PandoraPartyProject

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竜影の空

　大樹ファルカウの『祭壇』より巫女と限られた人間しか知らぬ通用口をするすると通り抜け、リュミエ・フル・フォーレはイレギュラーズの前へと姿を現した。
「……状況はどうなっておりますか」
　目覚めたばかり、ファルカウを通して俯瞰していたとはいえ、細かな状況は分からない。
　だが、彼女は外までやってきた。
　濃い戦乱の気配の中、『冠位怠惰』が座するファルカウ内部に留まり続けることが危険であるとリュミエは感じていたのだ。
　彼女が抜け出せたのはライアム・レッドモンドが『冠位怠惰』の権能の一つへの門をイレギュラーズに解放していた事が大きな理由であった。
　カロン・アンテノーラは『予期せぬ出入り』に気を取られていることだろう。
　それも自身が管理していたはずのリュミエが牢を抜け出した事に直ぐに気付くことも出来ずに。
「無数の竜が飛来したことは見ておりました。戦況は――我々の森は――……」
　そう呟いたリュミエは灰燼と化した森を見遣ってから頬より色を欠落させた。
「森が――」
　言葉が毀れ落ち、苦しげに呻いたファルカウの巫女はこれも、自身等の森を救うために必要な犠牲であったのだと己に言い聞かせる。
「リュミエ様……！」
　駆け寄ったフランツェル・ロア・ヘクセンハウスは天を見上げた。
　巨大な竜が天を横切った。赤黒い血潮を滴らせたそれは『怪竜』と呼ばれていた上位存在、竜種である。
「手負いであったとしても、竜種であるジャバーウォックを斥けたのですね」
「他の竜についても直ぐにご報告を差し上げます」
　フランツェルへとリュミエは頷いた。『常夜の王子』との戦闘が終わったことは耳にしている。
　だが、それ以上に心配なのは無数の竜種達だ。
「『金嶺竜』アウラスカルトと冬の王。怨毒竜嬢ザビーネ＝ザビアボロスと炎の嘆きシェーム。
　そして、『薄明竜』クワルバルツと大樹の嘆きである『クェイス』も――」
　リュミエは憂うように呟いた。イレギュラーズ達の無事を祈るばかりである。
「メテオスラークの戦場は誰一人として欠けては居ないでしょうか」
「……そう、信じていたいばかりですね」
　続々と入る戦況は、リュミエにとっては喜ばしいことばかりであった。

　金嶺竜アウラスカルトはジェック・アーロン(p3p004755)達によって、完封に近い形で押さえ込まれたという。今は驚くべきことに幾人かのイレギュラーズが、対話を試みているらしい。
　テルル・ウェイレット(p3p008374)らが交戦した怨毒竜嬢ザビーネ＝ザビアボロスは、眷属のネーレマリスを討ち取られ、イレギュラーズの猛攻を受け撤退。その後、幾名かのイレギュラーズがカロンの権能により夢に囚われたが、大半のイレギュラーズは下層への脱出に成功した模様だ。
　更に薄明竜クワルバルツの戦況に関してもイレギュラーズ達の猛攻の末に――撤退に追い込むことに成功する。大樹の嘆きの上位種であるクェイスへもアカツキ・アマギ(p3p008034)が身を賭した挑発を行った事で大攻勢が届き、彼が築いていた防衛線を崩壊させた。こちらでも一部夢に囚われた者もいるが、戦況としては敵陣を突破しえた事には違いない――
　かくありて、各地の戦況は概ねイレギュラーズ達の活躍によって敵勢力を押し込む事に成功していると言えよう。

「問題は――」
　リュミエが見上げた先には、彼が立っていた。
『冠位・暴食』ベルゼー・グラトニオス。その人は、汚れたマントを払い、傷ついた肉体を修復するように何かを食している。
「……フランスパン……？」
「いやはや、面白い戦い方をする少年も居る者ですなあ。
　この暴食の腹を命のリソースを削る事を代償にした奇跡で満たそうとする等。いや、天晴れ」
　軽やかに笑ったベルゼーは零・K・メルヴィル(p3p000277)の『彼らしい奇跡』で腹を一時的に満たされたのだろう。
　虚を突かれたのも確かである。
　だが、其れだけで彼が撤退をしたわけではない。
　此処で殺されるわけには行かないとジャバーウォックを退かせた彼は未だ戦場に健在だ。
「さて――どうしますかな？」
　男は、顎へと手を当てて怪しく笑った。
　彼の思惑など、想像に易かった。
　深緑を何としても手中に収めなくてはならない。だが、本来の力を十全に出せないのは亜竜種の姿が見えたからだ。
　彼は覇竜領域を本来の縄張りとする冠位魔種だ。だが、亜竜種へと情が湧いてしまった以上、その地を壊滅させる事を拒んでいた。
　時が来れば彼とて領域を手に掛けなければならないのだろう。
　だが――それまでの猶予を引き延ばすことは出来よう。それが『カロンの手伝いをして深緑を手に入れる』事だったのだ。
「生憎、退く理由がありませんでしてなあ」
　男が肩を竦めた。此の儘彼が此処に居座っては『冠位』二人を相手にすることになる。
（ファルカウは、カロンの居所。……その力を、森を犠牲にしてまで使用したとしても勝機を掴めるかは分からない。
　なによりも、幻想種にとっての国をこれ以上、壊すことはできない――どうすれば……ああ、カノン。貴女ならどうした……？）
　リュミエの指先が震える。
　杖を握る力さえも抜け落ちていきそうな不安が女の胸にはあった。

　――手伝いをさせては頂けませんか。ええ、ほんの少し……無理は、しませんから。

　聞こえた声音にリュミエは目を瞠った。それは閉じていたはずの聖域。リュミエも存在は知っては居たが訪れた事の無き『玲瓏郷』からの声。
「貴女は――まさか……」
　玲瓏郷ルシェ＝ルメア――その地の門は開かれ、『永遠の淑女』は祈るようにしてその場所に立っていた。

　※夢の中に囚われた者達は『夢檻の世界』にいるようです……
 　※【夢檻】から抜け出す特殊ラリーシナリオと、冠位魔種の権能効果を減少させる特殊ラリーシナリオが公開されました。

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