＜終焉のクロニクル＞始まりのレクイエム

オープニング

●始まりのレクイエム
　君達はどれ程の道を歩んできた？
　今までこの世界で、どれ程の者達と意志を交え。
　今までこの世界で、どれ程の死闘を繰り広げてきた事だろう。

　その歩みに、どれ程の価値があった？

　この世界は救われるべきか？
　それほど価値のある世界か？
　――少なくとも僕はそう思わない。

「この世界は――神は勝手がすぎる」

　ナイトハルト・セフィロトは自らを『始原の旅人』と名乗る。
　だがそれは誤り――いや正確ではない、と言うべきか。
　真なる『始原』は彼の『妹』だった。
　この世界の神に呼ばれた兄と妹。
　ほぼ同時だったが、恐らくタッチの差で妹の方が先だった。
　……旅人は全てイレギュラーズだ。であれば彼女もまた、世界を救う可能性を秘めた者だった、が。しかし――彼女はつまらない事で死んだ。ありふれた死の一つ。定命であればいつか迎える結末の一つ。
　だがそんな事、納得できるか。
「神が呼ばなければ迎えた結末はきっと別のモノだったはずだ」
　この世界に呼ばれた者は『混沌法則』に縛られる。
　元々力強き者にとっては力を奪い取られるに等しい、この世のシステムだ。
　――ナイトハルトはその影響を甚大に受けている。
　混沌法則に縛られなければ。きっと己は妹を救えた。
　こんな世界に呼ばれていなければ。きっと、きっと。
　この世を、この世のシステムを越えなければ。
　それが練達の始祖たる者の夢。
　この世を壊す。この世の神を殺す。
　ただそれだけを夢に生きてきた。

　最初期は只管に己を鍛え上げた。神に奪われた力を取り戻す為に。
　続けては足りぬ時を稼ぐために神の目を誤魔化す研究に没頭した。
　百年程度では時が足りぬ。届かぬ天に指を掛けるだけでも永き時が必要だったから。
　混沌法則にもなにがしかの隙と穴がある筈だと。そう信じて。
　中期に至りては憤怒と嘆きの最中にあったか。
　どれ程の研究をもってしても。どれ程の研鑽を得ようとも、届く目算至らぬから。

　……あぁその折だっただろうか。
　彼に。イノリに会ったのは。
　永き旅の中で。半ばやけっぱちになって終焉の地へと赴いた際に。
　僕は彼に会ったんだ。
　そして僕は彼に『共感』した。
　彼の目的を知った時に。彼の見ている先を知った時に。
　だから僕は希望の可能性を秘めたイレギュラーズでありながら、彼に与する。
「さて。皆もそろそろ始めている所かな？」
　ナイトハルトは瞼を閉じよう。その裏に想起するは、己と立場を共にする者達。
　ファルカウ。ドゥマ。ヴェラムデリクト。ステラ。オーグロブ。ホムラミヤ。
　皆もまた、それぞれの理由があってこそイノリやマリアベルに与している。
　然らばナイトハルトは――なんとなし苦笑するものだ。
　本来僕はこっち側ではないのだろうけど。なんの因果か、全く。
「マスター」
「――あぁノア。丁度いいタイミングだね。うんうん。
　敵がやってくる。僕の愛しい後輩達だ。
　きっと彼らは全力で。全霊で立ち向かってくるだろう――
　抱きしめたいけれど、そういう訳にはいかない。
　全部殺してくれるかな？」
「承知シマシタ。オノゾミノ、ママニ。ソレガ望ミデ、アルナラ。
　コノ身全テヲモッテ、敵ハ全テ――通シマセン」
「うんうんいい子だ。頼んだよノア。流石は僕の傑作だ」
　と、その時だ。ナイトハルトの傍に現れたのは……まるで人形が如き存在。
　『ノア』と名付けられたソレはナイトハルトの忠実なる僕。
　方舟の名を冠し。しかし滅びを内包する『特別な』人形。
　プーレルジールで得た研究成果で作り上げた滅びのアークの結晶――
　彼女の髪を撫ぜてやりながら最前線へと送り込む指示を出そうか。
　……誉める口調ながら、なんともわざとらしい様な色を端に含んでいるが。
「あ。それと彼は……ヴィッターはどうした？　見かけたかい？」
「ハイ。先程、ナニヤラ武器ヲ手入レシテイタ、ヨウデス」
「そうかそうか。彼も本気でやる気だね――ふふふ。
　我欲に満ちてる子達は本当にかわいいものだ。応援したくなる。
　何がどうなるにせよこれが最後だ。皆、満足するまでやるといい」
　同時。ナイトハルトはもう一人の協力者の顔を想起しようか。
　ナイトハルトに協力する『旅人』がいるのだ。まぁそれはナイトハルトの思想に共感している訳ではなく、あるイレギュラーズに固執しているが故だが……それもまた良し。ナイトハルトにとっては欲の儘に動く者は実に好ましいのだから。
　邪魔にならないのなら存分に動くがいい、と。告げようか。
　あぁ。
　僕は、どれ程歩んできたのだろう。
　世界なんぞ救ってやるかと憤り。
　その心を隠し。笑みの色を常に顔と言の葉に張り付けながら。
　僕は、どれ程歩んできたのだろう。
　だがそれも遂に終わる。
　神よ。滅びの時だ。あぁ――

　――終焉の時は来たれり。

●
　終焉の地。『影の領域』とも呼ばれる場には『終わり』の気配が溢れていた。
　イレギュラーズ達は今まで何度と破滅的な気配に立ち向かって来た……七罪らの大規模な活動などその顕著たるものだろう。他にも海洋王国での戦い――滅海竜リヴァイアサンという神威に対しても絶望的な気配を感じえたか。
　が。終焉の地より零れ出でている気配は、また異質なものだ。
　世界自体が哭いている。
　敵が強大だから――とてつもない権能の気配があるから――
　そういう類とは違うものだ。
「さてさて。特異運命座標（アリス）、いよいよこの時が来てしまったようだね。
　元よりいつかはやってくる、とされていたものだが」
「こんな時でも飄々とした口調は変わらんな……危機感、という概念は知っているか？」
「まァまァ。これでも現状認識は出来ているでしょウ――恐らくの話ですガ」
　言の葉を紡ぐのは練達の三塔主の内の一人、マッドハッターか。傍には同じく佐伯 操やファン・シンロンの姿もあった。
　練達といえば先日Bad end 8が一角に襲撃を受けたばかりだ――しかしイレギュラーズの奮闘により辛くも敵の目論見は砕かれ、こうして終焉の地に増援を送る事が叶う余力を維持出来た。むしろ練達に開かれたワームホールを利用して逆侵攻を計画も出来たか。
　世界の終わりを感じればこそ余力を取っておく意味などない。
　先に開かれたフォルデルマン三世主催の会談の結果で――世界各国の歩みも揃っているのだ。持ちうる限りの全てをもって此処へ至っている。マッドハッター達が珍しくも此処にいるのはそういう事の一環であり……
「そして無論、来ているのは私だけではないようだね」
「――鉄帝国も支援しよう。どいつもこいつも、こんな緊急事態にむしろやる気を出している連中が多すぎて困……いや、臆するよりは遥かにマシだが、うむ……」
「さー頑張ろうね！　どこを見ても敵だらけなら、全部斬ればいいって事だよね！」
　更には練達勢のみならず鉄帝国の者の姿も見えようか。
　それはゲルツ・ゲブラー (p3n000131)やアウレオナ・アリーアル (p3n000298)だ。その背後には最終闘争に闘志を燃やす鉄帝国軍人やラド・バウ闘士の姿もある――戦う事が本懐とする者達の瞳に恐れの感情は見られない。
　ゲルツは自国の相変わらずな様相に吐息を零すものだが。
　しかし世界的な終わりに恐怖する者も多い中、彼らの気概は実に頼りになるものである。
　今、この時戦わねば、全てが終わってしまうのだ。
　脚が竦んで動けない場合ではない。
　少なくとも戦える者にとっては……！
「し、深緑も加勢します……出来る事を、少しでも……！」
「――ありがたい。今回ばかりは、イレギュラーズ達だけでなんとかなるとは限らないからね。確認されている限りでも敵の数が多すぎる……それに、潜んでいる連中もいそうだ」
　それに勇気を振り絞りこの地に来ている者もいるのだ。それが深緑に住まう民であるメレス・エフィル (p3n000132)――駆けつけてきた迷宮森林警備隊と共に、かつてザントマン事件の折に救われた恩義を返しに来た。
　怖い。恐怖はある。だけど、今この時、助けてくれた皆を助けられなくてどうするのか。
　メレスは奥歯を噛みしめながら眼前を見据える――
　さすればローレットの情報屋として奔走していたギルオス・ホリス (p3n000016)はメレスらに感謝の意を伝えながら……しかし警告の声も走らせる。
　この場における最大の脅威はナイトハルト・セフィロト。
　彼を妥当しない限りこの戦場を抜く事は叶わないだろう――
　しかし。敵は確実に『彼だけ』ではないのだ。
「ギルオスさん……うん。私も感じる。きっと『あの人』もいる」
「全部ぶちのめしてはみせるけどね。やっぱり最後はハッピーエンドでないと！」
　その予感を感じているのはハリエット（p3p009025）か。ナイトハルトに与している、かつての知古の顔を彼女は思い浮かべる。彼もまたいる筈だ。ナイトハルトの近くか、そこまでは分からないが……
　しかしどうであれハッピーエンドはもぎ取ってみせる、と。同じく郷田 京（p3p009529）もギルオスに語り掛けようか。あらゆる戦いが今まであったが、きっとこれが最終決戦ならば――死力の尽くし所なのだから。
「ハリエット、京。あぁ……そうだね。そうだ二人共、あとでちょっと僕と一緒に来てくれるかい。僕はちょっと更なる増援というか――色々と声を掛けたい所があるんだ」
　ただ。彼女達を万一にも死なせたくないギルオスは未だ思考を巡らせている。
　この場には多くの者が訪れてきてくれているが。
　その中核は国家に関係している者が多い。
　まだ潜在的に味方になってくれる者達はいる筈だからと――そして。
「パイセーンにがさんぞ――！！　うおー！　いるでしょ、返事ぃ！！」
「――彼との決戦ですね。プーレルジールからの縁ですが、ここが終息地ですか」
「……どれ程、あなたが神を憎もうと、混沌はわたしの、大切は場所……！
　これ以上壊させたりなんか、絶対、しません……！！」
　その時。声を張り上げたのは茶屋ヶ坂 戦神 秋奈であり。
　グリーフ・ロスやメイメイ・ルーの姿も戦場に見えようか。
　ナイトハルトと幾度も邂逅した彼女らにはそれぞれの理由があり彼と相対する。更には。
「わたしたちは、終わらせない為に来たわよ。ナイトハルト」
　強き願いを瞳に宿し、メリーノ・アリテンシアも彼方を見据えようか。
　止めてみせる、その願いはと彼女は心に抱きながら。
　決着を付けるのだと――
　あぁ。
　君達は、この世界に必要とされている。
　外なる世界より訪れた者も。この世界にいて選ばれた者も。
　皆等しく、世界の希望なのだ。
　頼む。
　この世界を救ってくれ。

　滅びに立ち向かえる英雄達よ――君達の可能性だけが、明日を切り拓けるのだ！

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第2章

第2章 第1節

●選択肢追加
【3】『【ナイトハルト】への攻勢』が追加されました！
　ナイトハルト・セフィロトの姿が見えました。彼に対する攻勢や干渉を行う事が可能です――ただし、現時点ではナイトハルトの周囲には護衛戦力が多い為、この選択肢を選ぶと危険が生じる可能性が高いです。（要は重傷になる可能性や、パンドラ損耗が多い場合があります）

●『敵戦力』情報更新
・ベヒーモス（R.O.Oタイプ）：現実に存在するベヒーモス……ではなくR.O.O当時の戦闘データからサルベージされた存在です。しかし非常に強大な存在であるのは間違いありません。滅びを齎す――その化身が一角です。ただ襲来した竜をまずは狙わんとしているようです。
・ヴィッター・ハルトマン：ベヒーモスを指揮しながらイレギュラーズ達へと銃撃を仕掛けてきます。彼を撃破出来るとベヒーモスの動きが乱れる可能性があります。

・ノア：イレギュラーズの度重なる攻勢によって疲弊が見えています。しかしナイトハルトによって弄られており命尽きた瞬間、大量の滅びのアークを世界に放出する機能が存在していると思われます。その際、近くにいるとイレギュラーズのパンドラが大量に減少する可能性が解析されています。

