シナリオ詳細
<夏祭り2018>光泡粧うはて
オープニング
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それは星空の如き天蓋だった。
光差す水面は幻想のカーテンを揺らしている。青はどこまでも深い――
鮮やかな空色から深くまで潜り込めばシンと静まり返った夜の世界が待って居た。
色とりどりの魚達は指先に口づけ、擽ったいとどこか恥ずかし気にその身を揺らす。
其処にあるのは世界のはての如き場所。目を伏せて、暫し青に身を任せて。
●
普段と違った装いに身を包んで。シンプルな水着と、羽織ったチェックのシャツ。ビーチサンダルという健康的な装いとは対照的に驚くほど日に焼けない肌を擦った『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は「祭りじゃあ」とへらりと笑った。
「……普通の格好をすると『おにいさん』なのですね」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ (p3n000003)の言葉に雪風はうるせいやと頬を掻く。同じく、『ニホン』と呼ばれる場所から来た『男子高校生』月原・亮(p3n000006)は修学旅行みたいだと声を弾ませた。
「そ。ここ、海洋王国のお祭りに遠足なのだ。
……水着回のあるアニメって名作って言うじゃん? 水着回だよ」
「それはよくわかんねーけど。それにしても凄い海だな」
広がるのは一面の海、海、海。市街地ではサマーフェスティバルが行われているが此処はその喧騒からは打って変った様子であった。
それはその筈なのだろう。此処はある『恋伝説』がある場所なのだそうだ。
サマーフェスティバルが行われるその日、海の中に姿を現すのは雪風や亮の言葉を借りれば『竜宮城』。
――その昔、翼を持った女は海を泳ぐ青年に恋をした。
――彼はこの海のはて。光泡を纏う貝殻の城に住まうのだそうだ。
――彼に会うために彼女は年に1度だけ海を割って彼の下へ行かせてくれと神に懇願した。
「それがっ、恋伝説なのです!」
瞳をきらりと輝かせるユリーカに雪風はこくりと頷く。
恋伝説は何時だって乙女の心を躍らせる。恋伝説が伝わるその場所は人気ないビーチを起点とし、遠くはてには無人島の姿が見えていた。
「この下に、竜宮城があるんだそうだ。
深くまで潜らないと見えない――けど、俺達には強い味方があるよな」
「ててーん。『夢幻の青』。幻想の貴族、リーゼロッテ様からお借りしました」
雪風が手にしていたのはいつかの日、海の中で呼吸ができるという魔法道具。
ぷかりと浮くその姿は水泡を思わせる。雄大な海の小旅行。
「さあ、海の世界に行ってみよう。……大丈夫、泳げなくっても怖くない」
手招く雪風はうん、と一つ伸びをして指先を水面に晒す。
冷たい水は歓迎するように彼らを待って居た。
- <夏祭り2018>光泡粧うはて完了
- GM名日下部あやめ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年08月04日 21時45分
- 参加人数88/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 88 人
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参加者一覧(88人)
リプレイ
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夜と朝のさかいめ、太陽と月がならぶころ――きらりと瞬くのは雲の合間から覗く陽のひかり。
サンティールはそろりと差し伸べられたてのひらに目を丸くする。
泳ぎの練習はしたけれど、あの『泡』に包まれていたいとウィリアムはサンティールにその景色を見せたいのだと笑みを溢した。
「それじゃ、お手をどうぞ、『お姫サマ』」
冗談めかして、王子さまの手を取って。恭しくその手を取れば、ぐん、と深い深い底へと歩を進めていく。
温かみさえも感じる海水の温度に、微睡さえ覚えてしまいそうなその心地よさ。目を伏せかけたサンティールは「綺麗だな」とささやかれたその言葉には、と息を吐いた。
朝焼けが滲む――ひかりが溶ける様に。めざめの朝を告げる鳥の声は聞こえないけれど。
泡沫の世界でサンティールは云おう。空に、海に、ウィリアムに――おはよう!
「またこいつを貸してもらえるとは有り難いね」
海種といえど海の中を歩むのを楽しみたいと思うものだと縁はマナを振り仰ぐ。折角の海だからと水着を着用してきたマナはどこか恥ずかしげに縁をちらと見遣る。
逸れないように、と告げた言葉にこくりとマナは小さく頷く。
「こんな広い海で迷子になっちまったら、二度と見つけてやれな――ははっ、悪い悪い、冗談だ。
そうなった時はおっさんがちゃんと迎えに行ってやるさね」
そっと、寄り添って。マナと共に歩む縁は海藻の森に珊瑚礁に、海の中を案内していく。ふと、足を止めた縁にマナは首を傾げた。
「……マナ。上、見えるかい?」
透明な水面越しに青空がくっきりと映っている。まるで――空と海が一つになったようで。
「わ」と息を飲む。差し込む光はカーテンの用にふわりふわりと揺らいでいる。これからは、二人のお気に入りの場所だと笑みを溢し合って。
噂には聞いていたけれどとグラはぱちりと瞬く。ストマクスは彼女の動きに合わせてゆらりと揺らいでいた。
「おぉ~、なるほど。これが噂のというやつですね!」
『ふむ、同胞が興味深いと言っただけはあるな』
楽し気なグラにストマクスは大きく頷く。夜がおすすめだとは聞いていたが朝や昼もまた違った景色が見える。
ストマクスからするとグラは昼の鮮やかな陽の下に居た方が似合うかもしれないとそう、頷いた。周囲を泳ぐ魚達は何処までも美しい。
きゅう、と腹が鳴った気がしてグラはぱちりと瞬いた。
