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シナリオ詳細

そうだ温泉へ行こう

完了

参加者 : 81 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●温泉に行こうぜ!
 とある山村に、最近、温泉が吹き出したそうだ。
 そんな噂がローレットに届いたのは、少し肌寒さの増した季節のこと。
「湯治なのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、これに飛び付いた。
 控えめに言って、温泉でのんびりしたい、と。
 だが情報屋の仕事は最近忙しい。
 個人的に行くには少し回りの視線が気になるお年頃なのだ。
 なので、イレギュラーズを巻き込んでしまおう。
 そう考えた。
「温泉が湧き出たのを幸いと、あれよあれよという間に宿を建て、瞬く間に観光地へと発展させたのはよかったのですが!」
 急ピッチ故に、不具合があるかもしれない。
 その調査を、こちらでしようと言うのだ。
 まあそんな不具合は微塵もないのだがそれを言ってしまえば計画はご破算。
 なのでお口チャックのユリーカは、
「皆さんで行きましょう、温泉に!」
 ババン! と、意気揚々と温泉カタログに旅行のしおりを人数分、机に置いた。
 気合いの入れようが違う。
「さてさて、皆さんには色々試してもらうのです」
 調査だもんね、多少はね、形式上はね。
「まずお風呂なのですが、男湯、女湯、混浴の三種類があります」
 ちなみに入浴の際は水着、もしくはタオルの着用が義務付けられた。
 そういうのは大事なのだ。
「効能は疲労回復だとかお肌ツヤツヤだとか滋養強壮だとかなのですな!」
「なのですな、て」
 語尾がおかしい。
 だが温泉でゆっくりするのはいい。
 今まであったことを振り返るのもいいだろう。
 仲間と友好を深めるのもいいし、その場で出会った人とおしゃべりもいい。
 恋人と……まあ二人きりにはならないけれど、二人の世界に入るなどもいいかもしれない。
 とにもかくにも、楽しんだもの勝ちだ。
「もちろん! このユリーカも! そこへ着いていくですよ!」
 なにが勿論なのかよくわからないが、しかし、
「あー、盛り上がってるとこすまないユリーカ。仕事だ」
 ヒョコッと顔を覗かせた『黒猫の』ショウ(p3n000005)の無情な一言により、ユリーカの不参加が確定した。
「あ……ええ……あの、みなさん……いってらっしゃい……なのです」
 見送るユリーカの顔は、儚い笑顔だった。

GMコメント

 ユズキです。
 温泉行きたいです、もう歳です、ゆっくり湯船に浸かりたいです。
 それはさておき以下補足。

●現場
 とても広い温泉宿。
 突如湧き出した源泉により、男湯、女湯、混浴の三つに別れ混沌を癒しています。

●やれること
 上記三つの温泉のどれか一つ、もしくは温泉後のまったりロビーというシチュエーションを選べます。
 男湯では、男として。
 女湯では、女として。
 混浴では、性別種族不問として。
 ロビーでは、湯上がりほかほかとして。

 背中を流し合ったり、湯に浸かったり、語り合ったりしてください。
 お約束として全員、水着orタオル着用が必須です。
 過度なお色気だとかトラブルはとっても健全になります。

●その他大事なこと

1. お仲間さんと参加の場合は、迷子防止のお名前とIDを添えてください。

2. 共通のグループ名でも構いません。

3. 一人だけど、同じように一人で来ている誰かと絡みたいという時は明記をお願いします。

4. 完全に一人で満喫したい人もそういう記載をお願いします。無いと絡む可能性が高いと思います。

5. 白紙の時は描写されません。

6. キャラクターさんの、やりたいこと・考え・特徴など、記載してくださると書きやすいです。

7. アドリブ可・不可の明記もお願いします。

 以上です。
 それでは、よろしくお願いしますね。

  • そうだ温泉へ行こう完了
  • GM名ユズキ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年10月15日 21時05分
  • 参加人数81/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 81 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(81人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
透垣 政宗(p3p000156)
有色透明
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
エリシアナ=クァスクェム(p3p001406)
執嫉螺旋
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
リジア(p3p002864)
祈り
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
シアン・マージ(p3p004219)
自称世界一の手品師
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
神埼 衣(p3p004263)
狼少女
Ring・a・Bell(p3p004269)
名無しの男
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
悪鬼・鈴鹿(p3p004538)
ぱんつコレクター
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
シャル=エルネア=オルディアズ(p3p004674)
世話焼き娘
オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716)
石柱の魔女
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
剣崎・結依(p3p005061)
探し求める
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
凍李 ナキ(p3p005177)
生まれながらの亡霊
ゼンツィオ(p3p005190)
ポンコツ吸血鬼
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
リアム・マクスウェル(p3p005406)
エメラルドマジック
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
アルフォンス・クリューゲル(p3p006214)
目指せアイドル!
イーリス・リュッセン(p3p006230)
掃除屋
リナリナ(p3p006258)
二次 元(p3p006297)
特異運命座標
ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)
暗黒竜王
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹
ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)
ウミウシメンタル
グリモー・アール(p3p006591)
This is a book
卯田 ナミト(p3p006599)
臆病な仮面
イオ・オルテ(p3p006613)
羊の配達屋さん
イルーネ=ハエン(p3p006614)
森の子

リプレイ

 仕事に明け暮れるイレギュラーズ達の、湯煙事情を、今回は覗いていく。
 荒仕事ばかりの昨今、働きすぎにはちょうど良い骨休めだろう。
 参加数およそ80人、そのくつろぎをどうぞ。

●男湯の場合
 まず湯船に、二人の男が浮かんでいた。
 名を、『すぴかちゃん盛り上げ隊』二次 元(p3p006297)と『This is a book』グリモー・アール(p3p006591)という。
 その説明をするには時間を約、三時間程遡らなければならない。
「美女達が一糸纏わず、生まれたままの姿で一同に介する……これは好機ぞ!」
 叫ぶのはグリモーだ。
 洗練した無駄な知識とスキルをフル活用し、少し距離の空いた女湯に向かおうとする。
「さぁいざ覗かん我輩の楽えーー」
 そうして男湯から踏み出した瞬間に、謎の光が男を吹き飛ばした。
「ふ、覗きじゃと? うははは! 素人、浅はかぢゃな! 時代は想像、おにゃの子達のきゃいのきゃいのうふふな会話を聞ーー」
 吹き飛んだ拍子に、語る元を巻き込んで、二人は仲良く水死体(死んでない)となったのだった。

「……寝てる……?」
 それをのんびりと眺める『青混じる白狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)は、こてんと首を傾げて呟く。
 決して彼のギフトが悪さをしたわけでは無く、単純に自業自得の二人なのだが、
「……ここは、寝る場所じゃ、ないよ」
 ゆさゆさと起こそうとしてみる優しいグレイルだ。
 ただまあ起きないので、仕方ないと諦め、縁に背中を預けるように座り直す。
「…………あ」
 と、脱力した視界の先に、波打つ水面がある。
 そのただ中に浮かぶ黄金色の円形は、空に浮かぶ月を映した物だ。
「……ふふ」
 素敵な光景だ、と、その景色を彼は、なんびりと見上げていた。

