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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>蒼き海の亜竜種

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 シレンツィオ・リゾート四番街『リヴァイアス・グリーン』
 島の北に位置する、自然豊かな区域たるその地に、人影があった。
 その者は青き肌を持ち、白き角を宿す存在……

 ――『彼女』は亜竜種であった。

「はぁ……地上の花々、とっても綺麗……うぅ。幾つか持って帰ってもいいよね……?」
 名を、卯ノ花(うのはな)と言う。
 人目を忍ぶように木々の間に紛れながら足元に咲く色とりどりの花々を彼女は愛でている。傍目に見れば実に穏やかな雰囲気を纏っていると誰もが思うだろう……実際に彼女の気質はそういった色に染まっているに見える、が。
 彼女は、亜竜種と言っても――覇竜領域デザストルに集落を持つ亜竜種の一族ではない。
 『別』の場所から訪れた亜竜種だ。

 ――よいかの卯ノ花。どうしても外に行きたいのなら、今ぞ騒がしい地上の様子を見てくるという事で許そう。が、みだりに人前に姿を晒してはならぬぞ……分かっておるな? いいか。分かっておるじゃろうな――?

「はぁ。もうちょっと見ていたいけど、妃憂に怒られるし……そろそろ帰ろうかな」
 そんな彼女は『里』を出る際に己に告げられた言葉を脳裏にて反芻する。
 彼女の属する『里』の里長――の跡取り娘と言える人物から厳命を受けているのだ。外に行ってもいいが、決して無意味に人前に出るなと……まったくもう。少しは、話に聞く四番街を楽しんできてもいいではないか。折角にも開けた、そして『里』では見ない様な煌びやかな光景が広がっているというのに――
「――ん、あ、あれ?」
 が、その時。
 帰る前にと最後に街の方を眺めんとそちらに意識を向けていたが故に――卯ノ花は気付かなかった。己が周囲に迫る、魔物の姿に……
 それは深怪魔。
 ディープ・テラーズとも呼ばれる、近年この辺りに出没している魔物の一種だ。
 おぞましき造型の個体共が蠢いている――
 無数の触手を蠢かせにじり寄るタコの個体。
 巨大な殻と見るだけで目が眩む様な、タール色を宿すオウムガイ型。
 そして――天には、空舞う巨大なマンタもいつの間にやら。
「な、なにかしらアレ――わぁ!!」
 直後。そのマンタから何かが投じられたと思えば――
 地上にて、炸裂が生じた。
 ――爆撃だ。マンタが身の内から爆発物を顕現させ……地上に投擲してきている。
 さすれば、美しき木々の身が爛れるものだ。
 炎が燃え移れば緑は黒へと変じ、灰へと終わりて。
 なにもかもが――燃え盛っていく。
「わ、わぁ……! 妃憂……!! 氷雨……!!」
 直後にはタコやオウムガイ共の歩みも来るものだ――が。
 マンタの爆撃はある程度無差別なのか、先程の炸裂で包囲に穴が開いた。卯ノ花は瞬時に其方の方へと駆けて、なんとか魔物共から逃れんとする……
 息を切らして走りて。とにかくどこか安全な所はないかと。

 己が心に顔映りし、大切な者達の名前を紡ぎながら……


 四番街の近くに深怪魔が現れる。
 その情報はいち早くローレットのイレギュラーズに齎された――
 よってすぐさま出向く影が幾つも。その内の一人が越智内 定(p3p009033)であり……
「全く。シレンツィオの近くにも出てくるなんてな」
「近くの古代遺跡や無人島に人が出向いてる中だ――人手が足りなかったみたいだな。
 ま、俺達に任せとけってんだ!」
 更に続く影はカイト・シャルラハ(p3p000684)もであった。深海の『都』から来たという少女の話を皮切りに、今やシレンツィオではコイン状の竜宮幣(ドラグチップ)を集めんとする動きが活発化している――故にこそほとんどの者達がダカヌ海域へと向かっている最中になんたることをしてくれるのか。
 騒ぎを在った個所を見据えれば、おぉいるいる。深怪魔の姿が幾つも。
 同時に。騒ぎに巻き込まれ逃げ惑う観光客も幾つかいるか――
 急いで助け出してやらねばなさそうだと思考しつつ。
「――ん?」
 カイトは見た。その逃げる姿の中に、一つだけ。
 蒼き姿の亜竜種がいたことを。
 ――デザストルにも人の手が入りつつあり、亜竜種と言えど必ずしも珍しい存在ではない、が。
 しかし。なぜかその姿から眼を離せなかった。
「だ、誰か……たすけて!」
 なんとなしその姿の気配からは――
 かつて。リヴァイアサンとの戦いで出会った『渦潮姫』に、よく似ていたのだから。