「海岸沿いにも屋台がありましたし早く戻って楽しみましょう!」
N123は海での行動は困らないけれど、と茫と顔を上げる。面白そうだからと魔法道具に身を包めば水中行動をして居るときとはまた違う雰囲気を感じられる。
昼間や夜はとは違った景色が朝の海には広がっている。魚と共に泳ぐことも、海面を見上げながら転寝をする事も――やりたいことはいろいろあるけれど。
「やっぱり気になるのは……『貝の城』だよねぇ」
色恋沙汰は経験はないから『恋伝説』は解らない――けれど。光泡纏う景色は目を瞠るほどに美しいだろう
まるで御伽噺のようだとエリーナは召喚したペットと共にゆっくりと海の中を歩む。彼女の傍らに立つ小さな妖精も魔法道具の中で楽し気にふわりと揺れていた。
「海底にはこのような生き物もいるんですね。持ち帰ってペットにしたいですが……飼育環境を整えるのが難しそうですね」
貝の城、とそう言われればコーデリアにとっては気になる存在とも言える。恋の成就に興味があるのかと問われれば答えはNOなのだが。
魔法道具を借りていけば、いつもと違った風景を楽しめるはずだとコーデリアはゆっくりと底へと歩み出す。
こうして海へと深く潜り込む――それは、何時にない経験で。海面から遠ざかるにつれて不安になるのは仕方がない事なのだろうか。
「貝の城なる場所には何があるのでしょう? 本当に何者かが住んでいる……あるいはいたのでしょうか?」
城のことを考えてみれば、不安よりも好奇の心が勝ってしまう。さあ恐らくはもう一息――頑張って進もうとコーデリアは気合を込めて。
「ルミエール」
呼ばれた名前にルミエールはつい、と顔を上げた。朝から海の中を散歩するだなんてどれ程に贅沢か。
踊る魚たちに目配せし、武器商人はヒヒヒと笑って見せる。「あぁ、貝殻の城といえば伝承に語られる『人形姫』にも出るモチーフだね」
行ってみようかと手招けば、その言葉にルミエールはこくりと大きく頷いた。
きれいな貝や魚が居れば全部連れて帰りたいとルミエールは『父様』を見上げた。
「ヒヒヒヒ……この海が欲しい、か! かなり難しいだろうねぇ!」
「こっそり私のお城をつくるぐらいなら叱られないかしら?」
首をこてりと傾げたルミエールにそれではお城を作って叱られないから『王子様』に聞きに行こうかと武器商人は手を打ち合わせて。
朝日の柔らかい光が美しく。息さえ忘れてしまったように周囲を見ていたセレネは魔法道具に怯える様に息を深く吸って――息を止めた。
「ふふ、セレネちゃん。大丈夫だよ、息はできるよ」
深呼吸してご覧、と柔らかに微笑みかけたライセル。その言葉にセレネは「ふふ、ははは」と小さく笑う。
指を出せば小魚たちは指先に口づけを。それが楽しくてセレネは楽し気に目を細め――ふと、ライセルが手を差し伸べた。
「少し段差になっているから気をつけて。お手をどうぞ、お姫様?」
「お、お姫さま……お姫さまなんかじゃないです」
煌めく紙が美しく、綺麗だ、と呟く言葉にセレネの頬がぷくりと膨れる。ライセルさん、と恥ずかし気に呼ぶ声さえもすべて愛おしくて。
――嗚呼、ライセルさんはずるい。自分にも勇気が欲しいとセレネはゆっくりと彼の手を握りしめた。
(恋って何? ――気になる人はいる。好きか嫌いで言ったら好き。この場にいない彼への気持ちが恋なのでしょうか?)
リディアは恋物語を思い浮かべる。彼に会いたいと思っているのかどうか。自分の気持ちは恋ではないのだろうか。
思考は堂々巡りしている。どうすればいいのか、何が正しいのか、それすら、リディアには分からない――
「恋って難しい。私にはよくわかりません」
そうつぶやく。なぜ一人でここに来たのだろうと落ち込みがちな思考を払う様に首をふるりと振った。
朝焼けが眩しくリディアを見詰めている。ねえ、この気持ちは――?
「シャロンからのお誘いは嬉しいね? 岩の方が面白そうかな?」
瞳を丸くして鼎はシャロンをちらりと見遣る。面白い岩がある、と告げた彼は「足湯もあるけれど、岩にしようか」と彼女の掌を見遣った。
「あの、鼎さん、その――」
さり気なく、なんて繋げない。掌をじいと見つめたシャロンに鼎は「シャロンの手を拒否することはないよ」と小さく笑う。
「ところで、シャロンはこの岩がどんな謂われか知っているのかい?」
悪戯めいて訪ねる鼎にシャロンは縁結びらしいよ、と柔らかに告げた。知らなかったのならば、『そういう意味かな』と揶揄できたのにとくすくすと笑う鼎にシャロンは肩を竦めた。
「大事なのは二人の気持ちだと思うよ、人は見えないものよりも見えるものに安定を求めるからね。
だから、大事なのは気持ちだと――そう、思うよ」
「そうだね。岩はきっかけに過ぎないだろうね? 二人が『そういう気持ち』でここに来たのなら――なら、」
鼎の丸い瞳が猫のように細められる。シャロンは此処にどんな気持ちで踏み入れたのかな、なんて。それは聞かないでおこうかなと小さく笑って。
浜辺で遊ぶなら午前の内。昼過ぎると暑くなる一方だ。
「ってもまあ、これ使って海の中に入っちまえば、変わらないだろうけど」
イーディスは魔法道具を掌で弄ぶ。暗殺令嬢が戯れで齎したという魔法道具、それがあれば海中散歩し放題というのだから憧れる。
「うへー……こうしてみると海ってやっぱスゲーよな。こういう時は、銛から出てきてよかったと素直に思うわ」
美味しそうな魚や貝は何処だろうかとイーディスはきょろりと周囲を見回した。多めに獲れたなら他の面々にも食べさせたいとイーディスの漁が今、始まった。
「海で釣りをするのって初めて! とりあえず釣り竿とバケツはいると思うんだ。えっと、他は……」
こて、と首を傾げるスティア。サクラは幻想に来てから沢山の経験をしたのだと目を細める。釣りは初めてだから、とても楽しい。
「美味しいお魚が釣れるといいね。じーっと待つのも楽しみって言うけど……それが出来る自信は私もないね」
「んー……景色が綺麗なら大丈夫かな~……?」
