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シナリオ詳細

<Autumn food>里山の幸を共に

完了

参加者 : 54 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 妖精郷アルヴィオンにまつわる一連の事件が終結を迎えた、秋。
 壊れていた『妖精郷の門(アーカンシェル)』も機能回復したことだし、妖精達は今まで通り――いやそれ以上に活発に、アルヴィオンと深緑とを行き来していた。
 その日、妖精のラリサは深緑へと降り立った。『妖精郷の門』をくぐると古びた巨木のうろに着く。そこからぴょんと飛び降りると幻想種の村だ。
「こんにちはー! ラリサが来たわよー! ごちそうの準備はどうかし……ら?」
 そうして降り立った彼女が見たのは、土下座をする三人の幻想種だった。
「えぇ……」
「申し訳ありません。例年通り妖精様をお迎えして秋祭りをするべく準備を進めていたのですが、その最中にきのこ鍋に中りまして。今は皆、家で苦しんでおります。ひとつきも置けば治るもので命の心配はありませんが、鍋を食べなかった私達三人だけでは、去年と同じ祭りも出来ず……」
 ドン引きするラリサに、頭を下げたまま代表の青年が説明をする。
「うん……うん、それは、仕方ないわよね。一ヶ月もしたら旬が過ぎちゃうから、ちっちゃいお祭りにするの?」
「妖精様にご寛恕いただければそうしようかと」
「そうよね。そうなるわよね。仕方ない……あ、ちょっと待って」
 頷きかけて、ラリサは思い出した。
 妖精郷と妖精仲間を助けてくれた、頼もしい勇者達のことを。
「イレギュラーズに解決してもらえないかしら!」


 深緑のとある村には、妖精が現れる門の伝承があった。
 年に一度、秋分の日に妖精がやって来る。彼らが訪れたら里山で採れたものを沢山の料理にして、秋祭りと称してもてなすのが恒例行事なのだが――
「ほとんどの村人が食あたりで倒れてお祭りの開催が危ういので、協力して欲しいのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はイレギュラーズに告げた。
 カウンターの上でうんうんと頷くのは妖精のラリサ。三十センチほどの体に、クジャクヤママユの羽が揺れる。
「注意してても、毒のあるきのこってうっかり食べちゃうのよね。わかる。美味しいんだもん」
 経験者は語る。
「そういうわけで、山菜とか採りに行く人手が全然ないの。村人総出で収穫に行くんだけど、めいっぱい採っても余ってるから、イレギュラーズの百人や二百人が来たって全員腹一杯食べられるわ」
 足元は山菜で埋め尽くされ、木の根元はキノコまみれ。枝を見上げれば葡萄や栗、アケビなどが鈴なりに自生している……そんな里山だ、とのこと。
「あ、あと川もあったわ。魚も釣れたはずよ。それから今年はいつも以上に放置してたから、野獣が出るかもって村の人が言ってたわ」
 時間無制限取り放題食べ放題山の幸、である。
「わたしは何でも美味しく食べるからね! 何を採ってきて貢いでくれてもいいのよ!」
「……と本人が言っているので、自分が食べたいものを採るといいです。元気な村人は調理に回ります。この食いしんぼ妖精のお陰で料理のバリエーションは豊富だそうですが、レシピを渡したり、自分で料理するのもいいかと思うのですよ。ただ、深緑なので『炎』の使用は控えてくださいね」
「さあさ、早く行きましょう!」
 ラリサはぴょんぴょんと跳ねる。食べ放題、もとい秋祭りが待ち遠しくて仕方ないようだ。
「お米とか小麦とかお酒とか、必要な物があったら各自持ち込んでくださいなのです。主役は『秋の幸』という点を守れば、どんな料理を作ろうとも食べようとも全然構わないのですよ」
「むしろ! イレギュラーズの知ってるとってもとっても美味い料理が食べたいわ! 腹一杯!」

GMコメント

こんにちは、乃科です。
天高く馬肥ゆる秋! 深緑の山の幸を楽しみましょう。

●成功条件
秋の味覚を満喫する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●フィールド
深緑の奥地。鄙びた村から三十歩の里山が舞台となります。
秋の味覚がたっぷり自生しています。足元は山菜・きのこ類がわさわさと。果物はあけびからぶどうや栗まで色々と。
近くを流れる小川には魚の姿があり、秋の味覚を狙った野獣も現れるかもしれません。つまりジビエも獲り放題です。
ここは混沌なので、地球では農作物だとか季節外れだといった物も探せばあるはずです。

●プレイングについて
描写のメインを【A】【B】【C】から選んで、一行目にお書きください。
 【A】採取(狩・釣含む)
 【B】食べる
 【C】その他(調理等)

お友達とご一緒に参加する場合は、名前(ID)か、グループ名を二行目にお書きください。
お一人参加の方は、こちらの判断で他の方と絡む場合があります。「絶対ソロで」「出来れば絡みたい」等の希望があれば明記いただければ従います。
白紙は描写しません。

●NPC
・ラリサ
 クジャクヤママユの羽を持つ、全長三十センチの妖精。とっても食いしんぼで最初から最後まで食べています。
・一般人(幻想種)×3
 調理担当。イレギュラーズがとっても沢山収穫した(見込み)山の幸を全力で調理しています。
両者ともリプレイ外で秋祭りを楽しんでいます。


