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シナリオ詳細

超混沌的球技大会!

完了

参加者 : 109 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ボーロがくる!
 あるよく晴れた日のこと。
 フィッツバルディ領のはずれにあるとある街に、イレギュラーズが集まっていた。
 当然依頼を請け負うために集まったわけだが、その詳細は不明。
 ただ、『楽しい依頼』があると聞いて集まったわけだ。
「ふふ、よくこれだけ集まったものね」
 依頼を持ちかけた張本人、情報屋の『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が不敵に笑う。
「一体なにがはじまるんだ」そんな声に、リリィは楽しげに事態の説明を始めた。
「集まってもらったのは他でもないわ。私のギフトと足で集めた情報なのだけれど、あと数刻でこの街に『ボーロ』がやってくるわ!」
「えぇ……? なにそれ?」
 聞き覚えのない言葉に誰もが頭にハテナを浮かべる。
 そんなイレギュラーズを見てリリィは愉快そうにボーロに付いて語り出した。

 ――ボーロ。
 その姿は球状で大小さまざま。
 群れをなして行動し、ある時期になると一斉に大移動を開始する不思議生物。
 斬る事はもちろん潰す事も叶わない不死を思わせるそれは、その存在が消滅するまで跳ね続けるという。
 ちなみに当たるとちょっぴり痛いが人畜無害。

「そんなボーロが、今この街目がけて大進行中よ。その数実に千! あはは、飛んだ災難に見舞われたものね、この街も。まぁ当たっても窓も割れないし被害はないと思うのだけれど」
 他人事のように笑うリリィは実に楽しそう。
 で、そんな不思議生物相手に何をするんだ? と疑問は尽きない。
「当然、皆さんにはボーロを追い払ってもらうわ! ――というのは冗談で、というか流石に千も居るんじゃ対処しようがないわ。
 というわけで、良い機会だからスポーツでもして親交を深めましょう!」
一体どういうわけだ、という突っ込みを無視してリリィは続ける。
「投げて、蹴って、打ち返して。ボールのように扱えるボーロを使って遊んでしまおうというわけよ。名付けて超混沌的球技大会! 遊び方は自由自在。色々用意したから、街には大きなグラウンドも、ゴールポストも揃ってるわ。なんだったらホントに追い返すのに街の入り口でボーロを打ち返しまくってもオッケーよ」
 ガラガラとどこから用意したのか、球技に使う道具を大量に運んでくるリリィ。
「球技が苦手なあなたも見学とか応援、ボーロでお手玉、スーパーボールのように跳ねさせて遊ぶでもいいわね。賭け事は……バレないようにやって頂戴」
 ブカブカのメットを被って、バットをもったリリィはワクワクを隠せてない表情だ。球技、そんなにやりたかったのだろうか。
「さ、そんなに時間はないわよ。誰と何して遊ぶかチャキチャキ決めて頂戴。ふふふ、誰がハットトリックホームランエース王になるかしらね」
 色々混ざった謎の単語を漏らしながら、その大人びた雰囲気に反した少女らしい笑みを浮かべるリリィ。
 どうやらもう逃げられ無さそうだ。折角ここまできたのだし、遊んでみるのも良いかもしれない。
 イレギュラーズ達は、さて何をしようか、と思案を開始した。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 混沌ならではの不思議生物を利用した球技大会の幕開けです。
 スポーツ好きもスポーツ苦手なあなたも、ちょっとした一時、遊んでみましょう。

●ボーロについて
 不思議生物。物理的、魔法的手段では死にません。
 ぴょんぴょん跳ねて移動する人畜無害な良い奴です。
 今回はボーロの群れ千匹が街に来襲します。
 大きさは実に様々、ピンポン球サイズやバスケットボールサイズなどなど。
 人が触れると身を守るために動かなくなります。やりたい放題できます。
 遊んだあとは放っておけば勝手にどっかへ行ってしまいます。

●出来る事
 球技全般なんでもありです。
 特殊なルールのものは描写できないかもしれません。
 一人で参加される方も、二人以上で参加される方も以下のシチュエーションを選択してください。

 【1】ボーロで遊ぶ
 何の球技をして遊ぶかプレイングで指定してください。
 指定が無い場合カットになるかもしれません。

 【2】応援、見学
 球技をせずに眺める方はこちら。お弁当食べたりできます。
 ボーロの研究をしても良いですがあまり分かる事はないでしょう。

●NPC
 リリィ=クロハネが皆さんの球技を見て廻っています。
 お声が掛けられれば何処へなりとも現れて一緒に遊びます。
 友達をほしがっている可愛い奴です。

●その他
 ・同行者がいる場合、【プレイング冒頭】にID+お名前か、グループ名の記載をして頂く事で迷子防止に繋がります。
 ・単独参加の場合、他の方との掛け合いが発生する場合があります。
  完全単独での描写をご希望の方はプレイングに明記をお願い致します。
 ・NPCとの描写が希望の方も、その旨、明記をお願いします。
 ・描写は可能な限り致します。但し白紙やオープニングに沿わないプレイング、他の参加者に迷惑をかけたり不快にさせる行動等、問題がある場合は描写致しません。
 ・アドリブNGという方はその旨プレイングに記載して頂けると助かります。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 超混沌的球技大会!完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年04月05日 21時30分
  • 参加人数109/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 109 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(109人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
ノイン ウォーカー(p3p000011)
時計塔の住人
春津見・小梢(p3p000084)
グローバルカレーメイド
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
世界樹(p3p000634)
 
オクト・クラケーン(p3p000658)
三賊【蛸髭】
エスタ=リーナ(p3p000705)
銀河烈風
オルクス・アケディア(p3p000744)
宿主
コル・メランコリア(p3p000765)
宿主
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
アーラ・イリュティム(p3p000847)
宿主
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
桐野 浩美(p3p001062)
鬼ごろし殺し
久遠・U・レイ(p3p001071)
特異運命座標
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
叶羽・塁(p3p001263)
此花咲哉
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
コルヌ・イーラ(p3p001330)
宿主
カウダ・インヴィディア(p3p001332)
宿主
パティ・クロムウェル(p3p001340)
斬首機構
レーグラ・ルクセリア(p3p001357)
宿主
カイン=拓真=エグゼギア(p3p001421)
特異運命座標
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
ブラキウム・アワリティア(p3p001442)
宿主
ストマクス・グラ(p3p001455)
宿主
諏訪田 大二(p3p001482)
リッチ・オブ・リッチ
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
メイファース=V=マイラスティ(p3p001760)
自由過ぎる女神
センキ(p3p001762)
戦鬼
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
アルク・ロード(p3p001865)
黒雪
ギギエッタ・ゴールドムーン(p3p001891)
夜遊び上手
九条 侠(p3p001935)
無道の剣
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
リック・狐佚・ブラック(p3p002028)
狐佚って呼んでくれよな!
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ルシフェル・V・フェイト(p3p002084)
黒陽の君
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
美面・水城(p3p002313)
イージス
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
針金・一振(p3p002516)
狐独演劇
気象衛星 ひまわり 30XX(p3p002661)
お天気システム
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ダレン・アドリス(p3p002854)
灰肌の
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
コルザ・テルマレス(p3p004008)
湯道楽
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
神埼 衣(p3p004263)
狼少女
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
シラス(p3p004421)
超える者
Morgux(p3p004514)
暴牛
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁
ヨダカ=アドリ(p3p004604)
星目指し墜ちる鳥は
アトス(p3p004651)
片割れ
ブローディア(p3p004657)
静寂望む蒼の牙
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
Svipul(p3p004738)
放亡
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠
一条院・綺亜羅(p3p004797)
皇帝のバンギャ
最上・C・狐耶(p3p004837)
狐狸霧中
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered
ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)
深淵を識るもの
天津ヶ原 空海(p3p004906)
空狐
ココル・コロ(p3p004963)
希望の花

リプレイ

●超混沌的球技大会開幕
 ――街の彼方先、平地の向こうで影が跳ねる。
「ふふ、どうやらきたようね」
 その影を見初めてリリィが笑みを零した。
 徐々に近づいてくる影。その数、千。
 飛んで、跳ねて、転がって――球体然としたその姿は自由奔放に、だが統一した意思を持って進んでくる。
 街へと向けて一直線に向かう様、まさに圧巻の一言であろう。
 なだれ込む球――ボーロ。そのボーロを前にリリィは声高らかに宣言した。
「さぁ、超混沌的球技大会、開幕よー!」
 まばらな拍手と、気合い込めたイレギュラーズ達の咆哮が、天高く響き渡った――。

