シナリオ詳細
静寂の青、外洋の空
オープニング
●
『絶望の青』――それは海洋王国の外洋に存在した前人未踏の領域であった。
踏み込む者は皆、戻らず。奇病や危険の蔓延するその海域はまさしく絶望の名を欲しい儘にしていた。
しかし、冠位魔種を滅し、滅海竜を鎮めた特異運命座標の功績により海洋王国の掲げていた大号令は無事終わりを告げた。あれ程までに荒れ狂っていた海も静けさを取り戻し、踏み入れる者を蝕んだ『廃滅』の病も消え去った。王国の悲願であった外洋の新天地、その海向こうに存在した島には新たな民族と、特異な文化で栄えた国が存在している。
海洋王国としては――その国内情勢は兎も角として――黄泉津の名を持つ島に存在する神威神楽とは友好的な関係を結び交易を行いたいと考えていた。
特異運命座標は空中庭園を『ワープポイント』に黄泉津の『此岸ノ辺』へと直接向かうことが出来る。だが、そうでない情報屋や交易船はワープなどを行うことは出来ない。特異運命座標達にその全てを依存するわけにも行かないのだ。
……ならば、とコンテュール家は女王と共に一つの協定を結んだ。
海種と飛行種が『仲良くギスギス』しあう海洋王国であるが、欲しいのは国益だ。
旧絶望の青――現在の名を『静寂の青』に存在する海域の掃討を行い、安全な航海を行えるようにしよう。
つまり、アクエリア島及びフェデリア島周辺海域に未だ存在するであろう『敵対勢力』の掃討作戦とその周辺に海洋王国の拠点整備を行いたいという事だ。
現在、アクエリア島には総督府を設置している。人選には少し時間が掛かるようだが……。それらの円滑な活動のための支援も必要だ。
「簡単に申し上げると絶望の青攻略の足がかりとしてアクエリア島の拠点整備を急速に進めていただきましたが、今回は住民の移住も視野に入れての掃討及び拠点整備を行いたく考えています」
ソルベ・ジェラート・コンテュールが堂々と告げたその言葉に彼の傍らに居た妹、カヌレ・ジェラート・コンテュールは「お兄様」と袖を引く。
「本音は?」
「……カムイグラでの夏祭りお疲れ様です。様々な事件があったことの報告は受けていますが……。
魔種が上層部に存在するという事で『中務卿』よりカムイグラへの視察はやんわり断られてしまったとのことで……まあ、要するに。私達も皆さんと夏を楽しみたかったのです」
幸いにして今年は酷暑だ。まだまだ夏真っ盛りとも云えるだろう。元より温暖な海洋王国では年中バカンス状態なのはさておいて――
「私とカヌレも参ります」
「ええ。表向きにはアクエリアの視察ですわ。けれど、バカンスも楽しみたいと思っておりますのよ。
……私だって皆さんと一緒に大号令を頑張ったのですもの。ご褒美を頂いても?」
そう、と伺うように告げたカヌレにソルベは穏やかな笑みを浮かべている。イザベラ・パニ・アイス女王陛下は王宮に残るそうだが、彼女のためにもこの周辺海域の掃討は行いたい。
「それでは、先ずは周辺に残っているであろう狂王種及び変異種の対応。
それから足がかりとしてのアクエリアの整備と……あとは夏を目一杯に楽しむという事を目的としましょう」
「お兄様、一つ言い忘れてますわ」
またもカヌレはそわそわとした調子でソルベを呼ぶ。
「今回のアクエリア・フェデリアの整備は長い目で見ていくそうですわ。
だから、今回は遊び半分でよろしいそうですの。ふふ、穏やかになった『静寂の青』……これは皆さんのおかげですもの。是非、のんびりと楽しんで見ては?」
- 静寂の青、外洋の空完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年09月13日 22時05分
- 参加人数79/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 79 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(79人)
リプレイ
●
アクエリア・フェデリア――海洋王国の『国家プロジェクト』で副産物的に得られたその地域は絶望と呼ばれていた面影も残さず美しく澄み切った風を吹かせていた。
結わえた髪をなびかせてフェリシアはゆっくりと進む。海月を思わせるワンピースはふわり、ふわりと弾んでまるで海の中のよう。シーグラスを探して穏やかに過ごす――其れを此の『絶望の青』で出来ると誰も思っては居なかっただろう。
『さまよう禍福』は良きも悪きも降りかかる。素敵な貝殻に可愛らしい星砂を。そう願えばついつい大盤振る舞い――だけれど、海に落ちても問題ないと海種は小さく笑み零す。
海洋の人間が此処を攻略拠点にしたのは最近のこと――然し、その際にローレットも力を貸した殻だろうか。武器商人の想像以上にアクエリアの設備は整っていた。その傍らで不思議そうに周囲を見ますヨタカがぱちりと瞬いている。
「静寂の青……まさに名の通り、平和な場所」
ああ、と武器商人は頷いた。夏の香りを肺いっぱいに。胸の中に何かが爆ぜて踊り出しそうにその脚は進み始める。ヨタカにとっても武器商人にとっても二人きりでこうしてのんびりと過ごすのは久方ぶりだ。大切な番との夏の想い出のひとつとして、波打ち付ける浜辺をのんびりと歩き出した。
「さあ。小鳥。こっちへいらっしゃい。アクエリアの視察――なら、散歩だって悪くはないさ」
「……ああ。……紫月となら何処へでも」
空は青。砂は白。真上の陽。影は無く碧波が寄せては返す。そんな場所でナハトラーベは食事を行っていた。前回準備した調理場で唐揚げを揚げ続けている。油物は任せろと言わんばかりに淡々と作っているのだ。『唐揚げ、天ぷら、フライ、何だって』であるが、大量に持ってきた食材は全て調理したので彼女は現在販売側なのだろう。お買い上げはお早めに。小さな店員さんが夏の熱気に茹だってしまわぬように。
「鳥貴族ー! 酒飲もうぜ!」
酒瓶を船の上から振った史之はソルベの傍らにカヌレを見つけて「ご機嫌麗しゅう」と微笑んだ。
「俺もとうとう二十歳になりました。というわけで鳥貴族、祝い酒に付き合え! お嬢様も飲める年だよね。いっしょに楽しまない?」
喜んでと微笑むカヌレに続き「ソルベとお呼びなさい」とクレームが『鳥貴族』から飛んでくる。
ビアガーデンを作ったと言えば海洋軍人達の楽しげだ。波に揺られて船上で酒を雑多に呷るというのは貴族の二人には中々無い敬虔だろう。
「鳥貴族。ワインなんて気取ったもの飲んでんじゃねえビール飲めビール!
