シナリオ詳細
<spinning wheel>絶対炎獄圏
オープニング
●アンテローゼ奪還
「これは……!」
ヘイムダリオンの激闘を突破し、アンテローゼ大聖堂へと到達した、あなた達十名のイレギュラーズ部隊。
あなた達を待ち受けていたのは、強烈な冬の寒さ――そして、それと相反するような強烈な炎の熱だった。
「おかしい……大聖堂の付近は雪が降っていて、別のエリアには炎が燃え盛っている! どちらもまともじゃない!」
仲間の一人がそういうのに、あなたは頷く。大聖堂の付近は、主に雪がちらつき、冷たい冬の景色が広がっている。もう、春に近いというのに、だ。
「これは、まるで冬の王の力のようです」
仲間の一人が言う。かつて、妖精郷で対峙した脅威、『冬の王』。冬の暴威を化身とし、妖精郷を永遠の冬に沈めたあの力と同質な何かを、この気配から感じ取る。
「でも……あの炎は、明らかにそれとは違う。
……ルドラの言った通り、『伝説の炎の嘆き、シェーム』の仕業なのか……!?」
仲間の一人が言った言葉に、あなたはこの作戦が開始される前、森林警備隊のルドラ・ヘスと情報の打ち合わせをしていた時の事を思い出していた。
「深緑の異変に関して、『炎の精霊』や『炎の大樹の嘆き』が敵側についている、という状況が散見されていた」
ルドラの言葉に、あなたは頷く。茨と協力して戦う、炎の巨人。大樹の嘆きと同士討ちをしていた、溶岩の巨人。茨の内より出でて、人々を襲撃せんとした炎のビースト達……。
「皆からの報告をもとに、深緑内の伝承や伝説を、とにかく調べ上げた。もちろん、ファルカウからには行けないから、付近の街や生存者に口伝で聞いてね。それで分かったのだが……古い古い伝承に、『伝説の炎の嘆き、シェーム』というおとぎ話があったんだ」
ルドラが語る所によれば――。
かつて、はるか昔の時代。深緑の内に、酷く排他的で攻撃的な集団がいたのだという。外の国の人間はもちろん、国内の人間にすら牙をむくその集団は、あちこちで暴力的な小競り合いを起こし、禁忌とされる炎すら平然と用いて、やがてファルカウを傷つけるまでに至った。
その時、ファルカウに異変が生じた。ファルカウは、辺りの炎の精霊を飲み込み、一つの生命を生み出した。
それが、確認しうる限り最古の大樹の嘆き……伝説の炎の嘆き、シェームである、というのだ。
シェームの怒りの炎は深緑の多くを、善悪・敵味方を問わず焼き尽くした。やがて、抵抗する者もいなくなったその時に、シェームは怒りを鎮めたのか、ようやくその姿をファルカウへと返したのだという。
「かつては、深緑で火を使う事を禁止していたのは、このシェームを起こすことを恐れていたから……という伝説もあったらしい。
あくまで、これは口伝や文書の伝説を集めて継ぎ合わせたものに過ぎない。きっと、真実はまた違うのだろう。
ただ、現在の状況を鑑みれば、このシェーム、ないしはそれに近い強力な炎を操る存在が、茨を発生させた一味に協力している可能性がある」
となれば……イレギュラーズの敵の一つは、この伝説の嘆き、と呼ばれる存在である可能性がある。
「これから、皆はアンテローゼの奪還に向かうのだろう。もしかしたら、炎の怪物と遭遇する可能性は充分にある。
どうか、気を付けて欲しい」
――その言葉を思い出せば、やはり伝説の炎の嘆きが、このアンテローゼ大聖堂付近でもその力を発揮しているのだと考えるのが自然だろう。冬の雪をかき消すように燃え盛る炎は、アンテローゼ大聖堂まで炎の回廊を作る様に渦巻いている。
「……まるで誘われてるようだな」
仲間の一人の言葉に、あなたも頷いた。入ってこい、と告げるように、回廊の入り口にはぽっかりと穴が開いている……。
アンテローゼ大聖堂を制圧し、活動拠点とするためには、この炎の回廊をほうっては置けないだろう。あなた達は意を決して、その中に進む。内部は、例えるなら、炎を壁にしたトンネルと言った所だ。上下左右を炎にまかれ、しかしわずかに汗ばむような熱気で済んでいるのは、このトンネルを生み出したものの意志だろう。
「――おう、来よったな」
ふと、声が響いた。見れば、あなた達の前方――そこに、人型の炎があった。そうとしか形容できない。身体も、手も足も、頭も、すべてが炎。炎で作った、アバター。
「……シェーム、か?」
仲間の一人が声をあげるのへ、アバターは頷いた。
「おう――ま、この身体は操り人形みたいなもんじゃがな。
貴様(きさん)らが一番乗りか? じゃあ、そろそろ身体が痺れてきたころじゃろ」
その言葉通り――僅かに、身体に違和感を覚える。動きが鈍い――。
「誤解される前に言っておくが、ワシのせいとは違うぞ。これは、そこの鬱陶しい茨の力じゃ。
外でも眠っとる間抜けどもを見たじゃろ。放っておけば、きさんらもそうなる。
それじゃつまらんじゃろぉ? ちゅうわけじゃ、さっさとかかってこい」
「なんだと?」
「戦(や)りあおう、言うとるんじゃ。その為に来たんじゃろ?
