PandoraPartyProject

ギルドスレッド

梔色特別編纂室

【1:1】幻の夜と、ちいさな娘の話

魔法の夜が訪れるとともに、街に――――混沌全土に、歓声が満ちた。

「編集長、私は……」
「……んもうっ」
無音となった受話器を叩きつける。
――――扮装のひとつもしないと浮くだろう?
三角耳の奥に、冗談めかした軽い声が残響して。

通りにはカボチャのランタンが浮かび
有象無象、魑魅魍魎が笑い合い
猫は、カメラを片手に重い足取りで彷徨いだす。

ゆめまぼろしの夜が、始まった。

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(髪は編んでまとめ上げ、軍帽を被る。コートが尻尾を隠してくれるだろう。)
(服に体を収めるのに結構苦労したが、鏡の中で貴族風の衣装を纏った私はなんとか……男装の麗人、といった風に見えていた。)
……イヤだって言ったのに。
(貸衣装屋を出て、カメラを手にふらりと、通りへ。)
(あちらこちらを行く、仮装、仮装に、あるいは普通のひと)
(けれどもけれど、ともすれば、あすこにおわす町人も、ほんとの姿は尻尾や翼の生えたものなのかもしれません。)
(……見渡す全てが、夢幻の如く!)

……ええ、ええ。
だから。もしかしたらわたし、本当は、ひげもじゃの王様なのかもしれないわ?
(熱心に声をかけてくる男性を笑顔でいなす少女の、よく通る、清らかな声)
(もっとも、男性の方も「ナンパな吟遊詩人」に振る舞いごと扮しているだけでしたから、このやりとり自体が収穫祭における一興、小さなお芝居のようなものなのですけれど。)
……ふふっ、ええ。
素敵な恋の歌を聞かせていただいて、わたしも満足よ?
(次いで、別れの歌と称した吟遊詩人の高らかな歌声が響きますから……通りに立つ二人は、多少なりとも、目立っていたことでしょう。)
(その歌声は一際、夜の通りに響き渡った。祭りとあって気合の入った詩人か、または、憧れの「詩人の役」を手に入れた何者か、か)
……失礼、道を……お空け下さいますか、マドモアゼル。
(なるべく低く気取った声音で声をかけると、道をふさいでいた小さなネズミたちがきゃあっ、と退いてくれる。なんだかなぁ、と肩を竦めて、歌声の主にカメラを向けた。)

(詩人とやりとりをする少女は、一見ただの普通の、仮装なんてなんにもしていない、町娘。彼女の背中もフレームに入る)
……ん?
(綺麗な声のお嬢さん。何故かその声に聞き覚えがあって、写真を一枚撮ってからカメラを降ろした。)

ね……こほん。もし、そこのお嬢さん?
……? なあに?
(指の間をさらりとすり抜けるような金糸に、アメジストにも似た輝きを宿す瞳)
(可憐な面立ちを携え、まだ何者でもない少女が、気障な声に振り返りました。)

(軍帽に、整った貴族服。男装の麗人、というものでしょうか)
(されどその体格や顔立ちには、どこか見覚えがあります。)
……あの。どこかで、お会いしたかしら?
(10代前半くらいの、小柄な少女。)
(まるでお人形のように整った顔立ちに、紫水晶の色をした澄んだ瞳)
(その頬は、血が通った色をして)

(暫し、じっと見つめてしまったのは、ただの観察だったのか、自分でも分からなかった。)
……あまりにも美しい声でしたので、失礼。つい、声をかけてしまいました。
(軍帽を軽く持ち上げる。猫の耳がひょこん、と立ち上がり、コートの端から梔色の猫の尻尾が覗く)
(こちらはただの扮装なのだ。いくら衣装だけを取り繕ったところで一目瞭然だろう)
さぁ? ひげもじゃの王様に、知り合いはいなくてね。
……小さな小さなお姫様には、お友達がいるのだけれど?
……あっ!
(厚く艶を帯びた唇に、蜜色の髪、こちらを見つめる瞳は空の色)
(立っているだけで、こんなに近くに顔があるのは、驚くべき光景ですけれど……)
(でも、どうやったって、見間違えるはずがありません。)

……カタリヤ! わたしよ、わたし!
はぐるま姫よ!
(宝石でないというのに、瞳はこれ以上ないほど、きらきらと輝いて)
(背伸びと共にずいと間近に顔を伸ばして、カタリヤを見つめるのでした。)
これはこれは、姫様でしたか!
(気取って右手を胸に、地面に膝をつく。彼女を下から見上げるのはとても新鮮だ)
今宵は身分を隠し、お忍びのお姿?

