シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Sister Complex
完了
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オープニング
●ラスト・ラスト
「成る程」
終焉の獣は動き出し、R.O.O全土は混乱に包まれた。
これまでのような散発的な事件ではない。
同時に、全てが、回避しようも無い破滅に向かい始めたのだ。
伝承が、正義が、鋼鉄が、航海が、神光が、翡翠が、砂漠が危機に瀕している。
最大の激突場は伝承か砂漠辺りになるだろうが、『ダブルフォルト・エンバーミング』で敗れれば同じ事だ。
死化粧を施されたネクスト(せかい)は無残に滅び、後には何も残るまい。
そう、状況はまさに詰んでいた。
ネクストにおいても、混沌においても同じである。
未曽有の敵の圧力は恐らく人類の抗し切れるものではない。
足掻きに足掻いたとて、破滅の砂時計を僅かに遅らせる程度の意味しか無いだろう。
少なくとも練達が陥落すればR.O.Oのログインは不可能になる。
その時点でネクストは全ての抵抗力を失い、終焉が完結するのは間違いない。
この『イノリ』が混沌における『ラスト・ラスト』。
即ち――大陸の西北、人類未踏の影の領域に身を潜めていたならイレギュラーズの一つのチャンスも無かっただろう。
「成る程、ね」
しかし『イノリ』は我が身を置くR.O.O4.0なる状況を良く理解し薄くせせら笑った。
本来ならばどうしようもない筈の物理的距離、少なくともこの短期では攻略不可能な『闇の衣』は世界に開いた『風穴』により破られていた。
さて、その『風穴』とは一体何か。それは言うまでも無くクリストの言った『フェア』である。
――予め断ってたでしょ? クソゲーでもクリアは出来なきゃいけないの。ノーチャンスは問題外なのよね。
「その方法が『コレ』か。『風穴』はさしずめ全国に開いてるって所かい?」
――そう。『彼等は何時でもイノリchangに挑戦する事が出来る』。
砂漠の真ん中からでも、遥か東の神光(ヒイズル)からでもね。
ざんげchangのポータルみたいでしょ?
距離は完全にゼロになり、ラスト・ラストの真ん中にお届けってワケだZE!
「何かするだろうって思ってたけど――やってくれるね、クリスト。
ついでに言うと妹の大方は掌握したんだろ?
セフィロトが事実上陥落してるのに、彼等(プレイヤー)が消えないのはどういう訳だ?
……どういう訳も何も無いね。今、プレイヤーは君の力でログインしているんだ。
いやさ『そこだけマザーに残してログインを続行させている』んだろう?」
――キミの事は嫌いじゃないけど、キミはずるいヤツだからNE!
俺様が『ちょっかい』出さなきゃさあ。引きこもって援軍の来ない籠城戦とかやらせようと思ってなかった?
それは駄目なの。駄目なんだわ、ちっとも。全然面白くないから。
『イノリ』はクリストの言葉を否定せずに苦笑した。
彼とて情が無い訳ではないが、情ばかりで世界を滅ぼせるかという話である。
恐らくは混沌のイノリ(じぶん)もそうするし、過剰に感情的なやり方等、ルクレツィア辺りに任せておけば良いものだ。
「それにしても、これは僕に不利過ぎやしないかい?
彼等にはサクラメントもある。無限に復活してボス(ぼく)を直接狙えるなんていうのは少し法外だ」
――HAHAHA! ついでにもう一ついいニュースだZE!
ログアウト出来ないヤツはこの戦いで増えるだろうけど、彼等には『デスカウント』に応じて強化(バフ)をあげる。
ラスボスに挑む皆への俺様changからの特別サービスだね。良い感じに燃えるっしょ?
肩を竦めた『イノリ』にクリストは続けた。
――『イノリ』chang、ずるいとか思ってないでしょ?
キミはそれでも勝つ自信があるし、一ミリも不利だって思ってないよね。
だってキミは『原罪』じゃないか。例え紛いモノだとしても。全世界が敵だろうとゲイム・マスターが可愛い贔屓をしようと、だ。
キミは最初から世界を相手に戦争をやる存在なんだろ? 余程の自信家じゃなきゃそんなのないYO!
「――良くご存知で。クリスト、問答無用なのは分かったからきちんと全てのルールを出したまえよ。
君の長広舌は嫌いじゃないが、話が進まないのは困るんだ」
――あいよ。んじゃ、R.O.O4.0決戦! ズバリ『Sister Complex』のルールは以下!
一つ、プレイヤーの皆さんは『風穴』でラスト・ラスト最深部、この『影の城』のキミを直接狙える!
二つ、プレイヤーは各地の『サクラメント』を問題なく利用出来る!
三つ、プレイヤーはログアウト不可能のステータスを得ている場合、『デスカウント』で強化(バフ)を得る!
四つ、キミの権能(ちから)は各地のイベント攻略状況によって上下する!
五つ、もしキミが負けたら俺様changは『他のやり方』を考えちゃう!
六つ、キミは一定時間の後、条件次第で自由を得る! 受けたダメージが小さ過ぎる場合、キミはここから自由に動けるようになる!
いいかい? 責任重大だぜ、ラスボス君!
「裏を返せばダメージを受ける限り逃げも隠れも出来ないって話じゃないか。
それ、当然のようにプレイヤー(かれら)にもお知らせするんだろう?
たった今、僕に不利なルールが三つも増えたんだけど」
――それ位にキミは強いでしょ! これでも足りない位だ。俺様からすればこりゃあ面白くなるギリギリなんだぜ。
クリストの言葉に『イノリ』はもう構わなかった。
ネクストは連合している。プレイヤー……イレギュラーズのこれまでの、各地の活躍で心を一つにして。
或る意味でクリストの言っている事は正しい。
『自身は世界全ての敵であるべきだ。そしてこの状況は何より自身に相応しい』。
どれだけの不利を押し付けられようとも、何が敵であろうとも『イノリ』の為すべきは変わらない。
彼は原罪である。紛いモノと呼ばれようとも、原罪として生まれついたからには懺悔し、祈らずにはいられない。
ならば、元より決まっている事だ。この世界が如何なる修正力(イレギュラーズ)を求めようと。
――全て、蹴散らして僕は僕の望みを完結するだけ。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Sister ComplexLv:50以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度NIGHTMARE
- 冒険終了日時2021年12月14日 22時35分
- 章数3章
- 総採用数367人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
●ラスト・ラストII
喧騒、悲鳴、怒号――
「実際問題、最高だね。『悪魔としては』賞賛に値するよ」
「神様的にはそろそろここ、ドン引くんですけどね」
『聖餐の天使』パルフェタムール(p3x000736)が、『R.O.Oの』神様(p3x000808)がそう言うのなら――それは至上の誉め言葉であり、最悪の現実の到来である。
影の城、ラスト・ラストの舞踏場を『繋ぐ』のはまさに至難。
イレギュラーズが超え続けねばならぬのは、常に絶望的な瞬間の連続だった。
然したる時間を置かず、誰かが殺されている。然したる暇も無く、何かを殺している。
血で血を洗う――その表現が俄かに『温く』感じる程に、影の煉界は恐るべき殺戮の空間を形成していた。
「ああ、分かってるよ……!」
絶望しろって言うんだろう?
無理だ、不可能だって――つまらない『現実』を叩き込みたいんだろう?
(……余計なお世話だ! 兄が大切な妹を壊す。そんな悲しい結末を、認められる訳ねぇだろ!?)
『アガットの赤を求め』ヨハンナ(p3x000394)は自らを貫いた熱い痛みに血を吐いて倒れた。
仰向けに、闇しか見えない空を見上げ――それでも諦めず、ここに戻るだろう。
プレイヤー側にも余裕のある者は居ない。
『デスカウント』は虚構でも、一つ間違えれば本物の死(ログアウト不可)は避け得ない。
――さぁ、私とお前ら、どっちが先に死ぬか勝負だぜ……痛い痛い死ぬ死ぬ負けちゃう!!!
言葉は冗句のようだったが、『グリーンガール』きうりん(p3x008356)が『戻れなくなった』のは『良くも悪くも』この戦いの現実だ。
いや、そうでなくてもこれ程までに圧倒的なリアリティを備えるR.O.Oにおける『死』の体験は忌避すべき恐怖そのものなのだが。
「こりゃぁ……中々どうして。
やはり、いよいよ。一筋縄ではいかない話でありやすな」
『複羽金剛』ビャクダン(p3x008813)が苦笑する。
「この状況下だ。不本意だが初デスはくれてやろう。だがその程度で臆する程日和らんぞ? 」
「復讐者にもな……矜持はあるのさ」
「言った筈だ。証明してみせると」
「まだまだ! これで終わりではあるまい? 面白いゲームにボスの変身位は付き物だからのう!」
「はー、見事な貧乏くじっスね、これ!!!」
「愚兄共が、勝手に人を蔑ろにして……
妹(ひがいしゃ)さんも他の存在も、君らの玩具(もの)じゃないんですけどー☆」
『屋上の約束』雀青(p3x002007)、『國定 天川のアバター』天川(p3x010201)、『ノー・マーシー』ディリ(p3x006761)、『うどんの神』天狐(p3x009798)が嘯くのも、『ステルスタンク』ミミサキ(p3x009818)、『NyarAdept-ねこ』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)が悪態を吐くのも、そうしなければ深い闇に侵食されそうな気分だったからだ。
終わりと錆の世界は今この瞬間も、燦然と輝く光そのものさえ呑み喰らわんとその牙を剝いている。
「【楽しいね」サクラちゃん」
「……うん」
「お父様とサクラちゃんのお祖父様もこんな風に力を合わせていたのかな? 」
「――そうかもね」
『逸脱』を見せた『天真爛漫』スティア(p3x001034)にせよ、『華義の刀』桜(p3x005004)にせよ全く無事では有り得ない。
しかし、彼女等にこの場所は似合いだ。幾度と無く刃を振るい――幾度目か桜が刃を振るった時。
――ほう。中々の太刀筋。面白き者がおるではないか。
「……っ、センセー!?」
玲瓏たる声が戦場に響いた。
思わず心臓のビートを倍程にも上げてしまった桜が視線をやった先には。
「知らぬ顔じゃ。その太刀筋なら忘れぬが……娘、主とは何時か面識があったかな?」
首を傾げる死牡丹梅泉、そして何れも熟練の武芸者たる錚々の面々が立っていた。
決戦はやはり完全なる決着を望んでいるのだ。
「おやおや。これは運が向きましたかね?」
『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)が薄く笑い、『イノリ』が「またこんな事が起きる」と溜息を吐く――
YAMIDEITEIっす。
きうりがログアウト不可(サラダ)になりました。
以下、状況更新。シナリオ詳細。
●影の城
上下左右、足場も良く分からない暗黒空間。
そこには何も無いのに確かにある、奇妙な浮遊感を感じます。
物理法則的には非常に不安定に感じられるでしょうが足場や戦場としては問題は無いようです。
薄暗い雰囲気ですが目視等に大きな問題は生じません。
『風穴』を通じてプレイヤーが移動出来る空間で『イノリ』の本拠地。
混沌におけるラスト・ラストの最奥部に位置すると考えられますが、混沌側のものと同じかは分かりません。
戦場としては不便の無い全方位フリーの空間であり、誤魔化しは全く通用しないでしょう。
●敵
影の城には現時点で分かっている限り、少なくとも下記の敵性勢力が存在します。
『イノリ』に戦力を届ける為には影の城に出現する終焉獣を食い止め続けねばなりません。
それが不可能な場合、状況が決壊し、攻略が著しく困難になる恐れがあります。
・終焉獣(小型)
ネクストに出現した終焉獣を思わせる小型の個体です。
数が多く殺傷力に優れます。倒しても定期的に出現するのはMMOならではか。
小型と言えど相当に危険な存在である事は間違いないです。
・終焉獣(中型)
小型の個体とは異なり、全長数メートルから十メートル以上にも及ぶ個体。
様々な獣を掛け合わせたキマイラのような姿をしており、全距離と広範に危険な攻撃手段を持ちます。
数は然程ではありませんが明らかに強力な個体であり、一人で抑えるには相当な実力が必要でしょう。
倒しても定期的に出現するのはMMOならではか。こちらは少しリポップが遅いです。
・『イノリ』
R.O.Oのラスボスとも言える存在です。
IDEAが期せずしてコピーしてしまった世界の構造の一部。
『原罪』と呼ばれる全ての魔種の父、王でありざんげの兄に当たります。
能力等全て不明ですが、明らかにR.O.Oにおける最強でしょう。
R.O.O4.0の各地の攻略状況により権能(ちから)が低下するようです。
又、拘束時間経過後はダメージを与え続けないと『影の城』から脱出可能になるようです。(『影の城』は本来彼の本拠地で(侵入方法すら不明なので)最も安全な場所ですが、『風穴』で全世界と通じてしまっている為、『イノリ』からすれば『最悪』の場所であり、プレイヤーにとっては最も都合のいい戦場となっています)
・クリスト
通称Hades-EX。マザー(クラリス)の兄妹機であり、『未完の』チューニーの産み出した最高傑作(AI)の片割れ。
マザーと同等の情報処理性能を誇り、R.O.Oを好き放題に改変しています。
マザーの危機は『イノリ』のクリミナルオファーをクリストがコンピュータウィルスに変化させた『クリミナル・カクテル』です。
R.O.Oに実体はないようです。彼はこの戦いにおいては敵か味方かある意味で予想がつきません。
又、存在はしているでしょうが出て来るかどうかも神出鬼没になるでしょう。
●味方
練達首脳が助っ人として二人を緊急派遣しました。
・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(全盛期の姿)
中の人はレオン本人。
腰痛の無いギラギラ、イケイケの頃のレオンです。
実力はかなり高く視野が異様に広いです。パーティタイプでイレギュラーズを的確にサポートします。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
・ディルク・レイス・エッフェンベルグ(全盛期の姿)
中の人はディルク本人。
歩く山火事、オラオラの頃のディルクです。
恐るべき攻撃力と殲滅速度を誇りますが、ソロタイプで色々するのは余り得意ではありません。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
『レオンとディルクはイレギュラーズではありませんがR.O.Oにおいてはサクラメントを使い復活が出来ます』。
実力こそ高くとも要人である彼等は普通ならば最前線に出れませんが、今回に限っては皆さんの力になれるという事です。
又、当シナリオでは『各国のNPC』が援軍に訪れる可能性が存在しています。
世界中の何処からでも『風穴』で駆けつける事が出来るので、NPC、本人NPC、関係者等の援軍が有り得ます。(各地の戦況が良い程確率は上がるでしょう)
NPCは全般に最低でも足は引っ張りません。上手く使って下さい。ただ彼等はNPCに過ぎないので、あくまで世界を救えるのはプレイヤーだけです!