ワシもじゃ。きさんらと戦(や)りたくてたまらん……ま、今は片手で戦ってるようなもんじゃが、試しにはちょうどいいじゃろ」
「なにを……!」
仲間の一人がそう言った瞬間、辺りに炎が巻き起こった。それが、アバターにまとわりつき、一回り巨大な人型となる。体のあちこちは燃え盛り、近づいただけで肉が焼けるような熱を感じた。炎の嘆き、その化身(アバター)。言葉通りならば、全力ではあるまい。だが、その上でも、強敵に違いはない。
「……奴の目的は分からんが、やる気だぞ」
仲間の言葉に、あなたも頷く。もはや問答無用という事だろう。アバターは静かに闘意を漲らせ、此方を――瞳があったならば、おそらく炎のようにぎらつく瞳で――見つめている!
やるしかない! あなた達は意を決した。武器を構えると、歓喜に震えるように、炎が舞い上がる。
「いいぞいいぞ、さぁて、試しじゃ、試しじゃ!」
アバターは狂気的な哄笑をあげると、あなた達に襲い掛かってきた!
- <spinning wheel>絶対炎獄圏完了
- GM名洗井落雲
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年04月07日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●炎獄の地
炎が燃える。世界が炎に包まれる。
周囲を炎に包まれたその回廊、不思議なことに、周囲の炎そのもに、肉を焼く熱さを感じることはないが、仮にこの壁を突き破って逃げ出そうなどと考えれば、その熱はたちまち牙をむくのだろう。
例えるなら、この回廊はバトルフィールド。弱者が怯え逃げるを許さぬ、炎の闘技場(リング)。
そしてそれを作り出したのが――彼の炎、シェームなる伝説を語る存在だ。
「回廊に入った時は、周りが燃えてんのに、翼がチリチリしないのは変な気分だって思ったんだけど……」
『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)が、静かに声をあげた。
「……あいつを目の前にしたら、この距離でも、翼が焼けるみたいな気持ちになるぜ。
確かにとんでもない、炎の怪物って感じだ……!」
カイトの視線の先には、炎の嘆きシェーム、その化身の姿がある。
「アリア様、感じますでしょうか?」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が、静かに告げるのは、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)だ。
「あの時の巨人と、同じ雰囲気を。茨と共にこちらを襲ってきた、あの時のです」
「……うん。間違いないね。あの、茨と共闘してきた巨人……あれと同じ。ううん、あれよりももっとずっと、濃密な……炎の気配」
アリアが頷く。以前、深緑の茨の付近で戦った、炎の精霊。茨と協力し、周囲の者に危害を加えていた、あの謎の精霊。
「おう、覚えちょるぞ、貴様(きさん)ら二人。
そっちの精霊姫は、二回ほど戦ったな」
アバターが声をあげる。そのアバターに貌はないが、しかしどこか嬉しそうな色を乗せている。くっくっと笑うそれは、実に愉快そうに。
「他の奴らとも直接戦(や)りたかったが、今は我慢のしどきじゃな。
ああ、ひとまずその二人、そん名を教えい」
「アリシス・シーアルジア、と」
「アリア・テリアだよ、炎の嘆きさん?」
二人が言うのへ、満足げにアバターは笑った。
「覚えたぞ。ああ、勿論、他の貴様らも、ないがしろにしちょるわけじゃあない。
ここまで着た勇者じゃ。実に愉快。あの滅茶苦茶なヘイムダリオンを越えてようく来た」
「報告によれば、ヘイムダリオンにも炎の手のものもが居た、と。あれも貴方ですね」
『紫香に包まれて』ボディ・ダクレ(p3p008384)が静かに告げる。アバターは頷いた。
「応。無論じゃ。障害は多いほど燃えるじゃろう? じゃから、ちと、な?」
「障害」
ボディが頷いた。
「かの炎が暴れまわれば、ヘイムダリオンは相応の被害を受けていたはず。
そして外でも、貴方の配下は暴れまわり、人を傷つけんとしていた。
尋ねますが――伝説によれば、貴方はファルカウから生まれ、その力で、何故深緑を傷つけるのですか?」
「ハハハ、意外な事を聞くのう」
アバターが笑う。凄絶な声を乗せた笑みである。
「炎がモノを焼くんが自然じゃろうが」
「そうね。おっしゃる通り」
『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が頷いた。
「でも、それ故に己を律するのが炎を使う存在。
そなたは、そのタガを外しているように見える。魔にでも中てられた?」
「だとしたら?」
「簡単。その炎を越えるわたしの炎で、そなたをもやす。コャー!」
ごう、と燃え盛る、胡桃の狐火! それは、アバターにも負けぬほどに、強く強く、燃え盛った!
