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シナリオ詳細

<13th retaliation>青い髪の少女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●眠りの世界
 ――雨が降っていた。
 あの日はずっと雨が降っていた。

「うぅ、お姉ちゃん……」

 走る一つの影。絶え間ない足音と共に、水が跳ねる音もまた生じる。
 雨よけのローブを被るその背格好は小さく、恐らく子供かと見える影だ。
 周囲はレンガの建物……いや崩れさった壁が多く、廃墟と言った方が近いだろうか……とにかくソレらが立ち並んでおり街らしき光景が見えている。そして走っていたその人物は周囲から見えず雨も避ける事が出来る陰に入りて――周囲を窺うものだ。
 泣きじゃくりながら。すすり泣く声を、雨音の中に零しながら……さすれば。
『――――いたか?』
『いいや、しかしこの辺りに逃げ込んでいるはずだ――必ず探し出せ』
 その存在を追う様な者達がいた。
 彼らが何者か、分からない。しかし逃げる存在は怯え、身を縮こませるばかり。
 少なくとも友好的な存在では――なさそうだった。
「うぅ……つめたいよ、さむいよ、くらいよ……お姉ちゃん……」
 故にか。ローブを深く、深く。包み込んで、顔を隠しながら更に奥へと逃げていく。
 どこへ行けばいいのか当ては無く。どこへ行けば安全か分からないけれど。
 それでも『その少女』にはそうするしかなかった。

 まだ10歳程度だろうか――小さな小さな『青い髪』の少女には。


 ――アンテローゼ大聖堂が数日前に攻略された。
 大迷宮ヘイムダリオンを経由し閉ざされた深緑内部へ向かわんとした行動は成功したのである――結果としてイレギュラーズ達は深緑内部に橋頭保と言える拠点を確保出来た……が、勿論問題はまだまだ山積み。
 あくまでも確保できたのはアンテローゼ大聖堂とその周辺のみだからだ。未だファルカウを中心とした深緑のほとんどは敵の管理下にあり……しかも、その大聖堂すら敵が奪還に動いてくる動きもまた見えている。
 此処からはより迅速な動きをしなければならぬ。
 敵の奪還攻勢が始まる前に深緑各地の調査や人々の救出を行うのだ。その為に……

「リリファが先行してる――筈なんだけどな。連絡が取れなくなったんだよ」

 月原・亮(p3n000006)は言う。リリファ・ローレンツ(p3n000042)の行方が知れなくなったと。
 『なぁーに無茶はしませんよ! ふふーん、任せておいてください!』
 ――そんな事を言っていたのだが何か予測外の事態にでも巻き込まれたか。
 分からぬが、彼女が調査を行わんとしていた地区へと急行する。さすれば道中に魔物の類は現れなかった……森を覆う茨こそあれど、その他に危険はなさそうな雰囲気が周囲からしている。一体何が起こったというのか――そう思っていれ、ば。
「あっ! いたぞ、あそこにリリファが……んっ?」
 早速にも件のリリファを発見出来た。
 森の中で倒れている。それはまるで眠っているかのように……遠目からだが、外傷はなく見えるのは一安心なのだが――おかしいのは彼女自身よりも、その周囲だ。
 春が近いというのに『雪』が降り注いでいる。
 それも小降りではない。大量に舞い降りており、大雪を思わせる様な……
 そう思考した刹那――暴風が吹き荒れた。
 さすれば至る猛吹雪。目の前も見えぬ程のホワイトアウトが瞬時に発生して――
「これは――なんだ!? なんかの、術か……!?」
 月原の声が聞こえる、が。
 近くにいる筈なのにまるで遠くにいるかの様に……声が遠くなっていく。
 これは――くそ、なんだ、意識が――

