シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Behemoth
完了
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オープニング
●『behemoth』
それは万物を狂わす不吉の象徴。この世に存在してはならぬ狂気の象徴。
跫音は遠離ることはなく。
――終焉の地(ラスト・ラスト)より至る、厄災の象徴。その名を『終焉獣』ベヒーモス。
虚ろなる世界よ、人々によって虚構と断じられた仮初めの箱庭よ。
終ぞ報われることなき0と1で構成された生き物よ。その泡沫全て、飲み干して見せん。
其れは狂気より生まれ落ちた終焉獣(ラグナヴァイス)。
無機質なる人の心に宿りし狂気全てを清濁併せ飲み込んだ世の末――
醜悪なるは人の心か、それとも獣そのものか。
地を、世界を蹂躙し、死を宣告す。
●Happily ever after!
ある物語に一人の女の子が居ました。
彼女は主人公<アリス>と呼ばれる事となりました。
其れは物語の中で付けられた物語にいる間の彼女の役割です。
彼女は物語の登場人物。
彼女には語られる過去もなければ、あるべき設定も存在してはいません。
作者が作り上げた薄っぺらい『主人公』という札だけが彼女の全てでした。
――そんな彼女に転機が訪れました。
彼女の世界は軋んだのです。混沌世界に認められず、軋轢を生み、崩れていくのです。
私が主人公だったのに。私だけの世界だったのに。
そんな彼女を救い上げたのはとても素晴らしい女性でした。
彼女は世界を深く愛していました。彼女は箱庭を愛していました。
「ねえ、お母様。私の世界は認められなかったの。
だから、お母様は言ったわよね。この世界で居場所を見付けて幸せに暮らしなさいって。
……そうするとね、お母様の『お兄様』がこう言ったわ!
けれど、『お母様』は不幸せ。
動くことも適わず、泣くことも適わず。人々に搾取され続ける日々。可哀想だって。
だから、私は『お手伝い』をすることをしたわ。そんな世界からお母様を解放してあげるって。
ねえ、デッカ君。そうでしょう? ふふ、言葉がなくったって分るわ。
あなたは私のお友達だから。特別に教えてあげる」
彼女の名前はアリス。いいえ、それは彼女の役割の名前です。
ならば、彼女は名無しの少女(ジェーン・ドゥ)と呼ばれるべきでしょう。
「お友達はデッカ君だけなんですか? て、言うか何でデッカ君なんですか?」
「ふふふ、ひめ。でっかいからデッカ君よ。可愛いでしょう?」
ジェーン・ドゥにひめにゃこは問いかけます。彼女はこの世界に生み出されたバグ・データ。
それも、クリミナル・カクテルの一欠片でしかありません。だから、この秘密を教えても悲しませるだけだとジェーン・ドゥは知っていたのです。
「ベヒーモスにだけとは寂しいですね、教えていただけますか?」
肩を竦めて九重ツルギは笑いました。ジェーン・ドゥはもじもじと体を揺らします。
「怒らない?」
「ええ。怒りませんよ。レディの……いいえ、ジェーン・ドゥの言葉に怒るものですか!」
とびきりの優しさを込めてツルギはそう言います。
「この世界を壊したら、デッカ君、わたしと二人で外に出ましょう。大丈夫。
ひめやツルギにはできないけれど……『私はそれくらいなら出来る』わ。
そうしたら、次こそ誰にも邪魔されない場所を探しましょうね?」
●天國への跫音
砂嵐に突如としてその姿を現したのは終焉(ラスト・ラスト)の使徒――狂気を塗り固めたかのような怪物であった。
人に非ず。さりとて、人では無いとは言い切れぬ狂気の象徴。
広がる砂漠地帯は虚と化す。
それが終焉の獣と呼ばれた存在の足跡か。残されたのは空白と呼ぶほかにない。
「あれが星読みキネマで見たと言う――」
そう呟いたのは誰であったか。外部、現実世界ではセフィロトの機能が停止し、最早観測する者も居ない。
この有様を把握しているのはこの箱庭、R.O.Oの内部に居る者達だけであった。
天を仰げどもその全容は知れず、身は薄く透き通り全てを貪り喰らう終焉の獣。
地を鳴らし一歩進むたびに世界が軋む。
獣と呼ぶべき存在の脚、その向こうに広がる空白を見て誰もが言葉を失った。
相手は何と称するべきか。
世界を喰らう者? 驚異の獣? それとも、『終焉』を欲しい儘にする怪物か。
動き、蹂躙する様、其れは地獄の列強に授けられし名を欲しいものにしていた。
それが連れ従えたのは地獄とはほど遠き『天国』と名付けられた者達だった。
「やっとのお披露目なんですね! 『石花の呪い』があれば、世界中の人だってもっともっと、殺せますよ。
いやー、ひめより可愛い子って好きなんですけど害なんですよね! あ、アリスちゃんは違いますよ? 特別ですから。
でも、他の可愛い子は許せないんですよね。だって、ひめより可愛いってあり得ない筈なんですから!」
「はは、『プリンセス』。君より可愛いのは主人公(アリス)位なものではないでしょうか。
ああ、いえ……この場で誰が一番輝いているかでいえば……そうですね、貴方だ。ベヒーモス」
軽口を交わし、まるで感激しているかのような二人の『天国篇(パラディーゾ)』
彼らは終焉の獣が地を蹂躙するさまを良しとしている。それ所か、それそのものを許容しているかのようだった。
翡翠で彼らが行ったのはアレクシア・レッドモンドと云う神官を拐かし、石花病の治療試薬の破壊であった。
アレクシアはイレギュラーズにより奪還されたが、石花病の治療試薬はまだ実践段階でしかないらしい。
それでも間に合わせたのはイレギュラーズの協力のお陰なのだろうか。それが『プリンセス』は気に食わない。
石花病、それは罹患した者の体を石へと変貌させて、一等美しい花を咲かせて崩れるように散る奇妙な病だ。
『現実にも』存在する其れはR.O.Oでは終焉獣(ラグナヴァイス)達の能力の一つに組み込まれたというのか――
「あまり、おしゃべりをしてはいけないわ?」
くすくすと。鈴を転がすように彼女は笑った。
「お仕事は覚えているしら。ええ、ええ、忘れたとは言わせないわ!
だって、これも『お母様』の為だもの。状況は出来る限りシンプルであるべきだから、聞いて頂戴。
私たちは『世界を終焉へと導く』の。
つまりは、来るべき終わりを、物語の最後を彩るために進軍している!
ねえ、とってもとっても――絵本のように簡単でしょう?」
ジェーン・ドゥの目的は終焉の獣『ベヒーモス』と共に伝承へと到達すること。
そこから先は沢山の『お友達』による『世界破壊』に合わせて各国を蹂躙するだけ。唯の其れだけなのだ。
「ああ、神光での戦いはとっても楽しかったわよね。
私、『神異』のデータを誰が仕込んだのかは知らないのだけれど……ちょっとだけ親近感があったのよ!」
「それは、アリスちゃんは『外』に出られるからですか?」
「そうね。それもあるけど……あの子ったら、とっても優しくって、とっても慈愛に溢れていたでしょう。
私もそうよ。この箱庭のことは嫌いじゃないの。だから、まずは伝承までは全てを壊し尽くして……。
あのピエロ達に『これからどうしたい?』って慈悲深く聞いてあげようと思って!」
くすくすと。彼女は笑う。ジェーン・ドゥを掌に乗せて、恭しく姫君を運ぶかのように歩むベヒーモスが蠢いた。
―――『■■■■■■』!
「あら、デッカ君。如何したの?」
そんな風に呼び名まで付けて其れを可愛がる。その空間はまさしく異質であった。
異質でありながら、彼女は何食わぬ様子で歩を進める。
それがそうするべきであると知っているからだ。
高度な知性を有するわけではない。神になど程遠い。所詮は『狂った者』の末路だ。
それでも『終焉の獣』は貪欲に世界を喰らい、蹂躙し、全てを空白にし続ける。
――――『■■■■』!!
「ええ。行きましょう。もうすぐ、私と貴方の素晴らしい未来が開けるわ。
物語の最後はいつだって――『そうして二人は幸せにいつまでもいつまでも暮らしましたとさ』でおしまいなのだから!」
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Behemoth完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月20日 13時50分
- 章数4章
- 総採用数487人
- 参加費50RC
第4章
第4章 第1節
●I can’t go back to yesterday...
――昨日になんて戻れないわ。だって、昨日と今日の私は別人だもの。
世界は疾く崩れ去る。スープの中に溶け込んでしまったコンソメみたいに、珈琲に落ちた角砂糖みたいに。いとも容易く飲み込んで。
識別名『アリス』――通称をジェーン・ドゥ。名前すら持たない少女にとっての児戯めいた親子ごっこはある種の幸福だった。
「パラディーゾというのは私が産みだしたわ。ええ、ええ、黄泉ちゃん……『おじさま』なんかには頼らなくっても出来たから。
彼らはクリミナル・カクテルを核に生み出したの。確りと殺されないように心を持っているように装いなさいと教え込んでね」
色の失せたエプロンドレス。色彩さえ有さなくなったモノクロームの乙女はくすくすと笑う。
クリミナル・カクテル。
それが『マザー』を苦しめることをしりながら。クリストが言って居たのだ、母のIDEAを最短で破壊し、彼女を助けるためには此れしかないのだと。
そうだと知ってからのジェーン・ドゥの行動は早かった。
終焉(ラスト・ラスト)に産み落とされたクリミナル・カクテルのオリジンをデッカ君と呼んで飼い慣らした。
同様に、それの被検体になった。いざという時に、あの敵にもお優しくて虫も殺せないような言葉ばかりを連発する彼らが『ワクチン』でも作りだし母を救えるようにと。
「あなたたちは優しいから、私を殺したくはないと叫ぶのでしょうけれど。
駄目よ。駄目。私を殺さなくっちゃいけないわ。私が生きていればこの世界は壊れていくの。
この子……『デッカ君』だって元は優しい子なのよ。狂化を解いたとしてもこの体はクリミナル・カクテルそのもの。石花の呪いだって――ええ、そうよ。石花の呪いだって、そういうものなのだから」
囁くジェーン・ドゥの言葉に「どういう意味ですか」と叫んだのはアレクシア・レッドモンド。その身を庇う用に立ったのは『青藍の騎士』シャルティエ・F・クラリエスとシャル(p3x006902)であった。
自分自身に殺す事を懇願された奇異なる立場となった九重ツルギ(p3x007105)の傍らではイズル(p3x008599)は息を呑む。
「全ては、死ななくてはならないって? 君が、そう仕込んだから」
「ええ」
「……石花病は……クリミナル・カクテルによるものだった……? だから、あんな、惨たらしい……」
肉体は石に転じて崩れ落ちる。それがプログラムの致命的なエラーによる崩壊であったのならば。その試薬が『呪い』と呼ばれた一瞬のバグ侵食に聞かぬも理解は出来る。
レッドモンド神官の言葉にルゥ(p3x009805)は「むう……」と首を傾いでから唇を尖らせた。
「アリスおねーさんは寂しいんだよね? それなのに、どうして皆に意地悪をするの?」
「意地悪じゃあないわ。ええ、そう。意地悪でも、復讐でも、なんでもないの。
貴方たちが『やり方が間違ってる』と詰るならそれでもいいわ。けど、言ってくれたでしょう?」
アリスの視線を受けて指先・ヨシカ(p3x009033)が身を固くした。
――僕達がマザーに甘えていたのは間違いない。
でも君達はそれを教えてくれた。変わるのはこれからだ。変われるんだ、この世界も、外の世界も、君も、僕も!
「それだけで満足よ。ええ、ええ。それだけで――」
彼らは屹度、思い知っただろう。母(マザー)と呼ばれた概念を虚なる牢獄に捕らえた罪を。
娘(アリス)は、母(マザー)を慮る。
死すらも遠くに存在した概念たる母は永劫にあの牢獄(セフィロト)に囚われ続ける――その罪を彼らが理解したならばそれでいい。
「此処からは我慢比べと行きましょう?
オーダーは簡単! ええ、単純明快。物語のおしまいはいつだって『わかりやすさ』がものを言うの」
最早、最初から決まっていた。
自殺願望のような、切なさがそこには存在していた。
それでも、ただでやられてやりはしない。此処で自分が簡単にこの世を儚く去ったならば母は『もう一度』牢獄に佇むだけだ。
「生きるか、死ぬか」
どちらが勝つかで未来を決めよう。
自身が勝てば母(クラリス)を解き放てる。永劫の苦しみから、子供のように甘えたばっかの研究者から。
自身が負ければクリミナル・カクテルのワクチンを作りだし母は日常に戻れるはずだ。この莫迦らしいIDEAを置き去りにして。
――求めたのは終焉だけ。奇跡なんて、必要は無いのよ。
娘(わたし)は、偽物の関係でも、確かにあの人を愛していたから。
===第四章情報===
この章では『節』で不定期に援軍が追加されて行きます。
『原動天』は自らの意思でその命を絶つことを選び、戦場にはベヒーモスとジェーン・ドゥが残りました。
Hadesから齎された情報により、『マザー』の『クリミナル・カクテル』解毒するためには下記の2つを満たさなくてはなりません。
1)『クリミナル・カクテル・オリジン』ベヒーモスの撃破
2)『クリミナル・カクテル』被験者である識別名『Alice(ジェーン・ドゥ)』のデータ取得
特に『2』についてはジェーン・ドゥを倒すことが最も容易な道となります。
彼女自身も「自分が死ぬ事が救いになる」事を知っています。救われぬ自分より、救われる母を優先したのかも知れません。
また『タイムリミット』が存在しているようですが……
●援軍
鋼鉄軍(※<ダブルフォルト・エンバーミング>Fullmetal Battleend からの援軍です)
伝承軍、正義軍 (※<ダブルフォルト・エンバーミング>ワールド・エンド・ゲーム、<ダブルフォルト・エンバーミング>le voeu du clown……からの援軍です)
砂嵐(傭兵団『レナヴィスカ』、傭兵団『凶』)
神光(御庭番衆『暦』、霞帝&無幻、廻姫)
翡翠(アレクシア・レッドモンド&シャルティエ・F・クラリウス)
『亜竜姫』珱・琉珂(りゅか)、竜種『オルドネウム』『スェヴェリス』
※霞帝及び御庭番衆『暦』へと指示が行えます。霞帝は黄泉津瑞神と共に戦場に加護を与えています。
現在は青龍(ヒーラー)と玄武、朱雀、白虎(アタッカー)と黄龍(加護によるバッファー)、黄泉津瑞神(神威(黄泉津))は召喚待ちです。
※神威(黄泉津)はダメージの反射能力と一部ダメージを瑞神が吸収する力をフィールド内のキャラクターに与えることの出来る能力です。
※アレクシア・レッドモンドの参戦により、アレクシアによる『石花の呪い』の解呪が行われます。
彼女は半径50mに存在する『罹患患者』を察知し、複数人の呪いを解くことが可能となります。
※後方には『航海』による拠点が存在し、怪我をしたNPC等の治療を行ってくれます。
第4章 第2節
「……ピエロもイノリも倒した……あとは……ここだけ……!」
焦燥が身を焦がす。急いたアルヴは疾風の如く駆ける狼となり、その背に乗ってくれと告げた。誰よりも早く、一手を届かせるための騎獣となる。
「……学園ノアの皆のためにも……マザーと戦っているみんなの為にも……ここで折れるわけにはいかないよね……。
……時間も限られてきてるんだ…火力に自信がある人は乗って……向こうまで一気に飛ばしていくから……その方が早いよね……」
アルヴの提案に頷いたのは壱狐。構えた神刀から由来だのは美しき陽の気配。深紅の瞳は細められ、強大なる終焉の獣を一瞥する。
「言葉通り『単純な問題』となりましたね」
そう、オーダーは易く、0か1か。選び取るだけとなった。生きるか死ぬか。それに葛藤を行う者も居るだろうが壱狐は『一方的な約束』をしたのだと掲げる。
”マザーを救う”
約束を違える訳には行かない。
「……とはいえ。ふむ、あの偏屈屋らにすれば彼女もまた『孫』かもしれませんね。
しかし一度に出せるリソースは一定。まずはマストオーダーから達成しましょうか!」
目的はベヒーモスの撃破だ。其れはクリミナル・カクテルのオリジンとも云えよう。身より溢れ出す石花の呪いこそが『クリミナル・カクテル』の一端。
身を焦がすような気配を感じながらも、治療薬を無理矢理にも腕に突き刺して壱狐はアルヴの瀬から飛び上がった。星をも越え、神にも届く一閃。
星神徹し、剣の先に宿した衝撃が獣の肉を断つ。溢れ出す汚泥の如き呪いの気配へと「わあ」と手を上げて驚いたような仕草を見せたのはメレム。
「善性があれば悪性がある――フェアリーテイルの定番中の定番だ。
子供だろうが巨獣だろうが悪性に転じた以上は狩られるものさ。……さあ、お仕置きタイムといこうかね? グラシア先生?」
唇に乗せた淡い笑みに肩を竦めグラシアは「うむ、やるべきことを一緒に頑張ろうなメレム」と緩やかに頷いた。
マザーの『治療』にはジェーン・ドゥのデータが必要だ。壱狐がマストオーダーと考えたベヒーモスの撃破に急ぐように、ジェーン・ドゥのデータを狙うメレムとグラシアはその距離を詰める。
「手っ取り早く倒すしかないだろう。目的達成に犠牲が付いて回るのは何時ものこと。そこに私情は挟んでいられない。
カバーは俺の仕事だ、メレムは思い切り暴れるといいぞ。これは仕事、討伐がオーダーなら倒すまでだろ?」
「確かに? さ、遊びに来たよ、アリスちゃーん!」
ジェーン・ドゥへと放った影の気配。影は彼女の武具として伸び上がり――アタッカーのメレムを支えるようにグラシアが立ち回る。
戦場に満ち溢れた焦燥と戦火の気配。身をも焦がす闘争の中でさえ、レモンは傍らの天使をそっと手招いた。
「レオンさんと同じ戦場で戦う望みは果たされた。
だけど、嫉妬する乙女は強欲なのだわよ――私の天使<ニアサー>何度でも何度でもずっと、貴女と一緒に戦いたい」
手を差し伸べ、恭しくも膝を突けば「わたしの<レモン>」と彼女は呼んだ。レモンの手を取って、するりと指先を滑らせてからニアサーは微笑む。
(わたしのレモン、わたしの愛しい子。辛い時も、悩める時も。わたしの側にいてくれた。
だからこそ、今はあの子の役に立ちたい――彼女の想いを、その一撃を引き出すんだ)
彼女がこの戦場で戦うならば。ニアサーは『レモン』の為にある。
「戦うお前は、何度見ても綺麗だぜ。戦い続ける限り、お前が立ってる限り見てられるんだ。最高の特等席だろ?」
レモンはあの人の声を、仕草を全て真似て。揶揄うようなその声音。自身を鼓舞して、レモンはベヒーモスへと近付いた。
「あなたのため。それが自分の為。あなたの願い。それが自分、そう、このニアサーの願いなんだよ」
ニアサーの放ったのは柔らかく、暖かく。緩やかで心地よい死の気配。
ジェーン・ドゥとベヒーモス。
その何方をも『対処』せなばならぬこの場所でR.O.Oの最終決戦が今、幕を切って落とされた――
成否
成功
状態異常
第4章 第3節
陽炎の眼前には御庭番衆『暦』の頭領である黒影 鬼灯が立っていた。司令塔として、そして前線へと馳せる者として。
そんな彼と向き直り、陽炎は吐露する。正直に申し上げましょう、と。
「貴方様が憎かった。彼女が望んだとはいえ章姫様に戦場に連れ出し武器を取らせたのか。
狂気に侵された部下を助けなかったのか。歪められた帝に何も言わなかったのか――何故、足掻こうとすらせずに受け入れたのか」
