シナリオ詳細
Islands Consecration
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●
ざらりと音を立てる靴底の裏。
春の風が生温く頬をなで続けている。
イレギュラーズは絶望の青に浮かぶ孤島アクエリアの大地を踏みしめている。
事の始まりは絶望の青を突破せんとする海洋王国の大号令であった。
国力の低い海洋にとって、外洋の果て新天地(ネオ・フロンティア)への到達は国家的悲願である。
災厄は次々と絶望の青を航海する者を襲ってくる。
急激に変化する気候と波、悪意を持つかのように船を追う局地嵐『サプライズ』、狂王種(ブルータイラント)と呼ばれる凶悪な魔物、そして廃滅病(アルバニア・シンドローム)――
そうした中、イレギュラーズと海洋王国軍は、魔種、狂王種を退け過酷な航海の中で新島を発見した。
アクエリアと仮称されたその陸地は、これまでの橋頭堡よりずっと遠く、また大きい島である。
一行はミロワールを初めとする数々の魔種、海洋王国最強艦隊を率いるトルタ・デ・アセイテ提督の裏切りを切り抜け、新島アクエリアの大地を踏むに至ったのだった。
女王イザベラはこのアクエリアを確固たる橋頭堡とするために『完全制圧』を決断していた。
アクエリアに巣くう狂王種を全て排除し、海軍の基地を建造し、コン=モスカの秘術を島全体へと展開するものである。
全軍をアクエリアへと集結可能とし、徹底的な『聖域化』によって狂王種を完全に排除することで、島内の安全を確保するのだ。
それはアルバニアが出てこないのであれば、絶望の青の果てへの強行突破すら辞さぬという海洋王国の決断であった。
●
集まったイレギュラーズはコン=モスカの司祭から、とある説明を受けている。
「つまりこの島の霊脈に祠を作るため、我々はいくらかの作業を行う必要があるのです」
目的は狂王種が嫌うとされる結界の設置。そしてコン=モスカ領のグラニィタ=カフェ=コレットへ情報を伝達する機構の作成である。
やらねばならない事を大別すれば二つ。一つは祠の建造。もう一つは儀式であるのだ。
島内の安全が確保出来れば、海洋王国はより大規模な行動が可能となる。
たとえば――これは平行して行われるが――黄金の果実の捜索だ。
以前に制圧したセントディンブラ島の近海へサルベージを敢行したメリルナート家は、遺品の手記等からいくらかの重大な発見に至っていた。
様々な情報を検証した結果として『キャプテン・ドレイクが生存している』であろうことへ、『黄金の果実』の存在が結びつけられつつあるのだ。
あくまで伝承上の存在だが、黄金の果実は強い生命の力を持っているとされる霊果だ。
仮にドレイクが絶望の青の奥で手に入れたのであれば、このアクエリアに眠っていても不思議ではない。
「それで、具体的には何をすればいいの?」
司祭へ問うたのは『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)であった。
祠の建造や儀式といっても、イレギュラーズの多くにとっては専門外に過ぎる。
「ご安心下さい。皆様には霊脈の調査を行って頂きます」
司祭はそう言うと、ペンデュラムを取り出す。
島にはいくつかのポイントがあり、既にある程度の目星がついていると言う。
イレギュラーズは各地に赴き、実際に調査をすることになるようだ。
島内は前人未踏の大自然であり、危険も伴う作業である。
狂王種に対しては海軍とイレギュラーズが別途掃討作戦を行っているが、小規模な戦闘も予想される。
「こちらが各ポイントのおおまかな地図です」
なるほど。簡単な地形が割り出されている訳か。
「それではよろしくお願いします」
やってやろうじゃないか。
- Islands Consecration完了
- GM名pipi
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年04月12日 22時12分
- 章数1章
- 総採用数57人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
沖に停泊した船舶からボートへ。
近く作らねばならない訳だが、さておき。
浜を踏みしめた『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)は、早速森林地帯に足を運んでいる。
なんだかミスマッチな気もするとは彼女自身の弁だが、はてさて。
(やっとここまで来たんだし、なんとか早いことアルバニア引っ張り出したいね)
急いては事をなんとらや――気は焦るが、セリアは一歩一歩を確実に進む事を誓って。
「黄金の果実……そのようなものが存在するのでしょうか」
だがあれば廃滅病に有効そうだと『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)。
「あってもらわなきゃ、困ります」
応じた『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)の決意は固い。
アクエリアでは狂王種の殲滅作戦や建造等が急ピッチで進み始めている。
こちら探索班ではのんびりとピクニックという向きもあったが――
(そんな事してられるわけないじゃない……!)
リア自身に廃滅の呪いが進行している以上、悠長には出来ない切迫した事情というものがあった。
廃滅病を治す手段、そのために引きずり出すべき冠位魔種アルバニアの手がかり――欲しい情報だらけではあれど、なにはともあれ何らかの手がかりだけでも掴みたいのだから。
霊脈の中心を示すというエルダー・ペンデュラムを掲げ、セリアは先頭を進んでいる。
このアクエリア島から狂王種を完全に排除して、島を制圧するのが当面の目標である。
絡まり合う蔦を避け、自然の声に耳を傾けながら慎重に、慎重に。
「しーっ……」
感情の旋律――クオリアに耳を傾けていたリアの静かな警告。
セリアが語りかけるソテツも、また事態の急を告げていた。
大きな羽音の方向を視線で射抜き、五感を研ぎ澄ませた沙月が優美に構えて――
羽音が近づき、風が木々を揺らした。枝葉のスキマから極彩色の翼が覗き、上空を過ぎる。