それでは、ご参加をお待ちしています。

  • <Autumn food>里山の幸を共に完了
  • GM名乃科
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年10月12日 23時15分
  • 参加人数54/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 54 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(54人)

朝倉 まいち(p3p000030)
クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
セララ(p3p000273)
魔法騎士
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
嶺渡・蘇芳(p3p000520)
お料理しましょ
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
棗 茜(p3p000817)
流浪の鍛冶師
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ナハトラーベ(p3p001615)
黒翼演舞
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
鈴ヶ原 萌黄(p3p006478)
深き森の冒険者
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エリス(p3p007830)
呪い師
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
フィラ・ハイドラ(p3p008154)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ソニア・ウェスタ(p3p008193)
いつかの歌声
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
ブラッド・バートレット(p3p008661)
0℃の博愛
アルフィンレーヌ(p3p008672)
みんなの?お母ちゃん
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト
鈴鳴 詩音(p3p008729)
白鬼村の娘
キンタ・マーニ・ギニーギ(p3p008742)
危魔道士
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
エミール・エオス・极光(p3p008843)
脱ニートは蕎麦から
レオ・カートライト(p3p008979)
海猫
如月 追儺(p3p008982)
はんなり山師
悠来紀 うつつ(p3p009024)
微睡む現世
バオル=スタニス(p3p009095)
ねむねむマタギ
ルイビレット・スファニー(p3p009134)
湖面の月
リィン・リンドバーグ(p3p009146)
希望の星