・死牡丹梅泉
ご存知(?)人斬り。攻撃力マックス。
ネクストにおけるNPCです。
・紫乃宮たては
ご存知(?)情緒JC。超反応、超カウンター。
ネクストにおけるNPCです。
・刃桐雪之丞
ご存知(?)苦労人。スーパー防御戦名手。
ネクストにおけるNPCです。
・久住舞花
ご存知、美人。優等生の剣士でトータルで安定していて強いです。
ネクストにおけるNPCです。
・水分すずな
ご存知、情緒JC二号。剣術小町。意外と粘り強いです。
ネクストにおけるNPCです。尚、NPCなので『水分』はオフィシャルです。
・白薊小夜
ご存知、番町皿屋敷。その攻撃力は特筆するべきものがあります。
ネクストにおけるNPCです。
・雪村沙月
ご存知、ステゴロお嬢様。徒手空拳で剣豪とやり合う実力派。
ネクストにおけるNPCです。
梅泉以下は所謂『本人NPC』です。
梅泉の提案で『最強』をぶん殴りに来た逸脱者チームです。
彼等は強力ですが、死ぬとロストします。サクラメントの復活はありません。
上手く使って下さい。(使わなくても一応味方の格好になるイレギュラーズが有利になるよう、勝手に動きます)
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
本シナリオは進展により次々に別の状況に変化します。
以上、頑張って下さいませ!
第2章 第2節
●『原罪』
「成る程、つくづく悪運だ」
独白めいた『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)の視線の先に美しい男が居る。
「何、死に臨むのはなれている。幸か不幸かな。
風の噂では『本体』の方も、何やらピンチらしいが。どうにも僕は、そういう星の下に生まれたのだろう――」
独白めいて嘯いた流雨の視界の中では激戦が生じていた。
否、彼女自身とて例外ではない。『今、この瞬間にも生じる戦いの中にその身を置いていた』。
酷く現実感のない空間で、酷く現実感のない絶望に出会う。
『ゲイムの中で、有り得ざる存在に触れる事は、まさにそんな説明にピッタリの状況だったと言えるだろう』。
「カーッ、死ぬ前提で自爆特攻推奨とかクソふざけてるにも程があるぜ!
さすがゲーム、命なんざ鳥の羽より軽いって訳だねェ!
ダメージ0の状況を作らねえ──つまるところ、殴れば殴るだけ得ってこった!
当たらねえ超火力の一撃より、確実なカス当たりの蓄積のが鬱陶しいって事だろ!?」
「名案だと思うよ。雨垂れで石を穿つその時間を武器に出来るならば」
悪態を吐いた『山賊』グドルフ(p3x000694)の――本人のキャラクターよりは随分と意地の悪い攻め手を『イノリ』がいなした。
「『コレ』を止めないと、せっかくの楽しいゲームもサービス終了なんだってね。
なら――このラスボス戦、どんな手を使ってもやってやる!」
「すぐに勝てるなんて思ってないが、勝利を僅かにでも引き寄せることはできる。
少しでも速く、一撃でも多く、何度でも! 戦い抜く!」
雨垂れとせせら笑われても、威力以上に相手の注意をひきつけたグドルフをブラインドにして回り込んだ『不可視の狩人』シャドウウォーカー(p3x000366)が、『AzureHarmony』アズハ(p3x009471)が仕掛ける。
長い髪の毛が動きに揺れて、僅かに掠めた切っ先の風に『イノリ』は目を細くした。
止まらない。
「イノリさん。齧れるなら一口ぐらい齧りたいですねー……
家族思いなのは良いことですが、他者を巻き込むのはよくありません!
確かに妹は大切な存在ですけど、それでもこのやり方は少しばかり……!」
「Hadesに攻撃出来ないなら――君を殴るよ!
……この、大馬鹿野郎! みゃー! どっちも、妹さんに迷惑かけるなー!」
その隙に『叩いて直せ!』蕭条(p3x001262)が詰め寄り、『しろねこぎふと』ねこ・もふもふ・ぎふと(p3x009413)の『怒る子猫の赦さぬ左腕』が拳を握る。
「相手良し。ならばこちらも、遠慮せず己の戦いをできるというもの!
――往くぞドレッドノート! そこな原罪すら喰らい尽くしてやろうではないか!」
勝機に貪欲に『雪風』玲(p3x006862)が吠える。
「こんな奴等に絶望なんてしてたまるか! イノリもHadesもこのランチャー等でぶっ飛ばす!」
「――必殺ッッ……フルパワー……ゼタシウム光線ッッッ!!」
距離をおいた位置からは『NyarAdept-ねこ』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)の渾身の猛火力、『ROO刑事ゼスティアン』ゼスト(p3x010126)の必殺の光線が『イノリ』を薙ぎ払わんとした。
幾度と無く繰り返される見事な連続攻撃はどんな敵であろうとも完全に逃れ得るものではない。
しかし、爆心にありながら『イノリ』の様子は実に涼やかなものだった。
「――どうやら本気で石を穿つ心算らしいね」
呆れか感嘆か或いはその両方か。
決して『効いていない』訳ではない。しかし恐らく『雨垂れ程には効いている』というその言もまた、ここまで嘘では無いのだろう。
苦笑を浮かべた『イノリ』の周囲に無数の闇が瞬いて、這い出た影の刃が周囲を出鱈目に切り裂いた。
重くくぐもった悲鳴は誰のものかも分からない。唯、存在を維持出来ずサクラメントに飛ばされた者は多く。
たったそれだけでイレギュラーズの総力を雨垂れと嗤うこの男がどれ程の規格外であるかは証明されていた。
「わたしはソロなので、とてもフットワークがかるいのです。
……というわけで、ここがどんな劣勢でもあしをはこんで肉壁の一つにでもなりましょう」
更に素早く体勢を落としてイレギュラーズ側へ切り込もうとした『イノリ』を立ち塞がった『受理兵』樹里(p3x000692)が止めた。
鎧袖一触、それは止めるという程の戦闘には成り得なかったが、一手を絡め取る事は手数に勝るイレギュラーズ陣営にとってそれ以上の価値があると言えるだろう。
「私達が現実の前に諦め、絶望の前に屈するのをきっと貴方は望んでいるのでしょう。
貴方は確かに強大、そして理不尽です。ですが……
私の受けてきた理不尽は、現実は……私の手の届かない、押し付けられた物でした。
それに比べれば、比べてしまえば。手の届く所で嗤う貴方という絶望など、私の心を折るのには足りません!」
「上等だこんにゃろう! 理不尽だろうとなんだろうとこの僕の心を折ろうだなんて思わない事だね!
絶望なんて貰ってなるものか、あんたにくれてやるのはこの弓と剣だけ!
この世界に消えられるのも少し困る事情があるんだよ――そうしたら、決まってるだろ?」
「お願いします!」
「ああ。いざもう一勝負と行こうか!」
仕掛けた『クィーンとか名前負けでは?』シフォリィ(p3x000174)の、そして『灰の流星』グリース・メイルーン(p3x000145)の言う通りである。
『イノリ』とはネクストにおける、そして現実の練達における『可視化された絶望そのもの』であった。
ネクストの未来と『セフィロト』のマザーを助く為にはこの『イノリ』を倒す必要がある。
しかし、ラスト・ラストに当たる領域、本拠たる『影の城』に潜む『イノリ』は本来イレギュラーズにとって手出し出来る存在では無い筈だった。
彼は本来シフォリィの言う所の『手の届かない存在』であり、本来ならばこの決戦が生じた事さえも望外の奇跡であった筈だ。
まさに文字通りの『強制的終焉』を相手に一行が力を尽くす事が出来ているのは彼等自身の運命を覆す力も大きいが、何より。
「シスコン拗らせて世界を終わらすか――ええ?
最っ高のお兄ちゃんだなクリスト!
延命処置じゃ救えねえってか。とっとと介錯してやろうなんて――そこいらの聖人気取り共にゃとても出来ない選択だぜ!」
――分かってくれて嬉しいYO! レジーナChang!
おぜう様の時はきっとサービスしとくからねん!
返す言葉で『薔薇を追う』♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)に罵声を浴びたHades(クリスト)の奸計による所が大きいと言える。
「それにしても、何とも言えず厄介な人ですよ、貴方は!
妨害をしてくる訳でもないですが……いや、してくる方が余程分かるというものなのに。
変なチョッカイは掛けてくるようですし。基準は……分かるけれど分かりたくはないですね、うん。
まったく、ふざけたAIですよ貴方は!」
一瞬の油断も出来ぬ死線における雑音(ノイズ)は『恋焔』ハウメア(p3x001981)を苦笑させる悩みの種だった。
認めたくはないが『自分』は奴のターゲットになりやすい人間であるという自覚がある。
――あらよっと! テミア★ライズ!
「――姫騎士変転じゃないんですよ!!!」
ナース服、レースクイーンに女子高生。ブルマにバニー、女教師と事実ハウメアの衣装が好き勝手に弄られたのはこれが初めてでは無かった。
同時に彼女(の中の人)がそういう事を一通りセルフで済ませているという戦慄の事実はさて置くとしても、だ。
「クリスト、『イノリ』!!! どんな無理ゲーだろうがな、俺は諦めねぇぞ。
俺は『諦めが悪い』ンだ。知ってるだろう? バッドエンドを拒絶する為に、俺は、此所にいるんだ……!」
気を吐く『アガットの赤を求め』ヨハンナ(p3x000394)の言葉に「期待はしてるよ」と零した愉快犯――クリストが何を考えているのかは非常に読み難い。
ネクストを作り出し、妹であるマザーにクリミナル・カクテルを投与したクリストは間違いなく『敵』である筈だ。
しかし同時に現状の彼はゲイム・マスターとして『フェアなゲイム』に拘り、『イノリ』を本来イレギュラーズが到達不能である『影の城』へと縛り付けている。
全世界に開かれた風穴(ワープ・ポータル)は食い止めねばならない各地での終焉(たたかい)に加え、諸悪の根源(イノリ)を叩く便宜を約束していた。
「待たせたなぁ! ㅤ私が切り札だよ!
見ての通り、今のスーパーイノリ君アタックにもまだピンピンしてるさ!
何でログアウト不可になったかよく分かってないけど!
されたんなら最大限利用するだけだよ!ㅤ私を強化したことを後悔するがいい……!」
クリストの『肩入れ』は『イノリ』からジロリと視線を向けられた『グリーンガール』きうりん(p3x008356)の健在も示している通り、対決の実現までに留まらない。
多くのイレギュラーズのこれまでの戦いと活躍をまるで肯定でもしようとでも言うかのように、デスカウントとログアウト不可には強化(バフ)という関係が施されていた。
「それにしても忙しすぎて目が回るね……!」
きうりんの言葉は多くのイレギュラーズの代弁だっただろう。
R.O.Oなるゲイムと化したネクストでの『ラスボス戦』は流動的に複数の戦いが展開するものである。
『イノリ』の撃破が最優先かつ最重要目標である事は間違いないが、『影の城』が敵の本拠地である事はあのクリストも否定する気はないらしい。
「当機構の行動は――依然変わりなく、攻勢実行。
当機構は機械の身、死如きに計算を狂わされるわけにはいきません」
「ログアウト不可――死亡なんざ甘っちょろい事言ってんじゃねぇぞシスコン野郎共!
