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<終焉のクロニクル>始まりのレクイエム
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●始まりのレクイエム
君達はどれ程の道を歩んできた?
今までこの世界で、どれ程の者達と意志を交え。
今までこの世界で、どれ程の死闘を繰り広げてきた事だろう。
その歩みに、どれ程の価値があった?
この世界は救われるべきか?
それほど価値のある世界か?
――少なくとも僕はそう思わない。
「この世界は――神は勝手がすぎる」
ナイトハルト・セフィロトは自らを『始原の旅人』と名乗る。
だがそれは誤り――いや正確ではない、と言うべきか。
真なる『始原』は彼の『妹』だった。
この世界の神に呼ばれた兄と妹。
ほぼ同時だったが、恐らくタッチの差で妹の方が先だった。
……旅人は全てイレギュラーズだ。であれば彼女もまた、世界を救う可能性を秘めた者だった、が。しかし――彼女はつまらない事で死んだ。ありふれた死の一つ。定命であればいつか迎える結末の一つ。
だがそんな事、納得できるか。
「神が呼ばなければ迎えた結末はきっと別のモノだったはずだ」
この世界に呼ばれた者は『混沌法則』に縛られる。
元々力強き者にとっては力を奪い取られるに等しい、この世のシステムだ。
――ナイトハルトはその影響を甚大に受けている。
混沌法則に縛られなければ。きっと己は妹を救えた。
こんな世界に呼ばれていなければ。きっと、きっと。
この世を、この世のシステムを越えなければ。
それが練達の始祖たる者の夢。
この世を壊す。この世の神を殺す。
ただそれだけを夢に生きてきた。
最初期は只管に己を鍛え上げた。神に奪われた力を取り戻す為に。
続けては足りぬ時を稼ぐために神の目を誤魔化す研究に没頭した。
百年程度では時が足りぬ。届かぬ天に指を掛けるだけでも永き時が必要だったから。
混沌法則にもなにがしかの隙と穴がある筈だと。そう信じて。
中期に至りては憤怒と嘆きの最中にあったか。
どれ程の研究をもってしても。どれ程の研鑽を得ようとも、届く目算至らぬから。
……あぁその折だっただろうか。
彼に。イノリに会ったのは。
永き旅の中で。半ばやけっぱちになって終焉の地へと赴いた際に。
僕は彼に会ったんだ。
そして僕は彼に『共感』した。
彼の目的を知った時に。彼の見ている先を知った時に。
だから僕は希望の可能性を秘めたイレギュラーズでありながら、彼に与する。
「さて。皆もそろそろ始めている所かな?」
ナイトハルトは瞼を閉じよう。その裏に想起するは、己と立場を共にする者達。
ファルカウ。ドゥマ。ヴェラムデリクト。ステラ。オーグロブ。ホムラミヤ。
皆もまた、それぞれの理由があってこそイノリやマリアベルに与している。
然らばナイトハルトは――なんとなし苦笑するものだ。
本来僕はこっち側ではないのだろうけど。なんの因果か、全く。
「マスター」
「――あぁノア。丁度いいタイミングだね。うんうん。
敵がやってくる。僕の愛しい後輩達だ。
きっと彼らは全力で。全霊で立ち向かってくるだろう――
抱きしめたいけれど、そういう訳にはいかない。
全部殺してくれるかな?」
「承知シマシタ。オノゾミノ、ママニ。ソレガ望ミデ、アルナラ。
コノ身全テヲモッテ、敵ハ全テ――通シマセン」
「うんうんいい子だ。頼んだよノア。流石は僕の傑作だ」
と、その時だ。ナイトハルトの傍に現れたのは……まるで人形が如き存在。
『ノア』と名付けられたソレはナイトハルトの忠実なる僕。
方舟の名を冠し。しかし滅びを内包する『特別な』人形。
プーレルジールで得た研究成果で作り上げた滅びのアークの結晶――
彼女の髪を撫ぜてやりながら最前線へと送り込む指示を出そうか。
……誉める口調ながら、なんともわざとらしい様な色を端に含んでいるが。
「あ。それと彼は……ヴィッターはどうした? 見かけたかい?」
「ハイ。先程、ナニヤラ武器ヲ手入レシテイタ、ヨウデス」
「そうかそうか。彼も本気でやる気だね――ふふふ。
我欲に満ちてる子達は本当にかわいいものだ。応援したくなる。
何がどうなるにせよこれが最後だ。皆、満足するまでやるといい」
同時。ナイトハルトはもう一人の協力者の顔を想起しようか。
ナイトハルトに協力する『旅人』がいるのだ。まぁそれはナイトハルトの思想に共感している訳ではなく、あるイレギュラーズに固執しているが故だが……それもまた良し。ナイトハルトにとっては欲の儘に動く者は実に好ましいのだから。
邪魔にならないのなら存分に動くがいい、と。告げようか。
あぁ。
僕は、どれ程歩んできたのだろう。
世界なんぞ救ってやるかと憤り。
その心を隠し。笑みの色を常に顔と言の葉に張り付けながら。
僕は、どれ程歩んできたのだろう。
だがそれも遂に終わる。
神よ。滅びの時だ。あぁ――
――終焉の時は来たれり。
●
終焉の地。『影の領域』とも呼ばれる場には『終わり』の気配が溢れていた。
イレギュラーズ達は今まで何度と破滅的な気配に立ち向かって来た……七罪らの大規模な活動などその顕著たるものだろう。他にも海洋王国での戦い――滅海竜リヴァイアサンという神威に対しても絶望的な気配を感じえたか。
が。終焉の地より零れ出でている気配は、また異質なものだ。
世界自体が哭いている。
敵が強大だから――とてつもない権能の気配があるから――
そういう類とは違うものだ。
「さてさて。特異運命座標(アリス)、いよいよこの時が来てしまったようだね。
元よりいつかはやってくる、とされていたものだが」
「こんな時でも飄々とした口調は変わらんな……危機感、という概念は知っているか?」
「まァまァ。これでも現状認識は出来ているでしょウ――恐らくの話ですガ」
言の葉を紡ぐのは練達の三塔主の内の一人、マッドハッターか。傍には同じく佐伯 操やファン・シンロンの姿もあった。
練達といえば先日Bad end 8が一角に襲撃を受けたばかりだ――しかしイレギュラーズの奮闘により辛くも敵の目論見は砕かれ、こうして終焉の地に増援を送る事が叶う余力を維持出来た。むしろ練達に開かれたワームホールを利用して逆侵攻を計画も出来たか。
世界の終わりを感じればこそ余力を取っておく意味などない。
先に開かれたフォルデルマン三世主催の会談の結果で――世界各国の歩みも揃っているのだ。持ちうる限りの全てをもって此処へ至っている。マッドハッター達が珍しくも此処にいるのはそういう事の一環であり……
「そして無論、来ているのは私だけではないようだね」
「――鉄帝国も支援しよう。どいつもこいつも、こんな緊急事態にむしろやる気を出している連中が多すぎて困……いや、臆するよりは遥かにマシだが、うむ……」
「さー頑張ろうね! どこを見ても敵だらけなら、全部斬ればいいって事だよね!」
更には練達勢のみならず鉄帝国の者の姿も見えようか。
それはゲルツ・ゲブラー (p3n000131)やアウレオナ・アリーアル (p3n000298)だ。その背後には最終闘争に闘志を燃やす鉄帝国軍人やラド・バウ闘士の姿もある――戦う事が本懐とする者達の瞳に恐れの感情は見られない。
ゲルツは自国の相変わらずな様相に吐息を零すものだが。
しかし世界的な終わりに恐怖する者も多い中、彼らの気概は実に頼りになるものである。
今、この時戦わねば、全てが終わってしまうのだ。
脚が竦んで動けない場合ではない。
少なくとも戦える者にとっては……!
「し、深緑も加勢します……出来る事を、少しでも……!」
「――ありがたい。今回ばかりは、イレギュラーズ達だけでなんとかなるとは限らないからね。確認されている限りでも敵の数が多すぎる……それに、潜んでいる連中もいそうだ」
それに勇気を振り絞りこの地に来ている者もいるのだ。それが深緑に住まう民であるメレス・エフィル (p3n000132)――駆けつけてきた迷宮森林警備隊と共に、かつてザントマン事件の折に救われた恩義を返しに来た。
怖い。恐怖はある。だけど、今この時、助けてくれた皆を助けられなくてどうするのか。
メレスは奥歯を噛みしめながら眼前を見据える――
さすればローレットの情報屋として奔走していたギルオス・ホリス (p3n000016)はメレスらに感謝の意を伝えながら……しかし警告の声も走らせる。
この場における最大の脅威はナイトハルト・セフィロト。
彼を妥当しない限りこの戦場を抜く事は叶わないだろう――
しかし。敵は確実に『彼だけ』ではないのだ。
「ギルオスさん……うん。私も感じる。きっと『あの人』もいる」
「全部ぶちのめしてはみせるけどね。やっぱり最後はハッピーエンドでないと!」
その予感を感じているのはハリエット(p3p009025)か。ナイトハルトに与している、かつての知古の顔を彼女は思い浮かべる。彼もまたいる筈だ。ナイトハルトの近くか、そこまでは分からないが……
しかしどうであれハッピーエンドはもぎ取ってみせる、と。同じく郷田 京(p3p009529)もギルオスに語り掛けようか。あらゆる戦いが今まであったが、きっとこれが最終決戦ならば――死力の尽くし所なのだから。
「ハリエット、京。あぁ……そうだね。そうだ二人共、あとでちょっと僕と一緒に来てくれるかい。僕はちょっと更なる増援というか――色々と声を掛けたい所があるんだ」
ただ。彼女達を万一にも死なせたくないギルオスは未だ思考を巡らせている。
この場には多くの者が訪れてきてくれているが。
その中核は国家に関係している者が多い。
まだ潜在的に味方になってくれる者達はいる筈だからと――そして。
「パイセーンにがさんぞ――!! うおー! いるでしょ、返事ぃ!!」
「――彼との決戦ですね。プーレルジールからの縁ですが、ここが終息地ですか」
「……どれ程、あなたが神を憎もうと、混沌はわたしの、大切は場所……!
これ以上壊させたりなんか、絶対、しません……!!」
その時。声を張り上げたのは茶屋ヶ坂 戦神 秋奈であり。
グリーフ・ロスやメイメイ・ルーの姿も戦場に見えようか。
ナイトハルトと幾度も邂逅した彼女らにはそれぞれの理由があり彼と相対する。更には。
「わたしたちは、終わらせない為に来たわよ。ナイトハルト」
強き願いを瞳に宿し、メリーノ・アリテンシアも彼方を見据えようか。
止めてみせる、その願いはと彼女は心に抱きながら。
決着を付けるのだと――
あぁ。
君達は、この世界に必要とされている。
外なる世界より訪れた者も。この世界にいて選ばれた者も。
皆等しく、世界の希望なのだ。
頼む。
この世界を救ってくれ。
滅びに立ち向かえる英雄達よ――君達の可能性だけが、明日を切り拓けるのだ!
- <終焉のクロニクル>始まりのレクイエムLv:50以上完了
- こんにちは、世界。さようなら、世界。
- GM名茶零四
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2024年05月16日 20時50分
- 章数3章
- 総採用数230人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●
あちらこちらで戦闘の音が鳴り響いている。
衝撃音。それは敵意と闘志がぶつかりあう音か。
爆発音。それは強大なる力の応酬か、はたまた練達が相応の武器でも持ち込んだか。
いずれにせよ今はまだ鳴りやむ気配を見せもせぬ。
世界の行く末の傾きがどうなるか――未だ知れぬ、その中で。
「ぬぉ!? なんじゃこりゃあ……赤竜秋奈ちゃんになっちまった!
って紫電ちゃんも違う感じじゃん!? ははーこりゃ最終決戦仕様ってやつだな!」
「この姿は……かつてファントムナイトの時の……」
殺意と終わりの気配溢れる戦場。かの地にて秋奈に紫電は、その姿に威を纏いつつあった。
秋奈は深紅なる翼と共に。紫電は『猟犬』足りうる気配と共に――
思わぬ出来事に秋奈のテンションはMAXだが紫電は冷静であったか。いやより正確には冷静というよりも……なんとなし感じ得る『己が可能性』に思い至ればこそ、脳裏に納得の感情が過るものだ。
――これが『もしものオレ自身』なのだと。
然らば、魂の奥底より湧いてくるものだ。闘志が。力が。己が宿命が。
時空の裁定者、ティンダロスとしての――
「……よし。やるぞ、世界を『救う』んだ。この一時の為にこそオレは在ったんだ。
――秋奈も当然、ついてくるよな?」
「応とも紫電ちゃん! 自慢じゃねぇが世界を救うのは初めてじゃねえんだ……
二度も三度も変わりゃしない! さぁ、宴の始まりだぜい!」
今夜は寝られると思うなよ! ヒィアウィゴー!
群れる終焉獣らに吶喊してく秋奈と紫電。
赤き軌跡が戦場を切り裂く様に瞬けば、続けざまに裁定者が抉じ開ける。
なんぞであろうか、終わりを齎す敵であろうとも。
「――化け物を狩るのは、いつだってヒトでなくては」
ヒトこそが化け物と戦える。
ヒトであるからこそ化け物を超えられる。
故にこそ――強靭なる獣であろうとも紫電は臆さぬ。
ヴェアヴォルフ。人を喰らう、人ならざる者達よ。
「消え失せろ。その命、もらい受けるッ!」
「っしゃ! 紫電ちゃん絶好調じゃん! 秋奈ちゃんも負けてられねーな!
おら、ナイトハルトパイセン待ってな! 歯はよく磨いておくんだぞ!」
であればこそ紫電の勢いに次いで秋奈も往こう。怪異になると思った? 残念! 紫電ちゃんがヒトとしてあるみたいだし――ていうかそもそも、アリエっちよりウチが戦った方がつえーんだ!
目指す先にパイセンがいると信じて。全力全開、ここに刻む――ッ!
「はーはっは! なんぞまた現れたのか!
どこまでもどこまでも湧いてくる連中よの……!
ならばしっかり潰して我の糧としてやろうぞ!」
秋奈らの勢いに次いでダリルも参戦。微かに低空飛行しながら終焉獣らへと狙い定めよう。紡ぎあげた魔力を解放し、敵陣中枢へ解き放つように――砲撃一閃。強敵に向かう連中の助けとなるべくの一撃を降り注がせよう。
……いや己も勿論強敵に立ち向かってもいいのじゃが。じゃが。
「それぞれ役割や得手不得手というものがあるからのう……
この地獄のような魍魎の中に突っ込んで狙撃する事もあるまい。
そんな事する連中の方がおかしいのじゃ」
射手は大人しく後ろにいるのが一番。それは効率的にも役割的にも。
故にダリルは後ろから派手にぶちかましてやろう――でぇい! 味方が乱戦状況下なら雷撃ぶちこんでやるからの! 全部纏めて焼き尽くされるがいいわ終焉獣とやらめが!!
「敵は多数。されど勝機はあるだろう――
世界の終末。迎えんとしている滅びに抗う想いを込めて戦う者達がいるならば。
この泥人形は彼らの往く道の助けとなろう」
「……戦場、か。うん。数を減らすなら協力するよ。
終焉獣となら何度か戦った事はあるしね。少しは力になれる筈」
更にマッダラーや文も皆の支援をと赴こうか。
マッダラーは敵陣中枢へ向かう者らの為、終焉獣達を引き付けんと立ち回ろう――泥人形の纏う焔が光り輝けば、目を奪われる終焉獣もいる。戦場を攪乱する動きを見せつつ、同時に文は敵らの連携を削ぐべく神秘なる泥を顕現。押し流すように投じようか。
幸か不幸か、敵の数はあまりにも多い故にどこへ穿とうが相応の数を流せる。
「……まぁ。街の外に出てくるのは久しぶりだから、あまり期待しないでほしいけどね」
「謙遜かね? あぁ愛しの特異運命座標よ――自らを卑下するのは良くないものだ」
「そうかな……今の気持ちを、どう表せばいいのか、分からないだけかもしれない」
であれば、どこか気力に満ちぬ文へとマッドハッターが言の葉紡ごうか。
――世界や自分が消えても構わないという無気力な思考が、文にはある。
しかし。かといって見知った顔が傷つくたびに何も感じぬ訳でもない。
不安。いや焦燥感に苛まされるのだ。
己の成すべきが何か。世界の為か。知古の為か。
――惑うくらいならば、戦場に身を置けば少しは忘れられるだろうか。
そんな期待があってこそ、この片隅に彼は現れたのだ。
未だ気持ち定まらねど。
それでも――目の前に降りて来る問題を弾くべく義務感をくべて戦おうか。
「カ、ァァアアア――!!」
「行かせんよ。泥人形たる身を超えられると思うな――
この身を超えたくば魂を込めろ!