GMコメント

●依頼達成条件
 深怪魔の撃退

●フィールド
 シレンツィオ・リゾート四番街の付近です。
 時刻は昼。視界的には問題ないでしょう。
 四番街は自然地帯が多い場所であり、幸いにして騒ぎはこの一角だけの様です。
 敵を撃退し、平穏を取り戻してください――!

●敵戦力『深怪魔(ディープ・テラーズ)』
・ヘールポップ×10
 タコ型の魔物です。
 牙による強力な近接攻撃と、動きを縛る触手の動きに警戒する必要があるでしょう。

・レーテンシー×4
 オウムガイ型の魔物です。巨大な殻を携え、防御力が高いです。
 また自身に【棘】効果を齎す付与効果スキルも使う事が出来るようです。
 攻撃自体はその巨大な身を生かしての突進などを行ってきます。

・クラウン・エピゴウネ×1
 一際巨大なマンタ型の魔物です。
 常に空を舞い、範囲遠距離攻撃を繰り広げてきます――その攻撃には【火炎系列】BSを高確率で付与する事があるようです。更に【怒り無効】の能力を宿している様です。

 まるで重爆撃機の様な存在です。しかしあまり敵一人一人をじっくりと認識はしていないのか、体力の減った者などを集中的に狙うと言う様な事は一切せず、とにかく爆撃を繰り返してくるだけの様です。また、その爆撃により、上記の他の魔物も時折被害に巻き込まれたりもします。

●『渦潮姫』卯ノ花
 蒼い姿の亜竜種です。
 戦闘能力は恐らくないのか、魔物たちの襲撃に逃げ惑っています。
 彼女はデザストルに存在する集落の者ではありません――彼女と出会えば、なんとなく雰囲気やたどたどしい気配からそういった事実を察する事が出来るかもしれません。

●浮・妃憂(ふう・きゆう)
 上記の卯ノ花を地上へと使いにやった人物の様です。
 今回のシナリオ上には登場しません。

●逃げ惑う観光客×10人
 その他、騒ぎに巻き込まれている観光客もいる様です。
 今回の成功条件には直接には関わりませんが、出来る限り助けてあげてください。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <潮騒のヴェンタータ>蒼き海の亜竜種完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時12分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
越智内 定(p3p009033)
約束
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