あ、お嬢様は季節の果物を使ったハニーシロップサワーなんてどう? もし飲みたいのがあればギフトで出すよ」
「ふふ、ならお勧めを頂こうかしら」
「カヌレ、飲み過ぎないように」
ビールジョッキを手にしたソルベの忠告に「ええ」とカヌレが頷く。その様子を見て史之は頬杖をつきながら「ねえ」と問いかけた。
「そういえば二人はけっこう歳離れてるよね。仲いいのはそれもあるのかな? 俺んちは妹がいるけど。んーまーフツー」
「妹が居るのですね。年が離れた妹は可愛いものですよ。何せ、10も違えば、親の気持ちですから」
ソルベに頬を膨らませたカヌレは「手が掛かる兄です!」とふい、とそっぽを向いた。
大号令で頑張ったご褒美というならばと蛍と珠緒は揃いの水着で遠慮無く生み遊び。作戦中は純粋に海を楽しめなかった――と言うわけで、綺麗な海を堪能すべく、イルカフロートに乗船である。
「はい、イルカさん、出航なのです!
ふふ、冒険中は波の揺れが不安を煽ったものですが、こうして笑って揺られることができるようになったのも、皆の成果ですね」
「ええ。珠緒さん、もし大きな波で揺れたりして滑り落ちちゃっても、これにしっかり掴っておけばだいじょぶだから安心してね。そう、たとえばあの波みたいに――ってきゃぁぁぁぁ!」
「……ひゃぁぁぁ……――教わったおかげで、何とか耐えましたよ蛍さ……?」
先程まで目の前に居たはずの蛍が消え失せている。何とかぎゅうと捕まっていた珠緒は波を指さした時に手を空けて流されてしまったのだと合点がいった。
「い、一度浅瀬に戻っても良いかしら……?」
「えいっ。乗りなおしであれば、二人で押して戻りましょう。これもまた、一緒の楽しみなのです」
飛び込んで、水の中をゆらゆらと進む。もう一度チャレンジし直そうと二人で顔を見合わせて笑い合った。
海と言えばビーチバレー。ティアと雪之丞、そして汰磨羈は折角のバカンス気分で水着を着用してワクワクしていたカヌレにも声を掛けた。
「ふむ。妖vs翼になるのか。中々に面白そうなカードだ。
負けず嫌いなものでね。全力で行かせて貰うぞ?」
にい、と笑った汰磨羈にカヌレは「お手柔らかに!」と堂々と微笑んだ。そのドヤ顔癖は兄から来るのだろうか。
「ティア様! 私と宜しくお願い致します!」
「うん。ボールを落とさない様にして相手側に入れたら良い球技だね」
ボールとネットは借りてきたというティアにカヌレは眸を煌めかせる。ルールは単純だと告げる雪之丞は「負けた方が何かを奢るというのは?」と罰ゲームを提案する。
ネット前でのブロックを行う雪之丞に汰磨羈は後ろを護ろうと告げた。玲瓏たる壁――雪之丞は中々に強い。
「お願いします!」
天を舞うティアのサーブを胸で受け止めた雪之丞。弾む胸をガン見の汰磨羈に「……汰磨羈様!」と振り返った雪之丞が目を丸くする。最早汰磨羈は胸しか見ていない。
「……おっとぉっ!?」
ティアもガン見だった。慌てるカヌレは最早敵ではない。胸に当たって弾んだボールを其の儘ティアへと打ち込めば慌てるティアが後方へと下がり。
「きゃあ!?」
「わっ!?」
……てんてんとボールは転がった。押し倒された形になったカヌレは「わわわわわ、わたくしにはまだはやいとお兄様があああ」と意味不明な言葉を繰り返しているだけだった。
「思えば滅海竜や妖精郷だったりでゆっくりするのって久々だなぁ」
そう呟くクロバにシフォリィは「そうですね」と微笑んだ。今年は事件も盛りだくさん。二人で遊びに行くという機会も望めなかったと二人きりのバカンスだ。『泳げないクロバと海に入ろうとしてハプニング!』は身に覚えがあるからと今日は二人で砂浜でのんびりだ。
「クロバさん?」
「あ、ああ……いや。水着。素敵だ。似合ってるよ」
飾り気のないシンプルでそれでいて健康的な白いビキニ。赤と黒を基調とするクロバとは対照的なカラーの彼女は目の毒だ。其の儘、レジャーシートの上にごろりと転がったクロバの顔を覗き込む。
「――!?」
彼女の唇が降る。不意打ちに重なって驚いたように起き上がるクロバにシフォリィは「好きなんだから理由はありませんよ」と揶揄った。火照る体の儘、シフォリィを独り占めするため、クロバは走り出す。
「泳ごう、シフォリィ。君と沢山遊びたい!」
――泳げないけれど。
●
\夏だ、海だ、バカンスだっ!/
花丸の号令が響く。思い出せば今年の夏はスイカを食べていない。スイカ君が美味しいよと言っていたのだからスイカ割の時間だ。
「夏らしい休暇を過ごせていなかったから、皆で海に来れて嬉しいよ」
そう微笑んだマルク。彼の目の前では黒狼隊の面々が夏のバカンスの準備を続けている。海に入りたいけれどスイカ割りもしたいと悩ましげな彼は一先ずは海の中でぷかりと浮かぶ。
「病気も波も収まってみりゃあ、こいつぁちょっとしたリゾート地だな」
ルカは黒狼隊というわけでは内がベネディクトとの友人としての縁でバカンスへと訪れていた。もっと先の時代になれば昔の戦いも忘れて此処はただの観光地となるのだろう。そう思えば心も踊る。
黒狼隊はきれいどころが揃っている。目の保養にも最高だとにいと笑い浜を行く。
「当時は、まさかこんな風に泳いだり浜遊びしたりできる場所になるなんて思いもよりませんでしたね」
ふうと息を吐いたのはリースリット。『あの頃』を思えばこの島がバカンスを行えるようになるとは思っても見なかった。まだまだ残る敵勢勢力も存在するが、それも淘汰されるのも時間の問題だ。
水着の上にサマードレスを着用し、風精の力を借りてふわりと歩み続ける。海面の上を歩くというのも中々に気持ち良いと『海上散歩』を行うリースリットの足下で「やっほー」と夏子が手を振った。
「そう。コレこれコレよコレよコレ。忘れられない一夏のアバンチュール。
あ~勝ち取った平和満喫教授するのサイコーなのだわ。この海辺に揺蕩って居られるなんてね」
ぷかぷかと浮かぶ夏子の前にもふもふとした犬が尾を揺らしているのが見える。「ベネベネじゃん」と彼が手を振ればベネディクトは頷いた。
