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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>ヴィーゲンリートに、祝福を。

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴィーゲンリート<子守歌>に、祝福を。
 ――目を背けずにはいられなかったのだ。

 レンブランサという幻想種は大樹ファルカウの信仰者であった。
 太古より存在せし偉大なるファルカウ。敬虔なる心を捧ぐ大樹よ――
 彼はずっとその偉大さと共にあった。在れた事が誇りであったかもしれない。
 ファルカウを愛し尊び、そして新たなる幻想種の子らのも『ザントマン伝説』を語り継ぎ、子供達を帰路につかせて――そして一日の終わりに大樹を見上げ、その圧巻たる偉大さを目に焼き付けるのが何よりも心を躍らせた。
 ……故にこそ彼は認めがたかった。
「何故だ」
 何故異邦の者らにこのファルカウを開いたのだ――? 深緑の巫女よ。
 理解しがたい。受け入れがたい。土足で大樹の足元に至る者達が。
 無知蒙昧なる輩共が。粗暴なる外界が。
 そして――時に幻想種を浚い、時に大樹を傷つける愚か者共が、何よりも。
「何故だ」
 ……彼は旅に出た。大樹を傷つける愚か者共を祓う力が、己には無かったから。
 力を求めた。己だけでファルカウを護る事が出来る『力』を。
 意思を。魂を。この身を賭してでも、この命を賭してでも。
 欲しかったのだ。

『――成程。お前は間違っていない。愚図の幻想種の割にはマシな個体の様だ』

 そしてやがて彼は出逢った。
 大樹ファルカウを想う気持ちこそが彼に届いたのか?
 ――それがクェイス。大樹の嘆きの上位種オルド種にして、ファルカウ直系の守護者だった。


「おぉ、おぉ……なんという事でしょう。これほどの災禍にファルカウが包まれようとは」
 レンブランサは嘆く。ファルカウ上層――只人が入れぬ地より眼下を眺めながら。
 数多の闘争の意思が渦巻いている。ファルカウを包む程に。ファルカウを焼く程に。
 ……醜悪だ。許してはならない。
 やはりファルカウは永遠の眠りにつくのが最善なのだ。
 ファルカウの守護者も『そう』だと判断した。そして私も『そう』だと思う。
 リュミエ・フル・フォーレが深緑を開いた結果がコレなのだと思えばこそ。
 誰も入れぬ絶対にして不可侵の領域に至る事こそが――至高だ。
 ……そのレンブランサの思想はクェイスと非常に似通っていた。
 だからこそ彼は私に力を貸し与えてくれたのかもしれない。

 ――外敵を阻む、この力を。

「さぁ。では参りましょう。あと一歩。あと一歩で永遠なる静寂が手に入るのだから」
「ボギィィィ!」
「ふふ。ええ勿論――皆と共に」
 レンブランサの周囲には彼のみならず、異形の者達が多く在った。
 それは邪妖精。それは大樹の嘆き。それはカロン直轄の夢魔共。
 邪妖精と言えば妖精郷に巣食う存在であり、魔物と言って差し支えない存在だが……レンブランサにとっては彼も愛おしい存在だ。レンブランサは深緑に元から棲まうモノには等しく優しく、森を愛しているが故に。
 そして大樹の嘆きは本来であれば無差別に周囲を攻撃するのが基本である……が、上位種たるクェイスの力により今はある程度指向性を持たされている。それが歪なる状態であるのは言わずもがなだが――しかしこれも、大樹ファルカウの為。安らかなる平穏の為にレンブランサは嘆きと共に往く。
 その為ならば魔種の配下たる夢魔共も利用しよう。
「……夢の世界の住人。ザントマンの系列、か」
 ふ、と。口端から零れたモノはなんだったか。
 かつて己は語り継いだ。ザントマンの恐ろしさを。
 人々を眠りにつかせ、攫われる悪魔の事を――
 ……だというのに今は己がソレに近しき存在を使役する側、か。
 夢魔。夢の世界の住人。人々を夢に誘うモノ。
 ……レンブランサはフードを被り直す。深く、深く。
 眼を背ける様に。異邦の者達が訪れ、汚されたファルカウから。
 或いは……今の己の姿から。
「あぁ」
 もしも。己が心に眼を背けて生きられたなら。
 どれ程それは幸福で気やすい一生を送れただろうか。