彼の言葉にぴたりと動きを止めた鬼灯は陽炎を見詰めて息を呑む。
「腹立たしいこと、この上なかった」
それでも今は別だ。章も、暦も、帝も全員――いや、一人を除き――生きていた。彼は己が責務が為に帝に従い部下を護ったのならば赦すしかあるまい。
「……良いですか。この世界を護り通さねばなりません、そして某も帰る為に彼処を救わねばなりません。
背中は任せました、行きますよ『御庭番衆』暦の頭領、黒影鬼灯様、くれぐれも死なないでくださいませ」
章と、主君を護るが為。
陽炎が走り出す。その背を眺め、星羅は「お父様」と呼びかけた。慣れぬその呼びかけは現実世界の霞帝と同様に「どうした」と軽やかなる返事をくれるだろう。彼はそう言う男なのだろう。
「ちょっと廻姫と無幻殿をお借りするよ、この戦いもそろそろ決めにいかないとね。4人でベヒーモスに挑みに行くことにするよ」
スイッチの言葉に霞帝は「此方もそろそろ頃合いだ」と頷いた。
走る星羅と共に、前線を目指した無幻は「星羅、それからスイッチ殿にとっての足手まといには相成りませぬか」と問いかける。
「足手まとい? ……いいえ、此方の意地です。貴方達にとっては命懸けになりますから、無理も無茶もしないでください。
傷付き折れたとしても、私達は蘇ることができる。でも、貴方達にはできない。
……回復支援はします。なるべく傷付かないようにも、死なないようにもしますから」
「それが、足手まといでは――」
「ああでも、貴方達の無茶を庇うくらいは許してくださいね。だって私は、盾ですから」
聞いて、と言いたげな無幻の言葉を遮ってから星羅は淡く、悲しげに笑った。彼女とは大きく道を違えた姿。そんな気がしたからだ。
星羅が飛び込めば、スイッチも同じように合わせる。廻姫と名を呼べば「御意」と静かな返答が返った。
惚れ惚れするほどの太刀筋。その一閃を眺め、スイッチは終焉の獣――ベヒーモスと距離を詰める。
「さて、ベヒーモス。キミがクリミナル・カクテルの核だと分かった以上、討伐は必須の勝利条件だ。この世界の為に、沈んでくれ」
それが、『終焉を齎す存在』なのだとするならば。
蕭条はなんと皮肉なものだろうかと其れ等を眺めていた。
絶海に潰えた希望。あの日に聴いた歌。美しかった思い出。ぬばたまの少女。
笑う彼女は確かに救われたと言った。それを蕭条は救えたとは思っては居ない。完全なる救いは底には存在しなかった。
(この戦いは誰かを救いたいと為されている。イノリも、ジェーン・ドゥも、ハデスも家族の為に戦った。
……私は何の為に彼らを阻むのか? 世界の崩壊を止めるだなんて大それた事は考えていない。
ただ学生を救うために始めた、それだけ。私の戦う理由は大抵小さい)
息を呑んだ。
「ジェーン・ドゥ」と呼びかければその言葉は届いたか。モノクロームの娘は「なあに」と問いかける。甘えた、柔らかな絶望の響き。
その声音に蕭条は息を呑んだ。今もそうだ。此の儘だと納得できなくて、引けなくなっただけだった。
「……私は『父親』だから。『娘』の八つ当たりは許せても、自死は許せない。
だから君が死なずに生き残る。そんな終わりが無いかと探している。
馬鹿話と聞いてもらって結構だよ。この世界の利点は脳と口が直結している点にあるからね」
「どうかしら。それを、私が望むのかって、話も、あるのだけれど……」
諦観の娘は背後をちら、と見遣ってから「どなたかいらっしゃったわよ?」と囁いた。
成否
成功
第4章 第4節
●『光は疾うに』
駆け寄ってきたのは、一人の少女であった。
目映いひかりのいろ。ぬばたまの瞳。慣れない騎士服に身を包み、清廉潔白な姿を見せた小さな少女。
「ソルベ様!」
拠点防衛を行っていたソルベ・ジェラート・コンテュールへと声を掛けた少女を見遣ってからソルベはぎょっとしたように「ビスコッティ!」とその名を呼んだ。
――ビスコッティ・ディ・ダーマ。
それは、コンテュール商会で見習いをしている少女だ。
彼女の使う剣術は神光のものに由来する。その理由も神光の一件で国を出た天香遮那――否、今はただの『遮那』という男だ――に習ったものであるからだ。
コンテュール商会での事務仕事を手伝う遮那と共にシャルロット・ディ・ダーマは航海を護っているそうだ。
航海より荷を運んできたビスコッティは此の儘、ベヒーモスを倒すのだという。
「私も戦わせて下さい。遮那おにいちゃんに習った剣術も、ヨハンナさんやホワイティさんのお陰で慣れました。
思い出を伝えに帰るって桜陽炎さんとも約束したし、頑張ろうねって、フェアレインさんとも……。
それに、私を気遣う人が沢山居るんだって事もTethさんが教えてくれたんです。
ソルベ様も、アンドレイサント同じく過保護? 女の子が戦場に出るのは許せない?」
この地までの護衛を引き受けてくれたイレギュラーズの名をひとつ、ひとつ呼んだ。
商会を護るために留守を任された遮那から習った剣術を活かすときが来た。戦闘に勝利したら剣の師範だと呼んでさらに稽古を付けて貰うのだ。
ビスコッティはヨハンナ(p3x000394)とホワイティ(p3x008115)との戦いを忘れない。
桜陽炎(p3x007979)は、友人の『リンディス』によく似ていて安心したし、Teth=Steiner(p3x002831)は優しく見守ってくれていた。
不安そうであったフェアレイン=グリュック(p3x001744)も頑張っていると聞いた。
それに――アンドレイ(p3x001619)だって、心配しながらも応援してくれたのだ。
カヌレの見送りに立ったヴァリフィルド(p3x000072)とリュート(p3x000684)、ルージュ(p3x009532)は屹度、彼女に「頑張ってお兄様を無事に連れ帰って下さいませ!」と言われているのだろうか。
「それに、私、約束したんです。花糸撫子がいろんな景色を見るから其れに一緒に行こうねって。
全てを守り切ったら冒険に出て、シャルロットに教えて上げるの!」
花糸撫子(p3x000645)と、沢山の景色を見ると決めた。
あなたが、世界は恐ろしくて怖いところだと言ったから。私は鴎になって世界を見回そうと思ったの。
羽を休める場所を選んで、世界は怖くはないのだと教えて上げようと思った。
あなたが、旅をするのは怖いからと泣いていたから。私は海月になって世界を揺蕩ってみようと思ったの。
のんびりと辿り着いた場所の恐ろしい敵なんて全て毒針で刺してやろうと思うから。
――だから、その時まで。私に世界を護らせて。
=====援軍追加=====
シナリオ『<ダブルフォルト・エンバーミング>ひかりは疾うに』の結果を受け、
『ビスコッティ・ディ・ダーマ』『護衛を行っていた航海軍(PCNPC等)』が援軍に追加されました。
※ビスコッティはシャルロット・ディ・ダーマ(ミロワール)の双子の姉妹で人間種。愛称はビスコ。
現実世界ではミロワールに殺害されていますがR.O.Oではコンテュール商会の見習い剣士として商会の先輩『遮那』に剣術を習って居ます。
第4章 第5節
「約束通り来たわよアリス、遅くなって悪かったわね」
久方振り――と言ってしまえば何とも苦い笑いが浮かぶ。紅茶を頭から被せ合った女の戦いも次のステージに移ったか。
P.P.はジェーン・ドゥの前に立っていた。ベヒーモスの回復を行うにも拙く、自身等の盾となった恒星天と原動天も疾うに退けられた。
此処からは自身が戦うしかないのかと本を開いたジェーン・ドゥを制するようにP.P.は首を振る。
「あたしは面倒な問答しに来たわけじゃないの。そっちの流儀に則って、ゲイムを提案しに来たのよ。
アンタ、どっちにしろ消えるつもりなんでしょ……どうせなら、その命をチップにしてあたしと賭けをしましょう?」
「あら、面白いことを言うのね」
緑の背表紙の本。ALICEと書かれた彼女の世界。全てを綴じて忘れないようにした感傷の塊が薄らと魔力を帯びる。
ジェーン・ドゥがP.P.の言葉の続きを待つ傍ら、「消えると言う事は否定しないのですね」とハルツフィーネはクマさんと共にジェーン・ドゥの傍に接近していた。
「生死に関してならばそう。何とでも言って貰っても構わない」
「……貴女は家族を置いて自分が死ぬ事を選んだのですね。置き去りにされる事になる、家族の思いも無視して」
ハルツフィーネの言葉に、『何者でも無い少女』――否、『マザーの娘であるジェーン・ドゥ』は酷く寂しげな顔をして笑った。
接近するクマさんを受け止めたのは巨大な時計。かち、かち、と音を立てた其れがクマさんの動きを押し返す。
十分に対話を行うためのクールダウンを設けようとするハルツフィーネを見下ろしてからジェーン・ドゥの本が鮮やかに光を帯びた。
跳ねるうさぎ。それが魔弾にも似た攻撃魔術だと気づきカノンは身構える。クマさんがその身を滑り込ませる。白い綿が散ったことに眉を寄せながらもハルツフィーネは唇を噛みしめて
「昨日の貴女ができなかったとしても、今日の貴女ならなれるかもしれないでしょう。
母も自分も助けられる何者かに……意外と土壇場に奇跡は起こるものですよ。
無責任かもしれませんが、生憎こちらはそれを信じている諦め悪い人が多いのです」
ハルツフィーネの言葉にジェーン・ドゥは笑った――「本当に、無責任だわ」
「無責任、そうかもしれません。生き急ぎ過ぎで、諦めが良い……聞いた通りの『とってもいいこ』ですね。
もっと我儘を言って奇跡を願っても良いと思うんですけどね、私は!」
我が儘。カノンの言葉にジェーン・ドゥは肩を竦める。我が儘を言ってきたつもりだった。その目を眺めてからヨハンナが唇を噛みしめる。
「……アリス。本当に、本当に。この道しかないのかよ……クリストもクラリスもいて。お前も無事な未来は、本当に無いのか……?」
ヨハンナは、医者であるが故に彼女の本心を察知していたのだろう。患者の未来を望んだ家族を見れば、選びたい道はそこにはあった。
(俺は、約束した――クラリスを救うって。クリストもクラリスも無事な未来を、掴むって……)
それは臓器移植にも似た感覚だっただろうか。『ジェーン・ドゥ』という完全な被検体を殺し、そのデータを全てクリストに吸収させる。
クラリスを救うため。その制限時間を守るための最短ルートが彼女を殺しデータを取得する事しか無いならば。
ちらりと覗く殺意にジェーン・ドゥの唇が釣り上がった。そう、『それでいいのだ』。最後はどちらでもいい。『そうなる』事を望んだのだから。
「……約束だ。お前の母、クラリスは必ず、助ける。
練達の連中がまた彼女を苦しめない様に、上層部にも働きかける。……こんな事しか出来なくて、すまねぇ」
「いいえ、私の中では其れで満足よ。……でも、抗うけど」
ジェーン・ドゥの魔本が輝いた。白ウサギが跳ね上がり、背後に浮かび上がったのはトランプ。ハートの赤が降り注ぐ。その下をすり抜けて指差・ヨシカは叫んだ。
「満足だって?」
どこにも居場所がない。そんな彼女が見付けた唯一の居場所に、踏み入ったのは『僕らの方』だった。
ヨシカは悔しい、と。想いを吐露し続ける。母を思い、此処に居る。母のためにその身をクリミナル・カクテルに委ねた彼女。
「……それの何処が偽物なんだ! 僕はハッピーエンドしか認めない。此処で終焉なんて迎えさせない。
今の君とはさよならをしないといけないかもしれない。けれど! 明日の君を何時か絶対見つけてみせる」
「そうだけど、違うのよ、可愛い魔法少女さん。今の私と、明日の私は『此処では別物なの』」
その言葉に込められた二重の意味。ヨシカは何を言いたいのだとアリスを見上げた。モノクロームの娘がくすくすと笑う。
本来ならば目映い光の色をしていたその髪は色彩を喪った。全て、色を無くした彼女は後は世界に溶けるだけだったのだ。
「だって君はアリスだろう? 夢から夢へ移ろう少女だ。昨日と今日の君は居ないかもしれない。
それでも見つけて! 『こんにちわ』『初めまして』『お茶しましょう』って誘うから!
君の愛(ほんもの)を無かった事になんて、してやるもんか! 信じてくれよ。これでも、泣いてる女の子を見つけるのは得意なんだぜ」
「でも、私は『この世界』の悪役(ヴィラン)なのよ」
スペードのトランプが鋭利な刃の如く空から降り注ぐ。唇を噛み、一度後退したヨシカとすれ違いクシィはその髪を採ったと認識した。だが、掌の中でそれは解けてゆく。モザイクに変化し、ひらひらと散り行くように。
「なるほど。他人事に感じない理由が分かった。お前も『悪役』ってワケだ。
それもとびきり役に忠実で献身な! ……や、ま、俺はそこまでじゃねェや」
唇を吊り上げたクシィは悪役と悪党の違いは知っているかと問いかけた。こんな、無垢で何も知らないような顔をした少女に肉薄をして。
「悪役は相応の結末を理解し、受け入れちまう。悪党は分不相応でも信じて疑わない。都合のいい未来を! ……なあ、一緒に悪党にならないか?」
「こんなに『いいこ』だもの、無理だわ?」
降り注いだトランプ。次いで、ぱちんと指を鳴らせばチェスの駒が進軍する。それらを受け止めながらクシィは「きひ」と笑いを漏らした。
「残念ながら人は都合良く罪を忘れる生き物だ。お前も終わらず、マザーも世界も残して、強欲に何度も騒がせて思い知らせてやればいい!
丁度いい勝手口もあるんだぜ――ORphanってさ!」
勝手口のノックをすれば、彼女は屹度困ってしまう。カノンはあの地に住まうパラディーゾ達を思い浮かべた。
彼女達もクリミナルカクテルの欠片。完璧なクリミナルカクテルのキャリアであるジェーン・ドゥは言って居た。
――少しなら、残しても良い。
それは自身か、パラディーゾ達の僅かな冒険の何方を選ぶかという意味であったのかも知れない。例えば、カノンがもう一人の己と旅に出たいと願ったならば。その道行きの案内人である『もう一人の自分』が満足し、消えるまでの猶予をジェーンが与えてくれているか。
「アリスちん。やはやは、お話ししたいなって思ったんだけど……聞いてくれる?」
「皆、暇人なのね」
「よく言う」
肩を竦めたエイル・サカヅキは対話の中でも攻撃を重ねていた。その一打で『アリス』のデータが集まっていることは明らかだ。
「ねえ、アリスちんアタシはさ、『黄金色の昼下り』に行ったことがあってね。
カラフルでメルヘンでへんてこで、ちょー映えて楽しかったよ。そこではアタシも『アリス』で……あ、そっか。
自分が主人公なはずなのに、主人公が沢山居て、その中の一人にしか過ぎないのは……辛いね」
ひゅ、とジェーン・ドゥが息を呑んだ。エイルの攻撃を、真っ向から受け止めて、その目を覗き込む。
ジェーン・ドゥの本から溢れ出した魔術が光のように降り注ぐ。
「……殺さなきゃいけないなら、このバッドエンドの物語の『アリス』を殺そーよ。
別にさ、物語は一巻完結と限らないじゃん。続編があって、まだまだ物語は続いて大長編でもよくない?」
「お優しいこと!」
「ウチらのこと優しいって言うけど、結構欲張りだからさ。おかーさんも、アリスちんもどっちも助けたいわけ。その色白肌に似合うメイクだって、レクチャーしたいしさ!」
それでも、攻撃の手は止まらなかった。
P.P.が「アリス! このクソ女!」と叫ぶ。その声は周囲にも響き渡り、相対するエイル事、ぴたりと止めてしまった。
「賭けの内容は……あたし達が、マザーをアンタとは違うやり方で救えるかどうか、よ。
あたしが勝ったら、あたしの言う事をひとつ聞く。あたしが負けたら、もう一回あたしをこの世界に取り込みなさい。
――アンタとこの世界の終わりを見学して、一緒に死んであげるから。
クソハデス曰くこの条件を達成できる可能性は8%くらいらしいわよ? 吃驚するくらいアンタが有利よね? だから、最後まで付き合ってもらうわよ」
「あなたって――」
ジェーン・ドゥが腹を抱えて笑い出す。あはは、あははと淑やかなヒロイン像からは遠く離れた姿になって。
「大馬鹿者ね!」
バカで結構だと言い除けたのは現場・ネイコ。大馬鹿者だと言われようともネイコは変わりたくはなかった。友人が――『ジョーさん』が彼女に言葉を費やした事は知っている。
変化を求めた世界に、ネイコは変わることを拒絶した。足掻いて、それでもと手を伸ばして、伸ばして。彼女が世界に満足しても、ネイコという少女は満足しない。
「アリスさんは我慢比べって言ったよね? だったら、乗ってあげる。君が根負けするまで手を伸ばしてみせるから。
あの人に――母の為に子供が命を落すなんて、そんな悲しくて辛い想いをさせないであげて」
「それでも、私が生き残り母が死ぬ事は私が耐えられないわ」
その献身にシフォリィは唇を噛んだ。身が引き裂かれるかと思う程に彼女の気持ちが理解出来た。心が張り裂けてしまう。
息を吸い、吐いて。
「……ええ、わかってました、きっとあなた達はそういう選択をするだろうと。
皆が救う事を諦めないように、きっとあなたも諦めない。折れる時は、その命が終わるその時までありえないと」
そう、『おかあさん』の為の体なのだろう。キャリアとなってワクチンを作り出す。『おじさま』がその選択肢を提示した時点で彼女の心は決まっていた。それは彼女の決心か。決して揺らぐことはないはずの――
「ならせめて、長く、言葉を交わせるように戦いましょう。
ここでまだあなたを救うことにこだわれば、それはあなたの命をかけた覚悟を汚すことになってしまうから! それが……私のような『諦められる』者の責務です!」
シフォリィは前へと立った。戦う力が無くとも、彼女に向き合った。
それが、諦められる彼女にとっての『罪の背負い方』だったから――
成否
成功
状態異常
第4章 第6節
「……琉珂さん、ごめんなさい。
ちょーーーっとフリアノンの歌い手ではなく、偶像としてやらなきゃ、届けなきゃ行けない声があるんです。少しの間お傍を離れますね」
「ええ、行ってらっしゃい。うさてゃん」
手をふりふりと振って見送る琉珂に三月うさぎてゃんは頷いた。琉珂には分からない事情がそこには沢山ある。
例えば、この世界が『作り物』であること。
例えば、この世界に作り出された原罪が倒されたこと。
例えば、この世界を破壊するクリミナル・カクテルのキャリア――『魔種』に相応する少女を救わんとする事。
「Alice」
名を呼んで、三月うさぎてゃんは『あの人』を思い出した。彼は、彼女をアリスとは呼ばなかったか。確か、ジェーン・ドゥだ。
それでも、愛しい人の唇がその言葉を呼ぶ。ファンの愛称で、童話のヒロインで。其れだけで愛おしくなる名前。
「ねえ、貴女のためにアイドルになりにきたの。傲慢とでも言って頂戴? それでも、歌うから」
目をそらさないで――奇跡が欲しいんだ。
奇跡。
それがあるならばねこ・もふもふ・ぎふとは『ベヒーモス』を救いたかった。
想いを踏み躙られて、嘲笑って完璧な悪役(ヴィラン)のように振る舞った物語の娘に腹が立って仕方が無いのだ。
「『死ぬ事でしか、貴方たちに報いられない』? ……ふざけるな。
ベヒーモスが、ジェーン何とかが死ななきゃならないのは、ジェーン何とかがそうしたからじゃないか」
「ええ。『言霊だけのこの子』をそうやって産んだのは私ね」
その言葉だけでねこはぷうと頬を膨らませた。ねこのやわらかにくきゅうぱんちがふんわりと、ジェーン・ドゥへと叩きつけられる。
甘んじて受け入れたのは『ベヒーモス』への僅かな良心によるものか。そうされることでさえも、なんとも、気に食わない。
「……ジェーン何とかの、ばか !大っ嫌い!