まだだ! まだ俺は立ち続けているぞ! 死ぬ覚悟なんざ幾らでもしてみせらぁ!」
『当機、出撃す』アンジェラ(p3x008016)、『バンデッド』ダリウス(p3x007978)、
「ブッこみますわ! 高難度ミッション攻略の秘訣は一にブッこみ! 二にブッこみ!
三四にブッこミ! 五にブッこみですわ! ブッこんだ数こそが正義! 力こそパワー!
シンプル・イズ・ベストで脳汁出まくって参りましたわ~~~~~!!!」
「倒しても倒してもキリがないね。はてさてキミたちで何体目なのやら。
まぁ、無限なら無限で構わない。四刃生成……幾度でも繰り返す、ダンスパーティーを始めようか」
更には『なよ竹の』かぐや(p3x008344)、『黒麒』Λ(p3x008609)が相手取り続けるのは数限りなく無数に現れる終焉獣達。
「全く厄いったらないわぁ。それにしても動きにくいねぇこの影の城ってのは。さっさとやることやって退散よぉ。
……でもまぁ、ヒーロー共の道を作るってのもたまには悪かねぇ。ぶち抜かれてこいや、ってな」
『銃の重さ』マチルダ(p3x009315)の銃口が弾丸(しゅくふく)を吐き出したのは、今まさにネクストの大地を黒く染める終末達である。
『イノリ』への道を塞ぎ、彼に相対するイレギュラーズを阻むそれ等を『排除し続ける事』はイレギュラーズが『イノリ』に挑む為の絶対条件となっていた。
唯でさえ圧倒的に強力な『ラスボス』に戦力を集中する事すら難しい。
道が途絶すれば勝利は遠退き、同時に目標(イノリ)を叩けねば時間切れを含めた敗北は近付く……
まさにそれは八方塞がりに見える『絶望』そのものではあるのだが……
「状況が変わっても私がやる事は変わらない!
終焉獣を食い止め、要所への攻撃を続ける人達の邪魔をさせない事――
皆凄いわ、毎回こんな大きな戦いに身を投じて命を賭けて、生き延びて来たなんて。
私には到底無理、出来ない。出来ない、けど――」
歯を食いしばった『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)のプリンセスパイルハンマーが『イノリ』と戦う仲間の後背を狙う終焉獣を纏めて叩いた。
「――でもね、此処なら私にだってやれる事はある。力になれる事が、ある!」
……八方塞がりに『見えた』絶望はその実、姿を変え始めていた。
「この世界には某が護らねばならない方々がいるのです。
この世界の外にも俺が護らねばならない方々がいるのだ。
故にこの場は。泣いても、鳴いても、啼いても絶対に。絶対に、離しません――」
「ラスボスんとこ手伝われちゃーたまんないもんねー!
ほらほらー、そこのけそこのけ、お猫さまが通るぞー! にゃっはっはー!」
イレギュラーズの――『幕引きの演者』陽炎(p3x007949)、『野良猫』みゃーこ(p3x009529)の苦境にも折れない心は、運命を引き寄せるその力はこの戦いすらをも例外にしなかったという事だ。
決まった終わりを覆すのが彼等の存在価値だとするならば、『これもまたそういう類のものだったに違いない』。
(お願い、一手でも多く攻撃をイノリへ届かせて……!
少しでも早く! 少しでも強く! 鋭く! 痛いのも苦しいのもいやだけど――
――大切な人達と会えなくなっちゃうのはもっといや!)
『祈り』に似た『月将』タイム(p3x007854)の想いは、戦いは『イノリ』等よりもずっと強く。
おおおおおおおお……!
「しっかし現実も『こういう所』の可能性があるとしたら――
どんな『演算』だって話だ。全くもって先人の叡智ってのは震え上がるしかねぇよ!!
だがべらべら舌を動かす暇もねぇのは事実だ――やってやろうじゃねぇか!」
『そう言う割には饒舌に』啖呵を切った『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)の七星結界・破軍の呪剣――運命の楔たる氷剣が咆哮を上げた中型を縫い止めた。
「『長くは保たねぇぞ』」
「……一つなら……でも、合わせれば……足止めくらいなら……出来るはず……
……『イノリ』にみんなの力を届かせるためにも……終焉獣(あれ)は邪魔なんだ……僕がここで頑張らないと……!」
怒鳴るように言ったカイトに同じく凍気を思わせる真白い獣人――『分岐点の別の道』アルヴ(p3x001964)が力を重ねていた。
「『この世界では』幸せに暮らしている子だっているんだよ。
後悔しても、し足りなくても――戻せないものがここにはある。
何度も、何度も。屍を積み上げ続ける親馬鹿の苦労が少しでも減るように――レイさんだって死ぬ気で頑張るさ!」
『聖獣の護り手』フェアレイン=グリュック(p3x001744)の夜閃が中型を撃ち抜き、更に集中攻撃を受けたそれの体勢が大きく崩されていた。
『不可能』にも思えた『イノリ』への道を作り出す大事業は戦いの中でもどんどんと士気を上げ、実力と精度を増すイレギュラーズの力により覆されている。
「あーはいはい何でもしますよもう!
着せたい衣装でも二人で相談してればいーんじゃない!?
その代わりアタシのお願いも聞いてもらうからマジよろ!」
「はいよ、承った。じゃあオマエは千一夜の色っぽい衣装でラサの飲み屋で当番ね」
「お、飲み屋シリーズ? じゃあ俺はウサギちゃんの格好で。
オマエは俺に専属のお酌ね。飲み負けたらお持ち帰りのオプション付きだぞ」
「名案。じゃ俺もそれ採用で」
「――どうしてそんなに具体的なの!?」
『???のアバター』エイル・サカヅキ(p3x004400)の抗議は真に迫っていたが、
「茶番はその辺で!!!
このR.O.Oにおいて最大の敵はあの『イノリ』ってヤツな訳で……
こんな前座にモタモタしてられるかよ!
俺のやれる事は単純、ただ攻撃あるのみ。ラブレターを贈りたくなるようなご機嫌な死に戻りによ?
デ、ディルク……とも共闘できるんだ。こんな滅多なチャンス……ぶち壊すこたァないよな!」
「どう思いますか、レオンさん」
「背伸びしてますねぇ。必死ですねぇ。可愛げですねぇ」
「どうしてそんな風に笑うんだよ!」
『クリムゾン・ドラゴニア』アクセル(p3x007325)をからかうディルクやレオンの軽口にも余裕が出ている。
異様に視野の広いレオンは状況を的確に読み取っているのだ。そしてディルクの本能はこれが『勝負になる』事を判じつつある。
勢いを増したイレギュラーズの戦いは徐々に不利極まりなかった全体の戦場を塗り替えつつあったのだ。
「あ……なんかエラいモテるヤツ等来た?
神も少しはあやかりてぇ~モテる秘訣何? てかっぽくなってきたんじゃないの……?」
「風が吹いてきたって事だ。それも――中々すごい追い風だ!」
更に重要な『好都合』はもう一つあった。鉄壁の『影の城』の僅かな綻びは、クリストの『風穴』と『剣を呼ぶ声』蒲公英(p3x005307)の縁が結果的に呼び寄せた暴風のような追い風だ。
相変わらず『神らしい』いい加減さと気楽さを言葉の端々に見せつける『R.O.Oの』神様(p3x000808)、『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)の視線の先には本人曰く「行きがかり上」支援を受け取ったかの死牡丹梅泉、そして恐るべき武芸者達の集団があった。
「皆で囲んでイノリさんをぶっ飛ばすよっ!
……ヨシ! ここに来てとんでもない援軍……援軍?
兎に角、梅泉さん達が来てくれたんなら彼らの力も存分に使わないとだ!」
『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)の言う通り、猫の手でも借りたい位の惨状だ。
最適解が『囲んで殴る』ならモーセのように影を切り分ける剣豪一行は少なからずイレギュラーズの『足し』になろう。
「おやまあ、物凄く見覚えがあって……物凄く物騒な方々が……
え、今回初めて味方? 敵になれば最悪なれど――味方なら、これ程心強いものはないね?」
「やぁやぁまさカ! 助っ人が想像以上に居るじゃァないカ!
まぁ、彼らとて世界が壊れたら困るだろうし! 無論僕とてそうサ!
イデアとエイス達が居るこの世界ヲ! 壊されるなんて冗談じゃァない!」
『Reisender』アウラ(p3x005065)は薄く、『屋上の約束』アイ(p3x000277)は声を上げて笑う。
成る程、破竹の勢いを産み出さんとするなら今しかない!
「小夜、わしを斬るならまずこの程度の獣――その技で遅れを折る事もあるまいなあ?」
「ええ。見ていて頂戴。まぁ、趣味では無いけれどもね――」
「――汗臭いし! 獣臭いし! うちかてこういうのは嫌いです!」
『R.O.Oの』小夜や張り合うたてはが小型を蹴散らし、中型を狙っている。
雪之丞は数多い敵さえ引き付けいなし、
「では、参ります――」
「……人型とは違い、勝手こそ分かりませんが」
流麗なる舞花の剣技が間合いに咲き、見目よりは随分と無骨なる沙月の拳が影を穿つ。
「――――はぁッ!」
更には裂帛の気を吐いたすずなの切っ先が真横に粘つく闇の獣を切り捨てた。
R.O.OのNPCたる彼等の参戦はクリストの狙ったものではなく、当然ながら『イノリ』の計算の外であった。
「なんか梅泉さんまでいるし……
――ってちょっと待って下さい、『私』……!?
いやいやいや、なんですかこれ。R.O.Oってそういう事もあるんですか……!?」
蒲公英は少なからず驚いた、複雑な顔を見せていたが……
「助からないと分かっている者へ慈悲を与えるのが優しさである場合もあるけれど――
これは本当に彼女達にとって『優しさ』になるのかな?」
――さあね。これは俺様changの自己満足なのさ。イノリchangだってそんな事は分かってるYO!
「願わくば。キミが諦めたからと、彼女達にもそれを押し付けないで。彼女達には彼女達自身の想いと願いがある筈だよ」
「いやはや、梅泉達もNPCとして忠実に再現されてるとはね。
ぶっちゃけ心強いけど、余計に死なす訳にはいかんよにゃあ――」
『NPC』が戦力になる事を察した『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)や『合成獣』アルス(p3x007360)は素早く彼等のカバーに動き出していた。
彼等は一度死ねばそれまでの戦力だが『最強』を目指し『邪魔』を切り開く彼等はイレギュラーズにとって予想外の援軍だ。
「なんだかよく知ってる気配がした気がしたけれど……
ああ、つまり『そういう事』なのね。あの時のベルフラウのお友達のような……」
――HEY! 小夜Chang! 今日はあっちいーの!?
「今は『シリアス』でしょう? Hadesさん。
夢でも現でも私にとっては同じもの。私は私である限りは斬るべきものを斬るだけよ」
一方で混ぜっ返すクリストに淡く微笑んだ『白薊 小夜のアバター』小夜(p3x006668)は蒲公英とは対称的に実に冷静なものであった。
「行きましょう、小夜さん!
二人いて少しややこしいですけど、まあ流石に判断はつきます故!
……なんか嫌ですね、こっちの小夜さんも誰かさんにご執心っぽくて!」
「こちらはこちらよ。彼は私の彼ではないし――何より、他人行儀で冷たい顔をされたら、ショックじゃない。
『さっき』のサクラさんみたいに」
「ああ、そう、ですか!」
蒲公英は流石にわざとからかわれた事を理解して頬を膨らめ、目前の敵を一閃した。
「それにね、こちらは本気だけど。一番の興味は別にあるのよ。
私とこちらの私が同じなら――これが終わったら私は『小夜』を斬った方がいいのかしら?」
「小夜、さん――」
凄絶な妖刀の如きその言葉に蒲公英は思わず小さく息を呑み込んだ。
「はぁ……味方にも見るからにやばいのがいるのってのも胃に悪いな……まぁ精々今は利用させてもらうがよ。
連中が隙を作ってくれるってんなら大歓迎だ。刃を研ぎ澄ませ、こうして横から――一丁上がりってな!」
陽光、月光。『國定 天川のアバター』天川(p3x010201)の小太刀一対が閃いて『道』は確かに拓かれた。
「いや、絶景絶景。この景色が見れただけでも来た価値があったというものだ。
虚構の死にも現実めいた色がついて……不覚にも、段々と愉しくなってきてしまったよ!」
潮目が変わる瞬間は何時見ても愉しいものだと『聖餐の天使』パルフェタムール(p3x000736)は思う。
純白の天使の翼を得た『悪魔』は人の悪さを全開にしてこの戦いそのものを愉しんでいた。
(いや、結末がどう転ぶかは分からない、けどね――)
パルフェタムールは安直なハッピーエンドを信仰しない。しかし、悪魔は人間の営み(あがき)を愛するものだ!
事実、イレギュラーズの猛攻と追い風で徐々に『イノリ』への攻撃はその分厚さを増している!
「――ねぇねぇイノリさん。キミとざんげって関係あるんだよね?」
『妖精勇者』セララ(p3x000273)の聖剣チョコソードが生み出された『イノリ』の黒き剣と噛み合い、鍔迫合う。
「キミを倒したらざんげが死んじゃう、とかは無いよね?」
「Yes、と言ったら?」
「それでも手を緩める心算はないけど、一応ね!」
――安心していいYO! そりゃあないから!
