シナリオ詳細
<シトリンクォーツ2021>皐月の風に感謝を込めて
完了
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オープニング
●シトリンクォーツを知っていますか?
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がそう言えば知っていると答える者も居れば首を振る者もいる。
旅人の中ではゴールデンウィークだと返す者の姿も見られた。残念ながら海洋王国での大号令の最中に休息を取る機会は得られなかったがローレットの看板娘は「今年こそ!」と意気込んだらしい。
「知らない方にばっちりご説明するのですよ!
シトリンクォーツって宝石の名前なのですけどこの時期に混沌世界に咲く黄色い花に由来しているのですよ。
その花が咲く頃に豊穣とこの一年の幸福を祈って勤労に感謝する一週間があるのです。
ローレットに来て皆さんはたっくさんお仕事をして下さってますから、その働きに感謝して旅行に行ってみてはいかがでしょうか?」
えへんと胸を張ったユリーカは皆には様々な休息を得て欲しいと願ったのだった。
イレギュラーズは多忙である。世界は広く、様々な依頼人から日々、仕事の話が舞い込んでくる。
ぱんつ泥棒をはじめ、子供の世話やCDの収録、はたまた命のやり取りをする恐ろしい事まで……多種多様である。
昨年は海洋王国の大号令を経て、新天地であるカムイグラへと辿り着いた。カムイグラの窮地を救い、ラサのファルベライズ遺跡群に眠っていた色宝の謎――精霊の力によるものだった!――を解き明かす事に叶った。
現在はローレットの拠点が存在している幻想王国での奴隷事件から始まる事件を追い、その傍らで練達が設計した【R.O.O】内で活動するためのアバター作成を行っているところだ。
もう少しすれば【R.O.O】での活動も開始される。幻想王国での一件もそろそろ終盤か。
「まだまだ、この世界にはたくさんの謎や事件があります! が、偶にの休日は良いと思うのですよ」
にんまりと微笑んだユリーカは折角だから好きなところに行ってみてはどうかとそう言った。
シトリンクォーツは沢山頑張った皆を労わる日だ。勇者総選挙も『一段落』する頃であろう。
「何をしますか? 幻想でおでかけとか。海洋王国でのんびりもいいですよね。豊穣に言ってもいいかも!
皆さんのシトリンクォーツはどんなものになるか。ボクはとってもとっても楽しみなのですよ!」
- <シトリンクォーツ2021>皐月の風に感謝を込めて完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年05月09日 16時00分
- 章数1章
- 総採用数53人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
ラサは夢の都・ネフェルスト。正純が訪れたのはファレン・イル・パレストの邸であった。
彼の庇護下にいると言う精霊、イヴに『初仕事』の成功を祝して逢いに来たのだ。
シトリン・クォーツ。勤労を感謝する日。
初仕事を終えたばかりのイヴに贈物を用意して来たとファレンに告げれば「彼女は自室に居る」と案内された。
イヴの為に用意された部屋にはまだ物は少ない。寝台に腰掛けて書物を眺めるイヴは正純の姿に気づき「正純、さん」と呼んだ。
「はい。こんにちは。イヴさん。初のお仕事お疲れ様でした。勤労に感謝する日……と言うことで。こちらを」
「これって?」
「スペッサルティンの絹糸を使って手拭いを作りました。
ラサの環境では汗をかくことも多いですし、イヴさんも女性ですから身だしなみには気を使った方が良いかと思いまして、ええ。
……幸運を持ち歩く、というのもなかなか洒落ているのではないかなぁと」
スペッサルティンの絹糸。それはイヴがイレギュラーズへと初めて情報屋として依頼した任務での報酬だ。
正純は其れをイヴの為に手拭いとして誂えたのだという。
「……これからも貴女の前途に幸運と祝福のあらんことを、願っております。良ければ受け取って頂けますか?」
「い、良いの」
緊張した彼女に勿論と微笑めば嬉しそうにイヴは頷いた。
お礼をしたいというイヴにそれならば共に茶をと求めた正純は「お口に合うか分かりませんが」と前置きを一つ。
「豊穣由来のお茶とお菓子をお持ちしました。どうぞ!」
それも『はじめまして』だから――とても、嬉しくて。
成否
成功
第1章 第2節
練達――マッドハッター主催のお茶会イベントが行われると今日の卯月は『一番可愛い』姿になって。
服は新しく卸した七分袖ブラウスとちょっとお高めなコルセット風スカート。髪は何時もの通りリボンと編んで。コロンは自分を認識して貰えるかも知れないけれど紅茶の馨の邪魔になるから止めておく。
コスメは練達で買ったばかりの新作。どれもこれもマッドハッターに「可愛い」「似合ってる」と言われるため。
会場で一番可愛いのも構って貰うのも自分にするために、いざ。
『同担』が居るのは辛いけれど――その分、努力をすれば彼に微笑んで貰えると『三月うさぎ枠』になるべくいざ出発。
騒がしい茶会の席に腰掛ければ、胸が高鳴り緊張が滲む。髪は乱れてないかな、化粧は崩れてないかな、盛れてるかな……なんて、不安がじわりと滲む。
(うんうん、さすが彼の方、紅茶もお菓子も最高に美味しい! 銘柄、教えて貰えないかな? ……こっちに来たら聞いてみよう。
あ、コッチ見た! ……やっぱり大好きな人と大好きなことをするのはとっても幸せ! これからROOで頑張るためのパワー貰っちゃった!)
あまり会話は出来ないけれど。
それでもとびきりの『喜び』と『やる気』を与えてくれた気がして。
卯月は帰り際に菓子と紅茶の情報の書かれた紙を手渡し「いつも有難う」と微笑む彼に一番の笑顔を見せた。
「今日も素敵なお茶会ありがとうございます。マッドハッターさん、大好きよ!!」
「有難う。アリス。――どうか、気をつけて行っていらっしゃい」
成否
成功
第1章 第3節
シトリン・クォーツだというのに。そんなぼやく声を聞いてからエルスは「そんな休息週間でもあなたはお仕事、なんでしょうか?」とディルクを覗き込んだ。曰く、イルナスに流石にもう少し『何とか』して欲しいと言われたのだそうだ。
砂漠の幻想種は怒らせない方が良い。故に、ディルクもこうして大人しく座っているとでも云うのか。
「ふふ、普段からイルナス様の目を盗んでいらっしゃるバチですよ、きっと。
……たまには私から意地悪を言ってもいいでしょう? 代わりにお仕事、出来そうな事は手伝いますから」
無言の圧力だった。此処まで話さないのも珍しい。イルナスにどれ位『叱られた』のだろうか――
「……少し休憩をしましょうか? えと……好みがわからないので。ディルク様?」
反応がない……珍しく仕事に集中しているのだろうか。書類と見つめ合うその横顔をぼんやりと眺めて居たエルスはほう、と息を吐いた。
(余裕な顔ばかりだけれど……仕事をしてる時の真剣な表情も……やっぱり、顔が良い……)
彼は珍しく真面目に仕事中。ちょっとした悪戯心で――
(今なら……集中してる……わよ、ね? ……えい!)
ままよ、と頬に口付けしてみれば。
燃えるような赤毛が揺れる。書類ばかり見ていた筈の意地悪な瞳がじっと彼女を見つめていた。
「エ"ッ……アッ、ご、ごめんなさ!? い、今のはで、出来心でーーん!?」
電光石火の早業は乙女のハートにスマッシュヒット。
嗚呼、余計なちょっかいの結末に無理矢理口を塞がれてしまえばエルスは目を白黒させてじたばた暴れるより他は無かった――
成否
成功
第1章 第4節
――そうだ。物語領。探検しよう。
折角のシトリンクォーツだ、と言いながらもヨゾラの思惑は他の所に。
(……まぁぶっちゃけ幻想各地であれこれあったら、自分の領地の過去に何かあるかもって思うじゃないか! 僕、大規模召喚前のこの領地に何があったかとかさっぱり知らないし!)
幻想王国を騒がせていた一件は各領地にも影響を与えていた。イレギュラーズとしてこの領地を召し与えられる前はどの様な風景が広がっていたかをヨゾラは知らないのだ。
「今の領地それぞれに以前は各60人位しかいなかったことや今住んでる屋敷が何でか無人だったことしか知らない……だから自領地探検! さあ、猫を探す!」
屹度、それが本題――なのだが、てこてこと何者かが近付く音がする。
早速『猫』だと振り返ったヨゾラにお待たせしましたとでも云わんばかりに「にゃーん」と鳴き声が聞こえた。
茶色くてふわふわしていて、気持ちよさそうな角の生えたクリスマス飾りの生物。猫ではなさそうだが、にゃーんと云うなら屹度、猫だ(ヨゾラ判断)
「にゃーん……」
もふもふしておくれと足へと擦り寄ってくる『ねこ?』にヨゾラはにんまりと微笑んでよしよしと撫でてみる。
もふもふとした毛並みが何とも心地よい。どうやら一緒に探索したいのだろうふわふわと空を浮いて付いてくる。
「フローエ」
――『フローエ・つのねこなはと』とヨゾラが名付けたそれはこてりと首を傾げる。ヨゾラはおいで、と呼んだつもりだが、当のフローエはぴたりとヨゾラへと擦り寄って。
「よぞらー」
しゃ、喋ったぁぁぁ――!?