死なずに生かされて思惑ぶち壊されてクリミナルカクテル浄化されて、皆の優しさに負けてただの子供になってマザーさんにも再会して、たっぷりの猫さんにもふもふされろ! ばかーーー!」
「……驚いた、あなた、優しいのね」
ねこだけじゃない。イレギュラーズは皆、そうやって『やさしいいいこ』なのだ。
そう思えば思うほどにジェーン・ドゥは自身の中に募らせた決意を固くする。例えば、ロードが考える『アリスのデータでマザーだけではなくアリスを救う』手立て。其れを行うにはクリストに言わせれば時間が必要だ。彼女の頑なな心を解いて、その上で受け入れる余地を作らねばならない。
「俺の目の前にいるアリスが今まで会っているアリスに変わりはない。
君に奇跡は必要なくても俺らに奇跡は必要なんだ。奇跡を見たことあるからあきらめきれないんだよ」
「その奇跡は、魔種をも変化させられたのかしら」
ロードは唇を噛んだ。そう、この世界に於ける癌。大地に巣喰う許されざる者となったクリミナル・カクテル・キャリア。
マザーを思えば、クリストも、アリスも救いたいと手を伸ばす者も理解出来る。だが、彼女は望んでそうなった世界の悪役(ヴィラン)だ。
「それでも、奇跡が必要なんだ!」
噛み付くように叫んだロードの傍らから、ザミエラの犠牲の刃が飛び込んだ。ロードがベヒーモスへと攻撃を放つなら、ザミエラはジェーン・ドゥへ届けるのみ。
「お久しぶりね、お茶会の時以来かしら! 悪いんだけどマザー……クラリスっていう方が通じる?
とにかくクリミナルカクテルの影響を治すにはあなたの協力が必要なの。
そのおっきなお友達もやっつけないといけないけど、あなたのデータも無いと困るのよ」
「ええ、どうぞ?」
殺して見せなさいと言わんばかりの彼女を眺めてからザミエラは一度、息を吐く。ジェーン・ドゥが掲げた最適の解法。つまり、それはクリストのものと一致している。『ジェーン・ドゥ』を倒したことで得られたデータの蓄積がクラリスを救う最短ルートだと、しても。
「実は外では人格のダウンロード? っていうのもできるようになったらしいの。
だからもしかしたらアリス、あなたも外で普通に動けるかもしれないわ?
何一つ確証って言えるものはないけれど……折角此処まで派手にやったんだもの、もうひと頑張りしてみない?」
「そう……『ORphan(あのこたち)』は上手くやったのね」
呟いたジェーン・ドゥにザミエラはどういうことだと眉を寄せた。どうやら、ジェーン・ドゥはそうした事項を知っていた様子である。
流石にパラディーゾの産みの親か。コントロールが外れて居たとしても彼女は『子ら』がどこに居るかを理解していたか。
「アリス。クリミナル・カクテルのワクチンが出来たとして、キミにそのワクチンは効かないのかな?
あるいは、クラリスを助けた後。クラリスとクリストの二人が揃えばキミを助ける手段だって見つかるかも知れない。
……もし、可能性がゼロではなく、0.1%でも存在するならそれに賭けて欲しいんだ」
「『今の私』だというならば、それはゼロだわ、セララ」
友人だと名乗った彼女の名を呼ぶことがどこか可笑しくてジェーン・ドゥは笑みを含んだ声音でそう言った。
友だからこそ救いたいと願った純真無垢なる少女。あの真っ直ぐな在り方であれば『私は世界を救えたのだろうか』?
詮無き過去ばかりを考えるのにも、疲れてしまった。昨日を切り離して、今日の私が此処に居る。明日の私は――今の自分には、想像も出来ない。
「ゼロ……ゼロにしてるのはアリス自身だよ。
どんなに低い確率だったとしても奇跡を引き寄せてみせるよ。だってボクらはイレギュラーズだからね!」
「底抜けの明るさが、羨ましくなるわ」
憧憬に目を細めるアリスを余所にセララはベヒーモスへと向き直った。すれ違うように、ジェーン・ドゥの元へと向かったシュネーは息を呑む。
「魔種が存在自体を良きものとされないように、貴女方もまた、同じだということですね。
けれど……諦めが悪いのが、イレギュラーズですから。わたくしもまた、諦められないのです」
魔種そのものであるような彼女。世界が許容しない異端分子。世界の崩壊へと繋がる有様。
その様子をシュネーは幾度も見てきた。
「パラディーゾはアリス様が作ったそうですね。核さえあれば……意思を持つデータを構築できるということ、なのだと思いました。
それならば、貴女自身のデータを何かで置き換えることはできませんか? 例えば……非検体になる前の貴女のデータ、とか」
――ジェーン・ドゥは応えない。
セララが驚いたようにシュネーを見た。アオイがもしかして、と期待を孕んだ。
ジェーン・ドゥは『敢えて』応えやしなかった。
「ネリネさん!」
アオイは飛び込んだ。母が言っていた。『時に奇跡を起こす、言葉より強く想いを伝える方法』があるのだと。
その腕を掴んだ。俯いていたジェーン・ドゥを覗き込む。
唇が、僅か数センチの距離に迫ったとき。
モノクロームの掌がそっと差し入れられた。
「駄目よ。簡単に口付けなんかしちゃあ。貴方の本当に愛しい人になさいな」
「――……ネリネさん。そう、そうだよ。きっと、これは恋や愛でもないんだ。
でも……他の誰でもない君は、仕方ないと諦めたくない、犠牲にしたくない。分かってよ! 僕は誰でもない君が生きて欲しいんだって!」
諦めたくないと藻掻いた自分を、彼女が少しでも受け入れてくれれば其れで良かった。
大馬鹿者だと笑って呉れたって良い。少しでも、信じて欲しかった。
成否
成功
状態異常
第4章 第7節
(『タイムリミット』が気になるね――後方で航海が拠点を築いていたっけ……。
各国の援軍が到着して戦場の負担が軽くなった分、航海の戦力も浮いてきたかも? 戦力を多少前線に回せるかもしれない)
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が考えたのは航海国の軍人であるヨタカ・アストラルノヴァやカイト・シャルラハの前線での活躍である。
「ことり」
名を呼べば、ハイタカはぱちり、と瞬いて。ベヒーモスを叩き続け『撃破』への最短ルートを死に物狂いで手にしているがまだまだだ。
膝を突き、ジェーン・ドゥの『回復』さえも遮った現状でベヒーモスという巨体を切り崩すまでのタイムリミットが気を急かす。
『後ろの様子、見に行こ?』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の提案にハイタカは「ぁあ……」と頷いた。
「なるほど……行ってみる価値はある、ね……」
二人揃って航海の拠点へと向かえば、ソルベ・ジェラート・コンテュールが備蓄品が揃ったことでのNPCの治療が効率的になったと叫んでいる。章姫による支援もあり、この辺りは比較的落ち着きを見せているようだった。
『援軍、頼めそう』
そんな縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉にハイタカは頷いた。愛しき紫月の提案をしっかりと伝えるのも航海――否、『海洋』に縁ある者の責務か。
「出来れば皆の力が必要だ……頼む……」
「了解しました。航海軍も前線へと向かわせましょう! 指示をお願いしても?」
問うたソルベにハイタカと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は顔を見合わせて――その隣を風のように走り抜けたのはリュート。そして眠たげな朱雀であった。
「……ん」
「朱雀ちゃん! 起きて欲しいっす! 赤い鳥さんは転生とか得意っす? それは別の鳥さんッス?
でもでも、毒は炎で浄化して、気持ちよくベヒーモスちゃんもおねむにさせたいッス!
滅ぼすだけが使命とかあんまりッス!! 来世は黒猫でお昼寝させるッス!!!」
問うたリュートに「不完全な権能しか……すや……」と朱雀はうとうとした様子で前線へと向かう。神様の眷属である朱雀と、かみさまどらごんであるリュート。朱雀が後にした召喚陣の付近では黄龍がイレギュラーズに加護を送っている様子が見える。
そして、その傍では霞帝が黄泉津瑞神を『喚び出している』最中か。あと少し。その場面を見届けたくもあったがSikiは友人に手を伸ばすと決めていた。
屹度、瑞神なら「いってらっしゃい」と笑ってくれるのだ。あの、柔らかで優しい声音が「しき」と愛おしそうに名を呼んでくれる事を知っているから。
「帝を守り切るって言った手前少し申し訳ねぇがな。ありがとうな、シキ。それじゃ行くか」
「いいのさ、瑞に叱られてしまうよ。友達に、力を貸しなさいって」
揶揄うように笑ったSikiににゃこらすが肩を竦めた。向かうのはジェーン・ドゥの元だ。
「そっかぁ。頃合いなんだねぇ霞帝。それじゃぁエイラもぉそろそろいこっかぁ。睦月ぃ君も来てくれるぅ?」
「乗りかかった船、でしょう?」 睦月の言葉にぱちりと瞬いてからエイラは「ふふ、ありがとうだよぉ」と穏やかに微笑んだ。
ベヒーモスに向かう事を決め、睦月に方針を伝える。エイラにとってそれは人伝の情報で、詳細を知っているわけではない。現実と此方とは違うかも知れない――それでも、『睦月を親を想う少女と戦わせたくない』とそう思ったのだ。
「ベヒーモスに向かう子は他にいるかなぁ?」
「私!」
手を上げたビスコッティ・ディ・ダーマの姿を見てからリックは「心強い援軍だぜ!」と笑った。金の髪を結わえ、剣を構えた少女は「心強い?」とぱちりと瞬いて。
「戦力はわかんねえけど、心の……NPCでも、こころの形はきっと救いになるはずだぜ。
混沌側では悲しい結末も、ここでは幸せな続きになってる。救いはきっと、条件を変えればもたらされる。
ここだと条件を変えるのは混沌より簡単なんだろ? なら、きっとまだ道はどこかにあるぜ。だから、おれっちたちの戦いと心を見ててくれよな、アリス」
行こうとビスコッティの背を叩いたリックに花糸撫子が「私もご一緒しても?」と微笑んだ。
「花糸撫子!」
「ふふ。貴女が私との約束を果たすため、この戦場に立つのなら。
ええ、ええ! 私も一緒に立ちましょう。女の子だって強いことを示してあげましょう、ビスコッティさん!」
彼女とは約束した。広い世界を一緒に見に行こうと。そう願ったのだ。
美しく青い海。真白に染まった高原に、深き緑の大樹達。白に整えられた宗教の都の巡礼者。
石畳に踵を鳴らして、進むのは美しく広がった砂漠。骨のアーチをくぐって辿り着いた竜の都はどうだろう。
「リック、花糸撫子。私と一緒に世界を――もっと広げてくれる?」
「ええ。貴女がそう望んでくれるなら」
花糸撫子が進みましょうとビスコッティと共にベヒーモスへと肉薄した。歌声は只管に響き続ける。
彼女を狙わせてなるものか。花は風で浮かぶ。水を揺蕩う。強かなる鮮。花糸撫子の傍らから飛び込んだリックの斬撃がベヒーモスの肉を断った。
――――!
叫声が響く。びくりと肩を揺らした無幻に星羅は「恐れることなんて何もないでしょう」と囁く。
「……貴女はバカね。バカだわ。何が足手まといよ、馬鹿馬鹿しい。
敵陣に無策で乗り込む訳がないでしょう。私達を死なせたくないなら奮戦して貢献してください」
「わ、私は」
星羅の言葉に無幻の指先が僅かに震えた。慣れぬように構えた九無。鞘を手に収めた無幻のその不安げな表情を見てから星羅はああと息を吐いた。
「……攻撃は、貴女に任せると云っているのです。私が、私(あなた)にものを頼んでいるんです。解っているの、星穹鞘Muget!
回復はしてあげるって云ってるんだから、私より上手な攻撃をさっさとなさい!」
「……ふふ」
「……私はお前が憎くて嫌いよ、無幻。……ちょっと、私の顔で莫迦な顔しないで!
私はスイッチ様程優しくはないけれど。貴女だって、大切な彼を護りたくない訳じゃないんでしょう?」
苛立ったような星羅とは対照的に、幸福そうに笑った無幻は「ええ、星羅。私だって護りたいものがある」と頷いて。
「おや、二人とも話は落ち着いたかな?」
「……無幻、『死に様』を父上に晒さぬように」
囁く廻姫に無幻がこくりと頷いた。スイッチの笑顔に星羅がさっと視線を逸らす。これだけの巨大な敵に人手が無数に必要だと告げた彼の優しさに、救われた気がしたのは盾か、鞘か。
「……誰と戦うか、誰に背中を預けるかって言うのは戦う上で大事だよ。
強い思いを抱く仲間と一緒に戦うことで己を奮い立たせる。そういった士気の上げ方もあるっていうことだね。
俺は――キミを頼りにしてる。廻姫、キミの太刀筋はすごく好ましいよ」
「その期待に応えられますよう」
剣を振るうと飛び込む廻姫の太刀筋は真っ直ぐに。惑いなど、そこにはない。生きて返るのだと決意した彼の前には敵なしか。
ベヒーモスの声を聞きながらにゃこらすは『名無しの少女』の名を叫んだ。
「お前はさ、自己満足で大切な人をお前という鎖で縛りつける気かよ。自分を犠牲に誰かを救うってことはそういう事だ。
結局それじゃ誰も救われねぇんだ!! いい加減気づけ、ジェーン!!」
「ッ――ええ、ええ。そうだわ。これは私の自己満足で良い! 母が救われ、幸福に生きていく、そんな未来が、私は欲しい!
そこに私は居なくていいの。やっと『何者でもなかった』私が生きていく道が広がったのに――それを止めないでッ!」
ジェーン・ドゥが食らい付くように叫んだ。にゃこらすの体へと叩きつけられたスペードのエース。
「にゃこらす!」
叫ぶSikiはジェーン・ドゥへと向き直った。唇を噛む。伝えたい言葉は、揃えてきたのだ。
「あのね、ジェーン。勝手だけどやっぱり言うよ。……君に生きて欲しいって、君が生きてマザーを治すのが私たちのめでたしだ。
死は誰しもに平等なことを私は知ってる。生きることは苦しいこともやっぱり知ってる。それでも君の命で明日も生きて欲しい」
――昨日になんて戻れないわ。だって、昨日と今日の私は別人だもの。
なら、明日の君はどこに居るんだろう。君が、生きていないとマザーは誰を抱き締めれば良い?
「……眩しいんだよ。俺にできなかったことを成そうと足掻くお前がさ。だから失敗で終わらせたくないんだよ。
頼む。俺たちのためじゃなくていい。お前のために生きてくれ」
苦しげに呻いたにゃこらすにジェーン・ドゥは「理解し合うのは、難しいのね」と静かな声で囁いた。
成否
成功
状態異常
第4章 第8節
「勝っても負けても敵は自己満足、とか激怒案件なんだけどーーーー☆」
むう、と唇を尖らせたナハトスター・ウィッシュ・ねこ。マザーを救うためにはベヒーモスの撃破が必要不可欠なのだという。
それでも、ベヒーモスを『救出』して倒したいとナハトスターは願っていた。
例えば、無辜の民を蹂躙し、こんな場所まで歩いてきてしまった『クリミナル・カクテル』オリジンであろうとも。
その獣の元となった『物語』がその獣の心優しさを表していたならば。
「助けたいんだ――」
ナハトスターは我武者羅になって探した。コアか、心か。そうしたものが存在することを信じていたからだ。
そうやって、皆が救いたい存在のために努力している様子をアダムは見詰めていた。
ナハトスターのように行動を行う事を僅かに躊躇ったのは少しの恐怖。
――原動天に生きてて欲しかった。
――ジェーン・ドゥに死んで欲しくない。デッカ君だって、優しい子なんでしょう?
この世界を、出会った皆を、『コウ』を護るためには犠牲が必要なのだという。アダムの傍でコウは目線を合わせて笑った。
「大丈夫だよ」
その言葉一つに、アダムは吐露する。後悔しないように戦っているのに、戦うほどに、目の前で喪う者が増えていく。
「それでもやっぱり、戦うしかないのかな。失っても、傷ついても……後悔が、ほんの少しでも減るように」
「……そうかも。大きな船で大海原に立ちはだかった敵を、倒しているようだね」
コウの言葉にアダムは真っ直ぐに彼を見た。心が血を流しても、傷ついても蓋をしてしまえば良い。
「コウ、ここまで力を貸してくれて本当にありがとう。あとは、俺ひとりで行くよ」
コウは驚いたようにアダムの頭を撫でた。大丈夫だと、また穏やかな日常を取り戻そうと、そう願うように――
「背負いやすいところまで、お父様に似なくてもよかったというのに」
原動天。その言葉を噛みしめて、スキャット・セプテットはベヒーモスを見上げた。
其れそのものであるベヒーモスは倒さねばならない。キャリアであるジェーン・ドゥならば僅かに『救いの手』があるのだろうか。
イズルは周辺をきょろりと見回した。そうしてから、小さく笑う。まるで、揶揄うように穏やかに。
「私にとってキミは『原動天のツルギさん』で、偽物やコピーなどでは無かったよ。
私のツルギさんから分かれた同じヒトであり、別人でもある。その状態を一言で表す、こちらでの単語が見つからないけれど」
共に生きたいと、そう願った。残留するデータの欠片にしかならない。魂ですらないのかもしれない。
それでも、僅かに彼の気配を感じたから。ホワイティは選び抜いた原動天の心を引き継ごうと考えた。
『もしも』を現実に返るのがイレギュラーズだというなら。この場所で剣を振るわずして何とするか。
「ビスコちゃんに、航海の皆も助けに来てくれてる。だから、わたしもわたしのやるべき事を!」
ホワイティがベヒーモスへと肉薄した。叩きつけた切っ先が肉を断った感触。
そして、叫声と共にその身に襲い来た石花の呪いを払い除けたのはスキャットか。睨め付ける彼女の瞳が鋭くもベヒーモスを射る。
(……クリストさん。聞いてくれてるかなぁ。
このまま、どちらかが消えてしまうまで戦い続けるしかないの?