「ほう! 良い火じゃ、同族か? じゃが、炎が炎を消すというのも面白い!」
「簡単に消せると思わないで。皆、準備、良い?」
「おうおう、勿論じゃ!」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)が声をあげた。その手に輝く東村山の刃!
「幾度となく城を燃やされ、なお健在!
大炎上とはマブダチのこの麿に、生半可な炎の力が通用するとは思わぬことじゃ。
なーーーーーーーーっはっはっは!」
ちゃり、と刃を構える。その刀身にうつる炎は、果たして敵のか味方のか。
「というわけじゃ――炎の化身とやらよ。そなたのそっ首、もらいうける!
ボディ、ゆけい!」
「了解」
この場において、アバターの反応速度を上回るほどのそれを見せたのは、ボディだ! ボディは仲間達を引き連れるように動く。その背に見える、繋がり(リンク)。仲間達がその導きを追い、駆けだした!
「ほう! 貴様が先導者か! 良いな、はやがけは戦の誉れじゃ! その背に仲間を乗せるならば、その雄姿はほめたたえられるべきもの! 故に!」
ぐぅ、とアバターが力を籠める! 轟、とその身体に炎が巻き起こる!
「全力で! 撃ち抜く!」
「さ、せ、な、いっ!」
ボディと共にかけた『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)が、その手を掲げる。放たれた光が、導かれるように仲間達に降り注いだ。それは、活力を与え、友の力を引き出すための特殊支援。
「私は、今回は攻撃には回れない……その分、皆の背中を押すから!」
「そっちは任せる! こっちは任せて!」
『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)
「ドライアッドの抱擁を! あなたが焼いた森の怒りをおもいしれーっ!」
クルルが放つ、緑の一矢! 放たれた緑の矢が、中空でぶわりと緑の木々を吹き出し、さながら木々の精霊の抱擁のごとく、その緑をアバターへと叩きつける! 炎にも負けぬ緑が、アバターに絡みついた! ほう! アバターが笑う。
「燃料をくべるとは!」
「燃料なんかじゃないよっ!」
クルルが叫ぶと同時、緑は大地に力強く根を張った。がきり、とまるで身体を凍結させるかのように、ツタでアバターの身体を縛り付ける!
「素敵な方、でも今宵の舞台は情熱(パッション)のルンバじゃないわ。クラシックバレェなの」
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が、ツタに縛り付けられたアバターへと攻撃を仕掛ける! 上空より鋭く迫る、その脚先にあしらわれた刃。ヴィリスの経過なる跳躍(ステップ)、斬撃(ステップ)、刺突(ステップ)! 脚が舞うたびに振るわれるそれが、閃光のごとくアバターへと迫る! 光が舞うたびに、火の粉が散った。鮮血か。アバターより飛び散るそれは、着実にダメージを与えている様だ。
「すまんなぁ、ワシは無粋じゃ。踊りは分からん!」
ぎぃ、とアバターが笑う。
「じゃが、貴様のそれがわしの首をとらんとする、あらゆる手であることは分かる! 良い――蝶のように舞い、とはこのことか! じゃが!」
がし、とヴィリスの足を、アバターが掴んだ。そのまま、地にたたきつける! ヴィリスは、無理矢理足をひねるように回転させると、うつぶせの体勢になった。叩きつけられる勢いを殺すように、両手を地にたたきつけると、そのまま足を蹴り上げて、アバターをはねのける! そのまま後転するように跳躍(ステップ)――。
「残念。蝶は優しく包んで頂戴? 手折れてしまうわ?」
わずかの攻防、一撃で全身に走る痛みを押し殺しながら、ヴィリスは優雅に笑ってみせる。片手で戦うようなもの、とアバターは言った。それでこの威力とは、随分と巨大な片腕のようである。
「攻撃を続けるですよ!」
『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が叫ぶ。ピリピリとした、痺れのような痛みが、身体に走るのを感じる。鬱陶しい茨の呪い。そのように、アバターは言った。
「あの茨の影響が、ブランシュ達にも出てるです! おそらくこのままじゃ――」
「そうじゃ、むすめご!」
アバターが言う。
「くそ鬱陶しい呪いじゃが、しかし――そうじゃな、それこそ試練か何かじゃと思え!
