シナリオ詳細
<タレイアの心臓>Nous sommes nos choix
オープニング
●『私達は、私達の選択である』
――遥か昔。やかましい女がいた。
『クェイス! 遊びに来たわよ! 出てきなさいよ、でーてきーなさーい!!』
『やかましいぞ愚図ッ!! 何の用だ!!』
その女はマナセ・セレーナ・ムーンキー。愚図だ。
かつて『深緑の巫女』の妹たる存在の研究資料を覗いて僕の存在を知ったあの愚図は時折こうしてやかましく騒いで僕を呼ぶ事があった――正直はた迷惑だ。その隣には……あぁ、なんだったか。フィナ……なんとかと言う女もいた気がするが……
『あのね! この子の故郷の霊樹におまじないを掛けてきたの! いいわよね!』
『はっ? おま……普通そういうの事後報告するか? 馬鹿か? 愚図か?
霊樹というのはな、一年や二年で形成される様な樹じゃないんだぞ!!
それになんのおまじないかも分からない代物を付与するなど……!!』
『という訳でもうやっちゃったから!! だから無理におまじないを引っぺがそうとか傷つけたらダメよクェイス!! いいわね!!』
『誰が霊樹を傷つけるか愚図ッ!! 僕を誰だと思ってるんだ!!』
――だがあの女もいつの頃からか来なくなった。
旅に出て、各地を巡り。深緑に帰ってきた事もあった気がするが……
興味はない。所詮定命の者……どこかで野垂れ死にでもしたのだろうと思っていた。
関係のない話だ僕には。
僕の役目はただ一つ、この大樹ファルカウを永遠に守り続ける事のみ。
――生まれたその瞬間から守護者として在り続けた。
美しき大樹こそが僕の至高だった。
巨大であり、この世の遥かなる古より存在せし――ファルカウ。
かの大樹を護る事こそ僕の役目。それを汚す輩は誰一人として許さない。
僕は理解していた。僕がどういう存在なのかを。
僕は。
僕は、如何なる手段をもってでもファルカウを護る為に生まれたのだ、と。
●
「ファルカウで火を――!? 正気か愚図共がァァアア!!」
オルド種たるクェイスが怒り狂っているのは、イレギュラーズ達の蛮行に対してだ。
いや実際に蛮行か否かはあくまでもクェイスの主観によるものだが――彼が言っているのは深緑を襲う寒波を祓うべく顕現させた焔王フェニックスの事である。深緑において火はご法度。ましてやその火を大樹ファルカウに向けるなど、深緑に住まう幻想種からすればあり得ぬ事態だ。
が。結論から言えば、かの事態は『やむなし』とされ実行された。
そもそも大樹ファルカウは巨大な霊樹だ。火を放っても燃え尽きる筈もなく――しかし。
そんな事ファルカウを護るべくの存在たるクェイスにとっては一切関係ない。
嫌悪。憎悪。憤怒。あらゆる負の感情が爆発せんが如く渦巻くものである……ファルカウに寄り添う幻想種達すら愚図と呼び嫌悪するクェイスはこの上無い程の過激にして排他主義者。許せぬ愚図共が。皆殺しにしてやる――
そう思っていれ、ば。
「ふん。小煩い男だ……ちっぽけな火が放たれた程度に何を臆している?」
「……お前は竜か。たしかベルゼーとかいう男が連れてきた……」
「クワルバルツだ。こちらにも此方の事情があるのでな――手伝ってやろう」
そこに現れしは――竜が一角。
『薄明竜』クワルバルツだ。
今は褐色の肌に女性の身体を持つ人間の姿を取っている様だが……しかし間違いない。その内に込められし圧は最早人のソレではない。混沌世界における超常の領域にある竜種が一角に相違ない――が。
「手伝うだと? こちらの指揮下にでも入ってくれると?」
「舐めた事をぬかすな。我は我の儘に動くのみ――そちらが合わせる事だ」
だからこそ協調性など皆無の愚図。
クワルバルツは竜としての絶大なる力を自覚し、その通りに在り続ける。
誰にも縛られぬ。我を縛る事が出来るのは、我より強い者だけだと――
「たかが竜如きが大きく出たものだ! ファルカウの守護者たる僕より強いつもりか!」
「貴様がどれだけ永い時を生きていようが知った事か。
我からすれば貴様など古き樹にへばり付いている――苔に過ぎんよ」
刹那。クェイスの形成した魔力が超速の勢いでクワルバルツへと到来。
それは巨大たる樹の杭だ。
例えば人など貫き消し飛ばすも容易な程の巨杭が瞬時に顕現し放たれる――
が、クワルバルツも動じぬ。
一睨み。ただそれだけで巨杭の軌道が逸れるものだ――ソレは、重力。クワルバルツは重力を操る権能を宿しており、それを応用して飛来する一撃を叩き落したのである。激しき破砕音。砕け散る杭。両者の間に流れるは一触即発の殺意……
「下らん。争っても何にもなろうか、我は我の役目を成すのみだ」
「フン。こっちだって無駄な損耗は願い下げだ――勝手にしろ竜よ。こちらも勝手にする」
されど。どちらともなく矛を収めるものだ。
無意味であると。無価値であると。
特にクェイスにとっての敵はファルカウに土足で侵入してくるイレギュラーズ共だ……もう間もなくこの地は永遠の眠りと静寂に包まれ、大樹ファルカウに平穏がやってくるはずであったというのに……
『いやはや竜に喧嘩を売るとは無謀という奴ですな――ンッふっふ』
直後。クェイスの脳髄に響いた声があった。
ソレは幻聴だ。なぜならば『もうこの世にはいない死人』の声なのだから。
それはかつてザントマンと呼ばれた個体の声で……
『しかし未だ警戒しておいた方が良いですぞ。アレはきっとファルカウの損壊など気にもしますまい……いざいざ周りを気にする余裕もなくなればファルカウ自体に攻撃を成す可能性も』
「分かっているッ! そんな事はさせんよ――だからこそ僕はバックアップだ。
愚図共への戦線はレンブランサ、お前に任せるぞッ! 嘆き共を付けてやる――行けッ」
「ええ……承知仕りました。かの地を踏み荒らす無礼者共はお任せを……」
そして。頭の中に響く幻聴を振り払うように額を抑えながらクェイスは、陰にいつの間にやら控えていた存在に言を紡ぐ。そこにいるのはレンブランサという――かつて幻想種、であったと思われる筈の存在だ。
彼はイレギュラーズを敵視している。森を土足で踏み荒らす存在であると。
故に涙しながら排除せんとするのだ。大樹の嘆きという、森の為に存在する者と共に。
「僕はファルカウへの攻撃を弾く為に結界を張る。それから嘆き共の操作だな――」
『ほう? あの無差別クソ白血球の皆さんを操れると?』
「当然だ! 僕は奴らの上位種だぞ!! いやそもそも大樹の嘆きなど、只管に敵対者を攻撃するプログラムを宿しているに過ぎない! 根底となっている有象無象の大樹共に介入し、奴らに指向性をもたせさえすれば――いやそんな事はどうでもいい」
ザントマンの声が未だに脳髄で響き続ける。
あぁあぁ煩い奴だ。昔一度会った事がある程度で。昔一度言の葉を交わした程度で。
今更出てくるな死人が。
「とにかくあと一歩だ。イレギュラーズなんぞに邪魔などさせるか……
全て踏みつぶしてやる。全て弾き出してやる! 大樹ファルカウの為に!!」
脳髄に浸み込んでくるザントマンの歓喜の様な、嘲笑の様な声を祓う様に。
頭を振れば――クェイスは眼前へと集中する。
もう少しだ。もう少しでファルカウは永遠の静寂にして平穏に包まれるのだから。
それこそが真なる守護。
幻想種などという余分なる愚図共を払い落とした先に在る、クェイスにとって夢の地平である……
●
――イレギュラーズ達は進む。祖国を取り戻さんとする深緑の者達と共に。
「……ついにここまでやってこれたな。イレギュラーズ達のおかげだ――本当に、感謝する」
そして、その中には迷宮森林警備隊隊長のルドラ・ヘス(p3n000085)もいた。深緑が茨に閉ざされて侵入困難となっていたが……ついにファルカウに戻ってきたのだと。開かれたファルカウへの道を、少しずつ進むものだ――魔種との奪い合いの果てに手に入れた『タレイアの心臓』が深緑を覆う茨を解き放ったのだから。
今こそファルカウ奪還戦の時だ。
魔種の手よりファルカウを取り戻し、攻勢に転じる……と。簡単に行けばよいのだが。
「……なんでしょうねアレは。大量の『大樹の嘆き』でしょうか」
「ヒヒ。一体や二体どころじゃあないね――盛大に歓迎してくれるみたいだ」
「……悲しみに溢れた感情が伝わってくるわ。なんて事を……」
錫蘭 ルフナ(p3p004350)や武器商人(p3p001107)、ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の見据える先にはファルカウへ続くルートを封鎖せんとするかの如く立ちはだかっている個体達。恐らくは大樹の嘆きだろう――しかしそれにしては随分と、無差別的な暴走は目に見えぬが。
「……恐らく。先日の『クェイス』という方の仕業でしょうか」
「あり得ますね――クェイスさん。そうまで外を拒絶するのですか……」
その動きになんとなし推測が立ったのは雪村 沙月(p3p007273)やリンディス=クァドラータ(p3p007979)である――彼女らは以前のアンテローゼ大聖堂の戦いにおける際、クェイスというオルド種に――使役していたゴーレム越しにであるが――遭遇していた。
上位個体であれば下位の個体を操るのも不可能ではないのかもしれない……特にクェイスはオルド種の中でも特別そうに見えた。
そして何より奥の方から、当のクェイスの気配を感じている。間違いない、きっとこの奥に……いる。彼が嘆きを操作しているというのなら、彼を妨害すればこの付近の防衛線を突破する事も叶うだろうか。
「――レンブランサ、様」
が。戦場を見据えてみれば簡単に行きそうにはないと――ニル(p3p009185)は察するものだ。
なぜならば己が知古にして……しかし、今は敵対状態にあるレンブランサの姿を見たのだから。大樹の嘆きの群れの中に確かに彼の姿を目撃した。彼が防衛の中核を担っているのだろうか――?