 けれど私は――目を背けずにはいられなかったのだ。


「レンブランサ……」
「……昔は只ファルカウを敬うだけであったのに。あまりにも純粋過ぎたか」
 先日のファルカウ攻略戦は――幾らかのイレギュラーズが『夢の世界』に囚われたものの、概ね成功と言えるだけの戦果を得ていた。そして『夢の世界』へと誘われた者達も、各々が心の強さと共に現実に帰還している者もいる……
 その上で、ファルカウ防衛に努めていた『冠位暴食』も撤退したとなれば、この機を逃す意味は無し。
 ――一気に総攻撃を行うのだ。
 此度の事件の主犯へ。『冠位怠惰』カロン・アンテノーラを討ち果たす為に!
 ……しかし当然として敵も防衛線を敷いている。まずはカロンへの道を切り開く為にも、敵陣を食い破らんと進撃を重ねていれば。ルドラ・ヘス(p3n000085)とフランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)の目前に見えたのは――レンブランサなる者の影。
 その姿を見て、特に司教フランツェルは悲しき表情の色を見せるものだ。
 レンブランサ。知らぬ仲ではない。大聖堂アンテローゼで幾度言の葉を交わせたものか。
 以前はあれ程穏やかであったというのに……
「……レンブランサはきっと、深緑を嘆く心に付け込まれたんだわ。
 今の彼の状態は分からない。完全に魔道に落ちているのか、それとも……」
「――いずれにせよ言葉で解決しうる様子ではないな」
 レンブランサの周囲には、此方に敵意を向けてくる無数の存在。
 此処はファルカウ上層。カロン・アンテノーラへ向かう道の一角……
 奴らを突破しなければならない。例えレンブランサが、その身を賭して妨害に来ようとも。
「私はリュミエ様と共にカロンの下へ。此処は……」
「ああ任された――司教。深緑の子らに、どうか祝福を」
 なさねばならぬ事があるからと、フランツェルは往く。
 彼女には彼女の使命がある。だからこそ此処は――己が成すのだと。
 イレギュラーズと共に。配下の迷宮森林警備隊と共に立ち向かうのだ。
「……すまないイレギュラーズ。今暫く力を貸してほしい。
 我々の故郷を、取り戻す為に。大樹ファルカウに――平穏を取り戻す為に」
「はい、なのです……ニルは。ニルはもう一度、会わないといけないのですから」
 さすれば。ルドラが視線を向けた先――イレギュラーズの中にはニル(p3p009185)がいて。
「レンブランサ様……」
 彼女は眠りから覚めた。レンブランサによる魔力――夢檻の世界へと誘われて。
 だけど、起きた。だって。
「レンブランサ様、泣いているのですか?」
 泣いているから。貴方が泣いている様に――見えるから。
 ……かくて最後の戦いは始まる。
 ファルカウに永遠の静寂による平穏を齎さんとするものと。
 ファルカウに再び暖かな平穏を取り戻さんとする者同士の――戦いが。

GMコメント

●依頼達成条件
 レンブランサの打倒

●フィールド
 ファルカウ上層。一般的には立ち入ることの出来ない祈りの地です――
 しかし現在は魔種勢力によって完全に制圧されています。

 また、レンブランサの周辺戦場はカロンの権能の影響か不思議な空間と化しており、時間経過によりファルカウ各地の(『麓の街』→『迷宮森林の中』→『アンテローゼ大聖堂』)光景に切り替わるようです。障害物の有無が変わりますので、ある程度戦い方に変化が必要かもしれません。

・麓の街:ファルカウの街並みです。障害物はあったりなかったり。時折幻想種の子供達が走る幻影も見られます。
・迷宮森林:周辺が木々だらけになります。障害物が多いです。
・大聖堂:荘厳な大聖堂の中です。障害物が少ないです。

 これは恐らくレンブランサが過去に見た光景が反映されている――のだと思われます。
 彼の夢。彼の生きた世界。彼が穏やかに過ごしていたかつての日々の光景……
 故に踏みにじる異邦の者を許さない。例えソレが誰であろうと。

●敵戦力
●レンブランサ
 幻想種――だった筈の存在です。それはイレギュラーズを酷く恨んでおり、悲しげに涙を流しています。イレギュラーズは森を土足で踏み荒らす存在であると、そう認識しているようです。
 大樹ファルカウの信仰者であり、『ザントマンの伝説』を語り継ぐ詩人でもありました。
 司教フランツェルにとっては既知の存在であり、ニル(p3p009185)さんも過去に出会ったことがあります――が、忘れている様です……?

 戦闘能力は幻想種らしく、魔力を用いて数多の魔法攻撃を行う事が可能な様です。
 また――妙な『砂』を操る事も出来ます。
 それは『眠りの砂』の様です。かつて、ザントマンが使っていた様な……
 この砂の影響を受けると強い眠りや睡魔が襲い掛かってくる事でしょう。
 【麻痺系列】のBSが付与される事があり、なおかつランダムに複数の能力値が低下する事があります。低下の幅は、受けている睡魔の強さ次第です。

 なおレンブランサは前回のシナリオ『<タレイアの心臓>Nous sommes nos choix』により多少傷を負っている様です。

●邪妖精『ボギー』×1体
 悪戯好きの小さな妖精。魔法と手にした鈍器での攻撃を駆使します。
 すばしっこい個体の様で、レンブランサと共に戦います。
 ――レンブランサは深緑の在るのであれば、全てを愛しているのです。えぇ。邪妖精すらも。
『<13th retaliation>灰薔薇と眠りの詩人』で登場していた個体と同一の様です。

●大樹の嘆き×15
 本来は周囲を無差別に攻撃する魔物の様な精霊の様な者達……なのですが、大樹の嘆き上位種クェイスの干渉により指向性が持たされています。つまり、敵味方の区別をして攻撃を仕掛けてくるようです。その為、レンブランサの指揮に忠実です。
 姿は様々ですが、近接を得意とする個体や、魔力を放ってくる遠距離個体の二種類に分けられます。近接個体は【乱れ系列】BSを付与することが在り、遠距離個体は【毒系列】のBSを付与することが在るようです。

●夢魔『怪王獏(バクアロン)』×10
 本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させます。
 レンブランサの友軍勢力ですがレンブランサの部下ではない為、独自の動きを見せたりします。

●味方戦力
●ルドラ・ヘス
 迷宮森林警備隊隊長です。弓を巧みに操る人物であり、戦力として非常に優れています。
 シナリオ開始後は基本としては大樹の嘆きや夢魔の対応に回ります。しかしイレギュラーズ側からなんらか行ってほしい行動の指示がある場合、その通りに動いてくれる事でしょう。

●迷宮森林警備隊×10
 ルドラと共に動いています。弓矢や魔力を使う者など、基本的には後衛タイプが多いようですが一部は接近戦も行えるようです。シナリオ開始後は夢魔などと戦っていますが、イレギュラーズ側からなんらか行ってほしい行動の指示がある場合、その通りに動いてくれる事でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <太陽と月の祝福>ヴィーゲンリートに、祝福を。完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月30日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

リプレイ


 深緑が覆われる。
 茨に。眠りに。永遠の静寂に。
 ソレを良しとする者もいるのだろう――しかし。
「我々は認める事は出来ませんのでせうよ」
 『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は其に否を叩きつける者だ。
 ――永遠も。あらゆるものから護れる力も、求める方は多い。
 古来よりそうだ。だけれども、それは少し考えれば分かる事ではないか?

