避が高いです。
 能力を跳ね上げる瞬付与を駆使し。虚無、喪失、Mアタックの泥仕合を得意とします。
 一応『<第三次グレイス・ヌレ海戦>ラズマス・ケイジに背を向けて』『<鎖海に刻むヒストリア>アドミラル・アセイテ』に登場。
 知らなくてOKです。

『メヴィ兵長』
 ステータスは満遍なく高め。
 二刀流を駆使して戦うトータルファイターです。
 一応『<第三次グレイス・ヌレ海戦>ラズマス・ケイジに背を向けて』『<鎖海に刻むヒストリア>アドミラル・アセイテ』に登場。
 知らなくてOKです。

『帝国海兵』×それなり
 左腕が巨大なガトリングガンになっており、コンバットナイフも持っています。

『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ
 愛称はリーヌシュカ(p3n000124)
 ステータスは満遍なく高め。若干のファンブルが玉に瑕。
・格闘、ヴァルキリーレイヴ、リーガルブレイド
・セイバーストーム(A):物近域、識、流血

『鉄帝国軽騎兵エヴァンジェリーナ隊』×そこそこ
 サーベルによる切り込みを得意とする精強な部隊です。

〇ローレット
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 両面型前衛アタッカー。
 Aスキルは格闘、飛翔斬、ディスピリオド、剣魔双撃、ジャミング、物質透過を活性化。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

  • <絶海のアポカリプス>子午線の向こう側Lv:15以上完了
  • GM名pipi
  • 種別ラリー
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年06月13日 21時00分
  • 章数3章
  • 総採用数336人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
傲慢なる黒
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

「帆を畳め!」
「アイアイサー!」

 引き潮に呑まれるように、ガレオン船が急速に引き寄せられる。
 蠢く尾にぐいぐいと突っ込んで行く。
 リヴァイアサンの巨体がみるみる近づいてくる。

 ――斉射! 撃ち方始め!

 轟音。船が揺れる。
 吸い込まれる多量の砲撃は、竜の鱗をいくらも傷つけていない――が。

「は、はは……なんて大きさだよ」
 大きく傾いた甲板に二振りの銃剣を突き立て、クロバは乾いた笑いを零した。

(……これが竜? この覇気が?)

 眼前にそびえる世界最強の生物は、あまりにも巨大な悪夢そのものであった。
「クロバ! 今日こそは負けないわ!」
 大きな帽子を跳ねさせて、リーヌシュカがサーベルを抜き放つ。
 苦笑。この娘はこんな場であっても己と張り合うつもりらしい。
「……上等だ」
 クロバの言葉はどちらに向けたものであったろうか。

 ――どんな堅牢な鱗だろうと。どんな無尽蔵な生命力をしようとも!!
   生きてるなら必ず殺せるだろう、ならば”死神”が諦めたらここで仕舞いだろう!!

「その通りだ。生物である以上、殺せば必ず死ぬ。多少、道理から外れていてもな」
 愛無が頷く。
「焼け石に水、上等じゃないですか」
 そんなちっぽけなもので穴を空けられるなど――挑戦しがいを感じるまで。
 バルガルは飲み干したエナジードリンクの缶を握りつぶすと、宣告の槌『センテンス』を握りしめる。

 間合いは至近。
 練達の民であれば、或いは列車の通過を連想したろうか。
 眼前――触れ合う寸前を滑っていく鱗の群れは、ほんの後数メートル近ければ船を粉々にすりつぶしてしまうだろう。、
 甲板から刃を抜き放ったクロバは、その瞬間を見逃さなかった。

「あぁ、そうそうリーヌシュカ。
 ありがとな、鉄帝の船の時。気にかけてくれただろう? 無事に帰ったら食事にでも行こうぜ!!!!」
「それを、今言うの!?」
 俄に頬を染めたリーヌシュカと共に、クロバは甲板を駆ける。

 爆音。炸裂と共に加速した軌跡――アヴァランチ・ロンドがリヴァイアサンの鱗に火花を散らす。
 リーヌシュカが操る無数のサーベルがその鱗を滑る。
 暴風と共に振り抜かれたバルガルの槌が重い音を立てて跳ね返る。

「ちっとも効かないじゃない!」
「まさしく、岩を殴りつけているようなものですね」
 リーヌシュカに応じて口角をつり上げたバルガルの闘志は、しかし些かも衰えていない。
 甲板を波濤が襲い、各々がマストに、船縁に、甲板に叩き付けられる。
 なるほど、幾度も耐えきれる威力ではない。
 下手をすれば一撃で――という事もありうる。
「やり続けるんですよ」
 だがバルガルは再び槌を振り上げる。
「もー!」
 リーヌシュカの悲鳴にも似た叫びに、けれどリゲルはその小さな肩に手のひらを置いて笑った。
「俺達も死力を尽くす! 必ず勝てる! 勝利を信じて一丸となるんだ!」
 リゲルの剣礼――切っ先の輝きに甲板が湧き上がる。
「頼む!」
「任せて!」
 船に保護結界を施したリゲルが、アルテナに背を預け巨大な鱗に銀の剣を突き立てる。
 放たれた断罪の刃は――されど強烈な膂力に一気に持って行かれる程に。
「……オオオォッ!」
 踏み込み。
 これが竜鱗、か。
 鱗を駆ける剣は、果たしていかほど傷つけることが出来たのだろうか。

 分析しろ。
 愛無は静かな視線でリヴァイアサンの尾部を観測する。
 海中から攻められるだろうか。正に列車に飛び込むようなものだ。すりつぶされる。死だ。
 船の裏側から行けば。或いはどうにかなるだろうか。強烈な渦に呑まれる危険はある。
 否――まだ見なければならない。
 愛無は海にその身を滑らせた。
 身体を引き裂く程の強烈な水圧にもみくちゃにされながら、愛無は船底に粘膜を突き立てて身体を支える。
 動くこともままならない。

 だが愛無には確信があった。
 この竜は『廃滅病に侵されている』筈だ、と。
 ならば腐食した箇所が発見出来るのではないか。
 激流の中で観察した限り、未だ推測の域は出ないが、確かにその鱗は必ずしも一定ではないように思える。
 そろそろ限界だ。甲板へ移動しなければ。

成否

成功


第1章 第2節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

 えいえいっと――
 愛らしい瞳を大きく開いたレストが微笑む。
「かなりの暴れん坊みたいだけれど……ええ、きっとみんなと一緒なら上手く行くわ~」
 甲板が軋む。
 叩き付けられる波濤は、されどレスト達の保護結界によって辛うじて持ちこたえている。

 リンディスは未来を綴る羽筆の震えを自覚する。
 その巨体は、音は、眼前の全てが想像を絶するものだった。
「それでも――それでも立ち向かうのです」
 震える腕を叱咤して『空に焦がれた男の詩』を励起する。
 身を滅ぼしても空に焦がれた英雄の歌で、この船を青の果てへ届けるために。

 ――おらおら! 撃て撃てー!!