(そのまま、ぐっと身を乗り出して彼女の耳に)
人間の、女の子。ね?
(囁く。)
とってもステキじゃない。
ふふっ、ええ。
(知り合いと出会ったことで気を遣ってくれたのでしょうか、帽子を脱いでの挨拶と共に去ってゆく詩人さんに笑顔で手を振って。)

ほんの数日の間だけ。
わたしは「はぐるま姫」じゃない、ただの村娘よ?
(普段の自分よりずっと大きな耳にかかる吐息は、ひどくくすぐったくて)
(特別寒いわけでもないのに、ぶるりと身が震えてしまいました。)
ありがとう。カタリヤも、まるで王子様みたいな格好をしているのね?
……カタリヤが「大きく」見えないなんて。なんだか、へんな感じだわ。
私も、貴方を抱き上げられなくって寂しいわ。
……そぉよ、不本意ながら、ね。これなら「仮装」だってわかりやすいでしょう?
本当はイヤなのよ、こんなの。
(立ち上がって、肩を竦めた。……彼女の顔がすぐ下にあるのは、こちらも何だか妙な感じ。)

そう、姫じゃあないなら……なんてお呼びすればいいのかな? 麗しのお嬢さん。
あら。今のままでも、少し重いけど、抱っこはできるかもしれないわ?
(両手を合わせる仕草も、瞳を細める笑顔も、人形の頃のままでございます。)

カタリヤは、姿を変えるのは嫌?
けれども、そうよね。カタリヤは元々、とても魅力的なのだものね。
(さしたる深慮もなく。「大人の女性」として真っ先に浮かぶ彼女の現状を、素直に受け入れましたが)
(言われてみれば、呼び方というものを、すこしも考えてはおりませんでした。)
……えっと。ええっと。

……そういえば。
わたし、「はぐるま姫」という肩書きのほかに。名前を、持っていないのね?
単にすっごくキツイのよ、この服……(と、胸元を指さす)(締め上げても色々と限界だった。)
もう少しゆったりした服、選べばよかった!
(少し子供っぽく唇を尖らせながら、悩む彼女を見下ろして)
ただの「はぐるま」じゃあ……歯車だものねぇ。可愛くないわ。
好きな姿になったのだから、名前も好きなの名乗っちゃえば?

なぁに、抱っこして欲しい?
まるで王子様に攫われるお嬢さんね。
(と、軽く腕を広げて見せた。イケるでしょう、多分。)
まあ、そうだったの。カタリヤは、胸がとても大きいものね……。
(これもやはり、何の気なしですけれど。「そういう」魅力には、とんと疎いの少女です。)

……ううん。名前といっても、簡単には思いつかないもの、ね。
ただの村娘を、姫と呼ぶのは変でしょうし。
(腕を広げたカタリヤの言葉を耳にして、はたと閃いたように、また手を合わせました。)
ひとまず、「お嬢さん」と呼んでもらうのがいいかしら?
……抱っこは……そうね。わたし、お願いしてみたいわ。
このからだで、人に抱っこされるのがどんな感覚か。とっても気になるのだもの。
「お嬢さん」の正直なところとってもステキだと思うけれど……胸とお尻は正直に褒めちゃダメよ?
すごぉく叱られることもあるんだから。
(また片膝をついて、彼女の背と膝裏に手を。細くても、獣種の身体は基本的に強靭だ。)
さあどうかな、お嬢さん?……ふふ、「姫」のときは、こんな風には抱き上げられないわね!
(所謂お姫様抱っこで、くるりとターン。)