リプレイ


 秋晴れの雑木林にからりとした風が吹く、絶好の行楽日和だった。
 幻想種の村を出てなだらかな道を少し行けば里山に着く。入り口の空き地に調理台と、机と椅子を適当に並べたらいよいよお楽しみの始まりだ。
 様々な植物や食べられる野草が記されたノート『深緑の心得』を片手に、サイズは里山を歩く。地域によってがらりと植生が変わるが、似たような植物もよくあるので重宝する一冊だ。
「妖精達は野草より果物の方が好きそうだな」
 今まで出会った妖精を思い出してみる。ビールジョッキが似合う妖精はさておき、甘い物が好きな妖精は多かった。ラリサにも出がけに聞いたところ「果物も最高よね!」との返事だったのでアケビにエビヅル、野生化したキウイなどの収穫に励んだ。
\秋だ、山だ、獲り放題だーっ!/
\秋よ、山よ、(おつまみ)獲り放題よぉー!/
 笹木花丸とアーリア・スピリッツの元気な合唱が里山に響く。
「アーリアさんはどんなものが食べたい感じかな?」
「そうねぇ、山菜とキノコはマスト、お肉はいっぱい食べてもヘルシーな鳥かしら? 果物もあるといいわねぇ」
 山菜の天ぷらでニホンシュ、きのこのホイル焼きでビール、果物でワイン。酒好きの副音声が聞こえる。
「秋の味覚を狙った野獣も出るって話だし、食べられる分だけいっぱい獲ろうね!」
「ええ、獲り立てほやほやのお肉はきっと美味しいけど、食べられる分だけにしなきゃよねぇ」
「花丸ちゃん、今日はアーリアさんの為にもすっごい頑張っちゃうからっ!」
 むんっ! と力こぶのポーズを取る花丸に、「頼もしいわぁ」なんてアーリアは笑う。
 やることを決めたら、木の上にいたリスにアーリアは『動物疎通』で話しかけた。まっすぐ行った沢の周辺はまだ誰もいないから狙い目、と教えてくれる。
 雑草を踏み踏み、教えられた沢に行けばそこは山菜の宝庫だった。食べられる分だけ、つまり来年のために少し残して山盛りいっぱいいただく。途中で現れたキジも花丸の一撃で仕留めて、賑やかな食材の山に加えた。
「たくさん取れたわねぇ。麓へひとっとびで帰るわよぉー!」
「ひとっ飛びっ!」
 持てる限界が来たので一区切り。アーリアはマジカル・ブルームを振りって魔法の箒に戻すと、花丸を後ろに乗せて飛んだ。
 キノコ・キノコ・キノコ。
 湿った土と柔らかな腐葉土、倒木に囲まれたキノコの楽園にて。麗しの乙女達は額を合わせて相談していた。
「ねぇ、どれが食べられるか分かる?」
 レイリ―=シュタインが指さした赤・青・黄のキノコを見て、三人は首を横に振る。
「残念ながらキノコには詳しくないんで、さっぱりわかりませんね」
 とはクリム・T・マスクヴェール。
「私はよく分からないかな~。毒とかあっても気にせず食べれちゃうし」
 だから詳しくないのだとアイリス・アニェラ・クラリッサが言えば、天之空・ミーナも似たような理由だと頷く。
「昔の私も、毒が効かないから平気で食ってたからな」
 それならキノコ類の採取はやめておこう、と意見がまとまった。平和に山菜でも探そうか、と意見がまとまったところでイノシシが現れた。体長二メートルほど、丸々と太った立派なオスだ。
「フゴッ!」
 鼻を鳴らして彼女達を睨む。一般人であれば悲鳴を上げて逃げるところだが、秋の味覚を求めるイレギュラーズにとっては元気な食材だった。
「みんな、今日のお肉だよ!」
 レイリーは瞬時にアームドコンテナを発動、プレートアーマーに身を包み槍を構える。
 猪突猛進の文字通り。地響きを上げて突撃するイノシシをレイリーは正面から受ける。
「今よ!」
「よーし、レイリー。良く受け止めた! それじゃ、アイリス、クリム。一斉に打ち込むぜ!」
 ミーナの号令で一斉に打ち込む。
「おっけ~、一気にいくね~!」
 両腕にブースターパックを付けたアイリスが飛び出した。疾風のようにイノシシに迫ると、勢いを威力に乗せて足元を狙う。
「プギッ!」
 後ろ足に命中して転んだところへ、無銘の刀を構えたクリムが続く。
「お肉ですか! 私、生でいきたいです! 生で! 深緑なので火事に気を付けないといけませんしね!」
 前のめりに意気込んだ彼女は、刀の細工に魔力を通すと一太刀で首を落とした。瞬く間の戦闘、終了である。
 クリムは血抜きついでにさくさく解体して、生レバーを取り分けた。
「生……そういうのもあるのね」
「味見しますか?」
 興味深そうに眺めているレイリーに、クリムは少し切って渡す。
 おそるおそる、と口に運ぶ姿が好きだなあ、とミーナはふと思った。レイリーだけではなく、解体まで頑張るクリムも、機動力を活かして次に連携を繋げるアイリスも。好きだ。
「残りは私の炎で焼きたいが……深緑だからな。持ち帰って調理班に任せるとしようか」
「焼いても良いし、そのままでも美味しいよね~」
 アイリスはうっとりと目を閉じて、お肉の味を想像した。
 そして、手つかずのキノコ天国にて、ブラッド・バートレットとアイシャは偶然出会った。
「よろしかったら手分けしてキノコを探しませんか?」
「ええ、そうしましょう」
 笑顔で駆け寄るアイシャに二つ返事で、手分けして探す――つもりだったが。
「このキノコ、苺みたいに真っ赤で美味しそうですね」
 アイシャが手を伸ばすキノコをふと見て、ブラッドは手首を掴んで止めた。
「そのキノコは、表面の毛に毒を持つキノコですね」
「毒キノコ……」
 兎耳がしゅんと垂れる。しかしアイシャは諦めずに次のキノコに手を伸ばした。
「この青い縞々のキノコなんて……」
「毒です」
「こっちの茶色いキノコはどうですか?」
「毒キノコ、ですね」
 無数のキノコの中には食用のものももちろんあるのだが、アイシャはある種の才能で毒キノコまた毒キノコの毒チェインを決める。それを見て別行動なんて出来るわけもなく、ブラッドは自然知識を活かしてキノコ鑑定士となった。
「んー……。この、タンポポの綿毛みたいなキノコは!」
「おや、とても珍しい毒キノコですね。煎じて薬の材料にするんですよ」
「役立つ毒キノコもあるんですね! ブラッドさんは物知りですね……」
「毒は使い方によっては良薬にもなりますから。この毒キノコは群生地が少なく……」
 ブラッドの語る豆知識に目を輝かせ。次こそは美味しいのを見つけるべくアイシャは張り切るのだった。
「なんでキノコには竿があるのにタマが無いんかのう……?」
