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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>蒼と紫の夜想曲

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 永久の救いが訪れる時。鳴り響く鐘の音を聞くことが出来なくとも。
 終焉の時まで安らかであれと願う。
 嘆きと慟哭が木霊するこの世に、我が導きを。
 救いの手を。

「なあ、答えておくれよ、エリーザ」

 救いの手を。

「どうして、何も言ってくれないんだ」

 救いの手を。

 黒髪をクリスタルの表面に押しつけた『怠惰の魔種』イヴァーノ・ウォルターの声が空間に響く。
 イヴァーノの正面には巨大なクリスタルが地面に突き立てられていた。
 その中には、胸に裂傷のある女性が目を瞑っている。
 白磁の神殿のようなその場所には、他にも無数のクリスタルが存在し、中に人が閉じ込められていた。
 耳の長い彼らは幻想種。イヴァーノの恋人や家族、友人。大切な人達である。

 かつて巫女リュミエが森を開く事を決意し、その煽りを受けイヴァーノの村が盗賊に襲われた。
 イヴァーノは目の前で死んでいく恋人を救いたいと願い。
 そして、魔種の呼び声を受けてしまったのだ。
 イヴァーノは自身の権能で、死にかけた恋人や家族、大切な人達の時間を止めて此処へ運び込んだ。
 恋人のエリーザはクリスタルの中で『生きて』いる。
 いつか救う手立てが分かるその時まで、水晶の揺り籠の中で幸せな夢を見続ける。
 魔種としてのイヴァーノの権能は、未来への希望を待ち続けるものだった。

 その、筈だった――

「なあ……どうして。どうしてっ、君は、何も言ってくれないんだ!?」
 イヴァーノの叫びがクリスタルの神殿に反響して落ちていく。
 いつもなら、恋人のエリーザは優しく自分へ話しかけてくれるのに。
 その鼓動もしっかりと聞こえるのに。
 どうして、今は聞こえなくなってしまったのだろう。
 夢の中でイレギュラーズと戦ってから、エリーザの声は聞こえなくなってしまった。

 ――――
 ――

 コツリと靴音がイヴァーノの耳に届いた。
 魔術結界が張っているはずのこの神殿に入り込む侵入者へと魔種は振り返る。
「君は……」
「マリエッタです。イヴァーノさん」
 翠の瞳をした美しい女性。緩やかな髪を揺らし『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は神殿の入口に佇んでいた。
「これは……」
 小さく呟いたマリエッタは神殿の入口に置かれたクリスタルへと手を伸ばした。
「触るな!」
 一瞬の内に間合いを詰めたイヴァーノがマリエッタの手首を掴み、クリスタルへ触れるのを制止する。
「クリスタルの中では、時が止まっているとイヴァーノさんはおっしゃっていましたよね」
 掴まれた手首をすっと引いて、マリエッタは青年を見上げた。
 過去の夢で見た彼より、顔にやつれが見える。夢の中の青年はまだ希望を願っていた。
 マリエッタはイヴァーノから視線をクリスタルへと向ける。
 魔種は水晶の中で彼らが『生きている』のだと言った。
「でも……このクリスタルの中にいる人は……」
「……っ! 煩い。違う。違う、違う!!!! それ以上言うな! 違う!」
 鬼の様な形相でイヴァーノは『否定』した。それを、否定しなければ、何かが壊れてしまう。
 取り返しの付かない事に気付いてしまう。

「――もう、死んでいますよね」
 マリエッタの脳裏に浮かんでは消えていく沢山の亡骸のかたち。
 青白い肌とくぼんだ眼窩。その『誰か』の記憶の中にある魂無き者達と彼らは同じ様相をしていた。
 このクリスタルの中の人はもう死んでいる。

「ちがう、俺には、聞こえる。鼓動が、言葉が……!」
 耳を塞ぐようにイヴァーノはマリエッタを突き飛ばす。
「い……っ!」
 地面に転がる寸前で、彼女の身体を救い上げ、助け起こしたのは『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)だ。
「大丈夫ですか?」
「はい。問題ないです」
 ハンナはマリエッタを抱え、片手で剣をイヴァーノへと構えた。
「イヴァーノ様、貴方は……『自分自身に夢を掛けた』んです。此処にはもう、誰も生きてない」
 悲しげに瞳を伏せるハンナ。その隣にはイヴァーノの瞳には映らない『エリーザ』が立っていた。
 この神殿に張り巡らされた結界を解いたのは、エリーザの残留思念。

