シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2020>君が結う名は
オープニング
●
幻想の一角に、其の店はある。
“結い物屋”
そう看板が掲げられた店を覗くと、成る程、結われた紐が売られている。
ラッピングに巻けば、華やかに彩ってくれるだろう飾り紐だ。
或いは髪に結ったり、ブレスレットとして加工したりしても良い。
その結い方は多彩で、花の形や星の形、或いは丸を連鎖させたような不思議な模様まで。
結い物屋はひっそりと、聖夜に佇んでいる。
去年まではそうだった。静かに聖夜を過ごす、はずだった。
――今年は賑やかになるだろう。
●
「輝かんばかりのこの夜に」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は常と変わらぬ無表情で告げた。なんか全然シャイネンナハトって感じじゃない。
「今日はね、これ。結い紐を扱うお店に君たちを案内しようと思って」
グレモリーがす、と机に置いたのは、花を模した絢爛豪華な結い紐だ。桃色に白と金色の紐が交じり合い、荘厳な雰囲気さえ感じさせる。
「友人がくれたんだよね。興味を持ったので出所を聞いたら、幻想の街はずれにあるって。で、色々話したら、なんか……君たちを招待してくれる事になったよ」
なんかってなんだ。
その場に居合わせたイレギュラーズの心は疑問に彩られたが、グレモリーは淡々と話を進める。
「結い方は冊子を配ってくれるそうだから、人と話すのが苦手な子でも問題ないよ。使い道も色々あるんだって。包装だけじゃなくて、端っこを編んだら腕飾りにもなるとか。興味のある人は行ってみたらどうかな」
結び方に意味があるんだ。
そうグレモリーは言う。
●
曰く、花。
華やかな成就。恋愛成就。失せ者探し。
曰く、星。
交友の広がり。旅の安全。
曰く、丸。
穏やかな幸せ。家庭円満。待ち人。
曰く、四角。
隙のない争い。必勝祈願。学業。
曰く、流線。
流れゆく日々。無病息災。交通安全。
曰く――
- <Scheinen Nacht2020>君が結う名は完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年01月12日 22時35分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●願いを結って
ヨゾラは首を傾げ傾げ、結い物をしていた。
これでいいかなぁ、こっちに通して大丈夫かなぁ? そんな懊悩の繰り返し。
作るのは星の結い物。混沌に召喚された“旅人”であるヨゾラ。ならば旅の安全は、混沌での日々の安全か。
選んだ色は銀色に黄色。そのほかにも細めの糸を少々取り入れて、うるさくなりすぎないように。銀色がまばゆいから、濃い紫を入れて締まった感じに……なるといいなぁ。
どうしてもお手本通りには行かなくて、じゃあこの糸は此処に入れてみようとか、主糸じゃなくてこっちを入れてみようとか、ちょっといい加減になっちゃったけどいいよね。ここをこうして結べば、ほら! 猫のかたちに……あれ? 僕が作ってたのって……まあいいや! 帰ったら館に飾ろうっと!
セリアは冊子をぺらぺらめくり、一番最後までめくるとまたぺらぺらとめくっていた。「貴方をいつまでも忘れない」みたいな意味の結び方を探している。だが冊子には残念ながらそのような意味合いの結びはなかったので、フィーリングで結んでみる事にした。
白い紐を使って、待ち人の意味合いを持つ円のモチーフをくるりと巻く。其れを適当に繰り返し、円が重なるような結い紐に。
試しにベルトに下げて、つんつんと引っ張ってみる。落ちない。大丈夫そうだ。
綺麗な、とか上手な、ではない。紐に込めた思いが大事なのだと、セリアは満足げに頷いた。
世界は冊子をめくり、様々な意匠を見ていた。結い物だなんて余りまじまじと見たこともなかったが、意匠に意味があるものなのか。
「……恋人が欲しいなら、花なんだろうが……」
ただでさえ髪の毛より細い可能性だ。難しいだろう。まだ実現可能な願いを探して、世界は紐を手に取り結い始める。
丸と星、流線の三つのモチーフ。するすると糸を通し、結び、結び目を隠せば出来上がり。無病息災に穏やかな幸せ、あとは旅――もとい、依頼での遠出の安全を願って編み上げた其れ。これくらいなら、自分の努力で達成できそうな望みだ。