敵はわしだけじゃあない、外道な輩もおるじゃろう! それと相対した時――貴様はどうする!?」
「決まってるです!」
ブランシュが、にぃ、と笑った。滑腔砲を構える。その銃口を、アバターへとポイント!
「ブランシュはわかんねーことはわかんねーですから、全力で叩いて潰す! それだけです!」
ずがん! ずがん! ずがん! 雨あられのように、砲をぶち込むブランシュ! 強力な砲弾が地を抉り、空を抉り、化身を抉った! ぼうん、と穴の開いた身体に、愉快気にアバターは笑う!
「上等じゃ! それでこそじゃ!」
だが、すぐにその穴はふさがり、強烈な焔がその身にまきあがる。その様は、炎の鬼(オウガ)か。巻き起こる炎は身体を一回りはふくらまし、ドライアッドの花冠な拘束を弾き飛ばした。
「まずは――貴様からじゃ、翼の勇者」
アバターが楽しげな声色で言う。その手を高らかに掲げる。手刀の形。刹那、その腕に炎が巻き起こり、さながら巨大な炎の剣を思わせる、巨大な炎柱を生み出した!
「望むところだぜ! 来い!」
カイトが声をあげる。その身に巻き起こる、九天残星の力! 己の身、既に空。空を舞う鳥を、捕らえる事能わず。
「いい返事じゃ。渾身の一撃――くろうてみい!」
振り下ろされる、巨大な炎の剣! 空を切り、地にたたきつけられた一瞬の後、一息おくれたかのように、熱波と音がその後を追いかけ、強烈な熱の奔流と暴力が、カイトのみならず、その付近にいたイレギュラーズ達に叩きつけられる!
「う、おおおっ!」
カイトが叫んだ! 強烈な炎の渦、それは、まさに炎が敵意を以って人類を脅かす構図か。指向性をもって確実に命を狙わんとする強烈な炎が、世界を薙いだ!
「くっそお!」
雄たけび一つ、カイトはその奔流から逃れて見せる。カイトを捉えるには、一撃では不足――では、もう一撃、ここに叩き込まれたら?
「一撃だけじゃとはいっちょらんぞ!!」
今度は、左腕。強烈な炎の剣が、再び巻き起こる! 間髪入れず振り下ろされたそれが、カイトに向って叩き込まれた! もとより、攻撃を引き受けるのはカイトの役目だ。狙われるのは良い。だが、ここまで強烈な一撃であるならば――!
「くっそー、焼き鳥は御免だぜ!」
カイトは、空中で無理やり身をひねると、二撃目の火炎奔流から脱してみせた! 炎、衝撃、そして逃げる際の無理な姿勢が、カイトの身体に悲鳴をあげさせる。だが、斃れるよりははるかにましだ!
「どうよ、でっかい大砲でもな! 当たらなきゃあ小舟だって沈められねぇんだ! ましてや、空の王者を!」
「かかかっ! ようく吠えた! もう一撃いくかぁ!!」
今度は、両手を合わせて高らかに掲げる! 巻き起こる、巨大な炎柱! 先ほどと同等か、それ以上の威力を持つだろう、文字通りの渾身の一撃!
「名をつけるなら、マグヌス・フランマ! 受けてみぃ、空の勇者!」
振り下ろされた、巨大な――それはもはや、炎の回廊を叩きつけらえたようなものだ! カイトは流石に完全回避は困難と瞬時に悟った。全身を緊張させ、直撃点を最小限に抑える。そのまま、炎に向って突撃! 振り下ろされたその中を突っ切る様に、カイトは跳躍した! がおん、と大地に炎が走る音が、カイトの後方から聞こえる。ぶすぶすと服が焦げる音を感じながら、カイトは、
「うおっりゃあ!」
叫びと共に、その身体を振るわせて見せた。
「真ん中を抜けりゃあ、かえってダメージはすくねぇ!」
「見事!」
かかか、と笑うアバター。同時、夢心地が飛び掛かった!
