シナリオ詳細
<境界世界>ホライゾン・ライブラリ
オープニング
●ワールド・ボーダー
光の粒子がぼやりと弾ける。宇宙の果てを見据えるかのようなその向こう、惑星の死が齎した世界の変革を見据えるかのようにシオンの髪をした生気のない少女――クレカは「図書館に見えた?」と表情を変える事無く云った。
果ての迷宮と呼ばれた幻想(レガド・イルシオン)の国家的大事業たる『迷宮踏破』の夢。それも10層に差し掛かれば冒険者を率いる隊長たるペリカ・ロジィーアンも特異運命座標達の活躍に彼らの実力を認められずにはいられないというもの。
この階層が終われば思い切り褒め湛えて「これからもダンジョンを攻略し続けようねい!」と鼓舞してやるぞ、と長きを生きる彼女も心に決めていたのだが。どうにも、タイミングというのは上手く廻らないようで。
10層を攻略した彼女たちの前に現れた『枝葉』は『混沌世界』の中と呼ぶには余りにも異質な場所であった。
「それじゃ、確かめるけどねい。ここは『世界の狭間』と呼べばいいんだねい。
『混沌世界に肯定された者(あたしたち)』が生きる場所とは別の――他のものが交わる空間と」
ペリカの言葉にクレカと名乗った少女は頷いた。彼女の背後に立って居た二人の少年少女――これも枝葉ではあるが名をポルックスとカストルと名乗り双子なのだという――は「そうそう」「ここは内と外が混在してる『特別な場所』なんだ」とクレカに補足を入れる。
「……迷宮を超えたら『世界から爪弾きにされた』ってことかねい」
「いいや、それは逆さ。『世界が特異運命座標の可能性でこの場所を容認した』だけに過ぎない。だから、僕は――いや、僕とポルックスは『この世界には受け入れられていない存在だ』」
ペリカはなんだか難しいねいと呟いて特異運命座標を振り返る。
要点を纏めればこうだ。
果ての迷宮。それは幻想王国に存在する前人未到のダンジョンだ。
この迷宮を攻略することこそが悲願であり国家を挙げての一大プロジェクトであった。
このプロジェクトの隊長としてペリカ・ロジィーアンが名乗りを上げ、特異運命座標を引き居て来た――というのが『果ての迷宮』のおさらいである。
その10層、ボスフロアを攻略した事によりその枝葉の様に突如踏み入れる事が出来たのがこの『境界図書館』と呼ばれる無数の本が飾られた空間だ。
ここは『混沌世界』と『別の世界』――そう、旅人たちが元居た場所の様な場所だ――が混在し合う場所なのだという。
ペリカとよく似た『クレカ』と呼ばれた異世界で生み出された少女は世界に肯定され『この世界に元からいた存在』として無辜なる世界に取り込まれた。但し、彼女はゴーレム体であり、本体はその頭に飾るコアであるために『無性別』扱いのようだが……。
クレカと共に在る『カストル』と『ポルックス』と名乗る二人の少年少女は彼女とは違う異世界よりその姿を現した存在だそうだが、此方は異世界より混沌世界へ干渉することができない図書館だけの存在であるようだ。
「だから、司書! ううん、みんなに分かりやすいように言おうかな? 『案内人』だよ」
「ああ、其方の仕事で言えば情報屋というんだろうか? 端的に言えば、僕らはこの図書館の中でだけの『情報屋』さ」
カストルとポルックスの話を聞いてクレカはゆるりと頷いた。
この図書館では本――ライブノベルと呼ぶらしい――に意識を投影し干渉することができる。
特異運命座標にとっては良き夢だが、『その本の中では事実としてあったこと』となる。
例えば、村で人を殺せばその本の中では人が死んだことになるし。
例えば、悪人を捕らえれば本の中では大罪人が囚われた事になる。
「でも、物語の中での話なんだよねい? それなら――」
「「――物語(せかい)であることには変わりない」」
ペリカに声を合わせて返した双子は只、静かにそう言った。その声音の冷たさにペリカは小さく頷くだけで。
●『境界』での過ごし方
「――で、これはどういうことかねい」
ある程度はこの場所がどういった場所かは理解していただけたであろうか?
