シナリオ詳細
決戦お疲れ様でした会、すき焼きの部
オープニング
●すき焼き食べ放題
案内を受けて通されたのは、非常に広大な一室だった。
床はい草を編んで作った特殊なパネル――畳と言っただろうか、が敷き詰められ、入るための扉はスライド式で、木と紙で出来ていた。
座体で使うためのテーブルがあり、その下は足が伸ばせるように掘られている。
コンロと鍋が無数に設置され、既に肉や野菜を煮込み始めていた。
鍋の傍らには、取り皿とは別に卵が山とザルの中に積まれている。
戦いの傷は深い。それは身体的にも、精神的にも言えることだ。
だからひとまず、ここいらで息を吐こうと、そう言う事になったのだ。
じゃあ何をするのか、また温泉もいいが、続けて二度と言うのも味気ない。そういった矢先に、
「勝ったらニャに食うかって? そりゃおめえ、すき焼きに決まってんじゃないのサ」
猫語で話すウサギさんがそういうことを言ったから、そういうことになった。
- 決戦お疲れ様でした会、すき焼きの部完了
- GM名yakigote
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年01月03日 21時50分
- 参加人数66/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 66 人
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参加者一覧(66人)
リプレイ
●乾杯の音頭は短いほうが良い
鍋を囲み、飲み物が行き渡り。皆、その時をただ一刻と待ち続けていた。
出汁の良い香りに、皆がそわそわとしているのがわかる。その部屋の隅、誰からも見える場所で立ち上がり、プランクマンはグラスを片手に口を開いた。
「えー、そのー、ニャんだ。皆の祝勝を…………ニャアもう面倒くせぇさね。飲めや喰らえや乾杯ニャア!!」
掲げられるグラス。皆がそれを合わせあい、小気味に良い音が響いて。ともかくその場は、それで開始ということになった。
●卵の生食はしない国のほうが多いとか
「すきやき? どちらの食文化なのでしょう?」
ルミリアは運命特異座標になるまで牛肉を食す機会があまりなく、その上で鶏卵を殻のまま積まれても、今一ピンと来ることがない。
「……火を通さないんです? これにつけて食べる? ……ふむ?」
だがそれも、口にするまでの間のことだ。
「なるほど……温まりますし、すごく贅沢で、幸せな気分になります」
「鍋の中身を生の溶き玉子で絡めて食べる……? 正気ですか?」
フロウもまた、鶏卵の生食という食文化には驚きを隠せないようだ。
だが、若干ゲテモノへのそれに近い視線を送っていた彼女も、一口食べてみれば、
「……ん、食べてみるとイケますね。今までにない味わいです」
くるりと手のひらを返していた。
「ほら、熱いから火傷するんじゃあニャアよ?」
「わーい、おっなべーおっなべー♪」
用意された小さなお椀と、ミニサイズのチョップスティック。
それをリリーはプランクマンの膝の上で彼女から受け取って、椀の中身を覗き込んだ。
「そいじゃ、聞かせてくれるかい?」
何を、とは言わず。あれやこれやと。その声に、リリーは元気よく頷いた。
「すき焼き……って、何でしょうか。すき、焼き……鍬を、焼く。鍛造……?」
シキの発想が食からどんどん離れていく。日本でも牛食文化って明治以後だしな。
「お肉が、たくさん入っているということは……ここは、お金持ちの人の家、なんですね」
まあ、確かに豚や鶏の肉見てから牛肉の値段聞くと耳を疑うことは在るけども。
「すき焼きと言えば白いご飯だろう!」
