シナリオ詳細
ローレット・トレーニングIX<深緑>
オープニング
●大樹の誘い
「ようこそ、アルティオ=エルムへ。お忙しい中の来訪に、感謝いたします」
アンテローゼ大聖堂。大樹ファルカウの麓に位置するその場に招かれたイレギュラーズ一同は、『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレ(p3n000092)の柔らかな笑顔に迎え入れられた。傍らには『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス(p3n000085)が厳かな顔立ちで、然し常よりは幾分か、緊張感を和らげた様子で佇んでいる。
「貴殿らもここ暫く、幻想や練達の諸々で忙しいと聞く。折角来てくれたのだ、宴の準備も進めているが……鍛える機会を設けたいというのなら、迷宮森林の警備や周辺での鍛錬にも手を貸そう。探せば、手応えのある獣も闊歩していよう」
「ルドラチャンはお硬いネ! 『妖精郷を救ったお礼の宴席』トカ、色々誘い文句はあるんじゃないかナ?」
あれやこれやと矢継ぎ早に提案するルドラに、『虹の精霊』ライエル・クライサー(p3n000156)はいつもと変わらぬ調子で話しかける。そういえば、以前にイレギュラーズ達が訪れたときは妖精郷は混乱のさなかにあり、おいそれと立ち入れなかったことが思い出される。
ルドラも口にしているが、アンテローゼ大聖堂での宴は無論のこと、広大な迷宮森林を探索し魔獣などの討伐に精をだすもよし、火を使わない限りは戦闘訓練や障害踏破訓練などにも使えるだろう。
そして、この場にライエルがいるということは――。
「お久しぶりです、イレギュラーズ。ご無沙汰しております」
妖精郷の女王、『胡蝶の夢』ファレノプシスがライエルの傍らをゆっくりと飛び回っていた。妖精郷の一件以来という者も少なくあるまい。となれば、多くの者にとっては凡そ一年近くぶりの再会となろうか?
「ファレノプシスチャンは、妖精郷に招待したんだってサ! 折角だから、僕も一緒していいカナ?」
「勿論です。平和になった妖精郷で、皆さんと過ごしたい。それは偽らざる本音ですから」
「イレギュラーズなの! パーティーやるの! わたしはこっちで一杯ひっかけるから付き合えなの!」
と、いい雰囲気になっていたところに『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)が身の丈にあった小さな――蜂蜜酒(ミード)入りの――グラスを掲げながら一同を誘う。
こころなしかすでに顔が赤らんでおり、宴の始まりよりも早く随分やっている様子だった。リュミエも、ましてファレノプシスもいる前での大胆な行動に、ライエルは楽器を鳴らし、ルドラは些か以上に顔を青くして両者の去就を見守った。無論、双方ともにそんな些事に目くじらを立てるようなことはないのだが。
「妖精郷では催しを設けることはできませんが、それでも落ち着いて見て回っていただけるかと。お初にお目にかかる方もいるでしょうから、皆さんの新たな英雄譚を聴かせて頂ければ」
「イイネ! 僕も君達の、物語に彩りを加えないとネ! ナンチャッテ!」
「素晴らしいですね。私も是非聞いてみたいものです。妖精郷に向かう皆さんは、あとでこっそり教えて下さいね?
今回も、迷宮森林やその中にあるダンジョンの探索、勿論大聖堂での宴を楽しんで頂ければ幸いです。ですが、2つだけお約束ください」
ライエルの言葉に微笑ましく返し、リュミエはイレギュラーズへと水を向ける。幾度か口にしたことですが、と前置きはあるが、有無を言わせぬ雰囲気がある。
「ひとつ、私達はこの迷宮森林を、そして草花と共存し、愛しています。そのため火を好みません。可能な限り、火を扱うのは控えて頂ければ幸いです。
ふたつ、大樹ファルカウと、この編んてローゼ大聖堂は私達が奉ずる対象でもあります。ですので、くれぐれも傷つけたり、登ったりは控えて頂ければ有り難いです」
「……ってことだから、リュミエ様にくれぐれもご迷惑をおかけしないよう気をつけるゆ。で、ポテサラ食うかゆ? 宴の準備に駆り出されたから今日のは特に出来がいいんゆ」
リュミエの忠言の合間を縫って、唐突に『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)がひょっこりと顔を出す。その手には、言葉に違わぬほど見事なポテトサラダがあったとか、なかったとか……。
- ローレット・トレーニングIX<深緑>完了
- GM名ふみの
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年08月19日 23時18分
- 参加人数85/∞人
- 相談9日
- 参加費50RC
参加者 : 85 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(85人)
リプレイ
●迷宮森林:深緑の宴
(そして今を生きている子達が健やかなる日々をこれからも過ごせますようにと、心を込めて祈り、いつかこの世界が魔種の脅威と滅びのアークから、救われる事がありますように……)
アンテローゼ大聖堂の奥で、舞は静かに祈りを捧げていた。珍しく周囲には人がおらず、彼女の祈りを妨げるものはない。去った者と残った者、どちらにも幸福があらんことを願うと、背後はにわかに騒々しくなり始め……。
「みんなコップは持ったの? じゃあいくの、かんぱーい!!」
ストレリチアは大聖堂近辺に集まった宴会好きのイレギュラーズを見渡すと、返事をまたずに乾杯の音頭をとった。相変わらずのノリに、勝手知ったる者達からは苦笑すら交じる。