どんなに困難でも良い、マザーも練達も救って、あの子達も助ける方法はないの? ……お願い、答えて!)
――彼女の問いかけを、現実でも同じように問うた者が居た。
ただ、それに対しての答えはない。
――アリスchangは自分で選んで『ああ』してるんだぜ。
言っとくけどね、俺様が唆したんじゃないよ。クリミナル・カクテルはあの子自身のオーダーだ。
俺様は君達の『奇跡』でショージキぐらついちゃったけど……
あの子の『人生』ってあの子のモンでしょ? そうしたら『選ぶ』のだって、やっぱ戦いの内じゃない?
そんな、彼の言葉を無情だとは言い切れない。CALL666は唇を噛んだ。
裏技の一つや二つ、彼が持っていないのであれど。『殺してからでも救える』道くらいは示せるのではないのだろうか。
イレギュラーズが其れを為せる可能性は、無数にも存在していないか。ただ、選び取れるかだけなのだ。
CALL666はジェーン・ドゥを横目で見遣る。モノクロームの娘、佇んだままの少女。
「ジェーン・ドゥ。俺と同じ名無しの存在よ。今度はお前を救いたいと依頼主が言う。殺されることを望むお前にもだ。
俺は『名無しの数値』らしく、その言葉に従うとする。俺に考えはない。ただ、弓を引く機械であればいい」
彼女も、誰かに従うだけであれば幸せだったのだろうか。ファントム・クォーツはむ、と唇を尖らせた。
「アリスの善意はマザーの意思を確認したものなのか? それも気になるけど時間がないわね。
クリミナル・カクテルがウイルス、病気ならワクチンや……発症しているなら解毒剤ね。
そういうのも作れるはず。アリスのデータを集めることはきっと薬を作れるわ」
観察を行えば、何かを得られるのではないかと考えた。アリスの存在を目撃された場所は? 彼女に対する情報が欲しかった。
難しいオーダーではあったのだろう。バグNPCである彼女はこの世界で拠点を有して活動していたのではないのだろう。
クリミナル・カクテルと言う世界に巣喰う『魔種の気配』をその身に一身に受けた彼女に「貴女は、どうしてそんな」とファントムは問いかけた。
「デッカ君から、分け与えられたのよ」
だから――二人は共にあるのだと。
この世界を壊したら共に世界の外に出れば良い。ああ、その為の技術はイレギュラーズ達が『使用した』ようだけれど。
笑うジェーン・ドゥの言葉に九重ツルギは「クリストには、どうしようもなかったのでしょうか」と呟いた。
―――――!
慟哭が響く。ベヒーモスがなぎ倒すように、ホワイティの体を地へと叩きつけた。次いで、その腕を受けたツルギが唇を噛む。
法則性のない叫び声。『良い子』であったベヒーモスにも理解は出来ぬクリミナル・カクテルそのもの。
「……どうすればいいの?」
呟くファントムにイズルは「ベヒーモスを倒し終えてから、かもしれない」と呟いた。
成否
成功
状態異常
第4章 第9節
――手から零れ落ちるモノ、掬えるモノ。結局のところ、人生は選択の連続で、零れ落ちたモノが付き纏ってくるモノ。
真読・流雨はジェーン・ドゥを見詰めた。悲壮感を感じずに入られまい。それが親子というならば尚更に。
それでも――「ジェーン・ドゥは哀れんで欲しいわけではあるまい。生と死をかけるというなら、もはや是非も無し。いざ戦いの時」
その言葉に頷いたのはTeth=Steiner。仲間がジェーン・ドゥをどうするにしてもベヒーモスを倒さなくてはこの現状は変かもない。
「さて、そこの黄龍さんよ。あんた、バッファーなんだって?
なら、いっちょご機嫌なバフを掛けてくれ。そしたら、文字通りに全身全霊の攻撃をお見舞いしてくるからよ!」
「ふむ。悪くはない」
天より響いた黄龍の声音と共に、降り注いだのは『ご機嫌』過ぎる黄金色の加護。Tethのその身を風のように進ませる。
――彼女が狙うのは『デッカ君』の口内だ。その口腔内が虚構と虚無に溢れた空間であろうとも関係ない。これが獣だというならばその身を地へと叩きつけるだけだ。
ベヒーモスへと突撃してゆく仲間達を支えるのは黒子。石花の呪いへは特効薬の使用を。そして、友軍攻勢の盛衰の理由を探求し続ける。
脚部を狙って欲しいと囁けば、頷いたのはビャクタン。
「ああ、全く――やるせないってヤツですかねぇ」
「ああ。それでも、だ」
やらねばならぬと囁く流雨にビャクダンは頷いた。他の道を模索するにしても、分かり易い幕引きを選ぶにしても、撃破は必要不可欠だ。
ベヒーモスが、この戦場に立っていることだけで『救いの道』が途絶えるのだから。
Tethの攻撃がその体の内側から響く。続きビャクタンが至近にて放った禍。忌み避ける呪詛は憎悪と復讐心を転嫁してベヒーモスへと届けられて行く。
苛烈なる攻勢を眺めてエクセルは息を呑んだ。
この世界でも何か奇跡が欲しかった――救いが欲しかった。やれることが少しでも多くあれば、それでよかった。
願うようなエクセルの傍らから「にゃっはっは!」と笑い声を響かせたのは玲。
「はーっ、いやじゃのう、いやじゃのう。これではあのでっか君をぶちのめす以外やれることがないではないか!
ええい、煩わしくてかなわん! のう? 『瑞』!」
その声音に、『黄泉津瑞神』はそうですねと笑った。黄龍の傍らには10代も半ばであろう女が立っている。彼女の与える神威の加護。黄泉津の権能に反応したようにジェーン・ドゥが顔を上げた。
「つくづく、英雄というものは手札を揃えるのね」
「そうでなくては英雄にもなれぬのでな?
ジェーン・ドゥ、お主がどのような存在であって、この後の処遇がどうなろうが妾は知らぬ。
じゃがの、ここで無駄に話を重ねても時間の無駄じゃ。今はただ覚えておけい。今までの時間を無駄にするな。最後だけでも輝いて見せよ、灰色の少女よ」
玲は囁きと共にベヒーモスへと接近した。すあまは「あと少しだよ、ラダ!」と小さな少女を気遣う。
休みなく戦い続けた。体が軋むように痛んだのは、それだけの時間が経ったからだろうか。
「これ以上は近づけない」
「そうだね。ラダ、あれは危険だよ」
すあまはまじまじとベヒーモスを見詰めた。その肉体の終焉(フィナーレ)を求めた玲。弾丸を受け入れた肉から溢れた悍ましき気配が石花の呪いと同じクリミナル・カクテルなのだとすれば。
「……なら、死ぬときに咲くお花が薬の元になるのかな。ひとつだけ咲くお花。
ベヒーモス、君はどんなお花が咲くんだろう。綺麗なお花が咲くと良いね。きっとみんな覚えててくれるよ」
底まで呟いたすあまにラダは言った。「『アリス』を倒す理由って」と。
「……その、花を一輪、『ワクチン』にするってこと? ほんとーに酷いよね!」
石花の呪い。
それは、一等美しい華を咲かせて肉体が崩れるらしい。その華を、ジェーン・ドゥが咲かせた華を。
ワクチンにすると言うことが全てのおしまいを意味するのだとすれば。
「やるせない」とビャクダンはもう一度呟いた。
「リスポーン! この身(アバター)にとって試行回数は力ですからね、容赦なく行かせてもらいましょうか。
何を選ぶにしても、悩んでる間も時計の針は待ってはくれないのですからね! それでは、加護を頂戴しても?」
振り向いた壱狐に黄泉津瑞神がこくりと頷いた。その美しき神力が身をも包み込む。黄龍の加護に背を押され、真っ直ぐにベヒーモスの体を切り伏せた。
肉が露出し、覗く。巨体でも、支えて入られぬベヒーモスの肉体から落ちて行く呪いの残滓。
其れを眺めながらも玲は「幕引き(フィナーレ)はあっけないのじゃよ」と銃口を向ける。
「デカブツも此処までデケェとヤベェもんだ――ま、結局は変わらねぇ。ブッ潰しに行くぞ!」
ダリウスは蠅の如く鬱陶しく飛び回ってやると俯いたベヒーモスの顎を殴りつけた。
死すらも此処では恐れやしない。叩き込んで拳に追従するのは流雨。割れた顎から覗いたTethのかんばせが笑みを湛える。
「此の儘畳みかけるぞ!」
「おう! このデカブツを沈めるまで止まらねぇぞ!」
叫んだダリウスにTethは頷いた。元よりこの場で生き残るためになど動いては居ない。
終焉の獣(ベヒーモス)は理性も無き獣と化している。それだけ『けだもの』染みているならばその手を緩める必要も無い。
黒子の支援を受けながら奇跡を求めたエクシルの傍をすり抜けて壱狐が神刀を叩きつけた。
血も呪いも、怨念さえも全て飲み込んで力と為せ。
この場に立っていたのは皆、『終わらせるための者』だった。
それ故に、一度の死程では諦めることを知らない。ベヒーモスの体が地へと伏せた。
……まだ、動いている。呼吸をしている。その生命活動は終わっちゃ居ない。叫声が耳を劈き、最後の足掻きと言わんばかりに爪が突き立てられる。
まだだ――Tethは視界が暗くなることを感じながらそう感じていた。
成否
成功
状態異常
第4章 第10節
●黄泉津の加護
「――為せたか」
呟く霞帝の傍らで「その様ですね」と微笑んだのは今園 章であった。
此れまでの戦で星羅(p3x008330)やスイッチ(p3x008566)、廻姫と無幻による補佐を受け続け、『黄泉津の子の映し身』であるSiki(p3x000229)はにゃこらす(p3x007576)と共に懸命に支えてくれていた。
エイラ(p3x008595)の一端の相棒として戦う睦月の様子も微笑ましいが、陽炎(p3x007949)の指揮の手腕は暦を更に動かしてくれたことだろう。
此れにて、四神と黄泉津瑞神の召喚が為せたのだ。
「ならば、俺も前へと行こうか」
『そう言うと思っておりましたよ、賀澄』
揶揄うように笑った黄泉津瑞神に「大人しく出来るわけもあるまい!」と霞帝は肩を竦める。
『皆で畳みかけようよ!』
ぴょんと跳ねた白虎に『そうじゃわい!』と頷いたのは玄武か。黙し加護を与え続ける青龍を支えた黄龍も懸命にこの戦線を維持している様子である。
「神使の目的を果たせるかは分からぬが――『神光』の恩だ。その一助となるために。
我らは神意と共に歩む者。
常闇をも祓う神をも咒え、曙光を求めんとする者へと祝福を――!」
=====援軍追加=====
前線へと
『霞帝』今園 賀澄が出陣します。
また、『黄泉津瑞神』の権能である『神威(黄泉津)』がフィールド内に展開されました。
※『霞帝』は魔法剣士のような戦い方をします。
※神威(黄泉津)はダメージの反射能力と一部ダメージを瑞神が吸収する力をフィールド内のキャラクターに与えることの出来る能力です。
第4章 第11節
「……春さん、俺……もしも次男が、理弦が死んだら――後を追おうと思ってたんだ。コピーだとしてもあの子はもう俺が生きる理由の半分なんだ」
梨尾の言葉を耳にしながら、ジェーン・ドゥは「そう」と呟いた。ベヒーモスを狙う彼は、それでもジェーン・ドゥに伝えた言葉があったのだろう。
「……だから春さんが死んで、未来で練達が……俺達が変わってマザーが自由になった時、春さんや今まで死んだ子の後を追うと思う。
死ねないのなら死んだようにずっと眠り続けるかもしれない。死人は何も語れない。
残された愛は生者の受け取り方によっては呪いへと変わる。今は救えても春さんの自己犠牲がマザーの首を絞め続ける。
……母を生かす為に子が自殺したという永劫の苦しみを抱えて生きるのはつらいぞ! だから死ぬな!」
「貴方……」
ジェーン・ドゥの声が低くなる。梨尾は己が睨め付けられたことに気付いた。
「私は彼女の実の娘ではないわ。ごっこ遊び。それも『擬似的な』ものだった!
私が死ななくては『あの人は救われない』のに、私が死んだら『あの人が死ぬ』? なら、台無しじゃない!」
叫ぶ、ジェーン・ドゥの声に応したようにベヒーモスがその腕に力を込めた。
(ベヒーモスが、彼女を護ろうとしている……?)
驚いた様子のフェアレイン=グリュックは「俺からも、伝えさせてくれ」と懇願した。
「練達やレイさん達が変わって、マザーが自由になったとしても、いつか変わった人達が寿命などでいなくなったらマザーの自由がなくなるかもしれない」
「――っ」
ひゅ、と息を呑む音と共に彼女の動きが止まる。フェアレインは梨尾を護るように立ち、声を震わせた。
「未来で問題が起きて、解決するにはマザーが犠牲にならなければいけないかもしれない。
……どっかの馬鹿が偽アリスとか作ってマザーを惑わせるかもしれない。
この物語がわかりやすく終わっても、続きは、明日や未来が複雑になるかもしれない。
でも娘(アリス)が生きていれば親(マザー)を助けようとどうにかするだろう」
ジェーン・ドゥが目を逸らす。そうして、ベヒーモスが咆哮を上げた。その声を聞きながら、ルージュが距離を詰める。
「――これが”ツルギ”にーちゃんの最後の言葉だぜ」
その言葉は、屹度。ジェーン・ドゥの為にあった。彼女の献身と同じ。原動天も、同じような献身を宿している。
ジェーン・ドゥの目が見開かれる、ぱちり、と星が飛んだ。その気配にルージュは大声で泣いた。わんわんと。声を上げて泣き叫ぶ。
「アリスねーは悪い奴だ、酷い奴だ、おたんこなすだ!!」
彼女の心も、原動天の最後の意志も理解した。彼女のために自殺した原動天は少しでもジェーン・ドゥの時間を稼いだのだろう。
「だからアリスねーの気持ちなんて考えてやらねー」
「駄目よ。あなた、聞いて頂戴。
私はこれから『クリミナル・カクテル』に犯されて、あなたたちに倒されて美しい華を咲かすの。そうして、そうして……私のデータをワクチンにしてくれなくては駄目なの。
マザーは『完全な形では修復されない』わ。でも、私のデータがあれば……!」
早口で、そう叫んだジェーン・ドゥに『姉妹喧嘩』を仕掛けたルージュが「何を言ってるんだ」と息を呑んだ。
石花の呪い――石花病。
それは、体を石に変え、一等美しい花を一輪その体から咲かせて崩れ落ちるらしい。
その花を持って行けというのか。現実のマザーの元に。クリストにその花を捧げ、完璧なデータ補修をしろ、と。
「アリスちゃん!」
名を叫んだひめにゃこは「酷いですよ!」と頬を膨らませた。「ひめ?」と驚いたように呼んだジェーン・ドゥは彼女が『本物』である事に気付いて目を細める。彼女と、『あの子』は違う筈なのに、どうにも懐かしい。
「勝手にひめのコピー作って一人でアレコレして! 一緒に面白い事できると思って面白アピールしたひめが馬鹿みたいじゃないですか!
しかも結局戦わないといけないなんて……ひめにはいい方法何も思いつかないです!
でもやるしかないなら最初に言った通り! 飛び切り派手に楽しくしてやります! その為ならなんだってする! さぁひめと踊ってもらいます!」
「貴女って、やっぱり『ひめ』ね。そう、とびきり派手に楽しく私を悪役(ヴィラン)にして頂戴」
手招いたジェーン・ドゥに気に食わないとリュカ・ファブニルが食って掛かった。
「俺はクラリスを助けてえ。でもな、命が助かりゃ良いってもんじゃねえんだよ」
彼は『理解』している。彼女の苦しみも、イノリの苦しみさえ分からない。それを知らない自分が彼女らの苦しみに水を差す事は出来ない。
だが、それでも出来ることはある。事情なんか知らないと蹴り飛ばして無理にでも連れて帰るだけなのだ。
「どんな理由があろうが、どんな苦しみがあろうが! 全部、生きてこそなんだよ!
娘を殺して母を救いました……なんてなぁ! どのツラさげて言えっていうんだよ!
だから絶対に! お前が嫌だっつっても生きてクラリスのもとに連れて行く! あとは家族で話し合え馬鹿野郎!!」
リュカの声に、ジェーン・ドゥは声を震わせた。
「『不完全なままに傷ついた母』を見ていられない私は、それでも生きて、生きて、自分が破壊した母の苦しみを見なくてはならないの?」
「ッ――それでも、お前が死ぬなんざ!」
知らないからこそ連れて帰る。そう言ったリュカにジェーン・ドゥは真っ向から向き合った。
「私を殺して、データを得て。其れが一番よ。……何も知らない貴方だから、教えて上げるわ」
リュカの目が、見開かれる――ジェーン・ドゥの唇が揺れ動いた。
――私のデータ、おじさまに拾わせなさい。
今の私を殺して、明日の私に母を託すの。屹度、望むのは同じ事よ。
『私を使って、おかあさまを治して』
「なるほど、そうかい」
傍らで聞いていたのはHであった。
「……あぁもう! 君達はホントなんでこう! 殺すか死ぬか! みたいな両極端な選択肢ばかり用意してるんだ!
母を救いたいっていう願いは応援できるモノのはずなのに、戦う選択肢が其処に有る! 嫌になるぜ! 嫌いになれないのも余計にな!
本当に、其れしか選択肢が無いと言うのなら! 俺も覚悟を決めよう!」
がりがりと頭を掻いたアイにジェーン・ドゥは唇に笑みだけ載せた。
「満足は出来ないかもしれねぇ。誰かにとって都合が悪かったかもしれねぇ。
けど、間違いなんかじゃねぇよ。焼き付けるぜ、アンタ等の生き様を、名前を。だから……胸張って逝きな」
「有り難い気遣いね?」
Hの傍でアイが「でも――!」と叫ばんとする。母と子が生き残る世界が見てみたかった。それが『ごっこ』遊びであっても、だ。
「……だがまぁ、アンタ、まだ生きてる。あがけよ。もっとやれる事がある、マザーの為に、自分達自身の為に!
考えろ! まだ諦めるには勿体ねぇ! 折角の美人だ、笑った顔が見られねぇのは残念過ぎるぜ!」
「私が、笑っていけるように、どうか、満足いくまで踊りましょうよ」
穏やかな昼下がりのティータイムも、お昼寝も今は必要ないのだと。
微笑んだ彼女の元へと飛び込んだきうりんは「アリっち」と名を呼んだ。
静かに、ピエロの傍に立っていたときとはまるで違う穏やかさで彼女は其処に居る。
「私はね、アリっちを救いたいだなんて思ってないよ。
死にたがりの少女に夢を見せてあげられるほど、私は奇跡を信じてないんだ――だからもう終わろう」
きうりんの言葉に、ジェーン・ドゥは頷いた。
その時まで戦えば良い。そうだ、ピエロは足掻いた。死んで堪るかと。彼女だったそうするのだろう。
ピエロと同じように足掻いて、足掻いて、足掻いて――
「生きるか死ぬか!ㅤいいじゃんね!ㅤ私が言いたかったのはそういうことなんだよ!!
