シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2021>夜華天燈
オープニング
●天燈の夜
ぽつり、ぽつり。灯りが『昇る』。
穏やかな橙色をした灯火が、天へとぷかぷか昇っていく。
夜空は灯りの背となりより暗く。
灯りは夜空を背にしてより明るく。
ぷかり、ぽつり、ゆらり。
穏やかな灯火が空へと消えていく。
ゆっくりと上昇し、そして視界の中から消えていく灯り。
打ち上げたであろう人々は天へと手を伸ばしたまま、満面の笑みが灯りに照らされている。
その灯りを見守る人々の表情もまた、みな穏やかだ。
胸の前で手を組み瞳を伏せている者は、きっと祈っているのだろう。
御国が平らかであることを。
御誕生日であらせられる帝の健康と長寿を。
そして各々の願いの成就を。
願いを乗せた幾つもの灯りを、人々は思い思いに見守っていた。
●ローレットにて
来る12月24日は、混沌世界では『シャイネンナハト』の日である。
他国の文化に馴染みのない神威神楽では『帝の誕生日』の方がよく知れ渡っているが、昨年帝が宴を開いて神使を招いたことから少しは浸透しているのかもしれない。古き佳き時代を感じる町並みに、それらしい飾りを早くから飾っている家々もあるようだ。
(……門松とツリーが混ざっていたのもあるけれど)
けれど豊穣は、確実に変わっていっている。
それが良い方であるのなら、大変望ましいことだ。
そんなことを考えながら、劉・雨泽(p3n000218)はローレットで口を開いた。
「『天灯』って言うものに興味はないかな?」
此方の国だと『スカイランタン』の方が耳に馴染みがあるだろうかと首を傾げて笠の垂れ布を揺らした。
「紙製の熱気球に願いを書いて、夜空へ飛ばすものだよ。
とある街では毎年帝の誕生祝いに行っていたみたいなのだけれど、シャイネンナハトの文化も流れてきたし、帝への祈り以外も篭めてやろうってなったのだって」
戦時には通信手段として用いられる天灯だが、節句での無病息災を祈る祈祷儀式等として神威神楽では定着している。
「暗い夜空に、橙の明かりがいくつも浮かぶらしいんだ。
皆で『せーの』って一斉に放たれるから、それは幻想的な景色なのだそうだよ。そういうものがあるとは知っていたのだけれど……実は僕も一度も参加したことがなくてね」
とても気になっているのだと雨泽が笑みを君へと向けた。
湖に面したその街では、風に乗って幾らか流されてしまったとしても火事にならぬようにと、いくつかの決められた場所から天灯を空へと放つ。
「冬の夜だし、暖かな格好は必須だけれど……身体を温める食べ物も売られているよ」
花見の夜のような吊り提灯に照らされる屋台からは、ホカホカと暖かな白い湯気がたくさん上がっていることだろう。どれも神威神楽料理ばかりでシャイネンナハト感と言うよりも大晦日の神社や寺の雰囲気だけれど、それもまた神威神楽らしいのではないだろうか。
「――ね、良かったら一緒に行ってみない?」
もう一度垂れ布を揺らした雨泽がそう問いかけて。
笑みを刻む唇が、徐に『あ』の形で開かれる。
「冷え込むから暖かな格好をしておいで。雪も降るかもしれないから」
きっととても冷え込むことだろう。
けれどそれ以上に。
暗闇に浮かぶ灯りとその灯りに浮かぶ雪は、きっと大層美しいことだろう。
- <Scheinen Nacht2021>夜華天燈完了
- GM名壱花
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年01月07日 22時06分
- 参加人数49/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 49 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(49人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●あかりつくり
天へ向かって明かりが飛んでいく。
その光景を目にしたスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、思わず「へー」と声を上げた。
「へー、灯りを灯して空に飛ばすんだ?」