「大きな事件も立て続けに起きていたからな……豊穣の事を考えれば、未だに予断は許されんが」
体の休息も戦士の務め。戦いを考えるのはよすと考えたが海というのは体に良い具合に負担を掛けるものだと口にして首を振った。
「リュティス。ポメ太郎をよろしく頼む」
「承知致しました」
いつも通りの裏方作業のリュティスにも今日は『ポメ太郎のお世話』のオーダーがある。つまり、「遊びますか?」と体全体でアピールする犬と遊ばねばならない。
「良いですか。ポメ太郎。こうしてスイカを冷やすのです。タオルを巻いて水に浸けておくと言いそうですが……これで冷たくなるのは不思議ですね?」
首を傾げるリュティスに「どうしてですかね!」と言いたげなポメ太郎が尾をぶんぶんと振っている。
リュティスが冷やしたスイカへと花丸が向かっていくがあさっての方向をぼこりと叩く。全力で振り落とす際に「チェストー!」と叫んだが――物の見事に砂の上。ポメ太郎の至近距離であったことで怯えたように犬がメイドの背後に逃走していく。
「ありゃ!? ぽ、ポメ太郎御免ー!?」
パラソルの下でスイカを眺めて居たリンディスはすくりと立ち上がり、「さあ、次は誰が行きますか?」と問いかける。
「皆でこうしてお出かけというのも久しぶりじゃのう。温泉地に調査に行ったっきりかのう?」
問いかけたアカツキは早速と言わんばかりにその手に目隠し用の布と木の棒を握りしめていた。
「はい風ちゃん、妾謹製のたいまつ用の木の棒と、何か変な形の目が描かれた目隠し用の布じゃ」
「えっ!?」
「そーーーれ!」
あれよあれよとアカツキにぐるぐる回される風牙は「スイカ如き目をつぶっても斬れるわーー!」と豪語していたが驚くほどにアカツキに回され続けている。
「よーし発進じゃスイカ割り免許皆伝風ちゃん号!」
「ちょっと回し過ぎじゃね? うおっ、けっこうフラフラする! なんの! 鍛えた体幹で支える!」
ぐらぐらと歩き続ける風牙。「そっちは! ……合ってますよ!」とわざと間違えた方向を指示するリンディスに合わせてアカツキまで「よいぞー!」と叫ぶ。
「気配が違う!」と風牙からクレームが飛べどもリンディスは容赦はしない。
「リンディスさん……やる気だ……! 普段はお淑やかで可愛いのに……!」
マルクの言葉に折角の機会ですからとリンディスはふふんと笑った。もしかすると彼女の『誘導』で花丸はポメ太郎を叩きかけたのかも知れない。犯人は……。
「敵はどこだ! ……なるほどそっちか! 心眼解放! ……気配、捕らえた!
――チェストオオオオオ!!!!」
「いやー盛り上がったのう、やはりこういうのはノリが肝心じゃな。
あ、塩を持って来たので振って食べたい者はご自由にじゃぞ」
アカツキに「本来は甘さを引き立てる為にかけるらしいが、俺ぁしょっぱいスイカが好きでなぁ」とルカは彼女の想像以上に塩をかけ続けた。
「ところで風牙さんの性別は、どっち?」
「……何見てるんだよ」
ふい、と視線を逸らした風牙にマルクは小さく笑う。リュティスもチャレンジしてみればとベネディクトが提案すれば彼女は断ることはしなかった。
「……あんま考えたこと無かったけどコレってスゴいんじゃね?だって目隠しして言いなりで棒握っ――ぷぁっ!? サメーッ!!?」
『目隠しした女性がオロオロしながら、おっかなビックリそろりそろりと歩を進めてく様』と微笑んだ夏子は人知れず何かの餌食に……なったのかも知れない。
●
常の衣裳をアレンジした可愛らしい水着に身を包んで『アリス』ことP-Tuberであるキャロは何時ものように配信動画の撮影開始。
「今回は、アクエリア島の素晴らしさを動画を通じて皆に伝えていきたいと思います!
イレギュラーズや海洋、各国の軍人さん達の戦いの成果で踏破された『静寂の青』
まだまだ整備は始まったばかりだしこれからきっとどんどん素晴らしくなる!」
練達で開発された動画サービスの広告ティッシュを手渡して、『アリス』はレストランの料理、設備、宿泊施設に自然知識を通じての海の素晴らしさを語り続ける。アクエリア広告塔にぴったりでは、と提案するカヌレにソルベは「成程」と大きく頷いた。
浜辺でビーチチェアに横たわりトロピカルジュースで夏を満喫。利一はキャッキャウフフと楽しむ仲間達を眺めるのも一興と小さく笑う。
黒いビキニを身に纏えば、そのセクシーさがより強調されるが、周りも皆水着であれば違和感も拭い周知も何処かへ。慣れてしまうのは男として問題かも知れないが、深く考えずに居れば普通の『ボーイッシュな美人』として振る舞える。
「あの大海戦が嘘のように平和だなぁ……いいことだね」
今は、この海を眺めてのんびりと過ごそう。ゆっくりと、疲れをとるのも必要だ。
泳げるかは分からないけれどとハルアはオレンジカラーの水着を身に纏い、イチゴの浮き輪を手に足を運ぶ。熱された砂浜の上を跳ねるように進んで行けば何処までも広がる自然が眩しくて仕方が無い。
「お邪魔するね」
屹度、この海をアルバニアは独り占めしたかったのだと感じてふわり、ふわりと泳ぐ。胸元で揺らいだ小さなネックレス。どうしてか、海ではもう遊べないと思っていたから。うれしいなあ、ありがたいなあという気持ちが湧き上がる。
(ボクのいた世界まで続いてたらな――)
そう思ってから、胸の友達と何処までも泳いでいこうと脚を動かした。
「ひゃっほー! バカンスだぜー! フラーン、海の中きもちいいぜー!
あ、そういやフランはおよげねーんだったっけ、そんじゃオイラが浮輪を引っ張ってやるぜ! しっかりつかまるんだぞー」
ぷかぷか泳ぐワモンにぐぬぬとしていたフランはレモンカラーの浮き輪を引っ張って貰ってふわふわと海の中。浮き輪にすっぽりと挟まって堪能するアザラシジェットは心地よい。
「あたし泳ごうとしても周りから見たら溺れてるようにしか見えないって止められたんだよねー。むむ。
はっワモンさんそうだ! 泳ぎ方教えてー!」
……アザラシに? 教わるの?