「きええええいいっ!」
鋭く振り下ろされる、東村山の刃! その刃が振り下ろされるタイミングで、アバターは拳を振り上げた! がうん、と刃と拳が交差する! 一撃! 二撃!
「炎はお手の物じゃったな? お殿様!?」
「おう、おう! その通りじゃ。火炎対策はなんといっても初期消火が肝心よ。
時間をかければかけるほど、手がつけられんくなるのがファイヤーじゃ。
故に……初手から本気で叩き潰す! コレが最適最高ベストアンサーというものよ!」
ぐるぅり、と回転しながら、夢心地が刃を横なぎに振るった。咄嗟に掲げた左腕に、東村山の刃が食い込む。
「ちぇぇぇぇいっ!」
そのまま、夢心地が刃を振り抜く! ぼう、と炎が鮮血のように舞い、夢心地が飛びずさった刹那、
「クルルさん! 砲撃! 射撃! ぶちぬくですよー!」
「おっけー! 狙った獲物は、逃がさないんだからっ!」
ブランシュ、そしてクルルの射撃が飛び込む! 緑、そして強烈な砲撃が、雨あられと飛び交う中、その背を押すのはルチアだ!
「もともと、時間がないんだ。だったら、全力で支援する!
息切れなんて考えてられない!」
ルチアの支援をうけた射撃部隊が、アバターの足を止める。次々と突き刺さる射撃攻撃に、流石のアバターも足を止める――そのタイミングに攻撃を叩き込んだのは、アリシスだ! その手に掲げる、戦乙女の槍。それは、魔道器であり、刻まれた言葉が仄かに光り輝くや、その力をアリシスへと注ぎ込む。ぼう、とアリシスの身体が、魔力によって仄かに輝いた。
「シェーム。会話ができるのは良い事ですね。あなたの配下は、無口な方たちでしたから」
呟きつつ、掲げた槍に、今度はアリシスが束ねた魔力が充填される。光り輝く、槍。それはこの刹那の間だけ、聖槍となる。放たれるは、断罪の光。浄罪の剣――。
「先ほどの、偉大なる炎のお返しと行きましょう。
うけてみなさい。エンシス・フェブルアリウス!」
放たれた閃光が、まさに剣のごとく宙をかけた! 高速でかける刃が、アバターの胸を貫く。ぼう、と鮮血を吹き出すように、その胸から炎が巻き上がった。
●炎の試練
「――ッ!」
この時、イレギュラーズ達の猛攻により、初めてアバターがその身をよろけさせた。体に纏っていた炎が、僅かに鎮まるのが、イレギュラーズ達にも見て取れる。
「ほう。見事じゃ」
アバターが笑った。
「これで、此方も全力とはいかなくなったのう? いや、思いのほか早かった……貴様らも、必死じゃったという事か」
「そうですね。時間制限もあるようですし」
アリシスが頷いた。体のしびれは、先ほどよりも強い。後、何秒? 何分? 持つだろうか?
「さて、お話ができるのは重畳。会話が出来るの結構な事ですね。
――貴方達は大樹の嘆きながら『茨』に味方しているようですが。何故です?」
「何故、とは?」
「大樹の嘆き。腐っても深緑の防衛機構と理解しています。明確に、茨に反抗するものもいましたからね。
しかし、貴方のように、茨に味方するものもいる。もしや、ツァンフオ様の言う通り、魔に飲まれましたか?」
それは言外に、この県には魔種がかかわっているのか、と聞く言葉である。が、アバターは、鼻で笑った。
「貴様は賢い奴じゃな。口が立つ。弁舌も武器となろう。それは良い」
「それはどうも」
優雅に一礼をして見せる、アリシス。
「じゃが、この場においては、力こそがすべてとしれ。
口で戦うな。拳で戦えい。舌を回すな。熱情を巡らせい。
……まぁ、ここまで戦った貴様らに免じて、今日は一つだけ、教えてやっても良かろう。
わしは、魔に飲まれてはおらん。他は知らん。
そしてわしの目的は」
轟、と炎が巻き起こった。
「弱者どものせん滅じゃ。弱き者は生きる価値がない。この程度の呪いに屈し、活力を失うなら野垂れて死ねばいい。
わしはファルカウの怒りじゃ。わしはファルカウの嘆きじゃ。己(ファルカウ)を守れなかった愚図共への、ファルカウの絶望じゃ!」
「……だから、戦う私達のことは、歓迎していた、ってこと?」
静かに、アリアが言った。
「そうじゃ」
「戦うから、力があるから、歓迎していた、ってこと?」
「そうじゃ!」
シェームが哄笑する。
「貴様らには生きる価値がある。強く、諦めず――ああ、何度でも這い上がろう! それこそが人間の力じゃ! それこそが生き残るべき人間じゃ!