結い物をポケットにいれると、世界は歩き出す。お菓子の中に願いを込めて。
「結い紐……結い紐か……」
ブレンダは悩んでいる。どんな形にするかは後で決めるとして、まずは紐を編むとしよう。この手のものは母様に仕込まれている。得意な部類だ。
紐を迷わず取った。金、碧、黒、紺。――深い意味はない。別に意味はない。別に。
形をどうしよう、と悩みながらもくもくと編んでいると――なんと、編み終わってしまった。二本の紐がふらふらと揺れている。
「……まあ、丸でいいか」
どうせなら二つ作っておこう。……余るのもアレだし、あいつに渡すか。
「仕方ないからな、うん」
なんてことを言いながら、髪を結う用と腕に巻く用の二つを作るブレンダの頬は緩んでいた。さて、問題は渡すときに素直になれるか、だ。
カルウェットは決して器用という訳ではない。
判っていた。自分は不器用だと。でも、作るのは好きなのだ。提灯とかも作ったことがあるのだぞ。任せる、するがよいぞ。ふんす。
はて、しかし何を作ろう。首を傾げたカルウェットだが、思い浮かんだのは「今年はお世話になりました、ありがとう」だった。――はっ! 作り方を覚えたらちょこちょこ作れるのではないか? ひっひー、ボク賢い。
じゃあ、身代わり守りみたいなのがいいな。幸せを運んでくれますように、がいいな。
「すみません! 教える、してください!」
手を挙げて店員さんを呼ぶ。ボク偉い。
店員さんに教えてもらうまま、カルウェットはじっと編む。時々周りを見て、周りのみんながどんなのを編んでいるか見たりもした。見る事も学びだと知っている。
やっぱり物を作るのは楽しい。カルウェットは思う。願いとか、祈りとか、モノに込められる思いが、好きだ。
ラウルは紐を編む。――丸かな? いいえ、星型です。
深緑色と赤色が細かく交じり合い、一つの形を作っていく。冊子の案内通りに作っている――はずなのだが、どうにも星形にならない。どうみても丸です。
「ううん、……あれ? うーん……」
ラウルもそれに途中から気付いたのか、悩みながらあっちを直し、こっちを直す。けれどうまくいかなくて、結局丸に近い形に落ち着いてしまった。
そういえば丸の形にも意味があった気がする。ラウルが冊子をめくると――穏やかな幸せ、家庭円満、待ち人、という文字が目に入った。
うん。目標とは違った形になってしまったけど、このままでも良いかもしれない。
ブレスレットにして持って帰ろうと、ラウルは店員を呼んだ。そんな、穏やかなシャイネンナハトだった。
ハンモだよ。結い物つくるよ。
花。華やかな成就。恋愛成就。失せ者探し。まさにハンモにぴったりだね!
失せ者――ハンモが忘れてしまったあの人。
恋愛成就――もしかしたらハンモとあの人は。
華やかな成就――あの人と出会ったらハンモはきっと
……
そんな事より結い紐すんごい難しいね!?
ハンモびっくりした! 冊子見ても判んない! 店員さんに聞いても判んない!
この紐持ってるハンモの手って右手? うん右手。 右手のはず。
え、違くない? これ右手じゃなくて左手で持つんじゃない?
なんで右手で持ってんの!? 訳わかんない!! 店員さんどういう事!?
――ちゃんと教えて貰って、ピンクの可愛いお花ができました。
スペクターは、結っている。
「星も、いいなぁ」
「お友達にあげるの?」
「ううん、僕には家族も友達もいないから。でも、丸もいいなぁ」
「幸せになりたい」
「幸せ……幸せって何だろうね」
「死ぬべき時に死ぬことよ」
「僕はわかんないよ。幸せって何色なの?」
「七色をしているわ!」
「難しいよ。んー、全部のお守りってないのかな……ねえ、君たちは何が良い?」
「丸」
「星!」
「ふふ、そっか。じゃあ、それで作ってみるね。みんなに作ってあげたいけど、時間も数も足りないから……僕の分だけ。ごめんね。今度はみんなに作ってあげるから」
スペクターは、結っている。
周りには誰もいない。
「ふーーむ」
エクレアは紐をじっとみて唸る。
「紐は運命を繋ぐものと言われるが、僕自身が結ってみるのは初めてだよ。しかしだね、ふふふふふ。実に興味深いな」
しかし器用な僕にも冊子だけでは完成は難しいだろう。そこの店員、少し教えてくれないか。桶は桶屋という奴だ。星を編みたいのだけど難しいかな? どんな色が良いだろう。
「金銀は派手ですから、この色を選ばれる方が多いですよ」
そういって店員が示したのは白にラメをまぶした白金色の紐。成程、興味深い。星と言えば金銀を人は想像するのに、いざ形にするとなると厭う。試しにこの白金の紐で結ってみよう。
二、三本の紐をああしてこうしてとおそわりながら編むと、まず一つ目の星が出来た。どうだ、と店員に自慢すると、お見事です、と拍手を向けられた。手放しで褒められて、エクレアは瞳をぱちくりとさせたあと……恥ずかし気に顔を逸らし、小さな声で「ありがと」と言った。
ルビーは結う。結うのは花。鮮やかな赤と、やや落ち着いた色味の赤で結う。
ルビーは結う。彼のために結う。一緒に冒険しようって約束したのに、突然いなくなってしまった同い年の少年。おとなしくて、その癖いざとなるとこっちが驚くような事をする、いつも一緒だった男の子。
ルビーは思う。どうしていなくなってしまったの? 何かあったの? 誰かに攫われたの。
ルビーは確信している。それでも、何かきっと事情があるはずだ。
――スピネルが私をおいていくはずなんてないのだから。
ルビーは結う。願いを込めて。手がかりの一つでも見つかりますようにと。
私の旅が、最高のハッピーエンドを迎えますように。
この胸に秘めた思いが花開き、成就しますようにと……ルビーは結う。
サンディとシキはもくもくと、手引きにしたがって紐を通していた。
円を基調にした少し凝ったデザインを選んで、紐の色は緑色。平穏とは程遠い身分なれど、友人の穏やかな幸せを願う。
サンディは一つ。シキは二つ作って、いざ交換……となったところで。
「なんだ、ドンピシャ同じ形じゃねえか!」
「君もおんなじの作ってたの?」
ふふ、お揃いだね。そうシキが笑って。これじゃ渡せねえやな、と同じく笑ったサンディに、ううん、交換しようよと持ち掛けた。
「多分同じだと思うけど、願ったんだ。大切な君が、ずっと笑っていてくれますようにってさ。……あとよければ、これからもずっと一緒にいてくれると嬉しいんだけど」
「なんだ、お安い御用だぜ! 特に二番目の願いの方はな!」
どんな波乱も平穏も、よき友人に恵まれれば高波には見えないものである。
オデットは「どうせなら好きな色でやってみたいわよね」と、橙や黄色など、温かい色の紐を選んでいく。
「そうね、賛成だわ」――ルチアは赤や紫、白の紐を手に取り、一つ頷く。
そうして二人で結い始めた紐。……オデットは最初、花を作っていた。恋愛成就。愛らしい乙女の願い、だったのだけれど。思い出してしまったのだ。己の想い人は此処に来るとき、これまでの記憶をすっぽりと失ってしまっていた事に。
この恋は叶わない。だから、この願いは相応しくない。
己と、近しい人の息災を願って、流線に紐を結んでいたルチアは、オデットが結いを変えた事に気付いていた。その横顔に諦めを感じて、ならばとルチアは花を結う。
「結うのを変えたの?」
問われて、オデットはぎくりとする。
「別に……花は私に合わないって思っただけよ。ルチアは何を作るの?」
「花よ」
「花?」
「ええ」
流線も結ったけれどね、と付け足すルチア。この花は、白鳥の名を持つ貴方に捧げよう。貴方の淡い恋が実りますようにと。
「グレモリーさん、この度はお招きありがとう」
「ありがとうございます」
「え、うん」
……と、グレモリーへの挨拶を済ませた後、アークライト夫妻は早速結い物作りに取り掛かる。心を込めて、手ずから作る結い物。世界で唯一の品は、世界で唯一の貴方に。
リゲルはいっそ願い全てを籠めたいのを抑え、テーマを絞り、欲張らないように苦心する。緑と青、そして銀。選び取ったのは二人と星の色。流線模様を基軸に、花のワンポイントを取り入れて器用に仕上げていく。どうか息災で、華の似合う愛しい君であれ。
一方ポテトもまた、流線模様をメインにして結っていた。丸と星を取り入れて、無病息災に家庭円満、そして交友の広がりを願う。夫の行く先に幸せが待っていますようにと祈って。
――出来上がったらお互いの手首に飾ろう
――貴方ほど巧くは出来なかったが、願いはたくさん込めたんだ
――君の手の甲に口付けて
――貴方の懐に飛び込んで
――ああ! 「「輝かんばかりのこの夜に!」」
しきみは結う。スティアへの想いを。愛と呼ぶにも烏滸がましいそのこころを。
「お姉さまへお送りするプレゼントを結いますね」
