シナリオ詳細
<月だけが見ている>炎は自らの消え方を知らない
オープニング
●
「ラーガ・カンパニーは力をつけすぎました。全ては諸刃の剣ですが――」
ラサの経済基盤を支えているという有力商人、ファレン・アル・パレストは円卓に手を突き深刻そうにそう切り出した。
舌打ちとうなり声が『凶頭』ハウザー・ヤークの喉から漏れ、場にぴりついた空気をもたらしている。
ファレンの部下達が用意した後衛拠点テントには、ファレンをはじめ有力傭兵団凶(マガキ)の頭目ハウザー、そして作戦を聞きに来た大勢のローレット・イレギュラーズが集まっている。円卓の上に広げられているのはこれまでの探索で判明した『月の王国』のマップだ。
マップを一瞥し、そしてもう一度場の顔ぶれを眺め直してファレンは商売道具でもある低くよく通る声で語り始めた。
「市場に流れた紅血晶を追うことから始まった一連の事件には、皆さんも知っているとおり吸血鬼たち、『月の王国』が暗躍していました。
我々は古宮カーマルーマの転移陣を通じこの月の王国へと侵攻、王宮へと迫っています。
これまでの戦いで吸血鬼から烙印を刻まれ、吸血衝動に苦しんでいる者もいるでしょう。ですが、その戦いもこれで――」
ズドン!
と、激しい音がして場の全員が停止した。
ハウザーがナイフをテーブルに突き立てた音だ。
ナイフの突き立った場所はラーガが逃げ込んだという古代遺跡を記したポイントである。
「ガタガタ御託を並べてるんじゃねえ! 俺らはこのクソラーガをぶち殺しに来たんだろうが! アァ!? 奴はここだ! 敵はクソほどいるが全員ブチのめしゃあ関係ねえ! そうだろ!」
今にも相手を頭から食いちぎりそうな剣幕に多くの者が押し黙ったが、しかしそこはラサにて百戦錬磨のファレン。すました顔のままハウザーへと頷いてみせた。
「その通り。先ほど掴んだ情報によれば、ラーガは『エーニュ』から盗んだという技術『強化烙印兵』も手元に置いているようです。
これは烙印を刻まれた人間を強制的に強化して生み出す怪物で、非常に強力である一方殆どの者は自我すら失っているようです。
それだけではありません。温存していた晶獣や晶竜、協力者である吸血鬼など全て投入するでしょう。
ラーガの性格上、近づけば近づくほどその戦力は増すはず。今回はマガキとイレギュラーズを主力部隊として突入しますが、後衛テントには我々の派遣した医療チームを置きます。くれぐれも無理をして命を落とさぬように」
敵の戦力は大きいが、こちらの戦力もまた大きい。充分に渡り合うことが可能だろう。
「この作戦に失敗すれば、ラーガという巨悪を解き放つことになる。多くの拉致被害を出し、ラサを混乱させたこの男を、ここでなんとしても止めなくてはなりません」
冷静にそう締めたファレンに対して、ハウザーはフンと鼻息をならした。
「そうと決まったらさっさと行くぞ! おめぇらもとっとと行きやがれ!」
吠えるように叫ぶハウザーに、マガキの傭兵達は急いで武器をとり走り出す。
イレギュラーズたちも各々の役割を果たすべくテントを出て現場へと向かっていった。
●
がらんとしたテントの中で、シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)と水月・鏡禍(p3p008354)は顔を見合わせた。
なにせ、『とっとと行きやがれ』と吠えていたハウザーが未だに腕を組み、テーブルの前に立っているのだ。
それに、もう一つ気になることもある。
聞きづらい質問だが、ここは切り出すべきだろう。
「ハウザー、パドラはどうしたの?」
「…………」
ハウザーはギリッと歯をむき出しにすると、その凶悪な顔でシキをにらみ付けた。
が、それだけだ。
それだけで、彼は視線を地図へと落としてしまった。
「あいつは、会議には出てねえ。戦いになったら出てくるだろ。あいつが仕事をサボったことはねえからな」
「ハウザーさん」
言うなら、今だ。鏡禍は思い切ってハウザーへと追求することにした。
「何があったのか、教えてください。パドラさんのご両親を殺したというのは事実なんですか?」
沈黙。
それも数秒にわたって。
ハウザーはじっと地図を見つめたまま、短く『ああ』と答えた。
「理由が、あったんですよね?」
ハウザーはお世辞にも善人じゃない。どちらかといえば悪人と言って良いくらいに乱暴で、狂暴だ。弱い者いじめだって好きだ。
けれど、悪意を持って殺した者の娘を、わざわざ引き取って育てるだろうか。
パドラがハウザーに向ける親しみはまさに家族のそれだ。その両親にも、相応の感情がハウザーにはあったはずなのだ。
「どんな理由があっても変わらねえ。俺は奴を殺した。で、今はラーガをぶっ殺さなきゃならねえ。その事実は揺らがねえんだよ」
「けど――」
食い下がろうとした鏡禍を、シキが手をかざして止める。
「ハウザー。話はわかった。けどそれでパドラが納得しないのもわかるよね」
「…………」
再びの沈黙。そして、ハウザーは重々しく口を開いた。
「奴は……パドラの父親は商人だった。良くも悪くも素直なヤツだったよ。家族をもってからは余計にな」
家族というのがパドラとその母なのは間違いない。ハウザーはため息をついて続けた。
それに、ハウザーの口調からはほのかな友情の香りがする。
「素直な商人は愛される。けどな、時として食い物にもされる。素直さが徒になって縄張りを奪われ、奴の商売は傾いてた。そんなときだ、ラーガ・カンパニーと取引を持ち始めたのは」
「ラーガ……?」
「そう、ラーガの会社だ」
伝え聞くところによれば、確かにパドラの父親はラーガと当時取引を持っていたという。
「奴は当時からグレーゾーンで商売をしてた。つっても、表に出ない真っ黒な仕事も相当やらかしてただろうがな。俺たちは結局、『奴の』証拠は掴めなかった」
奥歯にものが挟まったような言い方に、シキたちが表情を曇らせる。
「犯罪の証拠が、パドラの父親から見つかった――と言ったところか」
声がして振り返ると、テントの入り口でリーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)が腕組みをして立っていた。話は聞かせて貰ったといった様子だ。チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)も心配そうにその様子を見つめている。
「その通りだ。俺は証拠を見つけたその夜、奴のもとを尋ねた。奴は……否定しなかった。どころか、俺に抵抗した」
当時、パドラの父は商人として追い詰められていた。
家族を養うことも難しくなっていた彼は、ラーガの接触を受け悪徳事業に手を染めてしまったのだ。
「良くも悪くも素直な奴だった。奴に商人は向いてなかったのかもな」
「そんなこと――」
否定しようとするチャロロだが、追い詰められ悪徳に手を染め、引き返せなくなって友であるハウザーにすら抵抗してしまうような素直さは……たしかに弱点だ。
「俺は、奴を止めるしかなかった。抵抗されりゃあ、戦うしかねえ。手加減をする余裕は、なかった」
じっとテーブルをみつめ続けるハウザーの目には、感情の炎が燃えている。
その感情に名前をつけることは、しかしできそうにない。
リアクションに困ったようなリーディアたちに、ハウザーはフンと鼻を鳴らした。
「だから言ったろ。事実は変わらねえ。俺は奴を殺した。で、こんどはラーガをぶっ殺す」
●
冷たい夜の丘。砂についた足跡が長く伸びている。
それを辿っていくと、石の上に腰掛けたパドラの姿があった。
「パドラ」
呼びかけたのは、シキだ。パドラは空をぼうっと眺めたまま、しかし動かない。応えもしない。
シキと鏡禍、そして仲間達はパドラのそばで立ち止まり、同じように空を見上げる。
「ハウザーから、何か聞いた?」
パドラの切り出し方は、それ以外ないというものだった。
どう応えたものか迷っていると、リーディアが『ああ』と重く答える。
そしてハウザーが語ったことをそのままパドラへと伝えた。
パドラは終始黙ったまま、その話を聞いていた。
「……あのね、わからないんだ。わからなくなった、って言った方が正しいかな」
ホルスターから銃を抜く。ハウザーから貰った、銀のリボルバーピストルだ。それを指でくるりと回す。
「『復讐』は私の人生の目標だった。マガキで腕利きの傭兵になって、パパを殺した悪党の頭をスイカみたいにぶちまけてやる。そう思ってた。それがラーガみたいなやつだったら、どんなによかったかって」