 そこから少し離れた位置に、『探し求める』剣崎・結依(p3p005061)がいる。
 まったりする彼は、別れ際、とても儚く、寂しげで、悲壮感のあるユリーカの笑顔を思い出していた。
「……うん、全力でまったりしよう」
 そうして限界まで湯に浸かり、どこかで聞いた[風呂上がりのコーヒー牛乳は旨い]というのを試すのだ。
「……まてよ?」
 そもそもそのコーヒー牛乳は、この温泉宿、というか混沌の世界にあるのか?
 そんな疑問が過る。
 なかったらどうしよう。
「うっ、わーいおっきなお風呂だー!」
 ざっぱーん! と、思考を遮る衝撃の飛沫が顔に掛かる。
 『!!OVERCLOCK!!』Q.U.U.A.(p3p001425)の飛び込みだ。
 サイバーゴーグルとスイム帽をつけ、水中の調査に向かおうとしている。
「おい」
「むむ、あそこがあやしいー!」
「まて」
「ざっばーん!」
「待て!?」
 全力バタフライが始まる前に、結依がそれを止めた。
「……え、めいわく? ……ごめんね」
 こんこんと如何に危なく迷惑になるのか。
 その説明を受け、Q.U.U.A.はしょぼーんと表情を落とす。
 と、それに安心した結依がふらりと倒れた。
「……すまない、腹が、減って、も……」
 無理。

 ぎゃー、わーと言うその喧騒を尻目に、『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)は肩まで湯に浸かり癒しを得ていた。
「なにしてんだアイツら……」
 とは思うものの、今日は日頃の疲れを取るために来ているのだ。のんびりさせてもらうと、静かに深く、息を吐き出す。
「……ふ」
 思う。
 湯を上がり、火照る熱の残滓を冷ましながら、ビールを飲む自分の姿をだ。
 グラスに注ぐ黄金色のそれはキンッと冷えていて、シュワシュワと弾ける音を奏でながら瞬く間に器を結露させるだろう。
 それを、グイッと一息にあおるのだ。
「ああ、ありがたいことだ」
 この機会をもらえたことに、感謝を。

 と、各々で楽しむ者達もいれば、複数人で楽しむ者もいる。
「っはー……いいお湯ー……!」
 5人固まる、その中心。
 そこに、湯に浸かる『木の上の白い烏』竜胆・シオン(p3p000103)がいる。
「あ、熱くない、ですよね……?」
 おっかなびっくり、足先をお湯にちょこんちょこんと付けつつ温度を測りながら『小さな亡霊』凍李 ナキ(p3p005177)はゆっくり行く。
 幾つか区画分けがされた湯だ。
「はぁ~……」
 と、比較的ぬるま湯に浸かるナキは、気持ち良さそうに息を吐いてシオンの近くに寄る。
 実は彼、シオンを除く3人との交友がない。ゆえに近づきたい気持ちはあるのだが、それはこれからで。
「いいですよね温泉……」
 くたぁ……と脱力して、『灰かぶりのカヴン』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)は湯に解され柔らかくなる体の感覚に浸る。
「それに、いい機会ですわ……」
 と、見るのはゆったり浸かるナキやアホ毛をへにゃりとさせた『目指せアイドル!』アルフォンス・クリューゲル(p3p006214)だ。
「交友を深めるにはいいでーーっ」
 と、思った直後に、シオンがミディーセラの尻尾をふんわり握る。
「まあ、まあ」
 ほわんとするミディーセラを満足気に見たシオンは離れ、
「おいおい、あんまはしゃぎすぎんばよ……」
 熱めの湯に浸かっていた『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)の顔に湯を飛ばした。
「あんたなぁ……!」
「まあまあ落ち着くッスよアオイ殿、ちょっとしたお茶目じゃないでふは」
 なだめるアルフォンスの頬をシオンがつついた。
「はしゃぎすぎては、いけませんよ? わたしに、湯の底に沈めさせないでください?」
「ハイ、ゴメンナサイ」
 よろしいと笑うミディーセラにホッとしつつ、ナキは折角だからとアオイが腰かける湯船の方へと向かう。
 交友の為には近づかなければ。
 そう思い、
「アオイさん、あのーーあつ、あっ、きゃぁぁ……!」
 踏み込んだ湯の熱さに逃げ出した。
「ナキー!?」
 バタバタとする五人組の湯治は始まったばかりだ。

「グドルフさんストップです!」
 そう叫んだのは『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)だった。
 止められ、あん? と片眉を上げたのは『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)だ。
「なんだよこれからタダ風呂だってのによお」
「なんだよ、じゃありませんよ、なんですかそのギットギト脂のコーディネートは」
 人間由来の脂まみれな髪や髭を非難する声だ。
 それに、一度自分の体を改めたグドルフは一つ頷く。
「そりゃ一週間くれェフロの世話になってねぇからなぁ!」
「……先に体を洗いましょう」
 有無を言わせないと、リゲルは手を引く。
 無駄に力強いなコイツと引かれ、洗い場に座らされ、洗剤たっぷり使って頭をぐわしぐわしとグドルフは洗われる。
「ちっ、全くコマゴマした坊主だぜこの騎士サマはよお」
 と、そう呼ばれ、リゲルはふと思う。
(山賊の彼と、騎士の俺……身分で言えば犬猿の筈なのに、この温かさはなんだろう)
 その答えは、恐らく本人にしかわからないことだ。
 それはともかく。
「さ、お待ちかねの温泉です、じっくり温まりましょ、ってお酒を湯船に浮かべるのは……!」
「ゲハハ! おめえは飲めなくて残念だったなあ! けどおれさまは飲ませーーああー!」
 持ち込んだお酒は、近くで暴れていた某AIのバタフライで吹き飛んでしまった。

 あちらこちらの騒ぎを聞きながら、『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は歩いていた。
「地球に居た頃とは大違いだ」
 気を抜けば簡単に命を取り零す、そんな世界に生きていた頃とは比ぶべくもない。
 仕事以外は平穏で、ご褒美は極上。
「平和ボケしそうだよ」
 まあ満更でもない。
「よーしよし、いっつもありがとな」
「ん?」
 と、不意に聞こえる声に顔を向ける。
 そこには、仔犬を石鹸で洗う『夕闇鴉の旅人』辻岡 真(p3p004665)が居た。
「ペットOKでよかったなーわんころ、ん?」
「あ、やぁ。その子、わんころっていうのかい?」
 目が合い、なんとなくルチアーノは隣に座る。
「そっか、洗うの手伝おうか?」
「うん、じゃあよろしく頼むよ」
 袖振り合うも多少の縁。
 温泉で、たまたま出会う人との一時もいいものだろう。
「あ、真さんも旅人なの?」
「ああ、時々依頼を受けつつ、混沌の世界を旅して回ってる。ルチアーノさんは……え、マフィン職人?」
 楽しげな二人の会話を、わんころが静かに見ていた。