「わー、ありがとう! 私もしきみちゃんのために結うね!」
お姉さま。お姉さま。薄紅に円が似合う貴女。ひっそりと花を中心に潜ませる。この心の真意など届かなくてもよいのです。貴女が笑ってくれればそれで、私の心の結い物は完成するのです。
私を慕ってくれるしきみちゃん。でも、時折無茶をしがちで。
だからその身を護ってくれますようにと祈りを込めて、吉祥結びに紐を結う。髪にも帯にも飾れるように仕上げれば、きっと彼女の迷惑にはなるまい。
「――心を籠めました。お姉さまが、愛する人と幸せになる未来が来るように。愛する、には無数の意味があって……私もお姉さまの愛する人になれたら、なんて」
「んー、しきみちゃんは詩人だね。とっても素敵な言い回し! もちろん、私の好きな人たちにはしきみちゃんも入ってるよ! いつまでも元気でいてね」
そうして交換する、想いのこもった結い物。ふと消えてしまいそうな貴方を繋ぎとめるための結い紐。
それじゃあ帰ろっか! そういって手を差し出すお姉さま。
ええ、と繋ぐ私。欲張ったりなんかしない。貴方と今日を過ごせた、其れだけで私の心に花は咲く。
文は悩んでいる。
「イーハトーヴ先生」
呼びかけるその声は、少しだけ揶揄いと、多大なる尊敬を含んでいる。
「冊子のこの部分、どういう意味かわかるかい?」
「ふふ、先生だなんてくすぐったいなあ。えっと、ここ? ここはね……多分、こうじゃないかな」
するり、イーハトーヴが紐を通して見せると、思惑通りの型が出来る。ほらね!
「わあ、ありがとう! これでやっと先に進めるよ」
文はそう言って、再び冊子に向き直る。うんうん唸る彼のために、イーハトーヴは紐を結っている。落ち着いていて、眼差しは穏やか。けれど時々茶目っ気がある。そんな彼をイメージして、紺色に桃色の紐を合わせてみた。結い方は玉結び。まんまるな幸せが、君に降り注ぎますようにと。
上部に金具を付ければ、チャームの出来上がりだ。
「――できた!」
隣で苦心している文を観察していると、彼もどうやら完成させたようだった。黄色の紐で結われた菊結び。裾はタッセルにして、丸い留め飾りが輝く。
「できた? じゃあ、文。これ、貰ってくれる?」
「えっ、これ、僕に? ……なんだ、互いに相手に渡す結い紐を作っていたんだね」
「え?」
「これ、貰ってくれるかな。いつか作る手鞠の前払いみたいな感じで」
「わああ、すっごく嬉しいや! ありがとう、文! ……絶対、大切にするね」
「マルクさん、どんな色が好きですか?」
リンディスは問う。はて、とマルクは宙に視線を泳がせて、緑かな、とぼんやり答えた。緑ならば派手過ぎず、地味過ぎないものが結えるだろう。うん、とリンディスは頷いて、結い物につかう紐を揃える。
マルクもまた、冊子を開いて結い物を始めた。モチーフは――花。
リンディスは店員に相談しながらあれやこれやと編んでいく。其れは冊子にはないモチーフで、だから店員に相談する必要があった。こういう模様なら、此処に紐を通して。此処で留めて。そう。留めは見えないように隠して。
マルクは其れを横目に見ながら、本の栞紐になるように細長く花のモチーフを編み上げていく。その先に菫の花を一つ編むと、あとは遊ばせて、終わりだ。
「――……出来ました!」
リンディスが声を上げる。ちょうどマルクが遊びの紐を揃えているところだった。
「どんな模様にしたんだい?」
「冊子にないので店員さんと相談しながらでしたが……ええと……再現性東京では“ケルティックノット”と」
すこしアレンジを加えて、四角い盾にしました、とリンディスは結った紐を差し出す。
「……輝かんばかりの、この夜に」
そっと受け取ったマルクは、結い紐をジャケットのフラワーホールに留めた。そうして己が結った花の栞紐を差し出す。其の意味は、まだ心の内に。
「お願いの気持ちを込めて作れば、一層素敵になりそうねえ」
ポシェティケトは結い紐をあれこれと見ながら言う。ワタシ達も結んでみましょ? 貴方が結うのはそうね、お月さまやお星さまかしら。あら、大当たり? やったあ。
ラヴは頷き、白金色の紐を取る。そうよ、月の形。光を受ければ淑やかに輝くお月さまを結うの。
そうして二人、冊子を参考にしながら結い始めたのだけれど。
「……あ、あらあ」