今日のゴリョウは浴衣にエプロン、三角巾をしてちゃんこ、ではなく炊きあがった白ごはんを用意していた。
金色の大釜から茶碗に飯をよそわれたそれは白く輝き、口に掻き込みたくなる不思議な魅力を放っている。
「さぁ出来立てホカホカの白米だ! すき焼きと一緒にたんまり頬張ってくれ!」
そうして茶碗に入った白飯を、アレクシアが盆に乗せて運んでいく。
戦いの中で誰もが人を切り、また傷つけられた。そのような後の祝杯の場だ。細かいことを気にせず、食って食って英気を養って欲しかった。
「ふふー、ウェイトレスさんみたいな事、ちょっとやってみたかったんだ!」
誰かの手が挙がる。彼女はそちらへと、小走りで駆けていった。
「何か御用ですかー?」
アンジェリーナもまた、給餌側へと就いていた。
もとより侍女衣装を着る彼女は、畳の部屋にマッチしては居なかったが、それでも動きのひとつひとつが洗練され、板についていた。
戦闘面で力になることは難しいと、彼女は言う。だからこそ、せめてこういう場では皆を労いたいのだと。
「ふふ、こういう時こそめいど力の見せ所ですわね」
華蓮も同じく、食卓には加わらない。
面倒見のよい彼女も、給餌役に勤しんでいたのだ。
「ふふふ……こうやってバックヤードの経験を重ねる事で、いつかローレットでもそういう活躍を」
そんな依頼があることを祈ってみよう。
「それはそれとして私もお腹は空くだわね」
出汁の匂いは空腹感を煽る。小皿に肉をよそうと、卵と絡めてちゅるりと口に滑らせた。
「むぐっ、思ったよりしょっぱいものなんだな。皆は普通なんだろうか……?」
クリスティアンは初めてのすき焼きに、これが異国の味だろうかと視線を巡らせ、ピンと来た。
「おや? 溶いた卵にくぐらせて食べているのか……なるほど!」
絡み合ったそれを勢いよく、かぶりと。
「ウッ、ウンマァアアーーーイ!最高に美味しい!!」
リナリナは部屋隅にあった鍋を占領し、これでもかと鍋に盛られた肉をまじまじと見つめている。
それは次第にそこから煮えて柔らかくなり、次々に鍋の中へと沈んでいく。
やがてすべての肉が色を変えた頃、その全てを丼に入れ、卵を3つ割入れると、勢いよく口の中へ掻き込み始めた。
「おーっ、スキスキ肉! 旨いなっ!」
「えぇと……こちらをグツグツと煮れば良いんですよね?」
鍋を前にして首を傾げるマナに、ヨハンが煮上がったそれらをマナの椀へと移していく。
「あっ、マナもっと食べて食べて! いっぱい食べて大きくなあれ、大きくなあれ」
そう言って女の子相手に肉ばかりよそってやるのは。まあ、彼も男の子ということで。
「はい、レーム様。あーんしてください……♪」
卵に程よく絡んだ肉を箸でつまみ、こちらへと差し出されたそれを口に含むと、旨さと幸福感とで自然と満面の笑みを浮かべていた。
「マナのお陰で怪我なく帰ってこれましたから、感謝してますよ。へへ」
おかしいな。普通にいちゃついてるの書くと違和感が。
その隣の席が、たぶん一番暗黒で冒涜的だ。
「Nyhahahahahahaha!!! ああ。戦争。貴様も随分と愉悦に浸り尽くしたと思考。我等『物語』は違う存在の『アイ』の貌を覗き込んだ。食事が済んだならばギルドにて戯れを為すべき。貴様の言の葉から『求める』ものが読み取れる。おおっと。肉が煮えたぞ。貴様が啜るべきは驢馬肉だ。冗談……ホイップクリームでも鯨飲すべき!」
「傷付け、傷付けられ……ふひ、ひひっ。ああ、偏奇親愛! 充実した一時であった……ふふふ、未だに傷が痛む。まあ! 勿論! 君との戯れには劣るが! 当然だろ! ……さて、そちらはどうだった? 愉しめたか? どうやら誰かと組んでいたようだが。ようだが!」
あれ、ちょっと喧嘩してる?
