シナリオ詳細
<DyadiC>怒りの狂気が包む高原
オープニング
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幻想南部に、オランジュベネ領と呼ばれていた高原地域がある。
かつて、オランジュベネなる貴族が栄華を誇り、没落した地だ。
そこで、イオニアス・フォン・オランジュベネなる魔種が暗躍している。
イオニアスとイレギュラーズとの関わりは、砂蠍事件にまで遡る。
魔種に転じて<ジーニアス・ゲイム>で挙兵後、敗走。
逃れたイオニアスはこの地で力を蓄え、この度、一連の<薄明>に類する事案が……暴れ狂う人々、魔物による事件が頻発するに至ったのだ。
イオニアス・フォン・オランジュベネが巻き起こした兵乱は、イレギュラーズの活躍により一時的な沈黙を得ている。
しかし、イオニアスはその敗戦後も各地へ兵を派遣して打開の機を模索していたのだった……。
●
ローレットに多数並ぶ依頼書。
それは、幻想南部の高原に兵を集め、力を蓄えているイオニアス・フォン・オランジュベネを始めとする、兵士達の討伐依頼だ。
「現状、イオニアスは態勢を立て直しつつあり、各地から結集した手勢によって北伐を警戒しているようです」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が集まったイレギュラーズ達へと繰り返し説明を行っている。
魔種であるイオニアスに、万が一にも勢力圏を築かれるようなことがあれば、『滅びのアーク』が大きく増加することは想像するに難くない。
「ただ、イオニアスの影響力はイレギュラーズの皆さんの活躍もあって、大幅に低下しています」
ここで、完全に叩き、兵士達を個別に叩きつつ軍勢を倒し、イオニアスを討ち取りたい。
この軍勢は呼び声のキャリアーであるイオニアス麾下の兵士長に率いられて統率されている。
「ですが、イオニアスの能力低下により、その統率自体が乱れつつあります」
彼らはイオニアスの本隊と合流後、全軍をもってテレーゼ・フォン・ブラウベルクのブラウベルク領を皮切りに、王都目掛けて北上を始めるつもりだ。
「軍勢が集まるのは、『血の古城』と呼ばれる場所です」
オランジュベネ領の各地に出現する小規模の軍勢がそこへと進撃しているので、各個撃破してほしいというのが現状ローレットに貼られている大多数の依頼だ。
「ただ、皆さんにお願いしたいのは、すでに血の古城近くに集結した軍勢の討伐なのです」
高原にはすでに、200くらいの軍勢が集まっており、それらが中央と左右に分かれ、展開している。
他所からの軍勢が集まるまでの時間稼ぎを行っているようだ。
「左右の部隊には兵士長クラス、中央にはそれ以上の魔種が軍を率いています」
中央は、ゴリラのようになり果てた魔種サロモンがおり、ヤギ魔人なる魔物と男女軽装歩兵を従えている。
左翼……ローレットの進軍方向から見て右手側に展開している部隊は部隊長オスモを筆頭に、男性兵士と魔物犬で編成されている。
右翼……ローレットの進軍方向から見て左手側は、部隊長エステリを筆頭に女性兵士と魔物烏とで編成された部隊だ。
「軍勢は説得が聞く相手ではありません。狂気に侵された一般人は一度倒す必要があります」
その上で、魔種と部隊長2名を討伐することで、兵士達は瘴気を取り戻すことだろう。
また、魔物達は今後のことも考えて、出来るだけ倒しておきたい。
「……とまあ、状況はこんなところです」
敵の数は多いが、こちらも数で圧倒し、一気にこの軍勢を攻め落としていきたい。
そうすることで、『血の古城』にいるイオニアスをより攻めやすくなるはずだ。
「どうか、皆さんの力をお貸し願いいたします」
一通り説明し、アクアベルは頭を下げてこの大規模戦への参加を依頼するのである。
- <DyadiC>怒りの狂気が包む高原完了
- GM名なちゅい
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年09月30日 23時45分
- 参加人数101/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 101 人
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参加者一覧(101人)
リプレイ
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幻想南部にある高原地域。
そこはかつて、オランジュベネ領と呼ばれていた場所。
この地へと逃げ込んだイオニアス・フォン・オランジュベネ。
彼を護る為、狂気に侵された多数の軍勢が集い、イレギュラーズ達を迎え撃たんとしている……。
イオニアスの軍勢は魔種へと堕ちた兵士長・サロモンを筆頭に、数は200ほど。
多くは狂気に惑わされた兵士だが、4分の1程度は魔物が占めている。
それらは3分割され、中央と左右に部隊を展開。
左右にもそれぞれ有能な部隊長がいる。彼らはイオニアスからも目を付けられる力量を持ち、油断ならぬ相手だ。
これに対するローレット勢。
イレギュラーズ達は別所の決戦の地にも多数のメンバーが出向き、この場に駆け付けていたのは100名ほど。
彼らもまた敵の布陣に合わせて大きく3隊に分かれ、部隊長2名、そして、魔種となった兵士長・サロモンの討伐を目指す。
●
左翼は、男性兵士と大小の魔物犬で編成された部隊。
堅さと力強さだけでなく、魔物犬が駆け回って兵士を援護してくる。
部隊長は、軽装鎧に両手剣を扱うオスモ。
呼び声のキャリアーとなっており、他部隊なら兵士長クラスの武人である。
「イオニアス……彼を信じてついてきた者もいるのですね」
P・P・Pは思う。
イオニアスはもっと周りに目を向け、その信を受け止めていたなら、このようなことは起こらなかったのではないか。
だが、今となっては詮無き事。今は彼らを撃つべく、P・P・Pは自身が動くべきタイミングを待つ。
左翼の攻略の為、ラムレイに跨った騎戦乙女姿のイーリンを中心として【騎兵隊】を編成し撃破に当たる。
こちらの部隊は大砲を持つ重装歩兵こそ脅威だが、陸戦のみかつ鈍重さを欠点とし、機動力を生かした戦線崩壊を目指す。
「大義無き兵何するものぞ! 行くわよ! 『神がそれを望まれる』!」
「真秀」を掲げたイーリンは部隊を統率し、紫苑の魔眼・紅蒼で敵陣を見つめて先陣を切る。
そのイーリンの補佐には、簡易合図を仕込んだ2体のハムスター型ファミリアーを操る随伴騎兵のリトルがつき、情報の収集、統轄に動く。
ハムスターの片方は、男性兵士になりすましたエマへ。
「えひゃひゃ」
何食わぬ顔で伝令をこなす彼女は、オスモの居場所を始めとした情報を馬の骨ことイーリンへと流していく。
もう片方はシャルロッテにつかせ、得た情報を伝達する。
「待ちの戦法だね。一気にやってしまおう」
シャルロッテは情報整理だけでなく、研ぎ澄ませた感覚と戦略眼で敵の狙いをイーリンやアトに伝える。
さらに、高空にはェクセレリァスが飛行し、相手大砲が届かぬ位置から右翼を視察する。
そんなメンバー達の情報を集めつつ、アトも閃緑の目で敵を観察していて。
「部隊長を固める重装歩兵の脇を駆け抜けよう」
アトはフレアガンで示し、突撃ポイントをイーリンへと示す。
さて、部隊は左翼側面へと大きく迂回していた。
敵陣は素早く動けぬ為、魔物犬を前に出して出方を窺う形だ。
この作戦で大きな役割を果たすのは、ウサビッチの駆るチャリオット。
「うぅ……責任、重大……!」
自らの反応、機動力を十分に生かし、チャリオットに乗せた歩兵メンバー達を敵陣へと送り込む。
その際、軍馬で伴走する彼者誰がウサビッチの防衛に当たり、飛んでくる矢や銃弾、魔法から守る。