ポシェティケトは蝶と薔薇のモチーフに悪戦苦闘。薄紫と銀色で、とても素敵な模様になると思ったのだけど、これがなかなか難しい。ううん、でも負ける訳にはいかないの。ツノに結んだり、髪の毛に編み込んだりしたいの。
「ええ、時間はいくらかかっても良いわ。ゆっくりと結って頂戴な」
「そうね、少しずつ、少しずつ」
そんなポシェティケトを横に見て、ラヴは結い紐に視線を移した。
「――できた! できたわ、見てみてキュウ!」
其れから多大なる時間をかけて、ポシェティケトは見事にモチーフを完成させる。薔薇に留まる蝶々の柄は優雅で美しい。キュウと呼ばれたラヴはええ、と頷いて、一つの結い物を差し出した。
「実はね、お揃いのお月様、もうひとつ結ったのよ」
「え、え。お月様。いいの?」
「ええ。互いが互いの、夜を見守る大切な星でありますようにって」
大切なお月様を貰って、ポシェティケトは静かに頷いた。夜も半分こ、ね。
史之と睦月は今日も二人仲良く(?)結い物に挑戦中だ。
「しーちゃん、出来るまでこっち見ちゃだめだからね」
「はいはい」
言いながら史之はすさまじい速さで結い物を……おや、手が止まった。気付けば白と黒の結い物を作って、一筋の紅を混ぜているところだった。これ、カンちゃんをイメージしてるって言われても言い逃れできないな。
手を止めた史之を最初は不思議そうに、そして見れば目を輝かせた睦月。
「しーちゃん、それ僕? 僕用なの? ね、ね、交換しようよ。あっこれは練習、練習だから。ましなの作るからさ」
「これはグレモリーさん用だよ」
思わず嘘が唇から漏れ出る。ええ、と驚くカンちゃんと、ああ、と少し視線を下げる俺。元の世界で叩き込まれた身分の差。俺はお前の幼馴染で、お世話係。それでいいんだ。
「まあ、どうしても欲しいなら、あげないでもないけど」
――うそだよ。本当はお前のだよ。
お前の前では嘘しか吐けない。いいんだ。カンちゃんにはもっといい人が現れるはずだから。
「うん、ほしい…しーちゃんの手作りミサンガほしいな。ちょうだい?」
「……ほら」
「えへへ。いいものもらっちゃったー。ね、ね、しーちゃん。しーちゃんだと思って大事にするから結んで」
星と流線が二重にお前の幸せを願う。無事でいてくれ。どこへいっても。……俺の手を離れても。
画家は絵にばかりかまけている訳ではない。
美しいものを美しいと感じるセンスが肝要だ。更に友人の目に留まった“美しいもの”となれば興味も沸くものだ。なのだが……
「お前さんがついてきたのは意外だったなぁ……」
「ふふふ。ベルナルド様が困惑していらっしゃる。判っておりますとも。私……以前の戦闘でご迷惑をかけてしまいましたから! あぁ! グレモリー様どうしましょう! 勢いでついてきたものの、どうやって仲良くなるかなどノープランです! ご友人の貴方なら仲良しの秘訣をご存じなのでは!?」
「いや、知らない。絵を描くとかどうだろう。あ、ベルナルド、これあげる」
「焼き菓子……これは?」
「アークライト氏から貰った」
「ああ……矢張り絵画。芸術家の方は高尚な芸術に惹かれるものなのでしょうか……! であれば! ご覧ください、私の天才的な結い物センス!」
いざ! 鵜来巣 冥夜、結い物の道へ旅立たん!!
……
はい、出来たのはお団子でした。
「違いますよ。星です。星ですってば」
「はぁ……まったく。勢いで結うからだ。ほら」
そういってベルナルドが差し出したのは、青に黒と紺を混ぜた花の結い紐。
「これを…私に?」
「そうだ。失せ者探してるんだろ? ストイックなお前さんには四角の方がいいかも知れないが……復讐を迷う俺に」
「ありがとうございますッ!! ああ見て下さいこの素晴らしいシェイプ!!」
「……うん」
「んん……」
ラッピング、自分でやるとなるとなかなか難しい。ミディーセラは珍しく苦戦していた。綺麗に巻いてあるのをみると、特別感が増して素敵なのに、思い通りにならない。
彼の尻尾に巻いてあるリボンもそうだ。プレゼントではないけれど、よくアーリアさんに貰われていますね……と、隣でるんるん結い物をしている彼女をちらり。
「? 私の顔になにかついてる?」
「いえ、愛らしい目と鼻と口がついているだけですよ」
愛らしいだなんて、と照れながら、アーリアはまぁるく飾りを編んでいく。白に青、金色。こういう冬らしい色もたまにはいいんじゃないかしら、なんて。
後ろにピンを付ければほら、色んな所に飾れるし。いいんじゃないかしら?
