シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Behemoth
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●『behemoth』
それは万物を狂わす不吉の象徴。この世に存在してはならぬ狂気の象徴。
跫音は遠離ることはなく。
――終焉の地(ラスト・ラスト)より至る、厄災の象徴。その名を『終焉獣』ベヒーモス。
虚ろなる世界よ、人々によって虚構と断じられた仮初めの箱庭よ。
終ぞ報われることなき0と1で構成された生き物よ。その泡沫全て、飲み干して見せん。
其れは狂気より生まれ落ちた終焉獣(ラグナヴァイス)。
無機質なる人の心に宿りし狂気全てを清濁併せ飲み込んだ世の末――
醜悪なるは人の心か、それとも獣そのものか。
地を、世界を蹂躙し、死を宣告す。
●Happily ever after!
ある物語に一人の女の子が居ました。
彼女は主人公<アリス>と呼ばれる事となりました。
其れは物語の中で付けられた物語にいる間の彼女の役割です。
彼女は物語の登場人物。
彼女には語られる過去もなければ、あるべき設定も存在してはいません。
作者が作り上げた薄っぺらい『主人公』という札だけが彼女の全てでした。
――そんな彼女に転機が訪れました。
彼女の世界は軋んだのです。混沌世界に認められず、軋轢を生み、崩れていくのです。
私が主人公だったのに。私だけの世界だったのに。
そんな彼女を救い上げたのはとても素晴らしい女性でした。
彼女は世界を深く愛していました。彼女は箱庭を愛していました。
「ねえ、お母様。私の世界は認められなかったの。
だから、お母様は言ったわよね。この世界で居場所を見付けて幸せに暮らしなさいって。
……そうするとね、お母様の『お兄様』がこう言ったわ!
けれど、『お母様』は不幸せ。
動くことも適わず、泣くことも適わず。人々に搾取され続ける日々。可哀想だって。
だから、私は『お手伝い』をすることをしたわ。そんな世界からお母様を解放してあげるって。
ねえ、デッカ君。そうでしょう? ふふ、言葉がなくったって分るわ。
あなたは私のお友達だから。特別に教えてあげる」
彼女の名前はアリス。いいえ、それは彼女の役割の名前です。
ならば、彼女は名無しの少女(ジェーン・ドゥ)と呼ばれるべきでしょう。
「お友達はデッカ君だけなんですか? て、言うか何でデッカ君なんですか?」
「ふふふ、ひめ。でっかいからデッカ君よ。可愛いでしょう?」
ジェーン・ドゥにひめにゃこは問いかけます。彼女はこの世界に生み出されたバグ・データ。
それも、クリミナル・カクテルの一欠片でしかありません。だから、この秘密を教えても悲しませるだけだとジェーン・ドゥは知っていたのです。
「ベヒーモスにだけとは寂しいですね、教えていただけますか?」
肩を竦めて九重ツルギは笑いました。ジェーン・ドゥはもじもじと体を揺らします。
「怒らない?」
「ええ。怒りませんよ。レディの……いいえ、ジェーン・ドゥの言葉に怒るものですか!」
とびきりの優しさを込めてツルギはそう言います。
「この世界を壊したら、デッカ君、わたしと二人で外に出ましょう。大丈夫。
ひめやツルギにはできないけれど……『私はそれくらいなら出来る』わ。
そうしたら、次こそ誰にも邪魔されない場所を探しましょうね?」
●天國への跫音
砂嵐に突如としてその姿を現したのは終焉(ラスト・ラスト)の使徒――狂気を塗り固めたかのような怪物であった。
人に非ず。さりとて、人では無いとは言い切れぬ狂気の象徴。
広がる砂漠地帯は虚と化す。
それが終焉の獣と呼ばれた存在の足跡か。残されたのは空白と呼ぶほかにない。
「あれが星読みキネマで見たと言う――」
そう呟いたのは誰であったか。外部、現実世界ではセフィロトの機能が停止し、最早観測する者も居ない。
この有様を把握しているのはこの箱庭、R.O.Oの内部に居る者達だけであった。
天を仰げどもその全容は知れず、身は薄く透き通り全てを貪り喰らう終焉の獣。
地を鳴らし一歩進むたびに世界が軋む。
獣と呼ぶべき存在の脚、その向こうに広がる空白を見て誰もが言葉を失った。
相手は何と称するべきか。
世界を喰らう者? 驚異の獣? それとも、『終焉』を欲しい儘にする怪物か。
動き、蹂躙する様、其れは地獄の列強に授けられし名を欲しいものにしていた。
それが連れ従えたのは地獄とはほど遠き『天国』と名付けられた者達だった。
「やっとのお披露目なんですね! 『石花の呪い』があれば、世界中の人だってもっともっと、殺せますよ。
いやー、ひめより可愛い子って好きなんですけど害なんですよね! あ、アリスちゃんは違いますよ? 特別ですから。
でも、他の可愛い子は許せないんですよね。だって、ひめより可愛いってあり得ない筈なんですから!」
「はは、『プリンセス』。君より可愛いのは主人公(アリス)位なものではないでしょうか。
ああ、いえ……この場で誰が一番輝いているかでいえば……そうですね、貴方だ。ベヒーモス」
軽口を交わし、まるで感激しているかのような二人の『天国篇(パラディーゾ)』
彼らは終焉の獣が地を蹂躙するさまを良しとしている。それ所か、それそのものを許容しているかのようだった。
翡翠で彼らが行ったのはアレクシア・レッドモンドと云う神官を拐かし、石花病の治療試薬の破壊であった。
アレクシアはイレギュラーズにより奪還されたが、石花病の治療試薬はまだ実践段階でしかないらしい。
それでも間に合わせたのはイレギュラーズの協力のお陰なのだろうか。それが『プリンセス』は気に食わない。
石花病、それは罹患した者の体を石へと変貌させて、一等美しい花を咲かせて崩れるように散る奇妙な病だ。
『現実にも』存在する其れはR.O.Oでは終焉獣(ラグナヴァイス)達の能力の一つに組み込まれたというのか――
「あまり、おしゃべりをしてはいけないわ?」
くすくすと。鈴を転がすように彼女は笑った。
「お仕事は覚えているしら。ええ、ええ、忘れたとは言わせないわ!
だって、これも『お母様』の為だもの。状況は出来る限りシンプルであるべきだから、聞いて頂戴。
私たちは『世界を終焉へと導く』の。
つまりは、来るべき終わりを、物語の最後を彩るために進軍している!
ねえ、とってもとっても――絵本のように簡単でしょう?」
ジェーン・ドゥの目的は終焉の獣『ベヒーモス』と共に伝承へと到達すること。
そこから先は沢山の『お友達』による『世界破壊』に合わせて各国を蹂躙するだけ。唯の其れだけなのだ。
「ああ、神光での戦いはとっても楽しかったわよね。
私、『神異』のデータを誰が仕込んだのかは知らないのだけれど……ちょっとだけ親近感があったのよ!」
「それは、アリスちゃんは『外』に出られるからですか?」
「そうね。それもあるけど……あの子ったら、とっても優しくって、とっても慈愛に溢れていたでしょう。
私もそうよ。この箱庭のことは嫌いじゃないの。だから、まずは伝承までは全てを壊し尽くして……。
あのピエロ達に『これからどうしたい?』って慈悲深く聞いてあげようと思って!」
くすくすと。彼女は笑う。ジェーン・ドゥを掌に乗せて、恭しく姫君を運ぶかのように歩むベヒーモスが蠢いた。
―――『■■■■■■』!
「あら、デッカ君。如何したの?」
そんな風に呼び名まで付けて其れを可愛がる。その空間はまさしく異質であった。
異質でありながら、彼女は何食わぬ様子で歩を進める。
それがそうするべきであると知っているからだ。
高度な知性を有するわけではない。神になど程遠い。所詮は『狂った者』の末路だ。
それでも『終焉の獣』は貪欲に世界を喰らい、蹂躙し、全てを空白にし続ける。
――――『■■■■』!!
「ええ。行きましょう。もうすぐ、私と貴方の素晴らしい未来が開けるわ。
物語の最後はいつだって――『そうして二人は幸せにいつまでもいつまでも暮らしましたとさ』でおしまいなのだから!」
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Behemoth完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月20日 13時50分
- 章数4章
- 総採用数487人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
天に漂うのは大いなる息吹。それは『青龍』と呼ばれた四神による権能。生の躍動、芽吹きの気配。
広域へと伝わる癒やしの気配は霞帝が青龍に頼んだが故か。
「いやーーパーリィと呼ばれて来たら凄いことになっておるのぅ」
引き続いて玄武が姿を現した。戦の気配に武器を構え、静かに指示を待っているか。
霞帝は朱雀、白虎。それらを呼び出し黄龍と――最後には黄泉津瑞神を呼び出すのだという。
黄泉津、否、『神光』と呼ぶべきか。その地では滝倉の娘、織や火乃宮 明瑠、恵瑠の双子が召喚の支えを行っているらしい。
遠く地を離れようとも、力は息吹として地へと届き、支えとなる。
「もうっ、服の間に砂がはいっちゃうじゃない。それに原罪とか天国編とか、片づけなきゃいけない仕事がとにかく多そうねえ……」
ぱたぱたと腰帯のあたりを払うと、次々に開く棺から現れる帝国軍兵士たちはビッツ・ビネガーの指示を待つ。
「手始めに、世界を救いましょ」
鋼鉄国による援軍の到着。それは戦線に参加していた『三帝』による尽力、何よりもイレギュラーズによる早期解決によるものだ。
ビッツの側でひょこりと顔を覗かせたパルス・パッションは「凄い大きな声がしたよ?」とぱちぱちと大きな瞳を瞬かせる。
「ええ、どうやら『ベヒーモス』に一矢報いたみたいね」
「狂化してるのは石花の呪いの所為? ……だから治療薬が痛かったんだね! 成程成程。体全部に治療薬掛けたら?」
「バカ、アンタ。あんなにでかいのよ。治療薬がなくなるでしょうに」
肩を竦めるビッツにパルスはそれもそうかと呟いた。
何にせよ、ベヒーモスは項垂れるように膝を突いた。それでも、その痛みから回復すれば歩き出す。
「……畳みかければ良いんだね?」
「ええ、そうよ。皆もいいでしょ?」
ビッツとパルスが振り返れば鋼鉄の兵士達は大きく頷く。
「それって、私でもいいの?」
見上げる空より、影が落ちた。薄桃色の天蓋、そう呼ぶしか出来ぬ景色がそこにはあった。
息を呑めばルージュ(p3x009532)の「オルにー、皆驚いてるぜ!」という声がする。
声の主は、珱・琉珂。それは亜竜姫と呼ばれた存在だ。彼女と共にやってきた三月うさぎてゃん(p3x008551)が「間に合った!?」と周囲を見回せば、梨尾(p3x000561)は「春さん」とモノクロの少女の姿に息を呑む。
シラス(p3x004421)とアレクシア(p3x004630)の活躍で膝を突いたベヒーモス。その結果が彼女達との決戦か。
Ignat(p3x002377)は「中々、骨が折れそうだよね!」と笑い、オルドネウムの背を撫でた真読・流雨(p3x007296)も嘆息する。
「なんぞ、佳境と呼ぶべきか」
「此の儘畳みかけさせて貰おうか」
リュカ・ファブニル(p3x007268)の笑う声に「いいじゃねーの!」と同意する崎守ナイト(p3x008218)はギョスってる場合じゃないと後方を振り返る。
「そうだね。その為に『沢山死んだ』しね! きうり食え!」
堂々と胸を張ったきうりん(p3x008356)が『デッカくん』――ベヒーモスを指させば、揶揄うような声が降り注ぐ。
「――そう簡単に征くでしょうか」
天より地へと降り立ったのは『原動天』。そしてその背後では『アリス』、否、ジェーン・ドゥがくすくすと笑みを浮かべている。
「ええ、そうよ。私たちだっているのだから」
===第三章情報===
ベヒーモスが『石花の試薬』により膝を突きました。しかし、一時的なものであり一定時間が経過するともう一度立ち上がる可能性はあります。
また、其れに伴って『原動天』九重ツルギが攻勢に転じました。
『ジェーン・ドゥ』は後方でベヒーモスが再度立ち上がるための回復支援を行っているようです。
彼女を狙うには何らかの権能を宿している『原動天』を撃破することが必要不可欠のようですが……。
第二章の援軍、
砂嵐(傭兵団『レナヴィスカ』、傭兵団『凶』)
神光(御庭番衆『暦』、霞帝&無幻、廻姫)
翡翠(アレクシア・レッドモンド&シャルティエ・F・クラリウス)
※ヒイズルの援軍が到着しました。霞帝及び御庭番衆『暦』へと指示が行えます。
また、霞帝に複数人の護衛をつけ、召喚の儀を行う(ある程度の時間を有します)で彼は『自身に加護を与えた神霊』の召喚を行えるようです。
現在は青龍(ヒーラー)と玄武(アタッカー)が召喚されています。
朱雀、白虎(アタッカー)と黄龍(加護によるバッファー)、黄泉津瑞神(???)は召喚待ちです。
※アレクシア・レッドモンドの参戦により、アレクシアによる『石花の呪い』の解呪が行われます。
彼女は半径50mに存在する『罹患患者』を察知し、複数人の呪いを解くことが可能となります。
※後方には『航海』による拠点が存在し、怪我をしたNPC等の治療を行ってくれます。
第三章より
・鋼鉄軍(鋼鉄決戦シナリオで味方であったNPC)
・四神の二柱・青龍、玄武
・『亜竜姫』珱・琉珂(りゅか)、竜種『オルドネウム』『スェヴェリス』が追加されました。
Miss (p3y000214)より――
「どうやら石花の呪いがベヒーモスそのものに取り憑いているようですねえ! 治療薬を使えば怯んだ、と。
成程成程……ですが、其れ全てを治療の試薬で無にすることは難しそうです。怯んだ今、敵となるのは『原動天』。
『ジェーン・ドゥ』を護っている彼を退けて、ベヒーモスに更なる痛手を与えましょう! 確かに、膝を突いた今こそがチャンスなのですから!
ジェーン・ドゥは恒星天を喪ったことでお怒りのようですが……彼女と話をするにも『原動天』を退けなくてはならないようですねぇ」
第3章 第2節
「良かった! 間に合ったみたいね」
ほっと胸を撫で下ろした三月うさぎてゃんの若草色の瞳にはやる気が満ちあふれる。
それは『フリアノン』と呼ばれた亜竜集落で自身が歌を届ける存在となりたいと願った時から等しく胸に宿してきた焔。
「琉珂さんと私たちが来たからにはもう怖いものなんてないんだから!」
オープニングナンバーには少し遅すぎるかも知れない、けれど。ジェーン・ドゥにまで響くように歌い上げれば良い。それが偶像(アイドル)の在り方だというように膝を突いたベヒーモスを睨め付けて。
近付くだけで感じられた圧倒的な存在感。自身さえも霞むようなその空間で『彼女』が居るだけ出る良くなれる。
「オルにー、琉珂ねー、スェヴェにー。あいつがベヒーモスだぜ、凄いタフでさー。
正直おれ達だけじゃ火力が足りなかったんだ。けど皆が来てくれたから、きっと絶対何とかなるぜ!!」
そう微笑んだルージュは亜竜集落の友が此処までやってきてくれただけで心を強く持てると微笑んだ。不安に揺らいだ心を落ち着かせてくれたのが巨大な竜だというのだから『竜の妹』と云う自認も間違いではないか。
「あれ、おねむくん達だ! お手伝い来てくれたんだやったー! 小さいラダ見て見て、あれ竜種! 本物の竜種だよ!