「絶対に、皆を送り届けるんだね!」
景気づけに某世界ロシア民謡を口ずさむウサビッチは一足早く、射撃戦を行うメンバーのみ降ろす。
まずは、射撃戦。
青い灯火を揺らめかす武器商人が高原に降り立つ。
「さァ、キミ達に破滅を持って来たよ。ほら速く殺さないと大変だ。――手遅れだけど」
左翼の敵を引きつける武器職人を起点として、皆一気に範囲攻撃を繰り出す。名付けて「商人ボム」戦法だ。
黒翼の天使の姿をとるレイヴンは敵上より、破壊のルーン『H・ハガル』を降り注がせていく。
爆撃を浴びる武器商人から、距離をとるヴォルペが顔を顰めていて。
(特性を生かしたとはいえ……麗しの銀の君を爆撃に晒すなど)
さらに、攻撃は続き、カタラァナは歌うのは、夢見る呼び声。
敵陣を呪い、魅了し、少しずつ布陣を乱していく。
それだけではなく、高空のェクセレリァスも疑似使い魔を生成し、敵陣へとナノマシンと液体金属を散布していく。
さすがにメンバー達の攻撃もあり、武器職人もパンドラの力で倒れぬようにと堪えていたようだ。
敵陣がやや混乱する中、態勢を崩さぬ敵兵士へとノリア、ラースが接敵していた。
少ない数で飛び込めば、それだけで魔物犬や軽装歩兵が集まる。
ノリアは何もせず、敵の視線の高さを揺らめくのみ。
挑発と受け取った相手が攻撃に対し、ノリアはアナゴの毒の血による反撃を行うのみだ。
同行するラースも防御態勢のまま、敵を引きつける。
「力不足は重々承知。それでも出来ることから少しずつやっていくのさ」
そうして群がる敵を足止めし、ラースは騎兵隊の本隊が車での時間を稼ぐ。
しかし、それも僅かのこと。
リトルのファミリアーが飛び、騎兵達が前に出て一層敵陣をかき乱す。
「私の名はレイリー=シュタイン! 私を止める者はおるか!」
ゴーグルを装着して軍馬を借るレイリーが敵陣に呼びかけて囮となり、不動の構えをとる。
馬を駆るアトもここで攻撃に出る。
「横面ひっぱたかれる覚悟はあるかい?」
範囲攻撃に崩れかけた兵士達へ、アトは火花飛び散る銃弾を十三騎兵へと浴びせかけていく。
「悪いことは言わない、大砲とか投げ捨てて逃げたほうがいいんじゃないかな!」
だが、敵も指揮官がまだしっかりしているのだろう。態勢を立て直し、まだ無事な魔物犬が大きく口を開き、軽装歩兵が槍で応戦してくる。
「さあ──Step on it!! 貫け! 私の! ハーロヴィット!!」
ウィズィも敵陣を乱す為に叫びながら突撃し、群がる敵へとナイフを投げつけていく。
すでに幾度か仲間の攻撃を受けた敵もおり、重装歩兵すらも崩れ落ちていたようだ。
「誰も、死なないで……」
ラムレイを駆るアルヴァは機動力を生かして敵を撹乱しつつ、この場のメンバー達に勇ましい戦いぶりを見せつけて士気を高めていく。
射撃戦後、シュラも壁役メンバーが引きつけた敵へと飛び込む。
「今回は最初から、本気の全力でやらせて頂きます!」
彼女は大剣による乱撃を叩き込み、群がる魔物犬を一掃していく。
「魔種になっても領土争いなんて……」
へラオスに跨るミルヴィは反転してしまったイオリズムに合わせてニアスのことを考えながらも、イレギュラーズを讃える歌を歌う。
この馬鹿な戦いを終わらせる為に。
ミルヴィは近寄ってくる軽装歩兵を、馬に乗ったまま蹴り倒して見せたのだった。
続き、チャリオットに乗っていた歩兵達が追撃を繰り出す。
魔書の断章を舞わせたイーリンも自ら飛び込み、砲撃を行う兵士を重点的に魔力で満たされた戦旗を叩き込み、倒していく。
「命に代えても護るから、覚悟してくれよ。我が麗しの銀の君」
ヴォルペは真っ先に武器商人の元へと近づき、カバーを行っていた。
「あ? ……やっべぇ。ここどこだよ」
そこに、紛れ込んでしまったペッカート。
とりあえず、死なないようにと、ペッカートは傷つく周辺の仲間達へとスマートスピーカー的な何かから流れる曲で癒やしを振りまいていた。
傍でシャルロッテが軍師のエスプリを働かせ、この場の仲間達への支援を始めると、ねねこも大声で叫んで。
「危なくなったら下がってください! 回復しますからね!」
神子饗宴を使い、仲間達を強化していく。
「チャリできた!」
鈴音もポーズ取り、兵士と戦う仲間達を勇気づけつつ支援を行う。
「珍しく、戦場ではない本物の戦場にいますねぇ」
智子も必要に応じて先行していた仲間達の回復に当たっていたのだが、重装歩兵の飛ばす流れ弾が彼女へと直撃する。
思わぬところからの攻撃に倒れる智子。
リアナルが近づいてくる敵を撃ち抜き、そいつを沈めてしまうが、智子が目を覚ます様子はない。
それを察したエポナに乗るウィートラントが彼女を回収し、チャリオットへと運んでいた。
チャリオットは敵中央部隊と接触する前に反転し、再び敵陣左翼へと突っ込んでくる。
「敵が包囲してくるよ」
「一時撤退だよ」
カタラァナの呼びかけも合わせ、シャルロッテが指示を出すと、ラースがランプを振って警告する。
その合図を受け、歩兵達が戻ってきたチャリオットへと乗り込んでいく。
さすがに無茶が過ぎたのか、前線からは離脱する武器商人は、目星をつけた必殺付きの兵士達へと色球を投げつけて目印とする。
「チャリがくるヨー!」
鈴音も周囲を統率しつつ、歩兵達へと乗り込むよう促す。
「やはり、必殺持ちが紛れていたか」
空を飛ぶレイヴンは仲間の退避を確認し、不可避の雹で敵を爆撃していく。
そこを通り過ぎる騎兵隊。
ギアチェンジしたアルヴァが魔物犬を爪で薙ぎ払って止めを刺し、ウィートラントもオーラの縄で仲間を狙う兵士を拘束してしまう。
「やはり、ただの雑兵共ではつまらないでごぜーますね」
些か、ウィートラントは歯ごたえのなさも感じていたようである。
殿のミルヴィは仲間が残っていないか確認。
ウサビッチは後ろを走る彼者誰と共に、チャリオットを走らせて一時戦線を退避していくのである。
●
右翼は、女性兵士と大小の魔物烏で編成された部隊。
身軽さ、俊敏さと合わせ、烏が空からも立体的に襲ってくる。
部隊長は、エステリ。こちらは武器情報不明で、オスモと同じく右翼側の呼び声のキャリアーで、兵士長クラスの武人である。
そんな右翼と立ち向かうメンバー達。
「……まるで……暴徒の集まりみたいだね……」
ただならぬ怒りを感じるグレイルにとって、幾度目の戦場だろうか。
「狂気に当てた人間を駒として使う、って卑怯だよねぇ」
政宗は彼女達の命を枯らすのは、決して許されざる行為と断じる。
「呼び声って、魂狂っちゃうんでしょ? やだなぁ」
なんとかしたいマリリンだが、まだ新人の彼女は自分にできることを頑張ろうと意気込む。
「イオニアス……堕ちた貴族」
ティリーは幼少時、以前の彼の名声を耳にしていたそうだが、反転後は形振り構わぬ外道に成り下がったようだ。
「……同じ貴族として、見過ごせないわ」
これ以上、命を無駄に散らせるわけにはいかない。
とはいえ、これだけの人数での戦いだ。
ソフィリアにとっては、初めての混沌での戦い。
味方が多いから寧ろお勧めだと参加したが、さすがにこれだけの大規模戦に面食らった様子。
「全く、物理的にも骨が折れそうっスね」
とはいえ、やるしかないと、葵も気合を入れる。
「必死の状況における命の輝き、素敵です!」
戦いは物語の華の一つ。きっと盛り上がることでしょうと四音は語り、些少だがその手伝いができればと馳せ参じたようだ。
「皆さんで頑張りましょうね?」
それに応じたカンナもこの戦いを大層な祭りだと実感しながらも、自身の仕事をと身構える。
「さぁ、参りましょうか……!」
向かい来る敵に対し、右翼側のメンバーは徐々に敵に近づいていくのである。
接敵に当たり、鶫が鷹のファミリアーを高空まで飛ばし、ハイセンスを使って索敵を行っていた。
「扇形に展開しているね。サイドからでも行けそうよ」