・ナイトハルト・セフィロト：遂に姿が見えました。追加された選択肢【3】で彼への干渉を行う事が可能です――が、現状はまだ大量の終焉獣に護られる位置に存在している為【3】の選択肢を選ぶ場合はパンドラ損耗などの被害が大きくなることが想定されます。【1】や【2】で敵戦力を減らしていると、また状況が変動するかもしれません。

●『味方戦力』情報更新
・『薄明竜』クワルバルツ：ベヒーモスに攻撃を仕掛けます。イレギュラーズともある程度歩調を合わせる気はあるようです。
・『金剛竜』アユア：ベヒーモスに攻撃を仕掛けます。が、どちらかと言うとナイトハルトの放つ砲撃に対応する様です。（※ナイトハルトの砲撃による被害が減少する場合があります）
・『バビロンの断罪者』ネロ=ヴェアヴォルフ：終焉獣やノアに攻勢を仕掛けます。特に同類であるヴェアヴォルフらへと攻勢を仕掛けるつもりのようです。ただしナイトハルトに近付き過ぎると操られる危険があるので、奥には進めない様です。

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第2章 第2節

●
　大気が震える。それはベヒーモスの咆哮か、それとも滅びに抗う魂の叫びか。
　いずれにせよ――あそこで戦っている者がいる。
　それだけは確かな事だ。だから。
「僕も行って来ようと思う」
「――本気なの？」
「本気だ。あそこで戦っている皆がいる。
　世界の為に。親しい誰かの為に――ね、なら僕も行く」
　言の葉を紡ぐはローレットの情報屋たるギルオス・ホリスだ。
　彼の隣にいるのはイラス・カリスチーノ。
　ギルオスのかつての世界の知古であり――少し前にはギルオスの命を狙っていた者だ。
　それはかつての世界からの事情と彼女なりの情によるものだった。ギルオスは安寧の日々を送れはしないのなら、自らの手で終わらせようと。結論だけ述べるなら――結局その目論見は仕損じた。その後は身柄を確保されていたのだが……
「だから君にも協力してほしい」
「それこそ本気で言ってるの？　私の拘束を解けば……」
「いや君は狙わない。もう無意味だと、君は悟ってるだろう。
　京たちが君を拘束してくれたおかげで話す時間もあったしね――」
「まぁよしんば何かしようとしたら『また』ぶちのめしてあげるわよ」
　この世界の滅びを前に、ギルオスはイラスに協力を求める。
　一人でも戦力が必要なのだ。滅びに抗う意志が、この世界の全てを決める。
　ギルオスもイラスも旅人（ウォーカー）であるのなら。
　この世界に呼ばれた使命を果たす時が来たのだと――
　まぁ。今更イラスが何をしようとも京が防いでみせるけれど、と。
　背後よりイラスに視線を向けておこうか。
　何度か拳を交えたのだ。もうイラスの動きは見切ってもいるのだから。
「死ぬことはなにも救いになんてならないんだ。
　――僕は。この世界で出来た大事な者の為に戦う。
　だから君にも協力してほしい。かつての世界で、一緒に戦ってくれたように」
「……そうやっていつも誰かを理由にするから、解放してあげたくなるのに」
「性分だからね。きっとどこまでだって変わらないさ」
「……ん。ギルオスさんらしいよね」
　であれば。パンドラの加護を纏い、黒き竜のような姿へと変じているハリエットも、ギルオスへと視線を向けようか。
　『僕は生きていきたい。この世界で出来た大切な者の為にも』
　そんな彼の言葉に。イラスは『相変わらずがすぎるわ……』なんてある種、諦めたかのような吐息を零して。
「ナイトハルトの傍にいた事もあったんだろう？　彼への攻略の一助とかない？」
「ある訳ないでしょ。あの男はニヤケ面しながらも、決して手の内を晒そうとはしなかったからね……でも、そうね。あの男も旅人でありながら終焉獣に襲われないのは操る能力があるからだけど――あれはそこそこ負担になってると思うわよ」
　そうでなければ、負担がないのであれば。ギルオスらを襲撃した時やプーレルジールの戦いにおいて、もっともっと無尽蔵に数を貸し出していた筈だから。
「……あの人は、どうなんだろう。あの人にも負担があるのかな？」
「ヴィッターの事？　あれは指揮を委託されてるだけで、本人が操る術を持っている訳じゃないからね……ヴィッター自身は終焉獣を削るのとは別に倒すしかないでしょうね」
　と。ハリエットは戦場で姿を見せたヴィッターの事へと思考を巡らせようか。
　ヴィッターは前線――ベヒーモスの近くで暗躍しているはずだ。
　ナイトハルトが全体を見ている以上、最前線では彼が指示を出していると思われる。
　彼自身に終焉獣を操る負荷はないだろうが。
　しかしヴィッターを倒せば――終焉獣達の統率は大きく乱れる筈。
　ならば。きっと己を狙ってくるであろう彼にどう動いたものか、と思考して……
「いずれにせよ終焉獣達が無茶苦茶な数出てきてるけれど、その度にナイトハルトは自分やヴィッターが襲われない様にする為に支配操作を行ってるはず。終焉獣を倒せば倒す程――負担はもっと増えていく」
「成程。終焉獣を倒していくだけでも……効果は十分以上にありそうだね」
　イラス自身、ナイトハルトから借り受けた魔物を指揮した事がある故、理解が及ぶのだろうか。いずれにせよナイトハルトの力だって無限ではない――必ず攻略出来る道筋がある筈だ、と。

「面白い――この闘争、私も混ぜてもらおうか！」

　と、その時だ。高らかなる声が響き渡った。
　終焉の地に歩を進めしその者の名は――ディリヒ・フォン・ゲルストラー。
　遠い東。豊穣の地でかつて干戈帝と呼ばれた旅人の男である――
　常世穢国と呼ばれる事件においてイレギュラーズと敵対した事もあった者だが、渦中の騒乱における紆余曲折の末に命は助かり……豊穣を出でて混沌大陸側へと帰って来た。その後はプーレルジールでも一時姿を見せた事があった、が。
「やぁ、来てくれたんだね。
　プーレルジールでの暴れっぷり、ここでも見せてくれるとありがたい」
「ハッハッハ。招待に預かり光栄だと述べておこうか！
　しかし世界の命運を掛けた戦いとは……なんと胸躍る響きであろうか！
　戦わねば死ぬ。うむ、じつに宜しい！
　魂を掛けた闘争は極限状況の中にこそあるのだ――
　ならば往かぬ理由はない。行くぞ征堂、最後の供をせよ！
　臆したが如く見られれば、先だって旅立った者になんぞや言われそうだ！
　常世穢国より生き永らえたはこの戦いの為にあったと思え――ッ！」
「ハッ、承知ッ――！　万象悉く滅してみせましょう！」
　ギルオスからの招待と、なにより大闘争の気配を察知して魂赴くままに駆けつけてきたらしい。
　傍には柳・征堂なる、ディリヒに付き従う者もいようか。征堂からは、その内より莫大な狂気の気配が感じられるが……主たるディリヒには忠実であるようだ。その敵意は全て終焉側へと向けられている。イレギュラーズ側を襲う事はないだろう。
　闘争を好むディリヒは強者の下へ向かわんと視界を定めようか。
　――彼方にいるナイトハルト。奴の首でも取ってみせんと！
「偲雪よ、雲上よ。貴様らが望んだ太平の世――果たしてみせようぞ」
　同時。ディリヒが思考するは、常世穢国の主犯であった存在。
　偲雪という、かつての帝だ。
　彼女は皆が心穏やかで差別のない太平の世界を望み、魔種へと堕ちた。
　歪み切った願いは他者を洗脳してでも、という強硬手段を取らせたが。
　それでも根底にあったのは優しさだった。
　ディリヒもその優しさで救われた者の一人である――
　恩があった。故に加担した。そしてだからこそ世界を滅ぼさんとする意志に抗おう。
　――故に。
「あぁそれと。もう一人加わっても構わんな？」
「――？　味方になってくれるなら、まぁ」
「我が身は豊穣より放逐されたが――縁は残っていてな」
　『来る』のだ。『世界を滅ぼしたくない』意志を持つ者なら。
　ディリヒが滑らせた視線の先。そこに在るは一人の女性の姿。
　その腕に抱きし旗は、理想の証。

　――百合草 瑠々（p3p010340）の姿であった。

　彼女は偲雪の思想に賛同し狂気へと堕ちたイレギュラーズ。
　常世穢国での戦いによって行方不明になっていたが……
　世界の滅びを前に、その姿を現わした。
　その理は。このままの世界の行く末が主の望みに反するから。
　彼女は偲雪に傾倒し狂気に堕ちえども魔種へと変じた訳ではない。
　であれば終焉に属する訳もないのだ。とはいえ……
「あぁ。全く、数奇なものだよな」
　口端に笑みの色を灯しながら――
　彼女は旗を抱こう。
　されば。同時に『何か』の神秘が展開しようか。
　瑠々の身に纏われるようなソレは偲雪の力の残滓だろうか。
　偲雪が滅びて尚、しかし微かにだけ残っていた常世の名残。
　静謐の意志。太平の意志。
　常世の力が滅びを阻む結界として命の崩壊を阻まんとする――
　あぁ。主の望まれた世界は死満つる世界ではない。
　だからこそ戦おう。今一度『こちらの側』で。
　己が魂の儘に。
　この胸に狂おしいまでに抱いたのは――滅びの地平ではないのだから。

　理想は潰えども、夢は未だ紡げるのだから――！


　※新たに到来した味方戦力がいるようです――！


●新たに到来した味方戦力
・ディリヒ・フォン・ゲルストラー：非常に果敢に敵陣に攻勢を仕掛けます。【3】のナイトハルトを狙わんとするようです。【3】に行く方々の援護を行います。死闘万歳！
・柳・征堂：非常に果敢に敵陣に攻勢を仕掛けます。ディリヒを支援しつつ終焉獣などをぶちのめします。非常に攻撃的な人物で狂気を秘めていますが、その狂気性は終焉勢力にのみ向いている様です。

・百合草 瑠々（p3p010340）：かつて豊穣に存在した正眼帝の影響を受けたイレギュラーズです――しかしその狂気の根底は、平穏を願う意志によるものであったからか、世界の滅びに対して抗いの立場を見せています。不思議な神秘を纏っており、彼女の周囲ではパンドラの減少が緩やかになる場合があります。【1】や【2】において援護を行います。

・イラス・カリスチーノ：終焉獣に対して攻勢を仕掛けます。彼女からの情報によると、新しい終焉獣が出てくるたびにナイトハルトの負担が増えているとの事です。その為、終焉獣を狙うつもりのようです。
・ギルオス・ホリス：皆さんの援護を務めます。本職は情報屋ですがある程度の戦闘力があり、戦えます。終焉獣などに対して対抗するつもりのようです。

●齎された情報
・終焉獣が新たに出現する度に、ナイトハルトは攻撃されないように干渉を行っている様です。その為、終焉獣を倒して新たな増援が来るたびにナイトハルトには徐々に負担が溜まっています。

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第2章 第3節

●
　悪意と正義の激突。
　人狼種とは終焉獣の一種であり――人を喰らう為に人に化ける事が出来る者達だ。
　本質こそが狼。人喰らいの一族。滅びを齎す悪意の化身。
　しかし。ネロ=ヴェアヴォルフは正義の側に立とう。
　恩ありし人間達の為に。友たる者達の為に――！

「……ネロさん……話は聞いてるよ……ここまで来てくれてありがとう……
　……やっぱり……『あっち』のヴェアヴォルフとは……気配が、違うね……」
「フッ、そうだな……『あちら』と私は違うものだと考えてもらっていい。
　種族が同じだと思う必要もない――存分に打ちのめそう」

