PandoraPartyProject

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縺れる麻糸

「相変わらずですなあ」
 軽快な声音で笑いかけた紳士を一瞥してから「優等生ですもの」と鼻で笑ったのは絶世の美貌を宿した『タチの悪い』乙女であった。
 無骨な鉄のブーツは少女の柔肌には似合わない。だが、その無機質さがビスクドールのような美しさを強調しているのだろうか。
 彼女の配下となった者は彼女に心奪われる者も居るらしい。
 だが、この場に居る者は『そう』ではない。
 彼女が共に連れていた褐色の肌の少年は自身の命全てを賭しても良いほどに大切だった少女を救うために彼女の甘言に乗ったそうだ。
「リュシアンは馬鹿だから、何時だってジナイーダが元に戻れるって思ってるんすよ。
 センセーがやった非道な事は許せないけど、あたしはアレには協力できない。
 ……だって、人は死ねば戻らない」
 そう毒吐いたのは眠たげな猫に毛布を掛けていた空色の髪の少女だった。
「あら、そんなことを言わないであげて、ブルーベル。
 奴隷商から命辛々逃げて、抵抗する力をくれたご主人様が怠惰だからって、現状に胡座を書かなくっても宜しくってよ?」
「無駄な努力はしないタチなんで。
 あたしはだーいすきなご主人さまと一緒に寝ていりゃ、それでいい」
「『だから』?
 妖精郷にラサと繋がる道を与えたのは、彼女達は巻込まれただけの人間だからそうしたって事?
 ふふ、その道からイレギュラーズが入ってきて、貴女の素敵なご主人様を虐めたらどうなさるのかしら。
 それでも構わなくってよ。派手な方がオニーサマは喜ぶでしょうから玩具を仕込んでおいただけですもの、ねえ?」
 クスクスと笑う女に「悪役だわ」と聞こえぬように返した魔種ブルーベルは相手にしたくないとでも言う様に外方を向く。
 傍らで拗ねたように俯いていた魔種リュシアンは何も物言わぬ儘のようだ。
「リュシアンは良い子にしていれば『博士(さがしもの)』位は協力して差し上げてよ。
 ラサの時だってそうしてあげたでしょう?
 今回もオニーサマがご満足頂けるように舞台を掻き回せばご褒美位は……ねえ?」
 くい、と少年の顎を持ち上げて蠱惑的な笑みを浮かべる乙女――ルクレツィアにリュシアンは「分かりました」と小さく返す。相も変わらず盲目的な色欲(こいごころ)を抱いた女は『オニーサマ』の為に懸命なる努力を重ねているようだ。
 ブルーベルの主たる冠位『怠惰』は彼女の言うとおり『静かに眠って居られれば』それでいい。
 同様に、二人に協力していた冠位『暴食』は自身の担当エリアを傷つけることなく欲を見たせれば其れで良かった。
「相変わらずですなあ」
 もう一度重ねた紳士――ベルゼーの声音に冠位『怠惰』カロンはくああと欠伸を漏した。
「アンテローゼが落ちたら任せるにゃ」
「ええ、任せて下さい。……その時はどうぞ、宜しく頼みますなあ。ブルーベル君」
「へいへい……」
 肩を竦めるブルーベルにベルゼーはうんうんと頷いた。
 彼女もカロンの眠りを妨げるつもりはない。
 イレギュラーズが入ってきた時を見越して、いくらかの『罠』を仕掛けておいた。
 ブルーベルに言わせれば「焔のやつ凍土みたいな冷たい男宵闇の皇子(これで顔面美少女だったらアタシは笑うね)、『リュシアンみたい』なヤベー男良く分からない森の奴」である。
 ……無垢な森の少女はルクレツィアの差し金ではあるが数に含んでも良いだろう。
「リュシアン、あんたも手伝ってよ」
「ベルはジナイーダはどうにもならないって思ってるんだろ」
「……子供みたいな事言うなってば。だいじょーぶだよ、センセーが見つかったら手伝う。
 あたしだって、無意味に誰かが死ぬのは嫌いだよ。だけど、やることはやらなきゃね」
 魔種である以上。
 この世界を『破滅』に導かねばならないのは確かなことなのだ。
「……どーせ、さ。イレギュラーズだって『魔種は悪い奴だ』って決めつけて殺しに掛かってくるよ。
 そっちの方が楽だろ? あたしも、あんたも、皆さ」
 殺し合う運命ならば、仲良くならず、憎まれ続けた方が良いではないか。
 どうせ、最期は『どちらかが死んで』世界が平和になるのだから。
 少女の呟きにリュシアンは嘆息してから、アンテローゼ大聖堂の様子を眺めに行こうと少女の手を引いた。

 ※深緑、アンテローゼ大聖堂を目指す<spinning wheel>が始まりました――!

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