じっとしてられないね、と二人は小さく笑い合う。ふと、色違いの瞳がぱちりと瞬いた。何だか、釣り竿が――不思議な動きをしている。
「ほら、あのなんか浮いてるやつが沈んでる! これ、お魚じゃない?」
「あっ、本当だ……! これは、一人じゃ無理そう……サクラさん手伝って!!」
慌てて二人で竿を握りしめる。もう少し、もう少し――わ、とサクラが声を上げる。勢いの儘ばしゃりと水がかかり、傍らには勢いよく跳ねる魚の姿。
「わぁ……おっきい魚……食べれるかな……?」
「えへへ、ちゃんと釣れてよかったね」
明るく笑い合う。偶にはびしょびしょになってもいいなぁ、なんて。
「恋伝説……ですか。私にはあんまり縁の無さそうな伝説ですね」
アグライアは過ごしやすいとうん、と一つ伸びをした。釣りを使用かと周辺を眺めれば、きらりと水面が光を放つ。
ここで茫と釣り糸を垂らすのだって悪くない。久々の釣りの結果を楽しむ事が出来るなら――
「おや、中々よく釣れますね。小さい魚は逃して、大きめのものを狙いましょう。良い感じのものが釣れたら昼食になってもらう予定ですからね」
アグライアは赤い瞳を細めて笑う。もう少し、この夏を楽しんで居よう。
「……今頃『はての島』とやらではカップルがイチャイチャしとるんじゃろな」
元は深く息をつく。釣り糸を垂らしながら暗黒オーラを垂れ流した元。今なら奥義を使用できる――気さえする。
「島に乗り込んでリア充を爆破しに行くことも考えたのじゃが……。
恋人同士で楽しみにしとった旅行を邪魔されたら、おにゃのこが悲しむじゃろうしなぁ……。ワシはのぅ……おにゃのこの笑顔が一番好きなんじゃ……」
はあ、と深く息を吐いた元。その隣では昼飯の調達がてらに釣りを楽しむというグレンが釣り糸をたらりと垂らしていた。
恋伝説があるという浜で一人、釣り糸を垂らすというのはまったくもって色気もない話なのだが、食い気というのも大事だ。
「遊び半分だが、ボウズだけは遠慮したいもんだ」
「別に恋とか言われてもな……オレにはあまり関係のない話だ」
グレンが溜息を吐くとクロバは茫と水面を眺めている。水面に躍るのは鮮やかな軌跡。眺めていたクロバはくるりと振り仰ぎ、通りかかった人々に声をかける。
「で、アンタは釣りとかどうなんだ? 中々見た目以上に愉しいぞ」
「はての海ですかー……なんかろまんちっくですしこんなとこで釣り糸を垂らすのもどうかなとは思いますがゆっくり身を休めたい日なのです」
ふあ、と小さく欠伸をしてヨハンは釣りはあまりやった事ないけれど、とだらだらと遊べればいいなあと考えていた。
釣りフレンズを大募集したヨハンは縁結びの岩や貝の城に皆が向かう背中を見送っていた。
「おさなかの名前とかもよくわかんないし、食べれるのかもあれなので詳しい人を! 捕まえて! お昼にいっぱい食べたいのが本音です!」
きゅう――……とお腹がなる。
昼まであと少し。それまでに何としても『お昼ご飯のアテ』を手に入れたいというものだ。
●
昼の日差しは刺すかのようで。青々とした海面に白い波が軌跡を作る。空の如きコントラストを見せたその場所にぱしゃりと指先浸してユウは「海の中の散歩ね」と小さく呟いた。
魔法道具と聞けば、それは不思議なもので仕方がない。水着を着る事無くとも濡れない――そう聞いていたけれど雰囲気では許されないでしょうとユウは小さく笑った。
「折角の海だし水着は着ておかないとね~。海の散歩も楽しみだけど皆とのお出かけも楽しみだな~」
楽し気に微笑むセシリア。夢幻の青というそれは何処か不思議なもので仕方がない。アリスは「わーっ!」と大袈裟な声を上げて海の中へと飛び込んだ。
「セシリアさん、ユウさんっ、みてみて! 凄いよっ!」
ばしゃりと指先を外へ出す。魚達はこんにちはとあいさつするように軽く白い指先にキスをして。その様子にもユウは「嫌いじゃないわね」と小さく笑う。
「こう、光が反射して――お魚さんが近くで泳いでいたりしてね!」
はしゃぐセシリアを追い掛けてユウが待ってと走り出す。その空間さえ楽しくて。幻想的な空間でアリスは深く息をついた。
ぱちりと瞬けば、魚がアリス達に合図する。こっちこっちと走るアリスとセシリアの背を追い掛けてユウは小さく溜息を吐いた。
「ねえ、海中散歩を楽しんだら今度は浜辺で遊ぼっか!」
「いいね! ほら、ユウも付き合ってね! さあ、アリスさん行こうか!」
普通には泳げるけれど水の中では呼吸ができないから。シャルレィスは海を散歩したいと楽し気に歩み出す。
向かう先は竜宮城。光泡纏う貝殻の城は何処までも美しく、思い浮かべるだけでも心は浮足立った。
はての海、世界の果てを思わせる恋の場所。冒険者ならば絶対に行くしかないとシャルレィスは拳に力を籠める。
「……わ! なんだかシャボン玉みたいで面白いっ!」
不思議だと瞬けば。青も、光も、すごく綺麗で。差し込む陽射しはカーテンの用にゆらりと揺れている。幻想的なその空間で、シャルレィスはぱちりと瞬けば、ぽこりと水泡は浮き上がり、そこにあるのは光粧う柔らかな場所。
魔法道具。こうしたものが普及したならば――とそう思いながらもノエルは周囲を見回した。海を泳ぐときとはまた違った感覚がする。
光差す水面に向かって手を翳す。ひらりと影になるその空間が、とても美しくて。
「――本当にきれいですね」
ほう、と息を吐きだした。海の中で漂いながら見た景色も美しかった。その時とはずいぶんと違って見えるものだとノエルはぱちりと瞬く。
甘えん坊の魚に指先伸ばして。小魚に挨拶しよう。今日はこのまま楽しもう。
ふかいふかい海を散歩しよう。シャボン玉に包まれて、海底を歩むナキは亡霊といえど、水中では呼吸ができなくて恐ろしい。
海の中はどこまでも昏いから――生きた魚を泡の中に呼ぶのは可哀そうだからとナキはゆっくりと歩み出す。
(溺れている人が居たら助けましょう。……ここは怖くて、きっと、苦しいでしょうから)
ナキはゆっくりと歩み出す。どこか怯えた様に漂う人を見かけてなナキは柔らかに微笑んだ。