 直後には誰しもの意識が白き光景の中に……蕩ける様に、消えた。


 次に目を覚ました時。イレギュラーズ達は己が頬に雨粒の存在を感じた。
 ――雨だ。と、思えば、周囲は先程まで己らがいた深緑……ではなく。
 見た事もないような街の光景。これは一体どういう事だ――?
「なんだろうな。大迷宮ヘイムダリオンみたいな所に巻き込まれたかな……?」
 月原は頭を掻く。大迷宮ヘイムダリオンと言えば少し進めばすぐさまにも光景が変わる、不思議な迷宮であった。先日の攻略戦でも数多の戦場が展開されていたと聞くが……これもその一端なのだろうか?
 いやしかし此処は明らかに深緑であった筈だ。
 ヘイムダリオンではない。となれば……
「なんらか、魔種達が張っていた結界や術式か? 深緑を覆う『茨』みたいな……」
「そう考えるのが妥当かもな――深緑の幻想種達もさ『眠ってる』って言う話だし……もしかするとリリファもコレに巻き込まれたのかもしれない。こういうのはとっとと脱出するのが一番なんだが……っとぉ!?」
 月原の言に続いてイレギュラーズ達も思考を重ねるものである。
 いずれにせよこれは今深緑を覆っている『眠り』が関与しているのではないかと。そして先行していたリリファがコレに巻き込まれたのであれば彼女もまた此処にいるのではないかと――思ったその時。
 月原は道の角にて『何か』とぶつかった。
 ――人だ。ローブを被った、小さな子。いや、ん?
「……あれ? リリファか?」
「ううっ、だ、誰……?」
 見据えれば。それは探していたリリファ・ローレンツ――の、様に見えるが些か幼い。
 元々リリファ自体あまり長身ではないが、しかしそれにしても一回り背が小さいのだ。先程発した声色から感じる雰囲気としても……10歳前後ぐらいだろうか? それぐらいの年齢に見える――
 いやそれよりも、なんだ? 怯えた様子を見せる彼女の気配は……

『いたぞ――追え――』

 瞬間。道の奥で生じた声に月原達が振り向け、ば。
 そこにはまるで『靄』が掛かったかのように『黒い影』の人間たちがいた。
 大人だろうか。影であれど、纏う雰囲気からそんな存在である事だけは分かる。
 そして彼らは指差している。先程月原達にぶつかってしまった……少女を。
「う、うぅ……! た、たすけて……!!」
 さすれば、少女は助けを求める様にイレギュラーズ達を見るものだ――
 事情は分からない。が、なんとなし分かった事もある。
 此処は現実ではない。此処は――『夢』の中だ。
 『眠りの世界』とも言うべき地。
 ……侵入者を深い眠りへと陥れ、目覚めさぬ地が此処だ。何らかの『存在』の権能が組み合わさったこの地は、外からの解呪は叶わぬ。成すには一つ。術式の核となっている術者がいれば撃破する事。
 もしくは核となってしまっている者などを救出し――術式を乱す事だ。
 つまり。
「アイツらを倒すか、リリファを連れて逃げるか……のどっちかかな」
 恐らく、リリファらしき少女の手を握りながら。
 この世界を突破してみんと――イレギュラーズ達は思考を巡らせるのであった。

GMコメント

●依頼達成条件
・リリファを街の外まで連れ出す。
・襲い来る敵勢力を全て打倒する。

 どちらかを達成してください。

●フィールド『眠りの世界』
 『眠りの世界』とも称される、特殊な空間です。
 此処はアンテローゼ大聖堂から大樹ファルカウ周辺において存在する猛吹雪に触れる事で侵入できる奇妙な空間であり、恐らくなんらかの術式の一端であると思われます。
 このフィールドは『何らかの存在の権能』が組み合わさったものであり、外部から解くことはできなさそうです。侵入者を深い眠りへと陥れ、何らかの『条件』を熟さない限りは眠りから覚めることが無いように形成されています。
 今回は、この周辺において最初に踏み込んだリリファが『核』となってしまっています。

 リリファを核に生み出された『眠りの世界』は煉瓦造りの建物が並ぶ街でした。
 ただ何があったのか壁などが崩れており辺り一帯は廃墟を思わせます。雨も降っており薄暗いですが、時刻は恐らく昼ぐらいなのか視界に問題がある程ではありません。
 結構広い空間ですが街の外は見えていますので走り抜ける事も不可能ではないでしょう。

