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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>天浮の里

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●<潮騒のヴェンタータ>天浮の里
 『――同胞の気配がする』
 かつて、そう告げたのは『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)だった。
 ダガヌ海域の狭間にて、ふと感じた亜竜種の気配。
 最初は己以外にも訪れた同胞がいるのかと思ったが――違った。
 微かに姿も見えた気がしたのだが、その後ろ姿に見覚えが無かったのである。
 同胞に感じたのは気のせいだったか? いやしかし……と、尽きぬ疑問と共に海域の調査を行えば、やがて判明したのは一つの事実。

「――『水神信仰の里』なる地が、この先に在るらしい。
 海魔に追われていた少年より聞いた話だがな」

 ソレを語るのは冽・十夜だ――亜竜種の一人にして、亜竜集落ウェスタの住民。
 彼は混沌大陸の文化をフリアノンへと運ぶ密命があり種族を隠して(より厳密には『旅人』だと偽って)大陸を旅していた事もある……そして彼は外における『縁』深き海洋王国へと再び訪れており――その地の存在を知った。
 『水神』という存在を信仰する、亜竜種の里があるのだと。
「……『水神』、ねぇ。この辺りで水の神というと……奴さんしか思いつかねぇが、な」
 で、あれば。十夜 縁(p3p000099)の脳裏には思い浮かぶ存在がある。
 水神――そう呼ばれるに匹敵する存在は。
 かつて死闘を繰り広げたリヴァイアサンに他ならぬと。
 ……無論、リヴァイサン=水神かは直に確認してみなければ分からぬが。しかしいずれにせよ、この付近に斯様な信仰を抱きし里が在る事だけは間違いない――シレンツィオの開発がスタートし、人の手が入る様になってようやくその存在が露わになっている、里が。
 そしてそこに住まう人――つまりは亜竜種――がいるのも間違いはない。
 琉珂が感じた気配は誤りではなかったのだ。実際に冽・十夜も目撃したのだから。
「……それになにより。我の、お母様も……」
 更に。続く形で言を紡ぐのはクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)だ。
 彼女もその里については注視している……先日、琉珂が『クレマァダにそっくりな誰か』が目撃されたと言っていたが――それは彼女の『母』なのではないかと。そしてその『母』が――この先の里に関わっているのではないかという疑いがあるのだ。
 父は言っていた。母は、『天浮の里へ行く』と言って、消えたと。
 信仰を共にする一族の場所へ――行ったのだと。
 ……そして見つかったとされる深海に存在せし場所。
 胸騒ぎが止まらぬ。もしや、もしやという思いがどこまでも募りて。
「いずれにせよ放置はしておけねぇよなぁ。
 信仰は自由だが、それが『何の影響』も齎さねぇとは限らねぇし」
「あぁ。信仰や認識が形となるのは……再現性東京の夜妖とかが、特にそうだろ?」
 故にこそ。シレンツィオからも程近い場所にある里の調査は必須だろうなと……縁が顎をさすりながら呟けば、シオン・シズリー(p3p010236)も同意するものである。付近に湧いている海魔の出現と増加には――かの地が関わっているやもしれぬのだから。
 故にこそ周辺の調査を先んじて行っていた冽・十夜と共に往かんとする。
 かの地に如何なる秘密が秘められているのか確かめるべく……
 と、その時。

「よぉ。待った待った。お前ら、外の人達だろ――?」

 イレギュラーズ達の眼前に現れた者がいた。
 腕に鱗を。そして特徴的な尻尾が目立つ――少年だ。その姿、正に。
「……同胞だな。先程言っただろう。海魔に追われていた少年がいたと――それが彼だ」
「あぁオッサン、あの時は世話になったな。シレンツィオっていう所が気になってよ、里から出た……のは良いんだけど、想像以上の海魔に囲まれちまってな。助かったぜ。俺は潔一(きよかず)。この先に在る天浮(あまうき)の里のモンさ」
 冽・十夜の言の通り、亜竜種たる証左である。
 潔一と名乗った彼は、明るい、友好的な雰囲気を紡ぎながら。
「なぁ。里に行きたいのか? なら案内してやろうか」
「……それは助かるけど、どうして?」
「まぁ助けてくれた恩返しってのもあるが――それから俺、外の事が気になるんだよ。
 俺、今まで里から出た事、あんまりなかったからさ」
 案内を買って出るものだ。
 シオンが微かに訝しむ様子を見せるが――しかし少なくとも潔一の様子に嘘や裏はなさそうだ。彼の瞳は、ただただ純粋に……『外』を知る者達へと向けられている。羨望の眼差しと共に。
「外ってさ。広いのか? なんか里のじっちゃん達が、同胞が住む山があるって話はずっと聞いてたんだけどよ――いつか見てみてーんだ。だから、外の話をしてくれるなら、里までの近道を案内するぜ」
 ……彼の住まう里は、所謂かな隠れ里の一種であった。
 地理的には豊穣――カムイグラの側に近く、絶望の青と呼ばれた海域に阻まれ、大陸側には夢見ても訪れる事など出来なかった。が、絶望は晴れ静寂となり、今や外が広がりつつあるのだ。潔一の様な年若い亜竜種にとっては冒険心を擽られているのかもしれない。
 故に彼は接したい。外を知る者達に。
 海魔に追われる己を助けてくれたお礼も兼ねて。
「あっ! そうだ……一つだけいいか?
 里に着いたらさ、水神を斃したって事だけは秘密にしておいてほしいんだよ」
「――信仰が在る故、か?」
「そうそう! 結構、信仰深い連中とかが知っちゃうとあぶねーからさ……」
 と、最後に。潔一は『これだけは注意しておいてくれよな』と言うものだ。
 やはり水神=リヴァイアサンと見て間違いないか――
 クレマァダは、己が心に渦巻く中に、なにがしかの『確信』を得ながら進まんとする。