リプレイ


「たまたま水着を着てる時に事件だなんてね――
 でも、その方が加護があるなんて……運が良いと見るべきなのかな」
「……水着で強くなるって何なんだよほんと。まぁ強化される分には悪くないよな」
 彼方。見える騒ぎの現場へと駆けつけるはマルク・シリング(p3p001309)に『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)らだ。此処には只の休暇がてらのつもりだったのだが……まさか水の装いがあらば加護が齎されるとは。
 些かに困惑する心もあるものだが――魔物共の出現に重なった事に損はない。
 確かにどこか、体の奥底より湧き出でる活力が彼らの背を後押しするもの……
「ま、兎にも角にもまずは観光客たちの安全確保が最優先ってな。
 ――俺は前に出るぜ。避難誘導は頼む」
「ええ! ――皆さん、あの怪物は僕らが倒します! 皆さんは急いで四番街から避難を! 空を飛ぶあの巨大なエイから離れるように避難してください!」
 さすれば『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は水着を着ているだけで齎されるという加護に訝しみながらも、魔物の撃退と避難誘導が優先だと思考を纏め直す。
 まずは眼前。迫りくるタコ型のヘールポップ共を引き剥がそうか。
 逃げ惑う観光客達とすれ違いながら――エイヴァンは名乗り上げる様にその存在を示すものである。然らば魔物達の目は彼に向き、その隙を突いてマルクが声を張り上げるのだ。逃げ道は此方だと示す様に統率。
 直後にはマニエラもマルクの誘導が完了するまで、特に数の多いタコ型の魔物……ヘールボップらを優先的に削りに入る。直接触れ得ると同時に生じる、無数の闘気の刃が彼らの肉を穿たん――
「海産物がこんなに気軽に上陸してくるとは。
 沖に出て収穫を成す漁師の方々が廃業になってしまいそうでせうね――
 とは言え、観光地を乱すのであれば護らないとなりませんね」
「観光客のみなさまもいるところで、こんなにもタコさん達がいるなんて……! 大変なのです! ぜったいぜったい、ここで抑えてみせるのです……!!」
 更に続く形で『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)と『眠らぬ者』ニル(p3p009185)も魔物らの進撃を食い止めんと至るものだ。揺らめくクラゲを想像させる水着姿のニルは煌めく様に可愛らしく、しかし確固たる意志をもってして立ち向かう。
 負を撒き散らす泥をもってしてタコやオウムガイの身を縛り、ヘイゼルは彼らの意思を此方へと向ける様に立ち回ろう――まずもってして観光客の避難が完了してからである、と。
「リゾートは、安全で華やかだからこそリゾートたり得るんです。
 なのにその安全を脅かすなんて……決して見過ごせません。仕置きが必要の様ですね」
 次いで『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)も動きを見せるものだ。
 彼女の歌声は彼方にまで響くが如く。動く味方らに更なる戦の加護を齎し、彼らに戦う力を与えよう。彼女自身にも、可愛らしき水の装いがあらば『竜宮の波紋』による戦闘力の向上がある――さすればより透き通った声が響き渡るものだ。
 ――音楽という娯楽を生業とする己が斯様な事態を見過ごせようか。
 彼らの存在は雑音極まる。このような海産物たちは早々に退場してもらおう……と。さすれば折角のリゾート地が台無しだと『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)も往くものである。
 彼の装いはスキューバダイビングの姿。やれやれ、この公園はダイビングするにも丁度いいというのに……なぜこのような騒ぎが生じてしまったか。何事もなくば今一時、ダイビングを楽しむつもりであったというのに。
 遠目にはリヴァイアサンの像が見える……かつての戦いを想起させる、竜の像。
 ああ全く……この公園はダイビングするにも丁度いい場所だというのに……
 喪となる平穏を取り戻さんと、カイトは現場へと高速で飛翔し――
「――んっ?」
 刹那。見た。
 逃げている者達の中に、亜竜種が混ざっているのを。
 ……覇竜の領域が拓かれているのだ。少し前ならいざ知らず今の時代、シレンツィオに亜竜種がいてもそこまで不思議ではない、筈だが。何故だかカイトの胸はざわついた。
 なぜなら――その亜竜種から感じる『気配』は――
「わ、わあああ! た、たすけて――!!」
「――! と、マンタの野郎、上から好き勝手しやがって……! まずはあっちからだな!」
「本当にめんどくせぇなぁ。こんなとこにまで進出してきてるなんてよ。
 ……あの戦いを思い出すから、正直ここで暴れてくれるのは勘弁願うぜ!」
 が。彼女の成す悲鳴がカイトの思考を現へと引き戻す。
 ――そうだ。『そんな筈』はないのだと、思えばこそリヴァイアス・グリーンを荒らす者共の排除が最優先……『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)と共に飛翔し、空舞うマンタへと高速に接近するものだ。
 そうして成しえるはマンタの移動を阻害せんとする動き。
 無機質に動き爆撃を続ける大型機械の様な存在なれど――その道を阻む事は出来ようと。
 カイトは神速の速度の儘に斬撃一つ。続いてミーナはマンタへと付きながら地上のタコ共へと術式を展開し薙ぎ払う……遠くに見えるリヴァイアサン像の影が、かつての激戦と死闘を思い起こさせるが、頭を振って眼前を見据え。
「リゾート街の付近でこの様な事が起きるとは……
 それに些か気になる容姿の女性もいるが……いやとにかく騒ぎを収めねばな」
「うぉぉぉリゾートで楽しめると思ってたらなんだよコレ!!?
 くそぉ! マンタが空飛んでたりタコが這いずってたり……堪ったもんじゃあない!」
 直後には『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)も前線へと到達せしめるものだ。タコの形を模すヘールホップをベネディクトは槍撃と共に抑え込み、定は折角の休暇を邪魔する魔物共へと怒りの咆哮。
 自らの存在を誇示し、彼もまた観光客の避難を完了せんと狙うのである――
 で、あれば。定の近くへ特徴的な肌色を宿す亜竜種が駆けるもので……
「大丈夫かい!? ここは危険だから向こうの方に隠れててくれ!」
「は、はい……! ありがとう、ぇぇと――地上の人」
「んん? ……あ、あぶねぇ!!」
 刹那。定が天を見据えれば、マンタの無差別爆撃が降り注いできていた。
 故に咄嗟に庇いて避難を促すものである。
 ――まるで。海の底からやって来たかのような、人魚姫の如き亜竜種へと。


「オラ、マンタ野郎! マンタの癖に空なんて飛びやがって……!
 おめーは飛び跳ねるのが精々の筈だろーが! さっさと海に落ちやがれ!!」
 イレギュラーズ達の介入。同時に生じる魔物達との衝突と戦闘音――
 その中でカイトは引き続き空のマンタの注意を引かんと奮闘するものだ。如何に機械の様に爆撃し続けるとは言え生物は生物。ならば目立つ事で標的にされやすくなる効果は見込めるだろうと……マンタを槍で抉りながら彼は只管に動き続ける。
 が、やはり気になるのか、戦いの最中にも時折、亜竜種の女性へと視線を向けるもの。
 彼女はイレギュラーズ側の後方側へと到達出来ており、ひとまずイレギュラーズ達が突破されなければ安全圏と言える場所にいるだろうか。彼女の側も、前線で戦うカイト達が気になるのか視線が合う事もあり……
(おっと――! 心配するなよ、俺はまだまだ余裕だぜ!)
 故にこそ。彼女を心配させぬ様に親指を立ててサインを見せるものだ。
 こんな程度の敵。かつてのリヴァイアサンを思い起こせば大した事は――ない!
「ここは私達に任せて早く逃げろ! あいつらのいない方向くらいはわかるだろ!
 グズグズしてて巻き込まれたら流石に知らねぇぞ――急げッ!!」
「は、はいぃ!!」
 そしてマンタの進行方向を抑えていたミーナだが、真っすぐ進ませないだけなら一人でも大丈夫そうであれば……彼女は地上側へと赴くものだ。逃げる者達の避難を、心揺さぶる様な声色で更に促しつつ、撃を振るうはタコやオウムガイ型の魔物共。
 あぁ、正確にはディープ・テラーズと言うのだったか?
 まぁなんでもいいが、さっさとご退場願うとしようか。
「お前ら程度にかまけてる暇はないんでな!」
 彼女は紫色を主体とした麗しき水着を装いながら。
 連中へと撃を叩き込んでいく――纏まっていれば再度術式を展開し、て。
「オウムガイさん達、ちくちくするのです……
 でもでも、負けないのです……! タコさんと一緒に、ながしてあげます!」
「傷が深い方は一端下がってくださいッ! 援護します――!」
「着実に削って行こう。観光客を守るのも難しいしね。
 さぁ。こっちが相手さ――掛かってきなよ。気持ちの悪いタコめ」
 更にニルもオウムガイ型のレーテンシーへと狙い定めるもの。
 涼花による支援の歌声を受けとりながら――纏めて連中を薙ぎ払おうか。レーテンシーは殻に閉じこもり、茨の如く反撃せしめんとするが……しかし先んじていたミーナの一撃には、斯様な反撃を無効化せしめる効力が含まれていた。
 であればニルは今の内にとタコ諸共薙ぐのである。
 無効化されている今こそがチャンスであると。それに、ある程度の傷は涼花の歌声――治癒の権能を宿す、透き通る様な――が響き渡れば、危篤な傷には至らぬもの。
 そして。これ以上観光客達に追い縋られても面倒なのだとマニエラも彼らを護るべくタコの追撃を阻み、その身を削り切らんと速度と共に――ディープ・テラーズ共を薙ぎ棄てて。
「ヘールホップから突き崩そう。空のマンタ……エピゴウネだったか。
 アレも早々に倒しておきたい所だが、空浮かぶ奴にばかりかまけてもられん。
 ――爆撃にだけは皆気を付けろよ。油断しなければ必ず押し返せる筈だ!」
「ま、一応奴さんをどうにかできないか――試してはみるかねぇ、っと!」