「……ッ! まさか、あれは……!」
「わぁ――此処にも出てくるんだね」
と、その時。アイラ・ディアグレイス(p3p006523)にスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は気付いた。
戦場に――眼前の嘆き達の群れすら凌駕する強大な『圧』が存在していると。
それは感じた事のある気配。それは感じた事のある――『死』
「――やぁ奇遇だねクワルバルツ! まーさかここで会うなんて!!
運命かな? ていうか人にも成れたんだね? デートしよ?」
「口を閉じろ人間……ん? あぁ――貴様は見た覚えがあるぞ。
そうだ……あのゴチャゴチャとした街での痴れ者か。生きていたとはな」
さすればその姿に声を掛けるのはコラバポス 夏子(p3p000808)だ。
竜種。『薄明竜』クワルバルツ。
かつて練達を襲い掛かって来た竜にして……夏子らと交戦した事のある存在である。ジャバーウォックが深緑方面に消えたと聞いて予測していなかった訳ではないが――まさか本当に深緑で再会しようとは。
「貴様らには盛大な爆薬を喰らったからな……
人如きに虚仮にされたままではいられん。今度こそ丁寧に殺してやろう」
直後にはまるで大滝の様な殺意が垂れ流されてきた……
しかしクワルバルツは何の戯れか人の姿を取ったままだ。竜の形態には――少なくともすぐ成る気配は見られない。あちらが本来の姿なら、人の儘で居続ける理由はなさそうだが……ここはファルカウに近い。意外にも周辺に多少配慮している、という事か?
尤も。追い詰められればどうなるか分かったものではないが。
――いずれにせよクワルバルツは『やる気』だ。
「くっ! 大量の大樹の嘆きもいるというのに竜種も相手など冗談ではないな……!」
さすればルドラは共に歩んでいた迷宮森林警備隊の面々に即座に迎撃態勢を取らせるもの――どうにも、竜と嘆きの間に、あまり積極的な連携をする動きは見られないのだけは幸いだが……さてどうしたものか。敵の防衛線を突破しファルカウに接近しなければならないのがこの地での役目――せめてどちらかを崩せる算段があれば……!
「…………」
その時。
今にも戦いの火蓋が斬られんとしている中でシフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は想起する。
先日己が見た夢の中で告げられた声を。
まるで靄が掛かったかのように、微かにしか聞き取れなかったが。
『彼女』は確かに何かを伝えようとしていた。
深緑に縁があったとされる――フィナリィ・ロンドベルは。
●On n'a qu'une vie(※5/18追加!)
刹那。シフォリィの眼前が一瞬歪んだ――
それは意識の狭間での邂逅。先日見た夢の続き。
フィナリィ・ロンドベルのかつての記憶が彼女に流し込まれ……
「――はっ!」
瞬間。意識を取り戻したシフォリィの眼前には――ファルカウでの戦場があった。
先程の……フィナリィの記憶の中ではない。
一瞬。一瞬だけだったが意識が途絶えていた様だ――もう! 昨日の時点で全部伝えてくれてても良かったんじゃないですかね!? ホントあの人は……!!
「――どうした、大丈夫か? 今、何か様子が……」
「ああ……はい、ええ。大丈夫ですルドラさん。それよりも――聞いて下さい。」
さすればルドラ・ヘス(p3n000085)がおかしな様子だったシフォリィに言を紡ぐもの――
全く。ルドラさんにも変な目で見られてるじゃないですか……! と思いつつも、彼女は己が見た光景を情報として伝えるものだ。彼女は知っている。だって『夢』を見たから。
それは遥かなる昔。フィナリィ・ロンドベルなる者が辿った軌跡の一つ。
――ある霊樹にかけられた『おまじない』が在る事を。
「クェイスという存在が大樹の嘆きに干渉しているのなら……それが命取りになります。戦い続ければやがて発動する筈です……! 大樹を傷つけんとする輩に手痛い御返しをする――『おまじない』が!」
- <タレイアの心臓>Nous sommes nos choixLv:30以上完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年06月07日 21時50分
- 参加人数59/50人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 59 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(59人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
ファルカウはいつでも『其処』にあった。
母なる大樹として。万物を抱擁するが如き威厳と共に。
――そして今、その下で数多の意思が相争う。
「これが――竜種。なんて恐ろしい気迫と気配だ……けれど、退く選択肢はないよね……!」
一角にては竜種、クワルバルツへと。
往くは幽我である――体が、魂が身震いするほどの圧を竜は秘めていれども。
されど臆そうか。されど竦み上がろうか!
撃を成してかの存在へと立ち向かうものである。周囲を俯瞰する様な視点と共に、数多を見据えながら。
「人間共め……チョロチョロと鬱陶しいぞ。斯様なまでに死にたいか?」
「レディ。憤慨されるは結構ですが……貴方のおかげで練達にある私のホストクラブは建て直しが大変でした。その時のツケを払う準備はお済みでしょうか? 『知らなかった』では済まされませんよ――俺達の怒りを思い知れッ!」
「知った事か小さき者の住処など。黙して死ねッ!」
「いいえ、黙りませんよ――例え其方が如何な道を往こうとも……深緑には我が愛しの妻と、よくしてくれた家族がいるのです。彼らに、妻に危害を加えんとするならば……私も行きましょうッ!」
さすれば続くは冥夜にクロサイトだ。
先だっての竜の襲撃により個人的被害を受けていた冥夜は内に秘める怒りと共に。クワルバルツの放つ重力の槍を跳躍と共に躱しつつ――同時、周囲にも加護を齎すものだ。決して倒れぬ様に。全てを、運命を踏破せしめん為に。
更にはクロサイトも冷気の力を収束させて穿つもの。
させない。竜如きがなんだというのだ。
妻を護るために命を懸けるのが旦那の使命……
「粘り勝ちますよ――必ず!」
故に立ち向かう。例え身震いする様な感覚が背筋にあれども。
倒し得る隙はある筈だ、と。
それに奴めは負傷があるらしい。怪我を押しての再戦とは――いやはや。
「まったく。熱烈に好かれたもんじゃねぇか……
誰に興味を持ったかは知らんが、丁重にお引き取り願おうか」
ベルナルドは軽口一つ。襲い来る重力の権能を見据えながら、言を紡ぐものだ。
彼もまた冥夜の様に周囲を強化せしめる加護を齎しながら、同時に前へと。竜を相手に長期戦を挑んでも恐らくジリ貧だ……故に早期決着を。あの竜に余裕など与えんが為に。
「アンタがどんな存在だろうが、何があっても望みは捨てねぇ」
「諦めなければ我に勝てるとでも?」
「さぁ? だが……往生際の悪さは特異運命座標のお家芸でね」
勝つまで足掻くぜ俺達は。
死の舞踊。刹那の油断が死に至る狭間にて、彼は一撃を成しえれば。
「練達の次は深緑とか、いい加減にしろよお前!