 いざや目指すは、天浮(あまうき)の里。

 深海に在りし、亜竜種達の――隠れ里である。

GMコメント

●依頼達成条件
 天浮の里へ到達する事。

●フィールド
 『<光芒パルティーレ>はらから』で調査されていた古代遺跡――の更に奥へと進んでいきます。其処には深く、海に繋がる道あります。海の中を進んでいくわけですが……潔一の案内するルートは、不思議と呼吸する事が出来るようです。なんらかの加護でしょうか。

 よって、水中行動の類がなくても海の中で行動が可能です。
 しかし水中行動や類するスキルがあると、より活動しやすいかもしれません。

 道中では後述する海魔が襲い掛かってきます。
 上手く海魔を退ける事が出来れば、シナリオ中盤から後半において目的の『里』に辿り着く事が出来るでしょう。
 そこで何があるかは……現時点では不明です。

●敵戦力
・海魔メリディアン×15体
 深怪魔とも呼ばれる魔物達です。
 クジラ型の個体で、神秘の術を操ります。水流を操作し槍の様に放ってきたり、或いは雨の様に弾幕として降り注がせる事も可能な様です――【痺れ系列】【窒息系列】【麻痺】と言った内から幾つかのBSを付与する事があります。

 潔一曰く、最近海魔の出現が増えているそうです……

●冽・十夜(れつ・とおや)
 亜竜集落ウェスタの住民で、命を帯びて、外の文化を知る為大陸を旅する事もある亜竜種です。今回、琉珂より更なる調査をお願いされ、イレギュラーズ達と共に『天浮の里』へと向かいます。
 気の流れを水の流れに見立てての近接格闘を得手としており、前線で戦います。

●潔一(きよかず)
 『天浮の里』出身の亜竜種です。外の世界に興味があるのか、非常にイレギュラーズ達に好意的です――道中、里について何か聞いてみてもいいかもしれませんね。
 彼も戦闘するだけの力はある様で、海魔が出てきたら槍術をもってして戦います。

●天浮(あまうき)の里
 深海に存在する『水神信仰の里』で、亜竜種達の隠れ里とされています。
 恐らく雰囲気的にはデザストルに存在する亜竜集落同様に亜竜種ばかりの里だと思われます。ただ、詳しい内情は現時点では不明です。
 が、最近『海援』なる巫女が帰還したそうです……
 そして潔一曰く『水神(リヴァイアサン)を斃した事は黙っていて欲しい』との事です。
 ここは水神信仰の場所。バレれば何が起こる事か……

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <潮騒のヴェンタータ>天浮の里完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時12分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ


 ――海へ往く。
 文字通りの意味で、だ。イレギュラーズ達は『天浮の里』と呼ばれる地へと……少しずつ歩を進めていて。
「ふふ、まさか海底を冒険できる日が来るだなんて、思ってもみませんでしたわっ! あら! 水面から零れてくる光が綺麗ですわね……! あらら? 彼方には昨日お酒のツマミに食したお魚さんも泳いでいるじゃありませんか――ふふ。流石、大海原ですわね!」
「……むむむ。この先に亜竜種の里があるとは……なんとも面妖な。覇竜領域も過酷な環境でしょうが、この地もまた別種の過酷さが内包されていそうでござる」
 不思議と呼吸が出来る道を辿るのは『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)や『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)であった。周囲の様子を窺いながら、この先に在るとされる里に思いを馳せていく……
 天浮の里、か。
 まさかこんな深海に……というよりも覇竜領域以外に里があろうとは。
「なんだか不思議な感じだよね――水の中で呼吸が出来るなんてさ。
 それにしてもこの辺りに、亜竜種が住む里があったなんてね……ビックリだよ!」
「ええ。そこは本当に不思議ですわね。
 海でも自然に呼吸できるだなんて……まるで魔法みたいでございますわ」
 同様に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)も辺りを興味深げに眺めるものだ――ヴァレーリヤが眺めていたお魚を使役し、眼を借りて……近くの索敵へと走らせようか。これにて敵が近付いて来ればすぐにでも察知出来る。
「しかもリヴァイアサン信仰の里、だったか? まぁ亜竜種が中心ならそういう信仰があっても不思議とまではいわねぇが……実際にどういった里なのかは興味がある所だな」
「というか――こんな場所にあるなんて純粋に不便そうな気もするが、その辺りはどうなんだ?」
「ん……んー。便利か不便か、かぁ。て言っても、そもそも外の事あんまりよく知らねーから、その辺りあんまり意識した事はねぇなぁ。俺にとっての生まれ故郷だし、それが当然だったって言うか……」
 同時。『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は後頭部を掻きながら周囲より接近しうる敵がいないか警戒を怠らず。『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は同行している潔一に言を紡いでみるものである。彼女の、獣種としての特性があらば奇襲は防げるが故に。
 一応、里に繋がる入り口は他にもあるらしく、昔は其方を利用してカムイグラの方へと物を仕入れに行く者もいたそうだ。故にそこまで不便とは感じていない――と言うよりも、元からその里の内で過ごすことが彼らにとっての常識であったそうだから。
「ふむ……海底遺構であるプラエタリタやウェルテクス……あれらの存在を思えば、今海底となっている深海部もかつて居住可能だった時代があったと考えても不思議ではありませんね――そして今尚にかの様な地を利用し、その子孫が現存するという事も」
「ただおよそ辺鄙な場所である気はするけど、ね。隠れ里にするにはある意味絶好の場所なんでしょうけれど……まさか海底にまで住んでるとは、ねぇ。一体元々はどういう経緯でそんな場所に移り住んだのかしら」
「さぁなあ……里の爺ちゃんや婆ちゃん達もよく分かんねぇらしい。あーただ、まぁ。なんか一説だと、ほら。水神様を称えてるからさ、水神様に近しい所に住まおう……なんて考えがあったとか無かったとか」
 更には『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は海底に根差す文化があってもおかしくないと思考するものだ。海に沈んだ古代都市……経緯はそれぞれであったとしても、かつては人が住まい、文明を成していたのであれば。後には水と共に在る能さえあれば……
 ただ。覇竜も相当辺鄙な場所だが、此処も大概だと『風と共に』ゼファー(p3p007625)は言を。潔一も――まぁそれに関しては否定しない。と言うより、斯様な場所を根城にするのは亜竜種としての性なのかもしれぬ。山奥にしろ海底にしろ……只人が近寄れぬ地を好むのは。
 ――まぁともあれ。潔一と言を交わしながら一行は進み続ける。
 未だ見ぬ地にそれぞれ思いを巡らせながら……と。
「十夜さん、今日は無口やのね」
「……ん。あぁ。まあ、かもな」
 その最中。『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は隣を歩む『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)へと言の葉を向けるものだ。彼は元々、言を祭囃子の如く零す者ではないが……それにしても今日は何やら静かだ、と。
 なんとなし理由は分かっている。だって縁の視線はさっきから。
「でも不思議、他人の空似に思われへんのやけど――どないやと思う?」
「……さて、な。仮に『そう』だったとしても、だ。今更それに心躍る様な歳でもねぇ」
「でも、困ってはいる?」
 前を往く冽・十夜に向けられているのだから。
 その背姿。あまりにも『似て』いる。縁と。姿がどうのこうではなく……
 どことなく感じる雰囲気が、だ。
 ……父親が亜竜種だなんてのは、お袋の作り話だと思っていたんだがなぁ。
 しかしどうにも心が乱れる。水面に波が立ちて、なんとも……

 と、その時。

「――皆。来るぞ、魔に属する者らじゃ……此方を阻むのであれば、払わねばな」
 『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は感じた。敵の接近を、だ。
 同時に焔の警戒網にも確かに感じ得る――潔一より聞いていた深怪魔なる者達か。
 ……こんな所で足止めをされる訳にはいかぬ。
「我は、必ずや辿り着かねばならぬのじゃ」
 彼女は、確固たる意志と共に態勢を整えるものだ。
 天浮の里。そこに至りて――確かめばならぬ事が、あるのだからと。


