PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<spinning wheel>Ordo

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――大樹の嘆き。
 それは人で例えるならば、白血球の様なモノだ。
 彼らは主と言える大樹になにがしかの危険が到来した際に、侵入者を滅さんとする者達。
 彼らに知性はなく。
 彼らはただ自らを害する者を許さぬ――
 正に迎撃の為の装置と言えようか。
 ……初めに観測されたのはR.O.Oであったが、彼らは現にも存在している。
 否。現に在ったからこそR.O.Oにデータとして観測されたというべきか。
 ただし。

「……妙な気配がするな。なんだ? どこの愚図共だ?」

 大樹の嘆きの『更に深き存在』まで観測出来ていたとは限らぬものだが。
 ――茨に満たされし大樹ファルカウ。その深奥の一角に座す、一人の存在があった。
 便宜上『彼』と呼称するが――『彼』は静寂に包まれし深緑に異変が生じた事を感知。
 何かが入り込んだと。どこからかも、どうやってかも分からないが――むず痒い。
「あのクソ猫め。封鎖するなら徹底すればいいものを……流石は怠惰の頂点様だ」
 舌を打つ。
 苛立つ様に。煩わしい様に。
 ――『彼』は憂う。あぁどうしてこうも面倒事がやってくるのだと。
 どいつもこいつも役に立たぬ。『あの猫』も気質を考えればどれ程積極的に動く事か。
 陰で蠢く魔種共も頼りになるまい。
 ならば、と。
「行け。羽虫が湧いていれば叩き潰せ――母なる大樹へと近寄らせるな」
 彼は命ずる。深緑各地を巡らせている己が配下共へと。
 さすれば動く個体達がいるものだ……『彼』の意に沿い、侵入者を見つけんと。
 ……彼は大樹の嘆き。
 ただし他と異なり知性のある、白血球の司令塔の様な存在。
 彼は大樹の嘆き。
 その上位存在たる種。その名を――


 茨により閉鎖された深緑。中を確認する事が出来ぬ状況で――しかし。
 先日、一つの活路が見出された。
 それが妖精郷である。
 かつてイレギュラーズ達により救われたかの地は深緑との『門』を開く事が出来るのだ。ワープ・ゲートとも言うべきソレは本来であれば直接に深緑への道を繋げる事も可能だ、が……しかし。
 今の深緑と迂闊に道を拓けば、妖精郷も茨の被害に遭ってしまう恐れがあった。
 故に介すは大迷宮ヘイムダリオン。
 神秘で満ちたヘイムダリオンにより、茨の侵食が妖精郷に及ばぬ様にした上で、深緑内部へと侵入を果たす案が導き出された――かくしてイレギュラーズ達はヘイムダリオンそのものの攻略と、そして。
「来たな――此処が、アンテローゼ大聖堂か」
 辿り着いた先。アンテローゼ大聖堂周辺の安全確保を成さんと歩を進めたのである。

 ――アンテローゼ大聖堂。深緑に存在する、祈りの場。

 本来であれば荘厳にて煌びやかなるかの大聖堂はしかし、無残なモノだ。
 ……やはり此処も『茨』に満ちているのである。
 想定されていた事ではあるが、迷宮森林すら覆っている謎の茨はやはり、大樹ファルカウ周辺も例外ではない様だ。いやそればかりか……『雪』も降っている。
 極寒とも言うべき気候だ。これは一体どういうことか――?
 まだまだ肌寒さも残る季節ではある、が。それにしても寒いが過ぎる。
 ……そして何より、なんだろうかこの周囲に満ちる気配は。
 大聖堂へと足を踏み入れた瞬間から感じる、体のだるさというか……『倦怠感』は。
「……あんまり悠長にしてない方がよさそうだな」
「そうだね。急いで近くを調べよう」
 『コレ』が今の深緑を真に覆っているのだろうか。
 イレギュラーズ達ですら例外ではない圧を感じつつも……彼らは行動を開始する。
 先述の通り大聖堂周辺の安全確保が急務だ。
 上手くいけばここから深緑で起こっている事を探れるかもしれない――
 故に茨を避け。息を潜めながら周辺の状況を窺わんとし……
「――ッ、あれは……!」
 と、大聖堂から出でてすぐに――見えた存在が一つ在った。
 巨大な、ゴーレムの様な個体だ。人などゆうに超える巨人が如きサイズ……
 魔物か――? 少なくとも大聖堂を警護している様な存在には感じない。
 何しろゴーレムは周囲を覆う茨に、眼をくれてすらいないのだ。
 奴の眼は、むしろソレ以外の何かを探しているようで……
「まずい、避けろッ!!」
 瞬間。イレギュラーズ達が潜んでいた場所へと――ゴーレムの薙ぎ払う手が一閃。
 しかと隠れていた筈だが、見つかったのか――?
 咄嗟に跳躍し回避はするも。ゴーレムの薙ぎ払いが直撃した個所は木々すら抉れて……