 至近の砲撃が立て続けに打ち込まれる。
 甲板の仲間達に、クルー達に漲る力を、今はただ信じて。

「そのキレイな鱗、傷つけちゃうかも。ごめんなさいね~」
 レストの炸裂する意思の波動が絶大な輝きと共に眼前を通り過ぎる大壁に叩き付けられた。
 煌めきの残滓と共に、光が海に呑まれて行く。
 効いたのか否か――結果は未だ明らかでないが。
(もししっぽに怪我した場所を見つけたら、皆に教えてあげましょう~)
 その嫋やかな面持ちが崩れることはない。

「心強いです――」
「俺達もだ!」
 沙月に応じたゾンメルとメヴィが歯を剥き出しにして笑う。
 以前はさておき、今度は味方だ。三名は甲板を駆ける。
「今だ嬢ちゃん!」
 優美な舞いを纏って沙月が踏み込む――刹那。
 邪道の秘奥を引き出した沙月が巨大な鱗に神速の一撃をたたき込む。

 イレギュラーズの猛攻が続いている。
 アルバニアを倒すつもりだった――それがまさか、竜種と相まみえることになるとは。
 ポテトは歯を噛みしめる。
 掴んだロープが手のひらに食い込むのも気に留めず、大波に弾き飛ばされた大切な伴侶――仲間達に癒やしの術陣を施す。
 温かな光が仲間達に再び得物を振り上げる力を与える。
 これで足りたのか。それすらも分からない。
 雷鳴と横殴りの豪雨、それを凌駕する波が一行を打ち据えていた。

 勝てるかどうかなど分からない。
 第一陣の突撃があの神威にいかほどの影響を与えたのかすら定かではない。
 だが――皆の背中は私が守り、支えて見せる。

「……ここで諦める訳には行かないんだ!」
「道は閉ざされていません、こじ開けましょう。あの竜種の先、絶望の先へ!!」
 ポテトが甲板に再び癒やしの術を展開し、リンディスが調律の術を紡ぐ。

 信じるのだ。
 信じる他にないのだ。
 一粒が小さい水滴だとしても集まれば岩を穿てるのだと。

成否

成功


第1章 第3節

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
舞音・どら(p3p006257)
聖どら
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ

 船縁の向こうを、大壁が――鱗の群れが上昇して行く。
 それにとってのただの水しぶきが一同を強かに打ち付け、なぎ払う。

「こ、これが、竜種……」
「あはは! でかい! あはは!」
「大きいっ! こんなのを倒せるの……」
 心臓を鷲掴みにされる程のプレシャーを切り裂くように、アルテミアは二振りの細剣を抜き放った。
 だが――拳を握りしめたアルテミアは、焔は、一人ではない。
 一度だけぎゅっと目を閉じたあと、ふるふると顔を振った焔の瞳は輝いている。
 どらの可愛い尻尾を見習って欲しいものだ。笑ってしまうが――笑えるうちにやってしまおう。

「いやいやいやいやいやいやいや!
 デカすぎんだろ……!!!
 怪獣映画じゃねーんだぞ!!!」
 後続の船からガレオンの甲板に飛び乗った千尋が目を見開いている。
 なんぼなんでもヒルズだのドバイのビルだの相手にドンパチ構えた事は無い。
「いやもうこんな……ん。わっかんねーって……とか言って……たいが?」
 多くの依頼や決戦を渡り歩いた夏子とて、様々な自体になれた心算では居たものだが。
「コレはないでしょ」
 正に絶句。その槍に爪楊枝程の心頼みも置けそうにないとなれば。
 どうも『現実はおとぎ話より凄い』らしい。

 天から注ぐ雷撃が甲板をうねる中、一同は駆ける。
「こっちだめぇ!」
 可憐な瞳で稲光を精一杯睨むように、メーコが危機の鐘を鳴り響かせる。
 高く掲げ、あの雷撃を出来る限り仲間達から引き離す為に。
 突如眼前が純白に覆われた。

 雷撃――かみのふるめき。

 轟音は聞くことすら出来なかった。
 下手をすれば一瞬で消し炭になりかねない雷撃を受け、だがメーコは羊飼いの鐘を支えに立ち続ける。
 彼女が身に浴びねば、この瞬間に全員が焼き尽くされていたかもしれない。
 遠ざかりそうな意識を叱咤して、それでも甲板に立ち続けるメーコは辺りを伺った。
 仲間達は――良かった。無事だ。

(こんな状況でも美女や美少女ががんばってる?)
 ……ならば!

「こんなお誂え向きな現場あるか!? この超ドジョウ討ちゃモテモテだろうよぉ!」
「シャオラーッ! デカイうなぎがナンボのもんじゃい!!」

 夏子と錠剤を口に放り込んでかみ砕いた千尋と僅かに視線を合わせて口の片端をつり上げる。

「生き物なんだろ…!? のヤロウ! なら……生き物なら――倒せる!!」
 甲板を駆ける夏子は、併走するアルテミアと焔、どら、リーヌシュカ達の背を代わる代わるに叩く。

 自身を鉄壁に変え火力をたたき込む。相方が美少女なら尚、僥倖。

 ――俺は! それで!! それが!!! 良いんじゃないかな!?

「何よ!」
「どうしたの?」
「帰ったらご飯でも一緒に食べよう 海鮮なんかどう? ダメ?」
「そんなの、なんなら私の奢りだっていいわ!」
「あ、はは……」
 鱗に槍を突き立て、返す暴虐な水圧の奔流に夏子が跳ね飛んだ。
 だが夏子が居なければ、そうなったのはこの場の全員であったろう。

 ――竜にとって私達人間はちっぽけで歯牙にもかけない存在なのでしょう。

 アルテミアが唇を強く噛む。携えた瀟洒な二刀を十次に構える。

 ――行ってくれ!

 甲板に叩き付けられた夏子の叫び。
 高く飛んだ焔の愛槍『カグツチ天火』が爆炎を吹き上げた。

 ――倒せるか、倒せないかじゃない。倒さないといけないんだ!

 この技を父に見せて貰ったとき、父は山一つを溶断せしめた。
 父に出来て自身に出来ぬ道理はないと、言い聞かせ、誓い。
 あの鱗を少しでもいい、引き剥がすのだ。

 甲高い火花を散らし、アルテミアとリーヌシュカが立て続けの剣撃を見舞い――
 鱗の間へ僅かに食い込んだ間隙に、焔がその槍を突き立てる。
 微かに、鱗が浮いたか。
「無理矢理にだって――ッ!」
 更にこじ開けようと、どらは裂帛の突きをたたき込む。

 そんな後背から迫るフルスロットル。
 弾けるような三速発進。
 大型バイク『Maria』が巨大な鱗の上を駆け抜け――最高速。
 ぶち当ててやる。

 ――俺にだってどうなるかわかんねえぞ!

「テメーおいこの指輪! こういう時くらい俺にツキをよこしやがれ!!」

 狙うは廃滅病に侵された傷口。
 仲間達がこじ開けようとした、あの場所へ。
 衝撃――僅か一枚、ほんの微かにめくれ上がった様を尻目にして。
 宙へ投げ出された千尋は、遠く彼方に霞む竜の横顔に中指をおっ立てた。

 ――けどよ、最高の夜(Party)じゃねえか……!

成否

成功


第1章 第4節

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートC
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ポムグラニット(p3p007218)
慈愛のアティック・ローズ
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

 リヴァイアサンの尾。その一部が海面を脱し離れる。
 甲板が大きく傾き、船が竜尾のトンネルに引きずり込まれる。
 マストが弓なりに反れ、竜骨が軋みを上げた。

 ――脱出すんぞ! 取り舵いっぱーい!

