PandoraPartyProject

ギルドスレッド

待ち惚けの館

【来客RP】暗殺者と義賊

来客:チェレンチィ

●山賊の捕縛依頼
 ローレット・ギルドの依頼というのは、甚く不思議なものだ。
 召喚されるまで、或いはギルドへ所属するまでは犯罪として定められ、破れば監獄島へ島流しされてしまうことさえ、時に依頼として舞い降り、ローレットの名のもとに公的な仕事になる。

「ええ、こちらの山賊たちの捕縛、首だけでも構いません。
 この者たちはあまりにも、罪のない人々を殺して、奪いすぎました」

 ギルドの職員が、依頼の紙を持ったチェレンチィに説明する。
 幻想の端、広大な森へ身を潜めた、名の売れていない山賊の捕縛依頼。捕縛といっても、首さえ持ち帰れば殺しても良い。
 山賊は人数も少なく、一般市民だけを相手にする弱小者ばかりであった為に、通常の八人編成で行われる依頼へは発展せず、その場へ居合わせたチェレンチィのみへ依頼された、ちょっと特殊な依頼だ。

「良いですよ。でも、山賊たちの命には期待しないで下さいね」

 前金を受け取ったチェレンチィは、ギルドの受け付けを背に、地図に記された幻想の森へと向かった。
 まさか、そこに山賊以上の面倒事が向かっていることも知らずに……。

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「命が惜しけりゃ、金目の物は全部置いて、さっさと失せろ」

 その言葉は、とある幻想の森、小さな山賊の拠点で発せられた。
 情け容赦なく、山賊の男の肩を踏みつけた黒ずくめの男は、右手に持った狙撃銃の銃口を山賊の男の首元に突き付け、銃爪に指を置きながらそう脅す。
 周りには既に数名の山賊が倒れており、肩を撃ち抜かれ血を流している者もいれば、頭をしこたま殴られたのか、泡を吹いて気絶している者もいた。

「聞こえなかったか? 金目の物は全部置いて、さっさと失せろと言っている」

 銃口を更に強く突き付ける。
 食い込む程、喉に刺さったそれに苦しそうにしながら、首を横に振った。
 黒ずくめの男はそれを見るなり、重い狙撃銃で脳天に強烈な一撃を放つ。

「てめぇらが他にも隠してんのは――って、気絶してるし」
 またやってしまった。手加減しつつ、尋問するというのは加減が難しい。
 命が惜しけりゃ……なんて言っておきながら、はなから殺す気は無かった黒ずくめの男は、困ったようにため息を吐きながら、辺りを見回した。
 既に、意識のある山賊は一人もいない。
(幻想のとある森の中。
ローレットにて依頼を受けた黒衣の人物が、気配を消し、音も立てずに少し開けた場所に現れる)

「(……山賊たちの拠点は、情報によればこの辺り)」
「(…………)」
「(……妙ですね。人数が少ないとはいえ、話し声も聞こえないとは)」

(そこまで考えたところで、若い男性の声と、何かの衝撃音が聞こえ、咄嗟に物陰に身を隠してそっと様子を伺い)

「(……あれは……仲間割れ? いえ、人相書きと一致しない。山賊は倒れているのが全員、ならあの狙撃銃の彼は……)」
「(……これは、横槍が入りましたかねぇ……)」

(もう少し詳しく様子を伺おうと、少し体勢を変え。その際にほんの少しだけ、ザリ、と足音を立ててしまう)
「…………」

 ――ギロリ。
 獲物を見る目というのは、正に彼のそれを言うのだろうか。
 刹那、乾いた発砲音と共に、チェレンチィのすぐ傍にある樹木に風穴が開く。

「隠れるなら、もう少し上手くやるといい」

 モード・スレイプニルを発動し、改造されたブリンクスターを吹かす。
 少し離れていたが、仮にチェレンチィが逃げ出したとしても、追い付いて取り押さえる程度容易い――或いは、それが可能だという絶対的な自身があるのだろう。
 パキッ、パキッ、と落ちた木の枝を踏み抜いて、ゆっくりチェレンチィが隠れているだろう物陰に近づいていった。

「先日商人から盗んだものを何処に隠したか、吐いてもらおうか」
(サッと身を隠し、不味った、とでも言いたげな表情を微かに浮かべる。傍にある、風穴の開いた木をちらりと見据え)
(もう少しこちらに照準がずれていたら、ああなったのは自分――否、きっと態と外したのだろうと想像する)
(何の為に? ……お前の居場所なぞお見通しだと「分からせる」為に!)

