PandoraPartyProject

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機動空中要塞アーカーシュ――始動

 鉄帝国新皇帝にして冠位魔種『憤怒』バルナバス・スティージレッドの勅令――総軍鏖殺は鉄帝国の広大な国土を分断していた。事態を打開するため、あるいは便乗するために無数の軍閥が形成されつつある。
 前皇帝ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)の行方はようとして知れず、統制なき武力行使が蔓延る状況はさながら内乱の様相を示し始めていた。
 悪漢暴漢は徒党を組んで力なき民を襲い、突如出現した新たな魔物『天衝種(アンチ・ヘイヴン)』は、そうして我が物顔で暴力を振るう者達へ力を与えているようにも見える。
 シレンツィオでは海洋王国と豊穣がイレギュラーズと共に大規模な作戦に挑む中で、ここ鉄帝国も降りかかる難問に苦悶していた。

「ひとまずの方針は人集めと、それから国土全域への救援になるだろうな」
 浮遊島アーカーシュの鉄帝国軍基地で、アンフィフテーレ・パフ少佐が居並ぶ者達へ告げる。彼等、非主流派の軍人達はとりわけ統制に欠く軍閥だ。
 そもそも中心人物である歯車卿エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフはインフラ畑の政治家であり、軍事には疎い。アンフィフテーレに至っては故パトリック・アネル(p3n000284)将軍による不正な書類書き換えによって佐官となっているだけで、元々は正規軍人ですらない尉官『待遇』である。更には軍の仕事に携わるのは実に百年ぶりと来たものだ。ゴーレムの修繕に勤しむガスパー老は、年齢はともかくそもそも民間人だ。だから他に適任者が居ないからというなし崩しに過ぎない。
「エッダがやればいいのに」
 強いて言えばエッダ・フロールリジ(p3p006270)大佐が能力においても階級においても適任なのだが、彼女はフロールリジ騎士団を率いる必要があり、おそらく帝政派でもあり、なによりイレギュラーズである。この島だけに縛り付けておく訳にはいかない。
 たまたま駐屯中だった鉄帝国軽騎兵隊長リーヌシュカ(p3n000124)は最前線で直接の指揮を執る大尉であるからして、そもそも後方の指揮官としては経験も階級もあまりに不足している。軍学校は出ている士官ではあっても、知識と実践はずいぶん違うのだろう。当然ながらリーヌシュカ当人も非常に嫌がり、現状の役割分担は要するに『押し付け合い』の結果だった。
「当面の哨戒や戦闘は私達が担当するけど、私達の本分は奇襲、攪乱、敵の主力を引き裂くことよ。偵察も防衛も、残念ながら専門とは言えないわ」
 リーヌシュカの言葉通り、軽騎兵隊は機動力と火力に優れた一点突破部隊であり、包囲や制圧、防衛といった役割には向いていない。そればかりは歩兵の役割だ。この島に集まるのは帝国における作戦屋、インフラ屋、技術屋、医学に強い者、武力よりも金勘定が得意な者、特殊部隊員、特殊工作員――ある意味では多様な人材の宝庫とも言えるが、まとまりにも具体的戦力にも乏しいのは如何ともしがたい現実だった。
「どうにか他軍閥とも連携出来ればいいんだがね……」

「街や村が立ちゆかない場合は、入植希望者を募ることも可能です」
 エフィムの述べた通り、徒党を組んだ暴漢や新種の魔物は僻地の街や村落を滅ぼしかねない。アーカーシュは住処を失った帝国民の受け皿としても期待されている。
 鉄帝国の国土はあまりに広く、首都近くに陣取る帝政派も、幻想との国境を抑える南部戦線も、帝都内部で活動するラド・バウの闘士達も、北東部でノーザンキングスを睨む解放戦線も。いずれにせよ真っ当な帝国を取り戻すという大局的目標こそ一致しても、広大な国土を機動的に動ける勢力は、このアーカーシュに集う非主流軍部派しかあり得ない。
 一方で幸いなことにアーカーシュには広大な居住遺跡があり、イレギュラーズの活躍によって安全が確保されている。冬に向けて蓄えている食料と共に移住してくれば、地上よりも安全に暮らすことも出来るだろう。アーカーシュの大地は農耕に適することが分かっており、来年以降も安泰だ。

「クソ面倒臭い、おっと。バカみたいに面倒なインフラ整備は、任せておいてくださいよ」
 エフィムの訂正内容の是非はともあれ。この島はある種、兵站すら備えた夢の機動空中要塞じみており、帝都からこちらへ向かっている資金面でのパトロンとなるリチャード・マクグレガーが無事に到着すれば準備は万全となるだろう。リチャードは政財界や軍部へのパイプも太く、非主流派の軍人達がアーカーシュへと集結する動きを見せている。力を貸すと言って来たのは、あとはイスカ・シヴァトリシューラ九頭竜友哉、それからクロム・スタークスヴィトルト・コメダだったか。最近現れたヘザー・サウセイルという民間人の女性も気になる素振りを見せている。はてさて、いずれにせよ一癖も二癖もある者達であり、武力が物を言う帝国にあって政治力でのし上がるのは並大抵ではなく、彼等が得意の政治力でいらぬことを画策でもしたならばと思えば、頼もしい反面厄介でもある。人脈構築と経営に長けたリチャード老人の手腕に期待したいところだが、まだ生憎と到着していない。凄腕の護衛は居るという話で、何事もなければ良いのだが――
 とはいえこの島は中心部にエピトゥシ城――ローレット魔王軍支部という切り札も保有していた。
 この鬼札(イレギュラーズ)は、依頼さえ受けてくれたならいかなる難問をも解決してくれるだろう。彼等にはそう判断するに足る力量と実績がある。

「少佐、いくつかお耳にいれたいことが」
 特務軍人からの呼びかけにアンフィルテーレは苦笑を禁じ得ないが、内容を聞き表情を改めた。
「早速お仕事らしい。ローレットへ連絡を」
 帝国内に点在する僻地の街をはじめ、広大な帝国全域を救援出来るのは、この軍閥をおいて他にない。

 ※『新皇帝』バルナバス・スティージレッドの『勅令』にゼシュテルが揺れています!
 ※ゼシュテル各地の軍閥や勢力からローレットに依頼が届き始めています!

 ※シレンツィオにて、大規模作戦が発令されています!

これまでの 覇竜編シレンツィオ編鉄帝編

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