せっかくだから作ってみたいなと傍らへと視線を向ければ、花榮・しきみ(p3p008719)は「お姉様がお求めならば!」と勿論気持ちの良いふたつ返事。愛しいお姉様が望むことを断る理由なんてあるはずがない。
「こうしてお姉様をイメージして何かを作るのは、紐を結わえた時以来でしょうか」
白地の紙に桜を描き、赤紫と青紫の朝顔も描きながら口を開いたしきみは、一年前の出来事を思い出していた。あの時も互いのことを思い合い、贈りあった。
「今も私は時折帯飾りにするのですよ」
「大事にしてくれてるのは嬉しいな! 私も大切にしてるよ!」
黄色の紙に絵具で赤を描き、散らす桃色は桜吹雪。
互いのイメージで作りあえば、満足のいくものとなったようだ。
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)とネーヴェ(p3p007199)のふたりも、誰かを思って天灯に筆を入れる。
白に青で描くアイラは、愛しい彼のため。
その姿を素敵だと思ったネーヴェは、赤に白、淡い青や翠で大切な人を想う。
「そういえば、おねがいごとを込めてみるのもいいらしいですね」
「おねがいごと、ですか?」
折角だからと紡ぐアイラの言に、ネーヴェはいいですねと微笑んだ。
「ボクのおねがいごとは……来年も家族皆で幸せに暮らせますように! ネーヴェちゃんもおねがいごとはできましたか?」
「わたくしも、はい! できてます」
空に飛ばせば、きっと天へと願いを届けてくれる。
大切な人が、今年も無事でありますように。
そして大切『だった』人と、結びを得られますように。
「ほらほら、早く一緒に飛ばしに行きましょう!」
念入りに願いを籠めるネーヴェの手を取ったアイラは、希望の灯る夜空の下へと彼女を引っ張り出すのだった。
「こういうのは、あまり自信がないな……」
是非オリジナルのものを作りましょうと誘った善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の隣で、ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)はそっと紙へ指を這わせた。
「ふふん。我(わたし)こういうのは自信があるのだわ」
何故ならレジーナは元の世界ではTCGのカードに描かれたキャラクターなのだから。
「レナは自信ありそうだね。手伝って」
「いいわよ、みにゅは何を描きたいのかしら?」
「花の絵を描こうかと」
ミニュイが手を止める度にレジーナが手伝い、その間にもレジーナは自分の天灯に絵を描いていく。ミニュイと、それから自分の姿。天へと上げれば、きっといつだったかの夜のように、絵のふたりは仲良く空へと飛んでいくことだろう。
きっとどこまでも、どこまでも。
「どうかしら、似てるー?」
「うん、似てる似てる」
『たぶん』がつくけれど、レジーナはふふんと満足そうに笑った。
天灯という習わしは、様々な地域で広く行われている。故郷にも似た習わしがあった、とアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は記憶を辿った。
(けれどあれは兵器として用いたものだったか)
祈るためのものではなく、通信するためのものでもなく。そして悲劇が起こり、禁止された。
(……なかなか難しいな)
手元は作業を進めている。が、上手く思い通りにならない。
何かと聞かれれば『葉』と答えるが、『にくまん』と言われそうだ。……いいけど、別に。
頭に思い浮かべたものを形にするのは、存外難しいものだ。それでも少しずつ色んな色を使って、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は自分を支えてくれた人たちを思い出しながら紙を塗っていく。
恋人のこと、親友のこと、盟友のこと、友達のこと、騎兵隊の仲間のこと。
(どうか見ていて。私は今年も、駆け抜けてみせるのだから)
これが上れば、手を伸ばしても届かない星になった人たちにも、きっと少しは伝わるはずだから。
「色々な灯りがあった方がいいわよね」
折角だから、全種類。沢山の天灯を作ろうと、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は全ての紙を購入した。