 大樹ファルカウへの進軍をしていたイレギュラーズは亜竜の群れと共に現れた『冠位』暴食ベルゼー配下の竜達と戦い、勝利を収めていた。
 ベルゼーは先の戦いにおいて本領を発揮していない。なぜなら、同胞である亜竜種が多くこのファルカウへと進軍していたからだ。ベルゼーにとって亜竜種は傷つけたくない存在であったのだ。
 いつかは滅びに導かなければならないのだとしても、少しでもその猶予を稼ぎたかった。
 撤退していくベルゼー達。残されたのはフェニックスによって燃やされつつあるファルカウ。
 深緑を奪還するにあたって最も脅威となるのは、森を閉ざした『冠位怠惰』カロンだった。
 ――森を閉ざして、永遠の深き眠りを。
 怠惰の権能の茨。このままでは幻想種達が眠りながらにして朽ちていくのだ。
 深緑を取り戻す為に、イレギュラーズはここまでやってきた。

 蒼晶神殿。
 イヴァーノがクリスタルの『墓石』と過ごしているとされる場所へ、足を踏み入れた瞬間に現れたのは魔種の恋人『エリーザ』の残留思念だった。他にも無数の思念が蒼晶神殿には漂っている。
 未練を帯びた彼らは一様に『救い』を求めていたのだ。
『どうか、助けてください。どうか、心優しいイヴァーノを……』
 自分達を何とか生かそうと魔種になった哀れな人。
 優しくて誠実で。それ故に壊れてしまった。このままでは、罪なき人を殺してしまう。
 だから、どうか、止めて下さい。
 そう、エリーザはイレギュラーズに告げたのだ。

 ――――
 ――

「煩い! 煩いぞ! エリーザは死んでなど居ない! いや、死んだ? 死んでいる?
 お前達が殺したのか余所者(イレギュラーズ)だから、か弱い幻想種は一ひねりだろうからなァ!」
 滅びの気配が強くなったとマリエッタは感じ取った。
「何故……なぜ。殺した、何故なんだ……」
 人が自分の目の前で、歪んで行く姿を目の当たりにしたハンナは、引き摺られそうになる感情を歯を食いしばって必死に耐える。気を抜けば胃の中の物を吐いてしまいそうな程の『怖さ』なのだ。

 人が、壊れて行くというのは――

「森が開いたから……あぁ……巫女リュミエが……はは……ははは……」
 マリエッタ達の目の前にあるクリスタルが砕ける。中からは異臭を放つ亡骸が転がった。
「今度は、森を燃やし……俺達の故郷は、灰になってしまった。帰る場所も無くなった? おかしい、俺はエリーザの笑顔がもう一度見たいだけだったのに。なぜ、エリーザは言葉を返してくれない?」
 イヴァーノは踵を返し、最奥にあるエリーザの元へと歩み出す。
 その間に立ち並ぶクリスタルが、魔種が進む度に、次々と割れて行った。
「……エリーザ」
 恋人のクリスタルが一際大きな音を立てて割れる。
 イヴァーノはエリーザを抱きしめて、その鼓動を確かめる為胸に耳を当てた。
「何も聞こえない。鼓動も何も……エリーザ。こんなに、冷たくな……っ、ぅう、あ、ぁ」

 ――夢を見ていた。
 自分だけが、幸せな夢を見ていたのだ。
 馬鹿みたいに自分を騙して、独り取り残された。
 なんて、滑稽で、無様なのだろう。
 もう、このまま夢を見続けていたい。幸せな夢を。

 くつくつと不気味な嗤い声が聞こえる。
 愉悦の化身。黄金の仮面を着けたコーラスがイヴァーノの背中に張り付いていた。
 幼児程の大きさのコーラスは顔を傾けながらケタケタと嗤った。
「はは……ははは……アアアァアアッ!!」
 滅びの深度が上がる。食われてしまう。ただ一つ残った愉悦の化身に侵される。
 これこそが、反転して『デモニアに成る』ということなのかもしれない。
 イヴァーノはエリーザの亡骸を壁へと投げつけた。彼女の脆くなった四肢は簡単に破壊される。
 マリエッタは恐怖する。魔種が正しく魔に落ちる瞬間を目の当たりにしたからだ。
 矜持や思想は打ち砕かれ、命を救いたいと願った青年は、大切な人さえ分からぬ獣になった。

『どうか……救ってください』
 エリーザの声がマリエッタとハンナの耳に届いた。
 夢の中で保ってきた心が砕け、その拠り所さえうしなったイヴァーノを元に戻すことはできない。
 殺してあげる事が救いになる。
 彼はいま、生きていることさえ辛く。
 何に笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのかさえ、理解していない。
「はい。必ず『救って』みせます」
 ハンナとマリエッタは大きく頷いてイヴァーノへと剣を向けた。

GMコメント

 もみじです。イヴァーノを救ってあげてください。

●目的
・魔種イヴァーノの討伐
・敵の殲滅

●ロケーション
 大樹ファルカウ(上層)にある蒼晶神殿と呼ばれる場所です。
 白磁の床と壁に青白い光が灯っています。
 イヴァーノがクリスタルの『墓石』と過ごしていました。
 今は、クリスタルは全て砕け散り、戦場の隅には中に閉じ込められていた人々の亡骸が転がっています。
 この場所は魔種のテリトリーでもあります。夢の中に誘われる可能性があります。