突如――突風が吹き付ける。旋回した。気付かれたか。
セリアは強運を纏い、来るならばここで墜とさねばならない。
十秒か、二十秒か、やけにたっぷりと感じられた緊張の後に、羽音は遠くへ去って行く。
安堵の溜息を吐いたのは誰か。
ともあれ狂王種はゼニガタの部隊がどうにかしてくれるだろう。先へ進まねばならない。
「ここ左右に振れるみたいだね」
ふとセリアの呟き。
「なら私達が左へ行こうか」
「そうだね。足場が悪そうだから」
頷き遭った『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)と 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の視線の先では、巨大な根が複雑に絡まり蔦に覆われていた。
共にジェットパックと飛行を有しており、こうした地形に強い。
ペンデュラムが導く方向へふわりと飛び立ち、二人は平らな大岩の上に降り立った。
「さすがに結構大変だな」
「ふふっ、確かに。けどまるで宝探しだね」
「違いない」
マルベートは霊脈の発見も使命だと考えるが――興味があるのは黄金の果実、その味だ。
運良くみつけられたら「味見くらいは……」などとも思え。
「大層なものなら、それこそ霊脈の近くにはないかね」
「あー、言えてる」
それにしても広い島だ。絶海の孤島とは云え森に湖に渓谷に。こうして一望すると良く分かる。
ここが絶望の青でさえなければ、のんびりするのも良いだろうが――
甲高い鳴き声。
俄な緊張に頷き遭ったラダとマルベートは、得物を抜き放つ。小型の狂王種だ。
ダチョウのように見えるが、棘と禍々しい角を有している。
ラダの瀟洒で古めかしいライフルから放たれた弾丸の嵐は狂王種を五月雨の如く撃ち貫き――
権能を解き放ったマルベートは因果律をねじ曲げ、足を滑らせた狂王種の身を強固な枝が貫いた。
「これでとどめ――」
牙を突き立てたマルベートは命を喰らい――これはワインでも持ってくれば良かったろうか。
成否
成功
第1章 第2節
「お弁当、ヨシ! 飲み物、ヨシ! いざ、出発!」
指差し胸を張る『魔法騎士』セララ(p3p000273)。本日は山の気分。
最近海ばかりだったからハイキングだと意気込んで。
「おれさまは山賊だぜえ、山の事は任せておきな」
腰に手を当てた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が豪快に笑う。
森林地帯から方向を変えた一行は、切り立った岩場へと向かっていた。
「霊脈かあ、元の世界でならそういう世界の力の流れみたいなものも感じられたんだけど……」
目を閉じた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が首を振る。
「やっぱりよくわからないや」
「山の一番高い所とか怪しそうだよね」
「頂上(テッペン)に祠があっても、滝の裏に洞窟があってもいいよな」
そこらに転がってる巨大な岩さえ、注連縄でも巻いたら神秘的に見えそうだ。
「浪漫感じるだろ? その霊脈てのが見つからねえなら作りゃあいいのよ!」
顔を見合わせる一同に。
「……いや嘘だって。ハイハイ、真面目に探してやるとするかあ」
「あっ、そうだ! そういう不思議な力の強い場所ならちゃんとお話が出来る精霊さんとかもいるかも」
「冴えてるな、嬢ちゃん」
「見つけられたら聞いてみるよ」
セララと焔のペンデュラムが指し示すのは山の頂のようだ。
そんな訳で「レッツゴー!」と、セララは靴に可愛らしい光の翼を顕現させて。
木の枝を掴んだ焔は、岩を蹴りつけくるりとその身を木の枝の上に立たせる。
「よく見えるね」
振り子の向き先は、未だ山の頂にあって――
「ここはずれるな」
「もう一カ所あるかもね」
大岩に登ったグドルフのペンデュラムは山頂とは別の方向にも振れている。
とは言え、そちらに行くには少々足場が悪い。
「お困りでしょうか?」
ならば『働き人』アンジェラ(p3p007241)は――
こんなこともあろうかと! 川に手頃な橋(※自分の背中)を渡しておいたり。
こんなこともあろうかと! 崖に手頃な梯子(※自分の肩)をかけておいたりするのです
「まてまて嬢ちゃん、潰れちまうだろうがよ」
「雑に扱った程度で壊れる事はありません」
「って、おいおい」
「それじゃボクがロープを渡すから、キミはそっちを結んで」
「かしこまりました」
一行は岩と岩にロープを通して、大岩の上に立つ。
「むむっ」
大空を近づいてくるのは――狂王種か。
「みんな!」
「先にあれを片付けようか!」
得物を抜き放った一行の前に現れたのは極彩色の翼とねじれた鉤爪を持つ異形の巨鳥だ。
準備は万端。セララ・アイは何でもお見通しなのだ。
セララは可愛らしく煌めく剣と盾、焔はカグツチ天火を構えて。
「……なんだおめえ、ウゼエ鳥だな、食っちまうぞこの野郎!」
無骨な斧を振り上げたグドルフが咆哮する。
「正義の一撃を受けてみろ! ギガセララブレイク!」
剣光一閃――イレギュラーズの猛攻は僅かな間に巨鳥を屠った。
「いいかんじだね!」
この大冒険は後でマンガにしてもいいとセララは頷いて。
「これは絶対売れるよ!」
一行はペンデュラムが導くまま、二手に分かれる事にした。
「んじゃこっちはあの滝を目指そうぜ」
「足場にでも撒き餌にでも、なんでもお使い下さい」
淡々と告げるアンジェラに、なんだか放っておけなかったグドルフは口をすぼめて頭を掻いたのだった。
成否
成功
第1章 第3節
「それではお気を付けて」
大きな湖の畔では、モスカの司祭が道具の点検をしていた。
「御苦労様。万事うまく、宜しくね」
って、『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)は首を傾げる。
(って、僕のことわかるのかな)
「わかる?」
「存じておりますとも、カタラァナ様!」
「そう?」
カタラァナとしてはモスカの皆のことはよく分からないのだが。ともあれ。
「結界、しっかり張ろうね」
「はい!」
湖の周りに集った一行は『湖畔』『水面』『水中』に別れて捜索を開始した。
「短剣って聞くとワクワクしちゃうね」