 さて、温泉と外の合間。更衣室にて。
「はぁー……ゆっくりと湯に浸かるなんて久しぶりだよ……いいお湯だったねぇ」
 そこにも一人、男が居る。
 腰にタオルを巻いた半裸の男、『麗しの王子』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)は、近くに設置された簡易の冷蔵庫にお金を払い、瓶詰めされた飲み物を持つ。
「オンセンといえば定番、湯上がりのギューニューだ!」
 と言うが、それはただの牛乳ではない。
 薄く黄色く色づいた、甘い香りの堪らないそれは、フルーツ牛乳だ。
「ええと確か」
 聞いた話を思いだし、クリスティアンは腰に手を当てフルーツ牛乳を軽く掲げると、一気に反る様にして飲み干していく。
 瞬間、優しく、まろやかで、様々な果物のまぜこぜた風味が口の中を支配する。
「……プッハァ~! 最高の一杯だ!」
 満足気に頷いたクリスティアンは踵を返し、コーヒー牛乳を追加で買い、また盛大に飲み干していた。

●女湯の場合
「オーッホッホッホッ!
 フレアトップのかわゆいビキニ姿で!
 この! わたくしっ!」
 いや待て。
『きらめけ!』『ぼくらの!』『タント様!!』
「が! やってきましたわー!」
 なぜ扉を開けて入った瞬間ポーズを決めるのか。指を鳴らしたらコールが来るのか。誰だどこからともなく拍手喝采大歓声をしているのは。エキストラでも雇ったのか。
「……まぁ、いいか……」
 普段はあまり出さない、蝙蝠に似た羽根を思う存分に広げながら、『傷だらけのコンダクター』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は無駄にキレのある決めポーズをする『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)を溜め息混じりに見た。
「と言うわけでクローネ先輩洗いっこ致しましょう!」
「どういうわけ……?」
 聞き返しても笑顔でモコモコ泡を量産するスポンジを構えるタントは答えない。
 断るのも悪いと、「じゃあ……」と椅子に座る。向けた背中に、柔らかいスポンジの感触と、ソープのいい匂いがクローネの鼻をくすぐる。
「あら、先輩は羽根だけじゃなくて尻尾もございますのね?」
「そうそう尻尾ーーや待ってそれ、尻尾は自分でひゃあ!? あっ、自分でやるからちょ……本当にダ、ひゃああぁぁぁ!」

 可愛らしい悲鳴が木霊する。
「元気の良いことだ」
 友人、知人と遊んでいるのだろうな、と。そんな風にアンシア・パンテーラ(p3p004928)は思いながら、入り口で借りたタオルを巻いて入浴。
「私とは違うな」
 さしたる知人や友人がいるわけでもなく、気兼ねのないお一人様タイムを満喫しに来ているので、そう呟く。
 と。
「……あ、どうも……」
 隣に、かなりピンクな人がいた。
 いや、人というか。
「アオミノウミウシ、です……」
 先んじて説明する『ウミウシメンタル』ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)は、どことなく陰る死んだ目をチラチラ逸らしている。
「ああ、私はーー」
 と、返そうとしてアンシアはふと考える。職業的な事とか、色々、説明すると誤解されやすいのが自分だ、と。
「……ウォーカーだ」
 なので、当たり障りなく、紹介をした。
 ただのんびり、静かにまったりと、偶然な二人の世間話は少しだけ続いた。

「ふ、ぅん……」
 少し離れて一角。
 不自然に色気の強い場がある。
 しかしそれは、『月影の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)の持つギフトの効果が少し出ている為、仕方のない事でもあった。
 そして彼女の隣、本来の姿に戻った『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)もいる。青い肌の、人から見れば、そう、サキュバスと思われる外見だ。
「最近、依頼で注目を集めるのは良いのですが……怪我が多くて」
 そのプロポーションに圧倒されつつも、知り合いが居るというのは心強い。
 だから弥恵は、そんな相談ついでに、怪我の痕が残ってないかの確認を利香に願い出た。
「ええ、お安い御用よ」
 と、瑞々しい肌を見ながら、自身の豊かな胸に注がれる弥恵の視線に、利香はクスリと笑う。
「私が見る限り、傷はどこにもないわねえ……いひひ♪」
 じっくり、ゆっくりと観察する視線は、弥恵を恥ずかしさにもじもじもさせる。
 あまり見ないでくださいね? という、ささやかな訴えにはにんまりと笑って頷き、二人は洗い場へ体の洗い合いをしに、湯から一度出ていった。

「ふ~生き返るなぁ~」
 『羊の配達屋さん』イオ・オルテ(p3p006613)は、湯に体を暖かくさせ、深く息を吐く。
 ……ユリーカさん……。
 と、今は遠く、儚い少女を思い、
「残念だけど……代わりに満きげふん。調査しないとね!」
 決意を新たにする。
「ホントに残念だね、こんなに気持ちいいのにね~」
 連れである『森の子』イルーネ=ハエン(p3p006614)もそれに同調。さてとりあえず、調査をしよう。
 そう考え、イルーネがするのはヨガだ。
 全身浴から半身浴へ。
 リラックスして、自然と体から余分な力が抜けるのを待って。
「ほら見てー」
 開脚、からの上体を床に着ける柔軟性を見せる。
「お~すごーい!」
 感嘆をあげるイオのほうは、泉質の効果を調べていた。
 自分の髪、人と獣を行き来出来る特性を活かし、毛質の違う二種類の前後を比べる。
「こんな感じかな?」
「ん~……ルネ気持ちい~」
 真っ白な羊と化したイオの毛並みを、専用ブラシでイルーネが丹念に洗う。
 あとは報告書を作るだけだ。
 なので、イオとイルーネはもうしばらく、そこでヨガの続きや湯で過ごす時間を堪能した。

「これが、温泉……!」
 水着の上にタオルという、念には念をいれたスタイルの『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、目の前に広がる湯気とお湯に声を出した。
「ひゃー、極楽極楽ー。染み渡るー」
 先に湯に沈む『特異運命座標』サクラ(p3p005004)の、気持ち良さそうな声に誘われ、スティアも静かに隣へ沈む。
「ほんと、気持ちいいね~」
「久しぶりだけどいいものだよ温泉……スティアちゃんは、温泉来たことある?」
 と、顔だけ向けて聞くサクラの問いに、んー、と少し考えたスティアは首を横に振る。
「私の記憶が正しければ初めて、かな? これが噂の温泉!? って感じで、ちょっと嬉しい」
 えへへ。
 はにかんだ笑みで答える、が、見るサクラの興味は少し変わったようで。
「えっと……どこ見てるのかな」
 じぃ、と興味深く見つめる先。
「いやー、お胸大きいねスティアちゃんちょっとだけだから」
 両手を上げ、波打たせる様に指がうごめきサクラは行く。
「嫌な予感というか確信に変わっちゃったよ!」
「にがさーん!」
 距離を開けようと動きだしたスティアを抱きつきで捕らえ、バランスを崩して仲良くバシャンと飛沫を撒き散らす。
「そういうことするからおじさんっぽいって言われるんだよ!」
 小さな嘆きのスティアに、サクラは笑ってじゃれついていた。