「これだもの」と肩を竦めた『イノリ』の長い足がセララの腹部に突き刺さり、その小さな体を数十メートルも吹き飛ばした。
「一回死んで冷静になれた。
召喚される直前に死んだ俺はここも混沌も異世界で、胡蝶の夢で――
確かにこれは嘘かも知れない。所詮は他人事だったかも知れない。
死も置いて逝かれる、置いて逝く時に比べればただ痛いだけだ。
でも、二人目の息子に会えた。むりをしないでって言って貰った。
だからシスコンに負けない。負けてられるか――親馬鹿を、舐めるな!」
「折れず。曲がらず。牙を通す。
『最強』何するものぞ。ぱんだこそが最強と教えてやろう」
『ここにいます』梨尾(p3x000561)の零炎が『イノリ』を焦がし、流雨の獰猛さが彼を執拗に付け狙う。
乱戦は『イノリ』の周囲すらも騒がしくしている。そしてそれはイレギュラーズにとっての福音だ。
(確かに、潮目は変わった。けれど、やるべきことは変わらない。
生半可な攻撃では有効打にならないなら『有効打を通せる人を、一度でも多く攻撃させる』。
お前に地道な無駄の積み重ねだと謗られても。それがこの戦場における、僕の戦い方だ――)
戦線が押し上げられ、周囲に集り始めたイレギュラーズを薙ぎ払う『イノリ』を【黒狼】の目、『データの旅人』マーク(p3x001309)の眼光が射抜いた。
部隊の頭脳たる彼の求めに応じ、イレギュラーズの主力の一角とも呼べる【黒狼】はその獰猛な爪牙を開放する。
「小細工の使えない戦場かとは思いましたが……
ミスタ・梅泉の『雇い主』も来れば良かったのに。遅刻は頂けませんし、何なら名誉の戦死も箔がつくというものでしょうに!」
「この世界に、いったいどれだけ苛立たされたことか。
この手に、肌に感じた全てが本物だったとしてもーー他人の『妄想風情』が、人様の現実に口を出すなよ。出させるかよ。
他の誰が尊ぼうと、僕だけは否定する――してみせる。
……夢なんて物は吹けば飛んで消えるものじゃなきゃ、ホント嘘でしょ?」
それは皮肉を薄い唇の端に引っ掛け、口角を僅かに持ち上げた『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)であり、静かなその声色に明確な拒絶と僅かな怒りを滲ませた『憧憬の聲』リラグレーテ(p3x008418)であった。己を砲台と位置付けたファンの火力支援を受けながら、月影に咲くナハトケルツェ(くうそうのだんがん)は『イノリ』を狙う。執拗に、止めどなく。
「状況は間違いなく動いている。ならば、俺達が望む未来に手を伸ばす為に足掻き続けるとしよう!」
執心の雪之丞があれ程の戦い振りを見せたなら、『災禍の竜血』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)もいよいよ滾ろうというものだ。
全神経は集中。 逆鱗一刀、大上段より振り下ろされた豪打をようやく『脅威』と見做したか――
「漸く『受けた』な、『イノリ』!」
「そろそろ礼儀を見せる頃合いかと思ってね――」
「――精々たかを括れ。俺は何度だって挑み続けてやる。
諦めない限りは負けじゃない──この身体が動き続ける限り、俺は最後までこの世界の終末を否定し続けよう! 」
猛烈な戦いは加速する一方だ。
打撃力こそ『イノリ』に集中し始めたが、被害の速度も加速的に跳ね上がっている。
「やれやれ、だ。重要なのは『友軍が全力を出し切る』マネジメントの方ですかね?」
【突貫】をコントロールする『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)の役割も自然と重くなる。
(速考、検情を併用。『個人ごとの攻撃行動の盛衰』と『攻撃時機の偏在』を把握――
――盛衰は回復、偏在は穴埋めの実施判断に活用)
その視線が信じられない位に戦場を行き来するのは彼の回す『思考力』の分量をを物語る。
「クマのお方にゃ攻撃に注力してもらいてぇので、復讐への利用とダメージ分散狙いでなるべく前へ。
盾の一つになるのもいいでしょう。これが捨て石にならぬなら、万歳でさぁ!」
目の前で血の線を引いて崩れた『憂念啾啾』ビャクダン(p3x008813)を置き去りにして、
「このR.O.Oで最も戦いを好み――最も戦いの経験を積んだ闘技場の戦士達の名に賭けて!
イノリにーちゃん、アンタだけは絶対に逃さないからな!」
猛烈なる勢いを見せ『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)が肉薄した。
「この世界で色々なモノを見たぜ。色々な人と出会ったぜ。
だからおれは、その記憶を世界を人達を失いたくはねー!!!」
【突貫】における『前回』のエースはこのルージュだった。
中型を屠った彼女の一撃は驚異的であり、故に『イノリ』もこの攻防には気を割いているように見えた。
(ハルねーの『アレ』が当たれば、たぶんイノリにーちゃんでも無傷じゃいられねー!)
そして『それが彼女等の狙い』でもあった。
「諦めずに何度も穿ち! 突貫する!
幾多の苦痛――死を乗り越えて皆ここまで来たのじゃ、今更この身の一つや二つ!
この世界でしか出来ぬ戦い方、ルールを思う存分に味わうが良い!」
ルージュが振り払われ、血に伏せたとて【突貫】の貫通は終わらない。
『うどんの神』天狐(p3x009798)の『せつなさみだれうち』は凶悪極まる弾幕だ。
一打一打が並の必殺にすら等しく重い彼女の展開に流石のイノリも防御の構えを見せた。
(どんなに相手が強くても、私は諦めない。何度倒れても必ず突き崩す。
――本命は別にあるとはいってもね、私の砲撃も弱くはない。通せるものなら通してみせるし――
何より、布石と思われても上手くない……)
飛行で『上』を取り、角度をつけて砲撃を繰り出すのは『鉄騎魔装』鬼丸(p3x008639)だ。
「最初からフルパワーで、行くよ!」
「俺達が諦めない限りきっとそこに道は繋がる、そう信じてる。
俺の手が届かなければ誰かが、その人が駄目でもきっと別の誰かが――その手を伸ばす限り届かないものなんてない!
それを証明してみせるよ、今、ここで……!」
「イノリが私を殺すのに割くのは一手か、二手か。
理不尽を煮詰めたような『ボス』に、その時間仲間が攻撃できるのですから、等価以上の価値はありましょうや」
天狐、鬼丸の弾幕を従えるかのように『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)が残像を残し軌跡を刻み、『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)も又、決死の覚悟を以てその身を挺する。
(狙いは複数方面からの攻撃による『イノリ』の対応能力の飽和であるな。
彼奴にとって、強者が存在すらしないというのなら、それこそが隙よ――)
多角的に、幾重にも仕掛けを伴って攻め続ける――『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)は確かに『イノリ』を見据えていた。
唯、圧倒的に強いが『同格』、『己の危機』を知らぬその戦い振りは恐れも不測も知りはしない。
鎧袖一触の戦いを幾ら繰り返したとて、得られぬものがそこにはあった。
「強さなど、求めては見ても自己満足の享楽で。この手で何かが変えられた感触は曖昧で。
あぁ、だが今一度、ヒトに託せるのならば――原罪とは、返す返すも最後の最後で実に燃やし甲斐のある相手よな!」
『戦闘経験』。如何に鍛え上げたとて、どの一撃も単発では到底『イノリ』を脅かし得るものではなかったが、連携が確かに彼を崩していた。
「……これも、布石か!?」
遅れ馳せに気付いた『イノリ』が構えを取る。
全周に放たれた致死なる棘を、
「これって闘技場ランカー集合だねぇ。敢えて言うよぉ――負ける気がしない、って!」
へらりと笑ってみせた『波濤なる盾』エイラ(p3x008595)が『抱き止めた』。
『イノリ』の一撃で何人ものイレギュラーズが『死ぬ』。
だが、【突貫】は頼るべき一撃を『イノリ』に届けずには止まれない。
この戦いを支配する『空気』を変えるのは、きっと迸る雷光のような――影を切り裂く『希望』の姿に違いないから!
「この時を待っていましたッ!」
コンディションは最悪。復讐日和。感覚は集中――代わりに倒れたエイラの陰から『クマさん隊長』ハルツフィーネ(p3x001701)が飛び出した。
「頼もしい援軍が来ようと私達を無視などさせません。
ギルドマスターも、剣客も、『私達程R.O.Oをやり込んではいないでしょう?』」
一瞬だけ反応の遅れた『イノリ』の懐にハルツフィーネの小躯が潜り込んだ。
(この世界における最強は貴方かもしれません。それでもこの一瞬だけは――)
全身全霊、クマさんクロー。
「――私とクマさんが、最強ですッ!!」
ルーベルグの雷。聖なる裁き。怒りの火――復讐の時を従えた一撃は『イノリ』の守りを完膚なきまでに引き裂いた!
――おー、おー。スッゲ、『伝説級』!
初めて表情を変えた『イノリ』にその首をねじ切られる。
殺されるその瞬間までハルツフィーネの表情には笑みが浮かんでいた。
一撃が示した価値は小さくない。『イノリ』は、倒せる。今の一撃を再度望むのは難しかろうが――少なくともそれが分かったのだ。
「この世界が現実をモデルにしてるならあると思うのですよね……code:ppp的な奴が。実際どうなのです? クリストさん? 」
――機械仕掛けの神は好みじゃないね、ねねこchang!
試すように尋ねた『エンバーミング・ドール』アカネ(p3x007217)にクリストは嘯く。
【突貫】の猛攻は初めてといっていい程に奏功したが、状況は依然厳しいままである。
マザーには最早時間が無く、幾度でも蘇る終焉獣達に後背が脅かされ続けている事実にも一切変わりはない。
「殺したくない魔種も、殺せなかった魔種もいた……
魔種を生み出すのがイノリさんなら、いつか本物も倒して悲しい顔する魔種が居ない世界にしたい!
だから、こんなおかしな運命はひっくり返してみせる!」
目の前の魔種が全ての『原罪』だったとしても。
愚かで気高く、甘やかで苦い『合わせ鏡の蔦』ルフラン・アントルメ(p3x006816)の想いが道を見失う事等無いのだろう。
故にイレギュラーズは畳み掛ける。戦いのモメンタリーを失うまいと、かさに掛かって攻めを打つ!
「言いたい事、伝えたい事は色々あるけど――兎に角これだけは言っとくのです!
これ以上マザーをいじめたらダメなのです! こんなことをしたって誰も幸せにならないのです!
そっちがごめんなさいするまで、何度死んでも引き下がらないのですよ!
言葉で止まらないなら拳(かたな)で分からせてやるです!」
(実際、本当にイノリが、クリストが。それぞれの妹のことを思っているのか――そういう話は分からない。
自分はそうじゃないかもしれないから。けれどもしそうなのであれば、そうであれと願って……願いたい)
『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)の斬撃が閃き、『ノー・マーシー』ディリ(p3x006761)はタンクとして敵の脅威を受け止めんとする。
「この事態、そもそもシュペルが認めた天才がやらかした『設計ミス』が話を厄介にしている気配がするんですよ!
何だよ、もしもの時に妹を介錯するのが兄って! 天才なら『二人が力を合わせれば神託も跳ね除けられる』ぐらい言えって事だよ!
シュペルの傲慢っぷりと足して二で割ったらちょうどいいんじゃないか!?」
――錬きゅんにドーカン~!
「正直兄妹の事情とか知らない。何があって、どれくらい頑張った末の事かも分からない。
けどこーんな気の抜けた理由で滅ぼすなんて馬鹿にしてるし反発もするよ。妹ちゃん助けてから出直しな! 」
『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)にクリストが笑う。
吐き捨てるように言い、強引に前に出た『CATLUTONNY』すあま(p3x000271)を無数の激痛が貫いた。
「……っ、助けてあげるってのがそもそも助ける側の傲慢、自分勝手だ!
その癖、助ける相手は助けられそうな相手にだけなんて――
きっとそれだよ、『ムカつく』理由! そんな根性足りてない奴に滅ぼされるなんて冗談じゃない――!」
『イノリ』への攻勢を強める【運命砕】はその名の通り伊達ではない。
「君はコピーで、殴ったって現実の君もざんげも変わらないかも知れない。
でも、それがどうした――そうだとしても私が戦わない理由も『不可能なんてない』と叫ばない理由にもならないよ!
何かが変わる可能性が――例え1%でもあるなら、戦う理由には十分すぎるさ!」
『青の罪火』Siki(p3x000229)の舞龍一刀が『イノリ』の放つ無数の影の槍を切り払う。
「小細工が通用しないなら、真っ直ぐ殴り合うしかないらしい!」
「チリみてェに散らされようと一撃でも多く! 言いたいことも一言でも多く!