今、図書館の中に置かれた椅子に座らされたペリカの前には無数の本が積まれている。
「セーブポイントを使えば特異運命座標(みんな)を呼べるんだよね? わたし、頭いい!」
「ああ、そうだね。僕らの事をよく知ってもらわなければならないし、こういうのは簡単なチュートリアルだと思って欲しい」
双子の調子にすっかり飲まれているのかクレカはこくこくと頷くだけだ。
「つまり?」
「「遊んで欲しい!」」
「……拒否権は?」
「「ない」」
――うん。つまりはこの場所の調査をしつつ双子(+クレカ)と交流をすればいいのだろう。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/19351/0ce16f5baef00b294afeb0163b5d1d4b.png)
- <境界世界>ホライゾン・ライブラリ完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年10月24日 23時35分
- 参加人数60/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 60 人
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参加者一覧(60人)
リプレイ
●
境界世界。
それは、果ての迷宮の中に存在した特異点であった。
紫苑の髪をしたゴーレム――秘宝種の少女クレカと『双子』の星、ポルックスとカストルは特異運命座標の来訪を歓迎した。
「へぇ。異世界どころか、旅行も禄にした事ないから何でも珍しいわ。
凄い普通の図書館って感じだけど、ここも『狭間』なんでしょ。建物の感じとかさ、違ってて面白いもんね」
シャッファは不思議そうに周囲を見回した。図書館の内部に足を踏み入れれば幻想国にある建物よりもより豪奢で、そして『豪奢すぎる事に違和感を覚える』ような空間が広がっている。
「そう。ここは世界と世界の狭間。僕たちは『世界に肯定されない』からここからは出られないんだ」
「寂しいよね! 時々でいいから会いに来てね?」
案内人である双子が求めたその言葉に頷いてシャッファは歩き出す。異世界へと誘う、境界案内人と名乗った二人を眺めてシェリーはふむ、と唇へと指先宛てた。
(……成程、私が個のみで他の世界を巡るのに対し、彼らは他を他の世界に導く。文字通り世界の境界。実に興味深いですね)
この場所自体に興味があるのだとシェリーは周囲を見回した。確かに、ここは様々な文化が混在する混沌世界をさらに煮詰めたかのような場所だ。
「ふむ。果ての迷宮には関われる機会が無かったのですが……この様な興味深い処が発見されたのですね」
ヘイゼルは本へと入ることができるだなんてと周囲を見回して呟いた。彼女は夢というモノはあまり好きではない。夢の中を覗く事なくとも、混沌にはヘイゼルが命を賭しても味わいつくせない程の無数の冒険と秘宝が眠っている筈だと認識させた。
梯子を必要とすることなくするりと空中を歩き出す。これほど不思議な建造物、どこかに面白おかしいものがあるだろうかと見下ろせば、足元では案内人たちが楽し気にころころと笑っていた。
「潜っていくうちにどんどんと違う世界みたいな景色がかわるがわる変わっていくから、何かおかしいとは思っていたんですが……まさかこんな空間が広がっているとは……。誰が、いったい何の目的でこんな……さっぱりです」
エマは周囲を見回してへにゃりと肩を竦めた。周りに或るのは別世界の鍵と呼ばれた本たちだ。世界に影響は及ぼすが、現実には及ぼさない――つまりはVRと似た経験なのだろうが……ふと、気になるのは混沌世界とは別の世界の事だ。
「これより下の階層とかもあるんでしょうか。
まぁあったとしても一人で行くつもりは毛頭ありませんが、ちょいと探ったりしてみましょうかね」
他の世界という言葉にリボンを揺らしてセララは「それなら地球はあるかな!?」と瞳を輝かせた。旅人たちは元の世界には戻れない――それに類似した世界があるであろうことは示唆されていた。
「あとね、アニメの世界とか漫画の世界みたいなのもああるんだよね。あの世界は本物だったんだー! みたいな?」
喜びながらそっと本棚の隙間に差し入れたのは『魔法騎士セララ』。誰かが手にしてくれればうれしいとちょっとした悪戯だ。
「旅人の世界には干渉出来ない、けれど……」
前に居た世界を思いだしたアリシアは、ふとぼんやりとしている藍を見つけてその体を揺さぶった。ぼんやりとして何かにぶつかってはあわや大事故である。
「すみません、探索して本読んでとぼーっとしてました」
本棚に囲まれているこうも心が躍るのだとでもいうように呟く藍に何か気になった本はありますかとアリシアは問い掛けた。
「……『神様』の感情によって天候が変わる世界のお話です、か。
『感情』に価値は有るのでしょう、か……?」
「感情の価値、ね……楽しいとか、嬉しいは有るんじゃないかしら」
その言葉に首をかしげて藍はなるほど、と小さく答えを返した。
レリアはとても興味深いと周囲を見回した。本も気になるが今日はこの図書館の探索だ。
どのような本があるだろうかと手に取れば、魔法世界の話などもたくさん存在している。其れは異界の新たな知識なのだろう。それはそれでとても面白おかしいのが参考になる。
「まぁ……まぁまぁ!! これだけ大きな図書館となりますと、どうしてもワクワクしてしまいますね!」
流石は書庫守という所か。ドラマの瞳は輝いた。普通の図書館とは違い、本を読めば異世界にトリップしてしまう事が残念だと言えば、そうしなければ普通の本の様に楽しめるという助言がポルックスより齎された。
「この境界図書館の成り立ち、でしたりそう言った資料系の本があるようでしたら、読んでみたいのですが……」
あるかな、と本棚を巡る。未知の知識があれば許す限り全てを得たいと、知的好奇心は湧き続ける。
「本の世界は、既に幾つか行ってみたけれど……こう並んでると本当に圧巻…これ一つ一つが世界、なんだ……」
ウィズィはぼんやりと呟いた。ふと、どこかから聞き覚えのある声が響いている。一応は図書館――本を読む場所なのだから『お静かに』がルールではないのだろうか。
「すごい、すごい、すごい!! こんな、異世界そのものが本になったような、ふああ……! と、とにかく見ていかなきゃ!」
――その声を辿れば「んぐぐぐぐ」と小さな背丈で一生懸命背伸びをするイーリンの姿がウィズィの視界に映り込んだ。
「……。……何やってんのイーリン……」
「あら、悪いわね。ありが……」
その言葉に、普通に返そうとして、我に返った。迷宮攻略にも携わった司書の思わぬテンションは成程、こんな面白い顔を見せてくれるのか。
