シナリオ詳細
3rd Anniversary!
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●三年目
混沌世界に運命が『舞い降りて』丁度三年となった。
彼等は神託の保証した福音――救世主である。そんな特異運命座標は風変わりながらも、成る程、大した連中だったに違いない。確かに彼等の残してきた軌跡はこの世界の民にとっても、為政者にとっても多くが素晴らしいものであり疑う余地等無かった。
「ですからね」
呼びつけられてメフ・メフィートの宮殿に顔を出してみれば、召喚主の一人である『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロートは悪戯気に笑う。自身のパーソナルカラーである青と黒から、鮮やか過ぎる赤いドレスに衣装を変えた彼女は何時にもまして華やいでいた。
「ですから、皆ね。皆さんが大好きなのですって。
これでも――ええ、信じて頂けないかも知れませんけれど!
これは本当のこと。疑う余地も無い位に、ね! うふふふふふふ!」
イレギュラーズが出会ったのはリーゼロッテだけではない。
「……ふん。まぁ、認めない所ではない。異論はわしの度量も疑われるわ」
「ええ、何時もありがとうございます」
「ハッハッハ! 親友の活躍に私も鼻が高いぞ!」
幻想の三貴族の残り二人、国王フォルデルマンは言うに及ばず。
幻想の宮殿であるにも関わらず、今日一番の『意外』は……
「今日だけは停戦、『程々に』無礼講ってな」
「流石にこの局面で馬鹿な真似をする者もおらんじゃろうからのう」
「……得意ではないがな」
幻想からすれば敵国であるゼシュテルの三人衆、
「ご招待痛み入る」
「……我々も特異運命座標には多大な借りがある故な」
ネメシスの二人、
「うめぇ肉位は食わせるんだろうなぁ?」
「幻想は金持ちだからねぇ。それに上得意だ」
「……程々に行儀よくしてよね」
ラサの傭兵団長達、
「ま、君達の場合存在そのものが『実践』だから」
「アリス達はまさに私の『想像力』を掻き立ててくれる」
「……『探求』にはたまには外に出る必要もあろうよ」
アデプトの三塔主、
「皆様の行く末に幸多からんことを」
「ふふ。遂に大号令を達成した我々のようにね! 意気揚々と!」
「……世話になっておいて勝ち誇る所か?」
アルティオ=エルムからはリュミエ、胸を張るソルベと呆れたようなイザベラといった世界各国の首脳達がまさにサミットのように集まっていた事だ。
「発起人は陛下ですわよ。まぁ、何も考えていな――いえ、斬新なご提案は流石」
「あまり褒めるな、リーゼロッテ! 嬉しくなってしまう!」
面食らうイレギュラーズにリーゼロッテがネタ晴らしをし、フォルデルマンは幸せそうに笑っている。そう言われれば想像がつくのは確かである。他の者が呼びかけても各国首脳は裏を見るだろうが、ある意味でこれは彼の『お人柄』の力であろう。
「兎に角! この混沌はかつて諸君等を歓迎し、今諸君等に感謝しているのは間違いない!
私が代表するのもなんだが、今日は諸君等に少しでもそれを伝えようと皆を一生懸命集めたのだ。この宴を心から楽しんで貰えればこれ以上の喜びはないぞ!」
サプライズのような大歓待。
今夜はイレギュラーズの為だけに始まる特別な夜なのだ。
幻想の舞踏会に貴方は――
- 3rd Anniversary!完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年09月05日 17時49分
- 章数1章
- 総採用数73人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●三周年記念!
「まあ! 素敵なお庭! なんのお花かしら?」
『嫁』が華やいでいたならば、鬼灯にとってこれ程嬉しい事は無い。
「まあ! このお花鬼灯くんの髪とおなじ色なのだわ!」
特異運命座標として動いた日が浅くとも、日頃踏み込めぬ見事な庭園で時を過ごす事が出来たのは、鬼灯にとって実に素晴らしい出来事だった。
「今宵は神使様方が彼岸の地に舞い降りて三年目の記念の宴。
拙が参加させていただいて良かったのでしょうか――」
青天の霹靂は実際結構良く起きる――
青く晴れ渡った快晴に雷が轟く事は本来滅多にあるまいが、『幸か不幸か幾多の運命を背負いがち』なイレギュラーズにとってみれば非日常は確かにそう珍しくも無い日常に違いなかった。
「せめて皆様に失礼が無きよう拙からも細やかながらお祝いいたしませんと」
「き、緊張するッス……!」
豊穣の地・神威神楽の鬼人種(ゼノポルタ)――その少し毛色の違う出自より、幾ばくか気遅れたように言った氷菓や呟いたイルミナが立つこの場は煌びやかさに包まれた宮殿の風景だ。
そうそう足を踏み入れる機会も無い特別な場所だ。
彼等は勿論、招待を受けてこの場所に立っている。とはいえ、今日が特別なのは『一行が宮殿に居るからではない』。
「ア!!! お背中!!!! 撮影!!!!!
あっ、ちょっと鼻から赤いのが漏れそうっ、ついでに命も漏れ出しそう!」
何時もとは違う赤いドレスに余計な事を言って折檻される秋奈や、
「噂には聞いていたけど、見た目は本当に西洋人形のようなお嬢さんなのね」
「あら、貴方は……」
「お初にお目にかかります、夕凪恭介というしがない異世界から来たイレギュラーズよ。
貴女のその衣装、赤の鮮やかさに負けない着こなし素敵だわ。前に見かけた黒に青薔薇も良いけれど、こちらも。赤が似合う女の子は危険な魅力を感じるから」
優雅な風に一礼し「機会があったら貴女の服を仕立ててみたいわ」と緩く笑んだ恭介の相手――つまり暗殺令嬢ことリーゼロッテ、
「この度、後見人をファーレル公に引き受けて頂き、ドゥネーブ領の領主代行となりました。ベネディクト=レベンディス=マナガルムと申します。フィッツバルディ公爵閣下」
「うむ。挨拶をご苦労」
「若輩の未熟者ではございますが、御為に、国の為に力の限りを尽くす所存でございます。
機会がありましたらドゥネーブへお立ち寄りください。
その時は最高の温泉と海の幸をご馳走させて頂きます」
「……うむ。考えておこう」
ベネディクトの挨拶を鷹揚に受けるレイガルテ辺りの存在は或いははまだ『当たり前』の範疇になろうが、明確に『違う』のはこの場に居る『それ以外』の人物像の方である。
(いや、だってこの空間に集まってる方々ってあれッスよね、えらいひと……!
幻想どころかこれは世界中から――ローレット・ワークスの時には大変な失礼を……
今度はそんな事がないよう、しっかり礼儀正しく行くッスよ!)
「ああ、アリス! 諸君の晴れの日を私が祝う事が出来るなんて!」
「……このような場に何の意味があろうというのか、疑問ではあるがな」
「まあまあ、御老公。そういうものじゃないよ。いいじゃないか、意味がなくても探求だ」
イルミナの視線の先に居るのは、紛れもなく練達の三人衆――それぞれ『想像』『探求』『実践』を司るという三塔主――マッドハッター、カスパール、佐伯操である。
「あらあら、まぁまぁ! マッドハッターさんが! 生で! 動いている!