 ――アイアイサー!

 竜の尾は今、一行の頭上、真上にある。
 このまま頭上の尾が落ちてくれば万事休す。
(これが竜種……!)
 おとぎ話の存在への邂逅に、けれどアレクシアは戦慄を叱咤して胸を踊らせた。
 相手がなんだろうと立ち止まる訳にはいかない。
 この一瞬をチャンスに変えるんだ。

「ああもう……」
 アレクシアの隣で艶やかに微笑んだアーリアが、船縁に頬杖をついた。
「ああもう、ゆっくり港でフィッシュフライとエール……なんて思ったのにぃ! ねえ?」
「この尻尾って食べれるのかしらね?」
「まぁでも、焼酎のリヴァイアサンテールスープ割なんていいかもじゃない?」
「案外と珍味かも……」
 アーリアとイナリの、どこぞの妖精が喜びそうな話題に、アレクシアの心が軽くなる。
 軽口は叩いても、誰の視線もじっとかの巨体に注がれている。
(私がやるのは、一瞬の隙を作ること……どうかしら?)
 瞬き一つ。蜂蜜酒の甘い罠は果たしてその身を蝕むことが出来るのか。
 どの毒の運命は、果たして――
 だが逃れようとも、ゆるす訳もない。
「うふふ……しつこい女は嫌いかしら?」

 空中でくるりと回った少女の身に、可愛らしい衣装が次々と装着され――エクセルシアラブフォーム。
 構えるはスプレンダーオブハートII・ハートテイカー。

 ――竜馬を躓かす愛と正義の虹光!
   魔法少女インフィニティハート、ここに見参!

 たしかに竜は巨大だろう。だが愛達が心に宿す正義はそれ以上に重厚にして長大。
「さあ皆さん、自らの力と心を信じ、あの竜に立ち向かいましょう」
「何はなくとも、まずは挑戦だ」
 敵は世界最強だろう。だが現実としてイレギュラーズは冠位魔種の一角を既に墜としている。
 ならばやってやれないことはない。
「開き直れ。覚悟しろ。心が折れれば待つのは死だ!」
 それは仲間のみならず、自身への鼓舞でもあり――

 天蓋――リヴァイアサンの尾ががみるみる迫る。
「あるばにあちゃんの おともだち かしら?」
 小首を傾げた愛らしい少女――ポムグラニットの身を水弾が掠め、身体が跳ねる。
「あなたに ようはないの――」
 花のように可憐な、誰の痛みも知らぬ無垢。
 ポムグラニットは表情一つ変えることなく、指先を振るう。
「――どいてちょうだいな」
 悪意と悦楽の魔陣は薔薇を描き、紡がれる魔力の奔流が迸った。

(拙者は……!)
 パティリアが構えたのは、その魂を撃ち貫くとされる長銃。
 海星綱に身体を預け、さながら己を極小の砲身と化して、狙うは一点。
 仲間達の剣撃を、砲撃を、見てきたからこそ分かる。
 おそらく自身にも、彼等同様に鱗一つ傷つけられまい。だが――
 ならば『見えぬ所』に傷を刻めば良い。
 小物と侮るがいい。
 歯牙にも掛ける価値もないと、視界にすら入れねばいい。
 パティリアはその意識の隙を見逃さない。弾丸が天蓋へ吸い込まれる。

 ――ニンジャの本懐、ここにある!

 疾く、駆けよ。
 喉を鳴らしたアルペストゥスが、その心を高鳴らせる。
 これは――救世主として『人の型』に押し込められた神威と、この世界の神威との邂逅だ。

 ――これは水の竜。どんな顔だろう。
   きれいだ。つよい。大きくて――かっこいい。

 その尾へ走らせた雷撃と雷撃とがもつれ、轟音が水蒸気を炸裂させ、光が大気を灼く。
 甘えるように、じゃれつくように。
 竜は竜と共に舞う。
 届かなくともかまいはしない。ただこの一時を、全力で。

 イレギュラーズの猛攻に、迫り落ちてくる天井が僅かに遠のく。
 リヴァイアサンの竜尾が跳ねたのだ。
 生じた激流に船が軋みを上げる。
 横殴りの波濤が幾度も甲板に降り注ぎ、一行の身をすりつぶす。
 それでも――マストに背を押しつけたジェイクは、揺れる天蓋へ鋭い視線を突き刺した。
 あれが振ってこなかった以上、勝ち目はある。
 小細工など不要だ。
(海の神だか何だか知らねえが――!)
 その身を蝕む廃滅の呪いすら打ち払わんとばかりに、ジェイクは凄絶な決意と共に低く腰を落とす。
 狙い撃つべきは、仲間達が見つけた傷痕、鱗の浮いた場所だ。
 構えた二丁、狼牙と餓狼の銃口が火を噴き、ありったけの弾丸をたたき込んで往く。

 探れ、僅かな勝機であっても。
 敵は、その巨体は、今やマストの先の更に上にある。
 ジョージの愛刀イサリビは届かないが――
「何……」
 水圧の奔流がその身を押しつぶし、船縁に叩き付けると同時にジョージは返す波濤へ一閃を放つ。

「点が駄目なら、面よ!」
 イナリが十次を切る二刀――布都御魂剣、天叢雲剣。その贋作。
 天孫降臨。
 顕現せしは異界の神『迦具土神』。
 膨大な熱量を収束させ――熱線が巨大な鱗を駆け抜けた。
 愛がスプレンダーオブハートII・ハートテイカーを構える。
「不運すら捻じ曲げる勇気の力。刮目せよ愛無き輩――」

 ――これが“愛”だ!

 駆け巡るピンクの光が魔方陣を多重に展開し――集う光条が炸裂した。

「私達の力、たっぷりと見せてあげるから!」
 放たれた魔力の矢――カルミア・ラティフォリアの紅蓮が咲き誇る。
 蜂蜜色の魔眼が毒の定めを背負わせる。
「やっぱり小さいね……」
「そうねえ」
 花も。定めも。あまりにも。
 呟いたアレクシアとアーリアは、けれど微笑んだ。
 あの巨体だ。毒の巡りだって、酷く遅いかもしれない。
 けれど、咲いたのだ。咲いてくれたのだ。
 希望は必ずある筈なのだ。

「繋いでちょうだい」

 舞い散る紅い花吹雪――キッス・イン・ザ・ダーク。
 その先へ。

成否

成功


第1章 第5節

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
すずな(p3p005307)
信ず刄
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
彼岸会 空観(p3p007169)

 天蓋――リヴァイアサンの尾はイレギュラーズの猛攻で僅かに逸れた。
 再びゆっくりと振り下ろされるまでに、ガレオンはどうにか脱出しなければならない。

 ――どうすんだよ!

 ――向こうのガレーに引っ張って貰うか?

 ――バカ言え! とにかく、風を拾え! 全力で脱出する!

 ――アイサ!