「……あなたも観光ですか?いきたい所へ行きましょう。海の中でも、外にいくのでも」
魔法道具を手に海の世界を歩み出す。シンジュゥの傍らでツクモは「すごいですね」とぱちりと瞳を輝かせた。
「緊張からかどきどきします! ……ので、シンジュゥさまのお手を少しだけお借りしますね?」
ツクモがぎゅ、とシンジュゥの手を握りしめる。「はぐれちゃったら大変ですものね」と頷くシンジュゥは遠慮がちにも手を繋がれたそれだけでもうれしいと笑みを溢す。
「わぁ……」
上を向いた時の空とはまた違う。まるで空を泳ぐかのような魚達が美しくて。手を繋いだまま、両手を空に翳せば――
ゆらめきの光彩が繋いだ手を照らしている。
「綺麗ですけどうっかり迷子になってしまいそう……て、手は絶対離さないでくださいねっ!?」
その言葉にシンジュゥは不思議そうに小さく笑う。大丈夫、絶対に離さないと約束するから。
「水泡の中とはいえ、海の中はポテトには怖いかもしれない」
そう冗談めかしたリゲルはポテトの細い体を抱きしめる。魔法道具の中といえど海の底は何処か不安だから。
果ての島の鳥居も気になったというリゲルは縁結びは必要ないかな、と薬指の指輪をこつりと合わせる。縁結びはもう叶っているから。
「……綺麗だな」
深く、降りていくほどに海の表情は変わっていく。その背を追い掛けてリゲルは「まるで乙姫様だ」とポテトを引き寄せた。
「いつか、ポテトの泳ぎが上達したら今度は自力で来てみようか」
鮮やかな煌めきの中、二人で来たいと唇を重ね合わせる。貝殻の城には住みたくなるなとリゲルはポテトの手を握りしめる。
「料理は暖かい方が好みだな。帰ったら作ってくれるかい?」
「じゃぁ、おにぎりと味噌汁、野菜の煮つけに肉じゃがでどうだ? きっと暖まるぞ」
君が作るなら何だって美味しいものになる。楽しみにしてると、そう柔らかに微笑み合って。
海藻や珊瑚に足を取られそうになりながらティミはゆっくりと進む。その手を支えるアランはほう、と息を吐いた。
「今日はありがとうございます。一人で海の中に入るのは怖かったので、ご一緒出来て一安心です」
「あぁ? ああ、問題ねぇよ。俺だって、海の底がどうなってるか気になってたしな」
ティミの言葉にアランは大きく頷いた。陽の光が差し込む場所は最果てと呼ぶにはまだ遠いのだろう。けれど、海と光の教会に触れることができる気がしてティミは「アランさん」と呼んだ。
「綺麗ですね」
「……あぁ、綺麗だ」
光のカーテンが其処にはある。海の中から見る太陽は眩しくなくて、何処か不思議な膜を纏って見える。
「……こーいう所って恋人同士で行くんじゃねぇのか?」
その言葉にティミの頬にさ、と紅が挿す。「こ、恋人は居ませんよっ。……ただ、大切な人は居ます。その人は刀なので海の中に入れません」ともごもごと呟いて。ティミはにんまりと笑みを溢した。
「アランさんがこうして連れて行ってくれて助かりました」
恋伝説や貝の城。聞けば気になるものだと牛王は周囲を見回した。空気の膜に入れるのは何処か不思議な感覚で。
見上げればきらきらと揺らめく光の膜に魚達が遊ぶように泳いでいる。「海種はこういうのに慣れてんのかね」と呟くアルクの言葉に牛王はぱちりと瞬いて。
「あ、牛王見てみろよ、あそこ小さい魚の群れが隠れてるぞ。
空飛ぶお刺し身も良いけど、魚の形したのが水ん中泳ぐのは見てて和むな? ……今回は食い気じゃねえよなんだその目は……」
「そしてアルク、空飛ぶお刺身とはどういうことでしょうか……言っておきますが、食べてはダメですよ?」
アルクをちら、と見やった牛王は貝の城を目指して、今年も、来年もその先も翼の女と海の男が出会えるように拝んで願うのだとそういう。
「牛王、杣への土産話一個できたな」
その言葉に牛王は大きく頷く。きっと、アルクにとっても貴重な経験だっただろう、と。そう思う。
「……本当に面白い土産話ができました杣に『龍宮』へ行った、なんて言えばさぞ驚くやもしれませんね」
すごい、と瞳を輝かせたクィニーが周囲を見回した。傍らの明日は義姉の瞳がきらりと輝く横顔を見遣りこくこくと頷く。その反応は明日とて同じだ。
「綺麗でございますね、姉様」
手を繋ぎ、義姉の顔を見遣る明日にクィニーは嬉しそうに笑みを溢す。二人でこうして美しい景色を見れるのはどれ程に嬉しい事だろうか。
「すごいねー……あっ、明日ちゃん上見て! 上!」
その言葉に顔を上げる。輝く天蓋は海の青と空の青を交え、陽の光を差し込ませる。明日と二人だからと着用したビキニに明日は慌てた様に「大胆過ぎます」と冗句めかして。
「……流石はファンタジーって言うべきか」
茫と呟く勇司にアマリリスは幻想的ですね、と瞳を輝かせ――ぐん、と勇司の腕を掴んだ。
「佐山さま、早く早くっ! あっちに、おさかなさんとか沢山いらっしゃいますよ!」
「う、うおおっ!? 引っ張った儘あっちこっち向かうなっての、お前はアレか、子供かっ!」
思わず声を荒げた勇司にアマリリスの頬がぷくりと膨らんだ。アマリリスにとって海種はこうした景色を何時も見ているのだろうかと新鮮な全てがとても嬉しくて。
「天義にいたころにはない風景です。世界を知るというのは、素晴らしいですね」
「俺の世界は……ああ、最近アマリリスの同郷に聞かれたばっかだわ」
その言葉にアマリリスははて、と首を傾げた後に「天義の!」と瞬いた。天義の同郷の人々。その人たちと出会えたらというアマリリスに勇司は自分にとっては混沌こそが面白い世界だと小さく笑みを溢して。
泡に包まれ海の中へ。海底で光る城を見てみたいというシラスの傍らでアレクシアは泳げないからこそこの場を楽しめてうれしいのだと笑みを溢した。
「ねえ、どこまで沈むのかな?」
その言葉にアレクシアはどうだろう、とぱちりと瞬く。深く、深く沈んでいけば、周囲は暗くなってくる――アレクシアとシラスは夜が来たみたいだと小さく微笑み合った。
「ねえねえ、あれ見て! 凄い!」