 ふと浮かんだ疑問を呟きながら、キンタ・マーニ・ギニーギは松茸狩りに精を出す。優しく握ってはもぎ取り、優しく握ってはもぎ取る。
 その丁寧な仕事ぶりの横で、ナハトラーベもキノコ狩りに全力を尽くしていた。
「――ヒラタケ、キクラゲ、野生のシイタケ。食用のみ。OK」
 スピード感のある動きで抱えた樽に次々と採取しては放り込む。食の祭典を全力で楽しむ準備に余念が無い。場所を移動しながらドングリに柿に果ては駆けるウサギまで、カラスの如き黒翼で羽ばたいて確実に捉えては、樽の重みを増やしていく。
 秋晴れの青空と山を覆う紅葉の中を、漆黒の影が舞う。
「おっと、全部採っちゃダメっすよ」
 山を丸坊主にする勢いのナハトラーベに、八重慧は待ったをかけた。
「――?」
「この山のぶんを残すんですよ。そしたら一年かけて増えるんで、来年も美味しく食べられるって話っす」
「なるほど」
「こーゆーのは、程々に、バランスよくやるのが大切っすから」
 手本を見せるように、慧はビワの木の下側だけ摘んだ。
 遠慮のある採取を再開したナハトラーベと別れて、慧は植生を眺めつつ山を歩く。気候に合った植物が多いが、バナナっぽい木とモミっぽい木が並んでいる混沌らしい適当加減だ。
「いい栗が落ちてるっすね~」
 イガからこぼれた栗に慧は手を伸ばす。そこに重なるもう一つの手。
「みゃっ!」
 慧に気づかず栗拾いをしていた小さなハーモニア、エミール・エオス・极光は飛び上がった。ビビり屋なりに採取を頑張っていたのだが、猫背でも大きなゼノポルタが突然逆光で現れたので、心臓と体がぴゃってしたのだ。
「あー……すまないっす。俺はどっか行くっすよ~」
「別にいいよ。二人だといっぱい拾えるじゃん」
 頭を下げて離れようとするので、エミールはつい胸を張って引き留めた。栗が沢山落ちているのは本当だし、もしも野獣が出たら戦力は多い方がいい。
 というわけで、特に会話もなくイガを踏んで栗を集める。
 リィン・リンドバーグは一冊の本を抱えて、そこらに生える野草や果実を観察した。食べられる草花が書かれた本は、初めて見る植物を判別する助けになる。
(食事を取らないといけない種族は大変だなぁ)
 リンドバーグは食事も睡眠も必要ない秘宝種だから、飢える大変さは理解しづらい。けれど美味しいご飯を食べて幸せなのは一緒だろう。
 初めての山で見る植物はどれも同じに見えるけれど、じっくり観察すると違いがわかってくる。見たことのある野草だ、と気づいたら記憶が甦った。
「この草……旅の途中で見た、あいつが食べられるって言ってたやつだ。あ、あれと、これも」
 一つ気づけば次々と靄が晴れるように思い出す。親代わりのリンドバーグ氏が教えてくれた、野草の話が耳の奥でこだまする。
(ねぇ見てて、僕一人でも頑張るから!)
 潤んだ目元を白衣で押さえて、リンドバーグはいっそう熱心に採取に励んだ。
「一緒に遊んでみたくって、お誘いしたの。だからね、ご一緒できて嬉しいわ」
 おっとりと笑うポシェティケト・フルートゥフルにつられて、ジル・チタニイットもえへへと笑う。
「今日はよろしくっす。僕のお店をご存知なんて光栄っすね……あの、ポシェさんって呼んで良いっすか?」
「ええ、もちろんよ。ジルのお薬、鹿もときどきお世話になるのよ」
「重ね重ね光栄っす」
 うららかな日差しの下、のんびりとした会話と採取を楽しむ二人。食べ物を採るついでに薬の材料も背負子に放り込むのは、ジルの薬の魔女としての性だった。
「それは何かしら?」
 ポシェティケトが聞けば、ジルは丁寧に解説してくれる。酸っぱい果実は薬草と煮ると風邪薬になるとか、苦い木の実はすり潰して湿布薬の原料にするのだとか。
 説明するたび素直に感嘆するポシェティケトに照れくさくなって、へへ、とジルは笑う。
「ポシェさんの大好きな葉っぱも薬になるっすよ。他にもあそこに生えてるような、栄養をいっぱい蓄えた樹皮や根はよく使うっすよ。自然の恵みって、偉大っす!」
「まあ、まあ! 皮や、根っこも、そうなのねえ」
 話を聞いていると、いつもの森が違った景色に見えてくる。ぐるりと首を巡らせたポシェティケトは、ふと木の枝に目をとめた。
「……あ、見て。あそこにあるの、美味しいやつよ」
「え、美味しいやつっすか? 二人で頂くっすよ!」
 里山で山菜狩り。ソニア・ウェスタのギフトは今のシチュエーションで最高に輝いていた。
「ソニアさん、これはどうだ?」
 杠・修也の差し出すマーブル模様のキノコを見つめること五秒。ギフト『絶対眼力』の判断が下る。
「食べられます」
 断言する姿に、かつてキングスイカを『食べられます』と判断した頼もしい横顔を思い出す。
「こっちの山菜は」
「食べられます」
「これはシメジか?」
「食べられません。よく似た毒キノコですね」
 領地経営者となった現在、混沌世界の知識も必要だろう――そう思い、まずは秋の味覚を知るべく参加した修也だった。食料判別のプロに同行してもらったお陰で、さくさく判断してもらえて採取がはかどる。
 豊かな里山を眺めながら、ふとソニアは元の世界にいる姉妹の顔を思い浮かべた。
(お姉様たちと一緒だったら、もっと楽しかったでしょうね……)
 四人で騒ぎながら秋の味覚を収穫する図が浮かぶ。たぶんきっと楽しいだろう。けれど姉妹の輪に入れず居場所のない修也の図も浮かんでくるので、いない人を考えるのはやめた。目の前に生える野草を摘み摘み、どんな料理を作ろうかと思案する。
 ティア・マヤ・ラグレンはヤスを構える。澄んだ小川を泳ぐ影に狙いをつけて、一突き。ふくふくした鮎が獲れた。獲物を籠に入れてもう一突き――面白いように獲れる。
『夢中になりすぎん様にな?』
「ん、その辺りは気を付けるよ」
 胸の十字架が言う。足元に気をつけながらティアは鮎突きを繰り返した。痛みやすいものだから、それなりの数を獲ったら切り上げてマルベート・トゥールーズと合流した。
「私の方は果物と魚をいっぱい集めたけど、マルベートの方はどうかな?」
「私はキノコを採ってきたよ」
 籠の中には香りも豊かなキノコが沢山詰まっていた。区切ってはいるが毒キノコもいくつか入っている。
「これはこれで使い道があるんだ」
 とはマルベートの弁。
 二つの籠にとりどりの山の幸がある。何を作ろうか、なんて相談するひとときも楽しいものだった。