愛しの! 方と! お祝いすべきこの日に! 同じ空間にいられる! なんて!
これは――幸せ以外の何でもないのでは!?」
「ああ、アリス。私も同じ気持ちだよ。君を祝えるなんて私は最高の幸せ者なのだから!」
テンションが上がりすぎて鼻血を出しそうな卯月の手をマッドハッターがぎゅっと握っている。
「カスパールさん、渋くてイイ男だよね、カッコいい!
探求はやっぱりたまには外に出ないと分からない事もあるから、こういうのもいいと思うよ!」
「……まぁ、そんな事を言われた事は無い。珍妙なる貴殿に出会ったのも探求と言えば探求か」
一方でテンションの高いムスティスラーフにカスパールは珍しく気圧されているようにも見えた。
「先の大号令、お疲れ様でありんした。
豊穣という成果があって何よりでごぜーました。
……なに、大号令を受けたはいいが、発起人を知らなもんで。今夜は直接お会いしようかと……」
「うむ。此方こそ勇者の顔の一つも見ておきたかった所じゃ。先の戦い大儀であった!」
「あー、感じ悪いですね、陛下。こういう時は素直にありがとうって言えばいいのに」
他方を見ればウィートラントが『ご機嫌を窺った』のは海洋女王イザベラとその重鎮ソルベであり、
「よっす! 久しぶり!
そうだ、ずっと言おうと思ってたんだった。
カヌレ様! あの時のベッツィータルト美味しかったぞ!」
明るい調子で気さくな笑顔を見せ、旧知の『友人(カヌレ)』に声を掛けたのはカイトだった。
「シェアキム殿下、お初にお目にかかります。楊枝 茄子子と申します。
恩義のある練達に居を構える身ではありますが、ネメシスの掲げる『正義』の観念に非常に感銘を受けておりまして。無作法ながらも天義の礼装を着用させて頂いております!」
「うむ。勇者よ、過去の戦いでは我が国も特異運命座標には大いに世話になった。
貴殿は――その時は召喚はまだだったかな? それにしても『正義』を知り、魔種を撃滅せんとする貴殿の戦い振りもやがて素晴らしい結実を見るのだろうな」
折り目正しく挨拶をする那須子の言葉にフェネスト六世とレオパルが頻りに頷いていた。
「レオパル様! ご報告が!」
そんなレオパルに声を掛けたのは連れ立って歩み寄ったリゲルと傍らのポテトである。
「うん?」
「ご報告が遅れましたが――この程、ポテトを妻に迎える事となりました。
これからも妻と共に、より一層母国の為に尽力し、研鑽する所存です!」
「あの戦いの後、リゲルの妻となり、天義を支える一員となりました。
まだ未熟者ですが、これからも天義の、いえ母国のために尽力したいと思います。
改めて、宜しくお願いいたします――」
「うむ、良き歩みとなるよう。諸君等ならば神も認める素晴らしき夫婦になれよう」
リゲルの顔、ポテトの顔を優しく見つめるレオパルの表情は温かい祝福に溢れていた。
「イイ夜だね陛下にお二方!フェデリアの海で捕まってイライだね!
あの時はもう死ぬかと思ったけれどブジにこうやって飲めてメデタイね!」
「どうしても、一度直接礼が言いたくてな」
連れ立ってヴェルスの元へやって来たのはあっけらかんとしたイグナートと端正な顔にニヒルな笑みを張り付けたジェイクだ。
「ふぅん?」
「『妻』が世話になったんでね。今更言うのも何だが――あの時は、幻を帰してくれてありがとう。こうして幻と結婚出来たのもあんたの温情によるものだ。もし、鉄帝で何かあれば俺達言って欲しい。俺達で良ければ手を貸すぜ」
少しの剣呑とそれ以上の感謝を込めてジェイクがヴェルスとやり取りをしているシーンもある。「ああ」と軽やかに思い当たったヴェルスは「礼を言われる事でもねぇよ。まぁ、くれるって言うなら受け取っておくけど」とその麗しいマスクにあだ名の通り流麗な笑みを揺蕩わせている。
「それはそれとして」
「……?」
「結婚おめでとう。あやかりたいね」
「にしても、……知ってはいたがアンタきっと強いねえ。立ち居振る舞いだけでわかるよ。
……あーもったいねえ。あたしがもう少し若けりゃ……うん。
まったく無鉄砲に勝負の一つでもふっかけそうなもんだってのにさ!」
「あらあら。ジェイクのお陰で早速恋愛運が上がったか?」
「ドノ口で言うんだ、͡コノ皇帝陛下は!」
横合いから笑って口を挟んだリズリーをじっと見て、軽口を叩いたヴェルスに思わずそう言ったイグナートの知る限り、彼は筋金入りに「女は苦手」と公言を済ませている。大層モテるらしいが、曰く「手加減が出来ないから」だそうで――
「なんだい、なんだい!
お呼ばれしたからフォーマルな格好で来てみたら!
随分と珍しい奴がいるじゃないか? アンタこんなところに出てくる柄かよ、なあガイウス?
俺はてっきり闘技場以外じゃ表に出てこないのかと思ってたぜ!」
酷く馴れ馴れしく――全力でご機嫌に親しみを込めているとも言う――巨躯を黒いタキシードに押し込んだ貴道が所在なさげなガイウス・ガジェルド――ラド・バウの絶対王者の肩をバンバンと叩いていた。
「……皇帝が来いと言ったから、な。
それよりお前こそ似合わぬ場で会う。まさかこんな場では――」
「――何! 今日は喧嘩を売りに来た訳じゃねえさ、人も多いしな。
別にここで殴り掛からなくたって、アンタは玉座から動かないだろう?
……ハッ、まあなんだ。酒ぐらいなら注いでやるぜ、チャンピオン!」
練達に海洋、天義に鉄帝と来れば傭兵が居ない筈もなく。
「ディルク様!? お、お会い出来て……嬉しい、です!
あ、今日は私に会いに来て下さったんですか?」
「……なんて、冗談ですけど!」と続ける予定だったエルスが「良く分かったな」等と赤毛の伊達男にまともに顔を覗き込まれ何時もの石化を果たしている。
「そそそそそそういう冗談はお戯れは!」
「だから冗談じゃねぇって。何なら身体に教えてやろーか?」
以下略放置。
「世界中から他のイレギュラーズさんやおエライさんが集まると聞いて来てみれば!
このチャンスを逃す手はない、というヤツです! 石を投げたら人脈に当たるレベルです!」
「有名人達が見れる、ってこっそりやってきたけど……
なるほど只ならぬ気配を感じるというか、豪華絢爛と言うか。
何だか妙にオーラの漂ってる人達多すぎない?」
「あー、んー、確かに! 各国の有名どころが勢揃いって感じだねっ!
……って言っても最近活動を始めた花丸ちゃんにはとっつき難い人達って印象なんだけどさー。
もうちょっと活動を続けていけば取っ掛かりも出来てきたりするのかな?」
イロンの言葉は身も蓋も無かったが、続くイナリのそれも含め『余りに露骨に見て分かる事もある』。実に奇妙な取り合わせだらけで騒がしくも穏やかなる社交場に目を丸くした花丸は辺りを興味深そうに見回している。
「舞踏会か。武闘会ならよかったのだが。
このメンツだしな――本当に武闘会ならよかったのに。
……まぁ、流石に国の威信やらが関わってくるだろうしな。残念ではあるが、またの機会か」
一方の愛無は「ここに求むる暴食はあるまい」と小さく嘆息したが、実際今日という日は特別だ。
「三周年? 秘宝種(わたしたち)が動き始めてまだ一年もたって無いし、イレギュラーズ自体もずっと昔から居たって言うけど。あ~! でも二年前にいっぱいイレギュラーズ来た時があったんだっけ!」
「その『大召喚』から三年ですか……
そういえば私もこっちに来てから1年以上経ちましたね。月日が流れるのは早い物です。
……ふふ、私はこっちに来てからいっぱい死体が合法的に見れて中々楽しめてるのですが♪」
「……そう、もう三年になるんだね。だからアニバーサリースリーなんだ」
浮き足立った時間に小首を傾げたンクルス、微笑んだねねこにセリアがしみじみと言った。
贅を尽くした晩餐会、煌びやかなる舞踏会。
「せっかくの舞踏会だけど、殿方の足を思いっきり踏みつけるのも可哀相だしね」
そのどちらも呟いたセリアにとっては何とも面映ゆいものではあったけれど。
このお祝いが特別なものである事は同じである。
「じゃじゃーんなのじゃ!
呼ばれて飛び出て絶世の美女たる妾のお出ましなのじゃー!
妾のちょう凄い伝説が始まってもう三年。コミックスで言うと十二巻目辺りになるかの?
来週も再来週も楽しみなのじゃー」
デイジーが今何巻に位置しているかはさて置いて、全ての歯車が動き出した(とされる)『始まりの日』から三年。何の変哲もない七月二十九日がとんでもない意味を帯びている事に疑いはない。
(これ、想像以上に重鎮が揃っていて……一周回ってこの状況が面白くなってきたなぁ。
でも意外と冷静になれたのは最初に、リーゼロッテ嬢に話しかけられたお陰かもしれない。
正直驚いたけど、何だかんだでお世話になっているし。あ、ドレス似合っていると伝えれば良かったかな……)
幻想国王フォルデルマン三世の思い付きと恐らく文の頭を過ぎった蒼薔薇の令嬢の『口添え』により、『世界各国首脳がイレギュラーズを祝う為だけに集結した』という混沌全土の重要イベントへと変わっているのだから当然だ。
「三年、ねぇ……私は三年前の今日なんて、そうねぇ。
幻想の酒場でだらだらと飲みながら『大規模召喚ねぇ』なんて近くの人と話してたわぁ。
あっという間の三年、私が戦いなんかするようになって、手を汚して、出自と向き合って――こんなの全部嘘みたいよねぇ」
しみじみと言ったアーリアが不意に傍らのレオンに流し目を投げた。
「で、ね。……ねぇそこの色男さん、私と一杯飲み交わさない?
今日はなんだか、ゆっくりとお酒に浸りたい気分なの、付き合ってちょうだいなぁ。
もっと率直な口説き文句なら――そうねぇ。『貴方の四年目の最初の一杯を、私にくれない?』なんだけど。レオン君、結構これから忙しくなりそうな身じゃなぁい?」
「俺でいいなら付き合うけどね。あんまり火遊びしてまーた折檻されても知らねぇぞ」
レオンの切り返しにアーリアが「うっ」とこめかみを抑える真似をした。
あの日の事は記憶がとぎれとぎれである。敢えて細かくは言わないけれど。
「ユリーカはレオンのおかーさんだし、やっぱり来ないとね!」
「ふぅ。保護者も楽ではないのでした」
駄目な大人二人を他所にライトグリーンのワンピースにシトリンやアクアマリンのアクセで着飾ったハルアが髪をアップにまとめて少しだけ大人びたユリーカとそんなやり取りをしていた。
淡いピンクとサーモンオレンジの薔薇の花束はそんなハルアがユリーカに手渡した贈り物だ。
はにかんだような笑顔を見せる少女二人は華やいだ雰囲気でこの時間を満喫している。
「また一つ大人になった素敵なお嬢さん。
この祝いの席の記念に、おにーさんと一曲如何ですか?」
「!」
「!!」
「!!!」
「ヴォルペ!」
「ヴォルペさん!」←ハルアさん合わせた
「顔はいいです」
「ハンサムです」←何となく乗った
「……あの、お嬢さん方。これはどういう反応なんだい?」
それはそういう反応なんだよ。
閑話休題。
「月の舞姫、華拍子、天爛乙女の参上です――」
「すっっっっごい、大舞台!
このチャンスで踊らないなんて、踊り子としてありえない……よね!
全力でおめかしして、全力で踊らせてもらっちゃうぞー!」
「待ってました! 踊り子さんには触りません!
うむ、こういう掛け声を掛けてみたかったのだ!」
イレギュラーズをもてなしたくて仕方なかったらしいフォルデルマンは芝居がかって一礼した弥恵や気合を入れ直したスーの姿を囃し立てるように歓声を上げていた。彼女達、社交場に咲く大輪の魔性、或いは妖精はきっと素晴らしい舞を見せてくれるのだろう。
(ひ、ひえ~! こんな大きな宮殿足を踏み入れたことないよ! ああ、ぎんぢょうずるよ~!)
この場を特別な披露と考えたのは弥恵だけでなく演奏家たるアリアも同じだ。
内心の動揺を押し殺し、人の字を三つ飲み込んで宮殿の外、月下で音を奏でんと考えている。
この後きっと、情緒も華やかなる舞踏の時間がやって来る。
「……私は飾り立てるような花にはなれませんけど」
「俺も同じだよ。白いコートも新調しても、精々場の雰囲気には酔う位のもんだしさ」
「……お酒はダメですよ? 弱いんですから」
同じく新調したフォーマルな青いドレスはクスクスと笑うシフォリィに良く似合った。
「うん、綺麗だ。どうにも気の利いた事が言えなくて悪いけど」
クロバのストレートな台詞が面映ゆくシフォリィは少し視線を逸らして聞こえない振りをした。
「では偶には紳士らしいエスコートでも。
お手をどうぞ、我がプリンセス。私めでよければ踊ってはいただけませんか。
……ってごめん、自分で言ってて爆発しそうだ」
「……ん、折角なので乗っちゃいましょうか。
勿論、貴方とならば喜んで、世界で一番の、私だけの王子様――」
王宮舞踏会なんてもの、貴族の子女にも高嶺の花だ。
慣れない調子で出来もしないエスコートをする――そんな年上の『かわいいひと』。そんなのシフォリィは少しだけ意地悪く、とびきり魅力的な笑顔で応じる他はないではないか!