　告げるはグレイルだ。引き続き彼はヴェアヴォルフを掃討せんと力を振るう。
　味方してくれるネロと共に。無茶が出来ないというのなら――
　僕達が『無茶』を担当するだけだ、と。
（……アセナ……今まで僕と戦ってくれてありがとう……
　でも。あと一歩。あともう少し……
　無茶をしてでも……ここが正念場なんだ……力を貸してくれるよね……？）
　同時。グレイルが思考するのは自身の分身とも言うべき――神狼。
　それは彼の紡ぐ魔術の織り成す存在である、が。
　変わらない。グレイルにとっては此処まで数多の戦いを駆け抜けた戦友が如き者。
　――不思議と。アセナもその想いに応えんとする遠吠えを天へ。
　直後には駆け抜けようか。繰り出される氷雪の嵐が道を切り拓かんと！
　呼応してネロもまた斬りこむ――先に告げた様に同種であろうとも容赦はない。
　彼らは同じではないのだから。滅びを齎さんとする者と、阻む者として――！
「ネロさん……ネロさんだ……！　本当に、生きていてくれたんだね……！
　君が生きてて、また会えて本当に嬉しい……！」
「ネロさん……本当に貴方なんだね……
　っ、よかった……よかった、本当に……ごめん、泣いてる場合じゃない……
　分かってるけど……っ、よし、大丈夫。また、一緒に――歩もう！」
「――心配をかけてしまったな、二人共。あぁ、だが私は確かに此処にある！」
　さればそんなネロの傍にて、再び戦う姿を重ねるは――ヨゾラに雲雀だ。
　雲雀の声には思わず涙ぐむような感情の色も混じっていようか。
　天義での戦いの折、言葉を交わした。魂を通わせた。
　二度と会えぬと思っていた。果たせぬ邂逅は永久にと――
　目尻に灯る熱を指で弾き、しかし今はと闘志を猛らせようか！
「楽園追放……新しい力、ネロさんの前で存分に振るわせてもらうよ！
　恰好ぐらい付けさせてもらわないと、ね！　ネロさんの――前なんだから！」
　然らばヨゾラは星空の神秘を纏う身へと変じようか。
　蒼き衣が包み込み、星々の煌めきすら宿している。
　――その身から放たれる至極の一閃。誰が止められようか。
　終焉獣らが薙ぎ払われていく。あぁネロを二度と傷付けさせてなるものか――！
「戦おう、これからも。生きていくために。一緒に……未来を紡いでいくために……！」
　続け様には雲雀もネロの支援をせんと、彼に撃を成さんとする者を叩き伏せる。
　それは堕天の輝き。敵のみを穿つ神秘なる一撃――
　失ったと思われていた大事な人を護れていた。
　その事実があるだけで……今は十分だ！
　もう何も迷わない、何も怖くない！　目の前には明日の光だけが満ち溢れている！
　――雲雀の胸中には活力が沸き上がっていた。
　それほどまでにネロの生存は彼の想いに衝撃を与えていたのだ。
　だから。
「生きて帰る為に、最後まで戦い抜いてみせる！！」
「あぁ最後まで戦うぞ――勝利をつかみ取ろう！」
　勢いは続く。ネロの人狼たちは同種である、が……
　同種でありながらも、その力は明らかにネロの方が優れているのを感じえた。
　人を騙さんとする魂に染まるヴェアヴォルフ達は、その力を詐称に割いており。
　人を騙す生き方をしなかったネロは――人を救う力に注ぎ続けたから。
　斯様に歴然であればこそ！　そこに雲雀やヨゾラの力もあれば劣る理由なし！
「この、バカ犬！　大馬鹿！　あんぽんたん！
　言いたい事は山ほどあるし！　待てとか言ってないのに来るのが遅いし！
　ああもう、ああぁ、この――！！」
　と、その時だ。ネロに対して思いがあるのは、鈴花も同様であった。
　百万個の言葉を紡いでも足りない気がする。消えてしまって、また現れて。
　どれだけ人の気をかき乱せば気が済むのか――
　ホントのホントに遅い、けど！
「……待ってたわよ、バカ！」
「すまない。待たせたか――だが私は帰って来た。帰って、これたのだ」
「ったくッ……！　身体は、一応万全そうかしら？　なら……行きましょ。一緒に！」
　二度とアンタを喪わせないから。
　――往く。かっこよく護りながら戦うのはガラではないから。
　その隣で。思う存分に想いを弾かせてもらうとしよう。
「今のアタシはサイコーに調子がいいし機嫌がいいの！　だから近づかない方がいいわよ！　近付くってんなら……覚悟する事ね！　思いっきりぶん殴ってあげるわッ！！」
　人狼共をぶちのめす。終焉獣をぶちのめす。
　蹴って殴って打ちのめしてネロと共に進むのだ。
　気力が満ちる。かつてない程に――！
「……ネロさま、ずっとずっと、待っていたのです、よ」
　そして――メイメイもまた言の葉を紡ごうか。
　懐かしの毛並み。暖かくも優しいソレに触れながら……
「ふふ、この手触りは本物、です」
「偽ではない。私は確かに……此処にいる。戻ってこれたのだ」
「はい。わたしの、あたたかな……友。もう一度、歩みましょう……
　……さぁ、行きます、よ！　今度は、共に――
　世を救った後の、地平を、見ましょう……！」
　立ち塞がらんとする終焉獣達を――蹴散らそう。
　ネロの突進。それを援護する様に、敵地を制圧していく。
　化を傷付けさせてなるものか、と。彼女は得し加護を維持しながら突き進もう。
　ネロさまの事も、駆けつけてくれた人達の事も。
「奇跡だけじゃない」
　今までの歩みがあったから、この景色があるのだ。
　……ナイトハルト様。貴方が顧みなかったものです。
　全てを些事と切り捨てているであろう貴方に――
「この、私達を、倒せますか……！」
　彼女は警戒する。ナイトハルトの操作の権能が至ろうと。
　ネロを護ってみせる。させるものか……もう彼の生に、悩みなんて持たせない！
　終焉のヴェアヴォルフ達が自我を喪う様を――練達で知っている、から。
　させない。
　操るのではなく。主従でもなく。友としての道を、知っているから！
「よし、私も続くよ！　周りの終焉獣を倒すだけでも、あのいけ好かない奴に負担を掛ける事が出来るんだね？　だったら――いくらでもやり様というモノはあるよ！」
　更に藍も敵陣の傷口を広げるように攻勢を仕掛けるものだ。邪悪を裁く光を放てば、ものの見事に滅びの属性を宿す終焉獣らのみを穿とう。そしてそのままより強大たる魔力の奔流をもってしてトドメと行く――
　倒せば倒すだけ皆が楽になる。倒せば倒すだけ相手に負荷を掛けられる。
　ならば容赦はすまい。周囲の情勢は式神を用いて警戒もすれば、万全だ。
　万全の儘に――滅びを齎さんとする連中の横っ面を打ちのめすのみ！

「あぁ宴も中程といった所かな。
　宴に参加する者も舞い込んで……大分盛り上がって来たじゃないか」
「お姉さま。ボク、愉しくなってきちゃった。
　――でも。もっと、もーっと、愉しんでいいよね。我慢なんて必要ないよ、ね」

　直後。戦場を謳歌するは――マルベートにソアだ。
　終焉獣を狩るだけでもナイトハルトには疲弊が及ぶと聞いた。
　ならば。やはり己らは己らの儘に……
　宴を楽しめばよい。
　――往く。雷纏うソアは正に閃光の如く。
　音を超え光と成す。爪立てるは敵の身か、空の断絶か。更にその瞳に捉えしはヴェアヴォルフ。ナイトハルトの周囲で護衛せんと動く者らを中心に狙い定め、ソアは蹂躙しよう。されば敵も無論ソアを阻まんと抵抗の意志をみせる……が、そこをマルベートが支える。
　双槍斬撃。漆黒二閃。
　ソアの身を裂かんとする人狼を――喰らってみせよう。
「あぁ、愉しいな。あぁ――ソアの言う通りだ」
　刹那。ふとマルベートが言の葉を零す。
　己が力を己が儘に振るえる。己が欲を己が儘に振るえるという事。
　至上の悦楽。魂の歓喜を――どこかに感じ得る。

　――もっと愉しみたいものだ。

　少なくとも、今この時は。
「存分に味わわせてもらおう」
「うん――お姉さま、一緒に行こう」
　乗って来たのだからとソアも口の端に笑みの色を灯す。
　狩る。狩る。狩り尽くす。
　『この』状態のボクを止めるには数が足りなすぎる。
　空を薙ぎ。敵の身すら地と成して跳躍の一端としようか。
　さらば地を滑空するが如く彼女の速さは更に増して――

『――――――――！』

　だが大地を震わすが如き咆哮が周囲を満たせば。
　直後には凄まじき衝撃が戦場を跋扈するものだ――
　それはベヒーモス。ナイトハルトの隠していた秘策が一端。
　奴は今、襲来した竜を主に狙わらんとするものの……余波だけでも無視出来ぬ圧がある。
　――だからこそ。
「うむむ、このようなデカブツを隠しておったとはの！
　しかし――こちらにも思わぬ援軍が至ったようじゃからの！」
　夢心地が動いた。
　クワルバルツを狙うベヒーモス――の横っ面を叩きつける様に、彼の力が舞い込もう。
　そうそれは……夢心地ビームである……！　彼より放たれる全霊が巨体へと直撃。如何な存在であろうとも衝撃が重なれば……耐えられぬ時はいつか来る……！
「薄明竜よ、今ぞ！　余計なお世話とは思ってくれなかれよ。
　なにせ相手が相手。状況が状況じゃからな。
　ここで仕損じれば世界が滅びるがゆえ――！」
「フッ、イレギュラーズか――宜しい。
　お前達の力は……まぁ……それなりに認めてやっている。
　邪魔立てとは思うまい。お前達も存分に力を振るうがいい。私も振るおう！」
　然らば夢心地の援護を受けながらクワルバルツは重力の力を振るう。
　ベヒーモスを押しつぶさんとするが如く。奴の動きが鈍る――
「やっほークワルバルツちゃん！
　来てくれたんだね！　よーしこのまま一気に……というのも良いけれど。
　どっちがベヒーモスにダメージを与えられるか――競争といかない！？」
「競争？　ほほう面白い。私にとっても世界を救おうなどと高尚な事を想って来た訳ではない……人の身で我と競えると思うなら――その可能性、この薄明竜に見せてみるがいい！」
　其処へ更に斬りこむ姿を見せた人物がいた――サクラだ。
　クワルバルツにより深い攻勢を仕掛けさせるための煽り……ではない。
　竜と本気で勝負するつもりだ。あぁマトモに勝負して勝つのは難しいだろうけど。
「それを乗り越えての剣士だよ――！　行くよ、ベヒーモスッ！！
　虚だろうと現の存在だろうと……やるべき事は何も変わらない！」
　困難であれば困難である程に。サクラは己が血が騒ごう！
　剣撃一閃。ベヒーモスの足元の動きに警戒しながら、潜り抜ける。
　死線を。迂闊足れば引きずり込まれる三途の狭間で、しかし。
　彼女の剣の軌跡は――一片の陰りも無し！
　同時にクワルバルツもベヒーモスへと一撃。重力の槍がかの巨体を貫いて……
　と、その時。
「クワルバルツ――ねぇ、一つお願いがあるんだけど。背中に乗せてくれないかな」
「背中――？　貴様、竜の背中に乗ろうなどと、その意を知って言っているのか？」
「勿論。伝説の再現、だよ！」
　治癒の力を周囲に紡ぎながらクワルバルツの傍へと至ったのは、スティアであった。
　竜の背中。そこへ至る事が出来る人間など、今までにどれ程の者がいただろうか。
　利はある。彼女が背にあれば、支援も回復もやりやすくなるだろう。
　だが竜の背というのは利以前の問題だ――
　竜の魂が許すかどうか。
　……あぁ。
「もしも」
「？」
「覇竜での騒乱の前に斯様な事を述べていたら――殺していただろうな」
　だが。彼女らの力など、とうに認めているのだ。
　人には可能性があると。イレギュラーズには力があると。
　それに――まぁ。覇竜での借りもあるのだ。
「――一時だけだぞ。我が背、軽くはないと知れ！」
「十分だよ！　うん――竜と聖女の歩み再び、って所かな！　行こう！」
　吐息一つ、零しながら。
　それでも恐らくクワルバルツの『先代』も体験しえた感覚を。
　己も知りたかった所でもあるから。