「あのね、この本もそうなのだけれど。背表紙の規則性と――」
ほら、赤面の次はこんなにも楽しそうに解釈を離してくれる。その考察を聞くのだってウィズィは楽しいのだ。
「ここが境界図書館。……広いね。いったいどれだけの本(せかい)が収められているのだろう。
すごいね。とても素敵だ。星の数ほど未知がある。許されるならここに住みたいくらいだよ。
さて、自由に探検して良いんだよね。……どこへ行こうかな」
ウィリアムは周囲を見回してぶらりぶらりと気の向くままに図書館を探索する。開いただけで本の世界に入ってしまうのかもしれないという不安もあるが、一応は『案内人』達がきちんと案内しなければ本として楽しめるようだ。
あれはどんな世界で、これはどんな世界で。想像するだけでも楽しいとぶらりぶらりと散歩を続けていく。
「おー、御手洗いどこだ?」
本屋に居ればトイレに行きたくなる、というリナリナはそれが此処で発動したのだと周囲を見回した。
「おー、御手洗い! 御手洗い!」
走り回って見てみるがどうにもそれらしき場所がない。まさか、トイレもトイレの世界があるのかと驚愕するリナリナにポルックスがお手洗いお手洗いと呟きながら案内を申し出たのであった。
ノリアはふと、本を書いて納めれば世界が作れるのだろうかと机へと向かっていた。文房具を持ち込み、何かを書こうとペンを握る。
海種であるノリアが想像したのは空も、土も自由に泳げるそんな場所だ。
「土の中まで照らせる、特別なライトを片手に、地面を、深く、深く、探検しますの
鉱脈を守る、化石のモンスターと戦って、宝石や、貴重な金属を見つけたりできますの……」
想像の翼を広げて。その言葉を聞いていたクレカはぱちりと瞬いた。
「たのしそう」
「ほんとうですの?」
ぱあ、と笑みを浮かべたノリア。クレカにとっては『そういう世界の作り方』が新鮮だったのだろう。世界とはそうやって気付いた頃に産み出される。勿論、異世界として存在するためには何らかの要素が必要なのだろうが――一冊の本として大切に大切に保管しようと双子はノリアへと提案した。
エストレーリャとソアは一緒に図書館の探検だ。いっぱいの階段と通路に書架、何を眺めても飽きないとエストレーリャは楽し気に目を細める。
「ねえ、ボクはどーこだ? 見つけてみて!」
曲がり角、ソアのちょっとした悪戯に、そのまま図書館の奥へ奥へと早足でソアは逃げた。追い掛けるエストレーリャは「ソアは、かくれんぼ?」と首を傾げ、ちらりと見えた尻尾を追おうとして、何かに捕まえる。
「ひゃっ……! って、ソアだ!」
「ふふー、おどろいたっ? おどろいたっ?」
にんまりと笑ったソアが見下ろせばエストレーリャにも耳と尻尾が存在している。
不思議そうにもふもふとされるそれにエストレーリャはくすくすと笑ったソアへと捕まえたと手を伸ばした。
「うん。びっくりしたよ。でも、ソア、みーつけた!」
●
「ホライゾン・ライブラリ……興味深いね」
ヨゾラは周囲を見回した。以前、果ての迷宮の踏破済の階層観光の際には彼のギフトは『興味深いもの』がある所示していた。それがこの図書館だったのか――それとも、とマッピングしながら調査と探索を続けていく。
「普通の図書館なら本の種類や内容ごとに書架が違うけど……境界図書館にもそういったジャンル分けはあるのかな」
どうやら、一応はジャンルで準備されている様だ。どうにも、書架以外のものは見つからず、書架だらけの場所の様にも思える。ポルックスたちの私室と言ったものも見当たらない。
「…そうだ、僕のギフトを試してみよう。
前、踏破済み階層で使った時は予想通り『下』を示したけど。ここではどうなんだろう……?」
そうして、試してみれば――やはり『下』を指す。そうか、ここは狭間。迷宮はまだまだ続くのだ。未知は未だ、広がっているというのだろうか。
ジルはラルフと共に図書館の中をゆっくりと進む。迷子であったジルは何かを熱心に調べているラルフの背をそっとそっと付いていった。
(……そーっと、付いていけばその内に出口が分る、かもしれないっす)
そうしているうちにラルフは次へと移動してしまう。思わず本に見とれていたとジルは慌ててまたもラルフの背を追い掛けた。
「あーくそ、10階層行きたかったなあ! でもこの下の11階層には絶対ついていってやるからな、くそくそ! ……でも、この10階層はまだ探索されていないとならば、ここは果ての迷宮の未知の領域だ」
さあ、マッピングしようと図書館の構造を調べるためにアトはぐんぐんと進む。
図書館学という学問が存在するように本とはただ数があってもそれは紙の束に過ぎないのだという。――分類されてこそ意味があると。
ならば分類は在るのだろうか、そうして分類を数えていく。
0類……1類……2類……哲学、総記、歴史、まあこれは現代にも存在する。時折魔法的な要素が入るのがファンタジーらしいところであろうか。
「『最奥の類』はなんだろうね?」
図書館探索とはまたもない機会であるとゴリョウは認識していた。本(ものがたり)に触れる事はできようとも、こうして図書館を探索する時間は中々にない。
「この広い境界図書館ってやつをのんびり歩く機会が今後あるかも分からねぇしな!」
のっしのっしと歩き続ける。アトがしていたようなマッピングをのんびりとしながら、料理関係へと向かうゴリョウは世界の料理に触れられるとなればオーク的なワクワクが止まらないと様々な本を探し求めた。
何処からかイーリンの燥ぐ声が聞こえて、思わず笑みがこぼれる。さて、他にも誰かいるだろうか?
その視線の先にはロゼットが立って居た。図書館に関する資料はないかと探し求める様に落書きなども細かにチェックする。人間の痕跡がないかと探すが――中々、此処は無機質だ。
飾られた本も内容ではなく、外装や作り、作者名などを事細かにチェックした。その本自体が異世界から来たものではなく、ここで『世界と繋がる為の媒体』として存在しているのだろう。
ロゼットは語り部が世界とつなぐために作り出した本こそが此処に飾られたものであると知り納得した様に瞬いた。
「なるほど、夢と現が曖昧な境界線。それを蔵書する場所――ゆえに境界図書館。
混沌にはそれこそ数多ものウォーカーが、いるでごぜーますが……わっちのような純種がそのような立場になるとは、ねえ?」
ウィートラントは興味深いという様に案内人たちの事も含めて図書館の散策を行った。
ゴーレムであるクレカは創造した魔術師が居るのだろうがカストルとポルックスは普通の人間の用にも見えた。それこそ、違和感だ。
生活感のない三人から何かを聞き出せればいいと考えながらもウィートラントは図書館の中をぐんぐんと進んでいく。
「わっ! 本当にご本がすごくいっぱい!
でも普通の本じゃなくて、読むと別の世界に行っちゃうんだっけ?