成否
成功
第1章 第2節
●舞踏の夜
「お久しぶりで御座います。お遊戯の御計画は如何ですか?」
ムードたっぷりの室内楽の流れる『空間』に不似合いな――華やかであるようでたっぷりの毒を含んだ言葉を、幾ばくかの軽侮と冗句を交えながら投げたのは『新婚』の幻だった。
「貴方の事です。万が一にも不備などないのでしょうが。
何ならお手伝いでも致しましょうか? 有能なバダンデール様」
「君は変わらないな」
幻は視線の先の相手――クリスチアン・バダンデールが嫌な顔をするとばかり思っていたのだが。
「こんな晴れの日だというのに。君達の為の宴だというのに。
わざわざ選ぶ相手が騎士(ナイト)君ではなく私だとは。幾ら何でもいい趣味が過ぎるぜ」
彼女の予測に反して目の前の男はくすくすと軽妙な笑みを見せ、『こんな夜』でも何一つ変わらない幻の皮肉癖を楽しんでいるようですらあった。
さて、王宮で開催される舞踏会等というものは庶民の手の届くものではない。
成る程、クリスチアンの言う通り。見目にも麗しく着飾った人々は幻想や混沌の世情等お構いなしに実に艶やかなものだった。さもありなん、この場に参加出来る人間はイレギュラーズと僅かな例外を除けば特権階級に位置する人間ばかりだ。
「……王宮だというのに。普段の冠はないのですか?」
「冠を置いて来た今のぼくは王では無く、只の娘に過ぎませぬ。
……こんななりは、似合いませんか?」
『こんな時だからこそ』冠を脱いだ未散がヴィクトールの問いに小さく小首を傾げてみせた。
「いえ、似合っていないわけでは。お似合いですよ、ええ、素敵です。
――ならただの娘さん、このボクと踊ってくださいませんか?」
即座にそれを否定したヴィクトールが少し芝居がかった恭しい仕草で未散を誘った。
十分な雰囲気を保つ社交の場にその口振りも滑らかで未散も「喜んで」と微笑んで。ドレスの裾を摘まんでみせる。赤のボールガウンに金の薔薇を従えて、揃いの色のタイとチーフで飾った燕尾服の彼にその手を引かれ、ダンスホールへと歩みを進める――
――嗚呼、懐中時計はお忘れではない? ならば、結構。この時間は夢のように――
「今宵一晩。脇目も振れぬ位。あなたさまの腕の中に可憐に咲いて見せますから。
……エスコート、お願い致しますね?」
何時もより濃いグロスの乗った艶やかな唇が『冗句』を紡ぐ。
今夜のムードがあればカップルはさぞかし捗る事だろう。
「ヴァ、ヴァリューシャ!
君が一番期待しているのはお酒かも知れないけど……
しょ、食事の前に少し踊らないかい……?」
誘い合わせて今夜この場にやって来たヴァレーリヤの見慣れないドレス姿にマリアは完全に緊張気味である。
「ええ! ありがとうマリィ!
何でもない――そう、ただの司祭の私だけれど、お誘い、喜んでお受け致しますわ。
……でもね、マリィ? あの……私、実はダンスって昔から苦手で。
足を踏んでしまっても笑わないで頂戴ね?」
「大丈夫! こう見えて故郷じゃ神殺しの聖女! とか世界最強の虎なんて扱いもされててさ!
……こういう場は慣れっこなんだ。ワルツくらいなら踊れるんだよ!?」
半分位嘘だが、つい咄嗟に口を突いたというか言わされたというか何と言うか。むしろ自分以上に目をぐるぐるにしたマリアにヴァレーリヤはクスと微笑む。
「ご、ごめん! 何だからしくない……
実はね……着飾った君を見てると、綺麗でなんだか独り占めしたくなっちゃった……」
自分の足に『とまった』ヴァレーリヤにマリアは何とも言えない表情で零し、
「ふふ、そう言ってもらえると悪い気はしませんわね。
頑張って慣れないドレスを着込んだ甲斐がありましたわ――」
一方のヴァレーリヤも普段が嘘のようにデジタルタトゥっている――
「おや……ユリーカさんのドレス姿とは、めったに見られない珍しいものを見てしまったな」
「どうゆう意味ですか!!!」
からかう調子で言葉を投げたモカに咄嗟に声を張り上げたユリーカはお洒落をしている。
「どういう意味も何も――そこの麗しいお嬢様、私と踊ってくださいませんか」
「!!!!」
さあ、小さな胸を高鳴らせ、特別な時間に特別な期待を向けるのは恋する乙女(リア・クォーツ)も同じだ。むしろここは彼女の戦場で、この戦いは特権でさえある!
(ここでヘタレてどうするリア・クォーツ! 覚悟完了してきただろ!)
彼女には珍しい位着飾って――修道院の皆が茶化しながらも一生懸命選んでくれたドレスである――自身の頬を軽く叩いた彼女の視線の先には言わずと知れた貴公子の姿がある。社交の場では無数の女性を袖にするという――誰とも踊らない事で有名な、幻想で一番の貴公子が居た。
断られたらどうしよう――そんな不安は決して消えないが、
「……は、伯爵! ここ、こ、こんばんは!
