シナリオ詳細
<タレイアの心臓>夜をこえてゆけ
オープニング
●あたらしい伝説、妖精達の軍団
ファルカウを焼くという。
ハーモニアたちが永きにわたり何世代にわたり守り暮らしてきた森に火を放つという。
たかだか民家を燃やすのとは、歴史的にも意義的にも違い過ぎる、暴挙を通り越してもはや冒涜ですらあった。
その話を聞いて、花に包まれた美しい妖精が睫をうつむけるだけの表情をした。
「そうですか。あの方々がそう決めたのであれば……私達に是非もありません」
ひとの手のひらにのるくらい小さな妖精だった。
ドールハウスのようなお城に住み、妖精達に囲まれて、常春の都にくらす女王様だった。
名をファレノプシス(p3n000200)。通称は、『胡蝶の夢』。
彼女にとってローレットのイレギュラーズはとくべつだ。
この都が冬に閉ざされ妖精たちが滅び去ってしまいそうになったとき、救ってくれたのは彼らだった。けれど、そうしなければならなかったわけじゃない。
妖精達からみれば、彼らは『巻き込んでしまった』ひとびとのだ。
「女王……」
心配そうに声を上げるフロル・フロール(p3p010209)。
「わしは行こうとおもうよ。『恩を返す』と言ってしまうとおかしのじゃが、わしもひとりのローレット・イレギュラーズとして、故郷を救われた者として、行かぬわけにもいくまい」
『そなたはどうする』と、聞くことはしない。
女王が妖精郷を離れることは決してないのだ。あってはならないのだ。
『虹の架け橋』がかけられなくなること以前に、それが女王としての責務であるからだ。
女王は前を向き、そして言うべきことを言うことにした。
「フロックスを。それと……あの方々をお呼びして」
妖精女王のお城に、三人の妖精がやってきた。
ひとりはフロックス。女王の侍女であり、妖精郷と外の橋渡しを努めていた妖精である。
もうひとりはオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)。
異世界の妖精である。フロックスたちに比べれば四倍ほどに身体が大きいが、それにしたって人間の子供程度の背丈である。
そしてもうひとり、サイズ(p3p000319)。こちらもまた異世界の妖精鎌である。
先に口を開いたのは、女王のほうだった。
「サイズ。あなたは以前に、妖精の剣となってくださると――」
「はい。あの誓いは未だ揺らいでいません女王陛下」
先を続けるように言葉を重ね、サイズは伏せていた頭をあげる。
「妖精郷のためであれば」
「ありがとう。サイズ」
女王の視線は次に、オデットへと向いた。その隣のフロックスや、後ろのほうで様子を見ているフロルにも。
「ファルカウでは危機が迫っています。このままでは皆、眠りの呪いに閉ざされてしまうでしょう。ローレットの皆さんは、それを止めるために動くと聞いています」
「うん、その通りよ。今すぐにだって――」
「で、あれば」
女王がすこしだけ、重いトーンで言葉を続けた。
何かをサッしたのだろうか、オデットは目を見開いて言葉を止める。
「私達妖精郷の民は、今度こそ力を貸します。共に戦いましょう。
……いいえ、あなたがたに、託しましょう」
女王ファレノプシスは端から順に名を呼ぶ。
「あなたがたに妖精指揮官の地位を与えます。妖精達を指揮し、戦って下さい。
サイズ、オデット、フロックス、フロル」
「え、わしも?」
まさか自分にとんでくると思わなかったフロルが思わず腕組みを解いて自らの顔を指さした。
深く頷くファレノプシス。その瞳には、強い決意の色がある。
言い返そうと口をぱくぱくとしたフロルが、肩からふっと力をぬくほどに。
「わかったよ。なに、わしとて得意運命座標よ。役に立ってみせよう」
●救いある物語、常夜の王子
あるいは昔話をしよう。おとぎ話と言っても良い。
勇者王のパーティーメンバーに数えられる魔法使いマナセ・セレーナ・ムーンキーはかつて、深緑を壊滅させかけた存在『冬の王』を封じるべくその力を尽くした。
しかし永き時のなかで封印は破られ、今ではごらぐるみを上機嫌で吸っているという。
つまりは今現在直面している危機であり、問題なのだが……。
「『冬の王』に対抗……いや、対策しようとしたのが勇者王パーティーだけではありませんでした。
いまは名前も残っていない存在……『お姉様』と呼ばれた精霊使いは、ある対策を講じたのです」
アンテローゼ大聖堂から先。結界が破られた先の戦場でのこと。
ファルカウ攻略作戦が始まる少し前。
エリス(p3p007830)は胸の前に手を合わせ、悲しげにうつむいた。
「冬の王の力は絶大であり、倒す事は不可能。であるなら、人々の霊魂を予め回収して安全な場所に保管して、はるか先の未来へ逃れよう……そう考えたのです。
ですが、その計画は反対され、皆死を待つ運命を受け入れようとしていました。ある意味では、勇者たちを信じていたとも言えるのですが……。
ですから『お姉様』は決行しました。強力な精霊『夜の王』の残滓を封じた『常夜の鎧』を妹の呪物師ソミィに作らせ、全ての人々の霊魂を強制的に奪ったのです。
幸いにも……その直後に村は冬の王の暴力的な振る舞いによって壊滅。肉体は失われつつも、人々の霊魂は常世の鎧の中で守られることとなりました。
『お姉様』はその一点において正しかった。正しかったのですが……」
「霊魂を守り続けるという使命を帯びた『常世の鎧』はその装着者が死した今でも動き続け、当時から見てはるか未来、現代に生きるハーモニアたちの魂をも回収して回るという暴走状態にあるのでござる。当然、外からやってきた拙者等イレギュラーズは外敵も外敵。集めた霊魂や己の力を総結集し追い払おうと動いているのでござる。そういった意味で、冬の王とは利害的に協力関係にあるといって良いでござろうな」
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)がそう説明を加えると、イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はすこしだけ悲しげな表情をした。
胸に抱いたうさぎのぬいぐるみ『オフィーリア』にきゅっと力を込める。
傍らに立っていたビスクドールのメアリが少しだけ動いて彼の脚を小突いたが、それはイーハトーヴが無意識におこした操作だったのだろうか。ふと見下ろすと、メアリはもう動いていない。彼女が自分に語りかけてくれた夢のことを思い出す。あれも……忘れられた誰かの『願い』だったのだろうか。
「みんなを守ろうとした力が、未来の人々を傷つけちゃうなんて……そんなのは、悲しすぎるよ。止めてあげなきゃ」
「……」
それまでじっと話を聞いていたグリーフ・ロス(p3p008615)が、その赤い瞳をうつむけた。