それならボクのいた世界に行ってお父様やお母様に会えたり……っていうのは無理そうかな、何となくだけどボクのいた世界に繋がってる本はなさそうな気がする」
異世界より訪れた焔にとって、元の世界の父や母は恋しい存在だ。それでも、此処から旅人たちの本懐である元の世界に戻るという事は出来ないのだとしょぼりと肩を竦める。
「でも、これだけたくさんの世界があるなら素敵なところも色々あるよね!
よーし、面白そうな世界を探しながら図書館を探検してみよう!」
案内図がない図書館をマッピングする特異運命座標達は多い。その情報を頼りながらも自身でマッピングしながら焔はずんずんと進んだ。
「わ、わ……本が、たくさんあります、ね……! こんなにすごい図書館が、あるなんて……」
本を読むのが好きなメイメイにとってはこの場所は魅惑の地であった。カピブタのピピさんと共に、本を眺める。
その本のひとつひとつが『世界』である事にとても興味を惹かれ、その背表紙を眺めるだけでも楽しいと手を伸ばす。その本を手に取って願えば、その中に入ることができる――時折引き込まれるけれど、それでも、そうしてみるのが楽しみだとメイメイはカピブタを見下ろした。
「どんな世界が、広がるのでしょう、か……」
そう、例えば大好きなあの人の為にうんと長生きする手段が記される世界があるかもしれないとアーリアは冗談めかした。
「境界図書館、ねぇ……混沌に生まれて混沌に育って、それでもまだまだこんなに知らないことがあるなんて!
それなりに色んなことを知ってきたつもりだけど、まだまだ知らないことがたくさんあるのねぇ……」
ふらふらと歩みながら未知のお酒を探し、そして楽しい世界を巡るのだ。そうするだけでも大きな収穫になるのだと心は楽しみに躍った。
「よぉし、いろいろ読んでみるわよぉ!」
大地にとって――否、本の虫にとってこの場所は魅惑的で魅力的すぎた。
本を読んでその世界に飛ばされてしまったら読書どころではなくなってしまう。案内人が居なければある程度は『読める』だろうが本に没頭すればするほどいきなり世界にワープ何てシャレにならないと今日は我慢の子だ。
「しかシ、この本っつーカ、世界は果たして幾つあるのねェ。
数えたらキリが無いんだろうけどナ、それこソ、俺達旅人が多種多様な世界から来たよう二。
せめて、本棚の数とか、本のジャンルらしきものが分けられてるのかだけでも回ってみようか」
ふと、浮かんだのはポルックスやカストルの姿。彼らは何処から来たのだろうか。
この本棚に収められているのだろうかと大地はそっと、本棚を見上げた。
「他の世界が本の形になってる図書館なんて、本当におとぎ話の世界みたいだね!
本の中の世界も気になるけど、まずは図書館そのものがどんなとこなのか気になる! というわけで探検だー!」
アレクシアは本の中が「せかい」であるならば、旅人の事が脳裏に浮かんだ。彼らの元居た場所が『ここ』にあったとしたならばそれは途方もない数だ。世界が産み出されるという事からもここにしかない世界というのも存在しているのだろうと未だ見ぬ未知に彼女の心は踊りだす。
「増えるのなら、増えた本をしまう場所が必要になるだろうし、そうでないなら途方もない時間をかければ全部の本に遊びに行けるっていうことなのかな? うーん、色々気になるね! 探ってみよう!」
きっと、増え続ける本に合わせてこの図書館も『進化』している。マッピングしても、それは生き物の様に変容してしまうのだろう。分かりやすい形として図書館を形どって入るのだろうが、気付けば此処が水族館や動物園に変わっている可能性もあるというのだから、さらに興味深くて仕方がないのだ。
「この膨大な本の一冊一冊が別々の世界(ものがたり)だなんて、圧倒されちゃうわね
っていうかこの図書館、果てはあるのかしら?」
背伸びして奥を伺った蛍に珠緒は全容の把握は難しいかもしれませんねと瞬いた。
「混沌に肯定されていない――必ずしも否定ではないとは思いますが――世界がどれほどあるか、それは『全て』ここに導かれるのか、場に収まるのか。世界の規模でその量ですので、凡そ人智の及ぶ域ではないでしょう」
成程と頷いて手を握り探索を開始する。恋愛小説のコーナーを調査したいんだけど、と珠緒をちらりと見遣ったそれに「お目当てがあれば司書さんに伺えばよかったでしょうか」と珠緒は首を傾いだ。
「図書館の姿が概念認識ならば、管理情報が付与されていればそれも見えるはずです。
干渉せずにのぞき込む手段があれば、探しやすいのですが……お勧めされる書籍への理解や共感のためにも、触れる必要はありそうなのです」
「い、いえ、何でもないのよ。一休みに使えそうなソファとかも見付けたいわね!
司書さんに聞く、その手があったけrど、ま、まぁ手探りで探すのも、本との出会いの楽しみの一つだから!」
案内人が居なければ干渉まではいかず書物として手に取れる。だからこそ手さぐりに探そうと蛍は珠緒と共に図書館を歩き出した。
●
「果ての迷宮の枝葉。世界の狭間。異世界が本の形で集積された図書館……理解がちょっと追いつかねえんだけど」
そうキドーはぼやいた。階層をまたぐ事に環境が変化することは可笑しいのだが――ふと、それで脳裏に過ったのは『果ての迷宮はまだ踏破されていない』という事実であった。
「この先にもまだ……やめよう。頭痛くなってきたぜ」
百聞は一見に如かずと飛び込んだ<グレゴリオ・ロギア>。厄介そうな場所ではあるが、キドーの事は何食わぬ様に受け入れられている。それでも、居心地が悪く外れた路地を彷徨った。
「異教徒を断じる宗教国家……ですこと?
わたくしの故郷のあのクソ天義と通じるところもございますので、おもっくそコケにして参りますわ!」
故郷のクソ天義から来たとは思えないテンションで相変わらずのシスター・テレジアは不正義っぽいお薬とお菓子を手に酒を煽り大手を振って街を往く。テレジア参上と落書きもして正しく惨状を作り出す。異端審問位余裕のよっちゃんですわーと余裕たっぷりだが、誰も……助けに来ないのである……!
「まさか、果ての迷宮の先に図書館があって、一冊一冊に違う世界が広がっているなんて想像もしなかった。本当にこの世界は不思議がいっぱいだ」
ポテトが周囲を見回せばリゲルもそれに頷いた。リゲルにとって、この世界は母国たる天義を少し想像させる。
異教徒を断じるこの世界を歩みながらポテトは「私達も異教徒として扱われるのかな?」とリゲルを見遣った。
「確かに天義のように厳しい国家であれば、断じられる事もあるかもしれないが……危険が迫れば、俺がポテトを守るよ」
怯えないでも大丈夫だと額に一つキス。手を握れば、その温かさが心を落ち着かせてくれた。
この世界にだって天義の――彼の母国の様に言い所があるはずだと思い直す。
「今日は少しだけ、とのことだし、今度ゆっくりもっと楽しそうな本の世界にお邪魔してみないか?
――わっ!」
云うが早いかポテトの体を姫抱きにしてリゲルは走り出した。不安な顔は彼女には似合わない。笑顔で楽しめる世界へ向かって走り出そうじゃないか。
(この世界は好き、皆が神を信じてて……活気があって……そして月がとても綺麗。
赤くて……丸くて……とても居心地が良い……ただ……)
ンクルスは手を見下ろした。自身がこの世界を本としてではなく世界として訪れられたのは特異運命座標としての性質を得たからだ。
「……この世界に多少干渉できるのかな? もしそうなら……『世界の皆が他の神様を貶めず仲良くなりますように』って祈っておくね?」
神様を否定されたら、ンクルスだって厭な気持になる。創造神の加護がありますように――人の嫌がることがなくなるようにと、この荒廃した世界に望みをかけた。
「ふむー、ここが本の中、『グレゴリオ・ロギア』という世界かの。
優雅にお散歩と決め込みたいところじゃが、先ずはちょっと隠れて周辺の情報の調査と洒落込むのじゃ」
こそりと息を潜める。ウィッチクラフトとファミリアーを使用して周辺の対策に当たったデイジーは世界のあらましを確認するように上空より確かな情報を得た。
(外部から来た存在は『普通の存在』として見られておるのかの……?)
慎重に接触してみれど、語られるのは『旅人に向けた神様信仰』の話のみだ。
黒羽は木々へ向かってスキルを使用し、そうしたことはできるのだなと呆然と見下ろした。ふと、自身の中で漠然としたホライゾン・ライブラリの事が納得できる。
――そうか、『干渉はこの世界に残る』のだ。特異運命座標達にとっては一つの夢だが、世界で積み重ねた事はこの世界に残る。それを双子たちは大きな干渉はできない、してはならないと口にしたのかと彼は緩く頷く。
佐里は旅人で、もともと居た世界があり、そして、今はこの世界の土を踏んでいる。それだというのに、この世界の他の国ではなく、全然別の世界の土を踏みたいと、そう感じた――なんだか、変な心地だと佐里の表情は曖昧な色を乗せた。
「宗教国家って、気難しい印象があるけれど……どんな神様を信奉してるんでしょうか。教会に立ち寄ってみましょうか」
境界にはマリア像がある訳でもなく、歪んだ黒檀がどしりと飾られている。それを信奉する人々は皆、幸せそうだ。日本や混沌でもそれなりの幸福は見たが――ここでは『盲目的に信仰心で幸福を得ている』かのようだった。
それでも尚、子供達の動きは変わらない。鬼ごっこやかくれんぼをして自由気ままだ。何所感心した気がして佐里はほっと胸を撫で下ろした。
「おおっ! 此処が異世界か! すっげー! すっげー所だな!」
プラックはすぐに引き戻されると聞いていたこともあり、燥いでる場合じゃないなと世界を走りだす。引き止められても襲われても立ち入り禁止も一先ずは無視だ。
この世界に次に来たときにやれる事を増やしておきたいと彼は世界の端へと向かう様に巡る。
「えーとなんだっけか、彼を知り己を知れば百戦殆からずだっけか、んな感じだから情報収集しねぇとな」
それは旅人が世界を渡るような感覚なのだろうかとティスルは興味があったのだと楽し気に世界を歩き出した。
先ずはプラックと同じくこの世界を知る所からだ。人助けセンサーで辿れば、異教徒狩りの現場へと足は向かった。曰く、異教徒の烙印を持った娘が村のどこかに潜んでいるのだそうだ。
(……最悪、荒事なら得意分野だし、なんとかできるかもだし!
でも【魔哭剣】みたいなスキルを軽率に使うと異教徒判定もらいそう? ……そういえば異教徒ってどんな人たちなんだろ?)
異教徒とは、きっとこの世界の独自の文化なのだろう。神様が善であるかもわからないティスルはそっと息を潜めて成り行きを見守った。
「違う世界にも月はあるんだね。どうせ触れやしないのに空なんて気するのはなんでだろう
旅人も混沌にきてこんな気持ちだったのかな……」
浮かれている気がするのだとシラスの軽い足取りはいつも以上に楽し気だった。異世界だ。ここは混沌世界じゃない――混沌で生きている人間の中では一番乗りでこの場所にやってきたのだ。
果ての迷宮。勇者王の建国。幻想に生きたならば、そうしたことはよく耳にしていた。
「ここは天義のような国なのかな。もっとよく知りたい。
宗教ならきっと聖書のようなものがあるよね。そこから学んでみよう」
バレなければスリだって何でもすると懐に一冊を忍び込ませる。
――持ち帰れば、それは何もない紙束にはなってしまったのだが……それでも、ちょっとしたスリルとその場で得た神の情報はシラスにとっても非常に興味深かった。
――神とは。
――神とは、我らが命を繋ぐ絶対的存在である。
「わっ見て見て! 月が赤くて二つも!? 本当に本の中の世界なんだ……わくわくしちゃうね!」
月を眺めてヒィロは美咲の手をぐいぐいと引っ張った。
「へぇ 月が赤かったり青かったりは見たことあるけど、ふたつっていうのは話に聞くくらいね。重力の影響とか、違うのかな」
魔的な赤い月が照らすその世界はどこか不思議な感覚で美咲を包み込んだ。
明るいヒィロは服やアクセサリー、そして食べ物や飲み物を見て回りたいと尾をゆらりと揺らしている。
「国家と宗教は存在するらしいけど、他何も聞いてないのよね……崩れないバベルは適用されるのかなぁ?
色々気にはなると思うけど、軽く見るだけよ。味覚や文化の差異はわからないし……何より、通貨の持ち合わせがないもの」
「はぅっ!? そ、そういえばここのお金持ってない…
ぅぅぅ、見てるだけなんてツラいよ~
せめて帰ってからばっちり再現してもらえるよう、しっかり目に焼き付けておくね!」
バベルはどうやら適用されていて、文字や言葉は分かったが、ヒィロは敏感に人々の視線が刺々しい事を感じ取った。
文化の違いが、そうさせているのだろうが明るい来訪者たちはこの『世界』にとっては不思議な存在だったのだろう。
「誰にでも最初から好意的に接するとか、無菌室育ちだけじゃないかな――正に知らぬが仏ってやつね」
●
「お茶会に、お招きいただき、ありがとうございます。ここも、本の中の世界、なのですよ、ね……
普通の本として、読むことは、出来ないのでしょうか? あんなに、たくさんあったのに、読めないとしたら、とても、残念です……」
閠は本を好む。ギフトのせいで目に人を映せない彼にとっての安全に世界を楽しむ唯一の手段なのだろう。
「読もうと思えば読めるよ。世界に案内されなければ只の本だから」
「けれど、只の物語で終わっちゃうから、案内したいって思っちゃうんだ」
双子の言葉に閠はぱちりと瞬いた。その言葉は、この図書館で本を楽しめるまたもない機会を与えられたに等しい。
「ここに、他の本を持ち込んだら、どうなりますか?
本の中の、本の中の世界、になるのか。それとも、本はただの本、になるのか。
そもそも、持ち込めなかったり、しますか? 危なくない、ようなら……試してみたい、ですけれど」
できないことはないかなと双子は顔を見合わせた。けれど、危険かもしれない――だからこそ、自身らが居るときに試してほしいと双子は閠へと念を押した。
「異世界に干渉できる場所……んん……異世界から来て、異世界で戦ってるオレが言うのもなんだけどさ、そんな風にホイホイ異世界に干渉していいものなのか?」
風牙の言葉に双子はきょとりと首を傾げた。旅人が混沌に強制召喚されるのとは別に、勝手な介入をするのだからと彼は肩を竦める。
「そりゃ、困ってる人がいれば助けたいとは思うけど、基本的には、その世界のことはその世界の人たちがなんとかすべきで、外野があれこれちょっかいかけるのは、何かこう、大丈夫なのかなって不安になるというか、怖いというか……」
「怖い?」
クレカはぱちり、と瞬いた。彼の言葉が興味深いとでもいうように、だ。
「ほら、子供だって親がいつも手助けしてたらいつまでたっても成長できないとかあるじゃん?
そこんとこ、どうなんだ? 干渉できるってことと、やってもかまわないかどうかは別だろ? オレらの『助け』は、本当に必要なものなのか?」
「……必要、だと、思う」
それはクレカなりの意見だったのだろう。風牙が不安がるようにクレカだって不安だ。漠然と、どうすればいいのかと考えて考えて、悩まし気に彼女は口を閉ざした。
リディアはカストルやポルックスもここでは司書として振る舞っているがまだまだ子供なのだろうと認識していた。伴に遊ぼうと誘えば喜んでくれるだろうかと彼らにリディアは「遊びを教えて呉れませんか?」と声をかけた。
「おはじきは?」
「トランプも教えてもらったね」
二人はうんうんと悩む。リディアも平和的に道具が無くても出来る遊びを考えていたがこれがまた難しい。
「私も考えてみたのですけど、じゃんけん位しか思いつかなかったのです」
「じゃんけん」
「じゃんけんしよう」
どうやら、それは評価が高いようだ。楽し気な双子にリディアはそれでは、とじゃんけんの姿勢を取った。
「オレはシミズコータ! コータでもコーちゃんでも、イレギュラーズきってのガキ大将の清水クンでも、好きに呼んでくれ!」
「コーちゃん」
頷くクレカに洸汰はにんまりと笑いメカパカお、メガぴょんた、山下に挨拶を促した。
「さあさあ、三人の事も教えてくれよ! どんなとこに住んでたんだ? 好きな食べ物は?