その、あの……先日は、ご招待頂き本当に有難う御座いました!」
「ああ、いえ。この間は大変でしたから――今夜、改めてお会いできて私も嬉しい」
勇気を振り絞って声をかけたリアにガブリエルは月光のように淡く微笑んだ。彼女が「今夜は一緒にいてもいいですか」と問うより先に彼はリアの手を取って、その手の甲に絵になりすぎる口付けを落としていた。
「――――!? !? !?」
面白い顔をしたリアにガブリエルは悪戯気に言う。
「――私と一曲、踊っていただけますか?」
恐らくは見た目程は一筋縄ではいかない伯爵のみせる僅かな意地悪と冗談を含んだ提案だった。だが「はひ!」と間抜けな返事で応じたリアにとって彼の旋律に抱かれるようなこの時間は何より嬉しいものだった。
(……あぁ、やっぱりガブリエル様の音色は特別。綺麗で、心地よくて……)
それから、何だか。頭の芯が締め付けられるように痛くなった。
(あれ、なんだ? なんか今日調子悪いな――こんなに)
こんなに、嬉しいのに。
閑話休題。
幻想貴族の『売れっ子』と言えばリーゼロッテこそ外せない。
「このような場を設けてくださるなんて流石フォンデルマン様ですね」
「ええ、陛下は『特別』なお方ですからね」
「成る程、言い得て妙だ。お初にお目にかかります、リーゼロッテ様。
私はフォークロワ・バロンと申します。以後お見知りおきを――」
一礼したフォークロワに『左手』を差し出したリーゼロッテは先程のささやかなやり取りに信号機みたいになったリアとは全く一線を画して『こんな場に慣れきっている』。
とはいえ、彼女はこの幻想において誰よりも有名な『壁の花』。
「ご機嫌麗しゅう存じます、レディ」
「うふふ。とっても。貴方も愉しんでいるかしら?」
『子爵令嬢時代から気になっていたリーゼロッテ様』に挨拶をしたマギーにリーゼロッテは艶然と笑っていた。
「こんな場で私の元にやって来るなんて悪い子ですこと」
「いやはや、恰好を含めてお恥ずかしい限り。個人的な事情がありまして……」
婚約破棄されたばかりの身故、マギーが身を包むのはフォーマルな男装だった。
「ご機嫌麗しゅうございます、リーゼロッテ様。
ふふ、普段のお召し物も素敵ですが、今宵のドレスは一段と素敵ですね♪」
マギーにしろ、この場はチャンスとやって来たシズカにせよ。
「……それでですね、本日は折り入ってお願いが……
いえ、大したことでは……あるのですが。私とも一曲、お付き合い頂けないかと……」
「ごきげんよう、リーゼロッテ。もし良ければ一曲、一緒に踊ってもらっても良いかな?」
ごにょごにょと頬を少しだけ染めてそんな風に彼女を誘うシズカせよ、華やいだティアにせよだ。
人々に、貴族層にさえ蛇蝎のように嫌われた極上の美少女がその名残を残していないのは、彼や彼女達――イレギュラーズがやって来たからだ。
「もう、シズカさんもティアさんも。
そんなに心配そうにしなくても。断ったりいたしませんわよ。
……私を誘う方なんて、そう多くはありませんからね」
「そんな事ない。何度もお世話になってるし、これからももっと一緒に遊べたらなと思ってるよ。
もちろんリーゼロッテが良ければになっちゃうけど……
また稽古もつけてもらいたいし……」
「うふふ、じゃあ。最近は――そうでもないのかしら?」
唇を尖らせてそう言ったティアにリーゼロッテは小さく笑った。
少なくともイレギュラーズが集まれば彼女の周りから人がいなくなる事は無い。
「拙者もリズちゃんと踊りたいと思ってきました!
見て下さい! ふふん、すっかり身長も伸びて、リズちゃんを支えられるようになりました!
だから今夜は拙者が男性パートを担当しますよ!」
「あらあら。ルル家さんには丁度お仕置きが必要だと思っていた所です」
「どうしてですか!? 拙者は大好きなリズちゃんと一緒に踊れたらとっても嬉しいですが!」
「どうしてって――」
リーゼロッテはルル家の頬に手を触れて、キス出来そうな距離で彼女の顔を覗き込む。
「?????」
「次、やったら――綺麗なルル家さんのまま、剥製にしてしまいますからね?」
「あの、リズちゃん! 嬉しい気がするついでに拙者かなり怖いのですが!」
笑えねえ冗談はきっとルル家の片目を指しての事だろうが……
幻想の毒花、死の青薔薇と散々な呼び名で恐れられた彼女がクリスチアンが笑う位に丸くなったのは――この景色を見るだけで頷けるものだったと言えるだろう。
「それから、そこ。
『一応正式な招待とはいえ、その……私はお嬢様や皆様を見守るだけで良いのです』」
「!?」
「――とか思っているでしょうけど。
言っておきますけど、そちらも逃がしたりいたしませんからね?」
「!? !?」
ロングドレスを身に纏いリーゼロッテの近くで影のように侍っていたアリシアが不意に向けられた言葉に目を白黒とさせていた。
「あまり舞踏も、その他の経験も無い無名の私でよろしいのでしょうか、お嬢様?」
「私に誘われるなんて光栄ではなくて?」
「まったくですよ」
嗜虐的な彼女に「はい」としか答えようのないアリシアに横合いの寛治が茶々を入れた。
「――こんな光栄に身を浴せると思うなら。
ええ、それこそ何時間でも順番待ちをさせていただく所存です。
ねぇ、私とも踊っていただけますか、お嬢様?」
「は、は、は!」
寛治のわざとらしい言葉にこれまた見慣れない笑いを浮かべたお嬢様が「考えておきます」と捻くれた返事をした。
「少なくとも、眼鏡は一番後ですわ。
だって、ねぇ――そろそろレジーナさんのやきもちで私まで焦げてしまいそうだから」
情熱的な赤のドレスが今夜の青薔薇には良く似合う。
何とも難しい顔をしたレジーナが意地悪な水を向けられて「むぅ」と小さく唸る。
「ちゃんとエスコート出来るかしら?」
「赤いドレスもお似合いですねお嬢様!
大きなパーティーでご挨拶するのも久しぶりですけれど――
わ、我(わたし)も成長しますので粗相なんてもうしませんよ……!」
「でも」とレジーナ。
「……最後は我(わたし)に譲っていただきたく」
「ああ、成る程。ですってよ、眼鏡」
「いやー、困りましたねー。では、お嬢様のお気に召すまま、で」
享楽的なやり取りは同じく嗜虐的な二人の織り成すユニゾンのようだ。
――自分が苦しむか、或いは他者を苦しませるか。
その何れかなしでは恋愛というものは存在し得ない。
とか何とか言ったのは誰だったか――
レジーナはふとそんな事を考えた。
(特別な日ですから。月が綺麗な夜に。二人きりで。ダメですか。リズ……)
猫のような彼女に首輪をかけられたなら、そんな不埒を夢想して。
もしそう言ったら彼女は何と答えるだろうかとレジーナは考える――
悲喜こもごもの舞踏会の時間は実に素晴らしく過ぎていく。
「――レオン君、楽しんでいますか?」
「良く分かったな」
「レオン君って騒がしいようで、騒がしいの苦手ですからね」
ドラマは会場から消え、見当たらなかった『彼』の姿を喧騒から離れたテラスに見つけた時、『彼の事を分かっている』自分の事が少しだけ誇らしかったというものだ。
「ご名答。ま、美人所を見繕って誘っても良かったが――
今夜の主役を他所に置く程、俺は我儘じゃあないんでね」
「……重鎮ばかりで息苦しいでしょうし、レオン君、こういう時意外と真面目ですから」
「意外は余計」
テラスに肘を預けるようにしていたレオンの横に『おめかし』したドラマがちょこんと収まった。レオンの右隣は彼女の中ではすっかり定番となった――自分ではそう決めている――居場所である。丁度彼の右手がわしわしと頭にかかりやすい場所。髪をぐちゃぐちゃにされる度、彼女はきまって唇を尖らせ懸命な抗議をしてみせるのだが、そんなもの。語るに落ちる悪い冗談というものだ。
「綺麗じゃん」
「……あの、前を見たまま、いきなりそういう事を言うのは……」
「何? 手をぎゅっと握ってその宝石みたいな目を覗き込んで言う方が良かった?」
「前を向いていて下さい!」
「そりゃあ、どうも」
掌の上で転がされる感覚はむず痒く歯がゆくも心地良い。
だが、ドラマも黙って引き下がれる夜ではない。
「折角、ですし……私と一曲如何ですか?」
出会ってからたった三年。しかしこの時間の密度はドラマ・ゲツクの百年よりも尚重い。
その想いは不器用に消化するにも、放っておくにも大き過ぎる。
僅かに顔に熱を感じれば、もう酔いが回ってしまったのだろうかと自問する。
「成る程。今夜はお前に足を踏まれればいいのね」
「そんな事、しませんよ! たぶん!」
ファルカウの引きこもりに社交ダンスの経験等ないけれど。
意地悪く笑う彼の顔が――どうしようもない位に好きだった。
一方で。
「イルちゃん、やっほー!」
「あ、スティア……殿」
目ざといスティアに手を振られたイル・フロッタの姿がある。天義の騎士見習いである所の彼女は本来ならばこんな場に出てくるようなタイプではないが、この会の目的がイレギュラーズを祝うものである以上、『ゆかり』の人物としては十分という事だ。
「今日はお仕事?」
「ああ。陛下とレオパル様がいらっしゃる以上、ある程度の兵は必要だからな。
私は少なくとも招かれたとは思っていない」
「そっかー。でも私ドレス姿だから戦えないなー!
庭園に行きたいんだけど、夜だし一人だとちょっと不安だなー!」
「……ここは幻想でも一番安全な場所だと思うのだが!」
「じゃあ、陛下とレオパル様も大丈夫だね!」
スティアとしては旧知のイルとゆっくりとした時間が過ごしたいだけだ。殊の外上手い切り返しに詰まったイルが苦笑して「分かった。付き合おう」と彼女には珍しく折れた所を見せていた。
王宮の庭園は見事なものである。
時間と共にその風情はガラリと変わりまた違った表情を見せてくれる。
昼の王宮に招かれる機会はなくはなかったが、夜はやはり特別であった。
「流石に人が多いね。宮殿が広いとは言っても、アオイは得意じゃないだろうし――
ここなら一息つきやすいかもね」
「あー……うん、確かに。なんか疲れたな。
こういう人の多いところはあんまり得意じゃないと言うか……
あぁ、ここなら少しのんびりできそうだ。挨拶回りとかなぁ……リウィルはこういうところもなんだかんだ慣れてんだな。俺はせいぜい身内の集まり程度だったしな、こんな気の遣うような相手がいっぱいいるとこは全然だ」
気遣う言葉を投げたリウィルディアにアオイが少しばつの悪そうな苦笑を見せた。
「……ところで、少しだけど舞踏会の音楽が聞こえてくるね」
「あ、うん。そうだな」
「中だとそれどころじゃなくて踊れなかったし、ここで踊らない?
これから機会が増えるかもしれないんだ、練習も兼ねてさ。大丈夫、不慣れなのは分かってるから、少しだけリードするよ。ね、いいでしょう?」
アオイを誘うリウィルディアの表情は悪戯気で少しだけ紅潮していた。
リウィルディアは月下の庭園に灯りがなかった事を感謝し、少しだけ思案したアオイは、
「……まあ、練習くらいなら。それじゃ、ご教授お願いします……っと、いくぞ、リウィル」
何気なく無造作にリウィルディアの手を取り、実に心臓に悪い笑顔を見せていた。
成否
成功
第1章 第3節
●宴の夜
「国王陛下、おそれながら一生のお願いにあがりました。
どうか! どうか陛下のタマを握らせては頂けないでしょうか!」
「ハッハッハ! 何の事かは知らないが、シャルロッテの顔がすごいことになってるぞう!」
キンタとフォルデルマンと、あとそれからすごい顔になってるシャルロッテは置いといて。
「ねーねー! 王様! 領地もうひとつ頂戴よ領地!」
「いやー、私はあげたいのだが、レイガルテがすごい顔をするんでな!」
「――御壮健で何よりです、公」
メリーに応じるフォルデルマン。やはりすごい顔になっているレイガルテに実にいいタイミングでシラスが言葉を投げかけた。
「……何だ、貴様もおったのか。いや? 居ない方がおかしいか。
このわしに拝する好機を捨て置くなぞ、貴様にはそう出来かねまいなあ」
傲然たるせせら笑いを浮かべ、威圧するかのように言うレイガルテだが、シラスは彼のそういう物言いが常に額面通りでない事を承知している。意訳するなら「きちんと挨拶に来たお前には見所があると誉めてやろう」といった所か。
「ご尤も。一年程前にお言葉を頂いてから日々精進しております。
近々きっと面白いものをご覧に入れます、どうかご期待くださいませ――」
如才なく、しかし僅かに挑発的にシラスが言えばレイガルテは鼻を鳴らして「小癪な」と呟いた。
今のは「面白い。期待している」といった所か? それとも甘いか? とシラスは考えて苦笑した。
それはともかく、レイガルテの眼力から逃れたフォルデルマンは相変わらず自由であった。
(三周年記念のパーティー……
あたし最近召喚されて来たばかりなんだけどなぁ、参加しちゃって良かったのかなぁ?
御馳走とかには興味あったんだけど、知り合いもいないし……場違いというか……)
(お仕事始めるならえらーい人たちのお顔を覚えておくチャンスかなって思って来てみたけれど……
これ、本当に来ても良かったのかな……?)
「そこの君達!」
「――!?」
我等が王様の『良い所』は非常に人好きのする人物という事であろう。
「楽しんでくれているかね! 私はとても楽しいぞ!」
参加したはいいがやはり知人が居なければ所在なく。幾ばくか居心地の悪さを感じていた自身等をじっと見つめ、突然に水を向けてくる。何ら屈託のない素晴らしくノーブルな笑顔を見せるフォルデルマンに操やくるりはといえば半ばの驚きをもって「はい、はい!」と反射的に頷く他は無かっただろう。
「舞踏会、オトナのマナーはよくわからないけれど、踊ればいいんだよね?
じゃ、くるり、踊るのは得意だから踊っちゃおうかな! 飛んでくるくる踊ったら、くるりのことを覚えてお友達になってくれるひとも居るかもしれないし、上からならみんなの顔がよく見えるもんね!」
「おお、それは名案だ。是非そうしたまえ。盛り上がる!」
くるりの言葉にフォルデルマンが頷いた。
「あー、花の騎士さん。ちょっといいっスか?」
「はい?」
「晩餐会のご馳走とか酒ね。ちょっと包んで貰って外持って行っても構いませんかね?」
「構いませんが――何方かへのお土産でも?」
「いやね、お空にも地面にも不器用なヤツがいるじゃあないですか」
意外に器用なウィンクを見せたルカにシャルロッテは「ああ」と頷いた。
地面の方は彼女には思い当たらなかったが、空の方の答えは簡単だ。
レオン曰くの『引きこもり』はこんな晴れの日にも姿を見せない。かつて彼が何を捨て置いても動かそうとした彼女は余りにも頑とした鉄壁だ。短くて長い時間をまたいでルカがそれを気にかけるのは余りに数奇な運命ではあるのだが――
閑話休題。
「――Dude! パーティはやっぱりステキじゃない!
大召喚を詳しく知らないワタシだけど、気分だけは三周年のつもりで――」
何時もより高いヒールを履き、白のドレスを着る。「お祝いごとには黒より白でしょう」と嘯く今夜のエンジェルは、成る程、自身が自認する通り『薔薇のよく似合うお姫様みたいな』姿であった。
(それにしても……まるで赤い花が咲いているかのような存在感ね!)