 里山を流れる川は広く、澄んだ水と生き物をたたえている。無数に枝分かれをし、時に人の手で作られた溜め池もあり、地上と同じく豊かな生態系を育んでいた。
「どっちが釣れるか勝負しようぜ」
 なんて言いながら釣り糸を垂らすレオ・カートライトに、悠来紀うつつは微笑む。
「勝負事、好きなんだね……いいよ」
 隣に座ってうつつも釣りを始める。まずは銀色の小魚がかかった。
「イワナだ。うつつはこれ、どうやって食べる?」
「塩焼きかな? たくさん釣れたら蒲焼きもいいと思うよ……そっちもかかってるね」
「おっと」
 竿を引けば、レオも一匹目のイワナをゲット。次々とかかるので、勝負と言いながらマイペースに釣りを続けた。時には手を休め、釣りポイントを囲む紅葉をぼやっと眺める。いい天気で、隣にはうつつ。何をしても気持ちのいい一日だ。
「今日は釣り勝負に決めたけど、自分で料理するのも楽しそうだ」
「……ん。今度、一緒に釣りしたら、魚料理、教えるね」
「ああ。釣った魚を料理できるように、教えてくれよ」
 二人は次の約束を交わした。じゃあ今度はどこへ行こうか、何を狙おうか、なんて相談もはずむ。
 ひらりと舞い落ちる紅葉がレオの髪に止まった。黒い髪に赤が映える。レオ自身は川に集中して気づかない様子だったので、うつつはそっと取ってあげた。
 山菜採りに精を出すイレギュラーズの賑わいから離れた、静かな支流にて。
「女性を誘う様な場所でも無いと思うが、少し話す機会が欲しいと思ってな」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルムは「リュティスもどうだ?」と釣り竿を差し出す。
「ご一緒させていただきます」
 リュティス・ベルンシュタインは主人の心遣いをそっと受け取った。お互いに川に釣り糸を垂らして、無言の時間を少しばかり挟む。
「……俺が意図的に昔の話をしないのは、知っているだろう?」
 ベネディクトは淡々と口火を切った。リュティスは首肯する。
「そうですね。触れてはいけないものかと思っておりました」
「戦争があったんだ、俺の世界では。俺も傭兵として参加していた、王族として認知されていなかったし、騎士としては認めて貰えなかったから」
 おっと釣れた、とベネディクトは魚を手に取る。針を外す様子を見るともなしに眺めながら、リュティスは彼の言葉を反芻する。
「王族であれど……傭兵としてですか」
 以前、冗談のように言っていたし、普段の品のある所作を見れば高貴な身分だったというのは納得だ。
 重い過去は、語る口も重くするけれど。ベネディクトはぽつぽつとリュティスに話す。
「……だが、俺は一番守りたい物を何一つ守れなかった」
 そう吐き出した時の表情は、逆光でよく見えなかった。
「話さなかったのは、無力な己を思い出すから、なんだが。君には知っておいて貰いたくてな」
 お互いのバケツが川魚で満ちる頃、ベネディクトの話は終わった。
 突然済まなかったな、と労う主人に、リュティスはゆるく首を振る。辛い思い出を話して貰えたということは、少しは前を向く覚悟が出来たのだろう。
「今度は私が付き従い、共に大切な物を守りましょう」
「リュティス……」
 ご主人様が、二度と無力さに打ちひしがれることがないように。メイドは決意を新たにする。
 涼しい風に秋の訪れを感じながらクロバ・フユツキとシフォリィ・シリア・アルテロンドは上流のポイントにたどり着いた
 狙うはニジマスだ。クロバは大き目の魚籠に練達製ロッドと小魚を模したルアーで装備万端。小刻みに竿の先を動かしながらお目当ての魚を誘う。
「気を付けるんだぞ、深いから……って、釣りは得意?」
 お嬢様育ちのシフォリィは慣れない足場に苦労しているのでは、と心配したクロバだが、彼女は軽やかな足取りで良さげな場所に陣取ると、慣れた手つきで準備をする。
「ふふふ。世間知らずの私ですが、家の近くの川で何度もお父様達と釣りに行った身!」
 投げたルアーにたちまち引きがある。
「食いついたら引き寄せつつ疲れさせて釣り上げる! その腕は今も健在です!」
 そして危なげなくニジマスを釣り上げた。見事な腕前を披露されて、クロバの対抗心が燃え上がる。
「なら、俺も”あの男”にしごかれた腕、見せてやる。どっちが多く釣れるか勝負だ!」
「勝負しましょう!」
 共に過ごす時間は楽しくて、あっという間に過ぎ去る。結果は、お互いに釣りすぎてリリースしたので無効試合になった。
 深緑で『炎』は厳禁である。
 どんな依頼でも注意されるから、裡に赤黒い炎を宿す全身鎧のウォリアは遠慮があったのだ。