祈りと願いが形をなし、願いだけが忘れられる。そうして残された物体は、いずれ呪いとなって生き続けてしまう。
その環境に、共感するところがあったのだろうか。それとも、哀れみがあったのだろうか。
余人にはその内心は計り知れないが、グリーフは少なからず顔をあげ、言うべきことをいった。
「わかりました。私も協力しましょう。いずれにせよ、この深緑を閉ざし続けることはできませんから」
そう聞いて、殆どの者は彼女の領地に根ざすというマナの木を想像しただろう。確かにグリーフはそう連想したものの、本当に考えていたのは呪物たちと自分が『似ている』ということだったのだが……。
「『お姉様』も、眠りの世界でそう私に訴えかけました」
エリスはそう言って、組んでいた手をゆっくりと下ろす。
彼女たちの目に浮かんでいるのは決意だ。
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が帽子の内側に指を突っ込んでかりかりと頭をかく。
「ま、これも乗りかかった船だ。付き合うぜ。それで俺たちは何をしたらいい?」
エリスは頷き、そして指にはめた指輪ドリーミングアイズを見つめた。
「『常夜の王子』ゲーラスと戦い、追い詰めます。そうすれば……自ずとやるべき事が分かる筈です。この指輪に込められたものが、『あの子』が保存した強大な呪いなのですから」
イーハトーヴが『つまり?』という顔でヤツェクを見る。
そうなるのも無理はなかろう。ヤツェクは色々な説明をすっとばして、分かりやすい説明の文句を口に出した。
「つまり――呪物(バケモン)には呪物(バケモン)をぶつけんだよ」
●決着の物語、人工の大魔女
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)。そしてフラン・ヴィラネル(p3p006816)が抱く因縁に、ようやく決着がつきつつある。
というのも……。
「あそこに展開してるの、全部アルメリアちゃんだよね」
「えぇ……」
ファルカウ攻略戦において、敵となるゲーラス軍が展開した部隊の中でひときわ異質な集団をみつけた。
それは、『白いアルメリア』とも言うべき集団が隊列を組んでそれぞれ巨大な魔方陣を展開している光景だ。
外見特徴はかつて妖精郷を騒がせたアルベドというホムンクルスに似ているが、妖精核は全て回収し救助したはず。
「ということは、あれはアルベドを模倣した呪物ってことよね」
『そうよぉ』
突然。援軍にやってきた妖精のひとりがパッとスクロール状の手紙を広げた。
『アルメリアちゃん、よくここまでたどり着いたわねぇ。昔のアルメリアちゃんじゃありえないくらいに強くなって……お母さん嬉しいわ。
けど、この先もっともっと強くなって貰わなくっちゃね。だから、完成されたキトリニタスアルメリア・アナザータイプともちゃんと決着をつけるのよ』
二度見するアルメリア。
二度見するフラン。
妖精はもう一本のスクロールを手に取ると、それを展開する。
『常夜の王子ゲーラスは古代の精霊を動力源にした強力な呪物兵器よ。能力は霊魂の回収と転用。「皆で一丸となって頑張ろー! おー!」をちょっと歪んだ形で体現した兵器よね。
キトリニタス・タイプアルメリアはその影響を偶発的に受けて生まれた特別製のアルベドだったのよ。
覚えてるかしら。アルベド・タイプアルメリアが発見されたのは妖精郷。それも穴だらけの遺跡の中だったわよね。妖精じゃなくて人間サイズの。あれは妖精郷に妖精達が王国を作るよりずっと前にあった、「夜の眷属」たちの遺跡よ。そこに残された力を、あのアルベドちゃんは手に入れてしまったのね』
「…………」
言われて(というか書かれて)アルメリアは記憶を巡らせた。当時自分を遥かに超える戦闘能力を持ったアルベドが出現し、皆で力を合わせて戦ったにもかかわらず二度にわたって敗北してしまった。それだけの存在を、あの錬金術師が意図的に作り出すのは不自然だ。できるなら、もっと大量に作っていて然るべきだからだ。
「あれは特別な個体だったのね。まあ……最初からそんな感じはしていたけど……」
妖精がもう一本のスクロールを広げる。
『いまのキトメリアちゃんはゲーラスと手を組んで、ホムンクルスボディに呪物化したハーモニアたちの霊魂を埋め込んで擬似的なアルベドを大量に作り出しているはずよ。
あの子達を倒すことは、すなわち、霊魂を奪われたファルカウのひとたちを助けることにもなる筈。
沢山経験して、おっきくなるのよ。あと、小さくなったブラをいつまでも使ったらダメよ? 元気でね、ママより!』
妖精は一通りスクロールを丸め直すと、ぺこりと頭をさげて隊列へ戻っていった。
顔を見合わせるアルメリアとフラン。
「えっと、つまり……」
言いよどむアルメリアの手を、フランがぎゅっと掴んだ。
「妖精郷のリベンジ、再び! だね! アルメリアちゃん!」
言われて見ればと振り返る。集まったのは妖精郷からきた援軍たち。
眼前には『人工の大魔女』率いるホムンクルス軍団。
これを打破したならば、過去の自分を真の意味で乗り越えたと言えるだろう。
「いいわ。やったげる。もう負けないって決めたもの」
腕まくりをして、アルメリアは歩き出した。
●夜をこえてゆけ
かくして、ファルカウ攻略戦が展開された。
あなたが配属されたのは対ゲーラス作戦。
『常夜の王子』ゲーラスを首魁とする呪物&呪霊の軍団に対して、イレギュラーズ&妖精合同軍が結成され全面対決が行われるのだ。
呪物たちの核として使われているのはファルカウで眠りにつくハーモニアたちの霊魂だ。これを全て倒し尽くし、霊魂を解放しなければならない。
人々を守るため、そしてファルカウを取り戻すため。
大いなる戦いが幕をあける。
- <タレイアの心臓>夜をこえてゆけ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月06日 22時05分
- 参加人数57/50人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 57 人
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参加者一覧(57人)
リプレイ
●妖精達の戦争
溢れんばかりの呪物や呪霊の群れがある。たとえイレギュラーズたちが総出でかかったとしても倒しきれないほどの数である。
だが……。
「アタシの大切なお隣さん。アンタたちも力を貸して頂戴ね」
竪琴を優しく奏でた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)。彼に応えるように槍や弓を構えた無数の妖精たちが空へと飛び上がった。
「アンタたちの大事なお家を、これ以上好き勝手にさせるもんですか!