「いかー、こう腰のあたりをくねくねーっとさせて水をかきわけるのがポイントだぜ!」
……それはアザラシの泳法では?
チャレンジするフラン。其れは泳いでいるのでは無く、どう見ても海中フラダンスなのだった。
二人とも森育ち。海は新鮮で屹度楽しいとソアはエストレーリャの手を引いた。
「おいでよ、冷たくてとっても気持ちがいいよ」
呼ぶ声に「今行くから、もう少しゆっくり、ね!」とエストレーリャは慌てたようにそう言った。みるみる内に地上と脚がさようなら。ふわりと浮いたソアはエストレーリャの手を握り、彼のサポートを続けていく。
「ほらっ」
必死に頑張っている様子を見ればついつい揶揄ってしまって――エストレーリャの手を離せば驚いた彼がばたばたと不慣れな踊りを繰り返す。
「えへへ、でも泳げるようになったかな?」
「うん。びっくりしたけど、もう大丈夫!」
後ろからぎゅうと抱き締められた照れを拭って笑み浮かべる。其の儘もっと、もっと海の向こうへと――
「……そうだねぇ……ゆっくりしないとだよねぇ……」
やどかり的な同意を見せたリリー。今日は逆ギレする必要は無いともそもそと布団へと潜り込む。
「だって魔種とか竜とか倒したけどそのボーナスとかまだもらってないしねぇ……」
暑いときに冷房が確り効いた場所で過ごすことの何と贅沢なことか。アイスやジュースをデリバリーできれば外出もなしでいい。イベントにも興味は無い。期限一杯まで『Don't Disturb』なのだ。
「浜辺でスイカ割りですか……元の世界では剣気を飛ばして切ってましたねぇ。
さすがにこっちに来て弱くなってるので無理ですが」
スイカを見下ろす紡に威降は「俺はやったことないのでちょっと楽しみです」と笑みを零す。
目隠しした状態で声を頼りに割る遊びというのは普通にやれば二人とも楽々クリアの可能性がある。ぐるぐると回って平衡感覚を喪ってからが本番だ。
「あら、私が挑戦ですか? 普通にスイカ割りをするのは久しぶりなので、楽しみですね」
平衡感覚が鈍り、全盛期とは違って少しふらついている――其れを思えば、混沌肯定とは影響が大きいのだ。
「月羽さん、そこもう少し右です。……あっずれた」
「あぁ、こっちですか……手応えはありましたが、当たりましたか?」
綺麗に割るのは難しいですよねと顔を見合わせて小さく笑う。再度のチャレンジは少し休憩してからだ。
「夏もそろそろ終わりですが、こうして一緒に遊べて良かった。月羽さんの綺麗な水着姿も見れましたしね」
「私はもう若くはないんですが、アラサーの水着より若い子の方がずっと魅力的では?」
きょとりとした紡に威降はそんなことないですよと小さく笑みを零した。
巫女を思わせる衣服に身を包んで華蓮はアルバニアとの戦いからかなりの時間が経ったのだと息を吐いた。
(アルバニアと戦って――この場所で、あの戦いで、皆の姿を見て嫉妬の海に沈んで……)
何を言っても仕方が無いと立ち直るためにリフレッシュをと空を仰ぐ。思い切り、地を蹴って空を飛ぶ。
その白き翼で海面ぎりぎりを飛べば美しい青い色が自身を包み込む。空と海、彼の色彩。
レストランにも花火にもいけないけれど――嗚呼、そんなの勿体なくはない。この色彩が何よりも美しいから。
●
「ふーん、ただゆっくり遊ぶだけでお金が貰えるなんて。ラッキーな仕事だね。泉里」
真白の浴衣に身を包んだ魁真に泉里は山のような食材をまじまじと眺めて「こんなに食べられるのか?」と問いかけた。
「俺結構食べるのは好きなんだよね。せっかくだから海鮮メインにしようよ、海老とか魚とか貝とかさ」
「折角だから俺がもっと獲ってきてやろう。見えてる店まで行って効くだけだから大丈――」
「今回は大丈夫? だからそれ前にも言ってたでしょうが。
そんな目をきらきらさせてもダメ。認めない、ほら準備は俺がするからひたすら海老食べといて、マシュマロも焼いてあげるから」
ぴしゃり、と魁真に言われてしまえば泉里も諦めるしかない。大人しく食べてろと山盛りにされた食事にそんなに盛られてもと非難の声を上げた後、はっと思い出す。
「あっ、これも美味いな。今度は俺が焼いてあげるからカイも食べな。獲ってくるよ」
「あ? あっちに美味しそうな貝があった? ……というか走るな! 勝手に行くな! パパって呼ぶぞ!!」
ラムネの瓶を頬に当てればひやりと心地よさを感じる。十七号は静かに息を吐く。競泳水着にパーカーを羽織り、キャップを被ったその姿は今年度の水着グランプリである。
「ん……冷たくて気持ちがいいな。暑さが和らぐ」
ほう、と息を吐く。あちこちから妙な視線を感じるのは何故であろうか。十七号からすれば義手以外に可笑しいところは無いはずと首を傾げる――が……。
「日焼け止めをどうですか」という海洋軍人の提案に成程、と十七号は頷いた。
「ふむ、肌の色が変わるのを防ぐと。 いい試みだな。私も試していいか? ……何? 誰かに塗ってもらう必要があるだと?むぅ――。なら、同性の誰かに頼んでみようか」
ちょっとした『大騒ぎ』を起こしている水着グランプリの背中に誰が日焼け止めを塗るか門合いを眺めながらクリスティアンは小さく笑う。海は良い。のんびりと過ごすのは心地よい。
服を着ていたことも忘れて、浅瀬でのんびりと過ごせば暖かな空気が眠気に誘い――其の儘寝るんですか!?