外の世界で亜竜種がどんだけ肩身狭い思いしてんのか分かってんのかよ!」
憤怒の声――それはジュートの叫びだった。
「分かってねぇってんなら分からせてやるよ! 少しは他人の痛みって奴を知るんだなッ!」
「知った事か。竜の因子を身に宿している程度で、我と肩でも並べたつもりか――?
我は別段『アイツ』程に優しくはないぞ」
彼はクワルバルツを常に見据えていた。奴に隙がないかと、攻撃に予兆がないかと……
そして周囲に指示を飛ばすのだ。彼の戦略眼が効率的な動きを可能とする――
重力で動きが鈍ろうとも治癒し。一喝する声が統制を取り戻し。
踏みとどまらせる。闘志を、戦線を――そして命を!
クロサイトとジュートが連携し、常に負を祓い活力を満たす供給を成しえて。
万全と共にベルナルドや冥夜の一撃がクワルバルツへと――さすれば。
「クククッ……傲慢なる魂が見て取れるな。我等脆弱な羽虫程度の存在……と言った所か」
更にウルフィンは滾らせるものだ。己が憎悪を、己が復讐の猛りを。
「我の復讐……この命は全てを終わらせるまで決して燃え尽きる事はない……
例え竜であろうが何であろうが吹き飛ばせるものか」
「ほう、結構な事だ。然らば己が炎で燃え尽きろ――命の灯火と共にな」
故にウルフィンは爆発せしめんが勢いと共にクワルバルツへと一閃薙ぐものだ。
体が損傷すればするほどに増す、己が憎悪と共に。
ウルフィンは化けの皮が剥がれる程に強さを増すのだから――そして。
「……成程。練達の時でも感じたがそなたが竜種か。見事な力としか言いようがない。
しかし。それでも『させぬ』よ。骨が砕けようともこれ以上好きにはさせぬ」
「悪いが。オレが越えようとしているのは双竜だ――お前はただの通過点に過ぎない」
己に守護の力を齎しながらバクがクワルバルツの撃を受け止め。
その間隙を突く様に――ヲルトが往く。
「人間を相手に逃げ帰ったらしいな。竜が呆れる」
「それは挑発のつもりか? 人間」
「おぉ挑発だと思ったのか――どうにも、上等な竜様は知恵が回られるらしい」
軽く煽りつつ。己に意識を傾けんとして。
直後に至るは重力の槍だ。時空を捻じ曲げる一撃が襲い掛かりて……しかし、痛みが走ればこそ彼の意識はより鮮明に。より高次の集中へと至る――まだだ。逃げられると思うなよクワルバルツ! と、同時。
「クワルバルツ~! いやクワちゃん! ホント申し訳ない……
女性とは思いもせず好き勝手言ってごめんね。君が手加減してくれたから生きてるよ」
「加減などしたつもりはないが」
「えっ? ってことは……コレって僕の愛が君の殺意を上回った、ってこと!?」
夏子が跳躍するものだ。クワルバルツの懐に飛び込まんと、勢い一閃。
何言ってんだコイツはと二つの重力星が天より降り注ぐ――も。夏子は止まらぬ。
「受け止めるよ。男の意地だからねぇ~こうして会いに来てくれたんだし、デートしよ!」
「えぇい痴れ者が! 我は我より弱者に興味はない――我を打ち倒してから言うのだな!」
えっ! じゃあ倒せたらデート券確約!!?
いつもの口調と共に、しかし動きは止めずに再度撃を紡ごう。
――油断すれば今度こそ命諸共持っていかれる奔流が其処にあるのだから。
「さぁってと。リベンジ戦だぜクワルバルツ!」
「よぉトカゲ野郎──いや女郎? こういう場合はどうなるんだ?
まぁなんでもいいか。俺もリベンジマッチに来たぜ……逃げるなよ?」
直後。夏子に続いたのはカイトにミヅハだ。
二人もまた夏子同様に練達でクワルバルツと激突した者達である――
だからこそ並々ならぬ闘志も内在。あの時の『プレゼント』だけで足りなかったのなら、より強くより深く傷を刻み込んでやろう……特に一度獲物と見定めた存在に逃げられるなどミヅハの、狩人としての性に合わぬ。
「何度挑もうが同じことだ。竜に人や小鳥が敵うと思うか?」
「さぁ――ってな。だがよ、重力程度で自由な鳥を縛れると思ってるなら、大間違いだぜ?」
飛翔するカイト。超速に至る彼が、周囲に加護を。
重力に負けない白き翼を。人も、鳥も重力を超えて往けるのだと――示す様に。
尚に直上から叩きふせんとする重力あれど躱し。躱し。飛ぶ速度を決して変えず。
「歯ァ食いしばれよクワルバルツ!!」
――然らばあの時の御返しだ、と。
ミヅハの紡ぐ一閃が空をぶち抜くものだ。窮極の一矢が戦場を貫き往く――ッ!
「ふむふむ。何やら『あちら』にも『こちら』にも、込み合った事情があるようじゃのう……それならわしは皆がそれに専念できるよう、力を振るうとするかの」
「人ならざる恐るべき外敵……挑む生殖階級の皆様の御為、私も行きましょう」
であれば彼らの動きを支援せんと潮が重力の影響を祓う一手を振るうものだ――同時に治癒の力をも紡げば、それはクワルバルツへと向かう者達の力ともなろう。更にアンジェラが周囲に、助けを求める声がないか感知を常に続けるもの。
己がどこへ向かうべきか。己がこの身を賭して何をすべきか。
その感覚が――自らの定めを教えてくれるから。
「ちょろちょろと煩わしい連中だ……消え失せろッ!」
が。さしもに竜と言うべきか――クワルバルツの攻勢もまた熾烈。
放たれる重力の圧が全てを押し潰さんとするものだ。
矮小なる者よ。全てひれ伏せと言わんばかりに……
「重く、舞うには少々辛い場ですね。しかし……」
それでも止まらぬ。雨紅は自らの身に感じる『重さ』があれど。
「あなたに誇りがあるように、私達にも譲りたくないものはあるのです」
「――ぼかぁね、キミみたいな未知の神秘を自分の我儘で失くそうとさせる存在が大嫌いだ。だから潰させてもらうよクワルバルツくん――君がどれだけ大いなる存在だろうと、破壊活動(タブー)に触れれば蛆虫以下だ」
止まれぬ理由があるのだと――雨紅はエクレアによる支援を受けとりながら、冠位魔種より受け取りている『加護』を討ち砕かんと撃を放ち続けるものである。そしてエクレアは只管に在り続ける。クワルバルツより如何な干渉があろうとも……
死なぬ。朽ちぬ。それこそが彼女の真髄。
全てを消し飛ばす一撃には注意を払いて――文字通りに死兵と至ろう。
迫る。迫る。迫り行く。
竜であろうとも恐れぬ者達が。竜であろうと畏れぬ者達が。
やってくるのだ。
「あ、クワルバルツさん!
結界使うから人型でも竜型でも思いっきり暴れて大丈夫だよ!