ころころと可愛らしく『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が微笑む。
せっかくだから気になる所にも行ってみようと水辺を歩く。
石に足をすべらせないよう慎重に、澄んだ冷たい水がくるぶしをくすぐった。
ペンデュラムの指し示す方向は泉の中心と川のほうで、スティアは川を選ぶ。
霊脈探しの作戦は謂わばしらみつぶしの総当たりだ。
あればあった、なければないで、共に成果となる。地図を埋めることこそ最大の戦果なのだ。
「数珠の次は……ペンデュラムにお願いをするのですね」
ペンデュラムを掲げた『珠々祈り』セレネ(p3p002267はあなたが頼りです、と。優しい願いを込めて。
返事が返る訳もないけれど、ひとときの相棒にはしっかりとご挨拶なのだ。
霊脈も黄金の果実も、人の想いが力になるのであればきっと見つかる筈だから。
「よいしょ!」
「わあ……」
湖畔の岩場に登ればそこは絶景であった。
陽光にきらめく透き通った南国の湖は――けれどセレネの胸に『生き物の少なさ』をちりちりと刻む。
「少し休憩でもしたいね」
スティアの提案に、セレネもまた頷いて。
だが風雲急を告げるのは――吹き付ける風と巨大な影であった。
けたたましい奇声を上げて、錆びた銅のように鮮やかな巨鳥が急降下してくるではないか。
「ああ、ならばまずはあの鳥を」
湖畔の鬱蒼とした茂みを、音を頼りに調べていたカタラァナが両手を広げる。
響かせるのは、波濤を招く深淵の歌声。
「今は、あなたのお相手をしている暇はないのです! 邪魔をしないでください!」
愛らしい瞳を凛と結びセレネが短剣――漣のナイフを構える。
踵が岩に亀裂を走らせる程の衝撃に、セレネは歯を食いしばる。
「援護は任せて!」
スティアは魔道器セラフィムを掲げ、舞い踊る光の羽根が狂王種の身を引き裂き清浄の炎が吹き上がる。
いくらかの時間の後、三名は狂王種を仕留めるに至った。
最前線を張り続け、巨大な盾を置きぽてんとへたり込んだセレネの元に届けられたのは吉報だ。
「ここにあったね」
くるくると回るカタラァナのペンデュラムが指し示すのは泉と川と交わる中州、その茂みの中だった。
「わあ」「霊脈! やったー!」
セレネがふわりと微笑み、スティアが瞳を輝かせる。
「響かせよう、とどけよう。誰だっけ、ええと……グラニィタ?」
ボクは名前も知らないけれど――その人のところへ届かせるために。
成否
成功
第1章 第4節
「視界が悪くて危険だ、俺が先を歩く。離れずについてくるんだぞ」
「ああ、頼む」
連れ立って進む『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と 『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)の真剣な眼差しが険しい森を見据えて。
霊脈と黄金の果実の行方は――仲間の為のみならず、今や自身と伴侶の為でもあった。
リゲルの身を蝕み始めた廃滅の呪いは、冠位魔種アルバニアを打倒せねば終わることがない。
だからポテトは必勝を誓ったのだ。これから先も、ずっと歩いてゆくために――
銀の剣で蔦を切り払い、二人は鬱蒼とした密林を進んでいた。
もっぱら狂王種の警戒にあたっているリゲルの隣で、ポテトはじっとペンデュラムの動きを追っている。
「滑るな」
「大丈夫か?」
ならば手を取り合う。濡れた岩を渡りきり、二人は一息ついて
「リゲル、こっちのようだ」
「今度はあの岩が邪魔だな」
「そっちから回り込めないか?」
「ありがとう!」
ポテトの指さす先は崖のようになっている。蔦を切れば回り込めそうだ。
崖の下には小岩が転がっている。落石の恐れがあるだろう。
「ちょっと俺に捕まって」
「あ、ああ……ありがとうリゲル」
リゲルはマントを広げて、その身でポテトを守りながら崖の下を進んでいく。
「もう大丈夫だろう」
落石は――だが問題は突如眼前に現れた陸生の鳥にある。
「よし! 行こう!」
「背中は私が守るから、前は任せた!」
リゲルとポテトは視線を交わす。
襲いかかってきた身の丈ほどの狂王種との激突が始まった。
白銀の剣光が閃き、鋭い嘴が迫る。
「はじくなリゲル、かわすんだ!」
ポテトの直感――クェーサーアナライズに応じたリゲルがどす黒い唾液を紙一重でかわす。
唾液がふりかかった木の根が煙を上げた。
大気を切り裂き駆け抜ける剣。返すリゲルの断罪の斬刃が狂王種の首元を捉えた。
二人の絆に敗北などあろう筈もなく――
イレギュラーズはいくつかの部隊に散開して森を進んでいる。
「ぴ・く・に・っ・く、だよ! 頑張って、お宝ゲットだぜ!」
「えーと? ペンデュラムを使って霊脈を探しにいけば良いんでしたよね?」
意気込む『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)のスカートが風に揺れ、『砲撃用意!』ヨハン=レーム(p3p001117)はつい視線を逸らした。
「茶屋ヶさ……む、むずかしい。秋奈さんって呼ばせてもらいますねっ……!」
「その、私こういうのはじめてだから、よろしくね」
↑ ここまで初々しい美少女。
「よはんくんにはなんか、地図とかペンデュラム? は、難しそうだから任せるね!!!」
↑ あっ!
地図を広げながらマークをつけて、ヨハンはペンデュラムを頼りに道なき道を進んでゆく。
まるで探検家にでもなったような気分だが。違いは――巨鳥が獰猛に首を振る――この手合いだ。
狂王種が羽ばたいた瞬間、無数の羽が刃となり横薙ぎに襲いかかる。
「今です!」
だが無数の刃は大盾を構えたヨハンを傷つけるに能わず。
ヨハンの後ろで二刀を抜き放った秋奈は、暴風が消え去ると同時に刃を閃かせた。
光が走った。そうとしか形容出来ぬ瞬撃に、狂王種の身は横一文字に切り裂かれ、一気に燃え上がる。
こうして――
現れた狂王種もなんのその。秋奈達は鼻歌交じりに進むのだ。
蔦をズバズバっと切り裂いて進む二人もそろそろ小腹が空いてきた頃合い。
「お弁当、食べます?」
巨木に背を預けて、ここならば安全そうだ。
って。
秋奈、食べ始めているじゃん。
そんな二人が目にした岩山を向こう側では。
「霊脈って何だろうね、エスト知ってる?