海に行こう、と誠司はアイシャを手招いた。白のレースのビキニに露出は少なめでも、アイシャの姿を見ればどきりと胸が高鳴る誠司は「俺は兄」と言い聞かせて「かわいいね」と微笑んだ。
「あ、ありがとうございます……誠司さんもとても素敵です」
直視できなくて。真っ赤になって俯いたアイシャは何処までも海が広がっていると喜んで、彼に褒めて貰うために泳ぎの練習だって頑張った。
レストランで食事をして、濡れた耳や尻尾を拭いてくれる彼に照れが溢れ出す。それでも、楽しいことを沢山作りたくて、誠司は「ゲーミング御国大筒で花火を見よう」と微笑んだ。
少し、眠くなったのか、うとうとと夢との間際でアイシャがそっと手を伸ばす。
「ねぇ、誠司さん。教えて下さい。どうしたら私もあなたを幸せにできますか……?」
返事は聞かぬままに夢の中――誠司はそっとその頬を擽った。まだ、今日は楽しいことがあるから休憩したらもっと遊びに行こう。
黒いワンピースタイプの水着に身を包んでラムダは暫くバカンスを楽しもうとビーチチェアでくつろいで休暇を満喫中。
「簡易拠点って聞いていたけど施設も結構整っているじゃない。
ふふふ~軍資金も十分あるしたまにはバカンスと洒落込んでも罰は当たらないよね~」
軽く泳いで、シャワーを浴びて。そうしていれば普通の観光地のようだ。心も躍ってくる。
その様子を眺めれば、アルビノの女性をモデルとしたグリーフにとっては見慣れぬ海は漠然とした憧れの形として映る。砂浜で水に触れる、陽光を浴びて波の音に揺られる。それだけでも、ただただ、過ぎゆく時間を感じ取り心が躍るという者だ。
青い海は何処までも眩しい。ニアではなく赤い瞳のグリーフという個体で生きていることを何処までも感じる。それが――何処か、吹っ切れたように感じて「ワタシは私」と何度も呟いた。
召喚されたばかりで、まだこの世界に離れては以内。Albertは飲める水や薬草/毒草の生息場所に動物の種類など、様々な情報を集めていく。拠点以外の倉庫に使えそうな場所として存在していた洞穴だって中々に重要なポイントだ。
「この海渡ったら地元に帰れたりしねえかな……無理だな」
呟いた彼の鼻先に何かの匂いが感じられる。バーベキューを行っていたキンタが鶏キンカンとソーセージを並べて黙々と調理をしていたのだろう。
「初めての外洋の隣人となるか、自領となるか、いずれにせよモスカとしてアクエリアを視察……のつもりだったが」
むう、とクレマァダは唇を尖らせた。気付けば奔放に遊び回っていたカヌレに「クレマァダ様ではないですか」と手を引かれ、ソルベのパラソルでトロピカルジュースを飲んでいる状態だ。
「さすが貴族派筆頭様は余裕があってけっこうなことじゃ。こちらは本意気の仕事のつもりだったと言うに」
「いいえ、コン=モスカ嬢。休息は戦士にとっては必要なのですよ」
堂々とそう言うソルベに目を丸くしてからクレマァダは小さく笑う。そうだ、筆頭たる彼らが休んでいれば自分もほっとするのが何となく分かってくる。
「それに良い機会です。我らもこれからは、より密接な関係を築いていかねば……」
「お友達に、ということですか?」
「あ、こ、これからはモスカも活発な商取引が増えるじゃろうから、そういう話じゃぞカヌレ殿!!」
まあ、とカヌレは楽しげに笑みを浮かべた。どうやら、コンテュールの令嬢は『海と空』の喧嘩とは離れた位置に居て――酷く、調子が狂ってしまう。
●
「おかしいな? 俺はどこぞのカヌレお嬢様が言う視察という名のバカンスだから来たはずなんだが……」
そう茫と呟くエイヴァンはと言えば、海洋国軍による狂王種掃討に駆り出されていた。無論、特異運命座標としての立場の方が強い故に今回の掃討は海洋軍の方が中心で行うのだろう。周辺の掃討をある程度済ませたら酒盛りでもしようとサボる様に「休憩」と口にした彼の眼前にはカヌレが立っていた。
「終わりましたの?」
「あ?」
――どうして、お嬢様の視察に付き合わされるんだと嘆いたエイヴァンに「これも仕事でしょう」と楽しげな声音が返ってくる。
「そろそろ、島の狂王種たちは、少なくなってきたでしょうから、海の狂王種たちを、探しますの。
けれども……それでは、陸種のかたがたは、戦いにくいでしょうから……そこでわたしが、一肌脱ぐ、番ですの」
そう言ったのはノリア。海種である彼女は海に適応せぬ者達のことを『陸種』とそう称した。深き海の底には有象無象が存在している――が、狙うのは『陸に上がっても活動できそうな肉食種』である。つまりは生き餌のノリアが頑張って敵を『釣り上げる』のだ。
「さすがは人魚姫! 良い仕事だわ!」
「人魚姫、だなんて、照れますの」
ゆらゆらとゼラチン質の尾を揺らすノリアを鼓舞する社ファはその手に瓢箪を握りしめたまま船頭ににやりと笑う。曰く、酒を呷って船酔いをしてその吐瀉物で狂王種を呼び集めろ、というのだ。
「ひっ」
「ふふ。冗談よ。さ、相手が来るわ!」
口に勢いよく酒を含み、其れを炎と化す。突然の火炙りに飛び出してきた狂王種も驚くことだろう。その身を呈してモンスターを釣り上げるノリアに「グッジョブです!」とリディアは微笑んだ。
「狂王種――思えば私の初陣も、鯨のような狂王種が相手でしたね。
海の脅威を少しでも減らす為……そしてあわよくば、新たな食の探求の為! 全力で参ります!」
食欲というのは人間を突き動かす欲望の一種だ。リディアが握る蒼煌剣メテオライトが美しい残夏の太陽を返す。
「おヤ? 食べれる場所……ふむ、倒し終わったナラ見てミヨうか?」
そう告げるバーデスに大きく頷いたのはリディアであった。モンスター知識を使用しての陽動でノリアをサポートするバーデスであれば安全に食べる方法はきっと見極められるだろう。
「探索を邪魔されると困るし……まずはアクエリア周辺にいる狂王種を1体でも多く倒す。魔種の探索はその後でいいわ」
コレットはそう静かに告げた。海洋軍と共に出来る限りの狂王種を討伐するために、ずんずんと進んでいく。海洋軍達の中でも天義ではその名を轟かせる優しい破壊神に敬意を以て接しているようだ。
「行きました!」と声が発され、コレットは頷く。堂々と剣を伴っての全力での薙ぎ払いが、狂王種のその身を地へと打ち付けた。
「私の故郷も、踏破きっかけに人が増えててね。ここでのアレコレが整ってくれたほうが助かるのさ」
コートを揺らしたリョウブは探索中心で動く。アクエリア島自体の狂王種は確かに少ないのだろう――『打ち上げられる狂王種』を眺めながらリョウブは情報収集を続けていく。
「強いのは後回しだ。なに、急がず確実には上の意志でもあるだろう?