誰ぞに操られる木偶に殺されてやるほど安くはないッ――!」
と、その時だ。ダリルや文らの攻勢があれど、数が多ければ抜けんとする敵もいるもの。
故に――マッダラーが動いて封じた。
味方の側面を衝かせはせぬ、と。弱っている箇所を探して彼はマークしていたのだ。
終焉獣が吼えている。が、まだだ。まだ行かせはせんよ!
「これが泥人形の闘争だ! 知って出直すがいいッ!」
両手の届く範囲ぐらい、救ってみせようと。
マッダラーは波のように押し寄せる敵へと立ちはだかる。
彼程の堅牢さがあれば早々に倒れたりはせぬ。泥人形は崩れぬのだ。
少なくとも斯様に滅びしか纏わぬ獣共に――なにさせようものぞ!
成否
成功
第1章 第2節
●
「さて。終わりの始まり、と言った所か――?
だがそうはいかない。終わりを終わらせに来たぜ!」
錬が見据える先には数多の敵……否、『滅び』が在ろうか。
誰も彼もが終焉の気配を纏っている。
死ね。滅びろ。朽ちて無くなれ――
今までにも斯様な『負』が満ち溢れる戦場はあった、が。密度はかつてない程だ。
いよいよもって世界の終焉が近付いているのを感じ得る。
『だからこそ』彼は此処にいるのだ。
――木槍鍛造。戦場穿つ一閃、射出先は最前線のノアへと。
「通サナイ。認メナイ。マスターノ下ヘハ――」
「悪いが押し通る。そっちは、ゼロ・クールの亜種か?
ナイトハルトの意図がなにかありそうだが……軽々に『掛かる』と思うなよ」
直後。ノアは木槍を弾くように腕を振るおうか。
細腕に見合わぬような膂力を秘めているようだ――流石に戦線を抑えんとしている中核なだけはあって色々と弄られているのだろうか。しかし錬にとって重要なのはノアの性能そのものではなかった。
肝心なのはノアの内に何が『ある』か。
ノアの解析を行わんとするのである。
ナイトハルトが何か仕込んでいる可能性は十二分にあるのだからと。
(秘宝種もパンドラを持てるなら――その逆もまた然り、ではないか?)
初見殺しに何か。アーク主体の兵器もあると予想し。
ノアと交戦しながら錬は解析の術を常に走らせよう。
如何なる策があろうとも見破れぬ事はあり得ぬのだから――
「……あなたも『兵器』と言うことですか。主人に従う存在……」
「――――?」
「似ています、ね」
作られたばかりの頃、昔の私のように。
告げるは雨紅だ。雨紅もまた、ノアへと。
跳躍する。地を踏み砕かんばかりに力を籠め、一気に接近せんとするのだ。
無論ノアもタダでは来させぬ。滅び。アークの力を結晶と化し雨紅へと投じるのだ――
されど雨紅もまた歴戦のイレギュラーズ。
そう簡単に当たってなどやるものか。直撃を避けんとする動きと共に距離を詰めよう。
あと三歩、二歩。高速で飛来する結晶を弾きて、あと一歩。
「退いてもらいます。彼への道を開けなさい」
「ソウハイカナイ。此処ハ誰モ通サナイ――!」
激突する。雨紅の槍と、ノアの撃が。
激しき金属音の鳴り響きが苛烈さを示していようか――
同時に雨紅は錬と同様にノアの性質を探らんとする。
兵器には……必ずコンセプトがあるもの。攻勢、防衛、諜報、撹乱……はたまた。
(特攻か)
解析せんと試みればノアの内に不穏なりし『圧』を感じ始めようか。
まだ仔細は分からねども、何かが鳴動している気配を感じて……
「混沌世界を壊すだなんて、そんな事はさせない……!
僕は戦うよッ、楽園追放……この世界を壊させない為にも!」
「……戦いましょう。私達が犠牲にしてきたもの、守ってきたもの。
全てを無にしないために。
あちらに如何なる理由があろうとも――こちらにも歩んできた道があるのだから」
続け様にはヨゾラにアンナも攻勢を仕掛けようか。ヨゾラはノアの下へ駆けつけんとする終焉獣らを星空の神秘をもってして迎撃。連中を押し流さんとする動きを見せれば、アンナは敵陣に生じた隙を見逃さずにノアへと接近を。
あちらがこの時を待ちわびていたように。
こちらもこの時の為に在ったのだ。
この戦いを迎える為に今までがあった。だからこそ――
「あなたにも想いはあるだろうけど……踏み越えていくわ」
「モウ勝ッタツモリ――? 傲慢デス、ネ」
「いいえ。これは、決意というのよ」
容赦はしない。アンナは自らに全霊たる加護を齎しつつ、往く。
舞いの歩みと共に一撃一閃。閃光の剣撃がノアを襲う。
ノアの動きを縛らんとするかの如くだ。
戦いは始まったばかり。故にこそ皆の身を削らせる訳にはいかぬのだからと。
「随分と特殊みたいだけど……
だからといって退きはしないし、皆は殺させもしない! 勝利の為にも、ぶん殴るよ!」
更にヨゾラも畳みかける。ノアから攻撃の余裕を奪い取れば、その分だけ皆の助けにもなるだろう。向かってくる終焉獣らの対処をしつつもノアを狙えれば纏めて穿つ――広き視点を持つヨゾラであればこそなし得る攻勢であった。
「……混沌の明日を決める戦いですか。
どこを見ても殺意に溢れている。全く、とんでもない所ですね。しかし……!」
と、その時だ。ヨゾラに次いで姿を現わしたのは――優か。
かつての己であれば、この場に立つ事など『あり得ない』と言っていた事だろう。
(……いえ。今でもぼくは、自分が世界を救えるとは思っていません)
奥歯を噛みしめる。優は『それでも』と口にして。
此処に来たのだから……!
「――ぼくも戦いましょう。皆さんの明日へ行く力の一助になるのなら!」
己が力を振り絞る。黒き神秘を顕現せしめ、敵を呑み込まんとするのだ。
呑み込まれし終焉の獣共が絶叫を鳴り響かせる。だが敵も滅びを齎さんとする者達だ――斯様にこちらを封じて来んとするのであれば、積極的に潰さんと彼を狙おうか。悪意の攻勢が彼に至る――!
「この程度……悪しき神々に比べれば、児戯に等しい!」
だが臆さぬ。倒れぬ。
彼は恐怖を知り。畏怖を知る。
その上でこの力を――正しき者達の為に使うと決意してきたのだから!
「さてサテ! アレが話に聞いた人狼……ヴェアヴォルフ君かな?
とりあえず分かりやすい所からぶん殴っていこうか!
こういう手合いと殴りあいってのも――いいものだね!」
「はは……これはこれは盛大なお出迎えですね。
敵が多いのはいつも通りですし、しかし味方の陣営も多数と。
いやぁ心強いですねぇ。まぁ、負ければ全てが水の泡であれば誰も彼も必死になりますか」
――じゃ、行くか。
言うはイグナートにバルガルだ。先往く者らの勢いにより乱れた所へと、撃を続ける。
まずイグナートは邪魔しに来るヴェアヴォルフらの対処へ。
強靭なる肉体から放たれる爪は脅威だ。イグナートと言えど貰えばタダではすむまい。
――だからこそ、楽しい。
「君達みたいなバケモノがまだまだいたなんて、ね。
ハハハ――これを乗り越えたら、オレはまだまだ強くなれるのかな!」
「死ね、人間。お前達など我々にとって只の肉に過ぎん――!」
「おぉっと会話も楽しめるタイプかな? ならさ、キミも楽しもうよ!
イッショに盛り上がろうじゃないか!
世界の行く末を決めるだなんて、この一瞬だけだよ? ――勿体ない!」
「ほざけ人間がッ!」
狼の牙が来る。が、イグナートは胸の内より湧き出てくる高揚感に溢れていた。
恐れはない。臆す事もない!
己が拳を叩き込む。牙を躱し、狼の顎元を抉るように拳を突き上げるのだ!
さぁ何処を殴ったら効くかな。顔か。腹か。目か。首か? まだまだ楽しもう!
斯様にイグナートが横槍を抑えていれば、バルガルは気配の狭間を進まんとする。
目指すはノア。その懐へと己が気配を消したまま接近せんとするのだ。
「あれやこれやと何か備えはありそうですが、無駄ですよ」
「ヌッ――!」
「えぇ――全てぶちぬかせて頂きますので」
バルガルは言の葉を零しながらノアへと斬り込もうか。
運命を手繰る加護を身に纏いつつ。切り刻むかの如く攻勢を、此処に。
――あぁそういえば此処は、敵の攻撃は非常に激しいのでしたか?
なぁんだ。それだけならとっても上等。
「戦場にしてはお優しい。殺して頭潰して内臓ブチ撒けるくらいすると思ってましたので」
ノアの反撃。滅びのアークを纏った一撃が、バルガルの身を削る、が。
――足らねぇよ。
その瞳からはなんの絶望も生まれはせぬ。
むしろ返しの一撃を即座に叩き込んでやる程だ。あぁ。
『こんなものですか?』と、熨斗を付けて叩き返してやろうではないか!
成否
成功
第1章 第3節
●
――イレギュラーズらの攻勢。それは実に激しいものであった。
終焉獣らの抵抗も相応に在る、が。
練達のドローンや鉄帝軍人、迷宮森林警備隊らの支援もまた降り注ぐのだ。
決してイレギュラーズ達だけが抗っている訳ではない――
滅びに抗せんとする意志全てが此処にあるのだから!
「西から来るぞ! 備えろ、踏みとどまれ!
この場の戦いは文字通り、世界の命運をかかってるんだからな!」
故にベルナルドは共に戦う兵士らを牽引するように声を張り上げるものだ。
それは鉄帝貴族アントーニオの私兵。
ベルナルドにとってもパトロンの一人である彼もまた可能な限りの兵力をこの場へと狩り出していたのである――世界が滅びれば当然全てが消え失せる。自らの命も。愛すべき芸術の数々も。
無に帰す。それを座して眺められる者などいようか――それに。
「――練達か。ふむ。混沌大陸の伝統とは異なる技術を持つ集団……
面白い。確かに彼らと歩調を偶には合わせてみるのも――新たな価値観に繋がろう」
「はは。練達はすげぇクリエイター集団だ。
きっとアンタの持論とも合う……なんなら保証するぜ」
芸術。創造。まだ見ぬ価値ある練達が全力を出しているのならば。
その傍にて歩みを共にするのも悪くないものだ、と。
アントーニオは兵の指揮をしながら呟こうか。
――同時。ベルナルドは笑みの色を口端に浮かべながら、敵へと撃を紡ごう。
鉄帝が危機に陥った時、共に死線を潜った仲間だ。
地獄を乗り越えた同士達――お前らを信じてるぜ!
「バルナバスの脅威とどっちが上かねぇ……!」
そして彼の姿が変じる。パンドラの加護が六枚の羽を顕現せしめ。
魂の奥底から変革を齎すのだ。
神秘宿るが如く彼の力は昇華する――! 滅びを穿つ使徒と成りて!
が。敵も座して見ている訳ではない。
遥か彼方より放たれる魔力が――戦場を襲う。
「ッ! ナイトハルトだ、伏せろッ!!」
ナイトハルトの砲撃だ。どこぞの奥でせせら笑っているのだろうか!
魔力の連打が空より降り注ぐが如く。ベルナルドは警告の声を張り巡らせ、同時に観察も絶やさぬ。この攻撃は戯れではない。ナイトハルトの意志が混じった攻撃ならば――必ずタイミングがある筈だから!
「ぬぅ! ナイトハルトめ、さっそくにこの夢心地を狙いおったか……!
そんなに怖いかの――? この夢心地ドローンが!!」
と、その時だ。ナイトハルトがこの場にいたら『なんて??』などと呟いていただろうか。
声の主は――今更言うまでもない。夢心地である!
彼は練達ドローンの群れの中に混ざりながら高速で飛翔している。その動きに連動してドローンらも追随。マッドハッター辺りが面白がって夢心地に付けているのだろうか……ともあれ夢心地・マスター・ドローンは練達ドローンの親玉となりて戦場に撃を放つ。
支援射撃。夢心地ビーム!
かの者より放たれる一閃は戦場を薙ぐが如く。
更に子のドローンらも傷を広げるべく射撃敢行!
「なーっはっはっは! 良いぞ、付いてくるがよい――此処に我らの天を刻むのじゃ!」
「……あれも練達芸術の一つか?」
「誤解が生じるのは困るから言っておく――違う」
すごいぞ、えらいぞ、夢心地ドローン!
彼はドローンらを的確に率いて的確に戦場の援護を務めていく……思わずアントーニオは操に夢心地の是非を問うものだが、違う。あれは練達産じゃない。夢心地・イズ・ワールドだ!
「わーどこを見ても敵ばかりだね……!! あっちにも終焉獣、こっちにも終焉獣!
――それなら! まずは指揮してる人をやっつけちゃうべきだよね!
抉じ開けるよッ――!」
「HA――! 残念だが、先に世界を滅ぼさせるほど、私は正気ではないのだ。
貴様がたとえ始原でも私こそ、神を殺すに相応しい!
そこを退いてもらおうか先達よ。神殺しの印は私が貰うッ――!」
そんな夢心地を叩き落とそうとしてか偶然か、再度ナイトハルトの魔力が襲ってくる。
が。その一撃に対して迎撃の一手を紡いだのは焔だ。
全霊たる炎の槍を此処に。天へと放つ地の槍が――衝突。
凄まじき衝撃波が響き渡ろうか。
完全相殺とまでは行かぬまでも在る程度軽減させる事は出来そうだ……! であればとロジャーズも前進。ナイトハルトの一撃に臆する事もない彼女は、己が身に数多の加護を齎しながら……終焉の獣らの前に立ち塞がろうか。
――アーノルド、力を寄こせ!
私が眠る為には……
「私自身が世界を殺さねばならないのだから!」
ロジャーズもまた持ちうる限りの全てを此処に。
数多の敵を引き寄せよう。それはロジャーズの宿す神秘に惹かれてか?
倒れぬ。朽ちぬ。滅びぬ。
戦場には只管に――彼女の笑い声が謳歌しよう。
「今だ、行こう! ナイトハルトの砲撃もずっとは来ない……! 今がチャンスだ!」
「あぁ――世界を救ってくれ、など。元よりそれは、ローレットイレギュラーズとして契約の範疇だ。仕事を全うしに行こう。いつものように。いつも通りに。オーダーは承知した」
直後には焔が、ロジャーズらに引き寄せられた終焉獣らを討ち貫く。
炎の槍にて戦場に穴を開ける様に。戦場に煌めく炎の一迅が道を作ろう――!