それよりもボク、ピクニックみたいで楽しいな」
「うーんと。水脈みたいなもの、かな? うん。僕も楽しい。ソアと一緒に森を歩くの、久々だね」
元気いっぱいな『雷虎』ソア(p3p007025)と共に歩く『賦活』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)が答えた。邪魔な蔦を切り、転びそうな場所は手を繋いで。
重要な使命こそあれど、やらねばならないことは、ちょっとしたピクニックでもあるのだ。
そっとたらしたペンデュラムの導く先を見据えて。
「えっへん、森の声を聞いちゃうぞ」
ここは危険な島ではあれど、さすがに船の上は飽き飽きだ。前人未踏の大自然のただ中は、心も躍る。
草木や僅かばかりの動物、空からの情報や精霊の声を聞きながら、二人は森の奥地を目指して。
「あっ!」
精霊や草木の声に導かれるままに進んでゆけば、ペンデュラムがくるくると回り出す。霊脈だ。
「ソアもお疲れ様。たくさん頑張ったね」
お座りして袖をひっぱるソア。
撫でてほしいサインにエストレーリャは目一杯撫でて褒めてあげた。
満面の笑みを浮かべるソアに、エストレーリャも心の重みが晴れて往くような気がして――
成否
成功
第1章 第5節
中央の湖では、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)達が湖面を見つめている。
ここはイリスにとって、父エルネストと共に思わぬサバイバルを強いられた因縁の島だ。
(私も生き残るのに必死だったわけで、探索とか全然できなかったのよね……)
そもそも島自体が広いのだが、ともあれ水場が得意なフィールドであるには違いない。
やはりペンデュラムは水の中を指しているようだ。
「なければ嘘というものじゃ。さっそく潜るとするかの」
「そうね」
「行こ」
ぐっと背を伸ばした『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)に、イリスと『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が応じる。
ひんやりとした水に足先を付けて一息に潜る。目はすぐに慣れた。緩やかな流れに髪が揺蕩っている。
尤もココロは塩気のない水に潜るのはあまり好きではないのだが――さておき。
近づいてきた魚に挨拶一つ、ココロはすいすいと一気に湖底まで潜っていく。
差し込む柔らかな陽光は地上とは違った表情を見せ、ココロは『水中で息が出来ない人達は損してる』なんて思ったりもするのだ。
とんと湖底に足先をつけ、イリスはあたりを見回した。
こういう湖は得てして地下水が流れ込む場所や、洞窟となる横穴などがあるのだが。
しかしペンデュラムが揺れる、揺れる。
横を見ればココロはそれを手でそっと覆い、目配せしてくれた。
三名は頷き合い、各々ペンデュラムを手で覆いながらゆっくりと泳いでゆく。
果たして――
イリスやデイジーの推測通りそこには大穴が覗いていた。
狂王種とでも遭遇すれば大事だ。ひとまずは三名で横穴を泳いで。
(枝分かれでもしていたら厄介ね)
イリスの心配は尤もである。さて、どうなるか。
横穴をしばし泳いだ先は空洞になっていた。
辺りには剥き出しの水晶が生えており、なにやら荘厳な気配を放っているではないか。
「探検気分ね」
「そうだね」
警戒していた狂王種の姿はなく、三名は胸をなで下ろし。
水晶の回廊をひたひたと進んでゆく。
すると。
「宝箱でもあれば面白かろうがの。ともあれここで正解のようじゃな」
水もしたたる良いデイジーが胸を張った。
掲げたペンデュラムは、まさにくるくると円を描いているのだった。
地上へ知らせる紐を水晶にくくりつけ、ひとまず地図をマークする。
まずはほっと一息。
なにか探検でも出来ないものだろうか――
成否
成功
第1章 第6節
そんな湖の畔。森の中を散策しているのは『君に幸あれ』アイラ(p3p006523)と『君に幸あれ』ラピス(p3p007373)である。
(ねえ、ラピス……少し、怖いね)
薄暗い密林は、なんだか肌が冷えるような心地がして。
手を繋いだまま、そんな風に心の中で語りかければ、ぎゅっと握り替えされて。
しっとりと暖かな体温が伝わってくるから。
――キミの手が、離せそうにない。
やはり絶海の孤島だけあって、前人未踏の森は鬱蒼としている。
時折聞こえる鳥類の声は不気味な絶叫にも似て、心中穏やかには居られそうにないが。
寄り添う二人は、この戦いを乗り越える決意を固めている。
アイラはペンデュラムの導きをラピス伝えて。
ラピスは美しい破魔の盾を絡まる蔦に押しつけて――これで渡れそうだ。
「――ッ!」
襲撃は突然に。
襲い来る鋭い羽はじき返したラピスは、即座にアイラを下がらせる。
絶対に傷つけさせない。
ラピスが盾、アイラが矛。その力を互いに信じて――
時計の秒針が一巡する程度の僅かな時間を過ぎて。
幾度かの攻防の後に放たれた魔力の奔流が、小型の狂王種へのとどめとなった。
「アイラ、怪我は無いかい?」
「ありがとう、ラピス。ボクは平気です」
君に怪我が無いのが一番だから……って。
やわらかな微笑みに応じたアイラは、けれど少し不機嫌そうに。
だってそれよりも、ラピスの怪我が心配で――ボク、怒ってるんですからね!
ああ、怒らないで。
大丈夫だから、ね?
――祠を建てるには。どんな場所が良いのだろうか。
腰に手を当てた『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は考え込む。
それにしても島全体に秘術を施すことが出来るとは、コン=モスカの一族はすごいものだ。
ペンデュラムの導くままに探せば良いというのも、分かりやすくて良い。
問題は――
じと目のままペンデュラムを見つめる『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)の耳が動いている。
(もってると、ぐるぐる回したくなるってだけだね……)
さもありなん。
道中で鉢合わせしたチャロロ、コゼット、『ディザスター』天之空・ミーナ(p3p005003)、『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)の四名は、ペンデュラムを頼りに森の奥深くまで歩みを進めていた。
まあ、ペンデュラムが同じ方向を指すこともある以上は、こんなこともあろう。
音を警戒して早期に情報を共有する愛無に、いざ現れた敵を華麗に引き付けて放さないコゼット。
そして戦いの音を聞きつけ参戦したチャロロとミーナによる即興の部隊は、思いのほかバランスが良い。
瞬く間のうちに狂王種を撃破した四名は、一際大きな木の元にたどり着いていた。
最早ここは、かなりの奥地である。ただ戻るだけでも多少の危険とてあろう。
「樹木と言えば、気になるのは黄金の果実だ」
愛無の言葉通り、この島の探索で副次的な効果として期待されているのが、黄金の果実の入手であった。
伝承では不老長寿の霊薬とも言われ、この致死の海において伝説の海賊ドレイクと邂逅した以上は、その存在を信じない訳にはいかない。
「何か条件があれば、分析したい所だな」
愛無が述べる『共通点への探り』は、ロジカルな解法に向いている。
黄金の果実を見つけたならば、岩や水、日光などの周辺環境、動植物が生息する分布を調べる。
共通点が発見出来たならば、それを共有したいのだ。
仮に発見出来なくとも。すくなくとも別の解法が向いていることが理解出来るのだから、それでも良い。
「たしかにねー」
その言葉は一同の納得する所。
愛無の提案と作戦は、この後すぐに共有されることになるが、今はさておくことにして。
ならばあるとすればどこか。野生動物や狂王種が寄りつかぬ目立たぬ場所か。それとも強力な狂王種は摂取でもしているのだろうか。はてさて。
「ここみたいだ!」
チャロロが手にしたペンデュラムがくるくると回っている。
ひとまず見つかったのは霊脈のほうであった。
「――っ!」
すかさずコゼットも近寄ると、くるくるくる。ちょっと感動的だ。
「あとは。ま、効果の程はわからんが……ないよりはマシだろ」
一応ミーナのほうでは、薬草や何かも採取して運ぶようにはしている。
「何か目印はつけられるかな?」
チャロロは地図にマークを付けて道のりを記載してみが。ロープでも切って枝にも結んでみようか。