それに大丈夫よ、アタシたちがついてるんだから♪」
音楽が初めて戦争に使われたのはいつの時代からだったか。ジルーシャの奏でる優しくも勇猛な音色に背を押され、妖精達が果敢に呪霊達へと襲いかかる。
「妖精部隊の皆さん、一緒に頑張りましょう……! わたしたちで皆を支えるんです!」
竪琴の音楽に合わせるように、『勇気の歌』柊木 涼花(p3p010038)はケースから取り出したギターを弾き鳴らした。
「戦い方は一つじゃない、支えることだって戦いなんですから!」
混じり合い、厚みを増した音楽が妖精たちの圧を何倍にも高めていく。サイズは相手よりずっと小さいはずの妖精達であるにも関わらず、いまや呪霊達の最前衛部隊と互角に張り合うかのようだ。
「以前のボクであれば、深緑に火を放たれることに何も感じなかったことでしょう。
しかしボクは、一見不必要に見えて大切なモノがあることを学びました」
背中のコアから光のラインが一瞬だけ流れ、瞳を開き猫耳型ヘッドギアを立てた『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は背に固定していた鎌を展開した。
「伝統や文化を蔑ろにすることの重大さを、今のボクは知っています。負けるわけにはいきません」
先陣を切って飛び込むハイン。呪物となった『からっぽ鎧』がハインの鎌を盾で防御するが、その一合のなかで相手の特性を見抜いたハインは妖精達へと呼びかける。
魔法の集中砲火を浴びせる妖精達。
「た、頼りないかもしれませんが……シャーロットに、ついてきてほしいのです! シャーロットは魔法少女なのですから、きっとみな様の事は助けますです」
そこへ力の限りの魔魔力を林檎飴のように透き通ったマジカルステッキにため込んだ『特異運命座標』唄青・シャーロット(p3p010522)が魔法を発射。
赤い球体となった魔力体が『からっぽ鎧』へ着弾したかと思うとグバッと開いて相手へ食らいつく。
そこへ林檎飴みたいなハンマーを持った妖精達がよってたかってぽかぽかと殴りかかった。
序盤は優勢――だが敵もただ並べられているわけではないらしい。空に浮かび上がった無数のランタンが呪われた火を灯してゆらゆらと揺れ、はるか彼方から飛来した大量の炎が妖精達へと降り注ぐ。
「無理せず回復していくぞい」
『浮雲』モルン(p3p007112)がダメージを受けた妖精達を自らのそばに集め、癒やしの雲をふわりと広げて包み込みながら後退。
「交代を頼むぞい」
「まかせて!」
バトンタッチとばかりにモルンとすれ違って飛び出したのは『初めてのネコ探し』曉・銘恵(p3p010376)だった。
「呪物や呪霊を倒さないと、幻想種さん達の魂が元の所に戻らないんだよね? しゃおみーも頑張るよ、妖精さん達もよろしくね」
「「よろしくぅー!」」
手をかざす銘恵に対してビッと親指を立てる妖精たち。
「それじゃあいくよ、うみゃーーーーーーー!!」
勢いよく地面をどんと叩くと、『わざわいランタン』の群れめがけて思い切り『アースハンマー』の術を発破した。つき上がる岩が一つ、いや二つ三つたくさんつき上がり、無数のランタンを破壊する。妖精達の一斉砲撃だ。いえーいといってハイタッチを求めてくる妖精。
「正直、指揮なんて全くやった事はなく不安しかありませんが……そ、それでも参加したからには微力を尽くすしかありませんっ! みなさん!」
『ここが安地』観月 四音(p3p008415)は魔導書を小脇に抱え、周りの妖精達を見回した。
「『いのちをだいじに』でおねがいします!」
「いのだじ了解!」
そんなわけでよろしくです! と言いながら魔導書のマニュアル通りに片目を瞑って指鉄砲を構える。
先ほどの砲撃で瓦解した敵陣を更に追い詰める形で魔法の支援射撃を妖精達と打ち込むためだ。
四音の散発的な射撃によって切り拓かれたエリアへ、『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)の指揮する妖精部隊が突入していく。
「私が指揮を預けるに相応しい者かは、わかりませんけれど。それでもどうか、妖精の皆さん……一緒に、戦って、下さい!」
「「まかせてー!」」
小枝のような剣を握り、妖精達がフローラの周囲で螺旋状のラインを描きながら次々と飛び抜けていく。
残った『わざわいランタン』たちが至近距離で爆破攻撃を仕掛けてくるも、フローラが咄嗟に展開した治癒魔法領域で防衛。妖精達がランタンをたたき割っていく。
「きっと、私が、支えます! だから皆さんは思う存分、その力を振るって下さい!」
「さんきゅー、突っ込むぜ!」
そこを更に穿つ形で突撃したのは『運び屋』シエル・アントレポ(p3p009009)率いる高機動妖精部隊である。
「飛べるってのはそれだけで武器だ。
速いってのはそれだけで強さだ。
つまりどっちもあれば最高ってわけだ! ハッ、負ける気がしねぇな!」
味方への回復支援を行っていた『ふしあわせの黒いハンカチ』たちがハッとした様子で飛び退こうとするが、それを逃さずシエルたちの部隊が次々に引き裂いていった。
戦線を破壊されたことに気付いた左右翼の『からっぽ鎧』たちが向かってくるが、シエルは腕を回して後退の合図を出す。機動力を武器にした部隊規模のヒットアンドアウェイである。
「これが適材適所ってやつだ。やることをやれればそれでいい。さぁ勝利を運んでやるとしよう!」
「まずは順調に敵陣を突破できてるみたいね。けどこの大軍を突き破れなきゃ、こっちが押し返されちゃうわよ」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は偵察妖精達が集めてきた敵の情報をながめながらムムっと唸った。
チェスボードの上に見たことないコマが沢山並び、妖精達がそれを念力でちょこちょこ動かすという戦術ディスプレイである。
「あ、こっちの部隊は後退。右翼から一部隊移してフォローしてあげてね」
オデットが指さすと、妖精達が『妖精の伝言ゲーム』で味方部隊へ伝えていく。「りんご」がいきなり「懐中電灯」に変わるような滅茶苦茶な伝言ゲームだけど最後に必ず同じ言葉になるという謎の妖精魔法である。
「サイズ、後退部隊の援護にまわって」
「任せろ!」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は指揮下の妖精たちをまとめ、混乱しかかっている戦場へと突っ込んでいった。
「妖精女王様に託されたなら…俺は妖精を死なせない為に最良の結果を目指す!」
サイズの部隊が受け持っているのは戦線の維持と負傷者の護送である。これだけの規模でぶつかり合えば負傷者もかなりの数で出るものである。それを後衛にある味方の回復チームへ送り届けるのが役目なのだが、追いすがってくる敵を払いのけるのがかなり大変だった。
「さぁ、女王様直々のお願いよ。みんな女王様大好きでしょ?なら細かいこと考えずに褒めてもらうために頑張りましょ!」
「「もっちろん、大好きよ!」」
そこへオデット隊が加わり、妖精達と一緒に魔法を撃ちまくって呪物たちを追い払っていく。
そんな中……。
「ね、オデット」
妖精のひとりがそっと耳打ちしてきた。
「あのね、『常夜の王子』の話を聞いたときから女王様の様子がちょっとへんなの。なんかクヨクヨしちゃって、らしくないのだわ」
わかるわかる、といって他の妖精が反対側から耳打ちした。よそに聞こえているので耳打ちになってない。
「きっと遊ぶ時間とおやつが減ってるからよ。これが終わったら皆で歌ったり踊ったりしましょ。クッキーとか沢山焼いて」
ねっ、と言ってオデットの肩を叩く妖精達。
オデットは深く頷いてそれにこたえた。サイズに振り返ると、サイズもこくこくと頷いてくれた。
これが終われば、また妖精達に平和が訪れるはずだ。全部終わってから、みんなで遊ぼう。
「くかかっ、運がねえなぁ、ヤローども。俺に従うハメになるたぁゴクローなこって。せいぜいこき使ってやらぁ」
非憎げな笑みを浮かべて空へ飛び上がる『天邪鬼』神無月・明人(p3p010400)。
「かかかっ! おれさまを指揮するハメになるたぁ運がねーぜ。せいぜいこき使われてやらあ!」
全く同じ表情で肩の上に仁王立ちする妖精がいた。
あ? と言いながら見ると、妖精もこっちを見た。
「まねっこだこの野郎」
「上等だこの野郎」
遅れんじゃねえぞと叫び、明人は岩のような大剣を握り敵陣へ突っ込んでいく。
撃破目標は空から次々と呪術弾を乱射してくる『さまよい風船』たちである。射撃目標を明人隊へ向け乱射を始めるが……。
「こりゃ想像以上だ――大メシ喰らいだな、戦争ってのはよ」
一緒に飛行した『梅妻鶴子』梅・雪華(p3p010448)と治癒スキルを蓄えた雪華隊が範囲治癒スキルの重ねがけによって味方部隊を包み込む。
「いいぜ、根こそぎ持ってきな。俺達の魔力」
雪華が魔力を全て治癒能力につぎ込んで味方へ送り込むと、ひとつの巨大な『無敵の砲弾』と化した二部隊が敵陣を食い破っていく。
破裂して消えていく『さまよい風船』。それを見た地上の呪霊たちがぎろりと雪華隊をにらみ付けた。
「うおやべっ! 下がれ下がれ!」
腕を回して後退のシグナルを出す雪華。逃がすまいと呪霊たちが呪力のナイフを作って次々に射撃を開始した。
が、それをジャンプした『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)がキャッチして呪霊へと投げ返す。
「さっさと蹴散らしちゃえば何も怖くない! さぁ、どんどん行くよ!」
「おっけー!」
咲良は戦場を思い切り走り抜け、地を蹴り勢いを付けると人型呪霊の顔面を思い切り殴りつけた。
転倒する呪霊の向こうには、目が三つある『三眼呪霊』というやや強力な呪霊が待ち構えていた。
「ここを粘ればきっと大丈夫! 絶対勝てるよ!」
妖精達と共に身構え、深呼吸する。
「皆でこの戦いを、乗り切れますように。いや、乗り切るんだよ!」
おまじないに込めた想いを後押しするように、『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)の部隊が突進してきた。
三眼呪霊による激しい呪力弾幕を広げた傘で払いのけるガイアドニス。
「行くわよ、みんな!