 続けざまにはベネディクトが声を張り上げつつ、天より降り注ぐエピゴウネの爆撃を躱し、ヘールホップ共へと一閃する。後方に逃げている住民らを追わせはしないと……同時にエイヴァンもまた、爆撃の炸裂を凌ぎながらエピゴウネへと一撃穿つもの。
 まるで撃ち落とすかのように。マンタの身へと重圧なる攻勢を仕掛けようか。
「それでもまだ落ちないか。巨体だから随分堅い様だね……だけど、もしかしたらそれっぽい幻で爆撃先を誘導できる、か? やれるだけの事は試してみるとしようか」
 次いでマルクがエピゴウネへと視線を向けながら行うは、幻影による誘導の試みである。連中は人間を排するべく此処に来ている筈……如何に地上を気にせずに爆撃を行っていると言っても、獲物足り得る人間の姿が見えれば其方に気取られるのではないかと。
 逃げ遅れ、右往左往するかの如き観光客の幻影をもってして攪乱せん。
 同時に地上の敵に対しては纏めて薙ぎ払う様に。
 負の泥を波の様に顕現させてタコ共を押し返そうか――さすれば。
「観光客の方々は余り健康的ではなく美味しくありませんので、此方で宜しく御願い致します。此方よりの招待を受け取らないとあらば――まぁ、相応の『歓迎』はご覚悟頂きましょうか」
「てか思ったんだけどさ……深怪魔って食べられるのかな? タコ、好きなんだよね僕! 食べられるなら後で刺身に、茹でに、わさびに漬けてたこわさに……あぁより取り見取り!」
「??? もしかして、タコさんは『おいしい』ですか? なら、ニルも興味があるのです!」
 ヘイゼルや定、ニルも続くものだ。観光客達と距離が取れれば、これよりは敵の撃滅へと移行する……と同時に、タコ達の背筋(?)に悪寒が走る。えっ、なに? 今なんて言ったこの人間達? えっ?
 恐れ。抱いたかが故かは知らぬが、イレギュラーズを打ちのめさんとオウムガイは突進。
 であれば殻の直撃を避ける様に――横合いからヘイゼルは撃を一閃。神聖なる力を纏いし一撃は強固なりし殻でさえも亀裂を生じさせんとする勢いであり……続くタコらの触手も定は跳躍しながら躱し続け、想像せしめるは彼らの『味』。
 食欲が沸けば力となったか。紡がれる一撃一撃に力がこもり、手当たり次第に食料として捕獲――違う。とにもかくにも、しっちゃかめっちゃか追い込んでいくものだ。タコ焼きもいいなぁ。
『■■■……■■■■■■!!』
「痛いか? 苦しいか? しかし皆が安らいでいるこの場所を壊させる訳には行かない――これでも尚に此方へと向かってくるならば、この場から退場して貰うとしよう!」
「攻めてきといて逆ギレとか――こちとら公園を荒らされて今にもブチ切れそうなんだ。
 三枚おろし程度じゃ許してやらねえからな! 覚悟しとけよ!!」
 と、イレギュラーズ達の成し得る攻勢が魔物共を着実に追い詰めていれ、ば。
 しかしあちらも邪魔な人間を粉砕せしめんと思考するのか――退却よりもより強い反撃に転じんとするものだ。エピゴウネの爆撃による炸裂と衝撃が戦場を襲えば、その刹那を利用してイレギュラーズへと撃を紡ぐ。
 タコ共が触手を用いて動きを止めんとし、そこへオウムガイが再なる突進。
 ――しかしこの程度で揺らぐものかと、ベネディクトは踏みとどまり応戦の一撃を。
 空でもカイトが幾重にも渡る撃を成して――マンタの身を確実に削り得るものだ。
 成させるものかと。無法なる魔物如きに、穏やかなる象徴たるこの地を。
 いざや互いに更に一歩踏み込めば。
 戦いの決着が近いのを――誰もが感じていた。