「さて……早々に撃退が必要と見る。行くぞ」
「ああ、そうだな……まずは奴さんらを斃してから、かねぇ」
 眼前より迫りくる深怪魔達――抗するのはイレギュラーズ達のみならず、冽・十夜もだ。
 ……彼が近くにいる。それだけで心の気まずさを感じていた縁にとって深怪魔の襲来は丁度いい気逸らしの出来事――と言っていいかどうか。ともあれ深怪魔が至れば、注意は其方に向けねばならぬ。
 向かってくる複数のクジラ型の個体共へと狙い定め――まずは此方に引き付けようか。
 纏めて誘因する事叶わば気を操りて一撃成す。
 あるべき流れを捻じ曲げ内側から裂くは――さて。
「――お前、その技術は一体どこから学んだ?」
「さて、ねぇ。一体どこの誰からなのか」
 冽・十夜が操る能と実に似通っていた。
 ……これをもってして確証と至る訳ではないが、しかし。
 一方で只の偶然などと思おうか――? 刹那に交わした視線の意は、はたして。
「ま、今はとにかくクジラさんからやね。
 鬼が出るか蛇が出るかと思うてたら、とっても大きなお魚さんなんて」
「先を急ぐ故、邪魔をするならば容赦はせぬぞ――御免ッ!」
 応えはあるのか。魔を倒してからであると蜻蛉は思えば、敵意を感知する術に乗ったクジラへと彼女は立ち回る――花弁なる形を模した毒の魔石がまるで矢の様に。投じられ着弾すれば、連中の身を蝕もうか。
 同時に優れた耳にて警戒を成していた咲耶も迅速に動きて刃を一閃。
 直死の一撃が命を絶たんと襲い掛かる――
 クジラという巨体である事を利用し、死角より至れば……一体一体着実に仕留めんとし。
「さて。どこもかしこも、こういう連中は湧いて出てくるもんだな……
 やっぱ何か連中が増えてる原因でもあるのかね――? ま、潰させてもらおうか。
 水の中に行くなら、まぁ水着でも問題ないって事で……着てきてるしな」
「水着だとなんだか力が湧いてくるね……! 乙姫様の加護だっけ、うーん体が軽い!」
「さーて、邪魔立てするなら容赦はしませんわよ――! どっせぇ――い!!」
 続けざま。エイヴァンは前に出て敵意を引き寄せるかのように立ち回れば、クジラ達の意識が逸れた所へ――焔とヴァレーリヤの一撃が放たれるものである。海の中でさえ煌めきを失わぬ炎の能が敵を吹き飛ばすかのように。敵陣を乱すが如く割いてみせよう――
 無論、深怪魔側も反撃の一手は紡いでくる。
 水流を操りてイレギュラーズ達に降り注がせる様に……さすれば。
「やれやれ――なんなのかしらこの数は。化け物に人気で困っちゃうわね?
 そんなに美味しそうに見えるのかしら! でも、そう簡単に食べさせてはあげないわよ」
「連中の動き、そう素早くはないみたいだ。ならやり様は幾らでもありそうだな」
 跳躍し、躱す動きを見せるのはゼファーやシオンである。
 敵の、雨の様に降り注がせる弾幕――これらを自由にさせてはまずいと判断し、ゼファーはエイヴァンと同様に己に引き付ける様に動きを見せるのだ。水中を自在に移動し続け敵に隙が在らば、纏めて吹き飛ばさんと一撃成し。
 シオンもまたその動きを援護する様にクジラ共を穿とう。
 花の様な紋様が刻まれた短剣を振るい、顕現せしめるは鋼の驟雨の如き斬撃。
 敵のみを定める一閃はクジラ達を正確に切り裂きて。
「――砕け散れ痴れ者共よ」
 直後。自らの身に術を紡ぐのはクレマァダである。
 黄金色に輝く瞳が神威を成すが如く。彼女の身体に通ずる能の向上は数多を圧倒す――
 腕を振るえば海流が生じ。激流と至ればクジラと言えど身を崩さんとする程だ。そして。
「潔一よ。今の我の動きに、何かを感じたか?」
 彼女はそのまま、クジラと戦う潔一に問うものだ。
 今の技は――そして翻って絶海拳とは、そもそもその由来はリヴァイアサンの身の捌きを真似たもの。そう、元になった由来があるのだ。そしてその動きに彼が何かを感じたのであれば……
「ああ――なんとなく、海援様に似ている気がしたな」
「……そうか」
「ていうかずっと思ってたが、お前は……」
「いや。今は良い。どうせ後で我自身が見定める事だ」
 この『先』において、より強い警戒と慎重さが必要であるのだと。
 彼女は自覚した。
 ……心の内。鼓動が微かに高鳴るのは、焦燥の意か、それとも……
「敵が怯んでいますね――此方の強さが想像以上だった、と言う事でしょうか」
「然らばこのまま仕留めに入るが最上。押し切るでござる!」
「増援はいないみたいだよ! 今の内に全部倒しちゃおう!」
 ともあれ。イレギュラーズ達の攻勢は深怪魔の反撃を遥かに上回っていた。
 破邪の五芒を冬佳が紡げば抑え込まれる敵側に、明らかに慌てふためく様な色が見えるものだ……敵の方が数こそ最初は多かったものの、イレギュラーズに加えて冽・十夜や潔一もいれば圧倒される程の数の差ではなく。
 故にこそ咲耶は勝機と見て一気に踏み込むものである。使役した魚からの情報によって更なる増援は、少なくとも今の所は見えぬと焔より伝われば……後顧の憂いもない。
「悪いが、こっちもお前達が目的でもなんでもないんでな。
 途上の石ころで転ぶ訳には――いかねぇんだよ」
 ならばとエイヴァンも攻勢に転じるものである。敵を引き寄せる事よりも薙ぎ払わんと。
 傷が増えている個体を中心に、殲滅しうる勢いの一撃を。
 とは言え油断はしていない。案内役を担う潔一などが危機ではないか、常に視線を向けて注意も払うものだ……そして縁やゼファーも残存の敵に畳みかけ、ある程度の傷は蜻蛉が治癒の術を紡ぎて癒せば万全であり。
「これで仕舞かな。さて――それじゃあ改めて『里』の方を目指させてもらうとしようか」
 最後の個体は、シオンが食い破る様に打ち倒した。
 絶死の一撃。声成らぬ悲鳴を深怪魔は立てて――その魂を散らす。
 ……さぁ行こう。道は開かれたのだから。