と思ったら、髪をふわりと持ち上げられた。誰かは判ってる。隣にいた誰かさん。……僅かにぴりつく空気は、アーリアの耳を飾るピアスの一件があったせいだが…髪にくるくると紐が巻かれるのを感じると、頭上に疑問符が生まれた。
お返しに、と彼の洋服に飾りを付けようとして、何故か鬼ごっこに発展するまであと数秒。
「サイラスさん。……ええと、此処は?」
「結い紐……飾り紐だね。そのお店だそうだよ」
サイラスに手を取りエスコートされながら、コルクは目の前に並んだ紐の眩さに瞳を瞬かせる。飾るための紐、らしい。彼女の故郷では紐はあくまで実用的なもので、飾りにつかうなんて発想はなかった。
「これで色々な形を作る事が出来るんだ」
見ていて、とサイラスが言う。紺色の紐を揃えて、横に紐を通して、きゅっと締める。こんな風にね、という彼に、成る程と頷くコルク。
では、と彼女は赤い紐を選ぶ、隣の男の瞳によく似た、深い赤色だ。モチーフは円。貴女と出会ってから毎日が楽しい。こんな気持ちは久しいから、出来うる限りの感謝を込めて編む。
出来上がった紐を差し出すと、不意にサイラスが言った。
「さっき君が言ったセリフは、俺の方こそだ。コルクを助ける事が出来て、幸せだよ」
「……まあ!」
「これは俺からの贈り物だ。願わくば、来年も宜しくお願いするよ」
サイラスの手には流線を象った紺色の結い物。君が無事で、不自由なく生きられるように。
シラスは「見てろよ、驚くぜ」とアレクシアに言うと、器用な手つきで紐を結っていく。ギフトのお陰か、こういう細かい作業は嫌いではないのだ。
花と星。結うモチーフは既に決まっていた。
――アレクシアには、探し人がいる。その旅路はきっと平坦ではないだろう。だからせめて、安全を祈ってやりたい。一緒にいけなくても、自分の代わりにこの結い物が願いを運んでくれるように。
たくさんの小さな花と星がよりあつまっているのをイメージして並べるように結い、丸く束ねる。余り紐をうまく結べば小さなブーケのようだ。
一方のアレクシアは、店員に相談していた。ご縁が長く続きますように、という意味を籠められる形はあるのか。流線と星を合わせてみては如何でしょう。店員はよどみなく告げる。
二つのモチーフを合わせるのは大変ではあるけれど、アレクシアはそれで表せるならと懸命に編む。イレギュラーズになって、色々な人と出会った。何よりこうして一緒に遊びに来てくれる隣の彼との縁が、ずっと続いてくれるといいな。そう思うから。
「……できたあ!」
「お」
シラスは彼女が疲労と達成感溢れるその言葉を紡ぐまで、忍耐強く待っている。
お節介はなしだ。こういう時はね。
「ふーん、結い紐ねぇ」
「いいねこれ。作ってみようよ」
アオイとリウィルは二人それぞれの顔で、並んだ紐を覗き込む。あ、と思いついたようにリウィルが手をぱちんと合わせた。
「僕と君の髪の色なんてどうだい? 少し明るい灰色と、君の…深めの紺かな。その色で」
「俺たちの髪の色、か。面白いな」
色は決まった。テーマはそれぞれ。二人は同じ紐を取り、それぞれのかたちを結い始める。
リウィルは腕に巻けるように、少し幅をもって結っていく。アクセサリみたいに結ぶのもいいけれど、腕に巻けばいつだってこの日の事が思い出せるから。擦り切れるときがきても、それはそれ。
アオイは流線のかたちを選ぶ。こんな風に楽しく話せる日々のまま、時が流れゆくように……そんな願いを込めて。
「ねえ、アオイ」
編んでいる途中、リウィルがふと声を上げた。
「なんだよ?」
「……ううん、何でもない」
今は笑いあえても、未来は判らない。
だから祈りを籠めよう。其の時が来たら、伝える勇気を――僕に下さい。
「この店では結い物をさせてくれるらしい。そんな気分でもないかもしれんが……気晴らしは必要だろう。俺にも、誠吾にも」
そういってかつかつと店に踏み入るベネディクトを見て、誠吾は苦笑した。
「主人に気遣われてしまっているな」
彼は雇用主。そして誠吾は、バトラー見習い。というはずなのだが、マナガルム卿(ベネディクト)は気さくに接してくれていた。初めて人を手に掛け、ふさぎ込んでいた誠吾をこうして連れ出してくれる。
「折角だからお互いに結ってみて交換しよう。俺は……」
ベネディクトは迷いなく、白と黒、灰色の紐を取る。円の形に結い、始めたのだが……なかなかに力加減が難しい。