　――今ぞ竜と聖女が共に在る。

　クワルバルツが竜の形態へ。スティアを背に至らせれば、戦場を謳歌しようか。
　重力の権能と卓越した聖女の治癒術が戦場に瞬く――
　神話へ至れ、人と竜よ。
　あり得ぬ光景を生みだせ。
　……この一時もまた『歩んできた道のり』があればこそ、か。
　あぁ。光が輝く。
　薄明の背より降り注ぐ光が――まるで天使の梯子の如く、地へと降り注げば。
　鉄帝の兵。深緑の兵。皆に尋常非ざる活力を齎すものだ――！
（先代様）
　刹那。クワルバルツが思考する。
　貴方様も、この不思議な高揚感を。
　その心の内に抱いたことが――あったのですかと。
　……天を。微かに見据えながら。
「クワルバルツにアユア、それに……ネロさん。
　これだけの人――いや人ではないけれど――とにかく助けに来てくれただなんて。
　……僕も皆を頑張って癒すからね！」
　更に祝音の織り成す治癒も皆を包もうか――
　黒き衣。白猫の魔法使いたる身へと至りて、加護を増幅させて。
　誰も彼もの命を護らんとする。
　援軍として来てくれた竜達や、ネロも含めて。
　一緒に戦えるのが嬉しいから。来てくれたのが――嬉しいから！
「絶対絶対――誰も倒れさせない……！」
　自身の奥底より絞り上げるように――力を成そう。
「……最初の旅人。それにROOの時のベヒーモス。なるほど、ね」
　そして文もベヒーモスへと視線を巡らせながら、同時に思考を高速で回そうか。
　探究、想像、実践。その根幹を作り上げた最初の旅人に勝つ為にはどう動けばよいか――
　必要なのは停滞ではない。思考を回せ。止まるな。
　足りないモノは止まらぬ歩みで超えるんだ。
　――彼は力を振り絞る。彼方に飛来させし神秘なる泥が敵を包んで押し流そうか。
　しかし普通の終焉獣はともかくベヒーモスは揺るがない。
　効いていない訳ではないだろうが、奴に対してはどうするか……
（一体どうやって現実に反映しているのか――ナイトハルトの力か、それとも――）
　どうにか只の情報媒体として構築し直す手段がないだろうか。
　模索する。記憶を探りながら、奴への決定打がないかと――
「ベヒーモス……ROOのデータのサルベージ、ですにゃ……！？
　んにゃ……なんていうモノを隠していたですにゃ……！
　でもでも、ここで負ける訳にはいかないにゃ……！」
「ちょっと止まってもらうわよ。データの残滓が、現実世界にも溢れるとは思っていなかったけど……それでも貴方は終わった存在。塵は塵に――帰るべき場所に帰ってもらうわ」
　更に別方向からもみーおとヴァイスが圧力をベヒーモスに仕掛けていこうか。
　ヴァイスのやる事は変わらない。とにかく敵を押し込んでいく。攻勢が通用しやすい場所がないか探りながら、だ。なんとなし首や頭部など、生物として一般的に急所とされる箇所がやはり攻撃が通りやすい気がする――
　同時。周囲を俯瞰するように注意しつつ、みーおもひたすらに攻撃を重ねよう。
　だが狙うはベヒーモスだけではない。その指揮を執っている……ヴィッターもだ。
「ナイトハルトに与する人……恨みはないけど、撃ちますにゃ！
　退くなら今の内ですにゃ！　無理なら――覚悟してもらいますにゃ！」
「旅人だからといって誰も彼もが世界の平穏なんて願うとは限らない。
　――僕は僕の目的を果たせればそれでいいんだ」
　みーおの繰り出す射撃。ベヒーモスも穿ちながらヴィッターも狙いて……
　だがヴィッターも反撃の意志を見せる。彼もまた引き金絞り上げ、対抗するのだ。
　正確無比なる狙いがみーおを穿っていく――
　だが、それでいい。
（みーおが目立てば目立つ程……その注意は『他』から逸れる筈ですにゃ！）
　それはみーおが成した目的通りなのだから。
　敢えて目立っているのだ。仮にみーおが倒れたとしても……
　この『先』に繋がるのなら――なんの問題もないのだから！
「ROO　ベヒーモス　サルベージ　操作。成程。
　フリック　理解。
　ツマリ――墓ヲ荒ラシタナ？」
　と、同時に。かのベヒーモスの有り様を見据えるはフリークライだ。
　『許せない』という感情だろうか、この胸の奥底から湧き上がるのは。
　あぁきっとそうだ。だって。
「我　フリック。我　フリークライ……否」
　今一度　名乗ロウ。
「我　エイラ。ROOニテ　デッカ君ノ名ヲ刻ミシ墓守」
　それはフリークライの自負。フリークライの背負いしモノ。
　墓を荒らすに飽き足らず。でっか君が抱いていた『心』すら蹂躙するというのか。
　――少女以外の為に戦わせるのか。己が欲望の為に。
　故に。
　フリークライは至るのだ。
　可能性の化身。希望の青い鳥たる象徴の姿へと。
「ハハハ。なんだい、こんなデータ程度の代物に――思い入れがあるのかい？」
「――知レ。デッカ君ノ　心ヲ。
　――知レ。墓守タル　意思ヲ。
　――知レ。ソノ　罪深サ　ヲ。」
　さればナイトハルトの嘲笑するような声が聞こえようか。
　故にぶちのめす。死護る者として、デッカ君の死と維持を返してもらう。
　――狙うはベヒーモスを指揮せんとするヴィッターだ。
　まずは彼を阻止し、でっか君のコントロールを乱さんとする。その為に、彼を狙う周囲の者らの活力を満たす号令や治癒の力を存分に張り巡らせよう――然らば。先のみーおの行動と含めて、ヴィッターの下へ向かわんとする者達の大きな力となる。
　切り拓かれた道があるのだ。
　如何に敵が多かろうと、諦めぬ心が確かな軌跡を紡ぐ。
　後は――そこを突き進むのみ！

成否

成功

状態異常

---

第2章 第4節

●
　ベヒーモスが暴れる戦場――の一角。
　近すぎず、しかし離れすぎてもいない位置にヴィッターはいた。
　世界の命運？　あぁ知った事ではない。
　この世界が滅びようと生きようとどちらでもいい事だ。
　――ただ。『決着』だけは付けておかねばならぬ、と。
　彼は銃を備える。誰にも決して邪魔はさせぬ……とばかりに。
　しかし。
「――見つけたぜ」
　件のベヒーモスは竜に抑えられているが故に生じる、計画外のイレギュラーズの攻勢。
　そうして空いた警戒網の穴を縫って迫る一人が――飛呂だ。
「銃使うモン同士、勝負と行こうぜ。尤も、受けないとしても逃がすつもりはないんだが」
「どいつもこいつも……！」
　彼は戦場の流れを見据えうる戦略眼がある。微かにだが機を感じ取ったのだ。
　今ならばヴィッターを狙える、と。
　――銃撃音。互いの引き金を絞り上げ、弾丸が空を裂き肉を抉ろうか。
　だが一発程度の応酬で終わる訳がない。
　二発、三発。いくらでも指が動く限り狙い続けよう。
　ヴィッターの動きを鈍らせる為。そして。
　味方が動きやすくなる隙を、少しでも少しでも――増やす為に。
「――ヴィッターさん」
　故に。その、一瞬を。
　ハリエットが往く。
「貴方がどうして私を狙うのかずっと考えていたんだけど」
　心当たりが多すぎて、分からなかった。
「分からなかった――？　はは。なるほど、ね。君にとってはやはりその程度だった訳だ」
「うん……きっと、私は『何』かしたんだろうね」
　飢えて死ぬ。凍えて死ぬ。搾取される。殺される。
　死と隣り合わせの世界で生きるために重ねた罪が。今、目の前にある。
　ヴィッターさんは追って来た罪なんだ――
　それだけは分かる。
　でも。
「私は罪人だけど、貴方に殺されるわけにはいかない」
　私は。
「生きていたい理由が出来たから」
「その理由を持っていたのは君だけじゃないんだよ。君はかつて――」
「うん。でも、決めたんだ」
　罪にはいつか向き合う。だけど未来を見据えて生きていく。
　――約束があるから。
　ヴィッターが何か告げようとしていたが、関係ない。
　今はただ『生きたい』という意志がなによりも勝る――！
　刹那、銃撃。百万の言の葉よりも一発の銃弾こそが意志を伝えるのだ。
　視界の端には覇竜で出会ったアユアがいる――彼女にも『来てくれて嬉しい』と伝え無事を願いたいものだが、さて。後でしっかりと伝えてみせようと思考を巡らせつつ……
　同時に、彼女はギルオスを想う。
　明日からも生きていくために。
　世界を終わりにしないために。

　――行ってきます。
　――あぁ行ってらっしゃい。

　渡した護りの石が。貰った護りの石が。
　不思議と、ほのかな灯を帯びている気がした。
　……信じられる。きっと明日はやってくると。だから――
　必ず勝つと、心の奥底で想うのだ。
「幸せになんてさせてやるものか。此処で終わらせる。此処で殺す。
　君がこの世界に幸せを感じたというのなら――この世界諸共でも！」
「ったく。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、だっけ？　――やらせないよ」
　さればヴィッターは憤怒の感情と共に反撃の手を強めるものだ。
　周囲の終焉獣をも利用し。全てを使いてハリエット達を殺さんとする。
　――だが。そこへ介入して来たのが京とイラスだった。
　殴りつけるように邪魔立てする獣らを弾き飛ばして。
　ヴィッターへの道を常に確保し続ける。
　……はー、なんか色々わかっちゃったのよね。
「イラスさー、アンタにちょっと親近感感じてるわよ？
　っとにあの朴念仁、ちょっとムカついてきたわ」
「そう。私も長年似たような感情を持ってるわ。付き合いが長いからね」
「おっ、さり気にマウント取ろうとした？　――まぁでもさ」
　アンタもギルオスさんも、ハリエットちゃんもさ？
「アタシが守るよ、誰にもやらせない」
　京が瞳に抱く意思は、幸福を破壊せんとする者への純粋な殺意。
　ヴィッターを殺す。此処で仕留める――！
　繰り出す蹴撃がヴィッターへと直撃しようか。その間にも、イラスやギルオスへ被害が及ばぬか警戒も忘れない。とは言ってもイラスは元よりギルオスもそれなり程度の戦闘力はあるようだ。彼自身も周囲を警戒しているし、流石に一瞬で命の危機が訪れたりはせぬか。
　だから。
　存分にぶち込む。一番危ない奴を排除出来たら。
「世界を救ったとまでは言えないけど、ちょっと安心できるわよね」
「くっ――！　イラス、そっちに付いたのか。今更道を戻れるとでも――！」
「悪いわね。前は共闘したけど、元々友人でもなんでもないんだから勘弁してね」
　然らばヴィッターは銃を使う者であるのも相まってか、追い詰められていく。
　反撃の銃撃がハリエットや京、飛呂の身を削れども。
　しかし数多の戦いを乗り越えてきた者らの命を奪うにはまだ遠い。その上。
「むむむ、凄い勢いなのです……！　メイも、出来る限りのことを……！」
　メイの治癒術が即座に行き渡れば万全だ。
　癒す事なら得意ですから！　と、同時にメイが視線を向けるのは――イラスへと。
　あれは確か、ギルオスさんの元カノさんでしたか。ギルオスさんを見ると『違うよ』なんて言ってきそうですが……むむむ？　とにかく以前お会いした時に比べたら、なんというか――
「お顔が、すっきりされました、です？」
「――なによ。前はむくんでたとか？」
「はっ！　そう言う事では、ないのです！」
　なんというか、そう。あの時は思い詰めていた様子でしたから……
　吹っ切れればこそ精神に良い作用があったのだろうか、と。
　何はともあれメイは力の限り戦線を支えんとするものだ。
　ギルオスやイラスへの射線を区切るように護りつつ、皆の傷を癒す。
　絶対に、皆を生きて帰すのだと強い意志と共に……！
　故に。
「ここまでだ、ヴィッター・ハルトマン。
　貴方はもう彼女の物語に必要無い。幕引きとしましょう。
　カーテンコールは無しです。無用な演者は引き際を心得てもらいましょうか」
　更に寛治が介入した。ヴィッターが斃れるまで――銃弾を撃ち込むが如く。
　いや実際にそうするつもりだ。此処が攻め時と、彼は的確に判断。
　ヴィッターがベヒーモスの指揮権を持っているなら尚更に。
　ここで逃す理由はないのだから――
　気配を極力押し殺し彼に致命なる一撃を叩き込まんと狙いすました。
　京らの奮戦。それによって眼前に意識を集中している一瞬を、だ。彼の腹部を抉る――！
「――ぐぅ！」
「幸か不幸か、ここは世界の果て。もう身を隠す場所はありませんよ」
「ヴィッターさん――！」
　寛治が追い詰め、ハリエットもまた逃がすつもりはない。
　……あぁどうしてだ。どうして。
「君の傍には人がいる」
　君は僕の大切な者を奪ったというのに。
　僕の傍には誰もいない。
　おのれ――！　おのれおのれおのれおのれッ！　全てが――不公平だ！
「ベヒーモス、潰せ！！」
　直後。ヴィッターがベヒーモスに指示を飛ばす。
　だがそれは戦局の流れを無視した、非常に個人的な指揮であった。『それ』が生じた影響は……ひとまずさておき。ベヒーモスがヴィッターの傍にいる者を薙がんと腕を振るう――巨大な衝撃と多くの土煙が挙がろうか。
「悪あがきを……！　だが追い詰めている証拠だ、逃がすな！」
「おらァ！　逃がさないっつってんでしょーが！！」
「はぁ、はぁ。くそ、おのれ。ナイトハルトの所へ……！」
　飛呂が声を挙げ、京がヴィッターにトドメを刺そうと追う。
　血が点々としている。後退？　ナイトハルトの所へ行こうとしているのか。
　まだだ、逃がす事はない。最後の決着を付けに行く――！