ふと見上げた海面から差し込む光はとても美しい。水底の昏さに引き摺られぬように、明るい彼女の言葉に身を任せる。
楽しんでいるかと顔を覗き込めば、にぃ、と小さく笑みが浮かんだ。さあ、光のカーテンを堪能したらあとは貝の城を目指そうではないか。
貝の城に向かう為に共同作業だとロクは尻尾をぱたりと揺らす。クリスティアンはどこまでも楽しそうだから――
「海の中!! キレイ!! 海の中の王子もキレイ!!」
「ロク君もとっても愛らしいよ」
ウィンク一つ。それにロクは嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐ。クリスティアンは貝殻の城についたならばどんな楽しみがあるのだろうかと周囲を見回した。
「着いたらどうしよう、ドレスコードとかあるかな。わたし全裸なんだけど!! あっ王子の水着も全裸みたいなものだね!! うん大丈夫!!」
「お城のドレスコード? うーん、海種の方達は水着みたいなものだしね それに、僕のこの美しい水着姿ならば……」
そこまで続けて、ロクが『ほぼ全裸』だと気づいたクリスティアンの頬が紅色に染まる。レディの裸は余りに刺激的だ。
お城で一緒に躍ろう。華麗なるカレイのように。それはきっと、きっと楽しいから。
図鑑で調べたのは周辺生物のこと。ジョセフにしっかりと解説するという礼拝は「ジョセフ様と手を繋げるように一生懸命頭に入れてきましたのよ?」と笑みを溢した。
「……ふふふふ、なんといじらしいことか! さあ、礼拝殿、手をこちらへ」
ジョセフは小さく笑う。あれはこれはと止まらぬ好奇心。振り回そうと考えていたのにと礼拝はどちらが振り回されているのかと小さく笑う。
嗚呼、これでは子供のようではないかと『品行方正清廉潔白愛され系ジャスティス』らしからぬと首を振った。
「ジョセフ様、ご覧になって。この光景――とても、美しいでしょう」
二人で過ごすのは特別だ。だから、この景色を、見たものすべてを弧の心に刻みつけて。
「『夢幻の青』は、科学と魔法の結晶なのかな? 泡もお城も幻想的だね」
ルチアーノのその言葉にノースポールは柔らかに笑みを溢す。手を繋げば逸れることもないから安心だと握りしめた体温が心地よい。
海には縁のなかったノースポールだからこそ、ついつい足を止めてしまうのは心が躍るからだろうか。
「ルーク、見て! あれが海月? 綺麗だね! あっちには魚がいっぱい……!」
「海月だよ、透き通っていて綺麗だよね。小さい魚は群れながら泳ぐんだ」
ルチアーノの解説にノースポールの瞳がきらりと輝いた。恋伝説を思い出せば、会えないというのは何処までもつらいから。
ノースポールにとってルチアーノのに会えない日は何だか物足りない。
「ルークは、わたしと会えない日は寂しいって思う?」
「ポーと会えない日は……寂しいに決まってるじゃない。会えない期間が続いたら、心に穴が空きそうだよ
地上から太陽が消えるようなものだからね。だから……これからも、僕の傍にいてほしいな」
会えない日を思えば思う程に、切なさが溢れてルチアーノはノースポールの体を強く抱きしめた。愛しさで胸が詰まってしまって、返事をする様に一つこくりと頷いて。
黒いマクロビキニに身を包んだ鈴鹿は傍らの輪廻をちら、と見遣る。パレオを揺らした輪廻は大量の焼きそばやたこ焼きを平らげながらその支援につん、と返した。
「何故、貴女と一緒に砂浜に来なきゃいけないのかしらね……つまらない存在だけど、こんな時は彼氏の一人でも作っておくべきだったかもしれないわね。貴女もあれだけ誘惑して、誰か良い人は居ないの?」
「秋空、遺憾ながらそれには激しく同意なの」
輪廻と鈴鹿。互いにその視線を向け合えば、後ろはがら空きだ。ゆっくりと近づいて二人の尻を撫でつけて。
「やぁ、お二人ともこんにちは」
死聖は笑みを溢す。魅力的だと告げられたその言葉に輪廻は「貴方なのね」とそう告げて、小さく息をついた。
「丁度良いわ、相手役が出来たわ。この娘は普段からノーパンだしえっちな事も興味津々な娘だから、きっとあなた達、上手くやれるわよ」
それじゃあねと告げた輪廻の背中を見遣って死聖は行っちゃったとするりとパレオの下のビキニパンツを摘み上げる。
「奪ったんだけれどね。……まあ、今までに無いくらいに秋空さん気が緩んでいたからね、これくらい簡単だよ」
その言葉に鈴鹿は輪廻の気持ちが緩んでいるのは自身との仲だろうかと喜ぶ――が。
「君も、ね♪」
「……剥ぎ取る者は剥ぎ取られる覚悟をしておくべきなの」
さあ、海は素晴らしい。水着の剥ぎ合いが始まるのだった。
「うーん、縁結びねー。この世界に来てから妙な縁はぼちぼちあった気がするけれど。
まあ、良縁奇縁色々あって人生だって言うよね? ちょっと年寄り臭いかな?」
リンネの言葉にリインはぱちりと瞬いた。はての島という響きがとても気になるのだとへらりと笑ったリインはリンネを手招いて。
「こういう場所、好きなんだ~。心が洗われるみたいで。
ともかくこの島に来たからには、縁結びの岩にお参りだよねっ!」
作法もしっかり、と告げたリインに色々混ざりすぎてわからないけれど、と手を合わせてお祈りを捧ぐ。
(リインにより多くの豊かな出会いがありますように、と)
(私はどこでも上手くやるつもりだけどリインは不器用だからね、助けになってくれる出会いがありますように)
だって、リインはリンネにとって大切な存在だから――リインはゆっくりと目を伏せる。
(縁を司るどなたか様。もし届いていたら、お願いいたします。)
(この先世界に何が起こっても、もしまた何処かへ飛ばされる様な事があっても、)
(大好きなリンネとずっと一緒にいられますように……。)
――ねえ、リンネは何を願った? そう聞いてもきっと秘密だと悪戯っ子の様に笑うのでしょう。
●
月明かりが差し込めば、光は何処までも伸びていく。まるで海に攫われる様にゆらりゆらりと光は深海へと攫われて。
「この岩には、沢山の願いがかけられているのですね」
