シナリオ詳細
蛍見の夜
オープニング
●その光に何を思う
ふわり、と甘い香りが漂う。
「ナナイロホタルが飛ぶんだって」
甘い香りの主──『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は静かにあなたへ告げた。
ナナイロホタルはゆっくりと光の色を変えるホタルだ。イルミネーションのようにも見えるそれは、本格的な夏が始まれば見ることはできない。
ホタルが発見された場所は静かで危険なモンスターが出ることもなく。生息している河原もカナヅチだって溺れないような水位であるとシャルルは説明した。
「中々見られないものなら、見た方がいいんだろうって思って。色んな人に声をかけてるんだ。ほら、サーカスの事件がひと段落したでしょ」
息抜きをしてこい、ということらしい。
あなたが問いを投げかけると、シャルルは1つ瞬きをした。
「ボク? ……まあ、行ってみてもいいかな。気の利いた言葉なんて返せないと思うけど、それでもいいなら話しかければ?」
●ナナイロホタル
ちらほらと、光が舞う。
赤、紫、青、緑、黄色……ゆっくりと変化していく色が空で近づいて、離れて、また近づいて。
その賑やかな色合いは、まるでサーカスの公演に使われる光のよう。
引きずられるように思い出すのは幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』。そしてその一連の事件。
幻想国内で起こった猟奇的事件。住民の蜂起。国王を始めとした説得。そして、追いつめたサーカス。
聞こえるのは風の囁き。草の擦れる音。
見えるのは星明りと、舞う光。
そんな静かな場所で、気持ちの整理をつけませんか。
- 蛍見の夜完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年07月20日 21時50分
- 参加人数108/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 108 人
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参加者一覧(108人)
リプレイ
●ホタルの光に何を見る
ふわり、ふわり。
揺れる光の中に、ほんの少し異なる光が1つ。
「ナナイロホタルなんて綺麗じゃないの☆★」
『あま〜いお菓子をプレゼント♡』タルト・ティラミー(p3p002298)は周りを飛ぶホタルに感嘆の声を漏らした。
このホタル達と同じように光れば注目度アップなのでは! と思いついて自らを発光させているタルト。
その光は淡く美しく、青みがかった薄緑の羽の部分は少し不思議な色合いを作り出す。
「あれもホタルかな?」
『いいえ、妖精さんみたい』
旋回して空を舞うタルトに『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250)が気づいてそんな会話を交わした。
「ホタルと一緒に踊ろうか」
『妖精さんもご一緒に』
「そーっとそーっと」
『それでいて大胆に』
月明かりと緑のステージで、子供はホタル達と戯れるように踊る。
ふわふわとホタルが飛び、ひらひらと葉が影を作る。くるくると人形が回り、それらの隙間を縫うようにタルトがひらりと空中を舞う。
「こういうのも楽しいわね☆」
タルトのはしゃぐ声が静かな空間に響く。
さよならを告げる為にいるのだろうか、さよならを受ける為にいるのだろうか。想いの具現か、それとも願いの具現か。
ホタルがなぜここにいるのかはわからないけれど、きっとサーカスの事件で残った遺恨を持ち去ってくれるだろう。
(カタストロフィ(大惨事)のない終わりでも、誰かにとっては悲劇だったはずだから)
喋らぬ子供はそう思いながら、光と共に舞う。
「うーん、気持ちー。いい景色だし、水面は綺麗だし落ち着くなぁ」
「おっ、そこに一際綺麗に輝いてるホタルいるじゃん!」
瓜2つの少年達──否、元は1人。『二重旋律』星影 霧玄(p3p004883)は浮遊鍵盤で静かな曲を奏でる。
その内にホタルが客として集まってきて、霧玄と零夜はアイコンタクトをした。
「小さなお客さん、僕らの曲を聴きに来たの? なら……」
「少しの間、楽しんで聴いてくれよな!」
そうして始まる小さな音楽会。音は静かに森の中へ響いていく。
「気ぃつけてね、転ばんように」
「ありがとう、気を付ける」
『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)と『トータルパンツコンサルタント』セティア・レイス(p3p002263)が手を繋いで歩くさまは、まるで母子のよう。
お互いに母(娘)はこんな感じだろうか、なんて考えているとは露知らず。
「セティアちゃんはホタル、見たことあるん?」
「ホタル、見たことない」
村で見に行くときは寝ていたのだとセティアは告げ、草に留まる光を発見する。
「あれかな。ホタルは虫? 虫、さわる?」
「ホタルは虫やね。触ったら逃げてしまうやろし、眺めてみよか」
2人は草の前にしゃがみ込み、静かに光るホタルを見つめた。
(沢山戦ってしんどかったけど、そういうのがあったから、こういう楽しいのもある?)
セティアは眺めながら、戦っていなければ村で寝ているだけだったかもしれないなんて考えて。
蜻蛉は色合いを変えるホタルに目を細めた。
「こっちのホタルは7色に光るんね……不思議な感じ」
「こういう色じゃないのもいた? わたしは、全部の色の好き。蜻蛉さんは?」
元の世界のホタルを思い出しながら、蜻蛉は「そやなぁ」と呟いた。
光の変わる様は見ていて飽きないし、優しい光に変わりはない。けれど。
「うちはやっぱり、黄色が好きやわ。でも……そやね、綺麗やわ」
そう思えるのは、2人で見られたこともあるかもしれない。
「ここは良さそうね~」
のんびりとした口調で敷物を取り出す『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)。ちょこんと座れば、辺りには綺麗なものばかりが溢れている。
「レスト様、ご一緒しても?」
「アグライアちゃん、お久しぶりね~。勿論よぉ」
『砂漠の光』アグライア=O=フォーティス(p3p002314)がレストに気づいて声をかける。アジサイ畑で相席した時以来だろうか。
アグライアの持ってきていたジュースを分けっこして、2人はホタルの光や河原のせせらぎに耳を澄ませる。
「あら、ここは蛍見の特等席なのね。一緒に楽しんでいいかしら」
「ええ! 皆でのんびり過ごしましょう~」
『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)も混ざり、3人はのんびりと舞う光を見上げた。
降ってきそうな星の煌めきと、7色に光るホタルの群れ。アグライアは飽きるまでのんびりと、と思っていたけれどいつまでも飽きなさそうだ。
(次のことを考えるよりまずは心身の療養、休息、娯楽……大事よね)
胡蝶は景色に目を細め、小さめのグラスを傾ける。
その時、1匹のホタルがレストの手元に舞い降りた。捕まえることなくじっと見つめれば、ホタルは小休憩を終えて再び空へと舞い上がっていく。
その視線の先では──。
「きれい!! きれい!! ねえねえ!!」
『脳内お花畑犬』ロク(p3p005176)に追いかけられてホタルが逃げていく。その様子にはっとしたロクは立ち止まり、今度はそっと声をかけた。
「ねえ、何してるのかな? 何を思ってホタルさん達は生きているのかな?」
生じた興味はギフト《空虚なる暗示》によって、ロクをホタルへなりきらせる。
静かに。そう、静かに。川のせせらぎにだって紛れちゃうくらい、静かにするの。
「よろしく、ホタルさん。ねえねえ、もう少し近くでホタルさんのこと、見てもいい?静かにするから」
そう告げながらゆっくりと川へ足を付ける。そうして、ホタルに近づいて──。
「ねえ、暑いけど川は冷たいね!! きれいだね!! ……あっ」
ついいつもの調子に戻ってしまったのだった。
「正に混沌ね」
何故その変化を遂げたのかと思う生き物もいれば、このように幻想的な生き物もいる。
『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)は小さく呟くと、当てなく散歩していた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)へ近づいた。
「こんばんは。それと初めましてね」
「……どうも」
小さく会釈を返したシャルルと互いに名乗りあい、竜胆は「ありがとう」と礼を言った。
「今の時間があるのは、貴女が声を掛けてくれたからよ」
「聞いたことを伝えただけ、だよ?」
「そのおかげでしょう?」
竜胆は小首を傾げるシャルルへ微笑みかけ、手を差し出す。
「良ければ、今後とも仲良くしてもらえると助かるわ」
依頼で顔を合わせる事も増えるだろう、と告げる竜胆。その手は甘い香りと共にそっと握られた。
(賑わうのは大いに結構。だが……沸き立ちっぱなしは落ち着かない)
疲れる。それが『反骨の刃』シェンシー・ディファイス(p3p000556)の感想だ。
どこもかしこも浮足立っていて、シェンシーは落ち着いていそうなこの場所へ来たのである。