はは、とパドラは渇いた笑いを浮かべる。
「本当はね。ラーガが仇だって聞いて、すこし喜んでた。悪党がパパを殺したんだって。パパは悪くなかったって。その悪党を倒せば、無念は晴らせる。私の人生、全部スッキリするって。けど……そうはならなかった。そんなカンタンな話じゃなかった」
膝を折り、自分の身体を抱くようにして小さく身体を丸めるパドラ。
そこにいたのは、ただの素直な女の子だった。
「ハウザーが仇だった。じゃあどうしたらいい?」
チャロロが、『でも』と声を上げた。
「ハウザーを殺しても、きっとスッキリしないよ」
「わかってる。わかってるよ……」
やるべきことは、ひとつだけだ。
それはハウザーも言っていた。ラーガをぶっ殺す。それだけなのだ。
「ちゃんと仕事はするよ。ラーガに、今度こそこれをぶち込んでやる。大丈夫、私は、大丈夫だから……」
消え入りそうな声で、パドラはそんな風に呟いた。
●
玉座と呼ぶには汚すぎる。
ラーガは自らが腰掛けた大きな石の椅子によりかかって苦笑した。
彼が逃げ込んだのは『月の王国』にある古代遺跡だ。
場所はキッチリとバレているだろうが、それで構わない。出せる戦力は全て放り出したのだから。むしろ、来てくれなくては困るというものだ。
屋外には大量の晶獣が配備され、中には晶竜の姿すらある。マガキとイレギュラーズが投入されるのであれば、これだけの戦力はあって然るべきだろう。
屋内にはラーガ『お手製』の強化烙印兵たちが並んでいた。
「ひとまずこのくらいの手勢で我慢するか。
さぁて、俺様はしぶといぜぇ~~~? そこは自覚してるんでな。
最期の最期まで、しゃぶりつくしてやるよ」
ここが最後の砦だ。
だが、追い詰められているのはラーガだけではない。
凌げばラーガの勝ちとなる。
「ここを乗り切りゃ、俺もラサをぶっ壊すだけの力が手に入る。みてろやファレン、ラサのクソ共。でもって王国のファッキン吸血鬼ども。全部、俺がかっさらってやるからよ」
- <月だけが見ている>炎は自らの消え方を知らない完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年05月26日 21時55分
- 参加人数87/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 87 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(87人)
リプレイ
●月と晶
両腕を鋭い爪のようにした、二足歩行の巨大なイタチ。そういう印象だ。
ラーガのアジトとなった施設の野外にはそんな雰囲気のクリーチャーが山のように配置されていた。彼らは晶獣といい、ラーガの放った兵隊たちであるという。本来の兵隊はといえば、彼によって改造され自我すら失っているとか。
「いけ好かない男。この手で叩き斬れないのが残念――」
疾風のように走り、イタチ型晶獣の腕を切断する『月輪』久留見 みるく(p3p007631)。
「『あっち』の複雑な事情に首を突っ込むのは野暮ね。クールな女は、ただ見守るだけ。道を外しそうなときだけ、止めてあげる。そういうものよね」
「だね。みるくちゃんが危なくなったら首を突っ込むけど。
さあお願い、みんなを守って──召剣、ウルサ・マヨル!!」
『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)がウルサ・マヨルを操り、晶獣の胸と顔面に剣を突き立てる。
バキンとひび割れたそれが最後の抵抗とばかりにパーシャに襲いかかる……が、『海軍士官候補生』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)の放ったいわしミサイルが晶獣をトドメとばかりに爆散させた。
「わかるんだ。
血が繋がって無くても、きっとその『あい』は、何よりもあなたへ向けられてる。
お父さんって、不器用なんだよ。
もう私にはパパも、お父さんも居ないから──だから、パドラ、あなたに後悔してほしくないよ」
言葉は届かなくても想いはきっと届くはず。そう信じてアンジュはあえてパドラへの想いを口に出した。
「さあ、早く! 遺跡の最奥へ! みんな……あんな奴に負けないで!」
目指すは遺跡の最奥。それを阻む晶獣の群れを、なんとしても突破しなければならない。
そこへ現れたのは『物語領の猫好き青年』メテオール・エアツェールング(p3p010934)と『物語領の兄慕う少女』コメート・エアツェールング(p3p010936)の二人出会った。
「これだけの数…何としても仕留めきらないといけませんね!」
「ああもう、もどかしいですわね……くたばりなさいませ!」
メテオールは歩兵銃を構え、群れで襲いかかってくるクリオネ型の晶獣たちめがけて連射を放つ。
そうして隙を作ったところで、コメートが魔法銃によって一体ずつ確実に撃ち落としていった。
二人は自らがヨゾラに比べ戦闘経験に乏しいことを自覚していた。それ故に、自分達にできることをやろうとしているのだ。というのも、負傷した仲間の回収と撤退。既に晶獣との戦いでマガキの傭兵から負傷者が出ているらしく、そんな彼らを抱えて後衛テントへと走って行く。
が、そんな二人と負傷者を狙って空を飛ぶ大鷲型の晶獣が空から襲撃を仕掛けてきた。
輝く大きな月を背景に矢の如く襲いかかるその姿を――一瞬、奇怪なシルエットが遮る。
ハッとして振り返ると、それは見間違いだったのだろうか、美しい少女の姿をしていた。
「これだけ戦力を投入できれば、悪足掻きも戦術と言えるかもですね」
『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)は両手を胸の前で組むと、自らの周囲に治癒のフィールドを展開。
負傷者に応急手当を行いつつ、自らは晶獣からの攻撃をかばうよう位置取りをする。
なんとか突破しようと更なる襲撃を――と晶獣が構えた途端、『天穹翔ける龍神』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)が凄まじい機動力でもって彼らの間を飛行し駆け抜けた。
「一緒に戦える友がいるってのは心強いものだね。さて、そんじゃ征くよ、端末。頼りにしてるからね」
ああと返事をする端末。ェクセレリァスは微笑んだように見えた。
そして発動する『デミウェーブガン・閃輝』。異界の波動砲を摸したそれは晶獣の身体をゆうに貫き、空に一筋の閃光を描くのだった。
「こういうシチュエーション、練達のゲームでやった事ある!」
ピストルを構え討ちまくる『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)。
やや高所へと飛行したことで斜角をとったそれは、大量の晶人の前衛部隊を削っていく。
「たわーでぃふぇんすだっけ!」
「逆じゃないか?」
『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が幻の煙を作り出して相手を攪乱すると、絵筆を手に取り炎を空中に描き出す。
生み出されたのは炎の蛇だ。罪や愛憎を象徴するかのようなそれは、ジュートの射撃を逃れた晶人へと絡みつきその頭部へ食らいつく。
「ここ最近、こいつらのせいで悪徳商人と依頼のたびに騙し合い出し抜き合いでウンザリしてたところだ。ストレス発散に付き合ってもらうぜ、晶獣ども」
反撃にと進み出たのは亀のようなトカゲのような、奇妙な造形をした晶獣だった。口を大きく開き、おぞましい魔力をその奥から放出する。拡散した砲撃はベルナルドたちを包み込む――かに思われたが。
「皆さん、後ろへ」
ザッと前へ飛び出した『特異運命座標』白ノ雪 此花(p3p008758)が鞘に収めたままの刀の柄を掴む。
そして拡散砲撃がぶつかろうというその一瞬。鋭い抜刀で魔力を切断してみせたのだった。
ひゅるりと刀を回し、更なる防御姿勢をとってみせる此花。
「ここは通しません。……トカム様、そちらからの攻撃は任せても?」
此花がチラリと見ると、『天届く懺悔』トカム=レプンカムイ(p3p002363)が槍を手に側面方向の守りを固めていた。
彼は『任せろ』とハンドサインで返すと、次々に突進してくる晶人たちを槍によってなぎ払った。