『■■――!!』
 タコ型の魔物たるヘールホップが声にならぬ悲鳴を挙げる――
 この戦場において最も数の多い個体であるが、故にこそ彼らはイレギュラーズにより狙われていた。個体ごと、というよりも纏まっている所を一気に薙がれる様な攻撃で……だ。さすれば彼らの数は順調に減りつつあるものである。
「あともう少し、ですね……! 押し込んでいきましょうッ! 大丈夫。必ず――勝てる筈です!」
「柔い身体で凌げると思うなよ? そろそろ終わりにさせてもらおうか」
 故に涼花は治癒と援護の歌声を決して途切れさせない。ここが正念場なのだと思えばこそ……喉を振るわせ続け、自らに出来得ることを常に繰り広げるものだ。彼女の歌声が皆の力となり、傷を癒し、活力をも満たす高揚となれば――マニエラはヘールホップらを討滅するべく踏み込むものだ。
 堅いレーテンシーよりも手数をもってして連中を叩き潰す。
 触手を躱し、イレギュラーズを呑み込まんとする牙を躱し。
 穿ち貫くは多重に生じる残像と、神速なる一閃――
「ここはリゾート地なんでな。招待されてない海産物は、只の食材になってもらおうか」
「んだからよ――そろそろ海に還ってもらおうか、よぉ!」
 さすれば、魔物共の攻勢を引き付けていたエイヴァンは未だ堅牢。自らの身に渦巻く気と活力を循環させ……受けた傷も修復せしめれば彼が倒れたりしようものか。同時に紡ぐ反撃の一手があらば、逆に敵の体力を削り……そして空舞うカイトもエピゴウネとの戦いを終わらせるべく、最後の超速へと至る。
 巨大なるマンタと言えど、ここまで紡ぎあげてきた傷の数々が明らかに奴の力を奪っている。力なく、不安定に揺らめく軌道は限界が近い事の証左でもあろう……故に、緋色の翼が苦しみから解放せん。
 朱き風は質量を抱くが如く。一筋の刃と成りて――エピゴウネを芯から穿とう。
 さすれば、エピゴウネの高度が一気に落ち始める。
 動きも更に異常を来して、だ。伴って爆撃も完全に見当違いの方向へと堕ちてくるものであり……爆撃が無くなれば最早天から降り注ぐ一撃を警戒する必要はなく――後は。
「こいつらだけ、ってな。そのクソかてぇ殻も、そろそろ叩き割らせてもらうぜ」
「オウムガイさん、ごめんなさいなのです。でも、ニルも手加減は、出来ないのです! えいえいっ!」
 地上。眼前の敵だけに集中すればいいのだと、ミーナとニルは魔力を紡ぎあげるものだ。
 それは極大の破を宿した零距離縮撃。
 圧倒せしめる威力は例え殻の内に籠ろうとも――防げるものではない。ここぞという時の為に残していた一撃がレーテンシーを粉砕し……堅牢なる身で前線を支えていた一角が崩れれば、後は早かった。
「今だ! 押し込めッ――!」
「動きが乱れたなら……各個に狩っていくだけだ、ね。貝の味も、楽しみだなぁ……!」
 ベネディクトが機を逃さずに往く。普段よりも動きやすい、己が身の軽やかさを実感しながら――見据えた勝機を、己が手で抉じ開けるべく。さすれば疲弊し、茨の如き棘を失ったオウムガイへと定も渾身足り得る一撃を放つものだ。
 さすれば、最早魔物側に押し返せる様な戦力はなかった。
 抵抗はあるものの、着実にその数は減っていき……最早片手で数える程度で。
「じゃあ後は、もう虫の息のマンタだけだね。いや打ち上げられた魚の息……とでも言うべきかな?」
「楽にして進ぜよう、とでも申し上げましょうか。これにて――仕舞でせうね」
 直後。マルクが見据えるは天より堕ちてきているマンタの影。
 駄目押しとばかりにヘイゼルと共に撃を成す――空間を歪曲せしめる呪術の攻勢は空にも届きマンタの身を捻じ曲げ、そしてマンタを支援させぬ為にヘイゼルが地上の残存の敵共を抑え込むものだ。
 さすれば、マンタたるエピゴウネは完全には力を失おう。
 海の方へと堕ち……水面と接触したかと思えば、次に生じるは爆発。
 内部に残っていた爆撃の種が妙な起爆でもしたか――? いずれにせよ、戦場より離れた地へ落着したが故の衝撃。被害は一切なく、同時にその水飛沫は戦いの終幕を意味する合図となりて……

