シナリオ詳細
ローレット・コーヒーブレイク
完了
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オープニング
●幕間(コーヒーブレイク)
レガト・イルシオン、首都メフ・メフィート。
少し前まで近隣諸国や民草からも悪徳の都やら荒廃の象徴やら不名誉な呼び名を沢山頂いていたその街はこの程幾分か活気を取り戻しつつあるように見えた。
大通りを行き交う人の流れも、並ぶ露天商の数も随分増えた。響く商人の声も、そこを行く人々の足取りは以前よりもずっと軽やかだ。
「最近どうだい」
「前と一緒かな」
「そりゃすごい」
「全くだ」
「現状維持出来るなんてな、信じられん」
「毎年――どころか毎月酷くなってたからなぁ」
……実際の所、かの迷君・フォルデルマン三世陛下の治世を戴くこの国の現状は劇的に何か良くなった訳ではないのだが、『状況が下げ止まった』と感じられるのは大いなる希望と考えられたのである。
そしてそのちょっとした『改善傾向』は専らある組織が活動を活発化させた時期と重なっていると考えられている。
「……ローレットだよな」
「ああ、間違いない」
「特異運命座標にだけは足向けて眠れんわ。
まぁ、善人ばかりじゃないのは分かってるけど、それでも……」
「全くだ。『嘘吐きサーカス』も『蠍事件』も。
聞いたか、陛下はこの間、蠍の被害が回復してない村の支援を命じられたらしいぞ」
「嘘だろ。シャルロッテ様泣いてるんじゃないか?」
「あと『暗殺令嬢』が誕生日の後、物騒な計画を沙汰止みにしたって聞いた」
「俺は『黄金双竜』様が新規に治水事業を始めたらしい。
まぁ、あの方は元々政治には真っ当だが、人夫への支払いが五割増しだったのだと」
「あの吝嗇家が。ガブリエル様は――」
「――変わらない。いつも最高だ。あの方は領民にお優しい」
民草絶賛のバルツァーレク伯はともかくとして、すこぶる人気のない御三方までもがこの所随分と政治の真似事の努力を始めたり、丸くなったと市中の評判だ。
そしてそれは彼等が言った通り、『始まりの日』より動き出した時計の針が――特異運命座標という可能性の塊がもたらした確かな『変化』と言えるのだろう。
問題は山積している。古豪レガト・イルシオンがかつてのように復権するにはまだまだ時間が掛かるだろう。しかし、春を待つ二月(きょう)の気候のように。厳しい寒さの中にほんの微かに春を匂わせる今日の風のように、それを待つ人々の胸には以前とは違う確かな希望が芽生えていた。
「俺、後でローレットに差し入れしてくるわ」
「俺も。果物と、あとパンなら用意出来る」
特異運命座標は滅びの神託を回避する為の救世主。
しかし、彼等の価値は漠然とした未来だけに非ず。
今ここに生きる人々にとっても明かりであり、救いとなっているに違いない。
●ギルド・ローレットの長い一日
朝から晩まで。
実に数百、数千の特異運命座標の寄り合いとなった超巨大ギルドは騒がしい。
人の出入りはひっきりなしで。
例えば新しい依頼を探しに来たり。
例えば仕事の打ち合わせをしていたり。
例えば食事や酒を楽しみにきていたり。
例えばそこに居る誰かとの歓談を期待していたり。
勿論、依頼人がやって来る事も非常に多い――
千差万別の目的をもったイレギュラーズは突然始まった救世主ライフを思い思いに過ごしていると言える。尤も純種達はともかく、旅人に関しては押し付けられた感が否めないのが確かなのだが――
からん、からんと入り口のドアで音が鳴る。
「やあ、いらっしゃい」
相変わらず気安いが、朝が得意ではないのか何時もより冴えない顔で眠たげな『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ (p3n000002)が貴方に声をかけた。
「よふかしするからなのです。おろかなのです」
不良ギルドマスターが客席でくつろいでいるのと対照的に、さもしっかりしていますと澄ました顔をする『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はカウンターの中で何かの資料をせっせと纏めている最中だった。情報屋らしい事をする彼女の資料がかなりの確率で間違っているのはご愛嬌だ。
「今日の御用は? 御用があったらローレットが承るぜ。
御用がなくても、暇位は潰していきなよ」
やたら上手にウィンクするレオンは相変わらず。
そんなやり取りの間にも次々と新たな人が訪れて――ああ、本当にここは賑やかだ。
- ローレット・コーヒーブレイク完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年04月21日 22時08分
- 章数3章
- 総採用数111人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
●幻想集結!?