●プレイボール
 球技大会の開幕の宣言と同時。コリーヌはギフトの正宗くんと共に野球グラウンドの傍で用意した様々な味のポップコーン屋台を開いていた。
「はいはい、出来立てあつあつのポップコーンだよー。美味しいよー」
「ポコポコ デキル ポップコーンダヨー」
 ポコポコ音を立てながらポップコーンが作られていく。
「で、なんで今回もアナタがいるんですか。まあ、いいんですけど」
 大きく溜息をつくノイン。その様子に竜胆が肩を怒らせる。
「……あのね、それはこっちの台詞なのだけれど。
 毎度毎度どうして気が付けばアンタが隣に居るのよ? こうも続くと呪いか何かを疑いたくなるわ、本当にね。」
 竜胆の言葉を馬耳東風に受け流すと、ノインは手近に転がってきたボーロを拾い上げ、何の脈絡もなしに竜胆へ向け投げつけた。
 それを宣戦布告と受け取った竜胆は激昂のままボーロを投げ返した。
 互いにボーロを投げ合う。時には躱し、時には受け止めて。そしてクリティカルなボーロが互いの顔に直撃する。
「ふべっ」「あいたー……ぐぬぬ」
 悔しそうに顔歪ませるのも束の間、二人はふっと噴き出した。
 偶にはこういう風に遊ぶのも悪くない――球だけに。何てね。
 アンナとシュリエは二人で大きなボーロを捕まえていた。
 玉乗りの練習をするにゃ! と意気込むシュリエに説明を求めるアンナ。
 シュリエはふっ、と笑うとサーカスを見て自分もサーカス団を作りたくなったという。理由はそれだけだった。
 シュリエはさっそくボーロの上に乗り玉乗りしながらお手玉をしてみせた。こっそり練習した成果がでていた。
「――上手なものね。普段からどことなく猫っぽいけど。……練習した後のようなすり傷は見ない事にしましょう」
 速攻ばれていた。
 玉から降りてアンナにもやるよう言うシュリエ。見ただけでは分からないというアンナに、団員一号の役目にゃ、と強要する。これはやらないと解放されそうにない。アンナは諦めて玉乗りをすることにした。
 やれやれと言う感じで、ボーロによじ登るアンナ。
「ええと、ボーロに膝立ちで乗って……たちあが……きゃあっ!?」
 びたーん、という擬音語がぴったりな勢いでボーロから落ちるアンナ。
「……顔面から落ちたにゃ。お嬢様にあるまじき光景。写真撮りたいにゃ」
 落ちたアンナをつんつんするシュリエ。その態度にアンナはガバッと立ち上がると、
「…………帰るわ」
 シュリエとボーロを置いて歩き出す。
「にゃあああ!? 帰らないでにゃ! 後生にゃ! ちゃんと教えるからにゃああ!」
「……わ、わかった、わかったから泣くのは止めて。もう少し付き合うから」
 二人の玉乗りは、今暫く続くようだ。
 シャルレィスはご機嫌だった。
 思いも掛けず参加した球技大会だったが、何をしようかと考えていたら一人取り残されていた。後には街へと侵入するボーロの群れ。
 そこでとりあえずどんな球技があるのか見て廻ることにしたのだが、そこで腰に手を当てドヤ顔で佇むリリィ・クロハネを見つけたのだ。
 誘える友達もいないし、一緒に見て廻ろうとリリィを誘うシャルレィス。リリィは二つ返事で了承した。
 少女二人がボーロに塗れた街を往く
「わー、ホントいろいろやってるねっ」
「あはは、あの無差別ドッジボーロには笑いでお腹を痛めてしまったわ。顔面セーフよ顔面セーフ」
 上機嫌なリリィにシャルレィスも笑顔だ。
「さて、もう少し見て廻ったら野球でも見に行きましょう」
 リリィの提案にシャルレィスは頷いて、
「うん、楽しみだねー」
 ニッコリと微笑むのだった。
 街の静かな一角で、グレイは木陰に寄り添いのんびりお茶を飲んでいた。
 一緒に来た煤猫ちゃんがボーロでじゃれている所を眺めながらゆったり過ごす。
「いつも好き放題やっているからね、たまにはこういうのもいいだろう」
 時間がゆっくりと過ぎていく。

 そのグラウンドは集まったイレギュラーズ達の熱気で包まれていた。
 紅組キャプテン、そしてこの選手を集めた言い出しっぺであるクロバと、白組キャプテンを担う気合い十分のリゲルが堅い握手を交わす。
「両チーム、礼!」
「よっしゃしゃーす!!」
 何言ってるんだかわからない挨拶をしながら両チームが頭を下げ、いよいよ試合が始まる運びとなった。

 ――野球……それは魂達のぶつかり……――
 ――やきう……それは汗水飛び散る競典、肩が命……――
「第一回、特異運命座標野球大会……実況はヨダカ=アドリがお送りしまァす!」
 ヨダカがどこから持ち込んだのかマイク片手に観客席で実況役を名乗り上げる。横にはラルフと利香が並ぶ。
「解説のラルフさァん、利香さァん、よろしくお願いしますー」
「よろしく」「宜しくお願いします」
「未知の生物ボーロを使ったルール無用の混沌野球。一体どんな試合になるのか楽しみですねぇ」
 ヨダカの言葉にラルフが頷くと二人に問いかける。
「ふふ、二人はボーロ遊びを見るのは初めてかな?」
 いかにもボーロ遊びの先駆者であるような様相を見せてはいるが、ラルフも当然初めてである。
「宜しい私も共に観戦、解説していこう」
 アンパイアがグランドに出て行く。
「主審含め、試合を見守る審判は、街の野球好きのおじさん達とのことです」
 どこでルールを知ったのか、偶然審判もできるおじさん達が居たのだから仕方が無いとは、リリィ・クロハネの言葉だ。
「プレイボーロ!」
 アンパイアのかけ声と共に、ルール無用の混沌野球が開幕した。

●球技は様々、選ぶのはその人次第
「……おぉ…、なんか……すごい……」
『見てばかりではなく捕まえる必要があるはずだが?』
 メランコリアが驚きに声を上げるとコルが疑問を投げかける。
「……むり……?」
「子守りをする気はほんとないのだけど?」
『諦めろ普段自由にさせてもらっているだろう?』
 そこにスペルヴィアとサングィスがボーロを捕まえにやってくる。
 手応えがないボーロにいらいらしながらも確保完了。
 スペルヴィアが確保した大きなボーロに乗りかかるメランコリア。
「…悪く…ない……記念に…持って…帰ろう……」
『残念ながら許してもらえそうにないようだが?』
 メランコリアはバランスボールの要領でボーロに体重を乗せる。
「メランコリアは……まぁ、いいわ。あと、帰る前に捨てなさい」
『どことなくアワリティアに似てきているぞ?』
 スペルヴィアの言葉にサングィスが言葉を投げかける。
 スペルヴィアの真面目な言いつけに残念がるメランコリア。ごろごろしようとバランスボーロの上でぐでーっとなる。
 アケディアとメランコリアを見守るスペルヴィアはサングィスに一言投げかける。
「……悍ましいことを言わないで頂戴?」
『確かに似合わないな……失言だった』
 謝罪するサングィスに一息漏らすスペルヴィア。
 その視線の先ではアケディアが小さいボーロを集めて袋に詰め、その上に寝転がっていた。近頃活動しすぎてる気がするというアケディアはボーロで造った簡易ベッドの上で気持ちよさそうに揺蕩う。
「……よい弾力です……努力の甲斐がありました……」
『珍しく主体的に行動していると思ったら目的はそれか」
 やれやれと、オルクスが呆れかえるようだった。
「…メランコリアが……乗っているのを見て……よい布団になりそうだなと…」
『満足できる出来になったと』
 その問いに対する答えはない。アケディアは早くも眠りに落ちていた。
「…………」
『はぁ、起き給えよ……というのは無粋か』
 オルクスはそれ以上、アケディアの眠りを妨げることはしなかった。
 眠るアケディアを確認するメランコリア。肩を竦ませるスペルヴィアは、こんなことで飽きないのだろうかと、一人蹴鞠をしながらぼやくのだった。
「ふっ、コートでは誰も一人きり……愛も苦しみも誰もわかってくれぬものじゃ!」
 綺亜羅は大げにそう言うと、ボーロを、テニスラケット片手に打ち返していた。
「ただ向かってくるボーロを(ラケットで)撃つべし、撃つべし、撃つべしじゃー」
 そういえばグラウンドで球技をやるとかなんとか。ファウルでも打ち返してやろうかと考えていると、その横に浩美が現れる。
「よくぴょんぴょん跳ねる生き物? っすねえ。これ、動きに合わせて打ち返せば運動神経鍛えられそうっすね!」
 自分とまるで同じ事を考えている浩美を、思わずライバル視する綺亜羅。
「なかなかやるっすね。――名前は?」
「わらわの名か。お蝶夫人とでもよぶがいいのじゃ!」
 ――そこに三人目のラケット持ちが現れた。
「見事なラケット捌き。お二人とも、テニスの女王を賭けて、私と勝負と致しませんか?」
 ユニフォームに身を包み短いスカートを揺らすはシフォリィだ。ラケットを掲げ勝負を申し込む。
 テニスの女王――その称号に心惹かれる二人。その挑戦受けて立つとやる気を漲らせた。
 そうしてテニスラケットを持った三人による総当たり戦が幕を開け――そして一刻ののち、テニスの女王を賭けた、熾烈な戦いが終わりを迎える。
 総当たりで行われた試合結果は全員一勝一敗の引き分けだった。
 その結果に、空を仰いだ三人は笑い合う。テニスの女王は未だ掴める物ではないということか。
 シフォリィが二人との健闘を称え手を伸ばした。浩美、綺亜羅も手を伸ばし、堅い握手が結ばれた。
「いつの日か、また再戦を……!」
「望む所っす!」「次は負けぬのじゃ」
 堅く手を合わせた三人のテニスプレイヤー。その様子を見届けると、ボーロは弾みながら街へと消えていった。
 街の片隅で、一人異様な遊びをしている物が居た。カインだ。
 落ち物パズルゲームでもやるように、ボーロを器用に並べていく。
 素早くボーロを動かす様はゲームで遊ぶよう。
「ボーロを動かすのが人力ってのが、ちょっと面倒だな……だけどゲームの世界ならこんなもんだろう」
 的確にボーロを『繋げて』いく。
「『センスフラグ』でつながるボーロもある程度わかるな。初心者救済措置に使えるかもな。慣れたら連鎖も狙ってみるか」
 繋がれたボーロ達が気を利かせるように透明化して消えていく。
 スコアランキングに乗るところまでは……と考えるカインだったが、肝心のスコア集計は神のみぞ知る。
「うむ。先日の幻想大公演の祭の時に余興でジャグリングをしたのだが――コレは中々いい鍛錬になる」
 そう人知れず呟くウォリアは手近に転がるボーロ達を眺め見る。
(大道芸的な見方が強いが、ジャグリングもスポーツの一種なのだぞ)
 強い決意を持ってボーロを手にジャグリングを開始する。
「ハットトリックホームランエース王もスリーポイントダンクシュートホールインワン王も無縁ではあるが……大小問わずのボーロジャグリングに挑戦だ……!
 千匹来るなら十分の一で百匹辺りを目指してみようか――」
 ――流石に冗談だが、と言おうとしたところで耳聡く言葉を聞いたリリィ・クロハネがニコリと笑顔で近づいてくる。
「ウォリアちゃんもなかなかやりますね。それでは行ってみましょうか!」
「いや、まて流石に冗だ――」
 言い切る前にリリィが手近なボーロを投げ入れる。絶妙のタイミングで放り込まれるボーロに思わず集中してしまう。
 やめると言えば良い物の、ウォリア自身もどこまで行けるか挑戦してみたいと思っていた。十五個を越えればそれはとある世界の世界記録を上回る。
 ウォリアの挑戦は続く。二十を超えた頃になると人だかりができていた。限界は近い。
 二十五を越えるともはやどこに集中しているのか分からなくなる。
 ――歓声があがる。しかしそれも束の間、追加されたボーロの処理が間に合わず落としてしまう。失敗だ。挑戦はここまでとなる。
「ふふ、それでもすごいわ。三十五個、それがウォリアちゃんの記録よ」
 リリィの言葉と共に拍手が巻き起こった。
 歓声はしばらく止みそうになかった。
「当たると痛いということだし、子供や老人にとっては、当たりどころによっては危険だからな……」
 そう呟きながらウィルフレドはリリィ・クロハネが用意した球技道具を物色する。ネットを使って生け捕りなんてことも考えたがそれでは作業だ。依頼は遊ぶことにある。
 変な所で生真面目なウィルフレドは、ポンと手を叩いて、何をするか決めた。
 種目は――ビリヤードである。
 地面にボーロを置き、川や下水道に落とし、流し去ってしまおうという考えだ。
 狙いを澄ませてキューでボーロを転がす。
 転がるボーロは別のボーロへと反動を伝え、向きを変えながら川や下水の穴に落ちていく。
 華やかさはないが、単独でもできる競技ビリヤード。ウィルフレドは黙々とボーロを水に流していくお仕事を続ける事にした。
「スポーツに怪我はつきもの! というわけで救急箱片手に、あちこち見て回るよ」
 そう言うノースポールは応援もしたいからとチアリーディングの格好だった。
「治療ねえ。
 じゃあ俺が回復して……あ、俺アコライトサリファーなんだが………、……まあ言わんくていいか!」
「皆、楽しそうだな~♪ わっ、危ない!飛んでくるボーロは軽やかに避け……」
「ぶっ!!」
 ノースポールが避けたボーロに直撃するルシフェル。
 その後もルシフェルは、狙ったように次々と飛んでくるボーロをその身を盾にしノースポールを庇っていく。
「ぶっ、ぶはっ、ぐあぁぁ――!」
 パンドラへと縋ろうとするが、痛いだけでダメージはないのでパンドラは沈黙したままだ。
 地に倒れ伏すルシフェルを見てノースポールが慌てて駆け寄る。
「って、ルシフェルさん大丈夫ですか!? とりあえず冷やさないと!
 わたしの所為で、すみません……。庇ってくださり、ありがとうございます!」
「なに、いいってことよ」
 ノースポールに笑いかけ起き上がるルシフェル。まだまだ怪我人は出てくるのだ。こんな所で倒れているわけにもいくまい。
 そうして二人は、怪我人探して街を練り歩くのだった。

 いよいよ始まった混沌野球、一回表。紅組の攻撃である。
 バッターボックスに一番ショートの汰磨羈が入る。
「ふ……私を一番のショートに抜擢するとは。クロバ、中々に分かっているではないか」
 うんうん、と頷く汰磨羈は軽くバットを揺り動かして、構えた。
「いやしかし……クロバの奴、よくこんなに集めたな……」
 手になじむボーロを軽く握り、地面の砂を軽く蹴るアラン。その視線の先には弟であるキャッチャーのリゲルが、ミットを構え兄からの投球を待っていた。
 肩を回すアラン。手元に炎が纏い、ボーロを包み込む。
「まぁ、知らない奴より知り合いの方が多くて良かった……なっ!」
 オーバースローで投げられる火の玉ボーロが、キャッチャーミットに吸い込まれる。
「ストラィィック!!」
『おおっと! 一球目から炎纏う魔球が飛び出したァ!』
『投手の彼……良いボーロを投げるな……』
『キャッチャーミット燃えたりしないんでしょうか……心配です』
 炎の魔球を前に、汰磨羈は挑戦的な視線を投げかける。
「こういう形で対決する事になるとはな。覚悟して貰うぞ、アラン!」
 獣人用メットから飛び出した猫耳がぴこぴこする!
 ツーストライク、ワンボーロから迎えた四球目、汰磨羈のスイングが燃えるボーロを捕らえ打ち返す。
 猛ダッシュする汰磨羈が一塁を踏み抜けたあと、ボーロが返球される。セーフだ。
 続く、紅組二番セカンド、サンディ。
「ここだ――!」
 放たれるボーロを、スナイパーアイで捕らえ打ち返す。
 レオンハルトが目の前に飛来するボーロをキャッチ、二塁に送球しアウトを取るも、すぐさま一塁へ送球した結果はセーフ。サンディの俊足が上回った瞬間である。
 続く三番レフト、シュバルツ。盗塁を意識させるサンディに揺さぶられる事無くこれを抑えることに成功した白組は、続く四番サード、ルーミニスとの勝負に挑む。
「フフ、勝負事ならこのアタシが負けるわけにはいかないわね! 同じチームになった幸運を噛みしめなさいな!!」
 ルーミニスは不敵に笑うとバッターボックスに立つ。そして半端ない目力でピッチャーを睨めつける。
 振りかぶり全力投球するアラン。持ち前の反射神経と馬鹿力でフルスイングするルーミニス。
 インパクトの瞬間、「砕けろッ!!」というルーミニスの物騒なかけ声が響き渡る。
 同時に、とんでもなく良い音を立てながらボーロが天高く舞い上がる。
『伸びる、伸びる――これは入ったかァ!?』
 ホームランを出させないと息巻いていたライトのシオンだが、羽根で空を飛ぶものの、ボーロの球速に追いつけず、結局見送ることとなった。
『ツーランホームランだァ!! 混沌野球一回表、ツーアウトから早速ホームランが飛び出したァ!』
『すごいすごい、あんな遠くまで飛んでいきましたよ!』
『ありゃすごい飛んだなあ』
 実況と解説の声が響き渡り、走者二名がホームベースを踏んでいく。
 続く五番打者キャッチャーのゴリョウをアウトに取ると、スリーアウトチェンジとなった。
 初回二点を失った白組の反撃が始まる――。

●一方応援席では
 グラウンドの周りには多くの観戦者が集まっていた。
「急造チームだそうだけど、どこまでやってくれるか楽しみだね。ほら、今一球目をバントで見送っただろう。あれで相手の守備位置を確認したんだ。サードとファーストがさっきよりも後ろに下がってる。守備側がバント以外を考えてる証拠だね。逆にこれはバントのチャンスだよ」
 球春という言葉に心躍らせるアートが、手近で見ている観戦者に戦術知識を披露している。野球に心得があるのか、実に慧眼なその解説にスティアがうんうんと頷いた。
 そんなスティアの周りには独り身で観戦しに来た者達が多く居た。興味はあるけど入りずらそうにしていた人達にスティアが声をかけた結果だ。そんなスティアはみんなでワイワイと試合を観戦していた。
「飲食の販売はこちらよ。ご入り用の際はお気軽にどうぞ」
 lumiliaが飲み物と軽食をぶら下げて、観戦席を練り歩く。
 リリィ・クロハネの「売り子ならこれを装着なさい」という言いつけを守り半分に折った帽子をピン止めで止めてサンバイザーのように装着している。
 lumiliaのギフトの効果もあってか売り上げは上々のようだ。
「ほらー、どっちもがんばれ~。まだ敗けじゃねぇぞ~」
 黒羽は四日後にくる筋肉痛が嫌なので、寝転がりながら試合を観戦していた。
 運動が苦手なウィリアムも観戦者の一人だ。ファミリアーでカラスを使役し上空から試合を見守る。
「ところでこれ、負けた方がどうとか言う噂聞いたけど、あくまで噂だよな?」
 誰に言うまでもなく呟いた言葉は空に消え。跳ねてきた野良ボーロをダムダムと突いては後ろへと放り投げるウィリアム。
「ふぅむ、なんだかよく分からんが、見物席が在るということは、これは見物して楽しむものという事なのじゃろうな」
 バックネット裏に朝から晩までいる訳知り顔のおっさんのように混沌野球を見物するのはゲンリーだ。
「そこのお嬢さん、ビールを貰えるかの」
「はい、どうぞ。気をつけてお持ち下さい」
 近くを歩くlumiliaにビールを頼み受け取ると、美味そうに喉に流し込んだ。
「ボーロちゃんもふもふです……」
 ルルリアは小さいボーロをもふもふしながら、サンドイッチを頬張る。ボーロと戯れながらのんびりと観戦する貴重な時間。ゆっくりと流れる時を感じながらボーロと共に一時の安らぎを得るのだった。
「ポテトさーん! ふぁいとー!」
 知ってる人を含め、たくさんの人が参加している混沌野球の応援に力が入るのはセリカだ。特に白組に知り合いが多いことから白組の応援に熱が入る。
「ユーリエさーん! ミラクルバッティングで勝利の鍵になってねー!」とか、
「リゲルさーん! キャプテンパワーで勝利だよー!」
 なんて応援を両手ぶんぶん振るい、ジャンプしながら行う。とても目立っていた。
 変わる事のない熱の籠もった応援は周りの観戦者にも広がっていく。
「えーっと、ポテトは白組チームよね。へぇー、リゲルがキャプテンなんだぁ。あ、シオンもいるじゃん!」
 友人を応援しにきたギギエッタがメンバー表を見て声を上げる。白組は知り合いばかりだ。
「よーし。応援しちゃうぞー! 白組ファイトー!!
 やっちゃえ、ポテト! かっとばせー!!
 空振りでもドンマイ! ドンマイ! 次いってみよー!!」
 セリカと共に白組の応援で活気づく観戦席。
 試合はまだはじまったばかり。徐々に人も集まり応援もそれに合わせて加熱し始めていた。

 ルアナ、セレネ、そして空海は三人揃ってお手玉に興じようとしていた。
「……おてだま? 聞いたことないけど……ジャグリングならわかるよ!」
 動物疎通を使って見れば言葉は分からずとも感覚で良い子が見つかる。
「……あなたたちがいいかな、私と遊んでくれますか?」
 セレネは元気の良い小さめのボーロを幾つか手に入れる。
 ルアナはとりあえず自分の頭に落ちてきた奴にしようと思ったら、ぽとぽと次から次へとボーロがやってくる。
「なんでこんなぽとぽとルアナの上に落ちてきたの?」
 両手に乗せてにらめっこ。そんな姿を見てセレネが笑った。
 ボーロを決めると空海の元に集まる。
「お手玉は、ひとつ、ふたつからやってみようか。ジャグリングみたいなもので、違うのは、唄うことかな?」
 そう言って「あんたがたどこさ」と訊ねる所から始まる歌を唄いながらボーロを手の上に放り投げる。
 そんな空海の後を追うように二人もボーロを空中に放って、
「ひごさ、ひごどこさ……」
「……ひごさ。てなんだろう?」
 わちゃわちゃしながらボーロを投げる二人を微笑ましく見守る空海。
「あ、落としてしまいました! ごめんなさい……」
「どうかな? 初めてにしては、うまくいってるかな?」
「二人とも上手い上手い。ボーロも、楽しんでくれてるかな?」
 こうして三人で遊んでいるとあっという間に時が過ぎそうだ、と空海は思う。
 楽しいと、時間が早いっていうのは本当だな。空海は微笑んだ。
 サッカーのゴールに向かい一心不乱にボーロを蹴り込むのは葵だ。
「よっと……それ」
 ボーロを宙高く蹴り込んで、追いかけるようにハイジャンプ、オーバヘッドでゴール目がけて蹴り込む。
 次も同じようにボーロを蹴り込んで、今度は前宙からのかかと落とし。高高度からのボレーシュートなんかも決めてみる。
 たまにはまぁ、基礎練飛ばして好きなことやっても怒られねぇだろ、と葵は新たなシュート開発に打ち込むのだった。
 ゴルフボーロ大のボーロが街の垣根を越えて飛んでいく。
「はっはっはっ、よく飛ぶのぅ」
 大二は振り切ったノービススタッフを手に飛び立ったボーロを追いかける。
「あら、なかなかやりますね」
 そう言うとパティもクラブを構えて地面に置いたボーロを飛ばしていく。
 大二が打った球と同じように天高く飛んでいくボーロ。
「ふふん、お嬢ちゃんもなかなかやるではないか」
 二人は街のお偉いさんを交えてゴルフに興じていた。コースはこの街全体。ホールは手作り。
 しかし大二企画のゴルフは街人のお偉いさんには大人気だった。皆、楽しそうにコースを廻る。金の力で成り上がった大二のお得意接待コースとなっていた。
「くくく、この世界でもワシは成り上がってみせるぞぉ」
 野望に燃える大二。そんな大二のことを気にせず、パティはただ自分の腕前を上げるべく、ひたすら飛距離と正確性を高め、リズミカルにボーロを打ち込んでいくのだった。
「ナイスショット!」
 誰かの威勢の良い声が空に響き渡った。
「………………いくらなんでもこれはデカ過ぎじゃて」
 どでーんと転がるボーロ。そのサイズ実に二メートル。あまりのサイズに世界樹は二度見してしまう。
「…………ここで会ったのも何かの縁じゃろう。わたいが相手してやろうかいのー。って、このボーロで出来そうな事は…………玉乗り?」
 と言うわけで飛行でバランスを取りながら、玉乗りでお散歩を開始する世界樹。
 大きな球を転がしながら街を練り歩く様は街の人々の注目の的だ。
「ほ~れ、デカボーロのお通りじゃよ~♪」
 ぐるぐるとしばらくの間デカボーロと共に街をお散歩し続ける世界樹であった。
 一人球遊びに興じるのは義弘だ。
 飽きたらどこかでやってるという野球に邪魔して一本打たせてもらおうかね、と考えていた。
「しかし、こいつら……」
 遊び終わったらいつの間にか消えてしまうというボーロに不思議な感情を抱く義弘。
 面白いんだが、儚いんだか分からねぇ奴等だが――お疲れさん、と義弘は人知れずボーロ達を労うのだった。
 そんな義弘の傍でシェンシーがボーロを弄んでいた。否、これは特訓である。
 遊びなんて知らない。ボーロは話に聞くように殺しようがない生物だった。仕方なく手近のボーロをつまみ上げて、指の先で回転させる。
(ふむ……感覚を鍛える役にくらいは立つ、か?)
 しゅるる……と音を立てるようにくるくる廻るボーロをシェンシーはしばらく眺め続けていた。
 空中を飛行しながら地上を観戦しているのはティアだ。
「変わった生き物だね」
『異世界だからな。
 こういうのもいるだろう』
 ぽーんと飛んできたボーロをひらりと躱す。危機一髪だ。
 眼窩の街並みを見渡しせば一部に人だかりが出来ているのがわかった。よく観察する。
 そこではオクトがなにやら声をあげてお金をやりとりしているのだった。
「さぁさぁ、張った、張った!
 オッズは紅5:白5の純勝負!
 更に各選手の誰が一番点数を稼げるか賭ける事も出来るぜ!」
 それは賭博の催し物だ。胴元のオクトが次々と掛け金を動かして行く。
「そこの兄さんは五百GOLD? 下手だなぁ、下手下手、欲望の解放が下手、お前さんだって浪漫……好きだろう? かかっ!
 さぁさぁ、どちらが勝つか、賭けた賭けた! 張った張った!」
 盛り上がりは最高潮、次々と人垣ができるが、その盛り上がりはさすがにやりすぎだった。
「あはは、オクトちゃん! 言ったでしょう、賭け事はバレないようにやりなさいって!」
 ばばーんと現れたリリィ・クロハネ。その後ろには街の憲兵が一緒だった!
 賭博の中止を宣言して一目散に逃げるオクト。その背をリリィが投げたボーロが追う。
「って、おわっ!? ボーロがこっちまで飛んで来やがった、危なっ!?」
 間一髪ボーロの直撃を避けたオクトは恐るべき速度を持って逃げ出すのだった。
「やれやれ、騒々しいことだね」
『まったくだ』
 一部始終を眺めていたティアは、今一度空へと飛び、特等席で試合の観戦を続けるのだった。

●ボーロは生きていますが死んでもいます
 コルザは近くで跳ねるボーロをつつき、
「……この、何だろうね? うん、無害であればいいのだけれど。すまないね、少しだけ僕たちの遊びにつきあっておくれ?」
 すぐに音も無く動かなくなるボーロ。
 ロズウェルがキャッチボールしながらお互いに質問しようと、提案するとコルザは頷いてロズウェルの質問を待つ。
「では私から。コルザさんの好きな物ってなんですか?」
 放物線を描いてボーロがコルザのミットに吸い込まれる。
「好きな物、か……一番に浮かぶのはやはり温泉だけれど。後は何よりみんなの笑顔だね」
「コルザさんらしいですね」と笑みを返す。
「じゃあ、僕も。君が欲しいものはあるかい?」
 もう一度放物線を描いてボーロがロズウェルへと向かう。
「私は……そうですね。欲しい物。差し当たってはコルザさんの手料理でも一つ……と思いましたが──やはり、力でしょうか」
「――力」
 互いにボーロを投げ合いながら、言葉の、想いのキャッチボーロを繰り返す。
「届かず、間に合わず。拳を握り込み、見守るだけは辛いですから。なら……傷ついても良い、私は誰かを守れる男になりたい。そう思います」
 投げ返されたボーロをコルザが掴む。ロズウェルのその想いと共に。
「……強いね、君は。ならば僕はその痛みに耐える手を癒す力を。君は一人じゃない、だから必要ならば僕をいくらでも使っておくれ?」
 ゆっくりと近づいて、ボーロを手渡すコルザ。その顔は微笑んでいて、告げた言葉が真であることを現していた。
「……ありがとうございます。コルザさん」
 素直に、その言葉を受け取ったロズウェルは感謝の言葉を返す。
 レイは周囲を跳ねては転げ回るボーロを前に圧倒されていた。
 さて、どうしたものかととりあえず手近のハンドボーロサイズのボーロを掴みあげると、全力を持って遠投する。目指せ百メートル。
「あら……なかなか飛ぶものだね」
 割と満足したレイは次はバスケットボーロ用のゴールの前に行き、スリーポイントシュートを狙っていく。
 その様を見ていたひまわり30XXが突然大声を上げて注文を付けだした。
「はいはいそこー、へなちょこフォームのそこの人! フォームがなってないのです!
 もっと腰入れて! 全身のひねりをそのままボールに伝えて! ほら、フォーム崩れてる!」
「……な、なに?」
 最初は自分に言ってるものではないと思ったレイも周囲には誰もいないことに気づく。どうやらひまわり30XXは自分に対して注文をつけているようだった。
「やる気がないのですよ、そんなことで全国狙えると思ってるのですか! 動け動けー! 一瞬でも動きを止めるんじゃないのです!
運動量だけが才能のない皆さんを支えるのです! 休まず動き続けるのです、補欠どもー!」
 なんだかわからないが、せっつかれるひまわり30XXの言い分に、思わず身体を動かしてしまうレイ。
 ひまわり30XXは応援くらいは煽るつもりでやってやろうと言う事だったのだが、思わぬことに効果は上がったようだ。
 レイはものの数分の間にメキメキと上達していた。
 その様子を確認したひまわり30XXは額の汗を拭うと満足し清々した気分のまま立ち去っていく。
 その後ろ姿をレイは感謝の気持ちを込めて見送った。
「球体を弄りながら愉快に戯れる。良質な機会に感謝を」
 偏った恐怖『人間』の集合体『影』で在るというオラボナを前にリリィ・クロハネはクスクスと笑った。
 オラボナからキャッチボーロに誘われたリリィは投球された球をうまくキャッチすると返球する。
「ふふ、そう改まった挨拶など必要無いわ。こうして好きなようにゆったりと楽しみましょう」
 その返答に満足げにオラボナは頷くと、投げ返された球をキャッチして、
「混沌世界にも慣れた。依頼にも幾度か参加した。偶には緩やかな時も喜ばしい」
 そうして提案を投球する。
「折角だ。我等『物語』の新しい友人と成り給え」
 その球を可愛くジャンプしながら受け取ったリリィは、
「あら、オラボナちゃんからそんな事言ってくれるなんて嬉しいわ。ええ、友達は歓迎よ。私、友達いないもの」
 内心の爆発的な喜びをお首も出さず、ニコリとリリィは微笑んだ。
 その返答はオラボナの満足のいくものだっただろうか。
 二人はしばらく楽しげに幾つかのボーロを変えながらキャッチボーロを繰り返した。