大丈夫、おねーさんがみんなのことを護ってあげ……違うわね!
おねーさん達と一緒に護りましょう!
妖精郷を! 隣人たちを!」
三眼呪霊の登場と位置、そして能力を引き出すと、ガイアドニスは指揮下の妖精に『妖精の伝言ゲーム』を使って後衛の全体指揮チームへと伝えさせた。
「さあ、霊魂達を解放しおはようを伝えましょう!」
ぱたんと傘をたたむガイアドニス。
彼女が後ろに飛び退くと、代わりに『特異運命座標』空鏡 弦月(p3p010343)と『特異運命座標』九十九里 孝臥(p3p010342)が三眼呪霊めがけて突っ込んでいった。
「やれるだけのことを――」
「俺にできることを――」
弦月は両手でしかと握ったハンマーを横スイングで三眼呪霊へ叩き込む。
対して孝臥は鞘から抜いた刀をしっかり両手で握って反対側から三眼呪霊へ叩き込んだ。
咄嗟に両手を出してそれらを受け止める三眼呪霊。攻撃は通じなかったぞといわんばかりにニヤリと笑った……が、全く同じような笑みを孝臥たちは浮かべた。三眼呪霊の表情が、何かに気付いて歪む。
弦月孝臥二人の背後から一斉に飛び出した妖精たちが一斉に魔法を発射。と同時に三眼呪霊が受け止め掴んでいた二人の武器から破魔の力が燃え上がる。
炎に包まれるようにして暴れ、倒れる三眼呪霊。
弦月はパチンと指を鳴らし、よっしゃ次だとばかりに妖精達を引き連れ走り出す。
一方、後方の治療チーム。ここの妖精たちは『特異運命座標』フロル・フロール(p3p010209)の指揮によって的確に負傷者を治療し前線へ送り返し続けていた。
回復方法は『架空のキャンディを食べさせる』とか『いたいのとんでけ』とかそういうのだったが、案外効いているのが妖精である。
「わしらは巻き込んだ側だからこそ、ここでやらねばならぬ」
「それは言いっこなしじゃん?」
「女王様もそう言ってたじゃん?」
両サイドからポルカとルッカという妖精たちが肩を叩いて頭をかしげてくる。
じゃな、と言って苦笑するフロル。
「わしを信じ、託してくれたのであれば……必ず応えるよ、女王」
妖精女王ファレノプシス。彼女はいまここにはいない。妖精郷から外へと出ることは、女王であるかぎりできないのだ。彼女の力をもってすればできることも多々あろうが、それは妖精郷を、あるいは女王という立場を棄てることになりかねない。
彼女が動けぬ代わりに、人々を助けてほしい……と。
フロルは託された願いを、胸に強く抱いた。
妖精軍によって切り拓かれた呪物たちの陣へ、ついに精鋭部隊が投入された。
「我に長所なぞ無い。あると思わば試してみよ。我はモスカぞ」
『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)は手首をくるくると回転させると、なんとか戦線を維持しようと両翼部隊が集結させつつある『からっぽ鎧』たちめがけて突っ込み……。
「モスカの、ゼッカイケンは――確実に、射抜くのじゃ」
回転する掌底によって相手の装甲を撃ち抜くようなインパクトを必中させた。
崩れ落ちるからっぽ鎧を前に、手首を元の位置でとめるビスコッティ。
(見ておりますか、母上――)
更に『海の戦士』オルク(p3p010603)と『武者修行』紅蓮(p3p010604)が突撃。
「ただ戦うだけだ」
靴底に波型のブレードが着いたブーツを繰り出し、残るからっぽ鎧たちへと激しい連撃を繰り出していく。
「ま、何とかなるさ。迷うより行動ってな」
そんなオルクと連携し、上を飛び越えるようにして前に出た紅蓮は振りかざした大金棒をからっぽ鎧の頭部へ直撃させる。と同時にオルクの回し蹴りが炸裂し、からっぽ鎧がバラバラになって崩れていく。
そうしたことで見えてきたのは呪物による治癒とバフを担当する部隊である。
これを破壊し尽くしたなら、呪物たちの軍団はその戦線を崩壊させていくだろう。
「うわぁ……人、多いなぁ! そんで敵もごっつ多い。これが決戦なんやねぇ。
ま、やる事はシンプルなのは助かるわ。敵をざくざく斬ればええんやろ?」
無骨な剣をぶら下げ、『奇剣』雷霧(p3p010562)は額に手をかざしてにやりと笑った。
身の危険を察したのか、『ふしあわせの黒いハンカチ』たちがふわふわと浮かび上がり、呪術障壁を展開――するが早いか、雷霧はとてつもない速度で障壁を剣で連打。ダメージに耐えかねて壊れた障壁をくぐり、雷霧の剣が鋭く走った。
その身を切り裂き、次の獲物を見据えギラリと目を光らせる雷霧。
「まだまだ拙い剣技やけど、これだけの味方がおるんや。勝ちに行くでぇ!」
「さあ、また皆さんとガッてしにいきましょうか」
もこもことした袖に包まれた両腕を垂らし走るリフィヌディオル(p3p010339)。
苦し紛れに放たれた『わざわいランタン』たちの呪炎弾幕をあえて回避せずに突っ切ると、両目をパッと開いて『アブソリュートゼロ』の魔術を放射した。
その身に炎が燃え上がりがくりとよろめくが、リフィヌディオルは充分仕事をしたと判断して後方へと飛び退く。
実際その通りで、リフィヌディオルのかけた魔術によって動きがガタついたわざわいランタンたちめがけて『深き森の冒険者』ルカ・リアム・ロンズデール(p3p008462)がピッと二本指を揃えて立てたサインを突き出した。
「撃たせなければ良いんです!」
反撃にとランタン内の呪われた炎をゆすろうとする彼ら……だが、その炎がフッとかき消える。
ルカは我が意を得たりと言った様子で微笑み、今度は自らの周囲に浮かべた魔法の弾を複数の方向へと解き放つ。
ホーミングした魔法の弾がわざわいランタンたちへと次々に突き刺さり、滅茶苦茶に破壊していった。
「力を貸してね、シズリ」
そこへ突っ込むワイバーンのシズリ。背に乗った『特異運命座標』燈・六花(p3p010530)は魔法の詠唱を終えると、敵集団めがけて魅了の魔術を爆発させた。
ワイバーン上からの爆撃を受けた敵支援部隊はたちまち錯乱し、互いに呪術をぶつけ合って崩壊を始める。
「覇竜の外のことなんてこれまで知らなかったけど。ローレットにお世話になったぶんは返さないといけない」
反撃をさけるためにシズリにターンをかけさせつつ、戦場を振り返った。
「ボクとシズリ。先輩方の力になるように飛ぼうじゃないか」
そんな六花たちにとって決定的な勝利に繋がったのは、やはり『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)による敵陣への突撃だろうか。
(呪物となった家具も、取り込まれた、あるいは呪霊となった魂も、どなたも望まずに、そして「なんのためにかももはやわからないままに」変質させられた方たち)
グリーフには『作った者』の気持ちはわからない。しかし『作られた者』の気持ちはわかるはずだ。
自分があの呪物達と同じ立場だったなら……。
「元の姿に戻すことはできなくても、せめて、解放を。どうぞ安らかに」
混乱する敵陣へと入り込み、なんとか抵抗し部隊を立て直そうとする呪物や呪霊たちに特殊な波動を放った。
彼らの意識がねじ曲がり、グリーフへのヘイトとして発露する。
四方八方から撃ち込まれる呪術弾や呪炎。更には呪物でできた剣それぞれを、グリーフは恐るべき防御術によって払いのけ、そして祈るように目を閉じた。
今こそ、一斉放火のチャンスだ。
『おしゃべりしよう』彷徨 みける(p3p010041)の繰り出した突きが螺旋の衝撃を放ち、呪霊達を次々に貫いていく。