 さて。
 このタイミングでは、船は先程傷つけた箇所の反対に回り込まざるを得ない。
 それは再び強固な面と相対することを意味する。
「なんて大きさ――これ程とは……!」
 すずなは拳を握りしめる。
「大きい……けれどここで退いては、もっと多くの人が死ぬ」
 それは――嫌だ!
 マルクが拳を握りしめる。

 ――だから僕は、死を遠ざける者となる。

 威容、重圧。尋常ではない。
 これは尾だ。『尾』ですらこの始末とは――まさに絶望。これが竜種!
(……っ、気圧されるな、私!)
 これを越えねば先はないのだ。
 すずなは武者震いする膝に力を籠める。ぴたりと震えが止んだ。
「ははははっ! 良いねぇ! 最高だ! 俺はこんな戦いを待ってたんだ!」
 船縁に足を乗せ、ハロルドが獰猛に笑う。
「参ったね。こんなに大きいと思ってなかったよ」
 あっけらかんと言ってのけたマリアは故郷を思い出す。
 ガイアズユニオンの軍人は絶望等と言う言葉は誰一人知りはしなかった。
 敵は神威なれば尚結構。
 甲板が揺れる。じりじりと時が過ぎて行く。
 竜の尾が海中に、船に、徐々に近づいてくる。

「ホントにな。あの提督が言う通り、山、島、その規模だな」
 大剣――抜き身の星界剣〈アルファード〉を担ぎ上げたアランが吐き捨てた。
 艶やかな唇はさながら、新月を間近にした月のように――
(山や島を斬る……?)
 提督は確かにそう言った。
「成る程、考えた事も御座いませんでした」
 然し成る程、面白い。元の世界では空など飛べず、剣戟は宙を舞わぬ。
 だが至りしこの世界では、それすら叶うのだ。
 なれば山や島を斬れぬ道理はない。
 リヴァイアサンが完全無欠でないならば――生物の枠を外れぬ存在であるならば。
 その第三眼には必滅の『線』が必ず見える筈。
 剣士達が腰を落とす。
「竜を神だなんて思わないよ……けど、少なくとも僭称するだけの力はある!」
 サクラは天義の聖印を切り、鋭い視線を外さずに。
「けど、私達は追い詰めたアルバニアを倒さないといけないんだ!」
「そうだね、スティアちゃん」
 スティアとサクラは頷き会い、その身に侵されざるべき神聖を纏う。

 果たして――抜き放たれた無量の鬼渡ノ太刀が向かうべき先は。やはり仲間がこじ開けた鱗のようだ。
「さて、山崩しの一歩目です。愉しんで行きましょう」
 頷いた仲間達と共に、天蓋が降るのを待つのみ。
 船と一蓮托生であるならば、あの尾を避ける考えさえも放棄出来る。
 叶わぬ望みと絶望するのは、死してからとて遅くはなかろう。

 船や船員が駄目になったら、リヴァイアサンやアルバニアどころではない。
「怯むな! やれることをやれ! いつもと変わらん!」
 甲板のエイヴァンの檄は、あえて具体性を省いている。
 船頭多くすればなんとやら。指揮命令はビスクワイヤ提督と旗下のキャプテンに委ねるのが筋だ。
 軍事に一家言あるエイヴァンは、しゃしゃり出て混乱させるつもりはない。
 目的はあくまで鼓舞なのだ。
「……ったく」
 先の戦いで冠位魔種アルバニアを目にしてさえ震えなかった身体の戦慄が止まらない。
(この私を、快楽以外で……やるじゃない……!)
「怯むんじゃないわあんたたち! この海を奴のフカヒレスープにしてやるのよ!」
 今、この瞬間に必要なのは統率統制であろう。
 そう確信した利香は、その身をなぎ払う波濤のただ中で凛と声を張る。
 その身をずたずたに引き裂く水圧を、己が自身の不死性で癒やして。
「それとセイバーマギエル!」
「何よ!」
 この私をいつも闘技場で苦戦させてるその実力――
「――思う存分あの海蛇に見せつけてやりなさい!」
「ダースよ! あなたのためなら、まだやれるもの!」
「リーヌシュカさん! 皆さん! 加勢します!!」
「すずな! あなたがいれば百人力よ! いくわ!」
「はい――ッ! 無理無茶無謀だろうと、斬って捨てるまで!」
「勝たせてもらう!」
「行くよ!」
 スティアにその背を預けたサクラの聖刀【禍斬・華】が凛と鞘走る。
 放たれる精緻にして神速の居合――桜花閃。
 高圧の水礫さえ斬り裂いて、巨大な竜鱗が打ち震える。
「絶対に守るんだ!」
 イレギュラーズに突き刺さる水の矢をその身に受けて尚、スティアは自身と仲間の傷を癒やす。

「ダメージを蓄積させるんだ――!」
 一点へ。ただ一点へ。
 マルクが放つ不可視の刃が鱗の間隙に突き刺さる。
 石へ雨だれ。積もる塵。上等。
「そこだよ!」
 狙うはただの一点。
 磁性を増強し紅雷を纏うマリア――雷光・紫電一閃。雷光殲姫の異名のままに、戦場を紅く染め上げる。
 リヴァイアサンの動きは鈍重に見える。
 だが近寄れば触れてはならぬ石臼のようなもの。
 そこへ紅雷を纏うマリアは臆することはない。
 荒れ狂う雷撃の如く至近の連撃をたたき込み続け――
「来るよ!」
 スティアの叫び。竜の巨体が徐々に、徐々に船へと迫る。

 ――てめえら! 船を引き剥がせ!

 ――アイアイサー!

「さぁ、その断面は何色だろうなァ……!」
 尻尾の部位破壊は竜を狩るときにはお約束。
 なれば。
 駆け出すアランが咆哮する。
「諦めてたまるかってんだ……こんな所で、こんな場所で、終わる訳にはいかねぇんだよ!」

 ――だから終わるのはテメェだクソがぁぁ!!

 狙うはサクラが打ち据えた鱗――震える一枚。
 サクラが飛び退き、其が海中へ沈む刹那の間合いへ。
 裂帛の踏み込み。かつての聖剣にも似た輝きを宿した軌跡が竜鱗の間隙に突き出される。
 一刀。また一刀。リーヌシュカがサーベルをねじ込ませる。
 微かにめくれ上がる空洞へ、全身全霊を刃に込めて――!!
 三尺五寸の鬼灯。すずなの一閃に竜鱗が更にぐらつく。

 少しでも、微力でも!
 及ばないなら何度でも!

 ――この刃を振るい続けるのです……!

 すずなが放つ立て続けの刺突に竜鱗の一枚は不可逆にねじれ、尾はそのまま海中へと――衝撃。
 遂に鱗が船縁に接触した。
 甲板を揺らす強烈な振動に、船が落雷のような音を立てて削れて行く。

「何が竜種だ! 何が絶望だ! テメェごときに俺の守りを貫けるか!」
 ハロルドが聖剣リーゼロットを天にかざした。
 劈く雷光は――リヴァイアサンの物ではない。
 その身に降り注ぐ水礫、水刃の嵐の全てを撥ね除け、クルー達の目にその『無敵』を刻ませる。
「勝つぞテメェら! 俺に続けぇッ!」
 歯を剥き出しにして笑ってのけて。
 その剣に全てを貫き粉砕する『聖なる雷』を纏わせ――雷鎚。

 しゃらりと、錫杖の様に。
 雷撃が貫き焼け焦げ、海中へ没しようとするその一点へ。
 線に導かれるように振るう無量の刃。
 全は一となり、一は全を持つ――唯刀・阿頼耶識。
 総ゆる可能性が収束する最適解。
 其は僅か一閃の軌跡。
「――口惜しくはありますね」

 海中に没したあの場所を、無量はいかほど傷つけたか。
 手応えはあった筈だが。そこは既に見ることが出来ない。

 けたたましい音と共に甲板が削れて往く。
 ほんの指一本ほどの接触に、船が左右に大きく揺さぶられる。
 この船は、そろそろ終わりかもしれない。
 一行の身を襲い続ける水の暴力にマルクは自覚する。自分自身も恐らく長くは戦えない。
 だから、倒れる前に己が全てを使い切る。
 今ここで、癒やしの術式を撃ち尽くすのだ。

 ――諦めるんじゃねえ!