其の様をほほえましく見ながら、誠吾も紐を取る。アースカラーで揃えて、飾り玉に青。ベネディクトの瞳と同じ色だ。いざ編んでいくと、ミサンガを編んでいるみたいで心持懐かしい。編み方さえ覚えれば簡単なんだよな、とリズムよく結い上げていく。
「よし、こうして……出来た!」
少し歪だが、ブレスレットのかたちになったものをどうだ、とベネディクトは差し出す。
「ありがとうございます」
ブレスレットを嵌め、己も作ったミサンガのようなチャームを渡しながら、誠吾は心に誓う。――俺は、この人を護る盾となろう。
ネーヴェとボタンは背中合わせ。中身は内緒のプレゼント作り。だって今月は二人の誕生月だから。
ネーヴェは桜色の紐に、流線の図案を選ぶ。ボタンは精霊であったと聞く。ならばこれまでの日々はきっと新鮮であったろう。これからの日々もきっと。流れゆく日々が穏やかで、楽しくありますように。これからくる桜の季節に願いを込めて。
ボタンは赤をメインに、白金色の紐を時折差し入れて椿のような形にする。飾り紐を遊ばせて、トンボ玉をぶら下げる。彼女の花飾りに添えられるような可愛いものを目指して! いるけれど、ちょっと難しい。楽しみながら苦しみながら、ボタンは紐を結っていく。
「できました」
そういったのはどちらだったか。向き合って、はいと差し出した結い物は、互いが感嘆の声を上げるもので。
「誕生日、プレゼント。ありがとうございます!」
「こちらこそ! 特別な日に楽しい時間と結い物、ありがとうございます!」
――これからも宜しくお願いしますね!
「友達と過ごすシャイネンナハトも、結い物をするのも初めて! とってもわくわくするよー!」
「おや、初めてでしたか? それならしっかりと良き日となるよう楽しみましょうね」
リリオスとテルルは二人、結い物の紐の前で悩む。
「そうだ! 折角だから、作ったものを贈りあうのはどう?」
きっと素敵な思い出になるよ! そう明るくリリオスに言われれば、テルルは笑みを浮かべて頷くしかない。
さて、そうしてお互いのイメージに沿うようなものを作り始めた二人。テルルはリリオスには明るい色が似合うと思い、明るめの緑と青の紐をチョイス。友達として仲良くしよう、という思いを込めて星型……もとい六芒星の形に結っていく。裏に金具を付けて、髪留めになるようにすればきっと愛らしいだろう。
一方リリオスは落ち着いた紫をメインに、白と薄桃色の紐を織り交ぜる。テルルの瞳の色をイメージしての選出だ。丸と流線を使った結び紐をヘアアクセにして、愛らしい包み紙でラッピングする。
「でーきた!」
「はい、私も出来ました」
いつも一緒に遊んでくれてありがとう。
そういって渡したものが同じ髪飾りであることに、少ししてから二人は気付いて――笑った。
柚子と縁は一緒に結い物に挑戦。
といっても二人ともこういうのには慣れっこなので、割とすぐに綺麗なのが出来てしまいそう。おしゃべりをしながら、のんびりと作っていくことにしましょう。
縁が取ったのは赤と白、其れから青と黄色。ちょっと派手かなあ、と思いながらも丸の形に結っていく。
柚子は緑色で丸に星を一つ添えたものを。
「二つ作ろうかなって思うの。ユカリちゃんは……それは丸? ってことは……」
「うん、部隊の皆をイメージして作ってみたんです。いわゆる願掛けという奴ですね」
「ふふ、うん。ピッタリだね! 部隊の皆がみたらきっと喜ぶと思う!」
縁も柚子も“旅人”だ。元の世界が恋しくない訳がない。柚子は縁に二つ作った結い物の片方を渡す。
「……お互い、待ってくれてる人、会いたい人がいるから……その為のお守り。ね?」
「私に、ですか? あ、ちょっと待ってくださいよ、私も柚子ちゃんに作りますからね! 大事に思ってるのは、私も一緒なんですから!」
大慌てで結いだす縁に、柚子は声をあげて笑った。
「こうやって彼方と二人きりになる事も最近は余りなかったな」
「ここ最近は二人別々の活動が多かったから」
久しぶりの一緒の活動、シャイネンナハトですし一緒に楽しみましょう、師匠。そう言って彼方は微笑む。
二人は幻想の名コンビ。一つの結い物を二人で一緒に作っていく。シューヴェルトが紐を結い、彼方が紐を選んで彼に渡す。どちらが欠けても良い結い物は出来上がらない。
送る相手はたくさんいる。ギルドで世話になった相手、以前依頼で一緒になった相手……そして目の前にいる、大切な弟子(師匠)にも。
二人の息はぴったりだった。彼方の色彩センスとシューヴェルトの器用さが相まって、すさまじい勢いで結い物を量産していく。
