PandoraPartyProject

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眠りの世界は、夜の狭間に

 大樹ファルカウを包み込んだ奇妙な気配――
 まるで外界との交流を断絶したように吹き荒れる猛吹雪の中に一人の少女は立っていた。
「ベル!」
 その背を追掛けた褐色の肌の少年は、苛立ちを滲ませた彼女の背に何度も声を掛けるだけだ。
 ……自身等が『魔種となる前に』――『ジナイーダ』と決別する前に使っていた呼び名で。
「ベル、待って!」
「……付いて来んなよ。リュシアン。アンタんトコのお嬢サマは『面倒』なんだから」
「オーナーに聞かれてたら頭、潰されてるぜ。其れより、この吹雪……」
 リュシアンに釣られて顔を上げたブルーベルは「悪いとこじゃないよ。アタシらにとってはね」と囁いた。
「行くの?」
「行く。どーせこの奥は『眠りの世界』だ。アタシらが良い夢を見に行くんじゃないよ。
 話し合っておかなきゃならねー奴らが居るしね。アタシらが怠惰を極めるために大切なオシゴトだから」

 ブルーベルが『眠りの世界』と呼んだその場所は大樹ファルカウを中心にして広がった奇怪な空間であった。
 ある者はカムイグラの霞帝が煩った『眠りの呪い』のように昏睡してしまうと言い、ある者は『ザントマンの御伽噺』のように眠りの砂を掛けられて眠り込んでしまうと告げる。
 怠惰の魔種ブルーベルはこの周囲にこそ『咎の花』の暴走をキャンセルする魔法道具が存在していると考えていた。
 それをイレギュラーズに手に入れられては困る。深緑を覆った茨と『茨咎の呪い』を無効化されては彼女らの求める怠惰が遠のくからだ。
 踏み入れるブルーベルの背を追掛けて、リュシアンは見た。
 誰ぞの権能の上に組み上がった『眠りの世界』――その術者次第で姿を変えるというその場所に少年は立っている。
「……ベル」
「これはアイツのモンだろ。まあ、アレは話さなくっても良いよ。
 どーせ、停滞を好んだ男が一歩を進む事なんざ望まないんだ。イヴァーノは後でも構いやしない」
「じゃあ次は?」
「この奥で待ってろって声を掛けたんだ」
 幸福な空間での停滞を望んだイヴァーノ・ウォルターを横目に進むブルーベルは「ああ、居た」と――

「なんだ愚図。僕は忙しいんだ――あのクソ猫が動かないせいで、人間共がまた溢れ始めてきたんだからな」
「いや挨拶が相変わらずとんでもねー。もうちょっとお上品になれない?」
「鏡見てから言え」

 そこにいたのは――オルド種を名乗る『クェイス』という人物であった。
 オルド種とは大樹の嘆きの上位であり……知性を宿す精霊とも言おうか。少年、いや青年の様な姿を持つクェイスはブルーベルへと荒々しき言を投げかける――どうにも、クェイスは相当に苛立っている様に見えた。何故か? 先日のイレギュラーズ達の行動により、深緑に侵入している者達がいるからだ――
「で、何の用かな。外界の愚図共の事かな? それなら心配するな。
 クソゴミ猫には最初から期待していない。順次アンテローゼには攻撃を仕掛けていく――
 周囲には『眠りの世界』の術式も張り巡らされているんだ。そうそう奴らも進めないだろうさ」
「わーぉ。はいはい、そいつは期待できそうだ。そんじゃこれからも頼みますよっと」
 常時苛立っている様な様子を見せるクェイスに、ブルーベルは軽く声を掛けて仕舞とする――
 奴は大樹の嘆き。本来ならば大樹を護る側の存在だ。
 それが何故此方側に付いているか……まぁなんでもいい。奴が動いてイレギュラーズ達の邪魔をしてくれるのであればなんでも。
 望むべく『怠惰』の一助となるのであれば――なんでも。
「そんじゃあ、後は……。
ぬいぐるみスゥースゥー王』はアタシが話す相手でもないし……」
「シェーム?」
戦闘狂か。めんどくせー。御用聞き位はしてやるけどさ。
 ……ゲーラスの奴もアタシ、苦手なんだよなあ。何か……何か、使い捨ての駒にしにくくってさ」
 呟くブルーベルにリュシアンは肩を竦めた。二人共、この空間の何処かに居るのだろう。
 暫くは『中間管理職』的に彼らの御用聞きでもしながら、魔法使いマナセの残した秘宝を探せば良い。
「つーか、もうこの領域に踏み入ってくるヤツ居るじゃん。何人も何人も。
 しかも、外もか。ラサからもちょっかいが掛けられてる。
 ……急がなくっちゃ。いざとなれば、リュシアンかアタシが足止め」
「ベルはさ、どうしてカロン様にそんなに協力的なんだよ。
 ……お前、悪事なんかに向いてないだろ。口は悪いけど、根っこは良い奴なんだから――」
「死にたくないだけだよ。魔種になった以上、一番いいのは一番強いヤツのコバンザメだ。
 それに、主さまは死にたくなるような場所からアタシを救ってくれた――気まぐれだろうけどさ、それでも良いんだよ――大切な人だから」
 吹雪の中を歩くブルーベルを追掛けながら、リュシアンはため息を吐いた。
 幼なじみが良い奴だから、見捨てられない。
 本当は早くアイツを――ジナイーダをあんな目に遭わせ、ファルベライズをめちゃくちゃにした男を追掛けたいのに。
「俺も優しいなあ」
「え? いきなり、何? キモ……」


 ※アンテローゼ大聖堂を拠点に、深緑攻略が始まったようです――!

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