「ほーら、じゃんじゃん飲んでこー!」
「液体は咀嚼しなくていいから楽……」
オデットはジュース片手に、宴会の仲間たちを煽って呑ませようとする。こういう場は、大体雰囲気に流される者、雰囲気を醸成する者、雰囲気を無視する者に大別されるが、オデットは2つ目に当たる。うえ男は怠惰であるがゆえに、渡されるものを流し込むように嚥下していた。最初こそジュースだったが、蜂蜜酒に変われば話は違う。
「飲んでいいなら飲むけど……なんか熱くない? ふわふわしてない?」
「それが酔いね。もしかして、初めてだったの?」
「……初めてだからわからん……」
うえ男は何もわからないままに、酔いに任せて寝息を立ててしまった。追い酒をかますような者がいなくて幸運の限りである。
「音楽は? お酒は? どちらもあるわね! じゃあ呑んで踊って騒ぎましょう!」
「踊り! 大好きなの! 音楽は適当にいい感じにやるの!」
祈りを終えた舞は、、辛気臭い空気は苦手とばかりに明るく振る舞う。音楽と酒。それがあれば、宴というのは大体うまくいく。ストレリチアもそれは心得ているようで、テンポやリズムなど特に考えない奔放な踊りを見せつつ舞に続く。音楽は、周囲の一般の幻想種達や雰囲気がそれについてくるもの。酒はそこらじゅうに用意されている――お誂え向きとはこういうことである。
「この国はいつからこんな開放的になったんだろうねぇ。同盟国のラサならともかく、あんまり他国の人間にこの地を踏ませるのも……」
ベルナデッタは今日この日のために集められ、いつもより開放的な深緑の様子に些か以上に閉口していた。ラサとの盟約はまあ分かる。だが、幻想や海洋、どころか異世界の者達も多くいる。閉鎖的な思考があれば、決して受け入れがたく。
「ここに開放的になった成果で他国から入ってきた食材があゆ」
「え゛?」
「そしてこれが他国の食材を使ったポテサラゆ」
「あっ……」
しかし、パパスが異国由来の食材と、それを素にしたポテサラを並べれば話は異なる。当然、パパスはポテサラのみにあらず。いろいろな料理の準備を、ルドラやましてリュミエの手を煩わせてはいけないとばかりに地道な準備を進めていたのだ。
「……ま、まあ? 食べ物は認めてやらないこともないよ。この国の食べ物は健康に優れてはいるけれど、あんまりお腹いっぱいにはならいからねぇ」
「チョロ助ゆ」
「パパス様、宴のお手伝いに来ました。ニルも、お手伝いがしたいです」
「深緑グルメ……じゃなかった、ポテサラ、オレにもちょーだーい!」
「ちゃんとマヨネーズ持ってきたのです。かけましょう」
ニルと洸汰、ラクリマ達が集まってくれば、準備メンバーはだいぶ大所帯になってくる。ラクリマは既に舌鼓を打っているし、洸汰は食べた見返りに色々と手伝いたい、とのことで。ニルはもっと原始的に、調理と提供を通して「美味しい」を体験したいが為である。
「ラクリマは黙っててもマヨ持ってくゆから……」
「せやな」
さらっと肯定されたことで反応に窮したラクリマをよそに、美咲は思い出したように問いを投げる。横では、ニルが調理中。味見役の洸汰が目を白黒させている。
「そういえば、しれっと流してたんスけど、パパス氏ってポテサラにハム入れる派なんスよね?」
「まあ、そうだゆ。ベーコン入れることもあゆ。その辺ケースバイケースゆ」
「えっ、主義主張ありきで戦争になったりしないんだ……あ、佐藤でス」
ポテサラに入れるのはハムかベーコンか論争は、ポテサラハーモニアには関係無いらしい。美咲の懸念は虚空に散った。
「ポテトサラダ? ここの名物か?」
「ここのっていうより一部の幻想種の、かな……食べてく?」
深緑に来たものの手持ち無沙汰にしていたテリオスは、ラクリマにスプーンを差し出され一も二もなく飛びついた。結果、その味に驚きを覚え、おずおずと次のひと口をと手をのばす。
「なんだこれ……店で出すレベルだろ……宴で披露するから特別製なのか?」
「皆様で作るから、『おいしい』のだと思います」
「協力して何かを作るって楽しいもんな! オレも料理の手伝いとかはあんまりしたことないから楽しんでるぜ」
テリオスの疑問に、ニルと洸汰が応じる。何か特別なもの、というわけでもなく。人の思いというものがあれば、それは何でも特別になりうるのである。だから多分、普通の食事も囲む相手と雰囲気が揃えばいくらでも美味しくなる。今しがた、テリオスの手元に渡されたニル謹製の料理に、ニル自身が美味しくなる魔法をかけているように、きっかけは何でもいいのだ。
――そんなこんなで、俺のローレットトレーニングは見事なポテサラを食べて平和に終了したのである――
「いや勝手に終わらすなゆ。ラクリマは洸汰とガキ共の相手でもしてこいゆ」
「きちんとしたお目通りは初めてでしょうか……リュミエ様」
「長い時を生き続ける幻想種の中でも、最年長らしい、な」
「最年長か、と問われると難しいですが、多くの者よりは長じておりましょう。こうして皆様とお話できることを、私は光栄に思います」
アリアとエクスマリアは、宴や訓練の一環という勢いを借りてリュミエとの接見を果たしていた。接見、というほどあらたまった雰囲気ではないが、すでにアリアは緊張で軽く震えている。
「絶えてしまった物語を今に蘇らせるのも、私のような者の務め……ってお師匠が昔言ってました! ですので、幻想で絶えてしまった古い物語などがあれば教えて頂きたいと思って……」
「奇遇だ、な。マリアも、勇者王の逸話やグラオクローネ、シャイネン・ナハトについてより深い話を知っているのでは、と、期待していた」