「炎そのものに非ず……とは言え、十分想起に足るオレがこの地を踏めるとはな。深緑の面々は姿を見るだけで気を張るだろうに……」
「なあに。ウォーカーなんて常識の外の奴だらけですもの。あの子達だって驚き慣れたもんよ。……多分ね?」
 だから気楽にいきましょ、とゼファーは友の肩を叩く。
 釣りをしよう、と決めて川辺に並んで座る。平和な里山の景色を包むのは風に揺れる木々の音と、穏やかに流れる清流の音。
 友と並び、黙って水面を眺めるのも時には悪くない。ウォリアは思った。
「行雲流水、とは言ったものね。こういうのが良いのよ。貴方、難しいことばかり考えてそうですし?」
「そう多くを交わす程の仲ではない……が、オマエの風は『懐かしい』な……まぁ、詮無き事だが」
「おんやあ? 何だか褒められてしまったかしら」
 思わぬ言葉にゼファーはくつくつと笑いをこぼす。胸の内は存外に良いもので。
「褒め……ふむ……ふむ。引いているぞ」
「おっとぉ?」
 言われてみれば、ゼファーの竿には確かな手応え。勢いをつけて釣り上げれば一抱えもある大物が獲れた。
「見事……さて、釣ったはいいが、この先は如何する……?」
「うーん、初めて見る魚ですからねえ……。それは詳しい奴らに任せましょ?」
 糸を垂らし、秋風に身を委ねるひとときはまだまだ続く。
「行くよ、セララフィッシング!」
 放物線を描いて、餌の付いた釣り針が川に着水する。
 堪え性をあまり感じないけど大丈夫? とハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルクが見守る中、セララは当たりを待った。
 待った。
 じっと待……
「ねえねえマリー、どれぐらいで釣れるかな?」
「運次第でありましょうか」
 食いつく時は入れてすぐだし、駄目なときは全然駄目なものである。
 セララはさらに待った。
 ……待った。
「思ったよりヒマだねー。しりとりしよっ。『ゴリラ』!」
「そもそも、釣りはのんびり時間を過ごせるのが好きなタイプがやるものですよ。私が隣では暇でありますか? 私はセララが隣にいると何時も退屈する暇がないですけどね」
 うっかり出たハイデマリーの本音に、セララは笑顔になる。
「……今のは無かったことにしてください。『ライ麦』」
「『ぎんなん』……じゃなかった『牛乳』!」
 ハイデマリーと一緒なら待ち時間も楽しくなるのはセララも一緒。しりとりを続けているうち、セララの竿に当たりがあった。
「あ、マリー反応があるよ! せっかくだから二人で釣り上げようよ!」
「ん、大きい感じですかね」
 掬い網を用意して、ハイデマリーはセララから釣り竿を受け取る。セララはその背後に回ると腕を伸ばして、釣り竿に手を重ねて……全力で釣り上げる!
「いっくよー、フィーッシュ!」
 息の合った動きで、大物が秋の空に舞う。
「さてと、オイラは狩りをしてみよう」
 マタギの少年バオル=スタニスは銃を手に、その嗅覚で獲物の場所を探る。足跡、爪痕、食事の名残や糞。手がかりは山ほど転がっている。
 それらを頼りに山を奥へと進めば、大きなな牡鹿を見つけた。
 バオルは己の気配を殺す。自然と同化するように景色の一部になり、そっと忍び足で近づく。ライフルの射程圏内に入っても慌てずに、狙いを定めて引き金を引いた。
「よーし、仕留めたねぇ……下まで運ぶのは大変だけど、頑張るよぉ」
 襟巻きのように首の後ろに鹿を乗せ、脚を抑えて歩き出す。
 半分ほど行ったところで、バオルは如月追儺に出会った。
「おや、立派な鹿どすなぁ。あんたが狩ったん?」
「そうだよぉ。オイラはマタギなんだぁ」
 これから下まで運ぶことを伝えると、追儺が手伝いを申し出てくれた。
「ここ左に行ったところに、動物の下処理やってくれはるお姉はんが居いはるんですわ。そこ行きましょ」
 二人で運べば苦労は半分、早さは二倍。川沿いに拠点を作り、意外と面倒なジビエの下処理を行う棗茜のもとへ到着した。
「茜はんよろしゅう」
「よしっ! いい肉ゲットだね♪」
 任せてね、と手際よく血抜きを始める。
「時にバオルはん、熊の居場所はわかります?」
「鹿のいた場所から北に向かったあたりに巣がありそうだったよぉ。……でも、どうして?」
「腹ごしらえをするにはまず腹を空かせにゃぁならんわ、というわけです」
 追儺はバトル中毒の気がある。倒し甲斐のある相手、ついでに美味しい肉といえば熊なのだ。
 ひらひら手を振って拠点を離れた追儺は、体長三メートル超えのヒグマと楽しい時間を過ごしたらしい。