――さ! 全力でいこっか!! 折角の機会だもんね……!」
「うん、いくよサクラちゃん……!! 今度こそ勝つんだ、竜に!」
更には周囲の地形を保護する術を張り巡らせ――サクラは告げる。
親友たるスティアと共に。纏めて薙ぎ払われぬ様に散開し……
「天義の騎士、サクラ・ロウライト。今ぞ竜へと……参る!」
「チィ――この距離なら私の首を取れるとでも思ったか!?」
己が誇りを名乗りながら。己が瞳に闘志を抱きながら。
重力の奔流を――切り抜ける。
四方八方から襲い来る重力槍。殺意を感知し恐れ知れぬ跳躍と共に往くものだ。多少の傷はスティアの治癒が間に合うもの――然らば何を恐れようものか。血が流れるよりも早く、この切っ先を奴の身へと届かせれば良し。
同時、思考する。
……勝ちたい人がいるのだ。道の先にいる背を追いかけ幾年も己を磨き続けている。
だから。
「それまで、例え相手が竜だとしても! 負ける訳にはいかないんだよ!!」
一閃する。落ちよ、竜。堕ちよ、天駆ける存在よ。
「むぅ――ッ! 砕けろ、人間共がッ!」
刹那。クワルバルツが放ったのは――二つの重力星。
直上より至る極大の歪みが全てを薙ぎ払わん……として。
「そうはいかないよ……! 絶対に、誰一人だって貴方にあげるもんか……!」
「小娘……! また貴様かッ!」
しかしスティアが死力を振り絞る。
彼女の治癒が周囲に。花開く魔力の残滓が舞い踊り、誰しもの傷を塞がん。
大人しく殺されてなんかあげないよ。サクラちゃんも、皆も。
「力を貸して……ネフシュタンッ!」
――光が満ちる。
暖かく。白く、安らぎを得るかのような光が、闇をも喰らう重力に押し負けず。
故にこそ再び狙う。こういう手合いが面倒なのだからとクワルバルツが――
「――お姉様の浮気者! どうしてあのドラゴン女を追掛けていらっしゃるのですか!? 私というモノがありながら……! はっ! もしや婚姻! 婚姻ですか!!? しきみは許しませんよッ!! あんな女、お姉様には相応しくありません!」
が。斯様な狙いを果たせぬのがしきみである。
相変わらずのお姉様狂い。お姉様を狙うものなど森羅万象許しはせぬ、と。
「腕の一本くらい置いてお行きなさい――痴れ者!」
お姉様とあの女の関係性など露ほど知らぬ。
だが関係ない。私とお姉様に水差す女など朽ちて滅んで消え失せなさい!!
――振るう力がクワルバルツへと襲い掛かる。
執念。或いは確固とした意志と共に……
「やれやれ、とんでもない個体だね本当に……これが竜、か。
僕の力が何処まで通じるかは分からないけど……全力を尽くそう」
さすればロトの力が振るわれるものだ。
彼は己に神秘なる力を遮断する守護を張り巡らせながら、六芒星の印を宿す。
それは治癒の力を増大させる印。先のスティアなどの魔力をより昇華する一手で。
ソレは皆の体力を保持する一助となるものだ――で、あれば。
「滅ぼさせなんてしない。破壊なんてさせない!
あなたが死と破壊を齎すなら、それを止めるのがヒーローの役目!!」
「竜にとっては私達の攻撃など微々たるものかもしれませんが……塵も積もれば山となりましょう! 如何に見下そうと、はたして天をも突くに至った時――未だ人を見下ろせますか竜よ!」
ルビーとジュリエットの攻勢が続くものだ。
どれ程恐怖の存在であろうとも足を止める理由にはならぬのだと、ルビーは己に守護の加護を齎しながらクワルバルツへと立ち向かうのである。どれ程強くても恐れずに進むことが勝利に繋がる――そしてその姿こそが、きっと人々にヒーローとしての光を齎そう。
故にこそジュリエットも共に。分散しつつ一網打尽にはされぬようにしながら。
魔力を収束させクワルバルツへと放つものだ。
――負けない。負けられない。負けてなるものか。
強き意思が彼女の瞳に宿っていれば、攻勢の波は強まるものであり。
であれば――感じ得る。
クワルバルツに確かな傷が刻まれていると。
彼女の息に乱れが生じていると。
「煩わしい。虫唾が走るぞ人間共……! おこがましくも我に傷など――!」
「痴れ者が、ですか? ふふ。期待してくれて構いませんよ――
貴女と戦うこの時を待っていましたから」
その様を確かに感じ取ったのはアイラであった。
彼女は治癒の力を用いて周囲を支える。時にスティアの動きと連動し……誰しもを癒す花弁を顕現せしめれば、クワルバルツと言えどそうそう薙ぎ払う、とはいかなかった。凡愚であれば話は別であったろうが――彼らイレギュラーズはいずれもが一騎当千。
然らば。奴の闘志がアイラなどにも向くものだ。
……これが本物の竜種の圧力。
アイラを庇うように立つラピスが、超常の一端を感じれども。
「大丈夫。必ず二人で、皆で帰ろう」
「うん――見ていて、ラピス。キミの奥さんは……とっても強いんです」
アイラの手を、優しく握るものだ。
さすれば激戦の最中にも自然と零れる笑みと笑み。
さあ――ボクと戦(おど)って頂けますか、クワルバルツ!
激突する。全てを滅ぼさんとする竜の意思と、抗わんとする人の意思が。
斬撃。魔力。銃撃。射撃。治癒。
数多の行動が全てを導く。一手でも遅れれば結果が異なる――その最中にて。
「また逢ったな……クワルバルツ。あのままでは終われぬのだよ。
――この刃、今一度その身を砕けるか試させて頂く」
「……以前とは随分と違った御姿ですけれど、それでも確かに貴方はあの時の竜、なのですね」
ブレンダとリディアが重力の攻勢の狭間を抜ける。
近付けばなんとかなる、というものでは無い。重力を操るクワルバルツの……恐ろしき懐に飛び込む事になるのだから。されど両者共に覚悟は出来ている。以前の借りを返すのだとばかりに。
闘志は屈さぬ。魂は屈さぬ。さぁ――
「いざ尋常に勝負です!」
リディアは往く。刹那の至高を顕現し、奴めの防を突破しうる斬撃を此処に。
穿つのだ。奴の鱗を。奴の肉を。奴の骨を。
その果てにこそ勝利があると信じている! この剣を今度こそ――届かせるのだ!
「ぬぅぅぅう! 小娘共がァ――ッ!」
「違う。覚えよ――我が名はブレンダ。貴様に負けた騎士の名だ!
そして……貴様を斬る騎士の名だ! この名を刻めクワルバルツ!」
であればクワルバルツの対処にも限度があるものである。
出来た隙。見逃さずブレンダが――一閃する。
絶大なる意志と共に。竜殺したりうる一念を目指して。
――血飛沫舞う。
遂に竜の身に、明確な傷が刻まれた。
イレギュラーズ達の数多の攻勢がクワルバルツへと注ぎ込まれ――
「ふ、は、は――」
と、その時。
「痛み……痛みだ。小さき人間如きにこの我が……
ふ、ははははは! いいぞ、そうだ! やはり生の痛みこそが我が命を実感させる!」
――クワルバルツは口端を吊り上げるものだ。与えられた痛みに……歓喜している。
それは彼女が戦闘狂――だからではない。
クワルバルツは、実の所。誤解恐れずに言うのなら。
『痛いのが好き』なのだ。
彼女は生まれた時から強かった。己を脅かす者などいなかった。
痛みなどとは無縁であった。それが当然であると思っていた。
だからこそ何に滾る事もなかった。
……しかし痛みだけは滾らせる。己の心の臓を。
脅かされる生命の危険信号こそが彼女の楽しみなのだ。
それを感じ始めたのはいつだったか。ずっと昔だった気もするし。最近では練達での爆破の折にも――
とにかく、血沸く。魂が躍る。弱き背筋をなぞる様な感覚が、むしろ心地よい!
特に。己よりも弱者たる筈の者達が己を脅かすなど脳髄が沸騰しそうな程に!