「(……どうやら今日は運が悪い日みたいですねぇ)」
「(しかし……商人から、盗んだ? ……ああ。仲間だと思われていると、そういう事か)」

(こちらの位置は相手にばれている。ゆっくり近付いてくるということは、自分が逃げても追い付く自信があるという事なのだろう)
(ならば、相まみえて誤解を解くしかない。聞く耳を持たないようなら、何としてでも相手を動けなくしてその隙に逃げるしかない)
(自分も、相手にも、痛い目を見る/見させる覚悟を決め、息も気配も完全に殺して、最接近のその時を待つ)
 脅しても一向に出てこない様子に、多少の苛付きを感じつつ、更に前へ進む。
 目前で隠れているのが、未熟でひ弱な山賊だと疑いもしないアルヴァは、若干呆れた表情で溜め息を吐くと、聴こえるように呟いた。

「無視、か……。大人しく出てきた方が身のためだと思うが、仕方ないか」

 パキッ、パキッ、……彼が近付く足音が鳴り止んだ。
 一瞬、諦めたのかと疑いたくなる静寂は、短くとも永く感じるだろう。
 刹那――留まっていた筈のアルヴァは消えた。少なくとも、再度様子を見ようとするのなら、消えた様に見えただろう。

「――動くな」

 絶対的な自信の理由、身に纏う風を置き去りに程の移動は、瞬く間に物陰へ隠れたチェレンチィの背後に迫り、片手で持った狙撃銃を彼の背中に向けようとする。
 そして驚いた。山賊と思っていた後姿が、余りにも小さすぎたからだ。
 これじゃあ、まるで子供に銃口を向けているみたいではないかと、アルヴァは少し戸惑った瞳をしていた。
「――っ!」

(狙撃銃の銃口が背中に向けられたその瞬間、かの青年が驚いたその瞬間。
まるでその様が見えていたかのように、背中に目でも付いているかの如く、一瞬の隙を捕らえ、あっという間に青年に肉薄する)
(いつの間に抜いたのか、右手には両刃のコンバットナイフが握られている)
(刃の向けられた先は、青年ではなく――狙撃銃だ)
 倒した山賊の内、誰かの子供か……?
 ――そう考えていたのも束の間、向けた筈の銃口に臆さず肉薄されたことに目を見開いた。
 子供だと思っていたそれは、思ったよりもずっと動きと反応速度が良い。

「てめ――っっ!」

 流れるように繰り出されたコンバットナイフによる一閃、狙いは狙撃銃か。
 そうは気付いても、片手で持った重量ある狙撃銃を咄嗟に打撃へ応用させることは敵わず、子供相手に発砲するつもりもなかったのか、安全装置を下ろしたままだった。
 コンバットナイフと狙撃銃が衝突する、重くて鈍い音。かの塔の主へ特注したそれは、壊れることはなかったが、アルヴァの手から離れて宙を舞う。

「餓鬼が……」

 が、それはワザと手から放したらしい。
 既に姿勢を変えていたアルヴァは、肉薄してきた少年に向かって、後ろ回し蹴りを放った。
(何とか武器を手放させるのに成功した、と思った矢先。
青年の流れるような動き、そして後ろ回し蹴りを放つ様を見、敢えて落としたのだと悟る)

「くっ……!」

(行動を起こす際の一瞬の隙を取った心算が、取られたのはこちら。
武器を手放させ、そのまま攻撃に移るつもりだった勢いを完全に変えることは出来ず、急いで回避行動をとるも避けきるのは極めて難しく。
青年の蹴りが、頭を守るため咄嗟に出した左腕に命中し、その痛みは歯軋りとなって現れる)
 山賊をKOさせるには、余りある一撃を放ったつもりだった。
 それなのに、左足で放ったそれは相手の左腕で防がれ、確かな手ごたえとダメージを与えた感覚はあったが、決定的な一撃にはどうも届かない。