そう告げたクラリーチェにグレイは見据えるばかりの望みに縁は要らないのだと好奇心でここを訪れたと告げた。
クラリーチェにとってもそうだ。『信仰の柱に他者とのかかわりは不要』だと、交流を禁じられて育った彼女にとって結ぶ縁は存在しない。
「……キミはなにか願う縁ってあるのかい?」
「……私が願う事……。その『種類』はともかく、紡いだご縁が長く続きますように、と。勿論、貴方とのご縁も」
出過ぎた内容でしょうか、とそう告げるクラリーチェにグレイはわかんないや、と小さく呟いた。
嗚呼、まだ自覚できていない。誰かと繋がるという事。分からないけれど、けれど、この時がもっと続いたらいいと思うばかりだ。
心地よい風の中をアニーはゆっくりと歩む。仲睦まじい恋人たちを微笑ましく見守ってアニーはふと、息をついた。
「そういえばここは恋伝説が伝わる海でしたね。
――いいなぁ……私にもいつか、恋人ができる日がくるでしょうか……」
いつの日か、波打ち際を歩いてみたいと、そう思う。アニーは小さく笑みを溢して「ふふ」と一つ、笑った。
「ふふ、恋すらしたことがない私がこんなこと考えるなんておかしいですよね…………恋って、どんなものなのでしょう……??」
甘くて、切なくて、不思議な感覚なのだろうか。さあ、まだ、知らないそれを思い浮かべる様にアニーは息をついて。
「夜光虫、綺麗だな。海が蒼く光ってるみたいだ。……で、デート。デートなんだよなァ」
幸福を噛み締める様にそうつぶやいてレイチェルは何度も呟いた。幸せを噛み締める様に表情を緩めたその横顔を見遣ってシグは強がりな彼女をからかう様に小さく笑った。
「そして……これはこれでロマンチックな『デート』になった物である。そう思わんかね?」
ロマンチックだと、そう言われれば確かにとレイチェルは茫と考える。シグが魔剣で、レイチェルが吸血鬼。誰かを好きになる事に種族は寒けないのだと今はとても思う。
「……ああ、もう。……言葉にするのは、苦手だ。ちょっと屈め!」
首を傾げ応じたシグの頬に口づけを落として。驚いた彼は姫抱っこでレイチェルを抱え上げ、唇を重ね合わせた。
「……俺がドッキリさせる側だと思ったのに。やっぱ、シグには敵わんなァ」
「……気にする事はない。今我らが共に居る事、それが真実である」
和風の鳥居を眺めたミスティカはぱちりと瞬く。夜光虫の灯りに誘われる様に島をめぐるミスティカとサンディが辿り着いたのは足湯。
「水着や浴衣のコンテストもよかったが、静かに足湯に浸かるってのも思ったよりいいもんだな。
こういうのもまた違った雰囲気で悪くねぇ。あったまる~~」
ほう、と息をついたサンディにミスティカは歩き疲れた足を癒す感覚にとても落ち着くと深く息をついた。
茫洋に広がる海を静かに眺めて思いを馳せる。夜空に浮かぶ星を掴めないかと伸ばした指先を追い掛けてサンディはミスティカの名を呼んだ。
「その伝説、男じゃなくて女の方が会いに行くのか。
そりゃまた随分幸せな男だよな。羨ましい……いやでも城の中だとそれはそれで暇そうか」
ぼそりと呟きながら、ミスティカとサンディは只、空を眺めている。暖かな湯はどこまでも心を落ち着かせるから。
「やあ! 乱丸くんじゃないか! 奇遇だね! 僕? 僕もあの後こっちに召喚されてね……。
嗚呼、ここに居るのは鍛錬の途中で偶々君を見かけたから追ってきたんだ」
ひらりと手を振ったサフィニアは乱丸は静かに月見酒と行きたいと思っていたのにと唇を尖らせる。
「儂と貴様は殺し合った仲じゃ! それとも……ここで前の決着をつけるかのォ?
前回は貴様の方が強かったがここでは儂の方が強いじゃけん……失せるなら今じゃぞ」
その言葉に「だって君の事は好きだからね」とぱちりとウィンクするサフィニア。今日が削がれたと腰を下ろした乱丸にサフィニアはにこりと笑みを溢した。
「後、貴様とかじゃなくて愛を込めて『サフィちゃん』と呼んでね♪」
この阿呆娘と叱りつける声にサフィニアはけらけらと笑う。まだまだ夜はこれからだ。
「それで私が仲間と海に出た時。眼の前に三隻も敵の船が出てきて。話が違うじゃないかって」
話し続けるイーリンにうんうんと頷いてミルヴィは冒険譚を楽しむ様に瞬いて見せた。
「センパイってあんま自分の事話さないけど話してる時嬉しそうだよネ」
過去はイーリンにとっては悪い事ばかりではなかったはずだ。けれど、語りたがらないのだから、聞かないというミルヴィはこうしてイーリンが饒舌に語ってくれることが何よりも嬉しくて。
髪をかき上げ、くすりと笑う。ああ、饒舌で楽し気で、とてもかわいい。
「――な、何かしら。私今変な顔してた?」
「んーん?そゆ時は可愛いなって思ったダケ」
目を閉じてじっと聞く。隣に寄り添いたいと願うけれど。恥ずかしそうに話し続ける彼女が過去を幸せだと思えるように――ずっと聞いて居たい。
「イヌ科の獣種はそういうの着てると様になるから羨ましいよ、なぁ相棒?」
「似合っているか……そうか、そういうのはよくわからないが」
ジョゼの言葉にラデリは頬を掻く。夜光虫飛び交うこの風景に恋伝説。それだけでも『風流』というものだが――
「けどよー、こういうとこって恋人ってのと来るトコじゃね?」
「……そうか、恋人と来るものなのか。そうだったら、俺にはまるで無縁な場所だったんだな、ここは」
頬を掻くラデリにジョゼは可笑しそうに笑う。互いにいい人と結ばれるようにとおまじないするか、と冗句めかしたジョゼは少し真剣な顔をしてラデリに向き合った。
「ぶっちゃけ、時々お前がなに考えてるのかわかんねー時はあるけどさ。……一人で無茶すんなよ、相棒?」
霧玄はゆっくりと瞬兵の事を見遣る。ねえ、とささやく様に告げた言葉に瞬兵は小さく首を傾げた。
「……あのね……言いたいことが有るんだ」
「言いたいこと?」
こくり、と霧玄は頷く。「僕は生きるより死ぬことの方が本当は嬉しいんだ」と――それは死にたいという意味ではない。共に生きて死ぬという、共に過ごせるそれだけが嬉しくて。