「早く煮えないかなー楽しみぃ」
鍋の前で大人しく待っていたリリの耳に、それが聞こえてきた。
「ご馳走でお出迎えとは素晴らしい趣向ですわ! そう、このわたくしっ!」
和室に鳴り響く指パッチン。さあ皆様鍋から振り向いてご唱和ください。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!!///
「──の凱旋を飾るに相応しい催しですわねー!」
さあ勝利の肉をと伸ばした腕にリリが齧りつく。
「それあーしの肉じゃん! 折角育てたのになにするのさー!」
「ギャーー!? 何方ですの何ですの! わたくしの腕は食用ではありませんわよー!?」
「それならタント様くんの溶いた卵使っちゃうもんねー!」
「落ち着いて下さいまし! お肉ならまだ……って、ご自身の卵をお使いなさいな!?」
やいのやいの。
「ボクは必死に敵防いでたらいつの間にか戦争終わってた感じで……あはは」
ヒィロは戦いでのことをリオネルに話している。
「上等だ、任された場を守りきったってことだ!」
活躍の場は様々だ。
「いやー、久々に日本人らしいメシだぜ」
「ってあんた! 後ろで聞いてればLionelなのに日本人って何よ!」
「ってぉぉ!? いいんちょ? いやオレ日本人。親父がドイツに帰化してんだが、人種は純日本人よ」
「ま、紛らわしいのよ。まぁせっかくだし同じ戦場で戦った誼で一緒に勝利を祝してあげないこともないわ。ってちょっとバランスよく食べなさいよ!」
「バランス……2:1くらいか?」
そのやりとりに、ヒィロはどこか寂しいものを感じてしまう。ニホンジンとは、向こうの世界の郷の名前だろうか。
その繋がりが羨ましくもある。目をそらしたのか、ただ周囲を見渡しただけか。視線を動かすと、乱入してきた彼女の連人と目があった。
「ふわふわの狐さん……桜咲と申します、どうぞよろしく」
ぺこりと下げられた頭に、ヒィロも慌てて下げ返す。
寂しさを肉で誤魔化そうと箸を動かしていると、桜咲と名乗った彼女の視線が、自分のやや後ろ、尻尾に注がれているのがわかる。
右へ動かすと、視線は右へ。左に動かすと、視線は左へ。
「ぉぉ…………ぉぉ……」
それが手に取るようにわかるので、なんだか微笑ましかった。
「あ、あの、よろしければ、その、少し触らせていただいても?」
この卓は、他と比べても一際騒がしい。
「いやー大仕事でしたねって挨拶してる暇もなく鍋が! 遠慮なさすぎでは!?
まま、負けませんからね! スピードじゃ私も中々のもんですよ、よこせーっ!」
実際に、戦闘性能の高いエマや、
「タダ肉だタダ酒だ宴だオッシャア!! 今のおれさまはスキヤキフードファイターズだぜ死ぬまで食うぜウオオオオアア!!」
グドルフといった面々が鍋ひとつで肉を奪い合うのだ。いっぱいあるのに。
「ロクのワン公にこんなイイ肉はもったいねえ。1~2枚で十分だろ。ホラそれ食ったらロリババアと遊んでな」
「わーいすき焼き!! わたしお肉だけ食べる! この上等な肉だけ食べるね!! あーっ! お肉が!! わたしのお肉! グドルフさんひどい! 悪党! 返してわたしのお肉!」
「ええいこんちくしょう!! 飯ぐらいまともに食えねーのかよ! オイッ!! 特にジジイと獣!! それぞれ違った感じで獣臭い二人!」
「ああー! エマさん! ほらお肉が! 取られた!! もう! グドルフさんがふつうのお肉取っちゃったからわたしたちはゴブリン食べようよ!!」
「ちょ、ちょちょちょちょロク、ロクさんちょっと何キドーさん殺そうとしてるんですか食えませんよゴブリン鍋何て! 諦めないで普通のお肉食べましょう普通のお肉を!!」
「ってオイ! やめろ! ゴブリン鍋とかふざけんじゃねーぞ! イレギュラーズにはゴブリンを食材と見做してる奴がいるから洒落になんねーかんな!!」
小悪党しかいねえなここ。
「私達の再びの勝利と、美味い料理に乾杯!」
杯を掲げたヨルムンガンド。
「にしても、ニオイから既に美味そうだな、すきやき……!」
用意された卵に白米。体中に染み渡る旨味に感動したのか、自然とお酒も進むようで。
「なぁ、マルベートォ。君も食べるの大好きなんだってなぁ……! 一緒にここにある美味い物食べつくすぞォ……!」
絡み酒が始まった。