軍と一緒になんとかできそうなら喧嘩売るのも悪くないかな」
くすりと笑ったリョウブに海洋軍人達は「喧嘩を売れそうな相手を探そう」と大きく頷いた。
「うん、先日仕立てた軍服衣裳、隊に似合うじゃない。素直にバカンスも良いけれど、一仕事しようか」
美咲の言葉に「作戦りょーかい、奮戦努力します!」とびしりと敬礼するヒィロ。美咲と合わせた軍服は二人に似合うように仕立てられているのだろう。愛らしい二人の軍人は狂王種を探すようにきょろりと周囲を見回す。
マルスフェザーを揺らす美咲のアイコンタクトに『いざというときに出来るヤツ』として頼られるためにヒィロはがばりと顔を上げた。
「おっけーおっけー、いつもの連携でアイツを狙うんだね! いけーッ、『怒涛』!」
跳ねるヒィロと連携し、『いつも通り』の戦いを見せる美咲。二人で一つのように力を発揮し続ける。
「うーん、頑張ったらお腹ぺこぺこ……ねねね美咲さん。アレ、食べられないかなぁ?」
彼女が指さした先の狂王種は鯨を思わせる「どうかしら」と微笑んだ彼女にヒィロは「うーん」と首を捻った。
「……狂王種、廃滅病が蔓延しているうちは正直極力接触も控えたかった相手だったのですが。
今こうしてみると、まあまあ糧食として役立ちそうな相手なのです。
いつだったか、利香が食べようとしてましたっけ? チャンスがあるなら、ちょっと色々試してみますか」
燃やす事が大得意なクーアは打ち上げられた鯨の向こうに小さな個体が居る事に気付く。霊薬を辺りに振り撒き、炎と雷の本流を引き起こしながら対応を続けていく。
「ヘンテコな攻撃手段の大半は、今の私には通じないのです」
胸を張る。この周囲に領地を得た身としては『ちゃんとやることはやっておきたい』とクーアはふふんと鼻を鳴らした。
遊ぶのも楽しいけれど、どうしても海の安全が気になるとメリッカは此処で安全に過ごせるようにと進む。海中を泳いでの捜索に、敵勢存在を捜すが為に他イレギュラーズとの情報を共有し続ける。
「ヤバそうなら上空に逃れるって手もあるネ。
けど……まあ、結構な数が残ってるのは残っているのか。さすがは海。広いってことかな」
そうぼやく。狂王種は突然変異した海の怪物達だ。驚異の度合いは下がっているだろうが、引き続きの対応が必要だろう。
「さて、一働きするとしますか」
クラークは海洋軍と共に可能な限りの索敵と行おうと考えた。重要なのは連携と敵の情報整理だろう。
スキルも自信が出来ることを惜しむ気はない。全力で頑張ろうとやる気を漲らせた。
将来の定住地は海洋が目標であるゼファーにとってこの仕事は気になるところ。……と言うわけで、この土地には未来の住まいが作られる可能性を加味しての軽ノリでの掃討の中でふと、思い浮かべるのは『あの絶望』
「静寂の青なんて気の利いた名前、一体誰が呼び始めたのやら。
此の海じゃ、良い女も良い男も死に過ぎたからねぇ……」
思い起こされるのはあの戦いで見て、触れて、感じた数々。息を吐く、そして槍の穂先を向けたまま小さく笑みを零した。
――ハロゥハロゥ。聞こえているかしら。
貴方達が護った海は、今日も穏やかに。遠く遠くへさざめいているわ。
●
「周辺を開拓していくにあたって、やはり拠点に必要なのは先人の知識の集積所だと思うわけですね。
となると必要なのは……そう、資料館! これまで得た絶望の……」
底まで口にしてからウィズィは首を振った。もう、この地域は『絶望』とは呼ばれていない。
「静寂の海の知識を蒐集し、編纂し、そして図書館を併設して一般にも公開する。
海洋的にキャッチーなネーミングとして……名付けて『ドレイク資料館』!」
大海賊、伝説と呼ばれた男。ドレイク記念館から之資料提供も出来ると心を躍らすウィズィにイーリンは「さ、こっちにいらっしゃい」と彼女を手招く。
「十進分類でまとめていくわよ。この島、簡易拠点にしてる間に持ち込まれた資料だって山ほどあるでしょ、力仕事もあるわよ」
船旅では娯楽もない。ならば本の一つも読みたいだろうとイーリンも彼女の案には価値が大きいと認識していた。本は何れ集まる。しかし、今ある知識を忘れないためにと黙々と作業を続け……。
「ふう。やっぱり『司書さん』がいると段取りが良いね!」
「司書さんなんて、随分懐かしい呼び方ね。でもそっか、最初に出会ってから――」
指折り数えれば丁度一年。長いけれどあっという間の航海。懐かしいとイーリンはウィズィの側へと寄って柱をつん、と突いた。
「ねぇ、ここの棚に隠れる柱に名前彫っちゃう?」
「悪戯っ子なんだから、もう……そういうとこ好きだよ」
『二人だけの秘密』は尊くて、愛おしい。二人の名前を彫り込んで、そっとその周囲をハートで囲んでからウィズィとイーリンは子供のように顔を見合わせて笑った。
リリーはバカンス……と見せかけてカヤの特訓をするのだと景色を楽しむと共に地形に慣らすために進み続ける。カヤはアクエリアのような地形は余り慣れてないだろう。
「走って走って、それで楽しむ! それがリリーのやり方、なのっ」
そこまで口にして、リリーはそう、とカヤの背を撫でた。海洋での戦いは沢山の経験と喪失があった。
「……でも、色々あったね……まさかあんな凄い戦いになると思わなかったし……ホント、いい思い出、だよっ。とくに水竜様の背中にのって戦ったの……凄く良かったっ。
……今はゆっくり眠っててほしいなぁ……まぁ、色々考えるのはこれ位にして……。さ、走ろっか、カヤ」
ナイーブな気持ちは忘れようと首を振る。今は何よりも楽しんでいたいから。
陸のことは誰かが気付くだろうと海の中へ。縁は荒らしちゃいけない場所や岩場が無いかの確認作業から始めた。
「おっと、ここはお前さん方の家かい。邪魔してすまねぇな。うっかり壊しちまわねぇよう、後で上のやつらに言っておくぜ」