そんなエンジェルが興味深く見つめるのは、
「リーゼロッテ嬢は何時見てもマネージャが近くにおいでますな」
「は????」
僅か一文字で周囲を威圧しまくる赤いドレスの美少女が居た。
(アーベントロートの御令嬢。綺麗な方。
本当の薔薇のお姫様――一体、どんな方なのかしら……一度お話してみたいわね!)
きっとそういう方だと思われるが、エンジェルの次の目標は決まったね。
「あ、いえ、何時見ても、何時見ても……本当いつもありがとうございます助かります」
一方で蛇の眼光を受け止めた夏子は王宮の赤い絨毯に頭から突き刺さった眼鏡をちらりと見やり、何とも言えない笑みを浮かべている。
(にしてもかれこれ二……三年か。
生き死には愚か世界中巻き込みかねん仕事に獰猛な数アタックさせられてる訳だけど……
こうも有名な方々と一緒に飯食ったり、あまつさえ舞踏会やろってんだから
異次元転生したか? ってなもんさ。いや、マジでしてんだろうけどさ!)
リーゼロッテから『撤退』し、物思いに耽る。思えば短いようで長い、長いようで短い道のりだったという事である。
「でも思うのよ 本気なのか天然か。国家間の垣根とか 平然と無視しちゃってる。
あの陛下って案外 世界平和を実現してしまうのでは? そう思うトコロない? アンタもさぁ……」
「うむ、何の事かは知らないが私に全て任せておけ!」
「本人じゃねーか!」
どっとはらい。
三周年――『始まりの日』より長くを過ごした特異運命座標を祝福する宴もいよいよたけなわとなっていた。
「ぶはははっ、大舞台で寿司を握る! これが俺なりの楽しみ方って奴よ!」
謂わば超高級ホテルの実演調理みたいなノリである。
今宵は宮廷料理人に姿を変えたゴリョウが豪放磊落に寿司を握り、見目に珍しい料理に群がる偉い人達から歓声を浴びていた。
「若輩者の自分でも、分かる方が大勢……
まぁ折角の宴ですので、それなりに楽しませて頂きますか」
『歳が歳だから野菜中心』にはなるが、『歳が歳だから』それなりに楽しむ手管にも長けている。
今日は黒いフォーマルなスーツに身を包んだバルガルは良くも悪くも華やかな『画面』を肴に料理を楽しんでいた。
「……見渡す限りの高価な食べ物にお酒。幻想はお金持ちだというお話でしたが、ここまでとは……
一本くらい持って帰っても構わない? ……怒られますかね?」
そんな事を考えたカイロが視線を投げた先にはその『高い酒』を水のように豪快に開けるラサの重鎮――『凶』の獣人、ハウザー・ヤークの姿があった。
(一度、挨拶をと思っていましたけど、いい感じに酔っぱらっていらっしゃるみたいだし、好機でしょうか)
少しだけ逡巡したカイロは意を決して「もし」とハウザーに声を掛けた。
「あん?」
「今晩は、凶のハウザーですよね? 私、神官のカイロ・コールドと申します。
ああ、宗教勧誘ではありません。晩餐会ですからねぇ、食事ついでにお話に来ました。
そうそう、別の所にあった唐揚げも美味しいですよ。お一つどうです?」
何とも牧歌的なカイロの言葉にハウザーは「まぁ、ちょっと位ならいいか」と凶相に笑みらしきものを浮かべて応える。
「フェネスト六世陛下、そしてレオパル様。お目にかかれて光栄です」
そして、この三周年という時間を得難い機会に『出来た』のはこのベルナルドもまた同じだった。
「……貴殿は」
「『聖女』の言の葉に語られた不正義です。こんな場でお声を掛けられる身でない事は承知の上。しかしながら、無礼を承知でこの機に免じて一つだけお願いさせていただけるならば、御身を我が筆で描く事のお許しを戴きたく……」
冤罪とはいえ、不正義の烙印を押された彼が天義の首脳と言葉を交わすことは通常中々難しい。『冥刻のイクリプス』を経て多少その原則論を緩めたフェネスト六世やレオパルではあるが、少なくともベルナルド側からすればこれは清水の舞台から飛び降りる程の勇気の要る提案だったに違いない。
果たして答えは、
「……その方にも『事情』や『理由』があったものと受け止めている。
決して『不正義』に触れる事無きよう、この夜をキャンバスにしたためておくがよい」
フェネスト六世からすれば珍しい程に寛容なものだった。
ハウザーにせよ、フェネスト六世にせよ同じ事だ。
素晴らしい時間は誰の心にも高揚をもたらすものらしく。これは珍しく機嫌が良いという事に他なるまい。
それに、こんなちょっとしたフォーマルは特に殆どのイレギュラーズとは縁のないものだ。
「ハッ……いつもそうやってからかって!!
……ふ、ふん! 言っておきますけど、今日はタダでは引き下がりませんよ!
せっかくの舞踏会なんですから、これでも私、姫だったんですから、踊りとか得意ですから!
それとも……ディルク様は踊りが苦手でしたか? ああ! それは残念ですね!」
何時もとは少し違ってツンケンと挑発めいたファイティングポーズを取るエルスにディルクが笑い飛ばしている。
「どうして! 笑うん! ですか!!!」
「いや、ね?」
赤犬の目を細め、ギラつくような眼光を見せたディルクが溜めた後に言葉を続けた。
「――誰にもの言ってやがる、と思ってな。途中下車はなし。後悔するなよ?」
――い、いいですよ! で、ディルク様こそ、と、とちゅうでにげないでくださいね!?←エルスのイメージ
「ぴ、ぴぃ><。」←実際に発された台詞
はいはいわろすえるす。
「三周年、ね。実は私は混沌(こちら)に来てから二年も経っていないから。大規模召喚の時のことは良くは知らないんだけれど、ね。まあ細かい事はいいとして……今日が特別な日である事は良く分かっている心算だわ」
「ふふ、素敵な衣装だね、フロイライン。君の魅力が素晴らしく映えている。
なぁ、そうは思わないか? バイセン」
「態と言っているのであろうが、それは女怪ぞ?」
「あら、失礼ね。こんなにお洒落して貴方に会いに来たというのに。
積極的な女が嫌いな訳じゃないでしょう……?」
わろすえるすとは裏腹に此方は強い。大振袖に挑発的な美貌を上乗せた小夜はクリスチアンの軽口と、その傍でつくづく嫌な顔をした梅泉の気配に実に艶然と微笑んでいた。小夜の瞳は梅泉の顔を映してはいないけれど、彼から発される空気は何時でも心地良い。若い娘のように『はしゃぐ』のも何だけれど、と。考えぬではないが華やいでいる自身は自覚している。
「モテるね、バイセン」
「色っぽい話とは思えぬがな」
「……あら、どちらでもいいわよ。そこについては」
又、梅泉が何とも言えない顔をした。
ともあれ、今夜は中々会えない誰かを目当てにするもよし、友人と、恋人と互いの時間を温めるもよし、だ。それぞれのパーティを過ごした彼等は空気に『酔える』一時を十分に楽しんでいたに違いない。
それは社交を楽しむ彼等も、
「オ祝いゴトハメデタイ事です。
まあ、華やかな場所は得意デハ無いので、音楽が聴けるトコロでゆっくりしてイマしょうか?