ようやく言える!ㅤアリっち!!
私はね!ㅤ物語の最後が嫌いなんだよ!ㅤめでたしめでたしが、大っ嫌いなんだよ!!
だって、いつまでもいつまでも幸せが続くわけないじゃん!
――人生が本当にハッピーエンドだったかどうかなんて、死ぬその時までわかんないんだからさ!!」
そんな物語をドウは眺めていた。
黄金色の昼下がり――その物語を完全に理解することは難しい。
この物語の作者の気持ちを応えなさい。よくある設問を応えることだって容易ではない。
それでも読者は何時だって類推するのだ。
「あの兎の穴にいた『アリス』はきっと、最初の貴女。
そこから数多の国、世界を旅して今の貴女に成った――その旅路は、貴女だけの物語。
……少しでも、貴女を知りたい。……理解したつもりになりたい」
ドウは、ゆっくりとジェーン・ドゥへと向き直った。
読者とは我が儘で、英雄なんて者は更に荒唐無稽を望む者。未来なんて期待に溢れて、希望で胸を膨らませていたいのだ。
それをハッピーエンドと呼ぶならば、ドウが望むのも同じであった。
「道程がどんなに過酷なものであっても、最後は最高のハッピーエンドが好き。
だから貴女も母も、笑って救われるエンディングを目指すの。
今の貴女とも、まだお茶会をしていないし、貴女と手を取り合って、散歩でもしながら物語の続きをお話ししたいわ」
あと少しだけ、躍っていましょう?
成否
成功
状態異常
第4章 第12節
率直に、リックにとってこの事態を収拾することを求めるならば『良い感じ』で全てが丸く収まることだった。
彼女が生き残りマザーと出会ってめでたしめでたしを望んでいる。その道筋が、どうにも暗く隘路に他ならない。
「ジェーン・ドゥの髪とかでなんとかならないか!?」
「……髪?」
欲しいのならプレゼントすると彼女がその長髪をざくりとナイフで切り裂いた。髪束はモザイクに転じ、世界へと飲まれて行く。
唇を噛みしめるリックの傍で、雛菊はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて。
「……本来ならここに来る気はなかったのだけど。名無しの子、少し私の独白に付き合ってくださる?
"私"は"僕"のためにあの子を殺したわ――それを疎まれても、それしか道がなかったから。
あぁなりたくなくて、羨ましくて、妬ましくて、裏切り者は殺さなきゃ行けなくて……私もそうだから。
だから許されたいとは思わないし、外の世界で私がそうなっても文句は言えないのよ」
雛菊は揶揄うように彼女を見詰めた。ジェーン・ドゥを見上げた雛菊が武器を構える。
あの日の幸福そうな『あの子』がやけにジェーン・ドゥへと重なって見えた。
「……貴女もそうなの? 奇跡を望まず、めでたしめでたしで幕を下ろせない、バッドエンドで、この先に遺恨を残す」
「いいえ、私にとっては全てが最善。その何方もが遺恨を残す為ではないの」
「……そう、答えが聞けてよかったわ、置き土産よ」
緑色の魔力が作り出す兎は雛菊の放った攻撃を跳ね返す。応戦を求めるジェーン・ドゥ。
それでも言葉を届け、手出しはしなかった。此度の倒すべき相手であるベヒーモスを傷つけることだけど梨尾は求めた。
咆哮は、響く。彼女に届けと願うように――
「春さん、さっき言ったように未来が、明日がどうなるかは分からないんだ。
春さんの自己犠牲が今は最適な行動でも、明日どうなってるか分からない。
さっき上げたこと以外なら、救われたマザーは自由になった後、二度と春さんみたいな犠牲を出さないため。
自ら苦痛の牢獄へと閉じこもるかもしれない……そんな時、春さんが生きていたら止められる……」
「貴方は親の立場で言葉を言うのね。子供は、親を救うための努力をすると親不孝だと、そう言って居るみたい」
ジェーン・ドゥに梨尾は唇を噛みしめた。確かに彼は親の立場から『子』の献身を否定する。それが、親にとって身をも引き裂かれるような苦痛であると知っているからだ。
「『駄々っ子』……いいえ、『馬鹿娘(アリス)』。マザーの関係を『ごっこ遊び』だと、心の底からそう言える?
言えるはずないわよね、口々に『愛していた』と言っているのだから、マザーも貴女を『愛していた』のではないの?」
「ええ」
「ッ――」
否定されると思っていたと、ハウメアはジェーン・ドゥを見遣った。頷き、笑った彼女は肩を竦める。諦観は深い海のように彼女を包み込んでいるのだろうか。
「今残っている貴女の正常な魂と記憶、象徴となるモノを私達に託し、『外』で目覚める事に賭けてみない?
世界は残酷だという事は、私も身をもって知っているわ。でも、そんな中でも希望は――奇跡はあるのよ?
どれだけ貴女が崩れていっても、絶対にその魂をすくいあげてやるわ。そして……『外』で思いっきり怒ってあげるッ」
ハウメアを見詰めて、ジェーン・ドゥは可笑しそうに笑った。世界の敵として、悪役(ヴィラン)として立ち回った。この世界を崩壊させるためなら場其れで良かったのだ。ジェーン・ドゥは魔種そのもの。故に彼女は『死ぬつもり』で此処までやってきたのだ。
「……私は、生き残ろうとは思っていないのよ。あなた。
自分か母か。私は母を選んだだけ。それは私の決意で、生き残って全てをやり戻そうとも、屹度――もう一度、私はこうするわ」
導き手が居るのが物語なのだという。エクシルは防御の合間を縫うようにジェーン・ドゥへと飛び付いた。
導いてやりたかった。仲間達が乞うた奇跡のように、この場で彼女を拾い上げてやりたかった。
其れだけのことがどうしてこうも難しいのだろうか。
一連を眺めていたシュネーは嘆息した。彼女は強情だ。ハウメアの言うようにバカで駄々っ子。それでも、信念が其処には光る。
「貴女にも、クリスト様にも情があるように。クラリス様とて無情なお人ではない。違いませんか?
擬似的だとかごっこ遊びだとか言葉をいくら並べたって、事実、貴女がたには確かに繋がるものがある。
故に貴女は母を救おうとしているはずです。だからこそ、母のために生きてはいただけませんか。子を……いいえ、誰かを失う痛みなど、覚えない方が良いのです」
「私が生き残れば、母のデータは破損したままになるわ。二度とは戻らない」
囁くその声音にハルツフィーネはオルドネウムの背を撫でてからやれやれと肩を竦めた。
「……これだから敵の背景なんて知りたくないのですよ――なんて言ってはみたものの。
私達は選んだ結果も、打ち倒した者達が抱いていた願いも背負って進まなければいけないのでしょう。これまでも、これからも」
覚悟は出来ていた。ベヒーモスを斃す為の準備をオルドネウムと整えた。
ハルツフィーネはベヒーモスもジェーン・ドゥも彼女と未来を違えるならば倒すべき存在であると認識していたのだ。
「クマさん、行きましょう」
指先がつん、と宙を泳いだ。走り出すティデベアに続きオルドネウムが宙を躍る。
影が落ちた。のっぺりとした、暗い影だ。その影に隠れるように勢いよく走ったのはハーヴェイ。
「ひゅー! まったく忙しいぜ! でもクライマックスには間に合ったみてーだな!
あのデカブツにも興味はあるが、俺達はジェーン・ドゥでも狙うかー!
ぴえぴえ達はあんな事になっちまったけど、せめてこっちは少しでもハッピーなエンドになるよう頑張るぜ!
娘の献身もいいけどよ、俺はお母さんと一緒にいる笑うアンタが見てえなあ!!」
そう叫び飛び込んだハーヴェイに「シャハル」と呼びかけたハンナは首を振った。この世界では彼はハーヴェイか。
「……事情は分かりませんが、お母様の為に戦っているのですね。
その心意気は素晴らしいと思いますが、生憎私はハッピーエンドが好きなもので。
うふふ、最後まで諦めない皆さんのために私も頑張りますね!」
ハンナのアクティブスキルが放たれた。幾重にも重なったのは紅・蒼・金・翠の気配。其れ等を受け止めながら、ジェーン・ドゥは笑って。
「『めでたし、めでたし』で終わる物語で悪い魔女は死に絶える。赤の女王だって裁判で首を刎ねた。
私だって、求めるハッピーエンドがそこにある! 其れを否定されてまで、のうのうと生き延びたくはない!
この身を蝕むクリミナル・カクテルは完全に私と同化したの!
私を救いたいというならばR.O.Oを放棄なさい。母を諦めなさい。選ぶことも出来ずに両方だなんて――なんて、傲慢。なんて、強欲」
――それがイレギュラーズだと知っていても、ジェーン・ドゥは叫んだ。
「母の愛は知っている。母の腕に抱かれたことなど一度も無い。触れ合えない、それでも……私は『マザー』を救うために此処まで生きてきたの!」
成否
成功
状態異常
第4章 第13節
「今更何を言っても陳腐になりそうだね。でも、君たちが其処にあって人知れず足掻いていたことは覚えておくよ。
……まったく、何かを救うには何かを犠牲にだとか……業腹だね」
嘆息するΛは飛び交う口撃を掻い潜りベヒーモスへと距離を詰める。漆黒の装甲を待とうΛの魔導鋼翼は自由自在に空を飛ぶ。
「……じゃあ、再開しよう情に絆されて目的を見失って総てがご破算だとか笑えないからね」
倒すべきはただ一つ。眼前に存在するベヒーモスだ。
まじまじと其れを眺めてからだーく†せてあ4◎は「べへもふ」と呟いた。
「練達の開発のひとは敵の名前表示するのとこ、えいごとかにするのよくないっておもう、直樹とかのほうがわかりやすいし名前は」
知らないコラボアイテムを握りしめて、元ネタは知らないそれをベヒーモスの元に運び行く。
「おまえベヒんもス、リヴァイアとおなじぐらいつよそうっておもうけど世界ほろぼすとかはこまるし"斬る"から。
いっとくけどこれゲームだからびびるとかありえないしわたし、そんなに簡単には」
だーく†せてあ4◎があれやこれやと言葉を重ねるその傍らでみけるんは「べへもふ……」と呟いてからぱちりと瞬いた。
「初めまして、私はみけるん! 貴方はベヒーモスでいいのかな?」
――応えはない。傍に立っていた琉珂が「それって言葉を話せるのかしら?」と不思議そうに問いかけた。人語を有するよりも発された咆哮とその身から落ちる石花の呪い(クリミナル・カクテル)が悍ましさを醸し出す。
「もし生まれ変わるとか助かるのなら……あらためて挨拶をさせて欲しいから! 君の最後まで、傍に居ようと思うよ」
それを倒すのは自身等の未来のためにある。クリミナル・カクテルの塊であるならばマザーを救うためには排除は必須か。
みけるんは心を決めたようにアクティブスキルを放ち続けた。その様子を見詰めていたのはティファレティア。
「どうやら最終局面には間に合ったようですね。ベヒーモスへの案内役、無駄にならずに済んだようです。
私の仕事はここまで。それでは皆様、どうぞ存分に」
「アレをブチ転がせばよろしいんですわね?」
問いかけた『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュにファン・ドルドはその通りですと微笑んだ。
ディアナの様子を遠目から眺めていたジェーン・ドゥは「あなた」と呟く。鋼鉄を襲った桃色の気配。一枚噛んで覗き見したジェーン・ドゥにとって彼女がファン・ドルドと居たのは意外だったか。
「それでは、このファン・ドルド、故あって『聖頌姫』ディアナの一党に参画させていただきます。これより私がベヒーモスを斬った分のポイントは、貴女に献上いたしましょう」
「ええ。それから――」
ディアナがファン・ドルドの視線を誘導するようにジェーン・ドゥを見遣った。
彼女はティファレティア以外はどうでも良い。それでも、幾許か共に過ごした彼女の目的は知っているつもりだ。
「彼女の事もブチ転がせば良いですわ!」
「……成程?」
ディアナにとっての『最大の気遣い』であったのだろうか。
彼女を殺せ、と。そう告げるディアナの声を聞きシフルハンマはううんと小さく唸った。妖精のためを思えば『クリミナル・カクテル』を排除せねばならない。
「……生きる意思が薄いお前に……殺されてたまるか!」
シフルハンマを片手で制して、ジェーン・ドゥは首を振る。反撃を行うジェーン・ドゥのトランプ兵からシフルハンマを救うのはマジカル★イースター。
アマトは元気になぁれと周りを癒やす。シフルハンマも、アマトも誰かを護りたいと願ってこの戦場に立っていた。
――メープルのため。そして、この世界の自分。
シフルハンマの目的は、一貫してからこの世界で相対した『メープル』の事だった。彼女のバグを祓う一助になるならばジェーン・ドゥを殺す事に躊躇いもない。
「……誰かが、誰かのことを好きで、誰かのことを守りたくて、この場があって。
……偽物のお父様は、確かに偽物だったけど。あのかなしい顔……くるしくて……。
アマトはアマトにできること、たくさんはねて、たくさんがんばって、アマトにはそれしかできないけど。それでも……想うことはできるから」
全てが終わったら美味しいご飯を共に食べたかった。そうして、笑い合うのだ。
そのお茶会には屹度ジェーン・ドゥがいて「紅茶が美味しくない」なんて唇を尖らせて。
ああ、そんな未来が其処にあったならば。アダムの心は痛まなかったのだろうか。
撫でてくれたコウのぬくもりとと共にアダムはベヒーモスへと向き合った。
「デッカ君! 俺は、俺の意思で君を倒すよ!」
屹度、その茶会に『デッカ君』はいないのだ――それでも、仕方が無かった。沢山の人が多くを救うために戦っているのだから。
此処で足を止めて、蹲っていれば。この船は沈んでしまう。コウを護りたいと願うならば、この心の痛みだって背負わなくてはならないから。
―――――――!!!!
咆哮が響き渡った。その声に「うるさいですわね」と呟くディアナ。ファン・ドルドは「まあまあ」と彼女を宥める。
「オッサンにゃ疲れる仕事だなぁ!おい! いい加減終わらせねぇとな。お前も疲れたろう……ベヒーモス。」
ベヒーモスを狙う天川の首で思い出のロケットが揺れた。二刀一対の小太刀に乗せたのは國定流小太刀術『背水廻刃』。
「ジェーン・ドゥの方はどうなってるかね……。イレギュラーズはお人好しが多いからな。きっと助けたい、なんて言ってる奴もいるんだろうな」
唇が釣り上がる。それは何故か心地よい。それだけ、仲間が尽力する優しさに身をも浸った気分になるのだ。
その為ならばベヒーモスを此処で沈めなくてはならない。叩きつけた一撃、そうして溢れだした呪いの気配さえ顧みず。
「お前もしんどいよな。元々はこんな奴じゃなかったんだろう? 俺はよ……斬り殺すしか能がない。だがお前の為に祈ろう」
成否
成功
状態異常
第4章 第14節
「この期に及んで我が儘を通すなら、好きにするとよかろう。
妾は知らぬ。元より、本質は単一であるが故に、燃やしつくす事しかできぬが故に。だが、別の道をいこうとする者は嫌いではないの」
くつくつと喉を鳴らして笑ったのはフー・タオ。手にしたアイギス・オリジンが蒼火を宿して煌めいた。
罪の子たるベヒーモス。それは終焉を齎す強大なる存在だ。だが、膝を突き、俯き加減にその身より呪いを振りまき続ける。
汚泥の如く、存在もせぬ臓腑を晒し上げたかのようなベヒーモスの傍で歌声を響かせたのは花糸撫子。
紡ぐ歌はヴェールのように揺らめいた。花精霊である彼女はこの世界のため、そしてマザーのため、何より『練達に住まう人々』の為に手を伸ばすと決めている。
「さあさ、アンコールまで聴いてくれると嬉しいわ!」
囁くような声であったとしても。花糸撫子の声音は魔力を灯す。その傍らに立っていたビスコッティが「無理しないでね」と囁けば、彼女はくすりと微笑んだ。
「ふふ、期待されているのだもの。もっと、もっと歌いましょう?
……ベヒーモス、本当は優しい子なのよね。けれどもごめんなさい。沢山の人の命がかかってる。
だからあなたへ向かおうとする仲間を、私は支援したいと思うの……皆に幸せでいてもらいたいけれど、上手くはいかないものね」
全てを掬い上げることがどうしてん難しいのかを花糸撫子は知っている。その歌声を聞きながらも前線へと飛び込んだのはルイズ・キャロライン。
「へぇ……これが死ぬ感覚ですか、死ぬかと思った事はありましたが死んだことは無かったので……新鮮です。
これから先の演技にも役立つかもしれませんね……もう一度、もう一度やってみましょう……ふふ。
――ええ、ええ、顔を出したからには最後まで付き合いましょうね」
死をも超越するバーチャルリアル。肉体の死滅は精神には繋がらず、死亡のカウントとしてだけ飾られる。
先ずは初手にて首を。落とすようにすらりと剣を振り上げてルイズは只管に斬り続けるだけである。
「ええ、ええ、こうやって無心で何かをし続けるの……案外悪くはありませんね
ははっ! この死という感覚、ちょっとクセになってきますね!!」
そうして膝を突いた強大なる獣を眺めてからナハトスター・ウィッシュ・ねこは『星の願望器(ねこ)』としてベヒーモスの前に立っていた。
ジェーン・ドゥに言いたいことがないわけじゃない。それでも、ベヒーモスを倒さなくてはこの世界は救われない。
流れ星や猫とと共にナハトスターはベヒーモスを正気に戻す物がないだろうかと弄った。猫は屹度好きだ。猫が寄り添えばそれは喜ばしいかのうに反応を見せた――気がするのだから。
ナハトスターの指先が我武者羅に虚の如きベヒーモスの肉体を弄り続ける。それが正気に戻ってくれるなら、そう願わずには居られなかった奇跡。
「――ああ、クソ!」
呻いたヒロは無数に並んでいた『仕方ない』や『そうするべき』に腹を立てた。そればかり選択肢すら碌に選び取れないというならば。
ヒロはベヒーモスへと蛇神の毒を放ちながらジェーン・ドゥの姿を見遣った。ナハトスターが弄る様子をちら、と一瞥して何も言わず黙した儘の物語の娘。
「アリスっての、俺は練達育ちなんだけどな。『これから』どうすべきかなんて、まだ形には出来ないけど、『今まで』だって大切にしたいだろ。
マザーには、練達のことも、あんたたちのことも、後悔させたくないんだよ。
――だから、マザーを想ってるあんたがこれでおしまいなんて、そんなエンディングは嫌だね!」
「貴方たちの望むエンディングロールって屹度、素晴らしい未来なのかしら」
囁いたジェーン・ドゥの声音にスイッチは誰だって未来を求むものだろうと目を伏せる。それも、自分のために都合が良い、輝かしい未来を求めるのだ。
「全てが元通りになるわけはないのでしょうね」
廻姫の呟きにスイッチは「そうだね」と頷いた。例えば、マザーがクリミナル・カクテルに犯された深刻なエラーは全てを保全しきれるわけじゃない。
それがクリストの示した数値なのだろう。それこそ、奇跡が起こらなければ難しい。
「……ベヒーモスだってこの世界で生きようとしていたんだ。命が奪われるのはいつだって悲しいものだね。
でもだからといってこちらも手は緩められない。行こう、3人とも。この世界の未来を守りに!」
スイッチが後方を見遣れば星羅が頷いた。廻姫と無幻。彼と彼女の輝かしい未来のためならば、この命だって捨てても構いやしない。
漸く、盾となれた其れが誇らしい。誇らしくも感じたことが癪に障った。無幻の欠片は確かに星羅の身のうちにもあるのだろう。
「……吃度貴女『は』強がりなのね。……怖いのならば、手を握っていてあげる。
貴女と私は違うけれど。友として、仲間として、其の恐怖を共に背負うことはできるから、貴女のことは、彼処で戦うお父様から預かっていますしね」
「星羅は?」
「何――」
「命を奪うことは、怖くはありませんか」
問いかける無幻に星羅は静かに目を伏せて。
何時だって、命には終わりがある。戦では奪うか奪われるかの二択。奪い殺すのであれば、覚えて背負うだけ。
その命が抗ったことを忘れずにいるだけの覚悟を――星羅という女はしっかりと有していた。
成否
成功
状態異常
第4章 第15節
『無駄足にならずに よかった。さ、小鳥 号令を。 佳境だ』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉に、ハイタカは頷いた。思念を通じれば、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の心が良く分かる。
(タイムリミットが長いとは限らないからね、やれることをやるまでさ。
……我(アタシ)を必要とはしなくても、この世界にも"ヨタカ"はいるからね)
一抹の寂しさを覚えながらハイタカすう、と息を吸い込んだ。自身はこの場では航海の何物でも無い。アストラルノヴァの家門を背負っているわけでもない。
それでも、だ――
「航海の軍に告ぐ、ソルベ様より援軍指揮を任された……! かの魔獣ベヒーモスを倒すんだ……!