さて後は次の霊脈を目指すか。それとも果実の探索でもしてみるか。
成否
成功
第1章 第7節
こちらは島の北部である。
鬱蒼とした森林地帯は昏く、春の陽光は僅かでしかない。
だが視界が悪くても、足場が悪くても。『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は森と共に生きる幻想種。
森は自身を守ってくれる同胞なのだと胸を張る。
「実なんですから当然森の中にありますよねー、木を隠せばなんとやら」
飄々と述べた『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)もまた、北部の森林地帯へ足を踏み入れていた。
さすがに物騒な所でバカンス感覚とまではいかないが、強力な個体の掃討にはゼニガタの部隊があたっている以上は、さほどの敵は現れまいと利香は推測している。肩に力を入れすぎるのも良くないだろう。
一方の『腐女子(種族)』ローズ=ク=サレ(p3p008145)は腐女子である。
腐女子であるからにはディルク×レオンの俺様攻めとか、レオン×ディルクの俺様受けとかを妄想して平和に同人誌を読みあさり、書きまくるのが本懐。平和主義の腐女子(種族)の在り方なのだ。
美少女(種族)ではない。←出意屠(想い滲ませる二人が時間を共有する機会)申し込まれそうな発言。
だがこのままでは『男の人』が沢山命を失うことになる。そんなことは断じて許せるものか。
先頭を進む『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)の足取りは果敢に。
未知なる大地での冒険に胸を躍らせている。
鬼が出るか蛇が出るか。廃滅の呪いに蝕まれた残り僅かな命さえ燃やすように、突き進む。
恋人を振り切ってまで来たのだ。今更引き下がれるものか。
蛇と言えば『星さがし』夏川・初季(p3p007835)は、猫と蛇に先行させている。
「この島全てに結界を張るとなると、確かに全土の踏破が大切ですよね」
「そうだね」
ルフナは木々に問いかけ、初季は使い魔の視界や音を頼りに、そしてジェイクは五感を研ぎ澄ませてペンデュラムの導く先を目指していた。
巨大な葉は背も高く――見慣れない植生だ。ルフナの生まれ育った深緑とはずいぶんと様相が異なる。
「このあたりに居そうよ」
索敵を続けていたローズの言葉に緊張が走る。
果たして。
じりじりと森を進む中――
「来ます」
――初季が警戒を促した。猫の視界が捕えたのは。
「うわ……」
巨大な外骨格を纏う陸生のカニ――狂王種だ。虫ではないが、なんとなく眉をしかめるルフナ。
とは言え仲間が居たのが幸いだ。ここは支援に回ることにする。味方の力は頼ってナンボであろう。
「まぁ、こうなりますよね」
ひどい足場ではあるが、それならそれで策はある。
「というわけで行きますよチャーム!」
誘惑の魔眼を浴びた怪物は巨爪を振り上げ突進を始めた。
戦いにくいのであれば、こちらに呼び込めば良いという訳だ。
魔剣グラムを中段に構える利香の眼前に怪物が迫り――巨大な爪が豊かな胸元に迫る、刹那。
引き絞られた弓弦が如く、蠱惑の輝きと共に放たれた裂帛の突きが強固な甲羅を一撃で断ち割った。
素早く二歩下がった初季の詠唱――顕現した闇の爪がひび割れた甲羅をこじ開けるように引き裂いて。
それから僅か数十秒。
幾ばくかの攻防は、終始イレギュラーズの優位にありつづけた。
さて折角の殿方の勇姿――もう一人居て欲しいものだが、それはさておいて――ローズは進撃の御旗を狂王種の腹部に突き立てる。それもこれもボーイズラブを守るが為に。
「さあ、これで終わりだ!」
身体を大きく持ち上げた狂王種の腹に向け、ジェイクは二丁を交差させて撃ち抜いた。
食い込んだ弾丸は楔となり、怪物の身動きを微かに封じ――続く必殺の弾丸に、巨蟹の狂王種はその活動を永遠に停止させた。
「これで大丈夫だよ」
一行はルフナの癒やしを受けて、まずは人心地。
敵は小物ではあったが、さすが狂王種といった所だ。
初季が岩から立ち上がろうとした、その時。
「これは……」
岩陰に挟まっていたのは、歪な――けれど荘厳な輝きを宿した黄金の果実であったのだった。
成否
成功
第1章 第8節
一方、西南の方角。
決意を燃やすのは『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)と『味覚の探求者』ムー・シュルフ(p3p006473)。心に夢を求める者しかたどり着くことが出来ないという【Bar Phantom】の二人である。
幻とムーはしらみつぶしに狂王種を殲滅する気迫を見せていた。
既に数体の狂王種を打ち倒し、二人は尚も前身を続けている。
ムーの表情はどこか沈痛で。幻が『あの方』と別れて以来、その笑顔から悲しみが消えないのだから、痛ましさに胸が痛む。
「……こんなよぼよぼの老人に背を向けて逃げるなんて、恥を知れ!!!」
「僕の大切な方のために死んで頂けますか?」
ムーはその身を盾として狂王種の爪牙を凌ぎきり、幻の奇術が次々に敵を屠っていく。
幻と共に鮮やかに舞う蝶は、怪物共を死出へ誘う道行きの幻想か。
幾重にも傷を負い、魂すら枯れ果てんばかりの激闘の最中であろうとも。
壮絶とすら思える決意の中に燃え続けるのは、ただ一つ。
――あの方の為に――
強固な信念は不動。ただ一時も揺るぐことは決してあり得ないのだ。
そんな二人から、やや北の方。
「ペンデュラムを使って霊脈探し、ね」
西部の森林を探索する一行の中に、『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)の姿があった。
かつての世界でも未踏破を調査、探検していた利一。
ついには不法侵入者や害獣等との荒事が役割とはなっていたが、さておき。
「振り子を下げて、お宝探しの大冒険~♪」
「ピークニックピ―クニック~♪ あ、わたしこういうの得意かもです!」
楽しそうな『優しいカナ姉ちゃん』カナメ(p3p007960)と、運には自信のある『ハードラックとダンスなう』フィナ=フォルトゥナ(p3p008257)が楽しそうに後を続く。
尤もフィナの運は――かなりのハードラックと云うか、ハイ&ローを感じる訳でもあるが。
ともあれ利一の常識と照らし合わせて『未踏破地域』でやるべきことが『ペンデュラムでの霊脈探し』とは、それが実用的な技術である事そのものが刺激的にも感じられる。
元の世界ではまさしく『神頼み』としか言えない代物だったのだから。
「私が切り払うよ」
「じゃあこっちは任せて☆ ちょっきんするよ!」
剣で、ハサミで。
蔦を斬り、ぬかるみの前では足を止め、別のルートを模索しながら。一行は奥地へと足を進めている。
さて。一行の前に姿を見せたのは川だ。
幅は広くないが、そこそこの傾斜があり、流れも少々速い。足を取られれば大事だ。
「ロープがあるよ♪」
「楔とハンマーを使おう」
こんなこともあろうかと、カナメと利一が文明の利器を取り出した。
硬く重い岩の間に楔をこつこつと打ち込み、ロープの片側をほどけないよう結びつける。
「それなら私、飛び越えます!」
「行ける?」
「こういうのは、全然大丈夫です」
以前、森の中を何度もさ迷った事があるとはご愛敬。得た物が大きいのだから、それで良いのだ。
胸元で拳を握るフィナは、足元の様子を確かめる。
この石は濡れて居らず、滑らないだろう。助走はあそこから――
いくらか周辺の状況を確認したフィナは、勢いよく川の上へと跳び上がる。
僅かな時間。
二人が固唾をのんで見守る中で、無事対岸に着地したフィナは両手でバランスを取って振り返った。
「こっちはここに打って結びますね!」
「了解!」
徐々に徐々に。地図がマークで埋まり、未踏のポイントが拓かれてゆく。
「やったー!☆」
「見つけたね」
清らかな水が湧き出る小さな泉の真上で、ペンデュラムがくるくると回っているではないか。
こうしていると、まるでピクニックのようで。
次もこのまま楽しく行こうと誓って。
成否
成功
第1章 第9節
珍しいものを手に入れたらアルテナに見せると約束した『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)がすいすいと飛ぶのは険しい山道だ。こういうお出かけは約束すると帰ってきやすいとは経験則だが――
いいんだ。フラグなんて知らない!
