PandoraPartyProject

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大切なトモダチ

 『鋼の咆哮(Stahl gebrüll)』作戦、開始さる――!
 アーカーシュ、魔王城周辺は、今や反転し人類の敵となったパトリック・アネル大佐への、唯一の反抗拠点になっていた。
 アーカーシュ全域を確保したパトリック・アネルに対し、唯一『アーカーシュ文明の手の及んでいないもの』は魔王城しかなったのである。
 人類支配のための己が居城が、人類最後の反抗拠点となったと知ったら、魔王は皮肉と笑うだろうか? 今はクローン装置も破壊され、彼の意思をきくことはできない。
 いずれにせよ、様々な縁が重なり合い、此処がそう言った場所になったのは事実だ。縁。そう言った点では、アーカーシュで発掘され、修理されたゴーレム達と、鉄帝軍人やイレギュラーズ達の関係性も、奇妙な縁によって結ばれた絆だといえよう。
 『鋼の咆哮(Stahl gebrüll)』作戦は、労働力として多数のアーカーシュ・ゴーレムを運用していた。もちろん、それ以前からゴーレム達の運用離されていたわけだが、それはそれとして、大規模な軍用作戦に大量のゴーレムが投入されたことは、アーカーシュ作戦はじまって以来のことだった。
「ゴーレム・コントローラーか」
 鉄帝のオーパーツ研究所であるEAMD、その所長である、『 趣 味 爺 』ガスパー・オークソンが嘆息した。
「もう少し粋な名前をつければよかったかもしれんであるな……まぁ、今となって詮無い事であるが。
 しかし、上手く指令がいきわたっているようであるな」
 アーカーシュ・ゴーレムの再生と整備の殆どは、EAMDの手によって行われたものだ。当然、『全体に効率よく指令を渡すための装置』、ありていに言ってはコントローラーは存在し、すべてのゴーレムに安全弁も兼ねて搭載されていた。
「やはり天才か、私……」
「でも、なんだか。無理矢理従わせてるみたいで好きじゃない」
 そういうのは、リオーレ(p3p007577)だ。隣にはアクス・ツー、つまりアーカーシュ・ゴーレムのうち一体がいて、その心は何処か、静かにたたずんでいた。
「そう言うな。私は最低限の命令しか出していないよ。お願い、と言ってもいい。それに従ってくれるのは、間違いなく君たちの意思であろう?」
 アクス・ツーにそういうガスパーに、頷くようにアクス・ツーは瞳を明滅させた。
「でも……戦いに使うんでしょう?」
「そうであるな。だが……うむ、複雑かもしれんが、これも運命なのかもしれん」
 アーカーシュを巡る戦い。それに、アーカーシュより生まれたゴーレムである彼らが巻き込まれるのも、致し方ない事なのかもしれない。
「……できれば、皆無事に帰ってきてくれればよいのだが」
 ガスパーのそれは、願いだった。恐らく、敵もゴーレムのような自動兵器を使うだろう。衝突すれば、全部のゴーレムが無事に戻ってくれることは、きっと奇跡に違いない。
 そう、彼らが祈った、刹那――。
 魔王城外縁、物資貯蔵エリアに手禿げいい爆発音が響いた。続いて怒号と悲鳴が響き渡る。
「な、なに? 敵の攻撃――?」
 リオーレが声をあげた刹那、ガスパーはリオーレに飛び掛かった!
「いかん!」
 声と共に、リオーレを押し倒す。その頭上を、巨大な、何かが通り過ぎたことに、リオーレは気づいた。
「アクス・ツー……?」
 リオーレが、目を丸くする。二人の頭上を通り抜けたものは、アクス・ツーの拳に間違いなかった。
 振るったのだ、その拳を。
 目の前のリオーレを、殺すために。
「な、なに? 遊びたいの? 危ないよ……?」
 状況を理解できないリオーレが、呟く。同時、ガスパーの持っていた無線から、悲痛な叫び声が聞こえた。
『博士! ゴーレムが突然暴れ始めました!』
『かなりの数のゴーレムが反乱を起こしています!』
『明確に敵意を示しています! ……ウアッ!!』
『ここの物資はもう駄目だ! 離れろ! 殺されるぞ……』
 何を言っているのだ、と、リオーレは思った。頭の中が、ぐるぐると廻る。赤く明滅する、アクス・ツーの瞳。優しいそれが、真っ赤な、真っ赤な、敵意の色に染まっている。

 物資貯蔵庫では、まさに地獄絵図が繰り広げられていた。運搬ゴーレム達はすべてが暴れ出し、明確に、鉄帝軍人たちへの攻撃を開始していた。これまで隣で笑いあっていた兵士を、ゴーレムは殴り殺した。昨日識別用に書いてやったエムブレムが、その兵士の血の色で染まる。
「まずいであります! どうなっているでありますか!?」
 ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が叫ぶのへ、鉄帝軍人が声をあげる。
「ゴーレムが突然暴れ出しました! ゴーレムコントローラーの命令系統が上書きされています!」
「ガスパー所長と連絡が取れ……いや、今取れました!
 どうやら、より上位権限を持つオーナーからの、命令の上書きが行われたようです……!」
「パトリック、か」
 ハイデマリーが奥歯をかみしめた。やられた。元よりゴーレム達は、アーカーシュの被造物。なれば、アーカーシュを手中に収めたパトリックにとっては、もはや私兵も同然だったのだ。
 それを今まで放置していたのは、おそらく最悪のタイミングで、この結果を導き出すため――憤怒によって反転しても、その狡猾さはまるで衰えてはいない!
「やめてくれ、ローレンス! お前の描く未来は、こんなものではないだろう!?」
 エーレン・キリエ(p3p009844)
 が叫ぶ。ゴーレム・ローレンスは必死に抵抗するようなそぶりを見せながらも、オーバーライドされた命令に逆らえないようだった。ぎこちなく動きながら、物資を破壊する。その、抵抗するような動きから発せられる、機械の響きは、精神的な苦痛に嘆きの声をあげるようにも聞こえた。
「き、どー」
 と、目の前にいたゴーレム、ニューボーンとネバーモアが、キドー(p3p000244)へと、ビープ音を鳴らすように、必死に声をあげた。
「こわし、て きどー ぼく こわ して」
「きどー きずつける みんな きずつける いや こわして きどー」
 慟哭だった。絶望だった。悲鳴だった。悲痛だった。
 自らの身体を操られ、友を殺すように命令された者たちの、絶望の叫びだった。
 見れば、すべてのゴーレム達が、涙を流しているように見えた。必死に命令にあらがい、友を殺してしまったゴーレムが言った。己が身を守るため、やむなく友(ゴーレム)を殺してしまった軍人がいた。
 地獄だ。
 地獄だった。
「ふざけるな!」
 キドーは叫んだ。
「ふざけるな! ふざけるなよ! ちくしょう! 畜生……」
 ぎ、とゴーレム達が、空を見上げた。飛行ユニットを展開すると、全てが空へと飛んで消えていく。後には、破壊された物資と、傷ついた体と心だけが残っていた。
 誰もが聴いていた。愛すべき友から。
「こわして」
 と。
「きずつけたくない」
 と。

「こわして リオーレ こわして」
 そう言い残して、アクス・ツーは空へと飛びだっていった。呆然とするリオーレと、彼を庇って傷ついたガスパーを残して。
「いやだ」
 リオーレは言った。
「キミのお願いがそんな言葉だなんて。ボクは、いやだ」


「あ――はは、ははは! はっはっはははは!!」
 哄笑が響く。アーカーシュ中心地、遺跡最深部。今や孤独な浮遊都市の王となった男――パトリック・アネル大佐は、自らのしでかした罪に、満足げに笑い声をあげた。
「みたか! 何が絆か! 何が友か! そんなもの、真っ赤な怒りには塗りつぶされるようなものだ!」
 ははは、ははははは、笑う。笑う。何かを押しつぶすように。この真っ赤な怒りには無用な感傷を、魔は心の奥に押しつぶす。
「こんぶ……おにぎり……」
 傍に仕えたゴーレム――グレートクイーンアネル3世が言った。
「笑える。実に笑えるなぁ。カメラ越しに見えただろう? 信じていたもの達に裏切られた、そんな顔を」
「こんぶ……おにぎり……」
 グレートクイーンアネル3世は言った。
「ああ、うるさい、黙れ――お前にそんなことを言われなくても、私は、私は……」
「こんぶ……」
「黙れ! 何が、なにを……お前にも命令のオーバーライドをしているはずだ……なのにお前は、ええい、うるさい! しばらく黙れ!」
 かんしゃくを起こすような孤独の王は暖かいものを拒絶するように、そう告げた。
 孤独の王に侍る、今やただ一人の友は、王の心に寄り添うように、しかしただ静かに。


※『鋼の咆哮(Stahl gebrüll)』作戦決行中、パトリック・アネルの手により、多くのゴーレムが反乱を起こしました!
※反乱を起こしたゴーレム達はすべて撤退しましたが、魔王城陣地内に被害が発生しています……。


※マール・ディーネーの導きにより、竜宮城へ向かいます!
※ですが、竜宮城は敵に襲撃されているようです……救援に向かってください!

※幻想では、アーベントロート動乱に変化があった模様です!

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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