 なお無事に脱出する事が出来れば、この地帯の術式も同時に破壊されるようです。
 さすればまた一歩ファルカウへの道が拓ける事でしょう。

●敵戦力
・『黒い影の大人達』×??
 ぼやけた人影の様な存在達です。
 靄が掛かった様に輪郭は見えませんが大人達の様に見えます。後述のリリファを狙っている様で、次々に襲い掛かってくるようです。総数は不明ですが無限に湧く訳ではない様なので、全部倒すのも不可能ではないでしょう。
 攻撃手段としてはナイフや弓などを用いてきます。

●リリファ・ローレンツ(p3n000042)
 深緑調査の為、周囲を調べていた……のですが『眠りの世界』に巻き込まれてしまいました。眠りの世界に巻き込まれた結果、10歳前後ぐらいの姿になっており、皆さんの事は覚えていない様に見えます……その為か戦闘能力の類もありません。
 『大人達』から逃げる様にしていた所で、皆さんに助けを求めてきました。

 今回の夢の世界の核になっています。
 彼女を街の外まで連れて行くと自動的にこの世界が崩壊します(=現実に戻れます)
 もしくは彼女を襲い来る謎の人物達を全て倒しても、現実に戻れます。

 この世界はリリファにおける『なんらかの要素』を基にして作られていると思われます。
 もしかしたらソレは彼女の記憶――だったりするのかもしれません。

●月原・亮(p3n000006)
 リリファの行方が知れなくなり、一緒に探しに来ました。
 接近戦型で、皆さんの援護か、もしくはリリファを護る様に動きます。
 別途なんらか指示があればそのように動くでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>青い髪の少女完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月28日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


「これは……、……どういう状況なんだろう。現実、ではなさそうだよね」
「ええ……しかし、今はとにかくリリファさんを連れ出しましょう」
 それできっと何とかなる筈ですから、と『この場』に疑問を抱く『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)に『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は言を紡ぐものだ。
 『此処』が一体如何なる所かは知れね。明らかに小さくなっているリリファの様子からして『もしかすれば』と思う節――つまりは此処がリリファの過去――なのではないかと推察はされるものだが。
「今ここで隠れているだけではジリ貧です。
 こちらを攻撃してくる敵の総数も知れぬ以上……突破を急がなければ」
 戦う力のないリリファを連れて多くの敵と戦うのはきっと得策でないと。亮に手を引かれながらも止まらぬ涙にぐずる小さな彼女へ視線を刹那、向けるものだ。
「リリファちゃん……は、幼くなってるみたいだし、走らせるのはちょっと大変かな? ――亮くん、頼んでもいいかな? 懐いてるみたいだし一緒にいてあげた方が良いと思う」
「ああ任せてくれよ。リリファが落ち着くならこうしとく」
 原理は分からぬが彼女は正に少女の如く……故にこそメルナは周囲を警戒しつつ、亮へと彼女を託すものだ。場合によっては背負ったり抱きかかえたりして運んだ方が良いだろう――そして。