ふたりの興味津々な態度に、リュミエは暫し黙考してから思い出したように顔を上げた。
「勇者王のお話……であれば、幻想の方で彼に纏わる大きな動きがあったと聞きます。その節により多くの逸話が知られることとなったと聞きますから、それについてはまたの機会と致しましょう。私が知る寝物語などであれば、幾つかお教えできるとは……」
「是非!」
アリアは一筋の鼻血をたらしつつリュミエに迫る。「寝物語」といえば安易に聞こえようが、その実、旧き深緑で起きた様々な――伝承に現れそうな獣の話であるとか、ほかにも数多くを聞く機会が訪れたのであった。
それで終わりなら、いいのだが。
「もう一つ、教えてもらえない、か。リュミエの年れ」
「不敬ェェェーーーーッ!」
エクスマリア、言いかけたところで背後からパパスにすりこぎフルスイングを食らった。手加減していたのか、傷は浅いようだが、周囲の深緑の民がかなり色めきだっているので、これ以上聞くべきではなさそうだ。
「お目通り叶って光栄です、リュミエ様。直接会うのは久々、になりますかね。今日は連れがいますがご容赦を。多分、ある意味で”再会”でもあるでしょうから」
「ええ、久方ぶりとなりますね。先日は色々と教えて頂き感謝しています」
クロバは傍らに立つシフォリィに目配せをしつつ、恭しくリュミエに頭を下げた。リュミエも、クロバに頭を上げるよう促しつつも、シフォリィへと視線を向ける。その目は、どこか懐かしいものを見るかのようなそれだった。……恐らく、以前の両者であれば交わされないであろう視線の交錯。
「貴女が、そうなのですね。『お久しぶりですね』」
「……はい。今後もご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
シフォリィは、今のやり取りだけで十分だった。何から話せば信じてもらえるものかと考えていたが、リュミエは先日の幻想の一件を大雑把にだが心得ていた。故に、相手の表情に合点がいったのだろう。
「リュミエ様、俺を鍛えてはくれませんか? 深緑に携わる以上そこでの力の使い方をよく覚えておかねばなりませんし」
「宴席を中座する程度であれば構いませんが、私でよいのですか?」
「いいポテトとベーコンが手に入ったので、ポテサラを手土産にということで。是非」
リュミエはその言葉に苦笑すると、軽く手を振って支持を出す。半ばクロバからふんだくるように材料を受け取った「それ」は、満足気に頷いてから早く行けとばかりに手を振ってクロバを追いやったのであった。
なおこの後、見ているシフォリィが不安になるほどにリュミエにもまれたクロバの姿を、多くのものが目撃している。
「宴が始まるとどうなる? 知らないのか? 飲みすぎる馬鹿が出る」
聖霊はげんなりしたような表情で薬を持ってあるきまわっていた。ファルカウ近辺、大聖堂周辺を拠点として催された宴会も酣といったところで、必然的に倒れたりふらふらになる飲兵衛が増え始めるタイミングだ。こういうときでも、だからこそ、気を引き締めなきゃいけないのが医者の辛いところ。……そして、迷宮森林内で戦って傷ついたり馬鹿やって傷ついた連中を診るのも、また彼に回ってくる役目で。
「これに懲りたら無理な飲酒と無謀な戦いは控えるんだな。最悪死ぬぞ」
後者は無理だろうけど、と内心で思いつつ、しかし口には出さなかった。酒に呑まれて死なぬように、とは心からの言葉で釘を刺したのだが。
宴は未だ半ばなれど、輪のなかで楽しむ者達ばかりでもなく。
そして、深緑は――迷宮森林のみでもなし。
●妖精郷:探索と讃歌
「ふむ、妖精卿。私の仲間の精霊種達が集うのだろうかと覗いてみれば――む、それにしては随分と騒がしい」
思ってたのと、ちょっと違う――ラニットの妖精郷への第一印象はそんな感じだった。そこかしこで妖精が舞い、楽しく遊び騒ぐ。子供の群れが思い思いに過ごすかのような姿は、ラニットからすれば殊更に『自由』に見えたのかもしれない。不思議そうに鼻を鳴らしながら歩くその姿に誘われ、妖精達が顔を出す。「おともだち?」と口々にささやき問いかける姿に混じって、同じく獣姿のグリムアザース――グウィルギが姿を見せた。見れば、すでに妖精達にたいそう気に入られているようだ。
「我も一応はグリムアザースと呼ばれるものの一員であるからして、この地に顔を出したわけだが……どうしたことか、このように絡まれてしまった」
「みかがみの泉が近いからー、蓮の花や他の花の子たちがおおいんだよー」
「……だそうだ」
グウィルギが難儀して声を絞り出すと、補足するように妖精の1人が説明してくれた。ラニットがゆっくりと妖精達に近づいていくと、妖精達もラニットへと飛び移っていく。どこに隠れていたのか、後から後から姿を見せるではないか。
「……お、おい私の身体はベッドではないぞ、そう一斉に群がるんじゃない!」
「花畑などは我の住まう洞窟には無かったものである。珍しいものだ」
ラニットが慌てつつも受け入れようと四苦八苦する傍ら、グウィルギは花の香を静かに楽しむのだった。
妖精郷の調度品というやつは、大抵に於いて妖精サイズだ。人間を受け容れて宴会を、となると正直厳しい。だからこそ、ストレリチアは大聖堂にいたのだが……。
「わー! あまいものがいっぱい!」
「たべてもいーの?」
「勿論よ。そのために持ってきたんだから」
例外的に、来訪者が宴を開けばその限りではない。アルフィンレーヌが、この場における典型例だ。いつの間に用意したのか、数多のお菓子(人間サイズ)を広げてエウィンの町を賑やかすその姿は、妖精ならずとも「宴会」として目に映るのも当然だろう。
(ぁぁぁぁ……なんて可愛いのかしら? 連れ帰ったらだめ?)
本人はこのとおり、やや邪な考えが無いではないのだが。
「出来たばかりのおいしいお茶はいかがですか?」
「嬉しいわ、即興で作ったのかしら?」
そんなアルフィンレーヌにストレートティーを差し出したのはSuvia。どうやらトレーニングの一環としてブレンドティーの材料探しに来ていたのだが、一息つく意味でも、見つけた草花で水出しの茶を用意した様子。火を使わないなりの、彼女の工夫というわけである。
「新しい素材も見つかって、これからもっと見つかるのかと思うと……妖精郷に来れたのはラッキーですの」
しみじみと語る彼女の目には、心からの喜びが見て取れた。そして、その穏やかな空気とお菓子とお茶の香りは、必然的に人を集めるもので。
「さぁさ、皆さまご覧あれ。絡繰・カタンの人形劇が始まるよ!」
「おや、人形劇かい? 僕の音楽は必要カナ?」
そんな雰囲気に、カタンが如き芸人が引き寄せられぬはずもない。そして、劇といえば音楽……というノリで、ライエルが引き寄せられたのもまた、無理からぬことであったのかもしれない。
「ライエルさんの英雄譚? さっき召喚されたばかりのウチに、是非聞かせてほしい! です!」
「おやおや、ジェントルなお嬢サン、どんな話がお望みかナ?」
そして、英雄譚を紡ぐライエルに引っ張られるようにしてウテナが引き寄せられてくる。イレギュラーズとして名を連ねたばかりの彼女にとって、小さな逸話から妖精郷の戦いまで、数多の英雄譚が輝きを放つものであることは疑いようもない。カタンの人形に合わせるように、ライエルは弦を弾いて歌い出す――。
「語れるような冒険なんてしてないけれど、聞くのはとても楽しいね。それに、やっぱり深緑の蜂蜜酒はたまらないなぁ」
創は妖精郷へ辿り着くと、周囲の空気に――宴会というよりはお茶会のノリに――ひとしきり面食らってから、遅まきながらに色々と理解した。けれど迷宮森林だろうと妖精郷だろうと、豊かな自然と澄んだ空気、住民達の明るい雰囲気は同じこと。流れてくるライエルの歌は創作意欲を弥増し、木工細工を主とするその欲求と葛藤することとなる。無論、酒が進むにつれて天秤は傾き、より苦しみに悶えることとなるのだが。
「あら。キュウはご飯がとっても大好きなのに、今日はちょっぴりしか召し上がっていないのねえ」
そんな騒ぎから少し離れて、野菜ジュースの入ったグラスを揺らしながらポシェティケトはラヴの顔を覗き込んだ。同じく林檎ジュースを(どの伝手で手に入れたかはさておき)揺らすラヴの表情は、常よりもなお静かなものに思われた。
「大丈夫よ、体調が悪いわけではないの」
「平気? ああ、それなら良かった」
ラヴは、みかがみの泉に視線を移す。月夜の塔のほど近く、泉の上で交わされた戦いを思い出す。自らと同じ姿をしたラヴ・アルベド。彼女は、戦いで果てることこそなかったが、自らの言葉を、自らでない誰かの為に、信頼を勝ち取るためにその生命を捨てたのだった。
あの生き方を、否定も肯定もできはしない。
「私が誰かの為に死んだら、怒る?」
「……ワタシは、きっと、怒らないわ」
そんな想いを一切口にせず、唐突に切り出された話題にポシェティケトは暫し硬直してしまった。余りに唐突な問いは、しかし理解すれば容易いものだ。
「キュウとよく似た、あっという間に駆け抜けていったあの子……彼女のことを考えていたのね」
ラヴが静かに頷くと、ポシェティケトはずい、と体を近付け、結論を繰り返した。
「怒らないわ。……そうなってしまったら、もう、怒った気持ちを伝えられないもの。でも、ずっとずっと、死んじゃうくらいに悲しいわ」
だからずっと一緒にいてくれなくちゃ、嫌よ。
そう告げた相手の顔を覗き込んだラヴは、暫し言葉を反芻した。
「解った。ありがとう、ポシェ」
口に出たのは、自然な感謝の言葉である。
「妖精郷の事件のときは、そこまで力になれたわけじゃないんだけど……この美しい場所を守るために頑張って戦ったことは覚えてるよ」
「私も、戦いの最中だったからそればかり必死で……平和になったこの地のを見るのは、楽しみでした」
「あの大事件からこちら、なかなか足を運ぶことが出来なかったからねえ」
アルム、クロエ、晏雷の3人は、妖精郷の戦いの記憶を今でも鮮明に思い出せる。それぞれが大なり小なり関わったかの戦い。冬の王の影響下で凍りついた妖精郷を覚えていればこそ、常春の平和に浴するこの地に対する思い入れはより強くなるというものだ。
「ああ、ほんとうに冬に飲み込まれてしまわなくてよかった」
「本当に! あのままだったら、こうして美味しいお菓子を食べることもできませんでした」
「妖精達の作ったお酒も楽しめなかったんだろうと考えると、本当によかったよねぇ、ふふ……」
晏雷は妖精郷の空気を、クロエは妖精達から貰った小さい小さいお菓子やキラキラした色々な場所を、そしてアルムは妖精郷で手に入れた蜂蜜酒をそれぞれ愛でていた。それもこれも、全て彼等が死力を尽くして勝ち取ったものだ。妖精郷を冬の王の手から解放した、その功の先にあるものだ。
「戦いはまだ慣れなくて、傷付くものがあるから好きじゃありません。でも、誰かを守るための力を身に付けたいです」
「この、ほっとする空気と喜びに満ちた精霊達を守れるなら、それもいいのかもしれないね」
クロエのみならず、イレギュラーズには本質的に戦いを忌む者は少なくはない。
だが、彼等彼女等は皆、何かを護るために武器を手に取ることを選んだ者達だ。選ばれた義務を、平和の存続という代価のために果たす者達だ。
晏雷とて、それを理解しているからこそ、目を細めてこの麗しい妖精郷に向き合うのだ。
「あれ、あっちに人が集まってる……?」
「ライエルさんですね。宴会……でしょうか」
アルムはぼやけた視線の先に見えた人だかりに、ついフラフラと近づいていく。他の2人も、それを放っておくわけにもいかずついていき……小さなお茶会は、また賑やかさを増す様子だ。
「初めまして、女王様。ボクはロロン・ラプス。人工精霊、星喰らいのエリクシル」
「私はフルール、こっちが私の精霊たち……あぁ、ジャバウォックは大きくて歩くだけで妖精郷の土を踏み荒らしてしまうからお留守番。ククルカンは蛇だけど食べないから大丈夫。クラーケンはおいたはしちゃ駄目よ?一番食欲旺盛なのはアルミラージかしら。果物とかあげたら喜ぶけど、あまり食べさせ過ぎると私が吐くわ?仲良くしやすいのは怠惰なキャスパリーグか悪戯好きのラタトスクかしらね」
