PandoraPartyProject

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水神の膝下

 地上が湧いている。
 その主題となっているは、海底に都市を持つ竜宮城の者が所有していた竜宮幣(ドラグチップ)なる代物……それは元々『玉匣(たまくしげ)』という一つの神器であったそうで、昨今シレンツィオの周辺を騒がせている深怪魔――を追い払う事が出来る物であった。
 しかし玉匣は破壊され、竜宮幣という小さなコインとなって各地に散らばった。
 故に竜宮幣の回収を依頼され……そしてシレンツィオに関わりの深い、特に深怪魔の被害に困っている者達もこの動きを支援。多く集めてくれればなんらかの公約を成すというマニフェストも掲げれば一つのお祭り状態であった。
 ――しかし。
 華々しき光がある一方で、蠢く様な影もあった。
 それは先述した竜宮城とは異なる海の民達。
 覇竜領域ではない、外海に存在した『亜竜種の隠れ里』――

 天浮の里なる地であった。

 ……かの地はどちらかと言えばカムイグラの方に程近い場所に存在する里にして。
 嘗てこの大海を統べた『水神』なる存在を信仰せし者らである。
 そう、つまりは――リヴァイアサンを神と称え、敬っている。
 遥かなる過去より、永久に、永久に……
「……穢れた泡共め。よもやこの里にまで降りてくるとは。
 潔一が手引きしたのか。奴の魂は既に水神から離れたか」
「待ってよ氷雨。ちょっと外に興味があるぐらいでそこまで言わないでも」
「卯ノ花。外へと赴いたお前も同罪の様なモノだ。神子の立場をなんと心得るか」
「――同じ立場なら氷雨にそうまで言われる謂れはないよ」
 そして。その里において重要な地位を占めている亜竜種がいた。
 一人は氷雨。鋭き視線を向ける、蒼き肌の亜竜種。
 一人は卯ノ花。穏やかなる気質を内に秘めた、蒼き肌の亜竜種。
 ――二人は幼き頃よりの馴染であり、そして里において神の依り代……神子として深く心棒されし者達である。卯ノ花は水神を鎮め眠りに共に着いた渦潮姫の。そして氷雨は――かの水神、滅海竜リヴァイアサンの。
 ……無論、二人共にその存在そのものではない。
 あくまでも里が心棒せし神の依り代として選ばれた者達――と言うだけである。
 氷雨は氷雨として。卯ノ花は卯ノ花として。
 一個人として確かにこの世に生を受けた存在であり『神』ではないのだ……しかし。
 奇妙な事に、両者の内からは、とても人とは思えぬ気配が醸し出されていた。特に。
「彼らは親切だったよ。氷雨は少し視野が狭いんじゃないかな?」
「関係ない。我らが神の領域に土足で踏み込んで許されるものか」
「いつもそればかりだね。他の事は言えないの?」
「黙れ。大人しく祭壇で祈りでも捧げていろ」
 氷雨の方は――まるで暴流の如く。
 それに連れられてか卯ノ花の方も……氷雨の方を毛嫌いしているかの様な、荒い口調になるものだ。
 ……卯ノ花の方は先日、地上の側へと赴き、偶然にも深怪魔に襲われた。
 が。そんな彼女を助けてくれたのが地上のイレギュラーズ達だったのだ。
 彼らが居なくばどうなっていた事か。果敢に前線に立ち、悪意を引き付けてくれた者は頼りになったし、戦いが終わった後は、もう安全だから存分に観光しようと優しく 導いてくれた者達もいた。戦いの最中に何度も此方を気にしてくれた――緋色の翼の持ち主も、とても優しかった。どこかで出会ったかのような、懐かしい感覚をも得る程に。
 そんな彼らが本当に悪か。
 しかし氷雨は卯ノ花が如何に考えようとも意に介さぬ。
 氷雨の瞳には彼ら――いや。シレンツィオなどという薄汚れた大地を築き上げた者達全てが、水神の神域を乱した愚か者としか見えぬ。そんな彼をもしも、覗き込まんとすればかつてイレギュラーズ達が戦った……
 『滅海竜』の様な気配を感じ得る事だろう。
 暴威。神威。理不尽の権化。
 ……彼の気質は日に日に肥大している。それこそ『本物』に近付かんとする様に。それと言うのも。
「『滅海の主』。最早猶予は左程ないわね。今こそ決断の時よ」
「――海援様」
「水竜の器。地上を見てきたなら分かるわよね――私達の海が穢されていると」
「……そうかな。本当に、そうかな」
 海援と謳われる巫女……カンパリ=コン=モスカがこの地に至ってより、だ。
 彼女は常に氷雨の傍にある。『滅海の主』と、そして卯ノ花の事は『水竜の器』と……それぞれを呼びながら。
 ……海援とは竜との語らいを行う事が出来る者とされている。水神を敬うこの地にとって、神と通じる事の出来る彼女の言葉は何よりも重い――
 しかし、不穏だ。彼女の瞳ははたしてどこを向いているのか。
 なにより只の依り代という信仰上の立場であった両名が『まるで本人』であるかのような気質と言を伴い始め、関係が剣呑となり始めたのは、彼女がこの里に帰還した時期と通じている。
 ……いずれにせよ、海援が言う『猶予』とは、いずれなる出来事を指してだろうか。
 地上のシレンツィオの開拓が更に進み、海が穢される事を案じてか。

 それとも――先日里に訪れたイレギュラーズ達の存在を指してだろうか。

 彼らは里に訪れ、各地を見て回っていた。礼を失せぬ様にと各地を巡り……そこで見たもの、聞いたものが地上に伝われば、再度此処へと訪れる者達がいるやもしれない。
 それで騒がしくなるのは少し『困る』のだと、彼女は言わんばかりに。
「あぁ海援殿、無論だ。しかし――
 彼方の者達が訪れた折、海援殿に良く似た者もいたが。あれは親類か何かか?」
「ん……あぁ……『アレ』? アレは別にどうでもいいわよ。ええ――」
 と。氷雨が口にしたのは、先日この里に直接訪れてきたイレギュラーズの事である。
 その内の一人は――海援に実によく似ていた。
 正に瓜二つと言っても良い程に。
 更には『お母様』などとのたまっていた気がする、が……
 当の海援は、毛ほども気にしていない様子であった。
 何故なのか? ソレは『カンパリ』という皮を被った、その下にある者の瞳は……彼女を見ていないからである。見ているのは――そう。かつて。海嘯を鎮めて渡り合い、この海に蕩けた――
 もう一つのコン=モスカの方なのだから。

※天浮の里では不穏な動きもあるようです……
※イレギュラーズたちが竜宮弊を持ち帰りはじめています。
 持ち帰った方は早速投票をしてみましょう!
 投票期間は【8月13日 24時】まで!

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