小さく笑みを零してぐんと進み行く。こうしていればあの慌ただしい日は嘘のようで――廃滅の呪いに、アルバニアとリヴァイアサン、そして、首残った痣。リーデル・コールをその手で殺したことだって全部悪い夢だったとさえ思えてしまう。そ、とその首筋に触れた。確かに彼女の指先はこの首を締め上げた。夢じゃないと確信して縁は明るい『陸』へと登った。昏い海の底から舞い戻るように。
「戦いは終わったけれど、この海が完全に平和になった訳ではないもんねぇ。
わたし達と、あの子が守ったこの"静寂の青"。もう、絶望に包まれて欲しくはないから……この海がずっと静かで、綺麗でいてくれるようにする為には後もう少し頑張らなきゃだねぇ」
夏の気分でと浴衣を身に纏う。花を纏って、狂王種のもとへと向かうシルキィはそうと心の欠片に手を添えた。海洋軍人との合同戦線は『あの時』のようで、何処か擽ったい――けれど、少しでもこの海を護る為に。その攻撃は緩むことは無かった。
●
まだまだ夏は暑い。動きやすい様に上半身は裸。動きやすい姿をとったカイトは黄金の果実があったことをふと思い出す。廃滅に対しては特効薬であった……だが、易々とは見つからないのがお決まりだ。今は似通った林檎がアクエリアには散見されるようだ。
「カヌレがベッツィータルト作ってたし、果実酒とかでも良いし。果物は航海、病気を防ぐのに大事!」
大きく頷き。果樹園を作れぬものかと実を捥いだ。ソルベへのお土産とした数個と、交易地点として発展させるべく案を纏める。……ついでに言えばカヌレのタルトが食べたいのも確かだ。彼女に言えば「作りましょう」と微笑んでくれるだろう。
そ、と海沿いの静かな丘にカイトは小さな石の祠を作った。水竜を祀る場所である。小さな魚を与えて。かの勝利は彼女のお陰であったとそう、口にした。
「ソルベ殿ー! 覚えてますか! 拙者が手柄を立てたら結婚してくれるという約束! 結婚しましょう! 今ここで!!」
手を振って駆け寄ってくるルル家にソルベは「なっ!?」と大げさなほどのリアクションを取った。驚いたように身を竦ませる彼にルル家は小さく笑う。
「というのは冗談です! 手柄を立てたと言える程の何かをした訳ではありませんので」
そう言えど彼女は廃滅の病で片目を失っている。そんな彼女が『ちょっとしたご褒美』が欲しいというのを無碍には出来ない。そう、と耳を寄せての『おねだり』にソルベは目を見開いた。
――トルタちゃんのお墓を女王様の住居の近くに建てられませんか?
トルタ・デ・アセイテ。ソルベにとっては政敵で、裏切り者の彼女。女王を『恋い慕った』という報告は聞いている。ソルベは「その件は女王に相談しましょう」と柔らかにそう言った。
此処がアクエリアなのだとエマは周囲を見回した。ちゃんと訪れるのは初めてで――まるで『あの時のことなんて嘘だった』かのように海は静寂に溢れている。
完全にオフモードだと海を泳いで美味しいものを食べて、夏を堪能すると決めていたエマはふと、海を見遣る。唇が、空音を奏でた。
「折角ですし、歌ってみましょうか。いわゆるストリートビートってやつですかね。えひひ……。
この歌、皆さん聞いたことありますか? ここにいる人たちなら聞き覚えがあるかもしれませんね。『ウルトラマリンの歌』と最近名付けられたんです。ではでは――」
その悲しみを癒やすように。青の群が涙に溶ける。眠る貴女が呉れた祝い歌。
「ひと夏の思い出に準備は大切で御座います」
そう告げる幻が身に纏うのは蝶々と青薔薇を描いた愛らしい浴衣であった。ゆらりと帯を揺らす彼女の傍らでシンプルなあじさいを飾った浴衣に身を包むミエルは「わあ」とぱちりと瞬いた。夜にもなれば打ち上げ花火を楽しめる。それがカヌレとソルベによるささやかなお礼であったのかもしれない。
「僕のいた世界には花火が御座いましたが……。
なんと申しますか、これぐらいの華やかさが風情があると思うのです。
夢の世界では毎日、世界中がお祭りのようなもので御座いましたから。毎日豪華な花火が打ち上がっていたものです」
「一色だけじゃなくって、カラフルなのもあるんだぁ。
わたしがいた世界には花火なんてなかったんですよぉ。何度見ても圧倒されちゃう美しさですねぇ!」
にんまりと笑った彼女に幻は頷いた。彼女と見る花火はこんなにも美しいのだ。
打ち上げられる花火だけではない。手で持ちぱちりと弾ける焔を眺めることだって出来る。二人揃って選んだのは線香花火。
「えへ……すっごく楽しいですぅ! 幻様と一緒に来られてよかったぁ」
手持ち花火で遊ぼうとうつつはレオと共にじいと花火を崇めている。うつつはレオの事を幼い頃から知っていた――筈だった。しかし、召喚されたうつつはレオを知るうつつではなかった。
混沌では友人という立ち位置でも無意識に子供扱いしてしまうこと感じながら、レオをまじまじと見る。
「きれいだけど……じっとしてないと、すぐ落ちる、から」
「むぅ、うつつ、俺はもう22で子供じゃないんだからそうやって子供扱いするなよ。
なんだよ、そうだ。じゃあ線香花火どっちが長く落とさないか勝負しようぜ。俺が勝ったら子供扱いしない、でどうだ?」
子供扱いなんてしてないけれど、と肩を竦めるうつつにレオはつんと拗ねたようにそっぽを向いた。
きっと――心がそうしているのだろう。其の擦れ違いをうつつはまだ、気付くことは出来ないだろうけれど。
●
「さぁて、仕事だ仕事」
以蔵はサヨナキドリの海洋支部長として仕事をすると胸を張った。人の移住があるというならば、物資の提供場所だって必要だ。無難に食材や生活必需品を調える商店として名乗り上げたいと彼は考えた。
「ソルベさま、豪華なホテルの建設ってどうかしら~?