「ラーガとか言ったか。……いいね、敵が清々しいほど根性ひん曲がった奴なら、心おきなく戦えるってもんだ
守るもんがハッキリしてる時の俺は、はっきり言ってかなり強ぇぜッ!」
ぐるんと回した槍を地面に突き立てる。
すると、土でできたカジキマグロのような物体が地面から飛び出し晶人を撥ね飛ばした。
そんなレプンカムイを攻略しようと群がっていく晶人たち。
「カティア、回復は任せる!」
ジュートが叫ぶと、同じ高さに飛行していた『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)がOKサインを返した。
「それにしても、これだけの戦力をよくもってたよね。在庫を一斉に放出したのかな?」
カティアが両手を胸の前で組み、祈りを唱える。
すると灰色の羽根が舞い散るような幻が生まれ、周囲へと広がっていった。
トカムや此花たちの傷口へとそっと優しく降った羽根は、温かさだけを残して傷を治癒していく。
「薬物濫用はダメだ。我が神は死神(ししん)と成る以前はすべての植物と連なる巨大な樹木の姿をした医神(いしん)…つまり毒も薬も権能のうち。……ちょっと手広すぎる気がしなくもないが」
「誰しも自分の意思で生まれて来る事は出来ないが、代わりに意思の自由があるものだ。
意思すら奪い従えるラーガを許す訳にはいかない…イーゼラー教徒の誇りにかけて!」
そんな中アタッカーとして飛び出したのは『黄泉路の蛇』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)の黄金コンビだった。
「俺はやるべきことをやる、往こう弾正」
「OK。さぁ平蜘蛛、俺達も戦場に響かせよう、救いの音を!」
先ほどから魔力砲撃を仕掛けてくる晶獣へと一気に距離を詰めると、弾正は哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式に柄だけのオプションパーツをUSB接続。真っ赤な力の刀身を出現させると相手の首へと斬りかかる。
絶妙なコンビネーションでアーマデルが蛇鞭剣ダナブトゥバンを展開。首に巻き付けたそれをぐいっとひけばチェーンソーのごとく晶獣の首を切断する。
首の落ちた晶獣はそのままずどんと音をたててその場に崩れ落ちるのだった。
晶獣の前衛部隊を突破したところで、中衛に位置していた狼型の晶獣たちが次々に飛び出してくる。
マガキの傭兵団がそれらとバチバチにぶつかり合っている中、『騎士を名乗るもの』シルト・リースフェルト(p3p010711)が大胆に上空から急降下襲撃をしかけた。
「悪い王様を討つのは騎士の役目! いざ参ります!」
まるで天から撃ち落とされた神の矢のごとく晶獣へと突き刺さる剣。
「お前らだけは確実に潰す! 生きて帰れると思うな!」
シルトの目はギラリと遠い金竜へと向いた。まがい物とは言え竜を摸した怪物。その憎しみはいかほどのものか。
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそんな中を悠々と歩き、『忍法霞斬』という忍者刀を振るう。仕込まれたワイヤーが魔力によって操られ、飛びかかる晶獣たちを絡め取っていく。
「この晶竜らが攻め込めば、昨年の練達のように街一つ消えるかもしれません。それは認められない。
燃えるものが無くなれば自ずと火は消えますし、敵がいなくなれば自ずと戦闘は終わります。
晶竜を落としにかかる方々のため、邪魔な晶獣を優先的に片づけていきましょう」
瑠璃の方針にはどうやら仲間達も賛成しているらしい。
『こそどろ』エマ(p3p000257)がビュンと風を切って走り、鞘から『メッサー』を引き抜いた。
片刃のナイフを両手剣サイズにしたような曲剣。最近使い出したエマの新兵器である。
「さて、大仕事の時間です。今回のテーマは……イメチェン?」
ずばんと晶獣を切断すると、飛んできた黒塗りのワイバーンへと飛び乗り急速離脱。
空を飛ぶ大型の晶獣を見つけると、早速騎乗戦闘を仕掛けにかかった。
「前衛だろうが後衛だろうが空からなら関係ありませんからね。ひっひっひ」
幾度かの交差の後、晶獣を切り裂いて撃墜。そのまま敵後衛めがけて突進をしかける構えを見せた。
それに並走したのは『勇猛なる狩人』ダリル(p3p009658)。
「ふははは! 何だこの数は! また決戦がどこぞで行われているようであるな。
だが、雑魚なれども数を積めば厄介であろう。それら全て、我の糧としてくれる」
箱状の怪物めいた姿から多翼の天使めいた姿に変身したダリルは、翼を大きく広げ力を解放。
大量に生成された禍々しき鎖の群れが地上の敵後衛部隊へと降り注ぐ。
「む――ッ」
が、すぐにダリルとエマは敵の殺気を感じ取り急速後退。地上から飛び上がったのは空を駆ける巨狼めいた晶獣であった。
空中での戦闘に長けた相手は流石に厄介だ。敵の数も多く、撃墜されれば敵に囲まれる。
「誰か援護に回れるか!?」
「うむ、任されよ」
そう言って現れたのは、まさかの『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)であった。
腕組みをして地面を踏みしめるという美少女世界では極めて一般的な動作によって垂直に空へと飛翔した百合子は、空中でふわりと美しきポーズをとる。数多の平行世界の可能性上の百合子が一つとなり眩き虹の輝きを放ったかと思うと、突進してくる晶獣の上顎と下顎をがしりと掴んで止める。いや、止めただけではない、そのまま上下に掌底を放つ要領で相手を上下に引き裂いてしまったではないか。
「星見(スターゲイザー)」
そのまま墜落した晶獣を蹴りつけながら急降下。
敵部隊のさなかへと突っ込んでいく。
が、取り囲まれることが目的ではない。
「なんか派手なことやってんなぁ。
燃え尽き方もしらねぇなんて難儀な奴らだな。
ここでやられたらどうにもなんねぇし、ちょっとでも多く屋内に入れるように手を貸そうじゃないか」
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)がADS(Automatic defense system)を展開しながら加わり、周囲の晶獣たちが放つ魔法の屈折弾を不可視のシールドによって防御する。
そして、反撃のマリオネットダンスを叩き込むのだ。
魔法の糸に縛られた晶獣。それを『希望の星』黒野 鶫(p3p008734)が剣によって斬り伏せる。
「これ程の魔物が集まるとは、壮観じゃな……敵対してなければ、じゃが。
自然に散ってくれる訳も無し、儂らいれぎゅらあずで何とかするしかないのぅ!」
剣と盾をバランス良く構え、百合子やペッカートの背中を守るように回り込むと自らに強化の術を発動。剣を構え、にらみ付ける。
そんな鶫に注意をひかれた晶獣たちが近接攻撃をしかけようと掴みかかってくるが、盾でキッチリと防御した瞬間を狙って魔術の砲撃が突き抜けて行く。
『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)の放ったものだ。
カインは手を翳し、次なる魔法を発動すべく詠唱を開始している。
「あの古代遺跡の中も気になるけど……とりあえず今は適材適所、ってね。
あ、そのまま注意を引いておいて。僕が蹴散らすよ」
強力な魔術砲撃を連射するという神業を披露しながら、カインは余裕そうに仲間の陣形へと加わっていく。大勢の敵に囲まれるのはむしろ望むところなのだ。
そんな彼らを助けようと駆けつけたのは『おしゃべりしよう』彷徨 みける(p3p010041)たちだった。
「ラーガ達倒しに行った人達の邪魔なんてさせてたまるかぁぁぁ!」
忍者刀を抜き、晶獣へ斬りかかるみける。
長く鋭い爪とクマのように屈強な両腕、そしてウサギめいた屈折した足をもつ晶獣を前に早速斬り合いに持ち込んだようだ。
「ラサでも大変な事が起こってるんだよね。私は私にできる事をやるよ!」
無論それだけではない。『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)が挟み込む形で剣を叩き込んだ。
「さて、ディスペアーよ。絶望の大剣の力、希望を斬り開く為に使わせて貰うぞ。」
大勢の敵を押さえ込みつつ、攻撃では多対一の状況を作り各個撃破を狙う。ローレットでずっと前から愛用されてきた鉄板の戦術だ。
「ラーガと言う男、死の商人と言うよりは、金の亡者の方が近いか?