「はじめまして、ロロンさん。フルールさんは以前、此方にいらしていたと聞いています……ふふ、大所帯なのですね? その子達と一緒に、平和になった妖精郷を楽しんでいってくださいね」
ロロンとフルールは、ファレプノシスとの面通しの為にアヴァル=ケインを訪れていた。人工の精霊と、多くの精霊を侍らせる少女。精霊種の端くれたる妖精達を統べる女王にとって、2人の在り方はそれだけで興味深い。友好的であるのならなおさらだ。……が、今日は流石にその2人だけが客人というわけでもなく。
「女王、折り入って頼みがある。城内に保管している書物などを見せてくれないか? 俺はそこまで大きな成果を挙げたわけではないが……」
「メーコも妖精郷の本が読みたいですめぇ。色々知りたいのですめぇ」
「図書館とか、錬金術師の妖精とかいないかしら? 妖精郷ならではの勉強ができるなら教えて欲しいわ」
サイズ、メーコ、アルメリアの3人は、異口同音に「妖精郷の知識」を所望した。サイズは鎌の精霊として、妖精郷を殊更気にかけていたのだから当然だ。メーコもアルメリアも、妖精郷への好奇心や、それに限らぬ探究心を胸に秘める者同士。知識を得たいと思う気持ちは、互いに負けていないのである。
「錬金術を修めている妖精には心当たりはありませんが、城内の蔵書でよければなんなりとご覧になってください。私達のサイズのものが殆どで、皆さんが普通に読めるものは数少ないのですけれど。それでよければ」
「むしろ歓迎だ」
「問題ないですめぇ」
「まって、むしろ人間サイズのものが存在するの?! ソッチのほうが驚きだわ……!」
三者三様、知識を得られるのなら問題ないといった様子。ファレプノシスも、慮外の喜びように我が事のように嬉しくなってしまう。
「妖精郷はいつでも暖かくて、ついつい眠くなってしまいますめぇ……すぅ……」
「ちょっとメーコ、童話の本を集めて『今から読みますめぇ』ってさっき言ったばっかりじゃない! もう……あ、この本面白いわね」
早々に物語の山の中で夢の世界に旅立ったメーコはさておき、アルメリアは指先ほどの本のなかから、欲しいモノを選び取っていく。虫眼鏡でもないと解読に難儀するが、それだけ面白い内容、興味深い研究の成果などが混じっている。小さいサイズなので、『妖精郷を襲った錬金術師』達の知識とは異なるようだ。
「虹の架け橋についてもちらっと書いてあるけど、やっぱり勇者王の足跡や逸話の話が多いな……妖精郷でもここまで功績を残していたとは」
サイズにとって、調べ物の本題は虹の架け橋についてだった。だが、それに限らずとも資料の多くは初見のものばかりだ。勇者王の偉業、そして妖精郷での足跡をめにすれば、サイズとていてもたってもいられぬ程に興味が湧くというものだ。知らず、その足は外に出ようとリズムを刻んでいるのだった。
「以前の騒動の際は、あまりに目まぐるしく……落ち着いて見て回ることなどできませんでしたわね」
「アルベド騒ぎ……あの時は大変だったね」
タントとジェックは、しっかりと手を繋ぎながらエウィンの町を練り歩く。そういえば、一年前の事件ではタントのアルベドも現れたのだったし、ジェックはダンジョンアタックで双子妖精のスミレの伝達不足で大変な目にあったことは記憶に新しい。
そういう意味では、2人にとって思い出深い場所のひとつではあるのだ。
「はぐれては大変ですわ、ジェック様! きっと妖精たちにイタズラされてしまいますわよ!」
「妖精の悪戯かぁ……ふふ、怖い怖い。手を繋いで行かないとね?」
タントの言葉に、ジェックも笑い返しつつ一層強く手を握る。2人の雰囲気がいい感じになったところで、傍らから唐突に声がした。
「「じぇっく……久しぶりだにゃ……」」
「ヒィ!? その話し方は忘れてよ!」
声の主は、ジェックにかつて助けを求めた双子妖精。忘れっぽくて享楽的な妖精達だが、どうやらジェックは色濃く記憶されていたらしい。嬉しくないかもしれないが。
「おともだちをつれてきたの」
「よろこぶとおもってつれてきたの」
「あらあらあら! お友達が増えるのは大歓迎ですわ!」
「アタシはジェック。アナタ達は何の妖精かな?」
新たに現れた妖精達に嬉しそうに話しかけるタントと、それを見守りつつ互いに自己紹介に興じるジェック。
1年前と変わらない、否、それ以上の賑やかさと華やかさを纏った2人の姿に、妖精達もついつい嬉しくなってしまった様子であった。
「説明しよう、グルメレースとは兎に角目の前にある食べ物を食べながらゴールを目指すレースだ。目の前に現れた食べ物を完食するまで進めない、お残しは許されない」
「ぐるめ、れー、す……? ようせいさん、たちと、あそぶ、の?」
「宴会があれば楽しみたかったのだが……なんだこれは? なんで参加しているのだ?」
マテリアの淡々とした説明に、舞香と舞妃蓮は完全に雰囲気に呑まれていた。妖精達と遊んでいたはずの舞香。特に理由もなかったが宴会の気配とばかりにお茶会へと向かおうとしていた舞妃蓮。「食べて楽しむならこれはどうだ」と誘われた結果がこれである。一人ぼっちじゃ寂しいもんな。
「フィーはこの常春の国でよい昼寝タイムを満喫したかっただけなのじゃが???」
「しっかり運動した後ならぐっすり眠れるから大丈夫だ」
「ルシェはリチェに乗って、リチェが走って食べるけど大丈夫?」
「モルなら草花を好き嫌いせず食べるだろう。大歓迎だ」
なおフィラもキルシェも巻き込み事故みたいな感じで巻き込まれているワケだが、概ね言いくるめているので問題なさそうだった(大問題だよ)。
「ボクが挑むのはキノコだ。みんなはぶっちゃけなんでもいい」
「えー、と……おはな?」
「木の実で! キノコとか花は下手なものを食べたら大変なことになりそうだ! 妖精と遊ぶという選択肢はないのか?!」
「フィーも妖精達と遊びたいのじゃが?」
「リチェは好き嫌いしない(と思う)から大丈夫だよ! ……だよね?」
流されるままに花を食むことになった舞香、無難そうで危険な選択をした舞妃蓮、すでに妖精を探したくてたまらないフィラ、そしてキルシェの言葉にプイっと鼻を鳴らすリチェルカーレ。
妖精郷で何故グルメレースが始まるのか? 果たしてマトモなターゲットのみを食べて普通にゴールできるのか? そして舞妃蓮とフィラは妖精達と遊べるのか?