 提督が叫ぶ。
 離れろ。離れろ――!
 このまま離れてくれ!

 船の無事を誰もが祈りながら、その刃を振るい続けて――

成否

成功


第1章 第6節

 船体が、マストが、竜骨が砕ける音が鼓膜をヤスリがけにする。
「……俺が残るのがスジなんだがなあ」
 船はいよいよ、その航海能力を失いつつあった。
「ゆるさねえんだろ。お前等」
 ぼやいた提督は、けれど首を振りマストにかかるロープを掴んだ。
「無論。我々の船とてアプサラスと心中したが、こうして生き恥をさらしている」
 鉄帝国将校ゾンメルの言葉にビスクワイアが奥歯を噛みしめる。
 裏切り者トルタ・デ・アセイテとの決戦で、彼等鉄帝国の船は先陣を切り、特攻を仕掛けた。
 イレギュラーズの尽力によって作戦は成功し、だが結果としてゾンメルは鋼鉄艦を失ったのだ。
「プライドは捨てろ」
 全ては勝利の為に。

「てめえら聞きやがれ! この船は終わりだ!」

 意を決したビスクワイア提督の怒声にクルー達がどよめいた。
 イレギュラーズ達もまた顔を見合わせる。
 困った事態だが、当然でもある。
 今も軋み、左右に揺さぶられ続けている。
 ほんの数十秒後にはバラバラになって海中に沈んでもおかしくはない状況だ。

 リヴァイアサンとの死闘は続いている。
 今もイレギュラーズは、クルーは、決死の攻撃を仕掛け続けていた。
 戦果についてはどうか。
 戦闘開始からほとんど時間が経過していない以上、確たることを述べる訳には行かないが。
 それでも分かってきた事はある。
 あくまで今のところの経験をベースとした所感を基準とするならば――
 尾の特性はただ圧倒的な暴力だと言えよう。
 それが気休めにもならないことは、現状が克明に示しては居る訳ではあるのだが。

 それはさておき。
 提督の命令を受け、総員が隣の船に飛び移り始めた。
 初めに移動させられたのはイレギュラーズである。
 このローレットの勇者達は客員であり、また戦況の決定打となる切り札だ。
 続いてクルー。更にこの船のキャプテン。
 それが揺るぎない、あるべき『命の序列』だった。

 ――あばよ。サンタ・パウラ。
   添い遂げてやりたかったぜ。

 咥えたままのコーンパイプを投げ捨てて。
 最後の一人、艦隊司令官たるバルザック・ビスクワイア提督が船を後にした。
 海に生きる者の誇りさえ投げ打ち、戦いを継続するために。
 この青を踏破せしめんが為だけに。

 そして激闘は続いて往く――


第1章 第7節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

 剥がれ落ちた壁のようなものが、沈み往くサンタ・パウラ号に突き刺さる。
 けたたましい音を立てて甲板が引き裂ける。
 渦に呑まれるように海中に引きずり込まれる船を、万感の思いで見送っている暇もありはしない。

 一行は次なる船サン・ミゲル号に乗り込んでいた。
 大型のフリゲート艦だ。キャプテンはビスクワイア提督旗下のネレイデと言う敏腕船長である。
「いやいやいや、それにしてもあの鱗。デカ……いや超デッカいですねえ!」
「鱗!? あの大質量がただの鱗一枚だって!?」
 轟音に耳を寝かせたミミがぽかんと口を開け、リウィルディアもまた驚愕の表情を浮かべる。
 どれもこれもが前代未聞の事態だ。
 この戦場で、確固たる情報なんてありやしない。
 危険だって承知だ。
 分かっているのは、やらなければ死ぬということ。ただそれだけ。

 ――このドラゴンの前では、どんな英雄も塵芥に過ぎない。

 そう理解しているのに、逃げる気が起きない自分自身に笑ってしまう。
 アンナの乾いた笑いは轟音に溶け消えて。
 遂に怖いという感覚すら麻痺したのであれば――好都合ではあろうかと。

 だが――希望は失われていなかった。

「あらあら、これはまた特大の鉄火場ですわねー」
「ったくよ。世話んなってばっかだぜ。メリルナートのお嬢ちゃんよ」
「わたくし諦めが悪いものでー」
「ハハッ! 俺もだ」
 ビスクワイアを引き上げたユゥリアリアが己が胸に拳を当てる。
 どこまで行けるかなど分からない。だが抗う決意を籠めて歌う。
 意思を共にする仲間達の為に、歌姫の本領発揮と行こうではないか。
 名も無き兵すら英雄と変える全軍銃帯の号令を以て、道征きのキャロルを歌うのだ。
 未来を切り開くために。

「数々の海のヤバい生物を見てきたさすがの私でも、ちょっとコレは震えがとまらねーですね……」
 震える拳を握りしめるマリナの背を、突然大きな手のひらが叩いた。
「全員聞け!」
 落ちそうになる帽子を押え、微かに驚いた表情で見上げてみれば。
 マリナの背に手のひらを当てたビスクワイア提督が声を張り上げた。
「我等が『青海の女神』様のご到着だ!」
「ちょっ」
 船内が沸き返る。
 だがビビっているだけでは海の漢が廃るというもの。
「山は斬れないかもしれませんが、寄せて返す波はいずれ大きな岩礁を削り取るんです」
 なに。いざとなればこの沈まぬ太陽――『白夜壱号』だってある。

 そうだ。
 諦めた末の特攻なんて、絶対に嫌だ。
 セララはいつだって勝利を目指して全力で突撃するのだ。
 海洋の民もまた、そうあれかしと願って。

 ――だから、ボクが皆の希望になってみせる!

「絶望を切り裂く希望の光! 魔法騎士セララ参上!」
 小さな勇者は、かつて冠位を打ち払ったその聖剣を高らかに掲げた。
「リヴァイアサン。ボク達は負ける気なんてこれっぽっちも無いからね!」

「ふふ。ふふふ……やっとだ。やっと大物が来てくれたんだね!」
 嬉しそうにはしゃぐアンジュの感心は、先ず『おやつ代』にある。大盤振る舞いであろう。
 それにこの海での最強が竜でなく『いわし!?』であると照明出来るのだ。
 いわしがたくさん集まって大きな群れを作るように、皆も集まり力を合わせれば――

 ――あの竜に絶対届くんだ!
   いわしジハードの始まりだよ!