 そんなモノは一切合切あり得ぬ事であると。

 だが、もしもソレを『分からぬ』ならば。
「押し通らせて参りませう。分からず屋には些か荒療治も必要かと」
「おぉおぉ嘆かわしい。そのような発想こそがファルカウを汚すのだと――何故分からない?」
「ヒヒ……さてさてそれは果たしてファルカウの『声』なのかな? それとも『我こそが代弁者である』という自分の欲望と『声』を張り上げているだけかな?」
 往く。レンブランサの収束させる魔力の渦をヘイゼルは躱しながら。
 彼女が狙いすますのは取り巻き達だ――まずは数の優位を打ち消すべしと、目立つ様に動き回り敵の注意を引き付けんとし。さすれば『闇之雲』武器商人(p3p001107)の声が紡がれるモノ。
 レンブランサの言っているのは本当に大樹の声なのか。
 或いはただ『そう言っているだろう』と望んでいるだけなのか。
 ――結局、誰も彼もファルカウの真なる声ではなく。
 我こそが代弁者と言いながら自分の声を聞いているだけなのでは?
「興味深いね――さぁどうなのかな?」
「少なくとも……森を汚す者を大樹が歓迎しないのは確かでしょう。例えば、貴方達の様な」
 直後。レンブランサが武器商人を指差したかと思えば――
 武器商人に大樹の嘆きによる撃が紡がれる。
 レンブランサと意志を同調するクェイスにより指向性を持たされた彼らは今や……尖兵の如き存在として行動する。ソレにレンブランサが如何な心を抱いている事か――これもファルカウの為と囀るのか――?
 いずれにせよ武器商人は、かの一撃に仲間を庇い立てる姿を見せるものだ。
 武器商人の不死が如き耐久性と、痛みを力へ昇華せしめる能があればこそある程度の傷はむしろ望む所であり……
「――君は深緑を愛しているんだろう。変わらぬ深緑を。古き良き深緑を……
 だけれども、他者を排斥するなら……いや。相容れなくすれ違うなら、後はもう」
 戦うしかないのだと。紡ぐのはマルク・シリング(p3p001309)だ。
「ルドラさん行きましょう。カロン・アンテノーラを倒す為にも……
 此処で足を止めてはいられません。嘆きや、夢魔達を――」
「あぁ。奴らを排して道を切り開く……! 共に進もう、イレギュラーズ!」
 そして彼は迷宮森林警備隊へと指示の声を飛ばすものだ。
 マルクが統率せしめて攻撃を大樹の嘆きや夢魔……『怪王獏』と呼ばれるカロンの配下共へと集中させる――そして彼が統率の役目を担えばこそ、隊長ルドラ・ヘスの弓にも磨きと集中が重なるものだ。
 一斉射撃。
 卓越した弓の一擲に加え、魔力の放出が展開している敵の中枢へと叩き込まれる。
 ……敵の方が数は多い――が。
 イレギュラーズ側も警備隊の援軍も合わせれば決して不利すぎる、という程ではない。
 どちらがより鋭き一手を紡げるか。どちらがより強く意志を貫き通すか。
「……しかし。僕らのいるここも、レンブランサが見ている夢なんだろうか。
 とても偽装や只の幻の領域であるとは思えない……」
「――レンブランサの全てが顕現している、と言う事なのかもしれないな。
 彼の心に呼応しているのか……いや、だが……最早道を違えたのならば是非もない」
 天秤の狭間で事態は揺れ動き。今だどちらに傾くと知れねども。
 『女神の希望』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)に『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の歩みに変わりはなし。
 彼女らの瞳に写りしは幻の世界……ファルカウの麓らしき光景だ。
 しかし実に『リアル』であるというか――とても空想上だけで構築されたとは思い難い程の場であったと、なんとなし感じるものである。ましてや幻想種の子供達が走る幻影が時折あるなど……これはやはりレンブランサの記憶に根差すものなのかと。
 だけど。こんな過去が……『夢』が一番で、他を拒絶するだなんて駄目だ。
「――きみは見るものから醒めなければならない。閉じこもった世界は淡く泡沫なんだ」
 リウィルディアの放つ蝕みの術が敵陣を穿つ。
 嘆きを抑え込む如きの動きに続く形で、更にブレンダが狙うのはレンブランサだ。
「ここで終わりにしよう。停滞の望みを。静寂の願望を」
「終わり? いいえ。ここから始まるのです――深緑の平穏が」
 激突。放たれる飛刀がレンブランサを襲い、しかし彼はその一刀を弾き落とさんとする。
 ――されど構わない。元よりその一刀は仕留める為の一撃に非ず。
 注意を引き付け、彼の意識を逸らす為で――だからこそ。
「うおー! いくよロスカっ!! うちらの力の見せ所が此処!!
 あーんなふわふわした連中に負けませんよッ! 空はうちとロスカのものですよ!!」
 『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)も続くものだ。
 ロスカ、とは彼女が駆るワイバーンの名である。『くぁ~』と鳴く者と共に戦場を飛翔せしめる――卓越した騎乗の技術あらばその動きは洗練されており、どこか美しくも感じる……そして彼女が真っ先に狙うのはレンブランサである。
 彼を周囲の護衛より遠ざける為。
 強襲する様に往くウテナは、嘆きらの迎撃を受けつつも潜り抜け――掌底一閃。
「ぼぎぃ!!? ぼぎいいいい!!」
「おっと。レンブランサの援護には行かせんよ――此処で仕留めさせてもらおうか」
「……ん? んん? んんんんん? むむむのむ!
 そなたは大聖堂んところにいたやつじゃな!!
 ま~~~だこの地に蔓延っておったのか! ここで会ったが百年目~~逃がさぬ!!」
「ぼぎいいいぃいぃぃぃぃ!!?」
 さすればレンブランサの危機に、邪妖精のボギーが素早く反応する、が。
 そのボギーへと素早く対応の動きを見せたのが『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に『殿』一条 夢心地(p3p008344)だ。周囲を俯瞰する様な視点をもってしてボギーの位置を判別せしめた汰磨羈は跳躍と同時に斬撃一つ。
 更には――ボギーのトラウマ、夢心地推参ッ!
 ボギー退治なら任せよと彼が振るう一閃に迷いなし。
 然らば『以前』の事を覚えているのかボギーが見て分かる程に狼狽えるもの……
「――すばしっこく動くな邪妖精。質の悪いイタズラはここまでだ」
 更には『雪解けを求め』クロバ・フユツキ(p3p000145)も加わるとなればボギーにとっては堪ったものではない。距離を離そうとも瞬時に斬撃を斬り飛ばす彼の一閃は何処までも鋭く、邪妖精を追い詰めるものだ――そして。
「レンブランサ様」
 『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)が、至るものだ。レンブランサの下へ。
「レンブランサ様、ニルは来たのです」
「――」
「どうしても戦わなければならないのなら、戦います。
 けれど。レンブランサ様の事は、やっぱり傷つけたくないのです」
 ニルは。言を紡ぎながら同時に周囲に張り巡らせる――損壊を防ぐ保護なる結界を。
 ……レンブランサが大事に思っている光景を、壊したくなどないから。
 でもレンブランサ様の味方は出来ません。だって。
「……みんなみんな眠って、かなしいのがたくさんなのは、ニルはいやです」
「悲しいのは終わるのです。全てが閉じ、ファルカウが永遠の静寂の中にあれば……」
「レンブランサ様」
 互いに収束させる魔力があらば。戦いを避けれぬ事は感じるものだ、が。
 その前に――一言だけ、確認させてもらいたい。
 レンブランサ様は。
「笑えますか?」
 全てが静寂に落ちた世界で。『温かな』モノが何もない、世界で。
 ……ニルはずっとレンブランサを見据え続ける。
 きっと思い出せる気がしたから。
 『温かな』記憶を。
 ずっとずっと前に確かに在った筈の――出来事を。