此処は静かで、時折ホタルという生物が空を舞う。シェンシーはそれを見ながら魔種について思い出していた。
彼らの起こしていたことには常に死が付きまとい、その先は一切ない。破滅がどうこうと言うだけある。
(こちらにとって害はあれど、利は一切ない。万物の敵だ)
あれは人も、人の敵であろう存在も一様に立ち向かっていかなければならないもの。
長い戦いになるな、とシェンシーはゆっくり瞳を閉じた。
「此処に娯楽的恐怖を描くのは無粋か」
木の根元に座った『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は、7色の光の舞を純粋に眺めて楽しんでいた。
静かなようでいて、少し離れた所からイレギュラーズ達の歓声が聞こえてくる。静寂と歓声、矛盾したものでありながら酷く人間らしい。
甘い、甘い珈琲をすすると心地よい風が吹く。いや、角砂糖に蜂蜜ミルクと、ほとんど珈琲の割合は残されていないわけだが。
それがカップから消えてなくなる頃、オラボナは微睡みへ誘われていた。
「おー! 随分綺麗に光るのね!!」
目を輝かせて河原へ駆け寄る『白銀の大狼』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)。その後ろから『業に染まる哭刃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)がのんびりとついてくる。
(懐かしいな。月夜と似合って、見るのがとても好きだったっけ)
立ち止まってぼんやり見ていると、先を行ったルーミニスが「遅いわよー!」と元気に呼ぶ声。
「さぁ、これからも勝ち続けて……これ以上に綺麗な、誰も見たことのない景色見に行くわよ!」
元気なヤツめ、と思いながらもクロバは小さく笑みを浮かべる。
「綺麗な景色か。……まぁ、そいつは悪くない。オレも綺麗なものは好きだ」
「約束も忘れんじゃないわよ? まーた記憶喪失にでもなられたら困っちゃうわ」
それは以前交わした約束だ。
定期的に確認してやる、と言いながらルーミニスは拳をクロバの前へ差し出す。
一瞬その拳を見つめたクロバ。次いで彼女の瞳を見る。
「……あぁ。”約束”は忘れないさ。オレはそれだけは譲らないからな」
その拳に、自らの拳を軽く合わせる。
(それを果たしたままでいられる間は──死んでも守ってやるさ)
「だが頼むから、殴るのだけは止めてくれ」
「殴る訳じゃないわよ!!」
2人はそんな会話を交えながら、ホタルの光を眺めるのだった。
互いの世界の話や生い立ちを語る『フランスパン珍道中』上谷・零(p3p000277)と『神を名乗った吸血鬼』ロザーナ・ロリータ(p3p002348)。
知り合って間もない友人同士とはいえ、(見た目)男女の仲が良い姿は所謂『いい雰囲気』に見えてしまいがちで。
実際そんな空気を感じ取ったロザーナだが、零は気付かず平常運転。
(ふむ……これはそろそろ、いけるのではないか?)
それでも迫れば零も乗り気になるのでは、と口を開いた矢先。
「うっわぁ……! すっげぇ綺麗じゃん!!」
声を上げる零に思わず毒気を抜かれた。
一際輝いたホタルに思わず歓声を上げた零はそれすらも気付かず、飽きなくホタルを見上げる。
世界によって異なる生物はいるだろう。けれど、この世界のホタルは想像以上だ。
そんな零の様子にロザーナは小さく溜息をつき、苦笑を浮かべた。
「……やれやれじゃな」
迫れば吸血して元の姿に戻れるかとも思ったが、今は彼に合わせてホタルを眺めるのも悪くないか。
ロザーナは零の隣でホタルに向き直った。
「わーい、三色団子だー……!」
『木の上の白い烏』竜胆・シオン(p3p000103)の様子に、彼と出かけると食べるばかりな気が……なんて1人首を傾げていた『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)はくすりと笑った。
「ホタルを見ながらのおやつもいいものですね。……あぁ、あの光はシオンの瞳と同じです」
「そー……?」
す、とホタルを指差した雪之丞。彼女の連れる猫──大福をもちもちしながら団子を頬張っていたシオンは小さく首を傾げて、視線を向けた瞬間「あっ!」と目を丸くした。
「今赤く光った……! ゆきのじょーの瞳とおんなじ色だよ……!」
「まあ。拙と同じ色ですね」
色味を変えたホタルに2人で小さく笑い合う。
シオンはふと思い出したかのように小さい箱を取り出した。
「あのね、ゆきのじょーにお誕生日プレゼント用意したんだー……」
目を丸くした雪之丞が箱を受け取り、中を見る。
「祝われるなど、初めてで……どう返せばいいのでしょうか」
温かくなる胸に片手を当て、雪之丞はプレゼントをそっと取り出した。
木製の櫛。桜の意匠が掘られたそれは、とても可愛らしくて。
「ありがとうございます。とても、嬉しいです。……どうでしょう。合いますか?」
雪之丞はその櫛を髪に沿えるように持って、シオンへはにかんだ。
浴衣を着つけ、顔に化粧を施して。
恋人のためにめかした『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の肩を『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が優しく抱く。
その温もりに、幻は失わなくてよかった……と強く思った。
「楽士ファン・グリン……ジェイク様が反転してしまうのではと、怖かったです」
「必死に呼びかけて、抱きしめてくれたからだ」
「いいえ、貴方が僕との愛を強く信じてくれたからです」
きっと、どちらもだったのだろう。
互いが互いを想う心。他者と比べようがなくとも、2人のそれが強かったのは一目瞭然で。
「一緒に引き金を引いた、あの感触が忘れられません」
あの時、本当の意味で一心同体になれた気がする。
『幻狼』という結びつきが、より強固なものに。
「俺達は2人で1人の【幻狼】だ。どちらが欠けてもいけない」
欠けてしまったソレはもはや、幻狼ではないのだ。
(そう、俺達は2人で1人だ)
口に出したそれが自らの耳を通り、ジェイクに実感をもたらす。
実感によって増す愛しさに、ジェイクは幻を抱きしめた。
「魔種との争いは激化していくのでしょう。けれど貴方が僕との愛を信じていてくれる限り、僕は貴方の隣で戦います」
僕らは2人で1人の幻狼だから。
幻のその言葉は荒々しい口付けに消えてしまったけれど。
精一杯抱きしめ返すその腕が、きっと彼へ想いを伝えていた。
「今日はサンドイッチを用意したが、実はパンがデニッシュなんだ」
『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)はサンドイッチのボックスを『死力の聖剣』リゲル・アークライト(p3p000442)へ差し出す。
「おぉ、デニッシュパンのサンドイッチとは豪華だな! いつも有難う!」
「どういたしまして、だ。いつもとは一味違うぞ?」
紅茶を淹れた水筒を出したリゲルは嬉しそうにサンドイッチを1つ取り、笑顔満面でかぶりつく。
そうして腹ごしらえをして、2人はのんびりと空を見上げた。
まるで世界全てが7色の星空のようだ。
「綺麗だな……」
ポテトの視線は空から離れない。きらきら、ゆらゆらとしたそれについ見入ってしまう。今だけの贅沢で幸せな時間だ。
と、その肩を抱き寄せられ、頬に口づけを受ける。
「こんな静かで優しい世界が、ずっと続いていくといいのにな」
これからも熾烈な戦いは続いていくだろう。リゲルの口にした願いが叶わないことはわかっている。
(だからこそ、こういった時間を大切に……ポテトと過ごして行きたい)
「これからもこんな時間が過ごせるように、頑張ろう」
ポテトは微笑を浮かべ、リゲルの頬にキスを返した。
「それじゃ、決戦の勝利を祝って」
「ああ。それに誘いを受けてくれて感謝だ」
グラスを軽く合わせる『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)とルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)。
2人の周りを近すぎず遠すぎず、ホタルの光が飛んでいく。
「蛍が光るのは、死んだ人の魂を運んでいるからなんて謂れもあるそうね」
変化が止むことのない色は魂の色。罪なく命を落とした者が、天へ還る時に迷わぬように闇夜を照らす。
「そうかもしれないな」
けれど。
「犠牲だけではなく、この淡い命の光がもたらす様な軌跡もあるのだと……俺はそう思いたい」
その光があるのなら、きっとルフト達のような者も導いてくれると思うから。
彼の言葉にミスティカは目を細め、静かに口を開く。
「多くの人の死の上に、私は今まで生きてきた。……貴方はどうかしら? 話くらいは聞いてあげるわよ」
「幻想種は長命だからな。俺もそれなりに見ているさ」
2人はお互いの話をぽつぽつと交わしあって。
煙管を咥えた『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)は、煙の味を楽しんでゆっくり吐き出した。
(サーカスの襲来。ノーブル・レバレッジによる反撃。そして決戦……)
「英雄譚──ここに生まれり、か」
ホタルを見据えながら、その口元は緩く弧を描いた。
良い、とても良い日であった。素晴らしいと拍手喝采したいほどの。
強き意思が1つにまとまり、それが勝利を手繰り寄せた。
「……あぁ。ここは良い世だ……」
ホタルの瞬きは美しく、それは人の物語も同様。
次の瞬きは、果たしていつのことになるのだろうか。
「……死者の魂の姿、かぁ」
『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)の呟きは、先程『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)に教えてもらった知識だ。
先程までくるくると踊るようにホタルを眺めていた動きは、先日の事を思い出したからか止まってしまっている。
呟きを耳にしてシャルレィスの方を見たのは、同じように眺めていた『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)。
ラルフはそういう話もある、と口を開いた。
「無論、科学的にはナンセンスだ。だが科学や知とは時に野暮であるから、古代の人々の迷信こそ人間の美徳と思うよ」
ホタルの光に、過去の人々は失くした命を想ったのだろう。
シャルレィスがホタルから視線を伏せる。
「私……決戦では感染者の救出に動いていたけど、助けられたのはほんの一握りだった」
決戦より前の犠牲も考えれば、救うことができたのは本当に少なくて。
迷信を信じるならば、このホタルの中にその犠牲者たちもいるのだろうか、なんて考えてしまう。
「……あの」
小さく声を出したのは、これまで2人の言葉を聞いていた九鬼だった。
「私は……その時、こちらにいなかったのですが。お2人を含め、皆さんが戦った事で沢山の人の笑顔を護る事が出来たんだって思いますよ……!」
全てを救うことなんて難しいことだ。けれど、誰かの為に傷つくこと、戦うことは凄いことなのだと、九鬼は真っ直ぐに告げる。
「そうだな、出来なかった事を悔やむより出来た事を誇るべきさ。それに……君達には正義を成す以上に、誰も省みない者達へも想いを馳せられる人間になって欲しいと思うよ」
「誰も省みない者達……?」
ラルフの言葉に九鬼が首を傾げる。
「サーカスの彼らは悪辣で身勝手だっただろう? けれど、魔種とは『反転』による存在だ」
「……そっか、全然思いもしなかった」
ラルフさんはすごいね、とシャルレィスが呟く。
反転した存在がいるということは、反転する前の姿もあったということだ。けれど、魔種を顧みる者は少ないだろう。
九鬼が2人の会話の切れ間に提案する。
「あの、ホタルが魂の姿というのなら……安寧を得られるように祈りませんか……!」
「そうだね、祈ろっか!」
シャルレィスは頷き、ホタルを仰ぎ見た。
色を変えるホタルは命を散らした者の人生のようにも、また様々な者が集まるイレギュラーズ達にも見えて。
祈る彼らにとって、それらは手向けるための光であると共に前へ進むための光にも感じられただろう。
(無辜の民草にとっては勝利ばかりではないのかもしれませんね)
『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)はグラスを静かに傾けた。
ローレットは裁量の未来を勝ち得たと言えるだろう。けれど、犠牲は少なくない。
そして救われた者が多かったからこそ、犠牲の当事者や家族にとっては余計に割り切れない部分もあるかもしれない。
(せめて、喪われた魂達が安らかに眠れますように)
アイリスは祈りながら、グラス越しにホタルの光を見つめた。
届かないかもしれないけれど、と『特異運命座標』久遠・U・レイ(p3p001071)もまた、目を閉じて祈っていた。
サーカスの団員達を倒したことは喜ばしいし、祝賀会も楽しんだ。けれど、最後にはどうしても思い出してしまうのだ。
(頭ではわかってるのになぁ)
全員を救うなんて綺麗ごとで不可能だ。わかっているし理解もしている。なにより誰かが犠牲になる事は私にとってどうでもいい筈だった。
けれど、実際に散っていく命を目の当たりにしたら耐えられなくなってしまいそうで。
「……何ができるか考えなきゃ」
立ち止まってはいられない。明日からも、前に進んでいくのだ。
「改めて……アリスもこの間のサーカスとの戦い、お疲れ様だな……!」
「ヨルさんの方こそお疲れ様だよ」
『魔剣殺しの』ヨルムンガンド(p3p002370)と『魔法少女』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)は揃って空を仰ぐ。
激しい戦闘だった。けれど、イレギュラーズ達が勝利したからこそこの景色がある。
戦い、勝利し、守った景色だ。
「守りたい物が多すぎて、もっと大きな手があればって。そう思う事もあるけれど」
そう苦笑を浮かべるアリスへ、ヨルムンガンドはそっと問いを投げかけた。
「アリスは戦う理由とか……想いとか……そういうのあるのか?」
これまで自らの感情次第だった戦う理由。けれど、皆で過ごせる世界を守る為というのも悪くないと考え始めていて。
そう告げると、アリスが嬉しそうに微笑んだ。
「そっか。よかった、ヨルさんがそう思ってくれて。私の戦う理由はいつだって変わらないよ」
悲しんでいる人を見たくない。泣いている人を見たくない。だからこそ、アリスは武器を取るのだ。
(彼らを助けることは本当にできなかったのだろうか)
静かな空間で1人、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は考える。
1人でも多く、沢山の人を助けたかった。
自らの身とパンドラを犠牲にすれば1人は助けられるかもしれない。
けれど、ムスティスラーフにとってそれでは足りない。救いきれないと感じてしまう。
(だから……見つけてみせる)
反転した者を再び反転させる──オセロのように、黒を白にひっくり返す方法を。
『名監督』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は、先日の出来事を思い起こしていた。
それは王も貴族も民衆も、イレギュラーズも力を合わせられるという『可能性』を見た、ノーブル・レバレッジ。あれに関わることができた事は誇りと言っていい。
「あれの成功で、ハートに火が着いたんだよなぁ」
世界は残酷であるとゴリョウは知っている。実際、魔種のいるこの世界は想像以上の残酷さを秘めていた。
けれど何度魔種と対峙しようとも、あの熱さを忘れない限りは頑張れるだろう。
(いや、頑張らないとな。気を引き締めねぇと)
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の髪から漏れる燐光に、ホタルが寄ってきては離れる。
そうしてホタルの光を纏う神秘的な姿を見ながら、『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はギターを鳴らした。
悲しいことは沢山あった。家族を奪われた者、人生を壊された者、……その手を汚してしまった者。
元を正せば狂気よりもこの国の病気が──病魔のようなそれが原因だ。ミルヴィは国を変えて見せる、と心に誓っていた。
簡単には変わらないだろう。それでも幻想の国民は、ノーブル・レバレッジの結果のように全員が力を合わせることができる。これが今後のきっかけになれば──。
気づけば悲哀を含む音を奏でていたミルヴィ。はっとして申し訳なさそうにイーリンへ声をかける。
「ゴメン、センパイ。ちょっと没頭してた……ね、一緒に座ろ?」
ミルヴィの言葉にイーリンもまた我に返る。隣へ腰を下ろすと、寄り添うようにミルヴィが寄ってきて微笑んだ。
「もう少し、聞かせて頂戴」
イーリンはそう告げると目を閉じる。
手を汚し、子供を殺し、救おうとした人間を取りこぼした。思い返せば、何度打ちひしがれたことか。
けれどそんな記憶と同時に思い出されるのは、隣でギターを弾くミルヴィが泣きながら励ましてくれたものなのだ。
迷う者、決意する者。様々な思いがある中で、敢えて何も考えないという選択をした者が1人。
(夜に1人だと、考えんでええことまで頭に浮かんでアカンもんね)
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)に思い返すことがないわけではない。イレギュラーズが欠けておらずとも、今回の件で犠牲になった者は数えきれないのだから。
全員無事なんて理想論だと、頭では理解している。けれど、それは望まずにいられないもので。
そんな思考の迷路に迷ってしまわぬよう、頭を休める時間を作るのだ。
「あか、あお、むらさ……あっ、変わってしもた。きいろと……」
逆に頭を空っぽにできない者も1人。
(そういや依頼の書類、机に置きっぱなしだったか)
『暴牛』Morgux(p3p004514)は思わず部屋に置いて来た書類について考え、ハハハと苦笑を零した。
「……簡単には忘れられねぇな」
Morguxは仕事の事をなるべく考えないように、から目の前の光について考える、へ考え方を変えてみる。
(しかしまぁ、どういう原理で色が変わってんだろうな)
魔術的な何か? それとも突然変異?