 潔一の言う天浮の里まで――あと少しなのだから。


「いや……しかし強いな、お前ら。こんなにアッサリと片が付くとは思ってなかったぜ」
「まぁ、私たちも色んな戦いを此処まで経験しておりますしね――
 それよりもこの先ですわよね? 天浮の里は……
 海にある里だなんて、ロマンチックで素敵ですわね。里は他にもありますの?」
「んんー俺は少なくとも知らねぇな。多分ないとは思うぜ?」
 そして再度歩みを進めるヴァレーリヤ達。もう襲ってくる魔物がいないようであればと……潔一にも再び言を紡ぐものだ。里に着く前までにまだまだ話しておきたい事もあるのだから。
「あぁそうや。外の事も知っときたかったのよね――? そうねぇ、今の時期はお祭りの真っ最中なんよ。出店に花火、海辺で泳いで遊んだり。美味しい食べ物もようけあります。この前なんて人によって色が変わる、とっても不思議な花火があってねぇ……」
「へー! そんなんまであるのか外には! やっぱ外はすげえなぁ……」
 と。蜻蛉は里に辿り着く前に、潔一に『外』の事を話しておくものだ。
 見知らぬ土地の事を話せばこそ……彼の目には輝きも宿るもの。
 全く。なんとも年頃の少年らしい所もあるもので。
「ねぇねぇ。こんな感じに誰かに案内されたり、迷い込んじゃったりで、里の外から誰かが来ることってそれなりによくあることだったりするのかな?」
「いや。あんまりねぇな……そもそもが隠れ里だしなぁ。特に少し前なんて神威神楽の方にしか行けなかった訳だし、わざわざ海の方にまでやってくる奴なんていねーしなぁ。海援様が戻ってきた事にすら驚いてた訳だしよ」
 そして焔は己が抱いていた疑問を潔一へと問うものだ。
 そもそもどれ程隔絶していた里であったのかと……潔一曰くは、ほとんど里に訪れる外部の者はいなかったらしい――海を利用して隠れ里とするかの地は早々には辿り着けぬが故か。恐らくその辺りは覇竜領域の中に根差す、亜竜種の里と似たような感じなのかもしれない。
 ――が。気になるのは海援様なる存在か。
「海援様……話に聞いていた巫女様の事ですわよね。
 其方の方は今までどちらに行かれていたのかしら。ちょっと興味がありますわね」
「ええ……それに、完全なる外部の方に関してはどうなのでしょうか。
 あまりに排他的だと些か交流するにも慎重さが必要かと感じる所ですが……」
「うーん。俺はそこまで気にしなくていいと思うけどな。
 俺達だって必要があれば外に出る事もあったからさ。
 ……ただ、前にも言ったけど水神様と戦った事だけは口外しない方が良い」
 ヴァレーリヤや冬佳は里に至る外の者――へ思考を巡らせるものだ。
 潔一の態度を見るにそこまで……とも思うのだが、彼が特別気にしない性格なだけでない保証はないと冬佳は当然なる懸念を抱くもの。故に問えば――どちらかと言えば外云々よりも、里の者が信仰せし『水神』との戦いを口にせぬ方が重要であると彼は推察する。
(……ふむ。後は、彼の話だと海魔が増えているとの事でしたが……特に防御は増えていない気がしますわね)
 同時。ヴァレーリヤは、潔一の話にあった海魔への対策が何かされているか、里を巡りながら観察するものだ――しかし。特に最近増設された様な何かの跡はない。里自体には隠れ里なりの活気はあり、海魔に絶望している様な雰囲気こそないが……
 この里自体にはまだ攻撃は特にないという事か?
 じっくりと里の者らの様子も更に彼女は観察を深めて……
「水神……リヴァイアサンですね。崇めなければ異教徒、とまでは行きませんか?」
「それは大丈夫だと思う。そこまで過激な人はいねーかな。
 あ、ただ……里にはさ。水神様の依り代がいるんだ」
「依り代?」
「言うなれば神子って言うのかな。水神様に近い存在――として崇められてる。
 だから水神様を馬鹿にしたりしたら、氷雨とかが特に怒ってヤベーかもしれない」
 続けざま。冬佳は信仰面の質問を重ねれ、ば。
 どうにも。かの地にはリヴァイアサン……そのものではないが、依り代と謳われる者がいるらしい。あくまで信仰上の存在ではあろうが――強く願う文化が斯様な存在と立場を生み出しているのか。
 故にこそ水神の事を軽んじたりするような言動はまずい。
 ……総じて、なるべく水神の事は触らない方がいい、と言った所だろうか。
 ましてや斃したなどと露見すれば如何になる事か。
「――よぉ。さっきの戦い振り、見させてもらったぜ。傷は無かったか?」
「問題ない。あの程度の輩相手は慣れている」
 そして。潔一との語らいが行われている一方で。
 縁は冽・十夜へと語り掛けていた。相も変わらず、簡素な応えしか介さぬ彼に。
 先の戦いの負傷。ないかと案ずるように……だが。
「無茶しなさんなよ、冽家の旦――」
 あぁいや。

「――親父って呼んだ方がいいかい?」

 縁にとっては其方の方が本命であった。
 冽・十夜。お袋から聞かされていた、親父ではないかと。
 高鳴ったのは、一体誰の心の臓の鼓動であったか。
 冽・十夜は――緩やかに視線を縁に向けて。
「……母の名は?」
「あー……キリエ、だ。桃色に揺蕩う名前を、覚えてるか?」
「……そうか」
 そして、紡いだ。
 『そうか』と、たった一言。しかし妙な、間が――其処に在りて。
 次なる言は何が在るか。次なる言の葉は如何様に零れるか。
 二拍、三拍。刹那とも、永遠とも思える様な時が流れ。
 そして――冽・十夜の口端が再び開かれんとした――その時。