「――怖い大人たちに追われているの? でももう大丈夫、キミを助けるためにボクらは来たんだ――ボクはチェレンチィ、キミのお名前は?」
「一人? ねぇ家族とは一緒じゃないの? 誰か知り合いとかは……?」
「わたし……わたし、リリファって言うの……ううっお姉ちゃんと逸れちゃって……」
 更に『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)が泣きじゃくるリリファへと目線を合わせつつ『木漏れ日のフルール』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)も宥める様に声を掛けるもの。姉? 姉がいたのだろうか――リリファには。
 しかし周囲にはその様な存在の気配は一切感じえない。
 ……いやそもそもここは『夢の世界』とやらだったか。
「なら、あくまでもこの世界は被術者にトラウマでも見せるってとこか?
 逸れた家族とやらはいないんだろうな……敵だけが溢れてくるんだろうさ」
「大丈夫よ。ゆっくり喋ってね……あっ、そうだ。林檎食べる? 落ち付くわよ」
「うんっ……ありがとう、お姉さん……」
 であればと『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は幌馬車たるストレイシープを準備しリリファらを乗せる――同時に『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は持ち込んだ林檎を差し出し一息つかせるもの。
 イレギュラーズ達も広義の上での『大人』かとオデットは心配にはなっていたのだが……自らを追う存在の雰囲気とは異なると、なんとなし分かっているのかリリファは逃げ出そうとはせぬ。亮の手を握りながら林檎を齧るものだ……
「……眠らされてるのは見たことあったけどこういう夢を見てるってことなのかしら。
 だとしたら、だいぶ幸せとも程遠い夢みたいだけど。それが目的なのかしら?」
 同時。彼女は思考するものだ。この世界の在り方に。
 厄介な場所かもしれぬと――まぁ介入して抜け出せる手段があるだけマシかもしれぬが。
「夢の世界、か……うう、個人的には長時間居たくはない世界だな……」
 リリファだけでなく、妖精達も囚われていたりするんだろうか……
「さて――少なくともこの世界にはリリファだけ、なんでしょうね」
 そして幌馬車が進み始めれば、周囲を警戒しながら思案を巡らせるは『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)であった。此処で生じている事だけが全てではあるまい。もしかすれば他の地点で妖精に犠牲があるかもしれぬと。
 だが少なくとも『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が感じ得る限り『此処』ではきっと己らだけなのだろうと思うものだ――と、その時。進む幌馬車の前方側に回り込む何ぞやの存在を感じる。
 ――敵か。黒い影の相手を全てしている暇はない、故に。
「いざって時は私が2人を抱えて逃げるから――
 それまではしっかり守ってあげてね。ナイト様」
「ナイト? 柄じゃない気もするけれど――あぁ、うん」
 護ってみるよと、亮は跳び出すヴィリスに紡ぐものだ。
 足止めする。誰であろうと害意を持つのであれば近づけさせるものか。
 ――マナーのなっていない観客達には、ご退場願おう!