「チッ、嫌なこと思い出させやがる……」

 そういえば、あの時も邪魔が入った。
 絶対的な悪である山賊を庇った、同志でもある筈のイレギュラーズの存在。
 アルヴァは苛立った表情で舌打ちを一つ漏らすと、自分の攻撃を一度はガードしたチェレンチィに対し、そのまま大きく右足を振り上げ、容赦のない踵落としを喰らわせようとする。
(結構なダメージを負い顔をしかめるも、回避行動のお陰か何とか体力をもたせ、ぐっと踏ん張り倒れないよう気を張りながら、体勢を整えようとする。
相手はかなりの手練れだ。より一層警戒心を増して事にかからねばならない)

「(彼に何があったかは知りませんが、早いところ動きを止めませんと)」

(青年の呟きに、過去に何かあったのだろうかと思索しかけるも、今はそのようなことを考えている暇はなく。
回し蹴りに続けて足を振り上げる動き。そのまま踵落としでも放つ心算なのだろう。素早く青年の思惑を読み取り、振り下ろされる右足を迎撃せんと、こちらも脚撃を仕掛けようとする)
 ダメージを負いながらも、すぐ体勢を整え直す様子に不信感と不快感。
 もし、コイツも”そう”なのだとしたら、自分は手加減も容赦もする必要はない。
 やがて、チェレンチィの予測通り、アルヴァは振り上げた右足を、躊躇いもなく振り下ろした。

「……――なっ!」

 アルヴァの繰り出した踵落としは、チェレンチィの脚撃によって相殺――否、力の衝突と競り合いによって生じた力場が辺りに強烈な風を生み、技の威力で僅かに劣っていた彼は空中に放り出されながらも、くるりと体勢を整え地面に着地する。
 どうやら先の競り合いで、足を負傷したらしい。着地したと同時に表情が苦いものに変わったと思えば、バランスを崩したようにふらついて、地に手を付きながらチェレンチィを睨みつけ。

「やっぱり、そういう事か」

 地面に付いたアルヴァの手には、落とした筈の銃が握られている。
 そして、相手がイレギュラーズであることを悟った彼は、ゆっくりその銃口をチェレンチィに向け、銃爪を――……引くことを躊躇った。
(何とか迎撃が決まり、宙に放り出された青年を見、その間にコンバットナイフを構え直し。
着地地点に彼の得物があることは織り込み済み。
例えその銃口がこちらに向けられ、引き金が引かれようとも、それより速く動いて肉薄する準備は既に出来ていた)

「(…………はて?)」

(予想通り、素早く武器を手にした青年は、銃口を向けては来たが何故か撃つのを躊躇っている。これは、今なら話も通じるだろうかと、しかし構えと警戒は解かず、口を開く)

「……撃たないんですか?」
 狙撃銃の銃爪に添えた指。そして、その手は明らかに震えていた。
 近辺に転がっている幾人もの盗賊に息がある通り、チェレンチィに銃口を向けたアルヴァは何かを殺すことに慣れていない。それどころか、魔種相手ですら躊躇する甘ちゃんである。

「動けば頭を吹き飛ばす。だから動くな」

 それは警告じゃない。威嚇だ。
 余裕があるように装うアルヴァは目の前のイレギュラーに対し、少なからず恐怖や怯えといったマイナス感情を抱いていたからだ。

「話をするつもりはない。そのまま手をゆっくり後ろに回せ」

 彼がそれでも歯向かってくるなら、覚悟を決めて銃爪を引かなければならない。
 殺したくない。できればこれを人殺しの道具にしたくない。頼むから言うことを聞いてくれ。そうすれば少しの間気絶するだけで済ませるから。――そんな思考が、頭を巡る。
「(……震えている)」

(強気な言葉とは裏腹に、誰が見ても分かるほど震えている青年の手。
撃てない? いや、撃ちたくない?
もしかして、怖がっている? ボクを? いや、撃つことを?
話をするつもりはないと言われてしまったけれど、やはり今しかない。そう思い、ゆっくりと言葉を紡ぎだす)