「おっと。着いたぞ――天浮の里だ」

 潔一の方が、先に指差した。
 彼が示した先にあるのは――確かに隠れ里だ。
 深海に近しい洞穴をも利用して作られた里。上陸してみれば、なるほど。これは見知った者でなければ中々に近寄らない所に里が作られている……潔一などといった里の者が陸に出向いてこなければ未だに見つかっていなかったかもしれない。
「……しかしなんで此処でリヴァイアサンが信仰対象になってやがるんだ?」
「ああ、まぁそりゃあ――圧倒的だろ? 存在が」
「まぁそりゃそうだがな。隠れ里まで作って傍に寄り添うなんてのは、な」
 同時。周囲を窺いながらエイヴァンは紡ぐものだ。
 この里の成り立ちを。潔一が不思議がる様にリヴァイアサンの『格』を述べれば――まぁ、理解はするものだが。要は住民達はリヴァイアサンを正に『神』と崇めているのだろう。アレほど凄まじい存在はそうそういない……
 故に彼はリヴァイアサンを蔑ろにしなければうまく付き合えるかもしれないと踏むものだ。少なくとも此方に敵意はない――ならばわざわざ虎の尾を踏む様な敵対的言動をする必要はないのだから、と。
「龍即ち水の神……というのは馴染みのある概念ですし、『あれ』もまさに神域に至った存在。このような里が在る事も十分にあり得ましょう――ただ、大陸においても希少だった亜竜種によって構成されているとは……その点は些か驚きですが」
 一方で冬佳はリヴァイアサンが信仰されるに足る事に違和はない。
 此処も水に関わる竜種とそれに関わる亜竜種の住まう地だったのかと……カムイグラに近い場所に存在しているのならば、どれ程昔から存在しているのか分からぬが。ともあれ歴史もそれなりに在るのならば――信仰もまた、強いやもしれぬ。
「……異郷の神に対する礼節を忘れないようにしておく必要はありそうですね」
「そうね――心読んでくる奴とかいない事だけは祈っときたいけど」
 さすれば冬佳に続いてゼファーも里へと思いを巡らせるものだ。リヴァイアサンの事は知らない振りをしつつ……疑心を抱かれぬ様に。或いは疑心の果てに心を読む者がいない様に――天に祈りを。
 ……此処で祈ったらリヴァイアサンに祈る事になるのかしら?
 なんて、思えば微かに。零れる様な苦笑が彼女の口端に映えるものだが。
「おぉ、潔一帰って来たのか! ――む? 其方の者達は?」
「あぁちょっと此処に帰ってくるまでに海魔に襲われてな……助けてくれたんだよ」
「こんにちは――もしよろしければ、お参りさせて頂いても? 潔一さんの案内があったとはいえ、ここまでどうにか無事にたどり着けたのも、きっと水神様のお導き。感謝の祈りを捧げたいと思っていますの」
「そりゃあええ! あっちに祠が在るから参ってみな」
「これはご丁寧に……忝いでござる。然らば我々はこれにて」
 そして上陸した彼らを、年老いた亜竜種らしき人物が声を掛ければヴァレーリヤや咲耶は丁寧に応対し、彼らの信仰たる地の事を訪ねるものだ。
 老人は潔一とも話していた故、彼とも親しいのかもしれない。いやこういった閉鎖的な里であれば……皆が知りあいにして家族の様なモノだろうか。とはいえ潔一より聞いていた通り排他的な様子は今の所窺えない。
 地上が拓かれているという話自体は既に里にも伝わっているのだろう。
 いつかは……イレギュラーズの様な来訪者が至る事も想定していたのかもしれない。
 まぁ、念のため咲耶は、余所者に聞かれたくない話を影でしているのでは、と。なるべく気配を殺し、陰に潜みて。耳を澄ませて誰ぞの内緒話が無いか――警戒と索敵を行うものだが。
「どうだ? 咲耶、何か隠れて話している事はありそうか?」
「――いや。少なくとも拙者の耳に届く範囲では……日常的な会話ばかりでござるな」
 そしてその援護を行うのがシオンだ。
 彼女の力が咲耶の耳を強化し、その範囲を拡大させる――
 幸いと見ていいのか、こちらを訝しんでいる様な者達は今の所いない様だ。……まだ油断は出来かねるが、里全体で此方を謀っているいる事でなさそうとは見ていいだろうか。
「……思ったよりは話が通じそうな感じだな。
 しかし祠まであるとは……結構以上に、水神信仰は深いのかもな。
 なぁ潔一。何か祀ったり、儀式とかいう風潮があったりもするのか?」
「あぁあるよ。まぁそういうのは神子や周辺の連中が中心になってやるもんだから、俺はそこまで関係してる訳じゃあねぇけど……」
 その様子を見据えつつ、シオンは潔一と更に語らうものだ。
 シオンは鉄帝の事しか分からない。他国の、ましてやこのような海に面する里に対する知識など左程なく……故にこそ物珍しい。何かを祀るという事。何かを称えるという事。何かを崇めるという事……
 いや、まぁ鉄帝ならば武を尊んでいるが故に、それの類似と考えればまだ分かる、か?
 いずれにせよ――彼女の内には未知に対する興味もあったかもしれない。