話せることを知らなかったヨゾラの感激は激しい『もふもふ』によって伝えられる。
そんなもふもふ欲を満たされ領地のことを見て回れたシトリンクォーツの一幕なのである。
成否
成功
第1章 第5節
シトリンクォーツ――ゴールデン、ウィーク。
そう呟いて見れば何となく懐かしい。再現性東京もゴールデンウィークで賑わっているようだと祝音は周囲をきょろりと見回した。
「……おう、坊主」
そう、祝音に声を掛けたのは銀路である。彼からすれば相変わらずぼんやりしている祝音だが少しはこの世界に慣れたようで安心する。
「銀路さん」
小さく頭を下げてから「ここは楽しい。でも……時々、ちょっと寂しい」と周囲を見回す祝音に銀路はぐ、と息を飲んだ。
祝音の薄らとした記憶は皆で旅行に行ったり遊んだという楽しさだった。
お父さんとね、お母さんとね、年の離れたお姉ちゃん2人――それはぼんやりとした思い出せていなくて、寂寞が胸を過る。
(あいつ……過去や家族の事、まだはっきりとは思い出せねぇんだな。俺は……あまりいい思い出はなかったが)
銀路は何にせよ祝音の初めてのシトリンクォーツが寂しい日々になるのは避けたいと何とか考え――
「猫さんいるとこ、あるかな……あるといいな……」
その呟きにこれだ、と思いついたように肩を叩いた。
「祝音。……猫カフェ、行くか?」
「もふもふ、できる……?」
もふもふ出来るかどうかはその猫次第だが、猫と過ごすことは出来る筈だと告げる。
猫たちとのんびりと過ごす休日は充実していると祝音はおくりと頷いた。
『ゴールデンウィーク』が少しでも充実した楽しい思い出になる様にと銀路は「行こうぜ」と祝音に笑いかけて。
成否
成功
第1章 第6節
幻想領内――『もこねこパン屋』のシトリンクォーツは部分的に休業である。
今日はパン屋をお休みにしているみーおは「皆それぞれ、のんびりシトリンクォーツを楽しむのも良いですにゃ」と従業員達にも連絡を。
パンや裏の寿居で気儘にごろごろにゃんにゃん。それもきっと悪くはない。
「良い天気にゃー……ん?」
思わず欠伸を噛み殺したみーおの視線に止ったのは同じ住居に住んでいるなお、こと『にけねこ なお』である。
のんびりと過ごしているのかなと、みーおは柔らかな笑みを浮かべてみた……ものの、その表情は『お休みってどうすれば』という雰囲気だ。
――一方のなおは、『シトリンクォーツ』は聞いたことはあっても、突然のお休みに戸惑いを憶えて居た。
(……どうすごせばいいかわかりません、にゃ)
出掛ける理由もなく、分からないからのんびり。のんびりもどうすればいいのかと戸惑いが滲み出す。
「なおさん?」
そんななおに声を掛けたみーお。店長、と顔を上げればみーおは嬉しそうににんまりと微笑んだ。
「なおさん、なおさん、お外を散歩しましょうにゃ!
草むらでのんびり日向ぼっこして、猫居たら愛でましょうにゃー!」
誘えば、こくりと頷いて。猫が集まってくるギフトを使ったのはみーおだけの秘密だけれど――なおは満足げに草むらで穏やかな一時を過ごしたのだった。
(……こういうのは、悪くない気がします、にゃ)
成否
成功
第1章 第7節
「シトリンクォーツ? 要するに休みか。学園も休みのようだが……私のすることは変わらんな」
そう呟いたブレンダが今居るのは鉄帝。今日はエッダとの朝鍛錬である。
「――ふん、一本取ってやろうではないか」
――そうして、鍛錬を繰り返す。
人との鍛錬は良い刺激になる。殺し合いではないから木剣を手にしたブレンダが打ち込めばエッダは直ぐ様に護りに入る。
「チッ、相変わらず亀の様に守るのが巧いなァ!」
「一本取るとか取らないとか、そういうことを考えているから手が遅れるのでありますよ」
日課の稽古に最近時折挟まるようになった夾雑物。エッダにとっては悪い気はしないと言いながら敢て全力ではなく流すくらいのゆっくりとしたスピードで護りを固める。
速度と反射神経には頼らず護り続ける。己の粗がよく見えるのはお互い様だ。
(……嫌な所を攻めてくるでありますな。相変わらず、勘が良い)
参考になる護りだと、ブレンダは小さく呟いた。此処だ、とエッダへと踏み込めば木剣が弾かれる。
「ッ――」
「は、防御の技術は積み重ね。存分に盗ませてもらおう。――それはそれとして一本取るがな!!!」
繰り返される鍛錬は休息の日でも変わりなく。否、休息の日だからこそ熱が入るとでも云おうか。
鍛錬を終えて、ブレンダは「さて」とエッダへと視線を送った。その意味くらい聡くエッダは理解している。
「シャワーはアチラでありますよ」
「ああ、有難う。それで、今日の予定は?」
無論、休息だ。エッダはライ麦パンと卵とヴルスト、ザワークラウトは用意しているとシャワーを終えたらリビングルームへ来ることを促した。
ブランチを求めていた事が分かられていたかと表情も変えずに準備を終えて席に着いたブレンダの前で手際よくエッダは準備を続ける。
「あとは、春摘みの紅茶の良いのがあるでありますよ」
「頂こうか」
先程までの鍛錬の気配は薄れ、穏やかな時間が流れ始める。その手際の良さに「……そういえばメイドだったな」と呟いたブレンダは唇に笑みを浮かべた。
自分で淹れるより数段旨いが口に出さない――だが、それもエッダには伝わっていたのだろう。
「お代わりもあるでありますよ」と表情も変えずにそう言った声音は優しかった。
成否
成功
第1章 第8節
シトリンクォーツで客足も盛況なラド・バウへと観戦に訪れた文はマイケルや『ラド・バウの幽霊』ことウォロクと会えないだろうかと周囲を見回した。
今日はランク戦ではなくエキシビションマッチがあったのか。楽しげな観客の声から逃れるようにぽてぽてと歩く毛むくじゃらな生き物。
「ああ、マイケルさん」
「……マイケル、待って」
足を止めたウォロクにマイケルは頷いて文を見上げた。ぽてんと腰掛けて首を傾げるマイケルはどこか嬉しそうな空気を醸し出す。
「マイケルさん、いつも領地に来てくれてありがとう。
とても癒されているよ。良かったら、また僕や領地の人と遊んでくれると嬉しいな」
――返事が何とも男らしいマイケルの背後でウォロクも満足げだ。
「幽霊さ……ウォロクさんも、資材をありがとう。
貰ってばかりだったから、今日は何かお礼をしたいと思って、美味しそうなサンドイッチを見かけたから買ってきたんだ。良かったら、お昼にどうぞ」
「……ん、ありがとう。私は、生きてるよ……?」
幽霊さん、と呼んだ事を差したのだろうか。表情を変えずに首を傾げたウォロクに文は小さく笑みを零す。
受け取ったサンドイッチに興味深そうに鼻をひくつかせてウォロクの足へとアタックするマイケルを見てから文は「それじゃあ、お仕事頑張ってね!」と手を振った。
成否
成功
第1章 第9節
誰も居ない墓でなければ、行く事ができない。それでも、クレマァダの足は竦んでいた。
モスカは死者を埋めることはない。ただ、帰るべき所に還して墓標を立てるのみ――と、思って居たが『それ』は随分と立派なものであった。
どうやら海洋国悲願の立役者となった者であるから墓の扱いも他とは違うらしい。
「…――ああ。ここが、そうなのですね」
聞いていた様子とは随分違う。フェルディンはクレマァダの供として其処まで遣ってきたが、随分と立派な墓が其処には存在した。
(いや、当然か。姉君の最期は、最早『伝説』と謡われるほどなのだから……)
口には出すまい。彼女は――『伝説の妹』はそんな聞こえの良い言葉で割り切れてしまうことはないのだと、以前に知ったのだから。
「きっとお父様のなさることであろう。……それがモスカの為になるのであれば、そうなさるお方じゃ」
ここは英雄の墓だと言われたのでしょうとフェルディンが告げれば、クレマァダは唇を震わせた。
「……英雄? ふ。笑えて来るのう。そんな大層なものであるものかよ。
みんなで寄ってたかってあの海を過去にする。口々に過去を讃えて我を慰める。我(カタラァナ)が、皆を守っただなんて嘯いて」
まだ、クレマァダはあの海に囚われるように。『過去』になどしたくないとでも云うのか。
フェルディンは静かに膝を折り、身を屈めて瞼を閉じた。そうして捧げたのは――祈りと、誓いだ。
「騎士としては、己が身を捧げて万人を救うというのは、至上の栄誉である――と、思っていたのですけどね」
また、考えを改める機会が来たのだろうか。
祈りの後、少しの時間を開けて、フェルディンは傍らの娘を見遣った。
「クレマァダさん。仮に、ですが……
絶望的な戦いが起きたとして、数多の命が失われようとしている時――我が命を捧げる事でそれを防げるとしたら――」
それをお許し下さいますか。
そう問う間もなく、クレマァダはフェルディンの頬を叩いた。
戦う者として、当然の様に考える『己が死すべき時』。それは命題だ。望もうと望まざると、隣に存在する。
だからこそ、彼の試すような問いにクレマァダは怒った。力も無い、か弱い乙女の平手打ちを――武術も何も知らない平凡な掌で。
「それは答えられない質問じゃろうが! ばかっ! 行くなと泣き縋る弱い女で居て欲しいのか!」
は、としたようにフェルディンは息を飲んだ。
「……ご無礼、申し訳ございません」
ああ、彼女は強い――だと、云うのに。同じくらいに優しいから。その苦しげな表情に、青年は息を飲んで目を伏せて。
(もっと、強くならなければならない――奇跡になど、頼るものか)
成否
成功
第1章 第10節
再現性東京でお土産をいくつか購入した雨紅はのんびりと道を歩いていた。
いくつか購入した土産を抱え、思い返すのは『再起動』からの大凡一年。その間に、『兄弟機』四機全員との再会を叶えた。
全員が仲が良いとは言えない――いや、『兄弟機』として接した経験はあれども、家族(きょうだい)として過ごしたわけではないのだから、当たり前か。良いも悪いもない関係性が其処にもあった。
それでも、理由は雨紅にも分からないが『シトリンクォーツ』と聞いて真っ先に思い浮かんだのは彼等であった。
知らぬ間に何かのために頑張り、生きてきた彼等の労りになれば。
――そして良ければ、今後も宜しくの気持ちを込めて。
彼等はなんと言うだろうか。反応も分からないが、喜んでくれれば嬉しい。
月銀、夜金、杰緑、浩黄……。夜金はラサで活動しているだろうが、他の三名は練達に居たか。
さて、お土産を気に入ってくれれば嬉しいが――
成否
成功
第1章 第11節
「はぁ~! 今日は収録のお仕事も無いし! ギルドの依頼を受ける程の散財案件も無いし!