●敵
○『怠惰の魔種』イヴァーノ・ウォルター
 恋人エリーザを死の間際でクリスタルの中に閉じ込めました。
 イヴァーノは盗賊達が現れたのはリュミエが国を開くと決めたからだと思っていました。
 けれど、イレギュラーズ達と戦い、リュミエを殺す決意に揺らぎが生じました。
 そんなとき、いつも聞こえていたエリーザの声が聞こえない事に気付きます。
 本当はもう既にエリーザ達は死んでいたのです。
 無意識に彼らは生きていると『自分自身に夢を掛けていた』のです。
 それに気付いたイヴァーノは魔に深く落ちてしまいました。
 身体と心が乖離し。夢の中へ心が隠れている状態です。
 エリーザの残留思念は彼を『救って』ほしいとイレギュラーズにお願いしてきます。

・蒼晶棘:物遠単、出血、流血。散りばめられた水晶を意のままに操り攻撃してきます。
・紫炎弾:神超範、呪い、恍惚。紫の炎を纏った光弾を放ちます。
・夢瞳の誘い:神至単、イヴァーノの瞳を見ると、幸せな夢に誘われます。抜け出すには幸せな夢との決別(自死)を選ばなければなりません。夢の中に居る間は戦場で昏倒します。
 他、魔術を操ってオールラウンドの攻撃と、剣を使った接近戦が出来ます。

○『愉悦の化身』コーラス
 イヴァーノに残った感情が具現化したもの。
 黄金の仮面を被って、イヴァーノの背中に張り付いています。
 これを引き剥がせば僅かに正気を取り戻すでしょう。

○怪王獏(バクアロン)×30
 本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です。
 近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させます。

○大怪王獏(グレートバクアロン)×3
 本来は悪夢を食う妖精ですが、冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種(アロンゲノム)化しています。ここに居る個体は、魂を食う恐ろしい怪物です。
 近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時にパンドラを直接減損させます。
 バクアロンよりも強い個体です。

●味方
○『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 神秘タイプ。回復や神秘攻撃を行います。
 メガ・ヒール、天使の歌、神気閃光、ソウルブレイク、魔砲を活性化したホーリーメイガスです。

○『Vanity』ラビ(p3n000027)
 神秘型トータルファイターです。
 脚力を活かした攻撃を仕掛けます。
 普段のぼやっとした印象からは打って変わって無駄が無い動きです。

○『残留思念』エリーザ
 戦場の片隅で他の残留思念と共に、イレギュラーズとイヴァーノの戦いを見守っています。
 エリーザはイレギュラーズにイヴァーノを救って欲しいとお願いしました。
 変容したイヴァーノを見て心を痛めています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <太陽と月の祝福>蒼と紫の夜想曲完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月30日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 青き水晶に、白い光が反射して床を滑って行く。
 深き森の大樹の裾、魔種イヴァーノ・ウォルターの居城。
 クリスタルの墓標は、細かく砕け散り、堅い床に転がっていた。

「怠惰の魔種、悪夢、墓石、ね……」
 床に転がるクリスタルの破片を拾い上げ、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は其れを拳に握り込んだ。傍らにはイヴァーノの恋人、残留思念のエリーザが佇んでいる。
「いいわ。それが、貴女の望みなら、終わらせましょう、ここで」
 恋人である彼女自身が、イヴァーノの『死(きゅうさい)』を望んでいるのだ。
 イリスの後でエリーザの背をじっと見つめるのは『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)だった。
 転がる亡骸、浮かぶ幽霊。いつものジルーシャなら、怖くて仕方の無いものたち。
 けれど、今は不思議と落ちついていた。
 なぜなら、イヴァーノが辛く、悲しそうで。まるで、途方に暮れた子供のように見えるからだ。
「アタシには、アンタのしたことは間違いだなんて言えない。でも……そうね、『救う』ことはできるわ」
 イヴァーノの心には、エリーザや皆との幸せな思い出だって、確かにある筈だから。
「アンタがそれを手放してしまわないように、アタシたちが繋ぎ止めてあげる」
 ジルーシャは何時になく真剣に。強い眼差しで「これは、そういう戦いだもの」と顔を上げた。