 ……また、また来てしまった……。
「ふふ、また来てしまいましたね」
 『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)の心を読んだように、『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は微笑んだ。
「すっかり、習慣になりつつありますね?」
 二人での温泉は、これが初めてでは無いようだ。
 ルミリアの主な目的としては、休息と、翼を伸ばすというのがある。
「いや、別に癖になったとか、そういうわけでは……」
 そう言うリジアは小さく頷き、ただ……と息を継いで。
「寒いのは、苦手だ。寒いのは、虚しい」
 言って、深くお湯に沈む。
「しかし、温泉の効果として、肌のツヤとはなんの意味が……」
「綺麗な肌は、魅力です。リジアさんも綺麗なのですから、きっと得することもありますよ」
「生き物の利と思うべき点は、中々理解し難いな……」
 そういう点に、彼女は疎い。
 長い時間を封印された弊害なのだろう。
 でも。
「私は、この時間が好きです。この場所も、貴方と話せることも。きっと、それら全てが、好きなのでしょう」
「……そう、だな……悪くない。悪くない、と思う。温泉がいいのか、この時間がいいのか、それはわからないが」
 悪くない。
 今はそれで。
「じゃあ、また。一緒に来ましょうね」

 広い女湯の中、余り人気の無い一角で、『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)は落ち着きなくソワソワとしていた。
 あっちへこっちへと揺れる視線は、隣にいる桜咲 珠緒(p3p004426)と湯面を往復するし、珠緒を見る度に開く口は外す視線と共に閉じられる。
 ……すこし、落ち着かないのです。
 珠緒は思う。
 先日、混沌での温泉の利用法を学び、今回の誘いに応えるに問題無い知識を得たはずだ。
 だが、蛍の行動はわからない。
「えぇと」
 対した蛍は、悩んでいた。
 この温泉では体を癒し、柔らかな雰囲気の珠緒と接して心も癒す。完璧な計画だと思っていたのだ。
 思っていたのに。
 ……なんで、そんなに傷だらけなの……?
 幾筋もの傷が刻まれた体。それを人目から遮るのは蛍なりの配慮だが、当の本人はあまり気にしていない様子。
 だが、
(不躾に聞くのもノーマナーだしでも気になるでも桜咲さんが気にしてたら申し訳ないしでも何でもないわけないよねでも、でも……)
 深い思考のループだ。
 その長い思考に、あぁ、と珠緒は気付く。
「この傷、女子の体としては、アレですよね」
 自覚はある。
 その見た目で今、蛍を悩ませているなら、
「詳細は割愛ですが……ええ、『お役目を果たしてきた誇り』と申し上げておきます」
 それは解消しなくては。
「召喚時に、病や傷は固定化されたらしく、治りませんで。ので、受け止めを変え、こうして生き延びたお陰で、奇跡を得たのだと」
 歩く力も無かった頃を思えば、今の身体は素晴らしいものだと思っている。
「そっか」
 そして、本人が前向きに受け止めているのなら、何も言うことはない。
「改めて、心行くまで素敵なお湯を楽しみましょ!」
 ようやく穏やかな表情を見せる蛍に、珠緒も微笑むのだった。

 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は、湯船の縁に大きく背中を預けながら、ゆったりと周りを見回していた。
 寒さの出てきた季節に湯治は悪くない。
 そう思い参加した彼女の見るのは、同じように思い思いの過ごし方をする女性達だ。
「ふぅ……」
 まず居たのは、大きく背筋を伸ばした『運を味方に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)だ。
 前に張る胸は大きい。
「……あ、どうもー。いいお湯ですねー」
 と、マルベートの視線に気づいた彼女は笑って世間話を振る。
「みんなでわいわいするのもいいですけど、一人でゆったりもいいですよね」
 依頼で働き詰めで肩も凝りますし、と続けるシフォリィに頷きつつ、
「……依頼だけのせいとは限らないとはおもうけれどね」
 マルベートは、可愛らしい容姿のシフォリィを目の保養に観察した。
 と、そんな二人を避けるように、『石柱の魔女』オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716)が音も無くお湯の中を移動する。
 ひっそり、静かに、忍んで行く彼女は、特にそれをするに足る理由は持ち合わせていない。
「有名人の気分……!」
 そういう事だった。
 しょーもないですよね、とは本人の考えだが、こういうのは楽しんだ方がいい。
「えぇと」
 変、ではありません、よね?
 他人と一緒に入浴など初めての彼女だ。
 周りと違わないかと気になってすこし、挙動が不振になる。
 だが大体はみんな同じような感じだ。
 安心して、深く湯船に横たわる。
「はぁ……これが温泉……これが、天国……癖になりそうです」
 ふふーふ。鼻唄も小さく鳴らしながら、しばしそれを満喫する。
「美人な方、やはりいらっしゃいますね」
 と、そんな三人をのんびり眺めるのは『掃除屋』イーリス・リュッセン(p3p006230)だ。
 水着を着ていても目立つ自慢の胸に胸を張り、自分の他にも美人はいるのだろうかと眺めていたのだ。
 その結果見つけた三人を見つつ、
「ん?」
「あ」
 マルベートと視線が交わる。
「どうやら似た目的の様だ」
 それを、マルベートは察した。
 うんうんと一人頷き、来る前に自宅に仕込んでおいた肉料理を思い出す。
 愛らしい光景に心は癒え、湯治でたっぷりと汗をかき、満ちていく感覚と比例して胃袋の空きが欲求を訴える。
「我が家で優雅なディナータイムが楽しみだ」

「……調査だね」
「うん、調査だ」
 頷き合う『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370)と『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、いざ、と女湯の中へと進んでいく。
 心の中では「温泉楽しみ!」となっているのだが、一応これは仕事だ。
 効能の調査だ。
「はい、ヨル君があんまり温泉に入ったこと無いって聞いたので、入り方を教えてあげるね!」
「よろしく!」
 まあ本で読んだだけで詳しい訳じゃないんだけど、とは言わず、先にお湯に浸かるアレクシアは、下半身だけの入浴をする。
「お湯は熱いから、まず身体を温度に慣らしてから全身浸かった方がいいんだよ、半身浴だね」
「なるほど……」
 ふむふむと頷くヨルムンガンドは、アレクシアに倣ってお湯に入り、入り口で得た防水使用のパンフレットを覗く。
「疲労回復に、滋養強壮……?」
 温泉の効能が細かく書かれた物だ。
 よくはわからないが、とにかく体にいいのだろうと、そう思う。
「私もそうだが、アレクシアも中々に無茶するからな……」
 負担の掛かる身体の疲労が緩和されるなら、それに越したことは無い。
「癒されるのは確かだよねえ」
「ああ、それにこの湯、お肌ツヤツヤ効果もあるとか……実際の効果の程、アレクシアで確かめてやろうかぁ……!」
「えぇ~!?」
「なんてな、冗談だよ」
 と、そんな他愛もない会話をしながら、二人は全身をお湯に浸かり、暫くのんびりと過ごしていた。