3人共図書館に居るけど、本を読むのは好きなのか? おすすめの本は?」
「星の綺麗な場所なの。いつか、コータもいけるといいね?」
「そうだね。僕らは母さんの作ったサンドウィッチが好きだったんだ」
嬉しそうに笑った双子にもっと教えて欲しいと洸汰は身を乗り出した。
たくさんの世界が集まる場所。それこそが境界図書館。
瑠璃は呈茶ならお任せくださいとカストルとポルックス、そしてクレカに頷いた。
「そういえば、境界から物語に悪影響を及ぼす者への管理は何かしているのですか?」
「してない」「できない」
双子はさらり、と返した。それに瑠璃はぱちりと瞬く。曰く、彼らにはそうした能力は定まっていないのだという――あくまで境界を案内するだけ。それだけの為の存在であるかのように。
「物語の住人が物語から境界へ行き来することは出来るのでしょうか?」
「……できない。ポルックスとカストルの世界に、前までの『私』はいけなかった」
クレカがぼんやりと返した言葉を双子が続ける。あくまで自身の世界と『本を案内する』だけの存在なのだという。子の狭間が『特殊な場所』なのだろう。
「……元いた異世界に戻りたい、ですか?」
戻れるものもいる――瑠璃の問いにクレカは曖昧に笑みを浮かべて「元の『時間に』」とだけ返した。
「図書館の探検もすごく心惹かれたけど……! 『私達にはそう見える』みたいに言ってたから目に見えるものはそんなに重要じゃないのかなあ、とか、目をつぶって感じてみたら違う感じがしたりするのかな……ってそんな単純じゃないか」
其処は便宜上は図書館と呼ばれていたのだろう。けれど、とクレカと双子が選んだ茶会の席でシャルレィスはみんなと話したかったと笑顔を浮かべる。
「ねえねえ、三人はどんな世界から来たの? 物語はハッピーエンドがいいって言うのは大賛成なんだけど、三人の世界は?」
「わたし達とクレカは別の世界から来たんだよね」
「そう。だから、クレカの事は分からないけど、いつかきっと――君達が境界深度を深めれば案内できるかも」
双子の言葉にシャルレィスは笑みを浮かべる。もしも疲れたら『ここで待っていた』時間の分だけ遊ぼうと菓子を一つまみして笑みを溢して。
「そういえばキミたちの出身世界もここに本として納められてるの?」
「そうだよ」
公の言葉にポルックスとカストルは頷いた。勿論、クレカもである。
「その本の物語(せかい)が本の中の住人にとって現実の世界だとすれば、ボクたちが好き勝手に介入して物語(せかい)を改変してしまうのって……その世界の境界案内人にとってはどんな感じなんだろう?」
「わたし達にとっては物語(せかい)は当たり前の日常。みんなにとっては異世界だけど。
救って欲しい――と思えば、その手を差し伸べてくれるのを願うの」
「僕たちは世界に案内出来るだけでどうしようもない。だから、君達は救世主でもあり破壊神でもあるんだよ」
公はその言葉にぱちりと瞬いた。案内人たちのスタンスはそれぞれであろうが、双子にとっては特異運命座標(かのうせい)はその様な捉え方をしているのだろう。
「戮、最近目が覚めたばかりで、眠る前の記憶もなくて……。
……誰に、作られたんかは、朧気には憶えとるんですけど……。
食べたり、寝たり、いらへんから……生活には困らんのですけど、なんか、寂しいなぁって思うんです」
そう、戮はクレカへと言った。同じ秘宝種にクレカがどういった感情を持っているか、そっと伺えば彼女は首を傾ぐ。どうやら戮の言葉の続きを待っている様だ。
「もし、悪い気がせんのやったら、戮のお友達になってもらえへんですか……?」
「……上手にできるか、わからないけど」
それでもよければ、とクレカは伺うように戮へと視線を送った。
「クレカ様達は、この……こちらの世界のことがとっても気になりますのね?
であれば、こちらからの質問はそこそこに。そう、このわたくし!」
ぱちり、と指が鳴る。タントは何時もの如く高笑いと共にその額を煌めかせた。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
「――は! クレカ様、カストル様、ポルックス様と、お友達になりにきたのですもの!」
座ったままのエレガントポーズ。お友達としてよろしくお願いしますわーと笑みを溢したタントに三人はそれぞれの表情で――クレカだけ、表情が薄いのはご愛敬だ――頷いたのだった。
ねねこは異世界にも行けるし一石二鳥なのだと周囲を見回した。秘宝種や異世界の人が死んだときにお葬式なんかあるのだろうかと心を躍らせるねねこにクレカはきょとりとした視線を返す。
「……あ、あまりよろしく無い話題でしょうか? むぅ……まぁ……そうですよね……。
じゃぁお茶会らしく女の子っぽい話題でも? お洒落の話とかお菓子の話とか……」
指折り数えれば、おしゃれとポルックスが、お菓子とカストルが反応を示す。ふと、ねねこは何かを思い出したように「あ」と呟いた。
「後は恋の話とかでしょうか? 双子さんやクレカさんは誰か好きな人とか居たりします?」
首を振ったクレカは「きみは?」と小首を傾いだ。それにねねこは私も今のとこは、と肩を竦める。
「恋! なぁ~~るほど。グ~ッドアフタヌ~ン、ご機嫌いかがかなそこなるリトルレィディ。
この図書館、実に素晴らしき場所であ~る。何故なら本とはまさに執筆により一冊の中に自らの世界を構築するもの、これ程の世界を収めた宝庫、吾輩実に興奮を覚えずにいられぬであ~る。ん~↑、今後ともよしなにであ~る」
グリモーはそっとクレカへと近づいた。秘宝種のリトルレィディには性別がない。
「男女の道を知らぬとは勿体ない事であ~る、神話しかり伝説しかり世界とは正にそれに端を発するもの、この地に住まう者なら習熟がしておくべきでないであ~るか? ん~↑良ければ吾輩の豊富な知識と検索力で実践を交えレクチャーしてあげようであ~るさあさあ遠慮せずに……」
ぼこり、と音が鳴った。クレカはよくわからないけど、つい手が出てしまったと不安げに特異運命座標を見遣るだけであった。
「もう驚くような事は無いと思っていたんだけど、境界とはびっくりしたなぁ。
ここは本当に別の世界? とにかくお茶、頂きます」
「どうぞ」
文ににんまりと笑ったポルックス。その姿を見れば、特異運命座標達とは何ら変わりもないように見える。文は柔らかに「本は好き?」と何気ない言葉をポルックスへと投げかけた。
「うんうん。お仕事として携わっても好きだよ」
「どこかで誰かが『好きは仕事にしてはならない』って言っていたから」
成程、と文は小さく笑う。双子は好意的に特異運命座標達の言葉を吸収し、そして、隣人として語り掛けてくれるのだろう。
「……あ……お茶にはミルクをお願いできるかな……?」
グレイルは柔らかにそう双子へと紡いだ。果ての迷宮のその狭間にこんな場所があるなんて、と思えば、こうして世界を移動する感覚も覚えておこうと彼はお茶会に参加した。
他の世界のお菓子やお茶はどんなものだろうかと口にした味わいは成程、普段とあまり変わらないだろうか。
お茶会でどんな話が聞けるだろうかとスティアは礼儀正しくお辞儀を一つ。クレカはそれを真似てぺこり、と礼をした。
「案内人ってことはどんな本があるとか教えてくれる感じなのかな?」
「そう」
「別の世界にいけるってなんだか不思議……どんな仕組みなんだろう? って気になっちゃって」
夢、だと双子は言った。スティアにとっては夢を見ている感覚で、その夢の中は『夢の世界』が存在しているのだという。だからこそ、スティアには何らかの体の不具合が出るわけでもないが、世界は改変されていくのだと双子がクレカの代わりに解説すればクレカはこくりと頷いた。
「あ、後はどんな紅茶の飲み方が好き? お茶請けに欲しい物とかも!」
「……紅茶、あまり、知らなくて」
クレカはオススメを教えてほしいとスティアに対して丸い瞳を向けた。
「初めまして、で良いよな。俺はウィリアム。魔術師だ。
……流石に、お前みたいな生命を創造するのは無理だけど」
クレカに対して穏やかに声をかけたウィリアムは試作型魔法人形をクレカへと差し出した。ゴーレムという技術も興味深い――混沌ではあまりお目に掛れないからだ。
「……お前を生んだ魔術師にも会ってみたかったな、ってちょっと思ってるんだ。
多分それは、この図書館を以てしても無理なんだろうけど」
「――……」
こくり、と頷くクレカはまだ可能性を得られていないのだとでもいうように曖昧な表情を返す。
「良かったら、話を聞かせてくれないか?
お前の親……魔術師に関する事とか、お前の事とか。話せる範囲、覚えてる範囲で良いからさ。
まあ、なんだ、あんまり此処から離れられないかも知れないけど、一応、混沌生まれとして」
遥か遠い記憶だったと思われる。クレカは其れを口にする事も無く、きっと、口にすることで消えてしまう事が不安だったのだと本人はそう認識していた。ゆっくりと、追々と、語ればいいというウィリアムに彼女は小さく頷いて、彼の言葉の続きを待つ。
「ようこそ、混沌へ、俺は――俺達は、きっとお前を歓迎するよ」
秘宝種。新たな、種。
それが混沌世界で冒険を楽しむ事を願う様にクレカは「よろしく」と、僅かに喜びを滲ませた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ!
果ての迷宮で発見された境界世界は皆さんの冒険をより豊かにするかと思います。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、名声欄に『境界』がこっそりと。
所謂、『境界深度』。皆さんが境界で名声を得れば得る程、境界世界は皆さんに影響を与える可能性があがります。
是非、『境界』も集めてくださいね。
それでは、またお会いしましょう。
GMコメント
さて、『果ての迷宮』10層までの踏破お疲れさまでした。
10層までの踏破にて色々『コンテンツが解放され』ました。これはまず一つのチュートリアルでございます。
●境界図書館の過ごし方
ホライゾン・ライブラリを楽しんできてくださいませ
1.プレイングの冒頭に【1】【2】【3】【4】と番号指定してください。
2.二行目に同行者(ID)orグループタグを設定してください。
【1】境界図書館の調査/探検
煌びやかな境界図書館の調査や探検を行います。本を読むと異世界にトリップ出来るようですが、この選択肢では図書館の中を探検するのが主になります。
【2】本<グレゴリオ・ロギア>
赤い月が二つ昇った異世界です。異教徒を断じるちょっぴりハードな宗教国家です。
此度は、その宗教国家でお散歩するだけできます。すぐに引き戻されるので大きな干渉はできませんが……。
【3】クレカ、双子とお茶
異世界である<フラワァランド>にて茶会の席が用意されました。
双子とクレカとの交流は此方に。質問などがあれば受け付けますが、あまり難しい事だと双子もクレカも分からないかもしれません。
【4】その他
何かあれば……
●ホライゾン・ライブラリ
メタ的に言うと『混沌世界ではないどこかの世界の欠片』が本になった場所です。
つまりは混沌世界の皆さんにとっては夢です。が、どこかの世界からすると現実の事なので、人を殺して来たら人を殺してきたって結果が残るヨ★ってことです。
PCの出身世界が出てくることはないのであしからず、です。
そういった世界に干渉できるのがここ、ホライゾン・ライブラリ(境界図書館)です。
●クレカ
境界図書館の館長。
秘宝種(レガシーゼロ)。異世界の魔術師(にんぎょうし)が作成したゴーレムが長い年月をかけ、混沌世界にて『覚醒』した結果、その命を帯びた少女です。(彼女は一応『純種』となります)
無性別ではありますがペリカを元にしている事が分かる為、便宜上『彼女』と呼びます。
無口で何も語りたがりません。何所か寂し気な少女です。
●カストル&ポルックス
少年がカストル、少女がポルックス。異世界の住民ですが混沌世界の住民ではない為図書館からは出れない存在です。
特異運命座標には境界案内人(ホライゾンシーカー)と名乗っています。
彼らが最初の境界案内人(ホライゾンシーカー)であり、特権司書的な存在なのでしょう。
カストルは穏やかで理知的ですがポルックスは明るく、何処までも元気いっぱいです。
クレカや双子とはなかなか交流ができませんのでよろしければ、是非に。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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