 レンブランサとイレギュラーズ達の攻防は一進一退であった。
 押し包まんとするレンブランサ側に対し、イレギュラーズ達の作戦は『レンブランサ(並びにボギー)』と『レンブランサ以外』の各個に対応を別け、特に取り巻き側から攻撃を重ねていく方針であったと言える。
 押し寄せんとする嘆きや夢魔に対しては迷宮森林警備隊と共に歩調を合わせ迎撃。
 その先陣を切っているのがヘイゼルであり――
「これが悪夢――? まあ、寝言くらいは印象的だったでせうか。
 退屈ばかりで欠伸が出そうなのが、なんとも言い難い所でせうが」
 彼女は自らに注目を集めるかのように立ち振る舞い、怪王獏を集めるモノである。
 然らば彼女に敵からの撃が集中するモノだ……が、しかし。
 ヘイゼルの躱す技量は真実、卓越していた。
 怪王獏らが彼女に撃を紡ごうとも躱し続ける。直撃を避ければ連中の特性など恐るるに足らず――更にはいつ何時に戦場の障害物が切り替わっても問題ないように、地形の変化には気を配り、記憶し続けるものだ。迅速なる行動こそが勝負に大きな影響をも――あるかもしれないから。
 ヘイゼルが斯様に動いて敵を集めれ、ば。
「ヘイゼルさんに釣られていない個体を狙うんだ!
 撃破を狙わなくてもいい。阻害させるだけで十分ッ――!」
 マルクの号令だ。彼の放つ光が敵のみを穿ちて、邪悪を祓わんとする――
 彼の収束させし魔力は高密度となりて薙ぎ払う程だ。ただし彼と共に動く警備隊へと狙わせるのはむしろヘイゼルの『釣り』から外れている者達である。ヘイゼルの周囲を纏めて狙うよりも、こちらの手中から逃れ、予測不可避の行動をする者達にこそ先んずる……
 そしてマルクの様な火力ありし者によって仕留め、数を減らさんとするのである。
 ――と、その時だ。
 誰しもの眼前の光景がブレる様にノイズが走ったかと思えば、全てが変じる――
 木々の中に。これは……
「迷宮森林、か。やれやれ……やはり主軸たるレンブランサに連動しているのは間違いなさそうだね」
「むむむっ! 迷宮森林は……うちの庭ですっ! これ以上うちの許可なしに荒らさせはしませんよー! まぁ許可を出す事なんてずーとありはしないんですけど!!」
 されどリウィルディアやウテナは即座に状況を理解し、動じず往く。
 後の事よりも今を乗り切るべくリウィルディアは全力だ。彼女もまたヘイゼルの引き付けから漏れた者達――特に夢魔――を狙い一撃を叩き込んでいく。さすればウテナは総攻撃する様に。小妖精を具現化せしめ、まるで爆撃の如くロスカから投擲するのだ。
 敵陣の中枢を狙う様に。
 さすれば空舞うウテナへと反撃の一手が紡がれる――
 嘆きや夢魔も良い様にばかりはされていない。ヘイゼルに引き付けられている個体はともかく、その他は数も合わせて迎撃してくるものだ……警備隊の陣形を食い破らんと。マルクやウテナ、そしてリウィルディアらを叩き潰さんと。
 故にこそ一進一退。今の所どちらに転ぶかはまだ分からぬ――と同時に。
「えぇい待たんかぼぎぃぃぃ! ちょっとだけ! ちょーっと斬り伏せるだけじゃから、な! サッと斬ってサッと終わらせるから逃げるでないぞおおおお!! キエエエボギィィィィィ!!」
「ぼぼ、ぼぎぃぃ!!?」
「ニルの話を邪魔して貰っては困るのでな。御主には、早々に退場して貰おう!」
 夢心地はボギーを只管に追撃し続けていた。続く形には汰磨羈の姿もある。
 ボギーは迅速なる動きにてなんとか振り払わんとしながら夢心地に魔力の矢を紡ぐも――夢心地は居合一刀にて斬り弾く。逃がさぬ。逃がさぬぞボギーよ。ボギー狩りのプロたる麿から逃げ切れると思うてかああああ!!
 壮絶なる気迫。が、夢心地にも無論考えがあっての事だ――ボギーを自由にしていればいずれレンブランサを支援する動きを縦横無尽に行おう。或いはレンブランサの下へ向かわんとする者を妨害するやもしれぬ。
 故に往く。奇声を浴びせながら。今ここで麿とボギーの終止符を打たんとばかりに!
 汰磨羈の最適たる一撃も振るわれれば、所詮一介の邪妖精に過ぎぬボギーの身は次々と削られるもの……嘆きなどの個体を盾にせんとして逃げ回るが、しかし傷が増える方が明らかに早く。
「なんたる事を。彼もまた、この深緑に生まれし深緑の一部……
 だというのに排斥するのか。理解せず、邪であると――そうとしか思わぬのか」
 が。斯様に動いていればレンブランサがボギーを救わんと動くものである。