偶然というものは恐ろしいもので。
「皆さんのお顔を見に参りましたの!」
「……個人的に、ちょっと特別なお願い事がありまして」
「貴様等にはわし自ら足を運ぶ依頼という至上の栄誉をくれてやろうかと思ってな」
青天の霹靂とは予告なく起きるもので。
「……」
「……………」
「……………………」
大凡良い関係とは言えない幻想の三大巨頭――『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート、『遊楽伯』ガブリエル・ロウ・バルツァーレク、そして『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディのお三方がその時間に、昼も近く再び人の増え出したローレットに揃ってしまったのは、まさに運命の配剤、気まぐれな悪戯と呼ぶ他は無い状況だった。
「……あーら、どうも辛気臭い匂いがすると思いましたら。
珍しいですわねえ。椅子でふんぞり返るのがご趣味の方とこんな場所で会うだなんて!」
「ふん。口だけは達者な小娘らしい言いようだな?
わしの執務は常に完璧だ。武力担当と言いながらザーバ・ザンザに完敗した女の言ではないな」
「……」
「……………」
「あー、やめましょうね! ここはローレットですからね!
お二方の! お気に入りの! 皆さんが! 居ますからね!!!」
蛇とマングースのように一瞬即発を感じさせる両巨頭を宥めるように些か白々しいガブリエルの声が響く。彼の苦労は推して知るべし、涙なしには語れない。
ガブリエルはこの国の調整弁であり、良心であり……
「あの、すいません」
「たのもう!!! ハッハッハ! 私が来たぞ!!!」
……唯でさえ混沌としているこの場に、至極申し訳なさそうな『花の騎士』シャルロッテと我等が『放蕩王』フォルデルマン三世陛下が突然に参戦したならば、もう何ていうか涙なしには語れない。
語れてたまるか――
※ローレットに『昼』訪れるシチュエーションです。
昼の時間では以下のNPCに遭遇できます。
・レオン
・ユリーカ
・リーゼロッテ
・ガブリエル
・レイガルテ
・シャルロッテ
・フォルデルマン三世
ゆるゆる見た時処理するので流れた場合は必要なら再送ください。
全件採用するかどうかは状況に寄ります。悪しからずご了承くださいませ。
第2章 第2節
●竜虎、相討ったりしないといいなぁ!
空は晴天。真上にはお天道様――
そしてローレットの天板には黒翼の少女が一人腰掛けていた。
その両手には天むす、その頬には天かすが――そう今まさに天下の大昼食時代。
なればこそ、天使の如き佇まいにして、その食欲は天井知らず。
「――――(もぐもぐ)」
『暴食天使』ナハトラーベ(p3p001615)は恐らく誰よりも早くこれよりローレットに訪れるちょっとしたイベントに気付いていたが、全く頓着しなかった。
何事も無くとも色々と騒がしい昼時のローレット。
だが、何事も無くとも騒がしいという事は、何事か起きれば尚更それが加速するというのは、余り想像力を働かせなくても簡単に行き着く事の出来る当然の結論と言えるだろう。
(うわあああああああああああああああああああああああああ!
おっおぜっ、おぜうさm、生おぜうさまだ!!!
パンドラ燃やして依頼頑張った甲斐あった!!! 生き返る!!! 半分しかないけど!
同じ空気吸ってる!!! きょうのかおりGOOOOOOD!
いい……とてもいい……ふふふ、プロだから動じないのよ、私。プロだから。
スゥー! ハァー! プロだから御姿みれるだけでもうね、もうやばい。やばみがやばい。
なんかこう、すごい。すごいから、うん。あぁいい……
はぁ……やっぱりおぜうさまのおスカートのなかの空気になりたい!!!)
その本人に悟られればギルティリバーに流されるなり、ツリーに吊られるなり、アーベントロートドライバーで地面に突き刺さるなり。多種多様な処刑の方法が見れそうな、その内心はさて置いて。
「貴族の皆々様方、ごきげんよう。
勢ぞろいのようですが……何か楽しいことがありました?」
アウトプット『だけ』は真っ当に。
『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の視線の先には『貴族の皆々様』ことリーゼロッテ・アーベントロート、レイガルテ・フォン・フィッツバルディ、ガブリエル・ロウ・バルツァーレク、極めつけは国王たるフォルデルマン三世と頭痛を堪える苦労人・近衛騎士シャルロッテの姿もあった。
(い、意味が分かりません。
何故……幻想貴族様の三大巨頭の方々がいらっしゃるのでしょうか?
変哲のないお昼に、王宮でも滅多に顔を揃えないと言われる方々が……
兎に角……フィッツバルディ様もそうですけど、アーベントロート様を怒らせない様にしないと……
前に仕えていた貴族様がアーベントロート派の方でしたし……)
何時もの通り仕事をしようと思ったらこの光景。
否が応無く戦々恐々とする『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)に対して、しかし周囲の反応は余り『そんな風』では無かった。
彼女曰くの「この状況でも平然?としている皆様方が怖いです!」である。
「フォルデルマン陛下、シャルロッテ様! ようこそお越しくださいました!」
全くもって対照的にその曇りなき青い瞳をキラッキラに輝かせて全身全霊で歓迎のオーラを放つのは『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)だ。
(国王陛下という重責にありながらも、そんな苦労を僅か見せる事も無く。
いつも優しくフレンドリーに国民や俺達を見守って下さる陛下と、そんな陛下の剣となり、盾となりその守護を完璧にこなす、憧れの花の騎士様のご訪問だ。
決して粗相のないよう……少しでも良いお時間を過ごして頂かねば!!!)
……リゲルの人物評を聞く人が聞くと何とも非常に微妙な顔をしそうなのは間違いない。
とはいえ、リゲルの場合何時もの事だ。彼は大体人を悪く言ったり疑ったりしない性善説の人物だし、何より。身も蓋もなく言ってしまうと非常に騎士らしい価値観の持ち主だから取り分けロイヤルにすっごく甘い。
「良かったな、レオン。眠気も吹っ飛ぶ嵐が来たぞ。
しかしまぁ。偶然とはいえ、よくもここまで揃ったものだ。絵面の圧が強すぎる」
カウンターでコーヒーを啜りながらくくっと意地悪く笑った『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)にレオンは「大分前から目は覚めてるんでね」と小さく肩を竦める。
「覚めてるから口説いてるんじゃねぇか。さっきから一生懸命。デートしよ」
「……御主な、まず口説かんという選択肢は無いのか」
「無ぇな」と仰る駄目な大人に苦笑して汰磨羈はユリーカをちらりと見た。
「大丈夫か、ユリーカ。息してるか?
何なら、ここは良く効く"気付け"のツボでも押してやろうか?」
騒がしく生意気だが『ビビリ』のユリーカは圧の強い敵キャラに怯えがちな所がある。
しかし汰磨羈の心配(?)とは裏腹に今日のユリーカはけろりとしたものだった。
「あのひとたち、結構面白なので怖くはないのです」
……聞き咎められれば、ああ、舌禍。
(おっと、これほどの大物ゲストが一同に会するとなれば、ちょっとしたイベントですね。
ここは、少々仕切りますか――)
正確に何と表現するべきか悩ましいが持ち前の『幹事癖』が疼くと言うか。
「ようこそおいでくださいました、リーゼロッテ様。あちらにお席と、粗茶ですが紅茶をご用意してございます。皆で囲めるよう、丸テーブルをご用意しました」
恐ろしい反射と手際の良さで『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が水を向けた。
好悪半ば、愛憎半々、色々な意味で縁浅からぬ寛治にリーゼロッテが微笑めば、
「これは! お嬢様! ご機嫌麗しゅう!
こうして偶然お会いできるとは嬉しい限りです!」
使い魔よりお嬢様来訪の報を受け、取るものも取らず、色々全てを放り投げてローレットに急行してきた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)がそれを遮るように声を上げた。
「あらあら」
「ふむふむ」
「そ、その、何でしょうか。お二人とも非常に似た反応をするのは……」
普段ハブとマングースみたいな関係の割にこう必要ない所ばかりで息を合わせるリーゼロッテと寛治にレジーナは些か鼻白む。
だって、しょうがないじゃない。
例え虐待されてても羨ましいんだもの。やきもちだってやいちゃうもの。
「馬鹿な子」
「……!?」
やや息が上がって紅潮したレジーナの顎をリーゼロッテの白い指先が持ち上げた。
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿がこの妾が戻ったのじゃー。
む、リーゼロッテがおるのじゃ。こんにちはなのじゃー」
「うふふ、御機嫌よう。でも、デイジーさん少しお疲れみたいですわね?」
……一瞬の怪しさは何処へやらデイジーの方に視線をやったリーゼロッテにレジーナは涙目になっている。
「うむ。妾はお疲れなのじゃ。
ユリーカよ、朝に受けたネズミ退治の依頼はこの妾がバッチリ解決してきたのじゃ。
しかし、あの老人の家の地下によもやあのような大迷宮が広がっているとはの。
ネズミを追いかけた先で迷宮の一室を隠れ家にする秘密教団と正面対決、その後教団が秘かに復活を目論んでおった大邪神との決戦、生贄の少女との逃走劇とよもやこのような……」
何だか聞けば聞くほどに与太にしか思えない『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)の冒険譚にリーゼロッテがコロコロと笑う。
「リーゼロッテ!
依頼って言えば……今日もセララ先生のイレギュラーズリプレイ・マンガを色々取りそろえてるよ。
どれもボクが実際に戦闘に立ち会ったヤツだから迫力満点! めっちゃ面白いよ!
最新の絶望の青シリーズとかどう? 読んだら感想教えてね!」
「ああ、そう言えば……最近は皆様は海洋でしたっけね」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)から受け取った彼女のギフトの産物を興味深そうにペラペラとめくりながらリーゼロッテが呟いた。
「そうそう! 漫画を読んだら一緒に依頼に行きたくなったりしない?
今度、ボクと一緒に依頼へ行こうよ。とっても楽しいから!
ねえいいでしょ? 行こう行こう! 他の皆も喜ぶよ!」
「それはまぁ、おいおい?」と何とも言えない調子でかわしたリーゼロッテの忌憚ない本音は恐らく「潮風は髪や肌が荒れるからやだ」とか「穴蔵は埃っぽいからやだ」とか「下民や怪物風情の血を浴びるのなんてやだ」とかそんな程度のものである。
「おっと……久しぶりだなお嬢様。相変わらず可憐な事で。
たまにはデートに誘ってくれてもいいんだぜ?」
「のんびりお茶なんか良いかも知れませんわね、皆さんと一緒に」
『ディザスター』天之空・ミーナ(p3p005003)に応じ、リーゼロッテはにっこり笑う。
(下心っつか、洒落抜きで一度、付き合って欲しいっつか。
戦い方を参考にしたいっつか……まぁ、頷かせるのも多分一筋縄ではいかないよなぁ)
極上の美貌というのはたゆまぬ研鑽(たいだ)で作られるものらしい。
『きっと彼女はティーカップより重いもの等持つ気はないのだろう』。
イレギュラーズは基本的に大概だが、『求婚実績(レイガルテ)』夢見 ルル家(p3p000016)の前では大抵の存在が霞んで消えよう。
「リズちゃん! 珍しいですね!
どうしましたか! あっ、拙者に会いに来たんですか!?
どっちでもいいです! あえて嬉しいですよ!」
そんな風に言ったかと思えば即座にくるりと振り向いて。
「レイガルテ殿! 貴方の未来の花嫁、夢見ルル家ですよ!
公明正大、家内安全、焼肉定食、忍者死すべし! 夢見ルル家を宜しくお願いします!
今日もご機嫌うるわしゅう!
……あれ? もしかしてリズちゃん怒ってます?」
「いえ、怒っているというか……」
「大丈夫! 拙者がルル家・フィッツバルディになったら……
そう、フィッツバルディ派とも仲良しになれますよ! これはお得!」
それに拙者の一番はリズちゃんですから安心して下さい!」
「……そのお言葉嬉しくない訳ではないのですけれど。その、何と言っていいか」
滅茶苦茶難しい顔をしたリーゼロッテは彼女には珍しく友人の酷い有様に言葉を濁した。
筆者が彼女の難しい気持ちを代弁するならば『ドン引いている』が適切か。
「……ふん。たまに顔を出してみればやはり姦しいばかりだな」
「ご尤もです。御身の長居する場所ではないかと……」
何だかんだで――というより世間一般の評価とは百八十度異なり――人気者のリーゼロッテに彼女と非常な不仲で知られているレイガルテが小さく鼻を鳴らした。ご機嫌を取るように即座に近衛のザーズウォルカ・バルトルトが同調するも、『口ではあれこれと言いながらも、特異運命座標の動向は気になる』レイガルテはそれを聞かなかったふりをする。
そんな彼の気分を幾分か回復したのは――
「あれ、フィッツバルディ公がローレットにいるなんて珍しいね」
ーー丁度今、顔を出した 『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)だった。意外な顔をしてレイガルテを見た彼にレイガルテは「うむ。光栄に思え」と全く以て下手としか言いようのないコミュニケーションを見せていた。
「あはは。相変わらずだなぁ」
……実際の所、珍しいのは彼だけではなくこのお歴々はローレットに依頼をする際も赴くよりは呼びつけるーーつまり、正真正銘大貴族たるムーヴを崩さない人々であるからして、誰もそれなりに珍しいとは言えるのだが。成る程、彼の言う通り、その中でも取り分け『市井の酒場に赴く等という行為が最も似合わない』のがかの黄金双竜である事に疑う余地は無かろう。
「依頼も夜のお相手も任せてね! 頑張るよ!
果ての迷宮も僕が向かえたら力になれるんだけどなかなか依頼が回って来なくてね……
僕はいつでもフィッツバルディ公の味方です、応援してるよ!」
言葉の中盤の不穏さはさて置いて――帝王たるレイガルテは己の理解しない細かい事を気にしない――結びの一言は十分に意味がある。
そしてリーゼロッテには及ばぬものの、
(はわ……生で見ちゃった……蚊帳の外だからはわはわしてられる雰囲気ですね。
でも、はわ……公のきゅっ! てなった眉毛……ヒュ……)
ムスティスラーフや『フィッツバルディガチ勢』古田 咲(p3p007154)等、お嬢様と同じく世間で蛇蝎のように嫌われがちなレイガルテについても好感する人物は少なくない。
「どうした娘。顔色を幾度も変えてーーわしに対して思う所でもあるのか?」
「いえ、とんでもない!!!
まずはおコーヒーをお出ししようと! これ、粗茶ですがッ!」
「ほう、貴様はわしに『粗茶』を出すのか?」
「……んがっ……」
顔を途端に白黒する咲を睥睨し、一瞬後にレイガルテはくくっと小さく笑った。
「冗談だ。貴様がわしに忠実なのは理解しておる」
「――――
咲のその先の愉快な反応は置いといて。
「……なんというか、もの凄い状況に出くわしてしまったというか」
「ご迷惑をおかけしております」
「あ、いえ! とんでもない!」
しみじみ呟いた『黒狐はただ住まう』生方・創(p3p000068)にガブリエルが頭を下げれば、彼としては恐縮しきりに頭を掻いた。何せ幻想に工房を構え、商売する事もある創にとっては多くの幻想商人、国民と同じく『遊楽伯』はまさに敬愛する閣下である。
「あ、ガブリエル様ー。いつもお疲れ様です、はい。
お二方は……その、いつもあんな感じなので?」
「そうそう。今日は何かあったの? 戦争でも起きそうなフンイキだけれどさ!
バトルになったらどうしようかなぁ?
リーゼロッテのことはトモダチだと思ってるけれど挑戦したい気持ちもあるんだよね!」
折角声をかけられたのだから、と創は、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は彼に問う。
そんな二人にガブリエルは淡く笑う。
「何時ものざっと十倍はマシですよ。お二人共皆さんがお気に入りですからね。
ですから、イグナートさんの仰るような事にはなりませんよ。
アーベントロート嬢とザーズウォルカ殿の対決は気にはなりますけどね。
何よりここには陛下もいらっしゃいますし――」
「ははあ……」
「なんだかザンネンかも!」
余人には中々分からない所があるが、幻想の政争を砂かぶり席で強制観覧させられているガブリエルが言うのならば一つの間違いもないだろう。
「気分転換といっては失礼かも知れませんが……
閣下、これ自分の工房の新作の草案なんですけれど、なんかこう。
閣下好みにデザインに手を加えるとしたら、どこをいじるといいと思いますか?」
「そうですねぇ……」
柳眉を寄せたガブリエルが図面を片手に真剣に考え出す。
やはりこの大貴族、非常に人が良い。
一方でお馴染みの三巨頭のやり取りも余り見慣れぬ者も居る。
「えらく賑やかになったね。えっちっち依頼のクレームどころじゃない……」
「~~~♪」←口笛をふくユリーカ
最近ローレットにやってきた『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)にとって、イレギュラーズ達に蝶よ花よと囲まれる凄味の美少女は見慣れぬが気になる存在だった。
「あの目つきの悪い御仁と仲が悪そうな女性は何者だい? すごく危険な感じがする……
あ、ユリーカ君は答えなくていいよ。適当な事しか言わないから!」
「き、嫌われてしまったのです;;」
「……」
「……………」
「……き、きらってはいないぞ」
(ちょろい……これはスリー)
咳払いしたマリアはレオンに続けた。
「なんだか故郷の友人に似ているんだよね……タイプは全く違うはずなんだけど」
「あ、私も――果ての迷宮は少しだけ興味があるの。
けれどほら……誰かの名代として参加した方がいいと聞くものだから。
私はラサにいるから彼らがどんな方々なのかちゃんとわかってないと思うし……
情報屋のユリーカさんやローレットのレオンさんなら詳しいのかなって思って……!」
マリアの疑問に『熱砂への憧憬』Erstine・Winstein(p3p007325)も乗っかった。
「アレは『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート。
この国で三番目に偉くて二番目に力のある女。名前の通り本職は暗殺。
所謂汚れ仕事を請け負う秘密部隊の長ってヤツだ。
見た目はあの通りだが、この国で一、二を争う位に嫌われてる。
蓼食う虫も何とかなのか、ここじゃご覧の有様だけどね。
ちなみに『暗殺令嬢』と『黄金双竜』はとんでもなく仲が悪い。
そりもあわないし、互いが互いに都合が悪い。所謂権力闘争みたいなもんだ」
「成る程」
「お代はデートね」
「……しまった。レオン君もこんなのだった!」
「エルスティーネはディルクの名代でいいんじゃねの?」
「な、何故ここであの方が!?」
「いいのです」
「ユリーカさん!?」
弱過ぎるが知ってた事だ。
「レオンって何歳かな。ローレット何年くらいやってるんだろう?」
そんなやり取りの一方で、お昼を食べていた『屋台の軽業師』ハルア・フィーン(p3p007983)が、ちょいちょいとユリーカを呼び寄せた。
「確か三十八だってゆってたです。ローレットは二十年ちょっとのはずですよ!」
情報屋の癖にやたらに胡乱な回答をするのはユリーカがユリーカである所以か。
(レオンが好きな女の人を一人に決めないって噂は本当かな?)
聞くのも悪いので言葉には出さないけれど、確かに見ている限り彼は『酷くそう』に違いない。
「何、内緒話? おにーさんも混ぜてよ」
マリアやエルスティーネをからかいながら(抗議を聞き流しながら)、半身振り返ったレオンがハルアにやたらに器用なウィンクを投げてきた。
「ローレット束ねるの凄いね、いつもお疲れ様、ありがとうって」
「慰労してくれたりする?」
「例えば……?」
「デートしよ」
ハルアは少しだけ苦笑した。
自身の先の考えをまるで読まれたように感じたからだった。
「ユリーカを悲しませたらダメだよ? ボクも泣く!」
「うわー! レオンに傷付けられたです。悲しいです!
ボクはちょっと皆の為にないないしただけなのに! 折檻されたです!」
「オマエは今から町内十周」
「鬼なのです!!!」
ローレットの日常風景そのものである。
長閑な昼下がり、来客の周りには輪が出来、お昼時の時間を華やかに彩っている。
嗚呼、何と平和な事か――
「まだお昼……あと五分、累計で三時間くらい寝かせて……」
カウンターに突っ伏したままだった『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)が、周囲の騒ぎに薄ぼんやりと目を開けて、幾らも持たずに又突っ伏した。
時報のような彼女が真っ当に覚醒するのはきっと夜になってからなのだろう。
……夜には起きるんだよな? 君は???