『羽虫共、疾く失せろ。この地に君達の様な存在など要らぬのだ』

 同時。そのゴーレムから――何か声の様なモノが響き渡った。
 ゴーレムの声……ではない。恐らくこれはゴーレムを操る術士からのものだ。
 遠くより声だけを届けているのか――術士がどこにいるかは分からない。
 一方で。術士もまたこちらの位置を把握できているとも限らぬものだが。
 各所を自動的に巡るゴーレムの一体を、意思を介しているだけならば……
 いずれにせよこんな木々すら薙ぎ払えるゴーレムを大聖堂に近付ける訳にもいかぬ。
 ――ここで潰すしかない。
 どうにも。対話できる相手の様であるが、しかし対話できる様な気配もなくば。
 容赦はいるまい。それに……
『君たちが誰かは知らないし、君たちが誰なのかも興味はない――
 ただ一つだけを望もう。疾く死ね。疾く去ね』
「お前は、誰だ」
『僕は大樹の嘆き』
 向こうも、どうやら一切の容赦をするつもりはなさそうだ。
 彼は大樹の嘆き。
 ただし他と異なり知性のある、白血球の司令塔の様な存在。
 彼は大樹の嘆き。
 その上位存在たる種。その名を――

『我らはOrdo(オルド)。我らは秩序を保つ者。我らは敵を退ける者。
 大樹の嘆きを知れ――貴様ら如き羽虫など、この地には要らぬのだ』

 然らば。
『死ね』
 ――ゴーレムの気配に闘争が満ちる。
 再び。凶悪なりし岩拳が――天より降り注がんとしていた。

GMコメント

●依頼達成条件
 ゴーレム『アトラシオン』の撃破or撃退。

●フィールド
 深緑に存在する『アンテローゼ大聖堂』の一角です。
 本来は大樹ファルカウ麓の祈りの場である美しい場所なのですが……
 現在は後述する謎の茨に覆われ、無残な姿になっています……

 今回は大聖堂周辺の林が立ち並んでいる場所が主な戦場となります。周囲は謎の『茨』で満ちており、うっかりすれば身が傷ついてしまう事もあるかもしれません。ご注意ください。
 時刻は昼ですので視界には問題ないでしょう。
 ただ、何故か非常に『寒い』です。
 動きが顕著に縛られる程でありませんが……極寒への耐性などがあると楽かもしれません。

 また、本戦場では後述する『茨咎の呪い』が存在し、早期の目的達成が望まれます。
 十分ご注意ください。

●敵戦力
・ゴーレム『アトラシオン』
 巨大な岩肌のゴーレムの様な存在であり、何者かに使役されている様です。非常に攻撃的であり深緑に『侵入』したとする皆さんの排除を最優先する動きがみられます。
 木々すら薙ぎ払う膂力に加え、HPをある程度消費する代わりに後述するホーネットを自らの身から排出(召喚)する力をも宿している様です。ゴーレムの一撃は強烈であり、衝撃波が発生する事も。
 その際は【飛】と同じ効果を発生させ【痺れ】【足止】系列のBSを付与する事があります。

 攻撃し続けているとやがて外皮が崩れ始め(HPが30%以下になると)行動パターンが若干変化します。ホーネットを排出しない様になり、攻撃力と防御力が低下する代わりに全体的な動きが機敏となる様です。

・ホーネット×20(シナリオ開始時)
 蜂の様な個体達です。ゴーレムの体の一部から排出され、敵対者へと襲い掛かります。
 反応と回避に優れ【毒】系列のBSを付与する攻撃を行ってきます。
 一方でHPや防御力はさほど高くない様です。行動パターンもランダムであり、最も近い者を攻撃、HPが最も減っている者を優先して攻撃する個体などまちまちのようです。

●術士『????』
 ゴーレムを操っている人物の様です。現在詳細不明です。
 自らの事を大樹の嘆きの上位たる『オルド種』であると名乗っています――
 どうやらオルド種は人と対話しうる程の知性を宿しているようです。

●茨
 現在、深緑を覆っている謎の茨です。
 木々や建物に巻き付いており、鋭利な棘も存在しています……この茨自体は攻撃してきませんが、移動や回避行動などを取った際に一定確率でダメージが発生する可能性があります。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●備考
 本シナリオは運営都合上、納品日を延長させて頂く場合が御座います。

  • <spinning wheel>Ordo完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年04月07日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