 それは砂。舞わす砂が夢心地を始め、己へと至らんとするイレギュラーズへと振舞われる――『ぬわー!? 纏わりついてくるのじゃー!?』と夢心地の声が響くのもほぼ同時の事で……
 レンブランサは深緑を愛している。
 故にこそ『深緑に元々いた存在』は全て愛おしいのだ――
 邪妖精と言えどその一片。外界の者達とは比べ物にならぬ。
 追いかけ回すな。排すな。土足で踏み込んでくる者達よ、むしろお前達が滅びよ。
「成程。確かに俺達は余所者でアンタの言う森を踏み荒らす者、だな」
 だが、と。砂に負けず往くのはクロバだ。
 彼は抗う。変わり果てる光景があれど、瞬時に対応しうる跳躍と共に行動し続け――レンブランサの砂に捕まらない様に躱しながらボギーに再びの斬撃を一閃し。
「その事実は否定しない。だが、”木を見て森を見ない”とはまさにこの事だ。
 ――あんたは起きた結果だけしか見ていない。その過程に何があったかちゃんと見たのか? 全てが悪くなった、と本気で思っているのか? 俺はリュミエ様の選択を信じてる。リュミエ様はよりよい未来を見据え、選択されたのだと分からないのか?」
「余所者に何が分かりましょう。なにより、深緑が開かれ得をした側の言葉など」
「――だから閉ざそうとするのですか? 全部全部、無かった事にしたいのですか?」
 語るものだ。悪しき事ばかりを見据え、良い事を見据えないレンブランサへと。
 そしてそれはニルも同様に……
「ニルと別れたのも――悪い事だったからなのですか?」
「…………」
「でもでも。もしも、もしもニルが……ニルと会ったことが『悪い事』だったのだとしても」
 ニルは。
 笑っているレンブランサ様の事だけは――思い出しているのです。
 ……直後。邪妖精も纏めて放つのは冷気の魔術だ。
 ダイヤモンドダスト。数多を凍り付かせる魔力が、砂の動きを鈍らせるが如く真正面より。
 激突する。ひたすらに、ひたすらに……ニルはレンブランサへと言を紡ぎながら。
 彼の心を探る様に。彼の心に届かせる様に。
「そんなに眠りが好きなら、自分だけが眠って都合のいい夢を見ているがいい。
 少なくとも、キミの中の大樹はキミだけのものなんだからさ。
 あぁそうすれば真実永遠と思考の狭間にキミはいれるだろう――揺蕩う夢こそお似合いさ」
 直後には武器商人がニルに放たれる撃から庇う様に動くものだ。
 ――大分傷も増えてきた。されど、武器商人の口端から笑みが途絶える事はない。
 武器商人は笑う。哂う。嗤う。わらうのだ。
 目覚めぬ夢を至高と謳う者達を。覚めぬ夜明けに誘う様に。
 ――織りなす術が一撃を形成する。ボギーやレンブランサを狙いて、放ち穿たれれば……
「……煩わしい。あぁ外界の者達はなんと煩わしい術ばかり使うのか」
「どこへ行くつもりだ? 逃がさんぞ――お前は逃れるべきでない運命があるのだと知れ」
 一旦、距離を取りて他の嘆きや夢魔と合流せんとする、も。
 それを阻止するのがブレンダと汰磨羈だ。
 ブレンダは例え戦場の障害物の位置が変わろうとも常にレンブランサを捉え続ける様に……俯瞰する視点を持ち続ける事を忘れない。そして逃さずレンブランサをこの場に縫い付けるかのように彼女は剣撃を振るい続けるものだ。
 ――まだだ。逃げるな。語られようとしている言葉から。告げられようとしている言葉から。
 ニル殿が届けたい言葉があると言うのなら。
「私は――死力を尽くすのみだ」
「……小うるさい事です。ああ本当に――何もかも」
 さすればレンブランサは砂をより強く。撒き散らす様に振るうモノだ。
 であればイレギュラーズの身を蝕む力もまた、強くなる。
 眠い。体がどこか鈍い。瞼の重さと目の奥に宿る熱が全てを蕩けさせんとする。
「う、ぐ……こ、これは……」
「――総員、奮い立て! 力に屈するな――私達は勝つために此処に来たのだから!」
 さすればソレは一部、警備隊にも届かんとする。
 弓を振るう腕が鈍らんと……したが故にこそ、ルドラは先陣を切って鼓舞するものだ。
 屈するな。負けるな。冠位魔種の構築せんとする世界に抗う為に来たのだからと。
 ――故に。
「あぁ……我々も、負けてはられんな……!」
「この程度で眠ってしまうのならば……俺達は此処まで来れてなどいない……!」
 ブレンダは舌を噛んででも意識をクリアとし。クロバもまた強き意志と共に立ち続けるものだ。
 誰も彼も、眠りには落ちぬ。己の意思を現実に残し続ける。
 夢の果てに、静寂の果てに、望むべく世界があるものかと。
 ――そう信じているのだから。