「オーッホッホッホッ!!」
 高らかに響き渡る温かな希望の陽光は――

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///

 指を鳴らすまでもない。唱和したのは船のクルー達であった。
「わたくしタント様が来たからには! 皆様!! 絶対に絶対に勝てますわ!」
 豪雨にも、襲い来る水弾にすら煌めく虹を架け、悲壮も絶望も塗りつぶせ。

 ――ですから、ですから!
   生きて、生きて生きて生きて生きて生きて帰りますわよ!!

 まるで嵐を押し返すように、再び甲板に喝采が轟いた。

 徐々に徐々に、再び尾が海中へ沈んで行く。
 高波が船を揺らし、押し返してくる。
 大きく離されるその瞬間を、しかしイレギュラーズは見逃さない。

「いくよ! んぐふぐ!」
 ドーナツを咥えて駆けるセララの剣に稲妻が輝き――轟音。
「んぐんっ! ブレイクだ!」
 どうにかドーナツを飲み込み、閃光と共に赤雷を纏う聖剣を一気に振り下ろす。

「怖くない、なんて言わないよぉ」
 廃滅病に侵されたシルキィに後はない。
 人の手によって生み出された、その余りに儚い生き物が無辜なる混沌で思わぬ生を授かった。
 私は死ねない。あの鏡の魔種(ミロワール)だって、きっと。
 だから。
「それでも、先に進まなきゃいけないから……っ」
 降り注ぐ災厄、雷撃さえも味方につけるかのように。
 シルキィは迸る一条の雷撃を放ち続けて。

 ――小さな一匹のいわしも、数百万集まれば、そのしっぽを食い破る牙になるかもね?

 アンジュの駆けつけた、宙を突き進むいわしの群れ。
「いっけー! いわしミサイルだ!」
 その声に、パパいわし達が泣きながら特攻を仕掛ける。

 効いているのかどうか。そんな事は誰にもわからない。
「だけど全力で殺しに行くしかない……っ!」
 リウィルディアが紡ぎ上げるは神聖の術式。
 塵は塵に。
 イレギュラーズの一大攻勢と共に、圧倒的な魔力の奔流が叩き付けられた。
 更に一枚、浮き上がった鱗が剥がれ、海面を切り裂いて消えて行く。

 ――ネラうべき、鱗が飛んだチョクゴ。

 世界法則を脳裏に併走演算し、ブラック・ラプターの先にジェックの見据えた一点。
 常識の範囲内では――尤も、こんな存在に常識もなにもありはしないのだろうが。
「飛ばされたウロコの跡……ソコだ」
 その本命を穿つ!

 ――カスカな隙間だろうと、動くキョタイだろうと……
   アタシにできることは、アてることだけだ。

 命を奪う、最短ルート。
 嵐を貫き駆け抜ける徹甲弾が、強靱な鱗の間へ寸分の狂いもなく吸い込まれた。

 水弾が刃となって吹き付ける。
「嬢ちゃん!」
「願っててちょうだい! 受け止めきれるようにって!」
 襲い来る高圧の水礫を次々に切り裂き、仲間を背に守るアンナが先陣を駆ける。

 ――私は石に水滴どころか、ただの霞かもしれない。

 だが、自身の技量を信じる他ないのだ。

「あらあら……」
 ユゥリアリアの身を切り裂き、あふれ出す紅い花。
 だがこれしきで優美を崩すほど、フィーネリアのしごきはやわではない。
 流れ出す血さえ彼女は紡ぎ上げ、艶やかな氷槍として。
 撃ち貫け――

 ――終奏の艶華。

 激闘は止まぬ。
 攻勢は続き、水が、波濤が、雷撃が襲い来る。
 阿鼻に叫喚。

 なんという災厄であろう。
 なんという破滅であろう。
 なんという絶望であろう。

 であるならば。であればこそ。

 ――即ちわたくしたち! 特異運命座標にしか乗り越えられない相手ですわ!!

 タント様の歌声が甲板で呻く者達の傷を癒やす。
 マリナが放つ調律の術式が、深手を負った者を立ち上がらせる。
 ミミがありったけの治癒ポーションを大空へブン投げ、癒やしの雨が降り注ぐ。

「皆様! フルスロットルで参りますわよーー!!」

 この青の果てまで!

成否

成功


第1章 第8節

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ヨシト・エイツ(p3p006813)
救い手
コルウィン・ロンミィ(p3p007390)
靡く白スーツ
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
カロン=エスキベル(p3p007972)
対価の魔女

 ――竜が離れるぞ!

 ――立て直せ!

 大きく傾いた船上で、クルー達が奔走を始めた。
 高波が甲板を大きく揺らし、徐々に徐々にサン・ミゲル号を押し出し後退させて行く。

「厄介な敵ですね……」
 ロープにしがみついたリュティスの呟きは正鵠を射る。
 敵は余りに巨体だ。圧倒的な質量は、身じろぎ一つで戦局を変化させてしまう。
 まさかドラゴンがここまで巨大とは思ってもみなかった。
 狂王種とて人の身を優に超える巨大な手合いが多いが、これに至ってはその比ではない。
 黒死の蝶を揺蕩わせ、弓柄だけの魔弓『宵闇』を構えて。
「いいじゃない、いくら竜種だからって。
 幻想種の根気と根性バカにしたらどういう目に合うか教えてあげるわ」
 勝ち気に微笑んだセリアが奸計邪曲の魔術書を掲げる。
「ほんと、ヒトナツの経験は命がけだネ」
 おどけた鈴音が紡ぎ上げるは英雄の詩。戦場に満ちる神子の宴。
「うっし、傷は治したぜ。行けるかい? それとも寝とくかい?」
 ニっと歯を見せたヨシトが、前線から引き上げたイレギュラーズや軍人達の背を叩く。
 この場で、この瞬間。出来る仕事はこれなのだ。
「すまねえな、兄ちゃん!」
「ありがと!」
「無茶に無謀は戦の華だが、無理はすんなよ先輩がた!」
「おうよ!」
 傷ついた者を後ろに下げ、離れた射程に適したメンバーへと繋げる。

「すごく大きいです、ね」
 果たして。それはフェリシアの人生で『今のところ一番大きな方』になりそうであった。
 しかし。
「でも、それだけ……です」
 交戦開始から、幾ばくかの時間が過ぎていた。
 戦局全体の犠牲は大きいが、攻勢に出てから持ちこたえることが出来ているのは事実だ。
 そんなものを。その程度のものを。フェリシアは怖い等とは絶対に考えない。
 負ける可能性など、論ずるにも値しない。
 だから『ちりもつもれば』だ。
 それを積み重ねた先に勝利の道筋が描けている限り、恐れるものなど、何一つありはしない。

「リーヌシュカさん」
「ユーリエじゃない!」
 あの帽子は嵐の中でもよく目立つ。
 ラド・バウでは互いに武技を研鑽する仲だ。
「もー! 聞きなさい、あんな距離じゃ斬れないんだから!」
「私が繋ぎます」
「お願いよ! 絶対絶対、約束するんだから」
「任されました……!」
 たとえ全てが絶望の深海に飲み込まれても。
 その絶望さえ希望の光、青の果てに続く道に塗り替えなければならない。
 ユーリエは――聖剣騎士ガーンデーヴァは今、その為にここへ立っている。
 ショートケーキを一欠片だけ口にして。元気出た。
 後は一人の英雄として、責務を果たす。
 力の続く限り、撃ち尽くすのみ。
「ああ。やるだけはやろうじゃないか」
 結構。苔の一念、岩をも通すと言うやつだ。
 紫煙をくゆらせ、コルウィンは復讐のアクロルカ――対戦車ライフルを構える。

「えーと? 次は尻尾ね、次から次と疲れちゃうワ!」
 小舟から飛び移ったカロンはその肢体を余すことなく晒して、天穿つ大弓を構えた。
 クルー達の口笛が飛ぶ。
 出来ることはただ一つ、全ての魔力を注ぎ込んだ術を撃ち尽くすのみ。
(外さず、失敗せず、冷静に……大胆に!)
 束ねた魔力を収束させ、絶大な魔力の奔流を解き放つ。

 一射。また一射。
 コルウィンはリヴァイアサンの強固な鱗を駆けるように、徹甲弾を放ち続ける。
 探すのだ。撃ち続けることで『有効な場所』と『効かない場所』を見定めろ。
「あの鱗、大きく曲げて浮き上がった場所だ」

 ――聞いたか! 野郎共!