 混沌野球は二回裏、白組の攻撃となっていた。
 一回表に二点を取られた白組は、その裏、一番二番の二人がヒットで出塁するも、三番ユーリエの打球がクイックアップを使ったショート汰磨羈に捕まってしまう。
 汰磨羈ゾーンと名付けるその姿はまるで日本なハムの戦士達的な感じが見え隠れするが気にしてはならない。
 そうして三塁に走者を置くも、ゲッツーを取られ、その後四番一振も凡退となりチャンスを掴むことができなかった。
 二回は両チーム共に三者凡退。続く三回表、紅組の攻撃もアランの好投によって抑え、2-0のまま白組攻撃へと移る事となった。
「ふふ……何か、血が騒ぎますね?」
 バッターボックスに立つ鶫がバットを構える。野球なんて久しぶりだと鶫は思う。最後に遊んだのは――傭兵仲間と遊んだ時だっただろうか。
 対するマウンド上で、捕手であるゴリョウと連携を取るのはクロバだ。
 スリー・クォーターから放たれる螺旋回転を持った球が高い速度を持ってキャッチャーミットに吸い込まれていく。
 白組アランの投げる火の玉魔球に比べれば派手さはないものの、その回転から生み出される放物線軌道で減速の小さな球は、打者にとってタイミングの掴みづらい厄介な代物だった。
 鶫は圧倒されながらも、タイミングを掴んでいく。
 長打を狙う事だけが猛攻とは限りません、とは鶫の弁だ。
「私の器用さは、伊達ではありませんよ」
 気持ちの良い音を立ててボーロが打ち返される。サードとレフトの間に落ちたボーロがころころと転がった。ヒットだ。
 九番リゲルが打者として立つ。
「来い、クロバ。これは宣戦布告だ!」
 そう言うとリゲルはバットの先を場外へと向け宣戦を布告する。
『おおっとー! ここでリゲル選手ホームラン予告だァ!』
『ほう、闘志がしっかりと見えるな……これはでるかもしれませんよ』
『同点の一打になるか、楽しみですね』
 ホームラン予告を解くとバットを構えるリゲル。
 渾身の力を籠めた投球は吸い込まれるようにキャッチャーミットへと収まった。リゲルは玉を見極めていた。
 そしてフルカウントからの第七球目。
 電撃のように振るわれる熾烈なスイング。リッターブリッツを模倣したその一打は稲妻のごとき光を帯びてボーロを場外へと飛ばしていく。
 センターのアマリリスもこれには苦笑いで見送るしかなかった。
『ホームランだァ! リゲル選手予告通りホームランをだしたァ!』
 走者二人の帰還。喜びの感情をチームのみならず観戦している者達へと伝える白組。
 続く一番DHのセララが打席に立つ。そんなセララを見守る視線がベンチに一つ――マリナだ。
 監督のように重い腰を収めて座るマリナは、実はセララを猛特訓したせいで筋肉痛で動けない。
「頑張れせらっさん……私との猛特訓を思い出すのです……」
 しかしその思いは届かず凡退に終わる。投球の猛特訓しかしてないから当然だった。
 トホホ、と戻ってくるセララの肩を叩くマリナ。大丈夫、抑えとしての役目があるのだと、瞳が語りかけていた。
 その後二番ファーストのポテトが精霊を使って球を捕らえるも、セカンドゴロでアウトになると、続く三番セカンドのユーリエは暗黒を使用しデッドボーロを誘発する。
「あいたたた……」
 球速が落ちていたとはいえ、当たると痛い。ボーロの当たった腕を押さえながら出塁するユーリエ。
 そしてバッターボックスに入るは、四番サード一振。
 バッターボックスに入ると同時、一振もホームランサインを送る。
「そうなんどもさせねぇ――よ!! ド直球ストレート。こいつでねじ伏せるのみだァッ!!!!」
 クロバが投球する。渾身のジャイロボールがスライドしながらミットに収まった。
(早い――!)
 だが、四番サードという大役を任された以上、打ち返して見せる。
 超反射神経をフルに活かし、ボーロ球を見逃していく一振。
 そして決め球である変化球を、全身全霊を持って打ち返す。
 センターへ向け高く飛んでいくボーロ。宣言どおりのホームランになるかと思われたソレを前に、センターアマリリスが神へと祈りを捧げる。
 アマリリスのギフトが幸運をもたらす。向かい風が球速を衰えさせ、センターフライへと変えてしまう。
「よっとと……」
 危なげな動きでなんとかキャッチしたアマリリスがとったボーロを高く上げた。スリーアウトチェンジだ。
 同点へ追いついた白組。まだまだ混沌野球は始まったばかりだ――。

 四つほどのボーロが宙を舞う。お手玉をしているのはルクセリアだ。
 ルクセリアは同胞達と共に街を散策していた。
 やってみると案外楽しいとルクセリアが呟く。
 骨伝導で会話するレーグラが何事か反応するがその言葉は伺い知れない。
「……わ、わた、しには……無理…そう」
『まぁ、無理だろうなぁ』
 そんなルクセリアのお手玉を興味深げに長めながらインヴィディアが言葉を漏らす。カウダはその言葉を肯定するように同意した。
「ふふん、隙ありですよぉ。ディアちゃん~」
『………』
 不意の隙を突き、ルクセリアが悪戯心でインヴィディアにボーロを投げる。
 突然の出来事に前後不覚に陥りそうなほど動揺し悲鳴を漏らすインヴィディア。原因のボーロはカウダが反応し、ルクセリアへと放り返していた。
「…おっ、とぉ。返してくれてありがとぉ。カウダは意外と器用ですねぇ」
「あらあら、楽しそうにしていますね」
『八割がた予想通りのことになっているがな』
 同行していたイリュティムとアーラが起こった出来事に対して二人の前にでると、
「ルクセリアはちょっと反省する事、インヴィディアは大丈夫かしら?」
『じゃれあいだろう? 微笑ましいものではないのか?』
 と、軽く叱りつけインヴィディアの様子を窺う。
「……おっ…あぁ…はぁぁ……ありが…とっ、う…」
『まぁ、いいがなぁ。もうちょい落ち着こうぜ、我が契約者殿』
 恨みがましくルクセリアを見つめるインヴィディア。それを嗜めるカウダ。
 ルクセリアは反省してますよぉ、とあまり反省してないような態度で言う。
 その態度に「もう」とイリュディムは肩をすくめた。
「そうですけどね。親しき中にも礼儀ありというものですよ」
 それは先ほどのアーラとのやりとりの返答だ。
『ふむ、そのあたりの機微は任せることにしよう』
 そんなやりとりを交わしながら、三人は球技大会で盛り上がる街の散策を続けるのだった。
 街の入り口ではブローディアとその契約者サラが修行に励もうと準備運動をしていた。
『本当にやるのか? そのボーロとやらは生半可な数ではないと聞いているが』
 ブローディアの言葉にサラは一つ頷く。自身はイレギュラーズではなく普段はブローディアの力を借りているから、それだけじゃ駄目だとサラは言う。自分のやり方で技を磨くのだと。
 跳ねては飛んでくるボーロをよく観察して、手にしたバットで打ち返す。小気味の良い音を立ててボーロが飛んでいく。
 ボーロの打ち返しを続けるブローディアとサラの様子を窺っていたのは、衣だ。サラが打ち返すボーロを視線で追う。
「んぁー。ピョンピョン跳ねてる玉がいっぱい」
 うずうずと身体を揺らす衣は、ついには我慢できず、跳ねては飛んでくボーロを追いかける。
「とりあえず……捕まえてから遊ぶ!」
「わぁ、何々?」
 サラが打ち返したボーロに飛びつく衣。別のボーロを打ち返せばすぐさま衣が走る。捕まえたボーロをよく観察して、転がして遊ぶ。しばらくして遊び終わればまた次のボーロ目がけて走って行く。
「ふふ、可愛い」
『やれやれ思わぬ乱入があったものだ』
 ちょっとした覚悟を持って臨んだ修行だったが、思わぬ闖入者に陽気の風が入り込む。
 二人は言葉を交わす訳ではなかったが、互いに満足感を得るように自由に過ごしながら交流を深めていくのだった。