「ボギー! えぇい存外お主もしぶといの――じゃが、最早仕舞よッ!!
 この場所に麿がやって来た時点でそなたの負けは決まっておったぞボギィイイイイ!」
「――――ィィィイッ!!」
 戦いは進む。望むにせよ、望まぬせよ。
 その渦中において遂に夢心地はボギーに対し――最後の一撃を加えんとしていた。
 逃げ惑うボギーは想像以上の抵抗を見せたものだが、しかし夢心地のみならず他の者達の攻勢も加われば耐えきれぬ……迸る剣撃の一閃。ボギーは抵抗する魔力を放ち夢心地に直撃させるも、最早結果に変わりはなかった。
 ――打ち捨てる。狼藉者たるボギーを、遂に、遂に。
 断末魔。今度こそ逃がさぬ一閃が――全てを捉えたのである。
「……ぉお、ボギー! おのれ……!!」
 であれば、レンブランサは怒る様に術をイレギュラーズ達へと振るうものだ。
 何故だ? 何故そうも抗う?
 レンブランサは理解出来なかった――いや『理解したくない』という思いもあったかもしれない。
 深緑を踏み荒らすのが外界。理解しうる要素など何一つない、筈だというのに。
「だー! 意外と、飛び込んだら良かったりするんですよっ!
 もっと頭を柔らかくしましょう! どんなときも、笑ってた方が楽しいんですよっ!!」
 しかし――幻想種たるウテナは言を放ち続ける。
 破壊の魔術を紡ぎながら。夢魔を退け、なお彼女は己が心の儘に……
 ――レンブランサはきっと『良い人』なのだろう。心が優しいから、なにもかも見捨てられなかった。
「うちは自分の心から目を背けながら生きてきましたから……少し、羨ましいな、とも思います。まぁ……イレギュラーズになるまでは、ですけどっ! ロスカっ!!」
「くぁ~~~!!」
 だけど。これ以上故郷に害を成す事は許されないと。
 ウテナはロスカに合図を送れば、炎の吐息をもってして――連中全てを焼き払ってくれよう!
 うっ、しかしニルの保護結界があるとはいえ罪悪感が……! こ、ここってファルカウ上層でしたよね……! いや、ここはほんとの森じゃないここはほんとの森じゃないここはほんとの森じゃない……!! 幻影幻影幻影幻影~~!!
「……後でごめんなさいしとけばノーカン!」
「まぁ今は非常事態だからね――多少の事には目を瞑ってもらおう」
 うう、怒られませんよにと願うウテナに続いて。
 マルクは此処を攻勢の時と見据える。
 ――周囲の光景に再びノイズが走り始めているのだ。次なる景色は……レンブランサにとっても縁深き、アンテローゼ大聖堂か。
 戦いが始まってそれなり以上の時間が経過している。故にこそイレギュラーズや、共に戦う警備隊の疲弊も段々と目に見えて目立ち始めている、が……
 同時にソレは、戦いの当初から行った――レンブランサを突き放す動きをしてからも時が経っているという事。指揮を執る彼の手から多くが離れ、動きに乱れが出てきたと感じうる。故にこそマルクは聖なる声を響かせるのだ。傷を癒す、天使の祝福と共に……
「レンブランサ。例え君が未来を、そして外の者を信じられなかったとしても……
 僕は言おう。僕は誓おう――幻想種達と協力して、深緑のより良い明日を作ると」
「――それを不可だと断じたから、私は此処にいるのです」
「ああ、君にとってはそうだろうね。だけど『それでも』さ」
 であれば、互いに零す言葉が風に蕩けて届くもの。
 レンブランサが案じたのは外を信じられぬ故。
 だけど『だからこそ』マルクは口にするのだ。口約束を。しかしその場凌ぎではない――
 己が心の内に在る、本心を。