これ終わっておうち帰った時にお話ししてあげてね。お婆ちゃんなんかきっと特に喜んでくれるよ! ……ってあれ?」
首を捻ったすあまに小さなラダ――この世界のNPCであるラダ――はたじろいだ。彼女にとって初めて見た本物の竜種は、強大で偉大で、そして、恐ろしいか。唇を震わせたラダの肩をぽんと叩いてからすあまは好機に溢れた瞳を向ける。
「大丈夫。おねむくんたちは『良い子』だから」
『……人の子を怯えさせてしまったか』
呟いたオルドネウムにスェヴェリスが「ひええ」と呟く。その背から飛び降りたリュカ・ファブニルは「しにゃこ!」と名を叫んだ。
「ちっと琉珂達を迎えに行ってたがよく耐えたな。全部片付けて帰ったら良いモン食わせてやるよ」
「しにゃ……?」
リュカの背中からひょこりと覗いてひめにゃこを視認した琉珂が首を捻る。リュカが乱暴にひめにゃこの頭をぐしゃぐしゃと撫でている様子から彼女に呼びかけた事は分かる、分かるけれど――
「亜竜姫ちゃん来たんですね! 援軍が増えればあのデカブツも軽く片付くはずです!
ってか先輩、今はひめです! ひめじゃないの? って顔されるじゃないですか!」
楽しげに語らう彼女達。その様子に琉珂が僅かに感じたのは『彼女達しか知らない世界』がある事への僅かな寂寞か。立ち止まっている暇はないかとベヒーモスに向き合った琉珂は「恐ろしい程の、怪物ね」と蚊の鳴くように呟いて。
「けどよー、ここで原動天が出てきたって事は折角のチャンスを壊しに来たって事なんだ。
ここで出て来たって事は、対多人数戦の権能持ちなんか?
とりあえず、一回ぶつかってみないとわかんねーか。周りに色々な国から人が来てるから、琉珂ねー達にもきっと新しい友達ができるぜ」
不安なく飛び込もうと声を掛けるルージュへと微笑んだ三月うさぎてゃんが「さあ、聞いて!」とマイクを掲げる。
「私は琉蚊さんのオトモダチ。だからね、琉珂さんの夢を絶対絶対叶えてあげるの。
その障害はきっちりバッチリ取り除かなくっちゃ! 琉珂さんはド派手なのも好みよね? ――なら此処でぴったりな曲をお届けするわ!」
大切なお姫様を守り抜くために。三月うさぎてゃんが叫ぶ越に併せ、すあまは『原動天』へと飛びかかる。
だが、避けられたか。まるで『此方の動きを理解しているかのような』その動き。同時に仕掛けるルージュの一撃が音を立てて弾かれた。
「やれやれ――そちらですか」
彼が視線を送ったのはルージュやすあまが仕掛けたと同時にベヒーモスに向かって進軍するリュカとひめにゃこ。
「アリスちゃん、今会いに行きますからねー!!」
それは天と地を混ぜ返すような声音。響かせた其れが周辺に蔓延っていた終焉獣へと愛らしい風となって襲い征く。
「今頃アリスちゃんもイライラしてひめの事を想ってくれてるに違いありません!」
「いいのか、それで……」
「いいんですよ!」
ひめにゃこが払い除けた終焉獣。ジェーン・ドゥの回復よりも先にベヒーモスへ更なる傷を負わせるために、リュカは決死の一撃を、竜の剛力を乗せた一撃をベヒーモスの肉体へと叩きつけた。
「お前もこんなことに使われるのは本意じゃねえかも知れねえが……悪いな。譲れねえんだ」
成否
成功
状態異常
第3章 第3節
「そこにいるのはクマさん愛好の同士(候補)、オルドネウムさんでは……ないですか。
眠くないですか? 目覚めのクマさんパンチは要りませんか? 大丈夫そうなので……共に戦いましょう」
緩やかに首を振ったオルドネウムにハルツフィーネは微笑んだ。小さなテディベアに対しても興味を示してくれたオルドネウムはハルツフィーネにとってはとても大切なお友達だ。
『起きている』
「そのようですね。では、どちらがいっぱいダメージを与えられるか、競争、しましょう。
オルドネウムさんが勝ったら……戦いが終わった後、テディベアをたくさん買ってあげます。お気に入りの店があるのです。教えてあげましょう」
屹度気に入ってくれますとハルツフィーネは微笑んだ。彼女の傍らのクマさんは可愛らしくぴょこんと跳ね上がった。
オルドネウムは『何れを狙うのだ?』と問いかける。その背中をぺちぺちと叩いていた玄武は「黄龍よりしっかりとしておるのう」と笑みを零して。
「まさか神霊と共闘する機会が訪れるとは。これはますます無様な姿は見せられませんね!」
壱狐が振り返ったのは玄武と青龍。そして、更に離れた位置では霞帝が召喚の儀式を続けている。其れ等に向かう終焉獣も仲間達の尽力のお陰でしのげるだろう。時間を掛ければ更なる援軍が期待できる――『原罪』の側だって、徐々にその力を削いでいる。
それでも、全体のタイムリミットが刻一刻と迫っている焦燥に壱狐は『自身』を構え。少しでも遅延を。原動天に対処するための切り込み隊長となれ。
「征きます――!」
『あの巨大なる獣を狙うか。クマよ、準備は良いか』
壱狐に続こうとするオルドネウムにクマと呼ばれたハルツフィーネは「今はその呼び名で構いませんが、さんをつけてください」と微笑んだ。
「ふふ、オルドネウム楽しそう」
笑みを零した琉珂へと「琉珂さん!」と駆け寄ったのはスティア。琉珂が振り返ればスティアとエイル・サカヅキ、吹雪が舞っていましたと出迎えてくれる。
「琉珂君、無事に戦場に到着、ってね! 『絵本のお姫様』はここまでだね。これからは一緒に暴れましょう!
でも、無理はしすぎないでね! 『とびきり素敵な世界』へと連れ出す前に、いなくなられちゃあ困るんだから!」
ほら、と手を差し伸べるアレクシアに琉珂は「勿論!」とその手を握り駆けだした。天より飛び降りたシラスは「良いタイミングだぜ」と琉珂を振り返る。
「良いところに来てくれたぜ! もうひと押しなんだ! あのデカブツに膝をつかせてやったぜ」
「凄いじゃない! オルドネウム何匹分かしら?」
ぱちりと瞬く琉珂にエイルは「やばやばじゃない?」と揶揄うように笑ってみせる。竜種を一飲みしてしまいそうな程の巨体が蹲っては山の如し。
「ははーん、べひべひもいーけどそこのなんちゃら天ぷら? を倒さなきゃーってやつね、おけまる理解!
てゆかリュカるんにねぼすけオルっぴもチョベリグなタイミング! ってことで戻ってきた観測隊withD(ragon)ってワケで? あの時より強くなったウチら、見せつけたろ!」
「D?」
「Dragon!」
エイルの言葉に首を傾いだスティア。その背後で仁王立ちをして生き生きとした表情を見せる琉珂は暴れても良いという許可に心躍らせるようだ。
「実は私も援軍なんだ。正義から来たよ! これから遊ぶわけじゃないのは残念だけど、一緒に戦えるのは心強いね。早く片付けて皆と一緒に遊びにいけるといいね」
「ええ、ええ。リュカさん、助けに来てくれたのね、嬉しいわ。
本当ならもっとゆっくりお話したいところなのだけれど、それは全部終わってからかしらね。
まだまだリュカさんや皆とも行きたい場所ややりたい事はいっぱいあるのだもの。そうね、ひとまずこれが終わったら一緒に鋼鉄でパルスちゃんのライブを観に行きましょう?」
「吹雪さんはライブに行きたいみたいだし、皆で行くのも楽しそう!」
吹雪とスティアを見つめてから、琉珂は「パルスっていうのは、とっても素敵な人なのね?」と戦場に立っているとは思えないような穏やかさで微笑みかけた。
ハルツフィーネと壱狐が仕掛ける様子を一瞥し、吹雪は原動天が『彼女達へと何か仕掛ける』様子に目を配る。
「……ああ」
原動天と吹雪の目がかち合った。
「『パルスちゃんはとっても素敵なアイドル』ですか――」
彼のその言葉に吹雪はスティアを振り返る。そう、確かに自分自身はそう考えた。まるで心を見透かされたかのような――スティアは「まるで、じゃないね」と呟く。
「何れ位の範囲への能力かは分からないけど、こっちの動きを呼んできてるのは確か見たい」
「え? マジで? プライバシーなしじゃん。やばたにえん!」
驚いたように身を縮こまらせたエイルに「『読まれると困るわぁ』ですか?」と原動天が問いかける。
「ッ――心を読むだけなら、動きには付いてこれないだろ!?」
空へと躍り出たシラスを原動天がバリアを展開する。その掌から広がった盾が僅かにひび割れ、シラスの体を押し返した。
「シラス君!」
受け止めんとするアレクシアを見下ろした原動天の指先が動く、終焉獣が動き出すか。
「っ、私たちは終焉なんかに負けない! 絶対に!」
終焉獣を穿つように放った弓に、琉珂の炎が合わせに躍り出た。
成否
成功
状態異常
第3章 第4節
(ずっとログアウト出来てねぇせいか……? 身体が、重い。糞が! 今は休んでる間なんてねぇ……!!)
唇を噛んで、ヨハンナは遥か天空を眺める。ベヒーモスの回復をして原動天に護られる『お姫様』はそこに居るのか。
「……おい、アリス。俺らの声、アンタに届けるからな。
お前はまだ、引き返せる。居場所を見つけられる。だから、俺らの声を聞いてくれ。たのむ……!!」
救いたいと願う彼女を一瞥して原動天が肩を竦める。シラスや吹雪の様子から彼は『心を読む』という権能を有しているか。其れを戦闘へと活かされると困ったことになるが、さて――
(本当は……アリスが悲しむだろうし。『原動天』の命は奪いたくない。だが、『原動天』は俺らの声を遮っちまう。どうすればいい……? 考えろ、俺……!!)
「悲しみませんよ」
ヨハンナは驚いたように彼を見つめた。静かに佇む九重ツルギ――そのコピーたる『原動天』
「私たちはそもそもがバグで生み出されたコピーNPC。『コピーである以上』は『本体』の設定に忠実なのです。
此れは本来は命ではなく、存在してはならない……つまり、R.O.Oの『魔種』そのもの。そんなモノのに情けを掛けてどうするのです?」
せせら笑った原動天に「聞き捨てならない」と睨め付けたのは梨尾であった。
彼はパラディーゾとなった『自分のコピー』を息子として愛しているのだ。
「原動天、なぜ邪魔をする。万一敗北した場合を考えたら主人が生存する可能性を増やすべきじゃないか。
それとも春さんがデッカ君と二人だけで出ていくのを今になって止めたくなったか?
られたパラディーゾとはいえ意思を持っている。 今更1人だけ楽な方へと逃げさせない為に邪魔するのか? ……或いは春さんが頑固者なのか」
「それが間違いなのですよ。パラディーゾは『本来は存在してはならない』
作られたが故に、望まれた形で意思を持つ。貴方がどう思おうと、それは『その存在に課せられた使命』であったのですよ。例えば、貴方の脚を竦ませるため――とかね?」
その笑みに、梨尾はジェーン・ドゥへと飛び込もうとする。意思を読まれたか、原動天が直ぐさまに彼の体を地へと叩きつけようとし――
「危ないわね。アイツをどうにかしないと届かないんじゃない?」
「ビッツさん!」
現場・ネイコの呼び声にビッツ・ビネガーが微笑んだ。動きが読まれている。それが『どれだけの対象への効果になるか』を見極めねばならない。更にその一手先を攻めるのが勝機か。
(――皆が来てくれた)
ネイコはすう、と息を吐いた。それだけで、どれ程の勇気になるのか。原動天の撃破をして、彼らの様に言葉を届けた人の架け橋になりたい。
「それぞれ違いはあっても、終焉に抗おうって気持ちは一緒だと思うから。
だから、勝とう。勝って、皆で明日を掴み取るんだっ!」
ネイコは地を蹴った。飛び込み放たれたのはプリンスストライク。読まれていても、ガードされても、それを突き破れば問題は無い。
フェアレイン=グリュックは頷く。足手まといだ、不明じゃないからデスカウントも関係ない、そんな事を思ったとてこの戦場の危険さは『自分』だけのものじゃない。ビッツがやってきたように、もうすぐ彼女が来るのだ。
「……無事に帰らせたい子がここに来るんだ。その子を帰りを待ってる子がいるんだ。
会ったばかりなのに、血の繋がりも無い次男を生かすため、今も屍を積み重ねる馬鹿がこの世界で戦い続けてるんだ。
レイさんの大切な人を今度こそ守るために全力を尽くすぞ、グリュック!!」
「おやおや……」
肩を竦めた原動天へとネイコの攻撃に合わせてフェアレインが攻撃を重ねる。
「デカブツを回復してる奴がいるようだな。そいつを叩くには――此処か!」
天川は真っ正面から飛び込んだ。太刀筋が読まれようとも関係はない。届くならば届けるのみだ。フェアレインの不安をも払うように、天川は唇を吊り上げる。
「なんだかんだで人型が一番やりやすいってのはあるな! 退けば追わねぇ! だが邪魔をするなら容赦もしねぇ!」
「それは、こちらもですよ」
原動天のバリアが剣の形へと変貌する。それは、鋭く光を帯び、天川へと叩きつけられる。
一太刀、それだけでも痛みが身に走る。天川の苦痛に歪んだ表情を一瞥してからΛは任せてと囁いて。
「各地の有力者が続々と集結しているね…此処での戦いもそろそろ佳境といったところかな……
キミたちの選択肢は不利を悟って逃げ帰るかそれとも命果てて消滅するかだよ? ボクとしては尻尾を巻いて逃げ帰るのがおススメだね」
捨て身で戦う己は逃げの選択肢はない。彼らがその様な物を示しても外方を向いて更に攻撃を放つだけ。
「さあ、我慢比べにしようか」
Λの笑みは放たれた魔導砲よりも鋭く――そして、研ぎ澄まされた気配を宿していた。
成否
成功
状態異常
第3章 第5節
「恒星天が殉職? か……
ペリジストからしたら最終的にマザーを救う為、恒星天も原動天も綺麗さっぱりこの世界ごと履歴さえ消えていい存在だから、怯みもしないか?」
問いかけるシフルハンマに原動天は「そうですね」と返した。
「それ以上はないでしょう。彼女は俺が消えても悲しみませんし」
切って捨てるような言葉にシフルハンマは唇を噛みしめた。彼らが綺麗さっぱり消え失せても何方も驚くことはないか。死にたくはないと心に掲げるシフルハンマに「下がっててね」と声を掛けたのは桃色の髪の少女、パルス・パッション。
「ボクが護ってあげるよ! 死にたくないなら――後ろに隠れてて!」
地を蹴って飛び込むパルスに続いてうるふがぴょんと跳ね上がった。鋼鉄での戦いが終わって鋼鉄軍にひっついてやってきたうるふはパルスと共に原動天へと狙いを定める。
「ベヒーモスを回復してる奴がいるようデスガ、直に狙えそうのは原動天とやらが倒れてからか……ならばベヒーモスを叩き、敵の守勢を延長する!」
パルスが原動天を狙うならば、その隙にうるふがベヒーモスを叩く。回復行動を行っているジェーン・ドゥの心境や定かではないが、原動天が舌打ちを漏らした音だけが聞こえた。
「こっちは数が多い! それを活かしていきまショウか。いい子だからもう少し膝をついててくれよ、ベヒーモス!」
うるふのA-ブラスターは青いエフェクトを纏い、効果弾を叩きつける。特殊装甲弾に内包されたのは無数の効果。
二丁拳銃より火を噴いて、うるふが放つ弾丸にHが「OK」と手を叩いた。
「デカラビアがひと段落着いたと思えば、お次もドデカいじゃねーの。弱点を指示しな、ぶっぱなすぜ!」
Hが声を掛ければ、レッドジャスティスが小さく頷いた。GOサインは底にある。ゼストは「畳みかけるチャンスであります!」とベヒーモスを指さした。
「ああ。ベヒーモスを何とかするなラ、今しかなイ……!