そのマルベートは、先程から絡んでくるヨルムンガンドの尻尾をちらちらと見ている。
すき焼きも美味い。だが、この団長の尻尾。これがまたどうにも歯応えがありそうで如何にも美味という予感がするのだ。
「おっと、涎が……少しくらいなら、齧ってみてもいいかな?」
そんな恐ろしい感情を抱かれているとは露知らぬヨルムンガンドの空いたグラスに、アベルが新しいワインを注いでいる。
「お酒のおかわりもいいですが、食事の方はどうです?」
飲める人には酒を、飲めない人にはジュースを。空いた時間で肉を口に入れ、自分の腹を満たしていく。
「なんなら食事の方は俺があーんをしてあげますよ? なんてね」
「お疲れ様っしたぁぁぁぁああああ食うぞぉぉぉおおおお!!」
気合を入れて、ミーナが箸に手を付けた。
すき焼きは久しぶりだ。食い放題なんて夢にも見なかった。これがタダってどういうことだ。
リミッターを解除しよう。遠慮がいらないやつだこれは。母親とレストラン一軒沈めた記憶を呼び起こせ。さあ、じゃんじゃん持ってこい。
「お肉にお豆腐、お野菜、どれも美味しそう!」
セララは懐かしさを感じる鍋物に舌鼓を打っている。
皆で食べるご飯は美味しい。そしてすき焼きは中でもトップクラスの至高の料理だ。
「異世界転移した時はご飯も変化しちゃうのかと思ってたけど、日本と同じ物があって良かったよ。やっぱりすき焼きにはパンじゃなくご飯だよね!」
「ん……いっぱい食べていいんだよね???」
衣の無表情は普段と変わらない筈なのだが、テンション上がっているのは誰の目にも明らかだった。
だってほら、涎が。涎が。今にも尻尾をぶんぶかぶんぶか振りそうだ。
眼の前の器に山と盛られた肉と野菜。聞こえた乾杯の音頭。あれは所謂GOサイン。
ブラックホールのように掻き込まれていく。
「ふぇ!」
不意に出た悲鳴はメイメイのものだ。
見様見真似で卵を器に割り入れ、肉と絡めて口に運んだ途端、神経の何かが悲鳴を上げたのだ、旨味に。
(こ、これは濃い目だったスープの味がまろやかに包まれてまた違う味わいが口の中に広がります)
感動は濃縮され、言葉にできたのは一言だけ。
「とても、とても……おいしゅうございまし、た」
「改めて、決戦お疲れ様でしたー!」
通例らしきものに合わせてジュースの杯を掲げてから、アリスもまた肉へと箸を運ばせる。
「王宮での豪華な料理も悪くなったけど、こういった鍋を皆で囲んでって言うのも悪くないよね」
アレも美味しいが、こちらはまた違った旨さがある。家族で、パーティで、それらともまた違う『皆で』の食事だ。
「お肉ー、お肉ー、それからお肉ーっ! 今宵の私はお肉に飢えているー、なんちゃって!」
「あら、溶いた生卵につけて食べるのですか? それでは早速いただきます……おいしい!」
やはり、卵の生食というのは世界的に見ても珍しいものなのだろう。日本でも夏にはあまり食べないし。
しかし地方限定とは言え、生食文化は間違いなく美味だからこそ残っているのである。
「確かに白飯と一緒に食べると美味しい……ですか? ごはんが進みますね!」
それは、そいつが野菜を食べたくないという思いから始まった。
こういう場では確かに一定数存在する、闇鍋をしようという声。
それがまさかの最大勢力であった為、急遽用意された大鍋を囲み、暗幕の中。
集団自殺に似た何かが始まる。
あ、ちゃんとランダムに割り振ったからな。
ポテトが当たったのはお餅だった。
元から入っていた肉や野菜を巻き込んで結構なボリュームにはなっていたが、それでも大当たりの部類だろう。
もともとの味というのもあるが、『染み込まない』食べ物である点が大きい。好き勝手放り込まれたことで、出汁がえらいことになっているのだ。
「阿鼻叫喚だけど、みんなでワイワイ楽しいな」
「こ、これは……!?」
シャルレィスは油断していた。
自分の箸がつまんだのは大きめの『お麩』である。
なんと、鍋物ではメジャーではないかと口に入れたのだが。それは『出汁を吸い込んでいる』のである。
ひと噛みごとに口の中で溢れ出すなんとも言えぬ熟成されたそれが、なんともまあ。
「しかし、俺に何が回って来るんだろうな……何が来ても食ってやるぜ。食いもんならな。おぅぅらぁあああああ!!!」
アランの極った覚悟にそこそこ答える形で、それは現れた。