「本来の目的と今やってる事が実質真逆になっちゃってるの…ちょっと悲しいな」
誰かを愛すること。誰かに願いをかけること。そのために祈ること。
清らかなそれらは、時として呪いへと反転してしまう。
しかし『取り返し』がつくのなら。
「彼等が後でおはよう! って起きれるようにしよう!」
ギリギリ意識を取り戻し掴みかかろうとする呪霊をナイフで切り払い、みけるはその場から後ろへと飛び退く。入れ替わって呪霊にナイフを突き立てたのは『酒場の主人』杏 憂炎(p3p010385)だった。
「人とファルカウを守ル為……カ。俺もきっと、故郷ガ戦火に燃えたラ全力デ戦う、だかラ加勢すルゼ」
苦しみもがき、しかし力尽きる呪霊。その核からは魂が解放され、どこかへと飛んでいくのがなんとなくわかった。
なるほどと頷き、立ちはだかる別の呪霊の顔面めがけ素早い三連パンチを叩き込む。
「腕っプシなラ多少の自身があルゼ、任せロ!」
「良い配置ですね。――今です」
『星読み』セス・サーム(p3p010326)は薄目を開き、それまで閉じていた口を僅かにだが開いた。喉にあるという発生機器が高度に圧縮された魔術詠唱を唱え、反応した大気が電撃を起こし呪霊たちの間で荒れ狂う。器用に味方だけを避けてだ。
「幻想種の霊魂を使った呪物に呪霊ですか、モノの再利用でしたら他にもあるでしょうに困ったものですね」
返して頂きますよ、とつぶやきセスは昇っていく魂たちを見た。
「秘宝種としてこれだけの呪物、無視できないのです。数には数、妖精軍もいますし適材適所を意識して迎え撃ってやるのですよ!」
既に呪物たちの戦線は崩壊寸前だ。『鋼鉄の冒険者』ココア・テッジ(p3p008442)はライフルをリロードすると、連射魔術を起動させて呪霊たちの集団めがけて撃ちまくった。
「さぁ、次はあちらに援護射撃なのです! ココアは後衛専門なので前衛は任せるのですよー!」
「うん、まかせて!」
『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は援護射撃を受けながら走ると――。
「いくよ、メアリ!」
担いでいたケースを展開し、ビスクドールのメアリを飛び出させた。
襲いかかる呪霊たちの呪術弾を、メアリが右へ左へ踊るように跳ねながら払い落としていく。
捕らわれた魂達の中には、このビスクドールを作ったひとのものもあるのだろうか。
妖精達の援護射撃を受けながら、キャンディめいた指輪にくちづけをして治癒の魔法を発動させるイーハトーヴ。
「心配しないで、メアリ、オフィーリア。
前を向いて歩みを進める
俺にはそれを『諦めないことができる』から!」
「イーサン、回復お願い!」
『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は両腕に装着したゴテゴテした機械を起動させると、激しい火花を散らせながら呪霊達を殴り倒す。対抗して殴りかかってきた強力な『三眼呪霊』に、その腕を叩きつけ相殺した。
「呪物だろうが呪霊だろうが、ボク達の敵ではないよ!」
ストロベリーキャンディのような甘い香りがリュカシスを包み込む。治癒の魔法がリュカシスのダメージを取り払い、元気をみなぎらせる。
「ボク達、一人で戦っているのではないものネ……。まだまだこれから! 行くぞ!」
ギュインと唸った腕で、リュカシスは三眼呪霊を粉砕した。
●量産された大魔女
空を無数の魔方陣が埋め、その全てから灰色の雷が降り注ぐ。
そのさなかを、『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)は二丁のガンエッジを握り駆け抜ける。
トリガーをひき魔力を発動させると、魔術障壁を展開したホムンクルスへ斬りかかる。
「妖精郷の事件から長く続いてきた因縁に、フラン様とアルメリア様が見事に決着をつけられるよう兄の分まで助太刀させていただきます!」
バギンと剣を阻む障壁。だがハンナの魔力を発動させた『タイミング』こそが勝り、更には鍛え抜かれた剣筋によって障壁が崩壊。ホムンクルスが腰部で両断される。
「人々の魂を器に込める、と……悪辣な手ではありますが、其れ以上に悪手ですね。
我々が、より負けられない理由が出来たのですから」
無数の雷が迫るなかを、跳躍と回転によって華麗なまでに回避していく『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)。
スタンと着地したと同時に掲げていた手をひくと、回避行動と同時に各所へセットしていた鋼糸が連動して周囲のホムンクルスたちへと襲いかかる。
「――『恩讐を灼き祓え、破邪の赫雷(マイ・スウィート・リベンジ)』」
赫々とした雷がほとばしり、障壁をとっさに展開したホムンクルスたちを易々と電熱カッターのごとく切り裂いて行った。
「フィナーレは、屹度もうすぐ。
其の幕を引くべき人は、決まっています。
だからわたしは唯。わたしに出来ることを果たすのみ……!」
ホムンクルスを使い捨てにでもするつもりだったのか、彼女たちの攻撃力は高いものの防御にはまるで能力を裂いている様子がなかった。
「因縁ってヤツはどこまでも付いてくる。綺麗にケツを拭き取るチャンスがあるなら徹底的にやらなきゃあな……」
ギラリと笑い、『最期に映した男』キドー(p3p000244)が『ワイルドハント』の妖精達をけしかけた。
「喜べよ! 親切な妖精さんが手を貸してやろうじゃねェか。
食いごたえのありそうな獲物が選り取り見取りだ。狩り尽くしてやりな、妖精ども!」
回避すらまともにできないホムンクルスたちを次々に食いちぎっていく。が、対するホムンクルスも恐怖や痛みなど関係ないとばかりに強力な魔法を惜しげも無く乱発してきた。
キドーたちを衝撃が襲い。爆発が地面をえぐって吹き飛ばす。
「チィッ――!」
なんとか防御したものの、思い切り吹き飛ばされてキドーが地面をバウンドした。
それを、ローラースケートで駆け寄ってきた『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)がキャッチする。
「なんや同じ顔がぞろぞろおるやん。みんな兄弟なん?だとしたら大家族、え、違う? まあ、それはとりあえずええわ」
デリバリーやでといってキドーに治癒効果をもったドーナツを手渡すと、カフカは苦笑して首をこきりとならした。
「あいにくと喧嘩は苦手やねん。殴ったり蹴ったりはもう懲り懲り……」
そう言いながら構えるカフカ。迫る雷撃に身を焼かれるが、その隙を突くかのように『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)たちがホムンクルスへと襲いかかった。
「少しは腕も上がったし、大きな場所での仕事もできるはず。皆の助けになったら、いいな」
積み上げた土嚢の裏に身を隠していたハリエットは素早く身を乗り出すと、ホムンクルスたちをひとりひとりスコープにとらえてヘッドショットを打ち込んでいく。
「本当はこんな戦い、ない方がいいんだよね……」
慣れた手付きでリロードすると、はねた空薬莢が回転しながら彼女の足元をバウンドする。
それを蹴るようにして飛び上がった『ちびっ子鬼門守』鬼ヶ城 金剛(p3p008733)が、ホムンクルスたちへと急接近。
「こんな緑豊かな深緑を焼くなんて……イレギュラーズじゃなくても放って置けないよ!