久し振りに自分へのご褒美! いざ! スイーツ探索っすよ!」
うんと伸びをした無黒。耳をぴこりと揺らした後、向かったのは再現性東京2010街、希望ヶ浜だった。
並んだ店舗も少し時間が空けば様変わりする。時たまに時間を空けて散策してみれば見慣れない店舗を発見することも叶って。
「ふ~んここら辺の通りちょっと変わったっすね~
お!? 落ち着いてて雰囲気の良さそうな喫茶店発見っすよ!
なんか良い出会いがありそうな予感がするっすね~。早速入るっす!」
こじんまりと居した落ち着いた雰囲気の木造建築。どこか懐かしいレトロな雰囲気を感じさせる古民家風カフェに踏み入れれば店員が優しい笑顔で無黒を席へと誘った。
「う~んやっぱり良いお店っすね~。
木造の優しい香りとBGMが無くても気にならない雰囲気最高っすよ~。今日は何もしないでここでゆっくりするっすかね~」
運ばれてきたメニューとお冷やに礼を言ってから無黒はうんと伸びをした。今日はここのスイーツを楽しむのも良いだろう。
成否
成功
第1章 第12節
折角のゴールデンウィーク。再現性東京ならばそうした休みもあると考えていた――が、どうやら混沌にはシトリンクォーツが存在したようだ。
「――って事で約束通り遊びに来たよ、ひよのさんっ! 今回は何処にお出掛けするのがいいかな?
もし希望ヶ浜とかその周辺に温泉とかあるなら花丸ちゃん温泉に行きたいんだけど……。
前のお仕事がちょっと……いや、かなり?
うん、大変だったからのんびり疲れを癒せたらなーって思ったんだけど……どうかな、ひよのさん?」
待ち合わせ場所は『お出かけ場所を決めるところから』と音呂木神社をセレクトしていた。きょとんとしてから花丸を見詰めたひよのは「無茶をしたのですか」と頬をつんつんと突いた。
「い、いやあ……」
「それで、温泉でしたよね。近場に良いところがありますから……ちょっと準備をしても?」
折角の温泉だからと準備をしに部屋へと戻っていくひよのは「花丸さんは手ぶらでいいですよ」と言い残した
――早速の温泉へと訪れて、ひよのは「お疲れのようだったので、露天風呂です」と自慢げだ。
日帰りで一室、安価で穴場なのだと微笑んだひよのとのんびりと温泉に入り、ランチを楽しむ。
「この後は周囲を散策しましょうか。それともゆっくりします?」
「食べ歩きが出来るって言ってたから、行こうよ!」
「ええ。花丸さん、妙にげっそりしてましたからねえ」
くすくすと笑ったひよのに花丸は誤魔化すように笑ってみせる。女子二人の日帰り温泉も中々楽しいものだ。
「ひよのさん、今回のお休みは付き合ってくれてありがとね? ひよのさんや皆が居るから私はいっつも頑張れるって思うから」
「まあ。けど無理は駄目ですよ。私の知らない所で花丸さんが死んだり大怪我したら、泣きますから」
そんな風に笑ったひよのに花丸は「えへへ」と肩を竦めたのだった。
成否
成功
第1章 第13節
「シトリンクォーツ……こっちにゃそういうのもあるんすね。感謝のための日というのは良いですね、花が由来というのも好きっす」
そう呟いた慧は働いている人に感謝をと言うなら故郷の『主さん』と邸の人々にお土産を用意しようと豊穣にはない菓子を選んでいた。
実芭蕉の菓子を手土産に、そろそろ顔を出すのも良い頃だと顔を出せば出迎えてくれたのは栴檀だ。
「あっしに?」
「ええ。主さんは?」
あっちに居た気がすると思い出すように告げた栴檀に礼を言い、進めば「けーちゃんだ」と百華はひらひらと手を振った。
爪紅などのお洒落なものでなくとも、彼女なら喜んでくれるだろう。「土産です」と差し出せば百華は身を乗り出した。
「けーちゃん、もしかしてまた海の向こうのお土産? わ~今回はお菓子だ、おいしそ~。けーちゃんも一緒に食べよ。
……それでさ、これだけじゃ足りないから、お土産話もよろしくね」
「ああ、お土産話なら新鮮なものが。シトリンクォーツ、って行事です」
ころころと笑った百華に気付けば栴檀も参加してお土産話に花咲かす。それも悪くはない休日だ。
成否
成功
第1章 第14節
「さぁ、休みだ~! いつも休みだけど~」
ごろんと転がった那由他の傍らでマリリンはうんうんと頷いた。シトリンクォーツだ。確かに休みではあるが――
「休みだねぇ、ってあたしは領主で忙しいんだけどね!?」
そうは言いながらもマイペースな那由他はゆっくりと旅行したことがないからと海洋王国を案内して欲しいとマリリンへと求めた。
「海洋の島々を巡りた~い。どんな島があるのか~とか、変な生き物いないか~とか」
「んー、まあそだね!せっかくだし色々旅行してみるのもいいかもね、那由多
あたし一度行って見てみたいところがあるんだよね、この島とか、火山があってね、今でもマグマが流れてるところ見たいの!
今までそういういかにも火山! ってところは見たことないからね、いいよね那由多、一緒に行こ!」
そう誘えば那由他はこくりと頷いた。日々、忙しく過ごしている事もあるが、休息の日なのだというならば共に何処かへ往くのも悪くはない。
「ねぇねぇ、助手~、楽しいね~。火山? 行こ~行こ~、間近で見れる場所あったら行ってみたい!」
元の世界では危なくて近寄れなかった火山にぎりぎりの場所から見学を行えるならばどれ程嬉しいだろうか。
火山のある島に辿り着いてからマリリンは「近くだとすっごく熱いね……!」と肩を竦めた。
「流石にこの中は入れないよね~」
「どーだろ、オールドワンとかハーモニアの凄い人ならいけるんじゃない!? あたしは……蒸発しそうだし遠慮しとこうかなあ」
そう言って顔を見合わせて笑った。
確かに、過酷な場所にも耐性があれば歩いて行けそうな雰囲気はある。流石に入ることは恐ろしいから見て居るだけ。
しかし、それだけでも、休暇で一番の思い出であるかのように感じて胸が躍った。
成否
成功
第1章 第15節
クラースナヤ・ズヴェズダー教会領とマリア・レイシス領に隣接した場所に存在する『向日葵が咲くお屋敷』へとやっとの事で帰宅する。
「つ、疲れましたわー……」
でろんと溶けるようにソファーへと転がったヴァレーリヤを覗き込んでからマリアは「お疲れ様」と微笑んだ。
「でも、領地も随分と発展してきましたわね!