何れにせよ、その横暴も、此処で終わりだ。
有能な奴ではあったのだろうが……敵を作り過ぎたのが、敗因だろう。
ともあれ、まずは、本丸への道を斬り開くとしよう」
「ラーガねぇ〜、欲で身を滅ぼすヤツのお手本みたい。手段は最悪だけど、その野心家っぷりは嫌いじゃないよ」
『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)は敵陣へ一旦突っ込むと『ステイシス』の術式を発動。そのまま味方が守る陣地へと走って逃げ込んできた。
激しく機動力を損なった敵集団が追いかけてくるも、それを迎撃するのは容易いことだ。
ユイユが『針槐』と呼んでいるシリンジャーピストルを抜いて構えた。
「標的確認、撃て撃てー!」
「了解デス」
『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)もまたゴテゴテに装飾された魔導式拳銃を構えると、込められている魔術と共にぶっ放す。
最前列の晶獣に命中しかと思うと、そのまま敵を穿って後続の敵へと命中。それもまた貫いていく。
エステットが次弾を装填している間、リロードタイムを補うように『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が敵集団へと飛びかかる。
「戦闘に集中すれば、少しは気が紛れるかと思ったが、これは逆効果だったかもしれんな。嫌になるくらいに烙印が疼く。
ああ、全く以って腹立たしい。この私が、こんなにも血を欲するようになるとは。
――この苛立ちは、貴様等を屠る事で晴らさせて貰う!」
刻み込まれた烙印の位置を軽く手でさすりつつ、汰磨羈は妖刀『愛染童子餓慈郎』によるなで切りを繰り出していく。
晶獣を切り裂き、更に切り裂き、また切り裂く。くり返される戦いの中で、斬り付けられた汰磨羈からあがる血は白い花弁に似ていた。
ローレットとマガキの混合部隊が、敵後衛部隊を蹂躙しつつある。
『未だ遅くない英雄譚』バク=エルナンデス(p3p009253)は自らに強化の術をかけると、突っ込んでくる巨大なワニガメめいた晶獣に挑みかかった。
展開する魔術障壁を無理矢理かみ砕こうと食らいついてくる晶獣をなんとか押さえ込むと、後ろに仲間達をかばう。
この戦場では比較的戦闘力の低い『物語領の愛らしい子猫』ミニマール・エアツェールング(p3p010937)や『鋼鉄の冒険者』ココア・テッジ(p3p008442)たちをかばうためだ。
その甲斐あって、ココアは後方へと飛びすさびハニーコムガトリングをぶっ放す。
「闇の商人が王気取りは笑えないのです……これまでの行いもきっちりここで清算させてやるのですよ!」
ライフルを構え、右から左へお掃除する感覚で撃ちまくるのだ。
弾を使い切りリロードする間、ミニマールが『スケフィントンの娘』の術式を発動。ココアの削った敵装甲をそのまま撃ち抜く感覚で魔法を浸透させていく。
「にゃあ。変えられたのは気の毒だけど……ラサも皆もやらせない、ここで倒れて」
ミニマールはまわりを確認し、動けなくなった仲間がいないことを確認すると再び魔術を発動、敵へと発射する。
「よくやった、あとは任せろ!」
「だね!」
二人を一度後ろに下げつつ、『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)と大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が前へ出る。
「誰もが明日を希求するのがヒトのサガ。しかし、それは決して破壊と混乱のみを振りまいていいという事ではない!!
戦艦武蔵、参上!!当然防塵装備だ!!
露払いは任せてもらおうか!!」
「だね、こんなのラサに持ち出されたら大混乱! だから此処で、御清算願いますだね!」
女性モードで参戦したマリオンは破式魔砲をワニガメ型晶獣へと発射。
直撃を受けた晶獣はその巨体を流石に傾け、それでもなんとかマリオンたちへ襲いかかろうと足を動かす。
ならばとばかりに今度は『チェインライトニング』の魔術を詠唱し、発動。叩き込まれた雷撃にさすがの晶獣も足を止める。
二段構えの魔術砲撃をしかけたマリオンだが、勿論称賛あってのことである。
武蔵がアンカーを地面に打ち込み、砲撃の準備を負えていたのた。
「対地艦砲射撃、用意!! 撃ち方、始め!!」
武蔵の後方から展開した砲台が全て晶獣へと向き、発射される。
晶獣の巨体とそれを多う強固な鱗が破壊され、ギエエという悲鳴だけを残し粉砕したのだった。
「これでよし……か」
「あれはどうする?」
ふうと息をついた武蔵の横で、マリオンが空を指さした。
そこに飛んでいたのは巨大な竜を摸した怪物。こちらをにらみ付け、泳ぐように大蛇めいた身体をうねらせる、『金竜』ニシャーダである。
ふと見れば、他の部隊は敵部隊を押さえ込むために左右からの覆い込みを防ぐよう動き始めている。ならば……。
「金竜は他の仲間に任せよう。こちらは――」
「だね、敵をおさえこむ!」
天空を泳ぐ黄金の蛇、『金竜』ニシャーダ。
その異様を前に、『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)、『aerial dragon』藤宮 美空(p3p010401)、『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)はそれぞれ勇敢にも挑みかかろうとしていた。
「あの数のモンスターが解き放たれるのは流石に見過ごせませんっ。数を殲滅するのは得意ではあり無いですけれど……それでもやれる事はありますわっ!」
翼を広げ空へと飛び上がる美空。ニシャーダが黄金のブレスを放射しようと構えるも、その効果範囲外から一気に接近してのミサイルキックを叩き込む。そのまま超高速で離脱を試みる美空。
追いかけようと振り向くニシャーダを留めたのはユウェルの豪快なハルバートアタックだった。
「ってあれ? こっちに来たのわたしだけ?こっちじゃなかった?
えぇー!? しょうがなーい! わたしはこっちでお助けだ!」
いつも一緒にいた友達グループを探してきょろきょろとしたが、ユウェルはそれはそれだとばかりにニシャーダに身構えた。
「ドラゴンもどきなんて放っておけないからね!」
かかってこいと構えるユウェル。が、実のところ防御の本命は彼女ではなかった。
マリカが召喚した『お友達』による突進である。
『お友達』が刻み付ける死の烙印。あるいは人ならざるものの呪詛。通称『Lich pudding』の術式によってニシャーダへと連続で攻撃が叩き込まれ、それを嫌がったのかニシャーダはマリカへ振り向き黄金のブレスを放射した。
対して『お友達』の列が召喚されブレスの攻撃を引き受けにかかる。
全ての攻撃を受けきったのを見て、ニシャーダは目を細めた。
この結界を破らない限り攻撃は効かないと察したのだ。
そうしてさらなる攻撃が繰り出される中、飛び込んでいったのは『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)。
地面すれすれを飛行しマガキの傭兵達を食い破らんとするニシャーダに対し、真っ向から突撃し野太刀を抜刀する。方の後ろにかつぐように持った鞘から鍔を弾き、身体の回転と刀身のしなりを上手に利用してジャランと引き抜くその動作はまるで踊るようだ。
実際、刀から下がった太鼓や鈴が鳴り舞踊の様相を高めている。
「おうおう、こりゃ随分と派手な大蛇だなぁ。金運上がりそうだ!」
正面から叩き込む斬撃、『獅子歯噛』。高速で繰り出す連撃がニシャーダの顔面に炸裂し、そこへ『心に寄り添う』グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)の斬撃が炸裂した。
「あいにくと捻ったことは出来んが、邪魔にならん程度に味方の支援をするとしよう。うぅむ、竜退治とは心躍る戦ではあるが昂りすぎて連携を怠らんように気をつけねばならんな……」
炸裂といっても、獅門のように構えてドンではない。離れた距離から無銘刀『鈍ら』を握り込み、抜刀と同時に走り出す。超人的な速度は鞘を置き去りにし、刀すらも引っ張っていくようなその独特の姿勢から繰り出す斬撃は弾丸のそれに例えられた。
えぐるように斬り込まれた刀がニシャーダの鱗を削り、二人の斬撃によって剥ぎ取られていく。
そこへ追撃をしかけたのは『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)と『蛟』尹 瑠藍(p3p010402)だ。
「商人には相応のセンスが求められるものでしょうに。趣味が良いとは言えませんね」
「ドラゴン退治、いいじゃないやってみましょう。貴方を招き入れる場所は無いわよ。ここで仕留めるわ」
突撃の軌道をそらし空中へ逃げようとしたニシャーダ。反撃のブレスが仲間達を焼くものの、その中を駆け抜けた雨紅は舞槍『刑天』を豪快にも投擲した。
凄まじい加速の乗った槍がニシャーダに突き刺さり、その巨体を僅かだが怯ませる。
一方で瑠藍はワイバーンに騎乗した状態で上空へ逃げようとするニシャーダの上をとっていた。
「そこ!」
あえてワイバーンから跳躍。自由落下の速度と重量をそのまま乗せて、瑠藍は己の剣をニシャーダの胴体へと叩き込んだのだった。
バキンという激しい音とと共にニシャーダの鱗がひび割れ、砕け散っていく。
およそ偶然にも『星読み』セス・サーム(p3p010326)がその光景を目にし、『コーパス・C・キャロル』の術式を詠唱。喉の発生器官から高圧縮された祝詞が再生され、周囲を治癒のエネルギーが包み込んでいく。
仲間のダメージを軽減するためだ。