それにあんな大量のホムンクルス、技術としては凄いことなんだろうけどその使い方がこれじゃあ愛が歪んでるよ」
金剛は思い切りホムンクルスへ殴りかかると、ガードのために翳した相手の腕を掴んで思い切り地面に投げ飛ばす。
そうしてできた射線を、一本の矢が鋭く突き抜け後方のホムンクルスへと直撃させた。
「ファルカウの人達の霊魂が埋め込まれたホムンクルス……。
これを造った人は普通ではないと僕でもわかります」
『ラストドロップ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は次の矢を弓につがえると、ヒュウと呼吸を鋭く止めて意識を集中させる。
「ですので、決着をつけるのであれば露払いくらいはさせていただきます」
集中して放たれた矢は精霊の力を纏い、複数本の矢となって分裂。隊列を組んで魔法を乱射するホムンクルスたちへと突き刺さる。
「撃たないと撃たれるとは忙しいですね、全く……!」
何人かのホムンクルスが倒れる一方、反撃に打ち込まれた魔法がジョシュアへ迫る。それを、『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)が跳躍からの後ろ回し蹴りというとんでもない動きで破砕した。靴が特別なのかディアナが特別なのかはわからないが。
「過去の報告書に軽く目を通しはしたけれど、これは……」
ひろがるスカートをふわふわさせたまま着地したディアナは、相手から受けた魔力を右腕へ伝達させ、自らの魔力と複合させて敵へと放射。
青い電撃がはしり、ホムンクルス周囲に展開した青白い格子状のキューブが対象を押しつぶしにかかった。
(これらに向き合ってきた人たちの心痛は如何ばかりか……。
その心が晴れますようにと、祈るばかりね……)
「皆さん、大丈夫ですか!?」
前線へ突っ込んでいった仲間達を支援すべく、杖に跨がって魔女のように飛行していた『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が治癒の魔法を詠唱。雨のように、あるいはスプリンクラーのように生成・放射された治癒液が仲間達へと降り注ぐ。
「って、うわっ!?」
リスェンめがけて飛んできた雷の矢。跳躍した『無幻皇帝』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)がそれを逆手に握ったナイフで撃ち落とした。
「回復支援には感謝する。だが、前に出すぎれば撃ち落とされるぞ」
「それはそうなんですけど……後ろもあの調子ですから」
リスェンが振り返ると、そこでは敵味方の魔法がぶつかり合って無数の爆発がおきていた。
「それに、正直なところ少し恐いのですが……ファルカウの人たちのほうが恐い思いをしてきたはずです」
覚悟を決めたリスェンの目を見て、ムエンは微少以下の、無表情とみて間違いない程度の顔で笑った。
「深緑の木々を灼く不死鳥の焔よ、我が魔剣グリーザハートに宿りて全ての仇なす者に美しき終焉を、そして全ての願いに救いを与えたまえ!」
剣を順手に握り直すと、敵陣へ突っ込みエクスプロードの魔術を発動。ホムンクルスたちをまとめて吹き飛ばしていく。
が、その次の瞬間に起きたのは周囲を白く染めるほどの美しい爆発だった。
ぴしりと、顔面に亀裂がはしっている。
それは徐々に広がり、まるで失敗した石膏像のように顔面のパーツをぽろぽろと崩れさせていた。
「――■■■、アルメ――ちゃん。■■――ね」
アルメリア・アナザータイプ。アルベドと同種のホムンクルスを呪物のレシピで再現した、ありえざる悪夢。
ノイズにまみれた声を出し、自重を支えることも難しいほど傾いた身体で手をかざす。
すると、大量の魔方陣が連鎖展開し更なる爆発を引き起こした。雷の魔法だが、『力の移動』があまりに多すぎたために大爆発にしか見えないのだ。
そしてそんな中に。
「終わらせに来たよ、アザメリアちゃん」
「本当に、これで終わりにしてあげるわ」
手を繋いだ二人の少女が立っていた。
フランとアルメリア。
いや。
『ほんとうの大冒険』フラン・ヴィラネル(p3p006816)。
『ほんとうの大冒険』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)。
彼女たちは同時に手をかざすと緑の魔方陣が出現。真正面からぶつかる灰色の雷と相殺した。
アルメリアはターレット魔方陣に手を突っ込み複雑に回転操作を加えると緑の雷を複数発動。その全てがアザメリアの展開する魔方陣で相殺される。
アルメリアは更に魔方陣を握りつぶし立方魔方陣(キュービックループ)を高速展開。巨大な竜の如き緑雷と、アザメリアの歪すぎる雷の群れが相殺。
いや、すれ違うように余った衝撃が互いへとぶつかっていく。
アザメリアの半身が吹き飛ぶ。が、にこりと笑ったアザメリアは残った半身で最大の魔法を放射。まっすぐに光線が放たれる。
対して――。
「むんっ!」
フランはアルメリアを掴み、高く放り投げた。
砲撃を直に喰らったフランは吹き飛ぶも、魔法を逃れたアルメリアは両目をめいっぱいに開き腕に大量に纏わせた魔方陣から緑雷を爆発させながら、その全てをアザメリアへと殴りつける。
爆発が、周囲の景色をけしとばした。
そして。
「がんばっ……、わねぇ……アル……ア……ちゃ……」
倒れたアザメリアが、徐々に崩れていく。
「あなた、なんで私とこんなに」
「よかっ……た……わぁ」
声が聞こえていないのだろうか。
だが、崩れゆきもはや頭だけになったアザメリアが、最後の顔のパーツを使って笑みを作った。
「立派に……なっ……嬉……」
風がふき、塵となって消えていく。
アルメリアはハアと息をついて、そのばに座り込んだ。
遠くから、まるこげのフランが手を振って走ってくるのが見えた。
●夜のむこうになにがある?