 ――始まる。決戦となり得る激突と攻勢が。

 マルクの謳う治癒の歌により数多の者達の体力が底より湧いて出で。
 残存の嘆きや夢魔達を押し切らんとする。
 無論、敵の側も飲み込まれはすまいと激しき抵抗を見せるものだ、が。
「然らばあと一時踏みとどまりましょう。正念場でせうね」
 混戦となる状況下においてもヘイゼルとリウィルディアは輝くほどの奮戦と共にあった。
 ヘイゼルはどこまでも敵を引き寄せ続け、同時に花吹雪が如き極小の炎乱を一閃。的確に投じられる死の吹雪があれば、ヘイゼルに撃を届かせる事なく倒れ伏す夢魔が幾体も……
 彼女の立ち振る舞いは特にレンブランサ以外の者達の行動の抑制に大きく貢献していた。
 彼女が居なくばレンブランサを支援しようとする敵の数はもっと多かった筈だ。そしてそうなれば先のボギーとて味方に紛れ、より撃破を困難にし全ての予定が後ろに倒れていたやもしれぬ。
 尤も、派手に立ち回るからこそ、嘆きや夢魔と相対する者らの被害も少なくなかった。
 警備隊の面々は当然として、飛翔し続けるウテナは撃ち落とされんと幾つも攻撃を受け、戦線を支える厄介な動きを見せるマルクも潜在的な脅威と認識されているのか、攻撃の密度が厚くなっている――
 故にリウィルディアはその動きを機敏に察し、彼らの間に割り込んで庇い立てていた。
「夢は醒めるものだと教えてやろう。頬を叩いても寝ぼけ眼だというなら、尚強くね」
 そして彼女は同時に撃の一手も紡ぐものだ。
 邪を穿ち、裁きを与える宣告を此処に。嘆きを祓いて勝利を目指さん――ッ!
 その動きに呼応してルドラの弓の援護も紡がれるものだ。
 敵の数は少なくなっている。あと一歩、あと一歩だと信じて……
「行きな――幸福なコ。願いがあるのなら。成したい事があるのなら。
 その旅路を支えてあげようじゃないか。祝福は、必要かな?」
「――ありがとうございます。でも、ニルは大丈夫なのです」
 であれば、ニルは武器商人より激励を受けつつ――
 前だけを見据えるものだ。
 皆を治癒する頌歌を紡ぎ、あと一歩の力を生み出して……
「レンブランサ、今更退こうなどとは思っていないだろうな――?
 まぁ。故郷をこのようにした者に帰る場所など、あるかは知らないが」
「ニルとの対話に決着を付けろ。御主には、その義務がある筈だ。
 過去から眼を逸らせば何もかも帳消しになるなどと思うなよッ――!」
 そしてブレンダに汰磨羈がレンブランサの動きを縛らんと往く。
 挟撃する様に。彼の放つ眠りの砂に囚われぬ様に跳躍し続けながら――剣撃を幾重にも重ねるものだ。退却などさせず、態勢を立て直させたりもせぬ為に……
「ニルと共に行くか、決別するか。どちらを望む、レンブランサ!」
「――私の心はとうの昔から決まっている。ファルカウを汚す『外』を許さぬのみ」
「そんなに変わるのが嫌なのか。そんなに外の空気が嫌なのか」
 直後。続け様に砂を、己が太刀で素早く切り伏せるのは――クロバだ。
 刹那に繰り出される二撃が、二度目の『眠り』を齎さぬ。
 彼はレンブランサに対抗し続ける。刀も、言も、双方ともに。
「君の想いが全く分からないとは言わない。その内に秘めた心は本物だろう」
 だけどな。
「変わらないモノなんてない」
 人も。物も。時代も。全て全て。
「――俺はその価値を証明する。リュミエ様の決断は正しかったのだと……信じているからだ!」
「……そもそも冠位魔種の引き起こす『平穏』なんてモノがマトモだろうか? 僕は信じがたいね」
 更に、取り巻きらの多くを削り取ったリウィルディアも――レンブランサへ言を。
 ニルを中心に治癒の術を張り巡らせながら思うのは……そもそもこの『閉ざす』行為に根底にある計画が、深緑にとってより良い未来を齎す可能性についてだ、が。きっとこの先にある未来は碌なモノではあるまい……
 停滞で済むだろうか。静寂の内に納まる様な代物だろうか。
「……川の水が何故腐らないか知っているかい? 流動し続けているからだ」
 そして。彼女は思考する。
 百歩譲っても、きっとコレは停滞では済まぬ。
 生命の躍動が無くなれば後は万物腐り果てるのみなのだと。
 ――それを何というのか知っているか?

 『退廃』だ。

 彼女その言葉が齎す『意味』を知っている。ある意味で、誰よりも。
 だからレンブランサ。君は正しくないのだ――悪しき面に目を向けない、君は。
「都合のいい夢ばかり見続けるのなら、僕達も容赦は出来ないんだ」
「まぁ納得は全てに優先致しますから。それに命を賭すのも良いでせう。
 ただ『命を賭す』というのは真実文字通りの意味――お覚悟の上でどうぞ」
 更にリウィルディアの言に次いでヘイゼルも、残存の嘆きへと撃を紡ぎながら声を掛ける。
 納得できないのならそれも良し。信念だというのなら果たすのも良し。
 ただし。成せるか成せないかは別なのだとばかりに……
「――何かを恨むのは良い。頑なに己の信念を貫くのも良かろう。
 じゃがの。お主は欠落しておる。
 根底にある『何故そうしようと思ったか』という想いを――忘れてはならぬのじゃ」
「……随分と知った口を」
「いいや麿は知らん。知らん、が――」
 知っておる者はおるでな、と。
 夢心地はレンブランサの砂の魔力に抗いながら往くものだ。
 過去の幻影を。夢の景色を斬って斬って斬り伏せて。
 道を切り開く。ニルの為の――道を。
 ……そなたが願い、慈しんだ光景が、眼前のこれであるとは言わせぬぞレンブランサ!
「レンブランサ様……居場所ができたり、ともだちができたり。
 そういう事って、胸がぽかぽかする様な『たのしい』事だとおもうのです」
 そして、ニルは告げる。
 レンブランサ様もいつかそう思えるかもしれないと。
 …………いや。
 どうしてレンブランサ様と別れたか、ニルは思い出せないけど。
 でも、ニルは一つだけ思い出している事はあるのです。
「レンブランサ様も――そうではなかったのですか?
 ニルと話している時『笑って』くれてましたよね?」
「――まさか。そんな……記憶が?」
 ザントマンの話を聞かせてくれた。
 一緒にご飯を食べてくれた。
 その時の穏やかな笑顔。