橙色で、弧を描くデザインの果肉。どうみてもみかんだ。
食えなくはない。しかし旨くもない。そしてちょっとリアクションが取りにくい。
なんとも言えぬ顔になった。
「どんなものでも完食しよう!」
リゲルの下に来たのはゴーヤである。
好き嫌いの強く出る食材ではあるが、可食の容易な材料であり、好きな人からすれば十分当たりの部類になるだろう。
ていうか、切って鍋に入ってると手元に来てもゴーヤってわかんないかも知れない。
「きゅーあちゃんの具は、じゃん! ファットマンズカロリー!」
ある意味、一番のハズレである。女性陣悲惨。
「きゅーあちゃんには、何の具がきてもオッケー! おなべで煮てあるから、なんでもだいじょうぶなはず!」
おう、全部煮込んだせいで何が来てもダメなんだぞ。
なお、当たったのは『カエルの足肉』でした。いれたやつは本当に勇者なのだろうか。
「まぁ正直どれもこれも食べれる部類だよね。『腐った食べ物よりマシ』『ギリギリ食べる気がしない雑草の味』とか言われるハーブを数か月単位で食べてた時期もあったからね……」
そんなアミーリアにはぐじゅぐじゅになったチーズケーキ。スポンジ部分がひっどいの。
「って事でいただきまーす」
「すき焼きすき焼きやみすきやーき♪」
ノーラははしゃいでいるが、君らの食おうとしているものはもうすき焼きではない。
「いただきまーす!」
混ざり混ざってえげつない事になっている中で、幸運にも引き当てたのは鶏もも肉だった。出汁がもうアレなので、美味いかと言われればそうでもないが。
「シラスー。面白いけど、今度は美味しいのが良いぞー!」
「ホント鍋ってなると一つ位こう言った流れで、闇鍋が生まれたりするのが面白いところよね? 皆モノ好きって言うか何と言うか……まっ、嫌いじゃないんだけれど」
そういう竜胆もまた、皿に入ったものを見てなんとも言えぬ表情を見せた。
リンゴ(そのまま)。
せめて、せめて皮くらいは……
「僕には何がくるのかな? ワクワクするよー」
ひと目ではわからなかったそれに齧り付いたルチアーノは、食感と口の中に広がった味わいで何かを知った。
ラム。羊肉である。
クセがある為、肉の中では好き嫌いが分かれるものの、れっきとした食用肉だ。
「皆で食べるすき焼きって楽しいね!」
「わぉ……カステラにお鍋の汁がどんどん染み込んでいく……」
出汁を吸い込み、重くなって沈んでいくカステラをノースポールが見つめている。ほんと吸水性のあるやつはやめろよな。
「……母が作っていた鍋を思い出しますね」
そんな彼女にファットマンズカロリー。
悲鳴は明日の体重計の上でどうぞ。
「うがあ馬鹿、ああっもうスッゲー馬鹿!」
シラスは口に含んだものを知って、後悔の中に居た。
闇鍋を主催したのも彼。タンポポをそのまま一輪入れたのも彼。そしてハンバーグに巻かれた令嬢のパンツを食ったのも彼である。
噛んでも噛んでもなくならない。だって消化できないからな。
半泣きになりながら、それでももぐもぐ咀嚼し続けている。
悪いことってするもんじゃないな。
口に含んだ違和感にハロルドは下品な行為だと分かっていても、それを確かめずには居られなかった。
卵である、殻ごとの。
いや、殻があるのはいい。そういうこともあるだろう。だがこれは、自分が噛んだというのに罅の一つも入っていない。
机にこんこんと打ち付けてみたが、割れる様子もなかった。
「お、お前、そりゃねぇだろ……ちくしょうめ、こうなれば……!」
「……さあ、食えるか?」
その卵を入れた張本人、モルグス。せめて胃にまでは入れられるものにしてあげて。
「俺はまぁ、何を引いても特に問題なく食える。でも出来れば良いのを食べたいよな。当たり前だけど」
そう言って箸に重量のかかるそれを引き上げた。
出汁を吸ってどぼどぼのカステラを。
ほら、食え(はす)るぞ。
「大人数の食事ってあまり経験がないので緊張しますねえ。ふふーふ……そんな期待に満ちた時期が私にもありました。」
オーガストは箸でつまんで眼の前にあるそれにガクガクと震えている。
おそらくそれは、薔薇だ。それはいい。食用の花というのは無くはない。オーガストもそれはわかっている。だが、この混沌としすぎた闇鍋の出汁を吸い、もうなんていうかえらい色になっているのだ。え、これ、毒? 毒花?