 スカーレットの髪を揺らし、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は魔種へ緑の双眸を合わせた。
「イヴァーノ、貴方の気持ち……痛いくらいによく分かりますわ。愛しい人が、どんな形でも良い。今も生きて、幸せで居てくれたら」
 その痛みは、ヴァレーリヤの背に深く突き刺さっている。
 忘れることも出来ない。否、手放したくなんてない、傷跡(おもいで)があるのだ。
 いっそ自分が身代わりになれたらと。
「そう思っていた人を失ってしまったのですもの。心を壊してしまうのも当然ですわよね。でも、貴方をこのままにしておくわけには行きませんの。――どうか貴方の魂に、主が慈悲を下さいますように」
 指を組み、祈りを捧げるヴァレーリヤ。
 焔の双眸をイヴァーノに向ける『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は、彼の慟哭をその耳で聞いた。
「反転の鍵となる契機の感情……」
 許せないもの。認められないもの。心に強く焼きつく程の想いでさえ、最後には喪くしてしまうのだと、僅かに視線を落すリースリット。
「例え正気を保っていたとしても、切欠が……心が呑まれれば、こうなってしまう……あれが、反転の行きつく形。滅びのアークの使徒たる魔種の本質ですか……」
 歪な傷跡、世界を壊す、黒き獣。
「これが反転。人が……堕ちるという事」
 胸元をぎゅっと握った『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は、魔種を見据え、その心に問いかける。
「貴方の心に残ったのは愉悦のみ、そうなんですかイヴァーノさん。……いいえ、違いますよね」
 魔力剣で地面を引っ掻いたイヴァーノはマリエッタの言葉に視線を落した。
「貴方はずっと、信じて、信じて、信じ続けた。
 愛する人を救いたいと……僅かな可能性に望みをかけて、ずっと、ずっと。
 ただ一つを信じ続けた貴方の想いが……歪んだモノに転じないように。
 その気高い、貴方の想いを……私が『救い』ます」

 こつりとイヴァーノが水晶の床を鳴らす。一歩近づいてくる。その影から澱んだ夢魔が染み出した。
「……私、ちょっと夢見ていたんです」
『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)は唇を噛み、滲む眦に涙を溜める。
「イヴァーノ様は魔種ですからどうあっても斬らねばならないと覚悟していましたが、エリーザ様は、せめてイヴァーノ様が救いたいと願った方達だけでも救えたらいいなと、思って……」
 ハンナを気遣うようにイリスは彼女の肩に手を置いた。
「……とかくこの世はままならぬもの、ですね」
 死だけが唯一の救いだとというのならば、是非もないとハンナは剣柄を強く握る。
「イヴァーノ様とエリーザ様のために私はこの刃を振るいましょう。
 涙は全てが終わった後にとっておきます!!」
 ハンナの声がクリスタルの神殿に響き渡った。
「愛する方を失った悲しみ故、ですか。私には、想像し、察することしかできません」
『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)は胸に手を当てて、僅か瞳を伏せる。
「けれど、そこにもうおひとり、死してなお愛する人を想う方がいるのであれば……」
 力になりたいのだとグリーフはエリーザの残留思念に視線を流した。

「幸せな夢に縋り、その夢への停滞を望む。
 そのような気持ちが分からないとは言いませんが……今は、夢の終わる時です」
 ゆっくりとイヴァーノへと近づく『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は、その影から染み出してきたバクアロンの群れを見遣った。一つ、また一つと生み出される黒き獣。
「イノーヴァをお願いします。我々はその間に有象無象を」
 ステッキをコツンとクリスタルの床に突いた寛治は、バクアロンの群れの前にその身を曝け出す。
 ただ、立っているだけ。眼鏡のその奥の冷ややかな視線。それでいて、異様なまでの威圧感に、バクアロンは寛治を『危険なもの』と認識する。
 危機を排斥するという生物的本能のまま、バクアロンの群れは寛治へと襲いかかった。
「……微動だにしないって、信頼しすぎじゃない?」
 バクアロンの牙を寛治の代わりに受けたイリスが、血を流しながら、敵を払い振り返る。
「動かない方が、守りやすいでしょう?」
「ええ、そうね……助かるわ」
 イリスの役目は仲間の盾となること。このバクアロンは、直接、魂の輝き(パンドラ)に干渉する。
 一つ一つは些細な攻撃であろうとも、積み重なれば脅威となる。
 だからこそ、寛治へと引きつけた敵意を肩代わりすることで、策略的にイリスへとダメージコントロールを行い、仲間への攻撃を防ぐのだ。
「言ってみると結構しんどいけど、まあ、その位はこなさないとね」
 イリスの戦いは、『耐える』こと。仲間がイヴァーノへと対峙する余力を残ことが何より重要なのだ。
 それが仲間を守る盾の矜持であった。
「できる限りはこっちで受け持つけど、ある程度は信頼して預けるわね」
「任せてくださいっ! このウテナ・ナナ・ナインがバクアロンを倒しちゃいます!」
『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)は相棒のロスカに飛び乗る。
「いくよロスカっ!」
「くぁ~!」
 エリーザの残留思念に救って欲しいと言われたならば、それを叶えてやるのが道理。
「それでは引導を渡してあげましょう!」
 バサリと翼を広げたロスカの背に跨がり、ウテナは天井すれすれまで飛び上がった。