「ニルは、レンブランサ様の事。もう忘れたくないです」

 だから、今ここで全部なくしてしまわないで。
 こんなふうに変えてしまわないで。
 フォルカウも、森も、そこで生きるみなさまも。
「笑顔でいられるように変えていきませんか」
 ――差し出す手は最後の一線。
 手を取るか、取らぬか。それで全てが……きっと決まってしまうのだろう。
 刹那の逡巡。まるで、時が止まったかのような一瞬――の後に。
「私は忘れたかったのです」
 レンブランサは告げる。ニルへ。
 ……あの一時を。サンドイッチを食べながら語り合ったあの一時を
 覚えていたら。認めてしまったら。
 この心が絆されそうで――いけなかったから。
 眼を閉じたかった。何もかも無かった事。悪い夢なのだと信じなければ。
 信じなければ……ファルカウを護るために旅に出た何もかもが無意味に帰しそうだった。
 それほどにニルとの一時は、輝くほどに眩しかったから。
「私は……」
「――レンブランサ様!」
「私はきっと、もっと器用に生きられれば良かったのでしょうね」
 直後。レンブランサの口端が――微かに緩んだ、と同時。
 彼が砂を振るう。それは破れかぶれの様な、一撃。
 だけれどもイレギュラーズ達を狙った一撃――だから。
 ニルは動いた。彼女の手に抱かれし魔力の極撃がレンブランサへと放たれて――
「……もしももう一度があるのなら」
「えっ?」
「…………」
 同時。周囲の光景に再び歪みが走る。
 それはこの場の主軸たるレンブランサの意識が失われた事による崩壊――
 ――誰も彼もが弾き出される。カロンの力によって形成された夢の空間が、壊れ果て。
「むっ! 此処は……!? レンブランサはどうなった!?」
「姿が無いな……奴も弾き出されたのか? 恐らくそう遠くない所にはいる筈だが」
 直後。まるでガラスが砕ける様な甲高い音が響いたと思えば。
 先程まで見せられていたアンテローゼ大聖堂――の中ではない光景が広がっていた。
 此処はまごうこと無きファルカウ上層。
 汰磨羈やクロバが素早く周囲を確認すれば……周囲に敵の姿はなかった。夢魔や嘆きはほぼ壊滅状態に追い込んでいたが故にこそ、仮に残っていたとしても問題ではなかったが……しかしレンブランサの姿も見えない。
「……レンブランサはどうなったんだろう。いずれにせよ、あの状態で反撃の力が残っているとは思えないし、もう邪魔してくる事はないだろうけど」
「――イレギュラーズ。此処はひとまず我々に任せてくれ。
 敵の防衛線の突破には成功した……が。まだ戦いは終わってないからな」
「うひゃー此処から先に、冠位魔種とか敵の本隊がいるんですよね、大変だぁ~!」
「大樹の代弁者は倒したけれど、大樹を枕にしている支配者、か……
 七罪やその取り巻き達が残ってるとすれば――まだまだ油断は出来ないねぇヒヒヒ……」
 だがリウィルディアの推測通り、少なくともレンブランサがどこかに潜んでいて奇襲の気配を窺っている――と言う事はないだろう。もう彼にも戦うだけの力……いや、それだけではなく『意志』もない様に感じた。
 ともあれ敵がいないかの捜索は警備隊に任せてほしいとルドラが紡げば。
 ウテナや武器商人は更にファルカウ上層の奥の方を見据えるものだ――まーだまだ沢山のバクアロンがこの先にいるのだろう。戦いの激しい音は、未だ各所で鳴り止んでいない……
 だが少なくともこの場における戦いは終わった。
「ニル。レンブランサは……最後に何か言っていなかったか?」
「……ごめんなさい。上手く、聞き取れなかったのです」
 そして。ニルへと言葉を繋いだのはブレンダだ。
 あの後レンブランサ様はなんと言おうとしていたのだろう。
 分からない。分からない――けれども。
「レンブランサ様、わらっていました」
「――そうか」
「また、会える気がします。いつか、きっと……」
 レンブランサは助かっているのか。いないのか。傷が浅いのか、深いのか。
 分からない。今すぐ確認しに行く暇もないだろう――
 だけれども。ニルは確信していた。

 ……また一緒に、ご飯を食べれる日が来ますよね。

 あの日食べたサンドイッチの『味』を――ニルは、思い出した気がした。
 なんだかとってもおいしかった様な気がする。
 だって。レンブランサ様は――確かに笑顔だったんだから。
「レンブランサ。僕は口だけのつもりはないよ。あの言葉は、約束だ」
 そして。届くとも知れぬ言葉を、マルクは紡ぐものだ。
 ――『より良い明日を作る』と述べたあの言葉に、嘘偽りは一変たりとも混じっていない。
 きっと成してみせるからと。

 子守歌代わりに、餞の言葉を送ろう。あぁ――

 ヴィーゲンリート(子守歌)に祝福を。
 深緑の明日に――どうか祝福を。

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
一条 夢心地(p3p008344)[重傷]
殿
ニル(p3p009185)[重傷]
願い紡ぎ
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)[重傷]
ドラゴンライダー

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。

 ……レンブランサはとても生真面目で、とても優しくて。
 だから引き返せず、だから戦うしかなく、だから進むしかなかったのでしょう。
 ……彼の行方は知れない様です。
 ですがきっと言葉は彼に届いている事でしょう。彼が笑顔を、ほんの微かでも見せたのであれば。

 ありがとうございました。

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