PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

天浮の里

 ――地上では陽気なる音色が響いている。
 それは夏の祭典たる『サマーフェスティバル』の始まりが故。
 数多の、煌びやかなる衣の数々が夏の陽光に映える映える……
 此度の舞台が近年開発されているシレンツィオリゾートである事も盛況な要因の一つか――海より現れた少女がイレギュラーズ達と接触し『竜宮弊(ドラグチップ)キャンペーン』なる始まりが宣言された事も、話題性に輪に掛けているのかもしれない。
 ダカヌ海域に発生している深怪魔の掃討を兼ねる事も出来てか、シレンツィオに関わる各国の代表達もこぞって、集められたチップに沿っての公約も掲げられてる程だ。
 上手く事が進めばダガヌ海域の航路も安定し、更なるシレンツィオの発展が齎されるかもしれぬと――多くの者達が期待しているのだ。
 が。

「あぁ塵共め。煩わしい。疎ましい。我らの頭上に城でも築き挙げたつもりか――?」

 其を快く思わぬ者も存在していた。
 深海。海の底に『ソレ』はある。人知れぬ洞穴こそが彼らの住処――
 只人であれば近寄る事すら出来ぬ地にて座すは『蒼き肌の亜竜種』であり。
 その地は――デザストル以外に存在する『亜竜種達の隠れ里』であった。
 彼は、非常に濁った瞳の色を天へと向けなが、ら。
「で? 卯ノ花は地上に赴き帰還しない、と?」
「然り。しかし氷雨(ひさめ)よ、問題はあるまい。
 今まで幾度か抜け出し地上へと赴いた事はあるものの全て帰って来たじゃろうが――」
「奴の安否なぞ誰が論じたか。奴が囚われ、この地の事を零さぬかが要だろうが」
「……」
 近くにいたもう一人の女性の亜竜種へと――言を紡ぐものだ。
 蒼き肌の方の名は氷雨(ひさめ)。もう片方の女性は浮・妃憂(ふう・きゆう)と言う。
 双方ともにこの地に生まれ、育ち、妃憂の方は里長の跡取り娘として。
 氷雨の方は、この地特有の『ある役目を』背負った者として――此処に在る。
 ……今しがた紡がれた卯ノ花という名は氷雨の幼馴染であり、共に『役目』を背負いし者。だ、が。氷雨の言にはとてもとても情の様な欠片も見えはしない。むしろ路傍の石を眺める様な冷淡さが帯びている……

 あぁ――以前の氷雨はこうではなかったというのに、どうしたのか。

 妃憂は表情にこそ出さねども、心の中で微かに想うものだ。
 氷雨の心中には憤怒や憎悪が渦巻いている。
 特に、その感情は天へと。シレンツィオ・リゾートなる地へと――向けられていようか。
 ……なぜならば、この地の信仰に反するから。
 この地は『水竜』なる存在を信仰せし隠れ里なのだ。本来ならばこの大海全てが水竜様の膝下であって然るべきなのに――何故汚す? 何故騒ぐ? 誰の赦しをもってして地を築き上げるか――
 信仰せし水竜の領域を開拓し、汚す輩全てに向けられているかの様だ。
 ……しかし彼は元々こうであったわけではない。
 昔は穏やかで、卯ノ花を慈しみ、同胞にも優しい者であったのに。
潔一(きよかず)もだ。奴も隠れ潜みどこへと出向いてる?
「――潔一はわらわが命じて出払っておるだけじゃ。近頃、魔の獣が増えておるからの」
「ほう……まぁそう言うのならば、そういう事にしておいてやろう。
 汚されし外界を羨む様な愚者がいるとは思えんしな。
 だがどいつもこいつも些か勝手が目立つ。躾はしておく事だな」
 今や。目障りに感じるのであれば同胞ですら蔑ろにせんとする程だ。
 氷雨がこうなったのは、あの『海援』がこの地に戻って来てからか――
 と、思っていれば。

「――『滅海の主』。そう怒る事もないわよ。その程度、全ては些事なのだから」

 同時。その『海援』の名を継ぐ存在が、姿を現した。
 その者の名はカンパリ=コン=モスカ
 あるイレギュラーズに、よく似た存在である彼女は――微笑み囁くように氷雨へと紡ぐ。
 彼の事を『滅海の主』と呼びながら。
「それよりも、妙な気配が感じられるわ。もしかしたら外界から誰かが来るかも、ね?」
「海媛殿。冗談を……この水底にまで至る者がいるとでも?」
「あたしたちが行き来できるように。不可能な事ではないわよ――ね。妃憂ちゃん?」
「……可能性の話としては、あり得ぬ事ではないかと。海媛様」
 その雰囲気は、穏やかに、優し気に。
 誰の心の内にも滑り込むかのような――甘味を伴いて。
 海媛なる称号で称えられているカンパリは、言を紡ぎ続けるものだ。
「彼らがもしも害をこの地に成すのなら……『滅海の主』は如何に?」
「知れた事だ海媛殿」
 氷雨の、耳元で。

「――排するのみ。水竜の意を継ぐ者として。水竜の大海を守護すべし」

 然らば。氷雨の内に秘められし気配が、まるで膨張する様に荒れ狂う。
 ――彼は依り代。『生きた滅海竜』の依り代。神子として選ばれた存在。
 かつてこの地でイレギュラーズ達が戦い、そして封ぜられた滅海竜リヴァイアサン――その存在足らんとするのが彼だ。故に、彼は纏うのだ。かの竜の如き気を。そう信仰されて(のぞまれて)いるのだから――『誰に』とぞ、知らねども。
 ……深海に存在し、秘匿されし其の地の名は。
 『天浮(あまうき)の里』

 深海に在りし、亜竜種達の――隠れ里である。

 サマーフェスティバル2022がスタートしました!!
 竜宮弊を集める一大イベントが始まりました!

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM