シナリオ詳細
ローレット・コーヒーブレイク
完了
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オープニング
●幕間(コーヒーブレイク)
レガト・イルシオン、首都メフ・メフィート。
少し前まで近隣諸国や民草からも悪徳の都やら荒廃の象徴やら不名誉な呼び名を沢山頂いていたその街はこの程幾分か活気を取り戻しつつあるように見えた。
大通りを行き交う人の流れも、並ぶ露天商の数も随分増えた。響く商人の声も、そこを行く人々の足取りは以前よりもずっと軽やかだ。
「最近どうだい」
「前と一緒かな」
「そりゃすごい」
「全くだ」
「現状維持出来るなんてな、信じられん」
「毎年――どころか毎月酷くなってたからなぁ」
……実際の所、かの迷君・フォルデルマン三世陛下の治世を戴くこの国の現状は劇的に何か良くなった訳ではないのだが、『状況が下げ止まった』と感じられるのは大いなる希望と考えられたのである。
そしてそのちょっとした『改善傾向』は専らある組織が活動を活発化させた時期と重なっていると考えられている。
「……ローレットだよな」
「ああ、間違いない」
「特異運命座標にだけは足向けて眠れんわ。
まぁ、善人ばかりじゃないのは分かってるけど、それでも……」
「全くだ。『嘘吐きサーカス』も『蠍事件』も。
聞いたか、陛下はこの間、蠍の被害が回復してない村の支援を命じられたらしいぞ」
「嘘だろ。シャルロッテ様泣いてるんじゃないか?」
「あと『暗殺令嬢』が誕生日の後、物騒な計画を沙汰止みにしたって聞いた」
「俺は『黄金双竜』様が新規に治水事業を始めたらしい。
まぁ、あの方は元々政治には真っ当だが、人夫への支払いが五割増しだったのだと」
「あの吝嗇家が。ガブリエル様は――」
「――変わらない。いつも最高だ。あの方は領民にお優しい」
民草絶賛のバルツァーレク伯はともかくとして、すこぶる人気のない御三方までもがこの所随分と政治の真似事の努力を始めたり、丸くなったと市中の評判だ。
そしてそれは彼等が言った通り、『始まりの日』より動き出した時計の針が――特異運命座標という可能性の塊がもたらした確かな『変化』と言えるのだろう。
問題は山積している。古豪レガト・イルシオンがかつてのように復権するにはまだまだ時間が掛かるだろう。しかし、春を待つ二月(きょう)の気候のように。厳しい寒さの中にほんの微かに春を匂わせる今日の風のように、それを待つ人々の胸には以前とは違う確かな希望が芽生えていた。
「俺、後でローレットに差し入れしてくるわ」
「俺も。果物と、あとパンなら用意出来る」
特異運命座標は滅びの神託を回避する為の救世主。
しかし、彼等の価値は漠然とした未来だけに非ず。
今ここに生きる人々にとっても明かりであり、救いとなっているに違いない。
●ギルド・ローレットの長い一日
朝から晩まで。
実に数百、数千の特異運命座標の寄り合いとなった超巨大ギルドは騒がしい。
人の出入りはひっきりなしで。
例えば新しい依頼を探しに来たり。
例えば仕事の打ち合わせをしていたり。
例えば食事や酒を楽しみにきていたり。
例えばそこに居る誰かとの歓談を期待していたり。
勿論、依頼人がやって来る事も非常に多い――
千差万別の目的をもったイレギュラーズは突然始まった救世主ライフを思い思いに過ごしていると言える。尤も純種達はともかく、旅人に関しては押し付けられた感が否めないのが確かなのだが――
からん、からんと入り口のドアで音が鳴る。
「やあ、いらっしゃい」
相変わらず気安いが、朝が得意ではないのか何時もより冴えない顔で眠たげな『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ (p3n000002)が貴方に声をかけた。
「よふかしするからなのです。おろかなのです」
不良ギルドマスターが客席でくつろいでいるのと対照的に、さもしっかりしていますと澄ました顔をする『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はカウンターの中で何かの資料をせっせと纏めている最中だった。情報屋らしい事をする彼女の資料がかなりの確率で間違っているのはご愛嬌だ。
「今日の御用は? 御用があったらローレットが承るぜ。
御用がなくても、暇位は潰していきなよ」
やたら上手にウィンクするレオンは相変わらず。
そんなやり取りの間にも次々と新たな人が訪れて――ああ、本当にここは賑やかだ。
- ローレット・コーヒーブレイク完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年04月21日 22時08分
- 章数3章
- 総採用数111人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●騒がしい朝
「おはよー! 今日も元気だ空気が寒い!」
朝早く『観光客』アト・サイン(p3p001394)がローレットを訪れるのは日課である。
「早いもの勝ちだから最初にキープしておかないとねぇ」
依頼の張り出された掲示板をじっと眺めるアトの目当ては言うに及ばず『冒険』である。
取り分け『迷宮探索』に目がない彼は絶対にその機会を逃すまいと気合を入れる。
(今の所一人だからなあ。一人用クエスト依頼になりそうだけど……)
何時もと変わらないローレット。
何時も賑やかなローレット。
そんなワン・シーンを覗いてみれば、そこには何処にでもある、しかしここにしかないちょっとした物語と、得意運命座標の素顔が存在している。
朝独特の忙しなさに包まれるローレットに少女の歌声が響き渡った。
――おはよう おはよう あっさでっすよー
あーさの あなたは どんなかおー
あしたの しごとが つまっているかー
きのうの おさけが のこっているかー
あっさあっさですよー あっさですよー♪
いえーいユリーカちゃん、ハイファーイブっ!
何処か調子外れな、歌詞は些か意味不明な、それでいて引き込むような音色である。
突然に歌い出した『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)が如何に独特で、如何にマイペースであるかはローレットと関わる者は割と多くが知っている。海洋王国で古き守りを紡ぐコン=モスカの一族らしく――いや、コン=モスカとは恐らく何ら関係無く。カタラァナは大抵いつもこんな感じではあるのだが。
「はいふぁーいぶ!」
「……おいおい、勘弁しろよな」
カタラァナの声に元気よく応じたユリーカの一方でレオンはと言えば渋面である。
少女の突き抜けるような声量は――恐らくは二日酔いか何かが残っている――中年の憂鬱な朝には些かハイライトが強すぎた様子である。
「眠い、とても眠い……だ、誰か、朝食を……」
そしてそのコン=モスカの輝き(意味深)が鼓膜に突き刺さったのは、今まさに今机に突っ伏し頭の奥を蝕む睡魔と必死の戦いを繰り広げる『皆の翼』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)も同じ事だった。
「ま、こんな時は地獄みたいに濃いコーヒーがいいって言うけれど?」
「……苦そうだなぁ。でもお願い、なんとかしたい……」
くすくすとした小さな笑いを零したショウの言葉に縋るようにヨタカが呻いた。
「ぶはははっ、大変みたいだなあ!
おはようさん! 朝飯と言えば米がいいぞ。米は力が出る。目も覚める!
当然、一押しは『混沌米』だ。たった今、ほれ、この通り! 搬入済って訳だからな!」
カウンターの近くの床に肩に担いだ米俵をドン、と置いた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081) がヨタカの呻きに振り返り、豪放磊落に笑い飛ばした。
農家の朝が早いのは常識だ。
その上、言葉通り毎朝『混沌米』を食する彼は健康優良間違いなし。
得意運命座標として冒険に出る傍ら、この幻想――ひいては混沌に米食文化を広めようとする彼の野望は果てしない。その第一歩がローレットへの普及で――曰く『下心ありありな混沌米提供サービス』は「慈善事業ではない」らしい。
「ぶはははははは!」
……何処からどう見ても善人指数がぶっちぎっているオーク(彼女は可愛い)だから、それは姫騎士の勝率と同じ位に信じられないのは当然なのだけれど。
「あーたーらしいーあーさーとともに高貴で美しい妾のお出ましなのじゃ!
さあ、レオン! 美しい妾を構え。ちやほやするのじゃ!
そのやる気のなさそうな顔を引き締め、元気を出して!
そう、この妾におはようございますを言うが良い!」
「……」
「言うが良いぞ!」
「……………はい、おはよう」
「な、なぜあたまをぐりぐりするのじゃー!?」
可愛がられる『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が愉快な声を上げていた。眠たい朝の時間はイレギュラーズの数が増えていくにつれて少しずつ違った顔を見せ始めている。
「……あの、レオンさん。何か、イルミナにできるお仕事はありますか……?
やっぱり何もしないのはイルミナには無理そうッス!」
「さて、オマエに丁度いい仕事ねぇ」
恐る恐る、といった調子で自身に声をかけた『blue』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)にレオンは少し思案顔をした。
「イルミナはヒトのために働いてこそのイルミナッスからね!
なんでも言ってくださいッスよー!」
「あー、うん。いい子だ。何処かのデイジーとは大違い!
こりゃ、俺自ら何か見繕ってやらないといけないかな?」
「失敬な! 妾も仕事を探しにきたのじゃ!
こう、美味しいものが食べ放題な感じで――
しかも妾の評判がうなぎ登りになる感じのだと良いのじゃ!」
やはり何処ぞのデイジーである。
大分目が覚めたのか調子が出てきたレオンの気がイルミナに逸れている間に何とか逃げた彼女は得意顔でカウンターのユリーカに強請っている。
無理難題を振られたユリーカは何とも難しい顔をして……
「そういう仕事はボクがしれっと受けるのです。誰にもまわらないのでした」
等とのたまっている。そういえばこいつもわからせ枠だった。
ともあれ、ご覧のように朝早くからローレットは動き出すのだ。
「よし、今日は一人でダンジョンを攻略したい気分だ。
一人用の中で一番歯ごたえがありそうな古代遺跡探索で!
ユリーカ、こいつの依頼を受けさせてくれ!」
漸く物色を終えたらしいアトがカウンターにバン、と張り紙を叩きつければ。
ユリーカは「がってんしょうちなのです!」と同じ位元気の良い返事をした。
成否
成功
第1章 第2節
●まだまだ騒がしい朝
朝が何故朝か。
……別に頭が悪くなった訳ではない。
その逆に唐突に哲学を始めた訳でも無い。
朝が何故朝か。それは太陽が空に昇るからである。
遥かな異世界であろうとも、混沌世界であろうとも。『崩れないバベル』の担保する朝なる単語は大体その説明で満たされる。繰り返すが朝は太陽が昇るから朝なのだ。即ち、ローレット(ここ)では――
「こけこっこー!」
それは『飛んだにわとり』トリーネ=セイントバード(p3p000957)が聖なるかな、その一声を上げる事とイコールし、
「オーッホッホッホッ!!
あっさでっすわ! つまり、お天道様の時間ですわーー!
レオン様! このわたくし!」
『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204) ――今日も元気で曇りない笑顔を見せる彼女が指を鳴らす事ともイコールする。
嗚呼、トリーネが鳴いてタント様が指を鳴らせば。
まだ幾らか眠たげを残していたレオンも、ユリーカも、周囲の仲間達も。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
……と、まぁお約束(コール)に興じるのは必然であった。
「――が! 依頼を探しにやって参りましたわよ!
何かきらめく依頼はございませんこと!?
このわたくし、荒事からお猫探しまで何でもこなしますわー!」
……まあ! まずはレオン様に目を覚まして頂くのが第一のお仕事ですかしら!
目覚めにはコーヒーに運動、それから太陽の光ですわよ!」
「何だかとっても眠そうね! 看板鶏としてはもっと頑張らないといけないわ!」
「あぁー……」
眠たげな中年が強く煌めいたタント様とトリーネの輝きに声を上げていた。
「HAHAHA、グッモーニンエブリワン! 良い朝だな、清々しい陽気だ!」
それより何よりやたらに元気よく大声なロードワーク帰りの『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)の大声(いちげき)が彼の鼓膜をぐわんぐわんに揺らしている。
「Hey、プルー? あー、ユリーカでもショウでもいいや、なんかスカッとぶん殴れる依頼は無いのかい? 出来れば人間相手が良いな、最近はモンスターばかりだったんだ!」
本当に貴道は貴道である……としか言えない言葉である。
「よう、おはよう。今日も相変わらずみたいだな」
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)の言う通り、それも大して珍しくも無い風景だが、『朝の訪れ』はやはり活況を呼ぶのか。
「降り注ぐ陽光! まるで異界の神が俺という存在を祝福しているようだ」
『こんちわーっす、レオンさん、ちょっとお願いがあるんですけど』
「あん? 聞ける事なら聞くけどよ」
「簡単だ! 今度出演する舞台の宣伝をさせて貰いたいと思ってな」
『廃材劇場Aströmにて、青い鳥が上演決定!良かったら見に来てね!』
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734) ――つまり二人で一つ、虚と実の二人(?)が宣伝のポスターを張ってもいいかと問う一方で、
「そこのお兄さん、悪の秘密結社XXX!
現在絶賛団員募集中にゃのですけどちょっとお話聞いて行きませぬか?
ナイスバディ―な女総統の下で働け、休みも安定、ボーナス有のホワイト企業にゃのですよ!」
『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)が突っ込み所しかない宣伝を繰り返している。
「バルトロメーイ! おはよう! ……あれあれ? 眠そうだね?
夜更かしでもしてたのかな? まぁいいや!
ね、ね、バルトロメイ。また戦い方を教えて欲しいな。
すっごく頑張るから。お昼でもいいから。いいでしょ? ね!?」
「レオンさんにユリーカちゃん、おはようだねぇ。
実はまだまだ眠いんだけどねぇ……ふわぁ。まずは、早起きを日課にしなきゃダメかもねぇ……」
「実は俺、四十年位生きてるけど未だにその日課出来てないんだよねぇ」
『自称カオスシード』シグルーン(p3p000945) の『いつものおねだり』を「そのうちな」と程々にかわす横で、最近初仕事を終えたばかりであるという『特異運命座標』シルキィ(p3p008115) にレオンは何とも悲しい事実を告げていた。
「や、出来るだけがんばるって事で……
自分の力で頑張って、誰かを助けてご褒美をもらう……
ただの虫だった頃はできなかった経験。大変だったけど、とっても新鮮で楽しかったよぉ」
実に微笑ましい報告をする彼女にはレオンも淡く微笑んでいる。
「随分と眠そうだな、レオン。夜遊びのし過ぎか?
『彼女達』に怒られたりしないか? いや、そもそも『彼女達』が相手だったのかもしれんが」
意地悪く涼やかな笑みを見せた『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は何かを言いかけたレオンの肩を「そうむくれるでない」と気安く叩いてみせる。
「いい豆が手に入ったから、馳走してやろうと思ってな。
何の豆かは、香りと味で当ててみろ。
珈琲を飲みながら頭を回せば、少しは眠気も飛んでいくだろうさ」
「へぇ、珍しい」
乗り気のレオンに汰磨羈は軽くほくそ笑む。
珈琲にはちょっとした悪戯が仕込まれていたが、はて彼は当てるのか――
「……よお、レオン。何か良い仕事ねぇか?
終わった後に生き血を沢山貪れる様な、血腥い奴。腹減って仕方ねぇや」
「オマエね、絶賛貧血中にそれを言う?」
廃滅病の香りさえ、余裕めいた香水で知らぬ顔をする。『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394) はレオンの表情がお気に召したのか「吸血鬼だからな」とニィと笑む。
「あら、――朝から頑張るわねぇ。相変わらずモテモテで」
別にそうややこしい話では無かったのだが、そこはそれ。朝呑み帰りの『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の言葉ばかりは(実体験も含めた)彼の日頃の行いの悪さが原因である。しかしながら、今日ばかりは。
「まあ、まあ…レオンさん。きょうもお疲れ様です。
そうだ、この間、良いお酒を見つけたのでぜひ飲んでみてほしいと思って……
あとで持っていきますわ」
「二人で?」
「え? 二人で……? そう、アーリアさんと二人で飲んだと聞きました。ずるい。ずるいです。
なので、今度はわたしとも一緒に飲んでくださいね。きっと、退屈はさせませんから」
横でニッコリと笑う 『キールで乾杯』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)の笑顔にアーリアの表情は見事な位にひきつった。
へべれけにもこわいものはある。
ばれました、ふたりきりで呑んだのが――
閑話休題。
「調子はどう? 暇ならデートとか誘っちゃうんだけど」
「今日はダークグリーンめいた気分だわ。気持ちは嬉しいけど、誰にでも言うのかしら」
「冗談!」
「冗談よ。勿論」
軽口を叩く『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438) にくすくすと笑って応じる『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が彼女らしい軽妙なやり取りを見せていた。
「おにく!!!
レオンさんにはこんなこともあろうかと特性カスタードクリームおにくをお渡ししますよ。とてもジューシーな幸せまんてんの一品ですね。さあ、いっきにいっきに!」
独特の感性で独特な代物を持ち込んだ『おにくだいすき』襞々 もつ(p3p007352)や、
「おはようございます。朝焼いたパンをお持ちしました。
お昼にでも召し上がって頂けたら。他の方の分もありますから、こちらもよかったら」
「あ、私も。こっちは朝の残りですけど。そう言えば、お仕事、何か来ていますか?」
何時もの朝に心尽くしの差し入れをする『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236) や『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794) のお陰もあって、すっかり周囲は腹を空かし、朝のローレットは本格稼働モードになって来る。
「うーん、今日も色々なお仕事が。さて、何に参加しましょうか……」
(今日もお仕事を探しに来たのですが……
こんな風にローレットを訪れた日は、意外と長居してしまうものなのですよね……)
依頼の書かれた紙とにらめっこしながらクラリーチェ。朝に弱い事もなくもう少し早く起きていたユースティアは眠たがる事も無く、丁度食後のコーヒーでも頂こうかという所だ。
「アレ、今戻ったんだケド……ギルドマスター………オフって感じだネ。
アー……ソレ、アタシも。コーヒーはニガいから………うーん、甘いのをモラえる?
ア、ストロー付きでお願いネ」
香ばしい香りが鼻腔をくすぐればそれが欲しくなるのは自然である。
夜のお仕事(意味深)だったのか、依頼帰りに顔を出したジェックがそう言えばユリーカが「心も溶ける甘さにしてやるです!」と腕をぶす。
「ソ、ソウ……お手柔らカニ……」
……ローレットは酒場機能も兼ねているから案外朝は賑わうのだ。
「ユリーカ、ここの朝ごはんのお勧めってあるかなぁ? ボク、なんでも食べるよ!」
「ふっふっふ、それを聞いてしまったですか。ボクの奥義を知りたいですか!」
「え、奥義? すごそう!」
「何とスクランブルエッグがあるのです。ボク特製なのです。決してオムレツに失敗した訳ではないのです」
「……あはは。でも、おいしそうっ! いっただきまーす!」
一人称『ボク』に互いに何となく親近感を覚えているらしい二人――最近出会った割に結構息が合っていて仲良しだ――『屋台の軽業師』ハルア・フィーン(p3p007983) とユリーカのやり取りを見ても分かる通り、凄い料理が出てくるような事も無いが、旅人が多い為、それなりに多種多様な対応がされる。
最近ではゴリョウが混沌では少し珍しい米を卸したりもしてくれるから尚更である。
「うーん、せっかくローレットに来たし、ここで朝食も済ませていこうかな!
たまにはのんびりと優雅な朝食を取るのも良いよね。
ベーコンエッグとサラダとトーストーー温かいスープもつけちゃおうかな?
食後にはストレートの紅茶でゆっくり。茶葉はお任せ!
気に入るものが見つかるかったら素敵だし――」
「このローレットに何でも任せて下さいです!」
安請け合いは己の華と言わんばかり、『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の言葉にユリーカはやけに大きく出てみせた。
「私は夜行性の放k……こほん、ねこなのですが。
とりあえず優雅にコーヒーブレイクを。カルーアミルクを一杯で」
朝から迷わずにアルコールに興じる『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)だ。
「……え、朝からアルコールは駄目?
いやだってほら、私はねこですがうわばみですので???
この程度なら酔わないのですし現に今まだ酔ってないのですよ?????」
ダメと言うか……ねぇ。とってもダメ(なひと)だよねぇ?
(眠いから二度寝……とか思ってしまうと数日は目が覚めなくなってしまうので……
とりあえずローレットに来たのですが、眠気覚ましに紅茶を頼んで、ひと休み……
しかし朝日が程よく暖かくてねむ、眠い……のです……
紅茶が届くまで、少しだけ……)
うつらうつらとする『忘却機械』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は少し早いが『春眠は暁を覚えず』といった所か。
「おはよう。みんなお疲れさま。
ちょうどねパン屋さんが開店しててね、いい匂いだったから、焼きたてのパン買ってきたよ
よかったら、みんなで食べて? あたしは牛乳あっためてくるね、キッチン借りていい?」
「おお。パンにはたっぷりのフルーツジャムを塗って、紅茶にはたっぷりの砂糖を入れていただきたい。
甘味は目が覚めるしなぁ……他にも気になるメニューはあるけど。
ここは昼飯や晩飯に来ても色々ありそうだしな」
『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755) のタイミングは至極良く、新たなオーダーが『春知らず雪の中』ハルラ・ハルハラ(p3p007319)から入る。
「はい只今」と応じたのは、いよいよ大回転のローレットをテキパキと切り盛りするメイド――『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)である。
「新聞や人伝で情報を知るのもいいけれど。
ローレットに顔を出した方が楽しい光景と出会えるからなあ」
『文具屋』古木・文(p3p001262)曰く「コーヒー一杯分の時間観察させて貰おう」である。
「朝食! 朝食! 朝食食うゾッ!!
朝食肉! 朝食肉! え~と、『朝食特盛汁だく』!!!」
『天然蝕』リナリナ(p3p006258)に「牛丼屋かよ」とは野暮であろう。
それより何より朝から肉派は結構居る。
「お、いいな! じゃ、モーニングランチ、肉多め!」
『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は猛禽らしく目玉焼きにチキンを添えて。決して共食いとかそういうのではない、飛行種的日常なのである。
彼はまだまだ成長期な十九歳。
大きくなればいずれはお前も食材だ、という周りからの冗談はいつものこと。
「……冗談なのか? ほんとにか?」
……朝食の風景は全く実に悲喜こもごもで。
「このスキルも違ったか。あれもダメ。くそ、何が正解なんだ! 教えてくれ、ざんげ……」
中には『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)のように生々しい打撲痕さえ隠さずにノートを広げてぶつぶつやっている者もいる。ちなみに地獄のように濃いコーヒーが彼の友達だ。
「ええと、トーストと、温かいミルクで……ジャムも、お願いします。
本当は……とても眠い、ので……あまりご飯はほしくないのです、が……
朝食は一日の活力、と聞きましたので……今日一日がんばるための、活力です」
不健康極まるハンマーの勇者(ハロルド)とは対照的に、少しだけぼんやりとしながらもあくまで『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)はポジティブだった。
(わたしがお手伝いできるお仕事が、あると……良いのです、が……)
キビキビと動き回るシルフィナが一つだけ息を吐いた。
(ふぅ、中々ここは忙しいお店ですね)
そう、現状はかなり忙しい。
(私は……どうせ……誰にも気づかれないでしょうし……隅っこで……朝食でも……
いろんな……人を見てるのも……面白いし……日課になりそう……かも……
でも……忙しそうだし……お手伝いとか……した方が……? うぅ……)
レオンが火の車だといった厨房も含めて罪悪感にかられる『覚悟を抱いて』道子 幽魅(p3p006660)が引っ張り出されるのも時間の問題か――
勿論ローレットでは色々な人間がひっきりなしに仕事の話も続けている。
「ユリーカさんへ手紙を届けに来ました。
普段依頼を受けていない時は郵送屋の真似事をしていましてね、荷物が安全に早く付くと評判をいただいているんですよ」
「アルプスさんが速いのは確かですが、事故(ふぁんぶる)率は高そうなのです」
今朝はどうやら郵便屋さんになっているらしいアルプスがユリーカに余計な茶々を入れられている。
「ユリーカちゃん、いいかな?
依頼を……あ、違う違う、今日は依頼人として、依頼を出しに来た方」
カウンターにたしたしと前脚を乗っけながら、依頼提出の手続きを行っているのは『黒狐はただ住まう』生方・創(p3p000068) 。
「いやぁ、レガド・イルシオンも日々平穏だからねぇ、僕の工房にもどんどん依頼が来ててさ。材料の木材が足りないから、切り出しの人員をお願いしたいと思ってね!」
成る程、商売繁盛は大変結構である。
そしてローレットの場合『繁盛』は依頼を出す方にも、受ける方にも由来する。
「やっほー、レオンさん、ユリーカちゃん! 依頼の確認にきたよっ!
最近、ちょーっと御無沙汰だったんだけど! オススメがあったら教えてほしいなっ!?
あっ、朝ごはんは済ませてきたから大丈夫だからね!」
「久々に遊んでくれるのです?」
「いやー、今回は遊びというか仕事と言うか……あ、ユリーカちゃんの依頼かな?」
そう言えばこの間の『仕事』はカードゲームの話だったな、と『悪戯なメイド』クランベル・リーン(p3p001350)は思い出す。
「今、『あっち』が火の車みたいだ。手伝ってやったら喜ぶぜ」
「あ、厨房のお手伝いとか……要るなら!」
メイドの格好をするクランベルだからレオンからの言葉は渡りに船だ。
「そうだな、こちらも料理は兎も角、丁度いい依頼があれば。
最近ちょっとデカい案件増えて弾代嵩んでるし、ちょっと軽めの仕事があるといいんだが。どうだい情報屋組? それこそ近隣の町や村までちょっと駆けてくればいいような。
……まぁ、あまり我侭言うものではないかも知れないが」
「難しい事を要求するわねぇ。ややこしい方の依頼なら、例えばほら。
この『サリュー辺りで起きている辻斬り事件を解決しろ』だとか」
「冗談……」
「冗談よ」
朝の荷運びの帰り道、人の悪いおねいさん(プルー)にからかわれたラダは肩を竦める。
「資料の数がすごいなぁ、忙しそう」
しみじみ呟いた『風のまにまに』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は面白おかしく笑っているユリーカの――その羽を眺めて素直に綺麗、と溜息を吐いた。
「朝からお疲れ様、情報屋の仕事頑張って。
良さそうな仕事があれば教えてもらいたいけど……大丈夫かな?」
自分でも出来る事なら積極的に――とそう言うドゥーにユリーカは拳を握る。
「ぬるぬるぬめぬめなお茶が湧き出る泉……
邪悪ロリスク水ハイブリット忍者ねこたんの討伐!?」
一方でおかしな依頼に面白い顔をしているのは『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)。
「こんにちは。ユリーカ君、何か簡単な戦闘依頼ははないか?
そろそろ闘技場だけでは強くなれなくなってきてね……やはり実戦は必須だな」
「丁度いいのがあるですよ。マリアさんなら――これとかどうですか!?」
「ふむ。『えっちっち』とは何だ? 見た所スライム退治のようだが――」
「――ざこですよ、きっと。すらいむですし!」
正統派に紹介すると見せかけてあまりにあんまりな扱いを受けているのは『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)である。ユリーカは公式設定でポンコツ精度だからしかたないね。
「俺さ、実は見ての通り今日は昼前に起きたのな。
凄くねえ? 依頼の予定も無いのにちゃんと起きたんだけど。称賛されていいと思う。マジで。三文の得って言うけど三文じゃ全く足りない。もっと貰っていい。
で、そんな偉い俺がなんでわざわざ朝っぱらにローレットまで来たかってえとな……まあ勿体ぶるまでもなく、単純に暇なんだよな。なんかいい感じの依頼ない?
在来ゴブリン退治とかさあ、貴重品をないないするとかさあ。
俺にぴったりな依頼、なんかあるだろ。なんかさ。
よろしく頼むぜぇ。凄腕美少女情報屋さん、ってね!」
「美少女情報屋に任せるです! キドーさんのお宝をないないすればいいですか!」
「ちがう、ちがう」
今度は珍しく朝方動いた『緑色の隙間風』キドー(p3p000244)がぶんぶんと首を振った。
そんな二人のやり取りに、
「グゥーーッ、二日酔いでアタマが痛ェーーぜ!
オウ、昨日おれさまが受けた仕事あんだろ。山賊退治の。
あれはキャンセルだ、キャンセル。あっオイ、丁度ヒマそうな奴がいるじゃねえか。
ユリーカの嬢ちゃん! そんなもんキドーにやらせろ。こいつで十分!
おれさまは帰って寝る。ムリ。吐くからマジで。吐かれたくねェーーだろ此処でオイ!」
「おい! おい!」
事態を只管ややこしくする『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が参戦している。
「おはようございますなのじゃ〜!
今日はいい仕事があるか見に来たぞ!
妾、居候であるからして……家主に家賃を渡すためにお金を稼ぎにきたのじゃ。
収入もなくてお小遣いを貰っておったのじゃが、最近ちょっと視線が厳しくての……」
『火遊び』アカツキ・アマギ(p3p008034)は切実に溜息を吐き、
「……というわけで燃えたり燃やしたり出来る幻想種向けのお仕事はないかのう?
炎のように熱くなれる仕事でもよいぞ! 幻想種と言えば燃やすのが仕事みたいなとこあるじゃろ?」
続け様にぶっ飛んだ訳の分からない台詞を吐く。
噂の家主はと言えばレオンに「おはようございます!」と輝かんばかりの笑顔で告げた一方で、アカツキの些か風評被害に塗れた幻想種評に「ん、ンンッ!」と分かり易い威嚇の咳払いを果たしている。
「オマエも大変だねえ」
「……今日は目ぼしい依頼がなかったようですが」
「トレーニングをして顔を出す、大変結構」
頭にぽんと手を置いたレオンにドラマは難しい顔をする。
何となく緩んだ表情を無理に引き締めたような本当に微妙な。
「オーナーさん、ドラマさんや華蓮さんや百合子さんにばっかり構ってないで!
たまには僕に稽古付けてほしいッス!
あとこっそりディルクさんにも教導希望の旨を伝えてほしいッス!」
「かまっ、わたっ……」
『黒犬短刃』鹿ノ子(p3p007279)の言葉に幾ばくかドラマは照れを見せた。
いや、認めているからいいのだ。でも、その、それはそれ。これはこれで。
竜みたいに自分勝手で鈍感なレオン君はともかく(←ひどい)。
居候は炎に夢中で見てないようだから、まぁ、いいか――
「今日も依頼がそこそこ出てますねぇ、多すぎず、少なすぎず……
ま、私に相応しい依頼は無いみたいですけど!
ほら、悪い貴族の屋敷に忍び込んで色仕掛けついでにぶっさしてこいとかぶっさしてこいとか、違法操業パブに潜入してとか、いひひ!」
「よし、これに決めた! さて、次はどんな人達に出会えるかな」
アカツキも、人の悪い笑みを見せた『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)も、今まさに一つの依頼を選び取った『七星剣の使い手』ゲンセイ(p3p007948)もそうだが、イレギュラーズの求める仕事も様々だ。『何やら珍妙な依頼も多いが……私は面倒事は御免だぞ』そう釘を刺したシュウレイの望みが結果的に叶わない事実はさて置いて……
茶化す余地がなく真面目な場合は真面目なのである。
「どーも、おはよざいまーっす。
今日は……というか、今日はも、海洋絡みの依頼が無いかどうか。確認しに来ました。
行方不明者も出たことですし……心配です」
その形の良い眉を心配に顰める『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)も居る。覚悟をもって先の依頼に臨んだ彼女は死力を尽くしてこれを成功に導いた。しかし、元来生真面目な所もある彼女はやはり責任を背負う性質であった。
「今日も無いか。今度は、もっと、先日よりももっと……最良の結果を出してみせます。
私は、私を認めてくれたこの勲章にかけて。一人前のイレギュラーズとして……戦うのです」
気負うウィズィにレオンはと言えば「オマエは良くやってるよ。コツを教えるなら、もっとテキトーに考える事位で」と本気か冗談がわかりかねるアドバイスを投げた。
そして中には非常に分かり易いオーダーをする者もいる。
「今日は……あの、ラサのお仕事とか……あるかしら?
まぁ最近は色々な国のお仕事も行ってるけれど、ね。
やっぱりラサでのお仕事では特に頑張りたいって思うの」
「ああ、あそこにはクリムゾンレッドな殿方がいるものね――」
「ディルクさんがいるからなのです」
「ぷ、プルーさん!? それにな、なんでユリーカさんまで知ってるのかしら……!?」
「ボク達は情報屋なのですよ?」
『熱砂への憧憬』Erstine・Winstein(p3p007325)が秒で的にされており、
「別にあの方の為だけにラサのお仕事を探してる訳では無いのだけれど!!
私は……本当にラサの為に頑張ってるだけなのだけれど!!」
目は口程にモノを言い、Erstineは嘘も誤魔化しもとてつもなく下手くそで。
「悪趣味だなあ」
「そんな事ないから。絶対ないから!
あの方はあれこれ言われるけど……
褒められたら嬉しいとは……でも、ぐ……な、なんでもないわ!!!」
余計な嘴を一つ挟んだレオンに彼女は圧倒的に語るに落ちて、落ち倒している。
「恋愛運は……まぁ、頑張りなさいな。
待てば海路の日和あり、しかし嵐の中では気が気ではないかしらね」
ローレットでたまに占い師をする『超弩級お節介』暁蕾(p3p000647) が(恐らくは)珍しい冗談を言えば、場に小さな、それでいて温かな笑いが零れる。
「こうしてみると、日常のちょっとしたことから本当に危ないことまで、みんな色んなことで困ってるんだなあって実感する。もっと頼れる人にならなきゃ、って頑張る気持ちがわいてくるね!」
ローレットの平和の象徴のような――
「え? なにそれ! ちがうよ! 普通だよ!」
――『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が俺(ナレーション)に軽く抗議の声を上げ、
「――み、み、みなさま!
はじめまして、レティシア・セレーネと申します!!
空中庭園に召喚されてから初めてこの場所に立ち寄りました!
ローレットの一員として、どうか、どうぞ宜しくなのですよ!!!」
どう馴染もうか、どう最初の口火を切ろうか――
悩んだ挙句、大声で元気よくを選択した『月下乙女』レティシア・セレーネ(p3p008164)の思い切りの良さに一斉に周囲から拍手が起きた。
(――お爺様、パパ、ママ。
私はしっかりやりますから、安心してください。
たまには帰省するけれど、私はこのローレットで、頑張りますっ!)
嗚呼、ローレットの時間は楽しい。朝の時間はきっとこれまでよりも和やかを増していた。
成否
成功
第1章 第3節
●朝と昼の幕間I
「ああ、オマエは確か――」
「……あの、ここに来たばっかりで勝手は分からなかったんだけど」
恐る恐る、ではないが。
少しだけ気遅れた調子で漸く眠気も晴れてきたのか大きく伸びをしたレオンに話しかけたのは『新たな可能性』レニー・エメディア・オルタニア(p3p008202)だった。
「ん。アタイはレニー。レニー・エメディア・オルタニア。
右も左も何にもないけど――取り敢えず挨拶でもしようかと思って。
とにかくスッゴい人だね、ここ。人酔いしそうなくらいだった」
一日の始まりとはイベントの多いもので、レニーの言った通り、恐ろしい程の盛況でごった返すローレットは幻想王都メフ・メフィートにおいても珍しい程に活況で忙しい空間であると言えるだろう。
どんな騒ぎも過ぎ去れば刹那と言えるのだが、ローレットの場合、人の出入りは止まらない。
朝食の時間、朝の仕事の確認の時間――そういった『最初の波』に引き続き、
「や、おはよう! 追加の薬を持ってきたよ!」
『帽子の中に夢が詰まってる』レンジー(p3p000130)が薬の卸にやってきた。
曰くの所「あまり依頼を受けるタイプではない」彼女だが、ローレットを支えたい気持ちは強くあるようであり、影に日向にこういった裏方の下支えがあるからこそ、この大所帯が回っているのも間違いあるまい。
(売れ筋の確認も勿論だけれど、ここに来ると情勢も分かり易いし――
今必要とされているもの。これから必要とされているもの。
どちらにも目を配るのが商売というものだからね!)
旅人(ウォーカー)の見た目程あてにならないものはなく、このレンジ―の場合も案外強かな所はある。「寒いし、たまに外に出た時位は情報をしっかり仕入れたい」と思うのは効率的なものぐさの論理であろう。
「お茶をどうぞです」
そこへユリーカが二人にカップを持ってきた。
「や、悪いね」
「仕事の邪魔しちゃったかな?」
「今朝も大変だったのです。レオンは眠たがって働かないし」
軽く礼をしたレニーとレンジーにユリーカは「いえいえ」と首を振る。
成る程、このユリーカも朝一の殺人的な忙しさが幾らか軽減されたからか、人心地ついているように見える。朝の忙しなさの後にやって来るのは束の間の長閑だ。確かにこんな時間は一休みに丁度良い。
しかし、まぁ。そういうのが長くもたないからローレットと言えばローレットなのである――
「はいっ! ごきげんようございますっ! じゅてーむっ!」
やたらに力強い言葉と共に唐突にバン、と。力一杯開け放たれるはギルドの扉。
長閑すら吹き飛ばす勇気とパワーにざわついた室内がそちらに視線をやれば、そこに君臨しているのは言わずと知れた『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)の立ち姿。
「振り向く皆さんっ! 何事かと見てみたらそれは素敵な未来人っ!
良かったですね? 嬉しいですね! 朝から素敵なものを見たら、今日のラッキーカラーは大吉です!」
何が何だか分からない、胡乱な彼女は朝だろうと真夜中だろうと実は大して変わらない。
「スルーしないでくださいっ! 聞いて下さい!!!」
一瞬ざわついた室内が「ああ、ヨハナか」で納得し、平常に戻るさまに彼女は軽く抗議している。
「今度の今度の今度こそ、本当に本当の混沌の危機なんですっ! メイビーッ!
イヤ、確かに前回の『イワシが空から降ってくる』というお話は間違いでしたし、『空中神殿が巨大ロボットに変形する』という話も間違いでしたっ!
ですが今度の話は本当ですっ! ヨハナのギフトにビビビッと来たんですっ!
いいですか皆さん心して聞いてください……なんと本日未明、イルカが下水道から攻めてくるんですっ!」
ローレットは騒がしい。
意味があってもなくても大体得てしてこんなもんだ。
成否
成功
第1章 第4節
●朝と昼の幕間II
「おはよう、ユリーカ嬢」
カウンターでくつろぐユリーカに『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)がそう声をかけたのは『そろそろそうお早くない時間』になってからの事だった。
「ふわあ」と眠たげな欠伸をした彼に抗議をしたのは他ならぬ彼が腕に抱くぬいぐるみであった。
「……うん、わかってるよ、オフィーリア。
昨日、手芸屋さんで買い物をしすぎたのも、君のドレスを作るのに徹夜したのも反省してるってば……
だからこうやって、朝早くから依頼を探しに……」
「あんまりお早くないのでした」
ギフト(ないしょばなし)によって通ずる彼と『オフィーリア』のやり取りは余人に伝わるものではないのだが、手をひらひらと振ったユリーカはそれに構わず再びの追及を辞めはしない。
「なによ、こんなのまだ早朝じゃない……
昼前とか人間が活動する時間じゃないわよ、日光で灰になっても知らないわよ……」
「ひととしてだらくしているのです。つるのです」
そこへテーブルに突っ伏したままの『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)が混ぜっ返せばいよいよ愉快な脱線は止まらない。
「………あ、ごめんね、ユリーカ嬢。可愛い女の子をほったらかしにして!
それで、そう、何か良さげな依頼ってないかな?
可愛かったり楽しかったりするのがあったら嬉しいけど、多少骨が折れるものでも大丈夫。
誰かを守れるようになるには、頑張るしかないからね!」
だが賢明なるイーハトーヴの『緊急回避』は奏功する。
「うん、俺もここに来たばっかりだから、早く皆さんの役に立てるように人一倍努力しなくっちゃね。
えぇっと、じゃあ朝ご飯を食べたら早速依頼に行ってみたんだけど……
俺みたいな初心者にもできる依頼はないかなー……
こう見えても医者志望だし、医療系の依頼があったらいいんだけど……
……うーん、どんな依頼がいいかな? ユリーカさんはどう思う?」
「ごきげんよう。ユリーカさん、今日は仕事があるかい? できれば日帰りでできるのがいい」
依頼を探しに来た夜の涙』築柴 雨月(p3p008143)や『疾風怒濤のバーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が丁度良かった。
おもむろに「かわいいのです。ボクに任せるのです」と頷いたユリーカは鳥頭らしく前の話題を忘れたのか。
ウキウキのワクワクに資料を漁り出した。
「えっちっち……は置いといて。
……あ、モカさんに異様にぴったりな依頼が!」
「へえ、どんなのだい?」
「王都のバーのバーテン兼用心棒……凄く治安は悪そうなのですが」
「成る程、それはいい感じだね」
自ら『Stella Bianca』を経営している彼女の衣装はそもそもがバーテン風だ。
将来は醸造所さえ持ちたいと思っている位なのだから、酒にも当然一家言ある。
朝の忙殺をこなしたこの時間のローレットは段々と人も減ってくる。とはいえ……
「よう、……って何だって顔をしてるな?