時折ペンデュラムを確認して、導くほうへ。地図を書き足し、ポイントをマークして。
「たーんけーん。たーんけーん。大自然の探険には鶏が付き物よね!」
こけこっこーと一つ鳴いた『飛んだにわとり』トリーネ=セイントバード(p3p000957)。
彼女もまた、史之が飛ぶ下の岩場を軽快に進んでいる。
水筒をかけて、いざジャンプ!
とは言え軽快な足取りや飛行のメリットは足場げの強さ、デメリットは目立つには目立つこと。
これも予想通りとは云え、空を飛ぶ狂王種がみるみる迫ってくる。
「焼き鳥が手土産ってのもいいかもな」
「コケッ!?」
「ごめん、違うんだ」
「びっくりしたわよ、もう!」
びくっと身を震わせたトリーネの前で、史之は祭神を降ろす。
宙を舞い赤光の障壁を叩き付け、身を切り裂く無数の羽が斥力に弾かればちばちと火花を散らした。
「ふんす! 届かないのだわ!」
「それじゃあこれで、お願いするよ!」
僅か一瞬だけ、自由落下に身を任せた史之が、狂王種に斥力を叩き付ける。
怪物は岩に叩き付けられる刹那、宙空で姿勢を整え――
「こけー!」
炸裂した鳥キックが狂王種を奈落へとたたき落とした。
さて。ペンデュラムの行方は。
「ここだね」
何かお土産でもあれば良いけれど――
一方でまた別の頂きにあって。
「ふー……」
「ずいぶん遠くまで来ましたね」
「そうですわね」
一息ついたのは『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)であった。
「成程、あれが鳥型の狂王種……見つからないように注意しないといけませんわね」
遠く向こうの山では、おそらく史之とトリーネが丁度勝利をおさめた所であった。
二人はペンデュラムと精霊の声に従い霊脈の在処を探しながら、険しい山道をずんずんと進む。
出来るだけ上空からは影になるルートを進んでいたためか、未だ狂王種とは出くわしていない。
「困りましたわね」
ヴァレーリヤがかざしたペンデュラムが示す方向は、残念ながら崖谷の向こうだ。
「今度はどっちかな?」
アリアは風の導きに尋ねてみる。迂回ルートがあるようだが、果たして――
「これはちょっとした大冒険ですわね」
「そうですね……ここ、でいいんだよね?」
風が示す答えは肯定。
たどり着いたのは谷と谷とが狭まった断崖だ。
幅は広くないが、下から強風が吹き付けている。
「こうなれば腹をくくるしかありませんわ! どっせぇーーーい!」
ヴァレーリヤとアリアは思い切って跳んだ。
足元で崩れ、谷底へ落ちていく小石に肝を冷やしながら、木の枝を掴んでどうにか着地。
進んだ先には、風に削られた不思議な形の岩があるではないか。
「これですね……!」
ようやく見つけた成果である。さて、祝杯は何時あげよう。
成否
成功
第1章 第10節
ひとしきり森の探索を追えた『蛸髭 Jr.』プラック・クラケーン(p3p006804)は、島の中程に位置する湖までたどり着いていた。
ここは、北の畔か。
「あら、プラックさんですかー」
「ああ。どうも霊脈ってのは、この中らしいぜ」
「反応は強くなって参りましたものねー」
鉢合わせた『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)のペンデュラムもまた、想像していたよりもずっと強い力で引いている。
日は徐々に傾き、辺りは宵に至る直前の仄暗い表情を見せ始めていた。
プラックは思う。霊脈ということはそこに死兆を治す手立てがあるかもしれない。
それに噂の黄金の果実とやらも――
「ひいふうみい、けっこう居るな。頼もしいぜ」
集まった仲間達の顔ぶれを見ながら、プラックは自身の思う所を語る。
おおよそそういう摩訶不思議なものは『守られている』か『脅威に囲まれている』と相場が決まっている。逆に妙に開けた場所や不自然な生き物にも注意を払うべきだ、と。
「なるほど。同感だ、我らも往くとしよう」
「ああ、そうしようぜ」
述べた『艦斬り』シグ・ローデッド(p3p000483)はその身を剣として『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)もまた、湖面を見据えていた。
「水中は我らの領域でもある。……共に行動するには、最適の場であるな?」
「ま、俺は吸血鬼だが根性で流水克服したからな。後は潜水用魔術でちょちょいのちょい、だ」
「さぁ、我が最愛の契約者よ。……剣を執り給え」
「往くぞ、シグ。俺らの歩みを妨げる者は全て斬り伏せる」
さながら愛を確かめ合うように、睦まじく。シグは剣と化したその身をレイチェルに握らせる。
辺りは徐々に暗くなり見通しも悪くなってきた。
だがシグやレイチェルにとっては何も問題とはならないだろう。
足を付け、湖の中へ。
一行の身を包む水は冷たく――
(親父を、仲間の皆を助ける為にも……
頼むぜエルダー・ペンデュラム、俺を霊脈のある場所に連れてってくれ……!)
プラックはその瞳を大きく開いて決意した。
――後は……見つかれば果実入手に如何なるリスクが伴おうと無理にでも入手する、絶対にだ。
ペンデュラムの導きに従って、進むは湖の中。
四人とはまた別の場所から泳いでいる『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)もまた、同様に。
水の中でも変わらず指し示すとは、なるほどこいつは便利なものだと感心する。
海洋王国に並々ならぬ想いを抱く十夜ではあるが、自身から積極的に前進するのは珍しい。
(じきに自由に泳げなくなっちまう身なんでな……)
その身を蝕む廃滅の呪いは、そのタイミリミットは刻一刻と迫っていたから――
(今の内に覚えておきてぇのさ)
更に二人――と呼んで良いものか、さておき。
「うきゅうきゅ。とりあえずペンデュラムの方に行けばいいっきゅね」
森のアザラシなのに――『守護の獣』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は思う。
今日はずいぶん『乗りかかった異邦人』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)のテンションが高いから。自身が冷製にならねばなるまいと溜息一つ。
今のレーさんは正に森海アザラシ。二人は敵に入念な注意を払いつつ、ゆっくりと泳いでいく。
(あれは……)
どうやら多くの仲間達が集まっているらしいが――
(狂王種っきゅ!)