 湯船の縁。
 足を湯に入れながら並び、会話する二人組がいる。
 それは、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)と『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)の二人だ。
 共通の知り合いを持つ故に、会話の内容は主にそれだ。
「いつもリゲルやノーラが世話になっている。特に、ノーラは色々、迷惑をかけていると思うが……」
「大丈夫です、ノーラさんとはお友達ですから!」
 これからも仲良くしていける筈だと言外に含めて言い、にっこりと笑うノースポールは、でも、と続けて、
「今日はポテトさんと仲良くなりたいですっ」
 そう言った。
 そして、その為の、と言うわけではないが、振るべき話題がある。
 それは。
「ポテトさん。ポテトさんは、リゲルさんのどんなところが好きなんですか?」
 所謂、恋バナというヤツだ。
 今頃男湯で山賊の世話を焼いているであろう彼の事をふと思うポテトは頬を掻く。
「ストレートに聞くんだな……でも、どこ、と言われたら返答に困る」
「?」
 首を傾げるノースポールに顔を向けたポテトは少し笑って口を開く。
「良い所も、ダメな所も、全部引っくるめてリゲルで。
 優しくて格好良くて可愛くて、こっそり負けず嫌いで朴念仁だけど、私がダメなところはちゃんと叱ってくれて、愛情一杯で、いつもドキドキさせて、幸せにしてくれる」
 だから。
「全部大切で、全部大好きだから」
 どこ、と限定は出来ない。
「ほぁ……」
 凄まじいのろけに、ノースポールはにっこりほっこりと顔を綻ばせる。が、ポテトとて聞くことはある。
「そういうお前こそ、ルークのどこが好きなんだ?」
 これまた今頃、男湯でわんころを洗いながらマフィン職人の話をしている彼のことだ。
「わ、私の番ですか!」
 ええと、と言葉を探す。
「そうですね……ルークの好きなところは……。優しくて格好良くて、頼りになって……あと、あ」
 ポン、と手を打って、
「あと可愛いです! それから、私を大切にしてくれて、ずっと一緒にいるって、約束してくれました。
 私の全部を、受け止めてくれました」
 そんなところが好きだ。
 と、言ったところで、限界が来た。
「……の、のぼせそうです……っ!」
 決して温泉だけのせいではない熱さを得ながら、会話はまだ続いていく。

「温泉というのは、大人が楽しむイメージが強いでありますな」
 広い空間を見回しながら言う『鉄帝軍人』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)の隣を、『魔法騎士』セララ(p3p000273)が並ぶ。
「一緒にお風呂で友情を高めるのだー!」
 と、テンションやや高めにハイデマリーを連れ、座らせるのはシャワーの前だ。
「入る前に体と頭を洗わなきゃね、マリーの頭はボクが洗ってあげる!」
「む」
 シャンプーとリンスを用意するセララの様子に一声唸る。
 まあ、と些か口ごもりつつ、
「そうでありますね」
 他人に髪を委ねる、その事に変な、不思議な気分を抱いてハイデマリーは静かに座った。
 しゃかしゃかしゃか、と、泡立つシャンプーで長い金髪を鋤く様にセララは洗う。
 頭頂から毛先へと、流して揉み混み、伸ばす。
「サイドテールじゃないマリーも可愛いよ、もっと色んな髪型でオシャレしてみるといいかもー」
 普段の横結びではない、ストレートに下ろしたのも似合うと、泡をシャワーで落としながら言う。
「ワタシは可愛いという部類に入らないでありますよ。可愛いという単語はアナタのようなタイプに該当するものだと思われます」
 それに、スラッと言葉を返したハイデマリーはハッとする。
 つい否定から入ってしまった。
 しかし、今さらそれを違うと訂正するのもバツが悪い。
「……」
「んー? マリー、どうかしたー?」
 沈黙する様子に、セララは首を傾げる。
 しかしそれに答えず、入れ替わる様に座らせ、
「交代であります」
 お返しというようにセララの髪を洗う。
 慣れない事にぎこちない手付きで、髪から覗くうなじや水を弾く肌から目を逸らす。
「セララは髪、伸ばしたりしないのでありますか?」
「そうだなー、世界が平和になったら、ボクも髪を伸ばしてみようかな」
 そんな未来を考えて、バシャーと髪から泡を滑り落とした。

 ゆらゆら、ひらひらと。
「……ヒレだけを見ると、お魚さんが茹ってるようにも見えますね」
 揺蕩うそれを、『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はぼそりと言う。
 それに、抗議の声が上がる。
「私は魚じゃ無いから……鱗も、尻尾だけよ」
 ふわりと湯からもたげる尻尾を見せるのは、『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)だ。
 ……そんな仕草も可愛らしいのですが。
 とは言ってしまうと、また怒られてしまうかと口をつぐむ。
「尻尾がゆらゆらしていると、うちの子達がじゃれついてしまい……いつもすみません」
 だから話を変えた。
 教会に住む、猫達の事だ。
「猫に懐いてもらえるのは嬉しいから、クラリーチェさんが謝ること、無いのよ?」
 とはいえ、玩具ではないとしっかり言い含めなければ。
 そんな事を決めながらクラリーチェは、ボトルに入った液体をエンヴィに差し出した。
「これは……お水?」
「ええ、冷えたお水です。長湯は美人を作る、と言いますし、のぼせないように。もう少しまったりしましょう?」
 受け取り、ふふっと笑う。
「クラリーチェさんは既に美人さんだと思うけれど……妬ましいわ」
 口を冷たい水で湿らせ喉を潤し、
「もうしばらく、のんびりとしましょうか」
 長湯を楽しんでいく。

 ちゃぷ。
 水の跳ねる音がする。
 一人静かに入るのは、『絆の手紙』ニーニア・リーカー(p3p002058)だ。
「沸き出したばかりの新しい温泉……なんて聞いたら、温泉大好きな僕が来ないわけが無いんだよ!」
 横たわる様にじっくりと浸かり、ふーっと息を吐き出して堪能する。
 友と一緒に賑やかに、というのも好きだけど。今は自由に、自分のペースで楽しみたい。
「あー……新しい温泉、最高だよ~」
 急ピッチの工事で不具合もあるだろう。それら含めて、直してしまう前の、今の状態を楽しむ。そして、直ってまた新しくなったら、また入りに来るのだ。
 そういう楽しみを、ニーニアは夢想する。
「こんな依頼がたまにあるから、イレギュラーズになれてよかった、なんて思っちゃうんだよね」

「ほぅ……」
 息を吐く『ロマンティックブルー』シャル=エルネア=オルディアズ(p3p004674)も、一人だった。
 静かに、ただのんびりと、湯船に身体を沈めて落ち着いていた。
「おーっ」
 と、そこに元気な声が聞こえてくる。
 ガラガラッと扉を開けて感嘆な声をあげるのは、『特異運命座標原人』リナリナ(p3p006258)だ。
「オンセンか、オンセンって旨いのか?」
「えっ」
 旨い?
 発言に首を傾げ、シャルの見る先、ペタペタと足音を鳴らして進む彼女は、服を着たままだった。
「ちょっーー」
 服のままはマズイ。
 急いで上がったシャルは、リナリナに近づいて言う。
「あの、服は脱がないと……」
「お? なんでだ?」
 ああこれは手強そうです……。
 思うシャルは、丁寧に、丁寧に、温泉の最低限の入りかたを説明する。
「なんかオッサンみたいな響きだな、オンセン!」
 底抜けに明るいそんな感想に、シャルは苦笑いを浮かべるしかなかった。