「これ以上ラサが被害を受ける前にここで止めましょう。復興のコストを省けるならそれに越したことはないのですから」
「僅かながらですが、皆様の助力となれば」
『料理人』テルル・ウェイレット(p3p008374)はそれにあわせて祝福の祈りを捧げる。
祈りに神が答えてか、それとも世界が答えてか、テルルの周囲に黄金の輝きを散らしていく。
テルルたちの治癒の輝きと、ニシャーダが苦し紛れに放った黄金のブレス。その二つが仲間達を中心に激突し拮抗し合う。
そんな中で、テルルはニシャーダの傷が深刻な状態にあることを見抜いていた。
「トドメです、お願いします!」
その声に応えたのは『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)。それまで仲間への攻撃を防ぐべく立ち回っていた彼は呪符『夜叉呪血』をびらりと開き、一気に攻勢へと転じたのである。
「特別製だそうっすけどね、ここでお蔵入りになってもらうっすよ」
呪符が血へと溶け、刀の形へと変容していく。それを握り込み、仲間達が徹底的に集中させてつけていた傷口めがけて飛び込んだ。
「キンキラ過ぎて悪趣味なんすよ!」
ざくりと差し込まれた刀が花のような血を吹き上げさせ、ついにニシャーダはその巨体を地面へと墜落させたのである。
●後衛医療テントにて
「持ち帰る狼の出番っすね、今年のあたしは一味違うっすよー。なんていったって緊急処置も可能になったっす!」
派手に負傷したマガキの傭兵をお姫様抱っこして突っ走る、その名は『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)。
彼女の言うように簡単な治癒処置が施された負傷者は、救護テントの前でそっと下ろされた。
「お疲れ様、あとは任せて!」
『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)が負傷者を受け取り、医療手袋をはめなおす。
ここまでウルズたちの力を借りて運び込まれた負傷者の数はやはり多い。参戦しているイレギュラーズたちはともかく、味方の傭兵団にかなりのダメージが行っているというのが現状だ。
涼花は負傷者の身体に残った弾丸代わりの結晶体を丁寧に摘出し、充分な医療処置を施してから今度はギターを手に取る。
(これまで何度庇われたことか、そのせいでどれだけ味方が傷ついたか。
戦う力もないのに、前線に出ることでどれだけ負担をかけたか。
もう、そんなのは嫌だ。
だからわたしは、戦う力が欲しい。
けれど力なんてすぐにはつけられない。
なら、今はここから。
わたしの思う、できる限りの最善を)
かき鳴らす音楽は治癒の力を持ち、集められた負傷者たちの傷口を塞いでいく。
『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)たちも負けていない。
(このテント、怪我した人の治療してたりするから狙われたら危ないにゃ…?
けっきょく何も無かった、が一番だけど…僕はテントの見張りするにゃ。
みんな頑張ってるからなんとかなるにゃ! 大丈夫だから今は治療に専念して元気になってにゃ!)
気配を消してテントの周囲を警戒し続けるちぐさ。その一方で、『回復の要』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)、『初めてのネコ探し』曉・銘恵(p3p010376)、『いのちをだいじに』観月 四音(p3p008415)たちはそれぞれの担当した負傷者たちの治療にあたっていた。
「怪我も状態異常もまとめて治します。少し我慢してくださいね」
リディアは『霊樹の葉』と呼んでいるお守りを手に祈りをささげ、自らの周囲にいる負傷者たちに治癒の効果を展開していく。
リディアの睨んだとおり、ラーガの放った晶獣や晶竜たちの力は予想以上のダメージを仲間達に与えていた。まるで魚を罠にかけるカゴのように、入りやすく撤退しにくい陣形を構築し、怪我人を戦場内に大量に増やすやり方で足止めを行っていたのだ。
が、ここは百戦錬磨のイレギュラーズたち。治癒に関してもやはり百戦錬磨だ。
「私一人では無理でも力を合わせればきっと治せる!」
「こっちの人は、しゃおみーが担当するよ……! 大丈夫だよ、しゃおみー達が手当てするからね……!」
広範な治療はリディアが行い、深い傷を負っている仲間には銘恵が直接手術を行う。今看ている負傷者には結晶でできた剣がざっくりと刺さり、剣が途中で折れている。強引に引き抜けば内部に結晶を残してしまい痛みを起こすだろう。
銘恵は亜竜集落に伝わる手術道具を袖の下の不思議空間から取り出すと広げ、丁寧に摘出手術を初めて行く。
「意図的なモンスターのスタンピードとか、冗談じゃないですよねぇ……平穏な暮らしの為にも、皆さんに頑張って貰わないとっ」
四音の役目はそんな仲間達の全般的なフォローだ。
テント内を駆け回って水の入ったボトルやタオルを配ったり、治癒の足りない所に治癒魔法を唱えたり。おかげで仲間達の治療効率は目に見えてあがっている。『雑用はチームの回転力を上げる重要なファクターである』と言われるが、やってみるとその重要さがよくわかるものだ。
考えようによっては前線にでて戦うよりも汗をかいているかもしれない。自らも水のボトルをあおって、四音はもうひと頑張りだと自らの頬をぺちんと叩いた。
そして今回もこうした救護テントで活躍してくれているのがもはや有名になった青薔薇隊である。
リーダーの『青薔薇救護隊』フーガ・リリオ(p3p010595)が演奏治療を施し終え、水のボトルを開く。ファレンの派遣した医療チームの責任者が隣に立ち、同じようにボトルを口にした。
「予想以上に敵の抵抗が激しいようですね」
「だな。強引に攻め込んでる以上、怪我人が大勢出るのも仕方ない、か」
治療の効率はそのまま攻撃の勢いになる。刃を研ぎながら斬り付けるようなものだからだ。
「大丈夫です、どんな大怪我だってわたし達が治してみせますから。だから、皆で生きて帰りましょうね」
『ふもふも』佐倉・望乃(p3p010720)がそう言って傭兵の一人、虎頭のマラティーに包帯を巻いていく。
「ありがとよ、おかげでもういっぺん挑めるぜ」
「どうかご無事で……」
最後に治癒の魔法をかける望乃。マニュアル通りの、上手な医療技術だ。
その一方では『かみぶくろのお医者さん』毒島 仁郎(p3p004872)や『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)という『医者らしいけど顔面が怪しい人たち』が治療に精を出していた。
「さあ、こういう時こそ医者が命を張らなければなりませんね! 担ぎ込まれた負傷者は全員治して差し上げますよ!」
「青薔薇隊には恩がある。鉄帝のあの時に、私が守りたかったものを守ってくれた……私に出来る事があれば手を貸そう」
ルブラットの持ち込んだ大量の医療道具が展開され、それを手に仁郎たちが手術を行う。特に仁郎は医療道具に拘らないという優れた特技がある。
こうして手術を行っていてわかることだが、ラーガの晶獣は本当にいやらしい戦い方をするようだ。結晶の矢が相手の体内で砕けるように仕掛けを施したり、剣の刃に毒を塗っていたり。相手を倒すというより、負傷者増やすことに重きを置いた戦い方をしているように見える。
「面倒な相手ですね! 負傷者が増えれば攻め手が緩む」
「私達が犠牲を拒む性質であることにつけいる作戦だ。だが……」
ギラリとルブラットの目が仮面の下で光った。
「そうはさせない」
そこへ『最後のナンバー』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が治療薬を運んでくる。
ファレンのネットワークに加えてヤツェク独自のコネを使ってかき集められた医療品だ。おかげでかなり豊富に揃えてある。
「幸い、テントへの襲撃はないらしい。罠にも反応はなさそうだしな」
ヤツェクの見立てでは、ラーガの狙いは自己の保身だ。こちらが攻め手を緩め、後衛に人員を割き、ワンチャン撤退してくれることを狙った布陣が敷かれている。
特にヤツェクたちは仲間の死を嫌う。死者や重傷者が大勢出れば撤退も確かに考えるだろう。
その一方で、『青薔薇救護隊』常田・円(p3p010798)が医療バッグを広げ、負傷者から矢尻の摘出手術を行っている。
「相手がラーガや晶獣なだけあって、烙印による凶暴化は起きていないようですね。もしそうなっても、斜めからチョップするくらいしか考えつかないですけど」
苦笑する円に、『青薔薇救護隊』玄野 壱和(p3p010806)もこくりと頷いた。
「だな。ところで――こっちは漸く[ほうらい]の行使術式が再調律し終わったんダ。今まで以上に面倒みれるゼ?」
もっとパスしろと手招きジェスチャーをする壱和。
「しのし、ふしなし、つくれ、ホウライのクスリ」
自らを中心に再生に特化した調律を施した[ねこ]を呼び出し、その権能を振りまく。
一方で『神無月の医療鞄』から取り出した優れた医療道具によって治療を行う。確かに出来ることの幅はかなり増えているようだ。
怪我から回復した傭兵や仲間達がテントを出て行くのを、フーガたちは見送る。
どうか武運を。そして、この戦いに終止符をと。
●ラーガ
晶獣や晶竜を食い破り、遺跡最奥へと突入するハウザーとイレギュラーズたち。
そこに待ち受けていたのは、ラーガによって改造された強化烙印兵たちであった。
「ア、ア、ア――アアアアア!」
もはや自我すら崩壊したラーガの片腕シャドジャ。8本に増えた腕のそれぞれで弓矢を構えると凄まじい速度で発射してきた。
「強化烙印兵――エーニュの技術! これ以上悪用させはしないよ!