結局、答えの出ないそれも考えるのは止めて。最後に残るのは──綺麗だ、という感想だった。
「リリーさん、見てください。……光が、飛んでいます」
「本当です。綺麗ですね」
『刃に似た花』シキ(p3p001037)と『儚き雫』ティミ・リリナール(p3p002042)は共に手を繋ぎ、ホタルを追いかけていた。
僕と呼ぶ半身──妖刀『シキ』が濡れないよう気を付けながら、シキは初めて見るホタルをまじまじと観察する。
(人魂や……火の玉、とは……違うんですね)
綺麗な光で──。
「不思議ですね」
シキの考えの先をティミが呟いた。
ゆっくり明滅する光はどこか、儚く散る桜のような物悲しさを感じさせる。
「……あ。……髪に、ホタルが……」
シキの言葉にティミは目線だけを横へ移すと、うっすら視界の端に光を感じた。
光へかぶさるようにシキの手が伸びてティミは頬を軽く染める。
くすぐったいような、そわそわするような。雰囲気にあてられているのだろうか。
「……取れましたか?」
「……取れました」
武器だから、気を抜くと壊してしまう。シキはそっとホタルを摘まんで空へ解放した。
まるで髪飾りの様だったホタルは綺麗で。触ってみたくなった光はたちまち上空へ上がっていく。
「来年も、一緒に見に来ましょうね」
「……はい、来年も。……キミが、僕を望んでくれる限り……いつまでも」
繋いだ手をしっかり握り返す。
それはまるで、未来というあやふやな約束を確かなものにするように。
竜胆と別れたシャルルは、赤マフラーの少女──『壊れた楽器』フルート(p3p005162)と行動を共にしていた。
「へ~、本当に7色に光るんだ……」
ホタルの舞う光景に見とれる2人。この景色を守るような仕事をしていると考えると、召喚されてよかったと少しだけしんみりしてしまう。
「シャルルは……どうしてローレットの情報屋? になったのかな」
「ボク?」
聞かれると思っていなかったようで、シャルルが微かに目を瞠った。暫しして出された答えは『好奇心』。
「知りたいから。色んな事、色んな人。……そのうち、依頼で一緒に行くこともあると思う」
「知りたい、かぁ……それじゃ、一緒に行けるのを楽しみにしてるね!」
フルートはマフラー越しに笑いかけた。
「ほら、これがホタルというものですよ」
「……よく光る」
『氷晶の盾』冬葵 D 悠凪(p3p000885)は『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)へ事前に調べたことを話す。
「環境的に綺麗なところでしか生息できないそうです。とっても儚い、でもそれでも輝いてアピールする……そんな生き物ですよ」
説教臭くてすみません、と謝る悠凪に、リジアは小さく首を傾げた。
「この程度……よくあるやりとりだ。多分」
それにしても、なぜ短い生の中で輝くのだろうか。その意味は何なのだろう。
(繁殖のためか、何かを示すためか。……ここまで小さいし、綻びだらけだというのにな)
「……リジアも、輝いていて綺麗ですよね。私も負けないように輝きたいです」
「……変だな、お前は。私は輝いてなどいない」
リジアは目を瞬かせ、緩く首を振る。
「私はこのままでいい。ただ、この力が綺麗だとは思わないことだ、冬葵」
(それでも、リジアは綺麗です)
その言葉に悠凪はそうですか、と短く返しながら心の中だけ呟いて。
「決戦、お疲れ様でした。これからも一緒にいられるといいなと願っています 」
悠凪はホタルを見ながら、リジアへそう告げた。
(少しは涼しい……かな……)
『青混じる白狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)は完全獣化し、河原の近くで伏せていた。
その毛並みをそよ、と風が撫でる。見上げてみると、頭上をホタルが舞っていた。
こうして自然を楽しむのはいつ以来だろうか。そう考えてしまうくらい久しく、色々なことがありすぎた。
(…………みんな……無事とはいかないけど)
命を落とすことなく帰ってきた。それは本当に、良かったことだと思う。
やがて聞こえ始めた寝息。耳の上にホタルが留まっても、夢の中にいる彼は気が付かない。
(全員を助けたかった……でも、救えなかった)
『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)は舞うホタルを視線で追いながら、先ほど漏れ聞いた言葉を思い出した。
『ホタルは死者の魂の姿』
もしそうなら、このホタル達はサーカスの事件で救えなかった魂なのだろうか。
(……まつりは、もっと強くなりたいです)
召喚されて、『フェスタ』という明るく元気な1人の少女になって。毎日が楽しいだけで満足していた。
けれど、今よりもっと助ける為に。その手を掴めるように。
強さについて、強くなることについて、しっかり考えていかなければならない。
(まずは魔法への苦手意識をなんとか……大丈夫、私にもちゃんと使えるはずっ)
決意を新たに、まつりは──フェスタは、前を向く。
「お姉様と手を繋いで歩けるのが嬉しいですにゃ♪」
『ふわふわにゃんこ』小鳥遊・鈴音(p3p005114)の2つの尻尾がご機嫌に揺れる。
「足元に気を付けな」
「はーい♪」
『不良聖女』ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918)と手を握り、ホタルの沢山いる場所へ。
「そういえば、お姉様はホタルを見た事はありますにゃ?」
歩きながら小首を傾げる鈴音。ヨランダはそうさねぇ、と空を仰ぐ。
そこには1匹の淡い光。
「話に聞いたことはあったが、見るのは初めてだよ。鈴音はどうだい?」
問いに「昔、家族と」と返す鈴音。その表情は少し曇ったような気がしたが──。
「あっでもでも、今の方がお姉様が一緒ですから楽しいですぅ!」
「そうかい。そいつぁありがとさん♪」
一転して満面の笑み。それを見たヨランダはわしゃわしゃと鈴音の頭を撫でてやる。
「にゃぁ、すごいです……!」
「こいつは見事なもんだね」
立ち止まった先にはホタルの群れ。無数の光が空中でダンスをするかのようだ。
鈴音はその内の1匹を指に留まらせ、ヨランダへ近づく。
「お姉様と同じ位綺麗ですね♪」
そんな言葉と共に、ヨランダの手へそっとホタルを渡らせる鈴音。それを見つめながら、ヨランダは暖かい笑顔を向けた。
「……本当に良い子だねぇ、全く」
『黒雪』アルク・ロード(p3p001865)は『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)と共にホタルを眺めようとやってきた──のだが。
「って、どうした? なんで泣いて……」
「その、ごめんなさい。昔のことを思い出してつい」
ほろほろと涙を零す牛王。元の世界の恋人と毎晩一緒に見ていたのだ、と言えばアルクが納得の表情を見せた。
「親同然で好いてた人間だったな。そりゃ寂しくなるよな、思い出したら」
する、と牛王の背中を尻尾で撫でるアルク。その動きは泣いてもいい、と告げているようで。
「…………ところで牛王、おはぎがホタル獲ろうとしてんだけどさ」
「こらおはぎ、蛍を捕っちゃダメでしょう!」
飼い主の様子を一切顧みることなく、ホタルに興味津々なおはぎ(猫)。止めに入ろうとすると「ま、あっちの気持ちもわかるんだわ」と完全獣化したアルクまでおはぎとにゃんこの舞──もとい、ホタルを獲るような動きをし始めた。
「って、アルクもなにしてるんですか!」
思わず出てしまう呆れ声。それを意にかえすことなくアルクは牛王へ口を開いた。
「牛王、元気出せ。ここでの思い出、土産としてキチンと話せるよう記憶しろよ」
泣いていたら記憶に残せない。
アルクの言葉に牛王は虚をつかれ、次いで苦笑を浮かべた。
「……そうですね。今を楽しんで、土産話を作らないと、ね」
『表裏一体』ミラ・エイノス(p3p005136)は静かな川辺と幻想的な景色に小さく吐息を漏らした。
(ホタル……とっても綺麗ですね)
どこかの世界では、ホタルは死んだ者の魂だという説があるらしい。
サーカスの影響で亡くなった、沢山の罪なき者達。彼らの魂が、ホタルとなっているのだろうか。
(もし、そうなら……もう1度会いたい、そんな強い思いがあるんでしょうか)
例えば愛する人、とか。
それならば、その思いが叶うように祈ろう。
胸の前で両手を握るミラの前をホタルがよぎる。
「本当に……綺麗ですね……」
その目尻が、きらりと光を反射して光った気がした。
「これがホタル? 綺麗だね」
『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は興味深げに舞う光を眺めた。
『生物発光できるものは少ないから、珍しいだろうな』
「そうだね、元いた世界にはいなかったし」
神様と呼ぶもう1つの魂と談笑しながら川沿いを歩くティア。
「水も綺麗なんだね」
『ああ。基本的にホタルは水質の良い、綺麗な場所にしか生息しないからな』
「余計に元の世界だと無理そうだね……あ」
ティアの足が止まる。丁度ホタルの群れがいる場所へ辿りついたようだ。
その美しさに思わず目が奪われる。
「これは、他の皆にも見せてあげたかったかも」
『今度連れてくればいいだろう?』
きっと、来年もまたこの光景を見られるはずだから。
「えりちゃん~! こっちだよ!」
大きく手を振った『笑顔の体現者』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)。それを見た『夜想吸血鬼』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)が駆け寄ってくる。