同時に往くはプリンだ。彼は身に戦の加護を纏いて……突き進む。
ロジャーズと同様に雑兵を引き付け、時に打ち倒し。
ノアの下へ赴かんとするのだ。
「人形。愚かなる主に仕える事に――なんの意義を見出す?」
戯言に。主を小馬鹿にするような言も重ねながら。
心を読まんとする術も用いてちょっかいを掛けてやろう。
感情を乱せればいい。ノアの瞳の端に怒りの亀裂を走らせる事が出来るならば、良し。
「離れて隠れて、どこぞの彼方から魔力を放つだけの卑怯者。
子供の駄々を振るうにすぎんよ。巨大な力を持っているだけの赤子だな」
「――マスターノ侮辱ハ、許シマセン」
「そうかね?」
激突する。ノアとプリンの圧が、戦場の狭間にて。
揺さぶるのだ。ノアも。そして言葉が届いているなら――ナイトハルトもと。
「……しかし伏兵や増援がいないとは限りません。引き続き注意しておきましょう。
ここは敵陣。どんな仕掛けがあってもおかしくはないでしょうから」
「神殺しを企むなら、もう温存はせずに全てを出してくるだろうしね。
――だけど、あぁ全く。神は僕にとっては命の恩人だ。
どうにもここにいる彼にとっては憎い相手みたいだけど……」
僕は恩に報いる為に戦うよ。
周囲の援護を成さんとしているジョシュアに次いで、そう告げたのはムスティスラーフだ。彼の姿は獣竜へと変じている――鉱石の角を特徴としたその姿。あぁ正に終焉の獣らを相手取るにの不足はなかろう、と。
砲撃一閃。加護に強化された一撃は並み居る終焉獣らを弾き飛ばしてみせよう。
退けぬのだ。世界の進退が此処にあり、ひいては神の命運も掛かっているのなら。
そも――人によって恩となるか仇となるかは変わる。
ナイトハルトにとっては怨敵でも。
ムスティスラーフにとっては呼ばれなければ『終わって』いたのだ。
「神にとっては気まぐれだったかもしれない。それでも、ね」
だから返そう、今こそ己の全てを。
敵陣薙ぎ払う。竜の如き獣に成りて、自らを砲撃の一手とし――数多を穿たん。
「終焉獣の数を少しでも減らしていきましょう。
無限だとは思いたくありませんが、今の状況だと無視するにはキリがなさそうです」
更にジョシュアが鉄帝軍人らと連携し戦線を上げんとする。
鬨の声が響き渡る。滅びに屈さんとする意志がそこかしこに。
であればジョシュアは彼らを援護すべく――射撃を敢行。
確実に仕留めていく。あぁ……以前なら終わる事に諦めもついただろう、が。
「毒である僕にも失いたくない人達ができたのです」
終わらせたくない。終わらせてなるものか。
――毒持つ植物たちの力を此処に。収束させ、敵へと降り注がせようか。
絶つべきを絶つ。その意と共に、どこまでも進もう。
今こそ英雄たれ。一人一人の魂よ。
「守れるものが。わたしにも守れるものが――ある」
――ずっと物語の英雄みたいになりたかった。
同時。思考を巡らせているのは……リスェンか。
彼女は『なりたかった』。いや――『なりたいだけだった』と言うべきか。
想像の範疇だった。それでいいと思っていた。
だけど。
この世界に呼ばれて。選ばれて。遂に期待は確信へと至った。
――選んでくれたこと、感謝します。
「終わらせはしません」
リスェンは見据える。天よりまた至らんとするナイトハルトの一撃を。
地に炸裂すれば多くの者が巻き込まれる。
傷深き者もでよう。しかし。
「もしもこの戦いが後世に謳われるなら」
今こそ夢が叶うのだろう、と。
リスェンは力を振るう。治癒の力が数多に走るのだ。
多くの味方を彼女は捉える。零す者など出しはしない……
誰一人として落とさせぬ。誰一人として殺させぬ。
全てを救えてこその――英雄歌が紡がれるであろうから!
成否
成功
第1章 第4節
●
「がぁ、クソ……! 負傷兵は後ろに下がれ! 死んでる暇ぁねぇぞ!」
血が溢れ。血が零れ。
命削りし戦いは続く――この果てにある『明日』を信じて。
だが幾ら闘志があろうとも無限に戦える者は存在しない。
特に最前線で奮闘する鉄帝軍人らは負傷も多い……で、あればこそ。
「ふぅむ……世界が終わってほしい者も世界が終わってほしくない者も、それぞれ色々な事情があるのかもしれんが。しかしどちらかと言うならば――わしはこちらで動かせてもらうとしようかのう」
「どうか皆様、ご無事で。生きて明日を……ともに迎えましょう」
潮とテルルらが動こうか。振るう治癒の力が彼らを癒す――
攻める事は大事だ。押し寄せる敵の軍勢を倒さねば勝利はないのだから。
しかし癒し手たる者達がいなければ、死は増えるのみ。
戦場において治癒の力はこの上なく重要であった。
「……私の力がどこまで皆様の力になるかしれませんが。
それでもここで終わらせたりなどしません――命絶やさぬように行きましょう……!」
テルルは笑顔と共に治癒に当たろうか。不安げな顔はきっと心に影響が走る。
だから――少しでも皆に安心してもらえるように彼女は笑顔を絶やさぬのだ。
微笑みこそが繋げる命もあろう。
命と命の奪い合いの場であればこそ……尚に。
「先はまだまだ長い。脱落せんよう気を付けるんじゃよ。
生きてさえおればまた来れようて。
来れれば勝てる。踏ん張るんじゃぞ」
そして潮もまた、柔らかな声色で負傷者を諭そうか。
少しでも皆の負傷を抑える為に力を振るいながら。
――同時。彼は空も見上げる。
攻撃が降り注いでくると聞いてる。確かに先も斯様な光があった。
物陰に伏せるように声を飛ばすのも考慮しておくべきだろうか――そう考えていれば。
「ハッ。何が来ようと――こんなところで死ぬ気はないわ!」
天ではなく、地を見据え跳躍する影があった。
京だ。尋常ならざる膂力をもってして終焉獣を打ち貫いていく。
彼女の拳は人域に非ずの如く、だ。襲い来る獣を打ち倒し、尚に止まらぬ。
――あぁこんな連中如きに負けてたまるか。
どいつこいつもぶっ飛ばして。
「ハッピーエンドはワタシのもの、ってねぇ!!」
「――ギィ!」
「どいつもこいつも、向かってくるなら容赦はしないわよ。
覚悟しときなさい。今日のアタシは――『ちょっと』怖いわよ?」
終焉獣が一匹の顎を蹴り砕きながら、彼女の口端には笑みの色が灯る。
同時、全身に生じうる熱を力に。然らば膂力はおろか速さすら増そうか――
超々高温の炎すら纏う。戦場の最中に輝く至高が其処にあった。
削って削って削って――削り倒す!
「さぁ次はどいつよ!」
今の彼女を止めれる者が、あぁ果たしてどこにいようか!
「ナイトハルト……まだ出ても来ないのね。焦らすつもりかしら? ――嫌になっちゃう」
「だが、ま。逃げはしねーだろ、どこにも逃げれねーとも言えるけどな。
とにかく……行くんだろ? なら、こんな所で躓いてはいらねれーよな」
「――そうね。えぇ、どうであれ進むべき道が変わったりはしないわ」
暴風の如く敵を薙ぎ払う京。その勢いに次いでメリーノやサンディも続こうか。
メリーノの瞳は――この戦場の彼方にいるであろうナイトハルトに向けられている。
もしも彼が言を零すなら、『来れるかい?』なんて告げるだろうか。
――ま、いいわ。
「出来る事から始めましょう。一つ一つ、ええ。そうしていれば相まみえるでしょうしね」
「俺も行くぜ、メリーノ。
道を抉じ開けるのは任せな。ダチの為なら命の一つや二つ、張ってみせるってんだ!」
往く。メリーノは、まずはとばかりに終焉獣らを相手取ろうか。
邪魔な者を押しのけ彼方へ歩みを進める為に。
その力にならんとするのがサンディや、続く牡丹だ。ダチ(メリーノ)を無事に送り届ける、まずはそこからだと、彼女は真っ先に踏み込み敵の注意を引き付けんと立ち回ろうか。
「ナイトハルトの奴は終焉獣達を特攻させる力もあるみたいだからな……
可能な限り引き付けてはみるが、油断はするなよ。
意志を無視した特攻させる可能性も――0じゃあねぇだろうしな」
「彼は、見えない場所にいるのが好きみたいだし、ね。
――奥から『駒』を動かして存分に使うのは、ありえる話だわぁ」
だが牡丹はメリーノへと注意の声も飛ばしておこうか。
ナイトハルトの力は未だ脅威である、と。練達で見せた終焉獣を操る力で損耗を無視した攻撃が来る可能性は否めない。仮にそれをしなかったとて、巨大な魔力が空より降り注ぐ警戒も必要なのだ――
「でもよ、邪魔はさせねぇぜ」
が。牡丹は空にも注意を払いつつ、瞳に意志を込めようか。
どのような妨害が行われるにせよダチの道筋の邪魔はさせぬと。
実際に『来た』ならば警告と妨害をいつでも成そう。さぁ来いよ終焉の獣共――ッ!
そして。同時にサンディもメリーノ達を送り出さんと前へ行く――
(――ったく。遂にこんな場所でも『送る』事になるなんてな)
敵の攻撃を引き受けんと赴くサンディ。その思考にはかつての日々が想起されるか。
スラムから様々な奴を送り出して来た。ま、いいやつばかりじゃなかった……のは……まぁ大目に見てもらうというか……それはそれ! アイオンすら『送って』来たんだ。『夢』を送り出す事に掛けちゃ――
「無辜なる混沌の誰にだって負けねぇぜ……! 終焉がなんだってんだよ、なぁ!」
口端に笑みを灯す。無数の敵を前にしても尚、彼の闘志は燃え上がるが如く。
至る爪を弾き、返しの一撃を此処に。
あぁこの先に用事がある者らがいるのだ。ならばその本懐を遂げられるように……!
(男の俺がしっかり守ってやらねーと、なッ!)
敵がどれだけいようが構うものか。彼の視線の先にはメリーノやマリエッタがいるのだ。
「――勝手すぎる神、ですか」
そしてマリエッタもまた、この戦いにおける思いを馳せるものだ。
ナイトハルトの主張には、一定の理解を示すところもある……
確かにこの世界における神とやらは概ね我が儘、身勝手極まりない。少なくとも世界に呼ばれた旅人は、全て強制的に呼ばれたものなのだ――であれば神の召喚に納得していない者も当然いて然るべきだろう。
だから世界を滅ぼす……あぁそれも至極納得できるもの。
けれど。
「終わらせてしまえばそこですべては終わってしまう。
私にとっては『それ』こそが納得できるものではありません」
理解は示すが同調はしない。
世界は、いつか私が奪い取る。だから終わらせるわけにはいかないのだ。
――なにより。そのほうが、面白いと思いませんか?
「神への意趣返しにもなるでしょう――さて。蹴散らしますよ」
有象無象を。
マリエッタが指先に神秘を集わせる。彼女の指の動きに追随する形で血の動きが形成され。
直後。放つ奔流が全てを薙ごう。血の魔術が終焉の獣達へと襲い掛かっていく――
続け様には大鎌の形へと収束し、横薙ぎの一閃。血が血を呼び、更なる武へと。
メリーノに『恩』を返す時でもあるのだ。
邪魔する輩は――全て叩き潰す。
「オフィーリア、そんなに心配しなくても急に倒れたりはしないよ。
大丈夫。僕だって……負けられないのは分かっているからさ」
同時。終焉獣らを狙うはイーハトーヴか。
彼にだけ聞こえる言は、お姉さんぶる人形――オフィーリアからのものだ。
こんな所で無茶をする必要を責めたりなんてしてるんだろうか。
でも、ね。
「行けるんだ」
身体が動く。戦える。まだ灯火は燃えている。
自分を愛してくれた世界を護るために力を尽くすことが許されている。
病にも運命にも、俺は負けていないし、負けられない。
「行きたいんだ」
言の葉と同時に彼は力を振るう。
なるべく多くの滅びの獣を巻き込みながら、打ちのめしていくのだ。
一体でも多く。一体でも倒して、皆の力になる為に。
……なんでここまでするのかって? オフィーリア。
だってさ。『おしまい』が来るのが分かってるから。
そらにいつか偲雪さまが還ってきた時に、さ。
「もしも――愛したこの世界がなくなってたら」
きっとすごく悲しいし、困るでしょう?
分かるんだ。だって偲雪さまと何度も語り合ったから。
偲雪さまがどんな表情をするかなんて――瞼の裏に簡単に想い馳せる。
だったら、あぁ。
――俺の手は職人の手、紡ぎ出す手だ。
「未来を、そこにある笑顔や幸せを」
紡ぐ力の一片になってみせる!
振り絞る。己が全霊を。己が全力を。
少しずつ。少しずつ進んでいく――
イレギュラーズ達の歩みは確実に前へと至りつつあった。
依然として無数の終焉獣の勢いは収まる所を知らねども。
だが生きる意思に。明日の光を求める心に富む者らの輝きは、全てを突き破っていた。
「終焉。終焉、か。この程度で世界の滅び――『終焉』とは片腹痛い。
生憎、私達の饗宴は終わらないんだ。
……いいや、違うな。それは正確ではない、か。あぁ――」
私達が、終わらせないんだ。
美しくも残酷で心躍る――この世界をね!
終焉獣の群れを食い破るはマルベートとソアの両名だ――
敵より向けられる牙を、それよりも強靭たる牙で打ち破る。
こんな程度の連中が、獣――?
「甘い。甘すぎるね――ボクたちが本当の獣の強さを教えてあげるよ。宴はこれから、だよね!」
「あぁ至高の饗宴をお見せしよう。さあ、共に騒ぎ踊ろうじゃないか!」
「ふふーっ……そうよね、お姉さま。これは饗宴だもの。とっても楽しい一時」
楽しまないと――損だよね!
両名の連携は巧みであった。迸る黒きマナを身に纏い、数多の獣を饗宴へ誘う。
マルベートの意思を秘めた眼光が獣共の本能を掻き立てるのだ――
然らば吶喊してくる獣達へと相対するはソア。敵の群れ全てを焼き払うが如く、雷撃を此処に。降り注ぐソレらは敵対者を狙い穿ちて――動き乱れたソコへとトドメとばかりに首筋も抉ろうか。
鮮血一閃。紅きソレを、ソアは舌でぬぐい取れ、ば。
「焼き加減はどうかな……んんっ、美味しいレアだね。
でも足りない。こんなんじゃまだまだ――足りないよねぇ」
薄味だ、と。続け様に彼女の瞳に『狩人』たる魂が宿ろうか。
満足できない。もっともーっと必要なんだから。
――でも焦らない。
ダンスのお誘いを受けるには愉しく綺麗にいることが大切なんだから。
「まだだ。まだ始まったばかり……最初から全てを喰らってしまうのは、よろしくない」
「ふふー分かってるよ、お姉さま」
メインデッシュは、逃げたりなんてしないんだから。
マルベートとソアは意思を交わせ呼吸を合わそうか。
まだ体力も気力も、使いきるには早すぎるのだから。
上手く立ち回ろう。上手く食べていこう。
――あぁそうだ。
「思い返せば君達にも、今まで沢山世話になったね」
と、マルベートは呼び出していた己が眷属らへと言の葉を紡ごうか。
自らの近衛たる者達。主である者を護る絶対の守護者――である、が。
今宵という日に遠慮する事はあるまい。
「さぁ君達も存分に呑み喰らってくれたまえ」
主が許そう。饗宴は皆で共有べきものなのだから。
さぁ楽しもう。さぁ愉しもう!
騒ぎ踊れ。終焉の者達が――『最後の晩餐』などと銘打っているのだから!
成否
成功
第1章 第5節
●
――誰も彼もしつこいなぁ。ま、命が掛かってればそりゃ当然か♪
どこからかそんな声が聞こえた。ナイトハルトだろうか――
姿を見せねどもこちらを視認してはいるらしい。
直後には再び魔力の神秘が降り注いでこようか。
どこまでも、イレギュラーズ達の抵抗を削ぎ落とす心算であろう、が。
「――無駄よ」
彼女は告げよう。その神秘に臆することなく。
イーリン・ジョーンズは――騎兵隊の皆と共に戦場に在ろう。
幾度も死線を超えてきた。
幾度も絶望を越えてきた。
例え、世界の滅びが間近に迫っている場であろうと――その魂は変わらぬ。
「今、此処に。私達を阻めるものなど存在しないと証明してみせるわ。それに――」
イーリンは漆黒の牝馬に跨がりて号令を下そうか。
寸前。
「悪いわね、隊員の嫁がいるから、負けるわけにはいかなくて」
ふと。想起し、抱きは勇猛なりし将としての顔ではなく。
仲間を想う総大将としての顔であったか――
――騎兵隊である!