 山菜にキノコに魚、ブロック状に処理された肉。イレギュラーズが真面目に採取した食材が里山の入り口に積み上がった。例年とは桁違いの物量に、村人は嬉しい悲鳴を上げる。作っても作っても追いつかない状況にパニックを起こしかけた時。
「ぶはははッ! 料理人が足りないって? おっしゃ、任せろ!」
 ゴリョウ・クートンが颯爽と調理班に加わった。深緑事情にバッチリ対応した『魔力コンロ』持参である。
 新米を使った山菜とキノコの炊き込みご飯や、ジビエと山菜の味噌汁など。和風の味がテーブルを賑わせる。
 蓮杖綾姫は味噌汁をすすった。美味しいものを食べると最近の依頼で蓄積したダメージが癒やされる。
「ほっとする……」
「おう、たんと食えよッ」
 ゴリョウのよそった山盛りの炊き込みご飯を噛みしめて、一息ついたら。
「忙しいみたいですし、手伝いますね」
 綾姫は調理班の手伝いに入った。
「おばさんも、腕によりをかけて頑張っちゃうわー♪」
『キッチンマイスター』のギフトを持つ嶺渡・蘇芳も参加すれば調理班は百人力、積み上がった食材も順調にご馳走へと変わる。薄く切った肉はキノコと野菜と共に鍋に放り込み、少しの調味料を足して鍋料理に。超特急でどんどん作ってゆく。
「リクエストがあったら応えるわよー」
「いい鹿肉が獲れたんで、ローストしてくれるかい」
 蘇芳の呼びかけに、アト・サインが肉塊を手に現れる。一人で黙々と狩った成果がじっくり調理されてゆく様子を眺めながら、アトは小鍋にベリー類とワインを詰めてコンロにかけた。
「フフフ、ベリーソースと鹿肉はよく合うんだよ」
「いいわねー。おばさんは無花果のソースを作ろうかしらー♪」
 作る者あれば食べる者あり。
「臭みの無い鮎で大変美味いのである。おかわり」
 源頼々は鮎の塩焼きに舌鼓をうつ。採取もするつもりだったが、やる気が有り余りすぎて里山ごと刈り取ってしまいそうだったので、名誉味見係に就任している。
 鮎の次は山菜の天ぷら。サクサクの衣と苦味のある野の味が最高だ。
「端から端まで全制覇だ! ひゃっはー♪」
 ラムダ・アイリスは皿を片手に、出される料理を片っ端から賞味した。カロリーを動力に変換する秘宝種のため、体型変化や満腹とは無関係。美味しくて食費のかからない素敵イベントを全力で楽しんでいる。
「今度は、炊き込みご飯のおにぎりですよ」
 鈴ヶ原萌黄は大小様々なおにぎりの乗った大皿を置く。忙しそうな調理班の手伝いを買って出たのだがやる事は尽きない。熱々のご飯に驚きながらも初めて作ったおにぎりは不格好だったが、いくつも握るうちに三角のおにぎりが作れるようになった。
「ごはん!」
 フィラ・ハイドラはおにぎりを取った。彼女は全く味が分からない。けれど賑やかな雰囲気と食べる行為そのものが楽しい。食べ物のいい匂いを胸いっぱい吸い込んでかぶりつく。
 リクエストも歓迎と聞いて、鈴鳴詩音は料理班に声をかける。
「天ぷらと炊き込みご飯とぼたん鍋……を下さい、食べたいです!」
「わかった、待ってね……はい、どうぞ」
 黙々と料理をしていたルイビレット・スファニーは、注文の料理をお盆に盛り合わせて詩音に渡す。
「熱いから気をつけてね。他にリクエストはあるかい?」
 流れるような問いかけに詩音は口ごもった。けれど、一人分をよそってくれた優しい人ならもうちょっと言ってみてもいいかもしれない。
「鹿肉がありましたら、焼き物でなにかお願いします」
「あるよ、ロースト。今ならベリーソースと無花果のソースが選べる」
「えっ……」
 突然出てきた選択肢に詩音は慌てた。どちらも美味しそうだし、何より断るのは失礼じゃないかと不安になってしまう。
「選べないよね。両方添えるから好きな方を使って」
「ありがとう……ございます……」
 ほっとため息をつき、鹿肉のローストを受け取った詩音は会場の隅でのんびり食事をするのだった。
 アルフィンレーヌは不本意な出会いからハチの巣にしたイノシシ肉を酒蒸しにして、キノコと山菜、ついでに芋と煮込んで旨味たっぷりの餡を作った。おまんじゅうにするべく、ちまちま皮で包んでいるが量が多い。
「手伝いますよ!」
 美味しい気配を察したエリスが助っ人に入り、生産スピードは一気に上がる。
「助かるわ。おまんじゅうは美味しいから、皆にもいっぱい食べてもらいたくて」
「うんうん、美味しいものは足りないより沢山ある方がいいですね」
 なんて話しながら、エリスはアルフィンレーヌおすすめのおまんじゅうレシピをいくつか教えてもらった。
 まとまった数になったらセイロに入れて蒸気の力でふっくら仕上げる。湯気の匂いにひかれたイレギュラーズが集まってきた。
 一段落ついて、村人を含む調理班は交代で休憩を取ることにした。椅子でくつろぐ村人に、籠を持ったグリーフ・ロスが近づいく。
「これを、どうぞ。消化や滋養にいい食材と薬草です」
「ああ、出がけにそんなことを聞いていかれましたね。……今まで、私達のためにこれを?」
「その通りです」
 いぶかしむ村人にグリーフは肯定する。
 村で動ける者が三名、今日は調理担当で働きづめとなると大変だろう。彼女の在り方は『他者を看ること』なので、病人とその仲間を放ってはおけなかった。食事が不要の身だからと、時間の許す限り里山を回ったのだ。
「こんなに……感謝します」
 村人はうっすら涙を浮かべて、うやうやしく籠を受け取った。
 myマヨネーズを片手に、ラクリマ・イースは兎に角いっぱい食べた。キノコも山菜も魚も肉もデザートも全部美味しい。マヨを足すと美味しいの掛け算でさらに美味しい。
 世の中すべてのものをマヨネーズと共に平らげるタイプに見えるラクリマだったが――
 不倶戴天の敵・グリーンピースがにょきっと出てきて手が止まる。
「……やめろ。お前は食い物じゃないのですやめろ食わねーぞ絶対だ!」