数多の疑問と不安要素を抱えつつ、今レースが始まる……!
なおマテリアは1600万色くらいに光るダンシングキノコが頭から生え、舞香はいい香りの花が生えてきたことで妖精達を招き寄せ、舞妃蓮とフィラは妖精に囲まれ眠りに就いてリタイヤ。普通に完走したのはリチェルカーレだけだったという。
その頃グリーフは、ファレプノシスから許可を取り付ける形で妖精郷内に点在するアルベド、ないしキトリニタス達の戦没地を練り歩いていた。それらは自然の中であり、町であり、アヴァル=ケイン周辺であり。平和の中に影を落とす戦いの跡を、彼は慈しむように巡っていく。記憶を、或いは報告書の束を頼りにひとしきり巡り、己の領地に向かったのは日が傾くほどに時間が経っていた頃だった。
(現地の方にとっては、彼らは同胞や妖精郷を害した存在。それでもあの時あの瞬間、たとえ作られた存在だとしても、たしかに生きていた彼らを……私は忘れません)
悠久の時を生き、これから同じくらいの時を重ねるグリーフにとって、弔いの時間はいくらでも残されていた。
それがたとえ、孤独のなかにあったとしても。きっとグリーフはやり遂げるのだろう。
●迷宮森林:森の中へと
ナハトラーベは迷宮森林を空から巡りつつ、ところどころに残された火災の跡に視線をやる。【炎の鎮魂】と称し、森林の火災や炎を操る何某かによって齎された犠牲を鎮めるべく集まった者達のなかで、彼女は1人、我が道を往く。やがて見えた、真新しい(といっても数か月単位だろうか)焼け跡に降り立った彼女は、聖水や祝詞を駆使して鎮魂を進めていく。あたりに見える盛り土は土葬の跡だろうか。彼女の思想信条とは異なるが、尊重するに値する。普段の、食卓で黙々と揚げ物を片付けていく姿とは似ても似つかぬその在り様は、まさしく葬儀屋としての姿なのだろう。飛び立った跡には、墓標と鈴の音が響くのみだ。
「いやねぇ、こんな素敵な森を燃やしちゃうなんて。しかも今でも犯人居るかもっていうのは、危ないわねぇ~」
「炎という大きな力を扱う私は、それが生む結果を忘れてはなりません。それに……私の母が燃やした場所、燃やした人々もいるのです」
スガラムルディの言葉に深く頷き、エルシアは己の「責任」と向き合うべく森を進む。幻想種でありながら炎に耽溺した者は少なくないが、依頼でもなく使命でもなく、私欲のために炎に飲まれた彼女の母、その罪の重さは隠しようもない。当然、エルシアの村を燃やしたという魔種についても然り。
「私には昔のような魔力はないし、祈ったり訪問したりで支えてあげられる自信はないわぁ。見回るくらいしか、できないもの」
「私も、そういった行いだけで寄り添えるとは思いません。ですが、それを決めるのは私たちではないはずです」
焼け跡となった場所を巡り、周辺の村を探しながらエルシアは語る。スガラムルディも、下手に何か応じるよりは、と使い魔を駆使して周囲を見回し、火災の痕跡や、自然発火の兆候がないかを具に見て回る。
やがて見えてきた、霊樹集落としては出来て間もない様子のそこに至り、エルシアは村の外で静かにひざまずき、祈りをささげた。
寄り添うスガラムルディは、集落の人々がエルシアの姿を視認し、しかし見咎めることなく静かに祈りを返したことに、どこか当事者でもないのに救われた気持ちを覚えた。
「ここに来るのは初めてだけど僕知ってるもんね、迷路って入り口からどっちか一方の壁にくっついて進んだら絶対ゴールにつくんだよ! 行くぞ! わー!」
「わー、じゃねえでごぜーますよ、迷宮は迷うから迷宮であって、森なんだから壁はねーでごぜーます。あっても崖とかでしょう。わっちも薬草探しに行くので、ついて来なんし」
ダナンディールが元気よく、しかし無謀な行軍を始めようとしたのを見て、流石にエマが止めに入る。薬草探しのために幻想種に同行しようとして、しかしほっとけない相手が出来てしまった。彼女は面倒見がいいわけではないのだが……。
「迷宮森林の探検? 私もご一緒しようかしら。このあたりの植生、気になるのよね」
「植生、でありんすか……そうですね、考えは似てるでごぜーますよ」
考えるエマに話しかけてきたのはユーベルヴォーグ。彼女もまた、深緑の植物に強く興味を惹かれてやってきたらしい。ファルカウの麓にあって、すでに目が輝いていることからも十分理解できるというもの。さて、そうなるとナビゲーターが欲しいところだが。
「あの、えっと、その……私でよければ、案内するよ?」
「いいんでごぜーますか?」
「よかったの?」
そこに助け舟を出したのは、メレス。宴会やら狩りやら、いろいろと騒がしいことになっているがどうしようかと迷っていた最中、思いがけず地元民を求める声を聞き届けたのだ。
「うん、森の中はむやみに歩き回ると迷うと思うし、私も、危ない動物が出てきた時に助けてもらえれば……お願いできるよね、イレギュラーズ?