「……嫌だ、と言ったら?」

(そのまま間髪を入れず言葉を紡ぎ続ける)

「これでも速さには自信があります。多分、貴方が撃つよりも、ボクの方が速い。
そんなに震えた手で撃とうとしている間に、ボクは貴方の首筋にナイフを添えることくらいは出来ますよ。
……ですから、その銃を下ろして、少しでいいので話を聞いてくれませんか。そうすれば、ボクもこのナイフを仕舞いましょう。
無用な戦闘も殺しも、したくないので」

(動くな、と言われたので、体勢はそのまま。
言葉の内容は、はったりとまではいかないけれど、やや強気に。
これで駄目だったら、青年を気絶させるなりなんなりして、その間に急いで撤収しなければ……とか、そんなことを考えながら)
 言うことを聞かないチェレンチィに対し、苛立ちを隠しきれず歯ぎしりをする。
 震える手で握っていた狙撃銃の照準が、少しだけズレた。ほんの数センチ、それだけでも弾が外れるには十分だ。

「アンタに拒否権は無い。
 俺がアンタの言葉を信じる根拠も、道理もない。
 アンタが素早さにおいて一つ抜けてるのは認めるが、アンタの素早さも俺には敵わない」

 その様子は、確かにチェレンチィの言葉で揺れていた。
 片手で構える狙撃銃の反対の腕――集中力を切らしギフトの幻が消えたそれは、何も通っていない袖が風でなびく。

「…………」

 膠着状態が続く。
 少なくとも、今の彼が自分からその銃を下ろす選択肢は無いように見える。
「……まあ、ボクの言葉を信じる根拠も道理もない、というのはその通りですよねぇ。
むしろ、素直に受け入れられる方がボクも信じられない。
ああいや、試していた訳ではないんです。ただ、貴方がどう返してくるか気になったもので」

(嘘は言っていない。というか、全て本音なのだ。
必要のない戦闘は好まない質だから、話で解決出来ればそれが一番いい。
ただ、交渉は苦手だし、状況が状況ゆえ1ミリも受け入れられないということは覚悟していた。
……銃が下げられないのなら、こちらもナイフを下げられない)

「……はあ、簡単な依頼だと思ったんですがねぇ……」

(これからどうしたものか、と考えながら、思わず溜め息を零して)
 耳を傾ければ、風の音に紛れてアルヴァの深呼吸が聞こえるかもしれない。
 手の震えが納まった。少し冷静に、頭に酸素を供給すればこの状況の大筋が読めてくる。
 率直に、目の前の少し困った表情をした少年は嘘を吐いてはいないのだろう。

「大方、ローレットの依頼を受けてコイツらを始末しに来たんだろう。
 当然だ。お偉いさんから目を付けられる程のことをコイツらはやってるからな?」

 照準がズレた狙撃銃をチェレンチィの方へ構え直し、睨みつける。
 ここで山賊を相手取っていたアルヴァのとって、一見チェレンチィは利害関係者にも思えたが、それは全くの逆だった。

「悪いね。それでもコイツらが殺されたり捕まったりするのは困るんだ。
 ビジネス……とでも言おうか。金銭を強奪する奴が消えたら、俺がそれにありつけないだろ?」

 ジャランと腰元に括り付けた袋を揺らす。
 恐らくそこには、山賊から奪い取っただろう金貨、或いは銀貨が入っている。
 アルヴァは後ろで伸びている山賊たちのことを堂々と”絶好のカモ”だと言い放った。
「(……なるほど、そういうことですか)」

(金属の音がした青年の腰元の袋、中には金目の物が結構入っているのだろう。
山賊が強奪した金品を横取りするのが彼の「仕事」なのだと、理解は出来た。
ということは、目の前の彼は――)

「……即ち、貴方もまた山賊のようなものだと、そういう訳ですか。
お察しの通り、ボクはローレットの依頼で、周りに転がってる方の山賊の皆さんを始末しに来たので……見逃せというのは無理な相談ですが」