 廃墟の街中で生じる戦闘音。
 ヴィリスの躍動抱くステップが立ち塞がらんとした黒き影に振るわれ、更にはメルナやチェレンチィの斬撃もまた固まった地点へと叩き込まれるものだ。
 薙ぎ払う様に。とにかく突破しよう――この夢の世界を、と。
「やっぱり穏やかな雰囲気じゃない……よね! 急ごう! 足が止まってるともっと来る筈!」
「――次の道を右に! 左に行くと障害物が多そうだッ」
 ナイフを繰り出してくる敵に相対しつつ声を張り上げるメルナ。
 同時、チェレンチィは天より眺める様な広き視点と共に周囲を見据える――
 どちらに行くのが敵の襲撃が少ないだろうかと。冷静に、かつ瞬時に分析しつつ進まんとする。メルナも――流石に土地勘はないが、しかし己が直感も働かせば、時に感じ得る最善が導かれたりもするもの。
 勿論それでも敵は幾らかやってくるものだ、が。
「全く。小さな女の子に寄って集って、それが大人のやることか?
 子供には優しくしてやるもんだぜ――ましてや泣かすもんじゃねぇ!」
「最短ルートで行くぞ。リリファは月原に任せた……! オデットさん!」
「ええ。空からは任せて、サイズ。敵がいれば纏めて薙ぎ払ってあげる」
 其処はアルヴァやサイズ、そして連携するオデットが警戒しているものである。
 馬車を引くアルヴァが巧みに騎乗するが如く操りて襲撃の一撃を躱し、すれ違い様に狙撃銃で――ぶん殴る。銃床にて敵の鼻っ面を叩き潰してやるように。
 さすればその直後にはオデットが邪魔な瓦礫諸共粉砕せんと熱砂の嵐を吹き荒ばせるものだ。
 敵が隠れていようと強引にぶち抜く。空を飛翔する彼女であれば射線は自在に通り、先んじて遠方の敵を見つける事が出来れば味方を巻き込むこともない――だからこそ、サイズもまた魔力を収束させる。
 それは魔砲が一端。壁諸共貫き穿つように破砕し。
 障害物を貫き開けた視界に敵がいなければ更に突き進みて。
「――なぁリリファ。この街に住んでたのか?」
「う? うぅ……す、住んでた訳じゃないよ……ここはジブラルっていう街だけど……わたしが住んでたのは、別の所……にげてきたの……」
「逃げてきた? どうして――追われてる事に心当たりでも?」
「わかんない……でも、お姉ちゃんが『すぐ逃げろ』って……そしたら、みんなが争う音が聞こえて……あとは、とにかく走ったの……」
 直後、多少敵の攻勢が止めばサイズがリリファへと語り掛けるものである。
 彼女から情報を得られないかと。怯える様子の彼女からして……ある日突然に戦争か何かでも始まったのだろうか。この街の有り様で、他の場所からも逃げてきた……つまり別地点も同様となると……
 しかし。それにしては何故リリファがこうまで狙われるのだろうか。
 敵は執拗に追いかけ回す様な姿勢を見せているが、街が廃墟になる様な事態に市民の一人を狙う程の理由とは……ん、いや待てよ。もしかするとリリファは『市民』の一人ではないのか……?
「ッ! 建物の上に、人が……! リリファさん、伏せてッ!!」
 と、思考を巡らせている刹那――リディアが気付いた。
 此方を狙う敵意に。廃墟の上の方から狙い定めている存在がいると。
 気付いた直後に放たれる一閃――弓矢だろうか。リリファを引き連れる亮の傍にいたリディアが咄嗟に庇う様に突き飛ばせば、同時に反撃の光をも放つもの。それは敵のみを払いのける聖なる光であり。
「わ、わっ……! おねえさん、大丈夫……!?」
「ッ、ええ……大丈夫! 絶対に、私達から離れないでね……!」
「まったくキリがないわね……! 少女一人相手に、随分とご執心だことッ!」
 更にリリファを落ち着かせる様に笑顔を紡ぎながら。リディアは号令の声と共に態勢を立て直すものだ――それはイレギュラーズ達に伝播し活力をも満たすもの。さすれば舞う様に跳び続けるヴィリスが敵影へと一撃。
「道を切り開きます。月原さん、建物の崩れにも気を付けておいてください――
 結界は張っておきますが、予想外の事態が起こらないとも限りませんから」
「ああ! 頼んだぜ、シフォリィ! リリファは任せてくれ!」
 続けざまにシフォリィも飛び出し、周囲に地形を保護する結界を築き上げながら極小の炎乱を敵へと舞い散らすものだ。暗き波動を身に纏う彼女は闘争の気配に特化し、超速へと至る動きが止まらぬ連撃を可能とする――
 やらせない。やらせるものか。怯え、竦んでいるリリファを奴らになど。
「……ねぇ、リリファさん。私も分かるんですよ」
「……う、うぅ?」
 首を傾げるリリファ――昔。シフォリィも似たような状況に陥った事があるのだ。
 追手が掛かった。伸びてくる手から逃れんと駆け抜け、その折に……特異運命座標として呼ばれたが、もしもあの時召喚されなければどうなっていただろうか。
 ……想像はともあれ。しかしきっと目前に広がるこの光景は。
 きっとリリファが呼ばれた前の光景なのではないかと――
 であれば、分かる。
 あの時の焦燥が。あの時の不安が。
 だから守ろう。
「――貴女は一人じゃありませんから」
 道を照らす光の一滴としてシフォリィは往く。
 その瞳に迷いはなく。その意志に一片の陰りもなく。
 ――貴女を助けたいから。