」
「もちろんだよ! 一緒に突撃しよー!」
「と、突撃はしないけど……」
メレスの申し出に二つ返事で頷いたダナンディールは、言うなり突っ込んでいこうとする。流石に全員で何とか止めたうえで、メレスの先導を受けてのミニツアーと落ち着いたのだった。
なお、目当ての薬草や珍しい植生なんかは、言うまでもなく成果抜群であったことを付記しておく。
「召喚されてからもう4年になるのか、時間が経つのは早いものだね」
ファルカウの周辺を闊歩しながら、ジークフリートは感慨深げに息を吐く。時折幻想種の子供達に群がられたりするが、それはそれでいい経験だと気にも留めぬおおらかさは、心地よい眠りの気配を周囲に与えていく。
しばし歩いた末にたどり着いた木の根元に身を預けた彼は、静かに眠気に身を委ねようとし……不思議そうに覗き込んでくる誰かの気配を感じ取る。
「森林浴にとその辺を歩いておったんじゃが、なんぞ、その辺は寝心地がよさそうじゃの」
非常に小さな体躯と、それに見合わぬ語り口の彼女はフィーネ。森林浴のために周囲を散策していたところ、眠気に誘われ、安全な寝床を探していた様子だった。
ジークフリートは笑いかけると、自分の隣に、とまでは言わずとも、ご自由に、といった様子で応じる。
……数分後、ふたつの寝息が聞こえてきたのは無理からぬ結論である。
「ルドラちゃん、デート行こうぜ!」
「断る。貴殿ひとりに時間を割くほどの余裕はない」
ミヅハは迷宮森林の警備に出かけようとしたルドラに対し、唐突なナンパを仕掛けた。なお、返礼は鏃の先だ。
「いや、待て、まあ聞いてくれ。迷宮森林は何度か探索したが、ガイド役にはルドラがいいんだ」
「そうか、警備隊としての訓練を所望するのだな」
「いや、そうじゃなくて……」
「まあまあ。ひとまずルドラさんといっしょに警備しつつ鍛錬ってことで!」
「……わかるぜ。まあ警備の仕事と一緒に色々聞き出せばいいんじゃねえかな。細かい話は追々ってことで」
ルドラの謎の納得に言葉を継ごうとしたミヅハだったが、シャルレ椅子とサンディに訳知り顔で止められては二の句が継げぬ。これもまた縁か、とばかりに、大所帯に放り込まれることとなったのだった。
「我、働きとーないのじゃが、ジャガー」
「魔獣を一体打ち漏らしました! そちらにいきます!」
「故郷に凱旋してゆっくりする予定だったのじゃが……」
ベディヴィアは、己の思惑が微塵も通じない現状に不満たらたらでありつつも、ルカが打ち漏らした魔獣にしっかりと対峙し、これを撃破すべく得物を振り上げていた。働きたくない。だが、なにもせぬまま倒されたくない……生存本能と怠惰な心のせめぎあいが、どこか力のない目にあらわれている。
「なるほど、我らアイスアントがこの地に国を築くには、斯様な強敵達と鉾を交えねばならぬのか……地中の危険はどうなのだ?」
「魔獣は地中からも襲いかかってくる。地中に住処を求めるのなら、いつ切り崩されても可笑しくはないだろうな」
クイーンはいずれ来たるべき日の為に、自らが繁栄の足がかりとできる場所を探していた。深緑はその最適解の一つだが、ルドラの言葉通り、同じくらい競争率が高いのである。
「世界規模のトレーニングが行われるだけはある……どこも危険ばかりだな……」
「光条一閃! ライトニング!! ……これがトドメの! ファントムチェイサー!!」
思いの外大変な事実に打ちひしがれるクイーンをよそに、フォーマルハウトは戦いを続けている。己の術式を声に出すことで、神秘をより神秘らしく、魔法少女らしくの戦いに注力していた。
基本的には自分で処理できる程度を、倒せると思った相手に叩き込む。無理をせず、勝利を積み重ね、戦いに赴く。彼女は彼女なりに、どうすれば成長できるかを理解しているふうであった。
「悪ィんだけどさ。ルドラちゃん、協力してくれねえか?」
「私で手伝えることであれば。任務と平行してとなるが」
「森の中での戦い方……戦い方って言ってもいろいろあるけどさ。立ち回りを教えてほしーんだよな。木の多いところの武器選びとか、隠れてる相手への警戒の仕方、探し方……そういうのを、実戦形式でさ」
サンディがルドラについてきた理由は、主にこれだ。
数々の戦いを経た彼が次に求めるのは、森の中などの広居場所で、多くのものを護るための技術。それに伴う、攻めの姿勢だ。ルドラは少々考えてから、いや、と言葉を切り出す。
「やはり見聞きし、感じたことを感じたままに理解することが第一だろう。これはやってみせることがかなわぬ。呼吸のように行っているからだ。探すのであれば、視界を漫ろにしないことだ。常に気を張り、心を配る。それができれば十分だと、私は思う」
「それが簡単じゃないんだけどなぁ……」
ルドラの何気ない話しぶりに、森での生きてきた年月の違いをまざまざと感じさせられるサンディ。だが、先程よりも木々を潜るルドラの動きが緩慢にすら思えるのは、きっと彼女なりにやり方を彼に見せているからだろう。
「ねぇねぇ、ルドラさん。まだ未踏破のダンジョンとか踏破されてるけどちょっと怪しい区間があるダンジョンとか不自然に遺跡のない区域とかあったりする?」
「私はファルカウ周辺の警備が主だから、概ね探られているものと思っているが……リュミエ様であれば、私も知り得ぬ話や、思わぬ情報を掴んでいるかもわからない。あとは、地道に集落の者から聞き出すしか無いだろうな」
「そっかー……頑張って探さなきゃかなぁ」
シャルレイスは、ルドラの返答にちょっと残念そうに息を吐いた。何か情報がえられれば、とダメ元で聞いてみたが、やはり情報はそう簡単に見つからないものである。逆に言えば、深緑の辺境にはまだまだ知られざるなにかがある『かもしれない』ということだ。彼女の心を奮い立たせるのはそれだけで十分だった……かもしれない。
「また、この日がやったきたようであるな。まぁ、余はそこら辺のおる魔物などを倒していくとしようか。これでも鍛錬になるだろうからな」
「……めんどくさい。さっさと終わらせるよ」
ルーチェとメキュバエルは、領地の近くに屯していた魔獣達に狙いを定め、次々と倒して回る。2人だけでの討伐任務は流石に危険としか言いようがないが、両者の実力相応には成果を挙げ、彼女らにとって勝ち目のない強敵は、そもそも無理をして人里へは近づかないのだから問題もあるまい。
訓練というか、もはや遊興の類ですらある掃討劇は、その実力を領民に見せるのには十分だっただろう。
「たっだいまー!」 あのねあのね! この間ね。マナでっかい鳥さんといっしょにがんばったんだよ!はいぺりおんさんっていってね。おひさまの鳥さんなんだって!」