わしは貴様らを祝福しよう! わしは人間を敬い、愛そう! 猛き炎にも負けず、屈せず、命を燃やす貴様らこそを「人間」と認めよう!
それ以外はゴミじゃ」
酷く冷たく、シェームは言った。巻き起こる炎の熱が嘘のように、その言葉は冷たかった。
「私ね、ちょっとだけ楽しかった。バトルマニア、ってわけじゃないけど。楽しそうに戦うシェームさんに、少しだけ引っ張られてた」
きっ、とアリアは、シェームを睨みつけた。
「……でも、ここからは違うよ。純粋に――貴方を、人間の敵だと思って戦う」
「結構。それでこそ勇者の瞳じゃ」
「まったく。やっぱり、そなたみたいなのがいるから、わたしみたいないい火(こ)でも、恐れられたり、嫌われたりするの」
胡桃が、べぇ、と舌を出した。
「これは全くの八つ当たりだけれど、いまからそなたをぼこぼこにするの。そなたをぼこぼこにして、その後そなたの本体もぼこぼこにして、目指せ恩赦なの。だから」
ごう、と、胡桃の背に炎が巻き起こった。
「ここからはノンストップなの。カイト、まだ飛べる?」
「おう、もちろん!」
「ルチア、まだ背中を押してくれる?」
「ええ、任せて!」
胡桃の言葉に、2人は頷く。その決意に、仲間達は頷く。
体は痛み、
炎は身を焼き、
呪いは蝕み、
体は痺れる。
されど、ここで諦めてはいられない。
ここで諦めては――こいつを野放しにしては、いけない!
「いきますよ。これで最後にしましょう」
ボディが、言った。その背に、仲間達の意志を乗せて。
走る! 跳躍したボディが、その拳を叩きつけた! デッドリー・スカイ! 叩きつけたこぶし、地を抉る衝撃が、アバターを空に浮かす――同時、みをひねったボディのサマーソルトキックが、アバターにたたきつけられた!
「片手程度の力でコレとは、随分と力が強い。
ですが退くわけにはいかない」
――炎が肉を焼こうが、構わず進め。こんな所で足止めを喰らってたまるか。
――相手よりも熱く、激情(エラー)を燃やせ。
「貴様は静かじゃが――しかし、その内はまさに心を燃やす、人間であろうな!」
「人間。
私が」
ボディは静かに呟き、
「あなたにそれを決める権利はない」
アバターに向って拳を叩きつける! アバターの反撃のクロスカウンターが、ボディの顔面に突き刺さった。そこから火炎がボディの全身を包み、激しい熱波の中に飲み込んでいく。
「ボディ――」
ルチアが声を上げた。
止マルナ。
ボディはそう呟いた。
大地に堕ちる。ボディの身体が。刹那、ルチアはその手を掲げた。出来る限り、多くに! この力で、背中を押す!
「足を止めて! ブランシュ! クルル!」
「合点なのです! あのつまんねー演説を聞いて、がぜんやる気が出てきたってものですよ!」
「うん! 弱い人を切り捨てるっていうのなら、わたしは絶対に許さない!」
ブランシュとクルル、ふたりの射手が、再び全力の射撃を敢行する! うち放たれた射撃が、面制圧の要領で、アバターも、その周囲も、まとめて抉り穿った!
「貴様らも、安全圏におらんでちと焼かれてみるか!?」
かぁ、と気合と共に、アバターがその両手を張り出す。同時に放たれた散弾のような炎の弾丸が、ブランシュ、クルル、2人を狙って飛来する! 周囲にまき散らされる炎の弾丸が、衝撃と焦熱を伴って、ふたりの身体を焼いた。
「まけ、ねー、ですよぉっ!!」
ブランシュが、雄叫びと共に再度砲撃を撃ち放った。すがん、と放たれた砲弾が、アバターの左脚を消し飛ばす! ちぃ、と吠えたアバターが、飛びずさろうとするのを、小さなツタが地面から伸びて、からめとった。
「逃がさない、よ」
苦痛に呻きながら、クルルの放った一撃が、アバターの足を捉えていた。
「ヴェリス! まだ舞えるかの?」
「ええ、ええ、この戦闘くらい踊り切れなくてなにがプリマ! 私のプライドに賭けて踊りぬくわ!」
夢心地の言葉に、ヴェリスは頷く。夢心地は、かか、と笑った。
「良い返事じゃ!