ワタシだってラサに領地を持つくらいに好きなんだから。めちゃくちゃにはさせないよ!」
それをライオットシールドで受ける『紅霞の雪』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)。
一本の矢がシールドを貫通しフラーゴラの顔面数㎝先で止まる。
グッと奥歯を噛んで次の矢を盾に傾斜をかけることで受け流しにかかった。
流石に強い。ラーガが最後の手段として使ってくるだけのことはある。
「へーへーほー。まぁ理性とかもなさそうだからこそ、ちっとは安心したっす。
人殺しは慣れてないっすけど、イカレをぶっ飛ばすのは手慣れてるんだよ!」
『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)はここぞとばかりに『Final Heaven』を展開。背負っていた魔導蒸気機関搭載巨大火砲から紐をひくと両サイドにガトリング砲が四門展開し一斉射撃が開始される。
『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)はそんな二人の間からスッと姿を見せると、魔力の糸を飛ばしシャドジャへと絡みつけた。
「それが実子であれ、養子であれ……紡がれた親子の絆は尊く、大切なものです
ええ、私自身がそれを良く知っています……この身を持って。
ですので及ばずながら、この不器用な親子を少しばかりですがお手伝いをさせて頂きますね。
そう言う事ですので……立ち塞がり邪魔をされる方々は、死の澱みへ沈めてしまいましょう」
瞑目する詩織。糸をキュッと引くと、ガトリング砲撃によって削られたシャドジャの身体がバラバラに切り裂かれていった。
一方でリシャバは両腕を以上に肥大化させた強化烙印兵だった。肥大化させた腕はハンマーのように堅く、振り回すだけで石の柱が破壊される。
『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)は盾によってその打撃を受け止め、吹き飛ばされるその身体を翼の羽ばたきによってブレーキングしていた。
「挑むは傀儡。薬物で自我が無けれども、強さは相当、か……行くぞ。手早く片付けてやる。たかが一兵。なれども我が身を見下すなよ!」
当然レオナとて打たれるばかりではない。シールドバッシュの勢いで突進をしかけ、相手の打撃を相殺させる。
瞬間、飛び出した『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が拳銃を撃ちまくった。
狙いはリシャバ――と見せかけてラーガだ。
「チッ!」
ラーガはすぐ近くの強化烙印兵ガーンダーラを盾にして防御。それほどジェイクの射撃の腕を警戒していたということだ。
対して、ジェイクはあえてホルスターに銃を収めて挑発した。
「抜きな! どっちが早いか勝負だ!」
「テメエ、俺を舐めてやがんな」
ラーガが黄金の銃を抜く――より早く、ジェイクの銃が抜かれ発砲。ラーガの腕に着弾した。
「ぐおっ!?」
その絶大な隙を埋めるべく割り込んだのはリシャバとガーンダーラだ。
追撃を仕掛けようとしたジェイクにリシャバがその腕で殴りかかる。
割り込んだレオナが剣で打撃を止め、『春色の砲撃』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)が至近距離まで迫って手を翳した。
『禁断ノ奇跡』と称する懐中時計がカチリと音をたて、可能性の具現化が発動する。
「強化烙印兵…もはや人としての意思はなく、その強みだけが残滓として残る、か」
衝撃。それはリシャバの胴体を貫き、そのままガーンダーラの頑強な身体へと直撃する。貫通しラーガにまで至らなかったのは、ガーンダーラがその身を盾にして庇ったためである。
「くだらない。ツマラナイ。人の意思、ひいてはそれを生み出す情動こそ私の大好きなもの」
ノアが吐き捨てるように言うと、続いて雷撃の奇跡を具現化させる。
更なる防御を試みるガーンダーラ。その間に、ノアの背後に一人の吸血鬼が姿を見せた。
ヴィジャというラーガに協力する吸血鬼だ。部下達に烙印を刻んだ担当者でもある。
が、ヴィジャの攻撃が届くことはない。なぜなら『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)の拳が横から直撃したためである。
「その喧嘩、良ければ僕も混ぜていただきたく!」
バッと構え直す迅。ヴィジャは頬を押さえて振り向き、舌打ちしながらレイピアを抜いた横一文字斬りを下段に屈むことでかわした迅。そのまま相手の腹に更なる拳を入れると、すぐさま仲間に連携を繋いだ。
『含牙戴角』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)の狙撃である。
「訳のわからん薬物をばら撒くとは、不躾にも程があるな。ヤクの売人は私の故郷では重罪だ。貴様も極刑に処してやろう」
歩兵銃でキッチリと狙って放たれた弾丸がヴィジャの側頭部に命中。パッと薔薇の花弁が散り、ヴィジャがその場に崩れ落ちる。
スコープ越しに狙いを付けていたイルマに、両足を兎のように曲げた強化烙印兵マディヤマが狙いを付ける。一足飛びで距離を詰めると、ブレードのように変化した腕で斬りかかった。
だがその攻撃が届く直前、『新米P-Tuber』天雷 紅璃(p3p008467)の『マクロ:エレクトロバグ』が発動した。aPhoneを高速操作しボタンをタップした紅璃によって魔力暴走がおこり、マディヤマの耳からぶしゅんと百合の花弁が噴き出す。
空振りとなった斬撃。しかし紅璃を脅威とみたマディヤマが斬りかかろうとしたところで、紅璃は距離を取って『マクロ:スティールライトニング』を起動。電撃が飛びマディヤマから更なる魔力を吸い取っていく。
「うーん、強化烙印兵が邪魔! こいつらを倒さなきゃラーガに攻撃できないっぽい!?」
「にゃ、みーおも戦いますにゃ。これ以上奴等に悪さなんてさせませんにゃー!」
そこへ加わったのは『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)。
「爪で引っかく……代わりの一撃、遠慮なく食らえーですにゃー!」
『狙撃するパン屋』を自称するだけあって、大砲を構えマディヤマたちへと砲撃を連射する。
消し飛んだマディヤマと、防御しきれずはじけ飛ぶガーンダーラ。
彼らが花弁を散らし横たわるその奥で、ラーガは舌を出して笑った。
「ほーう? やるじゃねーの。ケド、まだまだいるんだよなあ、コレが」
ラーガの奥から強化烙印兵のパンチャマとダイヴァタが現れる。
格闘戦に優れた個体らしく、殴りかかってくるパンチャマに『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)が斬りかかる。
「ここで奴を逃せば、どんな悪事を働くかわからん…悲劇もな。我が他人の事を言えた義理ではないが、ラーガは必ず倒さねば」
攻防は互角。皮膚が結晶のように硬化したパンチャマが相手の斬撃を弾き、パンチャマの拳をフィノアーシェが弾いている状態だ。
「貴様の場合は贖罪にすらならんが……ここが貴様の死に場所だ!」
そこへ『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)が参戦。『茨咎の鎖』を展開する。
「除草ついでに根を枯らしに来ました。どうぞよろしくお願いしますねぇ」
放った鎖がパンチャマの腕に巻き付き、引き寄せる動きによって隙を作る。バルガルはその眼鏡の奥でにやりと笑うと、急速に距離を詰めてナイフを突き立てた。