「なら、そこを狙うよ!」
 魔道書のページが次々にめくれあがり、紡いだ詠唱。
 己が精神力を弾丸に変えて、セリアが魔力の奔流を撃ち放つ。

「これは……判断に迷いますね」
 黒死の蝶はあの尾を幾ばくか蝕んでくれた筈だ。
 その規格外の巨体への影響は限定的で、とはいえそれはただの打撃であっても同じ事とも言える。
 どちらが有効なのか、リュティスは判断しあぐねていた。
 だが『あれも生き物なのだ』と信じる他ない。手応え自体は確かにあるのだ。
 ならば次は、この魔弾を放つまで。

 イレギュラーズの猛攻が続いている。
 鱗の間隙に、突き刺さり続けている。
 意思の力を光と変えて引き絞る。
 ユーリエが顕現させた神弓から一条の光が解き放たれ――炸裂。
「諦めません……!」
 フェリシアは調和の呪杖、禍福を遠ざける呪いを纏い、決まり切った結果へと導く杖を突きつける。
 放たれた精神力の弾丸が、仲間達が狙うその場所へ立て続けに打ち込まれる。
(諦めない……かならず傷つけてみせます……!)

「やるかやられるかが青春だー」
 歌って踊って、いつでもスマイル。
 これしきで矜恃を乱す鈴音ではない。

「さっさとくたばったらどうなのかしら! これ以上は残業よ! ローレットはブラック企業よ!」
 違いない。
 ぼやくカロンもまた、次々に砲撃とも呼ぶべき魔力の矢を突き立てる。
「ああ悲劇! 悲劇だワ! 早く帰りたいわね!」

 尻尾でこれだ。
 本当に面倒臭い。
 冠位との決戦の後から出てきたウミヘビモドキのくせに!

成否

成功


第1章 第9節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

「巨大な何かが出てきたとは思ったが……」
 葉巻を咥えたグレイシアは――あるいはかつての世界で同様の何かを見たろうか。
「おっきいねー。人間なんてちっさいねぇ」
 余りに平然としたグレイシアの横に、ルアナがちょこんと駆け寄った。
「あれだけの巨体だと、吾輩とルアナの身長差など認識できないくらいの差になりそうだ」
「おじさま、身長差気にしてたの?」
「そういうわけでは無いのだがな……」
 グレイシアへくすりと微笑み、その身に信念の鎧を纏ったルアナが大剣を掲げる。
「……っと、いくよー!」
 何やら誤解された気もするが、まぁ良かろう。

 聳えたるさまはまるで険しき山の様。
 嗚呼、畏怖さえ憶えるのは屹度、生あるものの本能か――

 けれど、だからこそ彼の岩肌、其の山巓に花を咲かせてみたいと。

「好機は……ボクが作ります」
「ええ、ヴィクトールさまが頼りだ。陳腐では有りますが……」
 ヴィクトールが盾ならば、己が身を剣として。
 未散とヴィクトールは徐々に迫り来るその大壁へ向け、甲板を駆ける。

「いやぁ、でかい。地上でこれ程の巨大目標を相手取るのは、どれくらいぶりかな」
 汰磨羈はついぞ、厄狩りを務めていた頃を思い出す。
「――実に斬り甲斐がありそうだ。なぁ、百合子!」
「クハッ! 好い! 正しく死地であるな!」
 一つ嘯いた百合子は、嫋やかな拳を握りしめ清らかな美少女力を背負う。

「竜種の覇気のなんたるものぞ! おうおう吾こそは白百合清楚殺戮拳、咲花百合子である!」
 竜は身じろぎしたか。甲板が大きく傾く。
「其方の向こうに逃げた相手に用があって参った! 無理やりにでも押し通る!」
 裾をつまみウィンク一つ。致死毒の煌めきが舞い踊る。
 静々と僅かに俯き、ゆっくりと地を縮めるかの如く足を運ぶ。
 未来さえも演算の内に、あくまで優美を束ねて。
 絶望の青へ百合(死)の香を届け――舞い踊る花びらのように、撃ち放たれる光の乱舞は美少女ビーム!
 立て続けにたたき込まれる女子力は、常人なれば命は幾つ散ったろう。
 光が乱舞するただ中へ。
 踏み込む汰磨羈が放つは厄狩闘流新派『花劉圏』が一つ。

 ――花劉圏・斬撃結界『無間睡蓮』

 足先は水面の波紋を描き、竜の尾――壁の様なその場所へ輝く睡蓮が咲き誇る。
 二重の閃光が花びらを縦横に駆け抜け、是即ち、黄泉送りの睡蓮也。

 グレイシアが放つ魔術を追うように駆け抜けて。
 炸裂する魔弾の攻勢へ重ねるように、ルアナの一閃。
 その意思のきらめきを宿した刃が竜鱗を失った間隙を切り裂いた。

 未散が花を咲かせる好機を待つとなれば、ヴィクトールはその好機に至るまで耐えるのみ。
 船に守護の結界を張り巡らせ、押し寄せる波濤も、水弾も、水刃も。
 全てを一身に受け止めて、ヴィクトールはその目でじっと機会をうかがい続ける。
 それは絶望に咲かす一輪の花のために。幾らこの身に疵を受けようと――
「――嵐に耐えることは当たり前だ、今更必要ない。
 ボクが望むは、此岸の灯火を守り切る程の鋼鉄……!」

 波が退いた――今こそ。

「――嵐に耐えられぬ心なれば、中々如何して此処まで興奮もしますまい。
 ぼくが望むは、対岸を焼き尽くす程の業火に御座います!」

 生まれ落ちた仮初の命が、仲間達のこじ開けた傷口に牙を突き立てる。

「じゃあ、話は簡単だ」
 絶世の美少年――セレマがその儚げな瞳をすいと細めて。
「その『世界最強の生物』は、今日ここで死ぬのさ」
 それは驕りと呼ばれるかもしれない。だがセレマ達がやろうとしているのは、正にそれだ。
 あの竜と同じ程の傲慢でなければ、きっと気が持つまい。
 ふいに、その余りに儚く美しい肉体を水弾が貫いた。
 見える結果は――即死。
 それ以外にあり得なかった。
 クルーの幾人かは、そう思ったかもしれない。
 だが揺らぐセレマの身は、ただ一つの傷を負うこともなく、冷然と歩みを進めていた。

 ――『債務を払おう。供物は此処に。その精髄まで受け取り給え』

 負うべき代償を、竜の尾へ。鱗の間隙へ転嫁せしめる。

 ――だってこれを打ち倒せるボクはきっと美しい素晴らしいと称賛されるからさ。
   その為なら死ぬ気で挑んでやる。やってやる。

「チッ、随分なデカブツじゃねえか」
 その『人類最古の兵器』は、混沌肯定によってによって生物の頂点たり得ない。
 その歯がゆさを噛みしめるように、
「ファッキン上等だ、目にもの見せてやろうじゃねえか!」
 貴道は拳を打ち合わせる。どのみち勝つしかないのだ。
 世界最強の生物を拳で叩きのめせたならば、かつての『超人』を取り戻せるだろうか。
「俺達なんざテメェから見れば虫ケラみたいなものだろうがなぁ!
 虫ケラを舐めるなよ、ちょっとばかし俺達はうるさいぜ?!」

 踏み込み――極限の集中(ゾーン)に入る。
 初手。フックとボディの狭間へのブロー。貴道のサンデーパンチをたたき込む。

 イレギュラーズの猛攻は止まる所を知らない。

 ――約束しましたから。

 いや。ルル家は思い直す。
(拙者が勝手にそう思っているだけですが)
 けれど『それ』は、アルバニアとリヴァイアサンを倒せば、叶うのだろう。
 絶望の青を踏破、否――撃滅する。
 空に太陽を取り戻し、船を呑もうとする波を切り裂き、この絶望を希望で塗り替えよう。
 両の手で頬をはたき、片方だけの瞳でただ正面だけを見据えて。
「行ってきます、トルタちゃん!」
 大物喰らいは専門分野(CT特化)だ。
 いかな堅牢も、盾たり得ない。
 持てる全ての武器で、ありったけの宇宙力をたたき込む――超新星爆発だ。

「パーティーの後のデザートにしちゃあ、ちょっとボリューム過多ねぇ」
 槍の柄を甲板に突き、ゼファーは口笛一つ。
「あら、ゼファーったらもうお腹いっぱい?」
 ゼファーとアリスの前にそびえるのは、正に『動く壁』そのものであった。
 未知との出会いが旅の浪漫だ醍醐味だ等と師匠は言っていた。
 けれどこれは些か刺激が強すぎるというものだ。
「お腹一杯通り越して胸焼けしそうな勢いですけど。
 どうにも、手ぶらで帰らせてくれる雰囲気じゃなさそうだわ?
「わたしは何ならまだ頂けるわ」
 だって。

 ――何時かわたし達の事を謳う日が来たのなら。
  「竜を煮込んで喰ってやった」なんて最高じゃない!

 手を携えるように。繋ぐように。
 寸分違わず放たれた雷撃の一閃。重ねるように、小さな兵隊達が攻勢を仕掛ける。

 ――ぱっぱら歌った鉄砲隊
   散開すれば、剣兵が突撃!
   船はぐらぐら、ゆらゆら揺れるけど
   船酔いなんて弱音は吐いてられないわ
   金の御髪の女王様
   わたしが直々の式を取るのよだなんて
   とっても好戦的――

 温かな海のバカンスは物騒に過ぎて。
「こんな熱烈なサービスが待ってたなんてねぇ」
「情報誌には書いてなかったわ! バカンス代はまけて貰わなくっちゃ! ね」
「ほんとよねぇ。さぁさ! お祈りしてる暇があるなら弾の一発叩き込んでやりなさい」

 ――アイアイサー!
   斉射用意! ファイア!

 轟音が耳を劈く。
 ゼファーの檄を受け、キャプテンの号令と共にカノン砲が一斉に放たれた。

成否

成功


第1章 第10節

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

 その出現だけで二十パーセントもの艦に甚大な被害を被る結果となった。

 だがそこには拿捕した戦列艦。
 小破に止まったガレオン。
 様々な艦隊が、残存兵力が残されている。

「俺はあなたたちに背中を預ける! すべては女王陛下のために!」
 史之は。
 ゼロでない可能性の体現者は約束していた。この海の果てを見るのだと。
 トルタは最後まで素直ではなかった。
 海賊らしく諦めなければ良かったとも思う。
 だがまだ、その墓すら立てていない。
 女王陛下への報告すらしていない。
 なのに――
「こんなところで倒れるわけにはいかないんだ!」

 でかいから。だから何だと言うのか。
 海洋の悲願を邪魔させはしない。

 サン・ミゲル号に並んで、ようやく戦線に復帰した艦が援護射撃を開始した。
 おそらくこれで、今少し。
 ほんの僅かに尾の行動を制御出来る目が出てきたか。

 もしも弱音を吐くならば。
「せめてここが陸地ならとは思うよね」
 とは云えども――イグナートは拳を打ち合わせる。
「こんな逆境での戦いはジンセイでそう何度もあるもんじゃないから楽しんで行かなきゃソンだよね!」
 これまでの交戦記録から、攻撃のチャンスはそう多くない。
 ならばこの一瞬に全てを賭けるべきだ。

 ――オォォォオオオ!!

「行くぞッ! 砕けろォッ!!」
 聖光に満ちた一撃。次いで黒い雷光を放つ一撃。
 全身全霊を鱗の狭間にたたき込む。

「ああ、もう!」
 中央で最接近するサン・ミゲルの甲板で、ティスルが激発する。
 一体全体、効いているのか。どこに当てたら良いのかすら分からない。
 だが。
(ううん、弱気は駄目!)
 仲間達はあの鱗の間隙を狙っている。
 そこを狙う他ない。ただそう信じて。ティスルは一心不乱に魔力弾をたたき込む。
 いつもの魔剣だけではない。
 ティスルは今、竜狩りの銃『フェニックス』を携えてここに居る。
 これも海洋の意地の結晶だ。
 立ち続け、打ち続ける。
 その名の通り、不死鳥になってやる。
 覚悟を示す時が来た。

 何もかも。限界は近い。
 それでも秋奈は『このまま終わる気』などさらさらありはしない。
 下ごしらえに時間だってかけられない。
 絶望など、してなるものか。
 抜刀。緋い刀身で水弾を切り裂き、更に踏み込み――光が走った。
 それは目にも止まらぬ瞬撃の一閃。崋山の刀。

 敵は神の如き存在だ。
「と言うか、ここまで来たら壁ね」
 島を相手取るとは良く言ったものとレジーナは呟いて。
 彼女の原風景――かのアストラークゲッシュの世界でレジーナが人の身を捨て神へ至った切欠がある。
 それは竜種との戦いだ。
 国の存亡を賭けた人種と、島の化身との戦争で、彼女は一度死んだと云う。
 戦場で、多くの英雄達と共に――
 今度ばかりは、この世界ばかりは、冥界の主も見逃してはくれまい。
 だがそうさせてやる心算などありはしなかった。
 なぜならば――
「我(わたし)はお嬢様のいる場所に帰らねばならないのよ!!!」

 何が効くのか。効果的なのか。
 分からないなら、片っ端から試すのみ。
 魔力の奔流が甲板に弾け――レジーナの猛攻が始まった。

成否

成功


第1章 第11節

 

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