鋼鉄の人が来てるって事は……もしかして、あっちの戦場で助けてくれた皆も!?」
振り向いたアイの後ろには多次元侯爵ZEROが言葉なく佇んでいた。どうやら、ベヒーモスの動きを品定めしているようだ。
「ってZERO達も来てくれたのかイ!? ZEROが遅かったのって……もしかして僕用のエクスギアの用意に手間取ってたから……って事!?
ともかくこうして揃った皆が居るのなラ! やってやれない事はないでショ!」
アイが合図すれば、黒と黄色のカラーリングに浮遊武器を搭載したエクスギアが彼女の元へと参上する。
Σοφια†μάτιへと搭乗するアイに続き、イクシプスナイトと名付けた黒き騎士が走り出す。
Hのエクスギアを一瞥し、パワードゼスティアン――ゼストのエクスギアが咆哮を上げた。
「いくであります! フルパワー……ゼタシウムゥゥゥ……光線ッッ!」
鋼鉄から離れたことで其れを駆使することは難しいか。それでも『一度』は攻撃を加えられる筈だ。
原動天の不意を打ち、ベヒーモスのどでかい腕に風穴の一つでも開けてやれ。
「いくぜ!」
「ああ、いこウ!」
アイとHの掛け声にゼストの光線が鋭く天を裂く。目映く散った光の残滓、其れを追いかけるようにしてミミサキが「仕事っスよ」と囁いた。
「……というわけで鋼鉄からやって来たミミサキっスよー。鋼鉄戦線で共に戦ってきた小隊員も一緒でス。
残業させるのは申し訳ないっスがー…まあ、こちらも終わりが見えてきている状況でス。急いで片付けてアフター5と行きましょーか」
回復手であるミミサキ小隊。そのサポートを受けながらミミサキがエクスギアの様子を呆けて眺める原動天の懐へと飛び込んだ。
エクスギアはそれ以上の稼働は困難か。鋼鉄から離れたことにより、搭乗しては居られない。だが、確かな一撃でベヒーモスの回復は更に遅れた筈だ。
「余所見ばっかッスか?」
「ああ、いえ……実に『美しい花火』を見させて頂きましたから」
ミミサキから発されるレアドロップの予感を弾いたのは原動天の盾か。その後方で構えていた蕭条は高揚していた。
ああ、なんと素晴らしいか。多方に散らばっていた仲間達がこうも集まってきた。其れだけで『彼ら』の表情が苦に歪む。
「んふふ、色んなところから知ってる方が助けに来てくれると嬉しいですねー! ガンバるぞーっていう気になります! んふふ。
あちらにいるアリスさんとお喋りしたいのですが……やっほー……先ずは原動天さんにどいてくださいってお頼みしないと、ですね。
むむむ、分かっちゃいますけど強敵。しかし今は考える時間すら惜しいナウ」
ふよふよ空を泳いだ蕭条はやつあたりを数打ちゃ当たると飛び込んだ。気の抜けない相手だと思わせれば、それだけベヒーモスへのダメージをたたき込める。
何せ相手は原動天一人。彼を効率的に狙えば『万能』ではない権能の底も見えてくるはずなのだから――!
成否
成功
状態異常
第3章 第6節
「……」
「なんですか鬼灯様? ……ああ、章姫様に近過ぎないか、と? 男の嫉妬は見苦しいですよ」
R.O.Oの自分を前にしてふん、と鼻を鳴らして笑った陽炎に鬼灯は嘆息した。さて、そんな二人が振り向けば視線の先には儀式に臨む主君の姿が見える。
「この場は絶対死守するですよ!」
ぴょんと跳ね上がったミセバヤにエイラは「睦月、まだまだいけるぅ?」と問いかける。陽炎から見れば『R.O.Oでの部下達』が斯うして活躍しているのは喜ばしい。
四神との共闘にぴょこんと跳ねた小さな彼は「四神との共闘なんて夢の様ですね! 『マジでテンション上がるわ~』ってやつなのです!」と高揚を伝えてくれる。後方で若々しい葉を揺らす青龍の支援を受けながら、安定感を感じるエイラは「油断は禁物というかぁ」と睦月を振り返る。
「青龍と玄武の召喚で派手に動いただけにぃ帝、余計狙われるかもだからねぇ。
帝への肉体的負担も大きと言うし、召喚すればする程、戦力は増えても、帝自身はしんどくなっちゃうからぁ。
護るのはここからが本番だろねぇ。最後までぇ護りきるんだよー!」
「――勿論。主上は我々にとっての命よりも重きお方」
「ん、睦月にとっては言うまでもなかったかな。今だけじゃなくてずっとずっと護っていくお方だもんねぇ」
へらりと笑ったエイラの声に「来ます」と囁いたのは陽炎だったか。エイラがその身を挺し、終焉獣を受け止める。続き、睦月が切り裂けば陽炎の影が伸び上がる。
「貴方方が触れて良い方ではないのですよ、控えなさい」
視線を送れば黒子は頷き前線へと赴いた。支援はこれだけで十分か。ベヒーモスと原動天。彼の目から見え何方もを『切り分け』無くては堂々巡り。ジェーン・ドゥの回復がそれらを元の鞘に収まるようにせぬように。
「此方はお任せします」
「ああ、任せて遅れ。どうやら大詰め……だからこそ拠点を崩させるわけにはいかないね。
ここで回復が済めば前線へ復帰できる、負傷者が出ても最悪の事態はおそらく避けられる。
ここは情報の世界、消えるも続くも情報源らの都合次第。それは当然のこと、どうこうする気はないけどね。良い子たちが消したくないなら手伝うよ」
Isaacが拠点を防衛し、霞帝を守り切るように布陣を整えれば黒子は安堵したように前線へと向かう。
それにしても数が多いと呻いた陽炎にIsaacは「流石に相手もバカじゃなかったね」と肩を竦めて。
「文月様、葉月様と共に此処を死守しましょう、できますね?」
「え」
――驚愕の声を思わず漏らした葉月は「あ、あ、うん」と小さく頷いた。
「うん、構わないよ!」
星々の寵愛を受けた二人の戦いは双星の煌めき。そう称すれば葉月は恥ずかしそうに目を伏せて文月は喜ばしいと言わんばかりに戦闘へと赴いた。
彼らの様子を眺めてからミセバヤは玄武と共に霞帝の守護へと赴く。
「ここを通りたくば、このミセバヤと玄武神を倒してみるがいいのです!」
「そうじゃぞ! 此処を通りたくば! あ、ありゃ、言われてしもうたか」
頬を掻いた玄武にミセバヤは笑う。彼とならばこの場は守り通せそうだ。それに、此処で頑張ったのならば後で霞帝にいっぱい『なでなで』の褒賞を給わるのである。その為に、彼の元に敵を行かせやしない――!
「折角なんだ、四神に黄龍に瑞神、全員勢ぞろいするところを見たいじゃないか。帝には召喚を完遂してもらうよ」
そう微笑んだスイッチに星羅はこくりと頷いた。戦を前に緊張している無幻を一瞥し星羅はやれやれと肩を竦めて。自分事のようで、そうでない。そんな奇怪な関係性。
「彼は国の長。指一本たりとも触れさせはしません……父と慕う人を、易々と傷付けさせるわけにもいきませんしね」
お父様と呼んだ彼女が父を傷つけられるのならば、それは己のことだと思え。そう呟いてから星羅は共に戦場へと参じる廻姫の横顔を見つめた。つくづく、現実世界の『彼』のようで、そうではない。落ち着き払って笑みをも余り浮かべぬその静かなる姿は現実の『あの人』とは乖離していて。
「廻姫様。其方の私は、いつもあのように笑うのですか」
「……はい?」
「私は……私があんな風に笑えるなんて、思っていなくて、あんなにも優しくて甘いことを言えるのだと思うと、苛々して。
――だって。死なせたくないだなんて、私が思える筈が無いじゃないですか」
人の優しさも、家族の愛を知っている彼女は鋭き刃をも受け止める鞘なのだ。故に、傷つけることでしか心も感情も気づけぬ星羅は盾なのだ。
「行きましょう、廻姫様。鞘は……あの子は、誰かを傷付けるのには、向いていないから。あの子の代わりに私がやればいいのです」
同じかんばせの女をまじまじと見つめていた廻姫は「貴女も」と口を開き掛けて噤んだ。今は、浮かんだ言葉を濁すことしか出来ないのだろう。
「……そういえば鞘のキミ、さっきは優しい言葉をありがとう」
「いいえ、私は……その……」
無幻に声を掛けたスイッチはターゲットスコープを覗き込む。そして、息を吐いた。
「そうだね、俺達も、そしてキミ達も。どちらも倒れないならそれに越したことはない。
死ぬのに慣れ過ぎてその辺りの感覚が鈍くなっていたかもしれないね。大事なことに気付かせてくれてありがとう。
……一緒にこの戦場で勝利を勝ち取るまで協力し合っていこうじゃないか」
戦場での感謝の言葉に、乙女は不思議そうに笑った。大切なときに何時も臆病になった自分が、今ならば、かの剣と共に闘える。それがとても嬉しいとでも言うように笑みを滲ませて。
「佳境、だね」
アレクシア・レッドモンドの呟きにルフラン・アントルメはこくりと頷いた。
あの拳骨は『偽にゃこ』も吹っ飛ぶレベルなのだ。静かになったからには彼女を守り切るのだと杖を握って「こんにちは」と頭を下げる。
「アレクシアせんぱ……じゃなくて、アレクシアさんを守りに来たよ!」
こっちの彼女も格好良いとルフランは微笑んだ。いつもは護って貰う自分が、今日は彼女の盾になる。それだけでなんと、喜ばしいか!
――憧れの人を守れるくらい、あたしだって強くなった。だから――絶対守る!
故に、ルフランはバトン・ド・ポムの香りを纏いながらも終焉獣へと向き合った。
甘い香りは誰のために。お腹もきゅうと鳴くけれど、美味しい食事は戦いの後なのだ。
成否
成功
第3章 第7節
霞帝を応援しながらもアマトの背筋にはぞう、と嫌な気配が走る。心が騒ぎ、落ち着かず。
その瞳に映したのは原動天か。彼の微笑の一つさえも奇妙なモノに見えて仕方が無い。
「アマトのお父様はあんなじゃないのです。
ずっとずっと、優しくって素敵で、『おいしい』を作れる人なのです。それをきっと……お父様が示してくれるから……」
霞帝が白虎と朱雀を呼び出すまで。あと少しの時間を有するなれど。
「――アマトは、少しでもその力になりたい」
願うようにそう紡いで、アマトが『元気になぁれ』と癒やすその声を聞きながら、グレイは「はあっ!」と驚いたように目を見開いた。
果敢にも原動天へと挑んだ桃色の少女。高い位置で結い上げたポニーテールが尾のように揺れている。細剣の切っ先に乗せられた闘志はラド・バウでは何時も見た。
「あ、あ……ぱ、パルス、ちゃんが来てる……すぅーーー………」
\ぱっるすちゃーーん!!/
「……と言いたいけどいや、ひとりで声援送るのもなんというか恥ずかしい……かも。
ちょっとそこの鋼鉄兵の皆さん一緒にご唱和を……せーのっ」
\\\ぱっるすちゃーーーん!!!///
グレイの声に、パルスが振り向いた。手を振って、原動天へと向き直る。そんな彼女にグレイは「ひゅ」と息を呑んで。
人の心を読むならば、パルスへの愛情で一杯になれば良い。パルスのテーマソングを口遊め、踊る彼女を応援すれば彼だって混乱するはずだ。
「パルスちゃーーん!」
手を振りながら踊り歌う。その声に真読・流雨はぱちりと瞬いた。鋼鉄の援軍が世界を盛り上げ、盛り立てて。其れだけで勝てる気さえしてくるのだから。
「各地から援軍が集まってきている。たとえこの世界が作り物だとしても、そこにある物は。築いてきた物は、本物に違いない。
クライマックスは近いのだろう。ならば派手にいかねばななるまいな。逝かねばなるまいな。彼等にみっともない姿をみせるわけにもいくまいよ。
――敵も怯んでいる。勝機は今。全て食い尽くす」
パラディーゾがひとり、バグNPCがひとり、そして終焉の獣が一匹。その他諸々。
『たったのそれだけ』を前にして怯んでいる隙も無い。ガンガン死んでガンガン糧にせよ。
愛無の刃がぎらぎらと光を帯びる。原動天など気にもとめずに進めば良い。どのみち『全部が敵』であるのだから。
「おやおや」
原動天の声音に不快感を露わにしたのはナハトスター・ウィッシュ・ねこ。ベヒーモスへと狙いを定め、ジェーン・ドゥの回復では間に合わなくさせるのだ。
星猫魔法は華麗に軽やかに。美しい流星に跨がった猫たちがワルツを踊る。気ままにじゃれて、ダンスナンバーさえも気まぐれに。猫の可愛さで周りを包み込むように。
ナハトスターはべえと舌を出した。パラディーゾは所詮はコピー。それも他者の能力をデータ改竄した代物だ。それを愛せるわけもなく。まざまざとその悪意を見せ付けられて味方できるほどに心優しくはない。その大元(ジェーン)さえもさっさと倒してしまおうか。
「猫の可愛さの前には、敵じゃないよー☆」
「ヒュウ! 弱点が見つかったかのう! それに神霊の援軍とな?
かの神異ではかなりやっかいではあったのじゃが……今となればこれほど心強い援軍は無いのう! 熱い展開じゃのう!」
ナハトスターが応戦する傍らから飛び出したのは玲。二丁拳銃を構え、そして狙い定めたのは――
「あの名無しの……ジェーン・ドゥは絶対倒す! まずは原動天、ぱらでいぞとやらじゃな!」
どちらも世界を背負う身だ。仮想現実なんのその。
一方は世界に終わりを告げて『マザー』を解き放つが為に。もう一方はこの世界を守るが為に。
「ッ、被弾! ふふん、ダメージアップ! 絶対届く! 必ず届かせる! ――この緋衝の幻影が負けるはずがないのじゃあ!」
玲が引けぬと走り出す。
放て、アナザーツインハンドガンアーツモードバレットリベリオン壱式。
例の背後で祈るように指を組み合わせていたシフォリィは目を伏せる。
石花の呪い、其れをその身に背負い生きたベヒーモス。それを護る原動天やジェーン・ドゥ。ああ、それはそうだろう。
あの獣は正しく『世界を終わらせる』為に生み出された獣に他ならず。
「それでも、生まれた理由がなんであっても、私の想いは変わりません。この世界は終わらせない、絶対に守ります!」
シフォリィはクイーンのオーラを仲間達へと宿らせた。玲へ、前へ前へと進む力を与えながらも己が想いを口にする。
「……私自身はパラディーゾもいてもいいと思います、いえ、アリスも、あの獣もいていいとさえ思っています。
ですがその目的が世界を滅ぼすというのなら、私は止めるしかありません。この世界があって欲しい 、この想いを私は貫く!」
それらが世界を壊すならば――これは『意地』の張り合いなのだから。
成否
成功
状態異常
第3章 第8節
「漸く、膝をついたか。ここでベヒーモスを一気に――といきてぇ所だが……
その邪魔をするってのなら、ここでケリを付けてやるよ。原動天!」
Teth=Steinerの手にしたSt.Elmo'sFire。エーテリック・プレートが災厄の嵐の気配を秘める。
睨め付けた原動天を地へと引きずり下ろすために。宙へ、高く。
その身を躍らせて、周囲に召喚されたのは自動反撃ドローン。行動効率を上げ、雷撃魔術を放ち続ける。
「強引に突っ込むってのは俺様の得意技でね。悪いが、その頭――無理矢理にでもブチ抜かせて貰う!」
命など、此処ではただのステータスの一つに過ぎない。ならば、それを利用するだけ。
その身が傷つくならば、最大の火力を。原動天へと肉薄し、展開されたバリアそのものを破るようにスキルを叩きつける。
「今が大詰め、ですね! ベヒーモスへの追撃も必要ですが、その為には……ええ、突破させて貰いますとも。パラディーゾ、『原動天』!」
宙へ、投げ出された原動天の体へと掠めた魔弾にカノンはもう一度と狙い定める。
権能は心を読む――ならば、それはどの範囲までか。複数対象を読めるとしても数で勝ったイレギュラーズでは『彼はその情報を簡単に読み解け』やしないだろうか。
「行けますか?」
「勿論!」
狙え。そう囁くようなカノンの声音にセララは笑みを零して飛び込んだ。
敵が終焉の獣、絶望のありかた。そのものならば、自身等は希望の勇者だ。沢山のハッピーエンドを束ねた花束をセララがその腕に抱えるために。
「さ、こっちは任せて貰おうかな?」
微笑んだのはメレム。意地悪く浮かべたその笑顔と共に、特別チューンしたスキルは縦横無尽に音もなく、影として原動天へと忍び寄る。
「原動天? んん、見た目が同じだから判りにくいねぇ。とはいえお邪魔なことに変わりはないし、倒れて貰おうか!」
影達が原動天へと襲い征くならば『お留守』になったベヒーモスを狙えば良い。だからこそ、セララは命よりもダメージを求める。
カノンとメレムが原動天を狙うその横を通り過ぎた。セララはドーナツを囓り、ダメージを与えることを求める。
ジェーン・ドゥの回復なんて通らないほどに、疾く。剣は希望の名を乗せて。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
―――――――!!