がしりとパンチャマがバルガルの首を掴み抵抗するも、バルガルの表情は変わらない。至近距離を保ったまま拳を相手の顔面に連打した。
そして、ラーガへとその視線を向ける。
そんなバルガルの威圧がラーガにも届いたのだろう。ラーガはそれを笑顔で迎撃する。
「ラサをラーガの好きには絶対させないっス。
あいつが力を得たらラサだけじゃなく、他の国にもろくなことにならないっスからね。
これ以上、誰かが不幸になる必要なんて全くないっス。
悲劇を生まないためにも、俺は全力で抗わせてもらうっス!」
そこへ加わったのは『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)。翠軍刀『吽龍』と碧軍刀『阿龍』を両手に構え、斬りかかる。横からダイヴァタの蹴りが迎撃にかかり、刀と硬化した脚が激突する。
後ろ回し蹴りからの、目にもとまらぬ連続キックがライオリットを襲うも、剣を交差させたライオリットはそれを防御。至近距離から『逆理』のドラゴンブレスを放射した。
「他人を道具としか見てねぇ奴なんスね、ホント気に入らねぇっス。
あんな奴に叶えさせる願いなんてこれぽっちもないな。
ここで確実にシメるっスよ!」
追撃とばかりに『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)のサッカーシュートが炸裂。
ボールが非人間的な回転とカーブをみせダイヴァタへと直撃した。吹き飛んだダイヴァタへ葵が戻ってきたボールをトラップし二度目のシュート。
ダイヴァタへ――と思いきやラーガを狙ったものだった。銃を持った腕を狙ったものだが、流石にジェイクに一度撃たれて以降警戒していたようだ。ラーガは飛び退きボールを回避する。
「意外とすばしっこいっスね!」
「ラーガ、ラサの為にもここで必ず倒す」
『ifを願えば』古木・文(p3p001262)が万年筆で札にさらさらと契約を書き記し、自らの名前をサインする。精霊と結ばれた偽造契約に従い、ラーガの周囲にあった精霊たちが突如として牙を剥く。
(一般人に手を出す輩が一番苦手だ。彼のような悪人であったのは、いっそ有難い)
眼鏡の位置を丁寧に直し、文はラーガを睨んだ。
対するラーガは更に飛び退き、攻撃にあたっていたダイヴァタを呼び戻す。
精霊たちの攻撃の盾とするためだ。
味方を盾にして生き延びるラーガ。味方を後衛テントで治療しながら突き進む文たち。真逆の彼らは、ラーガが押し込まれるという現状を作り出している。
「後方も当然大事ですが、最前線での回復担当も重要ですっ。負けられない戦いです。頑張って支えないといけませんね!」
『聖なるかな?』アザー・T・S・ドリフト(p3p008499)がここぞとばかりに『クローズドサンクチュアリ』を展開。そこへ『天使の歌』を重ね治癒の効果を高めていく。
盾を失ったラーガへ迫るためだ。
「気に食わねェんだよなあ。待ちの姿勢で悪巧みしやがって。
それもまだ使える部下を雑に使い捨てやがって。なあ、ラーガさんよお!」
『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)がククリを抜いて斬りかかる。
それを腰から抜いた金色のナイフで受け止め、ラーガはべろりと笑った。
「部下ってのは雑に使うもんだ。親身になってヨチヨチしてーのかよ。家族ゴッコはたのしーよなあ?」
「気に食わねェ! お前は悪党としても頭としても経営者としても三流だ。それを今から俺らで思い知らせてやらあよ!」
ぐいっと強引に押し込みにかかるキドー。
『焔朱騎士の剣姫』蓮杖 綾姫(p3p008658)はそんなタイミングでラーガへと斬りかかった。いや、回り込んだと述べた方が正確だろう。
ラーガが挑発しながらも後方に意識を向けていたことを見抜き、退路を塞いだのだ。
「チッ――」
「しぶとい輩っていうのは、こういう所目敏そうですからね」
ラーガの舌打ちが、綾姫の読みが正しかったことを示している。
そして後方から斬り付けた綾姫をなんとか転がってかわし、ラーガは黄金の銃を乱射する。
綾姫は飛来した銃弾を切断し、キドーは飛び退くことで回避。
その瞬間に『観光客』アト・サイン(p3p001394)がここぞとばかりに銃撃を挟み込んだ。
「ぐおっ!」
ラーガの脇腹に銃弾が命中する。
綾姫が退路を塞いだのは、なにも彼女だけの読みというわけではない。アトが退路を予測し、戦いを仲間に任せつつ真っ先に探索していたためでもあるのだ。
「考えたのさ。『あの男は逃亡の天才だ』ってね。
何度だって追撃の手を逃れてきた。
だからしぶとく生きることができた。
逃げ場のない場所なんてところにあの男が居を構えるだろうか?」
トントンと頭を叩いてみせるアト。
『ちびっ子鬼門守』鬼ヶ城 金剛(p3p008733)が棍棒を構え、ラーガへと殴りかかる。
「闇の商人を野放しにするわけには行かないね……なんとしてでもここで止めるよ!」
間に割り込んだ吸血鬼が、金剛の殴打によって吹き飛ばされる。吸血鬼は石の壁に激突し、ずるずると崩れ落ちた。壁にはまるで花束でも叩きつけたかのように花弁が散り、吸血鬼の頭からもスズランの花びらがぱらぱらと落ちていく。
「ここまでだ! ラーガ!」
金剛たちが武器を突きつける。
だが……ラーガの表情に焦りはなかった。
どころか、べろりと舌を出して笑うばかり。
「そこのローグ野郎の言うとおりだぜ。退路はあった。捨て駒も用意した。けど、それだけじゃあねえんだよなあ……!」
ぐいっと自らのシャツに指をかけ、引き裂いてみせる。彼の胸にはまざまざと烙印が刻まれていた。
そして、懐からアンプルを取り出す。強化烙印兵を作り出すためのアンプルだ。
「さあ、踊ろうぜ!」
「野郎、こんな底力残してやがったか!」
『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)は広げた翼を振り込み、炎を纏った拳で殴りかかる。
ラーガの銃弾をギリギリのところで回避したその直後に、腕を掴まれ投げられた。壁を破壊し、そのまま野外へと転がり出る牡丹。ここまで罠や扉の解錠を担当してきた彼女だが、ここへきて戦闘に復帰したという所だが……それがよりによってこんな相手だとは。
直後、追撃に飛びかからんとするラーガの横っ面に『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)の『ぶれいじんぐぶらすた~』が直撃した。
「こういう相手が一番嫌がりそうなものは、損得勘定も因縁もない相手がよく分からぬ理由で交通事故的に横殴りを仕掛けてくることらしいの」
直撃を受けて吹き飛んだラーガ。瓦礫の中に突っ込んだその姿は、しかしゲラゲラと笑いながら立ち上がる。
「ヤベエ臭いがしやがる……下がれ、死ぬぞ」
そう言って胡桃を下がらせ前に出たのはハウザーだった。
人狼のごときシルエットと屈強な体躯。百戦錬磨の彼が放つ咆哮は常人であれば怯え竦むほどのものだが、ラーガはそれを意にも介さず飛びかかってくる。
顔面に掴みかかろうと繰り出した腕を、ハウザーは両手でがしりと掴む。強引に投げ飛ばしたその先では、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が鋼の拳を構えていた。
「リハビリには丁度いいでありましょう。復興続きで鈍った身体に活を入れるであります!」
繰り出すは錬鉄徹甲拳。それこそ百戦錬磨の拳がラーガの胴体へめり込み、ごきりと身体をおかしな方向に屈折させる。常人であれば二度と立ち上がれぬような背骨の折れ方をしたことだろう。
「企て事が好きという顔をしているな。
私も好きだ。
なら、企て事が破れた時のことも当然考えているだろう?