「わ、わぁ……! みんな、強いんだね……! 私、ビックリしちゃった!」

 ――同時。少し離れていた所に隠れ潜んでいた者が近付いてくるものだ。
 それは戦いの初めに姿を見ていた亜竜種。
 まるで――この海の化身であるかの様に――
 美しい蒼を携えた、亜竜種だ。
 彼女は助けてくれたイレギュラーズ達に礼を言いに来たのだろう。にこやかなる表情を携えている彼女に、最早不安の色はなく。
「あ。あー……アンタ大丈夫だったか? こんな事に巻き込まれて、災難だったな」
「怪我はなかっただろうか? ……しかし此処に亜竜種とは珍しいな。覇竜領域からは大分離れているが――いや族長の琉珂も訪れていれば、おかしいとまでは想わんが……」
「えっ? 覇竜領域? 違うよ、私はこの近くにある天浮の里から――あっ」
 であればカイトは地上へと降りたち、再度彼女をまじまじと見据えるものだ……やはり、どことなく『水竜』さまに似ているような――いやいやしかし水竜さまは眠っている筈だ。起きてたら潮風が違う感じになる筈……やはり勘違い、だと思うのだが。
 それでもどこか、何か。風が、妙だと。
 感じれば――続けてベネディクトも彼女の身を案じ、声を掛けるものだ。
 彼もまた、カイトとは別の……何か違和を感じていたのだから。
 どこか。今まで出会った事のある亜竜種とは違う様な……
 と、想いて探りを入れた――訳ではなかったのだが。蒼き亜竜種は自ら口を滑らせた。
 ――天浮の里? なんだろうかそれは、今までに聞いた事のない名だが。
「あっ、あっ、あっ、これ言っちゃいけなかったんだった。
 ううっ妃憂に怒られるかも……でも命の恩人だからいいよね!」
「……この近くにある、って言ってたけれど。どこか、島にでも住んでるの?
 あ、いや、その、あんまり詮索したいとかじゃなくて、純粋な興味というか……」
「ううん。島じゃなくてね――海にあるの!
 正確には地上に繋がる洞穴があるというか……私達は昔からそこに住んでるんだよ!」
「はわわ……海の方にお里があるのですね? ええと、その……」
「――あっ! 名乗ってなかった,私は卯ノ花って言うんだよ!」
 慌てふためく『卯ノ花』と名乗った亜竜種――は。定とニルが尋ねた所によれば、少し離れた所にある……亜竜種の里からやって来たらしい。位置的には神威神楽の方に近いのだろうか――? そう考えればこそ覇竜領域とは交流のない、新たなる里と言えるが。
 まさかこの地にそんな地があろうとは……
 これもイレギュラーズが切り開いたが故に紡がれた縁だろうか。もしも未だ絶望の青が攻略されていなければ……その天浮の里という地を知り得ることすら叶わなかっただろう。無論、卯ノ花と名乗った彼女がこうして海洋側の地上に出る事も……
「今日はね、ちょっと外に出てきたくて……でもでもあんなのが沢山いるだなんて思いもしなかったんだ。天浮の里に近くに時々出てくる事はあったけれど、あんなに大群で、しかもこんな所にまで来るなんて……」
「卯ノ花さんの所にも? ……ディープ・テラーズの急増……今回の事件、何か関係があるのかな」
「ふむ……全く何の関係もない、とは言い切れねぇだろうなぁ――だがよ、ひとまず観光に来てたんだろ? もうこうなっちまったら今更だし割り切って盛大に街の方に出向いてみたらどうだ? 少しぐらいなら案内もするぜ」
「えっ、いいの!? いや、そうだよ、いいよねきっと! うんうんもう仕方ない!」
「そうなのです! せっかく遊びにきたのにこんなのに巻き込まれて、大変だったのです。
 今からでも改めて観光したり、遊んだり、お土産物を探したり、おいしいものを食べたりしなきゃです。『こわい』で終わっちゃう一日なんて……ニルはかなしいのです。だから卯ノ花さんは、もっともっと楽しむべきだとおもいます!」