アア、半身は......コノ音色が好きなのでスカ? えぇ、ワタシのソバであるなら愛らしい踊りを見せテ下さいネ?」
己が『半身』と穏やかな時間を過ごし、優雅な室内楽に目を閉じたバーデスも同じだった。
(……召喚されて……まだ三年……か……いや……もう三年……かな……?
……色んな事があったなあ……沢山の個性的な人達と出会ったこと……色々なイベントに参加したこと……
……世界中を飛び回ったこと…命がけで戦ったこと……誰かがいなくなったこと)
テラスから星の零れそうな夜空を見上げ、思いを馳せるグレイルも同じだった。
「……足、踏まなかったでしょう?」
泣きたくなる位に胸が一杯になった短い時間から逃げ出して、一人呟いたドラマも同じだった。
新たなモノを学ぶことは元から好きで、最近は身体を動かすのも嫌いではなくて。
王子様みたいな素敵な人に憧れていたのに、ぼんやりとした彼の姿はもうなくて。
(舞い上がって、醜態を晒したあの時から半年。
私は、成長出来ているのでしょうか。少しくらい、あなたの心を動かせるようになっているのでしょうか――)
本人に尋ねても問いが返らない事は知っていて、ドラマは何となく熱くなった目頭をごしごしと擦った。
悲しくも無いのに涙が出るのは、どうしてだろう?
●モテるんだろうな多分
「華やかな場は苦手なので月でも眺めていようかと思いましたが……」
「ふむ?」
「貴方に逢えたとあらば、『日向』に顔を出した甲斐もあったというもの。良い夜ですね」
案の定、人の多いのは嫌いなのか――月下の庭園で見知った、そして目当ての人物を見つけた無量は片目で自分に視線を向けた梅泉に悠然とした笑みを見せていた。
「どうも主等には余程の酔狂が多いと見える」
梅泉の言葉が明らかに複数を指しているのに苦笑した無量は「そう仰いますな」と軽やかにかわす。
「あの花見から幾月。ええ、様々な事がありました。
竜と対峙し、新天地を望み、そして、私は名前以外の記憶を取り戻し、己の過ちを認識した――」
眉をぴくりと動かした梅泉に無量は続けた。
「この様な話をしても仕方がない、それを分かってはいるのです。
しかし、言葉を覚えたての稚児の様に、今の感情をどう表現して良いのかも分からぬのです。
以前までならばこの様な事は考えもしなかった。自分でも変わったと思います。然し乍ら」
梅泉に歩み寄った無量は『まるで上目遣い』に彼を見る。
「私の命に指を掛けた者にこそ、今の私を知っていて欲しい――そう思わずにはいられないのです」
そこまで言って。やや自嘲気味に冗句めかして彼女は続ける。
「詰まらぬ女になったとお思いですか? こんな質問まるで手弱女の様ではないですか――」
梅泉は「いや?」と半眼のままごく小さく首を振る。
「わしはな。男女問わず詰まらぬ者は嫌いじゃが――」
言葉に迷った彼は逡巡の後、ようやく言う。
「――今も昔も。主等は『想い』が力になるのじゃろう?
その質に、その内実に限らず。変化する歩みの中でその邪剣切っ先を磨くのじゃろう?
わしはそれを理解はせぬがな。そうして『なまくら』を研ぐなら、歓迎こそすれ軽侮なぞするものかよ」
「非道い方」と無量は実に華やかに笑う。
「そう褒めるな」
「今のは掛け言葉です。理由はもうひとつ」
首を傾げる梅泉に無量は言った。
「私はこれで。余り長居をしては公平を失するというものですから」
梅泉の背後に視線を投げた無量が踵を返せば、出るに出られなかったサクラは「うぐ」と何とも面白い顔をした。
「……センセーってさ……」
「うん?」
「……………実はモテるの? 女の子好きなの?」
拗ねたような声色で唇を尖らせ、ジト目を向けるサクラに梅泉は心底から「阿呆か」と呟いた。
「い、いや。それはいいんだ。いい。
こんばんはセンセー。いつかを思い出す夜だね!」
ものすっごく呆れられた反応に顔を赤くしたサクラは咳払いをして場を何とか整えた。
「はて、何時の事か。主とは会う機会もそう少なくない故なぁ」
「うっわ、意地悪!」
梅泉に対するサクラは『普段と違う顔』が出やすくなる。
しかしながら抗議めいた言葉さえ、実に弾んでいるのはまぁ――『そういうもの』と呼ぶ他あるまい。
「でも、いつもは切った張ったの仲だけど、こんな夜くらいはいつもと違っても良いよね?
私先月誕生日だったんだ。ちょっと遅めの誕生日プレゼントと思って付き合ってよ」
「……何と?」
「だから、付き合ってよ。今日は舞踏会なんだよ?」
『右手』を差し出したサクラに幾ばくか梅泉が面食らった。
彼の人生においてもそれを要求された事は実際ない。
いやさ、当然だ。彼は死牡丹。月下の魔人。夢と現に神仏さえも斬り捨てる剣夜叉、羅刹。最もそんな仕草の似合わない男の一人なのだから――
「こんなに月が綺麗なんだから」
月の光を浴びてくるりと一回転したサクラは「ふふ」と微笑み自分から『勝手に』梅泉の手を取った。
「寄り添った夜があっても良いと思わない?
いつか斬って斬られて、きっと別れる私達だけど――」
これは三周年の夜の夢。そんな特別が見せる刹那の幻。
冗句めいたサクラの表情は高揚と逆の悔しさのようなものも混ざっていた。
――これは私の初恋だから。
成否
成功
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
三周年記念ラリー。
ラリーなので比較的自由にプレイングを掛けられます。
以下詳細。
●依頼達成条件
・三周年の夜を楽しむ
●舞台
幻想の首都メフ・メフィートの中心地、フォルデルマンの宮殿です。
宮殿は広くイレギュラーズは怒られない程度に概ね自由に振る舞う事が出来ます。
イレギュラーズは『そういうもの』なので最低限のマナーがあればフォーマルさは余り意識しなくていいです。
もめごとだけは絶対に厳禁です。世界大戦になってしまいます。
今回のメインステージは二種類。
・大晩餐会
・舞踏会
その他、見事な庭園や一休みするテラス等、ありそうなものはあります。(書庫等、過去のシナリオで登場した宮殿施設もあります)
●NPC
各国首脳や公式NPC、YAMIDEITEIの担当NPC等はざんげと敵系を除きすべています。
プレイングで触れられなければ特に登場しない場合が多いです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●重要な備考
全員登場・描写等はしないと思います(基本的に本当に)
以上、宜しければ三周年の夜をお楽しみくださいませ!
Tweet