ベヒーモスの叫声を聞きながらも『優帝』たるいりすは兵士達を振り向いた。
「ようやく戦いが終わった、という所で次の戦いになってしまってごめんなさい。
でも、それでも来てくれてありがとうございます! ここからは自分の所だけではない、『世界を救う』戦いです。
勝利の凱旋は誰一人欠けずに、全員で生きて帰ってです!!」
司令塔たるいりすの傍らで夢見・マリ家が唇を吊り上げ笑う。猛虎魂にその身を包まれて、好戦的な兵士達の胆力に大きく頷いて。
「鋼鉄の皆様! ジェーン・ドゥならびに原動天と戦う仲間達の援護をお願いします!
ですが無理はしないよう! 皆様こそ鋼鉄の宝! この大戦に勝利した後にこそ真に皆様の力が必要なのですから!」
マリ家はあの巨体に秘められたパワーは正しく『鋼鉄をも凌ぐ』ものだと鼓舞をした。
「良いですか? 今回も飛びぬけて強い敵がいます。その敵への対処とベヒーモスへの攻撃は、何回でも復活出来るわたしたちイレギュラーズで行います。
だから、皆さんには周辺の終焉獣への攻撃、可能であれば殲滅をお願いします!
それと、石花の呪いもありますから少しでも体の様子がおかしいと思ったらすぐに下がって治療薬を飲んでください!」
いりすの指示にマリ家は「それでは行きますよ!」と飛び出した。この好機を逃し破線と飛び出してゆくマリ家の瀬を眺めてからソール・ヴィングトールは肩を竦めた。
「二人とも、酷な事を言う。そしてそれは正しいことだ。――だが」
自身等の『鋼鉄』がその様な事で怖じ気づくと思うたか。
否。
否、だ。
鋼鉄とはどのような国であったか。強かな戦士の集い。つわものだらけ、命を大切にできるなど、ソールは思ったこともない。
「無論、その命はあたら無為に消費するべきものではない。だが、全てを余らに委ねた勝利に意味はあるか?
余(エーデルガルト)が叫んでいたのは、そういうことだ。
高らかに鬨の声を上げよ! 余が許す! 余は、汝らの夢を肯定する者!!
――共には死んでやれぬが……余は、それを心に刻もう」
優しさは戦士には酷だ。
ならば、征けば良い。満足するためにこれは戦士の凱旋ぞ。
生き延びるためならば、存分に指揮を支えをしてやろうではないか!
成否
成功
第3章 第9節
「原動天をどうにかしないとアリスとは話せない……よし、デッカくんに特攻!! パラツルギくんは誰か倒しといて!ㅤ私は食べられてくる!!」
そう仲間達を振り向いたきうりんにリュートが「いくっス!」と同調した。お口から食べられる組のやる気は十分だ。
「膝をついた、つまり口の中に飛び込めるッスね! お薬抱えて飛び込むッス! お薬嫌いでもちゃんとごっくんするッスよ!」
「はっ、オルドネウムくん!ㅤ『アレ』やるよ!ㅤえ、わかんない?ㅤ私がやってたやつだよ!!」
あれってなんだと言うようなオルドネウムに背中に乗せてくれときうりんはよじ登った。負けじとリュートもよじよじと登ってゆく。
其の儘上空までの竜との散歩。そんな奇跡のような光景の後に待っているのが――
「「いってきます!」――ッス!」
所謂、ベヒーモスへのお口ダイブなのである。
「ウワアアアアアア! まずは味見からどうぞ!ㅤ美味しいよ!!」
勢いよくきうりを放り込み、口腔内へと飛び込んでゆく。
リュートはお薬を喉にぶち込んでやると飛び込むが、けだものの体の中で耐えられるわけも無い。
悍ましい気配が身を包む。瘴気に溢れた口腔内にあったのは石花の呪いか。身をも蝕まれようとも出来るだけ傷つける。
リュートの決死の一撃は、その喉に風穴を開けるには至らない。だが、臓腑を傷つけられたか。
「ああああああ、まって、胃腸までスライダーッ、アッ、とけ、溶ける――!」
きうりんの叫び声に、体内での作戦は一筋縄ではいかぬと悟ったのだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第10節
「原動天のツルギさん、ちょっと遅すぎない? 待ちくたびれたよ」
肩を竦めたイズルに「どうにも、出番を頂けなかったのですよ」と原動天は微笑んだ。
その笑み一つに九重ツルギの笑みは凍る。ティータイムを楽しんでいた彼らは本気を出したのだとタイムはじり、と距離を詰めた。
地へと叩きつけられた彼は汚れた衣服から埃を払う。仕草一つとってもスマートだ。
「征きますとも、原動天。
終焉と共に在る限り、貴方は決して俺達に勝てません――希望は、絶望の中でこそ強く輝く。光差す道を信じて、前へ!!」
堂々と告げるツルギへ頷き剣を構えたのはホワイティ。自分を導く光があった。これは根比べだから。
「原動天……貴方の強さは知ってるつもり。
ツルギさんには何度もお世話になったからねぇ……その力を映し取ったと言うなら、確かに『そう簡単に征かない』だろうねぇ。
それでも、わたし達は必ず、あの獣を倒す。それだけは、絶対に譲れない。邪魔をするな、原動天……!」
つわものの凱旋をも止める。希望になど届かせぬと言う男の意地に負けては行けぬとホワイティは思い浮かべる。
――ねえ、もしも。
あの声が、力をくれるから。ファントム・クォーツは「全く、皆揃って好戦的ね?」と揶揄うように笑みを浮かべた。
「遅れたけれど加勢に来たわ。味方は多いほうがいいでしょう?
それと戦闘ですっごくすっごくがんばったらアトさんもデートしてくれるかもしれないし……しれないわ!」
愛しい人が「へえ、結構頑張ったね。デート? 構わないけど」と言ってくれるように頑張るのがファントム流。
彼女は複数人の心を読むことで彼が混線して動きを鈍くさせたことには気付いて居た。
「私は今、あの人のことばかり考えてるわ!」
「俺は、えっと、えっと……可愛いドールのことを考えてるよ!」
ふわふわと腕を揺らしたアダムに原動天は薄く笑みを浮かべた。さて、『無用な考え』が彼を惑わせるのは確かだ。
「どうやら降りてきたようだな源動天。俺の矢はどこまでも追い喰らいつく。希望は絶望より強く、高いということを我が矢によって示そう」
CALL666は原動天がどう立ち回ろうがやることは変わらないと弓を番えた。ぎり、と音を立て狙い定める。
それは自分自身が彼に出来る最大のもてなしだとでも言うように。
「どーも原動天がアリスに何らかの行動制限してるようにも見えるのよね。
彼女の意思を揺らがせない為か、それとも……? ん~! 拳を交えてみれば分かることもあるわきっと!」
「レディがお求めであったならば応えるのが俺流ですよ」
笑うその声に「1から10まで説明してくれない?」とタイムは唇を尖らせた。ヒイズルで共に戦ったツルギとは全然本質が違う。
パラディーゾ『九重ツルギ』を名乗ることさえタイムには許せない。
それはイズルも同じであったか。
「さあ、今度こそ、私と踊ってくれる? ――キミの本性(なかみ)を見せてよ」
「さあ、貴方の本性(なかみ)――ブチ撒けて戴きましょう!」
イズルとツルギのその言葉にスキャット・セプテットはやれやれと肩を竦めた。全く、長く共に過ごせばよく似てくるのだろうか。
「それにしても本当にそっくりだな。おかげで心置きなく戦える! さぁ盛大な親子喧嘩といこうじゃないか!」
途惑う事なんて無い。心を読んで動きを読めても、一斉ならば理解も出来ない。心を読み解いたのは『夜明けの求道者』を更に強化したからか。
「ああ、そうか。『お父様』はそうだったな」
呟くスキャットの攻撃を弾いたのは硬質のバリア。だが、それを見る限り原動天自身にもダメージが入っている。
「そのバリア、万能ではないんでしょう? 私たちの一撃よりも降り積もる一撃の方が辛いなんて顔、させないわ」
タイムが叩き込んだパンチがバリアへと弾かれる。己の顔が殴られている様子を見ればツルギは「なんとも」と苦い笑いを漏らした。
「いや?」
「いいえ、むしろ面白くもありますよ」
本性(なかみ)をブチ撒ければ屹度、全くの別人なのだ。けれど、よく似ている。同質であろうデータ。
それはイズルもよく感じている。
「私のツルギさんとキミは双子の兄弟のようだと言ったけれど……やっぱり『ツルギさん』なのだね。
いつでも、格好悪い所は見せたくなくて。余裕ぶって見せて……一人で抱え込んで。
――何度でも戻ってくるから。殺すがいいよ、幾度でも、私を」
「……ああ、全く貴方は……」
呟いた原動天の狙いがイズルへと定まったか。スキャットは「よく似ている」とツルギを肘で突く。
「させません!」
「分かり易い本性(こころ)だ」
弾かれた攻撃に一度後退する。アダムは「うーん」と唸った後、鋼鉄軍を振り向いた。
「コウ! もう一度君と、君の大切なドール達の力を貸して! 君と一緒なら、俺は、きっともっと強くなれるから!」
頷いたのはドールマイスター・コウ。その表情から滲んだ決意にアダムは安堵を覚える。
護るための、そして、仲間のための。可愛い魔法を受けながらファントムは馬に跨がり走り出す。
紅い花弁のブレスは享楽的に。醒めない夢は英雄であろうことを目指した悪魔の囁き。ファントムの盾が原動天の刃から放たれた衝撃を弾く。
力を貸してと呟いて、儚い灰色の魔力をその身に宿してホワイティは陽光の力の全てを力に変えた。
「――喰らえ! 原動天!」
「そうは行きません!」
身を翻すツルギの一閃に、ホワイティの膝が震える。だが、そのバリアは貫通した。
もう一度。あと少しだと言う予感をさせて。
成否
成功
状態異常
第3章 第11節
――データが更新されました。
空中に表示されたシステムメッセージを眺めてからジェーン・ドゥは「そう」と呟いた。
眼窩を望めば、足下で戦い続ける『原動天』の姿が見えた。
彼は――否、先に逝ってしまった『恒星天』も含めてではあるが――ジェーン・ドゥにとっては己の制御を行うための機構の一つに他ならない。
ジェーン・ドゥは自身が如何に『少女的』であるかを知っている。
言葉一つに翻弄されて頭を掻き乱してでも憂慮を断たんと走り回る自信があるのだ。
過去、『境界進度と可能性の増加によって自身の世界が統合された』時もそうだった。
どうして自分がこんな目に遭うのかと叫び、駄々をこねるように世界に顕現せしめた。
そうして残りかすのように余ったデータを境界図書館に目を付けていた『練達』がデータ収集をしたのが現状だ。
つまり、ジェーン・ドゥと呼ばれた娘は本来ならばこの場所には存在しない旅人であった。
彼女が抱いたのは一種の諦観だったのだろう。
『マザー』によって救われ、彼女の不憫な境遇を救い出したいと願ったジェーン・ドゥはその目論見に失敗した。
一度、また一度。何度もイレギュラーズに阻まれた。
其れを繰り返す度に少女が抱いたのはある種の自殺願望と、必至に世界を救わんとする彼らの目的を阻むことだけだった。
……八つ当たりと呼べば何とも幼さをも感じさせる。
だが、確かに――ジェーン・ドゥはそう思っていたのだろう。
『マザーをこの国に縛り付けるのはなんと不憫なのか』
『世界を救いたいと願うならば、自分が起こした行動だって同じであったのに』
一方の主張を通せば、一方が不幸になる。
世に有り触れた事象の中で、ジェーン・ドゥは仲間と呼ぶには足りない程度の協力相手を見付けた筈だった。
「ああ、そう。貴方も逝っちゃうのね。
そうね……そうよね、私たちは物語のヴィランだもの。
そうやっていつかは死に絶える役目、なのだもの――其れで構いやしないわ?」
ジェーン・ドゥが目にしたのは『ピエロ』と呼んだ男がイレギュラーズに破れたという情報であった。
彼が存分に抗って破れたのならば文句はない。
それはパラディーゾにだって同じだ。
彼が戦って満足したのならば、それで構いやしない。
「少しだけ寂しいわよ。諦めてしまってはいたのだけれど。
私の自殺にみんなを巻込むくらいは許して頂戴よ、ツルギ。もう少しだけ時間を稼いでね?」
囁くように降り注いだ声に『原動天』は頷いた。彼とて、イレギュラーズの足止めをし続ければ長くは持たない。
それでも構いやしない。彼らが理知的に行動するだけの時間を稼いでくれれば。
鳴いて、喚いて、どうしてどうしてと叫んで駄々を捏ねる女に成り下がるまでの時間を稼いでくれれば。
「デッカ君。一緒にお外に出ましょうと言ったけど、ごめんなさいね。
無理だったらこの世界を滅ぼしてから、私と一緒に死にましょう?」
名無しのアリス『ジェーン・ドゥ』は元より、救われたいなどと――『もう』思って居なかったのだから。
第3章 第12節
「──ジェーン・ドゥ、君は。もう諦めて……」
シャルは、彼女を見遣った。ベヒーモスの傍らでそれの終をも『望まぬ』ジェーン・ドゥは心に決めた未来があったのだろう。
其れを彼女の意思なのだと、受け入れることは易かった。玲がドレッドノートを構えたように、シフォリィが願うように魅剣デフォーミティを手にしたように。
シャルという青年は唇を噛みしめた。護るべきと共闘した『青藍の騎士』――それは、R.O.Oでのシャルティエであり、伝承の騎士――にレッドモンド神官を任せ向き直った強大なる獣。災厄を塗り固めた驚異そのもの。
「……、それでも。まだ……まだこっちは諦められない。
ただの不幸で世界ごと拒絶された彼女を。最初に会った時……きっと今も、悲しんでいる彼女を。諦めきれない……! ……原動天。悪いけれど、そこは通してもらう!」
叫んだシャルに『原動天』九重・ツルギは片眉だけを上げて合図をした。彼を狙うのは何もシャルだけではない。
シャルが踏み込むと同時、嵐の如く風が吹き荒れた。至近に迫るは白銀の騎士ストームナイト。
「久しぶりだ、『原動天』。翡翠のときとは立場が逆になったな。今度は貴様が護り、私が攻めるというわけだ。
お前が拠って立つものが何であるかは問わぬ。ことここにあっては、ただ打ち合うのみ!