(ナイフが仕舞えそうにないのは明らかで、軽い溜め息をまたひとつ零す。
素早く再び構え直し、その切っ先は真っ直ぐ青年に向けられている)

「先ほどの動きを見るに、貴方も恐らくイレギュラーズでしょう。
ということは、同じくローレットから依頼を受けられる立場。
あんなに腕が立つなら、そんなことをしなくてももっと稼げそうなものですが。
……まあ、他人の事情はどうでもいいんですけど」

(言外に、邪魔をするなら容赦はしない、と滲ませて。
すぅ、と青い瞳を細め、青年を見据える)
「否定はしないさ。分かってもらうつもりも無い。
 だが、コイツらが始末されりゃアンタが思う以上に困る人が出る。
 ――だからな」

 先程まで迷っていた彼の目が、鋭い真っ直ぐなものに変わる。
 そして、突き付けられたナイフに臆することもなく狙撃銃を構え直すと、銃口をチェレンチィの方へ向け”彼の選択肢”を言い放った。

「悪く思うなよ。その依頼は”失敗”だ」

 先にアルヴァから容赦の二文字が消え失せた。
 目の色が途端に暗くなった彼は、狙撃銃の照準をチェレンチィへ向けたまま、容赦なくその銃爪を引く。鳴り響いた銃声の音と共に、込められていた鉛玉が目の前の少年に飛ぶだろう。
「失敗する、訳には……いかないんですよねぇ……!」

(彼が狙撃銃を構え直した時から、指を見ていた。
だから何とか、既の所で躱すことが出来た。……否、動かざるを得ない状況に「された」のだ。
ピンと張りつめていた緊張の糸は今断たれ、どちらかが倒れる以外の選択肢など無くなってしまったのだから!)

「(あの狙撃銃は中々頑丈、恐らく何か特別な物……)」
「(勿論銃がなくても戦える訳で……そうなるとやはり、死角を取らねば)」

(鉛玉を躱した直後、青年目掛けて駆けだし、距離を再び詰める。
そのまま真っ直ぐ向かうかと思いきや、地を蹴り跳躍、近くの木を蹴り方向転換。……狙うは青年の背後だ)
「さっき言ったろ。アンタ、相当自身があるんだな?」

 撃ち出した弾丸はチェレンチィから外れ、遥か彼方に。
 しかし、消えたチェレンチィへ読んでいたかのように静かに呟くと、狙撃銃の銃爪から手を離し銃身(バレル)を掴むように持ち替える。

「悪いが自信だけで敵う程、人生甘かねぇよ」

 背後に迫るチェレンチィに振り向くような動作をピクリとも見せない。
 代わりに彼の右手が動いた。チェレンチィが迫ってくるだろう場所に目掛けて、まるで裏拳をする要領で狙撃銃のストックを叩きつけようとする。
「ぐ、ぅ……っ!」

(不意打ちを狙うも、まるでその思惑を完全に読まれたかのようにノールックで叩き付けられた狙撃銃の一撃。
頭にもろに当たったそれは、大怪我とまではいかなかったが、つう、と一筋の血が流れて眼帯を濡らした。
傷が右側ではなかった、視界を遮らなかったのは幸運だった)

「……そんなこと、分かってますよ。驕っている心算もない」
「(そんなに甘い人生なら、どんなに、どんなに……)」

(ふらつくのを懸命に堪える。
一撃を貰いこそしたが、後ろから接近出来たチャンスを逃す訳にはいかない。
狙撃銃を叩き込んだその右腕を取り押さえんと、素早く手を伸ばす)
「蛮勇、無謀、わかってるなら尚更だな」

確かな手ごたえと共に、先の一撃の威力が足りなかったことを悟る。
この状況、もしアルヴァが狙撃手であるのなら不味い状況であった可能性は言うまでもないが、そうではない状況を見せていたにも拘わらず突っ込んできたことに思わず嘆息を漏らした。

「それで、近接戦なら勝てると思ったか?」

再度狙撃中を地面に落とす。
チェレンチィが取り押さえようとした右腕を徐に前へ突き出すと、彼の胸倉を抉るように掴み、そのまま背負い投げをする要領で前方の床へ叩きつけようとした。
「(投げ、られ……!)」