ことごとく蹂躙されたならば、楽しい負け惜しみを吐いて勝者を気持ちよくさせるのも敗者の役目だ」
「道理だねえ。けどよお、俺サマはこうも思うワケ」
ごきごきと異常な音を鳴らし、自らの肉体を再生させるラーガ。
べろりと舌を出し、彼は笑った。
「負けても笑ってる俺、最強じゃねえ?」
そこへ『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)の強烈な打撃が叩き込まれる。
片腕を翳してガードしたラーガが吹き飛ぶも、反撃にと吹き飛ばされながら放った弾丸がエイヴァンの足や腕に命中しがくりと膝を突かせた。
だが闘志は瞳から消えていない。そして、エイヴァンはハウザーたちへと視線を向けた
「まぁ、俺は獣種でも海洋の人間だからよ。
ラサ各々に事情なんざ、見たこと聞いたことしかわからんわけだ。
言葉にしないと伝わらないことなんざ五万とある。
黙っていただけじゃ時間は解決なんざしてくれない。
過去の自分が何を思い、何をしたのか。
そして、今の自分がすべきことは何なのか。
未来に何かを為したいなら自分の口で伝えるべきだと俺は思うがな」
ハウザーはうるせえと吠えたが、言葉は届いていたようだ。
「ラーガさんの諦めが悪い悪人感は好きよ! 出会い方が違ってれば一緒に悪い事とかしたかったわね~♪」
一方で、『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)がラーガへと追撃を仕掛けにかかった。
『日は不変なれど人ば歩む』というきゐこの再現術式が発動し、ラーガを包み込む。
そうして隙を作りつつ、ピストルを構えるパドラにちらりと振り返った。
「復讐なんてその人次第ではあるけど私的に言うなら楽しい事や気持ちの良い事が大体の場合正解よ! 楽しく行きましょう♪」
「楽しくって……」
パドラはハウザーを見て、ハウザーはパドラを見た。
互いの視線は交差し、そしてそらし合う。
「結局、言葉巧みに素直な商人を騙していたのがラーガなのでしょう?
今の時代なら、パドラ様のお父上などはパレスト兄妹が守るのでしょうね? しかし、その時にはそこまでできなかった。
であれば愛された商人の忘れ形見くらい、生きていてほしいと願うものでは?」
『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)がそんな風に声をかけると、即座にラーガへと攻勢に出た。
『絶撃』と呼ばれるエアハンマーによるミサイルめいた突撃だ。
ラーガがそれによってのけぞった隙に、『氷の狼』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)がライフルによって腕を狙い撃ちにする。黄金の銃が回転し、ラーガの手から今度こそはね飛んだ。
腕ごとちぎれて飛んでいかなかったのは、ラーガの肉体が強化されていたためだろう。
「やぁラーガ、今日の気分はどうだい?
君は殺されるんだ、今日この場所で。何も掴めないままでね。お前は何にもなれないよ。可哀想な男だ」
チッと舌打ちをし、ラーガは足元に落ちていた石を拾いあげた。それを投擲する。たかが投擲と油断することは、勿論ない。リーディアのライフルに直撃し、リーディアもまたその場から軽く吹き飛んだのだから。
「リーディア、大丈夫!?」
駆け寄ったパドラに手を借り、立ち上がる。そしてリーディアはパドラの背をトンと叩いた。
「此処には私達がいる。それに君は君が思っているよりも強い。私たちが保証する」
「パドラさんはオイラが守るから、皆は攻撃をおねがい!」
『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が気合いを入れ、機煌重盾を構え突撃する。
ラーガは獣のように吠え、チャロロの盾を殴りつけた。凄まじく頑強なチャロロであっても耐えきれないほどの衝撃に、チャロロは吹き飛ばされる。
(このあとどうするかはパドラさんが決めること。オイラたちには手出しできない話だから……)
が、そうなることは『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)も知っていた。ラーガの強さは知っていたし、一度吹き飛ばされた過去がある。
強化されたのならなおのことだ。
「オススメしていただいた香水のお礼をここでさせてください。僕も貴女の弾になります。ラーガを打ち抜く弾に」
二重に水鏡の妖力障壁を展開し立ちはだかる鏡禍。殴りつけられたその一発で障壁が吹き飛ぶが、一瞬の隙は確かに稼げた。
(シキが烙印ついたまま渦中に飛び込むなら、俺も自分の好きにするまでだ。噛まれたって構うもんかよ!!)
そこへ現れたのは『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)だった。
『CGE-PNX』の呪符を使い、シキや仲間達を治癒していく。
「パドラちゃんも、ま、好きに動けよな。面倒くせーのは全部サンディ様が引き受けるぜ! 離れて頭冷やすとかならちょうど俺のラサ領もあるしな」
などと言いながら、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)に後は頼んだという視線を送った。
少し切ない視線と、期待をしていなかったと言えば嘘になるという目をサンディに送りつつ、シキはパドラへ振り返る。
「パドラ。私は君が迷うなら力になりたい。友達だからさ。
復讐の炎をどうすればいいかわからないなら決められるまで付き合うよ。
でもね、無理に消そうと思わなくていいんだ。
どんな感情だってそれは君の心なんだから!」
「シキ……みんな……」
パドラがそこでやっと、ハウザーをまっすぐに見た。
ハウザーもまた、パドラを見やる。
フンと鼻を鳴らすハウザーは、ラーガをにらみ付ける。
「やるぞ、パドラ」
「……うん」
ラーガが落としていた銃を拾いあげ、こちらへ向ける。
その一瞬を察知したハウザーがラーガの首を掴み、壁へと叩きつけた。
がつんという激しい衝撃にラーガが目を剥いた、その一瞬。
パドラはピストルでしっかりとその額に狙いを付けていた。
「ここでおしまいだよ、ラーガ」
銃声。ラーガの額から赤い薔薇の花びらが散り、そして彼は崩れ落ちた。
――外の戦いが終わったのを、崩れた天井から除く闇の静けさが物語る。
――硝煙をあげた銃を下ろし、パドラはただ、沈黙の月を見上げていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――かくして、ラーガの陰謀に幕は下りました
GMコメント
ラーガとの最終決戦が幕を開けました。
大量のモンスターの先に待ち構えるラーガを倒し、悲劇に終止符を打ちましょう。
●排他制限
こちらのRAIDに参加した場合、他のRAIDには参加出来ません。
●成功条件
・ラーガの撃破
●フィールド
月の王国、古代遺跡内外です。
・野外
小さな建物や公園めいたスポットなどが並ぶ野外エリアです。
大量の晶獣とわずかな晶竜によって構成されたモンスターの軍勢が展開しています。
この軍勢をマガキの傭兵達と共に切り拓き、ハウザーたちを遺跡最奥へと送り届けなければなりません。
そうでなくとも、これだけのモンスターが転移陣を通してラサにばらまかれれば酷い被害が生じてしまうでしょう。
ここで撃滅し、ラサの平和を護るのです。
・屋内
ラーガが最後の拠点として利用した古代遺跡の最奥です。
強化烙印兵や吸血鬼たちによる強力な戦力を揃え、ラーガがこちらを待ち構えています。
・救護テント
ファレンによって設置された、戦場の後衛救護テントです。
戦いにて傷付いた仲間が搬送されてくる味方の拠点となっています。
●エネミー
・『金毒』ラーガ
幻想種たちの拉致やそのために用いられた薬品アンガラカの流通を行い、ラサの商業ネットワークの混乱と破壊を目論んだ男です。
全ては彼にとって利用すべき駒であり、踏み台でした。
彼自身の戦闘力もなかなかに高く、黄金のピストルを主武器としています。
・『金竜』ニシャーダ
ラーガが育て上げた特別製の晶竜(キレスアッライル)です。
ドラゴンを意識した形状をとっており、黄金の結晶体に覆われた空飛ぶ大蛇に見えます。
全体的に戦闘能力が高く、この個体を狙うなら特に専念し、連携してあたらねばならないでしょう。
・『強化烙印兵』シャドジャ ほか数名
ラーガによって作り出された強化烙印兵たちです。それぞれが元々もっていた個性を極端に引き延ばした強者になっています。意識は完全に失われ、ラーガの奴隷と化しています。
●味方戦力
・傭兵団『凶(マガキ)』
ハウザー率いるマガキの傭兵団が屋内外それぞれで共に戦ってくれます。
特にハウザーはボス狙いということでラーガへと突っ込んでいくことでしょう。
・パドラ
白銀のリボルバーピストルをもつ女。パドラもまた遺跡最奥を目指し、ラーガとのねじれた因縁に決着をつけようとしています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合はプレイング冒頭行に【コンビ名】といったようにグループタグをつけて共有してください。
大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【チーム名】【コンビ名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
行動パート
以下の選択肢の中から行動するパートを選択して下さい。
【1】野外
敵:晶獣、晶竜
味方:傭兵団『凶』
【2】屋内
敵:強化烙印兵、吸血鬼、ラーガ
味方:ハウザー、パドラ
【3】救護テント
傷付き運び込まれてきた仲間を助け、治療します。
このパートでの活躍によって、他パートでの重傷者発生リスクを減らすことができます。
Tweet