よおし、今年の納涼盆踊りはそなたに任せるかの!」
「冗談でしょう、へんなおじさん?」
ヴェリスは笑ってみせる。飛び込んだ二人が、その脚で、その刃で、アバターを切り裂いた! クロスの字に切り裂かれた、炎のアバター――だが、次の刹那、四散したアバターは、そのまま爆発を巻き起こし、二人を吹き飛ばして見せる!
「なんとぉ! 滅茶苦茶な!」
「けれど、なりふり構っていられないのね、炎さん?」
吹き飛ばされつつ、そういう。その通りだろう。アバターは確かに、追い詰められつつある。イレギュラーズ達の気迫に。イレギュラーズ達の勇気に。
「は、はは! はははは! 呪いも! 炎も! 踏み越えるか!」
四散したアバターが、再び人の形を作り出す。だが、その姿かたちは、それまでのサイズに比べて明らかに小さく減少していた。
「けど、こっちも限界だ!」
カイトが叫んだ。先ほどから、動きが鈍い。身体がピリピリと痛み、しびれは着実に強くなっていく。
「このタイミングで決めるぞ!」
「カイト、そなた、巻き込まれないようにしてね」
胡桃がその手を掲げると、ぼっ、と指先に蒼炎が踊り、次の瞬間、それを合図にしたように、雷が舞い踊る!
胡桃の呼び出した雷が、激しくスパークした!
「これこそが紛れもないわたしの本気、わたしそのものたる蒼炎なの。
炎の属性同士、勝負なの」
てい、とその手を振り下ろすと、巻き起こる雷と炎が、アバターの周囲をまとめて薙ぎ払うように踊った! 雷、炎、二つの打撃が、アバターの炎を、その勢いで消化するように叩きつけられる!
「これが、貴様の、炎かい!!」
アバターは、自らの炎を巻き起こすと、その雷と炎にぶつけた。強烈な炎がぶつかり合い、爆発を巻き起こす! その爆炎に紛れながら、カイトは突撃!
「炎よりも朱い俺の一撃をくらいやがれ!!」
残影百朱――赤。閃。影。放たれる斬撃が、アバターを削り飛ばした――が、飛び散ったはずの腕が、カイトの胸ぐらをつかみあげる。
「惜しかったなぁ!」
アバターが笑う。足りない、もう少し、あと少し――! カイトがもがく刹那、再生しつつある腕に、飛来する浄罪の剣が叩きつけられる! ばぢん、と音を立てて、その炎の手が、爆散した。支えを失ったカイトが地に落下する。アバターは、その一撃に完全に虚をつかれた様に、その方向に頭を振った。
そこには、剣の主、アリシスの姿と。
跳躍する、アリアの姿があった。
「――伝承に残る炎の精霊、太古に伝わる最古の嘆き。
――そんな存在と戦えるなんて、精霊としても詩人としても感無量だったよ」
短剣を握る。その刃に集う、極大の魔力。
「できれば、貴男が、私達と肩を並べてくれる存在ならば、もっとよかったけれど。
でも、それがかなわないなら――」
私は。
振るわれる魔力が、りぃん、と澄んだ音をたてた。凝縮された、破壊的神秘力の一撃。アリアの、一撃。
「あなたを、倒すっ!」
振るわれる短剣が、アバターの胸に突き刺さった。刹那、零距離で爆発した破壊の力が、アバターの炎を一気に吹き飛ばす! それは、中心から炎が圧倒的な爆発を巻き起こしたように、炎を千々に砕いて破砕させた。飛び散った炎は、もはや元の場所に集う事も出来ずに、空中で、しゅう、と音を立てて消滅していく。
「は。はは。ははははは!!」
哄笑が響いた。アリアの目の前に、小さな、小さな炎の核があった。
「見事じゃ! 見事じゃ! 見事な勇者じゃ!」
ははは、ははは、とそれは笑う。イレギュラーズ達の健闘を称えるように。イレギュラーズ達の力を讃えるように。
「良いじゃろう、此度はわしの負けじゃ。
良い。良い戦士たちじゃった。
貴様らの顔、名、覚えておこう。嗚呼、特に、アリア。アリシス。貴様んら二人、よっく覚えておこう」
ぼん、と音を立てて、核炎が消え去る。同時、周囲の炎の回廊が、音もなく消え去っていった。後には、他の場所と同じ、冬のような景色だけが残っている。
「……かった、の?」
痛む体を引きずりながら、アリアが呟いた。
「そのようです」
ボロボロの身体で、アリシスが言う。
皆、ボロボロだった。
皆、防御のことなど考えず、とにかく攻撃に注力したのだ。
こうなって当然。
しかし、それ故に得られた勝利だった。
彼らは勇を示した。
それ故に、可能性は応えたのだ。
「……確かに、力は上回ったかもしれないけどさ。
あいつの言い草を信じるならば、素直に喜べねーよな」
カイトが言う。
「弱いものは人間じゃない。そんなの、絶対に間違ってる」
クルルが言う。
「当たり前じゃ! 世の中のすべてが殿だったら大変じゃろうが!