●試合は一気に進んでいく
「どっちも頑張れよー! 全員、ビシッと決めちまえ!」
 球技何てもうしばらくやってないな、と侠は思う。
 全員、身体能力はそこらのプロ以上と思われる。試合がどのように転ぶのか全く見当がつかず、怖い物見たさな感覚で試合を観戦していた。
 ベンチへと飲み物の差し入れをして廻るのはリースリットだ。
 ボーロを一匹抱きかかえ、もふもふしながら、応援している人達の辺りに陣取り、同じように応援しながらその様子を観察していた。
「野球か……そういうものもあるのですね」
 ルールとかが不明の為に、何が起こっているのかよくわからなかったが、周囲の話を聞きながら見て、理解を深めようとしていた。
「おらー、アマリリスかっとばせー」
「てやんでいなのです! みんな頑張るのです!」
 可愛い声でぼそぼそと、おっさんのように野次を飛ばし応援するのはセティアとココルだ。
 ボーロの行方に一喜一憂しながらわいわい応援。
 応援していた紅組は四回に二点の追加を許し現在2-4で負けている。
 セティアは寝転んで顔に新聞紙を乗せる。
「けっぺっぺけっぺっぺっぱぺ」
 ピッピッピ! ピッピッピ! ピッピッピッピ、ピッピッピ!
 セティアが口ずさむもーど君の歌に合わせて(全然合わないけれど)ココルが『サンサンナナビョウシ』でホイッスルを吹く。
「いっやー、しかし不思議ないきものがおったもんやなー。海洋にはおらんかったしこんなんー」
 水城が近くに転がるボーロをつんつんとつつく。不思議生物とのふれあいは思いの外面白かった。
 若いってええなー、と年寄りくさい事を漏らしながら、折角だから応援歌でも歌ってあげようと、喉の調子を確かめた。
 知ってる限りの応援歌を全力で歌い上げる水城。誰にでも無い皆の為に。
「ボーロ……お前達は飛び跳ねるのが楽しいのか……?」
 ヨルムンガンドが飛び跳ねるボーロを捕まえ問う。当然ながら口を持たないボーロは沈黙だ。
 持っていた食事を与えようとするも、ボーロは動かない。口が無いからね。
「くっ……反応なしか。それにしても盛り上がってるな……どちらもがんばれー」
 持ってきたお菓子やお弁当を広げつつ、ボーロ遊びもとい混沌野球を応援するヨルムンガンド。
 今度は自分も混ぜてもらおうと、そう思っていた。
 混沌野球は膠着状態のまま七回の裏に入ろうとしているが、その間でちょっとした選手の休憩タイムとなっていた。
 両チームのマネージャーとして立候補した塁がレモンのハチミツ漬けや熱い/冷たいタオルを両チームの選手に配る。
「泣いても笑ってもあと二回と半分。両チームともがんばってください!」
 チアは……柄ではないので、とみかんをポンポン代わりに振りながら声出しする塁。
 両方のベンチに行き交うマネージャーは頑張っていた。
 七回裏、混沌野球終盤戦が始まる――。

「わーーーーーーーーーい(>ワ<)」
「あはははははは!」
「これはまた、新しい楽しみ方ね」
 街の一角、丘に面した斜面をボーロが転がっていく。
 その上をQ.U.U.A.とリリィ・クロハネがダンボールに乗って滑り落ちていた。
 ボーロ襲来を何度か目撃しているエスラの興味は、みんながどんな球技に取り組むかだ。しかしこれは……。
「球技というか、なんというか……いやでも、球転がしと玉乗りを合わせた新しいジャンル?」
 めちゃくちゃな発想のQ.U.U.A.のセンスに目を光らせるエスラ。
 そんなQ.U.U.A.とリリィはボーロを抱えて坂を駆け上っていた。
 二人は超スピードで滑る快感に取り憑かれていた。
 幾度目かの急降下チャレンジの最中、それは起こる。
 突然子供が、滑り落ちるQ.U.U.A.の前に飛び出してきたのだ!
 しかしQ.U.U.A.の反応は迅速だった。
「≪スナイパーアイ≫でとびだしちゅうい!
 きけんは≪アクロバット≫≪跳躍≫でかいひ!(`・ω・´)
 ちゅういいちびょうけがいっしょう! きゅーあちゃんあたまいい!( -`ω-)」
 子供を飛び越え着地するQ.U.U.A.に思わずリリィとエスラが拍手を送る。
「ここは危ないから向こうへお行き」
 エスラに誘導され子供は去って行った。
「まだまだ遊ぶよー!ヾ(≧▽≦)ノ」
 底知れない体力を持つQ.U.U.A.に付き合うのは一苦労だとエスラは肩を竦めるのだった。
「ボーロだっけ? ほんとに沢山いるなぁ……」
 ボーロに囲まれ呆気にとられている結乃は、華鈴が何やらやっているのを見て近づく。
「ふむ、このサイズじゃと可愛げがあるのぅ」
 手頃なボーロを両手の上でくるくる弾ませる。お手玉だ。結乃もやってみては? と薦めてみるも、結乃はうまく出来なかった。
 慣れるまでは難しいから、と今度は歌を歌いながらテンポ良くお手玉を見せる華鈴。
 結乃も華鈴の歌に合わせるようにボーロを回す。歌詞はわからないけど、メロディを口ずさみながら。
 結局、上達はしなかったけれど結乃は嬉しそうに、
「おねぇちゃんの声好き。お歌、もっと歌って?」
 と、華鈴に歌をおねだりする。
 気づけばお手玉の練習から歌の披露会へ。
(わらわは懐かしい気分で楽しいんじゃが、結乃は……ふむ、嬉しそうかの?)
 二人は、しばらくの間、そうしてお手玉と歌を楽しむのだった。
 ――か弱い幻想種に運動とは過酷なことだ。と、ゴリマッチョが言いました。
 アルク、ダレン、Brigaの三人は連れ添ってボーロでじゃれていた。
 いや正確にはダレンがラケット片手にボーロをポンポンと軽快に打ち返し、それをアルクとBrigaが追いかけ燥ぎまわる、通称『取ってこい千本ノック』だ。
 実の所、ダレンは特段乗り気でなく、アルクとBrigaの付き合いなだけだが、良い気晴らしになるようだった。
「ほれ取ってこーい」
「うぉぉぉー!」
 打ち出されたボーロをアルクとBrigaが追いかける。
 アルクは雪豹姿で燥ぐと決めていた。歳? んなモン知るか。本能に支配されていた。Brigaも誘い三人は一緒に遊ぶことになったわけだが、
「……ってオイ、別にオレは取ってこいには興味ねェからな! 勝手な事言うンじゃねェ! ……一緒に遊んでやらん事はねェけどな!」
 と、Brigaは尻尾を振るう。ボーロの動きを見てると蹴り飛ばしたくなるBriga。やはり本能には逆らえないがじゃれつくとは口が裂けても言えない。
 楽しい一時は野生の本能を呼び覚ます。アルクが興奮し、同行者だろうが構わず奇襲したくなった。大丈夫だよな? と仲間を信じ飛びかかる。
「よっしゃあダレンもっとこっちにもボーロをよこせ……って危ねェなァ!? 何しやがるアルクこの馬鹿!
 聞こえてねェ、興奮してやがるな……! 応戦して、鉄拳制裁してやる!!」
 アルクは興奮そのままにダレンとBrigaに奇襲のごとく襲いかかる。ひらりと躱すBrigaだったが、ダレンは為す術無く奇襲の餌食となった。
「というか本気の不意打ちに勝てるわけがないだろうが!
 バリガも喧嘩に乗るんじゃない、二人ともちょっと座れ!」
 楽しい一時は一時停止。お説教のお時間です。
 座り頭を垂れるアルクに、不満げにお座りをするBriga。
 ダレンの怒りが収まるまで今暫くの期間を要するだろう。