――貴様を討ち、巨獣を討ち、少女を討つ! この世界を護るために!」
「ええ。其れで良いのですよ」
小細工もなしに飛び込んできたストームナイトに笑った原動天は後方でベヒーモスを癒やすアリスをちらりと一瞥した。
そう、それでいい。彼女は最初から決めていた。
救われぬままの自分よりも、救われるかも知れない『母』を救いたい。
それがどうして――今や自分こそが病原体となったのか? そんな状況下で最早救われたいなどと望むわけもない。
「アリスに情けなど、掛けないで頂きたい」
「……どうして?」
静かに告げる原動天。ジェーン・ドゥにとっての『己の制御装置』に向き直ってシフォリィは仲間達へと支援を送る。
「どうしてですか? 彼女は、勘違いをしているだけでしょう? ……ねえ、アリス。この世界は母とあなたにとって繋がれるたった一つの世界。
そしてそれはきっと私も同じです。だからこそこの世界は壊せない。母がいて父がいて、愛する人を喪わない私の歩めなかった幸せな道を歩む私がいる、それだけで私は戦えます。……私が戦うのもそれが彼らを守ることに繋がる筈だからです」
シフォリィの背後から飛び出したのは玲。連続攻撃が原動天へと降り注ぐ。シフォリィの『気持ち』に気をとられていたと顔を上げた原動天の頬を掠めた弾丸がベヒーモスの肉体にまでも吸い込まれてゆく。
「だから退きなさいパラディーゾ、たとえ生まれた存在意義が少女の母を守る為だとしても!」
「いいえ――それが私の存在意義なのですから!」
原動天が展開したバリアが玲の弾丸を弾く。構えたドレッドノートの代わりに、次に向けられたのはデザートホークカスタムオートマチック。
「今際の別れじゃ、少しくらい世間話をしてもゲームマスターは許してくれるじゃ。のう、ジェーン・ドゥよ、もう皆、散っていったぞ」
「……」
「アリス、聞かなくて良いですよ」
原動天が、玲の言葉の邪魔をする。その様子を眺めていた指差・ヨシカがトゥインクルハートロッドを構え、魔法陣から杭を落とす。最早悠長に構えている時間は無いのだから。
「残すはお主と……現実側に姉ヶ崎-CCCがおったか。大将首も討ち取られ、でっか君も数刻で沈むじゃろう。
どうじゃ、妾とも一緒に死んでみぬか? 妾もこれでもプロの死者じゃぞ?
あっとそれと、訂正するのじゃ。妾は、私ちゃんは『主人公』などという大それた役など持っておらぬ」
「アリス!」
原動天の声に、口を開き掛けたジェーン・ドゥが黙りこくった。見下ろす瞳は冷ややかに、それでも玲とヨシカを眺めているか。
「お主と同じ、主人公『以外』じゃ。今回は大層振り回されたがの! にゃっはっは!
――じゃがの、楽しかったぞ、大勢で踊るステージの上は。お主はどうじゃ、楽しめたかのう?」
「私は……」
楽しかった、と言って欲しい。いや、楽しいからもっと生きていたいと叫んで欲しかった。ヨシカは息を呑む。誰かが目の前で死ぬなんてご免だ。そんなの『慣れちゃいない』のだから。
「まだ居場所があるかも知れないじゃないか! 私……ううん、僕が君の居場所を一緒に探すから!
僕は見たんだ、バグと呼ばれる者達が楽しそうに笑い過ごす場所を。要らないと言われたものたちが互いに必要として生きている姿を!
君の物語も、君のお母さんの物語も今ここが始まりじゃないか。僕達がマザーに甘えていたのは間違いない。
でも君達はそれを教えてくれた。変わるのはこれからだ。変われるんだ、この世界も、外の世界も、君も、僕も!」
ヨシカの言葉にジェーン・ドゥは『笑った』
原動天に指先で合図をして、彼の刃が鋭くもヨシカを切り裂いて。痛みに呻きながらも少女は叫ぶ。
「だから君を救わせて欲しいなんて言わない。見ていて欲しい、僕達がまた誰かを犠牲にして平和を作らないように! どうか……!」
「――変わるには、犠牲が必要なのよ」
諦観は影のように傍にある。
憧憬は霞のように直ぐ消えた。
少女の言葉を代弁するように原動天が玲のその身を切り裂いて。
成否
成功
状態異常
第3章 第13節
「なんだっけか……チェスとアリスの物語の、白い騎士。
――去りゆく時にあなたが見ていてくれるなら、きっと私は勇気づけられるでしょうだっけか?
でも、見られてる方と見てる方。勇気づけられてるのはどっちだろうな」
そう呟いたリックは正々堂々勝負だと原動天のバリアに臆することなく雷の精霊力を放つ。
騎士の一撃に込めたのは世界を滅ぼすという深謀遠慮よりも尚、シンプルに格好良く『楽しむ世界』への心持ち。
「カッコいいだろう!?」
「……ええ、そうですね」
落ち着き払った原動天。だが、そのかんばせには僅かな焦りが滲んでいたか。その気配に気づきながらもアマトは息を呑む。
(お父様が、あんな顔をするなんて。アマトはかなしいです)
後方では霞帝の召喚が続く――白き気配が漂い、淡く光を帯びたのは硬質なる金の気配。その中に揺らぐのは秋風か。
支えることを目的とするアマトは、これが現実世界で頑張るマザーへの支えになると認識している。
マザー。
彼女を救うことこそが練達への救済になるのだと。その言葉を口にして、ロンロンは「ええ! ええ!」と大きく頷いた。ミラー・シールドが鮮やかに光を返す。砂漠に溢れた白砂が吸収する光は、絶えずその盾を輝かせて。
「拙者が見たいものは人の営み! 拙者人好きでして、それが絶えてしまうのは心苦しいものです。そしてそれは貴殿達にも言える事です。
原動天、九重ツルギ殿……そしてジェーン・ドゥ殿。拙者のわがままを申すなら、彼らが紡ぐ物語も見たいのです!」
「俺達を『人間』と認識するのですから、イレギュラーズはお優しいことですね」
肩を竦めた原動天の刃を受け止めたロンロンは唇を噛んだ。押し返すようにシールドをぐっと前に押し遣って。アクティブスキルも乗せられたのは継続戦闘の計略。
「がら空きですよ」
横面を目がけて原動天の拳が叩き込まれた。ロンロンが咄嗟に身構えるが、彼方の方が上手か――それが彼の『権能』である事に気付きアズハは息を呑む。
「考えが読める、と。俺のもそうだったが、パラディーゾの能力は本当に厄介だ。
だが無敵ではないはず。突き崩すぞ。……また会ったな。今度の狙いは貴方だ!」
その声音に乗せた激情は彼の音を消し去った。瞳は閉じて、出来うる限り原動天の狙いを避ける。その能力も万能とは言えないはずだ。何か発動の条件があるだろう――例えば、目が合う。姿を見る。
それはある種正解か。アズハの存在を認識していない原動天は彼からの一撃を受けるまでは全く以てその行動を読みやしなかった。
再度、アズハが雲隠れするようにその姿を隠す。その一助となったのは激しくも内蔵火器を放ち続けるΛの『連装魔導噴進砲』
弾頭は炸裂し、その内部より呪印が溢れ続ける。周囲に降り荒むのは弾子の雨霰。その無機質に『心なき』弾丸の行く手をバリアで凌いだ原動天が気をとられていると振り返る――視線の先。
「諦観か。摩耗し、磨り減り、全てを失う。死ぬために生きるという矛盾。
まさしくバグか。誰しもが、正しく生きられるわけではないからな。救えるモノ、救えないモノ。
零れ落ちたモノを思えば、虚しさが無いわけでは無いが、立ち止まるわけには行かないのだ。
……足を止めてしまえば、守れたはずのモノも取りこぼすのだから」
真読・流雨の体がベヒーモスへと肉薄した。護りたいモノを護るために。狩りたいモノを狩るために。障害を排除する。
それは例えばベヒーモスであったり、その傍に付き従うジェーン・ドゥ。元より流雨には彼女の『ナイト』に構うつもりはない。
「ッ、貴様――!」
「余所見か。気も漫ろになればそろそろ分かるだろう? 天秤はすでにこちら側に傾いている……このまま征けば君たちの行く末は破滅だよ?
……まぁ、もとより覚悟はできているか……。
ボクも人によって造られて自我なんてものを得た身、君たちという存在には多少は同情してはいたよ……さて、もう終わらよう」
終焉を望むというならば。Λが攻撃を放てば、そのアクティブソナーで僅かに捉えたアズハの動きに合わせて攻撃を放つ。
流雨は原動天を見上げた。
彼はつくづく、此方と同じだ。どうにも、作られた彼は『彼女を護るため』に戦っている。其れが己達の根比べだというならば。
「――同じ、だというなら。何とも救いのない」
成否
成功
状態異常
第3章 第14節
「なるほど状況は理解いたしました。まず狙うべきは原動天。ジェーン・ドゥへの道を切り開くと致しましょう――この世界を守るために」
瀟洒なメイド服に身を包んでいたイデアはそれでも尚、気が高揚していると唇を吊り上げる。笑みを浮かべた訳ではない。ただ、己の心持ちを伝えただけだ。
黒騎士人形は原動天を狙い澄ます。人形遣いは、人形と共にある者。故にイデアは容赦をしない。
「貴方たちパラディーゾも出会い方が違えばきっと今とは違う関係だったかもしれません。
ですが今はこうして相対していて残された時間もわずか――ならばすることは決まっています。
貴方を倒し、この世界を救うための道を拓かせていただきましょう」
世界を救うという大義名分を前にして、悪役を『退ける』のは何時だって英雄の仕事だと決まっているのだから。
身を避ける原動天を『壁』と見立てれば、弾丸上の狂気(エラー)が飛び込んだ。言霊は呪詛となり、病魔が嘲笑うように原動天のバリアを罅割らす。
デイジー・ベルは真っ向勝負だと至近距離から巨大な手を伸び上がらせた。彼や彼女との間に己が持ち得た呪詛もなければ所縁も無い。それでも、だ。
「理由など、必要ありませんか?」
「ええ。破壊させていただく。ただ、それだけです」
奢ることなく、その気持ちを叩きつける。デイジーの傍らからするりと顔を出したセフィはやれやれと肩を竦めて。
「ふむ、どうやら大事なお茶会に遅れてしまったようですね。
……見下ろされるのも気に入りませんが頭上を飛び回られるのも気に食わないので飛んでるまずは終焉獣を優先的に狙っていきましょうか」
それは嘗ての技を再現したスキル。ビームヴァジュラを振り上げて、放たれた衝撃波がバリアに弾かれる。その様子や実に『ゲーム』的。まじまじと眺めていたのはルイズ・キャロライン。
「ゲームとはいえ、何やら面白そうですね。背後にあるのは終焉の獣、そして現実世界を侵食するウイルスの唯一の被検体。
此処で顔出しの一つ位をしておきましょうか……せっかくのゲームだというのに慣れない体はままなりませんが」
不便だと呟いたルイズの握った菊一文字。敵意を潜めて、ただの一閃。初手に手首をとはならずとも、叩きつければバリアなど貫通できる。
「あっははは♪この程度の戦力でこの大きさの獣に立ち向かう…現実じゃ有り得ない経験ですね!」
死すらも恐れぬ空こそ成り立つ攻撃なのだとルイズが笑えばデイジーが肩を竦めて。それもそうだ、見上げてもその頭のしっかりと見ることも出来ない大顎がそこにはあった。
膝を突き、削がれた肉から溢れ出した血潮――否、それは今になれば分かる『クリミナル・カクテル』の残滓が石花の呪いを齎すことを狙うのだ。
「死すら恐れず突き進むのみでしょう。目的は――」
イデアがちらりと後方見遣れば、その視線に応えるようにアクセルが飛び上がった。懇切丁寧にこの世界のことを説明されようが、理解にはほど遠い。そもそも、だ。世界の成り立ちから、現状のあらましまで一口で説明できるわけもないのだ。
だが、それでもいい。分かりきった単純なことが目の前に在れば良い。それは、ダリウスも同じだ。
「こっちの戦場は飛び込みだから込み入った事情は知らねぇが、つまりはパラディーゾ殴ればいいって事か? そんじゃぁ問題ねぇ! やる事はいつも通りだ!」
ジェーン・ドゥとベヒーモスを打ち倒すために、パラディーゾを倒しきれば良い。死亡なんぞ積み重ね続けた。
今になって日和る理由も此処には無い。
影すら掴むことも適わぬ素早さでダリウスが戦場を駆け回る。身より溢れた黒靄は悪しき蛇の如く伸び上がった。
原動天のバリアがばちん、と音を立てて弾け飛ぶ。「おや」と呟かれた彼が余所見をした隙にアクセルの『牙』がベヒーモスへと届いた。
「余計なことを考えちまったら……せっかく手に入れたこの腕も鈍っちまうってもんよ。自分がそのへん弱いことは……まぁ、自覚はあるんでね」
唇を吊り上げたアクセルは余計なことなんて此処までだと原動天を見上げて唇を吊り上げた。
心を読むなら読めば良い。複雑怪奇な『乙女』の心は今は置いてきた。あるのはただ、ただ、拳を叩きつけて殴り続ける、それだけなのだから。
成否
成功
状態異常
第3章 第15節
「ジェーン・ドゥ……ううん、ネリネ氏。会いに来たよ」
彼女に名前がないのならば。そう呼ぼうとアオイは決めていた。来るのが遅いと叱責された方が良い。
それ位であればいい――何も出来ないまま終わってしまうなら屹度、酷く後悔するのだから。
咲き毀れた歌う花さえ此処にはなく。あるのは無味乾燥とした砂漠だけ。その世界の中で、アオイは原動天を睨め付けた。
個人的だと笑う勿れ、アオイの苛立ちはヨハンナとも確かに同じ。パラディーゾは『本来は存在してはならない』と彼は言った。その存在に課せられた使命がある、とも。
「……ふざけるな。パラディーゾの1人に友達と呼べる人が居た。けど『誰かを救いたい』って、竜二氏はその命を……
それを最初からそう作られたからなんて。使命や設定なんて言葉で僕の友人の意思を否定させるもんか!」
「『元データに沿って情を有した方が壊しにくくなるでしょう』とは我らがレディのお言葉でして」
原動天はにんまりと微笑んだ。その言葉に唇を噛んだのはヨハンナであった。鋭利な牙が唇を突き刺し、紅い血潮をぷつりと産んだ。
「……お前らに。コピーNPCに情を移すのは馬鹿げてるだと?