「あぁ、それと事前に聞いてた事以外にタブーとかあったりするのか? 文化の違いって事もあるだろうけどさ、意識せずに何かやっちまったりするのは避けておきたいんだよな。いつもはやってるんだが、今はやれてない事とかもよ……普段の暮らしを知っときてぇ」
「そうだな……いや、とにかく水神様の事に触れなければ他は大丈夫だと思うぜ。此処も、稀に外に出て地上と交流してた事もあるしな――」
 そのままシオンは潔一の言に耳を自然に傾けており……さすれば。
「……ふぅん。神子、ねぇ。随分と特徴的なのがいるです事」
「水の神……リヴァイアサンの事は、あんま触れん方がええやろねぇ……
 今の所は友好的やけど、どこに、彼方さんにとっての逆鱗があるか分からへんし……」
 ゼファーや蜻蛉は慎重に、この里の様子を窺うものだ。
 水神=リヴァイアサン、が確定的なのはいい。だが彼らの見ているリヴァイアサンと、此方の見ているリヴァイアサンが――同じものとは限らないが故に。どんな存在で、何を齎すか……齟齬があればそこから一気に何かが変じる可能性もあるのだと、ゼファーは理解している。
 蜻蛉もまた、余計な逆鱗に触れぬ様に。もしも万が一話を振られた場合でも、知らぬ振りをして……逆に興味を示して彼方側の反応を探るに留める。それは彼女のみならず、他のイレギュラーズも含めた全員の方針である。
(……暮らしは案外、しっかりしとると言うか……家に使ってる材質やら構造やらがちょっと違うだけで、雰囲気は覇竜の里の方に似てる気が……)
 同時。彼女の瞳は天浮の里の暮らしにも向いていた。
 如何な食事を取っているか。如何な場所に住んでいるか。
 生活の中一つ一つにも侮れぬ発見があるかもしれぬのだ……そして実際、この様な地に住んでいるが故か、食文化は魚に傾倒している様だが――それ以外の雰囲気は地上とも左程違いはないようにも見受けられる。
 つまり。今の所隔絶した文化の隔離はなさそうなのだ。
 上手くすればこのままトラブルなく彼らと接する事が出来るやもしれぬ……が。
「…………さて。しかし、なんとも淀んだ気配も感じるの」
 同時に、クレマァダは――胸の内を揺さぶる何かを感じていた。
 この先に進めば何かあると感じる……不思議な感覚。
(……余計な口を開く気はないが、どうなるかの)
 我は祭司長。
 これより先、皆との共通認識たるリヴァイアサンを斃したことは隠せても。
 その信仰まで隠すことはできない。
 遠き海とて相手がこの身を知らぬとは言い切れぬ。信仰者であることが解っておるのに滅海竜を知らぬと言うのは相手の信頼を損なうであろうから――故にこそ、もしも己に問われたのならば応える他あるまいと思考するものだ。
 礼は尽くすが遜らず、己の信仰にやましきものなしと証立てる。
 ……無論、何もなくばそれが一番いいのだが、と。
「おぉ、おぉ……水神様にお祈りしとるのかい? 若いのに感心じゃのう」
「あ、こんにちは! リヴァ……じゃなくて水神様ってどれぐらい凄いの?
 ボク、外から来たから、ちょっと聞いてみたくて!」
「あぁ。自慢じゃねぇが……生憎と俺は田舎モンでなぁ。
 その『水神様』についてはよく知らねぇのさ。どんな神様なんだい?」
「うむうむ。水神様はの、そりゃあもう偉大なる存在での……」
 そして焔や縁は、礼を失さぬ様に作法を心得ながら――すれ違う里の者達へと声を掛けてみるものだ。そして同時に窺うのは……彼らが外の世界をどう思っているか、という反応。
 言の答えよりもその抑揚を聞く。態度を、反応を見据え判断するのが一番だと……
 隠れ住んでいるぐらいだからよく思っていないか――? とも判断していたのだが、信仰を理解すれば友好的な様だ。そして彼らにとって水神とは中々に絶対的な存在らしく、信心深い者も多い様で。
「……ねぇ潔一君。そういえばさ、此処の一番偉い人に会えたりとか――しないかな?」
「ん。偉い奴、か……いや止めといたほうが良いと思うぜ。
 偉い奴って言ったらまぁ妃憂はともかく、氷雨の奴が気難しくてな……」
「氷雨……?」
 然らば焔は――長の考えも一度観察しておきたく潔一へと尋ねてみる、が。
 彼は些か苦い顔をするものであった。何か、口を噤んだような……と、その時。
「さて、っと。てな訳でどうするお前ら?
 里には無事に着いた訳だけどよ、まだもうちょっと進んでみるか?
 折角だからもう少しぐらいなら案内してもいいけれどよ――」
「……或いは族長に一度報告に戻るも手、だな」
 その時。潔一に導かれて少し、開けた……広場の様な所に着いた。
 周辺は天浮の里に住まうであろう亜竜種の姿がちらほらと見える――
 此処からどうするか。今少し潔一と共に里を巡ってみるか。
 それとも冽・十夜の言う様に一端戻りて地上の者達に情報を共有するか。
「待て。判断する前に一つ問おう、潔一よ。
 我と同じ種族——コン=モスカの血族を見たことはあるか?」
 ――だからこそクレマァダは問うた。
 自らと同じ顔を見たという者がいる。
 それが誰なのか、我は知りたい。誰ぞ、知らぬか。我と同じ顔とは、一体――