「しょっ……所詮料理ですし大丈夫な筈です」
「スープ、味、いろいろ……ポカポカ? ニガニガ? アマアマ? いろいろ、味、する、してる。これが、ヤミナベ……なだね?」
シュテルンが出汁を飲み、感想を述べた。誰だ純粋な子を闇鍋に連れてきたのは。
「おいしー? だと、いーな!」
そう言って期待を込めて彼女が箸でつまんだのは、えーっと、なになに? ランダム表によると……あ(そっ閉じ)
だから吸水力のあるものはやめとけって。(たい焼きでした)
「さぁ、遠慮なく参加者の悪意を須らく味わうが良い! 俺もきっと味わうことになるだろうけどな!」
そう言ってやけっぱちに笑うヨシトの皿には、タンポポが一輪置かれている。
いいや、死出への手向けじゃない。これを今から食うんだ。出汁に塗れてもはや元の黄色とは似ても似つかなくなったこのタンポポを、食うんだ。
「あ、駄目だこれ。俺の『過酷耐性』が悲鳴上げてるわ」
あの、全員口直しに普通のすき焼き食べたことにしていいからね?
「さて。こんなすき焼きでは十分肉の旨味を活かしたとは言えませんね。30分後くらいに、もう一度この鍋の前に来てください。本当に美味しいすき焼きをご覧に入れますよ」
寛治は美食家の息子みたいな感じでそう言うと、集まった面々を一度返してしまった。
いいんだけど、後でその、隣の席で悶絶してる連中にも分けてやってくれないか。
「そういえば食べる時の作法とかあるのかな?」
そわそわしながら出来上がりを待っていたスティアは、ふと思いつきを口にした。
実はそれを問い始めると部屋に入る時点から求められるのだが、こういう宴会に深く追求するものでも無いだろう。
それにこれは、のしかかった疲労を払うものなのだから。
「うん、美味しい。これからいくらでも食べれそう。いっぱい食べるぞー!」
「……うっわ何これ美味っ。多分今まで食った中で一番うめぇんじゃねぇの?」
葵が思わず素直な感想を口にした。
「へぇー丁寧にやればここまで変わるもんなんスね……なるほどなぁ」
寛治の調理工程をずっと見ていたからこそ、その手間隙はよく理解できる。
「今回はいいもんご馳走なったし勉強にもなったっス」
義弘は言われたとおりの時間で戻ってくると、鍋の前で食う前の作法として手を合わせた。
「こういう風に、混沌世界で和食が食べられる機会はなかなか無いからな」
世界が違えば、似てはいても同じ『日本』ですらない。住んでたものにしかわからぬ差異があり、食になどは如実に現れた。
「いい機会だ、色んな奴の世界を聞いてみるとするか」
「いただきまーす!」
元気の良い洸汰の声が聞こえる。
食材にも、料理人にも向けた感謝と尊敬の現れだ。
「これ、マジでうっめーなー!」
細かい味をどうというのはわからない。洸汰はただ、どこまでも正直だ。
肉を食う。米を掻き込む。野菜もとれと言われて渋々口に入れる。
満腹になったら、もう一度手を合わせるのだ。
「さぁ見せて貰おうか、飽食の国ニッポンが誇る本当のすき焼きとやらを……!」
アカツキはじっと鍋を見ている。
別の鍋ではラサで食した肉と比べると幾分レベルの低いものだった。こちらは仮にもガチと称するのだ。ならば採点もそれなりでなければならない。
肉の質、サシの入り具合、しらたきを……待て待て待て待て。
わからん! それ書く側がわからんからな!
「ひとつ疑問があるのだが、これは焼く料理かね? それとも煮込む料理?」
『焼き』とつく割には鍋を用意する。その不思議な料理にイシュトカが疑問を投げかけた。そういや、何でだろね。
「想像していたよりも甘めの味付けだ。けして苦手な甘さではないが、こうなると……すっきりしたものが欲しくなる」
そう言うと、アルコールを煽るジェスチャーを見せた。
「私は調理はさっぱりなので青雀君やその辺のギルオス君に頼んでみよう」
ラルフはギルオス君をご指名だ。しかし残念ながら、この時期彼はまだ留置場に居る。あいつも悪いことをしたもんだ。
鰤や海老、烏賊といった海の幸を使い、ちゃんこの形をなしていく。
「粛々と食すのも良いが鍋の本質は歓談にあり。仲間達よ、宴を楽しもうぞ」
「美味しい……これが本当のすき焼きですか!」
生卵が苦手だというエルは、すき焼きの出汁の味をそのまま味わっていた。
決戦の奮闘を労い、命を落とした者たちの冥福を祈る。そして命を続けていくために、今を生きるものが食らうのだ。
「シメは何でしょうか……無くても私のパンを浸して食べますから大丈夫ですけど」
すき焼きパンって、探したらありそうだけどさ。
「気の利く妾はコアラとバニー用にユーカリと人参も持ってきた故、遠慮せずに食べると良いのじゃ」
デイジーはプランクマンの抱えるコアラにユーカリを差し出していた。
「ニャア、ありがとねえ。でも生の人参は食えニャアさ」
「では、いちょう切りにして一緒に煮込んでしまうかの」
ぐつぐつと、肉と一緒に放り込んでしまう。
「では、いただきますなのじゃー」
「お疲れ様ーっす。あれ、何処かで見たコアラさんがいるっす!」
ジルもまたコアラに目をつけ、一緒にどうかと椀を差し出した。
「君は、なんていうか、あまり拘らないんだな。いや、俺が言えた義理じゃないのは分かっているんだが」
「この間戦った間柄っすけど、僕としては生きてる上に一緒にご飯を食べれる人が増えたのならそれで万々歳っすよ」
「ウサギちゃんが抱いているあれは……私のライバル、コアラアサシン!!」
トリーネはずざざっ! と(鳥足でかぁ。畳入れ替えなきゃな……)コアラの前に滑り込む。
「なるほど、貴方は新たな道を見つけたみたいね……ライバルとして祝福するわ! こけー!」
「……いや、君は何か勘違いをしている」
「え、マスコットになるんじゃ……?」
セティアが戦いの記憶を語る。
「がちめな戦いだった。とくにコアラがすーぱーヤバみあった」
言いながら、そのコアラの椀に鍋から追加を入れている。
春菊と、春菊と、あと春菊と、ねぎと、あと春菊と。
「……春菊ばかりなんだな」
「ユーカリっぽいから」
ピースサインを見せると、コアラは諦めたように春菊を頬張った。
それを見て満足したのか、セティアも隣で同じように肉を頬張った。
「まぁまぁお酒でもぉ」
アーリアがコアラの杯に酒を注いでいる。
「気になってたのよぉ、どうしてたかって」
「特に何もしちゃいないさ。元々、やりたいことのある生き方じゃなかったからな」
「行先に困ってるなら、ローレットに来ればぁ?」
「そうだな。食い扶持に困ったら考えてもいい。まだもう少し、気持ちの整理がつかないんだ」
それで話を締めるとでも言うように、そっとユーカリを咥えた。
「コアラさん怪我大丈夫?」
エメがそっと、コアラに触れた。命の遣り取りをした相手だ。悪い方向の因縁が、そこに全く無いとは言い切れない。
「俺もお嬢ちゃんを撃った。お互い様さ」
猫の姿になり、コアラの肩を優しくたたいてみせる。
「私は全然大丈夫だよ!」
その様子に、コアラもふっと笑ったように見えた。
「ああ、そのようだ」
●あとかたづけ
「さて、食ったねえ」
「食ったッスねえ」
全員が好きなだけ食い、帰ったところでふたりが伸びをした。
「そいや、今回って兎猫の奢りッスか?」
「そんニャわけニャアさね。ローレット持ちだよ。太っ腹なこった」
ガチャ、ポン。
「さて、時間までに片付けちまわニャアとね。やんよ……って、いニャアね」
頭をかいて、消えた一人に、またいつもの暴走かと溜息を吐いた。
「あちしが全部片付けんのかい……?」
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
次は、どんな祝勝会にしましょうか。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
決戦お疲れ様でした。
今回はすき焼きの一席を用意させて頂きました。
美味しい料理に舌鼓を打つもよし、戦いの記憶を誰かと語るもよし、苦い思い出に今は浸るも良いでしょう。
では少しだけ、戦いの傷を癒やしましょう。
【シチュエーションデータ】
●和室
・ギルドで貸し切りにした凄く広い和室。
・すき焼きの鍋はたくさんあるので、無くなる心配はないでしょう。
【キャラクターデータ】
●プランクマン
・すき焼きしようと言い出したウサギさん。
・オープニング開くとトップに寒そうな子いるやろ。そいつ。
・今回、なんかコアラを抱えている。
●青雀
・今の所まともな神様を引いている。
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