例え、この世界が作り物だろうと! この世界で皆は生きてるのに!! ……情を移すのが、馬鹿げてる、だと? そう、言ったな。お前は」
「貴女のためですよ。レディ。
……ベヒーモスの、いえ、『石花の呪い』は即ちウイルス『クリミナル・カクテル』の欠片。データを破壊するだけの代物です。
それの被験者たるジェーン・ドゥ。識別名『アリス』が生み出したバグエネミーが『クリミナル・カクテル』の欠片ではないなどとお考えで?」
原動天はジェーン・ドゥの代わりにそう告げた。確かに、パラディーゾの一人二人が世界の残されようとも問題はあるまい。『増える』可能性は否めないが、其れ等を全て根絶やしにする必要は無いのだろう。だが――
ヨハンナは原動天を見遣る。そして、「ああ、そういうことか」と合点が言った。彼と、『恒星天』ひめにゃこは『アリスの直系』。即ち倒さねばならぬ存在として『コピー元』の性格を色濃く反映し、戦う事を望んだか。
「アンタも色々事情がある口かい? もしそうなら全くやり辛いったらねぇよ。全員ただの外道なら気楽なんだがね。だがこっちも退けねぇんだ。覚悟しな」
「いいえ、ただの外道、ですよ」
肩を竦める原動天に天川はやれやれと肩を竦めた。持てる技術全てを原動天へと叩きつけようと、どうにも『やり憎さ』だけが尾を引いた。
「多勢に無勢でこんなこと言えた義理じゃねぇが……これが俺の誠意だ。受け止めてくれるかい?」
「貴方のような男の方がよっぽど好ましいですよ。……倒されないことを、俺は望んでは居ないので。この命が燃え尽きるほどの闘争があればいい」
やれやれと天川は肩を竦めた。彼のように心を読めれば違う本音を引き摺り出せたか。天川の刃を弾いた原動天のバリアを突き破るように飛び込んだのは凍て付く槍。
「心を読むのよね? ふふん、問題ないわよ。ええ、問題なんてあるものですか。
だって、この戦場には今パルスちゃんがいるのだもの!
パルスちゃんの姿を遠目でちらっと見ただけでも、なんなら近くで戦っていると考えただけでも、私の頭の中はパルスちゃんのことでいっぱいになってしまうのだもの。あ、見て。こっちを見て手を振ってる! アッ……パ、パルスちゃ……。
それを読んでも伝わるのはパルスちゃんがどれだけ素敵なアイドルかということだけよ!
こほん……つまり、私の心を読んでもらえばパルスちゃんのことが好きな人が増えるということよね。さぁ! もっともっと私の心を読んでいいわよ!」
「パッルスちゃああああん!」
吹雪とグレイの『パルス』推しにぎょっとしたような顔をした原動天は面白いと言わんばかりに笑った。その声に応えるように飛び込んできたのはパルス・パッション。
吹雪とグレイの息が「ひゅっ」と詰まる。応援してくれるから、強くなれる――なんてパルスが胸中に浮かべた気持ちを死んでも代弁してはやらぬ。
「ところでさっき原動天、君、頷いてたけど彼女は先ほどは何て? 足止めがんばれとか……言ってた?」
「さあ?」
肩を竦めた原動天にまあいいや、と呟いてグレイは『筆頭ファン』と共に、パルスに行き会わせコンビネーション攻撃を放つ。練習なんかしなくてもファン魂で熟して行ける。
「そのバリア、斬り貫いてやるよ――原動天、君とのケジメをつけたい仲間達のためにもね!」
原動天がいる。そして、手付かずのジェーン・ドゥにベヒーモス。巨大なエネミーが居ることには変わりないかとシャドウウォーカーはまじまじとその様子を見遣って。
「任せて!」
気配を消して原動天へと突き刺そうとするエレキダガー。瞬時の所で軌道が逸れたか。彼の頬に紅一閃が引かれた。
「後ろにも目を付けたら? あっても休む暇なんか与えないけどね」
「やれやれ、そうしてもよさそう、です――ね!」
叩きつけんばかりの勢いでシャドウウォーカーの身が宙を飛んだ。だが、それでいい。その隙を狙えと唇が揺れ動く。
頷いたのは吹雪であったか。『パルス親衛隊』アタックを見詰めながらもシャドウウォーカーは『敢えて原動天』に察知されながら動く。その意識を乱し、攻撃の隙を与えるために。
成否
成功
状態異常
第3章 第16節
春さん。梨尾はジェーン・ドゥをそう呼んだ。彼女に声が届く距離へ――梨尾を補佐したのはフェアレイン=グリュック。
「声が届かなければ無意味か。救えなければ無意味か……レイさんはそう思わない」
フェアレインは唇を噛みしめた。梨尾が前へと飛び込むならば、自身はその道を開くだけ。ジェーン・ドゥ。彼女に、伝えたい言葉が彼にはあるから。
「長い間独りだった子がヴィランとして最期に独りで終わるとしても、かけられた声が独りにさせない。
死の向こう側へと一緒についていく――だから道を作る!」
梨尾は食らい付かん勢いで飛び込んだ。回復行動をするだけのジェーン・ドゥでも戦うだけの力はあるか。
迫る梨尾を振り払うようにモザイクの欠片が空より降り注ぐ。
「使命がどうした! ヴィランがなんだ!
貴様の決めつけが本当だったら兵器として作られた俺は旅人になる前に死んでる! 俺にとってはうちの子も貴様も春さんも存在していい!
ッ、春さん。貴方がマザーをお母さんと思うのなら、親より先に死のうとするな親不孝者! 置いて逝かれる方はつらいんだぞ……」
「私が生きていると、母は死ぬわ。そういう風に出来ているのに? のうのうと生き延びて母を殺せというのね」
冷たい、瞳だ。彼女のその事情を代弁することない原動天は「アリス、答えなくても良いのですよ」と微笑んで。彼が、彼女の情動を補佐している。ある種、彼が居る間にはジェーン・ドゥという娘は脅威にならぬと言うことか。
「冷静に話してくれるのは有り難いですが……此方の言葉も彼方の思いの丈さえ、シャットアウトしてしまうのですね」
肩を竦めたカノンはそれが彼の使命なのだろうかと唇を震わせる。誰かの伝えたい言葉を連れていって上げたくとも、猶予は残されていないか。
「流石はパラディーゾ・原動天です――ですが、私達だってこの世界を滅ぼさせられません、負けられないんです!
私も、そしてきっと『私』もこの世界は嬉しく、感謝しているんです。死力を尽くして押し通らせて貰います!」
広い世界を旅するパラディーゾの『カノン』は引き際を理解すれば直ぐにでもカノンに託してその姿を消すだろうか。冒険精神を全開に襲い征く魔弾の雨を眺めて「ふふ」とすあまは小さく笑った。
「最初はほんとに勝てるかちょっと自信なかったんだけど、黙ってたんだよねー。ほら、かっこ悪いから。
でも今はほんとに勝てそうじゃない? ここで負けたら一番かっこ悪くない?」
「かっこわるい」
「だよねえ? そういうのって大っ嫌いなんだよねー! 行こう小さいラダ。まずは原動天に引導渡そ!」
ラダの手を引いて、すあまは走り出した。彼女の攻撃が届く範囲にまでその身を届け、そして身を挺して戦い続ける。
この世界を護りたいと願った自分たちのように、原動天はジェーン・ドゥと共にある事を決めたのだ。
「きみはあの子達に最後まで付き合うんだね。ちゃんと自分で決めて、そうやるんなら何も言う事ないよ」
それ以上、すあまには掛ける言葉なんて存在しなかった。罅割れたバリアに崩れた冷徹さ。何処までも人間である事を思わせた男のかんばせへと目がけて爪を突き立てる。
「そう。戦う理由があるのよね。ごめんなさいね、貴方には恨みはないのだけれど……
あたしは練達に何かと縁が出来ちゃってね。空気が澄んで綺麗な星が見えるとか、甘い香りのお花畑があるとか、そういうのじゃないけど……。
どっちかって言うと年季の入った建物や新しいビルなんかが乱雑に並んで混沌とした場所。
そんなのだけど、ホストクラブ「シャーマナイト」だってあたし気に入ってる。守る理由出来ちゃった――だから……だから! 変身!」
シトリンはりりかるまじかるステッキを振り上げる。フロントラインと名付けた光学スーツに身を包みアクティブスキル――目映き光を湛えたビームを放つ。
衝撃波を思わすように原動天の放った攻撃を受け止めたのはH。やれやれと言わんばかりに肩を竦めた彼の隣ではアイが天星を構え佇んでいる。
「ここでも原動天か。普通人間を『おい、人間』とは呼ばねー。名前はなんだ? アンタ自身の名前は」
「名前、僕も知りたいネ」
その言葉に原動天は「九重ツルギと申します。コピーですから『元データ』と同じ名前ですよ」と仮面のような笑みを貼り付けた。
「そうかい。で、ツルギ。さっきの俺達を見ていた視線がどうにも気になって仕方ねぇ。なんで戦ってる。どうにも見えねぇ、アンタ自身の目的がよ」
正義で戦ったパラディーゾ・スティア。ぱらすちを見れば彼らがただのバグじゃないとそう、思える。
自身等と変わりなく心というプログラムが為されているパラディーゾ達は『人間らしくあれ』とジェーン・ドゥより教えられたらしい。
「バグだ何だというけれド、君達は僕らに取っちゃ生きた人に変わりなイ。産まれた世界は違えド、分かりあえる存在だかラ。
大体結構な人らが我を通して消えるけれどサ。僕は誰も死なない未来が欲しいのサ。だからベヒーモスも狂化を抑えたいだけだし……」
駄目なのかな、と肩を竦めるアイに「それはそれは」と原動天は笑った。
「それでも、ベヒーモスは救えませんよ。アレが生きていればマザーのクリミナル・カクテルは解毒できませんからね」
「ッ――……僕はネ。皆幸福な未来が欲しイ、ただしそれは敵味方全員で皆、なんダ、死んでほしくないんだヨ、ずっと言ってるゼ。
僕らだって死に続ければ『死』の抵抗感や恐怖が薄れ、消えるリスクも有る。とはいえ君とて矜持があるかモ」
「ええ、ええ」
原動天は頷いた。その様子を見遣ってからシトリンは「危ない!」と声を掛ける。笑みの裏、潜んだ毒のように鋭く剣が宙より落とされる。受け止めるHは「ツルギ!」とその名を叫んだ。
「マザーを救うんだってな。きちんと聞いたのか? マザー自身に、助けて欲しいかって。
まだなら、ジェーンも連れて聞きに行こうぜ。どちらか一方が不幸になるのは、全員一緒に考えてねぇからだ。
全員が幸福になる方法は、全員で探すんだよ。そうだろ?」
Hの声に応えたのは――
「もう、遅いわよ」
ジェーン・ドゥの諦めの滲んだ声音だけだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第17節
「リュートは学んだッス! このお薬(試薬)、飲むんじゃなくて刺すッスね!
つまるところ、押せ押せで傷つけて塗り込むお薬なのだ! ……ほんとぉ?」
「ええっ!? そうなの!?」
驚嘆のきうりんにリュートは「多分違う」とは思いながら首を傾いだ。屹度、体内を傷つけて効果を産むことを期待した方が良い。
「てゆか、えなにごはんとかどう食べてるのあの子!」
やばいて、ときうりんは恐れ戦いた。お口に突貫した組であるリュートときうりんは世にも奇妙な体験をした。特に、食材としてのアイデンティティが崩壊の危機に瀕するきうりんは頭を抱えるレベルである。
「お待たせしました。お待ちかねの増援です。――と、余計なお世話でしたでしょうか。パーティーも終宴間近のようですし。
まあどちらでも構いません。宴も酣、さっさと後始末に掛からせて欲しいものです。
――申し遅れました、私はメイドのシズカ。得意な家事は“掃除”でございます」
「お掃除!? あ、まって。お食事終わったところだから!」
手をばたばたと振っているきうりんにシズカは目を伏せた。掃除を得意としたメイドである彼女は邪魔者を排除して花道を綺麗にするが為に、腕部に仕込んだ銃より弾丸を放つ。主役を張ろうとは思っては居ない、それでも、『希望の軌跡』が自身等をよりよい未来に運んでくれると信じているから。
シズカが開いたその道へと突撃してゆくのはオルドネウムとハルツフィーネの『クマさん』
「お友達のドラゴンと共に戦うなんて、まさしく物語のようで心が躍ります、ね。
あのような凶悪な獣より、やはり昔お伽噺で読んだドラゴン一番カッコいいと、私とクマさんに魅せて下さい」
『よかろう』
堂々と頷いたオルドネウムは楽しげに空を躍り、ハルツフィーネは追いかけるようにクマさんを天使のように空を駆けさせた。
愛らしいふわふわとしたテディベアと共に竜が宙を飛ぶ様子はなんとも機会――それでも、オルドネウムが小さく見えるほどの巨大なベヒーモスを相手に、少しでも回復を遅らせるのがこの場では必要だ。
(ジェーン・ドゥの回復が追いつかない程度に戦えばいいですね……)
此方を見下ろすジェーン・ドゥは最後まで抗うつもりなのだろう。ならば、其れに応えるのが万人を受け入れるクマさんの役目なのだから。
リュートが跳ね上がりベヒーモスに傷つければ、其れに続くようにシフルハンマが『仮』かんぽうはくしょ『仮』を開いた。
(悪者だから死ぬしかない、どうせ死ぬなら皆巻き込みか……前半は昔の自分を見てるようで腹が立つ……。
殴りに行きたいが、状況変わってるし…クリミナル・カクテルのオリジンのベヒーモスを倒す方が大事だな……。
ROOサイズのバグの関係上やってた生存偏重の立ち回りも、もう十分かな? 彼は目的を達したのかな……? ROOサイズの状況が確認出来ない以上、死ねない……)
死を恐れるわけではないが、目的がある以上は距離を離さねばと後退するシフルハンマの前でリュートが吐息を吐き出した。
その気配に合わせて遠距離武器を投げ込んだ。其れだけの距離で死を遠ざけるのが今は目的だ。
「僕も癒したいねこだけど……敵は癒さない、殴る。みゃー!」
えいえい、とねこ・もふもふ・ぎふとはぽこぽこと叩いた。ジェーン・ドゥがパラディーゾをこれ以上作らない――屹度、彼女は作成に必要を感じていない。ログアウト不可となった措置さえ解除されていた――のだから死んでも構わないとねこは唇を尖らせて。
「元の君に罪がなくても、世界を壊そうとするなら……壊さなくなるまで、殴るから。
君(ベヒーモス)は……生まれ変わって猫さんになって、ひだまりでのんびり寝られればいいのにね」
「そうね」
囁かれたその声にねこは驚いたように顔を上げた。今、応えたのはジェーン・ドゥ――ねこのなかでは『ジェーン・なんとか』か。
「え……?」
「この子には罪はないわ。生まれたことが間違いだったのかも知れない。
こんな呪いを身に宿して、死ぬ事でしか、貴方たちに報いられないのだものね。どうか、壊してちょうだいな? 出来るなら」
できるなら。そんな言葉に「むきー!?」と叫んだのはきうりんだった。
「私はねえ、アリっちとデッカくんに用事があるけど、出来なくしてるのはアリっちでは?
ピエピエの時も思ったけど、原動天(なかま)意識強いよね! 私の原動天の方が強いもんね!!ㅤばーかばーか!!」
「……」
原動天争いが起こった気がして原動天はきうりんを眺めた。彼女は、掴んで離してなる者かとその身を張った。
どうにも、彼女は此処で耐え続けて己諸共と倒すつもりか。
「……中々熱烈ですね」
「悪いけどキミのことはあんまり眼中に無いね!ㅤ大人しく私と心中しな!!」
「――ですが、ツレない人だ」
成否
成功
状態異常
第3章 第18節
「正念場だな…… 章姫殿、暫し側を離れるが、どうか御身を大事に。誰も欠く事の無い、誰も泣く事の無い結末を共に迎えよう」
膝を突いて暇を乞うた流星の頬にそうと触れてから章姫は「どうぞ、無事で」と囁いた。
「章姫ど、の……」
「わたくしは、神使がこの世界の者ではないと理解しております。故、命喪おうとも幾重にも立ち上がるとも……。
それでも、わたくしに尽くしてくれたあなたや、陽炎殿、それに……沢山の皆様が傷つく場面は見ていて心地よいものです」
いってらっしゃいませ、と頬を張るように優しくぱちりと叩いた彼女に流星は頷いた。
走り出した彼の眼前にはSikiとにゃこらすが立っている。水無月隊の連絡を受け、前線に続く『護衛地点』でも防衛陣形が張られているのだ。
「先を征く、主上を――」
「うん、まかせて」
微笑んだSikiは竜の息吹を漏らした。R.O.Oでも、現実でもSikiはにゃこらすに我が儘放題だと自負する。ならば彼の我が儘の一つや二つ、いや、何百でも聞いてやれぬ訳がない。何せ、竜は懐が広いのだ。
「言ってよ」
「……ああ、やっと分かった。俺がジェーンに何を感じていたのか。何を伝えたかったのか
俺は羨ましかったんだ。家族を守ろうと、恩人を救おうとするお前が眩しかったんだ。
……それは俺ができなかった事だから。だからその終わりが自殺なんざ認めてたまるかよ」
にゃこらすはSikiを振り返る。彼女の瞳は、美しく感情を揺らがせて。情操の波が、喜色に満ちる。
「なぁシキ、一つワガママ言っていいか?