だって、なが~い船旅の途中の宿泊施設がイマイチだったら、海洋ってこんなものなの? ぷ~くすくすって、他国の人に思われてしまいかねないもの~」
「それはいけませんね」とレストの提案に大きく頷いたソルベ。
「これからたくさんの子が行き来する航路ですし、海洋の威厳をキラッと見せつける為にも、素敵なホテルが必要なのではないでしょうか~?」
もしもホテルを建てるなら『リヴァイアサンのしっぽ』という名前を付けるのは銅貨という提案には「民宿のようで愛らしい宿を思わせます」とソルベにとっても好感触なのだろう。海洋王国が竜種と戦ったことを彼は誇らしく思って居るのだ。
「私はアクエリア島に領地を得て、"Giardino della Stella Bianca"という総合レジャー施設の建設を進めている」
そう堂々と言ったモカ。まだまだ交通の不便なこの島に必要なのは快適な宿泊施設である。そう考えた彼女は建設の容易なログハウスを建設した。ソルベやカヌレがバカンスとして訪れてくれれば嬉しいと、モカが提案すれば、ソルベは大きく頷く。彼らが広告塔になってくれればレジャー施設も繁盛間違いないだろう。
島で採れた魚介類や野菜、野草をシェフとして振る舞うモカの料理も楽しみだとソルベは微笑んだ。
「まずは食べ物ね。ちょうどいい植物を持って来る事が出来たから、この島で有効活用してもらいましょうか!」
にんまりと微笑んだイナリ。食生活の充実のために、鶏草を撒いて数を増やし続ける。
手間も掛からない植物であればアクエリアでだって育ちやすいはずだ。将来的にはこの島の特産物になりますようにと願い、育成方法を伝授する彼女に海洋軍人達のヘルプの声が飛び続ける。
「ここを押さえて、拠点に――なんて躍起になってたのがもう随分と前のことみたいねぇ。
こうやって船でのんびりと来られるようになって、未来のことを考えられるなんて……不思議だわぁ」
ほう、と息を吐いたアーリアは酒場を作るために簡易的なテントのを張った。小屋が以前の拠点整備でいくつか整えられていたことがありその一棟を借り受けることとなる。
「外のプレートで焼ける海鮮なんかを肴にね。
海洋にはラムにワインに、お酒も豊富!そしてこの辺りはで捕れたての魚! もう完璧よぉー!」
うっとりとした彼女ははっとしたように振り返る。くすくすと笑う声に頬を赤らめ、ちょっぴりのつまみ食いで髪のカラーが変わった事も公然の秘密とする。
「……こうすれば、この島の整備をする人の憩いにもなるし。
この海に眠る人達にも、飲んで騒げば楽しそうな声が聞こえるでしょう?静寂の青に、笑い声が響くなんて……とっても素敵じゃない?」
沢山の人が眠ったこの場所で。屹度、楽しげな声を聞きたいと彼らも願っているはずだ。
その言葉に大きく頷いたのは彪呑。酒場にはカフェテラスやバーも欲しいと彼女は提案する。
「来た人がご飯食べたりお酒飲んだり、休むところ、大事」
小屋を改造してテラスを作るところからスタートだ。身長と力が必要ならば任せて欲しいと胸を張る。
「大変でも、これでお酒の飲める場所ができるなら、頑張ります……!」
居住地区からの申し入れや要望を聞きたいと文は建設途中の役場の手伝いを行っていた。
「前に来たときよりも拠点らしくなっているね!」
これからどんな場所になっていくのか。拠点までの道の舗装や区画整理。狂王種や海賊達の傾向に地図、海図、航海図、星図、天候、海流……島の植生に海産物と言った生き物の分布など資料を振り分け、ウィズィやイーリンが作業する資料館側へ渡す者と拠点用の要望や陳述書を分けていく。
「盛況でしょう」
「そうだね。……けど、誰かが此処をとりまとめなくちゃいけないね」
文の言葉にソルベは頷いた。多忙なる彼がこのアクエリア総督府まで管理することは出来ない。
それは文もよく分かっていた。ならば、誰かがこの拠点のリーダーとなるのだろう。
数ヶ月前にイレギュラーズとして生きていくと決心した修也にとっては怪我の多い残いこの仕事は体が資本だ。これから生きていくためにと考えれば海洋王国近海諸島の領地経営こそが一番だと『老後の設計』を行ったことを眼鏡をきらりと輝かせた。
この地域はまだまだ『未開の地』である。修也の調べたい料理や気質に関してはこれから作られていくものなのだろう。待ってましたと言わんばかりのソルベは「実はアクエリア総督を任命することとなりました。その任命式を――」と前へと進む。
ぱちりと瞬いたのはイリスであった。それもその筈だ。この島はある戦いで『漂流』することとなったアトラクトス親子が発見したのだ。その縁もあってか、アクエリア総督として進み出てきたのは彼女の父だったのだ。
「アクエリア総督、エルネスト・アトラクトスだ」
堂々とそう告げた彼はこれからフェデリア海域の開拓も進めていきたいとイレギュラーズに宣言した。
これから進めるのはフェデリアの無人島に新たな拠点を作り何時の日か来る神威神楽との交易に生かしたいという事だ。
「どうか、我々に力を貸して欲しい。これからの海洋王国の発展のために」
――どうやら、この国でもまだまだ課題は山積みのようだ……。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度は沢山のご参加有難うございました!
当イベントシナリオの結果を受け、アクエリアの総督について、それからフェデリアについてのご案内が叶いました。
それでは、海洋王国での冒険も楽しんで下さいね!
(追記 2020/09/13 23:00)
データ抜けがありましたので修正致しました。該当のお客様にはご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。
GMコメント
夏あかねです。
もう8月終わりかけですが、まだまだ夏を!楽しんでください!
※1行目:行動は冒頭に【1】【2】【3】でお知らせください。
※2行目:ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※3行目:お洋服のご指定(今年の水着!や●●絵師の!などでOKです)
●アクエリア島
旧『絶望の青』に存在する島。海洋王国大号令の際は攻略拠点の一つとして魔種より奪取し使用されました。聖域化されており、簡易拠点としての設備は備えています、
海洋王国はこの島を居住地や拠点として使用していくことを考えているようです。
【1】アクエリア島でバカンス
カヌレ曰く『夏祭りも成功したし、ゆっくりとしましょう!』とのことです。
簡易拠点ではレストラン等の設備も充実、簡単な宿泊施設もあります。
まだまだ夏真っ盛りな海遊び&浜遊びや食事(BBQやレストラン利用)等々。
花火等を楽しむことも出来ます。とにかく夏を!遊ぼう!
【2】アクエリア周辺掃討
アクエリア周辺に存在する狂王種との戦闘及び変異種や魔種の探索を行います。
海洋軍との合同戦線も可能です。残党のチェックを行いましょう。
また、本シナリオだけでは全ての対応は不可能です。のんびり頑張りましょうね!
【3】アクエリア拠点整備
アクエリア島の拠点は簡易的にですが整備されています(過去シナリオ:海央の橋頭堡/Islands Consecration/アクエリア狂王種掃討作戦/Calm wind 参照)
然し、まだまだ移住するには足りません……。
居住区域や設備の面での整備を行いましょう。新たな施設なんかの提案も良いかもしれませんね!
何せ、まだまだ『何もない島』です。皆さんの想像次第でアクエリアも変化するでしょう。
●NPC
ソルベ・ジェラート・コンテュール及びカヌレ・ジェラート・コンテュールは居ります。
その他、海洋関係者等もお声かけいただければ描写可能な場合もありますのでお気軽に。
その他、GM担当NPCにつきましては各国主要NPC以外でしたらお声かけいただければ……もしかしたら……。
それでは、宜しくお願いします。
Tweet