高らかに続く言は死合う空気を割るが如く。
一斉に動きだす一団――同時。道を開けるべく敵を穿つはカイトにオニキス。
「――どうせ、見てるんだろ『先輩』? ニヤケ面で、な」
「だが奥に隠れ潜もうと結論は変わらず、退く道もない。
何も変わらない。私のやる事はただ一つ――
だからここでお前を討つよ、『始原の旅人』」
カイトは優れた視力を周囲に巡らせ、周囲の状況を正確に把握せんとしようか。
どこが攻められているか。どこが押せているか。
道は何がなんでも作ってみせると――降らす黒き雨が敵群を穿とう。騎兵隊の動きに連動すべくホバーバイクを駆りて、かき乱していく。続くオニキスは地を滑空するように飛翔しつつ迫撃砲一閃。
終焉獣共を吹き飛ばしていく。一発で足りなければ二発でも三発でも。
「鉄帝の、特に南部方面軍の皆様がいらっしゃるとは……
あの方たちにはドデカい借りがありますわ。
このギベオン・ハート、存分に頼りにしてくださいませ!!
さぁ参りましょう! 世界を護らんとする戦い……何も憂う事なし!
人々を守りたいという気持ちと! わたくしのパワーに!」
止められないものはありませんわ――ッ!!
同時。オニキスに続く形で戦場へと飛来したのはギベオン・ハート。
まるで彼方にまで轟くが如き声は、あぁなんと目立つ事か――
しかし彼女はそんな事気にせず『ぶち込む』ものだ。
「さぁさぁさぁ! こんな程度ですの、終焉の獣というものは!
鉄帝に住まい民と殴り合うモンスターの方がまだ骨がありました事よ――!!」
「……うるさい奴だ本当に」
ギベオンは自らの身にバリアを纏いつつ吶喊する構えをみせようか。
ぶちのめす。あぁ目の前に現れた連中をぶちのめす。
全力全開の体当たり――マジカルメテオクラッシャーが炸裂すれば、おぉ獣達がはじけ飛んでいくぞ。言の節々がなんというか、こう、あの、アレだが……しかし恐怖に竦む事もなくぶちのめしていくなら、あぁまぁ良いか!
オニキスは吐息一つ。それでも穿つ大火力の砲撃が戦場を謳歌して。
「アタシはこの世界の生まれだからな、旅人がどうのなんてなぁ知らねぇし知ったこっちゃねぇ。だけどよ――神がどうとか知った事か。結局てめーの我儘じゃねーか。てめーの我儘で世界を巻き込むってか? 上等だよ、だったらぶん殴ってでも分からせてやらぁ!」
「高みの見物決め込もうって所かな。世界に滅びを与えよう、神を殺そうなんて謳う割には、随分と高みから見下ろしてくるものだ――こういう手合いはさっさと引き摺り出さねばね。安全だと思っている場所から」
更に黒馬に騎乗せしエレンシアも、オニキスらの撃によって動き乱れた個体へ追撃の一手を紡ごうか。敵が膨大なら、だからこそすり潰していく必要がある。確実に、絶対に、命を絶ちて命を繋ぐ。然らば武器商人も、どこぞに潜むであろうナイトハルトの位置を探らんと捜索の目を張り巡らせながら――敵の目を己へと引き寄せようか。
誰にも邪魔などさせない。この歩みの邪魔は誰にも――
至る牙。合わせて紡ぐ糸繰が獣の身を裂いて血道を作ろうか。
「……ヴェアヴォルフ。まさか、生き残りがいたとは、ね……」
と、その時だ。呟いたのは雲雀か。
彼の視線の先には群れる終焉獣の影に潜む……狼の姿。
只の狼ではない。人の言葉を介する存在。あぁネロの同族だ。
そう思えばこそ、雲雀の心中には複雑な思いも生まれうる。
特に……ネロの別れの言葉が――
「……止めてみせる」
だけど今は眼前にのみ集中しよう、と。
奥歯を噛みしめ、騎兵隊らの邪魔になりそうなものたちを狙うのだ。
破滅を招く凶兆が天を指し、堕ちうる災厄を顕現せしめようか。
無論、それは人狼も含めてだ。
……世界が滅びれば俺の大事な人がいなくなる。それもまた許せない。
「だから、ぶつかるのは仕方ないよね? 大先輩さん!
手は抜かない。抜くつもりもない。相容れないなら――」
僕は、此方側に立って。滅びに抗うのだと。
雲雀は告げよう。俺は此処に来て『救われた側』なのだから。
そっちには行けないし、いかない。戦い続けてみせよう――!
「ぶはははッ! 『管理人』様は高みの見物か? 世界を跨ごうが気質ってのは変わらんねぇ……! ま、それならそれでもいいさ――どっちみっち、こっちは盛大に暴れさせてもらうだけだからなぁ!」
次いで見えた姿はゴリョウか。巨躯にして、しかし吶喊するその勢いたるや神速の如し。
敵陣に恐れなく突っ込むのだ。
身に纏う数多の加護があらばゴリョウを喰らわんとする獣らの牙も爪も届きはせぬ。むしろ一方的にゴリョウの拳が連中の顎を喰らい破ってみせようか! あぁしかし――
「ったく、どいつもこいつも群がってきやがる! 都合がいいっちゃいいけどな……てか特に寄生型! なんでや! 豚さんに寄生とか有鉤条虫とか旋毛虫かお前らはよぉ!? そういうのが原型か!? 止めろや、後で調べたらびっしり纏わりつかれてたとか冗談じゃねぇぞ!」
ゴリョウは吐き捨てるように言を零そうか。
寄生型終焉獣。それはプーレルジールで散々相手取った者であるが……なんぞや、ゴリョウには特に引き寄せられる個体が此処でも多い。それは彼の奥底にある『何か』に反応しているのかもしれない――或いはナイトハルトの指示か?
ゴリョウはぶちのめしつつ前に進むものだ。あの『管理人』がけしかけてきているのなら、理由の一つでも聞かなきゃ気が済まねぇ、なんてどこかにも想いながら。
「右。一時の方向から獣の増援だ――
押し留められない様に受け流そう。この勢いを殺してはいけない」
「空から再び魔力の砲撃も来そうです――注意を」
と、その時だ。周囲に戦術支援を齎すシャルロッテが終焉獣の到来に警告の声を発し。
同時に黒子が――ナイトハルトの放つ神秘を捉えた。
直後、着弾。それでも黒子はかの奔流の情報収集を怠らぬ。
どれ程の炸裂が生じうるか。どれ程の威がソレに込められているか。
一撃で全てを滅しうる程でないのであれば――分析こそが隊の生存に繋がろう。
彼は見る。視る。観る。
痛みから目を逸らして超えられるモノなど無いのだから。
「……幸いにして一点を狙う精度は左程ではなさそうですね。散兵になれば被害は軽減できそうですが――それでは終焉獣らに各個包囲される危険もあります。むしろ一塊で戦線を突破する手段の方が良いでしょうか」
「はは。となるとやっぱり、目の前の道を皆で切り拓くのが良さそうやねぇ。
多分、得意分野よ。任せてー
流石にこんな状況で出し惜しみしてる余裕もなさそうやしね――全力でいこ」
次いで黒子より情報共有を受け取った彩陽が、敵陣の奥深くへと神秘の泥を紡ごうか。
敵の動きを止めるべく。動きを淀め、隙を作るべく。
……『ああ』はなりたくないなって。反面教師にしよ、と思うものだ。
彼方にいるであろう側を見据え――彩陽は全霊を込める。
「そならね、退いてもらおか! 邪魔するなら痛い目にあってもらうけどね!」
一手も止めぬ。敵を薙いで、封じて、また薙いで。初手から全力だッ!
「アウレオナさん、そっちは――」
「ん! 私は大丈夫だよ、それよりも……」
「何かな……あぁもしかして僕? はは、死ぬわけないだろう。僕を誰だと思ってるんだい」
戦勝のシェンリーだよ。
終焉獣を斬り捨てるアウレオナの背を護るようにしつつシェンリーもまた支援を紡ごう。
貰った名を魂に刻みつつ、彼は遍く全ての悪意を弾かんと立ち回る。
――アウレオナさんの敵は、僕の敵だ。
「最後の最後まで付き添うよ」
「ん。でもここが『最期』にする気はないよ!」
「無論だ。さぁ――存分に。精一杯に暴れよう。何も気兼ねなく!」
アウレオナは自慢の剣撃を前面に注ぎ。
シェンリーは自らに宿りし数多の策謀を解放せしめる――
誰ぞに突破させようか。その心算希望をもってして敵の全てを叩き潰そう!
あぁ――騎兵隊は鶴翼の構えと共に未だ突き進み。
止まらぬ。いや誰が止めれようか。
ナイトハルトが度々に魔力を降り注がせてくるも。
騎兵隊は総力をもってして抗する。
「まったく、イーリンくんも人使いがあらいねぇ……まぁ事ここに至って静観するような余裕は無し。実に合理的だし、なにより僕もこれでいいと思うとも。あぁ。ドローンの扱いなら任せたまえ――はは!」
衝撃波。乗り越えた先で、襲い来る終焉獣達、を。
タイミングを見計らい襲い掛かった練達のドローンがいた。
――それを操りしはエレノア。いや、Drマギア……としておこうか。
イーリンの要請に伴いて皆の支援に至った研究者だ。彼女は練達ドローンを駆使し情報をかき集め、時に改造し、更なる増援らにフィードバックして強化する――あぁまるで子供のトライアンドエラーだ! 本来はもっと人の役に立つ物を作りたいのに!
だが仕方ない。操らと連携し必要な微調整を行おう。
「何事にも――取り持ちをする科学者が必要だろう! 猫の手も借りたい状況なら尚更に!」
「司書さん、ドローンの動きがこっちを援護するように……!」
「練達の穴倉から出るのもいいものでしょ――働いてもらうわよ!」
支援を感じえたフォルトゥナリアが声を走らせようか。
今が好機、と。イーリンにも言を紡ぎながら……同時に味方に活力を迸らせる。
それは輝かしき一声。希望の喊声。
――さぁ今こそ、より力強く前へ進もう!
「俺が用があるのは『この先一点』だけなんだよ。退いてもらうぜ、どいつもこいつも」
「この先にあるのは絶望の海じゃない――希望に満ち溢れた、明日の輝きだよ!」
然らば、カイトは光の五月雨を降り注がせようか。
邪悪たりうる終焉獣達を浄化せしめんばかりの勢いが注がれるのだ。
フォルトゥナリアより希望の力を受け取ればこそまだ余力はある――
進め。
未来は、この先にこそある。
「鶴翼を解かないように! ただでさえ敵は数が多い!
綻びが見えれば飲まれる……!
信じて進むんだ……! あぁ騎兵隊は、いつものように動けばいいのだから!」
「一気に抜く。ナイトハルトの陣を――始原を、撃ち貫くぞ」
無論、敵も相応の抵抗を騎兵隊に見せよう。
終焉獣達は元より、ナイトハルトも神秘の圧をもってして止めんとしてくる。だが気まぐれな神秘の奔流程度に敗れてなるものかとシャルロッテは広き視点で情報収集しつつ、皆を奮い立たせるべく声を張り上げ。オニキスの迫撃が――道を拓く。
然らばナイトハルトの魔力が、なんとなし騎兵隊側に向くのを感じ取ろうか。
駆ける。戦場に風穴開けるべく。
受ける。奴の狙いを。奴の一撃を。
騎兵隊で『受ける』時間稼ぎを行うのこそ目的なのだ。これこそ本懐――!
その果てにこそ勝利を掴めると信じて!
「進むわよ、皆……!」
「ヒヒ。まだまだ波のようにいる場所に、かい――?」
「ぶははは! いつものこった、よなぁ――!」
「奴の顔面にぶち込む為にもそれしかねぇんだ――あぁ付いてくぜ」
イーリンは再度、号令を下そうか。
あぁ我ら此処に在りと謳え、謳え!
然らば武器商人も、ゴリョウも、エレンシアも魂を輝かせよう。
これが騎兵隊である、と。
無数の武具を顕現。射出し敵陣を薙ぎ払いながら――その存在を示さんと輝くのだ!
※ナイトハルトによる攻撃が、騎兵隊側に傾いているようです。
※他戦域全体に攻撃が降り注ぐ確率が減少していると思われます!
成否
成功
第1章 第6節
●
「さーってと。相変わらず随分な戦場だが……休んでる暇はないぜ、俺」
言うはサンディだ。肺の奥より息を零す――その視線の先には無数の敵。
ふっつーに事が進めば負けてしまう。敵は時間を稼ぐだけでもいいのだ。
なんとしても勢いがある内に奥へ奥へと至らねばならぬ。なら。
「風ってのは呼んでやるもんだよな」
ふっつーじゃねぇ動きをしてやる奴が――必要だよなぁ、と。
彼は往こう。風を、望む向きのが来るまで何度だって呼び込んでやる為に。
(それが俺の……この、長すぎた旅の、ひとつの答えなんだろうな)
跳躍。終焉獣らが彼を弾かんと襲い掛かって来るが、サンディは退けよう。
自らが成すべき事を成す為に。今この役割、この時だけは……
必要であれば――アイオンすら超えてみせよう。
剣技でも、魔術でも、盗みの技ですらねえ、この……”稼働時間”で!
「さぁ来いよ。捉えられるか――『風』をよ」
誰かの為に彼は往く。それもまた一つの夢の果てと――信じて。
「敵を片付けていきましょうか。
どうにも奥から奥から湧いてくるようだし……まずは一つ一つ確実に、ね」
「まーったく、無限の如しじゃのう……じゃがだからこそドッカーンじゃ!
目的の者へ届かせようぞ、この先へ行く願いを持つ者がいるのであれば!」
紡ぐはヴァイスにニャンタルだ。数多の加護を身に纏い万全を成すヴァイスは、終焉獣らの撃を躱しつつ、返しの一撃を叩き込む。白き儀礼の短剣が終焉の命を切り裂くのだ――同時にニャンタルも敵を捻じ伏せるが如き勢いを、此処に。
攻撃の手を緩めず只管に目前の獣共を打ち倒していく……!
前へ進む為の一助となる為に。その為ならば幾らでも。
「動き回り続けてみせるぞい! さぁ――次は一体誰が我の前に立つのかの!」
口端に笑みの色を灯し、彼女は皆の力にならんと務めようか――そして。
「安藤さん……! 援護しますッ! 取り巻きはこちらに任せてください――!」
レイテも知古の者の助けにならんと戦場に至ろうか。
加護を齎し身の強化に努め。直後には周囲の敵を己に引き付けんと立ち回るのだ。
あまりにも多い終焉獣。だからこそ注意を惹く事には――大きな意味がある!
無論それは己に対する危機が増す事も意味するが……
「この程度、大したことはありません……!」
レイテは踏みとどまる。コイツらはボクが止めてみせると、奥歯を噛みしめながら。
引き付けた個体共に応戦するのだ。一歩でも、知古の者を進ませる為に!
「――ッ! また砲撃が飛んできたよ、でも、抗えるなら絶対やりようはある……!」
「これ以上、混沌世界は壊させないし……誰も倒れさせないから!」
と、その時だ。焔と祝音は見た。
空より再びナイトハルトの砲撃が至らんとしている気配をだ――先の騎兵隊の動きに反応してか、あちらに数が向けられている、が。それでも他戦域に繰り出される一撃がゼロになった訳ではない。こうして未だイレギュラーズ達に痛打を与えようと降り注がれる事はある。故に焔はもう一度、とばかりに撃を。祝音は治癒の力を紡ぐのだ。
あんなのを何度もマトモに受けていたら、辿り着く前に皆ボロボロになってしまう。
だから焔は駆ける。
奥歯を噛みしめ、地を踏み砕かんばかりに力を込めて。
跳躍――そして。
「行くよッ! こんなのに負けるもんかッ――!!」
再び炎の力を顕現せしめよう。
元なる世界の神の力。その一端を此処に――
天衝く炎槍が宙を裂く。衝突と共に激しい衝撃波が天にて炸裂すれば大気すら揺らそうか。その勢いは地に蔓延る終焉獣達をも巻き込み、敵にも被害を募らせていき……故にこそ祝音の治癒が大きな意味を成そう。
彼の成す癒しがあればイレギュラーズ達の傷は軽傷で済むのだから。
パンドラの加護。白猫の魔法使いの姿へと至れば、力は尚に増す――
然らば一方的に敵にだけ被害を与える事に繋がろう――同時に。
「巨大な魔力の奔流……発生源があるなら、必ずその先にいる筈……!」
祝音はこの砲撃がどこから成されているか探らんともするのだ。
その先に……元凶がいると推察して!