守りに関しては頼りにしてるぜ、勇者サマ!」
「ベルは、勇者として、クシィさんを守ります。
今日のベルは、とっても、ご機嫌が、斜めなのですよ。
だってだって、クシィさんやベルのことを......ごにょごにょ。
と、とにかく、そんなにデリカシーがなかったら、妹さんに嫌われるって、ベルは思いましたよ。
とってもとっても、めっ! なのです!」
攻め手はクシィ、守り手はベル。
『イノリ』からすればベルの不機嫌は流れ弾のようなものだろうが――構うまい。
「自身と共闘というのも妙な感じです。
とはいえ、強者を前に戦わないということはないでしょう――その内『こちら』にやって来る事でしょう。
自身と一緒に舞ってみるのも――存外に興味深い話ではありますね」
「正直、『ご主人様方』の個別の事情に干渉するのが良き使用人の姿とは思えないのです」
自身の事は自身が一番知っているという事か。確信めいた『月下美人』沙月(p3x007273)の硬質な美貌が僅かに微笑む。
『ロールプレイ』染みた『人形遣い』イデア(p3x008017)の言葉、その動きはあくまで瀟洒を伴っていた。
「届けたい拳を振るう手伝いを。届けたい言葉を響かせる手伝いを。
メイドである今の私は、できる全力でお手伝いをいたしましょう――そのために私はここにいるのですから」
「お前がざんげのアニキか……!」
沙月とイデアの吶喊を何とかいなした『イノリ』に思惑通り『炎竜』リュカ・ファブニル(p3x007268)が喰い付いた。
「ハジメマシテの筈だろう? 君はざんげの『友達』かな?」
「ああ、そうだ。『友達』だよ!」
リュカの犬歯が剝き出された。言外に獰猛な感情が漏れている。
「お前の、ホントの望みはこんな事じゃねえだろ……
ざんげが苦しむのを止めるだけじゃなく、幸せにしたいって思ってるんだろ!
不可能だってんでこんな事やってんだろ!?
今、この瞬間を見てみろよ。『無理』だった筈のお前に俺達が喰い付いてる。
クリストが力を貸してくれて届いたんだ。
お前だけじゃざんげを助けられねえかも知れねえ。
だが俺達がいりゃどうだ? クリストがいりゃどうだ? 竜がいりゃあどうだ?
世界中の人が力を貸してくれりゃどうだってンだ!?
絶対に届く! 届かせてみせる! だから俺らが勝ったら、ざんげを助けるのに力を貸せイノ――」
刹那毎に交錯する命のやり取りにも涼しい顔をして。『イノリ』の爪がリュカの心臓を貫いた。
「――やっぱり君、『友達』じゃあ無いんじゃない?」
「リュカさんの言葉、届かないの!?
……ほんの少しでも可能性があるなら、運命は変えられる。
そして、イレギュラーズは不可能を可能にしてきたんだ。それでも自分が正しいと思うなら……かかってこいだよぉ、このわからず屋!!!」
感受性の高さ故の憤りを生理的な涙に変えて、『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)が声を振り絞った。
『イノリ』は次なる的を彼女に向けたが――その前に青い影が立ち塞がった。
「……今の、ちょっとかなりムカついたかも知れねぇ」
「……………はい」
『ムカついた理由』は棘のよう。チクチクと『物語の娘』ドウ(p3x000172)の小さな胸を突き刺した。
レオンの言葉に頷いた彼女は何とも言えない顔をする。
「悪ィけど、オマエを殺しちまうかも知れねぇよ」
「……」
「師匠としては『ノーミス』で行きたかったんだがな」
「レオン君は、過保護なんですよ」
ドウは唇を尖らせて『不満』を告げる事にした。
「このような混戦で不自然なくらいに死なないのは……護られてしまっているから。
『蒼剣』の足を、引っ張ってしまっているから。
今、あの恐るべき原罪を討ち倒す為に、少しでも戦力が必要な状況なら――護られている、そんな自分は許せませんよ。
レオン君……私は大丈夫、ですから。護られているだけの不出来な弟子では、ないですから。
十全に、戦ってください!!!」
――私が、惚れ直してしまう位に――
最後の言葉は口にしなかったがレオンは「了解」と『二速を上げる』。
「おやおや」
「……?」
ドウもまた言葉の通りにそんな彼に追いついて――ディルクは小首を傾げたアクセルにひょいと肩を竦めて見せた。
「――あの物臭が。ありゃあ、何年振りに見る姿かね?」
成否
失敗
状態異常
第2章 第3節
●『原罪』II
「リクエストは勝ったら叶えますよ、女に二言はないし!?
ところで赤い王子様、アタシ――あー面倒だしちょっと休憩、『私』的にもあの蒼い王子様の姿は結構びっくりねぇ。
女の勘が何か掴んだ気もするけど……まぁそれは千一夜の日に聞くとするわ」
嘆息した『???のアバター』エイル・サカヅキ(p3x004400)にディルクは僅かに苦笑した。
「いい勘してそうだが、アンタも大概複雑な女だな」
揶揄するようにそう言ったディルクの『邪推』をエイルは「はい休憩終わり!」と打ち切った。
「このままじゃ二速入れた蒼い王子様が女子のハート総攫いよーディルクちん。
それじゃ流石に面白くないっしょ、アタシと一緒に激しい運動でもしよ?
それがすっごいかっこよかったらアタシもこっち派に鞍替えするかもだし!」
『物臭』が『イノリ』に喰い付いたのは暫く前の出来事だ。
「……っ……」
『憧れと望みを詰め込んで』レモン(p3x004864)は小さく痛んだ胸を抑える。
もし、少し時間を巻き戻せるならば彼女はもう少しこのゲイムをやり込んだかも知れない。
もし、状況が認めるならばそれを横目に眺めているのではなく、『彼』の傍でその戦いを支えたかった。
結局は――何も出来ないのだ。『今回は』。
同じだけ――な筈なのに。胸を焦がすような想いは走り出したい位なのに――
(隣で戦うドラ…ドウさんが妬ましいかって?
……いいえ、ROOという世界で、彼と肩を並べるだけの努力をしてこなかったのだもの。
妬ましいだなんて…そんなの、烏滸がましいのだわ)
小型の終焉獣の猛攻を何とか抑え込みながら、『憧れと望みを詰め込んで』レモン(p3x004864)の注意はどうしても半分その光景に向いていた。
『使えなかった』アバターの代わりに少女の姿で影の城に『滑り込んだ』レモンの視界の中で青いマントが翻っている。
「――やあ、これは実に面倒だ。
人間社会に興味はないが、君の事は知っているよ。
何せ僕の子を二人も倒したローレットの頭領だ。何時かは礼をしてやらねばいけないと思っていた」
「オマエの子じゃあ、ねぇだろうが、よ!」
闇を纏う『イノリ』の爪とレオンの剣の描く青光が交差する。
互いに『食えない』タイプで様子を伺う所がある。これまで『イノリ』と相対した人間の中でこれまで最も粘っていた。
「死ぬまで止まらないぞ!ㅤ 邪魔だったら殺してみろよ!! 殺したらもっともっと強く(めんどうに)なってやるけどな!!!」
そしてもう一人。ターゲットを散らし、同様にかなりの時間を稼いでいるのはそう言い放った『サラダ無双』きうりん(p3x008356)である。
彼女はそう戦闘力に優れたタイプではないが、自身の言の通り『面倒臭さ』では相当のものである。
R.O.Oにおいて堅牢な耐久力を誇っている上に抱え込んだデスペナはクリストのバフにより嫌という程の強化を彼女に積んでいる。
それでも戦闘的に通用するのかと言えば否であろうが、鬱陶しく纏わり付く存在としてレオンに連なっているのだから大したものだ。
『最前線』での戦いは少しずつ様相を変えていた。
だが、当然ながらその状況を作り出しているのは無数に現れる危機に挑み続けるより多くのイレギュラーズである。
「え、腰痛制限ないと彼処まで強いんあの人――」
状況をちらりと確認した『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)が呆れたように呟いた。
成る程、先のディルクの言葉は頷けた「あの物臭」の姿とは思えない――
「知らんかった――って驚くのは後にしよ。今は徹する! 暇はない!」
カイトにはカイトの役割があり、間近で大口を開けた中型の終焉獣はぞっとするものだ。
何れにせよ抑えが決壊すれば勝負にならないのは決まっている。
『イノリ』の戦況がどうであるか以前に『影の城』を制圧出来なければそれは『論外』なのだ。
「さぁ、まだまだ戦うぞ――諦めはしない、何度死のうと負けるつもりもない。
それに、Hadesさんには是非とも協力してもらいたいしな」
「どぉした獣共、まだ俺の骸は百も越えてねぇぞ! もうちっと踏ん張って掛かって来いや!」
『AzureHarmony』アズハ(p3x009471)が凌ぎ、『バンデッド』ダリウス(p3x007978)が攻める。
「物量、依然無限大であると認識。
当機構の行動については前回と揺るがず、敵の撃滅作業に参加します」
「影の城? まさに私の戦場に相応しい!
今こそ唱和せよ、我が名を! そう! 『闇祓う一陣の風』! 白銀の騎士ストームナイト!!
今こそその名を示し、この場の暗闇を! 絶望を! 討ち祓わん!
終焉の獣、何するものぞ! 我らの『可能性』に限界は無いと、あのメチャツヨクソイケメンヤローに……
あー……いや、違う、なんというべきか……
超強力糞尿容姿端麗殿方! とにかくアレにぶちかまして差し上げようではないか!!!」
相変わらず冷静極まる調子を崩さない『当機、出撃す』アンジェラ(p3x008016)が譲らず奮闘し、その朗々たる台詞が最後までは決まらなかった『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)のセレスティアルランスが複数の影を貫いた。
「絶望なんてしない! 可愛い猫さん等も楽しい事も沢山ある世界――
R.O.Oは元はHadesがそうしたんだとしても……僕はどっちの世界も好き、です。
だから……どっちも終わらせない! ずっと! 沢山楽しむ! みゃーーーー!」
イレギュラーズが猛攻を仕掛ければ、同じだけ危険も返る。
『しろねこぎふと』ねこ・もふもふ・ぎふと(p3x009413)の渾身の一声が赦しと癒やしの光となり仲間達を激励する。
「雪之丞さん! 唐突に悪いんだけど、少しの間アタシに合わせてくれないかしら!
狙うのはあのでっかいの――弾を撃つまで……アイツを倒すまで、お願い!」
「……行きがかり上とはいえ、友軍のようだ。承知した。完璧に果たして見せよう」
『砲兵隊長』オルタニア(p3x008202)の要請に小さく頷いた刃桐雪之丞が中型の一体を翻弄する。
超絶技量の彼の真骨頂は防御と回避、即ち如何なる敵をも凍りつかせんとする『一菱ならぬ』姿である。
「次男は見送ったし、後は迎えに行くために世界を守る!
家族でクリスマスを過ごしたいからな……
シスコンビは妹とクリスマスを過ごしたいと思わないのか?
誕生日にケーキとプレゼントを用意したいと思わないのか?
世界の破壊よりも兄としてやるべきことがもっと他にあるだろうが!」
好機を見逃さぬオルタニアの砲撃、叱りつけるように言った『ここにいます』梨尾(p3x000561)の零下の炎が中型を捉えた。
『影の城』は騒然としていた。
先が全く見えないのだ。勝利の女神は移り気で大抵は意地が悪いと決まっている――
「クリスト! 聞いてるんでしょ?
このままじゃ『イノリ』を倒しきれるかわかんないわ!
本当にいいの? 本当に『この先』を望んでいるの!?
意地悪におどけてたって――本当はあなたが一番イレギュラーズの奇跡を信じたい癖に!!!」
「いざという時に頼りにならない男は笑われるんだからね!」と駄目を押した『月将』タイム(p3x007854)の呼び掛けにハッキリとした苦笑の気配が伝わってきた。
これまでのクリストよりは幾分か『素』が見えたその反応は多少なりともタイムの溜飲を下げていた。
「――あんたがこうする理由や理屈はわかってもな、納得出来るかどうかは話が別だ。
俺は生まれも育ちも再現性東京、マザークラリスに育てられた一人だ。
恩を感じてるし、苦しませたくない気持ちもある、でもこれを受け入れるほど大人しくねえ。
子が親を越えてくもんなら――あんたの妹が育んだものをよく見ているといいさ!」
「すっげぇ微妙な気分なんだよなぁ。偽物(ランドウェラ・オルタ)にまた会えたのは――
うん、お前のせいでもあってお前のおかげでもある。何とも言えない。まぁ、終わったら殴ってやるけど」
「ハデス氏の場合、ぶっちゃけ雑多すぎて性癖が感じられないんスよね。
特異運命座標にいろんな格好させるのを見てきましたが――結局の所どれが本命なんスか?」
――君達こそ雑多過ぎやしないかねぇ!
温度差で火傷しちゃうYO! ランドウェラkunや美咲changには正直感謝するけどさ!!!