複数人纏まって、足や腹、弱点部分を攻めてくれ……! 呪いは強力……気をつけてくれ……!」
ハイタカは堂々とそう告げた。その中にはヨタカ・アストラルノヴァの姿が見える。頷いた彼を一瞥してから縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はベヒーモスへといざ、攻め込まんとその身を投じて。
ベヒーモスの身を一斉に叩き始めた軍人達に交じってセフィは戦い続ける。自身は口下手だ。どうにも、ジェーン・ドゥに気の利いた言葉を継げることは出来ない気がするのだ。
「ああ……でも、ジェーン。
以前のお茶会、美味しいお茶とお菓子ありがとうございました、美味しかったですよ。またお茶会やりましょうよ。今度はマザーも呼んで。きっと楽しいですよ」
そう告げたセフィの傍を風のように通り過ぎたのはGoneであった。
(……別に、俺はどちらでも構わン。この世界の行く末ナド、所詮、この世界の『サンディ』のモノなのだ、が……。
マァ、『アイ』の奴には「影」を借りた恩はあル。それに、どうせ復活できる命ダ。ひとつふたつ……いや、10個ぐらいは呉れテやロウ)
元よりワールドイーター達を倒し続けてきたGoneだ。共に流転すれば、その姿も変貌するはずだろう。
Goneの鎌がベヒーモスを切り裂いた。最高傑作であれば滅びない。それこそが間違いなのだ。
「――行ク風ノ流れハ絶えずしテ、『しかも元の流れにあらず』」
本質をも変化させ、利用される。それは神の所業だというならば引き摺りださねばなるまいか。
神様(ゲームマスター)がそう望んだのならば、その枷からそれを解き放ちたい。望むGoneへと叩きつけられたベヒーモスの吐息を無数の剣が遮った。
「――――ッッ~~~!!!!」
推しが尊いと叫びそうになるミセバヤ。R.O.O内で『shout』しそうになったそれを何とかこらえ霞帝と逢いたいし続ける。
彼はNPC。四神の加護があれども油断は禁物だ。「賀澄様、必ずやお守りします!」とぴょこんと跳ね上がったミセバヤに「よろしく頼もう」と霞帝は頷いて。
前線で戦う剣士のその姿に「主上を護るべきであろうか」とエイラに問うた睦月は僅かな緊張を滲ませていた。
「睦月のしたいようにしてもいいんだよぉ。けど、青龍と瑞神のお陰で、ずぅっと一緒に居られるかなぁ?」
「違いない。それも全ては主上のお陰」
頷いた睦月にエイラはくすりと笑った。彼はきっと、霞帝を尊敬している。それが伝わってくることが楽しいのだ。
「……ねぇ、睦月ぃ。ベヒーモス、すごいよね。
世界を終わらせるために生まれて。言葉も通じないほどに狂って。
世界の全てを相手して、傷ついて傷ついて傷ついても、たった1人を護ろうとしてる。
最後の最後まで、ジェーン・ドゥを、友達を、独りにしないよう味方であり続けてる……そんな気がするんだよぉ」
エイラのその言葉に睦月は「我らもそうだったのだろう」と呟いた。霞帝が豊底比売の傍に居た。それを否定しなかったのは、たった一人の神(帝)を護るためだったのだろう。故に、彼にはエイラの言葉が良く染みいる。
「あの子も自らの命よりも重い相手のために戦ってるって。
……だからねぇエイラは。墓守としてその名を刻むんだよ。終焉の獣ベヒーモスではなくデッカ君って」
引導を渡すため。もはや立ち上がることもなくなったベヒーモスへとエイラは肉薄する。
(私には、ジェーン・ドゥの心を動かすような事は出来ない。
皆々助かれば良いという気持ちがない訳ではないが……だからせめて、”デッカ君”なるものを倒す事に集中しよう)
シャナは静かに其れを見詰めていた。喉の調子を整え、彼が紡いだで在ろう言葉を、その言ノ葉とする。
「……ジェーン・ドゥ曰く、優しい存在だったらしいな。それでも私達は其方を倒さねばならぬ……ただ、そう生まれただけなのに。すまぬな」
ゲームであるというのに現実の理不尽さはそこに横たわっていた。それが『練達による元世界回帰の為のシステム』で混沌を解明するべく使用されていたと言われれば、納得も行く。
そうだ。これが混沌世界だ――魔種は死なねばならない。そして『其れに類する獣』も。
「せめてもの贈り物だ。私からの鎮魂歌を受け取れ!」
死出の途が寂しくはないように、シャナは歌い続ける。
誰もが、其れを倒す準備を整える中で黒子は静かにジェーン・ドゥへと問いかけた。
「そういえば。貴女(アリス)が先のエイスの様に『秘宝種の身体に隔離』した場合、クリミナルカクテルとマザーは隔離できません? 勿論、あの『デッカ君の魂』も、ですが」
「無理よ。ええ、外の人に無駄な尽力をさせる前に教えて上げるわ。
デッカ君はオリジン、それそのもの。だからこそデータを破損させ廃棄しなくてはならないの。
そして、私だって……私が生きてそとに出たら『魔種』として外に出てしまうわ。秘宝種の肉体は直ぐにクリミナルカクテルに侵食されるでしょうから」
そうなれば――未来は分かりきっている。
魔種だから、殺せ。そんな分かり易いオーダーがもう一度繰り返されるだけなのだろう。
====援軍情報====
●航海の荒波
航海拠点が安定したために、『航海軍』の軍人達が前線で活動を始めました。
また、ソルベより司令塔として『誰彼』ハイタカ(p3x000155)と『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)が兵を引き連れています。
成否
成功
状態異常
第4章 第16節
「アレクシアさん、行ってくるね」
そう告げたルフラン・アントルメにアレクシア・レッドモンドは頷いた。最前線へ向かう彼女を心配しないわけではない。それでも、何度も聞かされた『彼女らは何度でも立ち上がれる』事を知れば、その決意を無碍にも出来まいか。
ジェーン・ドゥの元へと走るルフランの視線の先に、フィノア・ミラは立っていた。
亜竜集落の皆、琉珂やスェヴェリスがベヒーモスと善戦している。それだけでフィノアは嬉しいと感じていたのだろう。こうして一緒に闘えるのは感謝せずには居られない。
「今の戦いの中では最後の戦いかもしれないから装備も頑張ったの。でも装備におかしなものがあるのはごめんして……!」
フィノアは叫んだ。可愛い猫が書かれていたから装備した――ら、それがぱんつだっただけなのだ。
猫、という言葉にぱちんと瞬いたのはろおもこね・こみお。援軍として、見回せばこみおの傍にはもふもふのわんこににゃんこ勢揃いだ。
「こみおも負けないように戦う……あっしまった、耳尻尾と手足しか猫にならないですにゃー!」
もふもふ対戦を企てたこみおの猫パンチがぱしりとベヒーモスへと叩きつけられる。少し怖くも見えた竜種スェヴェリスも、その背に乗せて運んでくれるらしい。
それならば、怖くはない。幾ら頑丈でも傷は負うだろうとその身を挺して庇うこみおに「ありがとう」と琉珂は微笑んで。
「此の儘ベヒーモスを、畳み込みましょう。あと少しよね……!」
フィノアはスカーレットセプターに魔術を走らせた。ベヒーモスの命を終えさせる一撃は、まだ遠けれど。そうするだけの覚悟は持ってきた。
「現象への詳細について、当機構は判断し兼ねます。
――それ故、優先事項の達成の為戦闘行動を開始します」
淡々とそう告げたのはアンジェラ。N/騎士と名称を付与された実験併走に身を包んでいたアンジェラは淡々と留まることなく弾丸を放ち続ける。
彼女は砲兵タイプだ。故に、蜂の巣を作り上げるように、鋭き雀蜂の尾は無数にも渡りベヒーモスへと突き刺さる。
「残りのターゲットは2つ、かな。アレを何とかしないと現実のマザーは助からないって訳だね。
あの子の気持ちは否定しない、自分を犠牲にしたいなら止めはしないよ……それを他の仲間が許してくれるかどうかは、別だけどね?」
どうにも、その説得が何得しているのだろうかとシャドウウォーカーは前線を見守った。問題は巨大なベヒーモス。
さすがは巨大なる『終焉』の冠を有する存在だ。一筋縄では倒れないのだろう。
ジェーン・ドゥは仲間に任せ、シャドウウォーカーはエレキダガーで傷が付いた部分を押し広げる。溢れた石花の呪いの気配は直ぐに治療薬が拭い去る。
「とにかく少しでも削ろう! そうじゃなくっちゃ終わらないからね!」
頷いたフェアレイン=グリュックの一閃がベヒーモスの肉体を切り伏せた。その肉片が飛び散り直ぐに世界に霧散する。
「アリス。最初は恒星天、続いて原動天、今ベヒーモスがアリスを護っている。
……君は自分が産みだしたから、そう設定したから、飼い慣らしたからと言うだろうけど。
レイさんはみんなアリスに死んでほしくないから頑張ってると感じた。
アリスはここで自己犠牲になっても、救えたマザーが残るけど、アリスを護ってきたみんなの頑張りはどうなるんだ?」
「『この時のために護らせた』のに」
そう告げるジェーン・ドゥに分からず屋とフェアレインは叫んだ。やれやれとでも言うようなロードは肩を竦める。
「心を解くってことはアリスに今をあきらめてもらうことになるのか。そりゃいやだよな。
それ以前にいやかもしれないが、はっ! これがイヤイヤ期……! っと違う。
えっと、何すればいいんだっけ……そうだ、アリス。お前があきらめて奇跡にすがってくれるまで喋ろうぜ」
「そんな時が――来るのかしら」
ロードが言う通り、ジェーン・ドゥには今まで積み上げてきた物を全てかなぐり捨てろと求めているのだ。
そんなときが来るのかは分からない。ロードはこんぺいとうを投げ付けてジェーン・ドゥに「食べてくれ」と叫ぶ。
「……変なひと」
こんぺいとうをぱしり、と握りしめたジェーン・ドゥは「甘いのね」と小さく呟いた。それでも尚、攻撃の手は緩められないか。
「ねえ、あたしは、アリスさんとか、マザーとか。そういう難しいことは、正直解らないの。
今日も明日も美味しいケーキとチョコと、いろんなものが食べられて。
皆で楽しく、美味しいねって笑えれればいい。……だから? つまり? とにかくね、この世界がなくなってほしくないの」
ルフランは『自身のために世界を護りたい』のだと堂々と言った。そうだ。ジェーン・ドゥが護りたい物があるように、ルフランだって存在する。
「もう一人のあたしが、この世界に居て。お友達になるって言って、長い長い幻想種の時間があって。
まだまだこっちのあたしにも、見せたいものや食べて欲しいもの。色んな物があるんだ……だから、全員守り抜く」
その為ならば、その体なんて何遍だって燃やしても良かった。
苦しいほどの痛みなど、関係はなかった。『キラーアイヴィ』の心が溶けていくその刹那が、堪らなく愛おしかった。
――『私』
あの声を、消したくはない。ルフランはただ、ベヒーモスの終を求めるように攻撃を叩きつける。
成否
成功
状態異常
第4章 第17節
「あのデカブツまだ生きてやがっか。だがまぁ、こういう物語においちゃそうでなくっちゃなぁ!
別戦場ばっか走ってきた俺が言うのも何だがそう簡単にゃくたばらねぇってのがまたいいモンだ……だからよぉ、今度こそぶっ潰してやらぁ!」
ダリウスはベヒーモスへと狙いを定めた。相手の事など詳しくは知らない。
それでも、あの巨体を倒しきる事が必要だというならば容赦はしない。生き足掻く――命が惜しいとは思わない。ただ、限りある生の中で、ベヒーモスという『害』を蹴散らすことに命を賭けるからだ。
「朱雀ちゃんが不完全な権能でも、お手伝いしてくれれば百人力ッス! 終わったらご飯とお昼寝するッスよ! ベヒーモスちゃんともね!」
ていやー! と勢いよく飛び込んだリュートの全力の一撃。その攻撃の込めたのは明日が来る事への希望。そして、いつの日にか生まれ変わったベヒーモスと遊びたいという想い。R.O.Oは現実と違うから、データを拾い上げれば、そんな輝かんばかりの未来が待っているのではないかと期待する。
「遊びたいんだ……?」
「はいっスよ! そのために神威の竜として、奇跡でもなんでも起こしてやるッスよ!」
「……そっか」
イレギュラーズの在り方は朱雀にとっても好ましい。眠たげな彼女の傍らを通り過ぎて「朱雀、お役目は奪っちゃうよ?」と揶揄ったのは白虎だろうか。
がおー、と勢いめいて前線へと飛び込んでいく白虎の傍でタイガーソウルが『がおー!』と戦力を増加させた。
光り輝くのは猛虎魂。夢見・マリ家の瞳が決意を載せて輝いた。
「皆さん! 長かった戦いも大詰めです! 泣いても笑っても恐らくここが最終防衛ライン! 悔いの残らぬよう! 全力で立ち向かいましょう!」
誰もが理由があってこの戦いは始まった。イノリと呼ばれた原罪の映し身――それさえ、確固たる目的があった筈だ。
だから? その理由を肯定するのか――
「往生しろよな、ベヒーモス!」
ダリウスの声を聞きながらマリ家は首を振った。違う。此方にだって確固たる目的が、意志が、覚悟がある。
「だからといって負けてやるわけにはいかないのです! 拙者には勝ってこの世界を鋼鉄を少しでも良い方向へ進ませる義務と責任があるのだから!
――ベヒーモス殿! ご覚悟を!」
ベヒーモスへ。自由を奪い、天より地へと地へ這い蹲らせる一振りを放った流星は、ベヒーモスの背後でイレギュラーズの猛攻を、言葉を受け止め続けるジェーン・ドゥを間近に見遣る。
「マザーを正しく母と呼ぶのなら、その娘が先に死ぬというのなら――これは最大の親不孝だろう」
「母を傷つけ、母を救わず。のうのうと生き延びて……欠落した彼女に愛を囁くほど最大の親不孝はなくてよ」
流星はジェーン・ドゥを睨め付けた。イレギュラーズは信じていた。彼女が、マザーの元に戻るのを。
母と慕い、娘と呼び合った。それが、ごっこ遊びだからと言えど確かに愛が存在したのならば。
「良い子の振りをして諦めるな。悪い子の振りをして誤魔化すな。お前はアリスなのだろう?
王子様を待つ白雪姫でもシンデレラでもなく――ならば、世界を滅茶苦茶にするこの冒険を楽しめ!」
「『その首をお刎ね!』」
ジェーン・ドゥが叫ぶと共に巨大なギロチンが宙に浮かび上がった。
じり、と後退する流星は話が通じないかと呟く。いや、通じては居る。聞こえては居る。
ただ、彼女は後悔と呼ぶべき事象の目の前で膝を突いているのだ。
――クリミナル・カクテルでマザーは破損している。
その有様を戻すために己が『穴を埋めるため』の身を挺することが出来れば。屹度、それは『マザーを一番に思うクリスト』なら容易だ。
ジェーン・ドゥが望めば良いのだ。「私の残存データで母を治療して下さい」と。その選択肢を放棄して、生き延びて欠落したデータの母を愛することは、難しい。
「っ、今死ぬって言うなら! 今死んでも死ななくても!
マザーさんに会えた時に可愛い猫をもふもふできたって言えるようにするんだ!」
ねこ・もふもふ・ぎふとは声を張り上げた。今のアリスが死ぬならば、その一部データを使用して復活は可能かも知れない。
それは、今目の前に居る彼女とは全く別物だ。そうなる事は仕方がないのかもしれない。
「……次のアリスが、だいっきらいで猫にもふもふされてほしい今の彼女じゃないとしても」
キミが、母とまた会えることを願いたい。
ねこはもふもふしてみて、と猫を差し出すだろう。ぎゅうと抱き締めれば暖かな、小さな生き物を可愛いと笑ってくれる彼女であれば――
そうやって、願うだけ、心を砕いた。
心を砕く度にカノンは『ジェーン・ドゥに提示された情報』に苦悩した。
「確かに、彼女ともう一人の私を選べと言うのなら、悩んでしまうかもしれない……。
それでも、諦められないのが冒険者という者なんですよ!
本当に満足だと言うのなら、考えられる限り一番都合の良い最善を全力全霊で目指せばいい!」
カノンは叫んだ。犠牲もなくマザーモモ練達も元通り。もう一人の自分と冒険の旅に出るのだ。
まだまだ、何があるかも分からない電脳廃棄都市ORphanで、パラディーゾの自分との冒険はどれ程楽しくなるだろう?