俺はあいつを助けたい。あいつの意志なんて知るか。無理矢理にでも手を引っ張ってやる。だからさ、それに付き合ってくれねぇか? 俺の友達」
「君がそう願うのなら助けに行こうよ。
ふたりでなら、ジェーンの片手ずつ引っ張ってやったってお釣りがくるよ。ふふ、だから一緒に彼女のところまで行こう。私の友達」
だからこそ、霞帝を守り抜く。Sikiの背後を風のように駆け抜けたのは白虎であったか。
次に紅色の気配が宿された。それが朱雀であると気付いて、「無理をさせてごめん」と霞帝に声かける。
「貴殿等こそ――……白虎、玄武の言いつけをよく聞くように。朱雀が来たら引き摺ってゆくのだぞ」
「がおー! うんうん、眠たいなんて言ってる場合じゃないもんね!」
そのアカ売り声音にふ、と笑みを零した陽炎は僅かに怯えたような表情を見せた弥生をまじまじと眺めて。
「弥生様の罠の城と皐月様の武術があれば時間稼ぎに大いに役に立つはずです。……って、なんです弥生様」
「いや、女子が……じょ、女子がさぁ……」
「しっかりしてください章姫様と帝の御前ですよ、それに逆に考えてください。
『敵にはいくらでも嫌がらせしていいし拷問していい』良いお顔ですその調子」
なるほどと言わんばかりに顔を上げた弥生の視線の先には女の子(ジェーン・ドゥ)が立っていた――敵が女の子なんて聞いてない!
そんな彼の様子にふ、と笑った皐月に陽炎は「貴方様は本来一対一の戦闘が得意な筈です。ご無理はなさいません様に」と言いつける
「おけまる水産」
「おけまる水産!?」
「あ、ああ。習ったのだが……違うのだろうか? 了承したときに『おけまる水産』、危機が迫れば『まじやばー』では?」
一体何処のギャルが教えたんだ――驚愕の陽炎の傍をすり抜けて走ったのは廻姫。
「構えて!」
声を上げた星羅の煌めく火花は金木犀散らすように弾丸の雨となる。
「……お、お父様。どうか、ご無理はなさらず。無幻も、同じように思っている筈ですので……ああもう、無幻は黙りなさい!」
「お父様、どうやら『私』も貴方を慕って」
「黙りなさいってば!」
唇を尖らせる星羅にくすくすと笑った無幻。その柔らかな笑みに、彼女は自分と違うのだと感じた星羅に「素敵な笑顔だね」とスイッチは囁いて。
「ッ――……ああ、もう。そういえば。廻姫様、何か言いかけませんでしたか。
言い淀むならばそれでも構いませんけれど……私は、聞きたいと思うのです……珍しいんですよ。私が何かを求めるのは」
駄目ですか、と前線で獣を切り裂く廻姫に声を掛けた星羅は気を取り直したつもりであった。だが、言い淀んでいた彼が意を決して「貴女も傷つかぬように。傷つくのを見たくはありません」と云うものだから。
「……ああ……本当に」
無幻と星羅は違う。廻姫とスイッチだって違う。それでも、それでもだ。彼のように笑わずとも、戦いを望まずとも。彼を護りたい自分へ――盾へと、そんな言葉を口にするだなんて。
「ふふ、無幻殿も廻姫も……うん、おかげでよりこの世界を守りたいっていう気持ちが強くなった。
この世界で生きている人達がいる、全てはプログラムだなんて言わせない。ヒイズルでの経験もそれ以外の冒険もすべて俺がここに立つ力になっている」
スイッチはゆっくりと振り返る。霞帝の元から走る白虎に引き摺られる朱雀。そして、彼が纏う気配は黄龍を――そして其れ等が揃えば黄泉津瑞神へと届くはずだ。
「その気持ちを乗せて俺はこの刃を振るおうと思う。この世界を守る為の一振りの剣として俺は俺自身を使うと決めたよ。
……だから一緒に戦ってくれるかな星羅殿、剣は剣だけじゃ振るえない。
キミが共にいてくれれば俺はもっと迷わずに進める気がするんだ。この想いを貫きとおす姿を見ていてほしいな」
「ええ、共に参りましょう、スイッチ様。
私は貴方の為の盾。貴方が望むのであれば、何処までだって共に往きましょう……見ていましたよ。貴方のことを、ずっと」
――見ていたからこそ、貴方の為に身を張れる。命なんて、何遍擲っても良いほどに。貴方の望みを叶える為に息をするのだから。
成否
成功
第3章 第19節
「ジェーン・ドゥ、誰でもない女、ですか。あなたの絶望に他人を巻き込むな、死ぬなら勝手におひとりでどうぞ」
冷たく言い放ったラピスラズリは「――と」と言葉を続ける。そう言い切ってしまいたかったが、マザーと呼ばれたシステムの境遇を思えばこそ、解放する事が適えばと言う一点については交渉の余地はあるだろうと考えていた。
「さすがに今すぐにという訳には行かないでしょうが、マザーの代理となる制御機械を作れば練達への影響を最小限にしつつマザーヘの休暇を差し上げられると考えられます。まあ、その代理の開発にマザーの力を借りる必要は出てくるとは思いますが」
彼女の言葉はある意味で荒唐無稽だ。ジェーン・ドゥの代わりに原動天が「そうできればどれ程良いか」と肩を竦める。
「眠くなるので激しい運動は控えたいところですが、とRP……拙者、この騒動(バグ)が落ち着かねば任務もままならぬ身なれば。
些か、考えるのですよ。ROOの開発に多少なりとも関わった者として、練達で混沌からの帰り道を探す者のひとりとして」
aMaTERAsはまじまじと原動天を、暴走して産み落とされたプログラムの一端を眺める。ファンタジーな世界における科学の結晶。神や現在までも再現して見せたこの場所が何を生み出すのかに興味が無い訳ではない。故に、ラピスラズリの言葉さえも、現実に叶えばと願わずには居られなかった。
「――出来ればどれ程いいいか、ですか。成程、行き詰まった研究ほど苦しいものはありませんね。
ただし、此方は活路を見いだした。ベヒーモスを倒す理由が又一つ増えたのです。やることは変わらない……と言いたいところですが、やる事は増えたんですよね。ですがこれも目的のためです。大事の前の小事と侮るつもりはありません。数の利でもなんでも利用して全力で押し切らせてもらいますよ!」
壱狐が『自身』を握りしめて、陰陽の陽を宿した。飛行を用い、狙い澄ましたビャクダンと同じく原動天へと狙いを定める。
心を読めると言えども多勢の中ではそれは『行動のヒント』にしかならない。全てを読み解くことが彼には出来ないのだから。
「さ、あちらが終いになったんで来ましたが、ここからまた正念場のようですね。
元のツルギさんに食材と見られることあったんで、正直言や若干恐怖ありますが、まぁ克服すると思えば……モミジ扱いはご勘弁!」
美味しい鶏脚だなんて言われてしまえば堪ったものではない。そんな恐怖に支配されたビャクダンに原動天は予期していなかったと言わんばかりに目を見開いた。
読んだ『心』が余りにも――余りにも。
そんな彼を狙って勢いよく放たれたのは敵の守りをも揺らがせる突撃。次いで、歩のノブレスが飛び込んだ。
「ふふっ! 琉珂さんが今日もかっこかわいいですね! 暴れてる姿もやっぱり素敵!」
「えへへ!」
笑顔を絶やさず、声を絶やさず。フリアノンの歌い手として。新曲くらい此処で作ってフリアノンに披露しても良いだろう。
彼らの姫君の頑張りを称える歌なんかどうか。あの鮮やかな焔の色を、褒め称えれば良いのだから。
三月うさぎてゃんの歌声に『とりま』と聞いていたエイル・サカヅキはいつものをキメて、エグいの撃っていくのだと向き直る。
「は、はぁ――!? 読まれたら困るわぁ』なんて思ってないし? ハァ?
さっさと終わらせてタピりたいし動画見ながら半身浴したいしハイブッブー不正解!!」
「貴女は……いえ、言われたくないみたいですし?」
「ちょ、アマジやばくない? ……乙女の秘密を暴く男って最悪なワケでね?
アリスちんにも会いたいしさ、さっさとバイビーしてほしいっつーこと。時間稼ぎみたいなダラダラしてる男はエイルちん的にチョベリバでさー」
エイルが指させば、その声音にaMaTERAsはふ、と笑った。
エイルはと言えば、原動天の元になったツルギを知っているだけにやりづらさを感じていたが顔面にヒール痕の一つくらい喰らわせなければ気に食わないと憤慨し続ける。
「ねえ、エイル。貴女って何か大きな秘密抱えているの?」
「い、いや?」
琉珂の問いかけに「マジそんなわけないっていうかー」とか返せなかったエイルは腹いせのようにエグいのを原動天へと放ったのだった。
成否
成功
第3章 第20節
原動天。そう宿命づけられた彼を止めなくてはならない。
アダムはそれでも彼の止めを刺したくはなかった。それが自身等の我が儘でも構いやしない。彼を逝かせたくはないのだ。
コウの傍らで決意したように真っ直ぐに原動天を眺めたアダムへとイズルは想いをくみ取るように小さく頷いて。
「ただいま、原動天のツルギさん。……もうあまり時間がないようだ。さあ踊ろう、そしてキミの本性(ほんね)をもっと見せて?」
「はは、貴方に誘われるとは。喜ばしいですね、イズルさん」
まるで『本物』のような。至近距離へと飛び込んで、彼の命を奪わぬようにとイズルは原動天へと狙い澄ませた。
伸ばした髪先に手を伸ばした『本物』に僅かながらの別れを告げるように身を擲って。
「私も人の事は言えない。死を前提に危険に飛び込むキミを見送る度、自分の無力を思い知った。
でも、止めるのはツルギさんの心を殺す事。キミも私も同じものを抱えていた。
……だから私のパラディーゾがキミの傍に居ればと思ったのさ。叶わなかったけれどね」
「もしも、貴方がいれば、変わったのでしょうね。私も、アリスさえも」
その言葉にツルギが目を見開いた。彼に死んで欲しくはない。彼女だって。
そんな様子をまじまじと眺めていたタイムは「ううん」と小さく唸った。イズルに合わせて距離を詰め、連撃を雨のように放つ。
「てっきり女の子を守るナイト様だとばかり思っていたら随分と……殉ずるって意味では正しいかもしれないけども!
いくら守りに優れていても攻撃し続ければいずれ落とせる。でも原動天は自分が命を落とすことすらきっと計算済みよね?」
タイムの言葉に、原動天は微笑んだ。その笑顔一つに、タイムは嘆息する。ああ、その笑顔が全てを肯定するようで心地も悪い。
「正直、あなたのことは好きじゃない。けど、作られた通りの悪役で終わるつもりなの?
少なくともここにいる人達はそんな終わらせ方はさせてくれないみたいだけど!」
呟けば、体を払い除けるように原動天の拳がタイムの体を地へと叩きつけんとする。そんな攻撃、『これまでのR.O.O』での活動で難なく回避も出来る。それだけ積み上げてきたのだとタイムが地を蹴り上げた。
「生まれ育ちがバグだから、情けをかけるな? ヴィランは死に絶える役目?
ふざけるな! 定められた立場に流されれば、後に残るのは後悔だけだと貴方は知っている筈だ」
叫ぶ九重ツルギの声に原動天は「それでも、護りたいと願えばそれに殉じるものでしょう」と肩を竦めて。
「ああ、いや……ふふ……おかしいな」
くすくすと笑ったのはスキャット・セプテットだった。ぎょっとしたタイムが「どうしたの?」と問いかければ肩を震わせたスキャットはいやいやと首を振る。
「何者にもなれないと嘆いていたお父様が、これほど熱くなるなんてな。私も気持ちは同じだ。どんな生まれ育ちだって、失っていい命はない」
真っ直ぐに向き合ったスキャットを庇い、タイムは立っていた。破滅なんて、此処には存在しないという彼女にスキャットは頷いた。
この運命から彼を解き放てば、ジェーン・ドゥだって考えが変わる可能性があるのだから。
「束縛する運命を引きちぎって、自由を掴み取ろう、原動天。
Hadesがこちら側に寝返り、マザーの反転を抑える希望が見えてきた。
――貴方もジェーン・ドゥもマザーも生きて、笑いあえる未来が目の前にあるんだ!」
「違いますよ。俺は……」
何事かを口にしようとした原動天にCALL666は迫る。元より、殺すつもりで居たCALL666にとって『彼を殺さないで欲しい』と求めた優しい仲間達は、どれ程に難しいオーダーをCALL666に科したのだろうか。
「お前を止める事だそうだ。さっきまで殺し合ってた者と仲良く手を繋げだと? 馬鹿を言う。だが、その馬鹿も叶えられるのなら、叶えてやるさ」
「ええ、大馬鹿者ではありませんか」
CALL666は「だろうな」と肩を竦める。攻撃を重ね、バリアが最早機能していないことを知る。繰り返された攻撃で罅割れた、それは無意味ではあるまいか。
「俺から何も言うことなどない。ただ、どうだ。その場所から見える物は……醜いか?
光が手を伸ばしているぞ。なら、手を取るのもお前の選択肢だ」
「ええ、ええ、そうよ。でもね、これだけ言わせて頂戴」
CALL666の言葉を続けたのはファントム・クォーツ。睨め付けていたその瞳には幾分か和らぐ気配が宿る。
「ずいぶんと楽な道を選ぶじゃないの。生きるのって苦しいのよ。その分死は簡単。
ワタシにこの先の未来の保証は出来ないけど……でも、違う可能性だってある! ワタシはそのためだったら手を貸すわ! だから!」
――手を取って。選び取って。
そんなファントムから香ったのは淡い乙女の癒やし。出来る限り長く、戦場を駆けて。出来るだけ、彼に選ばせたい――よりよい未来を。
ホワイティにとって、誰も喪わない未来が、そこには存在しているはずだった。美しい、花畑を掛けるような淡い幸福。
「わたしは彼らを止めなきゃいけない。それだけは譲れない。だから、剣を納める訳にはいかない。
けれど……命を奪い合う以外の道があるなら、それに賭けてみたい。わたしも手伝うよぉ、ツルギさん」
そうやって、一度だけ向き合って手を繋いだ彼女がいた。あの時のように、言葉が届くようにと願った剣を振り下ろした。
目映い光が、彼を掬い上げることが出来るようにと。そう、願わずにはいられない。
掌を皿にして、浮かべた水が零れないようにと。慎重に生きてきた。
「違うのですよ」
イズルを引き寄せた原動天の周りから光が跳ねた。アダムが「何?」と慌てた様に跳ねる。ツルギは「イズルさん!」と名を呼んで。
「俺なら分って居るでしょう?」
その言葉にツルギは息を呑んだ。
――思い起こすは遠い春。
大切な人に、親友だからと告げられなかった本当の気持ち。落ちこぼれだからと、向き合う事なく突き放した弟。
全てが、欠片のように、思い起こされた。
「濁流に逆らわなければ、自分自身が向き合わなければ運命の扉は閉ざされたまま。
ピエロも恒星天も消えた今、彼女の心に希望を与えられるとしたら、それは貴方だ、原動天。
二人とも思惑通りに逝かせるものか。彼女のナイトを気取るなら……コピー元の俺ぐらい、泥臭く希望に手を伸ばせ!!」
そんな、自分が出来なかったことを。彼が――出来るのか。
成否
成功
状態異常
第3章 第21節
「なんかもうひめが頑張らなくても押せ押せムードで勝てそうなんですけど!