「ずーっと、これから共に生きて最後に死ぬその時までずっと一緒にいてね。きっと辛いこともあるかもしれないそれでも僕は……僕達は君の側にて、どんな時も君の味方でいるから」
「うん……死ぬ時まで一緒にいよう……きっと死んでからだって一緒だよ……それにムツが俺の味方なのは知ってる。何時だってそう信じてる」
ゆっくりと手を重ね合わせて。霧玄と瞬兵は視線を合わせた。いう言葉は只、一つ。温もりを感じる様にゆっくりと抱き締めて。
「俺だって何時だってムツと零の味方だよ。大好きで……愛してるから……」
果ての島へと向かうコルザはロズウェルをちら、と見遣る。手を引いてエスコートする彼は不思議そうにそこにある伝承の岩を眺めた。
「ふむ、成程……あれが縁結びの岩ですか。確かに、ご利益がありそうですね」
「静寂……うん、確かに神が居てもよさそうだね」
そ、と岩に触れてコルザは目を伏せる。ロズウェルはゆっくりと海面を眺め、足先を浸して見せた。
「伝説では海の下には竜宮城なる物があるのだとか。コルザさんはどう思われます?」
「誰かが願ったのならばきっと在る。……と、僕は思うよ」
麗しき女神に縁結びのご利益が通じるかは分からないですが、と冗句めかしたロズウェルは良縁を願ってくれないかとコルザに乞う。
祈る位は出来るだろう――なんて、ずるい。ずるい言い方と分かっているけれど。
「そういえば、この辺りには温泉はありませんが足湯はあるのだとか。良ければご一緒しましょう」
「ああ、先ほどそういえば聞いたね。では足湯でゆっくりと過ごすとしよう――静寂と夜光虫に囲まれた、この世界を」
まだ、この心地よい空間を共に過ごしていたいから。祈りに尾を引かれ、ゆっくりと歩き出す。さあ、向かうは愛しい湯の許だ。
「ん……海に来るの、とっても久しぶりだから……すごく、嬉しい」
チックは仕事の手伝いがまだなかったころだったろうかと静かな海を眺める。魚達や海の景色を眺めながらゆっくりと進んでいこうとチックは緩やかに歩み出した。
昼の海と違い昏い夜は沈み込む様な水色をしている。貝の城に辿り着いたなら少し探検してみよう。
御伽噺のように誰かが此処にいるのだろうか――それは解らないけれど。
きれいな景色と思い出をプレゼントしてくれた海に、歌を歌おう。朗々と、謳い上げて――この、幸福を少し控えめに。
「やっぱり…ここが1番、落ち着く……」
深い海の底。白く細い脚にはチェーンのアクセサリーが揺れている。シャオのフィッシュテールドレスをイメージした水着はゆらりと揺れていた。
淡い珊瑚に寄り添う魚に微笑んで。魚達のこそこそとした会話に耳を傾けた。きっと、地上の恋人たちの話をしているのだろう。
今日は海の中も騒がしく感じるから――「ね……。この辺りで、1番静かなところ……教えて……?」
シャオはゆっくりと呟いた。長い髪がゆらりと揺れている。今は只、この懐かしい世界に深く、深く沈んでいたい。
こうして海底を歩む事はめったにない事だった。比較的浅瀬に居れば光も届くのだとテテスはゆっくりと顔を上げる。
「陸じゃ見慣れないものがあるな。……折角だからいろいろと採取していこうか」
普段は見られない珍しい物ばかり。そうしていると血が騒ぐとテテスは瞳を煌めかせた。
魔法道具を作る事だって昔は出来たのだろうが、今はさっぱりなのだとテテスは落胆を見せる。けれど、何時かはもう一度――そう願えば心は何処か躍る。
月明かりに僅かに照らされた水の中、神秘的だとアオイは手を伸ばす。光の美しさがどこまでも続いている――アオイはほうと小さく息をついて、はっとした様に周囲を見回した。
「あれ……ここどこだっけ」
見渡す限りの暗がりが其処にはある。海の底は何処も同じような風景に見えるから。さあ、迷子になってしまったと慌てるアオイは歩き出す。
陸地に向けて頑張ろうではないか。さあ、ここはどこだろうか――?
ひらひらとしたパレオが人魚みたいかしらとアーリアは小さく笑う。昏い海は少し怖いけれど、月明りや夜光虫が輝く光景はきっと美しくて。
海を散歩しながらアーリアは緩やかに歩み続ける。
「御伽噺の彼女は、折角大空を飛べる翼があったのに……深い深い海の底の人に恋をして、会いに行くなんてねぇ……」
恋する乙女は強いわね、と柔らかにアーリアは微笑む。ちら、と雪風に向けたのは小さな言葉。
「ねえ、雪風くんなら好きな人が深い海の底に行かないと会えないって言ったら合いに行くのかしらぁ? えぇと、そこでしか手に入らない……限定モノって言えばいいのかしらぁ」
「あー……俺は、そすね。やっぱり、――すき、なひとがいたら……?」
ぽそぽそと呟く雪風にアーリアは男の子ねぇと小さく冗句めかした。
思いを馳せるは古の恋物語。空と海に咲かれていようとも同じ世界にいる限り愛する者同士は相間見えることができる。
それを思えばクレッシェントは己と重ね合わせてどこか強く惹かれていた。
「仕える神を探して流離う日々。正直に申せば僕は『神様』も……この世界に招かれていて欲しい、と」
淡い期待と抱いていると。貌も思い出せぬ彼女の足跡を追い、貝の城に辿りつけるはずだとクレッシェントは小さく息をつく。
無垢な少女にも嫋やかな乙女にも、慈愛に満ちた母にも見える彼女――今宵の忘れ形見にその姿を留めることを暫し許されよと目を伏せて。
「古の恋が沈む海……この世界には不思議なもの、綺麗なものが溢れているのね。
ここまで引っ張ってきておいてだけど……ティス、一緒に来てくれる?」
エトの言葉にティスタは勿論ですとも、とゆっくりと一礼をして見せた。まるで絵本の中の世界だ。そう思えばティスタは柔らかに笑みを溢す。
「綺麗ね……物語に語られる恋の美しさをそのまま纏う様な。確かにあるのに、触れられるのに、儚く思えるの」
ゆっくりと告げたエトにティスタは儚いのは永遠でないからという事を知っているからだとゆっくりと告げた。
「ねえ、ティスは恋をしたことある?」