「――何やら穢れた泡が混じっていると思ったが、そこのお前達は何者か?」

 瞬間。広場にいたイレギュラーズ達に声が掛けられた。
 それは天より。気配を感じ、視線を向けてみれば――宙に浮かぶようにこちらを見下ろしてきていた二つの影があるものだ。一つは蒼き肌を携えた、傲慢なる様子の亜竜種。
 そしてもう一つは。
「えっ、アレって、クレマァダちゃんと……」
「同じ顔、に見えるでござるな」
 焔や咲耶の隣にいる――クレマァダと瓜二つと言ってもいい存在。其は。

「――お母様?」

 微かに、震えた様な声が、クレマァダの口より紡がれた。
 その姿の名は、カンパリ=コン=モスカ。そう、である、筈だ。
 見間違いなどでなければ。かつて消えた、己が、母――
「……あちらが海援様だよ。少し前に、この里に帰還した……な。
 隣のがさっき話した神子の――氷雨(ひさめ)だ」
「氷雨さんですか……あちらの方からは、ただならぬ気配が醸し出されていますね」
 同時。潔一が小声で冬佳らへと情報を簡易に伝えるものだ。
 さすれば冬佳にも分かる――両者共に、妙な気配がその身に内包されている、と。
 特に顕著なのは氷雨なる亜竜種の方だ。
 隠しもせぬ。今にも膨張し、破裂しそうな程に内包されている気配は……まさか。
「リヴァイアサン……? 馬鹿な、そんな筈が……」
「ありませんわ。だって、かの存在は未だ……」
 封じられている筈、とは喉の奥に引っ込めたのはヴァレーリヤである。
 そう。あり得ない。かの封じられた竜が人の姿を取る訳がないのだ。
 クレマァダは気分が悪く成る程に高鳴る鼓動の中で――しかし高速で思考を巡らす。
 そもそも竜は未だ眠りと共に在るのだと。
 あり得ないのだ何もかもが。そうだ、ならば、これは。
「神子とは……まさか『そうある』様に願われた者達か……!? お母様、一体何を――!」
「――『滅海の主』。彼らよ。彼らこそが、水神を封じた大罪人共」
「ほう――こいつらを連れてきたのは、まさか潔一か?」
 その時。海援殿と呼ばれたカンパリは指差すものだ。
 イレギュラーズ達を。優しい微笑みと、共に。紡がれたクレマァダの叫びは――まるで。
 意図的に無視しながら。
「……何やらまずいな。此処は退くぞ」
「ああ――そいつが良さそうだ。周りが戸惑ってる間に、行こうや。潔一。アンタは――」
「俺は此処が故郷だ。大丈夫。俺は俺で上手く動くさ――さ、行きな!」
「……潔一。無事でいろよな」
 さすればカンパリの糾弾に対し、周辺の亜竜種は戸惑っている。
 此処まで慎重に、水神を軽んじる事もなくイレギュラーズ達が行動して来たが故だろう――外の者達とは言え、彼らが水神様を? まさかそんな筈は……と誰もが口にしており。故にこそ冽・十夜が皆に促し、縁が承諾する。シオンが潔一の方を振り向けば……彼に関してはこのまま残るようだが。
 あの海援殿の言により周辺には一瞬にして不穏なる気配が流れつつある。
 その、淀んだ気配がイレギュラーズ達に向く前に――退くのだと。
 目的も果たした事だ。琉珂の感じていた同胞の気配の正体は突き止め、天浮の里にも辿り着き、そしてこの地に蔓延る『異質』なる気配がどこから発されているかも――全て、その瞳に写したのだから。
「待て! お母様! どうして、何故――」
「クレマァダ! 行きますわよ!!」
「……全く。やっぱりリヴァイアサンなんてのが関わると碌な事がありそうにないわね」
 が。クレマァダはどうしても止められなかった。
 問わねばならぬ。何故あなたが、と。何をしているのか、と。
 ……だが。氷雨の膨大なる気配に押し隠れてはいたものの。
 母に見えるその存在からは、氷雨とはまた違う淀みが――感じられていたかもしれない。
 故にこそヴァレーリヤやゼファーはクレマァダを掴んでも一度天浮の里から逃れんとするのだ。
 あの、気配は。
「――まさか。魔種、か?」
 一度だけ、広場の方をシオンが振り返った。
 さすれば其処には、未だ変わらぬ微笑みが在る。
 ――まるで仮面の様に。

 まるで。『何か』がその仮面の下に、潜んでいるかのように。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 天浮の里には無事に辿り着きました。が、しかし……皆さんは同時に不穏なる影も感じえたようです。
 ……この里にありし物語は、また次回にて。
 MVPは戦闘の警戒や、里で礼儀作法など様々なスキルを駆使したあなたに。

 ありがとうございました。

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