「ふむ――意思の衝突。決意の輝き。理不尽な終焉に抗う生命の抵抗――か」
更に幸潮が戦場へと視線を巡らせようか。
なんたる場か。なんたる物語か。正に一大決戦というに相応しい。
兵卒らドローンらそして我らが英雄ら。
あぁ全て等しく数が多くて……
「我が筆の回し甲斐がある」
幸潮は紡ごう。描写を。物語を。
――我らの葬送曲にはまだ早い。
故にこそ、その指先には英雄らを称える意思が載ろう。
身は変じ。悪なる概念を宿す天魔に至りて。
されば謳う力にはより世界を変革させんとする力すら籠められよう。
さぁ。
「我に真価を書かせてみせろ」
だって――『始まり』のレクイエムなのだろう?
『始原の旅人』を葬り、題目の通りに終わらせてやろう。
幸潮は自らを帳の王と僭称し皆の幻想を賛歌しようか。
謳え。踊れ。舞台は未だ此処に在り。物語は終焉の前に山場を昇りつめるのだから!
「『始原の旅人』、か……最初の一人って辛いよな。
神を恨んでるって? あぁ解るよ。俺も神は信用してないからな」
でも、と。紡ぐのはイズマだ。
イズマにとっては、この瞬間に至っても姿すら見せない神なんて実在にすら期待していない。でも、だからこそ。
「俺は神託を退けて混沌を救いたい」
――『神託などという神の意志をぶち壊す事で神に物申す』
そう決めていたのだ。世界が終わってしまうという神の言葉通りになど。
『なってやる』つもりは――毛頭ないのだ!
故にイズマはナイトハルトには同調せずに突き進む。
滅びに抗う為に。彼に宿りし力であれば敵のみを穿つなど容易い。
敵陣中枢に全身全霊の闘争の力を放ち――続けざまにはノアを見据えようか。
「退いてもらう。ナイトハルトの所へ行くまで……邪魔される訳にはいかないんだ」
「ワンパターンだろうと何だろうと、これが僕のとっておきなんだよ!
ナイトハルトをぶん殴りにいくんだ、邪魔をするなー!!」
「――無意味。無価値。マスターノ、下ヘト、行ク資格スラ、アリマセンネ」
直後にはヴェルグリーズやヨゾラもノアへと攻勢を仕掛けよう。
ヨゾラは再び終焉獣達をも巻き込みつつ、その数を減らさんと猛攻を加えている。紡がれる星空の神秘が泥となりて邪魔者どもを押し流すのだ。ノアへと至る射線が確保されれば――極撃たる一閃一撃を加えよう。
痛烈なる一打。自らの全力全開をもってして穿たんとする。
ノアもヨゾラに対し反撃の膂力を放てば、決して軽くない衝撃が彼を襲うが……
「こんな程度で……今更止まれなんてしないよ!
ワンパターンだろうと何だろうと、これが僕のとっておきなんだよ!
砕けろ――!」
それでもヨゾラは未だ立ち続ける。あぁこんな程度の痛みで、今更臆したりするもんか!
同時。ヨゾラはノアの観察を続ける事も止めない。
ノアは滅びの何かを纏っている。ナイトハルトが何かを入れたかもしれないなら……
警戒は未だ続けるべきなのだから。
瞬間。ノアの反撃の間隙を突き、ヴェルグリーズが『加護』を纏おう。
彼の身が変じる。纏う気質は蒼き昇華。
右腕の先は、硬質化と共に亀裂が走ろう。だがそれは崩壊の印ではない。
内包せし力の極大が――迸っているのだろうか。
「俺は、この世界を護りたい」
……旅人の皆は、きっと俺達には想像もつかない様々な事情があるのだと思う。
ナイトハルトの様に神を恨む者もいるだろう。
だが逆にこの世界を愛しく思っている者だっている筈だ。
皆で手を取り合い、滅びに逆らい、新しい未来を紡いできたんだ。
その事実を――否定させたりなんてしない。
「俺達はここで負けられない――この『先』は続いてく。
今日と言う日に世界は終わらない。明日を切り拓くのは俺達だ!」
踏み込む。ノアの懐へ。
神速の動きと共に武具には神の気すら伴おうか。
ノアを押しのけ先に進む為に――全霊を放つのだ!
「お前には恨みも怒りも何もない……
けどよ、悪いが……俺達はあいつに用がある! どいてくれ……ッ!」
「終焉獣の群れを統括している人形……手は抜けないね。
そっちもそっちの役割をこなしているんだろうけど――
なら、アタシもアタシの仕事をするだけだよ」
次いで零も奥歯を噛みしめながらノアへと至るものだ。彼方よりはジェックの狙撃も飛来すれば、ノアへの圧力は更に強まり続ける。
あぁ――この世界は恐い事が多いさ。
ヤバい奴はいっぱいだし。大切な奴らが……消えちまう事だってある。
だけど。
「それ以上に大事なもんも……増えてんだ……!」
この指先から零れ落ちたものだけを数えるのではない。
この指先に掴むことが出来た、大事なものが――あるのだ。
だから零は戦う。
身を変じさせ魂を燃やし。紅に染まる全てが彼の力と成ろう!
「プラック……『手』ぇ貸せぇっ!!」
かつて失われ、しかし記憶に根差す者の姿を瞼の裏に想起しながら。
彼はノアへと往こう。五指一つ一つに秘められ昇華された拳が――打ち貫く!
「ヌ、グ――」
「流石に、無敵じゃなさそうだね」
然らば数多のイレギュラーズの攻勢を受ければノアにも揺らぎが見えようか。
そこへ間髪入れずジェックが銃弾をもう一発。
その動きを淀ませんと畳みかけるのだ。
確実に一発をぶち込んでやる。あぁ今まで通り、一歩ずつ、着実に。
「この戦局は。いや……今日と言うこの日は」
――アタシ達が歩んできた道の成果なのだから。
退けないし、退かない。お前達にこそ退いてもらう。未来の為に。
「また『悪巧み』ですか。えぇ、構いませんよ――手伝いましょう」
「ごめんね。でも、試したい事も、考えたいこともあるのよ」
「お気になさらず。ノア様が何を潜めているか……探るべきですしね」
言の葉三つ。終焉獣らを押しのけながら思考を巡らせているのはマリエッタにメリーノ、そして妙見子の影であったか。彼女ら――特にメリーノが思い描いた事であるが――その狙いはノアに何が内包されているかを探る事であった。
――ねぇノア、お前をつくったのはナイトハルトね。
うまく出来上がったお人形。でも彼が単純に『出来の良い人形』を作るだろうか?
「おまえの御主人様は、お前にわたし達を殺してこいって言ったのね」
だけど。どれだけ周りに終焉獣の群れがいるのだとしても。
彼だってイレギュラーズなら分かる筈だ――可能性の塊である私達を絶対確実に止めれるとは限らないって。なら。お前の生死はどうでもいいのね。どうでもいい事を前提に前に出しているのね?
「ノアという女……内包しているのは、さて。パンドラを奪う力、集める力……と言った所でしょうか? いずれにしても世界を救う可能性を秘めたイレギュラーズにとって逆しまに働くモノに等しい何かであるのは間違いないでしょうね」
「こちらでも可能な限り解析を試みます――ナイトハルト様のお傍にずっといたのであれば、相応に大切か、秘策が込められている筈。特に、この大一番で出して来たなら尚更に……」
「吐き出させてあげましょうか。えぇ何を呑み込んでいるのだとしても」
故に彼女らは往く。マリエッタはメリーノにその天啓を強化しうる術を掛けながら。
同時にノアへ痛打を与えんと――巨躯なる大鎌を顕現させようか。
派手に。ノアの注意を惹く様に立ち回るのだ。
只人を超えた能力を持っているのだとしてもその反応にも限界があろう――続け様には妙見子も、終焉獣らに余計な邪魔をさせぬように呪術を展開。巧に練り上げし術式が数多の敵を薙ぎ払う。
然らばメリーノが一閃。
ノアの身。傷ついている箇所を特に執拗に狙い続けよう。
腕の一つでも堕とせれば上々。亀裂一つでも刻めれば御の字と。
「――人形。ええ、確かに。彼女からは正に、その印象を感じますね」
更にはグリーフもノアへと対峙しようか。
グリーフの姿は、可能性の化身に至っている。
羽のような。ベールのような。神々しく畏れなる気質が其処にあった。
――だが油断はしない。この状況で新たに投入されたノアと言う存在……捨て置いてよいものとは一切思えないからだ。『とてもよくない』何かの気配も感じる――故にこそ。
「貴方にどうして『ノア』と名付けられたのか、分かりませんが」
私は。
「私は、皆さんを運ぶ方舟となりましょう」
「――不愉快。何カ、ドコカ、不愉快デスネ」
明日へ続く方舟。真なる方舟になってみせると。
グリーフは誓おう。
――激突する。ノアの悪意と、グリーフの決意が。
廻る紅の炉心がグリーフの力と成し。守護の力と治癒の力すら解き放つ。
紅矢の守護者の名にかけて、此処は負けられない。決して砕かれぬ――
護ります。
帰りましょう。皆で。
――未来へ。
然らば。先のメリーノや妙見子らも含め、数多のイレギュラーズの解析が遂にノアを捉える。
それは幾人かが推察していたが――ノアに内包されているのは。
「滅びのアークの結晶……いや結晶などという生温いものではありませんね」
「壊れれば周囲を巻き込んでとんでもない病を撒き散らす――ていう所かしらぁ?」
『爆弾』だ。滅びのアークを極限まで詰め込まれており、炸裂させるつもりだ。
ナイトハルトはかつて、プーレルジールそのものを爆弾に見立て混沌世界に取り込ませる予定だった。それの一個体版と言った所だろうか――それは世界を犯す程の影響はなかろう、が。近くで戦う者らにとっては大きくパンドラを削り取られる恐れがあろう。
ナイトハルトが、プーレルジールでの活動の末に作り上げた代物。それがノア。
かつて大災害から逃れえた希望の船の名を冠す――絶望の災禍。
『――やれやれ誰も彼も慎重に来るものだねぇ……流石は僕の後輩達だ♪』
と、その時。
ノアから聞こえた声は――しかしノアのモノではない。まさか。
「パイセンじゃねーか! うぉー通話できたならはよしてよ! 番号なに? 通じる?」
『悪いけどこれは僕から一方的に掛ける事が出来る愛の通話さ秋奈ちゃん……♪』
「……ナイトハルト、か。同じウォーカーの大先輩。あぁ言葉を交わせて光栄と言おうか?」
念話の類だろうか。ナイトハルトの声が――聞こえる。
反応したのは秋奈や飛呂だ。終焉獣らの攻勢を押し留めながらノアにも接近せんとしていた者達。その者達を称えるように――或いは小馬鹿にするように――ナイトハルトは言の葉を紡ごうか。
『ノアは僕の自信作だ。使い捨ての爆弾とかいうものじゃないよ。
滅びのアークを動力に、増大させてる膂力や神秘があるんだ。
そもそも君達がこの子を突破できるとも限らない』
「そうまでしてこの世界を――いや、神へと一撃叩き込みたいのか」
『勿論さ♪ 僕はその為だけに生きてきたんだから』
「……成程。ならば、やはり敵対は避けられないな」
飛呂はノアに対し攻勢を加えながらナイトハルトにも、己が決意を示していた。
怒り自体は分からないでもない。しかし、俺自身は。
神だなんだはどうでもいい。
この世界に、大切な者達がいるのだ。
育んできた今までがあるのだ。
「――俺は。大切な人たちのいる故郷(この世界)を守るだけだ」
『あぁ良いだろう。君はきっと正しい。君達は間違ってなんかいない。
君達が、僕を殴ろうとする想いを僕は称えるとも。
だがこっちだって止まる気は一切ない。君達を殺してでも、僕は僕の想いを遂げる』
「ハッハー! 成程な、じゃあ今から会いに行ってやるから――
おひげはちゃんと剃っておくんだぞ、パイセン!」
『僕の身だしなみはいつだって完璧さ――♪
まぁお客様をお出迎えする気分ではないけれど♪』
全力全開。秋奈はノアを押しのけナイトハルトへと会う為に斬撃一閃。
パンドラだいじょばないってぴえんしてても。
それでもノアちゃんよいちょするっきゃねーんだから!
「みんなでぶつかって神アゲな! こっからがスパートってやつだぜ――!」
「秘策があるのは分かりました。しかし――この戦場全てを押しつぶす程のモノではないでしょう。弾き飛ばして打ち倒す事さえ出来れば、むしろ終焉獣達だけに被害を齎すことだって……不可能じゃない筈です……!」
更にユーフォニーは神秘を紡いでノアへと撃を。
当然邪魔してくる終焉獣達もいるものだが……こんなもので留められたりなどしない。数多を薙ぐ万華鏡の力を顕現させ、連中を退ければノアの姿を捉えるものだ。ノアが爆弾染みた性能を持っているのだとしても、それを理由に攻勢を止める事はない。
手加減などしてナイトハルトに到達しえるような状況ではないのだから。
打ち倒した瞬間に滅びのアークがパンドラを打ち消す勢いで炸裂するのだとしても。
「決して、させませんよ」
例えば弾き飛ばすなりして被害を軽減させる事は出来るだろうと――推察するものだ。
……しかし。やっと来れた終焉。
こういうのもなんだが――ユーフォニーの心中は。
『すごくわくわく』していた。
高揚感が止まらない。あぁここが世界の果てとも言われる場所なのかと。
そう思えばこそ自らの神秘に力が籠るものだ。
全力全開。無限に続く万華鏡を、知れ――ッ!
「ノアさま、まさか、滅びる為につくられたヒトだなんて……
しかし、ニルは……ニルは、だいすきなひとたちを護るために、ここに来ました。
……もしも、ノアさまがどうしても、世界を、練達をほろぼすために、うごくなら……」
きっと戦うのでしょう、と。
ニルは……己が『指輪』に触れながら心の奥底に、ある者の姿を想起するものだ。
誰かによって作られたヒト。その事に、ニルは己なりの想いはある。
だが。きっとノアは止まらないだろう。
それが存在意義だとして練達を、世界を滅ぼす事に頓着はない筈だ。
「……力を貸してくださいね、『おねえちゃん』」
同時。ニルは、己に姉に当たる――ミラベルのコアに触れようか。
短杖に、宝飾としてあしらわれたソレが……まるで応えるように輝いた気がしたのは、気のせいだろうか。いずれにせよニルは心を定め、力を成すものだ。怪我をした者があらば治癒の力を巡らせ、敵が至らんとするならばまとめて『えーいっ!』と弾き飛ばす。
極大なる神秘の術が悪意を打ち消すのだ。
終焉の獣になど負けてなるものか。
ニルは、ニルのだいすきなひとたちのために、ここにいるのだから……!
「ふーん、練達の始祖ねぇ……なるほど、じゃあ私にとっては感謝する人かな」
その時。茄子子は過去を思い起こそうか。
練達が出来たから今の私がいるのだと。もしも練達が無かったら……
家でが失敗して、力尽きて死んでいたかもしれない。
そういう意味ではナイトハルトは本当に恩人といえるだろう――だから。
「うん、助かった! じゃあ死ね!! 骨も残らず死ね!!」
『わぁ。情緒不安定かな――?』
それはそれ、これはこれとして茄子子はノアへと至ろうか。
数多の戦いの加護を身に纏い、万全たる茄子子はノアを逃がすまいと接敵。
情緒不安定? 違うよ――
「私も旅人だけど、ナイトハルトとか聞いたことないね。
適当言ってるだけじゃないの? ノアくんもそう思わない?
少しぐらい疑問に思った事とかない? この主怪しいなーきもいなーとか」
『ははは酷いな、酷すぎるな……よしノア、首を折ってあげるんだ♪』
「了解デス、マスター」
うわぁ聞く耳持たずかよぉ! ノアの高速の腕薙ぎが茄子子を捉えんと襲い掛かる。
が。茄子子とて数多の戦いを乗り越えてきたのだ。
一撃で命奪い取られるなどあり得ない。
それよりも、魔力の奔流が来ないかと待っているぐらいだ。
「――一緒に始祖様のありがたい攻撃、受けに行こうぜ」
茄子子の心は既に決まっている。あらゆる危険は承知の上。
撃ってこいよ、受けてやる。
『面白い子もいるもんだ。イレギュラーズの茄子子といえば僕も聞いたことがあるよ。
――じゃあご希望通り全部纏めて吹き飛ばしてあげようか。
あぁちょっと待ってね。騎兵隊共が邪魔なんだよなぁ。射出を絞らないと……』
「ハッ。上等ですよ――来るなら来てみなさい」
瞬間。ノアへと一撃放ちながら告げるは――バルガルか。
口端に、微かな血の跡が見える。
命厭わぬ攻勢を仕掛ける彼の身はかなりの疲弊があるようだ――しかし。
「あぁまだまだ。こんなモノ、まだまだですよ。
こんな程度がご自慢の人形ですか――? 程度が知れますね」
彼は。己が肉体の疲弊を承知の上で肉薄し続けよう。
繰り出すナイフの一閃がノアの身を刻む。否、ナイフだけではない。
鎖に拳、蹴りに靴に仕込んだ刃。己が持ちうる全てを使おう。
「ッ――シツコイ、男ガ……!」
「はは、えぇしつこいですよ私はね」
直後にはナイトハルトの放つ魔力の奔流が、ノアの近くに堕ちてこようか。
凄まじい衝撃が数多を襲う。が、やはりバルガルの瞳に揺らぎはない。
歯を食いしばって踏みとどまろう。
耐えろ。
今この瞬間。必要なのは魂の強みだ。
――その証左に、ノアに最も傷を打ち込んでいるのは彼と言えた。
必要なのはあと何撃か。まぁ十だろうが二十だろうが……
穿ち貫いてみせよう。パンドラなんて幾らでもくれてやりますよ――!
「世界を終わらせる訳にはいかないから、ね。
……戦ってみせるよ。生きて帰ってみせるよ。必ず」
そして。殺意漂う戦場の中で、しかしハリエットは臆さずにここにいた。
たくさんの人と出会えた世界。
あの人と巡り合わせてくれた世界。
――『これから』があるんだ。今日と言う日に終わりではない。迎えるべき明日の為に。
彼女は振るう。己が力を、どこまでも。狙撃の一端が終焉の獣を解き穿つ――
「……にしても、まぁ」
と、同時に見据えるは己が姿、か。
それはパンドラの加護により変じた姿。可能性の塊。
それは――まるで古龍の如く。
動き辛いというか、普段と違い過ぎて気恥ずかしいというか……
あぁあの人ならきっと『普段と雰囲気は違うけど似合うね』なんて言うだろうか。
――いずれにしても。
「惜しむ理由はない、ね」
力になるのならパンドラが削れようとも――なんであろうと。
それにいつ【彼】が狙ってくるとしれぬのだ。
警戒と共に彼女は周囲に常に気を張り巡らせて……
「世界を救うなんて練達で経験済みっすよ……!
一度出来たことは二度でも三度でも、なんてことないっす!
それより『Welcome』とかなんか歓迎の一言すらないんすか?
折角の後輩が命を賭して来てやったんすよ? 気が利かないっすねー」
「……目の前から、来るよ。あれが、ヴェアヴォルフ、かな……?
……今だから出来る事を、していこう……!」
そして。レッドはどこぞでこちらを見ているであろうナイトハルトに文句を言い、同時にグレイルはこちらへと接近しうる狼らの姿を見据えようか。アレは噂の人狼か……敵意を隠さずやってくるとは、なんともまぁ。
「……ヴェアヴォルフ……人に危害を加えてさえいなければ……多少は同情できたのにね……でも、人を食い散らかす事が……君達の全てなら……こっちだって容赦はできないし、今は気遣う余裕もないな……!」
心定め、グレイルは氷の気質を身に纏おうか。
氷牙術装とも言うべきその姿――力と成し、人狼らに対抗する術となる。
もっと力を引き出せる筈だが、しかし今はこれでも十分……!
「……六花……為すべきことを為すために……力を貸してね……」
これは、次へと。未来へと繋ぐための力……!
常よりも更なる凍気を纏わせ叩き込む一撃は正に痛烈。
多くの人狼らを弾き――そして。
「あ。質問っす。ネロ=ヴェアヴォルフという名に聞き覚えはあるっすか?」
「――なんだと? 誰だソレは。知らんな! 我らの名を騙るとは不敬な!」
「そうなんすか。まぁそれならいいっすよ――
無関係ならボクも他の者も心置きなく戦えるってもんっすから!」
レッドは。己らが知る人狼の名を紡ごうか。
だが『ここにいる』人狼らはネロの名を知らぬようであった。
それも当然か……ネロはほぼ天義にいた存在なのだから。
故。ぶちのめす。
何の気兼ねもなく。なんの心残りもなく。ただ邪悪なだけの狼など――気遣う必要無し!
「……貴方達はどうあっても、ナイトハルトさまの為に戦うのでしょう、か。
あるいは、滅びの意志の為に……? そんなものの為に、どうして……」
「貴様ら人間如きには分かるまい。ただ我らの為に死ね。
人の苦しみこそ。生きる事の寸断こそ、我らの魂の喜びなのだから――!」
同時。言の葉を繋いだのは……メイメイか。
どうしても問いたい事があったから問うた。彼らの意志はどこにあるのかと。
だが。終焉獣の一角である彼らには『滅び』や『死』しか根源にない。
他者を害する事こそが宿命なのだ。
だからネロは――
(消えようとしたのですね)
いつか人間と敵対してしまうかもしれないと分かっていたから。
……それなら。
「戦い、ます……! そこを、通して頂きます、よ……!」
もっと話してみたいとは思うけれど。
どうしても牙を向けて来るなら――応戦せざるを得ない。
メイメイは抗う。滅びと死の意志に。
……ナイトハルトさま。
長い永い年月を歩いてきた、世界を終わらせたい貴方を更に踏み越えて。
(わたし達は歩んでゆきます……! わたし達は、明日がほしいのです……!)
大切な者達との未来を紡いでいきたいから。
周囲の情勢を把握せんとしつつ、彼女は力を振るう。
ミニペリオンの群れで敵陣を薙いでいく。隙が出来れば新たなる術式でその点を穿とうか。
あぁ――
「全く……あのバカ狼、一体どこにいるのよ――!」
直後。大声と共に人狼を殴り飛ばしたのは鈴花だ。
彼女の脳裏にはやはりネロの姿が思い浮かぶ。あぁ……アンタが居なくなってから大きな犬見かけると目で追っちゃうし! たまに話しかけちゃって飼い主に変な顔されるし! もふもふしながら名前呟いたら更に変な目で見られるし! アンタのこと探し回――じゃなくて! 世界食べ歩きしてたらそれどころじゃない情勢だし! はっ? なによ……探してなんかいないわ!? いないっつってんでしょ!!
「まったく! もう! なんで、こんなに、もう!」
鈴花は暴れる。心の儘に。
世界が滅びる――? あぁそんなの、知らないわよ。
なんて、言えれば良かったんだけどね。
吐息零す。本音で言うとこのような死闘の最前線よりも、自分の里の方を護っていたかった。あちらの方は無事だろうか――? バグ・ホールが湧いていないだろうか――? 心残りはある。だけど。
だけど。なんかわかんないけど。
此処に来なきゃダメだって思ったのよ。
「だから来てやったわ」
なんか、人狼種もいるって聞いたし。もしかしたら――なんて。
しかし彼女の想いとは裏腹に、全く関係ない人狼らが襲い来る。呼んでないわよアンタラは! というかこいつら、どこにこんなにいたと言うのか。天義の方では滅ぼされたと聞いていたが、だから終焉の奥に眠ってたのか?
応戦の構え。ノアも押し込めているのだ。
もう少しでナイトハルトの所在も分かろう。
ここで勢いを止められる訳にはいかない――だから絶対に踏みとどまる!
練達のドローンや鉄帝の者。迷宮森林警備隊も構えを見せて……
と、その刹那。
「――――」
――なんだか聞いたことのある狼の遠吠えが。
どこかで聞こえた気がした。
成否
成功
状態異常
第1章 第7節
●
――同時刻。終焉の勢力を押し込まんと、戦い続ける者達がいた。
「夏子、敵は無数。波の様に至る悪意の群れだ――準備は良いか。」
「ヘイもちろんでさぁ大旦那~
なんのなんの。殺す気で来る獣なんて、もう何回何千回? も相手したし。
何時も通りね。ソレ以外だったら困っちゃったトコよ~ん」
その一角に在るがベネディクトに夏子だ。
世界の命運決す場へと馳せ参じる両名。狙うは首魁、よりも終焉なる獣達。
ベネディクトの言うように敵の数は膨大だ。
されど『だからどうした』と言うのだ。
両名は数多の戦場を駆け抜けてきた。ならば今更――
「人狼か何か知らんけど 黒狼の爪牙にかかりゃあよォ~
狼どころか木っ端にしかすぎませーんってねぇ~!」
「フッ、相変わらず良い仕事だ。夏子」
その連携を打ち崩せよう敵など、早々いる筈がないのだ。
夏子が強烈な音と共に薙ぎ、間髪入れずベネディクトが追撃。
黒狼の牙は全てを喰らおう。その槍撃たるや至高の衝撃を繰り出す――!
「貴様達には悪いが、そこは押し通らせて貰おう──是が非でも!」
「あ~あぁ~ウチの隊長は、ホントもう。まぁ~ねえー!
キツい仕事もソロソロ一区切り なぁ~んていきたいモンだがなぁ~!」
切り拓く。戦場の深奥へ、希望の芽を届かせるために。
拳突合せれば百万の言葉よりも確かなる――魂の繋がりを感じながら。
「レイテさん、行きましょう! この勢いに乗って押し込みます……!」
「分かったよ安藤さん! 少しでも長く、一体でも多くの終焉獣をこっちの方に……!」
更に共に進む姿は優にレイテらも同様であったか。レイテの支援を受け取りながら優は眼前に至る敵を討たんと立ち回る。ノアや、奥に座すナイトハルトへと味方の手が届くように。誰かの助けになる為に――往くのだ。
「一人では限界があっても。二人なら、超えられます……ッ!」
「敵を切り崩そうッ! 必ず限界点はある筈!」
優は踏み込む。レイテが己を庇ってくれているのだ――
そのおかげか彼に齎される被害は少なくなっている。
……ありがたい事だ。もしも己だけであったなら深い傷を負っていたかもしれぬ。
だからこそ、吼える。
天に。己の奥底から力を絞り出しながら――ッ!
同様にレイテも安藤に至らんとする撃を弾き落としながら、一瞬でも永く戦場に留まらんと動き続けるものだ。だがただ守勢に回っているだけではない。隙あらば終焉獣らの首を落とさんと、時には攻勢にも転じよう。
吸血鬼の力を身に纏えば戦場に流れる血が――彼の味方にもなるのだから!
「気持ちは理解できる――などと。平穏な時で言えば口に出す事も出来たかもしれんが。
……今の世界の有り様を認める訳にはいかん」
生温い事は言えんな、と言葉を零すはウォリアか。
彼はヴェアヴォルフを狙う。襲い来る狼の牙をあえて受け――代わりに拳を叩き込んでやろう。直後には五指を開きて、其処からは無数の光弾が放たれる。誰も逃さん――とばかりに絨毯爆撃だ。敵のみを貫きながら、彼は思考する。
――もしかすれば。彼は在りえた己自身の可能性ではないかと。
だからこそ。
「後輩として」
示すべきものがある。
決意秘めればウォリアの姿がより強靭なる姿へと至ろう。
炎纏い。傷を負うたびに迸る焔と共に歩んでいく。
それが彼の強さか。パンドラの加護により得た可能性の塊か。
全霊を此処に。彼は突き進もう――先達に、示すものがあるのだから。
「ナイトハルトパイセン! そういえば朝ごはんはちゃんと食べた?」
『勿論さ♪ 朝ごはんは日々の美肌の維持に必要不可欠だからね……♪
きちんとベーコンエッグあんみつ乗せを食べたよ……♪』
「うおー流石にゲテモノじゃね!? 流石パイセンだぜ!」
同時。ノアへと攻勢を仕掛けるは秋奈か。
相変わらずどこからかナイトハルトの声が聞こえてくる……ならテンションあがるってもんだぜー! うぉー! ねぇねぇノアち! ノアち!
「パイセンと同じでウチとズッ友でいてくれるかー?」
「――理解不能デス。私ハ、滅ビヲ、齎ス側」
「関係ねぇーぜ! 堅い事抜きにして、思いっきりはしゃいで遊ぼうぜ?」
膂力と剣撃交じり合う。よいちょー! ほあちょー!
秋奈は胸の高揚の儘に打ち合おうか――パンドラなんざしらねーぜという勢いで。
意思を。言の葉を交わせていく。世界が滅ぶ五秒前。ならしたいのをするのがいいさと!
「神託通りに世界を滅ぼしたら神は喜ぶと思うけどな、先輩」
『そうかな? 自らの死を望むものなんてどこにもいないだろうさ♪
それに世界の滅びを歓迎してるならイレギュラーズなんて存在してないさ……♪』
「それこそ『そうかな?』だよ――神を人の尺度で考えて理解できるのかな?」
直後、茄子子もまたノアと交戦を続ける。
ノアの、滅びのアークにより強化された膂力は脅威。
だが茄子子とて甘くない。挑発と引き付けに徹するならば――
「つれないなぁ、よそ見すんなよ。首折れっていうマスターからの命令でしょ?
――反するの? なるほど、キミの忠誠ってそんな感じなんだ。
あぁそれとも或いは単純に、性能不足なのかな? 程度が知れるね」
「――無礼ナ」
足止めなんて幾らでも出来るのだ。
口端に嘲笑の色も灯してやれば挑発として完璧だ。あ、ついでに首も指先で示してやろうか。
どうしたよ人形。かかってこい――絶望の災禍だのなんだの言われてたけれど。
「堕ちろ、方舟」
怒りの感情を抱くようじゃ、まだまだだね。
「砕けろ、方舟――こちらはお前の奥にいる者に用があるのだから」
「クッ――!」
そして。茄子子に気を取られた刹那をプリンが見逃さなかった。
高速の儘にノアへ接近。放つ一閃がノアの身を抉りて、その身を着実に損耗させていく。
魔力砲撃が偏っているこの瞬間にこそ好機とプリンは見据えたのだ。
――今、突破する。そうでなくてもノアに亀裂を刻む。
プリンの身にもまた、加護が纏われようか。それはまるで鎧の……いや。
『ダイヤの王』と言わんばかりの威風に溢れている。
兜の深奥に見える眼光がノアを捉えた、瞬間。手中に抱きし得物で一閃。
弾き飛ばさんばかりの勢いを叩き込んでやる。
「ナイトハルトよ、ここは突破させてもらうぞ。
どうにもあちらこちらに注意散漫の様だからな……ここは然して重要でもあるまい?
この人形も――知らぬ間に破壊されても、問題ないだろう?」
『いうねぇ。その子は僕の研究でも中々の傑作なんだ……♪
そう簡単に破壊出来ると思わない方がいいよ――これは善意のサービスだ♪』
「言葉が軽いな。どうでも良いのではないか? 本心では」
ノアの反撃。受けつつもプリンもまた止まらない。
ノア。お前の性能は高いかもしれんが、お前をどうこうできなくても。
それ自体は世界の滅びに繋がる訳でも無し。
「哀れだな」
その生が、と。言葉を零してやろうか。
剣撃。銃撃。爪と金属が衝突し合う金属音。
戦場の気配は未だ絶えず。生死の天秤はどちらに傾くか――
知れぬがしかし。死を降り注がせるかもしれぬナイトハルトの砲撃による被害は依然、騎兵隊の派手な動きのおかげで絞られつつあった。それは全体の生存の力に少なからず寄与している事だろう……
――だがそれは騎兵隊側への被害が増す事を意味している。
凄まじき衝撃。地を抉る神秘が天より降り注ぎて……
「――怯むな! 陣を崩すな!
私達がこのまま根から相手を食い尽くす!
天を恐れるな! 地に根差せ! 今一歩前へ――進み続けろ!」
だがそれでもイーリンは退かなかった。
彼女は戦う。周囲を鼓舞し。激励を絶やさず、常に道を抉じ開けんと奮戦している。
膨大な魔力は歴戦のイレギュラーズであろうと流石にその身を削る。誰も彼も無傷や軽傷で進める筈がない――迸る痛みは命を着実に削っていよう。しかし、そんな『些細』な事は彼女には……いや。騎兵隊というある種の生命体共には関係ない。
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! 遅参の分、暴れさせてもらうぞ!
道を開けろ! 聞かぬならば押し通る――三銭の用意は宜しいかッ!」
「このままどんどん攻めてこ。勢いが途絶える方が、よろしゅうない気がする。
――足元掬われんようにだけしとけばええかね」
続く影はエーレンに彩陽だ。味方と歩調を合わせながらも、前進の意志は止めぬ。
斬撃一閃。彼方に飛来させしエーレンの一撃が数多の終焉獣を切り裂いていく――幸か不幸か敵の数は多すぎるのだ。味方を巻き込まずに狙える箇所は山の様にある。ならば存分に暴れても問題なかろう、とエーレンは立ち回り。
同時に彩陽も広き視点を維持しながら敵を薙ぐ。
神秘の泥を。無数の糸を繰りて。
敵を孤立させんとするのだ――それが味方の優位になると信じて。
「こんな半端な獣で止められるつもりやったん?
――えらい見込み違いやったねせんぱい!」
「ぶははは! だが、どうにも『管理人』はまだ俺達を吹っ飛ばすことを諦めてねぇみたいだぜ――気ぃ付けろぉ! また空から降って来るぜェ!! ッ、ぅお、らぁ!!」
直後。彩陽らの動きに次いでゴリョウが前へと跳躍した。
それはやはり彼も前進の歩みを止めぬため……だけではない。
ナイトハルトの砲撃へ対処せんとする為だ。
聖盾。聖遺物たるが故――いや聖遺物であるという以上の、『友』たる者へ信頼を抱くゴリョウは砲撃に抗うに一寸の不安もない。どの道、直撃させる訳にはいかん以上『盾』を担う己がなんとかするしかないのであれば――ッ!
「こなくそがッ――! 管理人の野郎、後で一発ぶっ叩かせてもらうからな――!」
直撃コースの一閃を、斜めに受けて逸らさんとする!
然らば甚大なる衝撃がゴリョウの全身を襲おうか。
――それでも崩れぬ。それでも耐え仕切る。
あぁ終焉獣をやたらけしかけてくる、あのニヤケ面の恣意的な悪意に屈すものか!
直後、爆発音。地上に到達した魔力の奔流が行き場を失い炸裂したのか。
其処にいた終焉獣共らが吹き飛んでいく――そして。
「此処まで露骨に狙われるのも人気の秘訣ですかねぇ。だけど、『俺達』を落とせばいい、ってモンじゃねぇのは良い加減示してやらねえと、なぁ? ま、そもそもからして……『俺達』を簡単に落とせるなんて思うのが間違いだがな!」
「食いちぎってあげようかねぇ――油断しているその喉笛を」
「どけどけ~、騎兵隊のお通り、なのです!
騎兵隊を邪魔するなら、馬に蹴られて死んでしまえーなのです!」
砲撃途絶えし一瞬をカイトや武器商人、Lilyは見逃さない。
紡ぐ黒き雨。カイトの成す舞台演出がより深く敵陣へと食い込む一端となり。続け様にはLilyが突破口を開かんと彼方を掃射。無数の獣を弱らせ、更にはナイトハルトの下へ向かわんと武器商人が己に注意を引き付け――果てには蒼き槍を顕現しよう。
注意がこちらに向いているのなら大変結構! では、滅びたまえ。
射出する一閃が敵を薙ぐ。炎を纏うソレは正確に敵を穿とうか――
「ん、こっちを見てくれるならむしろ好都合。
私たちに気を取られた間に味方が進みやすくなる。
一気に吹き飛ばして突き進むよ」
「ははは、全く愉快なこった! 世界を滅ぼそうとする輩が、今やこっちに釘付けって事か? じゃあもっともっと――存分に暴れ回って、目を惹いてやらないとなぁ! おらおらおら! 騎兵隊が先駆け、赤備のお通りだぜ! 死にてぇ奴はどいつだ!!」
「ったく。重大な攻撃を一身に受けてなお突撃かますのは……相変わらずの騎兵隊ってところだな。『そう』だからこそ成しえたものがあるんだろうさ――なら、今更この流れに何か言うのは野暮ってもんだな」
だがまだだ。まだ止まらぬ。砲撃を繰り返すオニキスがより深く敵に傷を刻み。
エレンシアは大太刀振るいて終焉獣らを蹴散らしていく。
黒馬を駆る紅の軌跡が戦場をまるで両断するが如く――
その勢いを誰が止められようか。ましてや物言わぬ獣なんぞには!
然らばバクルドは吐息零しながらも、口端には笑みの色を灯して。
「行って来いジョーンズ。ぶちかましてこい――こっちは任せとけ」
「えぇ無論よ! 美咲、練達ドローンの援護がもうすぐ来るわ! 合わせて陣を引っ張って!」
「了解っす、イーリン」
バクルドは広き視点を抱きながら、的確に敵の横腹を穿とうか。
狙撃の一閃。正確に狙いて敵を潰し――
そして直後にはイーリンの声に呼応して美咲も動きを見せよう。
皆の動きを引っ張り上げるように。連鎖する動きをもってして機先を制すのだ。
……それにしても、始まりの旅人にして練達を作った人物、ねぇ。
「私が元の世界あまり好きじゃなかったこともあるんスけど、私は召喚されて良かったと思いまスよ。他の旅人の皆さんも、まぁそう思ってる人も結構いるんじゃないッスか?」
……まあ、練達で生活基盤整えられたからそう言えるだけなのかもしれませんけど。
美咲は瞼の裏に今までを想起しようか。
始原の旅人と何が違うか。それこそ歩んできた全てなのであろう、が。
己の歩んできた道のりに悔いる所はない。
騎兵隊の皆が往くのなら己も往こう。大柄なリトルワイバーンを駆りて。
時に治癒の術を。時に攻勢を。召喚前からの師の教えに忠実に沿いながら――!
だがそれでも、砲撃が集中して来れば全て凌げるわけではない。
二撃、三撃――爆発すら生じるソレは騎兵隊に少なからぬ損害を与えているのだ。
だが総大将たるイーリンは少なくとも、誰の命を散らす気も毛頭ない。
全員生還。それが絶対条件だ。
勝利の美酒を味わう者が欠けてはならぬ。
厳命せよ、魂に。宣誓せよ、魂に。
「あぁ――往こう。まだ往ける。騎兵隊はここに在り、だ」
「砲撃にもタイミングがある……このまま前線を押し込むよ!
必ず読める! 敵の攻撃は――こっちを阻める程、絶対じゃない!」
故、なれ、ば。シャルロッテは引き続き味方を生かすべく支援を続けるものだ。
騎兵隊の皆の活力を満たす号令を此処に。戦の加護を万全に。
決して防備が薄くならぬように彼女も力と知恵を振り絞ろう。
いざいざなれば自らも攻勢に転じるレギオンの一手を用いてでも。
同時にフォルトゥナリアも治癒の力を周囲に満たしていく。
その身は黒き竜の姿へと至りて、パンドラの加護を纏い昇華されている。
――されば卓越した技巧にはより磨きがかかるものだ。
一手で二度も三度も術を成す。挙げられし喊声が誰そ彼もの傷を癒し。
直後には――悪意の牙を振るわんとした獣へと反撃の一手も紡ごうか。三頭身のフォルトゥナリアが群れ出でる。それらも全て黒竜の姿であり……可愛らしいながらも強烈な力を伴って敵陣を食い破らんとしようか。
――されば。
「今だ……! 方向転換、本隊との挟撃を狙うんだッ!」
「敵もさるものですが――しかし、これは予測していましたか?」
終焉獣らの戦線に乱れが生じた事を即座に看破したシェンリーが声を張り上げた。
待っていたのだ『この時』を。
騎兵隊がただ只管前に進むだけの存在だと思ったか――? 否ッ!
突如の方向転換。Uターン気味に、敵の浮いた戦力を挟撃せんとしているのだ。
決まれば終焉獣らを多大に削る事が叶おう――無論それは本体側との連携が必須であるが、それはイーリンの知古でもあるエレノア……Drマギアが引き続き動いていた。騎兵隊という群としての力を徹底的に活かす為……既にドローンを動かしていたのである。連動して鉄帝軍人たちも動いてくれるだろう――然らば瑠璃もその動きに呼応。
打ち合わせの時間が十全にあったとはいえない、が。
「それでも。成します」
戦場とはいつだって万全ではないのだ。
準備不足なんて当たり前。その上で最善を尽くし、勝利を掴む。
――忍法瑞雲。瑠璃は空往く水蜘蛛の如き動きと共に往こうか。
敵が群で存在すれば、竜の使いし光魔術を振るう。敵を打ち滅ぼす光で照らし尽くさん。
……あぁそれにしてもナイトハルト。始原の旅人は、神様以上に。
(この世界も嫌いなのでしょうね。そうでなければ世界の滅びに加担はしないでしょう)
その心。理解できる部分もある――が。
『それはそれ』というものである。なにより自分は滅ぼされんとする側だ。
仮に理解はしても同調はすまいよ。まぁ……
「――神様の計画を覆す方向でしたら協力できたかもしれませんが、ね」
4年で閉じる方針の世界を6年超、持たせられた気もするので。
だがもうその道はあり得ぬ話なのだろう、と。彼女は敵を穿とう。敵は敵。そうでしかないのならば――鎮魂歌の代わりに、騎兵隊の喇叭による突撃行軍歌を十分に味わってもらう為に。えぇご存分にどうぞ――遠慮はいりませんよ?
されば前後から攻勢に晒される終焉獣らは壊滅していくものだ。
無論、これで終焉獣らを殲滅しきる訳ではないが――それでも一角を丸ごと削り落とせたのは大きい。数が膨大であったとしても戦線を再構築するのは手間が掛かろう。
「――今の遠吠え、まさか」
と、その時だ。雲雀は彼方へと視線を向けようか。
まさかね。などと零して、今は目の前に集中するが。
美咲らの行動に追随する形で更に他の者らの動きを連動させていく――
そうして齎すは炎の魔神の権能。全てを焼き尽くすばかりの術式を展開し……
「いるのかな、もしかして」
が。やはりどうしても気になってしまうものだ。
あの遠吠えはやはり、と。胸の奥底が何故か高揚する。
直感があるのだ。あの白き狼がいるのではと――優れた視力をもう一度向けて。
「なんでしょうか、今の狼の声は……敵? ……味方?」
「まさか……ネロさん……!?」
同時。同じく声を感じたのは、ニルにヨゾラか。
ニルは力を振り絞りながら……悲しくも、それでもノアも攻勢の一人に捉えながら。しかし微かに聞こえた声に疑問の感情を灯していた――誰か来たのだろうか、と。
「それでも今は……前へ……!」
前へ……!
ニルは奥歯を噛みしめ、術を紡ぐ。
敵の傷は抉るように魔術を放ち。味方の傷は治癒する癒しの力を。
誰も殺させないし、滅ぼさせたりなんかしない――!
『おねえちゃん』が力を貸してくれる気がするから。
「ニルは……ニルは……!」
胸の奥が軋みそうでも、戦えます……!
ニルの持つ杖が光り輝こうか。ふたつぶんの意志が、きっとここにあるのだ。
『おねえちゃん』が見守ってくれている――
そう思えば、どこからか力が沸き上がって来るようだ。
或いは……感じたのは、己の行く末を祝福してくれるような。
暖かな熱――だったろうか。
「ネロさん、もしかしているのかな……!?
ネロさんとまた会う為にも、一緒に戦う為にも……何が何でも勝つんだよ!
その為にも……君達には容赦出来ない! 僕にとっての人狼は――ネロさんだけだ!」
そしてヨゾラはある種の確信と共に前を向く。
もしも彼がいるのなら。無様な所なんて見せられない……!
人狼達へと力を紡ぐ。道が拓かれればノアも押し込もう!
「君がどんな存在だろうと、僕には希望も望みもある……だから、絶対に勝つ!」
「そうっすよ! ここまで来たら――真っ向勝負でぶち抜いてやるっす!」
続け様にはレッドもパンドラの加護を纏いてノアへ拮抗する。
その姿は禍々しくも力強い。骨と泡の如き肉を纏う化生の類――
だが可能性の塊であるに違いはない。力を増し、ノアを追い詰めんとする――!
如何に強力な個体であろうが、此処まで多くの者らの追撃があった。
然らばノアにも疲弊は確実に蓄積してるものであり……
「オ……ノレ……!!」
遂にノアが後退を始める。
意図してのものか。本能的なものか。
二歩、三歩――下がっているのだ。
行ける。このままであれば間もなく打ち倒せる――
……が。その時、レッドは思考の片隅に想うものだ。
まさに今ってぇ世界の危機でぇ。
しかも『痛み』を多く感じられる事もできる戰場であり。
ていうか放置してたらどーせ世界は纏めて滅びるとかいうこの事態にー?
「あのドMが性癖かもしれない竜はなにをしてるんっすかねーー?!!」
レッドは吼える。天に向かって。
どこぞの果てにでも――届く様に。
そろそろ来てくれてもいいんっすよ? クワルバルツ!!
成否
成功
状態異常
第1章 第8節
●
「――やれやれ。本当に優秀な後輩達だねぇ」
刹那。声がした――ナイトハルトの声だ。
しかし。今までの、ノアを介した念話越しの声ではない。
どこかにいる――ッ!
「いたぞ、あそこだ!」
「まだ遠いけど……見えたね、姿が!」
終焉獣らを打ちのめしているゲルツにアウレオナが気付いた。
指差した先。大量の終焉獣を従える形で彼の存在を確認出来ようか――
しかし。『それら』だけではなかった。
「えっ、あれは――ベヒーモス?! まさか、たしか、あれはファルカウ様の所に……」
治癒の力を周囲に紡ぐメレスが驚愕の声色を挙げる――そう。
ナイトハルトの背後には巨大なる『ベヒーモス』が存在していたのだ。
だがあり得ない。アレは『古代の魔女』ファルカウの方で確認されていると聞く。
此処にいる筈がないのだ。ソレはファルカウが座す戦場にいる。
或いはベヒーモスが二体いた、というなら話は別かもしれないが……んっ?
いや。よく見ると姿は似ているが、微妙に違う気配を感じ得る。まさか、あれは。
「おぉ気付いた子もいるかな? ご明察♪ R.O.Oのデータから復元した個体だよ。
ホラ、僕はこの前練達に遊びに行っただろう? あの時ちょろっとね――♪」
「――データ侵入されていた?! 馬鹿な! そんな形跡は……!」
「ふむ……あの襲撃。実の所の本命はソレだった――と言う事なのかな?」
「まさか。君達が来れないようにするのが本命だったに決まってるだろ?
まぁ僕も色々考えて前から行動している、と言うだけさ♪」
操にマッドハッターが即座に解析の術を走らせようか。
ナイトハルトの言が正しいのであれば――それは現実に存在しうるベヒーモスではない。
R.O.Oの騒乱時に暴れ果てたベヒーモスのコピーだ。サルベージされたのだろうか。
アレは当時のイレギュラーズの活躍によって完全に打ち倒された筈だが……
想像を形と成したというのか?
本来あり得ぬモノをこの世に顕現せしめたというのか?