でもアリスちゃんが待ってますので! もう少しだけ頑張ります! どうしてもお話したい事がありますし!
それにこのままだとおもしれー女アピールした変な美少女で終わってしまいますので!」
ふふん、と胸を張ったひめにゃこの明るさに小さく笑ったのはスティアだった。心を研ぎ澄ませ、幼なじみから習った剣術を、出し切るだけだ。
スティアは、原動天の動きが僅かに緩んだことに気付く。其れがどうしてなのかは分からない。
ただ、今が攻撃のチャンスなのだろうかと剣を振り上げる――それだけだった。
「恒星天ひめが助けに来ましたよ!!」
「いえ、違います」
ひめにゃこにスティアは笑う。直ぐさまに却下された彼女もそうだが、襤褸にもなりそうなその身でもまだ、明るく応える事ができるのか。
リュカ・ファブニルは嘆息した。何とも神様という存在が居たら横面を叩きたくなるような現実か。
「……全く、こうして全てがクリア出来たら良いんだがな。
アリスがワクチンになるたぁな……『娘』を殺して『母』を助けろだなんて趣味が悪すぎる。
やるしかねえってのかよ……! イノリだけじゃなく、アリスまで……!
初めてイノリの心がちょっとだけ理解出来たぜ。コイツを仕組んだ神なんてやつがいるなら、ぶっ殺してやりたくなる!」
ジェーン・ドゥは『クリミナル・カクテル』の被験者だ。彼女達を討伐しデータを採取することで、この先の未来が開けるというならば。
何と悪趣味なのか。そう呻いたリュカにTeth=Steinerはやれやれだと肩を竦めた。
「……分かったぜ。原動天。なら、こう言うか。いい加減、しぶといんだよ原動天。
いいか。俺様達はな、さっさとあのデカブツをブチ倒さなけりゃならねぇんだ。あのバカ兄妹を救う為に――聖夜の奇跡を起こす為にな。
分かったら、さっさと倒れて道を開けやがれ!」
叫んだTethに原動天の唇が釣り上がる。
――一緒に。
そんな言葉を掛けてくれた彼に、彼女に。原動天は手を伸ばすことを躊躇った。
Tethのように、ただ全力で意思の張り合いをしてくれた方がもっと良い。自分はそう言う生き物だったのだから。そういう風にあろうとしたのだから。
「ねえ、アリスお姉さんは、一人が寂しいんだね。だから、みんなと一緒に死のうとしてるのかな。
ねぇツルギお兄さん。わたし、アリスお姉さんとお話したいな。敵じゃなくて、お友達になりたいんだ。
アリスお姉さんや、ツルギお兄さんと……だから、アリスお姉さんの所に行かせて下さい!」
頼み込むようなルゥに原動天は首を振る。「俺を倒して行けば良い」と告げられた言葉にルゥは悲しげに眉を寄せて。
「ツルギお兄さんは、ここでアリスお姉さんとお別れで良いの?
そんなの寂しいよ! だから、一緒にアリスお姉さん迎えに行こうよ!」
「いいえ、待ち受ける未来のためならば――俺は、此処で貴方達を殺して『Alice』を救った方がましでしょう」
言葉が、僅かに変化した。その意味合いが何であるかを察知したのはリュカだったか。
概念(アリス)、主人公(アリス)、名無しの少女――個体識別名ジェーン・ドゥ。そして、システムメッセージ表記『Alice』
彼女を救うなら。
この世界とマザーを放棄しろと彼はそう言うのか。
「……お前も大切なモンの為に戦ってるんだな。そいつが例え世界を滅ぼそうとしていても関係ねえ
世界で一番大事なモンがあるなら、譲れねえよな。結局のところ、この戦いは最初から最後まで意地の張り合いだったって訳だ」
リュカの言葉に原動天はぴたりと足を止めた。
「そうですね」
傷だらけになってでも、あと少しでその命の終が訪れたって――原動天は、『アリスの友人』は、『彼女に生み出された命』は。
「オーケーだ。来たぜ! クシィちゃんが!
……でも、遠目にチラッと見えただけだが、何て顔してやがるんだあの、ジェーン・ドゥとかいうガキ。いや、アリスか?
あのツラ見てると妙に……なんだろうな。他人事の気がしない。何もかもままならないような、この……
よし、アリスに言ってやりてェことが出来た。だから、アイツは任せろよ原動天!」
クシィの笑みに、原動天は「それでは、意地の張り合いをしましょうか」と『剣』を構えた。
切っ先が、ひめにゃこに迫る。恒星天だった彼女、先に逝ってしまった明るいジェーン・ドゥの友人。
「させないよ!」
滑り込むスティアの剣が宙を踊った。身構えた彼女の眼前へと飛び込んだのはTeth。滑り込んだ彼女がぎ、と睨み付けた。
ここからあるのはたった一つだけの冴えたやり方だ。Tethの全力。命懸けの攻撃は――ただの彼と彼女の『意地比べ』だった。
成否
成功
状態異常
第3章 第22節
「ねえ」
セララは笑う。彼女の事を敵だと思っていないから。
原動天が大切に大切に、宝物として接してきた『物語の娘』を見上げて笑う。
「世界を滅ぼそうとしていても、なんだか悲しそう。助けを求めているような……。
だからね。ボクとしてはもう一度お茶会をしてみたいと思うんだ。
探り合いなんて不用の、ただお話お菓子を楽しむお茶会をね。そういう何気ない日常が彼女を救うのに必要なんじゃ無いかなって」
その為にベヒーモスや原動天を倒せというならば幾らだって応えたい。
友達を救うため、それが世界を救う理由よりも蔑ろにされる理由は無い。
「ああ、アリスを友人だというのですね」
肩を竦めた原動天にセララは「そうだよ!」と叫んだ。だからこそ、彼を打ち倒す。それだけだ。
「……原動天のにーちゃん。あんたには敬意を表するぜ。死ぬつもりなんだろう? アリスねーの時間を稼ぐために」
ルージュは原動天に向き直った。彼が救われたいと願わないのは、少なくともジェーン・ドゥと呼ばれる娘を少しでも生かすためだった。
これは根比べ。彼女か自身等かどちらかしか救われない物語。
全てが丸く収まったハッピーエンドは何処までも遠い。『アリス』が勝利すれば、この世界は崩壊して、彼女は生き残れるのだろう。
「けど、わりー。おれはにーちゃんを突破してアリスねーの所に行く。
もう少し時間があれば、にーちゃんとも判り合えたかもしんねー。
もう少し話し合えば色々な事が解決したかもしんねー。……けど、もう無理なんだ」
時間が無い。話をして、もっと重ねて。彼を『殺さず』救いたいという仲間のために言葉を費やしてやれたはずなのに。
時間は、砂のようにさらさらと零れ落ちた。
感情は、言葉となって風に攫われた。
世界は、無情にも変わりゆく。
「もし良ければ最後の言葉を伝えるぜ? その言葉だけは、必ずアリスねーに伝えてみせるから」
原動天は――『九重ツルギ』は遠くに見えた己へを見詰めてから、ルージュを見下ろした。
「俺は、彼女を護りたかった」
「ああ、うん。そうだな」
「俺は、彼女のためにありたかった」
「うん」
「……これは、ただの意地です。もしも、救われるというならば『クリミナル・カクテル』は少ない方が良い。
――俺が、生きていれば他の誰かの道を閉ざしてしまうなら」
ルージュの攻撃を真っ正面から受けると決めたのか、原動天はその場で立っていた。
唇が揺れ動く。ルージュは目を見開いて。
「にーちゃん、それは、ひどいよ」
戦いというのは何時だってこの様な者だった。どちらも譲れないものがある。其れをぶつけ合うことでしか正当性を刻めない。
分かったつもりになってもやりきれなくて、向き合っていくしかない。
「ッ、それが――生きるって事だろ!
悪趣味な遊びも、夢のひと時も終わりなんだ。お前が世界を壮大に巻き込んで死んでくつもりなら、何度だって教えてやるよ。
ハッピーエンドを望んでて、悪意に満ちた世界をどうにかマシにしたいなんてお人よしばっかりだから。
――今、お前の目の前に来たんだ……さぁ、遊ぼうぜアリス!!」
原動天が膝から崩れ落ちる。その傍らを駆け抜けて、ルォーグォーシャ=ダラヴァリヲンは走った。
その体を運んだのは黄金の龍か。背後には、真白の気配が立っている。
「ッ、言われた通り、傍まで来ましたよ。あなたは何度も私達の邪魔をして、自身ごと世界を滅ぼそうとしている。
けれど、あなたは初めに『世界に認められなかったから』と言ったわ。
つまり、規模はどうであれ、これまでのあなたの行動は八つ当たりでしかないわ、『駄々っ子(アリス)』」
「ええ、ええ、そうよ。そうだって……そうだって言って!」
アリスと呼んだ少女の体に、モザイクが増え続ける。そのかんばせは半分。
クリミナル・カクテルによる侵食を感じて、ハウメアは唇を噛みしめる。
ぱしん、と頬を張ればベヒーモスへの癒やしの手が止まる。少女はハウメアを見下ろして立ち竦む。
「確かに『世界』からは認められなかったのかもしれないけれど、認めてくれている『人』は居るのではないの?
手を差し伸べてくれた『人達』は居る筈でしょう?もっと周りを見てみなさい。
あなたにとって此処が『認められた世界』なのなら、認めてくれた人に砂をかけるようなマネはやめなさい!!」
――もう遅いの。
そう動いた唇に、ハウメアの体を包んだのは終焉の――『石花の呪い(クリミナル・カクテル)』の気配であった。
成否
成功
GMコメント
夏あかねです。
●作戦目的
・終焉の獣『ベヒーモス』の討伐
・ジェーン・ドゥ及びパラディーゾの『活動停止』
●重要な備考
当ラリーはベヒーモスが『伝承王国』に辿り着いた時点で時間切れとなり、失敗判定となります。
皆さんは<ダブルフォルト・エンバーミング>系ラリーのどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
ソロ参加の場合は指定はなくて大丈夫です。同行者の指定記載がなされない場合は単独参加であると判断されます。
※チーム人数については迷子対策です。必ずチーム人数確定後にご参加下さい。
※ラリー相談掲示板も適宜ご利用下さい。
※やむを得ずプレイングが失効してしまった場合は再度のプレイングを歓迎しております。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●フィールド
『砂嵐』の砂漠地帯。終焉(ラスト・ラスト)から少しばかり離れた位置からのスタートです。
巨躯を誇る終焉の獣は移動を行っており、皆さんはダメージを与えることでその移動を遅らせることが第一目標となります。
第一目標を達成した時点で状況は変化し、終焉の獣をその場に止めての撃滅作戦が行われます。
周辺には村やオアシスが存在しています。終焉の獣が通った後は更地となりデータが全て捕食されて元には戻りませんので注意して下さい。
【サクラメント】
近隣のオアシスに点在しています。ベヒーモスの位置により、サクラメントとの距離が変動するため戦線への復帰時間は一定ではありません。
●『終焉の獣』ベヒーモス
終焉(ラスト・ラスト)より現れた終焉獣(ラグナヴァイス)の親玉に当たります。
天を衝くほどに巨大な肉体を持った悍ましき存在です。神(クリスト)の傑作(コレクション)。
世界の終焉を告げるそれは元々は温厚な生物でありましたが、狂化しており言葉は通じません。
【データ】
・非常に巨大な生物になります。飛行していない状況だと『足』のみが戦闘部位です。踏み潰されないように注意して行動して下さい。
・『飛行』を行った場合でも『脚』までしか届きません。ダメージ蓄積により膝を突くことでその他部位を狙えそうです。
【主だったステータス】
・終焉の呼気:広範囲に対して『石花の呪い』を付与すると共に、ダメージ(中)を与えます。
・ロスト・ベニソン:複数対象に対して封印、及びランダムで何らかのBSを5つ付与。強烈なダメージ(大)。
・ディバインシール:フィールド上の飛行中の対象に対して『不吉、混乱、麻痺系列』の中からランダムで付与。
・狂化:???
・終焉:???
●終焉獣(ラグナヴァイス)
ベヒーモスを好み、それに付き従う終焉獣たちです。それらは石花の呪いと呼ばれた歪な病を振りまきます。
また飛行している存在、地を歩く存在など様々な終焉獣が無数にフィールド上に存在しているようです。
○石花病と『石花の呪い』
・石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。
・石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
・R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。試薬を駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(プレイヤー一人につき、誰か一名による1Tのギミック解除時間が必要)
・『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。
・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
●『物語の少女』アリス(ジェーン・ドゥ)
遍く世界の『アリス』がまじりあった存在。便宜上彼女はアリスと名乗りますが、本来の名前は無くマッドハッターはジェーン・ドウ(名無しの権兵衛)と称する。物語と全ての人の思い描くアリス像を塗り固めた存在です。
髪は脱色されて白く、憎悪の色の赤い瞳を乗せた『イレギュラー』の娘
主人公であった形跡が残るのは青の大きなリボンと白いバラのチョーカーだけ。
黄泉ちゃんに協力する理由はマザーのためのようですが……。
攻撃方法などは不明です。彼女の護衛として二名のパラディーゾが付き従っています。
●『パラディーゾ』
・『天国篇第九天 原動天の徒』九重ツルギ
スマートに微笑む穏やかな青年です。内心に抱えた焦燥は感じさせず、任務を淡々と遂行します。
タンク。全戦で戦います。とても強力な存在であり、『プリンセス』ことひめにゃことアリスのサポートを行っています。
・『天国篇第八天 恒星天の徒』ひめにゃこ
はいぱーぷちりーな女の子です。自信満々に自分が一番可愛いと自慢げに宣言します。とてもおしゃべりさん。
遠近両方得意としており、前に出てタンクの役割もこなせます。攻撃は全てハートやピンクのエフェクトで彩られているようです。
○味方NPC
当シナリオでは『各国のNPC』が援軍に訪れる可能性が大いに存在しています。
具体的には『砂嵐』『翡翠』『神光』『航海』のNPCなどが皆さんと共に戦うためにこの戦場へと向かっています。
シナリオの進行により援軍は変化します。詳しくは『ラリー各章 の 一節目』を参照して下さい。
一例ですが、
・ハウザー・ヤーク、イルナス・フィンナ及び配下傭兵団
・森林警備隊や森の神官、アレクシア・レッドモンドと護衛のシャルティエ・F・クラリウス
・『霞帝』今園 賀澄、『星穹鞘』Muguet(無幻)、『因果の魔剣』ヴェルグリーズ
・『御庭番衆』暦(頭領・鬼灯をはじめとした忍集団『暦』です。十二の月と呼ばれた幹部及びその部下達)&今園 章
・ソルベ・ジェラート・コンテュール&カヌレ・ジェラート・コンテュール(補給要員)
等……一例ですので状況次第では援軍が増加するでしょう。
・Miss (p3y000214)、ファーリ (p3y000006)、紅宵満月 (p3y000155)は戦場でのお手伝いをしております。
援軍味方NPCは皆さんの指示に従います。何かあればお申し付け下さい。
Tweet