でも、なりたいものが「村娘」だったなんて。
どうして?
まあ、そうなの……?
……じゃあ、これからは気をつけなければいけないわね。ありがとう、カタリヤ。
……きゃっ!
(全身が重みを伴って持ち上がる未知の感覚に、思わず声が漏れてしまったみたいです。)
(けれども、嫌ではありません。むしろ、からだ中が誰かの腕に収まってるのは、心地がいいぐらい。)
だって。わたしは、「姫」以外の生き方を、知らなかったから。
(しかもカタリヤから聞いたお話では、自分は「人間のお姫様」に近づいていると言うではありませんか。)
だから……人間の姿、だけじゃなくて。
「姫」じゃないわたしに、一度、なってみたかったの。
ふふ、ビックリした?
(腕の中の小柄な体には、子供らしい温かさと重みが伴うようで。……本当に、ただの、少女のよう)
大きくなっても軽いなぁ……ホントに攫っちゃおうか。
(腕の中の彼女に顔を寄せて、意地悪く囁いた)

姫じゃなくなった気分は、どう?
誰もが貴方をお人形だとも、お姫様だとも思わない、
ただのお菓子をねだりに来た娘さんなの。
……どう?楽しい?
ずっと、そのままでいたくはならない?
ふふっ。村娘を攫ってしまっては、民草の伝承の怪物のようになってしまうわ?
(斯様な物語はたくさん読んできた「お嬢さん」ですから)
(くすぐったさに身をよじらせながらも、冗談めかして笑ってみせました。)

(続く言葉は……すぐさま答えの浮かぶものでもなくて。)
……まだ、よくわからないわ。
みんなと同じ目線で話すのは、とても楽しいし。
温もりのある、軋まないからだも、とても素敵だけど……。

やっぱりわたしは、おじいさんが作ってくれた、人形のからだを誇りに思うもの。
……あっ。
けれどもね。「イタズラ」をするには、このからだは、とても楽しいわ?
エリオット……わたしの人形師なんて、近くでお話するだけで、顔がトマトみたいになってたもの。
それは困っちゃうわ。変身はイヤだけれど、バケモノになるのはもーっとイヤだもの。
(と、彼女をそっと地面に降ろす)
なぁに、もう悪戯してきたの?「お嬢さん」は悪い子ね。
……ちょっぴり、人形師さんには同情しちゃうわ。
(この美貌が生身、しかも人形の時の感覚が抜けなければさぞや距離が近いのだろう。……かわいそ!)

そうだ、写真、取らせてくれない?
(と、腰に下げたカメラを持ち上げた。)
ふふっ。だって収穫祭は、甘いだけじゃない、刺激的なお祭りでしょう?
(指先を唇に添えてみえる、それこそどこか悪戯な仕草は……さて、誰の真似事なのでしょう。)

写真? ええ、もちろん。断る理由なんて、どこにもないわ。
……わたしも、この姿を残しておけるなら、とても嬉しいもの。
よく解ってるじゃない、「お嬢さん」!
じゃ、こっち見てて……
(少し離れて、カメラを構える。四角い窓の中に、紫色の瞳を瞬かせた少女が、)
(――――記憶の中の、古びた写真)
(金色の髪をリボンで纏め、海色の瞳を輝かせた、ちいさな娘の)
(姿が、重なる。)
(そのまま、シャッターを切った。夜の通りにぼしゅん、と閃光が瞬く)
(眩しい光に、思わず目を細めて……ぱちくり、ぱちくり。)
(写真そのものは初めてではありませんでしたけれど、この眩さには慣れません。)

……どうかしら、カタリヤ。うまく、撮れた?
……さ、それは現像しての、お楽しみね。
写真の腕は任せて頂戴?
(眩しそうに瞬きを繰り返す彼女に、くすりと笑う。……ああ、)
貴方ちょっと、私に似てるわ。子供のころの。
ふふっ。仕上がりを楽しみにしてるわ。
(それから、どこか懐かしそうな言葉を投げかけられたなら)
(再び意外そうな顔で、瞳を瞬かせるのです。)
今のわたしが、カタリヤに?
……じゃあ。もしこの体で大きくなることができたら……。
わたし、カタリヤみたいな、大人の魅力を持った女性になるのかしら?
ええ。……私の方がちょっぴり、お転婆だったでしょうけれど、ね。
遠い海洋の小島の、それこそ生まれながらの村娘だったもの。
(彼女の口にした問いに、少し、目を見張る)
私みたいになりたいの、貴方?
カタリヤ、海洋の出身だったのね。
……じゃあやっぱり、わたし、村娘に変身してよかったわ。
(スカートの両裾をつまんで、くるり、その場で踊るように一回転)
(ああ、重たさのある布が風を切る感覚!)

ううん……わたしが「大人」になれるかは、わからないけれど。
でも。カタリヤは女性として、とても魅力的でしょう?
だからわたし、すこし、憧れるわ。
「じゃあ」?
(往来で燥ぐように踊る少女は、祭りの灯の下で、ほんとうに、ただの――――)
(感傷に浸りすぎだと、自覚する。とん、と胸に手を当てて)
……こんなものは、身に着くものよ。生まれながらじゃなくって。
それに、きっと、貴方には貴方の「女性の魅力」が伴うものよ。「こう」じゃあなくってもね。
……今でも上目遣いの使いどころは大したものよ、「お嬢さん」?
だってカタリヤは、わたしに「人間らしい」こころを教えてくれた一人。
あなたのようになれてるなら、今のわたしは、本当に人間の少女になれてるのだと思うの。
(スカートをつまんだままに、お人形の頃にいつも行っていたような、優雅な一礼)
(村娘の服だと、どこか背伸びしているようにも見えるでしょうか。)
ふふっ。「儚き花の」……今は、ただの村娘ね。
……これから他にも、わたしだけの魅力を、たくさん身につけることができたら。
いつか。「大人」のわたしも、思い描くことができるのかしら。
いただきっ(堂に入った……彼女にとっては自然な仕草の一礼に断りなくフラッシュを浴びせて)
(彼女の問いに、微笑んで答えた。)
楽しみにしてるわ。貴方が、大人になるところ。
思い描くだけで、足りるのかしら?
(彼女は、思い描けさえすれば、届く。何故かそんな、奇妙な確信があった。)

さて……お嬢さんはお菓子の夜に繰り出すのかな?
(気取った低い声で、軍帽の庇に手を添えて)
私めも御供致しましょうか。
きゃっ……もう、カタリヤったら。撮るなら撮ると、言ってちょうだい?
(顔の前に腕をかざして、眩い光を防ごうにも、動作は当然数瞬遅れです。)

……ふふっ。楽しみにしていてちょうだい。
カタリヤが想像できないほど、わたしのこころは成長したのでしょう?
それなら。さらに一年が経つ頃には、きっと。
(友人のみならず、自分でだって、未来のことは想像できないのです)
(何を知るのでしょうか。恋心、狡猾さ。もしかしたら、悪逆さえ)
(歩んできた可能性の路は、まだ無限大の半ばにも差し掛かっていないのです。)

ええ、ええ。お祭りは一人より、二人の方が楽しいもの。
……きっと「この距離」は、今日だけなのだから。
お菓子の味よりも、ずっと、ずうっと。大事に刻みつけさせていただくわ?
(さあ、どうぞこの手を拝借してくださいな)
(繋ぐべき手を差し出して、お姫様……おっと、失礼)
(お嬢さんは、にこりと、何度でも無垢な笑みを浮かべるのでした。)
ふふ、今日はお菓子と悪戯の夜なの。刺激的でしょ?
油断は禁物ですよ、「お嬢さん」!
(にまり。笑って、小さな……いつもよりも大きな、暖かくやわらかな手を取る。)

(一年先。人形の枠を外れ、人間へと近づいて。彼女は「何に」なるんだろう。)
(私が見ているのは、もしかしたら……ちいさな私の読んでいたおとぎ話の続き、かも知れない。そんな妄想を自分に許せるくらいには、今の私は、機嫌がいい。)

(手を繋いだまま、魔法の夜を行く。いつの間にかコートの下の尻尾は、とても上機嫌に跳ねていた。)

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