最初は荒れ地と廃墟ばかりでどうなることかと思ったけれど、この調子で行けば、今年の冬はみんな問題なく越えられそう……」
「本当に良く頑張ったね。良い調子だし今年の冬はきっと大丈夫! でも気を抜かず頑張ろうね! 私もまだまだ手伝う!」
領地の経営は大変だ。だが、幸先良い様子を見ていれば肩の荷も一気に下りた様に感じられる。
「ありがとうマリィ、貴女が一生懸命協力してくれたお陰でございますわっ!」
「んーん! 気にしないでおくれ。君と領民達の為だもの! お安い御用さ!」
ヴァレーリヤは優しく微笑むマリアを見て居て、自身の領地だけではなく彼女の領地も経営が必要なのだと思い当たって「ごめんなさいね」と肩を竦める。
「あっちはトラコフスカヤちゃん達やヴェルもいるからね! 任せて安心!」
「ふふ、そう言って下さると安心しますわっ!
さあ、そこに座っていて下さいまし! 大したお礼はできないけれど、今日のご飯は私が作りますわー!
今日は信徒の方に良いお肉を分けて頂きましたの。きっと美味しく出来上がりましてよ!」
腕によりを掛けて。そう、にんまりと微笑んだヴァレーリヤにマリアは「何を作るんだい? 手伝わなくて大丈夫?」とそわそわと落ち着かないようにヴァレーリヤの周りをくるくると回る。
「……それじゃあ一緒に作りましょうか」
「うん! 一緒に作ろう! 君と料理するの大好き♪」
うきうきと心を躍らせて進む。二人で料理を楽しんで素敵な夕食にしようではないか。
成否
成功
第1章 第16節
――せっかくだから、最近あまり行ってない場所に行こうと思って。
イズマにとっては天義はあまり馴染みの無い場所だ。のんびりと散歩をして見て回る事が楽しみだと周囲を見回しのんびりと歩き回る。
「あ、そうだ。イルさんとリンツァトルテさんは元気かな? 会えたらいいな。……散歩に誘ってみようかな?」
イルとリンツァトルテはイズマが再現性東京でやんごとなき事情の或る夜妖の相手をした際に同行した天義の騎士だった。
「私で良ければご一緒するぞ!」
にんまりと微笑んだイルはイズマに「何処へ往きたい?」と犬が尾を振るような興奮を滲ませて問い掛ける。
「そうだね……天義は教会とか聖堂とかがあちこちにあるな。荘厳というか、厳粛というか、そういう雰囲気を感じるよ。
こういう場所では聖歌を奏でたりするよね。音の聴こえる方へ……行ってみようか」
「あっちは大聖堂かな。うん、一緒に行こう」
案内しようか、とステップ踏んで進むいるの背中をおいかけて。イズマは「分った」と彼女を追いかけた。
到着した聖堂は広々としており天井が高い。ステンドグラスから差し込む光に「綺麗だ」と呟けばイルが満足そうに頷いた。
「天井が高くて、この構造、すごくよく音が響くんだ。歌に込めた祈りや賛美が響き渡っていて……想像以上に神々しいね。
残念ながら俺は信心深くはないけど……いつかこういう場所で歌ってみたいな」
「深夜にこっそり忍び込んで謳ったら怒られるだろうか。私もイズマの歌を聴いてみたいよ」
微笑んだイルにいつか、聞かせて上げるねとイズマは揶揄うように微笑んだ。
成否
成功
第1章 第17節
シトリンクォーツと言えば! そう、やっぱり『パルス・パッション』のライブである。
今まで色々なライブに参加して度重なるファンサをパルスちゃんからゲットしてきている焔ではあるが――初めて彼女と出会ったのは三年前のシトリンクォーツであっただろうか。
そう思えば、特別なライブ――出会いのライブ!――をより楽しむ気概が湧くというものだ。
「みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」
何時だってステージの上で彼女は輝く笑顔で微笑んで居る。手を振って、くるんとターン。そしてポージング。
三年前よりも『進化』を続けるアイドル闘士パルス・パッション! 彼女と出会った特別な日に気合いを入れて。
――ぱっるすちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!
応援に熱も入る。歌声だって最高そのもの!
「あぁ、やっぱり今日もパルスちゃんは最高に可愛くて素敵だったなぁ
はっ、握手会で今日もとってもとっても素敵だったよっ! って伝えてこなきゃ」
それから今日のために用意した差し入れだって忘れずに。気に入ってくれると嬉しいと前髪の乱れを直していざ、握手会!
成否
成功
第1章 第18節
『今日も元気に鬼殺し』――そんな物騒な言葉を呟いた後、頼々ははっとした。
「……いや、シトリンなんたらとかいう日であったか。ならば少し休んで海に赴こう」
海洋王国の海は頼々にとっても特別な場所だった。磯の香りに波の音、あの絶望を忘れた静寂。
それらは混沌に降り立った一年も前の自分の『初めての大仕事』を思い出させる。
海洋王国大号令に参加して、リヴァイアサンを打ち倒し、辿り着いた幻ともされていた新天地。
嗚呼、あの時の光景は忘れられぬものだ、だが――
「――結果的に絶望の青を踏破した先には鬼とかいう蛮族共の総本山があったのであるが!!
思い出したら胃がムカムカしてきた! おのれ鬼共め! 今から討伐依頼を探して討ち滅ぼしてやる!!!」
決意を胸に、頼々は立ち上がった。
向かうはローレット『鬼討伐依頼』がコルクボードに張られているかは……こればっかりは運なのだ。
成否
成功
第1章 第19節
綺麗な景色を見てみたくて。普段は昇らないような小高い山へと登ってゆく。
深緑の森の木々がある一線を境に生えなくなるような、そんな高さを目指して進んでいく。
「エスト、エスト」
「うん、ソア。もう少し」
一気に開ける視界が愛おしくて嬉しくて。「わあ」と両手を開いてくるりくるりろ舞踊るソアにエストレーリャは微笑んだ。
遠くまで見渡せる景色は新鮮だ。嬉しそうな彼女を見れただけでエストレーリャの胸もぽかぽかと温かい。
とびきりの眺めの場所でソアはゆっくりと腰掛けて「こっち」と手招いた。
「ねえ、ここで休もうよ。ボクこんな高く登ったのはじめて」
「うん。休憩しようか。いい景色だね。僕も、初めて。ソアと一緒に見れて良かった」
風が冷たくて、天気が良くて。早起きして良かったと微笑めばエストレーリャもそうだねと頷いた。
「ソア。大丈夫? 寒くない?」
「へーき、寒くない?」
大丈夫、と返される前に擦り寄って。彼のほっそりとした体にぎゅうとしがみ付く。そんなソアの体を包み込んでエストレーリャは「温かい」と微笑んだ。
「ふっふー、温かい……見て、とっても広いよ」
「本当。森も、空も、どこまでも続いてるよ」
エストレーリャの故郷も、ソアの故郷も。この空が続く先に存在して居る。
そう思うと世界はまだまだ知らない事ばかりだから。
「ぜんぶ一緒に冒険しようね、はい約束の……」
約束は、長い長い口付けで。そっと唇を引っ付けて、大切な言葉を紡ごう。
「うん。たくさん、一緒に見に行こうね――約束。君に誓って、ね」
成否
成功
第1章 第20節
シトリンクォーツだからと一週間の休みを貰った縁。なんとなく手持ち無沙汰で過ごすのも余り良い心地ではない――とそう思えば近くまで遊びに来ていたLumiliaの予定も空いているそうだ。
(再現性トウキョウ、1人では2度は訪れない場所です。
……いえ、興味はすごくありますし、本音を言うと楽しみたいのですが、私はどうにも音の、人の、多い場所は苦手なようで)
それでも縁が一緒だと何となく心強くて、今日は楽しめそうだと感じていた。
コンクリートで舗装された道に、走る車。高いビルが並び、ざわめきに溢れた街の中。
「やっぱりお外から来たら珍しいですか? 今日は全力で楽しんで頂けるようにがんばりますね!」
「はいっ。とても珍しくて、楽しいです。
固くて平らな道も、走り抜ける鋼鉄の乗物も、飛び越えられないくらい高い建物も。知らないことばかり」
混沌世界は広いのだと改めて実感したLumiliaにならばと縁はaPhoneに表示したクレープ店を指さした。
「まずはクレープ屋さんです。スイーツは何処の世界でも大人気ですからね。店舗を構えてるやつじゃなくて……ほら! 車で場所を移動しながら屋台を出しているお店があるんですよ。多分行商人みたいなもんですかね」
今日はここに来ていると情報はキャッチ済。人気が高くて、直ぐに移動してしまうのだと告げればLumiliaは不思議そうに「忙しい行商人なのですね」と微笑んだ。
「さあ、ルミリアさんは何食べます? 私はイチゴと……。ホイップマシマシ……。バナナもいいなあ、ぐぬぬ」
「ふふっ。では、バナナは私のものに入れちゃいましょう。
そうして交換しながら九重さんも楽しんで頂けると、私も嬉しく思います」
分け合って、沢山の味を楽しめば『今日の思い出』も屹度二倍になるのだ。
成否
成功
第1章 第21節
「帝さんの所にご挨拶に行きたいわ!」
章姫がわくわくとした様子で告げれば鬼灯はうーんと小さく唸った。「章殿、帝は忙しいから会えるか分からないぞ?」と告げたならば、章姫はしょんぼりと肩を落とす。
流石に、一国の主に該当する帝は忙しない日々を送っているだろうが、どうにも彼女には甘い気がしてならない。
「……声だけかけてみるか?」
「うん!」
――と、云う事で遣ってきたのだと鬼灯は謁見の許された霞帝にあらすじを告げた。
「この間黄龍殿の所で会ったばかりだというのに、豊穣でどこへ行きたい? と聞くといつも真っ先に『帝さんのところ!』と言うのだ。
章殿には親と言うべき者がおらんからな、本当に父親の様にしたっておられるのだ」
「はは。それは喜ばしいな。俺も晴明や双子巫女を家族のように慈しんで居るが実の家族は居ない。章姫がそう慕ってくれるのは喜ばしい事だ」
少しのジェラシーもあるが……時間を出来る限り空けて章姫との謁見を設けてくれる事には感謝しているのだ。
「ねえ、帝さん。お手玉って難しいのねぇ。でもとっても楽しいのだわ!」
「ああ、上手になったな、章姫」
彼から教わったお手玉は章姫にとってのブーム。褒めて貰って嬉しそうな彼女を見るだけで鬼灯も幸せを感じるのだった。
成否
成功
第1章 第22節
ユリーカに教わった『シトリンクォーツ』はニルのコアと同じ名前で、なんだかちょっぴり嬉しくなった。
折角のお休みだと言うのに、ナヴァンは今日も研究に没頭しているだろうか。九之助が「あっちにおったで」と指させば、ディスプレイと睨めっこする背中が目に入る。
――ナヴァン様、ごはんちゃんと食べれていないかもしれないから、途中でお昼ご飯になりそうなものを買って……
そう考えたニルはユリーカや情報屋たちに『美味しいもの』を教わった。特別な一週間ならば、特別な食事をナヴァンにも食べさせてやりたい。
バスケットにぎゅうぎゅうと食事を詰め込んでやって来たニルは「ナヴァン様、ご飯です」とバスケットを差し出した。
強制的な昼休憩でもナヴァンは嫌な顔をしない――いや、ニルの話を聞きながら美味しいものを食べて表情が緩んでいるだろうか。
「……ニルは、ナヴァン様のおいしい顔を見られたら、それが一番嬉しいのです」
ふにゃりと微笑んだニルに「そうか」と咀嚼を続けたままナヴァンは何気なくそう言った。
ランチタイムは優雅にのんびりと。
成否
成功
第1章 第23節
「せっかくのお休みだし、イルちゃんと一緒に遊ぶよ!」
「ああ、今日は何する?」
わくわくとした様子のスティアにイルも同じようにそわそわとする。
「イルちゃんのオススメのお店巡りをするのも良さそうかな?
スイーツは外せないし、流行りの紅茶とかも見てみたいからね。いつも色々と教えてくれるからとっても助かってる!」
「ふふ、任せてくれ。沢山学んでおいたんだ。スティアが好きそうなお店もちゃんと探しておいたぞ!」
胸を張ったイルに「それじゃあ、出発!」とスティアは走り出す。
疲れたら紅茶を飲んで休憩をして、料理の練習も行おう。味見をして、『先輩好み』により近づけなくてはならないのだ。
「帰ったら料理の練習だから材料も買おっか。
食べてみないと問題点もわからないし、善は急げー! ってことで、色々頑張ろうね!」
「ああ。えっと、肉じゃが!」
うんうんと頷いたスティアは沢山作るからその合間の休憩用にスイーツを買おうと微笑んだ。店頭に並んだケーキをテイクアウトして邸に持って帰るのも良いだろう。
料理を作るための材料も買い出して、改善点などを彼女に伝えることが出来たなら――屹度其れが料理作成への近道なのだ。
成否
成功
第1章 第24節
澄原病院。院長の澄原晴陽。
それは愛無にとっては『龍成の姉』で『水夜子の従姉妹』である。噂ならば色々と聞いてきたが、会った事もない相手だ。
会えるものなら一度あってみたい――と思いながらも病院とは余り縁が無い。彼女も院長で有る以上は忙しいだろう。
会えたらラッキーだと顔を出してみればシトリンクォーツは病院は休診であり意外にも手が空いているようであった。
「やあ」
「……こんにちは」
不思議そうな顔をして晴陽は無表情だ。感情表現クソヘタ族と水夜子が言っていた意味が成程、理解出来る。
(彼女の性格からして、燈堂家の門を叩く事はあるまい。龍成君も、あの性格では、付き合い始めのかっぷるのがマシな会話になりそうな気がするゆえに)
愛無の事は水夜子からの報告で把握しているのだろう。
「弟が世話になりましたか」と彼女の側から声を掛けてくる。
「ああ。それで……ちょうど僕の『息子』からもらった写真がある。きれいに写っていてね。
彼は写真の才能があるようだ。うむ。素晴らしい」
――僅かに嬉しそうにしたのは気のせいだろうか。
「それはそれとして、龍成君も巧くやっているようだよ。晴陽君からも会いに行ったらどうか。場所が変われば気持ちも変わるかもしれぬゆえ」
だが、表情は一転した。晴陽は「申し訳ありませんが、私は燈堂暁月という男が駄目なのです」と首を振った。
さてさて……彼女と暁月の間にも浅からぬ因縁があるようだが――それを聞けるような間柄ではないのであった。
成否
成功
第1章 第25節
王都メフ・メフィートにアルテミアが行きつけのカフェがあった。誘われて訪れたウィリアムが席に着いてからアルテミアはにんまりと笑みを浮かべる。
「此処のスイーツはとても美味しくて、私のお気に入りなの。
オススメはベリーソースの添えられたレアチーズケーキだから、一緒に食べましょう?」
勿論と頷けばアルテミアは慣れた様子でレアチーズケーキを二つ、ドリンクもオーダーする。
甘酸っぱいベリーの風味を感じるチーズケーキはなめらかな舌触りで食べやすい。
「幻想の騒動もひとまず一段落かな。お疲れ様、アルテミア」
「最近は幻想での対処で忙しくてちょっと疲れていたけれど、こうしてウィリアムさんとお茶をしていると、なんだか疲れが取れていく気がする、なんてね?」
ウィリアムへと「でも、心配してくれてありがとう」と微笑んだアルテミアはフォークでチーズケーキを口へと運びながら何かを考えるように視線を逸らした。
まだ波乱はありそうだけれど、次も頑張ろうとやる気を溢れさせたウィリアムは彼女もまだ遣ることが多いのだろうと感じていた。
「そうして走り回っている間に夏が来るね……」
「夏……そうだ、ウィリアムさん。今年の夏のお祭り、もしよければ一緒に行きませんか?
一人で見て回るのも悪くはないのだけれど、やっぱり誰かと一緒の方が楽しいから、ね?」
どうかしら、と伺うアルテミアにウィリアムはぱちり、と瞬いた。
動乱を経て、練達での一件に着手していれば季節は移ろい夏が訪れるだろう。昨年はカムイカグラの動乱の最中であったが今年はアルテミアにとっても心から楽しめる奉りになる筈だ。
「え、お祭りに? 良いね、喜んでご一緒させてもらうよ!
1人もそれはそれで良いものだけど、誰かと一緒ならもっと楽しいだろうね」
微笑むウィリアムにアルテミアは大きく頷いた。今、この時のように、楽しい時間が過ごせるであろう夏を二人で想像して、顔を見合わせ笑い合った。
成否
成功
第1章 第26節
抜けるような空の青。瑞々しい草葉に、夏の花は開花を待ち望むように微笑を溢す。
常春の景色に包まれて、鮮やかに花開いた其れ等は此の地特有のものだ。
「今まで見た中で我に似合う場所に連れて行って」
小羽の『無茶ぶり』に快く頷いた冰星が訪れたのは黄色い花が咲き乱れた花畑。
妖精達が来訪を喜び合ったその場所は深緑の『妖精郷』
「さあ、小羽さん、こちらです!」
彼女であって彼である。そんな小羽をエスコート。花を潰さないようにと気を配ってレジャーシートを敷けば小羽はその上にちょこりと腰掛けた。
「サンドイッチをね、作ってきたんです。この景色をあなたと見ながら食べたくて」
ランチボックスから顔を出したのはハムチーズ、卵とレタス、苺とホイップ。
「まあ!」と喜ぶ小羽へと冰星は「あなたのお口に合うといいけれど」と微笑んだ。傍らには常春を過ごす妖精達が舞踊る。
「あのね、僕……小羽さんの、好きな食べ物とか、好きな色とか、もっと知りたいな」
にこりと、目を合わせて微笑む冰星に小羽はささめきごとを。小さな声音は悪戯っ子の様に潜められて。
「ねえ、冰星、本来なら我は食事も睡眠も不要だけれど、しちゃいけない訳ではなくて。
美味しいを共有しても良い。だから、屹度。
あなたが我の為を思って作ってくれたら何れも好きになっちゃうに違いないわ」
そう言って、見つめ合った瞳が笑っていたから――
「そしてあなた自身も、ね?」
――釣られてついつい笑ってしまったのだ。
成否
成功
第1章 第27節
シトリンクォーツは休息の日だ。最近は『真面目』に働き詰めであった。少しは加減してほしいものだと感じながら、縁は自室で寛ぐ――つもりであった。
「……って思ってたんだがなぁ。何だって真面目に働いてるのかね、俺は」
そうぼやいたのは和風バル【潮騒】の中に己の身があるからだろう。
盛況なバルの中を忙しなく歩きながら少し歩けばオーダーが飛んでくる。
海洋国内での名声は高まるばかり。一目、大号令の英雄を見たいと客足は途絶えない。
店主と言えば「腕の奮い甲斐がある」と張り切っているが、縁の本心としては『隠れた名店』位の位置付けが一番であった。
「はいよ、ご注文の品だ。熱いから火傷しなさんなよ」
オーダーの品を渡せば「有難う」と英雄を見詰める瞳が輝いている。
江西を呼ぶ声に振り向けばグラスを掲げて赤ら顔の男が笑っていた。
「飲みすぎだぜ、旦那。飲酒飛行で捕まっちまっても知らねぇぞ」
武勇伝を聞きたがる客の声に後でと返して次のオーダーを聞きに走る。
忙しなく店を手伝うばかり――どうやら当分は休めそうにないのだ。
成否
成功
第1章 第28節
アパルトマンの上下階。近くて遠い距離。
窓を開けてから未散はこんなにも転記なのに閉じ籠もっているのもなんだから。何処かへ出掛けませんかとヴィクトールへ問い掛けた。
ほんの少しのおめかしに薄付きのリップ。対するヴィクトールがリネンシャツとパンツのラフな格好で外出したのは少し前。
新装開店の珈琲店で試飲を楽しんで「美味しいですね」「美味しい」と言い合って雨を購入したら『おでかけ』も満足して、足取り軽やかに帰ってきたのが今し方。
「ポットは有ります? あの棚でしたか」
慣れた様子で室内に足を運んで、テーブルへと豆を置いた未散は早速と棚へと向かった。
コーヒーミルで豆を挽きながら場所の問い掛けに応じたヴィクトールは、はたと未散を見遣った。
「ふぬ、ぐぐ……」
背をぴんと伸ばして。それもその筈。ヴィクトールの居室の物はどれもコレもが『ヴィクトールの基準』に設置されている。
「あ、ポットは取りますからこっちを挽いておいてください」
「うぐ……了解です、有難う御座います」
自身ならば苦も無く取れる位置でも、彼女にとっては重労働。作業を交代してからヴィクトールは肩を竦めて豆を挽く未散を見遣った。
「今度、もう少し背の低い棚にしておきましょう。そっちのほうがお互い楽でしょうから。梅雨になる前にでも」
「そうですね。それか、踏み台が必要です」
提案に顔を見合わせて笑えば、挽き立ての豆でのコールドブリュー。折角だから紅茶も作りましょうと茶葉の用意をする未散にヴィクトールは頷いた。
じっくりと水が染み込んでいく様を眺めるのは忍耐力が必要だ。
ついつい突いてしまいそうな『ちょっかい』も珈琲にとっては余計なお世話。
「さて、後は……」
ヴィクトールが慣れた様子で窓際のソファーに向かう背中を未散は視線で追いかけた。
「……寝ます?」
「そうですね、風が気持ち良いですから少し昼寝でもして待っていましょうか」
丁度、昼寝をして起きた位が良いタイミングだろうと頷けば、当たり前の様にその腕に未散はするりと収まった。
成否
成功
第1章 第29節
「あら、ご機嫌よう。ホリゾンブルーに輝くローシェンナが眩いわね」
「ええ。今日は来てくれて有難う。
前においしいお紅茶のお店を見つけたから今度は一緒に来たかったの。お手紙での約束、やっと叶えられて嬉しいわ」
にんまりと微笑んだジルーシャに「テラコッタな店構えなのかしら」とプルーは微笑んだ。どうやら、彼女も楽しみにしてくれているようだ。
軽い雑談を交しながら辿り着いたのはプルー曰く『テラコッタな店構え』なお洒落なカフェだ。
店内へと案内されて席に着けばメニューは小さな黒板に描かれ、食事に関してはフォトブックが添えられていた。
「紅茶だけじゃなくてケーキもすっごくおいしいの! プルーちゃんはどれがいいかしら?」
「こんなにもあるのね。嗚呼。如何しましょう。エクルベージュが輝いて見えるわ」
「ふふ、そうね」
どれだって美味しそう。漂う紅茶の香りを肺いっぱいに吸い込んでからケーキの彩りと共に今日はのんびり過ごしましょうと声を躍らせた。
「ね、プルーちゃんは普段お休みの日は何をして過ごしてるの?」
「私は、そうね。ホーリーグリーンな毎日をのんびりと過ごしているわ。けれど、最近は、グラファイトな日々も多いもの……」
忙しくしているのだろう、とジルーシャは感じ取って眉を下げた。
「アタシはお散歩したり、こんな風にカフェ巡りしたり……フフ、よかったら今度一緒にどう?
アタシの好きな景色、アンタの目にはどんな色に映るのか知りたいわ♪」
勿論、と柔らかな笑みを浮かべた彼女に「それじゃあ、次の約束ね」とジルーシャは小さな指切りを交して。
成否
成功
第1章 第30節
アンテローゼ大聖堂に訪れたアレクシアは「忙しそうかな?」と周囲を見回した。
シトリンクォーツを利用して、礼拝に訪れる人々が増えているのだろう。普段よりも人の入りが多いことに気付いてからアレクシアはフランツェルの姿を見つけてから「フランさん」と手を振った。
「うーん……そうだ! 私も大聖堂のお仕事、何かお手伝いできないかな!