　そして――騎兵隊の突撃が再度生じうる。

　彼らは留まらぬ。彼らは己が矜持と共に――突き進もう。
　崩すは終焉獣の群れ。取り巻き共の乱れを一切見逃さぬ！
「将を射んとする者はまず馬を射よ……って訳だな！！　ぶはははッ！　しっかし『騎兵隊』側が射る側ってのはなかなか洒落てるじゃねぇか！　馬を駆る側が馬を落とすたぁな！」
「目標は『全員生還』ですから――小目標を積み上げていかねばなりません。
　山を越えるにもまずは一歩から。
　そういう意味では……今回は随分と分かりやすい方です。幸いと言えるでしょうか」
「そうさな！　全員で生きて帰って、旨い飯を食わねぇとな――！
　さぁこの豚を崩せるかよ！　騎兵隊を傷付けてぇってんなら、沈めてみなぁ！」
　吶喊する勢いでゴリョウが往く。防に全神経を注いでいる彼の身は正に堅牢にして要塞。終焉獣らが爪を突き立てんとするも、一切意に介さぬ程に。されば騎兵隊の流れを――勢いと火力を決して減衰させまいと邪魔立てする輩共を弾き飛ばそうか。
　直後にはその動きに呼応する形で瑠璃も支援を成す。
　空より放つ神秘なる泥は数多を巻き込み薙ぎ払うのだ。
　――小目標（終焉獣）をクリアすれば大目標（ナイトハルト）に手が届くのであれば。連中を粉砕するだけでも大目標の一手となるのなら。全ての行動が騎兵隊の利と成すのなら。あぁ全力を投じて『目標』へと邁進しようか！
「そうか……来てくれたんだな、ネロ。無事だったか。信じては、いたがな」
「……ネロはん無事やったんやねえ。よかった……あっちにも行ってみたい所やけど」
　そして。同じく騎兵隊として行動するエーレンに彩陽だが、両名の意識は一端ネロの方に向いていただろうか。天義で消えたと思っていた彼が生きていたとは……本当に喜ばしい。出来得る事なら存分に語り合いたい所だ、が。
　今は目の前の戦場を生きぬく事に集中するとしようか。
　この場を乗り越えれば、言の葉を交わす機会は幾らでもあるから……！
「我ら魁、そのままどこまでも明るく照らして駆け抜ける！
　どんな敵でもなんのそのってな！　舐めてかかってくるなら――
　痛い目ぐらいは見てもらおうかねぇ！」
「騎兵隊先鋒、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ！
　お前たちの勢いが長々続くと、よもや思ってはいるまいな！！
　騎兵隊が幾度の戦場を踏み越えてきたか――その強さを知るがいいッ！」
　故に彩陽にしろエーレンにしろ高らかに告げながら往くものだ。
　彩陽は敵陣を見定め敵の行軍を防ぐように。妨害しうる一撃をあちらこちらへとばらまこう。幸か不幸か敵だらけならば狙いたい放題なのだから――！　直後にはエーレンが駆け抜ける。いつにも増して朗々と――あぁ。
　聞こえているか？
　俺は元気でやっているぞ。
　お前も元気でいるか？　また今一度、面と向かって。
　――会おう。
　瞼の裏にネロを想起し。エーレンの刃は洗練さを増す。
　先陣切り往く彼の剣閃が瞬けば数多の終焉獣の首が屠られようか。
　騎兵隊の鉄則は全員生存。なればこそ……
（こんな所で躓く訳にも。背く訳にもいかないからな）
　皆の前を突き進みつつも突出はせぬように。
　終焉獣が襲いくれば返す刀でその喉笛貫けば、舞う血飛沫――
　刀身は幾重もの血に塗れていようか。故、内肘にて拭い払わん。
「さぁ来い！　我が名と刃――その魂と身に刻め！」
　まだ後、百であろうと二百であろうと相手取ってみせよう、と。
「終焉獣なにするものぞ！　滅びの化身など、臆するに足らず！」
　そして騎兵隊を指揮するイーリンの姿も戦場の最中にて窺えようか。
　彼女の声は戦場に透き通るかの如く、だ。
　それは意識して行っている所もある。共に戦う深緑の民や……鉄帝軍人たち。
　彼らの鼓舞に成らんとする為にイーリンはどこまでも己が役割を成そう。
　無論。斯様に目立てば敵の攻撃も集中するものだ。
　イーリン自身、決して無傷と言う訳ではない――だけれども。いや、だからこそ。
「どう、敵中突破は見てくれた？　でもこれで終わったりなんてしないわ。
　さぁもう一度やるわよ……！　狙いは敵陣の穴ッ！」
「何――危険だぞイレギュラーズ、本気か！？」
「当然よ。勝つまでやる。勝つために進む！　それが私達なら――！」
　そんな傷など意にも介さぬ様に、声には活力を、表情には自信を――張り付けていた。
　然らば先の如き攻撃を行わんとすれば鉄帝軍人らしき者が声を掛けようか。
　だが無謀ではない。これこそが私達なのだから、と。
　光と共に駆け抜ける。眩いばかりの光が――これでもかと己らの存在を……いや……！
　魂を――指し示すのだ！
「さて……騎兵隊の皆、気力体力は尽きていないかね？
　敵は未だ膨大。空からは時折我々を狙い来る魔力の奔流もある――
　ふふ……いや、これは愚問だったね。そうだ、戦い続けよう。勝利のその時まで」
「敵も隠し玉を出して来たか……さて、此処からが転換期というところかね。
　僕らの意地の見せ所といこうか。戦況が変わりゆく節目を制してこそ――意義がある」
　故にシャルロッテやシェンリーもその動きに呼応しようか。
　戦術指揮。部隊支援。それらに特化した両名からの加護があらば、騎兵隊の動きはより強靭になり往くものだ――途切れさせぬ意志があらばまるで永続するが如く。無論、戦えば戦う程にどうしても疲労も溜まってしまうものだ、が。
「アウレオナさん――裸の王様を討ち取るまで、きっとあともう少しだ。もう少しだけ……！」
「うん、こっちはまだ大丈夫だよ！　任せて、刀を振る事だけは……ずっとしてきた事だから！」
　それでも未だ活力に満ちているのは、隣合って戦える、信置けるものがいるからだろうか。
　シェンリーはアウレオナにも声を掛けつつ彼女に自由に暴れてもらうものだ。
　それがきっと一番の戦果を叩きだすと信じている。
　誰よりも彼女に付き添っている者だから――分かるのだ。それに。
「防は任せてくれ。傷一つだってつけさせるもんか」
　彼女が攻を成すのなら、己は防だと。
　シェンリーは戦局と周囲を冷静に見定めよう。敵の首魁まであともう少しだからと。
「戻ったな命知らずの英雄等。
　勝利の美酒を幾度も味わい、忘れられぬ戦勝の体現者達――
　ならば再び往くとしようか」
　更には幸潮も引き続き皆の物語を紡ぎ続けるものだ。
　俺のやる事ァ一切変わらんと。敵は煽ってなんぼ潰してなんぼ。
　さぁさ獲物は幾らでもいるのだ――キルストリークは我の援護だぜ。
「――嬉しいだろう？　ナッハハハハ！」
「終焉獣を沢山倒せば、沢山ナイトハルトに負担が掛かると……
　成程、つまり！　“狩りモノ”競争をすれば良いのですね！
　ふふふ、随分と分かりやすい目標が出来ましたね♪」
　そして果敢に……というよりも喜々として攻勢を仕掛けているのはLilyも、だ。
　誰が一番終焉獣の首を狩れるか――
「競争です♪　負けませんよ――♪」
「――でも空からの砲撃も来るよ！　皆気を付けて！」
　生き残りつつ。敵を狩りまくる。
　騎兵隊の陣中を飛翔し、降り注がせる掃射が敵陣へと襲い掛かろうか。
　先手必勝、先手必殺。その心構えが敵への機先を制す――！
　とは言え騎兵隊には先の誘導においてナイトハルトからの干渉……そう、魔力による砲撃によって狙われやすくなっている。故に油断は出来ぬとフォルトゥナリアは声を挙げようか。地上に突き刺さる度に生じうる強大な衝撃――
　それでも私達に止まる選択肢はないのだと。
　黒き竜の姿を保持しながら彼女は駆ける。目指すは砲撃の妨害――！
　自らの身に数多の加護を宿そう。闘争の最適化を成す遂行術式。生命の樹が根差す希望の呼び声――そして勇者を助けんとする覚悟の意志。例えこの先に七難八苦が待ち受けていようとも……！
「合わせてみせるよ……！　こんな程度で、負けてなるもんか！」
　それを踏み込め勝利を掴むと。
　彼女は力を成す。撃を合わせ、相殺せんと。
　それでも零れ落ちてくるものはあるが――そこは即座に治癒の力も張り巡らせるのだ。
　方針通り誰も堕とさせぬと。堅く、心に誓いて。
　と、その時。
「――おや。この気配は……そぉ。やって来たかい」
　あの弟子(コ)は、と。言の葉を紡いだのは武器商人だ。
　感じうる。あぁ確かに『此処』に来たんだねと。
　――ならば進むとしよう。
　此れより先、どう転ぼうが平和の礎を作らないと――
「話が進まないからね。ヒヒ」
　口端に笑みの色を灯す。
　広き視点を抱きながら周囲の戦況を素早く把握し、時に念話をもってして騎兵隊の動きを支えよう――騎兵隊の突撃力で敵の防壁には乱れが生じている。畳みかけるタイミングがあらば即座に推し量りて……
「頭が高いねェ」
　同時。武器商人は見据えた攻勢点へと追撃の一手を放とうか。
　――首を垂れよ、黙して死ね。
　影の茨の権能が顕現し。敵を串刺しに活路を開かん。
「おっ、懐かしい顔ッスね。色々と事情があっての事なんでしょうけれど……
　裏切りってのは――まぁ一回やったなら、好きに突き抜けた方がいいスよ」
　されば美咲も告げようか。ローレットへの『裏切り』と言う事に関してなら、美咲も天義で――まぁ手痛い『しっぺ返し』も喰らったが――あったものだ。しかし一つの物事を通して体験した身としては、好きに動くのが得だと思ったものだ。
　何事も。決めたことは最後まで貫き通すのが良い、と。
　まぁ、いい。とにかく今は。

　――じゃ、いってらっしゃい。

　言の葉紡ぐと同時にバーベと名を持つリトルワイバーンを駆ろうか。
　フォルトゥナリアが対抗しているとは言え、砲撃の脅威は健在。故に警戒は維持しつつ、皆の動きを連動させる要の役を担うのだ。決して一人で突出はせず、位置取りは味方と共に。敵のみを捉えて――その身を穿ち貫かん。
「しかしえー……なんだ。瑠々さんやぁ、帰ってきたんかい？？？　まぁおかえりとは言っておくがそうかぁ　うむ　まぁ　『物語』なのだからそう云う展開も在るわな！　森羅万象、古今東西『物語』には予期せぬ緩急があるものだしワハハハハ──
　エエエエ！！？　ビッックリしたぁ！？　何で居るのォォォォオ！？」
「――なんで、と言われてもな」
　刹那。幸潮の声が戦場を裂くかの如く――瑠々の下まで届こうか。
　耳をつんざくような声が響く。あぁ全く、そこまで驚くか。
　聞こえてきた側の片目を閉じながら。
　瑠々は思考を巡らせようか。
　なんとも。懐かしい声がする所に帰って来たものだ、と。