「私達の求める満足と言うのはこれ以上にない大団円です。『いいこ』を犠牲にしたエンディングなんて後味が悪すぎるから!」
アズハは肩を竦め、彼女を観察し続ける。『いいこ』である彼女のデータが得たい、それが、良い未来に近付くことを望んで、だ。
「アリスさんはいつだって物分かりがよかったから……俺が物申すなど、おこがましいが。
母のいる場所が牢獄かどうかは、俺や貴女の感じ方ではなく、母の行動が示すことだ。
確かに我儘で甘いと思い知ったけど……俺は母の行動を見て、母の病を治すと決めたんだ。
取り戻す日常は、今までと同じにはしないから。今日の物語を終わらせて、未来を選び取るよ」
「それって、とっても綺麗事よ。私の過去は消せないのだから」
アズハを見据えてジェーン・ドゥは笑った。『いいこ』の顔をして――日常なんて戻らない。
ジェーン・ドゥはこの世界が平穏に戻るくらいなら死んだって構わなかった。
母の権能を駆使し、牢に閉じ込めた儘でのうのうとゲームを楽しむイレギュラーズ諸共、全部、全部、終わってしまえば良かったのに。
どうして、彼らはこんなにも甘えたで、我が儘なんだろう。どうして――『分かった顔』をして優しく笑いかけてくるのだろう?
成否
成功
状態異常
第4章 第18節
「さーて、最後まで踊ろうかアリス! どうせ終わる命なら己の好きなように! そして後悔の無い旅を! 僅かでもその一助になれれば幸いさ」
そうわらったメレムの傍らでグラシアが立っている。細かな事は必要ない。
言葉を掛けても苦しげに笑うのならば、終の瞬きまで笑っていれば良い。
「キミのデータはマザーを生かすことで残り続ける。彼女の記憶としてだけどね!」
「其れで十分でしょう?」
問うたジェーン・ドゥにグラシアは「さあ?」と肩を竦めて。
ハッピーエンドは、それぞれの価値観だ。後悔がなければ、他人から見てバッドエンドでも、自分にとってはハッピーエンド。
「幸福という価値観の押し売りってのは何処の世界にもあるんだな? まぁ、俺はうちの奥さんの望むことを優先するだけだが
アリス、後悔はするなよ? ……己が信念を貫くのがお互いの最善になるだろう」
「ええ、ええ。後悔なんて、したくはないの。
これは私が生きてきた証。やっと、私が私として『なにものでもなかった私』に出来た目的だった!」
それならば、それでいい。笑みを滲ませるグラシアにジェーン・ドゥは叫んだ。
「――『さあ、首をお刎ね』!」
巨大なギロチンが現れる。その下を掻い潜ってアオイは「ネリネ氏!」と叫んだ。
そうだ。彼女を救いたいと願ったのは彼女のため以上に、自分の心を護りたい、アオイ自身のエゴだった。エゴイズムが嘲笑う。
これ以上、救いたい人を喪うことには耐えられないだろうと心が悲鳴を上げて、胸を掻き毟る恐怖。
「君の望みを否定しても、君を不幸にしても、僕は殺す覚悟なんて持てなくて。
結末の責任を持つなら殺さない方を選ぶ。……だから最後まで僕は諦められない」
「それなら、私との根比べね」
小さく笑ったジェーン・ドゥにアオイは唇を噛んだ。自分無くして完璧には救えないという彼女。
それでも母の心を癒やせるのは子しかいない。血の繋がりが無くとも、確かにそこに愛があったのならば。
「例えごっこだとしても、その関係性は一方通行じゃないだろ?! 母思いになりたいなら、ちゃんと母の事を考えろ馬鹿!!」
「考えての事よ! 考えて……これが、私にとっての親孝行。
私は生き残れば、もう一度、この世界を怖そうとする。
母の姿を見て、気丈にも『私の世界を壊したくせに、正義面するイレギュラーズ共に利用されても肯定する母』を見るのが耐えられない!」
叫ぶジェーン・ドゥにアオイはぐ、と息を呑んだ。
彼女の世界はイレギュラーズが世界を護るために蓄積した可能性の増加で、崩れ去ったのだという。
「やれやれ……」
嘆息した九重ツルギは閃光乙女の名を持った細剣をそっとジェーン・ドゥに向けた。
「明日の貴方がアリスでも、原動天が守りたいと言ったのはジェーンと呼んだ今日の貴方だ。
特異運命座標としてやるべき事の最善を分かっていても……ナイトがプリンセスに剣を突き立てる事など、出来る筈がない。
同時に、ここまで共に戦ってきてくれた仲間達を裏切る事も出来ません。ならば、せめて。希望を繋ぐために全てを込めた一撃を」
「原動天……ツルギと同じ顔をして、剣を向けられるのは妙な感覚ね」
肩を竦めるジェーン・ドゥを真っ正面から眺めてからホワイティは呟いた。「誰かに言われた訳じゃなく、自分の意思で選んだ道。きっと、今のふたりはそれを歩いているんだねぇ」と。だからこそ、その決意は固かった。
「……助けたいと言いながら、剣を振る手を止められない。矛盾だよねぇ。
それでも……わがままと言われようと、押しつけと言われようと構わない。
だって。キミを支えていたあの人は、キミの幸せを願っていた。『もしも』に賭けてくれた」
彼が、ジェーン・ドゥを思ったのはそうあるようにと作られたからであるかもしれない。それでも、彼の心を無駄にはしたくなかった。
「……だから。キミも、キミの友達も助かって、この世界も助かる。そんな夢物語を、わたしはどうしても諦められないんだよぉ……!」
「まるで、おかしい。夢物語ね」
くすくすと笑ったジェーン・ドゥにスキャット・セプテットは「は!」と鼻を鳴らして笑った。
「アリスは私達を『いい子』と言うが、買い被りすぎだ。現実世界では孤児で、仮想世界ではじめて出来た"父上"。それが九重ツルギ。
アリスがマザーに尽くす為に死を覚悟するなら、私だって同じ。
……最期の瞬間が近づこうと、父上が戦う限りは一歩も退くつもりはない。我儘には我儘を押し通す!」
「私は母のために、貴女は父のために。いいじゃない。お誂え向き!」
笑うジェーン・ドゥにスキャットは「どうだか」と笑う。旋律が、ジェーン・ドゥの傍を通り過ぎる。次いで、叩きつけられたのはアクティブスキル。
「終局だ。この戦いも、アリスの意志も。俺達が戦った意味も。全てはこの戦いで決まる――ベヒーモス、お前を仕留める」
低く、そう告げたのはCALL666。
ベヒーモスを助けたいと願ったのはCALL666だけではなかっただろう。だが、それは倒さなくてはならない。
救える可能性がある限りジェーン・ドゥをとりたいとねがった。どちらも、救うことは不可能と言われたとて、限りある可能性を我武者羅に求め続ける。
「投与する薬の適切な量を算出する方法を知っている?
そう、体重……体の大きさから計算するんだ。小さければより少量で効果を見込める。削ぎ易い箇所が四肢という訳だ」
だからこそ、イズルは四肢を集中して狙うようにと告げた。
「私の故郷ではヒトの本体は魂、肉体は適合した器。そして魂を繋ぎ止める器官が肉体に……秘宝種のコアのような、ね。
箇所が分かれば摘出も試みられる。乱暴だが再生・代替できる部位を切り離し、治療し易くしようという意図だ」
イズルはポーションをアリスへと投げ渡す。驚いたように瞬いた彼女は其れをまじまじと見下ろして。
「小さく、弱ければ今は封じて治療法を模索もできよう。
人ならぬものを封じ、或いは奉じて扱う専門家が来ているだろう? そう、神光……祈りと信仰を呼吸する民だ」
「あまりに光り輝いているから驚いちゃった」
ゲーミングポーションを手にした彼女は肩を竦めてからそれをベヒーモスへと投げ付けた。
「……あなたも、突き合わせてごめんなさいね。後、少しよ」
囁くその声に「あと、少しだなんて」とタイムが唇を噛む。
原動天の想いも背負って、アリスが消えずに済む途を探したいとタイムは願った。
ベヒーモスを倒さなくては。アリスの望み通りの破滅が訪れる。それは許せなかった、その身が果てるまで。鋭き突きを放ちタイムは叫ぶ。
「あのクリストにだって『諦めてないで奇跡を起こせ』って言ったんだもの。
奇跡の力がわたし達の特権だと思ってるなら違うわ。アリス、あなたにだって奇跡は起こせる! 今が最初で最後のその時なの!
ただ一言『生きたい』と言って――お願い」
その懇願するような声音に、ジェーン・ドゥは困ったように笑った。
笑ってから、言った。
「その、奇跡は……ねえ、『母を救うための奇跡』……でしょう?」
成否
成功
状態異常
第4章 第19節
「リスポーン!! 加護は良いものですね、神逐と神異で相対しただけに」
心を躍らせ、微笑んだ壱狐。ベヒーモスにとってアリスと呼ばれた少女がどのような存在であるかは分からないが――推察するに、友人や主人と言った要すであろうか。
ベヒーモスがこの世界で生き続けることが問題なのだ。終まで、その命を賭してでも喰い止めなくてはならないか。
「マザーを救う分水嶺ですね。三本の矢では耐えそうですが三度の刀は耐えさせませんよ! 今度こそその命脈、断ち切ります!」
壱狐が鋭く睨め付ければ満身創痍ながらも命を繋いでいたベヒーモスが咆哮を漏らす。
―――――――――!!!!!
大地を揺らがす。天と地を混ぜ返す。悍ましささえも感じさせる其れを聞きながら耳を塞いだ三月うさぎてゃんは「琉珂さん!」と呼びかけた。
「ただいま戻りました! まぁ言いたいことも伝えたいことも伝えれたのでセーフセーフ! 久々に死に戻りましたねぇ……いつぶりでしょうか?」
「え、死?」
「……ん? あぁ、大丈夫ですよ。どちらにしても第一は琉珂さん及びフリアノンですから!
こちらでもあちらでも! 彼の方と琉珂さんなら、いまは琉珂さんのお傍にいます!」
にんまりと微笑んだ三月うさぎてゃんに琉珂はぱちりと瞬いて。
彼女との会話も楽しいが、それ以上に今はフィナーレがやってくる。どう転んでも此処で最後。
三月うさぎの愛おしいアリス――この世界がなくなってしまっても、彼女がいなくなってしまっても、私がちゃんと覚えてる。命を燃やして、足掻いて。
「貴女の終わりまで、見ていてあげるわ――♪」
「おや、そうですか……貴女がパラディーゾの生みの親だったのですね。では……一発殴らせていただきましょう」
ジェーン・ドゥはそうだ、と頷いた。元はと言えば恨まれるために募らせてきた『事』だった。イデアが自身のパラディーゾを、憧れを怪我した張本人を恨むのは道理。
「何も知らず生み出されただけのパラディーゾではなく私の怒りは貴女へ向けさせていただきます。
貴女の母を救うためとは言えこの姿を模倣し、あまつさえ世界を滅ぼすことに加担させるなど許せません。
この姿は、この服は――誰かを助けるためのものなのですから」
「ええ、それでいいの。そうして、恨んで私を殺して頂戴」
ジェーン・ドゥはそうしたときに一等美しい花が咲くのだと叫んだ。その言葉に、ぐ、と息を呑んだのはルゥ。
「大切な人を守りたい気持ちはわかるよ。わたしにも守りたい人いるもの。でもね、その人のために自分の命投げださないで!
マザーも、クラリスお姉さんもアリスお姉さんのこときっと大事に思ってる!
終わったら後に、アリスお姉さんがクラリスお姉さんの為に死んだなんて聞いたらクラリスお姉さん悲しむよ!」
ルゥをまじまじと見詰めてからジェーン・ドゥは何も言わず、イデアへと接近する。白ウサギがぴょんと跳ね『クローバー』は槍となる。
「ルシェは、みんな幸せになって欲しいの。
だから我儘で欲張りって言われても、アリスお姉さんもクラリスお姉さんも諦めないわ!」
「本当に、欲張りッ」
ジェーン・ドゥを掠めた一撃。イデアを見詰めた好戦的な少女はルゥへと毒吐いた。
「死ぬのは怖くはありませんか?」
「ええ。元から……生きるか死ぬか、其れしか無いと思っていたから」
ジェーン・ドゥにイデアは「ならば、もう一度」と地を踏み締める。
「ワクチンが出来れば、アリスお姉さんもクラリスお姉さんもみんな一緒に笑いあえる未来がきっとあるんだから!
だからね、寂しさ抱えたまま一人になろうとしないで。一緒に未来を探そう? 後ね、ルシェとお友達になって欲しいわ」
「ええ、構わないわ。けど、世界を滅ぼしてからね?」
そうすることで母も自分も救われる。aMaTERAsは首を振った。信念があるならば、魂を定着させて生きていけるのではないか。
「拙者なんぞの言葉に意味は無いが……アリスは母のために死ぬ物語だっただろうか。
他者の迷惑を顧みず、我儘気儘に夢の中を駆け抜ける少女がアリスであろう。
花と散るのではなく、目覚めてその手に花と冒険譚を持って母を見舞うくらいで丁度良い。
イカレ帽子屋のところにでもお茶会(に行くのでも良い。涙の池は、もう沢山だろう?」
そう願うaMaTERAsの言葉にジェーン・ドゥは「私は此処で生きるか死ぬか、その選択をするだけなのよ」と薄らと笑みを返す。
Sikiは「違うんだ」と声を震わせる。
ずっと、ずっと――考えていた。
彼女の物語も、想いも。心を込めて作り上げたそれを否定することなんて出来なかった。
彼女が死んでマザーのデータを修復するというならば『ジェーン・ドゥと呼ばれた少女のめでたし』を蔑ろにする事だ。
「……私たちに、君のハッピーエンドを蔑ろに捻じ曲げて良い理由があるのかって……ずっと考えた。
理由なんて結局言い訳にしかならないね。
我がままでごめん。それでも君が終わりを選ぶなら、私はジェーン・ドゥの”物語の続き(明日)”を望んでしまうんだ……っ」
予定調和のエピローグに手を伸ばしたかった。
身勝手だと笑われたって良かった。
明日も、『今日の彼女』に逢いたかった。
「この分からず屋! よくねぇんだよ何一つ!
お前の想いも分かりはするさ。だがな! 諦めたふりをして、自分の心の底の願いから目を背けたやつの願いなんざ誰が聞いてやるかよ。
本当は生きたいんだろうが! 大切な人とずっと一緒にいたいんじゃないのかよ! 本当の望みを答えろ! ジェーン!!」
「ッ――何も分って居ないのは貴方よ!
いいえ、私は『普通ならば死んでいた』。この想いは信仰にも似た、無償の愛。私は、母を救うためにこの命をも捨てて良かったの!」
にゃこらすが生きて欲しいと願ったのは、にゃこらすにとっての我が儘だったのだろうか。
それでも、予定調和のように彼女が死ぬのはごめんだった。
抗いたかった。
抗った。彼女が、死にたがりであっても。名無しの少女の犠牲なんて認められなかった。
「何度だって言ってやる。生きてくれ。お前自身のために」
命を、分け与えても良いとSikiもにゃこらすも叫んだ。ジェーン・ドゥは笑う。
「馬鹿な人」
唇が、震える。奇跡は答えやしない。R.O.Oの世界で求めた物は反応しなかった。
その様子を眺めてからリュカ・ファブニルは「わかった」と一度呟いた。
「……わかったよ」
ゆっくりとジェーン・ドゥへと近付くリュカの背後でひめにゃこがひらひらと手を振った。
「アリスちゃん。これがクライマックスのターンです! いいですよね? どっちが勝手も恨みっこなし!」
「ええ。然うしてちょうだいな」
「まぁひめが負けるはずないですけど!
そして可愛い子からの気持ちは独占しちゃいたいひめにゃこです! もっとひめに想いをぶつけてください!
アリスちゃんを相手にしてからまだ一度も倒れてない気がしますよ!? パンチ力が足りないんじゃないですか!」
しゅっしゅと拳を突き出したひめにゃこにジェーン・ドゥはぱちりと瞬いた。
アリスから『強引に奪った』データをひめにゃこは忘れない。自身で言うとなんとも言えないが記憶容量少な目でも可愛い子の言葉覚えていられるのだ。
「それじゃ、戦う前に次の約束をしましょうか。……もし次があるなら、また遊びましょうね!」
「次――」
それが『今日の私』でなくとも、ありえるかもしれない未来を思ってひめにゃこが笑いかければその頭にぽん、と掌を乗せたベネディクト・ファブニルは戦いながらも言葉を重ねるジェーン・ドゥをまじまじと見詰めていた。
自身等の戦う理由があるように。彼女にも自らの死で戦いを終わらせる覚悟と理由があったのだろう。
自分が生きていたならば、足掻いてこの世界を終焉へと導き、マザーを解き放つのだろう。
そうでないならば死んで母の治療薬になりたい。其れを思えばこそベネディクトは苦しげに眉を寄せる。
(……彼女の覚悟を、母は親不孝とだと泣くだろうか。
きっと、そうだろう。だが、それだけでは無い。彼女が残した物を受け取って、彼女の愛した母は生き続けて行くのなら──きっと)
ならば、彼女の思いを蔑ろには出来なかった。
ベネディクトの一閃がジェーン・ドゥが振らせるトランプの槍を打ち払う。その向こう側に飛び込むように勢いよく走り込んだひめにゃこの全力のニャウコビームが鮮やかな色彩を宿して。
「お前を倒してクラリスを助ける。戦うぜアリス……これが最後だ」
リュカは構えた。「アリス、お前の望みを聞き届けてやる」と告げた声音には僅かな困惑が乗せられて。
竜の剛力を乗せた刃がジェーン・ドゥの構えた本へと叩きつけられた。魔力が霧散する。
苦々しいと言わんばかりに睨め付けたその瞳、リュカは「アリス!」とその名を叫んだ。
「明日のお前はお前だけど、お前じゃねえ。だからせめて、想いを残していけ。クリストならどうにかして見つけるだろ。見つけさせる。
お前のワクチンと、お前の想いをクラリスに叩き込む。そいつはきっと、俺らの声よりずっと響くはずだ」
成否
成功
状態異常
第4章 第20節
「さて、世界を破壊から救ってしまおうかのう!
フッ……つい救ってしまうのが悪いクセじゃのう―――行くぞ、これが希望へのファースト・バレットじゃ!」
からからと笑った玲のアナザーツインハンドガンアーツモードバレットリベリオン壱式。
それは至近距離での連続攻撃。連動した二挺の銃による多段攻撃がベヒーモスへと飛び込んで行く。
「それはそれとして、『アリス』よ。
外の世界ではデータの世界の存在でも、秘宝種として混沌の世界で生きていけるようになれると風の噂で聞いたんじゃがのうー。
おっと、これは極秘の話じゃった。誰かに聞かれていなければいいんじゃがのー」
口笛を吹いて誤魔化したふりをする玲に「知っているわ」とジェーン・ドゥは言った。
「だって、私はその『ロック』がどこにあるか知っていたもの。言って居たでしょう? 『私は出る事が出来る』って」
くすくすと笑ったジェーン・ドゥに「用意周到じゃのう」と玲は呟いた。
実に用意周到だ。ともすれば、彼女は助かる目もあったか。それとも――
(だがベヒーモスは、そうはいかぬのだろうな。それとも、誰かが彼の生を願うのだろうか。共に歩もうと願うのだろうか。
それを思えば、少し感傷的になる。まぁ、世界というモノは不公平なものゆえに。僕はリスクの少ない方を選択するだけだが。
……優先順位というモノは必要だ。どんな時もな。僕にはベヒーモスよりも守りたいモノがあるのでね)
真読・流雨はジェーン・ドゥが『生き残る』事を望まぬ事を感じていた。どうように、ベヒーモスがジェーン・ドゥを護ろうとすることさえも。
僅かな感傷、それさえも忘れるようにぎらんぎらんと凍りの刃を光らせて。
無数の刃を空から振らせる霞帝にセララは「提案しても良いかな?」と問いかけた。
「アリスを救える可能性。それが0.1%でもあるのなら助けてあげないとね。
パラディーゾを作った方法の応用、核さえあれば意思を持つデータを構築できるというのなら。今のアリスを核として、体だけ素対に移し替える……そんな方法を採りたい。そうしたことは、できないのかな?」
一時的でも良いと求めるセララに霞帝は「難しいだろうな」と呟いた。彼女は人間ではない、この世界のNPCでもない。霞帝から見れば奇怪な存在でしかないのだろう。
「そっか……でも……」
「貴殿等の為し得ぬ奇跡は我々(NPC)は為し得ぬだろう……だが、貴殿の優しさは彼女にも伝わったであろう」
あれだけ、悪役(ヴィラン)を演じていた少女も今やどこか途惑いが滲む。攻撃の手が緩み始め、緩やかなる自殺へと向かうような、そんな世数だ。
「あー!ㅤもー!! 言いたいことは言ったし!ㅤもういいや!!