――とはいえ別にわざと傷を負ってやる気など砂一欠片程の意もありはしない。
いやそもそも斯様な意図を彼女がしかと自覚しているかも……
「いいぞ。お前達の矮小な力をもっと見せてみろ。我を屈服せしめるか魅せてみろ――!」
然らばクワルバルツは真なる姿――
竜へと至る。
周囲の状況など完全に鑑みぬ姿に。全霊たる竜の――姿に。
●
クワルバルツとの激戦が繰り広げられる中。
もう一方では多くの大樹の嘆きとの交戦が行われていた――竜という超常の一個体はおらぬものの、では此方が楽かと言われればそうではない。クェイスにより操られ指向性を与えられた嘆き達は明確に『敵』を滅さんと向かってくるのだから……
「一つ一つは容易くとも、これだけの数がいては厄介だな……
まぁ、これは止むを得んか。確実に潰していくより他あるまい――」
故にこそシャールカーニは前へと出るものだ。敵の注意を引き付けるべく。
防備を固め、敵の攻撃を凌ぎながら。それでも彼女は戦場に在り続け……
「余所見をしている間があるのか。貴様らはこの私だけを見るがいい」
名乗り上げる様に己が役目を果たさんとするものである。
「左翼側、敵の攻勢が強まっていますね……援護に行きましょう。ルドラさん――!」
「あぁ任せろ! 全隊、怯むなよ……! 故郷に手が届くのだ! 我々の力で――取り戻すんだ!」
同時。周囲を俯瞰する様な視点から戦況を見据えている佐里は、敵の攻勢や味方の状況を素早く把握していた――敵の数が多い以上、どこかが突破されれば苦戦は必至。故にルドラ率いる迷宮森林警備隊と連携し敵の攻勢を押しとどめるものである。
邪悪を祓う光を放ち、多くの弓矢を放ちて戦線を維持せしめん。
当の迷宮森林警備隊も奮戦していた。隊長、ルドラ・ヘス指揮の下に彼らの闘志は最高点に達している――彼らにとってファルカウと言う故郷を取り戻す為の戦いでもあるのだから。
「ふふん! 敵も味方も大勢ね! いいわ――こういう状況こそ、アタシがいれば百人力よ!」
「ううん、凍ったり燃えたり、大変ね……少ししかできることはないけれど、可能な限り手はつくしましょうか。この辺りが正念場、でしょうしね」
そして軍人としての統率力を見せる深白が周囲の状況を見据え、指示を飛ばすものだ。孤立する友軍がいないように。いれば本体に合流させる様に――そして己もまた前線にて雄姿を示し、士気を上げようと。不可避の斬撃にて敵を斬撃。
直後にはヴァイスもその動きに呼応するものだ。
遠方より敵を穿つのである。連続的に攻撃を重ね、圧を加えていき。
「ふむ……深緑の樹が燃えるなど珍しきこと。はたして二度あるかどうか。
――中々ない景色でございますね」
更にすみれは――些かばかり観光気分。生涯で一度あるかないかと言うファルカウの炎上……記念に来訪せずにはいられなかったのだ。とはいえ、敢行するには随分と騒音対象の虫が多すぎる。
「それでは駆除に参りましょうか。ええ、観光ばかりもなんですし……参与致します」
故に嘆き共を討伐せしめん。敵を探知し、その動きを妨害しよう、と。
「おうおう、すごいことになっておるのう。あちらで暴れとる竜もそうじゃが……
ま。わしは剪定じゃな。ほれほれ――どうした、わし一人捕まえる事も出来んのかの?」
直後。戦場を跳躍し続けているのは白妙姫だ。
魔性の切っ先を振るいて嘆き共を惑わそう。囲まれぬ様に跳びはね、時に敵すら足場とし。
彼女はまるで舞うかのように戦場に在り続けるものだ。
落ちる速度と合わせて打ち刀を添えれば――重力の儘に剣撃もまた鮮烈となるものか。
「……あまり慣れていませんもので。些か拙いかとは思いますが」
「なに。拙くたって良いさ――一緒に戦えるだけでも頼もしいし、やる気も出る」
同時。嘆きへと攻勢を仕掛けるのは、コルクとウィリアムだ。互いに傍にあらば、剣撃と瞬く星の閃光が美しくも絡み合うかのような連携を見せるもの。敵は強大にして決して少なくない数がいる、が。
互いがいれば、きっと大丈夫だと思えるから。
だからコルク。
「――生きて勝つぞ!」
「ええ――ウィル様。必ず、共に参りましょう」
その為ならば些か『はしたなく』もなるものだとコルクは往く。
乙女とは時に勇敢にして鮮烈……つまり血に濡れる日もあるものだ、と。一度決意を定めた彼女の攻勢は正に『その通り』に。頼もしい王子様に良い所を見せたいのだから。そしてウィリアムも――そんな彼女を護らんとするべく行動するもの。
時に星の魔力を。時に治癒を。合わせ委ねて無事を最優先に願いながら、敵陣を穿つ。
「むぅ……これが『大樹の嘆き』、のぉ。エルフの連中は森に余所者が入り込むことを酷く嫌ったものじゃが……その精神がまるで形となったかのような存在じゃの」
「いっぱいいるねぇ。大樹の嘆き……かぁ。怒ってる大樹がいっぱいいるって事なんだ」
しかしゲンリーやクリスハイトは斯様な嘆きの姿に――思いを馳せる所もあるものだ。
エルフ。耳長き長命種の類とコレらには共通点があると……
これと竜と食い合わせる策もどうやらあるようだ――が。
「しかし。どうであれ真正面から食い止め殴り合う戦力も必要じゃろう、なぁ!」
策がどう転ぶにせよ、今は奴らと相対せねばならぬと。
ゲンリーは己が膂力を振るうものだ。斧を振るいて大樹共を抑え込む――! 更にその動きを援護する様にクリスハイトの治癒術が振るわれれば、特に前線を担当している者達に更なる力を授け与えるものである。
「どうにも敵の親玉の原因の一端は……ラサ商人もあるのだろうから、同じラサ商人として申し訳なくは思うのだがね。だが流石にこれは見過ごせんな――生存競争の敗北を恨む、それは結構だが、やり過ぎた、と言う事だ」
そしてハビーブも助力に馳せ参じる。どこぞにいるであろうクェイスを探し求める者達を援護すべく、先頭にいる嘆きに狙いを定め――一撃放つもの。
こうして依頼が出されるにまで至った以上、同情出来る様な段階ではないのだから。
指先に加減は込めぬ。さぁ後幾体相手をすればよいのかな?
「なんだっけ? あのクェイスとやらが大樹から零された存在となるとアタシと出自は近いもんさねぇ。いやあ、ああいう子を見ていると目覚めたばかりの頃のアタシを思い出すよ……ま、だからといって加減出来る訳でもなし。なんとかしていこうかねぇ!」
直後にはアウレリアもまた迫りくる嘆きを足止めするものだ。
水流の茨にて押し流す様に。樹木に冷気はご法度だろうが……まぁ勘弁してもらうとしよう。なにせ敵対中だ! それよりもとにかく多くの敵を纏められる位置取りをしながら――放つもの。さすれば。
「そう。これは仕方のない事なのだわ……正統な理由!
火を使っても仕方ないのだわ! と言う訳で大樹から零れたカビは消毒するわ――!」
きゐこが燃やし尽くす。上空にて圧縮した魔力の熱波が嘆き達へと――!
やむなしやむなし。炎熱百計の名に恥じぬ戦いぶりを披露して……しかしそれだけではない。左右から嘆き達を押し込んで、なるべく纏めて効率よく焼き払おうと工夫もするのだ。地形と味方と連携し、追い詰めていけば。
「――レンブランサ様」
そして。嘆き達を統括しているクェイスへの道を阻むレンブランサ……
その眼前へと至るのは、ニルだ。
ニルは、レンブランサ様に泣いて欲しくないのです。
あの日みたいに。
「笑っている所が見たいのです」
「あぁあぁ。それは叶わぬ願いです……道は後ろには戻れない。『知った』からには戻れない」
「どうしても、なのですか?」
直後。ニルを襲い来る嘆きの一体――と同時に、レンブランサも魔力を収束。
それは攻撃の為だ。故に、ニルは反射的に跳び、同時に冷気の力を顕現させる。
――ダイヤモンドダスト。
奇麗な、綺麗な雪結晶の力を此処に。なんとか、レンブランサを食い止めんと……
「何言ってやがる。その道を閉ざしてるのは自分自身だろうよ」
続けざまに至るのはスースァである。
彼女は撃を成す。邪魔な嘆き共を薙ぎ払い、道を切り開くのだ。
……何かを守りたい気持ち自体はわからんでもないが。
「いつまで視界を涙でボヤけさせてんだ。それじゃ守りたいものまで見えなくなるぞ」
世界を涙で閉ざして、見える景色は『己が見たい』と願う世界しかないのだと。
魔種、茨、寒波……そんなのを使えば使う程に己が現実は閉ざされていくだけ。
――目を覚ませと一撃叩き込めば。
「どうしても泣くのならば。どうしても涙が止められないならば――
レンブサンサ。その涙ごと、墓に埋めてやろう」
「そうはいかない……私は止まる訳にはいかないのです。無遠慮なる来訪者は今もこうして……」
更にリースヒースの魔力がレンブランサの意識を引くものだ。無視できぬ一撃を此処に。さすればリースヒースに反撃の一手が紡がれるものだが――数多の攻撃を遮断する障壁がソレらを阻む。
「無駄だ。クェイスよ、レンブランサよ。
結局、御身らに逃げ場などもうないのだと――知れ」
クェイスへと攻勢を成す者達の邪魔はさせぬと。
リースヒースは堅き意志と共に挑めば――
「逃げ場だと? 愚図共め……
此処こそが。此処ファルカウだけが僕の還る場所だ。
元より僕はどこにも逃げる気などありはしない」
遂に姿を捉えるものだ。
この地域を統括している大樹の嘆き上位のオルド種たる、クェイスの姿を。
倒すべき存在。その姿を真っ先に見つけたのは――
「ごきげんよう、クェイス。全部終わるまで私たちと遊んでくれるかい?」
「ひひ、遂に見つけましたねぇ……! よーしやってやりますよ!
叩くと面白い事になるかもしれませんからね! こっからが正念場ですかぁ!」
京司やエマ達である――そう。クェイスの事を早い段階から索敵せんと動いていた者達がいたのだ。エマが戦場を飛び跳ね、優れた三感を駆使し。邪魔立てする嘆きがあらば京司が薙ぎ払い……そしていざや見つければ武器商人のテレパスを中心として。
言を発する事なく連携して動こう。
気付かれぬ間に距離を一気に詰め、そして『武』と『言』をもってして攻め立てるのだ。
「おらぁ! 俺達の邪魔をするんじゃねぇ!! それともぶちのめされてぇのか!!?」
更にオランがクェイスまでの道を切り拓かんとリトルワイバーンを駆り強襲。
京司の動きに次ぐ形で往くものだ――敵に態勢を整えさせんばかりの勢いと共に攻め込もう。近くに潜む敵がいないか耳も澄ませ、彼は豪胆に奮戦する。こんな所で己が死ぬかと強い意志と共に――
「愚図め、頭が高いぞ……そんな程度で僕に近付けるとでも?」
だが。クェイスは己が力を振るいて更なる嘆きを出現させるものだ。
それは周囲の大樹を無理やり使役しての行為。
ファルカウ以外全て有象無象とする彼が周囲に圧と支配を加え続けて……
「全く。随分と乱暴に事を運ぶものだ……
しかしそうまでして実現しようとしてる停滞(これ)を大樹が望むとは考え難いねぇ。
──『最初の少女』により良い変化を望んだのは、他ならぬ大樹なのだから」
「薄汚い外界の者が大樹の心を代弁するつもりか!?」
「ヒヒッ。ソレ、自分もやってる事だろう? 本当に大樹が『ソレ』を望んだのかい?」
さすれば武器商人が彼の心を乱さんと言を用いるものである。
周囲を俯瞰しながら彼を激昂させる様に。無論、それだけではなく彼自体に更なる負担を強いんと一撃を穿たんとするものだ――“旧き夜”を此処に。その魂に囀りを……
「黙れ黙れ外界の愚図が。
如何なる理由があれ森を燃やさんとする塵に正統な理由など何一つ存在しない。
お前達に必要なのは死のみだ!」
「……色んな人達の思いが詰まったファルカウ……燃えてしまうのは少し、寂しくなってしまうけれど……これしか方法がないんだ。冬に呑まれ、皆が眠りに落ちてしまうよりは救いが……きっとあるんだ」
然らばクェイスは憤怒と共にイレギュラーズ達を押しのけんとするものである。
故にヨタカは言う。クェイスを庇わんとする嘆きを一掃せんとする魔力を紡ぎながら。
――悲しみも淋しさも全部背負って、前を向く必要があるのだと。
「守護者であり秩序者……つまり、看守ね! それなら気持ちは分かるわ! だけど――ちょっと強引が過ぎるわね! やり過ぎだと、分かるまで分からせてあげるわ!」
そしてセチアもまた往く。陸鮫を駆り、一気にクェイスの下へと。
嘆き達の撃が紡がれようが知った事か。自身の防の力を此処に、敵に打ち付けながら。
彼女はクェイスに心を読み取る術を行使せんとするものだ。
さすれば気付く。『何』かいると。
アレは一体――アレが『歪み』なのか?
『ンッふっふ。いけませんな。敵に無防備に干渉する様な事は』
「ッ、貴方は……!?」
刹那。何かの声が響いたと思えば……セチアの脳髄に逆干渉の様な『何か』が生じる。
何らかの魔力。ソレを受けた直後、セチアには深き睡魔が襲いかかりて……
直後。更にクェイスの下へと向かわんとするは星穹だ。
クェイス。固執して、執着して……可哀想な人。
「貴方が心底崇拝するファルカウは、それほど虚弱で柔な霊木だったのですね」
まぁ。安心なさいな。『私達』の敵は貴方のみ――
「――ファルカウを守るのがキミの本能ということなのかな。
けれどファルカウに根差す人々の平穏を害するという事なら……
俺は、この剣を振るわねばならない」
彼女はヴェルグリーズと共に往くものだ。星穹は彼の盾とならんとする動きを伴いながら、ヴェルグリーズは一直線に――クェイスを狙いて。
「全てが一段落したら、話そう。キミの事を知りたいんだ。
――きっと分かり合える。だからこそこの場は制させてもらうけれど!」
キミの存在意義を否定するつもりはない。
けれど――此方にも退けない理があるのだ!
紡ぐ斬撃は想いと共に。星穹の守護を得ながら――彼は全霊を此処に振るうのである。
「御託をほざくな! 僕以外にファルカウが守れる者がいるものか!
僕の事を誰が理解できようものか!」
だがそれでもクェイスは全てを拒絶する。
誰も受け付けない。誰も彼もが敵だと断じて。
「……成程。貴方がファルカウの事を大事にしているのはわかります。
ですが、それは――ファルカウの意思を確認したのでしょうか?」
直後。言と共に襲来したのは沙月だ。
一歩で踏み込む。縮地の如き神速と共に繰り出すは。
「自分の意見だけを押し付けて守ろうとするのは自己満足にすぎないのでは?
『こうであるべき』としているのは――貴方の思いよがりとも述べましょうか」
「黙れどいつもこいつも……! 森に火を放つ様な貴様らがいう事かッ!」
全霊の一撃。レンブランサの警戒すら潜り抜け、彼女はクェイスの懐へと。
彼が反応するよりも早く一手を紡ぐ。
三撃一閃、柔より剛撃と成し……クェイスに打撃を加えれ、ば。
「……もう少し、かしら。全く。シフォリィから何度か聞いていたけれど、ホントいい性格をしているわねフィナリィさんは……!」
同時。アルテミアもまたクェイスへと斬撃を成しつつ思考するものだ。
『アレ』が生じるまであともう少し必要かと。故に
「魔種に好き勝手されているだけじゃなく他の大樹を軽んじておきながら、ファルカウの守護者を名乗るなんて随分と滑稽ね? あぁ、或いは自称なのかしら――? それなら仕方ないわね」
「なんだと貴様……僕を愚弄するつもりか!」
今暫しプレッシャーをかけるのだとアルテミアは動き続けー- そして。
「いやーはっはっはっはっは! クェイスとやら、随分と怒り心頭のようじゃが、妾のフェニックスの味はどうじゃったかのう? あっ。ちなみに妾は最高に気持ちが良かったのじゃ!! わははは!! もう一回ぶち込んでやりたいの~~~!!」
「貴様かァ――ッ!! 死ねッ! 死ね愚図!! 魂すら残すかァ――!!」
瞬間。クェイスに笑い声……それは、アカツキだ。
「いやー仕方がないのう、妾も別に撃ちたかったわけじゃないのじゃが、今回は事情が事情だったからのう! いやー―――ホント、つれぇのじゃ! 故郷に炎をぶち込む行為、つれえのじゃ、かぁー--っ!! でもやらんと行けんかったしのー! かぁー――――っ!」
「薄汚い下劣畜生がァ! 顔に滲んでるぞ、笑みの色が!!