　※敵戦力『ヴィッター・ハルトマン』が負傷しました！
　※またヴィッターの指揮の隙により、ベヒーモスの動きが大きく乱れています！

成否

成功

状態異常

---

第2章 第5節

●

「フハハハハ！　成程、この数！　この殺意！
　正に望みし闘争の極致だ――！　命知らずの者よ、共に行こうぞ！」

　最前線。突撃を仕掛けている一人が、ディリヒだ。
　無数の終焉獣に臆する事なく――というよりもむしろ喜びながら――駆けている。
「豊穣に戻って日々剣術修行をしていたでありますが、いつの間にやら恐ろしいことに……むむむ。あそこにいるは干戈帝に柳殿……相も変わらずな様子ですが、アッシュ殿。柳殿は味方なのでありましょうか？」
「遅れながらも参戦したけど……まさか、こんなところで柳を見つけるなんてねぇ……さて。干戈帝が味方のようだから、柳も味方になるのは自然な流れと言えるかな……近寄っていいかは凄く微妙な気もするけれど、それにしても、あの狂人がねぇ」
　その様子を見ながら言を紡ぐは希紗良とシガーか。
　歓喜の突撃を行うディリヒ……のすぐ傍には豊穣で刃を交えた柳も暴れている。あの時は狂気じみた柳に対し応戦するより他なかったが、まぁディリヒに制御されているのであれば大丈夫、か？　ホントに？　ホントに大丈夫か？
　あの狂気を間近で感じた身としては些かの不安がある、が。
「まぁ厄介者が最前線で暴れてくれるなら楽と思っておこう――それより希紗良ちゃん」
「はい。里にて修練は怠りませんでありました。世界の終わりを防ぐ戦いに馳せ参じる事になると思っておりませんでしたが……参りましょう」
　だが一先ずこちらを狙わぬならば良し、と。
　シガーと希紗良は互いに背中合わせの状態で敵らに相対す。
　互いの死角を消し、飛びかかって来る終焉獣らを斬り伏せる――ッ！
「まさかディリヒまで駆けつけてくるとはな……予想外だが、好都合！
　豊穣やらプーレルジールやら縁があるが――今回も互いに利用し合おうぜディリヒ！」
「おぉ錬か！　宜しい。利用できるならば利用したまえ！
　私も存分に貴様らを利用しよう――！　死しても文句は言うなかれ！
　あぁいや――何かあるなら地獄の底で聞いてやろう！」
「俺まで地獄行きに勝手にするな！」
　次いでディリヒの傍にまで至るは錬であった。
　紡ぐ符の力が終焉獣を爆殺し彼はディリヒの背後へ。陰る太陽を写す魔鏡の力が顕現すれば――周囲の終焉獣共を更に追い立てようか。このままディリヒも利用しつつ進み、ナイトハルトに牽制を……

「――まーったく。君達はホントに頑張るねぇ……♪」

　と、その時だった。誰ぞの声がしたと思えば――ナイトハルトだ！
　直後には強大な魔力の奔流が襲い来る。
「ぬぅ！　流石に一筋縄ではいかんな……だが！」
　ディリヒが前線にて神秘を受け止めんと刃を振るおうか――それでも強き神秘の力はイレギュラーズ達へと降り注ぐ。あぁ、奴の傍にまで至ればやはりこういう危険度は増す。ナイトハルトに近付くとはそう言う事なのだから――しかし！
「それはこの場を突破しうる好機でもあるという事……！
　さぁ掴み取りましょう、栄光の未来を。
　その命を燃やし尽くす覚悟で勝利をこの手に手繰り寄せるのです！
　――遥かなる明日を紡ぐためには、手を伸ばすより他は無いのですから！」
　アンジェリカが高らかに宣言しつつ力を振るおうか。
　地廻竜の加護を振るえば目に見えて周囲の者らの攻勢の力も増すもの。
　その勢いをもってしてアンジェリカは治癒の力を齎すのだ。
　ナイトハルト。奴さえ倒せばこの地の趨勢は一気に流れる。
　その為にもここでは退けぬ――力を振り絞り、前線にて立ち回ろう！
「近くまで寄れば僕に勝てるとでも？
　これでもね。ずっとずっと研鑽してきたんだ――負けるわけがないだろう」
　だがナイトハルトはアンジェリカの治癒の速度を超える勢いで攻め立てる。
　その神秘の圧たるや正に人域に非ず。
　彼が指を示せば、その彼方までの地を抉り、空を裂く一閃が放たれようか。
　それも一撃では終わらぬ。二撃、三撃。
　幾度放とうと体力切れを起こすような様子も見せず――続けていくものだ。
　それが始原の旅人。永き時を生きていたという圧倒的アドバンテージ。
　誰も彼もが『レベル1』の混沌法則に縛られるのなら。
　単純に研鑽の時間が取れている者程優位なのだと、彼は告げよう。
「知らねー！！　わはは、ついに来たぜナイトハルトパイセン！！」
　――が。『だからどうした』と言わんばかりに秋奈は突っ込んだ！
　ナイトハルトを攻める計画？　知らん！　分からん！　ぶははっ！！
「余計なお世話上等！　堅いこと抜きにして、思いっきり遊ぼうぜ！」
「遊ぶ――？　成程。でも残念だけど、今日と言う日は遊んでる場合じゃないんだ」
「どうかな！　人生にはいつだって『遊び』が必要だぜ！」
　跳躍。秋奈の瞳にはナイトハルトしか映っていない――
　斬撃神速。跳躍した勢いそのままに体捩じって大回転斬りの構え。
　ナイトハルトが防護障壁をもってして塞げば激しい金属音が鳴り響くか――
　あ。そだパイセンパイセン。ちょい思ったんだけど。
　救えた命もあったって？　1にならなきゃ～みたいな。
　気に食わないから、この世界を破壊していいみたいな。
　そういうネガネガしい物言いが――
「も、そこは全っ然きにくわねー！」
　秋奈は押し切らんとする。塞がれても尚に。
　ぶった切ってぶっちぎって――ネガには思い知らせてやるんだと！
「ご機嫌よう、元先輩。後ろに引きこもるのは退屈だし寂しいでしょう？先輩想いの律儀な後輩が遊びに来てあげたわよ――気前よく付き合って頂戴な！　まさか後輩の誘いを断るだなんて無粋な真似はしないわよね！」
「次から次へと僕は人気者で困っちゃうな――♪
　いいよこれが最後なんだ。来なよ。でも、死んでも恨まないでね♪」
　瞬間。彼方より飛来するのはアンナであったか。
　ナイトハルトの視界外とも言うべき距離からの接近。虚を付けた筈だが、それでもナイトハルトの纏う異質な気配――恐らく彼の指輪からだろうか――が、アンナを阻まんとする。剣撃を留め傷を避けんとするのだ。
　流石に一筋縄ではいかないか。だが、アンナにとっては予想の範囲内。
「一回で終わる、なんて思ってないわよね」
「君達はどこまでもしつこいからねぇ♪」
「よく分かってるじゃない。なら――さぁもっともっと付き合ってもらうわよ！」
　攻撃だけが全てではないのだ。
　周囲で立ち回りナイトハルトの嫌がらせを行ってやる――
　防御に徹すれば早々簡単に落とされぬだけの能もあるのだ。しつこく付きまとってみせよう！
「百歩譲って無害な怒りならいいけれど。
　世界に八つ当たりされたら混沌生まれの後輩は困るんだよ、先輩」
「僕には知ったこっちゃないねぇ♪　困るなら――命を懸けて止めてごらん」
　続け様にはイズマも畳みかけんとする。奏者の姿として、その可能性たる姿を現に。
　終焉獣をまずは屠る。あらゆる力を総動員し……ナイトハルトへ手を届かせよう。
　楽園追放。神聖秘奥の術式が敵陣穿つ――ッ！
「あぁ無論だ。命を懸けてでも止めさせてもらおう。此処が俺の……生きる世界なんだ」
　だからその台詞は返すよ。
「神託が齎す結末を殴る為に、勝たせてもらうぞ！　容赦は――しない！」
「そだそだ～！　センパイが勝手に殴ってくるんだったら、こっちだって嫌がらせするぞ～！」
　ナイトハルトより紡がれる反撃の術式。雷撃の如き巨大な光がイレギュラーズを襲う。
　だがイズマに続いてユイユもまたナイトハルトへの牽制を止めぬ。
　だっていい情報も聞いたのだ――終焉獣を倒すだけでも負担になるって？　それならぶちのめさない理由が無い。わざと目立つように立ち回り終焉獣らを引き付けつつ……固まった所に纏めて一撃を叩き込んでやろうか。
「終焉獣のおかわりもっと持ってきてもらおうかな！
　――あっ。でも終焉獣って色々いるよね……そこは気を付けとかなきゃか！」
　が。同時に彼は変容する終焉獣の個体へと思考を巡らせるものだ。
　終焉獣も多様に存在する。中にはナイトハルトに化けるような個体もいるかもしれない……そんな個体が現れ戦場に混乱を巻き起こされる訳にはいかぬ――故に。戦況の観察も絶やさぬものだ。始原の先輩を追い詰めるには警戒しまくっても尚に足りぬのだから。
「幾星霜の月日の果てか。狂気とは埒外の洞察力を齎すもの」
　そして――更に至る者がいる。
　それは一目には少女のように見える姿。白髪と黒衣。あどけなさが其処に在る――
　だがソレはロジャーズ=L=ナイア。かの者の可能性の姿が一端である。
「理解し易い者が現れた」
「なぁんだい君？　お喋りな子だねぇ――内側はなにやら異質な気配がするけれど」
　数多の防の加護がロジャーズを包んでいる。
　さらば終焉獣に囲まれても左程の事はない、が……
　しかしナイトハルトへの攻勢に馳せ参じるなら別だ。
　ナイトハルトの放つ一撃は――ロジャーズの身すら穿ち貫く。
　が。
「悦ばしいものだ」
　私は私の役割を成す為に。
「その夢とやらを冒涜する」
　そんなものは最初から想定済みの事なのだ、と。
　ロジャーズは自らの身が引き裂かれるような痛みと引き換えに――力を齎そうか。
　治癒の力。バアルの契約。魔神との取引が加護を齎すのだ――！
　ナイトハルトに迫らんとしている者達の身が癒える。それは大いなる一歩の助けとなろうか。一歩を紡げる力が至れば……更に奴の目を奪わんと、ロジャーズ自身の身が肥大する。まるで化け物の如く。
「ほぅ、面白い『手品』だね――チップでも挙げようか！
　やってみせなよ後輩。あぁ魅せてみろ、君に何が出来るか。出来るものならね」
　Nyahahahaha！　その笑みが響き渡ると同時に、再度ナイトハルトの力が炸裂する。
　それでも笑みは途絶えぬ。あぁかの存在は未だここに在りと示すが如く……

　凄まじい神秘。激しき暴力の渦がそこに在る。
　――この戦域は危険だ。
　終焉獣も大量に存在している状況でナイトハルトに近付くのも容易ではない。
　数多の者らが負傷していく。
　しかし、それでも。
「はっ、ようやく面を拝めたようだな！　――メリーノ！！」
「ええ。私も――やっと彼の顔が見えたわ」
　誰の歩みも止まらぬものだ。
　牡丹が終焉獣を打ち倒しながらメリーノへ言を紡ぐ。
　――あぁ本当に、やっと会えたわね。恥ずかしがり屋さん。
「任せてくださいメリーノ様。彼の下へ行きたいのなら――絶対に辿り着かせます。
　準備はできましたね？　今度は私が貴女の背中を押す番ですよ」
「わたしも手伝って貰ったもの。今度はわたしが、メリーノさんを手伝う番ね……！」
「近くの終焉獣は私達が全て留めます。どうかその心を、ご存分に」
　続く姿は妙見子にセレナに、そしてマリエッタの姿もあろうか。
　いずれもメリーノの望みを叶えんと集まってくれた者達だ。
　……故に、往く。
　始原の旅人と呼ばれた彼の本心を――知るために！
「メリーノ射出だあああああ！」
　数多の撃が舞う戦場の一瞬を、牡丹は見極めた。
　騎兵隊の大きな動き。ヴィッターの指揮の誤り。
　其処を衝くイレギュラーズの攻勢がナイトハルトの負担を高めており。
　微かな警戒の狭間を――突破せんと試みたのである。
　牡丹がメリーノを連れるような形で大突破。超速へと至る彼女の動きはまるで流星の如く――
　なぁ聞いてるか色男。こいつはな。
「てめぇが簡単にどうこうできるような女じゃねぇぜ！！」
「おやおやぁ……騒がしいと思えば、なんの用だい？　僕は見ての通り忙しいんだけど♪」
「そう。でも、ちゃんと今回も遊んで頂戴な」
　可愛い後輩がわざわざ来ているのだもの。
　終焉獣の群れを超え、一気に接近す――当然周囲の敵影が牡丹やメリーノを害さんと動きだすものだが、それらの横っ面を叩きのめすように介入するのがセレナ達だ。名乗り上げるように目立つ動きをすれば、隙を逃さず妙見子とマリエッタが撃を紡ぐ。
　呪術の包囲。血鎌の一閃。
　なぎ倒されんばかりの勢いであれば、雑多な獣など臆するに足らず。
　メリーノの道を切り開く。開いた道筋を閉じさせぬ。
　――さぁ。
「メリーノ様、こちらはお任せを」
　行ってくださいと妙見子は告げよう。
　でも……あぁ。約束してください。
　――絶対戻って来て。
「ねえ、『お兄ちゃん』」
　であればメリーノは皆の助力を背に感じつつ。
「――あなたの妹ってどんな子だったの？」
　踏み込むものだ。ナイトハルトに……物理的にそうだが、しかし何より。
　その心に。
　同時、メリーノの姿は黒き衣を纏う姿へと至ろうか――そして。
「前も言ったけれど、わたし本当に間違ってたなぁって思っているの」
　言の葉を紡ぎ続ける。
　だって、あなた思ってたよりずっと空っぽだった。
　ただの抜け殻　空っぽだわ！　底の抜けた器！
「ほう。面白い事を言うね、僕が空っぽだって♪　一体どこが」
「茶化した言葉尻は自覚があるからかしら？　ふふ、まぁもういいわ。ねぇ」
　あなたの――妹の事を教えて？
　あなたが空っぽになってしまった。穴を開けたであろう存在の事を。
　例えば、ね。わたしの妹はね、本当に可愛かったの。
　世界中の全部の綺麗なものをあの子の前に並べたかった。
　あなたの妹はどんなだった？
「そのきれいな髪の毛と同じ色をしていたのかしら」
　もしかしたら、そう。
　ちょうど　わたしみたいに！
　偶然だが互いに金色の髪を宿す者としてメリーノは告げようか。
　家族であるならば類似点はどこかにある筈だからとあたりを付けて。
　剣撃一閃。ナイトハルトに猛攻を加えながら彼を探ろうか。
　さればマリエッタも感情を探知する術を巡らせる。
　悲しみや期待。そういう感情がないか試してみれ――ば。
「――あぁそうだね。確かにあの子は、僕や君と同じ色を宿していたよ」
　ナイトハルトは指輪に魔力を集中させながら。
　紡ぐ。その内より感じえるは……
　『憤怒』か？
「とてもとても優しい子でね。美しい大地を愛し、生きる者を愛せる子だった。練達――と呼ばれる都市が生まれる前。なーんにも無かった頃の場所なんて特にお気に入りでね――あんまり体は強くなかったけれど、こんな世界に訪れなければもっと幸せだったはずだ。
　――だからこそ僕は、この世界を許さない。
　僕が空っぽだというのならそれでもいい。
　どうせ僕はこの世界を――神さえぶち殺せれば満足なんだから。
　だが。もう一つだけ許せない事が出来た」
「それはなぁに？」
「他人である君が僕を『お兄ちゃん』だなんて呼ぶなよ」
　なまじ、外見に共通点があるが故にこその怒りだろうか。
　ナイトハルトは微かに声を荒げ――直後には閃光を放った。
　それは正に光速が如く。万象貫かんとする属性宿した一撃が襲い掛かる。
　メリーノはほぼ反射的に手に抱くシトゲちゃんで軌道を逸らさんとし、て。
　だが圧倒的な衝撃と速度に反応が間に合わない。肉を抉る感覚がした――
「させない――！　誰一人だって、死なせはしない！」
「てめえの原動力が妹への愛だっつうなら、オレはかーさんへの愛だ！
　かーさんへの愛なら――誰にも負けねぇ！！」
「はははマザコンに僕が負けるとでも――？」
「そう言うなら、てめぇはシスコンだろうが――！」
　が。その直後にはセレナと牡丹が即座に介入を。
　死の危険が其処にあるとセレナは感じえて。故に祈願足り得る結界を張るのだ。
　それでもナイトハルトの怒りの一撃は強力。防壁すら砕かんとしようか。
　だから牡丹もまた、可能性の加護を纏うのだ。
　ナイトハルトが『妹』を想うのなら。『母』たる者の愛情を胸に――！
　薄き羽衣纏えば、白き蝶のような幻影も共に羽ばたこうか。
　よく見据えれば両翼が如き顕現を果たしており。それらは牡丹の情を示す。
　左翼に誇りを。右翼に愛を。
　――この魂を宿す限り、負けてなるものか。死んでなるものかッ！
「ォ、ォオオオ！！」
「妙見子さん、牡丹さん達を――！」
「承知しています、すぐにでも――！」
　抗する。牡丹は己が拳をもって、ナイトハルトの殺意に！
　爛れんとする程の痛みが突き走る――も。其処へマリエッタと妙見子の治癒の力が至ろうか。私達の大先輩、原初の旅人であろうとも……ここで倒す為にマリエッタは力を振り絞らんとするのだ。
（――ナイトハルト様、原初の旅人……この世界に飛ばされて力も家族も奪われて……）
　されば妙見子も癒しの術を紡ぎつつ思考しようか。
　一歩間違えれば私も『そう』なっていたのかもしれない、と。
　……だが理解はすれども同調はしない。
　なぜなら。
「貴方は、この世界に住む人々と何も育んで来なかったのですか？
　――この世界で大事なものは生まれなかったのですか？
　ずっと一人で生きてきた訳でもないでしょうに……！」
「そうだね、しかし無意味だ。僕は先にイノリという存在に出会った。
　彼に会わなければ或いは――別の道も――
　……いやそんな事はないな。結局僕は神への憤怒と共に生きたろうさ！」
「――ッ！」
　あぁ、分かった。己はこの世界で大事なものを沢山得たけれど。
　彼は得なかったのだ。或いは自ら拒絶したか。
　……それが私と貴方の違いなんでしょうね。

　彼は戦う。妹への愛情が故に。神への復讐が故に。

　再び。イレギュラーズ達を滅さんとする激しい閃光が――瞬いた。

成否

成功

状態異常

---

第2章 第6節

●
　ナイトハルトの力が、近付かんとする者達へと放たれている――
　激戦が生じているようだ。あちらの負担は、かなりのものだろう。
　だが。ナイトハルトが近くに至っている者達に集中しているというのなら。
　えてしてそれは、他戦域への砲撃の手が緩むという事でもある。
　少なくともあちらもこちらも、いつまでも十全にとはいくまい。だから。

「――この一瞬が勝負の時ですね」

　ユーフォニーはパンドラの加護を纏いて往くのだ。
　攻め時。正念場である、と。ナイトハルトの意思が逸れている内に――此処を突破する。
　敵の群がり。その目に捉えれば、幾度もの戦場を乗り越えた今井さんの力と共に撃を捻じ込もう。敵のみを穿つ力は終焉を宿す獣達だけを正確に狙うのだ――幾重にも。幾度にも。一切の暇なく敵陣へと行使し続ける。
　――これまで絆や縁を紡いできたみんなが、その軌跡を一番輝かせられるように。
　これより先に進まんとする皆が、少しでも無事であるように。
「攻撃は最大の防御、ですね」
　負けませんよ。こんな悪意の群れには！
「因果応報、勧善懲悪。
　巨悪を討ち、善き人々の平穏を取り戻す為、ワタシも尽力するのです。
　世界を救う佳境であるなら尚の事……総てを用いて踏みとどまってみせましょう」
　更にはイロンも同様に、己が全てを駆使して敵を食い止めんとしようか。
　――何故善き人々が理不尽に晒されなければならないのか。
　断じて受け入れられない。
　善き者らの明日を護る為なら、知識、経験、技術、意思……
　そしてワタシの身体そのものも使ってでも――止めてみせる。
　イロンは最前線よりは一歩手前側にて治癒の力を振るい絞ろうか。イレギュラーズのみならず鉄帝軍人や深緑の民などの疲労や負傷者も増えている……かの者達の傷を癒し、命を繋ぐのだ。そして――
「――アレが、噂のノアですか」
　見えた。この地帯を支えている敵戦力の中核、ノアを。
　その身には亀裂が走りつつあるものだ――が。
　聞けばノアを潰せば爆弾のように滅びのアークが撒き散らされるという……
　いざとなれば負傷少なき己が皆を庇う事も手段の一つとして視野に入れておけ、ば。
　その地へ至る『力』を感じた。それは――
「……ふっ。役者が揃うたという事でいいんかのぉ？」
「役者、か。さて。私は主の望みに反する未来を防ぎに来ただけだからな」
　瑠々だ。傍には語り掛けるように両儀の姿もあろうか。
　瞼の裏にはある者の姿を想起しながら……
「話には聞いちょる。儂の中にアヤツはもうおらんが……
　――やらねばのう。見えうる地平の彼方まで更地にさせる訳にはいかんのよ」
　儂が『それ』を守らんと誰が『それ』を守ってあげられると言うんじゃ。
　闘志は十分。戦う理由もそれだけで十分。
　行こうぞ、今や共にと。終焉獣らを見据えるのは、更には彼だけではない。
「百合……草……ッ！　来てくれたんだな……！」
「瑠々さんっ……！　そっか、協力してくれるんだね。また一緒に、いれるんだね……！」
「――零にフラーゴラか。変わらないな」
　瑠々と知古であるフラーゴラや零に至っては、その言葉の節々に発露せんばかりの感情の色が見えようか。魔種の狂気を受け入れる、というのは反転でこそないものの、まず戻れない領域に達するのと同義だ……再びに歩みを合わす事が出来るかは分からない。
　だが。それでも。
　刹那の一時。運命の向く先が同じになる事は――あるのだろう。
　それが今この時、ならば。あぁ！
「理由はなんだっていい！　来てくれた事実は変わらない……！
　それだけでも俺には十二分に嬉しい！！」
　零の心に迷いはない。晴れやかだ！
　可能性を纏う。紅の衣と拳を持って終焉獣共を――打ち倒すのだ。
（プラック！　見てっか！？　テメェがいなくたって……テメェの魂がなくたって……！）
　――ダチ公の熱さと勇気は一緒に居れるよなぁ！
　零の脳裏に一人の男が想起される。
　あぁ忘れるものか、お前という男を。ずっとずっと覚えてる。忘れてなんかやるもんか。
　終焉獣共を砕きてそのまま狙うは――ベヒーモス！
　ヴィッターの指揮の乱れによりベヒーモスには明らかに隙が生じているのだ。
　警戒の意思が虚ろになっている所に全力ぶち込んでやる！

「――――■■■、■■■■■■！！」

　さすれば絶叫の如くベヒーモスが吼えようか。
　援軍として至りしクワルバルツや、イレギュラーズらの大攻勢。
　それらが実を結びつつあるのだ――
　無論、それでも未だ世界を滅ぼさんとする巨体は其処にある。この世に存在していた純正のベヒーモスでなくとも。ROOからサルベージされた存在であろうと――世界を滅ぼさんとする意志は其処にあるのだ。
　腕を振るえば地を薙ぐ。歩むだけで踏みつぶされんとする者もいようか。
　咆哮すれば大気震わす衝撃波がどこまでも突き走ろう――
　だからこそ。
「させるかッ――こんな程度で折れると思うなよ……！」
　瑠々の力が周囲に満ちる――彼女の掲げる旗は、数多に活力を齎そう。
　その旗には神秘が込められている。敬愛した主の力の一端が。
　誰も害させぬ。誰も零さない。世の滅びなど主は望まぬ――！
　『泰平』足らんとする願いが、力が！　皆を救うのだ！
「ありがとう瑠々さん……！　今はとにかく一時休戦、敵を打つよ……！
　皆の命は任せて――攻勢の護りは任せたよ！」
　さればその動きに応じる形でフラーゴラは皆に治癒の力を振るおう。
　周囲。ベヒーモスの攻撃だけでなくても、負傷が激しい者がやはりいる。
　数多の終焉獣。ナイトハルトの攻撃……警戒すべき事柄は山ほどあるのだから。
　――紡ぐ。命を繋ぐ神秘の力を。
　倒れ伏す者すら救う救済の癒し手であろう。そしてその対象は当然……
「ウチもか？　フラーゴラ」
「当然だよ。今は明確に味方なんだし――それに」
　前に言ったよね。
「アナタを殺すのはワタシ」
　忘れてないよね？　だから。
「こんな所で死なないでね。決着は必ず付けるんだから」
「――あぁいずれな」
　望むべく未来へ至る為にも。今は互いを助け合おう。
「……百合草ちゃんね。あぁ全く。どんな道を歩むか分かんねぇもんだよな」
　同時。斯様な様子を眺め言の葉零すはサンディだ。
　なんとなく。本当になんとなくだが。
　何か一つでもボタンの掛け違いがあれば――
（俺も多分、本当はそっち側の人間だった）
　そんな気がしてしまうのだ。
　……紆余曲折あって、結局引き上げてもらったから別の道にいるのだが。
　今の彼女の姿を見ると――やはりなんとなし想い巡らせてしまうものだ。
　さて。しかし『辿り着かなかった道の果て』はともかく、今は。
「俺も手伝うさ。一人で攻めも護りも面倒みる……じゃ大変だろ？
　なんだったら殴りたい奴がいたら、自分でぶん殴りに行ったりしてもいいんだぜ？」
「厚意には感謝するが、気にするな。こっちは一人の主に注いだ身だ。
　世界を救うというのは……ローレットに属しているアンタらがやるべきだろう」
「そうか――だが気が変わったら言ってくれよ。
　多少の留守ぐらい、アニキの俺がなんとかしてやるさ！」
　サンディは往く。若者たちのバックアップへと。
　苦戦している者があらば救援に。治癒も使えなくはないのだ、なんでもやってやろう。
　この場を突破する――！　そしてその為に……！