専門的なこととかはまあ……わかんないけど、案内とか雑用くらいならできるよ!」
「でも、アレクシアさんは折角のお休みでしょう?」
何だか悪い気がする、と首を傾いだフランツェルに「んー」とアレクシアは唇を尖らせて。
「それにね、大聖堂が普段どんなことをしてるのか、実際に知りたいんだ。
私、生まれ育ったのは深緑だけど、昔は家に籠もりきりだったから、この国のこと全然知らないもの。
この大聖堂のことだって、フランさんといつぞやの事件で出会うまで知らなかったくらいだし。
だからお願い! 手伝わせて! ね? 邪魔はしないようにするからさ!」
「ふふ、それならお願いしようかしら。アレクシアさんも聖堂に合うようにお着替えをしましょう」
フランツェルが近場に居た侍者に「お手伝いをして下さるの。何か、お召し替えを」と告げた言葉にアレクシアは「あ、そっか」と呟いた。
早速、着替えてからアレクシアの初めての『アンテローゼ大聖堂』お手伝いの始まりである。
成否
成功
第1章 第31節
ボタンにとっては初めて聞いた祝日と宝石の言葉。
由来になった鼻があると利いてネーヴェと共に花を見にピクニックへと足を運んだ。
花と言えば深緑だ。緑の香りが心を安らげてくれる新鮮な地を往くネーヴェは「こっちですよ!」とボタンを呼んだ。
「ネーヴェさんは昔に見たことがあるのですね」
「はい! 小さい頃に、連れて行ってもらって……同じ花でも、幻想で見るものとはきっと、どこか違う光景なのでしょう」
弁当に水筒、敷物もきちんと準備した。ピクニックへ往くのが楽しみだと心を躍らせるボタンとネーヴェが辿り着いたのは黄色い花――シトリンクォーツの由来となった花々が咲く花畑だ。
「黄色いお花……あれでしょうか?」
ぱちりと瞬けば「あれですね」とネーヴェが頷いた。花開いたそれらが広がる風景は先程までの茂る夏葉とは大きく違って見えて。
見晴らしの良い場所にレジャーシートを広げて早速のピクニックだ。
「んむ……ボタン様、これ、とても、とても、美味しいです!」
「こっちの味も美味しいです! フルーツのサンドイッチもありますよ」
バスケットの中のサンドイッチは沢山の種類を用意した。二人で少しずつ、色々な味を楽しめるようにと考えてのことだ。
「わあ、この紅茶、良い香りがします!」
用意してきたフルーツティーにほっこりとしてからネーヴェは柔らかに笑みを浮かべた。ボタンはフルーツティーを口に運びながら、ふとその先の色彩を眺めた。
ボタンもネーヴェも冬に所縁がある。それでも、その奥に見えた鮮やかさに言いたくなったのだ。
「春の花もよくお似合いですね」
きょとり、としたネーヴェは「ふふ、ボタン様も、ですよ!」と可笑しそうに笑みを浮かべて。
成否
成功
第1章 第32節
「ふー。ま、諸々一旦片付いたし、少しぐらいのんびりしてもバチは当たんねーよな。
戦争とか起こってない今のうちに美味しいモン食っとくか。シキちゃんも来るか?」
どうする、と声を掛けたサンディにシキは「ちょうど良い機会さ」と悪戯めいた笑みを浮かべた。
「おや、ご一緒していいならいくいく! ふふ、海洋はご飯が美味しいから楽しみだ」
海洋のレストランは様々な料理が揃っている。異国情緒溢れ、種類も豊富。海産物を楽しむなら海洋だとサンディは心に決めていた。
レストランに到着し、並ぶメニューは幻想では見慣れない物も多い。
「何にしようかなぁ、折角だから海の幸を食べたいけれど」
悩ましげにメニューと睨めっこをするシキにサンディは自慢げに笑いかけた。「特にこのカニって奴が旨いんだ!」と蟹の鋏を見せてみる。
「へぇ、カニかぁ。おいしそうだね! 食べたことないけど!」
シキはサンディの元に遣ってきた盛り付けられた蟹をまじまじと見た後で首を捻った。
「……え、これどうやって食べるの? 硬くない?」
「今から俺が食べ方のお手本を見せるぜ。
おいしいのはこの中身で、こうやって……おっと汁出てきた。ここ折って、この間からこう……あれ? うーん……ああもう!」
無理矢理殻を割ってべたべたになったサンディを見てからシキはくすくすと笑った。どうやら、彼は『蟹』に苦戦中なのだ。
それでも百戦錬磨(?)の処刑人に任せろとシキは蟹を手に取って――
「ふふっ、君にも中々難しいみたいだねぇ? ふふん、大丈夫さ。私は初めてでも上手に食べ……食べ……。
……難しいね?? うう、手がべとべとになった……」
「だめじゃん!」
腹を抱えて笑ったサンディにシキは「う」と小さく呻いた。二人揃って蟹は強敵で。
「ま、まぁいっか。一緒にいるのは君だし、カニは美味しいし!」
「そうそう。ま、うまけりゃなんでもいーのさ!」
成否
成功
第1章 第33節
自身の領地であるヘクセス領は海洋王国の近海諸島に存在して居る。
その地でのんびりと過ごす予定のメリッカは日課の泳ぎ込みに取り組み、砂浜にごろりと転がって仰向けで一休み。
限界を目指すことで頭痛がし、体も疲弊しきっているが、継続は力なり――なのだ。
暫くすれば『ソーサラー』が顔を出してくれる。メリッカが島を発見するまでは彼――便宜上、彼とする――が此の地を管理していたのだ。
イレギュラーズであるメリッカはローレットで承ける仕事で島を頻繁に留守にすることも多い。
何だかんだでヘクセル領の領主代行を担ってくれているソーサラーはメリッカのサポーターとでも言えるだろうか。
「ああ、有難う」
軽く返せばソーサラーは静かに頷いた。
ここからが領主の時間だ。ソーサラーから水とタオルを受け取って身を起したメリッカは真面目な表情で彼へと問い掛けた。
「で、今日はどうだろう、なにか問題等起きてるかな?」」
領内の安全ヨシ。今日も平和でなによりである。
成否
成功
第1章 第34節
連休を利用して、そろそろ怪我も治るであろうシルトの顔を見に行こうとブレンダはライヒハート領へと足を運んだ。
ブレンダはこの時に予感はしていた。彼は怪我をしてようとしていまいともさっさと仕事に復帰する男だ。
――案の定、彼はもう体も動く。書類仕事くらいならこなせるとベッドの上に書類を広げて執務に励んでいるではないか。
「まったくお前というやつは……」
その声にシルトは不味い、と云う様な表情を浮かべた。確かに、ライヒハート家の本邸であれどもブレンダならば許可も関係なく好きなタイミングで通して良いと家令には許可していたがタイミングが悪すぎる。
むすりとした表情のブレンダは書類をさっさと取り上げてからサイドテーブルの林檎を剥き始めた。
「怪我の方がどうだ? そろそろ仕事も復帰できそうか?」
「怪我はもう治るよ。思ったより長い休暇になっちゃったけど」
そう声を掛ければ、ブレンダが「治りきる前にするな、ばかものが」と棘のある言葉を発した。嗚呼、矢張り心配させたのだ。
シルトは「ブレンダ」と彼女の名を呼んだ。ベッドをぽんと叩いて腰掛けるように促し自身も座り直す。
「ここしばらく何処へもいけなくてごめんね?」
そっと肩を抱き寄せれば、シルトの胸元に耳をぺたりとブレンダは引っ付ける。聞こえる心音が、生きている事を感じさせてくれた。
傷痕がその体に残るかも知れない。
けれど、彼は生きている。
「……そんなことは謝るな。これからでもどこへだって行けるだろう?」
成否
成功
第1章 第35節
折角の休暇はテーマパークで過ごそうと大きなキャラクターの耳が付いた帽子を被ったレジーナは「ミニュ」と手招いた。
キャラクターが大きく描かれたビッグサイズのTシャツを着用して楽しげなレジーナをミニュイは追いかける。
「再現性東京はどこも他の街に比べて賑やかな印象があるけれど、ここは一際賑やかだね。
ところでこれ、モデルはなんだろう。ネズミのブルーブラッド? かわ……かわい……い? 愛嬌はある、うん」
黒いお耳が印象的だ。楽しげなレジーナが「ミニュはこういうの好きなの?」と問い掛ければミニュイは「うーん」と呟いた。
袋に入れて貰ったアイスクリームもある。見かけたグッズを鞄に詰め込んでポップコーンは首からケースを下げた。
「だんだん手が塞がってきたよ。買い物は考えてしないといけないね」
「ええ。さっき買ったアイスクリーム食べさせあいっこしましょうよ。我(わたし)さっき買った時から気になってたのよ」
溶けちゃうわ、と微笑んだレジーナにミニュイは頷いた。けれど――「あ、レナ。アイス食べさせて。今ちょっと持てない」
手は荷物で一杯だ。ガイドブックを手にしていたレジーナはふと、気付いたように頷いて。
「ふふ仕方ないわねぇ。はい、あーん……美味しい?」
「美味しい」
「良かったわ。それじゃあ、次はどこいくー?」
これもいいこれもいい、とアトラクションを指さすレジーナにミニュイは名前を言われてもどんな物か理解出来ないと首を傾いだ。
「アトラクションに関してはよく分からないけど、速いやつが良い。これは?」
「……あー……」
「ホラー絶叫マシーン?」
「ええ、そう言われているわね?」
レジーナの視線が逸れていく。ミニュイは「怖いのか」と小さく呟いてからもう一度首を傾いだ。
「ホラー? 別にいいけど、私達普段からもっと怖いもの見てると思うよ」
「ち、違うわ! べ、別に怖くはないわよ! 絶叫マシーンなんて普段の依頼に比べたら全然よ!
