PandoraPartyProject

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鎖された常春

 深緑が謎の茨棘によって封鎖された――
 その時を同じくして妖精郷も深緑へと至る大迷宮ヘイムダリオンを利用することが封じられた。
 それは妖精女王ファレノプシスの決定である。
 迷宮森林へと遊びに出掛けた妖精達が帰還しない。大迷宮さえも異変を齎し、邪妖精達が迷宮森林へと駆け出して行く。
 異常事態を外へ伝えようとも『外へと直接通じる秘密の小道』は謎の茨によって封じられてしまっていた。
「ど、どどどど、どうしようです」
 困惑を滲ませるのはファレノプシスの侍女フロックス
 異常事態を助けてくれる素敵なヒーロー・イレギュラーズへの連絡も絶たれてしまった。此の儘では妖精は常春に閉じ込められた儘、帰らぬ友人を見捨てるしかないのか……。
 妖精と呼ばれた『精霊種』達は封鎖されていても、自ら達だけで生活する基盤は有している。
 だが――彼女達は新たな友を得た。長耳の乙女達。深き森の植物。イレギュラーズと呼ばれた異邦人。
 故に、閉じこもっているという選択肢はなかったのだ。

「きゃあッ!!!」

 頭を悩ませるフロックスとファレノプシスの耳に届いたのは警備を行っていた妖精の叫び声であった。
「どうしたのですか」
「あ、あああああ、あの、女王様、あの、あの子って……!!!」
「女王様ぁ~助けてください、翅、ぎゅってされて、動けません~~」
 顔を上げたファレノプシスの前に立っていたのは空色の髪、茨の絡んだ翼を有した少女であった。
「……『B』さん」
「そ。Bちゃんって呼んでいーよ。久しぶり、ファレノプシス。
 あの気が狂ってアンタをハニーって呼んでたキモいオッサンに囚われのお姫様してた時ぶりじゃない?」
 ぐ、と息を呑んだファレノプシスを護るようにフロックスが両手を開く。
 どうやらブルーベルは普通に城に入ってきて、押し止めようとした妖精の翅を掴んで持ってきたらしい。
「離して~! 離してってば~!」
「あ、ごめん。羽虫がアタシの事攻撃するから掴んでたんだったわ。
 悪いね。けど、用件聞く前に殴るとか蛮族かよ、深呼吸って知ってる? 知らなかったらダサいけど」
「あ、ううん、ご、ごめん、って違うよ! 知ってる!」
 相変わらずのマイペースさを披露するブルーベルにフロックスはむっと唇を尖らせた。
 用事も無くこんな場所にまで乗り込んでくるなと言いたいが、何らかのメッセンジャーであるならば彼女で良かったと安心するべきだろうか。
 怠惰の魔種ブルーベル。彼女は妖精郷に侵攻を掛けた魔種の一人だ。
 彼女が行ったのは勇者パーティーの魔法使い『マナセ』が妖精郷に『冬の王』を封じるために作成したとされる宝珠『咎の花(ターリア・フルール)』の奪取。
 彼女のご主人様だとされる『怠惰の冠位』による指示に従ったブルーベルは邪妖精を引き連れ、クオン・フユツキと共に作戦を決行した。
 結果として冬の王の力を有したのはクオン・フユツキ。『咎の花』はブルーベルが手にして冠位魔種のもとに届けられたと推測されている。
 だが――フロックスもファレノプシスも知っている。
『怠惰の魔種』ブルーベルは妖精の命を蔑ろにする発言はするが、生物を好んで殺そうとはしていなかった。寧ろ、そうして居たのは『魔種』タータリクスであったというのが妖精達の認識だ。
「……『B』さんが此処にいらっしゃったのには何か訳があるんですか?」
「まーね。困ってんでしょ。アンタら。……アタシの主さまは妖精郷にはもう用事は無いんだよね。
 んで、アタシって、アンタらの宝物を奪ったんでしょ? ま、申し訳ないし――……それに、アンタらだって生きてんだ。別にアタシは死んで欲しいわけじゃない」
「……え?」
「何も。深緑には行かないって約束できるか聞いてんの」
「どうしてなのです?」
 フロックスはブルーベルへとずいずいと詰め寄った。翅を捕まれたり、人質代わりにされた経験のある彼女は随分とブルーベルに慣れていた。
「深緑に来たらアンタら見たいな羽虫、簡単に死ぬでしょ。
 だからだよ。外には出してやる道をちょっと細工してやる。死にたくないなら来んな」
「ブルーベルは魔種じゃないのです? わたしたちなんて死んでもどうでもいいんじゃないのです!?」
「まあ、ね。アタシは主さまがアンタを殺せってんなら何時だってそうするよ。
 アタシは主さまに命を救われた。だから、主さまの為なら何だって出来る。けど、羽虫には興味ねーってさ。んで、どうすんの。さっさと決めなよ。翅にペンキ塗りたくってやろうか」
 外への道。
 ブルーベルは魔種だ。だが、決して悪人と呼べるほどに『その性質は捻じ曲がっていない』
 彼女の発言の通り、彼女は指示があれば人殺しも厭わないだろう。だが、好き好んで誰かを殺すほどに狂いきれなかった。
「……お願い致します。フロックスを無事、外の砂漠まで送り届けてはくれませんか」
 ファレノプシスはフロックスを一瞥する。強い使命を帯びた少女はこくりと頷いた。
 ――屹度、ブルーベルは彼女を外に出す。だから、そこからだ。そこからチャンスを広げれば良い。
 決まったら行くぞと言わんばかりにフロックスの翅を掴んだブルーベルにフロックスは「だから、翅は掴むなですー!」と叫んだのだった。

※妖精郷にて何らかの動きがあるようです。
<咎の鉄条>の報告書が一部届いています!!

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