呪霊たちの戦線は、既に崩壊したと言っていいだろう。
ファルカウ攻略を目指すローレット・イレギュラーズと妖精部隊による混合軍は、その鋭い中央突破によって呪物達の頑強な陣形を穿ち、最重要目標である『常夜の王子』ゲーラスへと突入部隊を送り込むことに成功した。
今はその突入部隊が押し返されぬよう、残った両翼の敵部隊と仲間達が交戦している真っ最中である。
「…………」
恐ろしい骸の鎧。中身がからっぽの鎧。
『常夜の王子』ゲーラスは、地面に突き立てていた剣に手を添えたまま、ゆっくりと首を振った。
「ローレットを侮った。そう、認めざるを得ないようだ」
どこか気品を感じさせる優雅な所作で、ゲーラスは自らの額に手を当てる。
「己に直接関係の無い、『どこかの誰かの願い』出会っても立ち上がり、戦おうとする精神。
そしてそれにあてられるかのように友軍となった妖精郷の妖精達。いずれは、お前達のような存在が世界をひとつに束ねてしまうのかもしれないな」
だが。
と、ゲーラスは剣の柄を握った。
抜き放つその一発で、空間が直接切り裂かれたかのような衝撃がはしった。切り裂かれた空間からあは星の瞬く夜空のような色がのぞき、迸る。
友軍の妖精達が吹き飛ばされるなか、『恩義のために』レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)はその衝撃に耐えていた。
「うさは弱い。
たぶんすぐまどろむし、怠惰でだらんだらんしちゃうねぇ。
ぺちってされるだけで多分ダメになるよ、うさ弱いから。
けど、けどね……」
ダメージがきている身体をゆっくりと立ち上げ、ギザ歯を食いしばる。
「うさよりちっさい妖精さんが頑張ってるんだ!! うさだってやれるってところを見せてやるんだ!!」
大地を蹴りつけ、己を一発の弾丸の如く爆発的に加速させたレニンスカヤがゲーラスへと蹴りを放つ。
それだけではない。『特異運命座標』ジゼル・ベグラーベン(p3p010507)と『大空を翔る』藤宮 美空(p3p010401)も同時に襲いかかった。
「私の愛の為だもの。いくらでも無茶はしてあげる。もっとも、あの子を寂しがらせる気はないけれど」
いびつな剣を取ってきりかかるジゼル。
「あちらにも何らかの事情があるのかもしれませんが、だからと言ってはいそうですかと引き下がる訳にも参りません。
未熟ながらも私とてイレギュラーズの一人、気迫で負ける訳には行きませんわね!」
美空は明けの空の如き袖を降って舞うと、翼を大きく広げて無数の矢を発射した。
それらすべてがゲーラスへと直撃……したかのように見えた。
いや、実際したはずだ。ゲーラスは回避行動もとらず、矢や剣を全てその鎧の身体でうけていた。
「――ッ」
が、身を振り剣をもう一度払ったことで眼前の空間が弾け、ジゼルたちをまとめて吹き飛ばしてしまう。そして次の瞬間には、ゲーラスがそれまでの距離を無視したかのような瞬間移動で美空の背後へ現れた。
ハッとする美空――を、『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)と『ぷるぷるおじいちゃん』クリストフ・セレスタン・ミィシェール(p3p006491)が腕を引っ張る形で強引に回避させる。
「行き着く先を見失った祈りの成れの果てである呪物を我が祈りにて祓うのも、またぶつけ合いですね。
厄介ですが私の信仰にて撃ち破って見せます。我が祈りは呪いに決して屈しません!」
力を高めた魔法を、クリストフは翳した杖から連射する。
流れる星のごとき衝撃が、ゲーラスの翳した剣へと何発も着弾。そして最後の一発が見事にゲーラスの鎧を撃った。
「なんとまぁまた厄介ごとじゃな。わしは相も変わらず因縁などはないが……神使の子らが困っておるのなら手を貸そう」
瑞鬼が先ほどの衝撃で吹き飛ばされた仲間達のもとへ飛び移り、治癒の術をかけてやる。
「開けぬ夜などありはせん。あまり夜が続くと眠くなってしまうからのう。そろそろ朝日を拝ませてもらうとしよう。
常夜の王子とやら、おぬしの時間はもう終わりじゃ」
ゲーラスの使う【まどろみ】という異常状態は非常に厄介だ。どれだけ優れたファイターでもその強みを崩されてしまう。だからこそ、それを払う……つまりは闇を払う仲間が必要なのだ。
「ゲーラス、優しき願いの残滓よ。長きに渡るお主の使命をここで終わらせよう。お主が守りし魂達を全て返して貰うでござる」
複雑な変形を一秒以下で終わらせ、『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はゲーラスへと一瞬で距離を詰めた。
「鎧に囚われし魂達よ! 今こそ長い封印から開放される時でござる! 呪縛から救われたくば鎧の力に全力で抗うがよい!」
ボンッと煙が広がり、五人に増えた咲耶が一斉にゲーラスへ剣や手裏剣を叩き込んでいく。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。――お初にお目にかかるが、同時にここでさようならだな」
そのタイミングを見計らったように、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が一気に距離を詰めて抜刀。ゲーラスへと刃が迫る。
二人の連撃を、ゲーラスは大きな剣を巧みにあやつって防御し続けるが、完全に防ぎきれているようには見えなかった。
「そらそらどうした! 余所見をしている暇があるのか?」
「く……!」
エーレンたちの優勢だ。それに……以前咲耶たちが戦ったときと比べて、明らかに戦闘力に衰えが見える。
「ゲーラス、君はきっともう十分頑張ったよ。動き続けることしか出来なくなってるなら、その足を止めよう」
回り込み射線をとった『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)が両手を翳す。大量のサンショウオ型エネルギー体が生成され、まるでマシンガンのごとくゲーラスへと殺到していった。
「痛みを恐れては進めない。そうでなければ、彼を止められない」
射程外まで下がるという選択肢はない。あえて踏み込み、ゲーラスが剣を撃ち込むのをしっかりと目に焼き付ける。
眼前が星空のように切り裂かれ、吹き飛ばされる二人。
が、それを待っていたかのように飛び出した『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が手を組んで魔法を唱えた。
「『常夜の王子』…ついに相まみえる日が来ましたね。
数か月前はこの場にいる事さえ想像できませんでしたのに」
燃え上がる、あるいははじける血色の風が、仲間たちからまどろみの呪いを浚っていく。
「貴方を止めろ、倒せと……心のうちで何かが囁くんです」
マリエッタは自らの腕に小さなナイフを走らせると、流れた血をいびつな大鎌へと変えた。
飛びかかるマリエッタ――に続き、アクアヴィタエによって休息回復した咲耶と血を流しながらも叫ぶトスト、そして復帰したエーレンが同時に飛びかかる。
剣で防ごうと翳したゲーラス。しかし、剣は彼らのひとつとなった攻撃によって弾かれた。
「長く、昏い夜が……優しい夢が続いても。
いつか……朝は、訪れる。
……常夜の王子様。君が行う、してる事は。"守る"という役目から、離れ続けてる。
だから──止めさせてもらう、ね」
『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)はハンドネオンという楽器を広げると、『セレナーデ・リリィ』の曲を奏で始めた。
美しい音色に、『汚れなき鎮魂歌(ホワイティ・レクイエム)』の歌詞がのる。
「"今"を放って、夢に閉じ籠るなんて。そんな事……出来ない」
しっかりとゲーラスを見据える瞳。
ゲーラスの顔は空を見ていた。
空を、大きな剣がゆっくりと回転しながら飛んでいる。ほんの僅かな間のできごとだ。
「結末を迎えてこその願い、朝が来てこその夜だ。
囚われた魂達を、この手で開放する。そして最初の祈りもまた、朝に還そう」
『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)もチックの音色に重ねるようにギターを演奏し、『Chord Stardust』の音を紡ぎ出した。