……えぅ。そ、そうよね問題ないわ。やってやろうじゃない!」
――その後、レジーナの叫び声が木霊したのは……ミニュイだけが知る事なのだった。
成否
成功
第1章 第36節
「勇者パレードに姿を見せてくれた豊穣領地の役人達を労おうと思う」
ベネディクトがリュティスに助力を乞うために発した言葉に、彼女は内容を確認する前に「了解致しました、ご主人様」と淡々と返した。
ベネディクトの有する領地は幻想ではなく豊穣だ。リュティスが彼の代わりに管理する領地や、自身らで代行するドゥネーブ領もあるが――遙々遠い豊穣の地に自身らの名声が轟き、祝福されているならば、其れには応えねばならない。
「遠路はるばる幻想まで足を運んでくれるとは思いもしなかった。その気持ちに応える為に今日は歓待させて貰えると嬉しい」
勇者となった『領主』の言葉に民達が祝福を送る。彼は、民はリュティスの事は余り知らないかと、背後に付き従っていた彼女をそっと前へと促した。
メイド服姿の彼女は自身を侍従であると名乗る。豊穣風に言えば女房や家令のようなものであると、分かりやすい喩えも添えて。
「リュティス・ベルンシュタインと申します。どうかお見知りおきを」
「リュティスだ、主に屋敷の管理やメイド長の様な事も勤めて貰っている。彼女の料理は美味いぞ、今日はよく味わってゆっくり休んでくれ」
リュティスに対して民達も宜しくお願いしますと頭を下げた。
彼女が徹底したのは民達の料理の好みの把握だ。苦手とする物は極力減らし、好物を優先してやれば良い。
特に、食事は豊穣でも馴染みのあるものを中心としながら、幻想王国でもよく食べられる一口サイズのステーキやデザートも準備した。
この心遣いに民達は喜ぶ。勿論、豊穣では食べられないものが多く並ぶ事が喜ばしかったのだろう。
「お口に合えば良いですが」とリュティスが告げるだけで「有難うございます」と感謝の言葉が複数踊る。
――そうして宴会を終えた後、「ありがとう」とベネディクトが告げればリュティスは表情を変えずにゆっくりと礼をした。
「お役に立てたのであれば嬉しいです。此れからも何なりとお申し付け下さい」
成否
成功
第1章 第37節
リーゼロッテ・アーベントロートの薔薇の庭園は鮮やかに花開く。
「庭園でのお茶会も気持ち良い季節となりました。きっとお嬢様が開催していると思いまして」
そう微笑んだ寛治を一瞥していから「いらっしゃったのね」とだけ返したリーゼロッテは今日も優雅そのものだ。
手土産の菓子は来客も多くなるであろう彼女に配慮した物だった。数がいくら合っても彼女にとっては足りないほどに来客が訪れることだろう。
「昨今の幻想を騒がす事件、さぞお疲れかと思います。シトリンクォーツの間だけでも、お休みいただけると良いのですが」
幻想を騒がす一件は貴族での小競り合いであろうと寛治は踏んでいた。
勿論、彼女を煩わせる手合いへの対応が後手後手になっているこの状況は自身らが彼女からの『キツいお叱り』を受けるべきなのかも知れない。
「私自身、勇者という称号はどうでも良いのですがね。お嬢様のお茶の時間を邪魔する手合には、キツく灸をすえてやりたいと思っておりますよ」
「まあ」
優美な笑みを浮かべてからリーゼロッテは可笑しそうに小さく笑った。
美しい青薔薇は嗜虐的な笑みを浮かべて「名誉より……そんなにも私を優先して下さるだなんて、困った方」と揶揄うように囁いた。
成否
成功
第1章 第38節
「エルは、エルの領地の方々に、お料理を習います」
ヴィーザル地方のエルの領地は『エルの好きな場所』である。エプロンを着けて三角巾を用意して。
早速とエルの大きすぎるお家のキッチンでお料理教室の開催だ。
今日のメニューは『ふっくらパン』と『お肉盛りだくさんカレー』だ。
「ええと、」
パンをこねこね。それだけでもとても大変だ。
「毎日こねこねしている、パン屋さんは、とっても凄いって、エルは思いました。
……生地を寝かせる……えっと、すやすや、してもらう、ということですか? 眠ると大きくなるのは、エルみたいだと、思いました」
感想を告げれば、教える甲斐もある。パン生地を用意して寝かしている間に次はカレーだ。
「カレーは、皆さんが大好きな、お肉をたくさん、入れます。
エルは、辛すぎるものは、駄目なので、辛さは少しだけに、します。……ぐつぐつ、ことこと」
お鍋が、揺れています。
そう呟いたエルに「パンを焼きましょう」と煮込み時間を有効活用。
領民達のお腹もぐうぐうと鳴っているようだ。
「出来上がったら、皆さんで、食べましょう。いただきます」
成否
成功
第1章 第39節
祭司長は連休でも忙しい。勿論、休日に人々は訪れるのだからそれも道理だ。
早めに仕事を終えて、クレマァダが向かったのは豊穣であった。未だ内乱冷め遣らず国家としては不安定な豊穣との国交をなんとしても盤石にしたいと願う理由の元へーー
「二人とも息災じゃな!」
微笑んだのはつづりとそそぎへ。海洋土産の香辛料や紅茶の類いは船旅にもよく耐える。
ぱあ、とウミユリが開くような笑みを浮かべたクレマァダにつづりとそそぎは花開くように微笑んだ。
「こんにちは」
「何よ、来たの」
素っ気ないそそぎも喜んでくれたのだろう。直ぐにそっぽを向いてしまったけれどーーこうして話を出来るだけで喜ばしい。
突然で迷惑になるのではと感じない辺りが隠しきれない庇護欲求のエゴなのだとクレマァダは気付いている。
二人が仲良く生きているだけで幸せ――とはいえ、幼いからと見下しているのではない。
二人が『これからの国』の話を、『国交』を、『巫女として』を話したいのならばクレマァダもコン=モスカの祭司長として話がしたい。
国も大陸も、種族の差も超えて同じ視座に立てると信じているからだ。
「……この国が好きなのね」
「いいや? そうとも限らん。お主らのことが好きだから……そして、我らの利益を生むから。感情も打算も、健全な人のやりとりじゃろう?」
お姉さんの処世術の伝授だと揶揄い笑ったクレマァダにそそぎは「ふうん」と呟いた。
そうやって、『重ねる』事で人は人と関わり道が開けるのだと知っているから。
成否
成功
第1章 第40節
見晴らしの良い、その場所は小さな墓標が並んでいた。
ジェイクはシャルロット・ディ・ダーマの墓標を見下ろした。少し時間も出来た。彼女の墓の掃除をするには良い季候だ。
「……それはそうと、」と口を開けども答える声はない。
「だいぶ暖かくなったな。去年来た時はこの辺には綺麗な花が咲いていたっけ――あの花は今年も咲いているだろうか」
彼女は花が好ましいと笑っていた。花畑で楽しげにイレギュラーズと語らいピクニックをしてぎゅうと抱き締め合って。
それから、一年も時が経とうとするのだ。最早、懐かしい思いでのようだというのに。
「……あの後、俺は幻と結婚をしたんだ。俺にはもったいないぐらいのお嫁さんだ。
シャルロット――向こうでの達者に暮らしているかい。あっちでは妹と仲良くしているのかね?」
ビスコッティを追いかけて走っているのだろうか。シャルロット、と呼び掛けても答える声はなくとも。
ジェイクは彼女ならば屹度、笑い合って過ごしているのだろうと感じていた。
「こっちではR.O.Oっていうのが始まってな。……もしかしたら、R.O.Oで君に会えるかもな。
あそこの俺は子供なんだ。童心に帰って君と一緒に遊んでみたいものだ」
もしも。
その世界に彼女が居たら。
今度は手を取り合って過ごせるだろうか。殺す事も無く、「おやすみ」ではなく「おはよう」を告げられるかも知れない。
「……あばよ」
ジェイクが立ち去ったその後、黒い花が静かに揺れた。
何時か、君に会える日が来るような。
そんな――気配を感じさせて。
成否
成功
GMコメント
当ラリーは『どこへでも行ける』シトリンクォーツのラリーとなります。
●シトリンクォーツとは?
シトリンクォーツとはつまりはゴールデンウィークです。それに勤労感謝の日が合体したそんなお休みの一週間。
お休みなんかしてられるか! という方はそれでもOKだと思われます。のんびりと過ごしてみてはいかがでしょうか?
●できることって?
本ラリーは【1章構成】予定です。(※状況次第で変化致します)
お散歩や何でもお好きにお過ごしいただけます。
普通のイベントシナリオの様に各々が好きなように過ごしていただけるラリーとなります。
●プレイング書式
一行目:【場所】【グループ(同行人数)】
二行目:自由記入
ラリーであるという都合上、【グループ名(同行者ネーム)(同行人数)】をご記載くださいますようにお願いします。迷子防止です。
※場所は名声付与での参考にさせていただきます。同行者で食い違いがある場合は【それっぽい所】に付与します。
何処へでも行くことが出来ます。大きくは【幻想】【鉄帝】【練達】【ラサ】【天義】【海洋】【深緑】【豊穣】
妖精郷は深緑に、再現性東京系列は練達にお願いします。
自身の所属ギルドハウスや自宅です。自宅でのんびりと言う場合はその所在地をお選びくださいね。
●NPC
各国のNPCを選んでいただけます。
ただし、担当が付いているNPCに(GM所有のNPC)関しましてはごめんなさい。(SD所有NPCなら辛うじて……がある場合もありますが期待しないでくださいね)
ラリーですのでお手紙等で仮のプレイング等を送付してお誘い頂けますとそのNPCが遊びに来てくれる場合もあります。
出来る限りのNPCへのお声かけにお返事差し上げたいと考えておりますが、ご要望にお応えできない場合も御座いますことを予めご了承下さい。
(シュペルや鉄帝上層部等は申し訳ありません……。
ローレットに友好的であったり、お会いしやすい立場のNPCであればご挨拶に窺えるかと思います)
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