『囲 飛呂のアバター』ヒロ(p3x010030)、『屋上の約束』ロード(p3x000788)、『うわキツ』ミミサキ(p3x009818)の言葉にクリストが声を上げた。
「……ほんとに、もう!」
俄に覗いた『不都合』は上手く『かわされた』と言って間違いないだろう。
自分やヒロの言葉に軽口を返さなかったのは恐らく『大人』のずるさなんだろうとタイムはその頬を膨らめる。
「ええんや、それで。心の底から諦めてるやつの根っこには言葉は届かへん。
それはあのイノリも、クソHadesも一緒。ウチかてそうや。
手は出し尽くした。やるべきはやった。その結果が今のこれ。だから今から止まらんし止める気もないのやろ――?」
そんなタイムに告げる訳ではないのだろうが――『刹那(エトワール)』入江・星(p3x008000)の言葉はやはり彼なりの諦念ともう少しの足掻きを帯びていた。
「だけど、んなことは他人から見りゃどうでもええねん。
幾ら虱潰した可能性だろうと、可能性がありゃ、それに食らいつくのが特異運命座標、オタクらの妹が託した連中や。
タイムさん、思い知らせてやりゃあええ。分からせてやりゃええよ。
やったるわ! クソゲー上等の阿呆共――何時までも舐めてると足ィ、掬われるで!」
終焉獣との断続的な戦いは続く。クリストとイレギュラーズの応酬も同じく続いている。
「ねぇ、イノリ。キミってさ。やっぱ強すぎて蹂躙以外の戦闘経験が不足してるでしょ? 」
愛らしいその姿は余りにもその実力と見合わない。
(ここでイノリが手の内を見せれば見せるほど、混沌世界のイノリが倒しやすくなる。追い詰めて手の内を暴ければ!)
『妖精勇者』セララ(p3x000273)渾身のギガセララブレイクは天雷を迸らせ、影の世界を引き裂く光だ。
一方でレオンがフロントで時間を稼ぐ事で敵を瞬殺する事で打撃力の集中を許さなかった『イノリ』に徐々にイレギュラーズが喰い付き始めていた。
「無茶苦茶という言葉があるのなら、きっと奴の為の言葉だろうな。
だが、俺とて何もできないという訳ではない――見せてやろう。塵にも等しい勇者たちの、死に物狂いの力という物を!」
「まだだ……ッ! ここで諦めれば各地での奮戦も水の泡……! ここはゼスティアンが命をかけて止めるでありますッッ!!!」
己が全力――幾度の渾身さえ雨垂れと嘲笑されようとも、見据える先は一つも曇らなかった。
『CALL No.666』CALL666(p3x010222)の、『ROO刑事ゼスティアン』ゼスト(p3x010126)の。
「絶望なんて丸ごとぜーんぶ吹き飛ばせ、ウィッシュ・スター・ランチャ――――ッ!!!」
そして、声も枯れよと己が全力を吐き出した『NyarAdept-ねこ』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)の為すべきは『愚直に雨垂れで石を穿たんとする事のみ』。
「ワシの目の黒い内はリーゼロッテ様を守るッ! そして逆転し最後に笑うのもワシじゃッ!」
クリストの煽りが覿面に効いたらしい。吠えた『若き日の』オウェード(p3x009184)が猛烈に『イノリ』に向かう。
「影の槍に、この身を貫かれたとしても、それもまた良し!
代わりにわたくしの必殺の竹槍もまた、イノリを貫いて見せれば良いだけの話!」
『なよ竹の』かぐや(p3x008344)はその麗しき美貌に不釣り合いな獰猛の結論を迷いはしない。
「どこかの串カツ屋で口にした、巨大な牛ヒレに二本の串が刺さったあの姿!
アレのように、ダブルぶっ刺し状態を作り出し、イノリの動きを僅かにでも止めることができれば!」
「狐月三刀流キサラギ、推参! ってェコトでこの援軍、期待してくれ、千両役者だ!
なんせ、猫の手も借りたい大一番――世界の終末だろうが原罪だろうがなんでもござれ!
御覧じろ、狐月三刀流に――斬れず、断てないものはない!」
(自分の実力でイノリに勝てるとは思わない――だが、だからと言って何もせずに手をこまねいているのはもう嫌だ!)
大一番、洒落た口上で大立ち回りに挑む『狐月三刀流』キサラギ(p3x009715)に『暴れクマさん』カイン(p3x003581)が決死の覚悟で『イノリ』に仕掛け、
「原罪、最強の大敵、ですね。
ですが、世界を相手に出来る程の圧倒的な力――そのくらいで怯む冒険者ではありません!」
『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)も又、及ばずと知りながらもR.O.Oで鍛え上げたその実力を外連味無く眼前の『ラスボス』へ叩きつけた!
「『頑張る』ね」
猛攻は少なからず『イノリ』を捉えた。
やや後退した『イノリ』の片手の爪が危険と見做したカノンの魔力開放――魔力の斬撃を受け止める。
『効かぬ』と無視されるより、『防御』の姿勢は攻め手に勢いを与えるものだ。
「にゃーっはっはっはっは!!! この妾を完全に倒そうなど、片腹痛いわ!
イノリよ、貴様にやる世界など無い! この†緋衝の幻影†が赤き月に代わって断罪する!」
片手を塞がれた彼に肉薄するのはR.O.Oではむしろ水を得た魚のように躍動する『雪風』玲(p3x006862)だ。
ATHGAMBR壱式による至近距離での連撃が『イノリ』の身体に吸い込まれる。
それもまた『雨垂れ』なのだろうが、『イノリ』の表情が僅かに冴えない。
単純な打撃力よりも状況の変化を気にせざるを得ないのだろう。
「……お前らが妹を愛してるのは分かる。分かるよ。俺も『姉』だから。
だけど、妹自身を壊したり。世界を滅ぼすのは駄目だ!」
その言葉に、憤怒を帯びた紅蓮の焔により熱量を込めた『アガットの赤を求め』ヨハンナ(p3x000394)の一撃に『イノリ』は軽くぼやかざるを得ない。
「……余計な事を言ったかな」
「青春群像劇もかくや、という展開だな。
敵も味方も。彼方も此方も。愛に友情。主義主張のオンパレードだ。さて誰の手に『鬼札』が渡るのか――」
皮肉に言って幾度目かの強襲を果たした『最強証明問題』真読・流雨(p3x007296)の爪の鋭さ、
「なぁ。イノリさんよ。アンタと他の連中のやり取りを見るに、アンタにも何か事情があるんじゃねぇか?
……本当にあいつらの言うことに一切耳を貸す価値はないと思ってるのか? 奴らは真剣、だと思うぜ」
あまつさえ。そう慮る姿すら見せた『國定 天川のアバター』天川(p3x010201)の物言いを受けたなら、『イノリ』はハッキリと苦笑した。
「おいおい。やり難いじゃないか。そこの君は――ちょっと善良過ぎるな。
そんな感傷は殺し合いには置いておきなよ。世の中には『絶対に交差しない都合、噛み合わない事情も理屈もあるんだぜ』」
天川の首を刎ねた『イノリ』は実に退屈そうにそう言った。
確かに事情がない訳ではない。それは既にかのシュペルによって明言されている。
だが、世界を侵してでも望みを叶えようとする『イノリ』が滅びを回避せんとするイレギュラーズと交わる事は無いだろう。
成る程、流雨が「青春群像もかくや」と皮肉った言葉――『妹の友達』は誰にとっても感情的過ぎた。
レオンのみならずイレギュラーズを本気にさせたあの失言は些か以上にまずいものだったに違いない――
「俺も『妹の友達』なもんで」
彼我の間合いに皮肉が踊る。
(時間は彼奴の味方であるが、『そう思っている内はそう思わせておくのがよい』。
状況が好転するまで時間を稼ぐのは目的の一つだが、『ここで本気を出さない理由にはなるまい』。
負け筋の一つは彼奴の足止めの失敗、もう一つは現地住人のリタイアが増えて総火力が減る事――脅威度を大きく見せる策は有用か)
『イノリ』の影の槍が距離を取り、危険な攻撃を重ねる『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)を排除せんと狙いを定める。
『イノリ』は頭が良い。『ならば誰が危険であるかを理解している頃合いだっただろう』。
「そろそろ『イノリ』もぉエイラ達との戦いにぃ慣れて来たろうしねぇ。
その慣れを利用させてもらうんだよぉ――」
彼の狙いを読み切り、逆手に取って盾となった『波濤なる盾』エイラ(p3x008595)が嘯く。
『イノリ』からすれば最も非効率的な相手(エイラ)に攻撃を受けられるのは避けたい状況だっただろう。
「こうなれば、可能な限り削って次へと繋げるしかあるまいて!
喜ばしい戦果の報告が各地から来ているみたいじゃし――ならば尚更、此方側も負ける訳にはいかないな!」
「まだ余裕があるつもりかもしれないけど、少しずつ周りの状況は変わってきている。
今やるべきことは攻撃の手を緩めず、イノリをここに押しとどめること――」
『弾幕世界』天狐(p3x009798)は今一度攻勢に力を尽くす。先は布石、今度はその気は無く『本命』の心算でその一撃を突き刺した『鉄騎魔装』鬼丸(p3x008639)が静かに告げた。
「――【突貫】は、イレギュラーズはハルツフィーネだけはない」
先の一撃を受ければ『イノリ』が『クマさん隊長』ハルツフィーネ(p3x001701)から警戒を外す事は有り得まい。
「今までに比べりゃ、少しは厄介だと思ってくれやしたかね『ラスボス』さん。
ま、あんな一撃喰らっちゃそうもなりやすか、誇らしい位だ。ま、これを次に活用しない手はないですねぇ――」
『憂念啾啾』ビャクダン(p3x008813)の『禍飛』が視界外から『イノリ』の懐を強襲した。
殆ど特攻のようなものだがそれで良い。少しでも煩わせる。一手でも届ける。そうすれば次に繋がる。この不沈艦を沈め得る『奇跡』が見える――
先程は仲間をブラインドにしたハルツフィーネを、今度は仲間がブラインドとして機能させる【突貫】はまさに一心不乱な連携そのものだ。
「イノリにーちゃん。ハルねーの一撃が証明してくれた、にーちゃんだって無敵じゃねーって。
千か? 二千か? 三千体か? 足らねーよ。おれ達を止めるにはそれでも足りねー!」
心が折れれば敗れる戦いに『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)は決して緩まない。
そうして奮闘する彼女もまた『イノリ』からすれば最大限に警戒をせねばならぬ一人であった。
「状況も多少は変化があったようで――ならば殴ります。そうでなくても殴ります。やるべき事だけは変わらない――」
己の裡で燃えるは狂気(エラー)。
仲間を巻き込まぬギリギリを縫うように『Error Lady』デイジー・ベル(p3x008384)の怨念骨腕――巨大な骨の手の顕現が『イノリ』を捉えた。
握り潰さん。叩き潰さん。穿ち潰さん。この激情を以て敵を討ち壊さんと――咆哮する呪いを『イノリ』の膂力が食い破る。
だが、『通った』のは間違いなく。
「さて、そろそろ『もう一杯』増やしましょうか」
生まれた隙に惚けたような『双璧の目』黒子(p3x008597)の影が滑り込む。
「ちょっと今回はギアを上げていきましょう――ああ、『殴れない』等と言いましたっけ?」
「ああ、実に味な真似をする……! ベアトリーチェやアルバニアが敗れたのも頷けるな……!」
最大限の評価は口惜しい色を帯びていた。
敗北までの心算はないだろう。だが舌を打つ『イノリ』は追い込まれておらずとも、幾らかやり難そうな顔を見せるようになっていた。
死に戻った【突貫】は状況に対して明敏だった。再び存分にその力を発揮し始めている。
「流れを変えるとまではいきませんでしたが、最強のやや愉快な顔が見れたので良しとしましょう。
後はこの世界で研鑽した力、存分に振るいます。文字通りにこの戦いが終わるまで――
――中途半端に残せば先程のように、手負いのクマさんの一撃を食らうかもしれませんよ。精々頑張って、綺麗に一発で仕留めて下さいね?」
「いや、助かるぜ。居てくれるだけでこんなに『やりやすい』」
笑みを浮かべたレオンの言葉にハルツフィーネは「どういたしまして!」と応じてみせた。
先に彼等【突貫】が――死闘の中にも幾らかの自信を見せたハルツフィーネが作り上げた余りに鮮烈なる一撃に比すれば、レオンの与えた有効打等大したものにもなるまい。
だが、イレギュラーズが攻勢を強める程にフロントで時間を稼いだ彼もまた自由になる。彼が自由になれば【突貫】を含めたイレギュラーズもまた次なる攻め手を紡げよう。
『強い』というより兎に角異常な位に『巧い』。レオンは『イノリ』の足元に突き刺さり続ける楔であり、『原罪』を相手にもそれを容易に引き抜かせていない。
何より異様と呼ぶべきは、彼は『未だに一機も喪失していない』。
容易過ぎる死が飛び交う『影の城』で『イノリ』相手に抑え役を引き受けながら、『ずっと最前線に存在している』。
「さあ、ディルクちん!」
「わーってるよ。おら、お嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃんじゃねぇよ――ったく、笑ってろ!