マナはファルカウ周辺の植物たちに元気よく挨拶をして回り、最近の自分とその周りの出来事をつらつらと話していく。植物達は家族であり同志である。精霊種として自然と一体といえる彼女は、ひとしきり自分の話を終えると自然に耳を傾け、静かにその『反応』に身を委ねる。静かな森で彼女1人……否、周りの植物達がいる。今この瞬間は、彼女と世界がつながるひとときである、ともいえるだろう。
「……え? また逃げ出したんですか?」
「……またアレか。今度は誰が逃がしたんだい?」
西部の村に帰省したウィリアムとハンナを待ち受けていたのは、里の人々の実験の産物を捕まえるという「依頼」だった。訓練がてら帰省した2人にとって、依頼の中で依頼なんて……という感じなのだがこれがまた厄介で、速力がありアクロバティックに動く植物なのだからたちが悪い。なお、ウィリアムは途中で呆れ編めて迷走に入ろうとしたが、ハンナがそれを許すはずもない。
「……毎回思うけど自分で歩いて増える機能はいいとしてあのパワーは要らないんじゃないかな? ……自衛?」
「それにしても過剰すぎませんか!?」
2人がその怪植物をとらえるまで、しばし里は混乱をきたしていたが……絶対、里の人々の自業自得なきがするよ。
「隠れ里がそんな簡単に見つかるとは思うてへんけど……」
「あれ、胡蝶さん? どうしたのこんなところで?」
「……見つかったなあ」
胡蝶は、どこへ行くでもなくそぞろ歩きで迷宮森林を歩いていた。その欲のなさゆえか、或いは里巡りであるきまわっていたアレクシアに偶然会ったからか、気付けば霊樹集落のひとつに迷い込んでいた。
「私は迷うことはないけど、今後この辺りを案内することがあるかも、って思っていろんな里を巡ってたんだ! もしよかったら、予行練習も兼ねて一緒に来てもらっていいかな? 誰かに案内する気で集落を回れば、新しい発見があるかもしれないから!」
「ええけど……」
「じゃあ決まり!」
アレクシアの意図はわかるが、自分でいいのか? そんな疑問を浮かべた胡蝶であったが、時間とアレクシアはまってくれない様子だった。思いがけぬ大冒険の予感に、胡蝶の思考は完全にフリーズしていたのだが。
「ヴィクターも暇なんだから、少し手伝ってよね」
「俺が暇っつーのは認識違いも甚だしいぞ。まだ読んでない本が幾らでも部屋にあるんだ、それに引きこもりには太陽の光はきついんだよ」
「引きこもりを偉そうに語るのはどうかと思う……」
ヴィクターは、ルシアに引きずられる形で彼女の故郷、というかそこにあるダンジョンへと連れてこられていた。
故郷そっちのけでそこにある迷宮に挑もう、という根性が如何にもだなとか、つきあわされる身にもなれとか、きっとヴィクターは考えているのだろう。
ルシアはそんな相手のことは分かっていても、攻略できなかった経験と、待ち受ける宝の気配があればそっちが優先なのである。
「他の人達に発見されていない所だったら、最高よね。探索し甲斐があるというもの……」
「それで見つけるところから再開なんて、世話ねえぜ……ったく、世話がやける」
文句を言いながらもなんだかんだで付き合うヴィクター、そして思い返しながら丹念に探すルシア。
2人が見つけたダンジョンが全くの未開である可能性は高くはないが……それでも、話の種の一つにはなるのだろう。
そこで得た経験は、たしかに彼等の実力に寄与するのだから。
「お母さん、元気だった? 20年ぶりくらい?」
クルルは、ファルカウ近傍の故郷にひょっこりと顔を出し、家族や友達の姿を見て回っていた。幻想種特有のガバい時間感覚ながらも、周囲も同じ様子で彼女を受け容れてくれる。
少なからず経験を積んだ彼女の顔は、しかしその悠久の年月とは裏腹に、大きな変化を感じざるを得ないだろう。
最後に回した許嫁の家に向かう彼女の足は、常にないくらいに急いていて、明瞭であっけらかんとした彼女らしからぬ緊張が、全身から漏れている。
深呼吸の音がやけに大きい。相手に聞かれていないだろうか? などと緊張に緊張を上塗りし。
それでも彼女は、元気よくただいまと告げるのだろう。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
一部、名前被りの観点からファミリーネームを描写しております。
白紙ないし、描写を企図していないプレイングを除き描写しているかと存じます。ご参加ありがとうございました。
GMコメント
Re:versionです。四周年ありがとうございます!
今回は昨年同様、特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングIXは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングIX<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●重要な注意
このシナリオは『ふみのGM』が執筆担当いたします。
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●GMより(注意点等)
4周年記念のローレット・トレーニング、深緑担当は私、ふみのとなります。
前回の国家別ロレトレとの相違点として、『妖精郷に訪問できる』という点が大きな相違点となります。
プレイング一行目に【妖精郷】or【迷宮森林】の何れかを記載して下さい。この2つは排他となり、リプレイ中で行き来することはできません(個別に底までの描写を割り振れません)。
他の国家別OPにもありますが、排他参加(他国のロレトレ参加は不可)ですのでご注意下さい。
あとは、特に深緑に於いてですが。
・深緑国内で火の使用は『あらゆる手段を以てしても禁止』です。個別アイテム等で「これは熱を持たない火!」という描写があったとしても同じ。『火がある』ということそれ事態が恐怖心を煽り立てるので、駄目ったら駄目。
・大樹ファルカウは信仰の対象となっております。登ってはいけません。こちらもマスタリング対象です。
・その他、深緑に於いて度の超えた害意が認められなければ大体描写はされると思います。公序良俗に基づいた行動をお願い致します。
まあ、細かいことは脇において楽しみましょう!
奮ってのご参加、お待ちしております!
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