「今日はホタル見ようって誘ってくれてありがとう! それでね、ちょっと人気がない所が良いかなーって」
「わかりました。ついていきますよ」
エリザベートが頷き、2人は指を絡ませ合って手を繋ぐ。
しばらく歩くと他のイレギュラーズの気配も薄くなっていくのを感じた。
「……だいぶ静かなところに来ましたね。いい穴場といったところでしょうか?」
「そうなの。ほら、ここ!」
ユーリエが指差した場所は森の中を川の続きが流れているようで、ホタルの群れがその辺りを舞っていた。
森の前で待ち合わせしたのは、これを事前に調べる為。
「えっとね……その、えりちゃんの誕生日プレゼントなの。ちゃんとしたものを用意できなくてごめんね」
ユーリエの謝罪にエリザベートは緩く頭を振る。その視線はホタルへ釘付けだ。
「……この世界のはだいぶカラフルな感じですね」
色とりどりな光。エリザベートの知るものは淡い緑に光るだけだ。
「綺麗だね~、本当に綺麗……本当に」
エリザベートの頬に当てられた柔らかな感触。目を瞬かせると、エリザベートはユーリエの方を見る。
「……ユーリエとの最初の誕生日ということで、大事な記念になりますね」
そう呟いたエリザベートはユーリエを抱き寄せ、その頬へキスのお返しを送った。
(幻想の森は穏やかですね。水の流れも、虫の声も、ホタルの光も)
『身長2m20㎝』アニーヤ・マルコフスカヤ(p3p006056)は空になったスキットルを軽く叩いて酒を満たし、それを煽った。
鉄帝で暮らしていたアニーヤ。幻想は鉄帝にとって敵国で、そう思うと少々複雑な心地がする。
ここに当たり前のようにいられるのは特異運命座標となったが故。世界救済のついでに両親を楽させてあげたいという気持ちで頑張ろうとしているが、果たして国同士の戦争はどうなるのだろうか。
(……なんて、綺麗なホタルを見ながら考える事ではありませんか)
アニーヤは目の前を通過したホタルに考えを打ち切り、再びスキットルを煽ったのだった。
「あ、少し甘い物持ってきたけど皆も食べる?」
そんなニル=エルサリス(p3p002400)の言葉──否、口調に一緒にいた2人はぽかんとした表情を浮かべた。
「あっ」
する、と『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430)の手から落ちかけた湯呑を咄嗟に『水面の瞳』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)がキャッチ。
ほどほどにしなよ、とニアに言われたニルは小さく肩を竦める。
「それにしても……皆と出会ってからそんなに経ってない筈なのに、結構な年月が経ったようにも思えるわよね」
「ま、色々と慌ただしかったからね。サーカスだけじゃなくても、色々と仕事はあったワケだし」
「ゆっくりお話しするのも、久しぶりな気がします……」
ニルの言葉にニアと蛍は小さく頷いた。でも、と蛍が続ける。
「これでまた明日から穂波郷でのんびりできますね」
「そうね。もしかしたら、何かの依頼に行ってるかもしれないけれど」
くすりと小さく笑うニル。その髪をふわりと風が揺らす。
(本来、こういうギフトじゃないんだけどね)
ニアは静かにしながら苦笑を漏らして。
「ともあれ、これからもよろしくね?」
「あたしの方こそ」
視線を交錯させて笑いあうニルとニア。2人を見て蛍が空を見上げる。
舞うような光は儚くて、けれど力強い光だ。
「ほた……『私』……は、この子達みたいに強くはなれませんでしたけど、おかげで皆様と出会えました」
視線を戻せば、2人の視線が蛍に集中していて。
「……えっと、上手く纏められないんですけど、その……この出会いに感謝を。こんな心の弱い私ですけれど、これからも仲良くして頂けたら……なんて」
照れたように、恥ずかしそうに。
少しだけ頬を染めて、蛍は2人へはにかんだ。
『狼少女』神埼 衣(p3p004263)は遠目にホタルを眺めながら、ほんの少し落ち着かなげ。
それはいつものアレがないからかもしれない。
(でも、人の近くで吸うのも良くないし……)
周囲に人気はないけど一応、なんて思った矢先に後ろへ気配を感じた。
「……クリス?」
「こんばんわ!ご一緒してもいいかい?」
『麗しの王子』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)に衣は頷く。
「衣君はホタル、好きかい? それとも嫌い?」
はは、と爽やかな笑顔を浮かべるクリスティアン。衣は再び空舞うホタルへ視線を向けた。
「見てるだけならいいけど、虫は嫌い……、!!?」
「大丈夫、ホタルは噛みついたりしないよ」
「え? えっと、噛まないとかじゃなくて……」
抱き上げられて視線が近づく。ほら、とクリスティアンに促され、衣はまた視線を空へ。
「……ホタルの光は、幻想的でとても綺麗だね」
「……うん」
(虫、苦手なんだけど……)
けれどこの微笑みを消してしまうよりは頑張った方がいいか、と衣は横目でクリスティアンを見た。彼の視線はホタルへ向けられている。
「来年も見られるといいね。君さえ良ければ、またご一緒に」
大きな戦いはこの先もあるだろう。傷つくこともあるだろう。
それでもまた無事で帰ってきて、この美しい夜を過ごせるようにと密かに願う。
(誰に聞いたんだっけ、思い出せない。まあいいか)
『鳶指』シラス(p3p004421)が思い出したのは『ホタルが死んだ者の魂』という話。
嘘か本当かはわからない。けれどサーカスのせいで犠牲になった者も多かったから、今宵はきっと沢山の光が飛んでいるのだろう。
幻想の国民に犠牲者はいても、イレギュラーズに欠けた者はいなかった。けれど、過信してはいけない。
(多分とても運が良かったのだと思うから、気を緩めないようにしよ)
そう自らに言い聞かせて、光を視線で追う。
死んだら会うことはできず、亡骸は綺麗とは言えない。それでも、最後がこんなに綺麗なものとなるのなら、死というのも悪いモノではないかもしれない。
「不思議。眺めているとサーカスを思い出すよ」
『ゆきのはて』ノースポール(p3p004381)が人差し指を向けると、ゆっくりホタルが近づいてくる。
その光がサーカスのライトに似ているからだろうか。
「サーカスの光は、本来は人を楽しませるためのものだったんだよね」
ノースポールの指に留まりそうなホタルを見つめながら、傍らにいた『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
が口を開いた。
この時間は、皆で一緒に勝ち取った時間だ。皆が頑張ったからこそ、戦場の最深部で戦っていたルチアーノ達も戻って来れた。
惚れ直しちゃったよ、と告げるルチアーノにノースポールはでもと返す。
「強敵も多くて、危なかったね。ルークも怪我しちゃったし……」
こてんと頭を預ければ、優しく撫でられて。
(ルークは強いから大丈夫。その気持ちは本物なのに……心のどこかで心配しちゃう)
この温もりを失わなくてよかった。そう思うのはルチアーノも変わらない。
「ポーが無事で、本当によかった。居場所を感じられるって、こんなに幸せなんだね」
その居場所を失くさないように。ルチアーノは彼女から勇気を貰って戦うし、ノースポールは彼の無事を祈るのだ。
(ここまで多いのは初めて見たな……まるで違う惑星に来たような。……いや、今のアタシには似たようなもんッスね)
なにせ召喚されて、別世界に来たのだから。
それにしても綺麗に光るものだと『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は思う。すぐに死んでしまうから、なのだろうか。
「綺麗に光ったお前達は間もなく死んでいって……意地汚く生きてるアタシは未だに死なず…………ふ、とんだ皮肉って奴でしょうか……」
口元を歪めて、クローネはホタルへ指をゆっくり差し出した。
「綺麗!光ちっこくて可愛い!」
大きな声を出してしまった『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は思わず口に手を当てた。その様子に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がくすくすと笑みを漏らす。
「こっちのホタルはこんな風に光るんだ、綺麗だなぁ。ルアナちゃんの世界にはホタルみたいな生き物っていたの?」
ボクの世界には違う感じのホタルがいたんだけど、という焔にルアナは首を横へ振った。
「んとね、ホタル初めて見たんだよー。ちっちゃい虫さんがぴかぴか光ってる。ふしぎ」
興味津々で覗き込めば、草に留まっていたホタルはふわりとどこかへ飛んで行ってしまう。
「7色に光る、っていうのもいいなぁ。ボクの世界では、その土地に加護を与えて下さっている神様の好きな色に光ってたから」
それはきっと、神様のお気に入りの色だったのだろう。とても素敵だ、とルアナは微笑んだ。
「ホタルの光を見て、きっと神様達喜んでるね。ここの土地神様もきっとにっこにこだよ!!」
こんなに綺麗なんだもん! と両手を広げるルアナに焔も笑顔で頷いた。
「実は、見るの初めてなんだよね」
話に聞いたことはあったんだけど、とマルク・シリング(p3p001309)は『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)を連れて水辺の方へ向かう。
少し歩くとすぐ眼前へ広がる光景。それにアンナはほぅ、と感嘆の息を漏らした。
「光る昆虫、と聞いていたけれど。光の粒が舞っているみたいね」
静かな夜に光の舞う、風流というべき光景。