……いやいくら何でも情報ゼロでそんな事が出来る筈がない。ベヒーモスという本物があちら側の勢力にいた事に加えて――もしかするとナイトハルト自身、R.O.Oの騒動における混乱期に情報収集目的で裏でこっそりと行動していたのかもしれぬ。
彼自身もイレギュラーズという括りであり。
練達の始祖者であれば不可能ではないかもしれない――
真相はともあれ。現実として巨大なる存在が、新たなる脅威が其処にいるのだけは確かだ。
「なんでもやってみるものさ。探求し、想像し、実践する――
その重要性を君達だって分かってる筈だけどねぇ……♪
――ヴィッター。コイツの操作は任せるよ。
連中を押しのければ後は君の自由にしていい」
「あぁ分かった。こちらも準備は万全だ――引き込んだ連中を殲滅しよう」
直後。ベヒーモスの傍からは銃撃の雨あられも襲来しようか。
それはナイトハルトに協力する旅人――ヴィッター・ハルトマン。
彼自身は世界の滅びに対してナイトハルト程執着していないが。
イレギュラーズに敵対する理由がある人物だ。
故に世界を救わんとする連中を阻むべく銃撃を放とう。
この日の為に新調しておいた銃は彼方まで飛来――敵対者を正確に穿つ。
……ナイトハルトがヴィッターに操作を委ねたのは、流石にベヒーモスまで細かな指揮をしている余裕がないからだろうか。どうであれ現在の戦場の流れはナイトハルトにとって想定の範囲内ではあった。
ノアを押し込まんとした所で突出して来た者らにベヒーモスを襲来させる――
まぁ尤もノアの防備を初めから突破させてやろう、などと画策していた訳ではない。イレギュラーズの攻勢が甘くノアを突破できないのならそれがナイトハルトにとっての最善であったのだから。
しかし――ナイトハルトもまたイレギュラーズを舐めてなどいない。
きっと彼らなら終焉獣らを。そして自慢のノアを突破しうるだろうと信じていた。
だからこそ駄目押しの一手を秘匿していたのだ。
初めからベヒーモスの姿を晒していたら早々に踏み込んで来ようとはしなかったろう?
「悪いが、勝たせてもらうよ。神を殴る為にもね」
ベヒーモスが天に向かって吼えようか。
巨体より迸るソレは衝撃すら伴いて、戦意を奪わんとする力を秘めている。
士気が落ちれば終焉獣の波に呑まれよう。あぁ――
これでチェック・メイトだ。などと、彼は想った事だろう。
――だが。
もしもこの場において。ナイトハルトに想定しえない誤算があったとするのなら。
イレギュラーズが彼の『想像以上に』『世界を探求し』『世界を救う実践をしてきた』事だろう。
「――何? なんだ?」
刹那。ベヒーモスに――
強大な『力』が襲来した。ソレは。
「おこがましいぞ人間如きが。誰の許しを経て世界を蹂躙しているか」
「姉御―! 飛ぶの早い、速いですって! 待って――!!」
竜だ。空舞う影は二つ。
一つは『薄明竜』クワルバルツ。かつて練達を襲い、イレギュラーズにも敵対した六竜が一角だ……もう一つはそのクワルバルツを慕う『金剛竜』アユア。両名ともにその戦意を――終焉側へと向けている。
「やっと来たんすか、クワルバルツ! 呼んだら来てくれるなんて案外やってみるもんすね!」
「もしかして貴様。己が呼んだから来た、などと不敬な事は思っていないだろうな。
私は気が向いたから来ただけだ――まぁ覇竜の折の借りもあるしな」
言を紡ぐはレッドだ。期待はしたが、本当に来るとは、と。
先述の通りクワルバルツは人類と敵対した事がある。それはかつて存在した冠位、ベルゼーの思惑もあっての事だが……しかし紆余曲折の末に覇竜での騒乱では最終的に協力して事に当たった。
故に、此度も人の側に立たんとやってきたのである。
睨みつけるはベヒーモスと、そして……
「竜如きが僕に勝てるとでも?
いい加減竜が頂点者であるような態度は止めときなって……♪
永い時を怠惰に生きてきた君達には進歩がない。
歩まぬ生なんて死と同義さ♪
僕は――」
「やかましい。ごちゃごちゃと御託を弄すな。
私が言いたい事はただ一つ――
お 前 が 死 ね ッ !」
首魁たるナイトハルトも、だ。クワルバルツが紡ぐ重力の権能が空を歪ませる――
だが直後、ベヒーモスが再起動した。再現存在とはいえ流石のベヒーモス……
竜の攻撃と言えども一撃で消し飛ばす事は叶わぬか。
――激突する。竜と終焉の獣が。
互いに紡ぐ激しい攻防は衝撃波すら伴おうか。
「アユア、煩わしい砲撃はお前に任せた! ――耐えろ!」
「えええ!? 姉御、これを受け止めろと!?
ええぃ! 人間――! お前らも早くなんとかしないと後で食うからな――!!」
然らばナイトハルトが度々放っていた魔力の奔流がクワルバルツ達も襲う。
故。クワルバルツはアユアに命じた。『止めろ』と。
金剛流と謳われるアユアは若い竜ながらも防に関しては優秀以上だ。
故に『止めろ』と……やや抗議したいアユアであった、が。やむなくナイトハルトの砲撃を止めんと立ち回る――結果としてそれはイレギュラーズ達への支援ともなっているだろう。なにせアユアが止めれば当然、地上への着弾も少なくなるのだから。
「ヴィッター。そっちは全て任せる、始末してくれ。
ノア。イレギュラーズを通すな、そのまま防備を継続。
終焉獣の軍勢はまだまだ山ほどいるんだ。人狼共も特攻させて……何?」
と、その時だ。ベヒーモスによる圧し潰す作戦は上手く行かなくても。竜という想定外の戦力を抑える事が叶えばまだ戦況はこちらに有利だろうとナイトハルトは踏んでいた――のだが。
戦線の様子がおかしい。
特に戦力として配置していた人狼……ヴェアヴォルフ達が何か……
――瞬間。聞こえた狼の遠吠え。
なんだ? ヴェアヴォルフ達の誰かが哭いたのか――?
それはある意味では正しく、ある意味では間違った推測であった。
――戦場を切り裂くように高速で移動する『何か』が至る。
それは白き者。それは本来、命尽きる筈だった者。
かつて。イレギュラーズ達と共に戦った者――
「やはり、生きていてくれたのですね――ネロさん」
「――あぁ。君達のおかげでな」
グリーフは感じた。グリーフは見た。
その魂の煌めき。天義での戦いの折で確かに傍にあった者……
ネロ=ヴェアヴォルフ。終焉獣でありながら人を救わんとする者――!
「ネロ、さま! やはり……!」
「アンタ、今まで何処にいたのよバカ!!」
「――蕩けたと思った。実際に、意識はなかった。
あの状態をなんと言っていいか分からん。生と死の狭間にあったのだろうか……
この世のどこかにいたのかも全く分からん――
だがこの身が滅びを根差す者だからだろうか。
『最悪の滅び』の接近に伴って、魂が鼓動したのだ」
メイメイや鈴花も言を紡ごうか――
ネロ。本当に生きていたとは。いや彼の言から推察するならば……もしも状況に変動が無ければ彼が現れる事はなかっただろう。もしかすれば永遠に。だが唯一無二にして強大を超えた絶対の『終焉』……『Case-D』の襲来によって終焉獣である彼の魂が強制的に呼び起された、と思われる。世界中を混乱に陥れている事象の戯れとも言えようか。正に、奇跡だ。
ただ、その折に本来の終焉獣として世界の滅びを齎す側に立たなかったのは……
「きっと君達が……私の平穏を願ってくれたおかげだ」
数多の者が奇跡を願ったから。パンドラの可能性の結果かもしれない。
「だがナイトハルトだったか……奴は終焉獣を操る力を有しているようだ。
あまり近くに寄れば私もどうなるか分からん。
あくまで出来るのは露払いが精々だ――」
「十分以上です。再び共に戦いましょう。ただ、剣の力は使いませんように」
グリーフは紡ぐ。あぁ彼はやはりパンドラを持っていない存在だと……
正気は保てている様だが、それもナイトハルトなどの干渉がなければだろう。
いつまで無事でいられるか。無茶はさせられない――
だが。滅びに抗う立場として。
再び共に戦える。
――それが何よりも喜びであったのだろうか。
もう一度戦いましょう。もう一度成しましょう奇跡を。
世界を、救いましょう。
「我、バビロンの断罪者。世界を救わんとする者の友なり……! 共に滅びに抗わんッ――!」
※戦況が更新されました! 以下の敵戦力、味方戦力が到来しています!
●選択肢追加
【3】『【ナイトハルト】への攻勢』が追加されました!
ナイトハルト・セフィロトの姿が見えました。彼に対する攻勢や干渉を行う事が可能です――ただし、現時点ではナイトハルトの周囲には護衛戦力が多い為、この選択肢を選ぶと危険が生じる可能性が高いです。(要は重傷になる可能性や、パンドラ損耗が多い場合があります)
●『敵戦力』情報更新
・ベヒーモス(R.O.Oタイプ):現実に存在するベヒーモス……ではなくR.O.O当時の戦闘データからサルベージされた存在です。しかし非常に強大な存在であるのは間違いありません。滅びを齎す――その化身が一角です。ただ襲来した竜をまずは狙わんとしているようです。
・ヴィッター・ハルトマン:ベヒーモスを指揮しながらイレギュラーズ達へと銃撃を仕掛けてきます。彼を撃破出来るとベヒーモスの動きが乱れる可能性があります。
・ノア:イレギュラーズの度重なる攻勢によって疲弊が見えています。しかしナイトハルトによって弄られており命尽きた瞬間、大量の滅びのアークを世界に放出する機能が存在していると思われます。その際、近くにいるとイレギュラーズのパンドラが大量に減少する可能性が解析されています。
・ナイトハルト・セフィロト:遂に姿が見えました。追加された選択肢【3】で彼への干渉を行う事が可能です――が、現状はまだ大量の終焉獣に護られる位置に存在している為【3】の選択肢を選ぶ場合はパンドラ損耗などの被害が大きくなることが想定されます。【1】や【2】で敵戦力を減らしていると、また状況が変動するかもしれません。
●『味方戦力』情報更新
・『薄明竜』クワルバルツ:ベヒーモスに攻撃を仕掛けます。イレギュラーズともある程度歩調を合わせる気はあるようです。
・『金剛竜』アユア:ベヒーモスに攻撃を仕掛けます。が、どちらかと言うとナイトハルトの放つ砲撃に対応する様です。(※ナイトハルトの砲撃による被害が減少する場合があります)
・『バビロンの断罪者』ネロ=ヴェアヴォルフ:終焉獣やノアに攻勢を仕掛けます。特に同類であるヴェアヴォルフらへと攻勢を仕掛けるつもりのようです。ただしナイトハルトに近付き過ぎると操られる危険があるので、奥には進めない様です。
成否
成功
GMコメント
●成功条件
ナイトハルト・セフィロトの撃破。
●フィールド
『影の領域』と呼ばれる地です。
周囲には『終わり』の気配が溢れている、不穏なる地です。
しかしこの地を突破し終わりを跳ね除けねばなりません――!
第一章時点の状況では大量に存在する終焉獣や、それらを率いている中核である『ノア』らへの攻勢が重要となりそうです。
ナイトハルトは攻撃できるような位置には姿は見えません。ただし、向こうは貴方達を見ているかもしれません……
●『パンドラ』の加護
このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。
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●敵戦力
●『始原の旅人』ナイトハルト・セフィロト
始まりの旅人を名乗るイレギュラーズです。
永き時を研鑽し続けた彼の実力は脅威の一言。五指に嵌めている指輪からは強大なる神秘を感じえます。『皆が混沌法則レベル1に縛られるなら。ヨーイドンで実力の伸びが始まるなら。イレギュラーズの中では僕がナンバーワンだ』とは彼の言。
彼は個人的な『神』への恨みによりイノリ側に与しています。
彼がイノリを裏切る事は絶対にありえません。
つまり撃破する以外に道はないでしょう。
第一章時点ではおよそ攻撃出来ない位置にいます。
が、彼はなんらかの手段を用意していたのか、巨大な魔力の奔流による攻撃を仕掛けてくる事がある様です。
ランダムに攻撃が降り注いでくる事があります。ご注意を!(毎ターン必ずといった頻度ではない様です)
●ノア
ナイトハルトに忠実なる存在です。
恐らくプーレルジールでの技術などを応用して作られたナイトハルトの『駒』だと思われます。なにやら特別な出来らしく、非常に強力な力と『何か』を内包しているようです。
ナイトハルトの命に従い、イレギュラーズ達を殺さんと最前線で戦います。
具体的な戦闘力には不明な所がありますが強い滅びのアークを身に纏っているようで、彼女の一撃を受けると『通常よりもパンドラ消費が激しい』場合があります。(必ずではありません。
●終焉獣『ヴェアヴォルフ』
人の身になりすまし人を喰らう『人狼種』と呼ばれる終焉獣です。
尤も、世界の終わりを感知してか元なる姿である巨狼の姿を隠そうともしません。卓越した身体能力の牙と爪で皆さんに襲い掛かってきます。
●終焉獣×無数
様々な姿を持っている終焉獣達が無数に存在しています。
ヴェアヴォルフ程強くはないようですが多彩な攻撃手段で襲い掛かって来る事でしょう。
●???
仔細は不明ですが、潜んでいる敵戦力や増援として訪れる戦力がいる可能性が考えられます。
(シナリオ進行に伴って開示されます)
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●味方戦力
●練達ドローン×多数
練達への襲撃を跳ね除けた事によって、練達の動きは妨げられませんでした。かの地から大量のドローン増援が送られ続けています。耐久力は左程でもありませんが、常に飛翔し素早い動きをしながら、遠距離射撃を行う事が可能です。皆さんの攻勢の支援を常に行います。時には身を挺して皆さんを庇ったりする事もあるでしょう。
●鉄帝国軍人×多数
鉄帝からの増援です。ドローン程数は多くありませんが、一人一人の能力は遥かに上です。
果敢に敵に立ち向かい皆さんの援護も行う事でしょう。
●迷宮森林警備隊×複数
深緑からの増援です。優れた弓の使い手たちのようで、鉄帝軍人ほど多くはありませんが、精密な射撃で皆さんを援護します。
●味方NPC陣
以下、参戦しているNPCを記述します。
他、関係者を指定する事も可能です。
いずれの場合も攻勢や治癒、支援などを皆さんに対して行います。
マッドハッター(主に周囲に対し、戦闘支援の加護を齎します)
佐伯 操(主にドローンなどの指揮を行い、皆さんに的確な支援を行います)
ファン・シンロン(マッドハッターなどの護衛をしつつ皆さんにも援護を行います)
ゲルツ・ゲブラー(主に射撃援護を行います)
アウレオナ・アリーアル(主に近接戦闘による援護を行います)
メレス・エフィル(主に周囲に対し、治癒支援を行います)
ギルオス・ホリス(OPでは登場しましたが、今はいません。何かしようとしているようです)
●???
現時点では不明ですが、増援が訪れる可能性があります。
(シナリオ進行に伴って開示されます)
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●備考
本シナリオにおいては状況の変化により『敵戦力』の増加や『味方戦力』の増加が行われる場合があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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●第一章目標
・敵最前線の突破(ノアや終焉獣を押しのけ、ナイトハルトに接近してください)
行動方針
以下の選択肢の中から行動する方針を選択して下さい。
【1】攻勢方針
敵勢力に対し、攻撃や攪乱などなどなんらかの攻勢を仕掛ける方針の方はこちらをお選び下さい。
【2】支援方針
敵勢力に向かう面々に支援などを行う事を主としたい方は、こちらをお選びください。
【3】【ナイトハルト】への攻勢
ナイトハルト・セフィロトの姿が見えました。彼に対する攻勢や干渉を行う事が可能です。
また敵戦力『ノア』の脱落により、ナイトハルト周辺の防衛戦力(終焉獣)に乱れが生じています。
つまり第二章時点までよりも、ある程度危険性は減っています。ただそれでもナイトハルトに近付くと危険はあります――ご注意を!
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