(抉るように掴まれた胸倉、そして持ち上げられる感覚。
隻腕だからと油断していた訳ではなく、寧ろ最初から、あの重そうな狙撃銃を片手で取り回す様を見て警戒していたが、これほどまでとは。
体格の差、力の差、男女でやはりどうしても埋められぬ所はあるのだと実感しつつ。
場数だって、きっと相手の方がはるかに多く踏んでいるのだろう)

「……っ!」

(期待していた状況とはまるで違うが、これも千載一遇の好機。
胸倉を掴んだ腕をひっしと掴み。
受け身を取りつつ、その腕にナイフの鋭い刃を走らせんとする)
「……!」

多少強引だった背負い投げは、見た目ほど重くない体重により重心を保てず前へ揺れた。
軽いチェレンチィに対し、本人の体重を叩きつける背負い投げは相性が悪かったか、同時に訪れるジクっとして痛みに表情を少し歪めた。
なるほど。舐めてかかっていたのはこちらだったらしい。

「調子に乗るな……」

フードで暗くなった表情からでも微かな怒りが伝わるだろう。
痛みと共につぅっと腕を伝う鮮血は地面へボタボタと落ちるが、それを気にも留めずチェレンチィを鋭く睨みつけ、腕にしがみ付くチェレンチィを地面へ押さえつけると片足を大きく上へ振りかざした。
刹那、怒りと勢いに任せた踵がチェレンチィの顔に迫る。
「(くっ……!)」

(地面に押さえつけられ、飛んでくるのは踵――先ほども仕掛けられたように、腕が片方しかない分足技に長けているのであろう。
しかし、これは。勢い任せな分、随分と読みやすい。
真っ直ぐ迫る踵を、必死で身を捩り頭を動かし、何とか直撃を免れる。
しかし顔にピッと傷が走り、血が流れた。全てを躱しきることは出来ず、繰り出された踵落としの衝撃の痛みに顔を顰めたが……それに気を取られている場合ではない。
相手が足を置き終わるより早く、もう片方の足に自分の足を掛け、蹴とばそうと。
何とか相手の体勢を崩せないか、それを念頭に、やれることを瞬時に見極めようと)
 渾身の攻撃は地面へ直撃し、砂煙が舞う。
 攻撃が躱されたことにアルヴァは表情をやや歪めるが、それも束の間。軸足だった右足が足払いのように掬われ、バランスを崩したアルヴァの身体は右の肩からチェレンチィに倒れる――寸前の所だった。

「どこまでもやり辛いチビだ」

 ふわりと浮いたアルヴァは、言葉通り”無重力状態”と呼ぶのが相応しくて。
 腰部に潜めていたブリンクスターを素早く起動させたアルヴァは、チェレンチィから離した右腕を軽く地面に付き、勢いを殺す様に前へと退避した。
 一瞬、狙撃銃を目で探したっぽいが、生憎それはチェレンチィを挟んだ向こう側だ。
「(なっ…………いや、別に不思議なことでもないですか)」

(ふわりと浮かび退避した青年を見、やや驚くも、飛行種ではなくとも飛ぶ手段など沢山あるのだから……とすぐに冷静さを取り戻し。
自身も即座に起き上がって体勢を立て直す。
頭がぐらりと重いのは、先程くらった狙撃銃の一撃による負傷、そこから思ったより多くの血が流れたからだろうか。
眼帯に手をやると、ぬるりと湿った感触がした)

「それはこちらの台詞ですよ。……全く、やり辛い」

(チビと言われて若干ムッとしながらも、周りを見遣ることなく状況を把握。
狙撃銃は後ろにあり、青年とは距離がある。
――油断は許されないが、一旦退くには今が一番の好機かもしれない)
「正面切って生きれねえのはお互い様だろ」

 右の肩と掌を動かし、まだ満足に動くことを確認する。
 目の前の同じような姿をした少年に吐き捨てるようにそう言うと、ブリンクスターを起動したまま軽いフットワークで2,3回小さく跳んだ。此方はまだやる気らしい。

「さ……て、依頼が大失敗になる覚悟はできたか? 請負人が帰って来ない、な」

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