 寛治へと群がるバクアロン共の間を走り抜けるのは『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)だ。
 義手から発せられる磁力の爆発力に、己の拳を乗せて戦場を駆け抜ける。
「お前さんか、マリエッタたちを攫ったってやつは!」
 バグルドの拳を剣で受け止めたイヴァーノは、口の端を吊り上げ、不気味に笑った。
「夢に誘っただけさ……」
「お前さんが何を思ってこんなことをしてるかは正直分からんでもない」
 エリーザの残留思念が語ったように、イヴァーノは彼女を生き返らせたかったのだろう。
「だから、今ここでお前さんの夢を砕い(助け)てやる。そして、そこの仮面野郎! お前だ、おまえ! その面ァ、叩き割って吠え面かかせてやるからな!」
 義手に仕込まれたナイフでイヴァーノの胸を狙うバグルド。
「お前さんにどんな葛藤があったにせよ、初めから手遅れだったってことだ」
「……っ! 煩い! そんな、こと有るわけ無いだろ!」
 最初から手遅れだった。その言葉はイヴァーノの心を深く突き刺した。
 バグルドは正しく、魔種の心を痛めつけ、釘付けにしたのだ。
 マリエッタはイヴァーノへと向き合い、戦うと心に誓う。
「覚悟はもう、できてます。彼を殺し、血に汚れ、咎を背負うことも、だって私、血の魔女ですから」
 もう一つの――魔女としてのマリエッタの力を身に纏い、イヴァーノへ視線を上げる。
 マリエッタの影は揺らぎ、侵食するように広がり、大鎌の形を取った。
 鎌はイヴァーノの身を容赦無く切り裂く。
 死血の魔女と呼ばれた、マリエッタの本当の姿が、戦場に顕現する。
 イヴァーノの魔術は眼前のバグルドとマリエッタ双方を飲み込んだ。
 されど、彼の肌には傷一つついていない。
「二人とも問題ありませんか?」
「グリーフさん……、助かります」
 マリエッタ達を庇ったグリーフには、その身を燃やす炎は効かず、白い肌を流れるだけ。
 イヴァーノの背に張り付く仮面――愉悦の黄金。それはグリーフの瞳に色濃く映り込んだ。
 人の感情を色で識別するグリーフの瞳には、愉悦の化身コーラスは眩すぎるのだろう。
 その強すぎる感情に飲まれないよう己を律するグリーフ。
「今は、愛し合ったありし日の二人のために」

 ――――
 ――

「先ずは……バクアロンの殲滅を。流石に数が多すぎてイヴァーノを倒す処ではありませんね」
 リースリットは緋炎に風と氷の精霊を纏わせる。
「――其の名は、『死を纏うもの』、凍てつく氷風。祝福を此処に」
 剣尖に集まった精霊の加護を一閃。
 リースリットの刀身にバクアロンの群れが切り裂かれ、その身を凍らせる。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
 聖なる言葉と共にメイスを掲げたヴァレーリヤの周囲が、眩い炎に包まれた。
 バクアロンの群れに降り注ぐは、灼熱の焔。
 赤く紅く。クリスタルの床が炎に揺らめく。
 ヴァレーリヤの耳に、ジルーシャの竪琴の音色が聞こえて来た。
 この場に揺蕩う魔素と彼の香りと音を依代に精霊が姿を現す。
「力を貸して頂戴ね、アタシの可愛いお隣さんたち」
 ジルーシャの香りに誘われて、精霊はその霊薬を分け与えるのだ。
「アタシの充填力を舐めるんじゃないわよ、誰一人倒れさせるもんですか!」
 戦場で耐え凌ぐ、寛治とイリス、他の仲間も出来るだけその香りが届くように。ジルーシャは治癒の雫を降り注いだ。

 寛治が引きつけたバクアロンへと視線を上げるハンナ。
 イリスがその身を挺して庇う作戦とはいえ、仲間が敵の群れに飲まれてしまうのは、恐怖さえ感じてしまうだろう。ハンナは双刀を手にバクアロンへ刃を叩き込んだ。
「なるべく早めに数を減らせるよう頑張りますね!」
「ああ、中々に痛いからね。早めに頼むよ」
「了解です!」
 イリスはまだ軽口が発せられる程度には体力があるのだろう。
 ジルーシャの回復と己の自己回復を合わせ、持ちこたえているのだ。

 されど、積み重なる傷はイリスの体力を徐々に削る。
 肩で息をするイリスにグレートバクアロンの猛烈な打撃が叩き込まれた。
「ぁ、ぐっ!」
 明滅する意識が、死をかんじさせる。
 何度味わってもこの瞬間だけは、嫌な気分になってしまう。
 仲間の声が遠ざかっていくのが怖くて、自分の存在意義を失ってしまうような気がしてしまうのだ。
「……いや、もう。まだ倒れちゃ、だめ……だからね」
 口から血を流し、イリスは立ち上がる。
「まだ、倒しきっちゃ居ないからね!」
「よいしょー!!」
 イリスを再度攻撃しようと迫るグレートバクアロンへ向けて、ウテナの攻撃が迸った。
「いまですっ! ロスカっ!!」
「くぁ~!!」
 吹き荒れる極炎の紅きブレス。ロスカの口から放たれた炎はグレートバクアロンを完膚なきまでに燃やし尽くしたのだ。