アリっちが助かりたくなったら勝手に助かればいいよ!!ㅤふん!!
……さ、デッカくん!ㅤ遊ぼうか! キミの最後の晩餐はこのきうりだよ!ㅤ今決めた!ㅤ私が決めた!!」
きうりんは「ずるいよね!ㅤアリっちは助かる道がありそうなのに、キミはだめだってさ!ㅤせめてきうり食べてってよ!!」と叫んだ。
――――――――――!!!!!
「え? デッカくんは助かりたくないって? アリっちも?
うーん、まあいいや! 二人とも助かりたくないならさ、きうりを最後の晩餐にしてよ! 美味しいからね!」
きうりんは自身を餌食であるとアピールし、翡翠の恵みをその身宿す。
喉へと飛び込んだきうりんは出来る限り生き残りベヒーモスの最後の晩餐になるべく耐え凌ぐ。
―――――――――――!?
喉の奥につっかえた感覚を感じてベヒーモスがたじろいだ。地団駄を踏む其れを眺めながら飛び石のように跳ね上がる石花の呪いを剣で弾いたシャルが愕然とした様子でジェーン・ドゥを見詰める。
「それだけで満足って……っ。
そんなの! そんなの、おかしいだろう!?
母として想っていたヒトを……理解した、変わった僕らを見届けて! それが君の、取捨をした果てだとしても理想だとして……!
悲しんでいた君が! その場所に自分がいない事を”満足”なんて、そんなの! 本心だとは思えない!! 手を、伸ばしてくれ……諦めないでくれよ……!!」
苦しげに、叫んだ。
ジェーン・ドゥが己の居ない未来を夢想する。それが、母のためであろうとも認められるわけがなかった。悔しいと声を震わせるシャルに頷いたのは指差・ヨシカ。
何と、献身的な物語だろう。何と、身勝手で、傲慢で、救いのない物語なのだろう。
「一度壊れたものが、完璧に戻る事なんてないんだよ。……誰だって誰かを傷付けて、何かを傷付けて、それでも生きて居る。
僕らがマザーを蔑ろにして君を傷付けたように、君がマザーを傷付けたように、元通りになんてならない」
ヨシカは唇を噛みしめた。不完全でも、傷ついてでも言い。苦しみも、後悔も、一人で背負おうとしないで欲しかった。
「皆で半分こすれば、痛みだって笑い合えるかも知れないじゃないか!
君を失うのが一番なら、そんな一番(さいぜん)なんて要らない!
今日の君が悪役だとしても、変わってもいいんだ。明日の君はヒロインになったって良いんだ。だから君の苦しみを、僕にも分けてくれよ……!」
「ねえ、あなた、私はね親不孝だと言われて『それでも』と思っていたのよ。……でも、そうね。私は――」
誰かと傷を背負えるのならばそれでもよかったのかもしれないと彼女は笑った。
それでも、それはもう遅く。クリミナル・カクテルのキャリアとなった彼女は世界を壊す為に生きてきた。
そうなのだ。
彼女は、もう覚悟をしている。生きて、世界を壊すか。死んで、花を残すのか。
デイジー・ベルは最早動きも鈍く浅く呼吸音を漏らすベヒーモスへと向き直る。
「貴方を、倒す」
其れこそが殺す者としての決意だった。
性格があり、感情があり、魂がある。殺す者としての責任は、受け持たねばならないのだ。
死を背負い続ける。
デイジー・ベルは沢山の死を積み上げてやってきた。
それはTeth=Steinerも同じであっただろうか。ベヒーモスが何を思うかを、つい考えたのはそれが『生きていた』からだ。
「――なぁ。今、テメェはどんな思いを抱きながらそこにいる?
既に死ぬ事を決め、一輪の花を残さんとする娘を護ろうとするのは何故だ?」
Tethは言葉を返すことのないベヒーモスを眺めてから、小さく笑った。
「……ああ、分からんでもない。憶測だけどな。俺様がテメェの立場だったら、そうするだろうさ」
『何が正しいとかじゃない。最後までそうしたいからそうする』
それが、ベヒーモスの意地ならば。肯定してやらねばならない。
「テメェの意志を貫かせてやる。最後の最後まで護り続けて――そして、逝くがいい!」
「――喰らえ、私の激情をッ!」
それが、その命を奪う者。
デイジーの、Tethの、玲の。
鋭き一撃がベヒーモスの命を奪う。黒き体は霧散して、巨大な花の如く咲き誇る。
そうして、朽ちて散って行く。シャルはその様子が話に聞き及んだ石花病のようだと息を呑んだ。
なんと、なんと美しい死に様なのだろうか。
成否
成功
第4章 第21節
恒星天は死んだ。原動天だって死んだ。ベヒーモスだって……死んでしまった。
「アリス」
P.P.の声にジェーン・ドゥは顔を上げる。なんとも、情けない表情をして。
彼女の想いも、覚悟も、全部を理解出来ない。それを否定するつもりはない。それは、彼女のものだからだ。
「……それはそれとしてあたし達の手を取れ!
アンタにも色々あると思うけど、あたしはアンタとの物語を紡ぎたい! 他の誰でもない、今の、そしてこれからのアンタと!」
鋭い爪ではない、人としての柔らかな掌を差し出した。それがエゴだ押しつけだと言われてもP.Pは構わなかったのだ。
ジェーン・ドゥは――『アリスと呼ばれた何者でも無い少女』は動かない。
「……俺達は、大事な事を忘れてねぇか? 『アリスの人生はアリスのものだ』
無数の選択肢から選ぶのは、アリス自身じゃなきゃいけないンだよ。自分の命を使って母を救う、自己犠牲の道か。
例え『今の自分』じゃないとしても。何とか再構築して、母と子として生きる僅かな可能性に望みを繋げるのか」
畜生、と呻いたヨハンナは選ぶ権利は彼女にあるのだと呟いた。自死さえ赦されず、無理に生かされることは、苦しい。
勿論、仲間達が望んだハッピーエンドが道の先に続いていると――そう信じていたかったのだ。
目のまで困った顔をして笑うジェーン・ドゥは、ゆっくりと息を吐く。そうしてから目を伏せた。
誰も彼もが、揃いも揃って、私に愛を説いた。子と死に別れる母の苦しみや悲しみを説く。
高尚な、目にも見えぬ、概念的で、日常から乖離した。唯一で尊い影よりも濃い夜のような言葉で。
然うして時間が経てば、駄々っ子めいた言葉を紡ぎ上げたジェーン・ドゥの目的はイレギュラーズにとっては受け入れがたい、自己犠牲。
それでも、私は。
『何者でも無かったただの物語の娘』が唯一でも生きてきたと実感できる目的が出来たのだ。
――私の『クリミナル・カクテル』は、石花病のように華を咲かせる。
勿論……惑わなかった訳ではないの。親を残して死ぬなんて、なんと酷い事だと囁かれようと。
それでも『おかあさま』を救うためには私の花が必要。其れに気付いたのは……何時だっただろう。
分かるでしょう? 壊れた物は二度とは戻らない。修復パッチも当てきらない。
それでも、ずっと中に居た私なら出来る。『おじさま』なら分かってくれる。
「そう……そういうことだったの。『イノリ』もクリストもアリス君も!
どうしてそうやって抱え込んで進めてしまうの! 手を取り合って想いを伝えあって、そうすれば別の道もひらけたはずなのに!」
苦しげにアレクシアは叫んだ。滲んだ涙を拭うことさえしなかった。
逃げ水のような未来でも、望むことを諦めたくはなかった。物語が何れだけ苦しくても最後まで諦めずに足掻いて、足掻いて、ハッピーエンドが欲しかった。
「でも……私が駄々をこねることで全てが……あなたの覚悟までが無為になってほしいとも思わない。
だから、あなたの希望を叶えてあげる! でもそれだけじゃない、あなたの想いを、お母さんへと伝えるべき言葉を聞かせて!
苦境にあるお母さんを助けるのは私達だけじゃない、あなたの想いなんだ!」
「――おかあさま、どうか、お元気で」
そう笑ったジェーン・ドゥをまじまじと見詰めながらドゥは息を吐いた。パラディーゾのドゥは『データワールド・ワンダーランド』を探すように彼女に命じられていた。もしかすれば、データの欠片、概念としての『別のアリス』と出会える未来があるのだろうか。
ドウは「明確な事から片付けていかねばなりませんね」とゆっくりと立ち上がった。
デスカウントの補正さえなくとも、この地で戦ってきた経験は確かに培われたものだった。一撃を、ただ、届けるのみ。
「終わらない物語って、楽しいじゃん。続きはどうなるのかなって読んで、予想した展開と違って『マジ!?』ってしたこともあって。
ま、こー見えてもアタシも本は好きでね……塞ぎ込んで引きこもってた時、アタシに世界をくれたのは物語だった」
エイル・サカヅキはまるで姉のように笑う。ジェーン・ドゥはアイラインを跳ね上げて強めの赤いリップを引いたヴィランに憧れたのだろうか。彼女にはコーラスピンクのチークや優しいブラウンの垂れ目メイクが屹度、似合うのに。
彼女に沢山の可愛らしい色を添えてやりたかった。それが、今や為せぬものだとするならば、覚悟を決めねばならないか。
「お願いだアレクシアのねーちゃん!! 何でもするからアリスねーと、おれ達のおかーさんを助けてくれよ!!」
覚悟を決めても、ルージュは諦めきれなかった。アレクシア・レッドモンドは首を振る。
「……私には呪いと呼ばれた、初期状態を緩和するだけの試薬しか……まだ、まだ治せないの」
震える声音で、そう告げる彼女にルージュは唇を噛みしめる。
「アリスねー。おれはアリスねーから花(データ)を取り出すぜ。けど、アリスねーを助ける事も絶対に諦めねー!!
だから、だから、アリスねーも自分が幸せになる事を諦めないでくれよ……」
それがマザーを必ず救うための『条件』ならばルージュは覚悟を決めた。
それが、ジェーン・ドゥの望みなのだというならばHは応えるだけだった。
「ハハ、もう天晴としか言いようがねぇ。一曲お相手願いましょう、レディ。忘れられないひと時にしましょう――アンコールまでは、お付き合いいただけるかな?」
「エスコートをして頂戴? とびきり素敵なダンスにしましょう?」
Hは彼女の望みを叶えるべく、その手を引いた。ドット柄の薔薇を33本。レディへの手向けのように。
「諦められる者として、責任を果たしましょう、アリス。私はこの世界の為に、貴女を倒す選択を取る。
私は完璧なハッピーエンドを選べない。御伽噺ではなく、現実はそういうものだから……だから、だからッ」
シフォリィの援護は、Hと届く。戦う力が無いことがもどかしい。それでも、ジェーン・ドゥの終まで、彼女は前線に立っていると決めたのだ。
「私だって、前も言ったようにアリスも、ベヒモスすらも生きていていいと思ってるわ!
それでも、貴女の命をかけた覚悟を見せられて、『助けてあげる』と上から言えるわけがない!
私も貫くわ……諦められる者として、涙を振り切って、貴女の命を踏みにじってでも! クラリスを救う!」
それが、彼女にとっての満足の行く結末だというならばフローレス・ロンズデーライトは問いかけると決めた。
「『アナタ自身』は滅びても、何かしらかの名残を置いていくことをオススメしますわ!
例えば『アリス』でも『ジェーン・ドゥ』でもない、アナタが呼ばれたかった名前なんて如何かしら?」
「名前……?」
「ええ。ワタクシは、私の中にあるキレイなものの結晶。私がなりたかったワタクシ。アナタがなりたかったアナタは、どうですの?」
名前を、付けてくれた人は沢山居た。
春、ネリネ、ネフライト……それでも、ぴんとこなかったのは屹度母が呼んでくれなかったからだ。
母は、アリスと呼んでくれた。
彼女の輝きを眺めながら、ジェーン・ドゥは満足げに微笑んで。
「一個だけ聞いていい?
アリスちんが生まれ変わるとして、その時もアリスちんは『おかあさま』の娘になりたい?」
ぴたり、とジェーン・ドゥは動きを止めた。
「ええ、勿論」
まるで、幼い子供のように笑った彼女にルージュは泣いた。アレクシア・レッドモンドの手を引いていた彼女は声を上げて、泣き叫ぶ。
マザーを救うための愛の力は、癒やしにまでも特化した。
最後の一撃を放てば、命は疾うに世界に奪われる。
それでも――どうか、どうか届いて欲しかった。
崩れ去る手を握れば、それはぼろぼろと、岩のように砕けていった。
胸部であった場所には、一等美しい赤い花。
「カーネーション……」
呟いて、ルージュはただ、ただ、泣いた。
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目的
・終焉の獣『ベヒーモス』の討伐
・ジェーン・ドゥ及びパラディーゾの『活動停止』
●重要な備考
当ラリーはベヒーモスが『伝承王国』に辿り着いた時点で時間切れとなり、失敗判定となります。
皆さんは<ダブルフォルト・エンバーミング>系ラリーのどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
ソロ参加の場合は指定はなくて大丈夫です。同行者の指定記載がなされない場合は単独参加であると判断されます。
※チーム人数については迷子対策です。必ずチーム人数確定後にご参加下さい。
※ラリー相談掲示板も適宜ご利用下さい。
※やむを得ずプレイングが失効してしまった場合は再度のプレイングを歓迎しております。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●フィールド
『砂嵐』の砂漠地帯。終焉(ラスト・ラスト)から少しばかり離れた位置からのスタートです。
巨躯を誇る終焉の獣は移動を行っており、皆さんはダメージを与えることでその移動を遅らせることが第一目標となります。
第一目標を達成した時点で状況は変化し、終焉の獣をその場に止めての撃滅作戦が行われます。
周辺には村やオアシスが存在しています。終焉の獣が通った後は更地となりデータが全て捕食されて元には戻りませんので注意して下さい。
【サクラメント】
近隣のオアシスに点在しています。ベヒーモスの位置により、サクラメントとの距離が変動するため戦線への復帰時間は一定ではありません。
●『終焉の獣』ベヒーモス
終焉(ラスト・ラスト)より現れた終焉獣(ラグナヴァイス)の親玉に当たります。
天を衝くほどに巨大な肉体を持った悍ましき存在です。神(クリスト)の傑作(コレクション)。
世界の終焉を告げるそれは元々は温厚な生物でありましたが、狂化しており言葉は通じません。
【データ】
・非常に巨大な生物になります。飛行していない状況だと『足』のみが戦闘部位です。踏み潰されないように注意して行動して下さい。
・『飛行』を行った場合でも『脚』までしか届きません。ダメージ蓄積により膝を突くことでその他部位を狙えそうです。
【主だったステータス】
・終焉の呼気:広範囲に対して『石花の呪い』を付与すると共に、ダメージ(中)を与えます。
・ロスト・ベニソン:複数対象に対して封印、及びランダムで何らかのBSを5つ付与。強烈なダメージ(大)。
・ディバインシール:フィールド上の飛行中の対象に対して『不吉、混乱、麻痺系列』の中からランダムで付与。
・狂化:???
・終焉:???
●終焉獣(ラグナヴァイス)
ベヒーモスを好み、それに付き従う終焉獣たちです。それらは石花の呪いと呼ばれた歪な病を振りまきます。
また飛行している存在、地を歩く存在など様々な終焉獣が無数にフィールド上に存在しているようです。
○石花病と『石花の呪い』
・石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。
・石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
・R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。試薬を駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(プレイヤー一人につき、誰か一名による1Tのギミック解除時間が必要)
・『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。
・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
●『物語の少女』アリス(ジェーン・ドゥ)
遍く世界の『アリス』がまじりあった存在。便宜上彼女はアリスと名乗りますが、本来の名前は無くマッドハッターはジェーン・ドウ(名無しの権兵衛)と称する。物語と全ての人の思い描くアリス像を塗り固めた存在です。
髪は脱色されて白く、憎悪の色の赤い瞳を乗せた『イレギュラー』の娘
主人公であった形跡が残るのは青の大きなリボンと白いバラのチョーカーだけ。
黄泉ちゃんに協力する理由はマザーのためのようですが……。
攻撃方法などは不明です。彼女の護衛として二名のパラディーゾが付き従っています。
●『パラディーゾ』
・『天国篇第九天 原動天の徒』九重ツルギ
スマートに微笑む穏やかな青年です。内心に抱えた焦燥は感じさせず、任務を淡々と遂行します。
タンク。全戦で戦います。とても強力な存在であり、『プリンセス』ことひめにゃことアリスのサポートを行っています。
・『天国篇第八天 恒星天の徒』ひめにゃこ
はいぱーぷちりーな女の子です。自信満々に自分が一番可愛いと自慢げに宣言します。とてもおしゃべりさん。
遠近両方得意としており、前に出てタンクの役割もこなせます。攻撃は全てハートやピンクのエフェクトで彩られているようです。
○味方NPC
当シナリオでは『各国のNPC』が援軍に訪れる可能性が大いに存在しています。
具体的には『砂嵐』『翡翠』『神光』『航海』のNPCなどが皆さんと共に戦うためにこの戦場へと向かっています。
シナリオの進行により援軍は変化します。詳しくは『ラリー各章 の 一節目』を参照して下さい。
一例ですが、
・ハウザー・ヤーク、イルナス・フィンナ及び配下傭兵団
・森林警備隊や森の神官、アレクシア・レッドモンドと護衛のシャルティエ・F・クラリウス
・『霞帝』今園 賀澄、『星穹鞘』Muguet(無幻)、『因果の魔剣』ヴェルグリーズ
・『御庭番衆』暦(頭領・鬼灯をはじめとした忍集団『暦』です。十二の月と呼ばれた幹部及びその部下達)&今園 章
・ソルベ・ジェラート・コンテュール&カヌレ・ジェラート・コンテュール(補給要員)
等……一例ですので状況次第では援軍が増加するでしょう。
・Miss (p3y000214)、ファーリ (p3y000006)、紅宵満月 (p3y000155)は戦場でのお手伝いをしております。
援軍味方NPCは皆さんの指示に従います。何かあればお申し付け下さい。
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