町人も、侍も、商人も、農民も、役人もいて、殿がいる。それが世の中というものよ」
夢心地が言った。
「そうです。ブランシュ、難しい事はよくわかんねーですけど、シェームの言ったことが変な事だけは分かるですよ!」
ブランシュも、憤慨したようにそう言った。
「シェームの言ったことが事実なら、この状況……つまり、多くの弱き者が、呪いの内に衰弱死する状況は、自らが手を下さずとも強弱の選別ができる、という事なのでしょうか?」
ボディがそういうのへ、ルチアが頭を振った。
「……そんな事のために、茨に協力している、の?」
「ふぅむ、何とも何ともな奴なの。
コャー、これは許せないの」
「……けれど、どうかしらね? それが本当に、彼の本心かしら?」
ヴィリスが言った。
「ともに踊ってみた感想だけれど。確かに、彼は喜んでいた……それは間違いないわ。
でも……何か、見えない陰りを感じたわ」
「ふむ。まだ本心を隠している、という事でしょうか?」
アリシスの言葉に、アリアが続いた。
「……なんにしても、シェームは止めないといけないよね。
『茨』の陣営に力を貸しているなら……」
敵であることに、違いはない。
だが、敵はアバターであったとしても、強烈な力を持った相手であった。
果たして、その本領を発揮した時、奴は――どのような力を見せるのか。
イレギュラーズ達は、戦いの予感を感じつつ。
ひとまず、勝利の余韻に、身体を休めるのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
シェーム。果たしてその本心は何処に。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
アンテローゼ大聖堂を制圧します。
そのためにも、付近に鎮座する、この炎の嘆きのアバターを撃破しなければなりません。
●成功条件
シェーム・アバターの撃破
●特殊失敗条件
戦闘開始後、25ターンが経過する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
深緑の異変に対抗するため、大迷宮ヘイムダリオンを利用し、深緑内部、アンテローゼ大聖堂へと到達した皆さん。
その目の前に広がっていたのは、苛烈な冬の景色。そして、その冬をも吹き飛ばすような、強烈な炎の回廊でした。
事前に、ルドラ・ヘスから『炎の嘆き、シェーム』の話を聞いていた皆さんは、その存在を確認するためにも、炎の回廊へ突入します。
はたして――そこには、シェームのアバターを名乗る存在が、皆さんを待ち受けていたのです。
シェーム・アバターの目的は、どうやら皆さんと戦う事。それは、此方にとっても同じ事です。
このアバターを撃破し、炎の回廊を消し去り、アンテローゼ大聖堂を制圧、確保します。
作戦エリアは、炎の回廊。制作者であるシェーム・アバターは純粋な力比べをしたいらしく、特に戦闘ペナルティなどは発生しません。
●エネミーデータ
シェーム・アバター ×1
人型をとった苛烈な炎です。炎の拳と脚を用いた、格闘家のような戦い方を得意とします。
パラメータ傾向としては、命中と回避の高めなスピードファイターといった趣ですが、単体で皆さんを相手取る気概の相手です。その他のパラメータも決して低く劣るものとは考えない方がいいでしょう。
その拳は、皆さんの防御技術を貫通して肉体にダメージを与え、苛烈な気迫は、皆さんに施された有利な状態も吹き飛ばすでしょう。
放たれる炎はどこまでも遠く皆さんを狙い、特に体力の多い序盤は、渾身の一撃で強烈な打撃を与えてくるはずです。
もとより、皆さんには25ターンの制限時間もあります。耐えてチャンスを狙う、というよりは、相手の狙いに乗って、肉を切らせて骨を断つ……攻めの姿勢が勝機をもたらすかもしれません。
●『茨咎の呪い』
大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。
25ターンの制限時間の理由です。25ターン後に戦えなくなるのはもちろんですが、シェームが皆さんに興味をなくして、皆さんを外に放り出します。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしています。
●備考
本シナリオは運営都合上、納品日を延長させて頂く場合が御座います。
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