「すまんグリーフ、もう少し耐えてくれ」
「ええ、大丈夫です。信じてますから」
 バクアロンと戦ってる仲間が合流してくれるまで、グリーフはイヴァーノの攻撃を受け続けていた。
「イヴァーノさんの思いを受け止め続けましょう」
「何を……! 君に、分かるものか!」
 本質的な所で、人間というものは、分かり合えないのかもしれない。
 けれど、仲間が想いを託す手助けをしたいとグリーフは願うのだ。

 バクアロンの群れを削りきれたのは、寛治が敵を引きつけ、イリスがそれを庇い、効率よくダメージコントロールを行った事が大きなアドバンテージとなった。
「大方、片づいたかな!?」
 イリスは息も絶え絶えに、仲間へと合図を送る。
 身体中、傷だらけで立っているのもやっとであったが、それでも守りきる事が出来た。
「あとはイヴァーノを任せたわよ」
「ええ、任せてくださいまし!」
 ヴァレーリヤはイリスの言葉を受け取り、イヴァーノへと走り出す。

 それを追いかけるように、溢れたバクアロンを寛治が止めに入った。
「すみませんが、主演の邪魔をさせるわけにはいきませんからね。ここで私と踊っていただきます」
 イヴァーノに向かう仲間を支えるのが、寛治の役目だ。
 それに、まだ『殲滅』には至っていない。
「……元は悪夢を食べてくれる優しい子たちだったんだもの。ちゃんと最後まで見届けてあげなくっちゃ」
 バクアロンを抱きしめたジルーシャは微笑みを浮かべる。
「眠るまで、アタシが側にいてあげる。だから……大丈夫よ、ゆっくりおやすみなさいな」
 夢から生まれたのならば、夢に返す。ジルーシャは眠りの歌を奏で、旋律を戦場に響かせた。

 ヴァレーリヤはイヴァーノへと緑の双眸を上げる。
 まずはマリエッタ達がイヴァーノの背に張り付いているコーラスを引き剥がす隙を作り出さねばと、リースリット、ハンナへとアイコンタクトを送る。
「よそ見している暇がありまして?」
 ヴァレーリヤのメイスがイヴァーノの剣を押さえ込み、金属の摩擦音が戦場に響いた。
「あまり浮気ばかりしていると、その首、持っていってしまいますわよ!」
「……」
 イヴァーノの側面から剣を突き入れるのはリースリット。
 ハンナの双剣とリースリットの突き。
 合間を縫うように、舞う二人の剣舞にイヴァーノは顔を歪ませた。
「イヴァーノ様を終わらせる前に、この仮面だけは絶対に破壊致します!」
 四方からの攻撃を防ぎ、躱すイヴァーノの動作に、揺らぎが見える。
「例えわずかな時間でも、苦しくても辛くても、貴方は正気に戻るべきですよっ! じゃなきゃエリーザさんもイヴァーノさんも救われないじゃないですかっ!」
 ウテナは背面のコーラスを狙い、照準を合わせた。
「もう夢から覚める時間ですっ!! うちは容赦しませんからね!」
 ロスカと共に突進してきたウテナはイヴァーノの背中に張り付いたコーラスへ、その身をぶち当てた。
「俺は後ろの仮面野郎を何とかする! マリエッタ、イヴァーノのことは任せたぞ!」
 ウテナの攻撃に遭わせ、バグルドも義手に仕込んだナイフを叩きつける。

 ――――
 ――

「グリーフさん……!」
 遠くマリエッタの声が聞こえたような気がして、グリーフは後を振り向いた。
 其処には自身の領地にあるマナの木と、その根元で泣き声を上げる赤子の姿がある。
 何度も、何度も。この深緑で見てきた『夢の世界』だ。
 自分は秘宝種であり、子供を為す事はできない。されど、渇望した自らの赤子。
 その赤子をひと撫でしてグリーフは笑みを零した。
「私にはまだやるべきことがあるから。守れるものがあるから。だから、ここ(夢の中)には留まれません。ごめんなさい。……おやすみなさい。また会いましょう」
 自らの核を取り出し、砕いたグリーフの視界が、ふわりと優しい光に包まれる。

「ああ、お前さんら生きていたんだな」
 バグルドは目の前に現れた懐かしい人達に目を細める。
 胸を締め付ける切なさは、彼らがもう居ないからこそ沸き起こるものだ。
「お前さんらの死を俺は認めちまった」
 死んで欲しくないと願ったからこそ、終わりは目の前にあって。
 痛みを突きつけるように、縋るその『生者』を振り払うバグルド。
「だからじゃあな、今度は俺から先に往くが。なに放浪者だからな。また会おう」
 この夢の中で生きている。それは則ち、己が越えてきた過去なのだ。