 ラクリマは険しい顔で敵を睨み、宣戦布告する。そしてグリーンピースだけを綺麗に残して皿の端に積み上げたのだった。
 この手の祭りだとつい作る側に回りがちなグレン・ロジャースは、今日は食べる側で参加することにした。
 深緑風はもちろん、各地の料理が所狭しと並んでいる。人気の料理はすぐ無くなってしまうので、グレンは気になったものをいくつか取り分けた。
「ん、うまい」
 食材が山の幸ということで、素材の味を活かした薄めの味付けがおおい。それでも調理法のいくつかの違いでがらっと別の料理になっている。
 一通り味見を終えた頃、空の皿が目立ったのでグレンは洗い場に運ぶ。調理担当へのちょっとした返礼に、皿洗いを手伝わせてもらった。
 フェルディン・T・レオンハートはキノコのキッシュを食べながら、秋の景色を眺める。厳密には故郷とは違うのだろうけど、似たような光景があったのを思い出した。
「異界の地であろうとも、木々が彩る瞬間は美しいものだね」
 向かいに座る朝倉まいちは、そうね、と同意する。
「この世界にも季節があって、秋の味覚が存在するのよね」
 気づいてみれば当たり前だけれど、意識していなかった。まいちは故郷――日本という四季のある国を思い出す。
「私の世界では秋はスポーツの秋、読書の秋とか色々名前があるの。それらを楽しもうって意味でね。私はやっぱり食欲の秋かしら。フェルはなんだろうね」
「へぇ……まいちの世界では季節に応じて書物を読んだり、体を動かしたりするんだね? ボクの世界では、どうだったろうか……うん、山菜の収穫祭は確かにあったよ。つまりは同じく、食欲の秋――という事だろうか」
 フェルディンはキッシュの残りを平らげて、ふふ、と笑う。
「少しはしたなく思われてしまうかな?」
「沢山食べるのはいいことよ」
 まいちはフェルディンの口元についた欠片を指で拭ってやる。
「秋は美味しいものが沢山で、お料理もはかどるの。フェルが気に入るような料理、作ってみたいわね。最近、あまりお家にフェルがいないから……少し、寂しいかも」
 それは、わがままかしら。なんて消えそうな呟きがフェルディンの耳に残る。
「寂しい思いをさせてすまない。今日は、少しでも埋め合わせをさせてくれ。さぁ――行こう、まいち!」
 まいちの手を取ってフェルディンは立ち上がる。とっさのことによろめいたまいちは、繋いだ手を強く握った。
「フェルったら、もう! ……何をしてくれるのか楽しみだわ、貴方とならどこへでも」
 リースリット・エウリア・ファーレルの前に並ぶのは、塩焼きの魚におまんじゅう、よく煮込まれたお肉、そして挙動不審なカイト・C・ロストレイン。
 出会って一年は経つと思うが、俺は彼女の何を知ってるというんだ……なんて呟いているのは聞こえなかったふりをしておく。
「リズの好きなご飯ってなんだろう」
 悩んだ末にカイトから出てきたのは初歩的な質問で、リースリットも律儀に付き合う。
「好きなご飯……ですか? ……あまり意識したことなかったですけど……お肉料理は、好き、かな?」
「じゃ、じゃあ……シャイネン・ナハトの予定は!?」
 急に話題が飛んで、ついでにぶっ込みすぎた気がして、カイトはあたふたと腕を動かす。
「えっと……特には無い、ですよ」
 リースリットはそう告げる。聖なる夜のお祭りはもう再来月。
 ごくり、と唾を飲んで。カイトは紅玉の瞳を見つめた。
「じゃあ、シャイネンナハトのときに、リズの時間貰ってもいいか?」
「ええ、わかりました。いいですよ」
 さらりと。是、の答えを受け止めてカイトは固まっていた。理解が追いつくまであと数秒。
 リンディス=クァドラータは栗おこわとかぼちゃのプリン。マルク・シリングは芋とキノコがたっぷり入った『芋煮』というスープ。
 それぞれ食べたい料理を二人分持ち寄って、同じ席についた。
「秋の味覚って色々あるけど、こういう素朴なのが好きなんだ」
「美味しいですよね。私もこんな風にもともとの味が生きてるお料理が好きです」
 どれも素材の味で成り立つ料理で、採れたてを使ったのもあり味わい深い。
 本好き同士が集まれば、自然と読書の話題になる。
「リンディスさんはどんな本を良く読むのか、とか。色々話してみたかったんだ」
「私は歴史書や伝記本、あとは物語ですね」
 最近読んだ題名をいくつか上げれば、マルクが読んだものもあり。そこから広がる話は尽きない。
「僕は学校へ行って無いから、多くのことを本から学んだんだ。だからよく読むのは、歴史書とか、学術書とか」
「とっても素敵だと思います」
「あ、でも物語も好きだよ。それこそ『勇者王の物語』とか」
 今まで読んだ本、読みたい本、気になる本。知らない分野は興味深く、既読の本は他者からの新鮮な視点が面白い。
 結局、食事もそこそこに話しているだけで終わりの時間を迎えた。
「あ、良かったらお勧めの本を今度交換しませんか?」
「是非やろう! 次会う時までに、お勧めを選んでくるよ」
 約束を交わして、名残惜しい本談義はいったん終了となる。

「食べた……うんとこいっぱい食べたわ……」
 妖精のラリサは仰向けに転がって腹をさする。
 イレギュラーズに助けを求めたは大正解だった。美味しい食材を沢山集めて、さらに沢山の料理も作ってくれた。お陰でラリサの胃袋が全然足りず、小さな体に詰め込めるだけ詰め込んで動けなくなる大満足の一日だった。
「よかったわね、みんな!」
 イレギュラーズと共に後片付けに励む村人も皆笑顔で、お祭りは大成功に終わった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
美味しい山の幸、たっぷり味わいました。

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