朝からヨタカ坊ちゃんの姿が見当たらねぇ。
部屋はもぬけの殻の上に五線譜の書かれた羊皮紙が散乱していた。まるで事件が起こった惨劇のような部屋だ。
……となりゃ、ま、どうせまた作曲に行き詰ってローレットに朝飯でも食いに来たんだろうってな?」
『名無しの男』Ring・a・Bell(p3p004269) がふらりと顔を出したりとか、
「メイなのですよ! 今、ユリーカさんの後ろにいるのですよ!」
「うわあ!?」
――メイなのですよ!
今、起きたところなのですよ!
から始まって都市伝説の如くユリーカの背後を脅かした『シティーガール!』メイ=ルゥ(p3p007582)とか、
「ほへ、もごーごも。もごもごんぐっぐんぐ。(して、ユリーカちゃん。私は帰ってきたのです)
んぐんぐほごほごご。ほへー、んむごんぐぐごんうほうほももも。(依頼の達成報告なのです。いやー私の溢れ出る美少女パゥワーが無ければ失敗だったねこれ)」
「ぜんぜんわからないのです!」
テーブルの上の誰かの朝ごはんをかっぱらって『これから行く』ではなく『帰ってきた』報告をする『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)とか、
「ユリーカさんユリーカさん。
内緒でちょっと相談したいことがあるっすよ……」
「重大ですか!」
「重大っすよ。いい下着屋さんとか知らないっすかね?
最近、その、ちょっと……胸の辺りが苦しくて!」
「むきゃあ!」
短いやり取りで簡単に漫才を成立させている(頬を染めた)『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)だとか、
「初めまして、ね。マスター。ねえ、蜂蜜の入ったコーヒーはある?
すごく甘くて、少しだけ苦味のあるやつ。今日を頑張ろうって思えるようなコーヒー、お願いね……♪」
「じゃ、俺が自ら淹れちゃおう。女の子には『甘い』方でね!」
「あ! それならやっぱり、何か食べるものもお願い! みんなの見てたらお腹すいちゃって……♪」
新顔の女の子と見るや否や『Merrow』メル=オ=メロウ(p3p008181)に対しても、やっぱり些か過剰な位に面倒を見に行くレオンだとか。
「……にがっ。地上人は毎朝このようなモノを……」
そんな彼は『甘くない』コーヒーに思わず舌を出して眉を顰めた『宇宙人調査員』驚堂院・エアル(p3p004898)を眺めてくすくすと笑っている。
説明要らず見ての通り――おはようからおやすみまで誰かしらがひっきりなしに顔を出し、時間を潰しているのがこの超大型ギルドである事は言うまでも無い。おかげで書いたタイミングで生きてたプレイング全件クリアとかやり始めたら大変な事になっちゃったよ!
「……そう言えば、ちょっと思ったんですけど」
「どうしたです?」
仕事をしたり興奮したりツッコミに回ったり忙しいユリーカに声を掛けたのはカウンターの中で依頼書の模写を手伝う『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)だ。ここは一応仕事の方で、持ち前のギフト(文字録生成)はコピー機等無い――と言うと正確には語弊があるのだが――この混沌においては特段の技能である。リンディスが受けた大量の模写は謂わば『ローレットからの依頼』と言えよう。
それはさておき。
「……この世界、だいぶ厚みが薄い絵メインの本が多く出回ってますよね?
万人向けから……ええと、その――なやつまで。これってこの世界のもともと持っていた文化なんですか?」
「どうでしょう? 何だか最近爆発的に増えた気はするのですが……」
ユリーカは「例えばコレットさんのオンリーイベが起きたりとか」と、アトリエで生じ――天義辺りをざわっとさせたアレでソレな一大イヴェントに言及する。
全く以て混沌がそうであるのと同じように。
旅人という総ゆる可能性を掬う場所である事を証明するかのように。
ローレットは時に応じて様々な顔を見せる。これは終わりかけの朝のそれで。
もう少ししたらこの場所はまた賑やかな昼の装いに変わるのだろう――
「――ユ、ユリーカ君!ひどいじゃないか!?」
――その、前に。
一際通って響いたその声に視線をやれば、そこには涙目をぐるぐるした『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685) の姿がある。マリアは手にユリーカお手製の羊皮紙――依頼書を握りしめており……
「えっちっちとか、えっちっちとか!」
その口振りと併せれば彼女の調査が何処に行きついたかなんて語るまでも無かっただろう。
ビリビリキュートなライトニングガールはかくてローレットの洗礼を浴び、
「何とか言ってやってくれ。ギルドマスターも!」
「いや、俺も見たいし。いっかなって……」
「何でそうなるんだ!?」
もう一つ余計に愉快な顔をさせられる事になった。
成否
成功
第1章 第5節
GMコメント
YAMIDEITEIです。
ラリーシナリオの仕様が出来たのでテスト運行してみます。
以下詳細。
●依頼達成条件
・ローレットの一日が終了する
●何をするシナリオなの?
ギルド・ローレットの一日定点観測です。
ここを訪れる人々の日常や会話、様子等を描写します。
参加する場合はローレットを訪れて下さい。
●第一章のシチュエーション
朝です。(時間は7~11時頃を想定)
レオンは眠そうにしており、ユリーカはキビキビ働いてい(るように見え)ます。
朝食をとるもの、朝の日課を済ませるもの、仕事を確認しにきたもの等。
想定されるギルドの風景は必ずそこにあるでしょう。
というか、貴方もそれを形作る一員です。
●この時間に遭遇できるNPC
・レオン
・ユリーカ
・ショウ
・プルー
・アルテナ
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
厳しい依頼の隙間、一時のコーヒーブレイクをどうぞ!
尚、そんなに超高速で進展するとは限りませんので悪しからずご了承下さい。
以上、宜しくお願いいたします。
●ラリーシナリオ
※報酬について
ラリーシナリオの報酬は『1回の採用』に対して『難易度相当のGOLD1/3、及び経験値1/3の』が付与されます。
名声は『1度でも採用される度』に等量ずつ付与されます。パンドラはラリー完結時に付与されます。
※プレイングの投稿ルール
・投稿したプレイングはGMが確認するまでは何度でも書き直しができます。
・一度プレイングがGMに確認されると、リプレイになるまで再度の投稿はできません。リプレイ公開後に再度投稿できるようになります。
・各章での採用回数上限はありません。
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