 ヴァレーリヤの傍には両親と弟が朗らかに笑っていて。
 その隣には司教の姿もあった。幸せで、満ち足りていて、優しい世界。
 戻る事は出来ない、夢の灯火。
「ヴァレーリヤ」
 そう自分の名前を呼ぶ両親に首を振るヴァレーリヤ。
「ごめんなさい。ずっとここに居たいけれど……私、行かなくてはいけませんの。現実では今も皆が、命をかけて戦っているのですから」
 此処に居れば、誰にも奪われず、失わず幸せに暮らして行けるというのに。
 引き留める両親の手を振りほどいたヴァレーリヤは、悲しげな笑みを浮かべる。
「……引き止めてくれて有難う。いつか、主の御許で会いましょう」

 幸せな夢とは何だろうか。リースリットはそんな事を考えて紅い瞳を瞬かせた。
「私の望み、求めているもの」
 薄く靄が掛かった薄紫の空間に、浮かび上がるのは父親の姿だ。
「お父様?」
 リースリットがその胸に抱く夢。父の役に立つということ。
 これは幼い頃の記憶が混ざり合ったものなのかもしれない。
 大きな父親の背中と、優しい掌は、リースリットにとって語り尽くせぬ希望の根源。
 優しさと共に思い出した、儚き夢に、リースリットは別れを告げる。
「私が叶えたい望みは、此処にはありませんから」

「むーん、ここは……絵本の世界! ってことは……本当のロスカが、いる!」
 本物のドラゴンロスカに乗ったウテナは、大空へと羽ばたいた。
「すごい! こんなに大きいロスカに乗って飛べるなんて……!」
 雲を割って遙か彼方の上空へ。街や人が米粒みたいに小さく見える。
 ウテナが焦がれた絵本の世界。優しい原風景。
「でも……うちにとっての“ロスカ”は、もうあの子になっちゃったので……すいません!
 帰らせてもらいますよっ!!」
 ウテナは大空を飛ぶロスカの背中から、思いっきり飛び降りた。

「穏やかな日々も、幸福も、確かに私になくてはならないものだと思うけれど」
 目の前を通り過ぎて行く幸せな風景にイリスは笑みを零す。
「それでも、私は先へ進むと、誓ったから。これが夢の中なら、醒めなければ」
 自身の望みを見失って、幸福な記憶さえ思い出せなくなる。
 そんな悲しい事は止めなければならないから。
「だから、私は守る」
 強い決意の元、イリスは己へ刃を突き立てる。

 寛治は朗らかな笑みを浮かべるリーゼロッテに目を細める。
 これは幸せな夢だ。彼女は追われてもいないし、怪我を負ったりもしていない。
 ちょっと騒がしく、居心地の良い、アーベントロート領の一幕。
 リーゼロッテとの優しいひととき。それが寛治の一番の望みであろう。
 愛する人を救い、幸せをこの手で取り戻す、何て甘美な夢だろうか。
「冗談ではない。夢というだけで願い下げだ。そんなもので彼女は救えない」
 救いたいのは現実の彼女。優しい夢に浸っている暇など寛治には無いのだ。
 自らのこめかみを拳銃で撃ち抜き、寛治は夢の中から消え去った。

「何を見させられようと、私は帰ります」
 己の双剣を首に当てたハンナは躊躇いもなく血飛沫を上げる。
「私はイヴァーノ様を救わなくてはいけません。今はただそのためだけに突き進むのみです!」
 消えゆくハンナの亡骸を見つめたのはマリエッタだ。
「今のは……皆さんの夢、でしょうか」
「そうだね。君が見ていたのは此処に居る人達が描いた優しい夢」
 ベンチに座るマリエッタの隣にイヴァーノが腰を下ろす。
「では、これもまた夢なのですね」
「夢だよ……君は少し変わっているね。現実の方が幸せだなんて」
 マリエッタは自ら、イヴァーノの瞳を見据え、夢の世界に飛び込んだ。
 無茶で危険なのは承知の上、一度イヴァーノの瞳に微睡んだからこそ分かるものがあったのだ。
 救いたいと願うのに、瞳も心も背けてはいられないから。
「私には迷いはもう、無いんです。悪夢の果ても、いつか私が従える。私は……強欲な性分だと、貴方が堕とした夢で知ったんです」
 にっこりと夢の中のイヴァーノに微笑みかけたマリエッタは「だから」と彼の手を握った。
「優しい夢は此処で終わりです。現実で、エリーザさんが待ってますよ。貴方を救って欲しいと言ってたんですから……だから。一緒に行きましょう」
 自らの声で。刹那の時間だけでも。その言葉が、届いて欲しいと願うから。
 マリエッタは、迷わず自らの胸を貫き、血と共に目を開く。
 その瞳に宿るはヘリオドール。死血の魔女の色。