リプレイ


 巨腕が天より降り注ぐ。
 着弾。同時に炸裂するが如き衝撃が周囲を襲えば……しかし。
「凄いゴーレムだね、周りの木がめちゃめちゃだよ。大樹を守るためとは言え普通の木々を気にすらかけないなんて、いやぁ本当に凄いなぁ――とても真似出来ないよ」
 『チョコの妖精』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は跳躍しながら躱しつつゴーレムたるアトラシオンを見据えるものだ。躱した先にて多少『茨』の棘による切り傷が出来るものの――ある程度は気にしない。
 それよりもその口端からはゴーレムを操っているであろう『主』へと向けられていて。
「はは。全く――程度が知れるね」
「秩序を謳う割には、随分とお寝坊な事だ。あまつさえ斯様な力を振るうとは、な」
 そして同時。『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)と共にアトラシオンへと撃を成すものだ。収束させた苛烈なるむっち砲がアトラシオンの横っ面へと叩き込まれれば、一気に跳躍するクロバが二刀による斬撃を更に浴びせに往きて。
「この惨状を見て何も思わないのか。秩序の謳い手が」
『愚図がペラペラとよく喋る事だね――静かなる世の何が不満だと?』
「……興味深い言動ですね。先程から貴方の言は、この深緑の異常事態を肯定するかの様です――大樹ファルカウの娘たる幻想種達を害する『冠位魔種』の動きに、大樹の嘆きたる貴方達が与するのは何故です」
 直後。クロバの言と斬撃に次ぐ形で介入するのは『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)だ。祈り束ねし光刃をその手に抱きて、ゴーレムの足元を裂くように斬り紡げば。
『幻想種? ファルカウの娘――? ハッ。なんだその傲慢ぶりは。
 ファルカウの麓に寄生する愚図程度が、何を気取るか!』
「寄生? ……成程、そういう見解なのですか。知性を持つ貴方から見れば」
 それでもゴーレムは、アトラシオンは倒れない。
 イレギュラーズ達の全霊を受けても尚堅牢さは健在にして。
 再びその巨腕を振るわんとした――その時。彼方より飛来する一撃があった。
 ――『白砂糖の指先』ジェック・アーロン(p3p004755)による射撃だ。
 それはゴーレムの関節部を射抜く様に。針の穴すら通す一撃を放ちて。
「誰にとっての秩序か、何のための秩序か。
 過激な手段をとってまで守りたかったものは何なのか――よく思い出すと良い」
 そして、分からないならば知ると良い。
 彼女の引き金が絞り上げられる。銃口の果てに見えるアトラシオンを狙いすまし。
 ――第二射装填。更に、その動きに呼応する形で動いているのは。
「過剰な免疫反応は病気と同じなんですよ。
 免疫系を自認する貴方がたには知りようのない話でしょうけれど」
「全く。せめて免疫がどうだのと名乗るなら、せめて此方ではなく『彼方』側を殴りに行ってほしいものだが……まぁいい。ちょっと現状の把握が出来てないようだな、管理者君」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)らだ。寛治が素早く周囲の地形を把握せんとし、そして見つけた茨の薄い地点へとジェックを誘導――
 彼女の戦いを最適化する支援を齎せばヤツェクもいくさ歌と共に此処に在るものだ。
 それは力を齎す。それは活力を齎す。
 ――どのような手段を使っても勝利せよ。勝利こそが絶対にして唯一無二。
 万全の状態を整えアトラシオンを排する為に力を尽くす――
「俺たちは羽虫じゃなく、暴走している免疫系を抑えに来たありがたいお薬ご一行だ。
 ――まぁそんな暴言だらけの管理者君は一度先に、頭を冷やしてもらう必要がありそうだが」
『愚図め。虫けらめ。ゴミ共め。ファルカウに集るなよ。無価値の結晶共ッ!』
 直後。アトラシオンの身から放出されたのは――ホーネットだ。
 小賢しくも遠方から穿ちてくる者を潰す為に、更なる増援を早い段階から繰り出す訳か。数の上ではイレギュラーズ達を遥かに超える数が展開され、彼らの飛翔が始まった――その時。
「こちらをなんと例えようが結構ですが。
 こんな所で死ぬわけにはいきません――貴方の望みは果たされませんよ」
「ヒッヒ。いやはや全く、こんな状況下を指して『秩序を保つ』なんて冗談がお上手だ」
 『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)が蜂を掌底にて粉砕し『闇之雲』武器商人(p3p001107)がホーネットの大群を己の『声』に魅せんと立ち塞がる――武器商人の存在そのものを苛烈に。彼らの本能を呼び覚まし危険だと認識させ、注意を引くのだ。
 そして武器商人の下へと至った蜂を文字通りに沙月が『叩き落とし』ていく。
 針に刺されぬ様に。横合いから穿ちて彼らの飛翔を妨げよう――さすれば。
「羽虫に語る秩序はない――? 散々言ってくれるわね。
 なら、その秩序に潰されるだけの運命を、羽虫は絶対に許容しないわ」
 更に次ぐ形で『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が狙う。
 彼女の髪が紫苑へ、精気は幽世へ。
 その瞳が敵を捉え、澄ます剣撃が魔力を収束させながら――告げるのだ。
 『嘆きを知れ』と言うたならば、語りなさい。
「――神がそれを望まれる」
 穿ち貫く。解き放つ一閃が蜂らの中枢を薙ぎ払う様に。
 これ以上は行かせぬと。これ以上は進ませぬとする意志と共に。
『チッ。愚図の割には多少知恵が回るようだな――』
「――Ordo。私たちは決して危害を与えに来たわけではないのです」
 激しき閃光が如き輝き。ソレに舌打つ様な声が聞こえた刹那に『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は術者に対して言の葉を一つ。声色からして術者は男だろうか――便宜上『彼』と称するが――秩序の意を冠するオルド種たる彼へと。
「ですが、もしも力による対話を望むのならば、貴方達の防衛機構以上の力を見せましょう。
 本意ではありませんが、それもまた道の一つなら。
 ……そして教えてください。防衛者たる貴方達は『深緑をどうやって救う』つもりなのか」
 彼女は繋ぐ。己と、最前線で戦う沙月へと『鏡』が如き加護を齎しながら。
 抱く疑問をぶつけるのだ。
 嘆きよ。守護者よ。この地を護るべき者よ、如何な考えを抱いているのか――と。
 しかし。

『見解の相違だね。深緑を護る……? 僕はもう既に守っている。
 お前らの様な愚図から母たる大樹ファルカウをな。
 ただその範囲に貴様らの含んでいる様な幻想種のゴミ共はいないだけだ』