幻想の街の灯り。
鉄帝の夜空に浮かぶオーロラ。
天義の教会のステンドグラス。
海洋の青。
練達のネオンライト。
傭兵のバザールで見た布の模様。
深緑の花畑。
一年で溢れた心に残る情景は、色褪せない。
夜空に咲く光の華は他国からは見えないけれど、見せたいな、なんて。ジルーシャは愛しい人の彩を見つめて想うのだった。
ニル(p3p009185)もまた、思い出を天灯に描く。
雨に濡れるお花畑や、枯れ木に咲く緑のお花。
ごろごろ羊やパカダクラ。
レイニー・ロッガ様たちと小さな虹。
狂鮪やおっきなイカ、カニさんたち。
どれもこれも、素敵な思い出だ。
――これからも、あの素敵な景色がずうっと続きますように。
――これからも、あんなふうに素敵なものに会えますように。
ニルは大切な思い出と祈りを、ぎゅうっと天灯に閉じ込めた。
「君は青色にしたんだね」
掛かった声に隠岐奈 朝顔(p3p008750)は「あ、劉さん」と顔を上げた。
「少し、見ていっても?」
「勿論どうぞ」
「誰かが何かを作っているのを見るの、好きなんだよね」
そうなんですねと口にして、朝顔は願い事を青い紙に綴る。その色は大好きな彼の持つ色に似ていて、託す願いも勿論彼と……。
天灯を作りながら話すのは、色々なこと。二年前に作った船のこと。それがまだ家にあること。思い出が増える度、色々な事を思うこと。
楽しい事ばかりじゃなくて、嫌な事だってある。けれどそれでも。
「やっぱり私は豊穣という国が、1番好きなんだなって」
その度にそう思うのだと朝顔が笑えば、雨泽も柔らかに「そうだね」と吐息で笑った。
「……どんな風にしよう、かな」
「俺は太陽色っぽいコレにする!」
うーんっと悩むチック・シュテル(p3p000932)の傍らで、一番に紙へと手を伸ばしたのはエドワード・S・アリゼ(p3p009403)だった。
「ボクも決めた、これ。これボク」
桃色の紙を手にしたカルウェット コーラス(p3p008549)と黄色の紙を手にしたエドワードの姿を見たチックは「……決めた」と白色を選んだ。
白地に、薄めの橙色と紫色の絵具を使って描かれる花。この花は、チックにとってのふたりだ。ふたりは、太陽や花のようだから。
「あとは……音符、と……雲も」
ふたりに連なるものを描いていけば、チックの天灯は賑やかなものとなった。
カルウェットの桃色の紙に描かれるのは、羽と音符。それから、太陽とリボン。
「ひっひー、ねぇねぇ、見て。ボクらの天灯! これがねー、チックして、これ、エドワード、するの!」
「ふたりとも、絵が上手いなー。オレは……そうだ」
黄色の紙に描かれるのは、一対の翼と二本の大角。ふたりを思い浮かべるものと、それからカッコよさも忘れずに。
「願い事も書き込めるんだっけ」
「へー、願い事書く人も、いる、するの?」
エドワードが言葉も書けば、カルウェットが素直に真似た。
『これからも、みんな、一緒。仲良し』
『2人と一緒に、来年もたくさん冒険して、たくさん思い出作る!』
天灯は、きっと願いを天へと届けてくれる。
●あかりまつり
夜空を彩る天灯の下、ホコホコとたつ湯気の元には賑わいがあった。
寒さに震えながらも人々は灯りを楽しみ、そして寒さに打ち勝つべく温かな食べ物で身体を温める。
「おにおん、すぅぷ?」
「そうだよ、奥さん。この辺じゃぁ馴染みがねぇだろうが、異国のちょいと小洒落た汁物だ」
飴色になるまで炒めた玉ねぎの甘みと旨味、それからチーズもたっぷり入れたそれは逸品だ。
「因みに二日酔いにも効くらしいから、試してみるのはどうだ奥さん」
店主――ゴリョウ・クートン(p3p002081)の豪快な笑みに、それじゃあひとつ亭主にと婦人が買い求めた。
「わあ……色々あるのね!」
異国のものを扱っているのはゴリョウの店くらいだが、屋台は雑多と色んな種類があった。ジャイアントモルモットのリチェと何を食べようかと視線を巡らせたキルシェ=キルシュ(p3p009805)は、気になる屋台へと近寄っていく。
「あの行列はなにかしら? 豚汁? 美味しそう!」
湯気を立てる椀の中には、沢山の具。
野菜が沢山な方が嬉しいキルシェはリチェと『美味しいね』を分け合った。
どの屋台からも温かな湯気が上がり、屋台の間を歩めば寒さよりも温かさを感ぜられる。それでもチラチラと雪が降る冬の聖夜は寒い。黒田 清彦(p3p010097)は綿の入った羽織の袖に手を入れ、屋台の間を歩いていた。
「――ん?」
「――む」
白い誰かとすれ違う。――と、同時に向けられる疑問めいたこの声。
何事かと振り返れば、そこに居たのは懐かしい『同郷』の相棒、白鳳 山城守 楓季貞(p3p010098)の姿だった。
まさかこの日に、この場所で。これでは聖夜の奇跡ではないか。
思わず目を見張って固まったのち、二人揃って唇を開く。
「貴様もこっちに来てたのか」
「お前もこっちに来てたのか」
漏れた言葉が寸分違わず一緒で、また同時に吹き出してしまった。
「どうだ、やらんか?」
お猪口をくいっとやる姿をして見せれば、薄い笑みと共に応じる言葉。二人は肩を並べて屋台の食べ物や酒に舌鼓を打ちながら、今までの互いのこと、それからこれからも共に闘っていこうと話し合うのだった。
「あれはあれで楽しそうだけれど、飛ばす祈りなどないのかしら?」
夜空を舞う灯りを見上げてのルチア・アフラニア(p3p006865)の問いに、水月・鏡禍(p3p008354)は小さく息を呑んで視線を少し逸した。
「今この時間が大事ですから」
ごにょごにょと口の中で籠もるような言葉は、祈るよりも今が幸せだから。ルチアの誕生日を祝えて、誘えて、ともに屋台を楽しめるこのひとときが、鏡禍にとっては祈りよりも一等煌めいている。
「それじゃ、今日はエスコートして下さるかしら?」
「え、エスコートですか!? 僕が?」
プレゼントなのでしょう? と悪戯めいた笑みに、急速に集まった顔の熱でクラリとする。
「頑張りはするけれど、至らない点は大目に見てください……」
差し出した手に、手が乗って。
歩き出す直前、「お誕生日おめでとうございます」と囁やけば、天灯よりも美しい満面の笑みが咲いていた。
「わあ、夜なのにすっごく明るい!」
声を弾ませたMeer=See=Februar(p3p007819)が夜空へと手を伸ばす。どんどんと離れて小さくなっていく灯りは、見えなくなったところでまた新しく上がっていく。
「まだまだ知らないことが多いなぁ……」
「知らなくても問題ないと思うぞ」
世界各地には色々な祭りがあり、きっとそれらは増えていく。
「まあ、好奇心の赴くままに各地の祭りを巡るのも悪くはない。予定が空けばたまには同行しよう」
「本当!? 世界さん一緒に行ってくれるの?」
回言 世界(p3p007315)の言葉に、Meerの顔も天灯になったみたい。パッと華やいだ表情は、今日だけでも嬉しいのにとくるくる変わる。
嬉しい気持ちのまま、りんご飴にたこ焼き、それからそれから――。
「……食べきれるかなぁ?」
「ったく、買う前に自分の腹と相談しとけよ」
そうなるだろうと思ってお汁粉だけにしておいた世界が、Meerが食べきれなかった分を請け負った。
たこ焼きにもつ煮、酒に甘味。唯月 茜音(p3p010256)と唯月 清舟(p3p010224)のふたりの手にも、屋台料理が載っている。ふたりで来れただけでも嬉しいのに、甘やかして貰えた茜音は嬉しげに口角を上げていた。
「はぁ~どこもかしこも女連れで羨ましいこっちゃ……儂だって本気出せば一人や二人……!」
「兄様にもいつか良い人が出来ますよ」
胡乱げな視線を辺りへ向ける清舟にくすりと笑う。彼がロクデナシの部類な事は知っているが、それでも茜音にとっては『良い兄様』だ。
(けれど兄様に『好い人』が出来たら……)
もしかしたら茜音も一緒にと誘ってくれるかもしれないけれど、折角兄が巡り会えたその人との時間を邪魔する訳にもいかない。
(だからもう少しだけ遅く来てくださいね、兄様の運命の人)
上がる天灯に瞳を細め、来年もこうして彼と見に来れると良いなと茜音は思う。
(茜音が嬉しそうじゃし……まぁたまにゃ家族さぁびすっちゅうもんも悪かないわな)
そんな茜音を横目で見た清舟は、嘆息を隠して酒を飲むのだった。
「まずは体が良く温まるものを頂きましょう」
弓削 鶫(p3p002685)の提案で、リコシェット(p3p007871)と鶫は温かな食べ物探し。
あれなんてどうでしょうと指差されるのは温かな甘酒だ。
「はい、私の奢りです。熱いので気を付けて下さいね」
「ありがとうな! ちょっとずつ冷まして、甘酒で温まる!」
両手を甘酒で温めながらフーフー冷ましてちびちび口にすれば、横からほかりと湯気立つソースの香りが差し出される。
「あ、たこ焼き美味しそう!」
「リコさんは手が塞がってますので……はい、あーん♪」
「あーん♪ あっつ……! でもこれ美味しい……!」
はふはふと慌てながらも頬を抑える姿が可愛くて、鶫はにっこり微笑む。
「ん、飲んだ。私からも鶫にお返しだ」
空になった甘酒のカップを片手で持ち、甘えてばかりじゃないんだからな! とたこ焼きを差し出した。
ずらりと屋台が並べば、当然食べるためのスペースもある。
その一角で上がった声は、聖夜以外の事も言祝いで。
「エレンシアの二十歳の誕生日とシャイネンナハトを祝って、乾杯」
「ああ、ありがとうな。乾杯!」
レイリー=シュタイン(p3p007270)が掲げた盃に倣い、エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)も小さく盃を上げて応じた。祝ってくれることも、こうして穏やかな時間をともに過ごせることもとても嬉しい。
「どう? 大人になったけど、やってみたい事ってある?」
イカ焼きを片手に尋ねてみれば、エレンシアはうーん? と首傾げ。正直あまり実感がない。
「まー、ちっとは華やかさも必要? たぁ思う事はあるけどな」
「華やかさなら、服とかアクセサリーに興味を向けるのも良いと思うわよ」
「ふーん、なるほどねぇ。んじゃあそうしてみっかな」
人生の先輩の言葉に頷き、焼き鳥をもぐっと頬張った。
「へい! 店主! この日本酒に一番合うつまみをよろしくなのだ!」
「あいよ……っと、嬢ちゃん……」
「ヘルちゃん未成年じゃねーのだ!」
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)の見た目に少し悩んだ様子の店主はあいよともう一度応え、焼き鳥を出してくれる。
「お、美味そうだな。嬢ちゃん、よければ一緒にやらねぇか」
その姿を見たバクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p010212)が手にした熱燗を揺らして飲み食いの出来る休憩スペースへと誘い、ヘルミーナも喜んでついていく。
「この日本酒は旨ぇな! いい感じに寒い夜だとやはり熱燗に限る!」
「ぷはー! やっぱり美味しい料理と酒を嗜むのが最高の贅沢なのだ!」
見上げる夜空には満点の星空のような天灯の灯り。
美味い酒を天へと掲げ、ふたりは「輝かんばかりのこの夜に!」と声を揃えた。
屋台の湯気越しに見上げる天灯もとても幻想的だった。
●あかりやどり
――天灯。
天の灯り。
本来、神頼みだとかそんなものは信じない藤野 天灯(p3p009817)がわざわざこの場に来たのは、ただ己の名と字が同じだったからだ。
人々に混ざって上げたランタンを目で追った天灯は、持参した珈琲を一口含み――思考の片隅にチラと過ぎった少女の面影に僅かに眉を寄せた。
(……何を感傷に浸るやら)
興味が惹かれてやってきたのだ。ただ、それだけ。
柄にもなく言葉をかけてしまった少女を想ったわけじゃない。
空に昇っていく天灯に願いを託す人々の横顔を、ヘルツ・ハイマート(p3p007571)は眺めた。天灯も、そして願う人々の横顔も美しい。
だから、他の皆の分も祈っておく。
無病息災を、幸せを。どうか祈る人々の願いが天へ届きますように、と。
偶然領地の視察に来たベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は折角だからリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)を誘い天灯を浮かべる祭りに参加をしていた。
ふたりの手には打ち上げ前の天灯。打ち上げの順番が来るまでふたりは会話をして過ごす。
祭りの来歴を詳しく話すところから『偶然』では無い気もするが、想いを伝えた彼女からの返事が保留な以上、誘う口実はいくつあったって足りないくらいだ。
白い天灯を手にした辻岡 真(p3p004665)もまた、今か今かと打ち上げの順番を待っていた。手の内の天灯には『満願成就祈願』の墨字。
(さあて、飛ばすぞ~! そぉれ!)
願いが叶いますようにと祈り込め、手を離せば天灯はするすると天へと昇っていく。幻想的な光景はとても綺麗で、悩みなんて消し飛んでしまいそうな心地となる。
周りの人々も幸せそうな笑みを浮かべており、真も自然と笑顔になれた。
せーのの掛け声で飛ばしたアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)とシラス(p3p004421)の天灯も、夜空へと吸い込まれるように飛んでいく。あっという間に他の天灯との区別が付かなくなったけれど「あれが私の」とアレクシアが指差し笑った。
「アレクシアは何をお願いしたの?」
「争いがなくなりますように、みんなが手を取り合えますように、って感じだね」
毎年同じことを願っているのだけれどねと笑う彼女が、本気でそう願っていることをシラスは知っている。
「俺はね、来年には幻想で騎士の位を手に入れて見せる」
スラムの浮浪児であった彼は、貪欲に出世を望んでいる。
勇者と呼ばれるようになった。けれど、まだだ。爵位が欲しい。
「シラス君ならきっと叶えられると思うよ」
「頑張ろうね、俺のもキミのもきっと叶えるんだ」
「困ったことがあったらちゃんと頼ってよね! いつだって駆けつけるから!」
「俺だって駆けつけるよ」
シラスとアレクシアは笑みを交わし合った。
「キサには絵心というが備わっていない事、よくわかったであります……」
希紗良(p3p008628)が眉を下げながら抱きしめるように持つ天灯に描かれている絵は拙い。けれどそれは味がある、と言えるものではないかとシガー・アッシュグレイ(p3p008560)は笑った。随分と前衛的ではあるものの。
「キサは剣術以外からきしであります……とと。そろそろ放つ時間でありましょうか?」
「……何か気になる事があれば色々と挑戦してみると良いよ」
紫煙の香りが微かに香る落ち着いた口調が、背中を押す。
「豊穣以外の国に出稽古に行きたいであります!」
天灯がふたりの手を離れていく。
灯りが見えなくなるまで追いながら、シガーは彼女が剣以外に夢中になれる何かを見つけられることを願う。例え見つからなくとも、彼女が幸せならそれでいいのだが。
ふわり、ふわり。
ゼファー(p3p007625)とアリス(p3p002021)の天灯が上がっていく。
ひとつには大きな願い、ひとつにはささやかな願いを載せて。
(わたしだけが、識ってるの)
強かだと周りに言われるゼファーが本当は普通の女の子で、その横顔がたまに酷く切ない憂いを帯びることも。
チラと見上げた横顔は真っ直ぐに天灯を追っている。
(喩え、貴女が風に攫われてしまったとしても――私は西風に乗って、必ず迎えに行くから)
ふたりの世界に不条理が影を落としたとしても、貴女が攫われてしまったとしても、必ず。
ゼファーが迎えに来てくれることを、アリスも信じている。だってアリスは彼女の腕の中でこそ香る『蜂蜜ちゃん』なのだから。
アリスの視線に気付いたゼファーが口を開く。
「穏やかに、一緒に過ごせます様に」
そう願ったのだ、と。
「……判っているわ」
そんな所を識っているのも、アリスだけなのだから。
「そのままどこまでいくんだろ。星……まではいかねぇか」
「ふふ、どれかは星になるかもって思ったらさ、浪漫があっていいよね」
サンディ・カルタ(p3p000438)とシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の手から離れた天灯がゆっくりと昇っていく。
きっと燃え尽きたら落ちてきてしまうのだろうけれど、どれかひとつくらい星になるかもしれない。だって個数を数える人なんていないし、その内いくつが足りないかなんて誰も知らないのだから。
天灯を見上げながら話すのは、『去年の今日』の話。結んだ紐の願いは、きっと叶った。
「じゃあ今年も何かお願いしてみようかな」
――少しでも長く一緒にいるために頑張れますように。
天灯は小さくなっていく。
「サンディくんなにかないの、今年一年でよかったこととか?」
「ん? 俺? ……一番ってなるとむずかしーな」
良かったら聞かせてよと弾む声に、そうだなぁと一年を振り返る声が続くのだった。
「お手をどうぞ、プリンセス」
男装の麗人、ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)が手を差し出せば、伏見 行人(p3p000858)は小さく笑みながらその手に手を預けた。エスコートはどちらなのか。この際気にしない。共に並び立ち、隣を歩くことが全て。
「行人君、せーので一緒に上げようか」
「いいよ。一緒にだね?」
せえので上げた天灯の美しさも、アントワーヌの『お姫様』には敵わない。
けれど離れていく姿が旅人の運命みたいで、彼の姿と重なってしまう。
(あれは天灯で、人ではない。俺は――)
(ずっと一緒に居たい。君の旅に着いていきたい)
しかしその言葉を口にすることはしない。きっと優しい君は困ってしまうから。
(――私は王子様だから)
だから、我慢くらい――。
「大丈夫。俺はここに居るよ」
言い切る言葉と、ぎゅうと握ってくれる暖かな手が、痛いほどに熱かった。
「ね、ね、ルカさんは天灯にお願い事なんて書いたの?」
あたしのはねとフラン・ヴィラネル(p3p006816)が示すのは、みんなが元気でいられるようにという願い。もうひとつ書いたけれど、これは彼には秘密。
「願い事なぁ。結構悩んだけどこれだな」
見せるのは、『カミサマへ。余計な事すんな』と書かれた天灯。
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は自分の望みは自分で叶えたい。神にさえ手伝われたくないし、邪魔など以ての外だ。
「飛ばそう」
周囲の人々に合わせ、ルカとフランも天灯を上げる。
願いを載せて飛んでいく天灯は、きっと天へと届くのだろう。
もしかしたら空中神殿にも――。
ルカの表情をチラと見上げたフランには、彼が何を考えているかは読めない。けれど寒いからと言う口実でそっと身を寄せて、隠したもうひとつの願いのことをそっと想った。
『来年も一緒にこの日を過ごせますように』
それが、フランだけの秘密の願い。
みんなの願いも叶いますように。さやけき夜に、静かに祈る。
「ウィルくん、こっち。ほら、もう始まってる……とっても綺麗……!」
片方の手袋を『家に忘れてきた』コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)はウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)の手を引いて。
「ああ、本当に綺麗だな」
静かに響く声には感嘆が混ざっているのを聞き止めて、ふたりも手から天灯を放った。
湖にも空にも、ひかりが、星が散って。満ちて。空の中に落ちたよう。
沢山の幸せが夜を染めていくみたいで、コルクは幸いに満ちた笑みと吐息を零した。
「今日は一緒に来てくれて、ありがとう」
「ありがとう、はこちらこそだ」
何時よりも満たされていると感じるのは、きっと君が隣に居るから。
双子星のように天に灯る灯りを視界に納め、ふたりはふたりだけの願い星に祈りを捧げた。
高く高く、もっと高く。
昇る灯りは人々の願いを載せていく。
風花が舞う中を、橙に灯る灯りをいつまでも追っていたいような気持ちもある。
けれど、ずっと眺めていては風邪を引いてしまう。
灯りが見えなくなった頃に落とされた帰ろうかの言葉に頷けば、リュティスの肩はそっとベネディクトに抱き寄せられた。
「……俺が寒いんだ、迷惑かな?」
「……寒いのであれば仕方ありませんね」
ふたつの影がひとつになったように寄り添い歩くのを、天に灯る光が照らしている。
輝かんばかりのこの夜に、人々に幸いを降り注ぐように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
輝かんばかりのこの夜に!
みなさんの願いが天に届きますように。
GMコメント
輝かんばかりのこの夜に。壱花です。
カムイカグラから幻想的な夜をお届けします。
●迷子防止のおまじない
一行目:行き先【1】~【3】
二行目:同行者
同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名+人数の数字】or【名前(ID)】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。
【1】オリジナル天灯を作る
紙の色を変えたり、白地に絵を描いたりとオリジナル要素を強めた天灯を作成出来ます。赤・黄・緑・桃色の紙に変えることが可能です。
天灯が売られているお店の横に作業スペースが設けられており、そこで筆や絵の具を借りて作業することが出来ます。
【2】天灯を上げる
会場内で決められた打ち上げスペースにて天灯を上げることが可能です。湖の畔です。
一定数の人数が揃うと「せーの」と皆で空へ放ちます。
一斉に放たれる灯りが黒い夜空に浮かんでいくさまは、とても美しいことでしょう。
【3】屋台を楽しむ
焼き鳥、焼きそば、焼きもろこし、りんご飴……と言った、縁日で食べられそうな食べ物の屋台があります。もつ煮や豚汁といった温かなものが人気のようです。
日本酒等も売られていますが、お酒は20歳から。UNKNOWNさんは自己申告でお願いします。
買った飲食物を手に、空に浮かんだ天灯を見上げて楽しむことも出来ます。
●天灯
竹で枠を作り、そこへ大型の紙袋を被せた構造で、竹枠の中央に油を浸した紙を固定して火を点けることによって上昇するランタンです。
会場では主に白い紙の天灯が売られています。大抵の人は白いのを購入し、願い事を書くくらいですが、紙色を変更したり絵を描くことも可能です。
●ご注意
公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。
●NPC
弊NPC、劉・雨泽(p3n000218)がウロウロしています。
刑部卿(鹿紫雲 白水)は自宅で家族サービスがメインイベントなので居ません。
それでは、佳き夜となりますように。
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