必要ないだろうが俺もアンタについてってやるさ。
~~っ! 強がりじゃあねんだよ! 精々甘く見て舐めてろよ!」
そして彼はどちらかと言えば防御的な戦いを得手とするが、エイルのけしかけた『相方』のディルクと、ついでに彼と連携する『クリムゾン・ドラゴニア』アクセル(p3x007325)――『そっくり』な赤い影二つの方はそうではない。ディルクは圧倒的な攻撃力と攻め手数で敵を削り落とす暴風だ。レオンは彼のフォローをしながら合いの手の攻撃を挟む。
『一人である時より、二人である時の方が断然強い』。
(強い言い方をすればだらしのない、ディルク様の言うトコロの物臭な……レオン君の本気を、今見ている……!)
先程、レモンは『物語の娘』ドウ(p3x000172)の事を羨ましく思ったが、イレギュラーズの――いや、彼女に関して言うならばレオンの――戦いを『感じ』『過ごし』『見る』事になったのは彼女もまた同じだった。
ドウは戦闘経験を積んでいるが故に自分が轡を並べているとは思えなかった。だが、同時にこの時間に出来る事を探さない程、愚鈍な弟子ではない心算であった。
(これがゲームだとしても、最盛期のレオン君の動きを、読み取るコトが出来る!
こんな機会はもう無い。これ以上、勉強になるコトもそうないのです――)
『これが最後』ならドウはそんな風に考えなかっただろう。だがこれは終わりではない。
良くも悪くも『イノリ』は複製品に過ぎず、この凶悪な権能とて『本番』ではないのだ。
或る意味でドウは自身がR.O.Oに囚われている身である事すらも忘れている。
『大好きで酷い人の願いを知っているから、これが最後でない事に賭けていた』。
「……シュペルはイノリとざんげが混沌世界そのものであると言っていた。
両者は世界構造体の一部である、と。ならば、意志もつ両者の行動には意味が……それぞれの役割があるという事だ。
パンドラとアークの存在も同様だとは思いませんか?」
「……………」
言葉と共に『イノリ』を穿つ戦乙女の槍は『神異を辿る』シャスティア(p3x000397)の抱く黄金時代。概念の模倣。最早叶わぬ永遠の追憶である。
だが、その金色の軌跡さえ彼女の投げかけた言葉には及ばなかったのだろう。
言葉を受ければ『イノリ』の視線がシャスティアに注がれた。その様子は『少し』これまでと違う。
「――即ち。神託とその回避及び成就の試みは最初から予定されていたものの可能性がある。
まるで……そう。あの方も仰っていた『審判』のように。
『淘汰』と『進化』のプロセス、世界は『保守』されるべきなのか『革新』されるべきなのか
神が『寵愛』を向けるのが人なのか、その次なのか。黙示録が語る預言、破壊の後の新生。
……人は、この今の世界は越えられないと――貴方達はそう思いますか? クリスト、『イノリ』――」
「『途中で僕の身の上とは少しズレたが』。中々に驚いた。そして興味深い話ではあったよ、お嬢さん。
君にそれを説いた『あの方』とやらは余程の人物が、とんでもない性悪だったと見える」
――ホント、ビックリだわ! アリシスchang!
腹を探られるのはどうにも憤懣やるかたないらしく。
威圧を増した『イノリ』の本気を受けたシャスティアが『丹念に殺された』。
だが、彼が『誰か』に構えばその間にも勢いを増したイレギュラーズは更なる牙を突き立てる好機を得るのだ。
状況は確かに一変していた。
梅泉一派の援軍、『想定以上に数を増し始めたイレギュラーズ』の圧力。
「持久戦? 上等!
本来ならば終焉獣の援護がある籠城戦は耐えれば耐えるだけ有利になるじゃろうがな。
しかしそれはそちらが有利であればこそ。せめても――拮抗していればこそ!
さぁ、聞こえるじゃろう、勝鬨を上げ本丸へ雪崩れ込み!今まさに終焉の獣を狩らんとする足音が!」
高らかに言う天狐の肌は確かに今『影の城』に集まりつつある大きな力のうねりを感じていた。
「この地へこの世界の想いが力が集まっている……」
幾度と無く変幻に魔導砲を操る『希望の穿光』Λ(p3x008609)の呟く通り『影の城』、終焉の圧力は『想いの力(The End of BreakerS)』に攻略されつつある!
「もう少しあと少しで此方に天秤が傾く――
なら、その瞬間まで何度でも立ち上がって道を征く。何度だって――こじ開け続けなきゃね」
『影の城』に蔓延する終焉の圧力が緩めばイレギュラーズの攻めは強さを増す。
数限りない『雨垂れ』が『イノリ』を叩く。決して雨垂れ如きではなく、確かな意志と希望を以て。
状況を変え始めた戦いはイレギュラーズだけではなく滅びなる敵にもその牙を剥きつつあった。
「ゲハハハッ、おいおい。おれさまは最強最悪の山賊サマだぜ?
こんなもんで止められる訳がねえ! ホラ、見ろよ。
てめえの情けねェ部下どもがガンガン消し飛ばされてやがる。見てて気持ちがいいね」
自身を邪魔しかけた終焉獣を蹴散らしてしつこく『イノリ』に挑む『山賊』グドルフ(p3x000694)の野卑た笑みが深さを増す。
「てめえのパワーも無限って訳じゃねえんだろ?
そんなら、どんだけぶん殴られたって食らいついて、てめえから何もかもを奪ってやるまで、止まらねえぜ。
スカした美形様の『予定外』は! 気分がいいついでに見たいもんだ。普通見たいだろ!?
土下座で許しを乞う世界最強のラスボスの姿ってやつはよう!」
戦いは続く。
「『初めまして』。一剣士として、貴方方には興味が尽きないものでして」
「ふむ? 何処かで会ったような、そうでもないような。主からは奇縁を感じるな?」
「『会った事は有りませんが、縁とは得てしてそういうものでしょう?』。
――噂に名高い一菱流の継承者方の戦いを見られるとは早々無い機会です。
失礼ながら、この道行きご一緒させていただこうかと」
嫣然とする『紫の閃光』リセリア(p3x005056)に梅泉は「遅れるな」と笑みを返す。
『そういうもの』であるのは同意らしく、彼は正体不明の美貌の剣士の正体を詮索する事を諦めたようだ。
「ねぇセンセー。あ、こっちだと梅泉さんって呼んだほうが良いのかな? あっち行かないあっち!」
「……? 主も、ううむ。今日は奇妙じゃ。妙に気安い。主も、わしもか」
「イノリの強さは疑いようがないし、普通に考えれば流石に梅泉さんも危ないんだろうけど……」
「戯け。その敵が神仏とて斬り伏せるが死牡丹よ」
愛らしい『華義の刀』桜(p3x005004)の美貌、その眉根が寄ったのは期せずして梅泉をその気にさせたらしい。
「そうだよね! 死牡丹梅泉はフツーじゃないもんね!」
満開の笑顔を見せた桜の頬には僅かな朱色が差していた。
(サクラさんなら……それはそうか。
梅泉や雪之丞さんの技が、実戦で完全なる第三者に振るわれる様子を見られる……なんて、この先もう一度あるかどうかの機会。
たてはさんは兎も角として……『私』にしろ『他』にしろ、多かれ少なかれ。似たようなものはあるのでしょうね)
たてははリセリアの内心も知らず見事に不満そうな顔を見せているが、リセリアも桜も梅泉も当然一切構わない。
「山賊さんは兎も角ね、俺のようなモブにゃ出来る事は少ないよ。
でも攻めの足掛かりになればこれ幸い。『最強』に差し向けようって言うなら――『最高』の準備が居る。
真打ちになってくれるってんなら歓迎だ――そう、一太刀一閃キメてみるといいよ梅泉 !」
雪之丞がそうであったのと同じように乱戦の中、敵の味方は敵の理屈で梅泉とリセリアや『エリート伝承義勇兵』グレイ(p3x000395)は折り合ったという事だ。
あろう事かグレイは自身を『モブ』と呼んだが、奇しくもそれはグレイ自身が口にした『山賊』と同じ位に適切な評価ではないだろう。
(よもや、こんな形で梅泉達と共闘する事になるとはな。
――録画して、現実で鑑賞会を開きたくなる光景だわ。件のサムライガールズで……)
何とも『珍しい』状況に『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)の口角が持ち上がった。
「おっと、さて置け。さておけ。望んで神を斬りに行くようなヤツだってのは良く知ってるしよ。
……しゃーねぇ、面白そうだからよ。テメェを援護するぜ、梅泉!」
グレイや気を取り直して『汰磨羈』を捨て置いたTeth=Steinerが開いた道を梅泉等が数人が駆け抜ける。
後方から『イノリ』を目指す彼等一団は距離を埋める程に数を減らしていた。
「では、お先に」
邪魔した一体を沙月の拳が撃ち抜いた。
「お手並みを拝見しましょうか」
舞花の斬撃と共に長い黒髪が間合いに流れる。
「貴女」
「……何ですか」
「『付き合って』」
「……っ、今だけですからね――!」
小夜の呼び掛けに何とも言えない顔をしたすずなが共闘を受け、中型に挑みかかる。
そんな二人のやり取りに『浅き夢見し』小夜(p3x006668)の美貌は綻んだ。
「この世界の『私』は今の私よりも随分と『綺麗な』剣を使うじゃない。
見極めようと思ったけれど――仮初とはいえ『己』に劣るのは許せないわね。
そうしたら……なんだかこの遊戯にも興が乗って来てしまったみたいだわ」
成る程、小夜の戦い方は随分と最初より熱っぽくなっている。
「……同じかそれ以上なら、私もあの『すずな』を……斬るべきなのでしょうか。
……確かに、鏡を見ているようで複雑ではありますし――駄目ですね、割り切れないから何時も私は」
「――私がアレを斬ろうかと言ったのはそういう意味ではないんだけれど、ふふっ、今は……まあいいわ」
(――嫌ですね、この自己嫌悪は。此処に姉様が居なくて良かったと、心から思いますよ。
……まあ、情けない姿を一番見られたくない人はすぐ横に居るのですけどね……)
『剣を呼ぶ声』蒲公英(p3x005307)は迷いを振り切らんと刃を振り切る。
その心は明鏡止水には遠く――しかしその切れ味は『隣』の小夜が目を細める位に美しい。
【落花流水】の二人はやはり運命に導かれるように切り込む『自身等』の援護に動いていた。
「ほら、見い!」
何故か勝ち誇ったたてはが、
「やっぱり最後に頼りになるのはうちだけやん?」
影を抜け猛烈な速度で『イノリ』に打ち掛かる。
――ギッ……!
「え、ちょ、旦那はんが惚れ直す、うちの活躍――」
「――ふむ。コレが『最強』か」
一方でその一打さえ軽くいなして彼女を大きく吹き飛ばした『イノリ』に梅泉の目が細くなる。
「キィェェエェェェェェェェ――――ッ!」
両目を開け、両手で握った梅泉は間合いを奔り正面から『イノリ』に渾身の一撃を振り下ろす。
「わあ!」
歓声を上げた桜の背筋を瘧のような興奮が舐め上げた。
「私も――見てるだけのつもりはないけどね!」
「勘弁してくれよ!」
桜花一閃、桜花狂咲。流石にこれは嫌だったのか『イノリ』の表情が辟易を帯びる。
レオンやディルク、梅泉等は確かに強力な戦力だが、それは『おまけ』だ。
この怪物を相手にすれば強力な『個』等、大した意味を持たないだろう。
だが、それに注意を取られる――或いはパワーバランスが僅かばかりに揺れる事は『個』以上の意味をもたらすのだ。
イレギュラーズ、大いなる可能性の獣の爪牙が『不可能』を侵食し始めている。
状況は更なる加速を見せている。少なからずイレギュラーズの攻撃が奏功し始めているのは確かだった。
(『イノリ』が僅かとはいえ心を乱した。蒼剣がギアを上げた。更に今度は梅泉だ。
どうやら『煽り上手』が何人かいらっしゃるようだが――
……とはいえ、事態は『雨垂れでは追いつかない』。もうひと押し、何かがあれば)
されど『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)の思考はこんな時だからこそ冷静に澄み渡る。
守る事に精一杯で、周りの声はよく聞こえない――
(でも、なんだろ。怪我してない所が、ぎゅって傷む……変なの。おかしいよね……)
それでも、『決死の優花』ルフラン・アントルメ(p3x006816)は『しなければならない事』を見失わなかった。
(死ねば……ううん、もし死んでも! あたしはもっと、もっと――強くなる。なれるんでしょ!?
だったら次、もっと守れるから! 他の皆を――きっと、きっと守れるから!)