 ――決して分かり合えぬ様な言を、術者は紡いでいた。


 アトラシオンとの戦いが激化する――が。悠長にはしていられなかった。
 かのゴーレムの膂力による被害は大きく発する衝撃波などがイレギュラーズ達へ多くの傷を齎している事も原因の一つだが……それ以上に。この場を覆う『呪い』の気配が、刻一刻と増している気配がしているのだから。
「なんでしょうね、この感じる『圧』は……それに寒さも異常だわ。そろそろ春でしょ」
「さぁてさて。冬の様な寒さに雪景色。どこかで聞いた事がある様な、そうでない様な……」
 肌の露出を用意しておいたローブで抑えるイーリン。武器商人もまた、その口端から白き吐息を零しながらも――不思議な力を宿す祈りの手があらば、寒さによる影響を緩和出来ているものであった。
 『冬』の様な光景と『呪い』には関連があるか否か。
 そういえば妖精郷でも『似たような』景色があったようなと――そんな思考を巡らせながら動きも止めぬ。武器商人は蜂らの引き付けを継続し、イーリンは集まった個体らを纏めて薙ぐ行動を続けながらこの場における活路を切り拓かんとするのだ。
「気になる所だが――今はこいつらを片付けてからでなければ、な。
 何を成すにせよ、何を見据えるにせよ。まずは邪魔立てする連中を斬り伏せる……!」
 であれば直後にはクロバも動いていた。
 その左腕が変質する。形成される魔鉤爪が凍結の力を帯び、横薙ぎに一閃。
 さすれば周囲の冷気にすら劣らぬ極寒の横一文字がホーネット達を切り裂くのだ。
 器用に敵だけを裂く様な技ではない、が。
「――まぁお前なら大丈夫だろう?」
「ヒヒ。人使いが荒い事で」
 武器商人は揺らがぬ。
 その身はこの程度では朽ち果てぬし気になる様な領域の傷でもない――
 ならば何を頓着しようかと。武器商人はむしろ傷が増える度に力をも増すものだ……
「攻撃を途切れさせない継戦能力を確保しつつ、火力で圧倒する。
 ――戦術はシンプルな方がいい。
 特に、えぇ。分かりやすい程に硬く重いゴーレムの類には、ね」
 同時。寛治は言を紡ぎながら、引き続きアトラシオンへと一手を繋いでいくものだ。
 前で戦うものらと位置が重ならぬ様に。射線を確保しつつ、己も攻勢へと転じる。
 先のジェックと同様に狙撃するのである。
 僅かな隙間も見逃さぬ。自らの全霊と全力を此処に注ぎ込み、敵を圧殺せんとするのだ――此処に集った者達はいずれもが精強。ソレを成すだけの戦力があるのだと、確信していればこそ迷いはない。
「どの道、相手が堅かろうが強かろうが撤退する選択肢はねぇんだ――
 行かせてもらうぜ。例え奴さんが止めてくるんだとしても……ごり押してでもな」
「目的と手段を履き違えたヤツには、キツイ処方箋が必要かな。叩き込んであげるよ」
 その寛治の意に続く様にヤツェクやジェックも立ちはだかるアトラシオンへと。
 ジェックは只管に連射を続ける。ヤツェクから調和の旋律を受け取りつつ――だ。
 さすれば残弾の心配はいらぬ。
 力の限り放ち続けよう。銃身が焦げ落ちるまで。
 己が指先が動かなくなるまで――戦い続けるのだ。
「怠惰の手を取った白血球なんて、要らないよね?」
『虫けらが。その程度の銃弾如きで、もう勝ったつもりか?』
 が、それでもアトラシオンは健在。ジェックや寛治の狙撃の嵐を受けても尚に。
 しかし遠方への攻撃手段には乏しいのか奴自身から遠くに離れる者達へと何かが放たれる様子はない……と、その時。アトラシオンが動く。近くに存在せし木々に纏わりつく茨を強引に引き千切り獲りながら――
 放るのだ。まるで巨大なるボールを投擲する様に。
 彼方に位置しつつ一方的に攻撃せんとしていたジェックらを、巨大な質量にて貫かんと……
「やーれやれ。もうこんなの森林破壊に等しいんじゃない?
 返上しなよ、自分の存在と名前を、さッ!」
 が、その時。力を放出させたのがムスティスラーフであった。
 彼の放出するむっち砲の一撃がアトラシオンの放った一撃を迎撃する。もののついでに巻き込める蜂達にも遠慮せずに浴びせてやれば、躱せずに直撃した中には蒸発する個体もいるものだ。
 直後には奴の放った砲弾が如き一撃が着弾、するも。イレギュラーズ達の動きにはまだ淀みなく。
「寒いし怠いし、正直……あぁ心のどこかに『面倒』だって気持ちが湧いてくるね――でもさ、気合いで乗り切らせてもらうよ? そっちが『何』をしてきているのか知らないけれど、ね!」
「援護します――押し込んでいきましょう……!」
 そのままムスティスラーフは体に喝を入れんとあえて茨を突っ切り、痛みによって己が意志と闘志を保ち続けるものだ――無論、アトラシオンからの撃が至れば無傷とはいかず。体力の損耗が酷くなれば飛翔する状態へと切り替えて茨に当たらぬ様にするが、それまではリンディスからの支援も受け取りつつ攻勢へと傾いていた。
 彼女の紡ぐ伝承の数々がムスティスラーフや沙月などの面々に力を与える――
 時に戦場に名を轟かせた軍師の戦略にて。
 時に戦場にて多くの者らの治療に尽力した医師団の伝承を隆起させ。
 彼らの戦う力を支え続けるのだ。己が知る全てを此処に顕現させる様に……
「一撃が強力……なれど、その動きは比較的緩慢です。突け込めます――必ず」
「蜂さえ除けば数の上でも優位となります。今少し、往きましょう」
 そして。アトラシオンの動きを見据えつつ沙月がホーネットへと相対。鋭利なる針にて襲い来るも叩き落し、アトラシオンより更なる追加が至らんとすれば――アリシスが迎撃するものだ。
 数多の蜂に対して多数の小妖精を顕現。
 ――総攻撃。さすれば熾烈なる軍勢同士が如き混戦が生じるものだ。
 ホーネット達には術者からの直接の統制が無い故にか各々の動きには『穴』が見られる。奴らの針こそ鋭く、体に刺されれば滲んでくる毒が含まれているものの……それでも群がられる事を避け、常に攻撃を加え続けられる環境を保ち続ければ、イレギュラーズ達の被害よりも敵の数が減る被害の方が甚大。
 更に、ホーネット達を狙ったアリシスの撃は――召喚者たるアトラシオンにすら向けられていた。蜂を追加する奴ごと叩くのだ。ホーネットの波を乗り越え、いざやその一撃は呪いの力と共に届かんとする――
『――なんなんだお前達は。払っても払っても纏わりついてくるとは』
「あら。羽虫にたかられて少しは口を開く気になった?」
『図に乗るな。纏めて捻じ伏せられないというのなら……』
 と、その時。
 ゴーレムの様子が変わったのをイーリンの瞳が捉えた。
 数多の攻撃を受け続けたゴーレムの外皮が、不自然な程に剥がれており……

『一体一体を確実に仕留めていくだけの話だ』

 直後。そのゴーレムの内側から、まるで弾ける様に跳び出してきた――『何か』があった。


 その動きに即座に反応したのはジェックだった。
 彼女は常に探っていたからである――ゴーレムであれば核――つまりコアでもあるのかと。奇妙な温度の場所はないか。何か明確に違う場所はないか……それが故にこそ、外皮が崩れ始めた際の動きに対応できた。
 いやあれはむしろ『鎧』をゴーレムが解き放ったと表現するべきなのだろうか。
 先程よりも一回り小さくなっているアトラシオン。
 代わりに得たのは自由なる俊敏性か――しかし!
「逃さないよ。その程度で、寛治とアタシの眼から逃れられると思っているんなら――」
「ええ。大層甘い目算であると指摘せざるを得ませんね」
 此処に集っているジェックや寛治であれば対応できるものだ。
 優れた視覚をもってして予兆は既に捉えてもいたのだから。
「防御力を捨てて動きが機敏となる、ですか。それ、ジェックさんと私の前では悪手ですね」
『何――』
 むしろチェックメイト、ですよと。
 紡いだ直後に、身軽となったアトラシオンの首筋に一つ。足首に一つの銃撃が加えられる。
 ――多少早く動けた程度でなんだというのだ。
 むしろ崩せぬ大岩であった方が二人にとっては面倒であったと言えたかもしれない。わざわざ『通しやすく』してくれたのであれば願ったりかなったりだと、繋いでいく銃弾の精度に揺ぎ無し。
 更にはヤツェクやリンディスの支援により多くの者が常に全力を投じられているのだ――逆に言えば二名分の攻勢が欠けているという事でもあるが、しかし。此処にいる者達はいずれもが一騎当千。後を考慮せずともよい全霊を投じ続けられるのなら……
「それは決して『足りぬ』とは限らぬものですよ」
 十二分に奴めへと打撃を与える事には成功しているのである。
 が。かといってイレギュラーズ側が明らかに優勢かと言われると、まだそうも言い切れなかった。アトラシオンの外皮が崩れ、追い詰めているのは確かだが――なにせ今回はタイムリミットがあるのだ。
 既にそれなりの時が過ぎ去っており呪いの圧は刻一刻と強くなっている。
 分かる。分かるのだ――眼に見えずとも己らに何かの力が降り注いでいると。
 更には残存のホーネットも襲い掛かってくる。武器商人を中心として押しとどめているが、連中の数は基本として多い。流石に常に全ては止めきれぬか――それに彼らの針には毒が含まれている。受ければ徐々に、徐々にと蝕んでいき時が経つ程に不利を生じさせよう。