浴衣と合いそうな雰囲気だよね、なんて話をしたマルクは足元を濡れても良いように準備して、不思議そうな表情を浮かべるアンナへ手を差し出した。
「水の中に入って、ホタルに近づいてみようか」
そこはホタル観賞の特等席。アンナの表情も綻ぶ。
「少しはしたないけれど、水が冷たくて気持ちいいわね。蛍もたくさん近くで見れるし」
昔、貴族として過ごしていた頃なら靴を脱いで川に入るなんてしなかっただろう。
ウォーカーに教わったという歌を聞かせて貰ったアンナは、ほんの少しだけ考えてから口を開いた。
「……初めて聞いたわ。切ないけれど素敵な歌ね」
(口に出せないから、より深い想いを光に乗せるのかしら)
聞く前と聞く後ではホタルを見る目が変わりそうだ。
「あの光は、ホタルの精一杯の思いなのかもね」
マルクが視線をアンナからホタルへ向ける。
そうして2人は暫し、水の中からホタルを見上げていた。
色合いを変えていくホタルと、森のさざめきに紛れるイレギュラーズ達の会話。『麗しの黒兎』ノワ・リェーヴル(p3p001798)は飲み物の入ったグラスを小さく揺らす。
(美しいね。本当に良いものだ)
この景色も、この空気も盗んで手に入れることはできない。けれど、時にはそんな美しさだって悪くないものだ。
ジュースを飲む『偽りの攻略者』エリーナ(p3p005250)は空をのんびりと仰ぐ。その隣には連れ歩く小型妖精も一緒だ。
『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は木の根元に腰かけ、ゆっくりと目を閉じた。
思い出されるのは、サーカスの呼び声で狂人となった者。
(今にして思えば、他の選択肢があったのかもしれない)
のちに狂気から回復した者もいたという。ミニュイの受けた依頼の狂人も、生きていれば回復したのかもしれない。
ゆっくりと目を開けて、淡い光を視線で追う。
「私は、間違えたのかな」
その言葉を聞いたのは、1匹のホタルのみ。
「ふむ……話の聞けそうな魔法少女はいなかったか」
何人かいないわけではなかったが、いずれも連れがいるようだった。
『魔法少女(物理)』イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)は話を聞くことを諦め、空を見上げる。
ホタルの光も悪くはない。けれど魔法少女の光の方が良いと見えてしまうのは、恐らくホタルの光に思い出す存在がいるからだろう。
(それにしても、私が見たサーカスの連中には魔法少女がいなかったな……)
残念ではあるが、敵にいないということは喜ばしい。少しだけ複雑な心境だ。
(魔法少女は不滅だ。この浮かぶ光のように)
ホタル達は、来年も恐らくこの世界のどこかで淡く光を纏うのだろう。
(色々あったけど、まずは終わり……でいいはず)
いや、もしかしたらこれが始まりかもしれない。何の、かはわからないが。
『山岳廃都の自由人』メルト・ノーグマン(p3p002269)はジュースを片手に空を仰ぐ。
どちらであったとしても、サーカスによる惨劇は終わりを告げた。次が始まったとわかる、その時まではゆっくりするとしよう。
「魔種という存在を始めて目の当たりにしましたが……恐ろしいものでしたね……」
『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はホタルの光を眺めながら、ぽつりと零した。
できればもう見たくないと呟くクラリーチェに『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)はけれど、と口を開いた。
「彼らの呼び声は、ダメだ。野放しにはしておけない」
人の旅路はそこに意思があり、行路を決めるから美しい。あの呼び声は意思を無視するものだ。
(なにより……歪ませられるのが嫌だと感じた人がいたから)
「グレイさん。改めてお礼を言わせてください。一緒にいて下さってありがとうございました。とても、心強かったです」
敵味方が入り乱れる戦場。足の竦みそうな状況に動けたのはきっと、彼がいてくれたから。
先日のような戦場でなくても、イレギュラーズ達はまた戦いに身を投じるだろう。それでもこの身体と心が動く限り、何でもない日常の為に頑張ろうとクラリーチェは思う。
「礼なんていらないさ。僕の力でクラリーチェ君を守れたのなら安いもんだ」
誰かを案じる。無事の期間に安堵する。
それはグレイの生きてきた中で初めてのことだった。
何かあっても納得して眺めていた今までとは違うこと。だからこそ、湧き上がる思いもある。
「キミが無事でよかった」
「はい。グレイさんも……ご無事で良かった」
2人は顔を見合わせ、小さく微笑み合った。
(はぁ。とんだ怪我を負った)
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は一気にグラスを煽った。
もっと力があれば、貴族達を助けられたかもしれない。全員は無理でも、せめて近くにいた──。
「……俺らしくもねぇ」
グラスに注いで、また煽る。
初対面同然の者に、何故そう思う。生かして何になる。
(ただ、俺は何もしていないのに目の前で死んでいく奴等を見るのが、とても気に入らなかった)
召喚された時に情でも付与されてしまったのだろうか。
再びグラスへ注いだペッカートは、目の前に留まったホタルへ「酔うまで付き合ってくれよ?」と声をかけた。
「……お邪魔しても?」
『剣鬼』ヨシツネ・アズマスク(p3p004091)の声に振り返ったシャルルは頷く。
ホタルの群れは様々に色を変え、散って、集まって。
「綺麗ですよね、蛍。私の父がウォーカーなのですが、彼の世界でも蛍は存在していると聞きました。なんでも人の魂の化生だとか」
「……父が?」
聞き返すシャルルへ頷き、私はこの世界で生まれましたがと告げるヨシツネ。
「私達が倒した、サーカスの方々の魂だったりするのでしょうかね」
その言葉に視線をホタルへ向け直すシャルル。かもしれないね、なんて言葉は彼に届いたかどうか。
「思うのです。もし、彼らが呼び声によって歪められていなかったら、と」
けれど、そんな仮説は詮無き事で。
結果として残ったのは、魔種を始末して平和を取り戻したということだ。
(聞いたことはあったけど、きれいな水辺にしかいないんじゃラサにいるわけもないしねー)
『悪意の蒼い徒花』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)、初の蛍見である。
積極的に水辺へ向かっていくと、足元に水の冷たさを感じた。
「おー! 色んな色の光が飛び交ってるねー」
上を見れば光の舞い。それは眩しいものや熱いものとは異なって、優しい光だ。
(魔術の勉強で見た、混ぜると光る薬品に近い光り方かなー)
そっと手を伸ばしてみると、丁度降りてきていたホタルが1匹手に留まる。
「甲虫でおなかだけ光ってるんだねー。光の色が違うのはなんでだろー」
ギルド元職員、好奇心は人一倍。
他の参加者とは離れた静かな場所で『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は座っていた。
目の前の草に留まるホタルへ、アーリアは小声で声をかける。
「あなたは1人なの? じゃあ、ちょっとだけ私の話を聞いてくれるかしらぁ」
この前初めて人の形をしたものを──人を殺したことをアーリアは独白した。
モンスターを倒した時も怖かったけれど、それとは段違いで。
「生き物を殺すこと、には変わらないのにねぇ……」
(……身勝手よねぇ)
けれど、それでもとアーリアは思うのだ。
「誰かを守るためなら、私はこれからも手を汚すって決めたわぁ」
アルコールで誤魔化さない、素面の独白。
アーリアは内緒ね、とホタルに向けて口元に人差し指を当ててみせた。
「ようやく一息つけた感じね」
『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)からジュースを受け取ると表情を和らげた。
「お疲れ様会ですね。ホタルも見れて、美しい光景です」
シルフォイデアも野菜ジュースを片手に小さく微笑む。
「魔種自体に対してはほとんど相対してなかったけれど……呼び声に対して、対抗できることが分かったのは収穫かな」
「そうですね。私もその、あまり表立っては働いていなくて。サーカスの方々とほとんど正面から向き合っていないのですが……まだまだ謎が多いですね」
魔種との戦闘は多くの者が参戦したが、当然それ以外の依頼も存在していた。2人はそういった依頼に奔走していたのだ。
「これからどうなるか、不安ですが……今回の件で少しは自信がついた、のでしょうか……という感じなのです」
「私はそうだなぁ。バルツァーレク伯のお屋敷に行ったりとか、中々ない体験をしたかも」
まあ──と言葉を続けたイリスにシルフォイデアの言葉が被る。
「「明日のことは明日考えれば」」
「……ですよね?」
シルフォイデアは目を丸くするイリスにくすりと微笑みかけた。
「あれ? 麦わら帽子に虫取り網装備じゃないの?」
「誰がそんな装備するか!? ったく、虫取りに来たんじゃねぇぞゴミカス」
『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)と『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)はそんな軽口を交わしながら合流した。
「変な気起こしたらすぐ逃げるからね?」
「はっ! セクシーなだけじゃ俺を誘惑できねぇぞ?」
鼻で笑うアランからQZへ容赦ないチョップが落とされる。
その気兼ねないやり取りは友人であるが故だ。
会話が途切れ、QZはホタルを眺めるアランを見て小さく目を細める。
(ホタルの幻想的な光に照らされてみると、確かにカッケーはカッケーね)
まあ恋人がいる者同士、互いに靡くことなんて絶対にありえないが。
そう思いながら口を開くQZ。
アランはQZの様子に気づくことなくホタルを眺めている。
(こんなにゆっくりホタルを見るなんて久しぶり──)
「ポメさんはホタル好きなの?」
「だァれがポメさんだコラァ!!」
反射的に上がった声に、辺りの草に止まっていたホタルが一斉に飛んでいった。
『終ワリノ刻ヲ看取ル現象』エンアート・データ(p3p000771)は1人、明滅を終えようとするホタルを眺めていた。
『――……死にたくない……?』
楽士の発したあの言葉、その意図をずっと考えている。
けれどその答えは出ないまま、次に思い出すのはサーカス団員を看取った時の感情だ。
彼らの抱いていた、自身の滅びへの狂気。滅びに対しての一途な感情。
(……最早どう考えようと、死を看取る役目に変わりはない)
数えきれないほどの死をエンアートは見てきた。自らの感情が揺れ動くことはない。
死んで光らなくなった蛍を人知れず看取った後、静かにその場を離れていく。
「わ、わっ」
『剣狼』すずな(p3p005307)は目の前をよぎったホタルに目を丸くした。
(これは本当に綺麗で、凄いです……)
持っていた器の中身を零さなかったことにほっとしつつも、すずなは空を仰ぎ見る。
元の世界では緑に光るだけだったホタルも、この世界では七色に光ってしまうらしい。
予想外だが、綺麗で美しい光景には素直に感嘆の声しか出てこない。
度数の軽い酒を舐めるように飲みながら、すずなはゆるりと狼の尻尾を揺らした。
『太陽を忘れた時代の狩人』トライ・ストライン(p3p005482)もまた、その光景に感嘆の声を漏らす。
「半信半疑だったが、実物を見せられてはな……」
予め情報収集をしていたトライは、熱を持たない光というものに驚いたのだ。
太陽や炎と違い、そんなものもあるのか……と。
(……留まってくれたりしないだろうか)
ふと手を伸ばす。その手袋越しに光が留まることを期待して。
黒いそれは月明りによって夜闇に紛れることなく、やがて1つの光が羽休めをするかのように舞い降りた。
「やっと落ち着いてゆっくり出来るなー」
「だね。今のうちに満喫できるなら何より」
羽根のおかげで毎回夏は苦労する、と言う『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)からカンテラ風の入れ物を手渡された。
「何? これ」
「ちょっと待ってろな」
明かりのついていないそれにルーキスが首を傾げていると、ルナールが数匹のホタルを捕まえてくる。
入れ物にホタルを解き放つと、カンテラが様々な色で淡く光り始めた。
「わぁ、面白い色。こんな種類初めて見た」
こういうフィールドワークもいいね、とカンテラを眺めるルーキスはルナールに背後から抱きしめられた。
カンテラを持っていない手で相手の頭を撫で返す。
「まー、何時もの事ながらホタルよりルーキスが綺麗だけどなー」
「褒めちぎらなーい、何も出せないよ。……明日はルナの好きなものでも作ろうか」
出せないと言いながらも、ルナールの喜びそうなものを考えて。
「お、嬉しいな。景色もルーキスも綺麗だし、言うことなしだ」
手元の光と空を舞う光。2人は静かにその景色を堪能する。
「先日はご苦労じゃったの、一献どうじゃ?」
「お疲れさまでございました。あまり飲めませんが、お付き合い致します」
『田の神』秋田 瑞穂(p3p005420)と『守り刀』桜葉 雪穂(p3p002391)はホタルの舞う中、それぞれの持つ盃を傾ける。
「お主はわかり易いのう」
瑞穂にそう言われ、雪穂は一瞬呆けた表情で瑞穂を見た。
「……顔に出てしまっておりましたか」
先日の戦いで、2人は怪我人の搬送に尽力した。それでも助けられなかった命はあって、思い出すたびに自らの無力さを噛みしめるのだ。
「わしは今、わしにできる全力を尽くした。主もじゃろう?」
「はい、私も全力でありました。しかしそれでも……己がもっと強ければ、と思わずにはいられないのであります」
再び盃を傾けた雪穂は空を見上げる。
ちらほらと空を舞うホタルの光。それはまるで、天へ向かっていく魂のようだった。
ちゃぷ、と足を川の水につけた『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は目元を和ませて視線を上げた。
(身体を休めるのには良い環境ですね)
静かである事。1人になれる場所がある事。ゆっくりできる時間がある事。このような条件が揃う場所は滅多にないだろう。
Lumiliaはそっと白銀のフルートを構え、静かに息を吹き込む。
何に気兼ねすることもなく、ただただ自由に、情景を楽しんで。
(ただ演奏したいから演奏する……運命特異座標になってから、初めてかもしれません)
戦いや日常のためではないそれは、敢えて理由をつけるのなら──自らの心が安らぐため、かもしれない。
『混紡』シーヴァ・ケララ(p3p001557)はホタルの光に目元を和ませた。
(儚いものはいつだって美しいわ)
ホタルの光もいつか色を繰り返すが、決して同じ色はないだろう。
光を視線で追いかけた先。青薔薇の少女を見つけたシーヴァは声をかけた。
「……なに」
淡々とした声音。その水色の瞳にシーヴァはグラスを映す。
「よかったら1杯、いかがかしら?」
「これは……」
ホタルの光を受けて煌めく液体。グラスがシャルルの手に渡る。
「炭酸水よ。お酒が飲めるか、わからなかったから……」
でもこっちの方がシャルルの香りが映えるわね、なんて思ったりして。
「……ありがとう。アンタは、薔薇好きなの?」
「アタシ? そうねぇ……」
──なんて、のんびり言葉を交わして夜は更けていく。
(無事……かはともかく、終わりましたね)
ホタルの光を目で追いかけながら『こそどろ』エマ(p3p000257)はぼんやりとそう思う。
サーカスが黒であると判明するのに必要な犠牲だったかもしれないが、大分国内の人が減った気がする。
(いざこうも手ひどく踏み荒らされてみると、やっぱり何だか腹が立ちますね)
エマは自らの抱いた感想にあれ? と目を瞬かせた。
盗人暮らしで生きてきたエマにとって、この国は嫌いなものだった。……だがこういった感想を持つということは、なんだかんだエマも幻想の人間だったようだ。
(イレギュラーズになって、イイところもちょっとは見られるようになったからでしょうか)
そんな考えに至ると、えひひ、と思わずエマは笑いを零した。
「……ああ、終わったんだなあ」
美しい光景が終わりを実感させる。
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はホタルの群れを見上げた。
イレギュラーズとして本格的に仕事をするようになって半年。依頼はローレットに数多くあれど、サーカスのような大きい事件が起こるとは思っていなかった。
(正直言って、とても怖かった)
最初は力の必要性も理解していなくて、けれど誰かを守る為には力が必要だとようやく理解できた。
「これからは、これまで以上に頑張って……魔法の事も勉強して、兄さんのように、皆の笑顔を守れるようになって」
指折り数え、自らの目標を口に出して。
「よし、頑張ろう!!!」
明日から、また。
「ふむ。我が剣の光とはまた違った光、であります」
風流でありますかね、と『叛逆の風』竜胆 碧(p3p004580)とお菓子を片手に。
夜は静かに眺める、というのも悪くないのだなと思わせる。
(今この様な光景を見ていられるのも、生き延びたからでありますね)
次も戻って来られるように、と頭の中で願いつつ光を視線で追う。
碧達の戦いは終わる事を知らないだろうが──今は、美しい光を眺めながら菓子を優雅に楽しむとしよう。
「足元、気を付けろよ。滑っても溺れやしねぇが、せっかくの可愛い靴が濡れちまう」
「はい……歩くのが遅くて申し訳ございません……」
「なーに、これくらいの方が疲れねぇでいい」
からりと笑った『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)がはぐれないようにと『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)の手を引く。その歩調はマナに合わせてゆっくりと。マナもまた、十夜に寄り添うように並んで歩く。
ふと足元から視線を上げたマナは空を舞う光に息を呑んだ。
「これは……」
「っと……こいつは見事なもんだ」
止まったマナの足に十夜も立ち止まり、空を仰いで笑みを零す。
(こういうのを幻想的、っていうんだったか)
月明りと様々な色に輝くそれらの空間は、まるで別世界に来てしまったかのようで。
「ホタルは本で読んだ程度の知識ですが……本当に、本当に綺麗ですね……」
マナはその光景を瞳に映し、感動を声に滲ませた。
こんなにも美しいものが世界にはあったのか。
(こうした景色を、十夜様と見ることができて……とても嬉しいです)
「マナ」
十夜が短く声をかけると、マナがホタルから視線を移す。彼女へ片目をつぶって見せ、宙へ手を伸ばすと柘榴色の瞳がその動きを追った。
「……まあ」
十夜の指に光が留まる。ゆっくりマナの目線の高さまで手を降ろすと、十夜は「手、出してみな」とマナに告げた。
マナの視線がホタルから十夜へ移って、もう1度ホタルを見て。
おずおずと出されたその指に十夜がホタルと伝わせると、マナの指先でその光は徐々に色を変え始める。
それを見たマナは十夜へ視線を上げ、ふわりと笑みを浮かべた。
(う、うーん…! 何か甘そうなムードも漂ってるので知人にも声を掛けづらいです…!)
『驟猫』ヨハン=レーム(p3p001117)は落ち着かなげにあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
この催し物にギリギリで気づいて飛び込み参加を決めたものの、誘うような友人もいなかった。
「って、ヨハンじゃねぇか? お前一人で何やってんだよ?」
「あ、シュバルツさんです!」
『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)の姿にヨハンは目を丸くする。
まさかこんな、蛍を眺めるような催し物に参加しているなんて。暇さえあれば危険な依頼へ飛び込んでいるイメージがあったから新鮮、とでもいうのだろうか。
ヨハンからオレンジジュースを受け取ったシュバルツは、「他にも明らかに一人っぽい知人に出会えないかうろうろしましょうか!」と言うヨハンへ頷いてにっと笑いかけた。
たまにはのんびり楽しむのも良い、と思っていたが知り合いがいるなら集まってガヤガヤする方が楽しいに決まっている。
「んじゃ、早速他にも知り合いの奴らが来ていないか探しに行こうぜ」
「はい! ……あ、早速1人見つけましたよ!」
ヨハンが手を振ると、この季節だというのに長袖マフラー姿の『特異運命座標』氷彗(p3p006166)が気づいて小さく手を振り返した。
彼女が2人に合流するとひやりとした空気が肌を撫でる。
「ホタルがきれいね」
「ええ、カラフルですしね!」
氷彗の言葉にヨハンが笑って頷く。
ローレットへ来たばかりの氷彗は知人も少なかったが、ここに集まるのは同じ特異運命座標たち。『知り合い』と言ったっていいだろう。
「どこからか甘い香りも漂っていて……不思議な感じね?」
「甘い香り……確かにするな。何かの残り香か?」
すん、と小さく鼻をならしてシュバルツは辺りを見回した。
それらしき原因は見当たらない。だが、木の根元に腰かけるお1人様を見つけてシュバルツは近づいた。
「1人か?」
「ああ。アンタも?」
シュバルツにそう返した『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)はスキットルを煽り、空を舞うホタルから視線を移す。
「いや、知ってる顔と会ってな」
「そうか。俺は1人で来ちまったが……数人で集まってるのが多いみたいだな」
少し離れた場所から談笑の声が聞こえてくる。もしかしたら1人でひっそり眺めている者もいるかもしれないが、複数人で訪れている者は決して少なくない。
「シュバルツさーん! ホタルを見てお散歩しますよ! そちらの方も!」
元気な声にシュバルツが振り向けば、早く行こうと言わんばかりにヨハンがぶんぶんと手を振っていて。氷彗はすでにホタルに興味津々と言うように空を仰いでいる。
「……だとさ。折角だ、1人同士で集まって過ごさねぇか?」
シュバルツの言葉にアオイは目を瞬かせ、僅かに目元を和ませるとゆっくり立ち上がった。
木の上にいた『運命特異座標』ティバン・イグニス(p3p000458)は視線を彼らの背中から空を舞う光へ移した。
(こういう、ゆっくりした時間もいいもんだ)
彼らのように集まって騒ぐのも嫌いではない。けれど、1人の時間を過ごすのも偶には悪くないと思ったのだ。
浴衣を着て、『破片作り』アベル(p3p003719)と『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)はのんびり歩いていた。慣れない履物にゆっくり歩かざるを得なかった、というものあるが。
「今日は、一緒に来てくださり、ありがとうございます……です」
色々な事があったが、またこうして出かけることができるのは嬉しい。何より、7色に光るホタルなんて初めてだ。
「前は春の山だったけど、次は初夏の河も悪くないね」
アベルは浴衣を着たからか、風景の雰囲気に合わせようとしているからか少し雰囲気が違うように見えて。
「アベルさんは、ナナイロホタルを見たこと、あります……です?」
「いや、初めてだよ。レウレウもだったら嬉しいね」
何故だろう、というようにレウルィアが首を傾げる。
初めての体験の共有というものは、記憶に残るものだ。
「君と色んな思い出を作れたら、俺は嬉しいのサ」
「そう、なんですね。……でしたら、また沢山遊びに、行きましょうね」
レウルィアがアベルへ微笑みかける。2人は立ち止まり、舞う光達を見上げた。
ここ数カ月で起こった一連の事件。こうも色んなことが起こるなんて、シルク・ド・マントゥールが幻想に来た時──そしてこの世界へ召喚された当初は思っていなかっただろう。
けれど、まだ全てが終わったわけではないと『GEED』佐山・勇司(p3p001514)は感じていた。
それは1人だけ逃がしてしまったサーカスのピエロのせいか、はたまた別の要因か。
(俺にどれだけの事が出来るかは分かんねーけど、今の俺に出来る事を一つずつ積み重ねていこう)
目指す先は変わらない。グッドエンドなエンディングだ。
「幻想的な光景……なのでしょうか?」
そう呟いたのは『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)。
風流と言うのだろう、暑さの残る空気の中に漂う熱のない7色の光。このような水辺に圧あるのはナナイロホタルの習性と考えられる。
(私にはある意味で、風景自体より──)
この風景を見る者が、何を見ているのか。
まるで絵を切り取ったかのような風景は、見る者によって違う思いを抱かせる力がある。それは水鏡に映すように、風景が見る者の想いをうつしているのだろう。
──私ですか? それは秘密なのですよ。
ヘイゼル自身がこの風景をどう見たかは、彼女のみが知ること。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
楽しんでいただければ幸いです。
何名かシャルルへお声がけ頂いておりました。ありがとうございます。
白紙の方以外は全員描写しています。
リテイク等ございましたら遠慮なくご連絡下さい。
それではまた、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
GMコメント
●行く場所とかやること
河原の近くです。川は緩やかで浅く、うつ伏せなど意図的にしなければ溺れる事もありません。
周囲は森ですが、危ない気配はありません。
時間帯は夜。お天気は良く、雲もありません。ナナイロホタルの群れは河原を中心にそこそこ広い範囲を飛んでいます。
河原の周りは草原なので、ピクニックシートのようなものを敷いてのんびりすることもできるでしょう。
●出来ること1:ナナイロホタルを楽しむ
このパートはホタルを『楽しむ』ことを重点に置いたパートです。
仲間とワイワイ楽しむもよし、1人でお酒など持ち込んで(未成年はジュースで!)静かに楽しむもよし。
●出来ること2:サーカス関連について振り返る
このパートは、パート1と同じ場所にいながらも『サーカスの振り返り』に重点を置いたパートです。
こちらを選択すると、前述関連の心情以外は描写が薄くなります。
●プレイング注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずに。
●ご挨拶
愁と申します。全体依頼、お疲れ様でした。
祝勝会で賑やかな雰囲気の所、当シナリオは落ち着いた雰囲気です。いえ賑やかでも全然構いませんが、賑やかだとホタルは寄って来にくいかもしれません。
シャルルはお呼び頂ければリプレイ登場します。ちょっと話してみたいという方や、1人参加だけど誰かに気持ちを吐露したいという方はどうぞ。
プレイングの書き方ですが、全員近場にいるものですので特に制限は致しません。
前述のパートもあくまでリプレイ執筆の際の指標です。サーカスに関連した心情寄りか、そうでないか。その点に関して当方へお任せくださるのであれば、パート選択も義務ではありません。
それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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