それを伝えるのは、部隊長エステリ狙いの小隊【ルシアン】のキドーだ。
「【一筋の残照】が道を作ってくれる。突っ切るぜ!」
キドー含め、【ルシアン】のメンバーは7名。
魔種の影響を受け、悪を象徴するように布陣した配下の数々を食い止めねばとポーことノースポールが語り、ルークことルチアーノが言葉を返す。
「対するならば、ポーや皆は、ヒーローかな?」
「ルークも一緒に戦うんだから、ヒーローだよ!」
2人もそれぞれ強い想いを抱いて戦場を駆けていく。
【ルシアン】が通る為の道を、【一筋の残照】として名乗りを上げた面々が切り拓く。
「先に烏が向かって来てるッス」
2体の鴉を使役するクローネが仲間達へと伝えると、【一筋の残照】メンバー達はソロ参加者と協力しつつ、兵士や烏の討伐に当たる。
「”魔”を闇で葬る!」
とにかく敵の数を減らそうと、ユーリエは烏達を闇の霧へと包み込む。
同行のエリザベートもまた烏が襲い掛かってくる前にと、赤い鎖を伸ばして烏どもを炎や毒で苛んでいく。
「唸れ、オイラのガトリングIWASHIボム!」
背負ったガトリング砲からイワシ型爆弾をワモンは発射し、降下しようとしていた数体を纏めて爆撃していく。
相手の麻痺引っかきを警戒するニーニアは、烏を纏めて冷却していく。
「……僕たちは……道を開かないと……」
戦ううちにソロ参加メンバーも加わり、グレイルは烏の羽根が凍らないかと、不可視の雹を落とす。
一部羽根を凍らせていたが、さほど成功率も高くはない。
眼力で敵の動きを見定める鶫が強烈なビームを発して烏を撃ち抜けば、ピットも散開し始めた敵に自律自走式の爆弾を投げつけて。
「ただのトリ風情に、この俺の攻撃が見切れっかよ!」
爆撃したピットは見事に、烏を黒焦げにして撃破していた。
女性兵士達も接敵してきている中、クローネは疫病のようなものを振りまいて烏達に異常をもたらしていく。
「落とせるとこは落とすべきっス」
葵は弱った烏目がけて、黄色い流星マークが描かれたボールで無回転シュートを叩き込んで撃ち落とす。
後方からはフォルテシアが攻撃を重ね、弱っている烏を見定め、不吉な囁きで惑わせて体力を奪い去っていく。
敵の撹乱に動いていたマリリンもまた落ちてきた烏が再度羽ばたく前に、スープレックスで地面へと叩きつけて倒していた。
魔物烏を攻めるのと同タイミング、駆け込んできた女性兵士達もの応戦に当たる。
「この数……一人では如何とも」
そう考えるカンナは他の仲間と足並みを揃え、毒霧を発していく。
剣を持つ兵士に対し、予め敏捷性を高めたフィーアは手を抜きすぎぬ程度に殴り掛かる。
「多少手荒でも、止めさせて貰う!」
狂気に惑わされた女性兵士へ、政宗は殺傷の霧を振りまいて体力を削っていた。
「出来るだけ殺さないようには心掛けるが、悪く思わないで欲しい」
低空飛行するマテリアは魔力を高め、こちらも殺傷の霧を展開する。
「操られているだけの敵兵を倒すのは、少々心苦しいですが……」
ただ、国の危機とあらばやむを得ない。レリアもオーラの縄で、剣を振るう兵士を縛り付けていく。
しかし、飛んでくる矢、弾丸へと立て続けに射抜かれ、彼女はパンドラの力に頼らざるを得なくなっていたようだ。
「……一人で行動しなければ大丈夫、だと思いたいのです……」
仲間を意識し、相手を威嚇するソフィリア。
合わせ、命を大事にとソフィリアは異常回復にも当たる。
「押せ押せゴーゴーっすよ! あ、でも無理は禁物っすよ!」
ジルも初撃以外はメガ・ヒールでの回復支援に。
傍では、多人数が矢や弾丸を受けていたのを確認した四音が天使の歌を響かせていた。
「生きて帰れなければ――何の意味もありませんから」
そんなカンナの言葉に頷くティリーは、自らの実力不足を再認識しつつも、貴族としての矜持を抱いて背水の構えをとって。
「だから、部隊長までの道を拓きましょう」
覚悟を決めたティリーは魔弾を発し、軽装鎧を纏う女兵士を撃ち抜いていく。
その頃には烏側が数える程にまで減っていたが、女性を相手にしていたライムは首を傾げて。
「女の人も一緒に溶かして食べちゃってもいいですかー?」
ちょいちょい魔物を食べていたらしいライムは、さすがに仲間に止められていた。
そんな彼女は召喚物に攻撃を託し、女性兵士を無力化していた。
【一筋の残照】を中心としたメンバーが道を切り開いたことで、【ルシアン】の面々も前進して。
「近いのじゃ!」
召喚した鳥によってデイジーは戦場を俯瞰し、部隊長エステリの場所を確認していた。
「……イオニアス様に楯突く愚か者ども」
鋭い視線を向けてくる部隊長エステリは細剣を抜き、歩み寄ってくる。
ほぼほぼその配下は【一筋の残照】やソロ参加のメンバーが抑え、あるいは撃破しており、この場の7人はエステリの相手に専念する。
「よう別嬪さん。やっと会えたな」
キドーが声をかけるように、レディはもてなすべきなのだろうかとサンディは考えて。
「ならまー、俺もまだまだガキってところか」
ただ、それは相手が普通のレディであればの話だ。
「この人、いやな感じがする」
事情はルルゥには分からぬが、やっつけねばならぬ相手と認識したようだ。
その間、ノースポールは相手の能力を感知していく。
「素早さを活かして攻めてくる敵だよ」
首肯して応じたキドーが改めてエステリへと問う。
「知ってるか? レディキラー・カクテルって奴」
相手は応じないが、見た目や名前は軽く飲めるようで、その実アルコール度数の高い酒のことだ。
「俺らを甘く見んなよ」
そんなカクテルの一つ、【ルシアン】の名を冠したチームメンバーは、女部隊長目がけて仕掛けていくのである。
●
中央は、この全軍を率いる兵士長サロモンが部隊長も兼ねている。
単純な数では、左右よりも少ない。
従える男女の軽装歩兵もまた左右の兵士と変わらぬ力だが、それを埋めて余りあるのが後方、ヤギの頭と下半身を持つ人型の魔人達だ。
悪魔を思わせるそれらの魔物は後方から瞳を光らせ、不気味さを感じさせる。
ともあれ、まずは、敵の軍勢を倒す為、チーム【破軍】を編成するメンバーが中心となり、立ちはだかる狂気に捕らわれた兵士達の討伐を目指す。
「自分の故国である幻想で、血を流すのはもう沢山です」
シフォリィは怒りに身を任せる敵部隊を、血を流す連鎖を必ず止めようと仲間達に促した。
「何にせよ、中央は私達次第かしらね、行くわ」
向かい来る敵兵士達をアリシアも仲間と共に迎え撃つ。
男女の兵士はいずれも身軽さ重視で、遠近をこなす。
「ですが、重装歩兵の火力と硬さがなければ、魔術を使う者もいません。
鴉のファミリアーを飛ばし、エラが敵戦力を分析する。
「怒りの狂気とは大仰なものですが、民の方がよほど起こる道理があるはずです」
「滅びに繋がるものを絶つお手伝いが、望まれています」
珠緒も自陣の損害を一気でも抑える為、指し手にならんとする。
「珠緒さん、頑張りましょ!」
蛍は鳥型ファミリアーで中央戦線を俯瞰し、戦況把握。
そして、情報共有した珠緒が視界内はハイテレパス、視界外には少女型ロボットすずきさん、こじまさんを伝令へと走らせていた。
こちらも、ファミリアーの鳥を上空に巡回させるハイネ。
彼女は得た情報を逐一、ラルフへと伝えていく。
「怒りの狂気とは幼稚な物さ」
応じるラルフ。だれしも人は怒り、制御する術を学ぶが、狂気となったこの様は滑稽だと語る。
ともあれ、まずは敵を減らす必要がある。できるなら、人間兵は救助したいところ。
多数を倒したいところだが、ラルフはスキルの用意ができていなかったらしく、魔導拳銃を発砲させて出来る範囲で向かい来る兵士を倒す。
「切った張ったの大勝負と行こうじゃねえか」
義弘は剛腕を振り回し、人間兵士を張り倒していく。
前に出た自身に兵士が集まれば、義弘の狙い通り。
「なぁに、鉄砲玉は慣れてらぁ」
もちろん、生きて帰ることも含め、義弘は戦場で荒ぶり、その身一つで戦い続ける。
高い防御技術で敵の攻撃を止め、ニャンジェリカは向かい来る兵士達に膂力でカウンターを叩き込もうとする。
「不殺で行くから、痛いのは我慢しろニャ」
慈悲を帯びた一撃で、ニャンジェリカは女兵士を沈めていく。
ただ、高い防御に頼りすぎるきらいのある彼女は遠距離から狙撃してくる敵の攻撃に対処できず、矢と弾丸に撃ち抜かれてしまい、パンドラの力に頼ってしまっていた。
「遠距離、任せて」
セフィは遠距離に徹する敵を狙うべく、破壊のルーンを描いて見えない氷の塊を落としていく。
「怒りか、我にも覚えのある感情よ」
シュラインは後方で敵を引きつけようとするのだが、その前に仲間と攻撃に合わせて自律自走式の爆弾を投げつける。
後方を狙えば、前線攻撃に切り替える敵もいる。
近距離まで兵士が攻めてくるのであれば、シュタインもまた熱い護りで自らの後方の仲間を護ろうとしていたようだ。
「雰囲気悪いデスねぇ……空気一掃しましょうかぁ♪」
自らの立ち位置が孤立していないことを確認し、美弥妃は自らの不運によって、近場の敵を引きつける。
「挑む彼らの英雄譚を後に語るのが私の役目」
Lumiliaは敵を引きつけこそしないが、チームの壁となりながらも、フルートで英雄のバラッドを奏で、近場の仲間達の強化へと当たる。
そんなメンバーに近寄り、切りかかってくる兵士目がけてアリシアは自らを強化しながら接敵し、紫電の魔力で形成した魔法刃で兵士達を切り裂いていく。
一方で、敵陣の中で、陣地構築を行っていたのはアニーヤだ。
彼女は矢盾、馬防柵、盛り土など、バリケードを築いていく。
倒れた味方を収容するだけでなく、アニーヤは時折老ロバのアスラに運搬を頼み、倒れた兵士をその陣地へと引き入れていた。
その運搬には、パティリアも協力する。
仲間が倒した兵士へと紐状の触手【海星綱】で一気に近づくパティリアは、その触手を要救助者へと巻き付けて引っ張っていく。
近づいてくる敵には、パティリアはほとんど興味を示さず。
「申し訳ないが、貴殿の相手は拙者ではないでござるよ!」
ガチの殴り合いはまた今度と、パティリアは速力を活かして切りかかり、その場から退避していくのである。
依狐はアニーヤの行う運搬手伝いも意識しつつ、式符を飛ばして歩兵を少しずつ弱らせている。
攻撃に集中しながらも、依狐は気力を気にして魔弾に切り替えつつ、回復の為の気力を残すようにとあれこれ考えながら戦っていた。
ほぼ回復、支援に専念するメンバーも多い。
その依狐と同じ位置にいるエラは情報伝達に当たりつつ、近場の仲間に強化を施しつつ、回復を続ける。
「ふふーふ。相変わらず戦場は乱戦を極めてますねえ」
オーガストは部隊には所属せず、バラードを響かせて味方を包み込み、邪なる力から守っていく。
あとはやはり前線メンバーに傷が集中する為、そちらの体力、異常回復と忙しい。
息つく暇もなく、支援だけでも大変な役回りにあたりつつ、オーガストは頑張ろうと気合を入れる。
「ここまで敵を追い詰めたんだ。負けるわけにはいかないね」
ラナーダもメガ・ヒールと超分析を繰り返す。
攻撃に当たりたいところだが、敵の数が多ければそれだけ仲間達も傷ついてしまう。
できることをしっかりやれば。
だからこそ、ラナーダの手を留めることなく、回復に尽力していた。
大地も仲間達の回復を行うのだが、炎天下でも咲く花の名を冠する「花滑りひゆ」を使い、仲間を癒す。
気力は充填もあって十分。大地は時に敵前衛目がけ、アネモネの幻影を敵に見せつけ、立ち塞がる兵士を倒してもいたようだ。
そんな大地もそうだが、敵陣に風穴を開けようとする者達もいる。
「戦……ただそれだけで、拳を振るう理由に、足りる」
大物狙いで、後続として控えるメンバーを凱が意識していて。
道を切り開く為、凱は仲間の支援と自らのアドレナリンを全開にして兵士長への道を塞ぐ兵士達を優先して殴りつけていく。
シフォリィも兵士長サロモンを目指し、攻撃をと考えるが、その前にいる相手を、妖刀を手に衝撃を伴う一突きを浴びせて前方の敵を吹き飛ばす。
タイミングが合えば、シフォリィはまっすぐに、誇りをもってして、妖刀を一閃させる。
それに見とれて敵が呆けてくれれば、仲間には十分助けとなるはず。
「私に倒すだけの力がなくとも、助けになるだけの力はある」
倒すのは他の人に任せ、シフォリィは仲間の助けとなるべく剣を振るう。
「諸君! ゴッドである!」
エネミーの数を危険視する豪斗。
彼はこの場のイレギュラーズ達が全力を発揮することを期待して。
「ゴッドはユー達と共に在る! 己をビリーヴ! 迷うことなくゴーイングせよ!」
豪斗は仲間を鼓舞して回復するだけでなく、接近してくる者にゴッドオーラを発して倒していく。
そして、グランツァー。
「周囲を狂わせ、魔種に堕とすとなれば、もはや人の営みとは言えませんよう」
イオニアスが足掻いたからこその戦いだが、周囲すら巻き込み魔種に落とすとあれば、その在り方を許容などはできないとグランツァーは考える。
最後列にいる彼は高原にいる大地の精霊様へと呼び掛け、陣地を築いて大地を隆起していく。
それにより、グランツァーは兵士長、魔人と兵士を分断してしまう。
「何!?」
そんな叫び声が聞こえてくる。おそらくは兵士長サロモンの物だろう。
隆起する大地の向こう側には、こちらの隙をついて向かって来ていたヤギ魔人が足止めを食らっていたようだ。
敵の不意を突いたことで、魔人、兵士長を狙うメンバー達もかなり敵陣深くまで攻め込みやすくなったようだった。
●
左翼は再びチャリオットが敵陣へと突撃し、奥にいる部隊長オスモの攻略を開始する。
彼は数名の歩兵達に囲まれ、指揮を執っていた。
「一体どうなっている!?」
完全に布陣を見透かされた上、統率力が低下しているのを感じていたオスモ。
その周囲には、あちらこちらの兵士達へと語り掛ける者の姿が。
ローレットの騎馬隊が次どこから来るのか。
それを別方向から接近するようエマが流言していて。
「えひゃひゃ!」
オスモの位置さえわかれば、こちらの物。後は離脱あるのみと、エマは身を引いていく。
「指揮官は動かないね」
「重装歩兵に守りを固めさせているようだね」
一旦、高空に移動したェクセレリァスの言葉に、シャルロッテも主観を交えて仲間に告げる。
地上を駆ける深紅の戦乙女とその旗。
「ふむ……すっかり、書庫騎兵隊の航空戦力として板についてきたな」
それを確認したレイヴンは小さくぼやき、砲撃を行う重装歩兵を神弓で射抜いていた。
「司書、今度は敵布陣の中央目がけて突撃だよ」
そこで、仲間達の情報を総合させ、アトが指針を出す。
先程の侵攻で敵は部隊を再編成しているが、エマの誤情報もあって、総崩れのはず。
「今が好機、行くわよ!」
仲間からの情報を合わせ、イーリンが突撃の合図を出すと、先程同様に射撃戦メンバーから攻撃を開始する。
カタラァナが夢見る呼び声で敵陣を撹乱し、上空のェクセレリァスが今度は敵指揮官の周りにいた重装歩兵目がけて対神波動砲を発し、沈黙させていく。
再度、リトルがファミリアーを動かすと、再び、ラース、ノリアが向かい来る魔物犬の引きつけに当たる。
ラースは完全防御態勢で何とかやり過ごしていたが……。
「わたしが止めを差される前に、この隙を突いてくださいですの」
態勢を整え直していた兵士、魔物犬に囲まれるノリアは反撃でダメージは与えるが、さすがに体力も厳しく、パンドラの力を行使する。
そこに近づいてくるチャリオット。
邪魔な敵をウサビッチが力を行使して素早い斬撃を見舞う。
そこに飛び掛かる魔物犬へ彼者誰が接敵し、衝撃を与えて吹き飛ばしてしまう。
「ja junge Dame! 貴女を守ることが皆さんを助けることになるのであれば俺は喜んでこの身を燃やしましょう!!」
「誰者彼、守るのはうさだけじゃないんだ、皆なんだね!」
そんな執事としての仕事を全うしようとする彼者誰へと、ウサギッチが諭していた。
前方に見えるは、部隊長の姿。
ただ、その周りにはまだ兵士と魔物犬の姿が残っていた。
必殺持ちが残っていることで、ミルヴィがそれらの敵の囮役を買って出る。
集まる敵を抑えるミルヴィが傷つけば、すぐにねねこが近づいてヒールグレネードを投げつけ、破裂する癒しの力でその傷を塞ぐ。
目立つよう色を付けていた武器商人も、遠距離から狙って力を封印してしまう。
その周囲にはしっかりとヴォルペが付き、庇いに当たっていた。
近づく敵には、ペッカートが自らの影を操り、魔物犬を背後から斬りかかっていく。
ここにきて、P・P・Pは仲間のコンディション維持の為に超分析を。
さらに、気力の尽きかけた仲間達へと声援を贈る。
「このような事を一刻も早く終わらせる為に」
声援を耳にした1人、レイリーは名乗りを上げ、後続の仲間に呼びかけた。
「さぁ! 先に行け! この先に私達の勝利があるぞ!」
「ふっ、生きて帰るまでが合戦だァー!」
士気を高める仲間達。
活を入れる鈴音もオスモの前に出て防御態勢を取り、仲間の統率の力を働かせて力を高めていく。
「邪魔者は皆、排除だ……!」
怒りを漲らせるオスモが接敵してくるのに合わせ、周囲に異常攻撃をバラまいていたウィートラントがつぶやく。
「少し違うでありんすね……」
感化されて歪んだ意志。それは己のものとは言い難い。
だが、それをぶつけようとしてくる敵をここで止めねばならない。
「止むをえませんね」
倒すべき部隊長が猛然と襲い来るのを確認したアルヴァは、加速しながら爪を振るう。
「立ち塞がるなら容赦しない!」
仲間と共に、ウィズィもナイフを投げつけていき、周囲の兵士ごと相手を委縮させようとする。
怯んで吹っ飛ぶ部下の中、踏ん張るオスモ。
そいつ目がけて、シュラが高めた闘気を纏わせた紅蓮の大剣を思いっきりぶつけていく。
「ぐうっ……」
これまでの範囲攻撃のダメージはオスモにも蓄積しているのだろう。
そこで、オスモを回復しようとする術士の存在をシュラが確認する。
「砂駆、お願いあそこへ! 一撃で仕留めて戻るよ!」
彼女は急いで突撃し、その術士を大剣で切りつけ、昏倒させてしまう。
「まだだ、まだ……!」
しかし、そいつは狂気をこの場に振りまき続け、混沌の住民を惑わせる。
「仲間が原罪の狂気に侵されるなら……守って見せる。……未来を」
今度は、そいつへとリアナルが近づいて。
可能性の奇跡さえ願うほどの覚悟を抱き、リアナルは魔弾を発してオスモの体を穿つ。
「あ、あぅ……っ」
白目を向いて崩れ落ちるオスモ。
それと同時に、左翼の兵士も皆、意識を失ったのだった。
その後、左翼で残る魔物犬を討伐し終えた一行。
事後処理の中、ェクセレリァスは右翼側の援護へとすぐに回る。
一方で、船上に迷い込んでいたペッカートは、この場を離れていたようだ。
「大丈夫。人は案外死なない物ですから♪」
ねねこはというと、重傷を負った智子へと応急処置へと当たっていたようだった。
●
右翼は既に、ほぼ魔物烏を撃破していて。
残るは女性兵士がほとんど。その数を減らすべく、グレイルは不可視の雹を戦場に降り注がせ、【ルシアン】が通れる道を作っていく。
凍った敵が武器を手放せば、マテリアもアポートのスキルで回収、破壊を考えるのだが、さすがに甘くはないようだ。
「……後ろだ」
マテリアが気付き、レリアへとテレパスで呼びかける。
狂気に晒された女兵士の力は侮れない。
少しでも助けになればと参戦していたレリアだったが、一瞬の不意を突かれて背後から斬られてしまう。
葵がフォローに入ろうとするが、数も生かして兵士達に邪魔され、コウモリ型のエネルギー弾で応戦する。
その間に素早く接近してきた女兵士に切り裂かれてしまい、地を這ってしまう。
「あっち行って下さいっす-!」
群がってくる敵に特製丸薬を投げつけ、ジルはレリアを抱えて撤退していった。
その後も、イレギュラーズは女兵士と武器を交えて。
正気を失っているとはいえ、一般卒には違いない。
弱って肩で息をする女兵士へマリリンは自慢の蹴戦を叩き込み、その場に卒倒させてしまう。
クローネまた、自らの余裕を感じるタイミングで威嚇術を放って命を奪わずに倒そうとしていた。
身軽な相手ではあるが、その分スタミナには劣る。
烏の掃討を終えたピットが魔術兵の回復術を気にかけ、致命の一撃を浴びせかけていく。
続けて、フォルテシアが不吉な囁きを聞かせて卒倒させてしまう。
倒れた女兵士が呼吸していたことを確認し、フォルテシアは安堵していたようだ。
ライムは攻撃しながら、この地にやってくる途中で使役した小動物を見下ろして。
「踏まれない様に気を付けてくださいね?」
注意を促しながらも、戦況の把握と異変察知を頼んでいた。
戦場は中央にいるはずの兵士長、サロモンが呼び声に包まれる。
「できるだけ、無事に返してあげたいよね」
ニーニアは仲間の回復へと郵便妖精を放つだけでなく、女兵士達の安否も気づかう。
正直、政宗も攻撃しながら、呼び声の影響を感じていたが、彼は懐から松葉牡丹の花飾りを取り出し、耐えてみせる。
恋人の想いを置いていくわけにはいかぬ。
自らもまた強い想いを抱き、政宗は正気を保ち続けていた。
そうしている間にも、【ルシアン】が部隊長エステリと交戦を開始していた。
素早く切りかかってくる敵に対し、その刃を浴びたキドーが集中を研ぎ澄まして相手の動きを見定める。
(BS作戦は命中が命)
サンディは風の魔術で追い風を起こし、反動を受けながらも風向きを変える。
状況が整えば、一気にメンバー達が仕掛ける。
デイジーが不吉の象徴たる小さな月でエステリを照らし、相手の運命を蝕み、さらにコルウィンが自らの周囲に浮かせたビット、「キラード・バグ」で相手を撃ち抜く。
「せいぜい気を散らしてもらおうじゃないか」
自らの能力も調整しており、物理攻撃力はかなりのもの。それなりのダメージソースになるとコルウィンも考える。
「ここから先には行かせないよ!」
前に出たノースポールは、後手に回ったこともあり、相手の動きを押さえつけ、防御に集中する。
「ポー、皆、無理しないでね」
その後ろから、ルチアーノがエステリ目がけて飛ぶ斬撃を浴びせかける。
ノースポールの前でだけは、ヒーローでありたい。
ルチアーノは彼女を護る為、目の前の強敵に挑む。
そんな頑張る仲間達を支える為、ルルゥは治癒魔術を使って。
(ぼくはまだ弱くて、癒しの力も強くないから)
それでも、できる限り神秘の力を高めたルルゥは、その身を強敵に晒す仲間達の為に力を行使していく。
その1人、キドーが今度は手投弾をエステリへと炸裂させ、毒、麻痺、窒息とその身を様々な異常へと侵していく。
敵は細剣で切りかかるが、キドーはその軌道を読み、避けてみせた。
「小細工を……!」
エステリはなおも疾風のごとき突きで、幾度もキドーを狙ってくるのである。
女兵士の討伐も大詰め。
距離をとって銃や弓、魔法での攻撃を行う者ばかりとなれば、イレギュラーズ達も接近するか、遠距離での攻撃を行う。
フィーアは自らの気力を最低限確保しつつ、全ての力を魔力に変えて発射する。
それを受けた魔術兵目がけ、ワモンも器用にガトリング銃を操り、硬質性真蛸弾を浴びせかけて意識を失わせてしまう。
兵士達の能力にさほど差はないと感じるカンナは、自らの虎の子の一撃を温存したまま、残っていた軽装歩兵を殴り倒す。
数えるほどになった女兵士。彼女達を狂気から解放すべく、自らの血を鎖となして伸ばしていく。
その身を傷つける鎖に抗おうとする女兵士の苦しみを解き放つべく、ユーリエが赤黒い鎖で追撃をかけて。
「終わらない悪夢から今、解き放ちます!」
その胴体を縛り付けられ、抗っていた女兵士は崩れ落ちる。
メンバー達はその生存を確認し、部隊長と戦う仲間の元へと向かっていく。
そして、部隊長エステリとの戦いもまた佳境を迎えていた。
多数の状態異常に苛まれ、動くのも厳しくなっていたエステリは苦しみながらもさらに加速しようと力を高める。
そいつに向け、デイジーは顕現させた邪悪なる怨霊に敵を襲わせていく。
一見、何の変哲もない攻撃ではある。
だが、デイジーはキドーと合わせ、数々の異常と合わせて呪殺の力でその体力を大きく削ぎ落とす。
しかし、エステリも部隊を率いる長だ。
一度攻撃に動けば、苛烈に襲い来る。
そこで、ノースポールが危険と察したルチアーノが前に出て全力で防御し、その一撃を凌ぐ。
「ポーの悲しむ顔は見たくはないもの。ここで必ず討ち取るよ!」
「ありがとう、ルーク……。思いっきりいくよ!」
ならばと、ノースポールも全力で攻撃に出て、短刀を銃へと変えて白く眩い一撃を撃ち込んでいった。
傷つく仲間は変わらずルルゥが回復支援に当たる。
エステリの攻撃は広範囲に及ぶこともあるが、単体狙いであることも多く、ルルゥはその度に治癒へと当たっていた。
そのさなかも、コルウィンがキラード・バグでエステリを狙い撃つ。
多少よろけた彼女が睨みつけてきたのに、コルウィンは一言。
「悪いが、本命は俺ではないのでね」
そこで、同時にキドーとサンディが仕掛けてきて。
「しかし、主に付いてった挙げ句、原罪に狂うとは……碌でも無いね」
哀れみすら見せ、キドーがエステリへと呪術をぶつけると、サンディがナイフ、リップオフを握って。
「酔いが醒めたら、デートでもしようぜ。またな、レディ」
彼は刃を浴びせかけ、狂える指揮官を倒してしまったのだった。
●
中央、敵本陣。
ゴリラのような風貌をした兵士長サロモンは、まさに魔人を投入しようとしていただけに出鼻をくじかれてしまっていて。
「陣地を作って分断を図るとは、小癪な連中め……!」
怒りの狂気にその身を堕としてはいるが、サロモンは強かであるがゆえに魔人を出すタイミングを逃してしまっていた。
しかも、余力を残す敵がこちらへと近づいてきている。
「魔人ども、人間どもを始末してくるのだ……!」
不気味なヤギの獣人を思わせる魔物達は、フォークを携えて進軍していく。
そこに到達した【魔人討伐】隊。
前方からやってくるヤギ魔人の前へとチャロロが進み出て。
「こいつらは叩いておかないとね!」
名乗りを上げ、彼は前に出ると、すかさず2体の魔人が進み出る。
壁となるのは、チャロロだけではない。
「見るからに悪の軍勢ね」
世界によっては悪魔を思わせるような姿のヤギ魔人には退場をと、アンナも名乗りを上げていく。できる限り、怒りの咆哮の影響から、攻撃役を遠ざけたいという狙いだ。
オオオオオオオオォォォォオオオ!!
実際、奇怪な声を上げてくる敵は、こちらの精神状態を大きく揺さぶってくる。
布陣を乱してくる非常に危険な相手。これが兵士戦の戦場に出ていたらと思うと恐ろしい。
「もう少し判断が早ければ、こちらが危なかっただろうにな」
シラスはサロモンの指揮を非常に危険視していた。
まさか、仲間が陣地で戦場を分断するなどと大掛かりなことをやるとは思ってもみなかったが、結果的にはサロモンの判断は誤っていたということになるのだろう。
「この俺を放っておくなんて、護衛失格だぜ、コラァ!」
ともあれ、シラスもまた名乗りを上げ、数体の魔人を自らへと引きつけていた。
「戦線に出る前に、食い止められてよかった」
天十里は陣地で分断したのは大きかったとみており、この機を逃さず一気に調子を上げる。
素早く使い込まれたアンティークリボルバーを抜いて、敵陣へとファニングショットを浴びせかけていく。
魔人は叫びの他、怪しく光らせる瞳でこちらを麻痺させてくる。
そんな面倒な相手を見据えて、ルルリアは敵の頭上を銃で撃ち抜き、展開した魔法陣から光属性の槍を降り注がせ、魔人達の体を灼いていく。
「悪魔と契約とか魔女っぽくてちょっと惹かれるけどー……破滅しかなさそうな悪魔なのよ」
相手の見た目が小物っぽいと判断したリーゼロッテはやっぱり無しと判断し、距離をとって重圧を伴う砂嵐を浴びせかけていく。
「数ではちょーっとこっちが負けてるけど、それを覆すのが魔女なのよー!」
それによって、魔人達を強く押さえつけると、シュリエも仲間達と重ねるように禍々しい黒い球体を敵へと触れさせていく。
「ふふり、悪魔だろーが呪殺は効くにゃ」
しかしながら、なかなか魔人は倒れない。中央の戦力が一見弱く見えている状況なのは、やはりヤギ魔人の強さで補っているのだろう。
「おら、テメェらは俺を楽しませてくれるんだうなぁ!?」
魔人を皆殺ししようと、ハロルドは遊撃に出ながら高速で退魔の刀を抜刀し、敵の体を切りかかっていく。
「魔種……今回も潰させてもらうよ」
そう告げるティアは、自分達がヤギ魔人を抑えていることで、【兵士長殺し】の面々が魔種となった兵士長サロモンの元へと向かっている状況だと知る。
あちらこちらでテレパスなどが飛び交っており、情報不足ということはない。
ともあれ、ティアは速攻で倒そうと、仲間達の攻撃対象を合わせて呪いを付与し、狙ったヤギ魔人を苦しめる。
そこで、魔人を殲滅するべく、ソロで参加したシュバルツが前に出て。
「かかってこいよ、ヤギ頭。てめぇらの相手はこの俺だ」
相手に呼びかけていた彼は、口を開けて苦しむ魔人へと刃を振るう。
斬撃は無数の刃となり、魔人へと浴びせかかり、そいつの命を奪い去ってしまった。
出来るだけ多くの魔人を。シュバルツは次なる魔人へと向き直る。
そいつはジェットパックで戦場を動き回るリナリナも狙っていて。
「おー、ヤギ! 狂暴で獰猛っぽいヤギの魔人! 見た目もキモイ!」
目の前のヤギ魔人達は唸り声を上げながら、盾となるメンバーへとフォークで突撃を繰り返す。
ヨシトは防御態勢を取り、そんな彼らの疲弊状態を見つつ体力が厳しい状態となるのに備えて。
「カカカッ、大丈夫か? 体調に不備は? ねぇか、なら頑張ってきな!」
豪快に笑って瞑想し、ここぞという時に備えていた。
「コイツらフォークしか持ってない!」
その時、リナリナはヤギ魔人が肉を食べないからかと一人で納得しつつ、敵の体へと謎の一撃を叩き込む。
その魔人もまた、苦しそうに息をしていて。
「やはり満たされない」
腹を空かせるショゴスはギロリと敵を見つめ、大きく口を開く。
――寄越せ、その身を。
――寄越せ、その異形を。
ショゴスは赤い瞳で敵を凝視し、己の欲望のままにそのヤギ魔人を貪り食ってしまったのだった。
●
中央での戦いもかなり倒れる兵士も増え、アニーヤの陣地にはアスラが運んできた兵士達でごった返す。
戦場を走り回る依狐は、兵士の運搬を続ける。
しかし、まだ狂気に惑う兵士は残っており、アニーヤは陣地からレールガンによって弾幕を浴びせかけていく。
そんな中、前線の美弥妃は周囲で入れ替わる仲間達の状況を見つつも、新たな兵士を引きつけ続ける。
さすがに体力が心もとないのか、彼女は天使の歌を響かせて仲間を含めた傷の癒やしに当たっていく。
こちらにやってきた豪斗も、「オーシャンにドロップしてもそのパゥワーを失いはしないぞ!」と叫び、エリクシールで美弥妃を癒していたようだ。
さすがに敵の数が多かったこともあり、前線から下がるメンバーもちらほらいる。
兵士を討伐した後は、魔人もと意気込むメンバーも多い。
そんな彼らへと、大地は花開く月下美人の香りや色で仲間を癒していく。
「ええ、この壁を迂回して進めば……」
ハイネも魔人の位置を仲間達へと伝えながらも、補給にもしっかりと当たっていた。
回復が過剰になれば、攻撃の手も増える。
ラナーダは魔弾を飛ばし、兵士の体のあちらこちらから出血させ、さらに全身を毒に侵す。
その兵士をオーガストが地面から生えた土塊の拳で殴り倒し、卒倒させていたようだ。
ヤギ魔人、兵士長の元へと【魔人討伐】や【兵士長殺し】の面々が到達したことを、蛍、珠緒がこの場で戦うメンバー達へと伝えていく。
そんな蛍が見下ろす兵士との戦いは、かなり優勢に傾いてきてはいた。
だが、被害が全くないわけではない。
キャリアーの殲滅を目指すニャンジェリカだったが、多数の敵に狙われて仲間の援護が間に合わず、戦場に倒れてしまっていた。
そんな彼女をパティリアがすかさず回収に向かい、陣地を作ったグランツァーの元へと運ぶ。
とはいえ、グランツァーが戦場を分断したこともあり、中央の兵士達に上からの指令はこない。
そんな間にも、兵士達の対処は進んで。
セフィが魔法の矢で1人を倒し、アリシアも魔力を纏わせた武器で殴りつけ、兵士を卒倒させてしまう。
そのアリシアやエラは折を見て、視界を共有して戦況を確認する。
空から見る限り、兵士達の壊滅は時間の問題となっていた。
「勝利は目前! 皆、もう一息よ!」
同じく、鳥を通して戦場を俯瞰した蛍の言葉を、珠緒のロボット達が伝令へと回っていた。
兵士達がほとんど倒れていたことで、魔人の方へと参戦するメンバーもいた。
魔人戦はチャロロ、シラス、アンナの3人が支え続ける。
狙いがそれても、シラスは相手に音によって狂気を送りこみ、しっかりと自らにヤギ魔人の注意を引きつける。
とにかく、眼光と咆哮によって、戦線を乱されるのは避けたい。
「寄ってたかって、淑女の一人も倒せないのかしら。その容姿が泣くわね」
アンナもすました顔で相手を時に煽り、魔人の理性を奪っていた。
盾役が多いこともあり、彼らが持たせている間は順調に敵を倒す。
シュタインは後衛まで魔人が攻め込んでくる可能性も考えて構えていたが、その心配はなさそうだ。
また、ハロルドもいつでも盾役とチェンジできるよう身構えつつ、聖剣で光速の斬撃を浴びせて魔人を倒してしまう。
そこへ、徐々に兵士を相手にしていたメンバーが駆けつけてくる。
義弘が特攻して髑髏の呪いを刻み込んでいくと、魔術と格闘を織り交ぜたティアがフォークを振りかざす敵を殴り飛ばしていった。
凱もまた別の敵へと殴り掛かる中、疲弊してきていた壁役メンバーと代わってLumiliaが入る。
ヨシトが体力の削れたチャロロへと回復術を振りまくと、彼は意志抵抗力を破壊力に変え、一気に相手の体を切り裂いて仕留めていった。
徐々にこの場の人数が増え、時を追うごとにイレギュラーズ達に有利となっていく。
駆け付けたラルフが全身のバネを溜め、見定めた1体を蹴り伏せてしまう。
フォークを突き出してきた魔人をショゴスが貪り食らうと、飛び掛かったリナリナがさらに大きく口を開き、その命をも食らってしまった。
魔人は我を取り戻す度に盾役メンバーに代わる代わる煽られ、ほぼ釘付け状態。
黒いキューブでリーゼロッテが敵を包み込むと、シュリエが虚無の剣を生み出し、魔人の体を切り裂いてしまった。
ルルリアの放つ悪意が魔人を逃すことなく仕留めてしまえば、残るヤギ魔人はあと1体。
素早くシフォリィが高慢な左で殴り掛かり、倒す為の力を加え、強い意志の光を宿した銃弾を敵の脳天に撃ち込み、撃破してしまったのだった。
●
【兵士長殺し】のメンバー達は、兵士達にヤギ魔人達の戦場を駆け抜けていた。
戦場には沢山のファミリアーが飛び交っているが、レストはギフトで同様のスキルを使用できる。
戦場上空を旋回させつつ、彼女は兵士長の位置を自身でも把握して。
「もうすぐよ~」
そんなレストの言葉で、敵を発見したアレックスが一気にライトニングを発して。
ラクリマもその軌跡を注視する。
もうその間に敵はおらず、前方にいるのはこの部隊の大将のみ。
こちらを憎々しげに睨んでくるゴリラのような姿をした魔種、兵士長サロモンだ。
「よぉ、猿野郎?」
「ローレット……面倒な連中よ」
自らの考えの上を行く相手に、敵も最大級の警戒心を抱く。
「すごいおっきいけど、ゴリラの獣種かな?」
人間をやめたその男は、身長2.5m程にまで膨れ上がっており、小柄なコゼットは見上げねばその顔すら拝むことができない。
「ま、その首は落としてしまうんだがな!」
エレンシアが自信に満ちた表情で大剣を握る。
「ヒャッハー! ベンジャミン推参! ですぞー!」
因縁も事情もさっぱりなベンジャミンだが、そんなのは些細な事。とにかく敵を倒せればいい。
「ああ、かかってこい。纏めて気が済むまでやってやんよ……!」
握るハンマーを叩きつけようとしてくるサロモン。
ついに、【兵士長殺し】と兵士長との戦いが始まる。
まずは、ローレット勢が兵士長サロモンへと仕掛ける。
「稲妻と戦った事はあるかい?」
そう言うやいなや、貴道は閃光のごとき拳でサロモンを連続して殴りつけていく。
「こいつの首は確実に取らねぇとな」
エレンシアも憎悪の爪牙で一気に相手を圧倒しようと殴り掛かっていった。
ただ、敵も魔種となり果てた存在。多少の攻撃ではびくともしない。
「これでもくらえ……!」
そこで動き出すサロモンは、瘴気を発してこちらへと投げつけてくる。
戦意を失わせるそれは、どこにいようとも広範囲のメンバー達を一度に襲い、戦意を失わせようとする
「絶対に逃がさんぞ、貴様らは……!」
目を血走らせ、怒りを漲らせるサロモンの周囲をコゼットがぴょんぴょんと飛び回って。
「おっきいからだに、おもたそうな武器……そう簡単に当たってあげないよ」
瘴気を避け、コゼットは敵を挑発しようとするが、元々怒りに満たされた敵。
多少煽った程度では、そちらを注視することはなさそうだ。
そんな戦場からかなり離れた場所で、シエラとミラーカはいちゃいちゃしつつも、サロモンの暗殺を謀る。
攻撃はシエラ。彼女は自らの素早さが最高潮となるタイミング、速力を破壊力に変えたシエラが一気に近づいて仕掛ける。
それはまさしく青き流星。思わぬ一撃にサロモンも驚く。
「なに!?」
だが、シエラは狙いをつかませることなく、すぐさまこの場を去っていく。
そんなシエラの主人ミラーカは、彼女の気力充実の為だけに動く。
幾度も青い流星を撃つことができるようにと全力でサポートしていた。
「来い。俺を護れ……」
そこで、サロモンが呼び寄せた増援。
それは何処からともなく現れた数体のヤギ魔人だ。
「あら~、情報にないわね~」
おっとりしながらも、レストは周囲のメンバーに新手の出現を呼びかける。
ヤギ魔人の面倒さはすでに、そちらで戦うメンバーからテレパスなどを通して伝達が来ている。
それもあって、魔人どもが咆哮を上げれば、レストはすぐさま大号令を放って周囲のメンバーを瘴気に戻していく。
その1人、ウィリアムが不可視の衝撃をサロモンへと投げつけると、アレックスが一気に追撃をかけて。
「……貴様に恨みはないが、その首、我が女王への供物とさせてもらうぞ」
敵を斜め前に視認した彼は、一気に敵を第九の地獄、刹那の絶対零度へと包み込む。
「凍てつけ、凍れ、砕け散れ」
「く……!」
生きながらにして地獄を味わうサロモンはなおも抗戦の構えを崩さず、地面を激しく叩いて衝撃波を発しようとする。
だが、そこで地面が急激に柔らかくなって。
ここでも、グランツァーは大地の精霊に干渉し、衝撃が伝播しにくくなるよう操作していた。
これで2度。思わぬ形で邪魔された彼を、サロモンは忌々しげに睨みつけるのである。
●
中央最奥では、魔種サロモンとの戦いが繰り広げられる。
サロモンは状況に応じてヤギ魔人を呼び寄せ、戦線を混乱させようとしていた。
その危機を察し、治癒の手が足りなくなると判断したウィリアムがアウェイニングでヤギ魔人の及ぼす狂気から仲間達を元に戻す。
だが、ヤギ魔人はそれだけでなく、攻撃にもしっかりと動く。
後方の姫百合もサロモンの攻撃で傷つく仲間の癒しへと全力で当たってはいたが、一気に距離を詰めてきていたヤギ魔人のフォークに突き刺されてしまう。
そこに襲い来るサロモンの瘴気。
彼女は力が抜ける感覚を味わい、その場へと倒れ込んでしまう。
ここでも、アニーヤがあちらこちらへと走らせる老ロバのアスラが駆けつけ、深く傷つく姫百合を回収していた。
「おおおおおおお!!」
1人2人倒した程度では、サロモンの怒りは止まらない。
豪快にハンマーを打ち込んでくる危険な相手の態勢を崩すべく、ラクリマが仕掛ける。
「仲間への被害が大きくなる前に、貴方にはさっさと沈んでもらいます!」
ラクリマは近場の仲間達の為に詩を紡ぐ。
その断片を言葉にするだけで、周囲の世界が魔性へと変わり、仲間達へと言いようもない力を与える。
それを受け、エレンシアがまたも霊樹の大剣で猛攻を加えていく。
怒りを原動力として動くサロモンはなかなかにその首を取られてはくれない。
馬鹿力でエレンシアの大剣を受け止め、強く握る拳を打ち付けようとしてくる。
そこに、またも襲い来る青き流星。
「ふふっ、コンマ1秒後には逝けるよっ! ゴートゥーザヘブンズゲート・ゴリラ!!!!」
彼女は瞬きの魔に現れ、神をも殺すチェーンソーで魔種の体を切り裂き、刹那の元に消え失せてしまう。
これには、さすがのサロモンも対処ができなかったようだ。
シエラとて、この攻撃は絶対の信頼がある主のミラーカがいてこそ。
タイミングを選ぶが、非常に強力な連携にはどんな敵でも簡単には手も足も出すことができないだろう。
英雄達が立ち回る英雄譚を直に見るライハ。
物語を語り継ぐ彼にとっては、この戦いですらも物語の一つ。
自らの力を高めたライハは、精神力を弾丸に変えて、サロモンへとぶつけていく。
「私で倒す必要はない」
英雄を英雄たらしめるべく、ライハはその物語に自ら彩りを添える。
時には、そんな話に個性が強すぎる者も存在して。
「俺のフォースオブウィルでブチ抜いてやりますぞー!」
ベンジャミンが一気に飛び込み、意志の力を衝撃波へと変え、攻撃を行う。
順調に攻撃を続けられると思いきや、現れたヤギ魔人どもがまたも邪魔をする。
オオオオオォォォオオオオオォオオ!!
この世のものとは思えぬ叫び。
それから、戦場の状況を常に把握するレストが大号令を放ち、仲間達を我に返す。
それだけではない。
「は~い、静かにしましょうね~」
彼女は魔人どもの力を、簡易封印で阻害し、その力を一時的にそいでしまう。
一気に、サロモン攻略の手が進む。
「うおおおおおおおお!!」
敵はドラミングを行って威嚇するが、もはやそれしきでイレギュラーズの勢いは止まらない。
アレックスが発動させた禁忌魔術は、無数の武具を具現化させ、サロモンの体を一気に貫く。
「うごおおおっ!!」
どす黒い血を吐き出すサロモン。
止めには至らぬが、アレックスは最初からそれを承知していて。
「……なに、火力ならば、郷田が適任だろう。適材適所というものだ」
その通り、続けざまに貴道が神経を集中させ、両の爪を装着させた腕を振り上げる。
「コイツでフィニッシュだ、殺してやるから動くなよ?」
駆け巡る紫電。
その放電が完全に止むと、目の前のゴリラは白目を向いて。
「あ……がっ……」
苦しむ間もなく、その体を爆ぜ飛ばしてしまったのだった。
だが、まだ終わりではない。
メンバー達は後詰めをと、兵士長が呼び寄せたヤギ魔人の駆除を続けていく。
高原を包んでいた狂気。
それは一気に薄らぎ、元の涼しげな空気へと戻りつつあるようだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは大地の精霊の助けを借りたあなたへ。
中央の戦いを大きく変えたのはあなたの実績があってこそに違いありません。
高原の戦い、終結です。包んでいた怒りの狂気も薄らいでいくことでしょう。
今回はご参加、本当にありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様、こんにちは。なちゅいです。
<薄明>関連依頼RAIDシナリオを担当させていただきます。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●成功条件
・魔種と部隊長2体の討伐
●プレイング書式の統一のお願い
作業効率の向上の為、ご協力を願います。
・【グループor同行者ID】
・【左・中・右】
・パンドラ使用有・無、(アドリブ)
・本文
●布陣
攻め込む場所の選択を願います。
◎中央
○兵士長・サロモン
魔種となり果てた元・人間種。2.5mほど。
ゴリラのような風貌になり、鉄騎種顔負けの図体を持ちます。また、唯一、正気を保ち、軍勢を率いています。
ハンマーで直接殴り掛かってくる他、胸部を叩いて周囲に轟音をこだまして相手を怯ませ、地面を叩いて衝撃波を放ったり、瘴気を操って広範囲の者の戦意を奪ったりと、多様な攻撃を行います。
○ヤギ魔人×10体
全長2mほどの獣人を思わせるヤギの頭を下半身を持つ人型の魔物です。
フォーク型の武器を持ち、怪しい眼光で相手を麻痺させ、
怒りの咆哮で相手に怒りを与えます。
○兵士×40体
男性軽装歩兵×20体、女性軽装歩兵×20体。
男性は、軽装歩兵は、槍、長剣、弓、銃を。
女性は、軽装歩兵は、小剣、長剣、弓、銃を使用します。
◎左翼……男性兵士と魔物をメインとした部隊です。
○部隊長・オスモ
軽装鎧を纏い、両手剣で攻め来る長身の男です。
他小隊だと、兵士長クラスの力量を持つ人間種です。
サロモンだけでなく、イオニアスにも忠誠心に厚い男です。
魔種にこそなってはいませんが、呼び声のキャリアーであり、左翼は彼の狂気が軍勢を駆り立てています。
○魔物犬×20体
魔物となり果てた野犬です。
大きさは1.5mと2mが半々。
強さも大きい方が一回り強いです。
毒爪、食らいつき、押さえつけと強力な攻撃を仕掛けてきます。
『<薄明>怒り狂う魔物犬と元冒険者達』で登場した魔物と同種ですが、こちらは劣化バージョンで、スキルは上記3種のみ使用します。
○兵士×50体
重装歩兵×10体、軽装歩兵×25体、魔術兵×15体
一般兵士、人間であり、狂気に当てられた人間種達です。
重装歩兵は、大剣、斧、大盾、大砲を。
軽装歩兵は、槍、長剣、弓、銃を。
魔術兵は、属性魔法を使いこなします。
呼び声の効力は薄いものの、説得は通用しないので、戦闘不能へと追い込む必要があります。
◎右翼……女性兵士と魔物で構成された部隊です。
○部隊長・エステリ
他小隊だと、兵士長クラスの力量を持つ人間種です。
左翼部隊長オスモと並び、兵士長サロモンやイオニアスの信任は厚く、また、右翼の呼び声のキャリアーでもあります。
○魔物烏×20体
魔物となり果てたカラスです。
大きさは1mと1.5mが半々。
強さも大きい方が一回り強いです。
自重もあってか、10mよりは高く飛べないようです。
痺れ引っかき、食らいつき、羽ばたきと強力な攻撃を仕掛けてきます。
○兵士×50体
軽装歩兵×30体、魔術兵×20体
一般兵士、人間であり、狂気に当てられた人間種達です。
軽装歩兵は、小剣、長剣、弓、銃を。
魔術兵は、属性魔法を使いこなします。
呼び声の効力は薄いものの、説得は通用しないので、戦闘不能へと追い込む必要があります。
●状況
幻想南部、オランジュベネ領と呼ばれていた高原地域です。
なだらかな傾斜はありますが、基本的には平原地帯と同様の立ち回りで戦うことが可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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