「だがな、負けられねぇよ」

 瞬間。邪魔立てせんとするホーネットの一撃を受けつつも、奥場を噛みしめながら自らの脚に力を入れるのは――クロバだ。
 ――これは生存競争だ。
 アンタらは免疫としての仕事をこなす、俺達はそれに諍う。単純な話だ。
 あぁ。だから、アンタらは勝手にすればいい。
 俺達も勝手にさせてもらう――
「あぁ。救ってみせるさ……此処を超え……必ずリュミエ様を、そして深緑をなッ!」
 故にこそ彼は踏み込んだ。ホーネットを刹那に斬り捨て、尚前へ。
 身軽になったゴーレムへと往く。奴の放つ拳の一閃は先程よりも重く硬くこそないものの……鋭く強く剣の様な一撃を放ってくる。だが決して逃さぬ。此処で打ち倒すとばかりに、二刀による追撃の一手を――紡ぐものだ。
 荒れ狂う雷の様に。
 必要であれば暴風の化身、雷雨の権化にすら変じてみせよう。
 護るべき者を護る為に。護りたい国を護る為に!
『リュミエ? ハッ。まさかあんな女の為にここまで踏み込んできたのか? 度し難いね』
「……なんだと? リュミエ様を……『あんな女』呼ばわりだと?」
『違うかい?
 妹を失い、男も手に入れられず。何も成せぬまま幾年も過ごす愚図に相応しかろう?』
 剣撃。打撃。応酬の最中に――ゴーレムは、いやゴーレムの術者はクロバに口にする。
 リュミエの事を軽んじる様な言を。
 あの女は愚図だと。
 遥か昔からあの女は何も出来ていなかった――そして今も。
『国すら守れないのだからね』
「お前――吐いた唾は呑み込めないぞ」
 上位種だろうが神サマだろうが……知った事かと。
 クロバは胸中に過る憤怒と共に――加える斬撃により強靭なる力を込めた。
 ……しかし妹の話を知っているという事は……コイツ、一体どれほど『前』から……
「……成程。貴方はよほど太古からこの国や幻想種の事を知っていると見えます。
 しかし国を害さんとする貴方よりは遥かに高潔な存在であると思いますが?」
「それに。どうしてこのような手段に出たのでしょうか?
 魔種に与し、国を茨で包み込み、美しき地を無残な形へと変貌させ。
 数多の者達を眠りにつかす――この暴挙に」
 同時。クロバが攻めたてるアトラシオン側へ更なる攻勢を仕掛けるは、アリシスと沙月だ。
 その撃は流れる様に。沙月の三撃が投じられ、直後に合わせる形でアリシスの一閃も。
 天使の刃にして呪いの魔術を押し付けるのだ――
 それはかつて『魂を刈り取る』概念に到達せし、アリシスに秘められた神秘が一つ。
 今でこそ多くの力を失えども……その業には未だ解けられぬ呪いが込められていて。
『知れた事。あのクソ猫を利用すればこそ叶えられる願いがあるのだからな』
「願い、ですか」
『そうだ。薄汚い幻想種共を纏めて排する……大樹ファルカウの安寧の為に』
 が。それでも止まらぬ。
 アトラシオンの俊敏となった動きは、かの沙月と打ち合える程に至っていた。
 彼女の動きに合わせ繰り出される手刀は首筋へと一閃――が。薄皮一枚にて躱せば沙月はゴーレムの腕……伸びきった肘の箇所へと打撃圧を加えるもの。裏拳だ。只人であれば、あらぬ方向に折れていたであろうその一撃の直後に――人中三閃、足払い。
『むっ……だが、まだまだ』
「……存外に動ける絡繰りですね」
 アトラシオンの身が揺らぐ。足払いにより地へと転げる様に――
 されど刹那片腕を先に地に付け身を捩じれば繰り出したのが蹴りだ。
 刈り蹴り。上段を目指すその一撃は首筋から頬を狙うモノ――故に沙月は神速に腕を差し込ませ、直撃を妨げる。が。それを読んでいたか否か、沙月の腕を『地』と見立て、アトラシオンは『跳ぶ』
『面倒な奴らから潰すとしようか。死ね』
「チッ。こっちに来やがるか……! だがな、警戒してなかったと思うなよ!」
 ――行く先。狙われたのはヤツェクだ。
 他者に活力を。そして負の要素を払わんとし続けた彼に掌底が加えられる。妙な攻撃の予兆がないか周囲を常に警戒していたが故にこそ防御が間にあったが――しかし軽傷でもなかった。ガードの上から響き渡る圧力はヤツェクの全身を襲う程のモノ。
「づ、ぉ……ッ! は、ははは。強い酒を飲んでなきゃ、やってられない所だったな……!」
「ヤツェクさん――!」
 刹那。リンディスの、世界に名を遺した癒し手たちの記録が紡がれる――
 それは負った傷を急速に癒す術。周囲を俯瞰する様な視点にて伺っていた彼女であればこそ、戦場の状況は常に掌握できており――だからこそ迅速に行動に移すことが出来た。
 彼女の未来を綴る力があってこそ維持される戦線がある。
 ――故にこそゴーレムより殺意が流れ込んでくるものだ。
 あぁお前も邪魔だなと。ゴーレムとは思えぬほどの高速の踏み込みが、リンディスに向き。
 蹴撃一つ。リンディスの首筋に叩き込まれ――しかし。
「そうはいかないねぇ――オイタはここまでだよ。取り巻きを失って、どこまで出来るかな?」
 完全に打ち抜かれる前に介入したのが、武器商人だ。
 その一撃は『旧き夜』を想わせる。視えているぞ、識っている──
 嘲笑う、その口元の色が見える時にはもう遅く、更には……