 卯ノ花の話ではマルクの懸念と同じく……ディープ・テラーズが里の方でも活発化している、との事らしい。何か関係があるのかないのか――気になる所ではあるが、今日の所はとエイヴァンは卯ノ花へ、後方に見える街の方を親指で指し示すものだ。
 さすれば――卯ノ花は目を輝かせて彼方を見据えるもの。
 ……元より行きたい欲も強かったのだろう。自分に言い聞かせるように『これは仕方ない事! 仕方ない事だから!』と何度も唱えている。伴ってニルも『そうなのです、ぜったい楽しまないと、いけないのです!』とその背を後押しするか。
「ええ。それに、覇竜出身ではない亜竜種とは興味深いのです。
 如何な文化。如何な街。如何なる場所であるのか……
 もっとお話を窺いたい方もいらっしゃるでしょうしね」
「あ――それと他の観光客の皆さんとももう一度合流して、負傷がないか確認もしておきたいですね……早期に離れる事が出来ましたので大丈夫かと思いますが、せっかく観光に来たのに怖い思いだけ、というのは悲しいですから」
 そしてヘイゼルも、珍しい亜竜種たる卯ノ花の姿をまじまじと観察。
 ――覇竜以外の亜竜種とはなんとも珍しいものだ、と。
 まぁ。リヴァイアサンが居た海域の近くであればこそ、混沌の既知の国家群が覇竜でしか亜竜種を見つけられていない……という側面も大きいのだろうが。そもそも絶望の青が晴れてまだそれなりの時しか経っていないのであれば。謎多き深海には――更なる謎もあるやもしれぬ。
 同時に涼花は、卯ノ花や、それ以外に避難していた者達を気にかけるものだ……物理的な負傷をしていなくても、精神的に恐怖に包まれているかもしれぬ。
 だからこそ己が歌声が闇を払えるのではないかと。
 音楽は偉大だ。数多の音色が奏でる一時は、誰しもの力になり得る。
 だって。そう。”ボク”にも……
「あー……あと、水竜様の祠、無事かな? 像とかも汚れてるかもしれねぇし、掃除しねぇとな……まったく。折角安眠中の水竜様が起きちまったらどうするんだよ……」
「――水竜様? 水竜様って、あの像の事?」
「おぉそうだぜ。前にな、リヴァイアサンと一緒に眠った方でな……」
 そして。カイトは魔物との戦闘により乱れた周囲の環境を眺めれば、溜息一つ。
 そこそこ被害はありそうだ、と。掃除に片付けをせねば……
 そう思っていれば――卯ノ花の視線は、カイトが指差した祠。
 水竜様を称える祠の方を示すものだ。
 ……なんだか卯ノ花の気配が少し変わった気がする。
 興味深げに。眺めている様な……
 先程エイヴァンが指し示した四番街に向けた、楽しみな視線とは違う類だ。
「新たな亜竜種の出所、ね。
 ……リヴァイアサンの眠っていた海で、嫌だね、厄介ごとの匂いがする。
 妙な気配を感じる魔物も多いし――何が起こる事やら、ね」
 しかし。マニエラはなんとなし不安の色も感じていた。
 卯ノ花と紡がれた縁は、はたして吉兆かそれとも……
 分からぬが。事態が片付いたのであればまた夏の一時を謳歌するとしようか。
 彼方を眺めても、嵐が来るような気配は――ないのだから。

 今は、まだ。

成否

成功

MVP

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れ様でしたイレギュラーズ。
 ディープ・テラーズは撃退され、天浮の里より至った亜竜種との縁が紡がれました……
 救われた彼女は皆さんに恩義を感じてもいる様です。
 彼女より語られる事や、彼女より得られる情報などが在るかもしれませんね。
 ともあれ。その辺りはまた今後にて……
 ありがとうございました。

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