●結いに願いを
「さあお手をどうぞ。今日のボクは、ソフィラさんのナイトです!」
「まあ、まあ。ふふ、素敵なナイトさんだわ! それではどうぞ、エスコートを宜しくね?」
ソフィラは結い物を見る事が出来ないけれど、アイラが掌に大まかな模様を描いて、色を声で伝えてくれる。だからちいとも引け目を感じない。
「あれは桃色と白で、花の意匠をしていますね。恋愛成就だそうです」
「まあ、それは素敵」
「あれは黄色で、星かな? 星型をしています。こんな感じで」
「まあ! そんな形をしているの? すごいわね、紐で作るんでしょう?」
「ええ、そうです。そうだ、ソフィラさん。何か気になるものはある?」
「そうね… ……」
結い物が並ぶ棚を白い手がなぞり、ふと手が止まる。確かこれは、そうだ。丸の意匠を模した青いブレスレットだ。
「これを頂こうかしら」
「青の…ブレスレット?」
「ええ。優しいナイトさんに、穏やかで幸せな日々を願うの。手首は私から目につきやすい場所だから、貴方の穏やかな日々を願う私がいたことを思い出せるように――」
「……なんで青なんです?」
「ふふ、微かに見えた輪郭に、青がちらついた気がしたの!」
「……そう。ソフィラさん、じゃあ、少し屈んでいただけますか?」
誠実なナイトからの贈り物は、星を模した金色の髪飾り。貴方の縁が広がって、楽しい冒険が出来ますように。たくさんたくさんの優しさに、包まれますように!
ルナールとルーキスは、ルーキスの「手先のいる作業は大変なので今日は買い物です」の一言で結い物を見ている。
「こういう和物?っていうの?にはあんまり縁がなかったけど、カムイグラのお陰かな、最近は見慣れてきたね」
「ああ、そうだよな。ルーキスがいた世界じゃこういうのはなかったんだっけか。和のテイストは見慣れると綺麗だぞ」
俺は見慣れすぎてはいるけどな、とルナールは苦笑を零す。君、幻想にどれだけいるのさ。小突いてルーキスも笑い、無意識に互いに似合う結い物を探している。
ストラップ、アクセサリー。色々種類はあるけれど……
「お? これとかどうだろう」
「それは……髪留めか?」
「そうそう。二人とも髪長いしね。最近はほら、赤とか青とか、アクセサリーも色違いが多かったじゃない」
交われば紫。うん、ちょうど良いんじゃないかな。
さらりと述べるルーキスのセンスが、ルナールは好きだった。どうせなら予備も欲しいよな、揃いの色で。ちょっとした旦那様の我儘に、さて、奥様はどう応えるでしょうか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
皆さん様々な想いで結んでおられて、こちらも書きがいがありました!
文字数超過するんじゃないかといつもの如く震えながら書きましたが超過はありませんでした!たっぷり書かせて頂きましたありがとうございます!
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
輝かんばかりのこの夜に!
こんにちは、奇古譚です。この度は結い紐の世界へご案内です。
●目的
紐を結おう
●立地
幻想のはずれにある「結い物屋」です。屋号はありません。
ローレット関係者であるグレモリーが訪れたのをきっかけに、店を知ってもらおうと貴方たちを招待しました。
結った紐を売っています。結いの形には意味があるようです。
●出来ること
1.結い物をする
色とりどりの中から選び、紐を結う事が出来ます。
形はOPに書いたもの以外にも色々あるでしょう。自由に作って見て下さい。
作った結い物は持ち帰る事が出来ます。贈り物に巻く他、加工もできます。
2.結い物を見る
既に結ってある紐の数々を見る事が出来ます。
つまりお買い物です。勿論ウィンドウショッピングでも構いません。
ストラップ型やネックレスの一部など、さまざまに加工された結い物が並んでいます。
●NPC
頼めば来てくれるかもしれません。
グレモリーは結い物を見回っています。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってお花見を楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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