成否
成功
第2章 第3節
●何やかにやで……
相変わらず騒がしく平常運転のローレット。
特に珍しくもない――まぁ、ほんの僅かなイベントはあるのだが――ワンシーンを切り取っているというならば、それも当然の事である。
予期せぬ来客(きぞくたち)に多少の驚きを見せたものの、そこはそれ。
この国で恐れられる彼等にも気安いイレギュラーズ達はすっかり元の平穏を取り戻していた。
……そんな時。
「……ぜぇ、はぁっ……」
荒い呼吸を隠せずに、何とかこの場にたどり着いた者が居た。
「はぁ、ふぅ、その失礼! 公が何かのご依頼と噂を耳にしたので駆けつけてしまいました」
『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)が息も絶え絶えな『不作法』もやむを得ず駆け付けたのは当然、彼が主要なクライアントとして見込むレイガルテのテーブルだった。
「申し訳ありません。
公には平素より大変良くして頂いておりますし、これは馳せ参じなければ非礼に当たるかと。
改めて、フィッツバルディ公。このような所までご足労頂きありがとうございます」
噂は巡るものであり、シラスがそれを聞きつけたのは偶然だった。
彼は取るものも取らず、同志であるドラマの腕を引っ張り、こうして全力で駆けてきたという訳だが。ラドバウの大会でも好成績を連発し今をときめくシラスより、ドラマの方が涼しい顔をしているのは、走った距離もさる事ながら彼女の日課による所が大きいかも知れない。
「ローザミスティカの件ではそれなりに動いてますが……
ええ、何でもやりますよ、例の迷宮でも他でも、お役に立てたりしませんかね」
「考えておこう。
それからまぁ、その不格好――心がけに免じて不問としてやる」
レイガルテは馳せ参じた『フィッツバルディ派』に尊大な態度を見せたが、この二人の来訪が流石に人気比べをするには相手が悪すぎ――今も引っ張りだこでニコニコと愛想を振りまくリーゼロッテへ留飲を下げる一因となったのは明白であった。
(公からの依頼は数あれど、その中でも最大の物は果ての迷宮。
支持者数の不利は如何ともし難い状況ですが……
公の威信を広く知らしめる為、何か一計案じられない物か)
ドラマはふと考えるが、
(あ、でも公はご機嫌ですね。今日はそれで良しとしましょうか)
答えの出ない方程式は取り敢えず避けておくに限る。それが文系というものだ。偏見だけど。
そんな一方で、『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は考えた。
(権力者に取り入るまたとないチャンスだけど……
勝算も無しにうかつにリーゼロッテやレイガルテと接触するのは危いわ。
逆に機嫌を損ねたら最悪だもの。でも、あの二人を無視してガブリエルだけに擦り寄るのも、それはそれで二人の不評を買うかもしれないし、これもまた上手くない)
シラスやドラマのように『行先』がハッキリしているなら問題はない。
しかし、メリーのように決めかねたなら。
「国王陛下、お会いできて光栄だわ。
わたしはイレギュラーズのメリー・フローラ・アベルよ。よろしくね。
同席してもいいかしら?」
諸手を挙げて「おお、メリー! 君も今日から私の親友だ! この素晴らしい時間を共に過ごそうではないか」と秒で好感度の跳ね上がるフォルデルマンが正解だった。
(……あ、思った以上にとてつもなく……)
『ちょろい』の感想を流石にメリーは追い払う。
……まぁ、諸々の事情なくても、あっても。
ローレットの昼の一幕は結局有閑に過ぎていく――
成否
成功
GMコメント
YAMIDEITEIです。
ラリーシナリオの仕様が出来たのでテスト運行してみます。
以下詳細。
●依頼達成条件
・ローレットの一日が終了する
●何をするシナリオなの?
ギルド・ローレットの一日定点観測です。
ここを訪れる人々の日常や会話、様子等を描写します。
参加する場合はローレットを訪れて下さい。
●第一章のシチュエーション
朝です。(時間は7~11時頃を想定)
レオンは眠そうにしており、ユリーカはキビキビ働いてい(るように見え)ます。
朝食をとるもの、朝の日課を済ませるもの、仕事を確認しにきたもの等。
想定されるギルドの風景は必ずそこにあるでしょう。
というか、貴方もそれを形作る一員です。
●この時間に遭遇できるNPC
・レオン
・ユリーカ
・ショウ
・プルー
・アルテナ
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
厳しい依頼の隙間、一時のコーヒーブレイクをどうぞ!
尚、そんなに超高速で進展するとは限りませんので悪しからずご了承下さい。
以上、宜しくお願いいたします。
●ラリーシナリオ
※報酬について
ラリーシナリオの報酬は『1回の採用』に対して『難易度相当のGOLD1/3、及び経験値1/3の』が付与されます。
名声は『1度でも採用される度』に等量ずつ付与されます。パンドラはラリー完結時に付与されます。
※プレイングの投稿ルール
・投稿したプレイングはGMが確認するまでは何度でも書き直しができます。
・一度プレイングがGMに確認されると、リプレイになるまで再度の投稿はできません。リプレイ公開後に再度投稿できるようになります。
・各章での採用回数上限はありません。
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