「いやぁ中々『この』感覚は嫌だねえ――年を取って動かなくなっていくのに似てるや」

 ムスティスラーフも往くものだ。
 先程。寛治らを攻撃する為に、奴が一部の茨を引き千切ったが故か飛びやすくなっている……まぁ。なんだか段々と体に『鈍さ』がのしかかってきている様な感覚もあるのだが。このままだとどうなるのだろうか――眠ってしまうのだろうか――?
 寝たままでいるのは楽だけど、楽しくないんだ。
「僕はまだまだやりたい事がたくさんあるんだ」
 だから、彼は意識を覚醒させ続ける。
 眠るな動け。停滞するな進み続けろ――こんなところで止まってられない!
「動けッ! さぁ――もっと飛ぶんだッ!!」
『えぇいチョロチョロと……うざったらしい羽虫だ!』
 再びに込める全霊。息を限界まで肺に吸い込み放つ緑の閃光は――かつてない程に。
 全てを貫きてアトラシオンへと襲い来る。
 ――さすれば吹き飛ばすその右腕。外皮が剥がれた状態のゴーレムでは躱せぬのならば耐えがたいのだ。動きに洗練はあれど、ジェックらの巧みなる狙撃が繰り返されれば段々と鈍り始め――遂に綻びが見えており。
「ここまでね。どうだったかしら――? 羽虫と呼んだ連中に、いいようにされるのは」
 そしてイーリンが逃さぬ。ホーネット達を全て打ち倒し、残るは奴のみ。
 ならばこれより先は己らに呪いが充満するか。それよりも早く倒せるか――!
 寒さに手先の感覚が霞んでくる。それでも崩さぬ笑みは、彼女の象徴。
 厳しければ厳しい程に。辛ければ辛い程に笑顔を崩さぬ。
 ――踏み込んだ刹那。全身の膂力をその手中に集中させ、発勁が如き一撃を叩き込む。
 さすればアトラシオンの身が揺らぎ――そこへ間髪入れずに紡ぐのが、紫の燐光だ。

 勝利の証。幾重もの戦場で見せ続けてきた輝きにて――アトラシオンの身を穿ち貫いた。

 足を。いや、胴体より下を完全に崩壊させ得る一撃。発勁の直前、残った左腕による手刀の一閃がイーリンの腹部を貫かんとするも……しかし、イーリンの方が全てにおいて一手早かった。踏ん張りの効かぬアトラシオンでは彼女に致命傷を負わせる事までは叶わず。
『――愚図め。愚図め愚図め愚図共め。何を抗う? 何故来る?
 これで終わりだとでも思っているのか?
 アンテローゼ大聖堂を取ろうが無意味だ。こちらが攻撃せぬとでも思うか?』
 同時。アトラシオンの残骸からは、声だけが発せられていた。
 術者とはまだ繋がっている――という事か。
 もしやどこからか見える範囲にいるのではないかと寛治やヤツェクは即座に視線を巡らせるものだが……気配はない。どういうことだ? 向こうが一方的にこっちを見る事が出来る状況下にいるとでも?
「……ふむ。折角お会いできたのですから、もう少しお話していきませんか? あぁそれとも上位種を名乗るお方は、事が済めば即座に逃げ帰るがのご趣味ですかね――尻尾を撒いて逃げられるのを良しとするのならば、御引止めはしませんが」
「なぁ――アンタ等は何者だ。大樹の嘆きなんだろ? どうして怠惰側に付いているんだ」
 いずれにせよ情報を引き出さんと、奴の『声』すら消える前に語り掛けるものだ。
 背後には一体誰がいるのか。『怠惰』の連中と何か取引でもしたのか。
 いやそもそも――現在の行動は一体如何なる利益を、オルド種に齎しているのか――
『フンッ――我々は元々誰の味方でもない。
 我々は大樹の味方だ。母なる大樹は安寧こそが至大至高。
 怠惰だと? 連中と取引? 違うな。我々があのクソ猫を利用しているだけだ』
「我ら……複数形ですか。貴方の様な存在が、他にもいるという事ですね」
『当たり前だ。我々は個体によってはそれこそ遥か太古より存在している――
 貴様らとは根本的に違うんだよ。永き時を生きる大樹と共にあるのだからね』
 同時。アリシスもまた周囲の警戒をしながら、アトラシオンの術者へと言を。
 ……なんとなく感じるのだが彼らにとっての最優先事項は大樹そのものなのだろう。
 『深緑』ではない。ましてや『幻想種』など二の次ですらない。
 いや……もしかすると、幻想種すらファルカウに纏わりつく『羽虫』と見ているのか?

(それは、呼び声の影響を受けているが故の思想かもしれませんが)

 アリシスは思考を高速で巡らせる――目の前のオルド種だけのスタンスかもしれぬ、と。
 知性体が複数居るのなら個により方針が異なるのは有り得る話だ。
 ただ何も考えなしに『我々』という単語を使っているとも思えない――少なくとも大樹の嘆きのオルド種は総じて、魔種側に付いていると見るべきだろうか。同時に……アリシスは悟る。各々の信条や理由が仮に在ったのだとしても。
 少なくともこの術者は、なんらか魔種側に影響を受けている、と。
「この寒さも貴方達なの? 自然にとって寒さは大敵だと思うけれど」
『知るか。そんなモノは僕の預かり知る所ではない――寒さは僕も苛立つぐらいだからな』
 と、イーリンが問いかければ。周囲をまるで冬の様に覆っているこの光景に関しては……オルド種の、少なくとも目の前の術者の行為ではないらしい。では誰だ? 怠惰の魔種にしても寒さが直結する事項だろうか……?
 刹那。イーリンが閃いたのは――かつて妖精郷の事件の折に聞いた単語――
 ――冬の王。
 彼が影響を及ぼしているのだろうかと。さすれば。
「……クオン達の影響の一つ、とも言えるのだろうかな。まぁコイツに関しては別口の様だが」
 クロバは思考する。
 生命を否定するような極寒、そして外界を排除する嘆き。
 かつての妖精郷の折からの要素が深緑にて収束しているのだろうかと。
 感じる倦怠感は正に『怠惰』の一環であるとは感じるが……さて。

