PandoraPartyProject

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Sun, Moon, and ....

 ざあざあ、と天より注ぐ恵みの雨はアルティオ=エルム全土を包み込む。
「戦況は」
 声を発したのは『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレ(p3n000092)であった。
「戦況は、どうなっているのです」
 震える声音。ファルカウ上層部でクオン=フユツキと相対していた彼女はフェニックスの焔からファルカウを守るための結界維持で消耗していた。
 がくがくと震える膝で杖を支えに立ち上がるリュミエの翡翠色の瞳は不安を滲ませている。

『煉獄篇第四冠怠惰』カロン・アンテノーラ――

 それは性質こそ『怠惰』であったが故に空繰(からくり)に頼らずに挑むこととなった冠位魔種(オールドセブン)の一柱であった。
 カロンはその小さな軀に無数の権能を有していた。だが、実用的に其れを運用することはない。そんなこと面倒で仕方がないからだ。
 だからこそ、権能は複数人に分け与えられ、カロンのリソースを使用して配下魔種やオルド種、精霊が使用していた。
 複数の敵を同時に相手取りカロン・アンテノーラの『権能』の数を減らす。それがカロンの弱体化に繋がっている事にリュミエは気付いていた。
(ああ、けれど――
 幾ら特異運命座標であれど……相手が冠位魔種である以上は苦戦を強いられる)
 奇跡に縋るだけならば、リュミエ只一人でも出来た。その『奇跡が応じる』かはさておいて。
 それでも尚、彼等は進むと宣言したのだ。
 イヴァーノ・ウォルターはリュミエの『開国』という新たな一歩に怒りを募らせた。
 ……ああ、変化は否応なしに全てを奪う。『』がそうであったように。
 それでも、リュミエはその判断を間違っているとは言えない。
 この国の為に戦ってくれる可能性の塊、英雄と呼べる彼等。その縁を無駄とは誰が言えるものか!
「リュミエ様、ご無理は為ぬように」
 そっと、その体を支えた新田 寛治(p3p005073)の髪は唐突に降り出した雨で濡れていた。
バクアロンの変異種に関しての報告があるよ」
 リュミエの元へと駆け寄ってきたのはロロン・ラプス(p3p007992)であった。
 寛治に支えられながらリュミエは「皆はどうなったのですか」と縋るような聲を発する。
「リュミエ様……! 御身に負担が掛かりすぎます」
「ルドラ、よくぞ無事で……! ですがカロンは――!? 皆は!?」
 ある信仰者との戦いで負傷し、ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)に支えられながら姿を見せたルドラ・ヘス(p3n000085)は今にも縺れる足で走り出しそうになるリュミエをその場に止めるが為に手を伸ばした。
 各地で行われる激戦。その戦火の気配が徐々に失せていく。
 感じていた炎さえ、遠離る。イレギュラーズという『複数のいのち』がこの共同体のために奇跡を望んだのか。
 そう、彼等は存在こそが奇跡だった。
 そうして世界を救うための可能性を集め続けたのだ。
 ……大量召喚を経てから集めた可能性は数知れず。

 ――世界に認められた精霊種(グリムアザース)。
 ――境界で手を取り合うこととなった秘宝種(レガシーゼロ)。
 ――あの波濤を越えて出会った鬼人種(ゼノポルタ)。
 ――そしてROOを経て、出会うことが出来た亜竜種(ドラゴニア)。

 彼等が活動を始めてから可能性は大輪の花束のようになった。両腕で抱えきれぬ程の美しく鮮やかな華を咲かせ続けてきた。
 カロン・アンテノーラの求めた夢。
 月の下で眠ることを求めた冠位魔種。
 呼吸をし、生きていく為に陽の光を求める深緑(アルティオ=エルム)。
 祝福の女神が微笑むというならば、糸車の針にぷつりと指先を突き刺し眠りに落ちた姫君の100年の呪いをも醒ますような鮮やかな朝が良い。

「大樹ファルカウよ、あなたは全てを見ていたのでしょう?
 ――カロンは……冠位魔種は……私達の美しきアルティオ=エルムはどうなりましたか……?」

 問い掛けたリュミエへと、木々はざわめき水の飛沫をぽつりと落とす。
 僅かな息遣い。
「……ここは……?」
 ゆっくりと身体を起こした一人の少女を抱き上げていたのは柔らかな若草色の髪をした青年であった。

「君も、僕の妹も無茶ばかりするから……」
 困ったように笑ったライアム・レッドモンドはリュミエを見詰めていた。
 森の息吹が木々の間を駆け抜けて。
 そうして、一つの『御伽噺』の終わりを告げた。
 こういう時に締めくくる最後の言葉は――

 ※深緑各地で行われていた戦闘が終了したようです――!
 ※大樹ファルカウや迷宮森林を包んでいた眠りの呪いは完全に消滅したようです。

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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