殺す。例えお前の魂が十回転生しようとも全て捻り潰して虫の餌にしてやる!!」
煽り倒す。然らば、クェイスにとっても炎をぶち込んだ事件は許しがたき行為だったのか、殺意が全開だ――なんとなし、周囲の嘆き達の攻勢が一気にアカツキに向いてる気がする。ので、炎をまた使って嘆きにぶちこんでやるかの~~! かー! 仕方ないのー! 妾もしたくないんじゃが、命の危機だしのー! かー――っ!
さてしかし明らかにクェイスの隙が大きくなっていた。
であれば今が好機であると誰しもの目に分かり――
「ふむ。大樹の嘆きの動きが雑になっていますね……これは一気に攻め立てる事も出来そうです」
「オーッホッホッホ! 大樹で悪さを行おうとする悪い精霊さんにはこの姫がお仕置きですわ~! いくら森に縁のある精霊さんといっても、やっていい事と悪い事ぐらいありますのよ! 反省してくださいませ~!」
戦場を貫く魔砲を放ったのは彼方に麗姫だ。
嘆きとクェイスを纏めて薙がんと彼方は接近しながら圧を加え続けるもの。今この瞬間こそが攻め時なのだ……そして麗姫も派手に光り輝き己が存在を誇示しながら姫の威光――つまり姫ビームを用いて敵を打ちのめす。
否。それだけにあらず! 上手い事近付くことが出来れば――
「これぞ姫の礼儀作法が一つ――初見の相手には此方から『ブッコミ』ますわ!」
「がッ……! 塵が、僕に触れるんじゃあない!!」
握りしめた拳こそ最強苛烈! オーホッホッホ! やはり姫力(物理)こそが最強! 直後にはクェイスの反撃により撃が紡がれるも――姫の威光は決して曇らぬとばかりに、高笑いは未だ響いていた。
そして一度乱れた嘆き達の戦線を縫ってクェイスへと更に接近するは祝音もであり。
「大樹ファルカウの為……ほんとうに? クェイス……君は、ファルカウを魔種の思惑の道具に成り下がらせるの? 幻想種さん達やこの地を犠牲にして存在し続ける、罪ある樹にしてしまうの?」
彼は告げる。悲しき想いをその内に秘めながら……
今の状態は……ファルカウを『君も』傷つけてるだけだと!
「クェイスのばか――! 分からず屋は、誰も幸福になんてしないよ!」
「ほざくな! 幻想種などファルカウより齎される叡智を吸う害虫に過ぎない!! ああ誰も彼も邪魔なのだ! 見ろ! 火を放ち、ファルカウを傷つける事すら『仕方ない』とするのが愚図共だ! そんな愚図共なんぞいない方がマシなのだ!」
「――クェイスさん。炎を向けたことは、謝ることしかできませんが――しかし」
祝音が放つ光。それがクェイスの周囲の敵を祓いて――同時。
言を紡いだのはリンディスだ。
貴方がファルカウの嘆きであるのなら、ならば。
「改めて……全てを拒否ではなく、一緒に道を探しませんか」
樹は、枝葉は。新しい芽吹きを齎すものでしょう?
永劫に変わらないモノなどありはしない。全ては巡るものだから……
きっと。共に歩める道もある筈だと――彼女は治癒の力を振るいながら、視線を向けるものだ。
クェイスに。その意思に。その魂に――
「不可能だな。お前達が即刻深緑を退去するか、僕が消え失せる以外に道はない。
僕はずっと見てきたんだ。ファルカウを。ファルカウの歴史を。
ただ一つ。この世の太古から在り続けた不変の存在を――」
だが。それでもクェイスは受け入れない。
彼にとってファルカウこそが唯一無二。如何なる大樹とも異なる、神聖なる存在……
だからカロンに与した。
あの猫が全てを閉ざせば、ファルカウもまた外部にこれ以上侵食されぬから。
眠れ眠れ世界よ。閉ざせ閉ざせ森よ。
永久に変わらぬ世界こそが彼の望み。
「だからこそ退け。最早お前達など、存在からして不要なんだ!」
「――ったく、ハードな戦場に来ちまったもんだぜ」
同時。クェイスの支配している嘆き達の攻勢が強まる――ソレを感じたのはジェラルドだ。イレギュラーズ達の戦線に穴を開けんとしているのか。どこかでも隙が生じればそこから逆転せんと……
しかし終われない。朽ち果てる事など出来ようか、こんな所で!
――友から預かっているハンカチを彼は想起しながら、奥歯を噛みしめるものだ。
「コイツも……返してやらねぇと、なァ!!」
故にこそ。あと一歩の力を絞り出す。
まだだ。まだ俺は立つことが出来るのだから――!
魔力を駆使し一撃に乗せて。時に壁となりて皆を支えん――! さすれば。
「しつこい連中だ! ぐッ……ならば一気に押しつぶしてやるッ!」
どれだけ払おうとやってくるイレギュラーズに業を煮やしたクェイスが。
一気に大樹の支配範囲を強めんとした。
己に負担があろうが構うものか。今この時奴らを倒すことが出来れば――と。
その時。
「がッ!!? な、なんだこれは……!!」
クェイスに異変が生じる。
顔を歪め、悶える様に。それは――
「――おまじない。忘れたんですね、本当に」
『おまじない』だと、シフォリィは告げるものだ。
かつての魔法使いが成した魔術の一端。
大樹を傷つけぬとした約束を忘れた者に降りかかった――災厄。
……クェイス。夢の中の貴方は、護る為の使命があっても。
決して森を蔑ろにはしなかった……
「なら――今こそ、ファルカウの意思を……!」
ならば、と彼女が行わんとしたのはファルカウの意思を呼び起こす事だ。
世界一とも言える大樹の意思。奇跡をもってしても一人の力で干渉しえるかどうか。
しかしクェイスのひたむきな意思をファルカウに伝えれば。
彼の心を通じ合わせること出来れば――救えるかもしれない。
それが、貴方と『私』の友の為ですから……!
樹の意思よ。護り手に、刹那であろうとも貴方の意思を――!
『悪いですが。コイツの魂は私のモノですぞ。余人にはご退場願いましょう』
――だが。その瞬間。
シフォリィの願いが奇跡を結ぶよりも刹那に早く、クェイスの内から『何か』の魔力が零れた。嘆きの操作。大樹の守護。それらに割いていた力が攻勢に転じ、今ぞ此処に。魔力の波の様な、眼に見えぬ『何か』が幾人かのイレギュラーズを覆ったと思えば――
眼の裏が、熱い。
これは、馬鹿な。眠気だ。
極度の睡魔が脳髄すら埋め尽くす様な勢いで、抗えぬ……
「シフォリィ。大丈夫」
と、その時。
「守るって、誓ったから――一人にはしないから」
倒れ伏すシフォリィ。途絶える意識の刹那――あぁ。
親友の声が、すぐ近くで響いていた。
●
クェイスの操作が乱れたのは、クワルバルツが竜の姿を取ったのとほぼ同時であった。巨大な身へと変じた竜と言う目立つ存在が在らば――嘆き達は奴へとも攻撃を仕掛ける。
「ええい、良い所で邪魔をしおって……纏めて失せよッ!」
「来るよ……! クワルバルツの、あの重力だ!」
「貴女の『とっておき』にはもう負けません! 今度こそ――勝利の鬨を掲げるんです!」
然らばクワルバルツは苛ついた様に一撃成すものだ。
――グレート・アトラクター。クワルバルツの放つ極撃。
以前に見た事のあるスティアが注意の声を飛ばし。
アイラが皆を庇わんと――守護の力を降り注がせるものだ。
誰の命も奪わせぬ。完勝するのだと……!
――アイラ、君が奇跡を、未来を願うなら。僕はその意志を支えよう。
共に。その傍にはラピスもいる。例え何もかも消し飛ばす一撃だろうと……
負けないと信じている。
美しき伴侶の心は、この瑠璃よりも尚、美しく輝いているのだから。
……落ちる。絶大なる一撃が、地上へと。
吹き飛ぶ数多。生じる衝撃の波がどこまでも広がり――
「むぅ――! どうなった、かの!?」
「竜は……クワルバルツは、空へ?」
周囲の者を庇わんと動いたバク。更に佐里が状況を確認せんとすれ、ば。
クワルバルツの姿はなかった。見れば、彼方に飛び去らんとしている。
……クェイスの操作が乱れ、怠惰の勢力と協力が取れなくなった時点で『退き時』と感じたのだろうか。或いは彼らの親玉であるベルゼーの戦場の方で動きがあったからか――? ハッキリとは分からぬが、しかしクワルバルツは確かなる傷を負って撤退した様だ。
以前もグレート・アトラクターを放ったのは撤退する直前だった。あの技は、そう乱発出来るものでは無いという事か……? ともあれ。
「嘆き達の統制が取れていない。今だ、押し込むぞ……!」
「全く! 守りたい物があるのはいいことだけどよ……
魔種に故郷がしっちゃかめっちゃかにされた身としては黙ってらんねーな!」
竜が不在となり、そして戦線の乱れを感じ取ったルドラが警備隊に総攻撃を命じた。
さすればリックもまた彼らを援護するべく動き出す。ルドラが弓引く攻撃手として動くならば、指揮を引きつぐ様に。皆の動きを円滑にすべく動き続けるのだ――さすればその動きに伴ってか敵が大きく戦線を後退させていく。
「レンブランサ様――!」
同時。混迷する状況の中で、ニルはレンブランサを追う。
レンブランサは魔力を行使し、嘆きの波の中に紛れ撤退せんとする勢いだ……
けれど。
「ごめ、んなさ、い」
逃せないのだと、一撃紡ぐ。ゼロ距離で放つ極撃がレンブランサの胸元へ。
この国が……竜にも魔種にもめちゃめちゃにされて良い訳がないのだから。
加担するのなら、ニルは。ニルは。
「嘆く事はありません……ええ。むしろ……謝るとするなら……、…………」
が。命を奪うまでには事足りぬ。
それは深層心理で躊躇いがあったのか、それともあと一歩攻撃の手が足りなかったか。
――いずれにせよ。ニルの手を掴んだレンブランサ、は。
奇妙な魔力をニルへ伝える。
刹那。ニルの脳髄に響いたのは、子守歌――
……やがて全ては収束する。
戦闘の音は鳴りやみ、この地域の攻防戦は制されたと言う事か。しかし。
「何? 幾人かの意識が、途絶えた……!?」
ルドラは配下の者より報告を受けた。
――イレギュラーズの中に、深い眠りに落ちてしまった者がいると。
夢の檻に囚われてしまった者が――いると。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
深緑での戦いは遂に佳境。
眠り落ちる世界の狭間にて、はたして如何なる結末が待ち受けている事か――
ありがとうございました。
GMコメント
本シナリオは5/18日中に若干情報が追加されます。
ご縁があればよろしくお願いします。
●依頼達成条件
・クェイスに一定のダメージを与え、敵の戦線を乱す。
・クワルバルツを撤退させる。
双方を達成してください。
●プレイング書式
1行目は戦場を、二行目は同行者、もしくはグループタグを指定してください。三行目からは自由となります。(グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください)
書式は必ず守るようにしてください。
==例==
【B】 or 【クワルバルツ戦場】
リリファ・ローレンツ (p3n000042)
む、むむむむっきゃー!
======
●フィールド
【A】『クェイス・レンブランサ』戦場
後述するクェイスやレンブランサなどが存在する戦場です。
主に敵勢力としては大樹の嘆きが大量に存在しています。
【B】『クワルバルツ』戦場
竜種クワルバルツが存在する戦場です。
果てしなく強い個体です。この地域はHardを超えて難易度が挙がる領域だとお考え下さい。
●敵戦力
●クェイス
大樹の嘆きの上位種、オルド種の中でも『ファルカウ』より零れ落ちた存在です。
大樹ファルカウを神聖視し、それ以外全てを排他せんとしています――
戦場後方に位置し、ファルカウに防護壁の様な術式を展開しています。その他具体的な戦闘能力は不明ですが……今回は力のほとんどを、その術式や後述する大樹の嘆きを操作する事に割いている様です。その状態を維持している限りは、恐らく直接的にイレギュラーズを攻撃してくる事は無いでしょう。
●レンブランサ
ニル(p3p009185)さんの関係者で幻想種――だった筈の存在です。それはイレギュラーズを酷く恨んでおり、悲しげに涙を流しています。イレギュラーズは森を土足で踏み荒らす存在であると、そう認識しているようです。ファルカウを護らんとするクェイスと行動を共にしているのは、そういう所が起因でしょうか……
現在はクェイスと共に【A】の地点で大樹の嘆きと共に皆さんと戦わんとしています。
●大樹の嘆き×30程
この戦場の嘆きはクェイスに操作されており無差別攻撃を行ってきません。
明確にイレギュラーズに攻撃を行ってきます。ただし、それはクェイスの操作が及んでいる時のみになります。彼にダメージが行き渡るなど、なんらかの妨害が入ると再び周囲を巻き込む無差別攻撃を行うようになるでしょう……彼らは恐れを知らぬ者達です。もしかすればクワルバルツにも……
また、クェイスが周囲の大樹に干渉し、操作する事により(多少であれば)強引に嘆きを増やす事も可能な様です。
それなりの攻撃力を有しており不吉系列や毒系列のBSを付与してきます。
●『薄明竜』クワルバルツ
竜種であり、とんでもない強さを持ちます。
戯れに人型の形態を取っている様ですがダメージを一定以上加え、ある程度本気になると竜状態へと変じます。
人型の形態ではある程度周辺に気を使っている……様にも感じますが、一度竜形態へと変じればそんな事は無くなるでしょう――
・『重力槍』(A)
重力を槍の様に集め放つ一撃です。恐ろしい貫通能力を持ちます。
威力を小さくして複数の展開し、銃撃の様に降らせてくる事も可能です。
・『連星ブラックホール』(A)
域攻撃です。
攻撃前に、まず範囲内にいる対象には機動力・反応・回避にマイナス補正が付与されます。
特殊なBS扱いで、BS解除系スキルか、ターンが経過する事によって解除されます。
・『グレート・アトラクター』(A)
マトモに直撃すると、死亡する程の威力があります。
ただしこのスキルは竜状態でなければ使用しません。
・『空間歪曲』(P)
クワルバルツへの攻撃は、全てレンジが-1されます。(つまり超遠距離(R4)攻撃は、遠距離(R3)範囲内からでなければそもそも攻撃が届きません。また、至近(R0)攻撃には影響はありません)
……しかし実は練達での戦闘におけるイレギュラーズの作戦(発電所の爆破)などによりダメージが残っていて、体力的には万全の状態ではありません。同じくダメージを負っていると思われるフェザークレスは来なかったのに、なぜ彼女は来たのでしょうか……? 理由は不明です。
●味方戦力
●ルドラ・ヘス(p3n000085)
迷宮森林警備隊の隊長です。
弓を主武装とする人物で、全体的に優れた能力を持ちます。
基本的には後述する警備隊の指揮を執りながら皆さんと共に戦います。
●迷宮森林警備隊×30人
祖国を取り戻さんと士気が高い、深緑出身者の面々です
元々警備隊として動いていたメンバーだそうで、それなり以上に戦闘力を宿しています。基本は弓などを用いる後方支援型が多いですが、剣などを携えた近接型や、治癒に特化した人物も存在しています。基本的には数が必要そうな【A】の戦場に向かいますが、イレギュラーズからの要請があれば【B】にも赴く事でしょう。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●『おまじない』(※5/18追加!)
かつてマナセ・セレーナ・ムーンキーが、ある霊樹に施したおまじないです。
それは霊樹になんらか悪意的な神秘的干渉を行おうする存在がいれば、その存在にカウンターアタックを仕掛ける術式です。クェイスの戦場で彼に圧を加え続けていれば、やがて彼に対して発動する事が見込まれます。
どれ程の効果かは不明ですが、クェイスになんらかの影響はあるでしょう。
ただしこれだけで戦況が大きく傾く事はありません。
どこまで押し込めるか――勝利できるかは、皆さんの力こそが頼りなのです。
『おまじない』の情報:https://rev1.reversion.jp/page/top20220518190837
●『夢檻』
当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<タレイアの心臓>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
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