●逆転劇
 2-2で終わった二回裏の後、試合は四回裏で白組が二点をリードし逆転すると、膠着状態のまま八回表まで進んでいた。
 バッターボックスではシュバルツがクイックアップを使って、ヒットを放っていた。
 続くルーミニスがバッターボックスに立つと、シュバルツがギフトを使い幽体化して盗塁に臨む。
 タッチアウトが原則なれど、幽体化したシュバルツをタッチする事が叶わない。あれよあれよと、三塁まで進んでいく。恐るべきルール無用の混沌野球。
 疲れと共に、集中力を奪われたアランの甘い球をルーミニスが打ち返す。
 これが二塁打となる。
 一点を返しノーアウトのまま紅組の攻撃が続く。
 五番キャッチャー、ゴリョウ。足の重いゴリョウは長打を狙ってバットを振るう。
 犠牲フライだ。ライトのシオンがキャッチして送球するも間に合わない。
 優々と三塁で足を止めたルーミニスがホームベースに狙いを定めた。
 このまま打撃を広げ逆転を狙いたい紅組。六番センター、アマリリス。
『運任せにバットを振るう様は初心者そのものですが、気合いは十分ですねェ』
「だって初めてですし…! でもフィジカルなめないでください、それー!」
 気合い十分されどショートゴロ。ワンアウトだ。
 続くクィニーがバッターボックスに立つ。
「えいえいおー! しゃーこらー!」
 クィニーの気合いを込めた咆哮が轟く。二刀流スキル持ちのクィニーはスイッチヒッターだ。
 投げるアラン。球速の落ち始めた火の玉魔球を打ち返すクィニー。
 当たった瞬間全力疾走するクィニー。ボーロは……ファウルだ。
「ファウルって何!? 解らんけどそりゃああー!!」
 無駄にヘッドスライディングを極めるも、意味が無い。
 今一度、ボーロを打ち返す。サードに立つ一振のすぐ横を擦り抜けるように飛んでバウンドするボーロをレフト、鶫がキャッチする。
 すでに三塁ランナーのルーミニスはホームベースへ向け走っている。
『`・ω・)bバックホームは、キャッチャーミットをころすつもりで投げろ』
 亡き母の言葉が頭をよぎる。
 殺すではなく、ころすです。なので大丈夫です、ええ。という事で──。
「お命、頂戴します!」
 スナイパーアイを使った全力投球が、レーザービームとなって軌跡を描く。
 吸い込まれるように飛んでくるボーロを白組キャプテンリゲルが待ち構える。
 身体をずらしながらヘッドスライディングを極めるルーミニス。同時にキャッチャーミットへ収まるボーロ。タッチは――わずかに間に合わない。
 4-4。ついに同点へと戻した紅組は活気づく。
 逆に同点を許してしまった白組。ここでピッチャーのアランが抑えのセララと交替。マウンドを降りる。
 ベンチで睨みを利かせるマリナが、セララへ向け呟く。
「おおっと、終盤のピンチ……ここを踏ん張ればきっと勝利は近づくでしょー。さぁ、今こそあの魔球を放つのです……ゆけぇ……!」
「騎士コンビの実力、みせてあげる!」
 ストライクゾーンの隅を狙う、緩急整ったボーロコントロールを前に、八番として打席にたったピッチャーのクロバは為す術がなかった。ランナーを一人残しツーアウトとなる。
「昨日の味方は今日の敵、相手がリゲル達だからって負けないぜ?」
 九番として打席に立つ勇司がバットを構える。
「ボクのとっておきだよ。騎士の閃光、魔球リッターブリッツ!」
 雷光閃く魔球は鋭い球速をもってキャッチャーミットに吸い込まれていく。
 大きく空振りする勇司だが、その顔に諦めは浮かばない。
 何球も打ち損ねながら、それでもギリギリで持ちこたえていた。
「打てるものなら打ってみろっ」
 幾度目かになる決め球、魔球リッターブリッツが稲光と共に放たれる。
 そのボーロを確信の元にバットを振るう勇司。
 甲高い音を立てて、ボーロが打ち返される。ピッチャー返しだ。慌ててミットを出すも間に合わない。大きくバウンドするボーロはセカンドを飛び越え、センター前へと転がった。
 クィニーは三塁で止まる。勇司は警戒しファーストで止まっていた。
 此処をチャンスと見た紅組。代打ランドウェラの起用を宣言する。
「にしてもボーロって面白いな。飼えないかな? ……え、出番?」
 来るとは思ってなかった出番に、片腕で挑むランドウェル。
 決め球を打たれたセララはぐぬぬ、と歯ぎしりしながら、ランドウェルに勝負を挑む。
 一球、二球と見送ったランドウェルは、しかし三球目に大きく片手を振るった。
 バウンドしながらショート前を抜ける。ルチアーノと鶫が慌てて近寄るも間に合わない。クィニーがホームベースを踏んで遂に紅組の逆転となった。
 気落ちするセララはしかし、打席に立ったサンディをしっかりと抑え、スリーアウトチェンジとした。
 混沌野球もいよいよ大詰め。果たして試合の結果はいかに――。

「不思議生物とか聞いたけどこれ生き物なわけ?」
『我よりもそちらの方が詳しいのではないか?』
 イーラが口を開きコルヌが問いただす。
「しかし、こんだけ転がってると壮観さね。っと、ボーロはこれでいいかね」
『使い勝手が悪ければ交換すればよかろう』
 アワリティアの言葉にブラキウムが身も蓋もない答えを返した。
 笑って答えるアワリティアがイーラに向けボーロを投げる。
『油断大敵だな、楽しむといい』
『お互い怪我は気を付けるようにな』
 見守るように言うコルヌとブラキウム。
 遊び始めた二人を眺めるグラは飛んで行くボーロに視線を這わせながら、
「おぉ、始まりましたね。といか、アワリティアが少し大人げないです」
『たまの機会だ楽しんでいるのだろうよ』
 そんな会話をストマクスと交わす。
 グラはイーラの身体能力を褒めるが、ストマクスに自身でも可能ではないかと訊ねられる。それはどうでしょうね? と首を傾げるグラ。
「なんであっちは足でも余裕で返してくるのかしらねっ!?」
『アワリティアが器用なのだろうな』
 イーラはアワリティアの反応の良さに歯噛みすると、対抗するように足で蹴り返す。
「へぇ、足を使うのもなかなか悪くないもんだね」
『お互い落とさないのは器用なだけだと思うぞ?』
 まだまだ余裕のアワリティアもどんどん返す。
 二人のラリーを眺めていたグラは不意に点数をつけることにした。
「今のは六点くらい付けておきましょう」
『まぁ、いいが……怒られないようにな?」
 そうこうしていると、イーラとアワリティアは小休止を挟むようだ。グラの元へと近づいてきて、
「って、グラは何してんのさ?」
「それで、グラは何やっているのよ? というかその点数は何?」
 と二人で訊ねる。
 問い詰められたグラは、どうにか笑ってごまかせないものかと、ストマクスに協力を仰ぐのだった。
「あら、ヨハンちゃんはお一人かしら?」
 ボーロと対話(?)しながら一人木陰で観戦していたヨハンにリリィ・クロハネが話しかける。
「ええ、僕はこちらのボーロと話をしていて……って随分と汗を流していますね。よかったらお茶をどうぞ。あぁ、水筒ですがこちらの方は口をつけてませんので……」
「あら、嬉しい。頂くわ」
 ゴクゴクと音を立てて無遠慮にお茶を飲み干すリリィ。よっぽど喉が渇いていたのだろう。
「ありがとうございました。それじゃ、ヨハンちゃんも楽しんでね」
「はい、ではまた」
 丁寧にお礼をしたリリィは手を振って去って行く。
 不意に、抱えていたボーロが身震いした。
「あぁ、ごめんねボーロ君。激しくぶっ飛んだりしたかったかな? 僕は見てるだけで楽しいから遊んでおいで?」
 そういって地面に置くと人知れず跳ねて行ってしまうボーロ。
 遠くでは野球の応援が盛り上がっている。もう暫くはこの歓声に身を委ねていようと思った。
 陽気が辺りを包み込む。街一番の陽向の元にアトスは居た。
 抱き留められる大きさのボーロを抱えて、一緒に日向ぼっこだ。
「~♪ ~~♪」
 アトスにとってそれは何気ない歌だったかも知れないが、『混沌祝歌(キャロル)』と呼ばれるその歌は美しく透き通り、街に響き渡る。同時にそれは魔性の響だ。
 何かに呼ばれるように集まるボーロ達。そんなボーロ達を観客に、偶像たるアトスは歌を唄う。
「皆の良い思い出作りになるといいなぁ……」
 微笑むアトスの周りには大小様々なボーロ転がるのだった。
「――っ!」
 一人バレーボーロに勤しんでいた狐耶がトスを打ち上げる。
 打ち上がるボーロを見ていた町人達――特に女性達は次々と打ち上がったトスをスパイクしていく。
(なんでしたっけ、違う世界では女子の教養としてやらされることもあるんでしたっけ、バレーって。お母様が言ってました)
 混沌でも女性の嗜みなのだろうか。次々スパイクを決めていく町人(女性)を見ながら狐耶は思う。
 黙々とやっていると割と良い運動になる。
「今日の夜はよく寝られる気がしますね」
 そこに野良ボーロが飛び込んでくる。絶好の位置とタイミングだ。
「とーうっと」
 風車のように狐耶の腕が周りバランススマッシュを決める。
 ボーロはまだまだ沢山跳ねている。今暫くは町人達と一緒にバレーを楽しむとしよう。
 発端はリンネのゲリラドッジボーロだ。
 道行くイレギュラーズに突然投げ込まれるボーロ。反撃を返せばその時点で試合成立。
 ここは戦場。顔面セーフの戦場なのだ。
 わけのわからないことをわめきながらリンネがボーロを投げつけまくる。
 そしてそのボーロを二人の少女(?)が受け止めた!
「世界を制するのはこのわたしだ!」
 二人に宣誓するように口上を述べるエスタ。その言葉は力となって、稲妻が落ちる衝撃をもたらし、リンネに火を付けた。
 そして、同じように火がついた者がもう一人。センキだ。
「ドッジボーロで世界を支配しようとするヤツがいるんですって? そんな事はこのわたしが許さないわ! 絶対に阻止してみせる!」
 ビシィ! っと指さし前口上を語り突撃するセンキ。
 ここに三つどもえのバトルドッチボーロが開幕した。
「うおしゃー! 食らえ!」
「あいたー! このやったな!」
「いいよ、こいよ! 正々堂々真っ向から迎え撃ttぶべらー!」
「顔面セーフ! 顔面セーフだ!」
 気の向くままにボーロを投げ合う三人。ルールは簡単。コート内の相手が倒れるまで投げ合うのみ!
 そんな三人を見守る少女(?)がまた一人。メイファースだ。
 優雅に紅茶を飲むメイファースは、自分の鼻先を飛んでいくボーロを感じながら、それでも紅茶を零さない。流石と言うしか無い。
「ふふ、シンプルに相手を叩きのめす球技。素晴らしいですわね。シンプルさはすべてのエレガンスの鍵。そしてどんなときもクールかつエレガントが私の信条ですあ”ー!」
 ですわ、と言おうとしたメイファースの頭にボーロが直撃する。首が変な角度に曲がるが紅茶は零れない。流石と言うしか無い。
「顔面セーフ! 顔面セーフだ!」
「ふ、ふふ。私はクールでエレガントですもの。これくらい……あいたーっ!」
 またもや飛来したボーロが頭に直撃するメイファース。紅茶は零さない。流石です。
「す、すげぇ……あんな直撃のしかたして紅茶を一滴も零さないなんて」
「くっ、凄い力。本当の敵は内に潜んでいたのね……」
「あなたたち……私は見学ですことよ……」
 ぷるぷると震えるメイファースは興奮しその髪が赤く染まっていく。
「やばいぞ、自由過ぎる女神がお怒りだー」
「逃げろー」
「この、お待ちなさーい!」
 そうして四人は楽しくドッジボーロをして遊びました。まる。

●勝敗の行方
「ふふ……楽しそうな声で良い歌が作れそうです」
 スポーツが苦手なラクリマは焼肉弁当をつつきながら遠くでわいわいやってる姿を見学していた。
 その傍ではMorguxがぼんやりと跳ねるボーロを眺めていた。
 どこからか跳ねてきたボーロがMorguxに当たるが、エスプリ【槍衾】の反射効果が発動しボーロは逆にはね飛ばす。
 立て看板の傍で混沌野球を観戦するのは威降だ。立て看板をスコアボードに見立てて、点数計算を行っていた。
「いやぁ参加しなくてよかった。あの球速は一般人には無理だ。あっはっはっ」
 笑いながら見学と決め込んだ威降は律儀に今が何回で表か裏か、得点などを記録していた。
 大詰めを迎えた混沌野球。試合の盛り上がりを楽しむように蜂蜜酒片手に観戦するのはSvipulだ。
 あと一回で試合が終わる。逆転につぐ逆転となるか。楽しみだとSvipulは蜂蜜酒を喉へと流し込んだ。
「誰も彼も気合十分という感じであるのぅ。
 ま、我には関係のない事である故に観戦でもさせて貰うのであるよ」
 のんびり観戦と決め込むのはルクスだ。超常的な混沌野球を前に目を見張る。見たことのある球技、だがもう少し地味だった記憶がある。派手なそれを感心したように頷くルクス。
 そんなルクスから少し離れたところにルアがいた。
「……む。何か、一部が騒がしいな。なに、野球。割とガチめ? ほうほう。
 観 戦 す る し か あ る ま い 」
 駆け足で観戦席に入ると、ルクスの横を陣取る。そして観戦にはビールとポップコーンじゃ、と販売して廻るlumiliaから受け取るとかぶりつくようにグラウンドを凝視した。
 そんなルアを隣に置き、ルクスが折角の縁だからと、一緒に観戦することを提案した。二つ返事で了承するルア。意気投合する二人は揃って混沌野球を観戦する。グラウンドの白熱に合わせて観戦席も盛り上がる。
「ふむ、おしい打線だったのぅ」
 と、適当なボーロを抱えてのんびり観戦するルクスに、
「よーし、行け行け行け……あ゛ーッ!」
 と、感情剥き出しに応援するルア。
 極端な両者は、しかし、気心しれた友人のように野球観戦にのめり込んでいった。
 試合も大詰めの白組ベンチではカレーの臭いが充満していた。
 セララを応援にきた、『カレーメイド』小梢のカレーが原因だ。
 筋肉痛で動くのも憚られるマリナの横で、それはもうもぐもぐとカレーを頬張っている。試合が盛り上がろうが関係なく、マイペースにカレーをよそっては一心不乱にカレーを貪っていた。
「すごいのです! すごいのです! これが、野球というものですか!」
 逆転につぐ逆転がココルの感情に火を付けた。ぴょんぴょん飛び跳ねながらはしゃぎ廻る。
 セティアとココルは二人で共に応援し続けた。
「応援て、こうで、いいのかな……」
 応援の仕方がよくわからなくて、何かすごい野次のような応援になっていたかもしれないけれど……。
 でも野球してるみんな、ぱない。がんばれ!! ってセティアは手を握った。

 いよいよ最終回を迎えた混沌野球。5-4で紅組が一点リードしていた。
 その表、紅組の攻撃をセララが必死の好投で三者凡退に抑え、いよいよ最後の白組の攻撃となった。
 紅組ピッチャーはクロバから抑えのシラスへと交替。それを相手取る最初のバッターは四番一振。
 短いイニングと言う事もあり最初から全力投球のシラスの球が、バッターの外角やインハイをついていく。
 相手を手玉にとった配球はしかし、あと一歩のところでフォアボールとなる。逆転を狙うランナーが一塁を踏んだ。
 続く五番ショート、レオンハルト。
 結果がどのようになろうと、楽しく遊ぶまで。打席に立ちバットを握りしめる。
 外角を狙い投げるシラス。
 大胆に振るわれたバットがボーロを捕らえ打ち返す。
 セカンドゴロだ。セカンドのサンディが取り、一振をアウトとする。
『ゲッツーなるか――ああっと!』
 続けてファーストへ投げようとしたところで、握りをミスしてしまい、手間取ってしまう。その間にレオンハルトは一塁を駆け抜けた。
『少し焦ったかもしれないな』
『おしかったですねー』
 解説のいうように、射撃の要領でダブルプレイを狙ったサンディは少しばかりの焦りのあまり手を滑らせてしまったのだ。物を投げるのが得意なサンディだったが、このときばかりは悔しそうに腕を振るった。
 続くバッターは六番ルチアーノ。シラスとの勝負を待ち望み、遂にその望みが叶おうとしていた。
 だが二人だけの勝負とはいかない。ランナーのレオンハルトはここぞとばかりに盗塁を警戒させる。
 シラスもまたランナーを警戒し、けん制を多く投げる。
「目を反らすんじゃないぞ」
 レオンハルトがファーストを守るクィニーに呟くと、忍び足で塁から離れていく。
 シラスが振りかぶり投げる。同時に駆け出すレオンハルト。
 若干の暴れ球をその身体で押さえつけたゴリョウがすぐさまセカンドへ向け送球する。だが、レオンハルトが早い。判定はセーフ、盗塁成功だ。
 得点圏にランナーを置いた白組が活気づく。
 ここが正念場と、ルチアーノは気合いを入れた。
 大きく振りかぶって、シラスが投球する。変化球からのストレートと読んだルチアーノは狙いをつけて大きくバットを振るう。
 高く上がったボーロはシュバルツのほうへと飛んでいく。
 シュバルツは観客を沸かせるように、アクロバティックな動きでフライを背面キャッチする。その動きに観戦者は大きく盛り上がる。だが、キャッチと同時に走り出したレオンハルトの足が速い。
 慌てて、レーザービームのごとき送球を行うも、滑り込んだレオンハルトが早かった。
 ツーアウト、ランナー三塁。最終バッターとなりうるか。現れたのは七番ライトのシオンだ。
「かっとばすー……めざせー……優勝ー……」
 常時眠たげなシオンは気怠げに言いながらバットを構える。
 様子見で放たれるボール球には反応せず、どっしりと構えるシオン。
 シラスもまたけん制や隠し球を狙って見るも、見破られアウトとすることができない。カウントはいよいよフルカウントとなった。
 シオンが大きく振りかぶる。全身全霊を込めた渾身の一球がど真ん中を狙って放たれた。
 それまでピクリとも動かなかったシオンが超反応を見せバットを振るう。
 甲高い音を立ててボーロが打ち返される。
『打ったァ!! これは同点なるかァ!!』
 ファーストを飛び越えライト前のフェアゾーンに落ちると思われる打球――だが、あろう事かその球をクィニーが飛行してキャッチしていた!
 紅組、白組両チームのみならず、見ていた人達全員が「あ……」と口を開く。キャッチしたクィニーが地上に降り立つと同時にアンパイアがアウトの宣言とともに試合終了を告げた。
『試合終ゥゥゥ了ゥゥゥ!! 長きに渡る特異運命座標野球大会はここに紅組の勝利で終わりましたァ!!』
 実況のヨダカが声を荒げて報告すると、観戦していた者達から拍手が巻き起こる。
『両チーム整列して堅い握手を交わしています。互いに健闘を称え合っています』
 両チームが握手を交わすと、アンパイアの宣言と共に、両チームが礼をする。
「あっりあしたーっ!!」
 やっぱり何言ってるのかよくわからない礼をして混沌野球が閉幕する。
 ベンチへと戻る両チームに、今一度大きな拍手が巻き起こった。
『素晴らしい試合でした。試合結果は5-4。逆転につぐ逆転で、紅組の勝利となります! ここまでの実況はヨダカ=アドリがお送り致しました。解説のラルフさァん、利香さァん。ありがとうございました』
『『ありがとうございました』』
 白ボーロを追いかけた白熱した混沌野球は閉幕した。
 同時にそれは、街一つを飲みこんだ超混沌的球技大会の終わりが近い事も知らせていた。
 夕陽に染まるグラウンドが切なげに佇んでいた――。

 試合が終わり、選手達がベンチに腰掛ける。
「みんなお疲れさまー! よかったら差し入れ、どうぞだよっ!」
 応援し続けていたセリカが紅白どちらのチームにも差し入れに飲み物やお弁当を持ってきていた。
  勝ったチームも、負けたチームも。共に流した汗は同じだ。
 互いに試合の健闘を称えながら、グラウンドに座り込み、弁当を食べる。
 そうして笑い合いながら、本当に混沌野球は終わりを迎えるのだった――。

●超混沌的球技大会閉幕
「これを持って、超混沌的球技大会、閉幕よー!」
 リリィがぽーんとボーロをバウンドさせるのを合図に、球技大会は閉幕となった。
 各々が使用した道具を片付け、ゴミを拾っていく。
 置き捨てられたボーロを除けば、開幕前と変わらぬ街の姿を取り戻していた。
「ところで、このボーロどうするんだ?」
 誰かが言った。
 その言葉に反応するように、置き捨てられ動きを止めたボーロ達が意志を取り戻したかのように動き出す。
 ゆったりと、自然に。
 大小様々なボーロが、自分達の役割は終わったのだと言うように、ゆっくりと街から離れていく。
 あとにはそう、軽快なバウンド音を残して――。
 ボーロ。無辜なる混沌に生まれし不思議生物。
 生死も不明な無敵の生物は、こうして人知れずその存在を眩ませた。
 今日一日で何回ボーロは跳ねただろうか。
 千にも及ぶボーロの群れは、人々に球技の素晴らしさを伝えたかったのではなかろうか。
 今となっては、その意志を計れるものは、たとえ神であってもいないのではなかろうか。
 夕陽が沈み、人々が家路につく。
 人々の鼓膜に、微かなバウンド音が響き渡った――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。

ご参加いただきありがとうございました。少しでも参加者の皆さんが楽しんでもらえたのなら幸いです。
白紙以外は全員描写したはずです。抜けがあればご連絡ください。
やきうの試合結果は受け入れましょう。

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