それも群れだ。不可思議な腕と牙を持つ巨大な古代魚の群れがみるみる迫ってくるではないか。
レーゲンの合図にウェールが頷く。急ぎあちらの仲間にも知らせねばなるまい。
イレギュラーズ達はレーゲンの知らせによって、直ちに戦闘態勢に入った。
なるほど。絶望の青というやつは、こんな時まで邪魔をしにくるらしい。
(おいおい、この間散々遊んでやったんだ。今日くらいは休ませてくれや)
龍神之燈。十夜は死者の魂を無数の火の玉に変えて解き放つ。
古代魚達は一斉に醜悪な共食いの姿勢を見せ、凄まじい轟音と水圧、水の流れの中で一行は息をのむ。
これでやり過ごす事が出来れば良いが――そうは問屋が卸してくれないらしい。
渦の向こうから更に数体が突進してくるではないか。
(良かろう。……この焔で、塵と化すがいいぞ?)
レイチェルが手のひらから伝わる勝ち気な感情に、ああと頷いて。
毒の魔石と共に異想狂論『無影血鎖』を放つ。
鎖で穿たれ、毒に蝕まれた怪物は尚も迫り――
(やるしかない……か!)
ウェールは今正に牙を剥き、自身を人のみにしようと迫る怪物へ魔力の衝撃をたたき込む。
(行くっきゅ!)
レーゲンのMA・C――森アザラシクロスカッターが怪物の一体を寸断した。
(仕方ないですねー)
ユゥリアリアは水中に響き渡る美しき絶望の呪いを解き放ち。
(行くぜ――ブリッツボーイ・ガントレットォッ!)
水を蹴ったプラックは拳を引き絞り――弾ける程の水圧を纏い魚雷のようにたたき込まれた。
(このまま殲滅する)
(頼むぜ――俺もやる!)
水に溶け散るはずの血が水の中に魔陣を描き――古代魚の体内に炸裂した憤怒の炎が湖を血に染め――
レイチェルは赤い渦の中心へ、灼熱――異想狂論『偽・烈陽剣』を纏ったシグを突き入れた。
狂王種の群れを撃退した一行は一息つく間もなく、探索を再開する。
血の臭いがあるのは厄介だが、戻ったところで再び潜れば同じ危険があろう。
一行を振り返ったユゥリアリアは水草の群生地帯が気になっていた。
指で示した方向には、なるほど揺れる水草が生い茂っている。
近づいた一行は水中に鎮座する丸い大岩を発見するに至った。
なるほどこれが霊脈か。
だが――
一行が近づいた先、そこには歪な黄金の光が微かな残照を跳ね返していて。
これは、ああ――これが、かの黄金の果実というものか。
成否
成功
第1章 第11節
(歪な黄金の果実、か……)
従軍司祭から近況を聞いた『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が腰に手を当てる。
思い出すのは先日、船の上で相まみえたドレイクの顔であった。
(あいつも、過去に件の果実を手にしたと言うけれど)
歪でもなんでも、そこに繋がる手がかりがあるならば――
ともあれウィズィは森の中へと歩みを進める。
愛用の巨大なテーブルナイフで蔦を切り裂き、一路島の東部へ。
至極素直な理屈から、果実と云うからには森の中にありそうだと考えたのである。
足元のぬかるみは。
「あぶなっ」
上手く回避して。蛭など居たら嫌なものだから。
こうした辺りは冒険者である恋人から教えたたき込まれたものなのだ。
「宝探しをしているような気分になりますね」
鉢合わせたのは『アデニウム』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)。
「たしかにね」
捜索には黄金の果実も含まれるのだから、あながち間違いではなかろうとも思える。
「ん、猫?」
「わたしの使い魔だよぉ」
「そうでしたか!」
茂みの奥から現れた『特異運命座標』シルキィ(p3p008115)と。
「あらぁ。まあ同じ方向を指しているものねぇ」
首を傾げた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は――ああ、けれど。ほんのり髪先が染まっているのだが。これは。これは!
「袖振り合うも他生の縁、やね」
そう言って微笑んだ『涙ひとしずく』蜻蛉(p3p002599)であった。
しかしこんな占いのような事で、本当に見つかるのだろうかとも感じるが。
こんな時の”神頼み”って。妖である自身が神頼みという状況に、ついぞ微笑みが零れる。
ともかく「頼んますね……お前さん」
仲間と目配せした蜻蛉は、もう一度ペンデュラムを掲げる。
振れるのはやはり、このまま東の方向だ。
「行き止まりですね」
はたと考え込んだリュティスは、熱帯性の花に尋ねてみる。
「おそらくこちらだと思います」
恐らく回り込めそうだ。
「ちょっと先をみてもらうねぇ」
シルキィが猫を走らせる、が。
「あー、これは。まずいねぇ……」
「どうしました?」
「いる。思ったより素早いみたいだよぉ」
猫が視界の端に捕えた物。それは手足を得た魚のような怪物――狂王種であった。
「こういうのは急がば回れ。片付けてしまいましょう!」
「ええ。やり過ごすにしても追われては厄介です」
ナイフを担ぎ上げたウィズィに、リュティスもまた同意した。
猫を茂みに逃がしてやった直後、唾液をまき散らす怪物が一行の眼前へと躍り出た。
「遅いわよぉ?」
怪物が威嚇の咆哮を上げるよりも尚早く。銀の指輪を煌めかせたアーリアが艶やかに微笑む。
指先から放たれた極小の呪いは悪夢の魔弾となり、怪物の身を蝕んだ。
間髪など赦さない。シルキィの指先から煌めく、細く長い光がふわりと宙を舞い、刹那。顕現した凍てつく鎖が狂王種の身を強かに締め上げる。
十分な警戒を行っていたイレギュラーズの対応は迅速極まった。
「さぁ、Step on it!! 私達は通りますよ!」
片手だけを用いた、ただの一閃。
その瞬間の為の特別な技巧は存在しない、謂わば無形の打撃こそウィズィの真骨頂である。
僅か一撃でその身をバターのように切り裂かれた怪物は、あろうことか上空へ飛び跳ねた。
一行の頭上に大きな影を落として、大口を開けて牙を剥く怪物が、今正に迫らんとした時。
風切り音と共に舞い踊る無数の黒蝶が怪物を弾き飛ばした。
更なる二撃目を構えるリュティスと背を合わせ、蜻蛉はその両手の内に燃えさかる大扇を顕現させた。
「燃えてもええなら、寄っといでな……焼いてあげるわ」
それでも狂王種はきっと幸運だったに違いない。
艶やかな流し目が、最後に見た光景となったのだから――
戦いは終わり、誰かの溜息が聞こえた。
「ええ子やから、何か教えて頂戴」
蜻蛉が囁いたのは、見渡す限り最も樹齢の大きな木だった。
自然の声に導かれるままに、一行は歩みを進めて――
ついに見つけたのは、その樹皮がコケに覆われた大木であった。
ペンデュラムは間違いなく、この木を示している。
アーリアはおもむろにスキットルを取り出して煽る。
「素面よりいっそ一杯キメて探した方が直感が働くんじゃない? なんてね」
けれどその微笑みの奥、瞳はどこまでも真剣な色を湛えて。
友人が死の呪いを受けているのだ。飲まねばやってなどいられない。
「あーもう! どこにあるのよなんちゃらの果実!」
その声は、普段の彼女らしからぬ色合いを帯びていて。
「出てきなさいよーーー!! 」
黄金の果実は、果たしてどこにあるのか。見つけたら果実酒にしてやるのだ。絶対に。
ウィズィもまた、このまま探索を終わらせる気にはならなかった。
(少しでも広く歩を進める。私は立ち止まらない……!)