 イレギュラーズ達は進撃し続けていた。襲い来る敵を跳ねのけ外へと――
 さすれば街の外が段々と見え始めてくるものだ。
「でも――ちょっと向かってくる敵が増えてきたわね。向こうも必死なのかしら……!」
 ただ。追い縋り来る敵の数も増えつつあった。
 オデットは引き続き熱砂の力を伴って敵を吹き飛ばしているが、それ以上に敵からの攻勢の圧も増えてきている。飛行する彼女を狙った矢が放たれれば、オデットは地へと降り立ち皆と合流。後方側へと撃を放ちて敵の足止めを狙わんとする、が。
『■■■……■■■■!』
「くっ――しつこい人達だ、よね!」
 それでも尚に来るとは。メルナは、言語か何かも分からぬ音を発している敵を前に、彼らのナイフを捌きながら一閃する。全身の力を雷撃へと変換し――叩きつける一撃を此処に。
 幾つもの接敵があれば身体に傷は増えていくも自らに宿す暗示の一端が此処に在る。
 ――こんなものは『痛くない』のだと。
「でも負けないよッ……! リリファちゃんを助け出すんだ!」
 奥歯を噛みしめ奮い立ち剣撃を下段から挙げ斬る一閃。
 さすれば彼女の奮戦が敵を大きく退ける。
 気迫を持って押し込むのだ。ここが正念場だと魂の儘に。
「――やい、テメェらよく聞け。ここから先に行きたきゃ、俺を倒して行くんだな!」
「あと一歩だ。そこまで任せたぞ――こっちは気にするな! 早く脱出してくれ!!」
「ッ、分かった……二人とも、無事でな!」
 そんなメルナが切り開いた道を更に抉じ開けんとアルヴァとサイズが立ち回る。
 馬車が狙われ続け、だからこそソレを囮にする。アルヴァは迫りくる敵らの後方まで届く様に名乗り上げて。サイズも同様に、己が身に神秘なる防の加護を齎しながら――注意を引き付け。
 直後。リリファを抱く亮が馬車より跳び降りるものだ。
 これよりは歩みにて踏破せんとすれば。
「さぁ此処からは一気に行くから、喋らないで! ――舌を噛むよ!」
「乗り心地は保証しないわ。リリファを離さないでね」
 引き継ぐのはチェレンチィにヴィリスの二人である。
 共に限界速を超えんとする刹那を此処に。敵の追撃など置き去りにする閃光が如く。
 亮とリリファを背負い抱き上げ――往くものだ。
「一夜にも満たない一時のみだけど。カボチャの馬車くらいにはなってあげるわ」
 同時、ヴィリスは呟くものだ。
 ――晴れやかなるシンデレラにはなれないけれど。その一助たる馬車には成ろうと。
 跳躍一つ。一気に町の外を目指して――突っ切る為に。
「わぁ、ぁ……!」
 瞬間。超速の最中にて小さきリリファが声を零すものだ。
 斯様な速度に慣れてはいないのか、亮やヴィリスらの服の裾を摘みて……
 と、脱出寸前。最後の阻みを行わんとする影が至る、も。
「亮さんはそのまま。握った手を――離さないでください」
「ええ。皆さんはただ只管に……前へッ!」
 それはリディアとシフォリィが排除するものだ。
 最後にして全霊の一撃を此処に。逃さず、闇に引きずり込まんとする影を――滅す。
 であれば遂に到達しうるものだ。
 街の外へ。
 ……同時、景色が崩れる。刹那、頭を揺らす様な暗転があった、と思えば。

「ん……んん、ふぁあ~、あれ、私眠っちゃってたんでしょうか……
 あれれ!? 月原さんに皆さん! どうしてここに!?」

 直後。皆の鼓膜に届いた声は――リリファのものであった。
 それは幼き子供の声色ではない。いつもの……そう『現実』における大人のリリファの声で。
「よかったー! リリファさん、心配したんだよ!」
「む、むきゃー!? リディアさん何事ですか!! くっ、このお胸が! お胸がー!」
 現実への帰還を感じれば――リリファを真っ先にリディアが抱きしめた。
 リリファの顔を己が胸にうずめさせる。『くぅ! またお胸が大きくなったアピールを!』とリリファは怒るものだが、しかし。それだけの元気があるのならば、もうきっと泣く事はないだろうと……安心もするから。
「リリファ――さっきの世界の事、覚えてるか? 夢の世界の事だ」
「ん……何のことでしょう? うっすらと何か夢を見ていた気はするんですが……」
「覚えてないのか? ジブラルの街とかいう廃墟の中の事なんだが」
「――どうしてその街の名前を?」
 直後。語り掛けるのはサイズである。
 一連の出来事をリリファへと説明するものだ……驚く様子を見るにリリファは先程の流れを覚えてはいないが街の名や光景など記憶と一致する所はあるらしく、やはりアレは――
「彼女の元居た世界の風景が再現されているんでしょうか? 此処に蔓延っている難儀な術式はそういう類……いえ、リリファさん固有の事態であり、必ずしも同じく過去を遡るものではないのかもしれないですが」
「ま、なんにせよずっと付きっ切りだったナイト様もお疲れ様ね」
「はは。だから、ナイトって柄じゃないって」
 そういう事なのだろうかとチェレンチィは思考するものだ。
 同時。現実に戻って来たヴィリスは常にリリファを護る様に動いていた亮に声を掛け、労をねぎらうもの……あぁ流石に疲れたものだ。踊りならいつまでも続けられるが、しかし走るのは別である。舞踊の一環と見据え――るにはやっぱり長時間すぎるか。
 ともあれリリファを守れたのは良かったと思考しつつ、一度大聖堂へ帰還せんとし。
「それで? リリファ、夢の世界の事は確かにリリファの過去なの?」
「う、うーん。そうですね……確かにジブラルの街に逃げ込んだ事はありますよ。
 私が一番不安だった時期ですね。お姉ちゃんと逸れちゃって……怖くて怖くて」
「そっか――ねぇ。でもどうして追われてたの? 明らかにリリファちゃんが狙われてたよね」
 途上にてオデットとメルナはリリファへとやはり語り掛けるものだ。
 夢の世界。リリファは体や精神が幼少に変じていた影響かあまりよく覚えていないようだが……しかし関わった身であれば最低限知っておきたい事もあったから。
「ううううーん……その。なんというか、うーん。
 実は! 私、元の世界だとお姫様的存在だったんですよ! ふふーん!!
 だから色々あって狙われたと言いますか……ね!」
「えっ。リリファちゃんが……お姫様……?」
 ほんとぉ? 陽気な顔をしながら言うリリファの言がホントかどうか――
 メルナはじっと瞳を合わす様に見据えて。
「やっぱトラウマ見せて精神的に不安定にさせてるのかね……
 ま。何はともあれ戻ってこれて良かったな。ただ、もう一人では行くなよ?」
 ともあれアルヴァもリリファへと言を紡ぐ。
 身体が自由に動く以上、この地帯にあった術式は崩壊したと考えていいだろう。
 ……しかし他の場所にも似たような仕掛けは施されているかもしれぬ。
 注意は必要かと――思い巡らせて。
「ねぇリリファさん。お姉さんって、どういう人だったんですか?」
 最後にシフォリィは尋ねるものだ。
「お姉ちゃんですか? んーとってもカッコイイんですよ!
 いつも私を守ってくれて自慢のお姉ちゃんなんです!
 ……あの時に逸れて以降、出会ってはいないんですけどね」
「そうですか――いつか。いつかきっと、会えると良いですね」
 リリファに。何度となく呟いていた姉の事を。
 眼を輝かせながら語るリリファを見れば、ああやはりと思うものだ。
 ――救えてよかったと。

 己が『過去』も想起しながら――シフォリィは安堵の息を零すものであった。

成否

成功

MVP

メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた

状態異常

メルナ(p3p002292)[重傷]
太陽は墜ちた
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)[重傷]
木漏れ日のフルール

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 リリファちゃんは皆さんのおかげで救われました……ありがとうございました!
 このような術式が今、深緑各地に存在しているのかもしれません。
 しかし攻略し、破壊できた以上また深緑内部へと続く道が拓かれた事でしょう……
 更なる奥へと進む時は、またいずれ。

 ありがとうございました!

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