●混浴の場合

 タオルを胸まで巻いて、混浴温泉場に入る『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)はにこやかに進む。
 本当なら、温泉にタオル着用で入るのはマナー違反……と思うが、混浴ならはいいだろう、とも思う。
「ふふー、温泉と聞いたら来ないわけにはいかないのだっ」
 最近は変な人の相手が多かったし、今日くらいはまったりとして英気を養わなければ。
 と、入るお湯に先客がいる。
 大きめのタオルを胸まで巻いて深く浸かる『自称世界一の手品師』シアン・マージ(p3p004219)だ。
 耳に掛かるしっとりと濡れる髪を人差し指で掻き上げ、息を吐き出している。
 女の子かな?
 思いながら近くに。それに気づいたシアンが桜に振り返り、にっこり笑うと、
「一応言っておくと、ボクは男だよ?」
「え!?」
「なんなら確認、してみる?」
 チラリ。少しズラす胸のタオルを、桜は慌てて制する。
「うーん、温泉、いいね。気持ちいいし、目の保養にもなる、し……?」
 保養の視界に、写る、影は。
「まあ迷ったら混浴だな、うん!」
 イヌ型の半透明なスライムと、老け込んだロバを連れた『フランスパンをお食べ』上谷・零(p3p000277)だ。
 キョロキョロと辺りを見回すが、しかし異性の混じる場では少し、照れる。
 と、桜とシアンの目が自分に向いていたのに気づき、「あ、う、お」とテンパったテンションでわたわたと手を動かし、
「し、失礼しました!」
 離れた場所でお湯にダイブした。

「温泉に水着とか、ふーりゅーさの欠片もないとおもうの!」
 風流……?
 首を傾げる『智の魔王』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は、叫んだ直後に「ま、いっか」とコロリと態度を変える『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)を横目に見た。
「水着を着て入浴は不自然だが、温泉には違いない」
 それに、不要なトラブルを避けるという目的もあるのだろう、とも理解する。
 人数も多いことだ、そういうことも必要だろう。
「ふはー。温泉いいよねー。湯上がりにはビール一気飲みして『この一杯の為にいきてるー!』って言うんだよねルアナ知ってる」
「……元の年齢を考えてもおかしな発言だが……確かに、この温泉は良いな」
 うむ。温泉に癒されるこの感覚は良い。
 と、息を付いたのも束の間。
「というわけで、あひるちゃんを連れてきた!」
 じゃーん! と掲げるルアナの手にはオモチャだ。
 それをいざ、湯船に浮かべーー。
「ここは、持ち込みしても良かったのだろうか」
 グレイシアの言葉にその手が止まる。
 ……だめなの?
 しょんぼりするルアナの姿は、居た堪れない。
「誰にも咎められないのであれば、浮かべても問題はないだろう」
 パァ、と輝くルアナの笑顔。今の容姿なら、注意するものもいないだろう。
 そう結論をつけられた所で、ようやく落ち着いて、グレイシアは温泉の暖かさへと沈んだ。

 ぺちんぺちんと、床を叩く音がする。
 それは『解華を継ぐ者』ヨハン=レーム(p3p001117)の機械尻尾が跳ねる音だ。
 腕と足が一緒に動くぎこちない歩き方で行くのは、理由がある。
(がーるふれんどなマナさんとおおおお温泉!)
 誘っておいてこの緊張である。しかも、ガールのフレンドという、まだ恋仲ではない相手だ。
 そして、肝心の『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)は、 
「すこし、恥ずかしいですね……?」
 タオルを巻いて、歩くヨハンの後ろにぴたりとくっついて歩く。
「あっっっ」
 そんな彼女のタオル姿にサヨウナラしそうな意識を手繰り寄せ、到着した湯船に二人で浸かる。
「温泉、入れるのを楽しみにしてたので嬉しいです……それに」
「それはよよよよかった!(これはただの入浴これは健全ですやましいことなど何もーーむに?)」
 ガチガチなヨハンの思考に、変な擬音が混ざる。
 はてどうしたことかと目を向けると、頬を赤らめながら腕に抱きつくマナがいた。
「それに、レーム様とご一緒出来るなんて、今日は幸せの日です……」
 そんな台詞と共に、顔の熱を誤魔化す様に慌てる彼女の姿にヨハンは、思考が吹き飛ばされた。
 固まるそんな姿に気づかないマナは、感じる二つの熱に寄り添いながら願う。
 今はもう少しだけ、このまま。

 温泉の中に、重なる影がある。
「温泉、一緒に入るのは初めてだな。まぁ、ちょっと恥ずかしいのはあるが!」
 そういうのは、ビキニとパレオ姿の『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だ。
 そのレイチェルを膝に乗せた『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)は一つ頷いて言う。
「水着姿自体は、夏の海で見た故初めてではないが、こういう状況は……な」
 と、レイチェルの肩越しに、湯面に遊ぶ黄色いアヒルが目に入る。
 何を思うわけでもなく指でつついて見て、少しの沈黙を楽しむ。
「……重くないか、俺」
「別に重くはあるまい。……浮力もあるしな?」
「そっか」
 と、そのやりとりの最中にシグはふと思う。
「そちらは体温が低いのだったな。こう言った物は影響は出ないのかね?」
 大丈夫なのだろうかと、心配の声だ。
 それにレイチェルは「うーん」と唸って考え、うん、と一息。
「多分、長湯しなきゃ大丈夫だ」
 今まで温泉の機会にあまり恵まれなかった為、絶対とは言えない。言えないが、今は何より。
「……ありがとな」
 心配してくれる。その事に礼を言いながら、背中から体重を預ける。
 上手く甘えられねぇンだよなァ……。
 そう、心の中で思いながら。

 湯船の中で『ナインライヴス』秋空 輪廻(p3p004212)は、酒を楽しんでいた。
 ふぅ、と一息吐く姿は、普段の輪廻を知る者ならば、見たことのない姿だろう。
「流石に、たまにはこうやって気を抜いて本当の自分を出さないと……おかしくなっちゃうのよねぇん」
 抑揚を意図的に抑えた声ではない、普通の声。
 そんな、素をさらけ出す所に、話し声が聞こえる。
「はは、公共の場だから、僕をみんなの前で襲わないでくれよ?」
「お兄ちゃん、私も一応淑女だよ……そんなはしたない真似しないわ」
 きゅるきゅると、回るタイヤの音を鳴らしてくるのは宮峰 死聖(p3p005112)だ。その隣には『闇妹』木津田・由奈(p3p006406)もいる。
 そして、その死聖が輪廻に気付いた。
「おや、そこにいるのはもしかして」
「あなたは、死聖君……と、横の子は妹さん?」
 お兄ちゃん、と呼んだ声での判断だ。旅人なのに兄妹が会うとは、偶然とはスゴい等と思う。
「お兄ちゃん」
 にこやかだった由奈の顔がフッと真顔になっている。
「お兄ちゃん」
 繰り返す。
 そいつは誰だと、イントネーションが語っている。
「あら、妹さん、凄い表情をしてるわよん?」
「こらこら由奈、殺気はしまおうね?」
 優しく諭す兄の声に、コロリと笑顔を向けた妹は、
「フフフわかってるよお兄ちゃんお兄ちゃんは悪くない悪いのは誘惑してくるあの女が悪いんだものね」
 一息に言い切って、ブツブツと殺伐とした独り言を繰り返す。
 それに、腕を取って引き寄せた死聖は、近くなった由奈の耳にコソリと何事か囁く。
 それはいつか約束した事。二人の話だ。だが、とりあえずは。
「は、はぃぃ! 由奈、良い子で待ってますぅ!」
 思い止まった様だ。
 その様子を笑って見ていた輪廻は、そうだ、と前置きを作る。
「今日私がこんな話し方をしていたのは……くれぐれも内緒、よ?」
 そんな念押しで、また酒を一杯、喉を通した。