触れてはならぬ神(あくま)にさえ祈りを捧げ、ルフランはただ一つだけを見据える。
闇の中を一筋照らすように、彼女が手を差し伸ばす先だけが明らかで――彼女はそうして何度も強くなる。
幾らでも仲間を癒やし、仲間を救わんと力を尽くす。
「詳しい事は僕にはさっぱり分からなイが……イノリ、君が心の底から望む事、『妹の為』に嘘はなイと思っていル……
でモ、混沌を滅ぼす事ガ、R.O.Oを壊すことが何かの救いになるとはどうしても思えなイ。それ以外の選択肢は本当に無いのかイ?」
『屋上の約束』アイ(p3x000277)が静かに問い掛けた。
「イノリさんの祈り……他人の為の願いは、世界を滅ぼすこと?」
「君達は少し勘違いしている。僕の願いは確かに滅ぼす事だが、少し違う。僕の願いは僕だけの願いだ。『他人の為』とは言えないな」
「私の故郷では『祈りは遠く、誰かの為に。願いは自分の為、胸に抱いて歩むもの』と言われていたから……
兄が『祈り』で妹が『懺悔』なのか……と思ってしまったのよ」
「実に感傷的な解釈だ」
死闘の中、『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)と『イノリ』のやり取りは幕間の如く短く揺蕩う。
そんな時間は長くはない。イレギュラーズの――【運命砕】のその動きは浮いた刹那にさえ連なっている。
「『友達』じゃねえか――トサカに来る言葉だぜ」
吐き捨てるように言った『炎竜』リュカ・ファブニル(p3x007268)の『赤』が炎のように揺らめいた。
「だけどな、そんなもん知った事か馬鹿野郎、だ!
俺は何も変わらねえ! 俺はアイツがつまらねえって顔して、あんなところに一人でいるのが気に食わねえんだ!
あいつが気兼ねなく世界を歩いて、命を育んで、並の人間と同じに死ぬ! そういう事が出来るようにしたいだけだ!
なぁ、『イノリ』お前がそれを笑うのか? 『それがそんなにおかしいか?』」
「若いっていうのは……全く」。
奇しくも言葉は重なっていた。リュカの咆哮にそう零したのは『イノリ』だけではない。もう一人――
「ハデスぅ! よくもプレイヤーバレを喰らわせてくれやがったなこんにゃろう!
後で覚えてろよ――言っておくが! 一念岩をも通す、諦めの悪さには自信があるぞ!」
『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)が『懲りずに』仕掛け、
「悪いが足がかりにさせて貰うぞ――」
「――悪くねぇよ。歓迎だ」
レオンを上手く囮にした『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)の大顎が『原罪』さえをも呑み喰らわんと破滅の一噛みを繰り出した。
「言葉が届いてない訳じゃなくて安心した。
でもま、それなりにやるって示さなきゃ聞く価値はないかな?
口だけの奴なんてお呼びじゃないだろうしね!」
『きうりキラー』すあま(p3x000271)がにっ、と笑う。
「でもわたし達も大概諦めが悪いし、反骨精神は売る程あるんだ。
それに世界が滅ぶかもなんでしょ? 閉店セールならこっちだって大盤振る舞いに決まってるでしょ!」
喰らいつくすあまを『イノリ』は力の限り叩きのめす。それでも即死を免れた彼女は瞬間的に起き上がり彼に一撃を突き刺した。
「言葉も攻撃も、例え君に届かなくたって――
でも、それでも届くまでやらなきゃ気が済まないんだからどうしようもない!
ざんげが、マザーが、変わる可能性があるなら退くなんて選択肢ないんだから仕方ない!
だからせめて、一発くらい――そろそろいいのを! 持っていけッ!!!」
裂帛の気合を吐き出した『青の罪火』Siki(p3x000229)の舞龍一刀が『イノリ』の影を袈裟懸けに切り裂いた。
「……よーく覚えておきなよ、君をひっぱたくまで、退く気も止める気もないってさ!」
ありとあらゆる尽力がここにある。戦術、粘り腰、駆け引き、決意に熱情、集中打、そして繰り返される不器用な差し合いまでも――
「……実際問題。これはなんて、贅沢だ」
ファンは思わず苦笑を禁じ得なかった。『誰もが、長く戦ってきても見なかったレベルで研ぎ澄まされている』。
『これで届かぬ等とは、無法極まりない。これで文句を言おうものならその者は罰の一つも受けるべきである』。
それでも賢明な彼は理解してしまう。結局は何処までいっても『決定打』が足りぬのだ。
名にしおう蒼剣赤犬のコンビを頼れても、あの悪夢のような人斬りを加えても――相手が『イノリ』である以上、足りていないのは明らかだったから。
『ここまで詰めてさえまだ五分以下だ。この戦況(Nightmare)は決してイレギュラーズの有利を示すものではない』。
「……っ……!」
「センセーッ!?」
爆発的な攻撃力に超絶の技量。
死牡丹梅泉は確かに特記の戦力だが、イレギュラーズが知る通り『彼はミスの許されない戦いにそう強くない』。
自身が圧倒的な力を誇るが故に大抵の相手なら『あら』も『波』も無かったかのように罷り通らんとするのだろうが相手が『イノリ』ならば話は別だ。
渾身の一撃を外され、大きな隙を晒した彼の首元に『イノリ』の匕首(さつい)が伸びている。
「……助かった。君は『一度だけ』だろう?」
NPCに過ぎぬ梅泉は倒れれば終わりの『使い切り』だ。
『イノリ』からすれば実に有り難いその話。この好機に彼は『全力』で全周に影槍を放っていた。
「戦いの中で死ぬ。武を求め、その道を歩む者ならば逃れえぬ定め――けれど私も、そして貴方も。望む先はきっとここではないでしょう?」
『待った』をかけたのはあくまでそれを防がんとしていた、その死を代わりに受けた小夜だった。
「――小夜さん!」
「……ああ、歩いて戻らなければいけないのに――」
悲鳴じみた声を上げた蒲公英の一方で小夜の調子は何処か胡乱だった。
或いは浅き夢に見た『死』は彼女にとっての甘美だったからやも知れぬ――
「……負けたら、承知しませんからねッ!」
やや理不尽な蒲公英の怒りを受けるも梅泉は「うむ」と頷きその眼光をより強くした。
「その娘『も』小夜と云うのか。『小夜』もまだ終わりではないのじゃろう? 主等はそういう者なのじゃろう?」
無言でコク、と頷いた蒲公英に梅泉は言葉を続けた。
「つくづく奇縁じゃ。じゃが、確かに『借りた』」
「センセー、行くよ!」
「――調子の狂う娘じゃな。無論、わしの流儀じゃ。これは、終わるまでに必ず返す」
桜と共に梅泉が今一度打ち掛かり、血蛭地獄の切っ先は『イノリ』の左腕を斬り飛ばす。
血の代わりに影が繋がり、腕をすぐに取り戻した『イノリ』は『あんまりな展開』に大仰に天を仰ぐ。
「――でも、まぁいいか。目的は『半分』果たした」
続け様に溢れた言葉は状況に対して余裕を帯びていた。
「……ああ、全く。この野郎……」
「レオンさん――」「レオン君!」「鈍りやがって」。
この一撃で狙われたのは梅泉だけではない。腹部を真っ赤に染めたレオンが崩れ落ちていた。
長く機能したその楔は笑みを浮かべた『イノリ』の思惑通り、遂に彼を解き放ったかのように見えたが――
「……おいおい……」
思わず漏らしたのは『イノリ』であった。
苦々しいその顔は『仕留めた側』の顔ではない。
「クリスト、もう肩入れはしない筈じゃなかったのかい?」
――アンナchangの方は兎も角ね。
こっちは肩入れ、でもないでしょ? ローレットchangからしてもこれは肌のひりつく背水なんだからさ?
嘯いたクリストの『作為』があったかは知れない。
「もしかして」。二者のやり取りに刹那の緊張が走った。
イレギュラーズは本能的に理解したのだ。
だから彼は前に出てはいけなかった。これはもうネクストや練達の存亡だけに留まらない話になったのだと。
『この戦いはローレットの先、ひいては神託の回避の為の絶対に負けられない戦いになったのだと』!
『風穴』付近、サクラメント――
「クソAI。人生で初めて選ばれたのがオマエってのは最悪の気分だぜ?」
――たった今『死んだ』レオンは皮肉な話に憮然とし、同時にその喜びを隠していない!
成否
失敗
状態異常
第2章 第4節
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
禁じ手解放、まさかの両面決戦と相成ります。
こちらはR.O.O版。レベル制限がありますが別の場所で途中で上がれば入れるようになります。
以下、シナリオ詳細。
●重要な備考
このラリーシナリオの期間は『時間切れ』になるまでです。
(時間切れとはマザーの『完全反転』を指します。そうなった場合、クリストはプレイヤーへの支援を中止しログイン状態は維持出来なくなります)
皆さんは本シナリオ(ないしは他のラリー決戦タイプシナリオ)に何度でも挑戦することが出来ます。
●作戦目標
『イノリ』の撃破。
『風穴』を通じてプレイヤーはラスト・ラストの最深部、イノリの『影の城』へ直接挑む事が出来ます。
※状況上『イノリ』に与えられるダメージが小さ過ぎる場合、彼は『影の城』から脱出する可能性があります。
又、当シナリオの結果状況如何により『<ダブルフォルト・エンバーミング>Are you Happy?』の展開に大きな変化が加わる可能性があります。二本のシナリオは極めて強い連動性を持っています。
●影の城
上下左右、足場も良く分からない暗黒空間。
そこには何も無いのに確かにある、奇妙な浮遊感を感じます。
物理法則的には非常に不安定に感じられるでしょうが足場や戦場としては問題は無いようです。
薄暗い雰囲気ですが目視等に大きな問題は生じません。
『風穴』を通じてプレイヤーが移動出来る空間で『イノリ』の本拠地。
混沌におけるラスト・ラストの最奥部に位置すると考えられますが、混沌側のものと同じかは分かりません。
戦場としては不便の無い全方位フリーの空間であり、誤魔化しは全く通用しないでしょう。
●敵
影の城には現時点で分かっている限り、少なくとも下記の敵性勢力が存在します。
・終焉獣(小型)
ネクストに出現した終焉獣を思わせる小型の個体です。
数が多く殺傷力に優れます。倒しても定期的に出現するのはMMOならではか。
小型と言えど相当に危険な存在である事は間違いないです。
・終焉獣(中型)
小型の個体とは異なり、全長数メートルから十メートル以上にも及ぶ個体。
様々な獣を掛け合わせたキマイラのような姿をしており、全距離と広範に危険な攻撃手段を持ちます。
数は然程ではありませんが明らかに強力な個体であり、一人で抑えるには相当な実力が必要でしょう。
倒しても定期的に出現するのはMMOならではか。こちらは少しリポップが遅いです。
・『イノリ』
R.O.Oのラスボスとも言える存在です。
IDEAが期せずしてコピーしてしまった世界の構造の一部。
『原罪』と呼ばれる全ての魔種の父、王でありざんげの兄に当たります。
能力等全て不明ですが、明らかにR.O.Oにおける最強でしょう。
R.O.O4.0の各地の攻略状況により権能(ちから)が低下するようです。
又、拘束時間経過後はダメージを与え続けないと『影の城』から脱出可能になるようです。(『影の城』は本来彼の本拠地で(侵入方法すら不明なので)最も安全な場所ですが、『風穴』で全世界と通じてしまっている為、『イノリ』からすれば『最悪』の場所であり、プレイヤーにとっては最も都合のいい戦場となっています)
・クリスト
通称Hades-EX。マザー(クラリス)の兄妹機であり、『未完の』チューニーの産み出した最高傑作(AI)の片割れ。
マザーと同等の情報処理性能を誇り、R.O.Oを好き放題に改変しています。
マザーの危機は『イノリ』のクリミナルオファーをクリストがコンピュータウィルスに変化させた『クリミナル・カクテル』です。
R.O.Oに実体はないようです。彼はこの戦いにおいては敵か味方かある意味で予想がつきません。
又、存在はしているでしょうが出て来るかどうかも神出鬼没になるでしょう。
●味方
練達首脳が助っ人として二人を緊急派遣しました。
・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(全盛期の姿)
中の人はレオン本人。
腰痛の無いギラギラ、イケイケの頃のレオンです。
実力はかなり高く視野が異様に広いです。パーティタイプでイレギュラーズを的確にサポートします。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
・ディルク・レイス・エッフェンベルグ(全盛期の姿)
中の人はディルク本人。
歩く山火事、オラオラの頃のディルクです。
恐るべき攻撃力と殲滅速度を誇りますが、ソロタイプで色々するのは余り得意ではありません。
或る程度勝手に動いてくれますが、PCの指示や要請も可能かつ合理的な範囲でこなします。上手く使いましょう。
『レオンとディルクはイレギュラーズではありませんがR.O.Oにおいてはサクラメントを使い復活が出来ます』。
実力こそ高くとも要人である彼等は普通ならば最前線に出れませんが、今回に限っては皆さんの力になれるという事です。
又、当シナリオでは『各国のNPC』が援軍に訪れる可能性が存在しています。
世界中の何処からでも『風穴』で駆けつける事が出来るので、NPC、本人NPC、関係者等の援軍が有り得ます。(各地の戦況が良い程確率は上がるでしょう)
NPCは全般に最低でも足は引っ張りません。上手く使って下さい。ただ彼等はNPCに過ぎないので、あくまで世界を救えるのはプレイヤーだけです!
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
本シナリオは進展により次々に別の状況に変化します。
以上、頑張って下さいませ!
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