周囲の空間にちかちかと煌めきが産まれ、それらが無数の短剣となってゲーラスへと飛んでいく。
剣を手放した彼の鎧をぬうように、短剣たちが大量に刺さっていく。
「狙うはゲーラス、追体験の中で感じた感触はまだ、現実のようだ。
だからこそ解放せにゃならん。『お姉様』自身の為にもな」
「な――」
ゲーラスは慌てたような様子で自らの胸に手を当てた。
「まだだ。まだ手放すわけにはいかない。この森を、森の民を、安寧なる永劫の先まで護るためには――!」
だがそんな指の間をこぼれるように、無数の魂たちがあふれ、飛び出していく。彼らはどこかへと消え、解放されたように……チックとヤツェクには見えた。
「それはアンタの勘違いだゲーラス。もう、そいつらを護る必要なんてねえんだよ」
「その方々の魂は、危険にさらされてなどいないでござるよ。それに、身体も記憶をはるか昔に置き去ってしまった今……これ以上は」
咲耶がゆっくりと首を振る。
「嘘、だ」
それまでの優雅な様子とはうってかわって、ゲーラスは乱暴に腕を振った。ざくんと音を立てて、落ちてきた剣が地面に刺さる。
「かつては皆を守る為に作られた呪物が暴走し、魂を奪って回るものになってしまったのは皮肉としかいいようがありませんね……」
ゆっくりと、『呪い師』エリス(p3p007830)が歩み寄った。
「もう良いのです。今度はあなたが眠りにつく番ですよ、ゲーラス。『あの子』の為にも」
ゲーラスはがくりと膝をつき、その前進から魂が漏れ出ては解放されていく。
「……そう、か……もう……全て終わっていたのか。ならば、『あの方』の、命令は……?」
「それは私達が引き継ぎます。かつて『あなたのあるじ』がそうしたように……現代のファルカウは、私達が護って見せます」
エリスが胸に手を当て、優しく微笑んでみせる。
ゲーラスはうつむき、そして剣を指さした。
「わかった。『あの方』を、解放してくれ……。もう、いいだろう」
頷き、剣を手に取るエリス。指輪と剣が共鳴し、強い光を放った。
災厄を逃れるために用いられた『ノアの箱舟』。それがこの鎧の機能であった。
森にさまよっていたという古代の大精霊を動力源とし、『常夜の鎧』としてかつての偉大なる美少女精霊使いが纏い、広く森の民を救ったという。
しかし、救えたのは彼らの『魂』のみであった。
肉体も、記憶も、生まれ育った土地さえも手放すことになると知った彼らは抵抗したが、
古代の大精霊の力をもった鎧の前に全てが倒れ、そして魂だけが回収された。
直後に里は滅び、誰も生き残らなかったが……鎧と魂だけは現代に至るまで眠るように護られ続けていたのである。
だがそれも今日までだ。
回収した魂を護り続けるという役目だけを与えられた鎧は『常世の王子』ゲーラスとなって戦い、次第に手段と目的が入れ替わっていく。
それに気付いた今。
もう、彼に動き続けることはできなかった。
「おやすみなさい、ゲーラス。『あの子』に宜しくお願いします」
剣が、ゲーラスへと突き刺さる。
それを受け入れたゲーラスは、エリスを見つめ、そして周りにまだ立つイレギュラーズたちを見回した。
「最後に、頼みがある」
そう言われて、エリスは目を見開いた。
指輪に込められた呪いはゲーラスを止めるためのものだったのだろう。
だが、それだけでは説明のつかないことがいくつもある。
ゲーラスが力を衰えさせた理由はなんだ。
ゲーラスの動力源になったという、森をさまよう古代の大精霊とはなんだ。
「私がこれまで体内で抑えていた、『夜の王』が目覚める。このまま奴が力を付ければ、この森は夜の支配する世界へと変えられてしまうだろう。
頼む。『夜の王』を倒すのだ。運命によって繋がった、もうひとりの『あなた』よ」
途端、空が闇に閉ざされた。
いや……違う。自らの周囲だけが『夜になった』のだ。
エリスは、そして周囲の仲間達は危険を察し飛び退くが、ゲーラスから放たれた赤い呪力の波動に吹き飛ばされる。
「ゲーラス!?」
「否」
ゲーラスの前進にあるパーツが変形し、無数の目が開くかのような造形へと変わっていく。
「我こそは『夜の王』。我から奪った全ての夜を、返して貰おう」
「なっ――!」
エーレンやヤツェクが動き出そうとするが、彼らの身体からがくりと力が抜けた。
刀を持つ手が震え型が作れなくなり、奏でた音は震え神秘の力をなくし、クリストフの信仰も瑞鬼の術式も、咲耶の術も、そしてエリスの呪術すらもすべて効果をなくしてしまった。
「我は『夜の王』なるぞ。王の認める力など、この夜のなかでは意味を成さぬわ」
エリスがとりおとした剣をひろい、振り払う。
が、エリスは咄嗟に解き放った力によって死の運命をキャンセルし、そして大きく飛び退いた。
「……退きましょう。この状態では、打つ手がありません」
エリスの呼びかけに仲間達が強く頷く。
走り出すエリスたち。
その後ろを、『夜の王』がゆっくりと追ってくる。
危機は、まだ過ぎ去っていない。
更なる強大な存在を、倒すまでは。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――つづく
GMコメント
『常夜の王子』ゲーラスが展開する呪物軍団を突破し、ファルカウの奪還を目指します。
敵は呪物と呪霊の混合軍。味方は妖精郷から結成された妖精軍となっています。
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
大きなグループの中で更に小グループを作りたいなら二つタグを作ってください。
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
以下のいずれかのパートタグを一つだけ【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
【呪物】
ゲーラスの展開した呪物や呪霊たちの部隊と戦います。
彼らはこちらの長所を殺すタイプの攻撃を仕掛けてきますが、こちらもこちらで次々入れ替わって戦えば対策することができるでしょう。要するに皆でガーッと行けば勝てます!
このパートには妖精軍も援軍に入ってくれるので皆でガーッといきましょう。
優先参加:イーハトーヴ、グリーフ
【妖精指揮】
指揮官となって妖精軍を指揮します。主な敵は呪物や呪霊たちになるでしょう。
結構な人数の妖精があなたの指揮下に入り、戦ってくれるようになります。
率先して前に出て戦い指揮をあげるスタイルや、的確な命令を出して部隊を強化するスタイルや、自分の特技にピッタリの妖精達を集めて特選部隊を作るスタイルなど自分にあったスタイルを選んでください。
ここでの成果によって全パートにおいて妖精援軍の戦闘力が上昇します。
優先参加:オデット、フロル、サイズ
【ホムンクルス】
呪霊を核としたホムンクルス『アルメリア・アナザータイプ』の一団と戦います。
アルメリア・アナザータイプ略してアザメリアは高火力の攻撃魔法をどかどか撃ちまくる部隊です。相応の防御力や回復能力も必要とされそうです。
その指揮官として特別製のキトリニタスとの戦いもあるでしょう。
優先参加:アルメリア、フラン
【ゲーラス】
『常夜の王子』ゲーラスと直接対決を行います。
ゲーラスは【疫病】属性をもった【まどろみ】という特殊なBSを付与してきます。
これはPCの戦闘能力を大きく低下させるもののようです。
耐える戦いは不利になるので、皆で連携しながら犠牲覚悟で強力な攻撃をどんどん叩き込んでいくのが勝ち筋となるでしょう。
優先参加:エリス、咲耶、ヤツェク
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<タレイアの心臓>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●『夢檻』
当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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