「ヒヒ。しかし、大樹殿は緩やかな自殺をお望みかい? 巡るもの無き自然はただ朽ち果てるのみだと――永き時を生きる大樹と共にあるのなら、それこそ誰よりもよく知っているかと思うんだけどねぇ」

 直後。言を続けたのは――武器商人だ。
 何故、川の水が腐らぬのか。それは常に動き続けているからだ。
 何故、器の水が腐るのか。それは永遠の滞留が生じているからだ。
 『動かぬ』というのは、崩壊に至る序章なのだと――武器商人は語りて。
「それでも尚に、この状況を良しとするのかい?
 事態の解決を望む我らと刃を交えるのは得策ではないと思うのだがね」
『――下らない下らない下らない。短命の愚図が何を悟ったつもりでいるんだい?
 事態? ああそう見えるのか? 僕の眼にはかつてない程の平穏に見えるというのに』
「おやおや。どうやら既にお目目が手遅れなのかな」
 しかし『向こう側』はそう思わぬ様だ。
 動くが故に要らぬ羽虫が寄ってくる事があるのだと。
 動くが故に要らぬ危機を招く事もあるのだと。
 ――誰も近寄らぬ静寂こそがこの森を救うのだと言わんばかりに。
「そうなのかな。停滞こそが真理と言わんばかりだけど……アタシはそう思わないよ」
 そして――その言の葉を聞いて告げるのはジェックだ。
 時代は移ろい、世界は変わるものだ。その間隔が短いか長いかの違いはあったとしても。
 必要なのは。
「Novus ordo seclorum(ノヴス・オルド・セクロールム)……なんじゃないかな」
 『時代の新秩序』
 永久不変などありはしない。その折々に適応する秩序がなければならぬのだと……
 さすれば。

『――時代の新秩序だと!? 愚図め!! そんなモノが何を生む!!』

 かつてない程に荒げる声が――響き渡った。
『至大至高はいつでも一つだ! 新しき変化など要らない!!
 無知蒙昧なる馬鹿共が大樹ファルカウに寄りついて何が生まれた!!
 巨大なる神秘に憧れを抱きて麓に街まで作る薄汚い幻想種共!!
 ファルカウの子とまで名乗るなど虫唾が走るんだよ!!
 全て眠りて朽ち果てればよいのだ、あんな連中ッ!!』
 それは最早憎悪の色を含んでいる。
 しかし、何か、妙だ。どうしてそこまでファルカウに集る者を敵視する?
 自らの根源となる大樹に害を成す人間を憎む、などなら分かるが……

 いや、まさか?

「君は」
 刹那。ムスティスラーフが――言う。
「君はまさか、大樹ファルカウから生じているオルド種なのかな?」
『然り。僕は母なる大樹ファルカウの血肉が一つ。オルド種の『クェイス』だ』
 大樹ファルカウの――嘆き?
 クェイス。それがこのオルド種の名か。つまり、奴は……
「貴方は……深緑の為などではなく、ファルカウの為に動いている訳ですか?
 それはファルカウの――意志なのですか?」
『――――それはお前達には関係のない事だよ。
 さっさと消え失せろ。今すぐ外界へと戻るのなら見逃してやる。
 僕はただファルカウが平穏であればそれで良いんだ』
 言うリンディス。一方のクェイスは外界を拒絶するかのように、突き放して……
「さて。免疫とは宿主を救い、しかし時に滅ぼす暴走をもするもの……貴方はどちらでしょうね?」
「ええ。貴方は自らの姿を一度、水面に映すべきかと存じますね――」
 さすれば寛治と沙月が述べるものだ。免疫は常に絶対ではないのだと。
 今の彼は守護者たりうるのか。それとも内部より滅ぼす因子の一端となっているのか。
『知った風な口を聞くな……! あぁ害悪だ。お前達は害悪に過ぎる。
 ファルカウに巣食い続ける幻想種も。全て全てが蔓延るシロアリの様だ! ああ――』
 そして。クェイスは一息付きながら――

『――やっぱりお前が正しかったよ、ザントマン』

 その言葉を最後に。アトラシオンから完全に気配を――消失させた。
「やれやれ。口の端からは些か目に……いえ耳に余る暴言ばかり。
 魔種らの影響があってか知りませんが――これは些か根深そうですね」
 さすれば寛治が吐息を一つ零すものだ。
 周囲は未だ茨ばかり。この地に蔓延る問題をどう解決したものか――未来を見据えながら。

成否

成功

MVP

リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
雪村 沙月(p3p007273)[重傷]
月下美人
リンディス=クァドラータ(p3p007979)[重傷]
ただの人のように
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)[重傷]
人間賛歌

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 アンテローゼ大聖堂の一角を掌握しました。他の戦場も順調であれば、やがて此処が拠点となる事でしょう――
 クェイスと名乗ったオルド種。全てを敵視する様な彼の見る未来とは一体……

 ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM