PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>始まりのレクイエム

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●始まりのレクイエム
 君達はどれ程の道を歩んできた?
 今までこの世界で、どれ程の者達と意志を交え。
 今までこの世界で、どれ程の死闘を繰り広げてきた事だろう。

 その歩みに、どれ程の価値があった?

 この世界は救われるべきか?
 それほど価値のある世界か?
 ――少なくとも僕はそう思わない。

「この世界は――神は勝手がすぎる」

 ナイトハルト・セフィロトは自らを『始原の旅人』と名乗る。
 だがそれは誤り――いや正確ではない、と言うべきか。
 真なる『始原』は彼の『妹』だった。
 この世界の神に呼ばれた兄と妹。
 ほぼ同時だったが、恐らくタッチの差で妹の方が先だった。
 ……旅人は全てイレギュラーズだ。であれば彼女もまた、世界を救う可能性を秘めた者だった、が。しかし――彼女はつまらない事で死んだ。ありふれた死の一つ。定命であればいつか迎える結末の一つ。
 だがそんな事、納得できるか。
「神が呼ばなければ迎えた結末はきっと別のモノだったはずだ」
 この世界に呼ばれた者は『混沌法則』に縛られる。
 元々力強き者にとっては力を奪い取られるに等しい、この世のシステムだ。
 ――ナイトハルトはその影響を甚大に受けている。
 混沌法則に縛られなければ。きっと己は妹を救えた。
 こんな世界に呼ばれていなければ。きっと、きっと。
 この世を、この世のシステムを越えなければ。
 それが練達の始祖たる者の夢。
 この世を壊す。この世の神を殺す。
 ただそれだけを夢に生きてきた。

 最初期は只管に己を鍛え上げた。神に奪われた力を取り戻す為に。
 続けては足りぬ時を稼ぐために神の目を誤魔化す研究に没頭した。
 百年程度では時が足りぬ。届かぬ天に指を掛けるだけでも永き時が必要だったから。
 混沌法則にもなにがしかの隙と穴がある筈だと。そう信じて。
 中期に至りては憤怒と嘆きの最中にあったか。
 どれ程の研究をもってしても。どれ程の研鑽を得ようとも、届く目算至らぬから。

 ……あぁその折だっただろうか。
 彼に。イノリに会ったのは。
 永き旅の中で。半ばやけっぱちになって終焉の地へと赴いた際に。
 僕は彼に会ったんだ。
 そして僕は彼に『共感』した。
 彼の目的を知った時に。彼の見ている先を知った時に。
 だから僕は希望の可能性を秘めたイレギュラーズでありながら、彼に与する。
「さて。皆もそろそろ始めている所かな?」
 ナイトハルトは瞼を閉じよう。その裏に想起するは、己と立場を共にする者達。
 ファルカウ。ドゥマ。ヴェラムデリクト。ステラ。オーグロブ。ホムラミヤ。
 皆もまた、それぞれの理由があってこそイノリやマリアベルに与している。
 然らばナイトハルトは――なんとなし苦笑するものだ。
 本来僕はこっち側ではないのだろうけど。なんの因果か、全く。
「マスター」
「――あぁノア。丁度いいタイミングだね。うんうん。
 敵がやってくる。僕の愛しい後輩達だ。
 きっと彼らは全力で。全霊で立ち向かってくるだろう――
 抱きしめたいけれど、そういう訳にはいかない。
 全部殺してくれるかな?」
「承知シマシタ。オノゾミノ、ママニ。ソレガ望ミデ、アルナラ。
 コノ身全テヲモッテ、敵ハ全テ――通シマセン」
「うんうんいい子だ。頼んだよノア。流石は僕の傑作だ」
 と、その時だ。ナイトハルトの傍に現れたのは……まるで人形が如き存在。
 『ノア』と名付けられたソレはナイトハルトの忠実なる僕。
 方舟の名を冠し。しかし滅びを内包する『特別な』人形。
 プーレルジールで得た研究成果で作り上げた滅びのアークの結晶――
 彼女の髪を撫ぜてやりながら最前線へと送り込む指示を出そうか。
 ……誉める口調ながら、なんともわざとらしい様な色を端に含んでいるが。
「あ。それと彼は……ヴィッターはどうした? 見かけたかい?」
「ハイ。先程、ナニヤラ武器ヲ手入レシテイタ、ヨウデス」
「そうかそうか。彼も本気でやる気だね――ふふふ。
 我欲に満ちてる子達は本当にかわいいものだ。応援したくなる。
 何がどうなるにせよこれが最後だ。皆、満足するまでやるといい」
 同時。ナイトハルトはもう一人の協力者の顔を想起しようか。
 ナイトハルトに協力する『旅人』がいるのだ。まぁそれはナイトハルトの思想に共感している訳ではなく、あるイレギュラーズに固執しているが故だが……それもまた良し。ナイトハルトにとっては欲の儘に動く者は実に好ましいのだから。
 邪魔にならないのなら存分に動くがいい、と。告げようか。
 あぁ。
 僕は、どれ程歩んできたのだろう。
 世界なんぞ救ってやるかと憤り。
 その心を隠し。笑みの色を常に顔と言の葉に張り付けながら。
 僕は、どれ程歩んできたのだろう。
 だがそれも遂に終わる。
 神よ。滅びの時だ。あぁ――

 ――終焉の時は来たれり。


 終焉の地。『影の領域』とも呼ばれる場には『終わり』の気配が溢れていた。
 イレギュラーズ達は今まで何度と破滅的な気配に立ち向かって来た……七罪らの大規模な活動などその顕著たるものだろう。他にも海洋王国での戦い――滅海竜リヴァイアサンという神威に対しても絶望的な気配を感じえたか。
 が。終焉の地より零れ出でている気配は、また異質なものだ。
 世界自体が哭いている。
 敵が強大だから――とてつもない権能の気配があるから――
 そういう類とは違うものだ。
「さてさて。特異運命座標(アリス)、いよいよこの時が来てしまったようだね。
 元よりいつかはやってくる、とされていたものだが」
「こんな時でも飄々とした口調は変わらんな……危機感、という概念は知っているか?」
「まァまァ。これでも現状認識は出来ているでしょウ――恐らくの話ですガ」
 言の葉を紡ぐのは練達の三塔主の内の一人、マッドハッターか。傍には同じく佐伯 操やファン・シンロンの姿もあった。
 練達といえば先日Bad end 8が一角に襲撃を受けたばかりだ――しかしイレギュラーズの奮闘により辛くも敵の目論見は砕かれ、こうして終焉の地に増援を送る事が叶う余力を維持出来た。むしろ練達に開かれたワームホールを利用して逆侵攻を計画も出来たか。
 世界の終わりを感じればこそ余力を取っておく意味などない。
 先に開かれたフォルデルマン三世主催の会談の結果で――世界各国の歩みも揃っているのだ。持ちうる限りの全てをもって此処へ至っている。マッドハッター達が珍しくも此処にいるのはそういう事の一環であり……
「そして無論、来ているのは私だけではないようだね」
「――鉄帝国も支援しよう。どいつもこいつも、こんな緊急事態にむしろやる気を出している連中が多すぎて困……いや、臆するよりは遥かにマシだが、うむ……」
「さー頑張ろうね! どこを見ても敵だらけなら、全部斬ればいいって事だよね!」
 更には練達勢のみならず鉄帝国の者の姿も見えようか。
 それはゲルツ・ゲブラー (p3n000131)やアウレオナ・アリーアル (p3n000298)だ。その背後には最終闘争に闘志を燃やす鉄帝国軍人やラド・バウ闘士の姿もある――戦う事が本懐とする者達の瞳に恐れの感情は見られない。
 ゲルツは自国の相変わらずな様相に吐息を零すものだが。
 しかし世界的な終わりに恐怖する者も多い中、彼らの気概は実に頼りになるものである。
 今、この時戦わねば、全てが終わってしまうのだ。
 脚が竦んで動けない場合ではない。
 少なくとも戦える者にとっては……!
「し、深緑も加勢します……出来る事を、少しでも……!」
「――ありがたい。今回ばかりは、イレギュラーズ達だけでなんとかなるとは限らないからね。確認されている限りでも敵の数が多すぎる……それに、潜んでいる連中もいそうだ」
 それに勇気を振り絞りこの地に来ている者もいるのだ。それが深緑に住まう民であるメレス・エフィル (p3n000132)――駆けつけてきた迷宮森林警備隊と共に、かつてザントマン事件の折に救われた恩義を返しに来た。
 怖い。恐怖はある。だけど、今この時、助けてくれた皆を助けられなくてどうするのか。
 メレスは奥歯を噛みしめながら眼前を見据える――
 さすればローレットの情報屋として奔走していたギルオス・ホリス (p3n000016)はメレスらに感謝の意を伝えながら……しかし警告の声も走らせる。
 この場における最大の脅威はナイトハルト・セフィロト。
 彼を妥当しない限りこの戦場を抜く事は叶わないだろう――
 しかし。敵は確実に『彼だけ』ではないのだ。
「ギルオスさん……うん。私も感じる。きっと『あの人』もいる」
「全部ぶちのめしてはみせるけどね。やっぱり最後はハッピーエンドでないと!」
 その予感を感じているのはハリエット(p3p009025)か。ナイトハルトに与している、かつての知古の顔を彼女は思い浮かべる。彼もまたいる筈だ。ナイトハルトの近くか、そこまでは分からないが……
 しかしどうであれハッピーエンドはもぎ取ってみせる、と。同じく郷田 京(p3p009529)もギルオスに語り掛けようか。あらゆる戦いが今まであったが、きっとこれが最終決戦ならば――死力の尽くし所なのだから。
「ハリエット、京。あぁ……そうだね。そうだ二人共、あとでちょっと僕と一緒に来てくれるかい。僕はちょっと更なる増援というか――色々と声を掛けたい所があるんだ」
 ただ。彼女達を万一にも死なせたくないギルオスは未だ思考を巡らせている。
 この場には多くの者が訪れてきてくれているが。
 その中核は国家に関係している者が多い。
 まだ潜在的に味方になってくれる者達はいる筈だからと――そして。
「パイセーンにがさんぞ――!! うおー! いるでしょ、返事ぃ!!」
「――彼との決戦ですね。プーレルジールからの縁ですが、ここが終息地ですか」
「……どれ程、あなたが神を憎もうと、混沌はわたしの、大切は場所……!
 これ以上壊させたりなんか、絶対、しません……!!」
 その時。声を張り上げたのは茶屋ヶ坂 戦神 秋奈であり。
 グリーフ・ロスやメイメイ・ルーの姿も戦場に見えようか。
 ナイトハルトと幾度も邂逅した彼女らにはそれぞれの理由があり彼と相対する。更には。
「わたしたちは、終わらせない為に来たわよ。ナイトハルト」
 強き願いを瞳に宿し、メリーノ・アリテンシアも彼方を見据えようか。
 止めてみせる、その願いはと彼女は心に抱きながら。
 決着を付けるのだと――
 あぁ。
 君達は、この世界に必要とされている。
 外なる世界より訪れた者も。この世界にいて選ばれた者も。
 皆等しく、世界の希望なのだ。
 頼む。
 この世界を救ってくれ。

 滅びに立ち向かえる英雄達よ――君達の可能性だけが、明日を切り拓けるのだ!

GMコメント

●成功条件
 ナイトハルト・セフィロトの撃破。

●フィールド
 『影の領域』と呼ばれる地です。
 周囲には『終わり』の気配が溢れている、不穏なる地です。
 しかしこの地を突破し終わりを跳ね除けねばなりません――!

 第一章時点の状況では大量に存在する終焉獣や、それらを率いている中核である『ノア』らへの攻勢が重要となりそうです。
 ナイトハルトは攻撃できるような位置には姿は見えません。ただし、向こうは貴方達を見ているかもしれません……

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

////////////////////////
●敵戦力
●『始原の旅人』ナイトハルト・セフィロト
 始まりの旅人を名乗るイレギュラーズです。
 永き時を研鑽し続けた彼の実力は脅威の一言。五指に嵌めている指輪からは強大なる神秘を感じえます。『皆が混沌法則レベル1に縛られるなら。ヨーイドンで実力の伸びが始まるなら。イレギュラーズの中では僕がナンバーワンだ』とは彼の言。
 彼は個人的な『神』への恨みによりイノリ側に与しています。
 彼がイノリを裏切る事は絶対にありえません。
 つまり撃破する以外に道はないでしょう。

 第一章時点ではおよそ攻撃出来ない位置にいます。
 が、彼はなんらかの手段を用意していたのか、巨大な魔力の奔流による攻撃を仕掛けてくる事がある様です。
 ランダムに攻撃が降り注いでくる事があります。ご注意を!(毎ターン必ずといった頻度ではない様です)

●ノア
 ナイトハルトに忠実なる存在です。
 恐らくプーレルジールでの技術などを応用して作られたナイトハルトの『駒』だと思われます。なにやら特別な出来らしく、非常に強力な力と『何か』を内包しているようです。
 ナイトハルトの命に従い、イレギュラーズ達を殺さんと最前線で戦います。
 具体的な戦闘力には不明な所がありますが強い滅びのアークを身に纏っているようで、彼女の一撃を受けると『通常よりもパンドラ消費が激しい』場合があります。(必ずではありません。

●終焉獣『ヴェアヴォルフ』
 人の身になりすまし人を喰らう『人狼種』と呼ばれる終焉獣です。
 尤も、世界の終わりを感知してか元なる姿である巨狼の姿を隠そうともしません。卓越した身体能力の牙と爪で皆さんに襲い掛かってきます。

●終焉獣×無数
 様々な姿を持っている終焉獣達が無数に存在しています。
 ヴェアヴォルフ程強くはないようですが多彩な攻撃手段で襲い掛かって来る事でしょう。

●???
 仔細は不明ですが、潜んでいる敵戦力や増援として訪れる戦力がいる可能性が考えられます。
(シナリオ進行に伴って開示されます)

////////////////////////
●味方戦力
●練達ドローン×多数
 練達への襲撃を跳ね除けた事によって、練達の動きは妨げられませんでした。かの地から大量のドローン増援が送られ続けています。耐久力は左程でもありませんが、常に飛翔し素早い動きをしながら、遠距離射撃を行う事が可能です。皆さんの攻勢の支援を常に行います。時には身を挺して皆さんを庇ったりする事もあるでしょう。

●鉄帝国軍人×多数
 鉄帝からの増援です。ドローン程数は多くありませんが、一人一人の能力は遥かに上です。
 果敢に敵に立ち向かい皆さんの援護も行う事でしょう。

●迷宮森林警備隊×複数
 深緑からの増援です。優れた弓の使い手たちのようで、鉄帝軍人ほど多くはありませんが、精密な射撃で皆さんを援護します。

●味方NPC陣
 以下、参戦しているNPCを記述します。
 他、関係者を指定する事も可能です。
 いずれの場合も攻勢や治癒、支援などを皆さんに対して行います。

 マッドハッター(主に周囲に対し、戦闘支援の加護を齎します)
 佐伯 操(主にドローンなどの指揮を行い、皆さんに的確な支援を行います)
 ファン・シンロン(マッドハッターなどの護衛をしつつ皆さんにも援護を行います)

 ゲルツ・ゲブラー(主に射撃援護を行います)
 アウレオナ・アリーアル(主に近接戦闘による援護を行います)

 メレス・エフィル(主に周囲に対し、治癒支援を行います)
 ギルオス・ホリス(OPでは登場しましたが、今はいません。何かしようとしているようです)

●???
 現時点では不明ですが、増援が訪れる可能性があります。
(シナリオ進行に伴って開示されます)

////////////////////////

●備考
 本シナリオにおいては状況の変化により『敵戦力』の増加や『味方戦力』の増加が行われる場合があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

////////////////////////

●第一章目標
 ・敵最前線の突破(ノアや終焉獣を押しのけ、ナイトハルトに接近してください)


行動方針
 以下の選択肢の中から行動する方針を選択して下さい。

【1】攻勢方針
 敵勢力に対し、攻撃や攪乱などなどなんらかの攻勢を仕掛ける方針の方はこちらをお選び下さい。

【2】支援方針
 敵勢力に向かう面々に支援などを行う事を主としたい方は、こちらをお選びください。

【3】【ナイトハルト】への攻勢
 ナイトハルト・セフィロトの姿が見えました。彼に対する攻勢や干渉を行う事が可能です。
 また敵戦力『ノア』の脱落により、ナイトハルト周辺の防衛戦力(終焉獣)に乱れが生じています。
 つまり第二章時点までよりも、ある程度危険性は減っています。ただそれでもナイトハルトに近付くと危険はあります――ご注意を!

  • <終焉のクロニクル>始まりのレクイエムLv:50以上完了
  • こんにちは、世界。さようなら、世界。
  • GM名茶零四
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2024年05月16日 20時50分
  • 章数3章
  • 総採用数230人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

「――なんだと?」

 ナイトハルトは感じ得る。戦場の変化を。
 ベヒーモスが押されている。いやそればかりか、何か一瞬動きが変だったような。
 ヴィッターが何かミスったかな――?
 竜である存在も訪れているのだ。歴戦たるイレギュラーズも大勢いるのだ。
 一手の間違いが致命になるだろうに――
 全く困った男だなぁ♪ まぁいい。
「そうはいかないためにノアを用意していたんだ。ノア――おや?」
 と。最前線の防衛中核を担っていた、己が人形ノア……が。
 反応が、ない――?
 おかしい。どういう事だ? なんらか戦闘出来なくなった時点で、滅びのアークを撒き散らす自爆を行うようにしていた筈なのに。そうなるようにプーレルジールという大舞台を実験場にしていたというのに。
 何か不測の事態があって失敗したというのか――?
 馬鹿な。
 いやそればかりではない。
 他の戦場の気配も――散っている気がする。
 ドゥマもヴェラムデリクトもホムラミヤも――
 まさか。ファルカウも落ちたというのか。
 ――すごい。

「流石だ……流石じゃあないかイレギュラーズ♪ ハハハハハ――!」

 だがナイトハルトの心中は歯ぎしりするような口惜しさと。
 同時に歓喜に振るえる高揚感に満ち溢れていた――
 ナイトハルトはBad end 8の中において唯一の旅人(ウォーカー)だ。
 本来であれば滅びの側に立たぬ者。
 だからこそ終焉が阻まれているという現状に喜びの感情も抱ける……いや厳密には終焉が阻まれている事、というよりも現在のイレギュラーズを全て『自らの後輩』と愛するが為の、彼らの活躍に対してと言えようか。
 あれだけの数の終焉獣を用意して。
 ROOデータからサルベージしたベヒーモスも用意して。
 プーレルジールでの研究を元に作り上げた爆弾も用意したのに。
 それでも君達は突破しうるというのか!
 多くの者が協力して! 世界中が一致団結しうる地盤を作った!
「どこか一つでも仕損じていれば、今の流れは大きく変わっていただろうに」
「あらぁ? どうしたの、ナイトハルト。追い詰められてるのに、元気そうね」
「原初の旅人。わたしも旅人としての立場に思う所はあるけれど……しかし!」
「てめぇの好きなようにはさせてやれねーんだよ!」
 ナイトハルトに相対するは彼への攻勢を果敢に仕掛けていた者達の一部――メリーノ・アリテンシア(p3p010217)やセレナ・夜月(p3p010688)、紅花 牡丹(p3p010983)の姿であったか。メリーノが話したい事があるからと送り出した面々。
 傍にはマリエッタ・エーレイン(p3p010534)や水天宮 妙見子(p3p010644)の姿もある。
 周囲の終焉獣を跳ね除け、時に治癒の力を展開し――
 ナイトハルトに抗しようというのか。
「ナイトハルト……私達の大先輩、原初の旅人。
 先程『妹』さんの件に問いかけた時、激しく憤っていましたね。
 やはり貴方にとっての全ては『妹』さんですか」
「そうさ。あの子が失われたのが僕の始まり。
 ――そしてその後でイノリに出会った事が僕の立場を決定づけたのかな」
「イノリ……影の城にいる、首魁ですか」
 マリエッタと妙見子の言。ナイトハルトは笑みと共に応えようか。
 繰り返すがナイトハルトは旅人だ。イレギュラーズと同様の立場。
 だがナイトハルトが鞍替えする事はありえない。
 ずっとずっと神を憎んでいた。ずっとずっと滅ぼす為に行動していた。
 なにより僕は君達なんかより先に。
 イノリに出会ってしまった。
 妹であるざんげ愛する――彼に。

「あぁ」

 偶然だったのかな。恐らく初めての旅人が兄妹であったのは。
 偶然だったのかな。それとも正に神の悪戯であったか――
 まぁ、いい。
 もういいんだ。
 どうでもいいんだ!

 さぁ決着を付けよう。世界を救う愛し子達――

「僕は――ちょっと強いぞぉ?」


 ※最終局面に移行します! 以下の変化が生じています!

●第三章目標
『ナイトハルト』の撃破

●『敵戦力』情報更新
・ベヒーモス:ヴィッターの指揮によるミスと、イレギュラーズの大攻勢。クワルバルツの攻撃により明らかに損耗しています――! しかし巨体から繰り出される一撃は未だ脅威でしょう。最後までご注意を!
・ヴィッター:非常に大きな負傷を負い、ナイトハルト側へと後退しているようです。ナイトハルトの傍で最後の防戦を行わんとしています。

・ナイトハルト:【1】【3】いずれでも攻撃を仕掛ける事が可能です。終焉獣が存在していますが、最前線を担っていたノアが脱落した事により、終焉獣の統制が乱れています。その為、妨害してくる終焉獣の数が減りつつあるようです――ただしナイトハルト自身は強力な力を宿しています。彼への攻撃はやはり危険が伴います、ご注意を!

●砲撃について
 第一章からナイトハルトは各地に砲撃を展開していましたが、この砲撃に関してはかなり消極的になっています。
 自身の傍における戦闘に魔力を集中させている様です。
 つまりランダムに生じていたダメージ(『騎兵隊』の行動により、途中から騎兵隊を中心に狙っていましたが)はほぼ失くりました。ただしナイトハルトへの攻勢が少なければ再開されるかもしれません――後は、ご武運を!


第3章 第2節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)
シュレーディンガーの男の娘
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
雨紅(p3p008287)
愛星
一条 夢心地(p3p008344)
殿
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾
安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ


 衝撃音。
 遂に佳境へ至る戦局は、最大にして最後の意思のぶつかり合いに至るか――
 どちらが戦いを制するのか。それは無論、この場における首魁たるナイトハルトを倒せるか否かが要……故にこそ終焉獣達はイレギュラーズらの攻勢を阻まんとベヒーモスと共に終焉の悪意として立ちはだかる――!
「勝利まであと少しです。全力で押し切りましょう――
 こういう荒事にこそ鉄帝国の力の見せ所。
 単純な殴り合いにおいて比類する国が無い所――見せてやります」
「ぉぉお!! イレギュラーズに続け! 戦える奴は力を振るえ――!」
 言を紡ぐはオリーブだ。鉄帝国の中でも有数の名声を宿す彼と戦えるとなれば士気が上がる鉄帝国の者は数多に。戦いによって疲弊は大きいが、最後の余力を絞り上げ敵へ立ち向かわんとする。
 そう――誰も彼もが死力を尽くしているのだ。
 勝利の為に。成すべき明日の為に。ならば。
「自分も負けていられません」
 オリーブは往く。終焉獣の群れを乗り越え、ベヒーモスへと。
 連撃成してその身を削るのだ――踏み込む一歩は大げさなまでの大跳躍。
 ベヒーモスの巨大なる足を回避しつつ全身全霊の一撃を、此処に!
「……ノアは止めました、次はあなた。
 その命。あくまで再現にして虚ろであろうと……
 これ以上、その魂に罪は背負わせません――」
 続け様には雨紅もまたベヒーモスの下へと向かおうか。
 奴は、ヴィッターの指揮のミスにより動き乱れる様子があるが、それでもただ動くだけですら脅威たる威力を秘めている。故に雨紅は一片の油断もせず――卓越した動きと共に奴の一撃を回避しながら接近しよう。
 ベヒーモス。滅びの道具としてこの世に顕現させられた存在よ――
「たとえこの身が、罪を重ねたものだとしても。
 この武器が、誰かを傷つける罪と共にあるとしても」
 今の私は。この世界を――愛しているのだから。
「滅ぼさせない為に、私は私の意思で、この槍を振るいましょう!
 誰かに使われる道具の一端ではなく、此処に存在しうる『私』として!!」
『――――!!』
 確かなる決意と共に刃を振るう。迷いなく、直断しうる斬撃をベヒーモスへと。
 声高に叫びながら。慈しむ心の奥底から、吼えながら!
「『大いなるもの』は始末してきた。もう少し働きに来たよ。
 とんでもないモノがこっちにもいるみたいだけど……もう少し、かな?」
「でーおーくれーたー!! けれどまだ辛うじて間に合ったかしらね!
 なら――あのでかいのを盛大に狙うとしましょうか。加減は不要よね!」
 更にはモカやAliceもまた攻勢を畳みかけるように。
 周囲の仲間と共に動きを連動させながら戦おう。幸いにしてベヒーモスはデカすぎる――つまり攻撃を当てる事に関しては容易なのだ。Aliceは只管連打するように魔術を紡ごう。彼女の思考の中で昇華される混沌魔術は虚無を帯びベヒーモスへと襲来し。モカも奴を穿つ点を見据えたかのように、的確たる一撃を叩き込む。
 が、無茶はしない。ベヒーモスが嘆きと共に彼女らを払わんとすれば、警戒と共に備えようか。
「――世界は守らねばならんし、力の限り護るつもりはある、が」
 それでも。モカにはあるのだ。
 『この先』の世界でやりたい事が。
 生き残る意思がある故にこそ――こんな存在如きに命などくれてはやれぬ。
「ふぅむ……わしも、皆の背中を押すくらいはしようかのう。
 行きなさい、後悔しないように。
 生きなさい、満足しうるように」
「……失うのは、かなしい、もの。ニルはそんなの、いやですから」
 さすればそんな皆へと治癒の力を注ぐのが潮やニルであったか。終焉獣らの牙によっても傷つく者はいる。だからこそ命を繋ぐ為に潮はそういった者達を即座に癒すのだ。やりたい事をさせてやる為に。この身を賭して彼らの道を繋がんとする。
 そしてニルも失いたくないからこそ、力を振り絞るのだ。
 大切な人や場所を無くすのは、悲しい。
 ……分かっている。胸の奥で軋む何かが、きっとそうなのだと。
 だからこそ己は此処にいるのだ。
「いけます、まだまだ……『おねえちゃん』……!」
 ありったけの魔力を注ぐ。治癒だけに非ず、攻勢に転じて。
 狙うは滅びを齎さんとする全てへと。その魂全てを穿ち貫く神秘を、顕現す!
 湧き上がる魔力はきっとニルだけのモノではないのだ。
 おねえちゃんのアメジスト。
 テアドールのベスビアナイト。
 ニルのシトリン……
 それら全てが煌めいている。共鳴するように。救う意志に呼応するかのように。
 故に、ニルは。指輪に口付け。杖を構えて、まっすぐ前を見据えて――
 叩きつけてやろう。
 想い出を。皆を壊そうとする輩に『いや』だという意志を!
『――■、■■■、■■■■■■■■――!!』
 ベヒーモスが雄たけびを挙げる。それは積み重なる痛みが無視できぬ領域に至っているが故か。腕を振るい、足で払うような動作にてイレギュラーズ達を押しのけんとしている。
「世界を滅ぼす悪意に看守が負ける訳ないでしょうが! 悪意を外に出さないために私達はいるのよ……さぁ、とっとと御帰り願おうかしら! 永遠に出てこれない場所に――閉じ込め直してあげるわ!」
 だがそれでも、それでも――決して攻撃が途絶えぬのだ。
 今この時を逃す意は無いとセチアは撃を紡ぐ。いよいよ大詰めのこの段階で体制を立て直させたりなどするものか。全力で攻撃を重ねベヒーモスを仕留めんとする……が。
 あぁ。この場には深緑で縁を繋いだクェイスは、いない。
 でも。
(――貴方はこの先で待っていてくれてるんでしょう?)
 なんとなく、そんな『確信』があるのだ。
 それは彼女の身に纏っている彼の加護もまた――影響しているのかもしれない。だから。
「蘇った滅びの象徴よ、在るべき所へ還りなさい!
 此処は……貴方が居て良い世界ではないわ!」
 告げよう。滅びしか齎さない存在など決して許さないと。
 クェイスが帰ってこれるこれる場所を護る為にも、彼女は全霊を賭すのだ。
「見ろよ、さっきからバランスを保つのも一苦労って感じだ。
 限界が近いみたいだな……! いよいよ正念場ッ!
 よぉし、百合草、フラーゴラ、もういっちょ気合入れてくぜ!」
「うん――! 瑠々さん行こう! 世界が滅んじゃったら意味がない……
 私達の決着を付ける為にも、明日を切り拓くんだ……!」
「あぁ。望まれた泰平はきっとすぐそこだ……!」
 そして零とフラーゴラは引き続き瑠々と共に戦場に立ち続けるものだ。
 敵の反撃の猛攻に対しフラーゴラは治癒の力を紡ぎ続けよう。瑠々も終焉獣らを打ちのめしつつ、旗を掲げ周囲に加護を降り注ぐ――同時。フラーゴラが思考するのは……『泰平』への想いについて、だ。
 手段や結果は違えども。決して共に進めぬ一線はあったが――
 それでも偲雪さんも願ったのは平和だったと思う。
 願いは同じだったのだ。
 ならばこそ戦える。ならばこそ滅びに対し、同じ方向を向いて歩ける!
 そう信じればこそ湧く力はまるで無限の如く。
「行くぜ――そろそろぶっ倒れろよ、テメェはなぁ!!」
 更に零はフラーゴラからの治癒を受け取りながらベヒーモスへと吼えるものだ。
 巨体であるが故にこそ弱点となる箇所も大きかろう。力の限り斬りつけてやる!
 一閃、二閃。あぁこの一時が、微かに惜しい。
 ……可能であれば犠牲なく全員で生きて、また同じく笑い合いたいのだ。
 世迷言だと思われようと――あぁ。
 ただ、願うだけなら。なんの罪もあるまい。
 もしもこれから全部の決着がついて。もしも世界が存続出来たら……
「また会おうぜ、百合草。パンなりなんなり奢るからよ」
「――全く。パン以外に何かないのか?」
「ハハ。それが俺だからな」
 楽しい未来を考えるぐらい、良いだろ?
 0でないのなら。何を想ったって――良い筈だ。

「逃さない……! ヴィッターを此処で堕とすよ! あそこだ、見つけた!」
「頼んだぞ、レイテ!! 安藤!!
 武蔵も共に往こう、ここを逃せば再び敵は体制を立て直すかもしれない……勝負所だ!!」
「ええ、共に戦いましょう、武蔵さん!
 レイテさんの大切な仲間なのであれば……ぼくにとっても仲間ですッ!
 決着まで駆け抜けましょう。あと一息、あと一歩を!」

 と、その時だ。ベヒーモスへトドメを刺さんと攻勢が最高点に達さんとしていると同時――レイテ、優、武蔵の三名は後退するヴィッターの姿を捉えていた。奴さえ崩し切ればベヒーモスの動きは完全に乱れ、趨勢を手にすることが叶うだろう。
 故に逃さぬ。
 レイテが盾役としてヴィッターからの射撃に抗し、武蔵と安藤が踏み込むのだ。
 終焉獣らが妨害しに来るが――その程度何のことがあろうか!
「さっさと退場して頂きたい! 悪たる演者は、舞台からの降り時を見誤らぬ事です!」
「僕の終わりは僕が決める。お前達如きに命をくれてやれるものか……!」
 優は終焉獣共を纏めて呑み込む形でヴィッターにも撃を放つ。
 それは黒き粘液状の生物の召喚だ。奴を押し留めんとする意志が底なし沼の様に顕現する。とにかく一歩でも進ませまいと。己に注意を向けんとして……直後には武蔵の一撃も続こうか。武蔵の射撃、例えヴィッターが彼方に逃げようとも飛来する砲撃。
「外したと、思ったか? ――甘いッ!」
「くっ――! なんてしつこい連中だ……!」
 ヴィッターの脚を止める為に降り注がせ続けよう。
 終焉獣共が守らんとするならば先の優と同様に纏めて吹き飛ばしてやる。
 時にはレイテも防から攻へと転じるものだ。集まりし敵を炎によって焼き尽くす。
「さぁ次はどいつかな……! 死にたいなら掛かっておいでよ!」
 あくまで盾としての役目を忘れるつもりはないが。攻撃を遮断する守護の術式がある間であれば、武蔵らに自分諸共敵を撃ってもらう手はあるのだ。限られた戦況の中でもやれる事を全て尽くして――勝利を目指さん。
 三者の猛攻たるや凄まじいものであった。その勢い、正に三つの鉾が如く。
 ヴィッターがほぼ進めぬ。終焉獣らの加勢も左程の影響もない程に。
 そうしてヴィッターの後退を遅延させていれ、ば。
「貴方の恨みは、世界を天秤にかけるほどの恨みだったですか?
 世界を滅ぼしてでも、成し遂げない、ことがあるのですか?」
 とうとうメイ達もヴィッターを捉えた。
 メイは、言う。生きるとは楽しい事ばかりではないのだと。
 生きていれば何かを憎んだり恨んだりする事も……
 消えてしまいたくなる時だって、ある。
 けど!
「生きているなら、生きている限り、進まないといけないのです……!
 それを邪魔しようと、するのなら、メイは……ゆるしません!
 メイは、明日を迎えようとする人たちの護り手です!」
「――黙れ!」
 ヴィッターが怒の感情を発露しながら引き金を絞り上げる、が。既にヴィッターとの交戦によって彼の射撃を見極めていたメイは、物理攻撃を遮断する術を張り巡らせておいた。万一の事を考えギルオスやイラスにも至らせれば万全である。
 誰一人倒させやしないと――メイは力を紡ごう。
 ヴィッターの行動を許す訳にはいかないのだ。だから――
「もう一度ベヒーモスを操らせる訳にもいかない。
 連携はもうここまでだ。ここで……終わってもらう」
 メイの治癒を受け取りつつ飛呂もまたヴィッターへと接近しよう。確実にヴィッターの動きを縛らんと彼は着実にヴィッターへと撃を成す。彼は負傷しているのだ。同じような攻撃を繰り返したとて、見切る余力があるかどうか。
「えぇい――どうして誰も彼もがやってくる。君達に一体」
「何の繋がりがあるかって?」
 ……俺はただ、故郷を、俺の帰りたい場所を守りたいし。
 帰りたい場所があるって人がいるなら、手伝いたいってだけ。
 ――それがそんなにおかしい事だろうか?
「帰りたい場所ってのはさ、土地とか世界だけじゃない」
 『人』だったりもするんだろう。
 ……ナイトハルトはそういうのを持ってない人だったり、或いは。
 失った人だったんだろうな、って思う。
 それは悲しいし、寂しいよな。でも。
「俺だけじゃない、きっと皆も帰りたい場所があるんだ。
 だからさせる訳にはいかない。乗り越えさせてもらうよ――」
「そうよ。言ったでしょ、させねーって。
 アタシが殺すって決めたんだから、アンタは死ぬんだよ。ここで一人、冷たくね」
「ぐ、ぅッ――!」
 直後。数多のイレギュラーズの攻撃によって意識が前面へと集中したヴィッターの横っ面を殴り飛ばしたのは――京だ。逃がさないつってんでしょーが。
 彼が銃撃で反撃してこようが今更そんなものに臆す彼女なものか。
 固めた五指はまるで鉄、いやそれ以上の金剛が如く。
 再度撃ち抜く。確かなる意志と共に……
 あのね。ワタシね、彼を諦めた訳じゃないの。
 だから。
「あなたは本当に邪魔」
「なんだと――?」
「あなたがどう動こうがね、もしも万が一彼が死んだら――」
 ワタシのチャンスがなくなるでしょ? 分かる?
 色仕掛けでも既成事実でもなんでもいいが紡ぎたい未来があるのだから――いや待ってくれ京、既成事実というのは――などという『彼』の声が聞こえてきたがするが本心なので関係ないし問題ない。それよりも、ヴィッターは仕留める。
 絶対に逃がさない。絶対に殺す。
 不安要素はここで終わりだ。仮にヴィッターが強引な逃亡を見せようと、備えもある。
 極限の殺意。京の猛攻がヴィッターの脚を完全に止めて……
「つまり――ええ。流石にお判りでしょう?
 ここから先は、ヒロインの舞台です。我々端役は、ここで退場だ」
「――ヴィッターさん。これで、最後だ」
「お、のれ……ハリ、エット……ッ!!」
 そして終焉に属した彼に『終わり』が至る。
 寛治が紡ぐ射撃が完全に彼の逃げ道を塞ごう。ベヒーモスや終焉獣などを撃ち抜く一撃を与え。そして直後には――因縁ありしハリエットも姿を見せる。
 その瞳に宿りし感情は、決意だ。
「私は貴方の命を背負う」
 そして。
「今まで犯した罪と貴方を殺した罪を背負って、これからも生きていく。
 ……灯をくれた人と共に。過去は変えられないけれど。それでも――
 この先は。その人に恥じない生き方をするんだ」
「欺瞞だ。背負うなんて、罪から逃れようとする者の都合のいいワードなだけだ」
「それでも。『そう』だと決めるのは、貴方じゃないんだ」
 例えヴィッターが何を言おうと心が惑わされる事はない。
 ……生きるためになんでもやった。殺人と自身を売ること以外はほぼ何でも。
 この手が汚れてないなんて決して言えない。けれど。

 ――君は他人を信頼したくないのか、それとも信頼できるなら信頼したいのか。

 あの時くれた言葉が、私の始まりだったんだから。
 前を向いて生きていく。
「幸せになんてさせるか――ハリエット!」
「――ッ!」
「どこ狙ってんのよ――アンタは、最後まで!!」
 だから動く。
 その言葉をくれた人を護るために。
 ヴィッター最後の足掻き。ならばと狙うはギルオスだ。
 傍にはイラスがいる。援護せんとヴィッターの動きに目を光らせている寛治もいる。メイの注いだ守護の術式もある。更には傍にいる京が狙いに勘付いてヴィッターの首筋へ蹴撃を繰り出さんとしているか――だからその一撃が彼の命を奪う事が出来る可能性は低い。だけどハリエットにとってはそんなの関係ない。
 護りたいと思うから護るんだ。
 射撃音。その音色はほぼ同時に鳴り響きて。
 一つはハリエットの肩を抉る。
 そしてもう一つは――
「――」
 ヴィッターの額に吸い込まれた。
 鮮血迸る。それは命を奪った、正にその証左。
 だけど。生きていくと、決めたのだから。
「ハリエット! なんて無茶を……! 君が死んだら、僕は」
「――ギルオス、さん」
 駆け寄って来る姿があった。肩を負傷し、倒れようとした彼女を支えるギルオス。
 暖かな手の平が、包み込む。
 あぁ。
 混沌に来てから随分経ったけど。時を重ねて、貴方に恋する気持ちを教えて貰った。
 いや、恋よりもっと大きくて、温かい。
 きっと、これは愛情。

 ――愛してるんだ。

「……さて。メインを邪魔する端役が退場――は良いとして。しかし雑音が満ちますね」
 直後。ベヒーモスの暴走が一段と激しくなった。
 見据えるは寛治だ。ヴィッターを喪い制御が外れたが故か?
 いや――それだけではない。むしろ度重なる攻勢に伴った最後の断末魔のように感じ得る。限界が近いのだと。ならば、と。
「しぶとい奴じゃの。しかしそろそろ限界であろう。
 然らば見るが良い。麿が真髄……超夢心地技を……」
 追撃するように至るは夢心地だ。練りに練り上げた御殿様ゲージは既に最終段階にまで至っている――ならば今こそ解き放つ時。ワイバーンを駆りながら飛翔せしめ、急降下。超速の儘に振るわれるソレは究極にして絶対奥義ッ!
 ――シン・シャイニング・夢心地・アルティメット斬!!
 輝いて! 煌めいて! ときめいて!
「ぬぉぉぉおおおりゃぁぁぁああああああああああッ!!!」
 夢心地の全霊が刀に宿る。眩いばかりの光が発せられればまるで太陽が如し。
 ベヒーモスを両断せんと――斬撃煌めく。
 奴の右頭頂部付近から左腰へと掛けて一閃。軌跡がまるで光の如く描かれ……
 さればベヒーモスの身が大きく揺らぐ。あと一歩――!
「よし、一気に押し切ろう! ベヒーモスさえ倒せればこっちのものだよ!」
「然り。だが手負いの獣の最後の足掻きを食らう訳にはいかん。
 速度は緩めぬからな――落ちるなよ」
「勿論! そこは任せて!」
 故。スティアは、この一瞬を正念場と見据える。
 クワルバルツの背に騎乗せし彼女は戦場を駆け巡りながら加護を齎し続けていた。治癒を。活力を満たす術式を。数多を用いて彼女はイレギュラーズ達の援護を成さんとする――
 同時に想うのは。カロル・ロゥーロルゥーの事だ。
 本物の方は竜と共にあったと聞く。彼女も遥か過去、こんな景色を眺めたのだろうか。
 竜の背より眺める地平は遥か彼方まで捉えられるが如し。
 ……偉大な聖女に肩を並べられたかは分からない、けれど。
「聖女と理由が力を合わせて勝てない敵なんているはずもないよ!
 ――ベヒーモスを倒そう。滅びの化身を倒して、人と竜の可能性を……見せるんだ!」
「そうだよクワルバルツちゃん! 相手が世界のなんだろうと、関係ない。
 私達は生きている。私達は此処に確かにいるんだって事を証明してみせよう!」
「むっ。おい、お前までいつのまに私に……!」
 刹那。スティア以外の声がしたと思えば、サクラではないか! まぁまぁいいじゃん! という形で乗せてもらい機を窺っていたのだ。ベヒーモスに隙が出来る瞬間を。そしてその時は来た……!
「細かい事はともかくクワルバルツちゃん、ベヒーモスの直上に移動して貰ってもいいかな!? そうしたら後は思いっきり叩き落して! 大丈夫、生き残ってみせるから!」
「注文の多い輩だな――! 死んだら自らを恨……せめて話を聞けェッ!!」
 重力の力を用いてベヒーモスへと撃を叩き込み続けるクワルバルツ。
 であれば、その周囲では非常に強い重力による奔流があるものだ――
 サクラはソレをあえて利用する。恐れなく地上方向へと向かって、跳躍。
 ――神速の勢いで跳び降りたのである。
 返事もろくに聞かず、しかし信じているからと。
 往く。ベヒーモスが悪あがきの如く巨大なる腕を振るってくるが。
 知った事か。
「お祖父様、力を貸して……!」
 紡がれた想いがあるのだ。こんな存在に断ち切らせなどしない――!
 腕が振るわれれば、その腕を逆に足場にしてやり、更なる跳躍と成せば。
「これが私達の! 人と竜の絆の一撃だぁ――!!」
 斬撃一閃。斬りこんだ。
 先程夢心地が斬りつけた方向とは逆の左側から斜めに。さればベヒーモスに刻まれるのはまるで――十字の刻みが如く。罰を与えし斬撃が……

 滅びの象徴たるベヒーモスを打ち倒そう。

 ――消えていく。R.O.Oデータよりサルベージされた存在であるベヒーモスは、まるで砂の如く。外殻より徐々にその形を保てなくなっていく。仕舞にはその巨体が地上へと倒れ込もうか。
 されば終焉獣達が幾らか下敷きになるものだ。
 衝撃波。後ろに倒れ込んだが故にこそ、イレギュラーズ達には左程の被害はなく。
 逆に終焉の側には多くの被害を齎す――滅びの化身の筈がなんたる皮肉であろうか。
 そして。眼下に生じる混乱をネロは見逃さない。
 終焉獣。人狼――それらを打ち倒し最後の道を作らんとして。
「ネロさん、大丈夫? ナイトハルトからの干渉があったら言ってね……!」
「大丈夫だヨゾラ。この距離ならば……そして今奴に加えられている攻勢を想えば、今私に干渉している余裕はないだろう。だがやはりこれ以上奥に進むのは難しいがな――すまんな」
「謝る事はないよ! あと少し、絶対に気を抜かないで……このまま行こう!」
 刹那。ネロに続く形ヨゾラと祝音は攻撃に加わっていた。ヨゾラはネロの身に異変が生じないか常に警戒もしながら、終焉獣らへと再び星空の魔力を紡ぎ続ける。彼を決して操らせたりなどしない……!
 そして祝音は治癒術によって皆の攻勢を助けよう。
 本当の所はナイトハルトに攻撃しに行きたい想いはある。
 だが――それ以上に誰かが操られたり、倒れたりするのは嫌だから。
「僕はここで、僕に出来る事をします、みゃー!!」
 力の限り振るおう。パンドラの加護を身に纏い、力を得ながら。
 同時。思考するのは……ナイトハルトの事も、だ。
 妹さんの事が彼の戦う理由だと聞いているが。
(どの位覚えてる? 妹さんの事……)
 僕らはその人の名前も知らない。きっとナイトハルトの想い出の中にあるのだろう。
 話したい事があるのなら。話したい人にだけでも話した方が良い。
 死んだらお話も自由に出来なくなっちゃうって――分かってるでしょ?
「ナイトハルトに、届くかな……!」
「ヨゾラ、私の事は気にするな。君は君の本懐を果たしに行きたまえ!」
「――うん、ごめんねネロさん。行ってくるよ!」
 同時。ヨゾラは視線の彼方、ナイトハルトがいるであろう地を見据える。
 全ての不安を潰す為にはやはりナイトハルトを倒す他ないのだ。
 だから、往く。
「それに一回位は……とっておき、見せておきたくてね!」
「おやぁ? ベヒーモスを完全に倒したのかい?
 それぐらいで調子に乗るのは早いよぉ――♪」
 パンドラの加護を纏いつつナイトハルトへと撃を叩き込む。
 光り輝くそれは星を纏ったが如く。破壊の意思を携えた撃で――ぶん殴る!
 遂にナイトハルトの下に集結する者も多くなる中。
 ネロの動きに続くのは鈴花もであったか。
 どうしようもなく心が熱くなるのは、生死かける程ひりつく戦いのせいか。
 それとも――
(隣にアンタがいるからかしら)
 並んで突き進んで、時には背中を預けて。そんなのがどうしようもなく心地良い。
「ねぇ、今度約束してよ」
「――何を?」
「オススメの店があるのよ」
 一緒に。練達の美味しいスイーツの店に行く事。
 似合う服を一緒に選ぶ事。街を巡って一杯楽しむ――
 そんな『また今度』の話をする事を。
「……ふっ練達か。行った事のない場所だ」
「いい場所よ。来るわよね?」
「ああ――そうだな。行こう」
 『また今度』が必ず来ると信じているから。
「ええ行きましょう――ええ! ネロ、一緒に行くわよ!」
 刹那。鈴花の胸中に過った思いは何だったか。
 この気持ちがなんなのかは分からない。だけど、なんとなくあったかいのだ。
 もっと知りたくて。もっと触りたくて。湿気た――悲しい顔をしてほしくなくて。
 そんでもってアタシがぎゃんぎゃん騒げば。
 困ったように笑う顔を見たいのよ。
 そう思えばこそ、かつてない程に己が奥底から力が湧き出でる。
 五指を固めた拳に力が宿ろう。あぁネロ――
 約束した。約束したのだから、今度こそ共に行こう、最後まで。

 未来を掴むのだと!

成否

成功

状態異常
Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)[重傷]
シュレーディンガーの男の娘
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
ハリエット(p3p009025)[重傷]
暖かな記憶
レイテ・コロン(p3p011010)[重傷]
武蔵を護る盾

第3章 第3節

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
ノルン・アレスト(p3p008817)
願い護る小さな盾
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手
陰房・一嘉(p3p010848)
特異運命座標


 ベヒーモス倒れる。その光景は彼方からでも目に映ろうか。
 傍では雄たけびのような鬨の声も挙がる――誰も彼もの士気が最高潮だ。
 であれば当然、ナイトハルトもその自体は把握している事だろう
 ――だが。

「僕はちょっと――強いぞ♪」

 その事態にすら彼は淀まない。
 むしろイレギュラーズ達を歓迎するかの如く――彼は待ち構えよう。
「こんにちは、ナイトハルト。今日はもう逃げないのよね?
 お互い。ここが正念場になりそうね」
「勿論さ♪ 僕が死ぬか、君達が……世界が死ぬか。
 どちらかの白黒をハッキリさせようじゃないか――♪」
「この世界、まだ終わらせてなるもんか! 思う通りにはさせないぞ……!
 オイラが守ってみせる! 皆も! 世界も!」
 故。そんなナイトハルトの下へと決着を付けに向かうはヴァイスやチャロロだ。
 これより先はない。これより後はない。
 故にこそ全霊を紡ぐ。あと一歩。あと一息――
 ヴァイスは己が身に数多の戦の加護を纏いて、ナイトハルトの余力を削り取らんと往こうか。その身はパンドラの可能性を昇華せしめれば……七色の剣と共に在る。振るう腕の動きに連動し剣もまた彼の下へと高速に。薙ぐ形でナイトハルトへと連撃斬りこもうか。
 が、当然ナイトハルトも座して受けはしない。
 そのヴァイスの動きに合わせる形で指輪に魔力を収束させようか――放たれる一閃はまるで地を抉るが如く。強烈なる一撃を、だからこそチャロロが割り込もう。
「オイラが守るから、みんなは攻撃に集中して!
 ――オイラだって旅人だけど……混沌世界に来て、沢山の仲間や想い出が出来た!
 この世界にだって愛着があるんだ! ――守りたいんだ!」
「訪れた不幸に同情する部分も無くはないが……
 だからといって世界を滅ぼす行いを肯定できるわけでもない。
 同じ旅人として――不始末を止めさせてもらうとしようか。加減は出来ないぞ」
 チャロロはナイトハルトによる撃を、特に後衛たる者達には届かせまいと防ぐ動きを見せる。彼の魔力が直撃すれば凄まじい衝撃がチャロロに襲い掛かる、が――奥歯を噛みしめ踏みとどまるものだ。
 護りたい世界があるのだから。絶対絶対、滅ぼさせたりなんてするもんか……!
 ナイトハルトと同じ旅人ではあるが彼には同調できぬのだから。
 故、一嘉もチャロロ同様に皆を護る為最前線へと踏み込もう。
 狙うはナイトハルトの周辺にて彼を守護せんと蠢いている終焉獣達だ。連中へと炎の一撃を投じ、己へと注意を集めんとする。敵をかき集め自らに撃を集中させれば他の者達の危険が減ろう……無論ナイトハルトも狙えるならば狙う。
 彼を止める為に、此処に来たのだから。
「最初の旅人であろうが、世界をどうこうする権利があるものか」
「自由にはやらせませんよ。ここで止まっていただきましょう」
 続け様にはベークも周囲の連中の足止めにと援護の動きを見せようか。
 危険領域である事は分かっている。故に己が身へと至らせる加護は念入りに。
 その上でベークは立ち回ろう。周囲の終焉獣らを押しのけ、ナイトハルトへの道を作るために。本体であるナイトハルトを叩くのも重要だが――将を射んとする者はまず馬を射よ、とも言うだろう。
「こうしていれば――皆さんが戦いやすくなる事でしょう」
「うざいたい焼きだなぁ♪
 そんなに終焉獣が邪魔なら、僕が焼いてあげよう。君達と一緒にね――♪」
 であれば。ナイトハルトは天を指差した、直後に。
 その指を地へと振り下ろす。
 さすれば生じたのは巨大なる魔力の奔流。先程まで戦場各地に行っていた砲撃だ。
 轟音と衝撃波が周囲を襲う――
 始原の旅人たる彼が、今の今まで蓄積してきた力が宿っているのだ。
 並大抵のものではない。百でも二百でも鍛えうる時間があったのだから。
 ――しかし。

「成程。やはり、本命の場所ともなれば容易くとはいかんだろうな……
 しかしだからこそ。我々が――騎兵隊が切り開くしかあるまいな?」

 あえて。あぁ、あえてその死中に跳び込もうという者達がいた。
 最早言わずとも分かるであろう。騎兵隊という栄えある命知らず達の事ならば!
 往く。砲撃による余波の衝撃が鳴りやまぬ内からナイトハルトの下へと。
 先の言を呟いたはその内の一人――レイヴンであり、彼は術を紡ぐ。
 降り注がせる隕石の術式が敵を薙ぐのだ。敵軍の懐へ跳び込むのならば……
「これしかあるまい。ナイトハルト、原初の旅人と言ったか。
 個の力では確かにお前が強いのかもしれん。
 だがな、軍の力ならこちらも負けることは無いぞ……!
 大勢の者達を指揮したことはあるか――? その強さにまで勝った事はあるか――!」
 吼える。数多の戦場を駆け抜けた自負があるならば。
 今日と言う日も――あぁ我らは此処に在りと示す為!
「封殺役を狙う個体に反撃用意! 突撃位置設定。縛り付けて食い破る!」
「目指すは首魁の首。何者にも邪魔ァさせねぇよ――
 馬骨! お前さんがそれを望むんならやってやらァな!」
 高らかに宣言せよ。イーリンの旗の示す先が終着点にして勝利点。
 支える一人がバクルドだ。戦局はいよいよ大詰め、ちと出遅れたが……
 本命攻めには間に合ったかと。
 ――ならばこそ紡ぎあげよう。皆の道を。世界の行く末を。
「まーた煩い連中が来たなぁ……♪ ならば魅せておくれ♪
 君達の可能性を。君達の未来を。僕の見た事のない希望を」
 直後。騎兵隊へと穿ち放つは神秘の塊。
 雷撃。暴風。天割る程の轟音が再び鳴り響き――騎兵隊に直撃せんとする。
「ぶはははッ! よぉ、『管理人』! やっとこそここまでこれたぜ、しかし初めて会った時から予感はしてたが案の定だったな! ってか俺にやたら寄生型嗾けてただろテメェ! なーにしてくれてやがんだ、料理人的には寄生虫天敵なんだからやめろやマジで!?」
「おや、トンカツ君かい♪ 君は内側に面白いモノがありそうだったから、あわよくばと思ったんだけどねぇ……♪ まぁいいか、キミともプーレルジールからそれなりの付き合いだ。寄生虫がイヤだったなら殴られてあげようじゃないか♪ 出来るもんならだけど」
「言ったなぁ、テメェ!!」
 と、その時だ。
 危険な撃が来たからこそ最前線を突き進む動きを見せたのは、ゴリョウか。
 正に鉄壁たる彼は皆の守護にならんとしながらナイトハルトへと文句の如き言を繰り返す。『面白いモノ』とは一体何のことだろうか――? 気にはなる、が。ひとまずは『獣王』ル=アディン相手に真っ向から受け凌いだこの頑強さ――
「とくと御覧じろってなぁ!!」
「ハハハ。ホントにとくと御覧じていいのかい?」
「ぁあん?」
「君の心中にあるのは自信じゃあない筈だ。
 もっと別の……そう、焦燥のような……まぁいい。僕には関係のない事だ。
 君の中にあるものが溢れたって――僕の不都合にはならないだろう♪」
 刹那。ナイトハルトが言うのは一体『なんの事』か。
 それはゴリョウ自身が自覚していない、身中に根差す『何か』を指していた、のだが。
 言われるゴリョウは心の臓の鼓動が刹那に高まれど――頭を振ってナイトハルトに集中する。なんであれ死ねない。あぁ砕ける訳にはいかないのは事実なのだから。
「ははは! いきなり全開たぁなぁ――んじゃあケリつけようか! 『先輩』よぉ!
 アタシは旅人じゃねぇから異世界に縁も所縁もないがまぁ、んな事はぁ些細だろ!!
 オラァ! 騎兵隊の先駆け! 赤備のお通りだ! 道を空けやがれ!!」
「『最初の旅人』、あぁ俺達の大先輩ってワケだ! それなら一つ、ここは後輩としてセンパイの胸を貸してもらおうじゃねーか。なぁいいだろ? 現イレギュラーズの力を見せてやるぜ!」
 次いで、ナイトハルトの攻撃により巨大なる爆炎生じる中をエレンシアにミヅハは――突っ切る。終焉獣らの牙を押しのけ。エレンシアは数多を引き潰しながらナイトハルトを見据えるのだ。直後にはその後ろにいるミヅハがナイトハルトを狙撃せんと弓の糸を絞り上げる。喰らえよセンパイッ!
 俺は――星追いの狩人ミヅハ・ソレイユ。
「小細工は抜きだ、真正面からぶち抜いてアンタを超えてやるよ!
 一度放たれた矢は止まらねぇ、最後まで突っ走ってやろうじゃん!」
「ったく、誰も彼も急ぎやがる。ま、俺も似たようなモンだがな
 動けない老いぼれと思ってくれるなよ。生憎だが放浪者は手堅く大当たりする輩でな!」
「ふふん♪ 楽しそうでなによりだ……だがお祭り気分で僕を倒せると思うなよぉ♪」
「お祭り、ねぇ――言ってくれるじゃねぇか。
 だがよ、アンタが少し強かろうが関係ねぇ。行かせてもらう」
 ミヅハの剛弓が戦場穿つ。空裂く音鳴らしナイトハルトへ襲来すれば、立て続けにはバクルドも道を作らんと超磁力の力を振るおうか。振るう暴は老いぼれなどという領域に非ずんば終焉の獣共を捻じ伏せよう――! そうして紡がれた刹那の軌跡をカイトは逃さぬ。
 ナイトハルトへ解き放つ。魔を封滅する破邪の結界を、絶好のタイミングにて。
 『先輩』。アンタの動機は分かったよ。
 だがな『同意はしてやれない』んだよ。
「復讐の為に世界を滅ぼす――?」
 冗談じゃねぇ。俺は此処で自分自身の在り方を見つけたし。
 俺自身として動く生き方を覚えたし。それ故に練達だけじゃない。
 ――混沌(ここ)を滅ぼされるのも我慢ならねぇんだ。だから。
「『その面を張り倒しにもう一度来た』ぜ。
 見せてくれるよな、そのへらへらした面の……アンタっていう本当の一個人の表情をな」
「さぁねぇ――♪ 見たいなら強引に引き摺り出してごらん♪
 それでこそ世界を救う英雄だろう」
「言われずとも!」
「やってやらぁな! アタシはあんたと違ってこの世界に生まれてこの世界に育ったんだ。神託だからって滅びを簡単に受け入れられるかよ! 故郷だって世界だって救ってやんよ――!」
 出せるものを出し尽くさんとする。カイトは、エレンシアは、この場で全てをと。
 周囲の味方と連携し、決して一人で突出せず。
 しかしその上で全身全霊をぶち込んでやる。
 ナイトハルトによる反撃の一手は重く鋭い――針の穴を通すような術式が皆の身を抉ろうか。一方でバクルド達が成さんとする攻撃は、ナイトハルトに直撃する前に『停滞』するかのようにやや動きを鈍らせる。
 指輪の力か。彼の指先で妖しげに煌めくソレは、強大なる神秘の塊。
 ――だからなんだってんだ。
 誰かが呟いた。誰かが吐き捨てた。
 七罪とも戦って来た。届かない程に強い者達を乗り越えてきたのだ。
「初めまして、始原の旅人。騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ。
 ――あぁ覚えなくていいぞ。どうせ短い付き合いだ。
 これは只の礼儀のようなモノでな。死にゆく者への、習慣だ」
「ハッハッハ♪ 面白いね、キミ♪ どっちが先に三途を渡るか、試してみようか♪」
 故に此度も届かせるのみだ、と。エーレンは即座に斬りこもうか。
 騎兵隊先鋒が一角として踏み込もう。死の領域へ。ナイトハルトのすぐ傍へ。
 神速の一閃にて切り結ぶ。得体の知れない神秘の壁がエーレンの刀筋に割り込むが。
 知った事かと振り切ろう。膂力を込めて。決意を込めて。
 俺一人の力はたかが知れているかもしれないが――
「騎兵隊の力はどうかな! 皆の力全て合わせての、俺達騎兵隊だ!」
「然り。如何なる者であろうとも、究極は存在しないのだから」
 続け様にはリースヒースも至る。ナイトハルトの暴力的な神秘の嵐から騎兵隊の面々を護らんと動くのだ。全ては『総員生存』の誓いと共に。死を払いのけんと死霊術の一端である術式を紡ぎ、そうして蝶を舞わすのだ。
 蝶よ、霊達よ。
 騎兵隊の勢いを止めぬよう、最大限の後押しを。
 ――奴に僅かでも隙を。その一端導くまで、死は遠き狭間に。
 鼓舞するように剣を掲げ叫び続けよう。あぁ――
「我々はまだ――生きている!」
 まだ、戦えるのだと。
 まだ、我々は此処にいるのだと!
「そうだ。そう! 進め進め、食い破れ! 運命の一手はいつでも進んだ先にある!
 完全無欠言い訳不能な勝利を我らの手に!
 至大至高の栄誉を! 類稀なる勝利の美酒を――我らの手に!」
 さればシャルロッテも胸に宿りし高揚感をさらけ出すように宣誓しようか。
 勝つと。生きて帰ると。
 彼女は紡ぐ。数多の加護を。数多の力を。前に進む活力を――!
 悪いが『誰かさん』より先には死ねないんだ。
「生きてこそ支えられるものがある」
 故に。命尽きようとも……おっと、しかしそれは先の話だ。
 この最終決戦よりも続く。遥かなる未来の話。
「まだ見えもしないものの事を話すと鬼が笑うよ――♪
 まぁ鬼もなにも存在しない世界にする為に僕が此処にいるのだけど♪」
「どうかな。これは物語だ。
 我ら特異運命座標が混沌に在る数多の戦場に赴き駆け抜ける素晴らしき英雄譚。
 英雄譚の仕舞は必ずや幸福なる結末が訪れて然るべきもの。
 ならば未来の話を紡いでもなんら矛盾はない。
 そも――立ち塞がるは勝手だが我らが痛快無比なる騎戦の象徴は止まらぬ」
 鬼が笑う? 斯様な言になんの意があるかと告げるは幸潮。
 知れ。乱雑なる砲撃など抵抗など我が"万年筆"の下に無かった事と成り下がったと。
 知れ。調子に乗った強敵が――哀れにボコられる事程愉しい事はないと!
 さぁ突撃だぜ英雄共。
「何人にも、劣らぬ輝きを此処に。何人にも穢せぬ栄光を此処に」
 ハッピーエンドを見せつけてやれ――ッ!
 パンドラの加護を纏う幸潮の姿は略奪者たる軽装の身へと至ろうか。
 高揚をそのままに力と成し。皆の舞台を整えよう。
 さぁ埋めよう。英雄譚の物語を――!
 騎兵隊の突撃力が増す。ナイトハルトの下へ行かんと、突き進む力はどこまでも。
 奴が幾重に神秘の術を備えようと無駄だ。
 壁は突き砕き、砲撃が至ろうと踏み超える。
 さすれば段々と彼の笑みも、やや硬くなって――きたろうか。
「やるねぇ♪ だがまだまだこんなものじゃ、どうとだって出来るものさ」
 それでもナイトハルトは指輪の力を用いて終焉獣達をけしかける。
 命を文字通り『尽くし切る』程の動きを成させようか。
 自らの盾として。敵に向かわせる特攻の砲弾として。
 数の差は数で埋めると言わんばかりに。
「終焉獣を操る力――それでネロさんを洗脳するって可能性も否定できないね。
 させない。折角彼が戻って来たんだから。そろそろ終わらせてもらうよ。
 冠位魔種の波を乗り越え続けた騎兵隊の本領――見せてあげないとね!」
「イレギュラーズは、騎兵隊は……人はここまでやれるのだと見せつけてあげましょう。可能性の塊こそがイレギュラーズの本懐。ならば、イレギュラーズが集った騎兵隊は……世界のどこよりも希望に溢れているはずですから……!」
 であればと雲雀は同じく終焉の獣の一確たるネロの事を想起しながら攻勢を強めようか。ナイトハルトに幾重にも重ねる呪いの一撃は彼の動きを縛らんと執拗に狙い続ける――直後には治癒の術を皆に行き渡らせるようにアレストも力を振り絞る。皆がナイトハルトに迫るまで戦線を維持できるように。
 一人ではできなくても、一人では届かなくても。
「皆でなら……未来を紡げます!」
「いいや此処で終わってもらおう。君達はよく頑張ったが、ここで行き止まりだ」
「行き止まり――? それは其方の事だろう、ナイトハルト。
 君の分かりやすい方で言うなら……そうチェックメイトだ」
 ナイトハルトはアレストらの治癒の速度よりも早く――騎兵隊を叩き潰さんとする。
 天より堕とされる三つの軌跡。それはまるで隕石の如く迫りて、着弾。
 大地を揺らす万物を薙がんとする、今までにない威力の砲撃だ。
 吹き飛ばされるはイレギュラーズだけではない。終焉獣も巻き込まれていようか。
 ナイトハルトにとっては所詮駒に過ぎねば、そうもあろうか。
 ――それでもシェンリーはこの盤面を覆させはすまいと奮戦す。
 戦術点を見据えるのだ。被害の及ばぬ一点へ、騎兵隊を誘導せんと声を張り上げ、次の一手を示していく。途絶えさせない。この大詰めの盤面において繋ぎ続ける。どこまでもどこまでも――奴を詰ませるまで!
「そうだろう、総大将?」
「――ええ。私達ならやれる。私達なら行ける。さぁ行きましょう!」
 同時。視線を滑らせれば――そこにはあるものだ。
 イーリンの影が。彼女の抱く旗が。
 騎兵隊の方針は変わらない。真正面から敵を食い破り味方の士気を沸騰させ。
 そしてナイトハルトにも肉薄し――彼への攻撃を敢行する。
 それを果たすまで地を舐める事など出来るものか。
「真正面からぶち抜く。あぁこれぞ騎兵隊だね。さァ再度なる号令を」
 イーリン・ジョーンズ。『それをキミが望むなら』
「皆、何処までも行くさ」
 然らば。イーリンの耳に届く様に。
 武器商人が、斯様な言を耳元に告げれば。
 戦場に響き渡るように述べてやろうではないか。
 あの不遜なセンパイに聞こえなかったなどと言わせてはやらない。
 全てを完遂し。
 言い訳なんて、させてやらない。
「私達が勝つわ」
 ただ奮戦しているだけではない。私を、私が走る先を、未来を信じてくれている。
 ヤケになってるんじゃない。慢心をしているわけでもない。
 私達はただ選んだだけよ。過去でもない、現在でもない。
 ただ今、そしてその一歩先にある。
「明日を、掴む。生きて、掴む! 勝つのは――私達よ!」
 ――謳え、英雄達。
 狂おしいまでに勝利を求めよ。
 知っているはずだ。勝利の美酒の味を。忘れられぬ至高を――!
 皆の忍耐、この瞬間の為に有りッ!
 『死力を尽くす』正にその言葉が似合う突撃を――敢行しよう!
「――やぁれやれ。噂には聞いていたけれど、七面倒な。ゾンビかい君達は」
「なんとでも今の内言っておきなよ! 最後は私達が――完全なる勝利を頂くよ!
 ここからが騎兵隊の本領! 騎兵隊という波濤の威力……味わってもらうよ!」
「全火力を集中させる。逃がしはしない」
 であればナイトハルトは吐息零すような感情を示しつつ、イレギュラーズを払わんと迎撃するものだ。しかしイレギュラーズ達はどこまでも足掻く。どこまでも食らいつく。奴に一息すらつかせんと。故にヴェルーリアにオニキスが撃を成すのだ。
 突撃の勢いを弱めさせぬようにヴェルーリアは三頭身の己より力を宿し。
 同時に黒き竜の如き姿を維持しながらナイトハルトの撃に抗する。
 彼を裸の王様にしてやるのだ。終焉獣も、砲撃も、全て除けて!
「悔しいって思わせてみせる! 今までの生涯で何度味わったかな!」
「――僕の後悔は身内を喪った時からずっと続いてる。それ以上の経験をさせてみたければ、そうだね。僕を止めてみなよ。騎兵隊などという器が壊れなければの話だけどね――!」
「壊れるものか。そう脆いものではない――あぁそれに。
 キミが大切な人を守りたかったように。私はこの世界に生きる人たちを守りたい」
 だから同情はしない。だから負けてなどもやれない。
 オニキスは言を紡ぎながら次弾装填。一切の淀みなくナイトハルトを狙いて。
「これで終わらせるよ」
 解き穿つ。128mm連装マジカル対戦車砲……オニキス屈指の一撃が常に襲い続けるのだ。魔術を込め。意志を込め。始原の旅人の守護を貫かんと轟音響かせる――!
 さればナイトハルトが己の周囲に張り巡らせていた神秘の防御術式が異常をきたし始める。彼の指輪の一つが。宿していた光が妙な、まるで点滅するかの如き異変を生じ始めるのだ。それは……
「限界が来てる……みたいな感じかねぇ? やぁ、先輩。
 気分はどう? ずーっと夢見てたのが邪魔されそうで最悪やろ?」
 彩陽が看破する。ナイトハルトの余力は想像より削れているのではないかと。
 未だ顔を歪ませる程ではないかもしれないが。しかし余裕面の仮面も剥がれるだろう。
 その身の芯に到達しうる撃があれば。
 彼は魔種ではない。彼はあくまで旅人だ。
 ならば鍛錬し尽くした技量はあっても肉体はイレギュラーズと同様であろう――!
「あんたに俺らはどうしようもでけへんよ。
 未来に絶望した者と未来に希望を持つ者。
 どっちが勝つかなんて今までの歴史を辿れば明らかやんなあ!」
「関係ないね。それは今までの歴史の話だろう――?
 僕達が、イノリが紡ぐのは滅びだ! 誰も見た事ない滅びの地平に常識は通じない!」
「それを一歩手前まで成せる力を持ちながら……いや持っていたからこそ、でしょうか。強すぎたあまり、普通のひとも出来る《死を受け入れる》という事ができなかったのですね」
 お気の毒様、と。志は彩陽に続く形でナイトハルトに攻勢を加えようか。
 彩陽は周囲の死者の霊魂を力と成し、解き放つ。敵の動きを纏めて鈍らせんと。
 一方で志はナイトハルトに聞こえるように囁きつつ敵の軍勢に根源の泥を投じようか。
 ナイトハルトという一個人を追い詰める為に。ひっそりと動いていく――あぁ。
 死を受け入れるなんて、皆やっている事なのに。
「結局、始原の旅人だろうがなんだろうが、人間なのでしょうね」
「まぁ。世界を滅ぼすに加担しようが、只の人間だろうが――こっちのやる事は変わらないさ」
 更に武器商人は白き妖精馬を駆りながら動く。
 皆の位置を、敵の攻勢を見極め念話で情報共有しながら。
 武器商人もナイトハルトを狙おう。数多の攻撃により圧を強めている、そこへ。
 紡ぐは緋色の罪杖。影の茨の権能が彼を狙おうか。
「やれやれ、皆ホント色々想いがありますよねーナイトハルトも含めて」
 同時、美咲も動きを見せようか。ナイトハルトの攻撃によって動きが乱れ、疲弊が溜まりつつある者達を支援するのだ。イーリンの近くに位置取りつつ、時に治癒を、時に攻勢を。敵のみを穿つ技量をもってして騎兵隊の力と成ろう。
 ……思うは『佐藤 美咲』という一個人の歩みだ。
 この世界では『与えられた側』だ、と。友人もケジメも佐藤 美咲という自己さえ――
(元の世界では得られなかったから、スね)
 思えば色々歩んできたものだ。
 あちこち行って。色んな事をしでかして。仕舞にはこんな終焉の地にまでいるとは。
 吐息零しながらも、そのままナイトハルトの攻勢支援に加わろうか。
 此処における『佐藤 美咲』を果たす為に。
 続け様にはナイトハルトの迎撃に負傷しながらもバクルドが接近。
 ――俺はお前さんの痛みなんかは要わからん。家族もいた試しがない。
 が。もしもトルハを喪えばと考えたら――
 いや、だがそれでも。
「バッドエンドを踏み倒すために俺達がいるんだ。
 先達は後輩に託して去っていくのが相場ってもんだ――違うか?」
「知った口を叩くね。僕がどれほど待ったと思っている。
 後輩だからって譲ってはやれないさ!」
「妹さんを喪った哀しみと怒り……さぞ深いことだろう。
 俺も兄がいるから、気持ちは理解できる。もしも同じ立場だったら――
 だけど。『だけど』なんだ。そうはならなかった」
 バクルドが攻め立て。同時に雲雀もナイトハルトに更なる圧を加えよう。
 ……彼の立場が理解できない訳ではない。
 それでも。俺はこの世界に救われたから。
 護るんだ。当然だろう?
 悲劇が降りかからなかったら――良い関係を築けただろうね。
 もしも来世が。もしも今度があるのなら。
 そこでなら、仲よくしよう。
 ――で。
「それはそれとして、その顔凄く殴りたいから一発入れさせてもらうよ!」
「ハッハッハ! なんて酷いんだ君は――!」
 ニヤケ面は癪に障るのだと!
 雲雀は一撃ぶち込む。遂にナイトハルトの防御が間に合わなくなってきたか――ッ!
 さすれば、その時。

「――面白い。面白い! やはり最高だ君達は! 最高に――邪魔だッ!!」
 
 ナイトハルトの周囲に無数の魔法陣が浮かび上がる。
 一瞬。一瞬の事だった。直後に生じるは、まるで機関銃の如く打ち出される神秘の杭。
 先の天より堕とされし砲撃が大砲であったのならば、小回りを利かせた刃とでも言おうか。
 肉など容易く抉り。大地を高速に削り落としていく。
 音の壁を突き破っているのか射出される度に破裂するような音も響き渡る――
 奏でる音色は真に機関銃の如く。只人ならば容易く屠られて終わりだろう。
 だが。
 ここにいるは誰しもが一騎当千の英雄達。
 剣を。槍を。盾を。旗を。神秘を。
 数多の武器を携えナイトハルトの杭を――討ち落としていくッ!
 金属音にも似た響きが戦場に鳴り響こう。無数たる死と抗いの音色が此処にある!
「――ぬぅぅッ!!」
「いよいよ仮面が剥がれ始めたわね。なら、この地で倒れる覚悟、いいわね?」
 ナイトハルトの内側より神秘が全力で注がれ始める。
 だが彼の口端には微かに苦の色が混ざっていた。
 ここだ。この場を乗り切ればこそ彼に届くとヴァイスは跳躍。
 全霊たりうる斬撃を――紡ごうか。
 この世界の全て、貴方にぶつけてあげましょう。
 勝つのは。

 ―― 私 達 だ ッ !

成否

成功

状態異常
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)[重傷]
炎の守護者
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)[重傷]
虹色
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
終わらない途
ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
ディバイン・シールド
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)[重傷]
流星と並び立つ赤き備
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)[重傷]
ロクデナシ車椅子探偵
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)[重傷]
挫けぬ笑顔
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標
刻見 雲雀(p3p010272)[重傷]
最果てに至る邪眼
夢野 幸潮(p3p010573)[重傷]
敗れた幻想の担い手
火野・彩陽(p3p010663)[重傷]
晶竜封殺
シェンリー・アリーアル(p3p010784)[重傷]
戦勝の指し手
陰房・一嘉(p3p010848)[重傷]
特異運命座標

第3章 第4節

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ
水鏡 藍(p3p011332)
解き放たれた者


 生か、死か
 存続か、滅亡か。
 多くの者が願うのは前者であろう。それでも一部の者達は後者を願い、戦い続ける。
 互いに退けぬ理由がある。ならば……
「……まだ油断は出来ません、ね。ネロさま、調子は、如何です、か?」
「今の所問題はない――だがやはりナイトハルトの下へ近付く事は出来んがな……
 奴からは嫌な気配を感じている。奴の近くでは力になれそうにない。すまないな」
「ふふ、大丈夫です、よ。ネロさまは、私が、守ります」
 刹那たりとも気が抜けぬとメイはネロを見据えながら呟こうか。
 ナイトハルトの終焉獣操作は、彼らを文字通り駒にすることが可能だ。ならばやはりネロへの危険性は残っているだろう……どうにもナイトハルト自身から随分と余裕は消えているようだが、それでもネロの存在に勘付けば何があるか。
 だからメイメイは、彼の好きにはさせぬと備えておく。
 黄金色の護りの加護をネロへ。更に治癒の術も巡らせながら――思考するのだ。
 未来を。平穏なりし彼方を。
「平和になったら、沢山、したい事があるんです」
「――あぁ。もしもこの戦いを生き抜けたら、その時は」
「はわわ、ネロ様、意味深な言葉は、まずいです」
 それは帰ってこれないフラグです、と。
 再び彼と言葉を交わす事の出来る幸福を甘受しながら――呟こうか。
 そして。未来の幸福を得るためにこそ……
「やあ、先輩。今まで中々苦労したのかな?
 先輩は先輩なりに歩んできた過去があるんだろう――でも私達も退けないんだ。
 思いの強さなら負けないよ! だから、お覚悟と言う奴さ!」
「ハハハハハ! 想いが込められていればなんでも出来るなら、僕はとうに本懐を果たしていた。想いなんか関係ないね――と言いたい所だけど。超えられるかい、僕を? 可愛い後輩達――僕を超えてくれるのかい? 僕以上の可能性が君達にはあるのだと、魅せてくれるかい!」
 藍は駆け抜ける。ナイトハルトの紡ぐ魔術連射に対して真っ向から。
 纏う炎を叩きつけ。終焉の獣達を薙ぎ払い。ナイトハルトを逃すまいと。
 ――死なないようにするのは大前提、その上で。
「最後まで諦めないよ」
 食らいつく。肉薄する。相手がどれほどの先達であろうと。
 諦めぬ心こそが――勝利を手繰り寄せるのだから!
「何を笑ってやがる、お前はよ」
 同時。藍によって繋がれたナイトハルトへの道筋を縫ったのは、サンディだ。
 ――たぶん、俺にはナイトハルトの気持ちなんか一ミリも分からない。
 旅人ではないし。この世界じゃない世界なんか、見た事はない。知りもしない。
 自分の隣には自分以上の才を持つものがどんどん現れ、そいつらすら掃いて捨てられる。
 後輩に先輩ぶったところで、次の日にはその後輩にざっくり抜かれちまって。
 ――それなのに。なんでお前は。
「笑えるんだよ。気に喰わねぇな」
「楽しいと、腹立たしいは共存するものだよ。
 君もいつか分かる。僕を超えて世界が存続したら――の話だけどね!」
「未来も過去も現在も知るか。ただ――決めた事は一つだけあるな」
 てめぇだけはぶっ飛ばす!
 五指を固めてサンディは怒りと共にナイトハルトへと攻勢を重ねるものだ。気に入らない、という観点だったらシュペルだってハデスだってレオンだって実のところまぁ気に入らねえが……この鬱憤、とりあえずはてめぇで晴らさせてもらうと。
 ナイトハルトの紡ぐ極撃の射撃を、跳躍とともに辛うじて躱しながら――接近する。
 殴る。ぶん殴る。この手を届かせてやるッ!
 とにもかくにもナイトハルトへ圧を高め続けねばならなかった。
 先の、騎兵隊らを中心とした大攻勢によりナイトハルトの余裕は崩れ始めてきている――それでも、もしも一息でもナイトハルトに時を与えてしまえば態勢を立て直されないとは限らないのだ。ベヒーモスは崩れたが無数に迫る終焉獣の波もある。
 だからこそ文字通り息もつかせぬ。

「――今こそ、乗り越えていかせてもらおう……先輩」

 その為にウォリアはパンドラの加護を纏いながら――全霊を尽くすのだ。
 終焉獣の群れを爆撃するように攻勢を加えつつ、ナイトハルトへの道筋を切り拓く。
 そうしてそのままの勢いと共に――斬りこもう。
 戦神龍皇、降臨。可能性の塊がウォリアを更に昇華せしめて。
 食わらせよう。己が暴威を。己が真髄を。始原なる旅人へ――!
「来るのか。誰も彼も真っ向から僕を乗り越えようと!」
「無論。『後輩の活躍』を喜んでくれるなら……恥じぬ様に。示すのみ!
 後輩達が如何なる旅路を歩んできたか――存分に知ってもらおう!」
 ナイトハルトからの射撃を剣撃と共に幾重にも切り伏せる。
 それでもウォリアの身を削る一撃もある、が。
 諦めぬ。臆さぬ。痛みに身を震わせることはない。
 叩き込む。後輩の強さを……ともに歩めぬなれど、誇れる強さを先達に示す為。
 スタート地点はヨーイドンどころか周回遅れでも。
「気力と根性ならアンタにも負けはしない。
 ――正直な話『混沌法則なぞ強いたヤツ』はオレだってブン殴りたいからな!」
「ハッハッハ! そうだよねぇ、話が通じ合うようでなによりだよ!
 もしも君が戦友だったなら酒でも酌み交わしたい所だった――」
「だが何もかも、泡沫の夢だな。ナイトハルトそれがお前の選んだ道だ」
 さぁ――決着の時と行こう、と。ウォリアに次いで紡いだのは錬だ。
 追い抜いてやる。例え始まりが固定されていても、歩む道のりは全員違うのだ。
 誰かの道だけが絶対ではない。なにより……
「俺も自分の強さにはちょっと自信があるからな! 試させてもらおうか、自称最強!」
「待てェい! 一人だけ先に進むとはなんたる不届き……私も加わらせてもらおうか!」
「おっとディリヒかッ、今この一瞬は重要なんでな――来るのは勝手だが遅れるなよ!」
 刹那。錬の動きに続いてディリヒも跳び込んできた。
 強いだの最強だのという言葉が聞こえれば、この戦闘狂いの目が輝かぬ筈がない。錬が放つ魔鏡の力が敵を薙ぎ払うと同時にディリヒが斬りこもう。戦線を押し上げるように抉じ開け――ナイトハルトに迫り往く!
 見えれば即座に錬は青龍の概念を宿した槍を鍛造。放つ一閃、正に空を穿つが如く。
 ナイトハルトの、雨の如き射撃による迎撃を抜けて――彼の肩を穿とう。
 血飛沫舞う。あぁなんたる事か。なんたる……!
「フ、ハハ! ハハハ! 憎たらしいのに嬉しいねぇ、後輩の尽力は!」
 指輪の効力が段々と落ち始めているのか、明らかに防ぎきれていない。
 余裕面をずっとしていたナイトハルトの身に傷が刻まれ始めているのがその証左。
 積み上げてきた全てが顕現している。パンドラの加護による昇華もあれば……
 例え相手が始原の旅人と言えど、悠久の時を鍛え上げてきた者なれど。
 勝てぬ訳では――ないのだ!
「むむっ、干戈帝殿! 初めまして、であります!」
「むっ!? 貴様、その風貌、よもや豊穣の者か?」
「ご推察の通り。キサ達も常世の折にはいたものであります――
 こうして話をするのは初めてでありますが」
 故。ナイトハルトは終焉獣をけしかけ少しでも暇を作らんと手を尽くそうとしようか。ディリヒが『邪魔だ!』とばかりに獣達を捻じ伏せて……その時。ディリヒに迫る獣を切り伏せたのは希紗良であった。
 キサ達はずっと別行動をとっていたが故に本格的に事件の中核であった帝達に関わるのは少なかったが……こうして戦場を共にするのも不思議な縁、か。ならば。
「で、あればキサも一緒に。剣の道は生涯かけて追いたいものであります!」
「ほう! その心意気や、良し! 死線の中でこそ成しえる成長もあろう――共に行こうぞ!」
「話が早くて助かるね。しかし……あぁ干戈帝。お宅の柳君の事で、お願いしたいことがあるんだけど良いかね? この戦いが終わったら、柳君と一手手合わせ……可能なら、剣の指南を受けたいんだけどどうだろう?」
「なに? 柳とか? 構わんがアレは私以外には暴風の狼のようなモノ。『うっかり』と事故が起こっても知らんぞ? 本当に良いのか?」
 あぁ、と。返答したのは希紗良と背中合わせで敵に備えるシガーだ。干戈帝を援護すべく周囲の獣共を屠る柳……あぁ危険なのは分かっているさ。しかしやはり、実戦に勝る修練は無いのだ。
 平和な世が悪いとは言わないが、しかし浸かり続ければ腕も鈍るし。なにより。
「こんな機会はそうそう無いだろうからねぇ」
「ふむ。覚悟があるならば良し――柳、勅命だ。生きて帰った後は、上手くやれ!」
 獣の群れの向こうから『承知ッ!』という甲高い声が聞こえてきた。同時に終焉獣が切り伏せられる派手な音もする――やれやれと、シガーは吐息を零しながら、しかし戦おう。干戈帝へのアピールも兼ねて。
 希紗良と共に敵を穿つ。互いの死角を埋め、隙を無くして。

「後は貴様だけだな――このような戯れ、終わらせるとしようか!」
「姉御ー! ちょっとお待ちを、そっちはまだ――!」

 と、その時だ。ナイトハルト周辺の戦場に飛来した影がある――クワルバルツか!
 ベヒーモスが倒れたのだ。ならばそこから戦力が流れて来る事もあろう。傍にはクワルバルツを守護せんとする竜、アユアの姿も見える。流石にアレらが来るとなれば厄介だ……が。ナイトハルトとて竜が戦場に訪れた時点で、アレへの対処も考えていた所だ。
「今は僕の後輩達と遊ぶのに忙しいんだ。邪魔者はもう少し遊んでおいてもらおうか!」
 故。クワルバルツが重力を降り注がせる前に終焉獣をけしかける。
 ベヒーモスでなんとかしていた相手だ。多少の終焉獣など竜は意にも介さないだろう、が、問題ない。とにかく一瞬でも隙を作れればそれで良いのだ。再び魔力を収束させ特大の一撃をぶち込んでやる――
 滅びろ竜よ。お前らとて終焉の例外ではないのだ。
 強烈なる閃光が竜を襲わんとした、その時。
「間にぃ~……あったぁ――ッ!」
 誰かが強引に間に割りこんだ。それは――夏子だ!
「夏子!? 貴様――」
「いやぁ待て待て待って? 分かってる、余計なお世話だとは思ったんだ。
 でもま ……こんなんも慣れてきたトコでしょお~?
 チャチャっと世界平和にしてさ 前言ってた平和の象徴 ご検討下さいよッ」
「お前どこまで馬鹿なのだ……性根を叩き直してやらねば気が済まん! 死ぬなよ!」
 竜の身を害さんとした一撃だ。軽減させ、逸らさんとしただけでも精一杯。
 だがクワっちゃを護れるのならば十分だと――彼は相も変らぬ笑みと共にあろうか。
 『平和の象徴』。その為に死ねないのは確かだから。
 健闘しましょ。もういっちょ、あともうちょっと!
「犠牲者 出サセナイ ――絶対ニ」
 然らばフリークライも治癒の力を負傷の度合いが激しい者から順に齎そうか。
 誰も殺させないと想いを抱きながら。戦線を留まらせ続けるのだ。
 されば終焉獣達の動きに乱れが見える。さしもの終焉獣達も竜や倒れぬイレギュラーズに慄いているのか――であればとジョシュアはその一瞬を見逃さない。パンドラの加護を纏い力と成し。リトルワイバーンを駆りて間隙突く。
 ナイトハルトへ届く一矢を――放つのだ。
「誰と出会ったかで言えば僕は運がよかったのでしょう」
 同時、彼は呟こう。
 ナイトハルト。彼は大切なモノを喪い、イノリという世界の根幹の一角に出会った。
 そこから彼は終焉へと傾いていったのだろう。
 ……だからこそ崩壊の兆しに出会わなかった自らはきっと『運』が良かったのだ。
 痛みに対して仕返しはしたくなくて、でも。
「それが正しかったと今は思うのです」
 苦しい時に手を差し伸べてくれたのも人だから。
「良い出会いを得たのなら幸いだ。僕は祝福するよ――否定する事ではない。
 そうであれる君が正しいし、僕だって救われるなら救われたかった」
「なんとも、ままならないものですね」
 言葉交わし、射撃一閃。
 軌跡交わせ、弓矢と魔術が熾烈を極める。で、あれば。
「――あなたはその生き方を、もう曲げるつもりはないのね」
 アンナも続く。元々、疑問はあったのだ。
 ナイトハルトは本当に心底世界が嫌いなのかと――
 妹を失い、イノリに共感して神様を憎むのはわかるけど。
 もしも本当に何もかも憎んでいるのであれば……
(私達に嬉しそうな顔はしない気がするわ)
 憎んでいるのはただ一点。神……いや、己に降りかかった理不尽のみ。
 でも。きっともう戻れないのだ。貫き続けるしかないのだ。
「なら、あとは存分に」
「戦うしかないのさ。遠慮はいらない、さぁ来なよ、踏みつぶしてあげるさ――♪」
「やれやれ、イノリも貴方も回りくどいな。
 ――まぁいい。どうであれ同じ方向を向く事が叶わないのなら、買ってみせようじゃないか。その時は……送り出してくれよ、先輩? 俺も神を――殴りたいものでね」
 故にアンナも、そして続くイズマもパンドラの加護を纏いて全霊の身へと至る。
 ナイトハルトに勝つのだと強い決意を込めて。
 ――往く。
 アンナは踏み込み一刀の下に切り伏せんと。
 イズマはナイトハルトの動きを掌握せんと。
 叩き込む一撃一瞬を見据えるのだ。同時に彼はナイトハルトの指輪にも視線を向ける。
 アレの秘密を。その深き奥底を解析できれば、この戦いの一助となると。
 蛇か? 絡み付くような魔力と神秘……と、その時。
「きょうだいは大事。分かるよ? うんうん分かる分かる。
 でも大仰なことを言ってさぁ、妹さんの死を乗り越えらんないだけじゃねーの?
 混沌にとばされたー! うわ―力が取られたもうだめだ~~なんてさ!
 ……おっと、失礼! 口調が乱れちゃった〜!」
 ナイトハルトを煽り立てるように言を紡ぎながらユイユが狙おうか。
 その指輪自体を。乱れ始めている魔力の操作を更に乱すべく、一点集中。
 ――偶然も運命もありはしない。
 あるのはただ、結果だけ。
 みーんなソレを受け入れて生きていくしかないんだよ。
「元の世界で妹さんが死んでも、キミは同じように滅ぼそうとするんじゃない?
 誰かの所為にしてさ! 混沌にこれてよかったね――神様の所為に出来てさ!」
「随分と回る舌だね。挑発のつもりかい? ふふ、高くつくよぉ?」
 さすればナイトハルトはユイユの言が、己が意志を惹く為のものがあると分かりながら。
 乗ろう。
 彼にとって妹や神は退けぬワードであるのだから。
 望むならば意識を向けてやる。ただし、死んでもしらないが。
 ――ユイユに無数の魔法陣が向く。放たれる杭のような神秘が連続的に襲いかかってこようか。それでもユイユは冷静に。弁を弄しながら刹那の隙を見切らんとする――究極の一撃を叩き込んでやる為にも。
 だがナイトハルトから決定的な隙が生まれない。
 数多の攻勢が彼から余力を奪っているのは確かなのだが。
 それでも彼は始原の旅人。誰よりも永くイレギュラーズであった者であれば。
「まだまだ乗り越えられてやるには早いかな――!」
 指輪を輝かせる。かつてない程の密度の神秘が溢れ出でんとしようか。イレギュラーズ達を薙がんと腕を振るえば、その動きに呼応するように莫大な魔力が戦場に振るわれ――

「――フッ……流石だなナイトハルトパイセン。
 んーだーがーしーかーしー悲願の達成? おーっほっほっほ!
 そうはいきませんことよ!」

 刹那。その渦中へと跳び込んだのは――秋奈か!
 刀一閃。ナイトハルトの魔力に抗するように彼女は刀を衝つ――
 あぁ全く。散々あれやこれやと言を交わせたりしたが。
「意外とかわいいとこあんのな、あんた」
「うぅん?」
「いや気持ちが分かるって話でもあるのよ。ウチにも姉がいるからな! リアお姉ちゃん……ん、カウントしたらダメか? ウチにはいない判定か? 妹パワーでなんか、こう、ならんかガハハ!」
「相変わらず面白い子だなぁ秋奈ちゃんは♪」
 つい芸人魂に火がついてしまった! が、大真面目でもあるのだ。
 なんもかんもみーんな抱え込んじゃうタイプでしょ。でもそうやって大切なものをうんと抱えてると、足元がよく見えなかったりするからさ……足元照らす太陽だって必要じゃん?
「ウチがなろうっての。よっしゃぁ決着を付けようぜ、世界を壊す大先輩。
 ぐーへへへへ! おら、エイドスパワーで浄化されろ!
 そら――メリーノさん! 行きますわよ!」
「――そうね。始めましょう」
 そして、至る。メリーノは確かなる意志と共に。
 彼を討つ為に。彼を殺す為に。

 これは終わらせるための始まり。
 ――始まりのレクイエム。
 さいごまで 相手をしてもらうわ 始原の旅人。

 ねぇナイトハルト。
「前に言ったことは覚えてる? わたしにもね、可愛い妹がいたのよ」
「あぁ勿論覚えているとも」
「なら分かるわよね。あなた『おにいちゃん』であるように」
 わたしも『姉さん』なの。
 道は相容れず紡がれる決着は一つのみ――
 斯様なメリーノを妨害せんと狼に似た終焉獣が襲い掛かって来る、が。
「ふふ……ああ、素敵ですよナイトハルト。
 メリーノさんがまっすぐ向かった理由もわかる程です」
「だからこそ相手取ってもらいます。木っ端のような獣ではなく……貴方自身で。
 任されたのであれば旗を掲げるくらいは……致しましょう。この一刻を護ります」
「ったくメリーノの奴、逸りやがって――ッ!」
 その動きを叩き潰したのがマリエッタや妙見子であった。直後には牡丹もナイトハルトに攻勢を仕掛け、彼の余裕を奪わんと務めようか。あぁオレ達は残夢、メリーノの夢!
「ナイトハルト。てめぇにも魅せつけてやらぁ――オレたちの『夢』をなぁ!」
「あぁ魅せてくれ。君達がどこまでやれるか見せてくれ。ダメなら死ね!」
「ご安心を。約束の為にも貴方を超えていくと宣言しましょう! 今、ここで!
 貴方がいけない果てまで行くと――! 夢の彼方へ辿り着くと――!」
 激突する。意志と意志が。力と力が。
 牡丹と秋奈が斬りかかり。マリエッタが宣言しながら血の魔術を形成し振るおう。
 たった一瞬でも良い。メリーノの為の道を紡がんとするのだ。
(背中の羽は失えど)
 どこまでも飛んでいけ、と妙見子は願おう。
 『貴女』は間違いなく。この悠久なる空を――どこまでも駆けるものなんですから。
 ナイトハルトによる魔術掃射。夢を掲げる者達を手折らんと痛烈なる一撃を加えようか。
 故、妙見子は即座に治癒の力をもって抗する。誰も堕とさせぬと。
 誰の夢も――諦めさせぬと!
「ナイトハルト。あなたとわたし達、違いがあるとしたら、それはきっと『これ』なのよ」
 直後にはセレナも至る。活力を満たす術式を展開しながら、終焉獣を払いのけ。
 思考するものだ。メリーノのまっすぐさを――羨ましい程の実直さを。
 あぁきっと止める事なんて出来ないと思っていただろう。一人なら。
 牡丹さんも、マリエッタも、妙見子さんも、気持ちはいっしょ。
 ――みんなメリーノの事が大好きだから、此処にいるんだ。
「ねえ、ナイトハルト、あなたは思い出せる?」
 妹さんの事。その人の心や、言葉を。
 愛おしい人の事を瞼の裏に思い出せる――?
「無論だ。幾星霜立とうとも、僕の始まりを忘れる事はない」
「でしょうね。もしもわたしが『そう』だったら、同じだったと思うわ」
 紡ぐはメリーノ。『だからこそ君達はここで消えていけ』と述べるナイトハルトは最高出力の魔法陣を刻む――放たれる杭の速度は神速に至るかの如く。だけれどもメリーノ達は退かない。牡丹が受け止めんと守護する動きすら見せようか。
 オレは堅い。オレは無敵だ! あぁそうだよな、母さん!
「――必ず帰るぞメリーノ!」
「ええ、メリーノさん。置いていくつもりだったかもしれませんが……それはなんてもったいない、全部背負っていくのもまた……一興ですよ?」
「みんな、あなたの事が大好きなんだから」
 牡丹、マリエッタ、セレナ。言と共に撃を紡ぎ、ナイトハルトに迫ろう。
 止まらない。止まらぬ。誰が一体止めれようか。
 この想いの結晶を。
 未来を望む心を。
 あぁ――
「フ、は」
 ナイトハルトの口端から自嘲のような笑みが零れようか。
 それに込められた感情はなんだったか。感嘆か、或いは全く別のモノか。
 いずれにしても。
「あぁ君達はなんてまっすぐなんだ。何の迷いもなく世界を救ってみせる心算なんだね」
「そーさ。ていうか、私は後ろ向いてる奴が嫌いなんだ。
 妹って、そいつ死んだんでしょ。じゃあもう忘れなよ。
 いつまで言い続けるつもりなんだよ。人は、死ぬんだよ」
 ナイトハルトは、遂にイレギュラーズの攻撃を捌ききれなくなっている。
 間断なき攻勢。それに伴う傷は数多に。
 されば茄子子も辿り着こうか。ナイトハルトの姿を捉える場まで。
 当たれよ。当たれってんだから当たれ。不可視の神秘がナイトハルトを襲おう――
「あ、別に怒んなくていいよ。響かないでしょ」
 私は本心しか言わない。空っぽでもいいから前に進めよ。
 あんた旅人だろ? なら一生旅してろよ。
 見つけたいものを見つけるまで。
「この先、どれほどの時間が掛かろうと、尊い誰かと愛し合い、妹さんの死を乗り越える……そんな可能性はないんですね?」
「優しいご提案だね。残念だが、遥か過去からもうその段階は『通り過ぎた』後なんだよ」
 続け様には向日葵もナイトハルトに圧を加えよう。
 分かり切った事ではあったが、それでも聞かざるを得なかったと。
 ……世界を破壊させる訳にはいかない、ならばきっと貴方を想うなら。
(貴方を妹さんの所へ逝かせる事が……最善なんでしょうね)
 気持ちは分かる。分かるのだ。
 狂おしいまでに愛しい存在を喪う気持ち。
 ……私も世界の敵に恋をして死なせた。
 見る世界は暗くて。何が英雄だって神様に言いたくて。理不尽に叫びたくて……
 違いはきっと。他罰的か自罰的かぐらい。
 ――それでも。
「あの人は約束を遺してくれた。だから……世界も誰も連れて逝かせはしません!」
 向日葵は瞳に魂を込めよう。強き意思がナイトハルトの魂と相反する――!
 穿つ。疲弊しきっているナイトハルトへと、想いの一撃を。
「ォォ、オ! ――まだだッ!」
 直後、ナイトハルトは駆使する。己に残された全てを振り絞りながら。
 親指。
 人差し指。
 中指。
 薬指。
 小指。
 五つの極大の神秘がナイトハルトと共にある――
 命の掛かった場であればこそ、例えばもっと別の。
 奇跡のような可能性に縋る事も不可能ではない、のだが。
「神になど、死間際だろうと願ってやるもんか!」
 それは意地。ナイトハルトもイレギュラーズであれば理論上同じく奇跡を起こしうる可能性を秘めている筈。だが彼は決してソレを使おうとはしない。それはナイトハルトにとって神に首を垂れるようなモノだから。
 だから。だから最後まで己の力のみで戦ってやる。
 再度紡ぐ無数の魔法陣。天からは再び砲撃の術式も紡がれていようか。
 全力の抵抗をせんとして――
「貴様の役割は終焉を迎えようとしている。ならば――私に席を譲れ」
 と、その時だ。まるで影より出でるように現れしはロジャーズだ。
 己が存在を誇示しナイトハルトの意識を強く向けさせんとしつつ。
 狙うは――始原の旅人としての『全て』だ。
「まぁた君かい? こりないモノだね!」
「無論。私は貴様の後輩で在り夢を継いだ者だ。
 貴様から破滅の沙汰とやらを奪うのみ。
 さぁ如何する先達よ。私に寄こすか、否を叩きつけるか。『道は一つ』であろうがな」
「――自分がイニシアチブでも握ったつもりか! 何様のつもりだい!」
「無論。無論――我こそが這い寄る混沌、ロジャーズ=ラヴクラフト=ナイアであれば!」
 ナイトハルトの力を奪わんと可能性を願うロジャーズ。混沌を滅ぼすに相応な『破滅の化身』たらんとするのだ。仕損じれば何も問題ないが――この戦況下でもしもソレが成ればナイトハルトにとっての破滅が確定する。
 ならば、どうするか。
 ロジャーズの言うように『道は一つ』だ。
「……皆さんを護る為ならば私も最後の力を賭しましょう。何度だって、成してみせます」
「望み過ぎだ。あの子を封じただけで満足しておくべきだ。この世の神はそう優しくない」
「知っています。この混沌は、身勝手だと」
 ほぼ時を同じくしてグリーフも至る。ナイトハルトが顕現させようとしている、再びの天からの砲撃。それに対してグリーフは……『矢』を穿たんとしているのだ。
「それでも」
 グリーフは、神や運命を肯定はしない。したいとは思わない。
 混沌の運命に翻弄された人など数えきれないから。
 だから、グリーフが戦う理由は違うのだ。
 神や運命の為ではない。ワタシを私たらしめた出会いの為に。
 ――ラトラナジュの記憶、思い出。
 抱いたノア。
 ドクターの愛憎、そして葛藤。彼が生み出した姉妹たち。
 クレカ。ロック。
 深緑の領地に根付いたマナの樹。
 あの地で弔った、名もなきアルベド、キトリニタス。
 たくさん。
 たくさん。
 私は護る。
 全ての出会いを胸に。
 人も、記憶も。全てを明日へ、未来へと届けるために。方舟として。私は――
「戦いましょう。護りましょう。私は――紅矢の守護者だから」
「――愚かだなぁ。馬鹿だなぁ。結局、この世界の為に純真に命を懸けられている事に違いはない。愚かだなぁ。馬鹿だなぁ――僕もそうでありたかった」
 刹那。ナイトハルトが起こしえたのは、奇跡の否定。
 インバーテッドクロス。混沌世界の可能性干渉を妨げるもの。
 彼の五指の指輪全てが煌めく――
 まるで流星の如く。燃え尽きる寸前こそ輝きが最もあるように。
 ロジャーズの。グリーフの奇跡を阻害してみせよう。
 ……だが、そんな事は容易く行える事ではないのだ。
 概念に等しいモノを妨害できるのはナイトハルトの長い、永い旅路の成果だが。
 それでも彼から多くの力を削ぎ落とす形となる――
「――――」
 さすれば一瞬。本当に一瞬。
 ナイトハルトが『呼吸』をした。
 それは地平の彼方まで駆け抜けんとした者が、疲弊の極致故に零した吐息のようなもの。
 身体の力が抜ける。ほんの一秒か、二秒。
 『決定的な隙』が、生まれた。
「遂に見えたな、限界が」
 見逃さなかったのがプリンだ。
 一気に接近。自らに防の加護を巡らせ万全としつつナイトハルトへ撃を成そう。もしもナイトハルトがもう一度、インバーテッドクロスを使おうとしても。二度目の妨害は成させない。僅かの時を稼がんとプリンは全霊尽くす。
 と、同時に……プリンはギルオスがいるであろう方向へ視線を滑らせようか。
 彼は、救われただろうか。
 前なら感情の儘に護りに行っただろう。昔、懐いていた相手でもある。
 だが今の己は合理を優先する。優先事項は元凶の破壊。
 だからこそ此処にいる。ナイトハルトを止めに来ている。
 ……ただもし。もしも一つだけ言葉が届くならば。
(生きれるならば、生きておけよ)
 死人よりも、生人の方が価値はある。
 そして生をこそ紡ぐ為――眼前のこの男は止めてみせよう。
「オレは」
 イレギュラーズの仕事を完遂する。
 ――何があろうともだ。
 イレギュラーズの本懐を忘れはしないのだから。
「ぐッ――だがこの程度ならばまだ――!」
「まだなのはこっちもですにゃー! 旅人にゃんこの意地、見せてやりますにゃー!」
 プリンを迎え撃つべくナイトハルトが力を籠めた、が。続け様にみーおが介入。ナイトハルトの指輪を狙いて、撃ち抜かんとする。混沌世界でパンをこねこねしたりして幸せ満喫中なのですにゃ……幸も不幸も人によって違うのだろうけれども。
 それでもみーおは――みーおの幸せの為に。
 どんな危険があろうとも戦い抜いてみせる!
「ナイトハルト……混沌世界は、終わらせませんにゃ!
 混沌世界は、みーおの幸せは……まだまだ続いていくんですにゃ――!」
 みーおもまたパンドラの加護を纏いて自己の強化を。
 ここが正念場。ここが追い一番。とっておきの一撃で――指輪を貫かんとする。
 一発でダメでも二発でも三発でも。限界を超えて彼方まで切り拓くのだ!
 さすればナイトハルト自身のみならず、指輪自体も限界が近かったのだろうか。今までに一度もした事がない程の長期間の力の行使が故に……指輪自体に亀裂が、入った。
「馬鹿な」
 驚愕。今までに一度もなかった事だ、と。
 焦燥。このままでは負けてしまうかもしれない、と。
 歓喜。あぁ――僕の後輩達は。
「なんて素晴らしいんだ!」
 全身を迸る痛みこそ心地よい。
 この世に存在するイレギュラーズ全員が『レベル1』の混沌法則からスタートするのなら、僕に勝てる道理なんてない筈なのに。彼らは超えていってくれるのか。もしかしたら彼らなら僕のたどり着けなかった所まで行ってくれるだろうか。
 神を直接ぶん殴る所にまでだって――
「なんだか嬉しそうだねえ、ボクたちも今とても愉しいよ」
「今日は素晴らしい催しを大変愉しませて頂いたよ。本当に、ありがとう」
 そして、往く。ソアとマルベートが。
 ナイトハルトの終焉獣操作も最早おぼつかなくなってきているのだろう。彼らの動きには一切の統制が見られない……であれば『お終い』が近いのだとソアは感じ取っている。故に。
「先輩だって言うなら、ボクたちが貴方を終わらせてあげる。それが後輩の役割だもの。
 いつだって先人を超えていくのが、後に続くボク達の成すべき事だよね」
「さあ、愛すべき世界に! 闘争に! 共に祝杯を挙げようじゃないか!
 宴が終わるのは名残惜しいが、だからこそ盛大に! 終焉に相応しい音色を奏でよう!」
 戦場に二つの軌跡が生じた。
 ソアとマルベートが至高たる速度をもって戦場を駆け抜ける。
 狙うはただ一点。ナイトハルトの命のみ。
「ハハハ――ハハハハハハ!!」
 されば歓喜と共に迎えよう。ナイトハルトの背後に浮かびし無数の魔法陣より迎撃の神秘が放たれる。虚空穿つ不可視の杭。轟音響かせる雷撃。万物焼き尽くさんとする炎渦。呪いを宿した黒霧――古今東西の神秘が襲い来るようだ。
 が。ソアもマルベートも止まらない。
 本能の儘に駆け抜け。まるで一匹の獣のように……
「その血肉、喰らわせてもらう!」
「逃がさないよ。メインディッシュは――命なんだから」
 数多の撃に身を灼かれながらもマルベートは致命傷だけは躱し切り。
 呼応するソアも傷を厭わず――跳び込んだ。
 死の雷として。その爪を首に突き立てる――ッ!

 ――血飛沫、舞う。

 世界が紅く染まる。あぁ、なんだか、懐かしい感覚だ。
「――――」
 そうだ。妹を喪った時だ。
 憤怒の感情に支配されるかの如き感覚に似ている。ハハハ。
「ァあ」
 永く、歩いてきた。
 神をぶん殴る為だけに生きてきた。
 その為には何を犠牲にしても良いと思っていたし、実際そうしてきたが。
 ここで終わるとは。
「あァ……」
 抉られた首筋。出血を右の手で押さえながら、地に座り込もうか。
 丁度背中を預けられそうな岩もある。
 まぁ血は止まらない。致命傷だしそれはそうか。
 吐息、零す。
 あと何十秒か。このクソったれな世界にまだ生きていられるのは。
「よ。まだ生きてる? まぁ、あんたは強かったよ。ホントちょっとだけね」
 その時。まだ耳が通じる内に言を零しにきたのは、茄子子か。
 どうせ笑顔で死ぬのなら、こっちだって笑って看取ってやる。
 世界はちゃーんと救っとくから。
「精々恨んでなよ」
「ハ、ハハ――そうだね、恨んでおこう、うん。君達なら出来るだろう……」
「ナイトハルトさま、貴方の道は、認められません、でした、が……
 貴方の想いも、祈りも……繋いでいきます」
「もう十分やりきったでしょう。神への怒りも。復讐も。
 あなたの本来の使命は私達が担う。だからもう休んで」
 続け様にはメイメイも祈りを捧げる様に。
 先輩を乗り越えていくのだから後輩の務め――いや権利だからと。
 貴方の旅の終わりを見届ける。そして先に……進む為に。
 同様にアンナも告げるものだ。後輩として先輩を超えていくと。
 イレギュラーズとしての使命は、私達が全て持っていく。
 さすればナイトハルトは口端に笑みの色を灯し、応えと成そうか。
「誰も、死んでいませんね。誰も、失われていませんね。
 皆さんが無事で、良かった。守れて、良かったです」
 そしてグリーフも、薄れていく戦場の殺意を感じ取りながら呟こうか。
 イレギュラーズ達は生き残ったのだ。無論、最後にして最強たるイノリが残ってはいる、が。
 この場の戦いは、終わったのだ。
 ……目が霞んできた。いよいよ終わりか。
 イノリ。妹の事を想う君には共感すべき所が多かった。
 君に出会わなければ、もしかすれば怒りの心を抱きつつも僕は彼らと共にあったかもしれないが。
(まぁ、詮無き事か)
 さぁて終わろうか――と、想ったその時。
「ナイトハルト。わたしの全てをあげるわ」
 メリーノが、告げた。
 刹那。視界に広がるは……なんだ? 草木の生い茂る大地――
「せめて良いゆめを」
「メリーノ様、どうか届かせましょう」
「だけどよさっきも言ったろ、絶対帰るぞ――!」
 それはメリーノに宿りしギフトの一端。それを奇跡によって拡大せんとしているのか。
 だって苦しいものね。大切なものをなくしたまま生きているのは。そうして死んでいくのは。
 妙見子や牡丹も力を貸さんとしている。セレナやマリエッタも共に背負わんとして。
 ずっとずっと楽しかった。羨ましかった。だからいなくなるなんてセレナは嫌だから。
 あしたの事を語りたいから。綺麗な月を見上げたいから。
 ナイトハルトに幸福な最後を見せながら――生き残らんとする。
(やぁれやれ、誰も彼も馬鹿だなぁ……終わる者の最期に賭すのか……)
 奇跡を割るなど出来ない。奇跡は容易くない。
 そもそも満身創痍の者もいる。恐らく数人命を落とすかもしれない。
 帰れないだろう。帰れない、だろう――から。

「神様になんて、あげてやれるものか」

 紡がれる奇跡の代償は、ナイトハルトが踏み倒した。
 インバーテッドクロス。最後の力をもってして……
 神様になんてなにもくれてやらない。
 ――精々幸せに生きてから、死ね。
「ナイトハルト……」
「ナイトハルトパイセン、逝くのか。足元照らす太陽になってやりたかったけどな」
「来世があったら、予約で頼むよ」
 ま、僕は一足先にお暇させてもらうが。
 秋奈にも最後の言葉を交わして……そして。
「待テ」
 刹那。言を紡いだのは……フリークライ。
 一つ。一つだけ最後に質問があるのだ。
「妹ノ名前 覚エテイルカ?」
 答えろ。息絶える前に……墓守だからこそ問わねばならぬことだ。
 我ヤDr.フィジックと同様に
(敢エテ 語ラズ 自分達ダケノ 思イ出トシテイルノナラ――)
 それでも良い。だが頼むならば。祈るならば。
 即答してほしい。
 もしも忘却の彼方にあるのならそれはとても、悲しい事だから。
「無論だ。忘れるものか。根源を忘れるものか。
 ソラ。ソラだ――ソラ・セフィロト。僕の愛しい妹……」
 同時。ナイトハルトは中指の指輪をさすろうか。
 それは本来、他の指輪が宿すそれぞれの強大なる神秘を暴発させず、完全なコントロール下に置く協調の役目も担っていた。五つの中心。制御の要として……が。それ以外にもう一つナイトハルトにとっては別に重要な意味もあった。
 元々は――妹が持っていたモノなのだ。ある日、託されたモノ。
 遺品とも言おうか。家族との最後の繋がり。
 精密な制御を気にしなければナイトハルトにとって必要ない代物なのだが。
 これを使うたび、妹がそこにいるように感じられて……

 ――兄さん。兄さんは魔術気ままに使いすぎです。下手くそなんですか? コレ持っててください。
 ――わぉ辛辣ぅ♪

 あぁ。一瞬見えたソレは走馬灯かな?
 いよいよお時間が来たようだ。全くもう……

「僕は君達の味方にはなってやれないけれど死に際ならば祈ってあげられる」

 瞼を閉じる。最後は見せてくれた懐かしの光景と共に。
 終焉の者ではなく。イレギュラーズとして語ろう。
 君達の行く末に幸あれ。

 幸運を。後輩たち。

成否

成功

状態異常
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)[重傷]
饗宴の悪魔
コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
ソア(p3p007025)[重傷]
愛しき雷陣
星影 向日葵(p3p008750)[重傷]
遠い約束
ユイユ・アペティート(p3p009040)[重傷]
多言数窮の積雪
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)[重傷]
月夜の魔法使い
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)[重傷]
そんな予感
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)[重傷]
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)[重傷]
夜守の魔女
紅花 牡丹(p3p010983)[重傷]
ガイアネモネ

PAGETOPPAGEBOTTOM