「……恋、ですか。恋かどうかは解りませんが、一生を共に生きようと思える方ならいらっしゃいました。
あのお方が望めば私も眠りについていたと思います。けれど、『生きて欲しい』とお願いされましたから」
自分勝手のひと、と小さく呟くティスタにエトはそうだったの、とぱちりと瞬いた。優しくて、悲しいくらいに幸せなお願い。
ずるい、と言われればきっとそうなのだろうとエトは思う。だから――ゆっくりと口にした。
ねえ、ティス。しあわせになって、と。
「海洋育ちの利を活かして、目の前を泳ぐ魚がどんなやつか説明しようと思ったら。
……そうか、ベルは料理で魚を扱うから知ってるモンばっかだな。おまけに美味そうな話……ちょっと腹減ってきたなぁー」
晴明の言葉にリチャードは小さく笑う。知って居ることは食べれる魚ばかりだから、晴明の言葉なら何でも楽しいとリチャードは続ける。
「よし、じゃあ俺は俺の知ってる魚の調理例を話すから、お前は俺の知らない魚のことを教えてくれよ」
恋人つなぎでぎゅ、と繋げば照れ隠しの笑みが感じられる。海の中でだって暖かい掌を感じることができるから。
「か、釜茹でカサゴとか言うなよ?! ……愛してるんだ、ベル。心臓が爆発しそうなくらい、毎日お前にときめいてる」
ああ、ほら――そんな言葉。彼という毒に蝕まれたっていいと思ってしまうから。
「……最近、少し考える事がある」
ぽそりと告げたアレフの言葉にアリシアは小さく瞬いた。海の中は何処までも冴え冴えとしていて――
「──果たして、何時から結果を得る為の犠牲を当たり前の様に考えて、何時も通りだと思う様になったのか」
アレフの言葉の続きにアリシアはゆっくりと目を伏せる。ああ、彼はまた『悩んで』いるのだろう。力なき人と同じ目線となったことへの戸惑いがその胸を締め付けているのだと悠にわかる。
「理想は理想で、現実は現実。そう割り切っている心算になって居ただけなのか、それとも、この世界の気にでも当てられたのか」
「その理想が当然だったという前提で語れるのは、彼が人ならざる力ある存在だった事の証。
人間ならば、多少の能力の差はあれど不可能という現実に対する否定を前提とせざるを得ないから」
アリシアはゆっくり紡ぐ。この世界に召喚され、力を失った者すべての悩みなのかもしれないとそう告げるアリシアの言葉にアレフはゆっくりと呟いた。
「それよりも、海に差し込む光が綺麗だ。……まるで、遠い日に眺め見た人の営みの火の様に美しい」
「……星の光は……まあ、嫌いではありませんけれど」
夜闇は安心する。けれど、昏い場所の光にはあまりいい思い出はないのだと小さく、只、返して。
夢幻の青に包まれるのは二度目。あの時のエーリカは只の『夜鷹』だったけれど。
逸れぬように繋いだてのひら。ひとつの泡の中でゆっくりと歩みながらラノールとエーリカは進む。
「凄いな……本当の空のようだ」
夜光虫の星に、月明りに揺れる水面。海底にあるという貝の城を目指してラノールは耳を傾ける。
「ゆめをみるの。わたしは未だ、あの狭い納屋から抜け出せていなくて……。
ほんとうは其方が真実で――”いま”が、まぼろしなんじゃないかって。
ねえ、ラノール。もしもわたしが”もと居たところ”に連れ戻されてしまったら……わたしを、みつけだしてくれる?」
蒼の貝殻を拾い上げて、ラノールは笑みを溢す。
「君がどこにいこうとも、必ず見つけ出して見せるさ。
見つけやすいように、蒼色の輝きは消さないでくれよ?」
不器用な笑みを重ね合わせて――君に、と願う。
深い深い海の底、其処に伝わる海の思い出は。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
素敵な夏の思い出になれば、とそう思います。
また、ご縁がありましたら。その時はよろしくお願いいたします。
GMコメント
菖蒲です。亮君はお借りしてきちゃいました。
●はての海
恋伝説が伝わっているために通称でそう呼ばれています。静かな浜辺です。
朝、昼はきらりと光が差し込む水面が美しく雄大な自然を観察できます。
夜になれば夜光虫たちが楽し気にその姿を見せています。
海に入る際は水着で。魔法道具は私服でもOKです。
●行動
以下をプレイング冒頭にご記入くださいませ。
※行動は文字数短縮の為に数字でOKです。是非ご活用くださいね。
時刻:【朝】【昼】【夜】
行動:【1】【2】【3】
【1】浜辺で遊ぶ
恋伝説が残る静かなはての浜で遊びます。
周辺は自然が多く残っています。飲食物は持ち込みOK。
釣りなどを楽しむ事が出来ます。
【2】はての島へ行く
和風の鳥居と恋の叶うと言われる縁結びの岩があるだけの静かな無人島です。
まるで二人だけ――そんな気持ちになるというその島です。
足湯程度を楽しめる場所が存在しているようです。
【3】貝の城へ向かう/海のなか
深い海の中を散歩します。泳げる方はそのままどうぞ。
泳げない方は魔法道具をお貸しだし致します。自然豊か、空より落ちる光がカーテンのようにきらりと輝いています。
●魔法道具
レガド・イルシオンの王様フォルデルマン三世がリーゼロッテ嬢に戯れで渡した魔法道具『夢幻の青』。今はリーゼロッテ嬢が戯れで量産しているようです。
『夢幻の青』は丸い水泡を思わせるフォルム(しゃぼん玉みたいな感じです)に包まれ、水中で呼吸が出来ない種族の方も海の中を散歩できるアイテムです。
このアイテムを使用して、海をお散歩できることができます。
また、魔法道具をご使用の場合はお洋服の儘でOKです。勿論、水着でも大丈夫ですよ。
●NPC
山田・雪風と月原・亮君のニホンの高校生ペアがおります。
お声かけがなければ出番はありません。
余り何も考えてませんのでもしも、何かございましたらお気軽にお声掛けください。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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