絶望の青の先。例え世界の果てまでたどり着いたとしても、その胸に宿った恋の炎は止まらないのだから。
成否
成功
第1章 第12節
(その手の"曰く付き"は、霊脈の集合地点に現れ易い――というのが私が居た世界でのセオリーだったが)
果たして、ここではどうか。
険しい山岳地帯を歩く『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は慎重に辺りを見回した。
仮にここが休火山の類いであれば、或いは寄生火山から岩脈を辿るのも一興であろうか。
ともあれここは前人未踏の地――汰磨羈は柄に指をあて――様々な可能性を考慮せねばなるまい。
「俺にとってはこういうところもヒョイっとな」
その頭上を飛ぶ『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)の羽音は軽やかに。
焼き鳥なんか囓りつつ、気分はハイキングである。
だってどのみちこのペンデュラムに頼るしかないのだから。
そんな二人から大岩を挟んだ向こう側では、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と 『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)が一歩、また一歩と歩みを進めていた。
「霊脈ってこんな風にして探すんだね」
なんだか少し面白い気がする。
とりあえず高い山を目指して進んでいた二人。形がかっこいいといった理由で目指した山ではあったが、姿を見え隠れさせながら徐々に近づいてきている。
飛んでいくより歩いてとはシラスの弁だが、空で狂王種とやり合うよりもこの方が良いという切実な点の他にも、何よりちょっとした冒険気分というのも大きかったりもした。
この未踏の島を高い所から一望したいではないか。
「見てよ!」
「反応が強くなったね!」
「行ってみよう!」
「ごーごー!」
この辺りにきてペンデュラムもはっきりとその方向を示し始めたのだから良かったのだろう。
どうせ占いのようなものなら、自身も一つやってみるかとカイトが風を読んだ、その時。
「お? なんか面白いことでも起きそうな予感?」
吹き付けた風の便りは、何やら予感を感じさせるものだった。
シラスとアレクシアの前に現れたのは一羽の狂王種であった。
「飛び回ってないでこっちにいらっしゃい!」
舞い上がる秋の毒花、その花びらが怪鳥の身を包み込む。
鶏冠のように燃え上がる極彩色の炎を纏った怪鳥は奇声を上げ、アレクシアの元に急降下して来た。
一撃、また一撃。次々に襲い来る嘴と鉤爪は、されどアレクシアは万全に凌ぎきり。
「へっ俺のこと忘れんなよ!」
懐に飛び込んだシラスの一撃――ハルピュイアの魔爪にその身を引き裂かれた。
「バッチリじゃない!?」
「だね!」
素晴らしい連携に、二人は思わず手を打ち合わせて。
戦場を駆け抜けながら、たどり着いたのは大岩の終着点。
鉢合わせたのは汰磨羈とカイトであった。
「ふむ――ならば私も参ろうじゃないか」
挨拶を交わす間もなく、四名は各々の得物を抜き放つ。
いずれも歴戦のイレギュラーズなれば、突然の戦闘にも手慣れたものだ。
「それじゃさっさと終わらせようぜ!」
舞い上がったカイトはその翼に爆炎を纏って、怪鳥を炎の嵐に包み込む。
続く二刀の閃き。
汰磨羈の斬撃に翼を失った怪鳥は、ついぞ崖を踏み外した。
こうして僅か数十秒の後、谷底に落ちていった怪鳥を尻目に、四名は一息つくことが出来たのである。
「やはりあれに目をつけたか」
「行って帰ったら、夜かな。まあ天気は大丈夫そうだぜ」
四人が見据えるのは、最も高い山である。
遂にたどり着いた最も高い頂きで、四人は更に仲間と合流することとなった訳だが、さておき。
得たものは何か。
一つは。霊脈であり。
そして手にして戻ったのは、歪な黄金の果実であったのだった。
成否
成功
GMコメント
pipiです。アクエリアの安全を確保しましょう。
遠足だ!
●シナリオ構成
こちらは一章限りのラリーシナリオです。
プレイングの受付は7日の朝8時までです。
●やること
島内各地へ赴き、貸与された『エルダー・ペンデュラム』を振り子のように掲げて反応を探ります。
最も強い力へとひっぱられるように振れ、到達するとくるくると回るようです。
これで霊脈を発見し、情報が伝えられたことになります。
どこに行くかはプレイングの一行目に記載して下さい。
特に記載のない場合は適当に配置されます。
誰かと組みたい場合は、プレイングの二行目にキャラクター名とID、あるいはグループタグを記載下さい。 グループタグは【ビール党】こういう感じです。
●ロケーション
島内における霊力の高い祠の建造予定地へ赴きます。
誰かと組みたい場合には、後述の【グループタグ】をご利用下さい。
いずれも小規模な戦闘が発生する可能性があります。
半分は地形対策や戦闘対策、半分はピクニック気分で行きましょう。
『山場』
険しく切り立った岩や渓谷、川の急流など足場周りの危険に対策しましょう。
出現が予測される魔物は、主に鳥型の狂王種です。
『湖』
水辺や湖の上、あるいは水中を探索して下さい。
出現が予測される魔物は、主に水棲型の狂王種です。
『森林』
視界が悪く、足場の他に蔦を切り開く、魔物の急襲などを対策しましょう。
出現が予測される魔物は、主に陸生の狂王種です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●重要
当ラリーシナリオでは極稀に『歪な黄金の果実』を手に入れられる可能性があります。
Tweet