 引き剥がされたコーラスの目の前に立ちはだかるのはバグルドだ。
「テメェ人の痛みを馬鹿にして愉しいか? ならテメェの痛みは一体誰が笑ってくれるんだろうな?」
 穿たれる黄金の仮面。コーラスの身体が宙を舞う。
「夢は醒めるもの。醒めるからこそ、夢ですから」
 愉悦の化身コーラスが、おそらくイヴァーノの魔性を加速させた原因なのだろう。
 グリーフはそれを捕まえ逃がさないと押さえつける。
「目の前で大切な人を失うどれだけ手を尽くしても届かない。その気持ち分かるさ」
 されどバグルドは見送ってしまった。受入れてしまった。
「諦めきれないお前さんに羨ましさすら感じる。其れが夢だとしても足掻き続けるそんな決意に。
 だけどな、生温い怠惰な悪夢からは醒めないといけない」
 バグルドはグリーフが押さえつけているコーラスに向けて、弾丸を叩き込む。
「そして決別してやらないとな。何よりお前さんが愛した奴らのために。なぁに夢でまた会えるさ、そうだろお前さん? だから眠れ、今度こそ怠惰ではなく安然を持ってな」
 黄金の仮面が割れる。バグルドの弾丸により愉悦の化身コーラスが消失したのだ。

「一気に畳みかけましょう!」
 ヴァレーリヤの号令と共に、イレギュラーズはイヴァーノへと刃を向ける。
「しっかりなさい! そんなことをして、エリーザが喜んでくれるとでも思いますの!?」
 ビクリとイヴァーノの身体が震えた。
 意思を持った、光宿した瞳がヴァレーリヤを捉える。
「悲しい夢は、もう終わりにしましょう」
 バクアロンを殲滅したジルーシャは戦線を支えるため、癒やしの旋律を奏でた。
「貴方の大切な人達は、今も貴方を見ています。
 ……そんな姿を見せていていいのですか。しっかりしなさい!」
「見ている? エリーザはもう、死んでしまったのに?」
「ええ、貴方が心配で心配で、まだ此処に留まったままなのです」
 リースリットの言葉にイヴァーノは戦場を見渡した。
 もしかしたら、エリーザ達はイヴァーノが魂を繋ぎ止めてしまった存在なのかもしれないとリースリットは思案する。もしそうなのだとしたら、尚更、こんな事を続けて良いはずはないのだ。
 ウテナはロスカに乗って、上空からブレスを吹き付ける。
 寛治の狙い澄ました弾丸はイヴァーノの胸を正確に撃ち貫いた。
「が、っふ、……はっ、はっ」
 胸を押さえ蹌踉めくイヴァーノ。

 ハンナは刃に想いを込める。イヴァーノを救う為に、最後まで舞い続けるのだと。
「あれだけえらそうな事を言ったのに、こんな終わり方しか出来なくて、ごめんなさい……」
 突抜けるハンナの刃。紅い血が、クリスタルの床にこぼれ落ちる。
「は、っ」
 ごぽりと血を吐き出したイヴァーノは、ハンナにもたれ掛かるように彼女の肩を掴んだ。
 ハンナの肩越しに見えるのは、ヘリオドールの瞳をしたマリエッタだった。
「奇跡を……」
 願うとマリエッタは口にして。
 首を横に振った。

「……いえ、違います。イヴァーノさんを救うのは奇跡じゃない。
 私達の手助けの下に、貴方が信じた想いと、彼女の想いが、貴方を救う――!」

 マリエッタの隣。
 青白く光る女性の姿にイヴァーノは目を見開いた。
 それは、グリーフがエリーザの残留思念をその身に宿した姿。
 イヴァーノの目には恋人に見えたであろう。
「あ……、エリーザ、なのか? そこに、居るのか?」
 ハンナはイヴァーノをクリスタルの床に寝かせ、ぼろりと涙を零した。
 エリーザは青年の手を取り、微笑みを浮かべる。
『ええ。ずっと貴方の傍に居たわ。さみしがり屋で優しいイヴァーノ。さあ、一緒に行きましょう。もう、離れる事は無いわ。ずっと、ずっと一緒よ』
「エリーザ。あぁ……エリーザ。良かった。また、会えたね」
 愛してると、囁いたイヴァーノは、幸せそうに笑みを零した。

「ねぇ、ハンナ。俺と、皆を……、森に、還して、くれないか」
「はい。必ずお還しします。イヴァーノ様もエリーザ様も。だから、どうかお二人とも安らかに」
 ありがとうと小さく呟いて。
 イヴァーノとエリーザは静かに眠りについた。
「……おやすみなさいませ」
「お休みなさい。良い、夢を」

 マリエッタとヴァレーリヤは、悲しき彼らに花と祈りを捧げた――

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
終わらない途
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
グリーフ・ロス(p3p008615)[重傷]
紅矢の守護者

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 イヴァーノはエリーザと共に、静かに眠りました。
 MVPは戦線を優位に進めた方へ。

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