「『おねえちゃん』の所へ……行きましょう……！」

　確かなる意思を秘め、告げるはニルだ。
　この地の防衛の中核を担うノア。彼女を倒す。
　想う所はある。自らと似たような種と言える彼女には……
　けれど。
　ありったけの魔力を注ぎ込みながら――ニルは向かうのだ。
　かなしいのはいやです。
　くるしいのはいやです。
「ナラ、何故、ワザワザ、向カッテ、クルノデス――」
「……この世界は、ニルの大好きな場所なんです。
　大好きなものが、沢山出来たんです……
　ニルのたいせつなひとたちがいる場所、なんです――！」
　ノアがニルの動きを妨げんとする、が。その力すら徐々に精彩を欠いている。
　防ぎきれない。ニルの熱を。ニルの決意を。
　おねえちゃん――ごめんなさい。だけど。

　――まもりたい。まもらなきゃ！

「さ。どうにも面倒な要素を抱え込んでいる様ですが――
　ええ。こういうのはとっとと片付けるのが吉でございますので。
　ですので。ええ。ええ。大変申し訳ありませんが――此処で倒れてくれませんかねぇ？」
「戦闘不能となるのと同時に自爆か……なるほど。
　込められたエネルギー諸共ただ喪失するより、よほど合理的で有効だ。
　コンセプトの理解は示そう――どこまでも道具のようだが、な」
　更に続け様にはバルガルとプリンもノアへと畳みかける。
　特にバルガルは戦意が高い。折角やるのならば『くたばる』までやり通そうと。
　ニルやプリンの攻勢に意識を向けて、注意の狭間が出来たと感じえたならば。
　見逃さぬ。切り刻み、蹴りを喰らわせ、鎖を振るいてぶん殴る――！
　ノアの頬に直撃すれば更に亀裂が生じ広がろうか。
「グゥ――！　シカシ、マスターノ下ヘト、ハ……！」
「大した忠誠心だが、そら。余裕が無くなって来たからといってこちらばかり気にして良いのか？　――大事な大事なご主人の所へ次々イレギュラーズが辿りつくぞ。あと二歩。あと一歩」
　さればノアは残る力を総動員してイレギュラーズを退けんと抵抗するものだ。
　だがプリンがノアの意識を散らすように煽り立てながら彼女を押しのけんとする――
　最大の意味は彼女をこのまま『爆発しても無意味な場所』へ誘導する事だ。
　閑古鳥の泣くような場所で無駄撃ちして貰う。それが一番安全なのだから。
　勿論ノアとて無駄死にはしたくあるまい。
　故に隙を衝いて一撃一閃。強制的に退けようととするのである。で、あれば。
「そうっすよ！　ノアさんは――遠い場所で壊れてもらうっす……！」
　レッドもプリンと同様にノアの爆破に対して対処せんと行動する。
　壊れたら滅びのアークが大放出？　それなら旅人より聞いた『手榴弾の対処』方法で被害を食い止めるまでだ――！　ノアに迎撃されようとかまわない。そのままの勢いを維持して彼女に抱き着いて――そのまま超機動によって彼方へ飛翔せんとする！
「ナニ……！？　離、ッ――！」
「さないっすよ！　なぁに安心するっす。
　人形であっても一人でぶっ壊れるのは寂しいでしょうし……
　最後の最期まで――傍にいて付き合ってやんよ！！」
　ノアの肘打ち。強靭な腕力から繰り出される一撃はやはり強烈だ。
　それでもレッドは離さない。そして大地へと――叩きつける。
　甚大な衝撃。ノアを襲うその感覚は彼女に数秒の隙を新たに作り、て。
「これは、私の自己満足ですが」
　更に繋ぐは雨紅。追い詰められつつも未だ抵抗の余力をわずかに残すノアへと……
「あなたに『多くを殺したもの』という罪を背負わせたくはない。止めさせていただきます。
　それが貴方にとっての少しでもの――救いになると信じます」
「救イ？　私ハ、イラナイ、ノデス。マスターノ命ノ儘ニ――！」
　兵器であれば、人を殺すは存在意義。
　しかしそこに兵器自身の意思はなく、されど罪は罪として積み重なる。
　例え手段であろうとも。成したのは彼女自身なのだから。
　少なくとも『そう』だと雨紅は知っている。
　故に――止めるのだ。
　不殺の意思をもってして。爆破のタイミングを計る為にも。
　真の意味で救えぬでも、せめて少しでも良き結末の為に……！
「――――！」
　最早ノアの抵抗は間に合わぬ。
　バルガルの奇襲。雨紅の槍撃。ニルの超圧縮した神秘の放出がノアを削り。
　終焉獣に関してはプリンがいざとなれば引き離さんと立ち回る。
　極めつけにはレッドの行為で近くにいるイレギュラーズ陣営はごくわずか。
　どう足掻いても、今この場で自死しても主の命は果たせぬか。
　あぁ。

「――ノア」

　刹那。言の葉が――舞い降りる。
　それはグリーフだ。傍には……巨狼たる者もいようか。
「ネロさん、ありがとうございました。後は……私がなんとかします」
「良いのか。もう力はほとんど無さそうではある、が」
「大丈夫です」
　ネロだ。友たるグリーフの頼みに応じて、その背に彼女を乗せて駆けつけてきたのか。
　ネロ程の機動力があらば戦場を突破するのも叶うだろうが……しかし。
　グリーフの目的は、一つ。
「ノア。貴方はまだ知らないのです。主以外の存在を……主従以外の感情を」
　彼女を、抱く事だ。
　……私は知っている。この世には絆があると。
　例えばネロの有する、仲間達から受け継がれた剣のように。
　私は知っている。
　なぜなら私にも、絆があります。
　この――絆の紅玉が。
「世界を知ってください。もっと広い全てを知ってください」
「何ヲ――私ハ――マスター、ノ、為ニ――マスターノ――」
「いいえ。貴女もまた……一個の生命としてあるべきです」
　故に願う。可能性を。
　眠ってください。いつか、貴方が目覚めうる日が来るまで。
　いつか。貴方が主の望む地平だけでなく。
　――色付いているこの世界の美しさを知る日まで。
　どうか私の中で共に、永い夢を。
「ア、ァ、ア――」
　また”舟”が必要になる、その時まで。
　……おやすみなさい、ノア。

　傷ついた体。零れ出でる滅びの因子。
　だがそれを包む様に。蓋をする様に――パンドラの奇跡が紡がれた。
　……ノアが目覚めうる日が一体いつなのかは分からない。
　滅びのアークが消えた日か。それともずっとずっと先か。
　でも――
「未来へ」
　行きましょう。
　『舟』なのですから。
　貴方に名付けられたその名を――体現する為に。

　遂に、ノアが倒れる。
　眠りにつく彼女は、本来のナイトハルトの想定であれば、そのまま起爆していただろう。
　動けなくなった段階で最大の役目を果たせと――
　だが。数多の者らが弱らせ、決死の意思によってそれは成った。
　……ノアは眠る。長い長い旅路へと。
　さすれば防衛の中核たる存在の欠けは即座に波及する。

　ナイトハルトへの明確な道筋を作るに――至るのであった。

　※――敵戦力の一角『ノア』を撃退しました。
　※【1】・【3】どちらの選択肢でもナイトハルトに攻撃を仕掛ける事が可能になりました！

成否

成功

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第2章 第7節

「――なんだと？」

　ナイトハルトは感じ得る。戦場の変化を。
　ベヒーモスが押されている。いやそればかりか、何か一瞬動きが変だったような。
　ヴィッターが何かミスったかな――？
　竜である存在も訪れているのだ。歴戦たるイレギュラーズも大勢いるのだ。
　一手の間違いが致命になるだろうに――
　全く困った男だなぁ♪　まぁいい。
「そうはいかないためにノアを用意していたんだ。ノア――おや？」
　と。最前線の防衛中核を担っていた、己が人形ノア……が。
　反応が、ない――？
　おかしい。どういう事だ？　なんらか戦闘出来なくなった時点で、滅びのアークを撒き散らす自爆を行うようにしていた筈なのに。そうなるようにプーレルジールという大舞台を実験場にしていたというのに。
　何か不測の事態があって失敗したというのか――？
　馬鹿な。
　いやそればかりではない。
　他の戦場の気配も――散っている気がする。
　ドゥマもヴェラムデリクトもホムラミヤも――
　まさか。ファルカウも落ちたというのか。
　――すごい。

「流石だ……流石じゃあないかイレギュラーズ♪　ハハハハハ――！」

　だがナイトハルトの心中は歯ぎしりするような口惜しさと。
　同時に歓喜に振るえる高揚感に満ち溢れていた――
　ナイトハルトはBad end 8の中において唯一の旅人（ウォーカー）だ。
　本来であれば滅びの側に立たぬ者。
　だからこそ終焉が阻まれているという現状に喜びの感情も抱ける……いや厳密には終焉が阻まれている事、というよりも現在のイレギュラーズを全て『自らの後輩』と愛するが為の、彼らの活躍に対してと言えようか。
　あれだけの数の終焉獣を用意して。
　ROOデータからサルベージしたベヒーモスも用意して。
　プーレルジールでの研究を元に作り上げた爆弾も用意したのに。
　それでも君達は突破しうるというのか！
　多くの者が協力して！　世界中が一致団結しうる地盤を作った！
「どこか一つでも仕損じていれば、今の流れは大きく変わっていただろうに」
「あらぁ？　どうしたの、ナイトハルト。追い詰められてるのに、元気そうね」
「原初の旅人。わたしも旅人としての立場に思う所はあるけれど……しかし！」
「てめぇの好きなようにはさせてやれねーんだよ！」
　ナイトハルトに相対するは彼への攻勢を果敢に仕掛けていた者達の一部――メリーノ・アリテンシア(p3p010217)やセレナ・夜月(p3p010688)、紅花 牡丹(p3p010983)の姿であったか。メリーノが話したい事があるからと送り出した面々。
　傍にはマリエッタ・エーレイン(p3p010534)や水天宮 妙見子(p3p010644)の姿もある。
　周囲の終焉獣を跳ね除け、時に治癒の力を展開し――
　ナイトハルトに抗しようというのか。
「ナイトハルト……私達の大先輩、原初の旅人。
　先程『妹』さんの件に問いかけた時、激しく憤っていましたね。
　やはり貴方にとっての全ては『妹』さんですか」
「そうさ。あの子が失われたのが僕の始まり。
　――そしてその後でイノリに出会った事が僕の立場を決定づけたのかな」
「イノリ……影の城にいる、首魁ですか」
　マリエッタと妙見子の言。ナイトハルトは笑みと共に応えようか。
　繰り返すがナイトハルトは旅人だ。イレギュラーズと同様の立場。
　だがナイトハルトが鞍替えする事はありえない。
　ずっとずっと神を憎んでいた。ずっとずっと滅ぼす為に行動していた。
　なにより僕は君達なんかより先に。
　イノリに出会ってしまった。
　妹であるざんげ愛する――彼に。

「あぁ」

　偶然だったのかな。恐らく初めての旅人が兄妹であったのは。
　偶然だったのかな。それとも正に神の悪戯であったか――
　まぁ、いい。
　もういいんだ。
　どうでもいいんだ！

　さぁ決着を付けよう。世界を救う愛し子達――

「僕は――ちょっと強いぞぉ？」


　※最終局面に移行します！　以下の変化が生じています！

●第三章目標
『ナイトハルト』の撃破

●『敵戦力』情報更新
・ベヒーモス：ヴィッターの指揮によるミスと、イレギュラーズの大攻勢。クワルバルツの攻撃により明らかに損耗しています――！　しかし巨体から繰り出される一撃は未だ脅威でしょう。最後までご注意を！
・ヴィッター：非常に大きな負傷を負い、ナイトハルト側へと後退しているようです。ナイトハルトの傍で最後の防戦を行わんとしています。

・ナイトハルト：【1】【3】いずれでも攻撃を仕掛ける事が可能です。終焉獣が存在していますが、最前線を担っていたノアが脱落した事により、終焉獣の統制が乱れています。その為、妨害してくる終焉獣の数が減りつつあるようです――ただしナイトハルト自身は強力な力を宿しています。彼への攻撃はやはり危険が伴います、ご注意を！

●砲撃について
　第一章からナイトハルトは各地に砲撃を展開していましたが、この砲撃に関してはかなり消極的になっています。
　自身の傍における戦闘に魔力を集中させている様です。
　つまりランダムに生じていたダメージ（『騎兵隊』の行動により、途中から騎兵隊を中心に狙っていましたが）はほぼ失くりました。ただしナイトハルトへの攻勢が少なければ再開されるかもしれません――後は、ご武運を！