 洗い場に座る『ポンコツ吸血鬼』ゼンツィオ(p3p005190)を前に、『色欲憤怒の三つ目怨鬼』悪鬼・鈴鹿(p3p004538)が行く。
「まずは体を洗いっこしないとなの!」
 と言って行うのは、体を使った洗いだ。
 鈴鹿のスポンジで洗ってもらう、と聞かされたゼンツィオは、それに慌てる。
 だって周りの人は誰もそんなことしていないもの。
「ね、ねぇ、これって本当に正しいのっ?」
 恐らく正しくはない。
「これくらい友達だから問題ないの! ……それとも嫌だったの?」
 だが、泣きそうな顔の鈴鹿を見ると、ゼンツィオもそれ以上は強く言えない。
 流されるままに洗われ、その流れのまま湯船まで一緒に浸かる。
「深い水への苦手意識があるってきいたから、こうすれば安心なの」
 そういって鈴鹿がするのは、抱き抱えだ。
 これくらいなら大丈夫、というゼンツィオを抱き、二人のお風呂上がりは一緒の部屋にいたとか、なんとか。

「美咲、唐突だが……一緒に温泉に入りたい」
 と、美咲・マクスウェル(p3p005192)が『オーロラブレイド』リアム・マクスウェル(p3p005406)に真顔で請われたのが一時間ほど前の話。
 そして、現在。
「……混浴とか聞いてないんですけど!?」
 美咲の驚愕に溢れた叫びが景気よく響いていた。
 しかし、
「すまないな、俺の我儘に付き合わせて」
 申し訳なさそうな顔で言われると、うーん。
「しょーがないなぁ、けど、何度も通じると思っちゃダメだぞ!」
 甘いと思いつつも、水着も用意したし、とも思う。
「すまないついでに、美咲」
「え?」
 ぐっ、とリアムに抱き寄せられる。
 一瞬意味がわからなかったが、直ぐに気づく。
「……むー」
 要は、周りから隠してくれているのだ。
 それが解るから何かを言うわけでもない。
「美咲、この間の訓練では、ありがとう。おかげで、苦手な遠距離攻撃を克服することができた」
 しかしやはり何か言おうかと迷う間に、リアムの言葉が来た。
「本当は何か贈り物等で返してやりたがったが、俺はこの手のものに不馴れでな……こうやって、愚直に感謝を伝え、言葉で労ってやるくらいしか思い浮かばなかった」
 すまない。と続いた言葉に、風呂上がりに何か奢ろう、と追加される。
「……アイス」
 あ、いや、安い。
「…………ふたつ。ちゃんと別の種類じゃないとダメよ」
 こんなサービス、滅多にないんだから。
 そう思いつつ、美咲は要求するアイスの種類を考えていた。

「元居た世界の文化が当然のようにあるんだね」
 言う『行く先知らず』酒々井 千歳の声が、自然と響く。
 大きくもなく、小さくもなく、その音は隣に居る水瀬 冬佳(p3p006383)に届いた。
「温泉というのは、きっと、そんなに特別な文化、というわけでもないのでしょうね」
 それに、彼女は応答する。
 考えてみれば、そう前置きの一言を挟み、
「遠く、昔。文化の交流が無かった時代の大陸でも、温泉の文化がある地域もあったらしいです」
「そうか……元の世界でも何度か足を運んだけど、なぜだろう。そこまで昔の事ではないはずなのに、少し懐かしいな」
 言葉を切り、空を見上げて千歳は想う。
 遠く、遠い、世界の事。
「ねえ、冬佳さん」
 視線は上のまま、声に向く視線を感じながら千歳は続ける。
「この世界にもし、彼も呼ばれていたなら、この状況を喜んだかな」
「……どちらかというと、彼向きな気もしますね。この世界も、特異運命座標というある意味で何でも屋の様な立場も」
 二人の居た世界に居た、千歳の友であり好敵手である人物を想う。
 結局、決着の付かないまま呼ばれてしまった。
「心残り、ですか?」
 決着に拘っていたのは彼の方、とは、冬佳からみた印象だ。
 実際、千歳はどう思っていたのか。
 それは、
「一度、それがとても綺麗だと思ってしまったら手を伸ばしてしまうのは人の業だね、冬佳さん」
 どうなのだろう。
 千歳が伸ばす先は、何があるのかは、それは。
 本人にしか、わからない事だ。

 湯気の中、香りが高い場所があった。
 その香る匂いはツンとしていて、どこか刺激的な、しかし甘さもある匂い。
「では、乾杯を」
 一言の音頭を取った 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が持ち込んだワインの匂いだ。
「……美味しい!」
「あぁ……熱い湯船で飲む一杯は格別だよな」
 あおり、感嘆するのは『蒼焔のVirtuose』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)と『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)、そして。
「おっ、奇術師の嬢ちゃんはワインか。んじゃ俺も、この坊っちゃんからくすねーーあいや、もらった酒を出そうかね」
 どこから出したのか、 『名無しの男』Ring・a・Bell(p3p004269)も酒を提供する。
「おい、それは俺が以前に貰った酒だ。いつの間に盗んだ、それは俺のだ!」
 坊っちゃん、ヨタカはそれにいち早く気付き、取り返す動きで行くが、これは度数が高いからとBellと口論になる。
「やれやれ……まあ、今日くらいは血生臭い浮世の事は忘れるか」
 行きすぎたら止めようと思いつつも、ジェイクはその様子を笑みの表情で眺めている。
 この程度なら、二人の関係的に平気だろうと言うある種信頼だ。
「ベル様は団長様とどういうご関係なのです?」
「あっ、もう坊っちゃん……ん? 関係って、まあ……唯の上司と部下。それ以外は何も無いさ。何もね?」
 ついに奪われ、酒に酔うヨタカを諦めた顔で見たBellは、幻の質問にそう答えてジェイクとのんびり酒を酌み交わす。
「はぁ~幻の奇術はいつも最高だ……! 今も鳥なんからして……温泉で奇術やるのか~?」
「ふふ、団長様は、僕の奇術を何度見ても驚いてピュアな目で見てくださるさいこうの観客で御座いますが……少し、飲みすぎでしょうか」
 ふわふわと楽しそうなヨタカを中心に、四人は静かに温泉を楽しんだ。

