PandoraPartyProject

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ラトラナジュの火I

 イレギュラーズが手に入れたエピトゥシ城は、今やアーカーシュで最も安全な拠点となっていた。
 レリッカの村人達の避難が完了し、また駐留する帝国軍も橋頭堡を離れて仮住まいとしている。

 アーカーシュの古代遺跡群は、その全権を魔種パトリック・アネルに握られているが、肝心のパトリックは遺跡深部に隠れたまま姿を現さないで居た訳だが――
「魔種が潜んでいる場所が特定されました」
 急ごしらえの執務室(ローレットから借り受けた)に、一人の軍人が飛び込んできた。軍服ではなく背広姿の男で、名をエッボという。少し前までパトリックの部下だった諜報員だ。
「やはり。フロールリジ大佐は良いご判断だったかと」
 歯車卿エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフが書類に視線を走らせる。
「お褒めにあずかり、光栄であります」
 皇帝ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)の勅命を受け、エッダ・フロールリジ(p3p006270)は、鉄帝国軍の大佐として、アーカーシュにおける指揮の全権を任されている。戦略の方針はかつてパトリックの部下だったエッボやオーリー・バイエルンなどの特務派の軍人を上手く扱うというものだった。諜報屋であったパトリックの手の内を暴くための最適なやり方だったろう。
「これで出撃が可能になったのデスネ」
「ええ、もう待ちくたびれちゃったわ」
 リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)に、リーヌシュカ(p3n000124)が頷く。
「お早いお戻りで、エフシュコヴァ嬢。結局、帝国はこうやってオツムを補う必要があるんですよ」
「ええ、ヨハン。まんまと食わされたわ。確かにそうなんでしょうね」
 シレンツィオのバカンスから戻ったリーヌシュカに向けたヨハン=レーム(p3p001117)の言は、前半は妹分に向けおどけており、後半は虚空へ吐き捨てる辛辣なものだった。けれどその正しさを疑う者も居るまい。
「ボクがあっちに伝えて来るっすよ」
 レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が駆けた先――

「すぐ支度に取りかかりましょう。鉄帝国のため、自分に出来ることを」
 物資の積み上がった広間の片隅で長剣を磨いていたオリーブ・ローレル(p3p004352)達にも、出撃準備の連絡が来たらしい。
「いかにも前夜って感じね」
 連絡に頷いたレイリー=シュタイン(p3p007270)が物資の確認を始める。
「応よ、帝国の兵は、戦となれば高ぶらずには居られまい!」
「オレだって同じだよ」
 咲花・百合子(p3p001385)イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は不敵な表情で、近くの兵士達と拳を合わせた。
 異変はちょうど、そんな時に起きたのだ。
「空に幻のようなものが映っています!!」

 窓から外を指さした兵士の元に、人集りが出来はじめている。
「何だありゃ」
「見えねえよ」
「ちょっと押さないで下さいまし」
 もみくちゃになったヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)マリア・レイシス(p3p006685)が抱えて離脱する。
「ヴァリューシャ! あっちの窓からも見えるよ!」
「でかしましたわマリィ!」
 そこにあったのは、巨大な幻影のスクリーンに浮かぶ、パトリック・アネルの姿だった。
「私からの贈り物は気に入ってもらえたかね?」
 ゴーレム達にしでかした事についてだろうか。
 玉座のようなものに腰掛けるパトリックは辺りを見回すと、そのように述べた。
「なんだぁ? こっちの言うことは聞こえんのか?」
 ヴェガルド・オルセン(p3n000191)が、怪訝そうに述べるが、
「聞こえているとも。アーカーシュの目、アーカーシュの耳もまた、私のものになったのだからね」
 得意げに鼻の穴を広げるパトリックに、周囲のざわめきが止まった。
「それでは本題と行こう。降伏したまえ。私は鉄帝国の次期皇帝となる男だ。我が全軍は古代の超文明だ。国を富ませ、全軍を強化し、これ以上は敵国幻想風情になど、好き勝手はさせんと約束してやろう。三分間だけ待ってやる、さっさと答えを出したまえ、諸君等の賢明な判断に期待しておこう」
「――我々鉄帝国の民が、魔種ごときに引き下がるとでも?」
 兵士達の間を割って空を睨んだ歯車卿が吐き捨てる。
「歯車卿、私は君を買っていたんだよ。そんな君ともあろうものが、まだ分からんのかね」
「顔だの口だのまで似せないでもらえます? 紛いモノのクソカスデモニアが!」
「残念だよ。だがこれを見れば気が変わるかもしれんな。見せてやろう、覇者の御業をな!」
 突如、視界の全てを閃光が覆い尽くす。

 各々が腕で目を隠し、伏せた直後に轟音と爆風が襲った。
「何が起きたんですか!」
「ノイスハウゼンの街との通信が再び途絶しました!」
 蒸気通信機器の信号を叩き続ける諜報員の声音は、悲鳴に近い。
「何が起きていると聞いているんです! 軍人なら手足を動かしてくださいよ!」
「は! 至急!」
 視界が晴れ、未だ一行を見下ろすパトリックの幻影を他所に、帝国軍は慌ただしく動き始めた。
「ノイスハウゼンが消滅した可能性があります!」
「何!?」
「巨大な煙がノイスハウゼンの周囲に立ちこめており、観測が出来ません……」
 そんな時、上空のスクリーンから軽快に指を鳴らす音が聞こえた。
「何をしたのか教えてやろう、数分前の映像に切り替える」
 表示が切り替わり、映し出されたのはアーカーシュ最下部に存在する突起だった。
 放電と共に大気が揺らぎ、迸る雷光の目映さと共に一条の細い光線がノイスハウゼンの街へ吸い込まれ、直後――巨大な爆炎に包まれた。
 街のあるべき場所には雲のような煙が立ちこめ、どうなっているのかさえ分からない。
 そこには人が住んでいた。
 アーカーシュの新発見に沸く人々が居た。
 活躍するイレギュラーズや軍人に憧れる少年だって居た。
 その様子を地元の新聞に記事を載せる人が居り、彼の利用する商店にも店主が居り、その奥方も居る。
 彼女の兄は空ばかり見上げる当局の軍人で娘が一人居り、お気に入りの菓子屋の職人も、服を縫った繕い屋も近所に住む鉱夫も肉屋の看板娘も医師も教員も居た。
 いずれも皆どうなったか、一切合切まるで定かではなくなってしまっている。

「魔王さえ欲した超文明の遺産、ラトラナジュの火だよ。これでも答えは変わらんかね?」
 再び映し出されたパトリックが、くつくつと喉をならして笑う。
「貴様、自分が何をしたか分かっているのか!?」
 そんな問いは、魔種には通用しないのだろう。
「ではアーカーシュごと帝都へと向かうとしよう」
「帝都!?」
 地響きと共にアーカーシュが徐々に移動を開始した。
「アーカーシュが北北西へ移動を開始しました!?」
「進路を割り出せ!」
「確かに、帝都スチールグラードです!!」
 あんなものを帝都に撃ち込まれでもしたら――
「出撃準備を急げ!」
 一同が各々の成すべきことのために、駆けだした。

 ※鉄帝国特務軍人により魔種パトリック・アネルの場所を割り出すことに成功しました。
 ※鉄帝国南部の街ノイスハウゼンが、アーカーシュから放たれた光線で爆発炎上しました。
 ※アーカーシュが鉄帝国帝都スチールグラード方面へ移動を開始しました。
 ※決戦の時が迫っています。

※幻想では、アーベントロート動乱に変化があった模様です!

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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