●湯中りからの外出者達

 『翔黒の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)。
 温泉を楽しむべくやってきたイレギュラーズの中にあって、彼だけは異質だった。
 そもそも格好が違う。
 身を包むのは、浴衣を模した温泉宿オリジナルの清掃員の衣装だ。
「やれやれ、温泉上がりの客が多いことで……」
 続々と、ホカホカと。湿り気を帯びたイレギュラーズ達が彼のそばを通りすぎていく。
 なぜ彼がこうなったのか。
 どうしてこうせざるを得ないのか。
「聞くな」
 不幸を背負う彼にそれは聞いてはいけないのだろう。
「あ、すいません、従業員の人」
 そこに、お風呂上がりの『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)が寄ってきた。
 もちろん津々流も召喚されたイレギュラーズの一人だ。
 そして、呼ばれる前。元の世界で見た、大きいお風呂に浸かった後はコーヒー牛乳を飲むのが決まり、という知識。
 それを試してみたい。
 だから、
「コーヒー牛乳かフルーツ牛乳、ないかな!」
 聞いてみた。
「ああ、えぇと……」
 確かあった筈だ。仕事の説明を受ける際に、そういう案内も仕込まれた、気がする。
(掃除屋が本当に掃除してるとか、皮肉が効きすぎてるぜ……)
 そんな嘆きを抱えていたからうろ覚えだ。
「あっちだ、うん」
「あっ、ほんと? ありがとうね!」
 タタタと駆ける津々流は、角の売店で念願のコーヒー牛乳を購入する。
 ……えぇと。
 確かこうだ、と、腰に手を当て、飲む時はこうするのだ、という感じでポーズを決める。
 飲み干すそれは、とても甘く、温泉で消費した水分の染み渡りは、なんとも言えない感触だった。

 ロビーに設置されたのは、売店はもちろん、食事処や歓談スペースなんかもあって。
 そんな賑やかゾーンから離れ、柔らかいクッションのベンチ椅子も並べてある。
 そこに、二人は居た。
 一人は、小さな小さな少女。
 クッションに寝そべる『小さな思い』リトル・リリー(p3p000955)だ。
 そしてその隣、ボケーッとしながら片手にソフトクリームを持つ、『狼少女』神埼 衣(p3p004263)もいる。
 二人は別々に温泉に浸かり、それぞれ長湯をして、逆上せて頭がふらっとしているのだ。
 ただ重症のリトルと違い、衣はそこそこ動ける余力はあるようで、前に動かした尻尾を空いた手で軽く毛並みを鋤く。
 そんな折。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
 声をあげる『臆病な仮面』卯田 ナミト(p3p006599)が、別のベンチに正座で座り、噺を始める。
 ぽけっと見るリトルと衣に気付いたナミトがクスリと笑うと、周りの人にも向けて声を続けた。
「バタフライ効果を知っているかい?」
 先程から騒がしいお風呂場の話。
「そこに浮いていた彼、実はバタフライ効果の被害者なのさ」
 ここに来る前、ナミトは小石を蹴っ飛ばしたんだそうだ。
「それは僕の知らぬところで人にあたり、傷を癒しに来た温泉、まさかそこで蹴っ飛ばした相手を見つけ」
 目を逸らした際に足を滑らせ。
「ーーそんな噺さ」
 そんな作り話だった。

「おや、アーリア様もいらしていたのですか」
 脱衣場の暖簾を潜り、湯上がりお酒タイム、と揚々に歩く『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は、掛けられる声に振り返り、そして首を傾げた。
「……あらぁ、一瞬どなたかと思ったわぁ」
 そこに居たのは、普段のきっちりとしたスーツ姿ではない、浴衣を着た『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の姿がある。
「ああ、私の出身世界では、浴衣は温泉の定番でして」
 一つ頷いて疑問を解消。そして、
「食事処に日本酒を冷やしておくよう手配しておいたのですが、よろしければご一緒にいかがですか?」
 風呂上がりの一杯に向かうのだろうと予測を付け、誘いを投げる。
「勿論!」
 二つ返事だ。
 だから食事処に移動し、湯豆腐等をつまみにする。
「そうそう、さっきいいそびれちゃったけど、その浴衣お似合いよぉ」
 アーリアの褒め言葉に、「光栄です」と会釈をした寛治は、ですが、と繋げる。
「湯上がり美女の艶やかさの前には、誰も及びません」
「お上手ねぇ」
 会話を肴に、小さな酒宴はしばらく続いていた。

 牛乳を片手に、湯上がりに風に当たる『暗黒竜王』ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)がいる。
「友とこうして湯に浸かる日がくるとはな。少し温ま湯で、赤黒くもなかったが」
「待って赤黒いってなに、え、それなに湯? というか湯?」
 思わず聞いてしまう『しがない透明人間』透垣 政宗(p3p000156)の手には、コーヒー牛乳が握られていた。
 不思議な湯(?)の事は気になるが、それよりも今は、
「お風呂上がりと言えば牛乳だよね!」
 ゴクッと喉を鳴らして飲む。そういえば、ルツの世界ではそういうのはあったのかと聞くと、牛乳を一口飲んで「なるほど……」と呟いていた彼は頷く。
「私の世界ではその様な文化は無かったな」
「そっかぁ。あ、じゃあこっちも飲んでみる? ルツくん、甘いの好きでしょ?」
 好きなものを共有したいと差し出されるそれを受け取り、しげしげと眺めてから一口。
「なるほど、これは美味い……!」
 また一つ、美味しい物を知れたと、喜びに顔をほころばせた。

「二人で温泉、二人で浴衣! お揃いだね、商人さん!」
 商人さんと呼ばれた、銀の長髪を湯上がりに湿らせた『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、わーいとはしゃぐ『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)を笑ってみていた。
 長い前髪で表情の全てを読み取るのは難しいが、史之はそもそも気にしてないのか、売店やお土産コーナーをあれこれ見ている。
「それにしても」
 まさか一緒に温泉へ来る間柄になるとは。
 出会いを振り返りながらそう思い、商人さん、と再度呼び掛け。
「これからもよろしくね」
「今後とも、ご贔屓にしておくれ。ヒヒヒ……」
 答えに満足した史之は、買ったばかりのコーナー牛乳の蓋をポンッと外した。

 湯上がりに牛乳を。
 どこの世界もそれは広くあるようで。
「おぉ、いい飲みっぷりでほれぼれしちゃうよ九鬼ちゃん!」
「湯上がりに冷えた飲み物は美味しいですからね……あ、コーヒー牛乳もください」
 にこやかに言う『見習いパティシエ』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)に、二本目を飲み切った『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)は満足そうに息を吐き、
「次はお土産コーナーがみたいです……!」
「よーしいってみよー!」
 喉を満たした次の目当ては購買欲だ。
 ノリノリで早速向かい、物色を始める。
「えへへ、こう見えても幸運を呼ぶとか、占いとか好きなのでそういうグッズを見極めるの、得意なんですよ……!」
「へぇ~そうだっ……」
 と、見るミルキィの先。なにやら禍々しいオーラの置物を手に取る九鬼がいる。
 しかもこの笑顔は、まさか、プレゼントされるのでは……?
「野生の温泉まんじゅうって知ってる!?
 温泉に浸かってるのを捕まえて食べるんだけど、まんじゅう狩り、楽しいから今度一緒にどうかな!」
「え、温泉まんじゅうって野生化するんですか?」
 興味がそちらに移った九鬼にホッとひと安心して、二人は温泉まんじゅうをお土産にしばらく談笑に耽っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リプレイ中に使った「湯」という漢字がちょうど80回で、なんか一年分くらい使ったのでは感があります。
そんなわけでこちら、シナリオの終了です、お疲れ様でした。
温泉言った後に海洋の渦に潜るとか温度差で風邪引きますね。

それではまた次回。

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