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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>夢に囁くもの

完了

参加者 : 10 人

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オープニング


 悪夢の大地を、無数の悪夢が駆けまわる。
 黒いどろより生まれ、魂を喰らう。それは変質した『バク』であり、アロンゲノム=怪王獏(バクアロン)の群である。
 よそに現れたバクアロンと、このエリアのそれは明確に違った。悪夢の内から染み出し、襲い来るそれは悪夢そのものであるともいえる。本来悪夢を喰らうという口は人の魂と可能性を喰らい、殺しては現れ、殺しては現れ、それは丸で終わりのない悪夢ようにも思えた。まさにバクアロン・ナイトメアとでもいうべき、恐るべき変異種たちであった。
「チッ、キリがないな!」
 イレギュラーズが叫ぶ。これまでも、無数のバクアロン・ナイトメアを切り伏せてきた。倒し、泥に返し、また天から降ってくる泥がバクアロン・ナイトメアを生み出す。悍ましき鼬ごっこ。終わることのない悪夢ように思えたそれは現実を徐々に侵食し始めた。
 今現在も、多くのイレギュラーズ達が、この終わる事なきナイトメアの渦中にいる。恐らくこれも、カロンの権能の一つなのだろう。それに、この無限に沸き続けるナイトメアたちを討伐出来なければ、他の戦場になだれ込む可能性も、中層以下、ファルカウ全土を、いや、迷宮森林すら飲み込む可能性があるのだ。この魂を喰らう恐ろしき怪物が世に放たれれば、深緑は悪夢の内に沈むだろう……。
「それだけは、なんとしても止めなくてはいけません!」
 術士のイレギュラーズが、強烈な閃光を放つ。光の内に飲み込まれたバクアロン・ナイトメアたちが蒸発するのへ、再びぼたりと落着してきた泥から新たな悪夢が生まれる。キリがないとはいえ、倒し続けなければその被害は甚大なものとなる。
「こうなったら根元を探して直接叩くしかない!」
 戦士のイレギュラーズがバクアロン・ナイトメアを殴り伏せながらそう言った。
「とは言え、一斉に……とはいかない。雑魚共をちらし続けなければ、こいつらは容易く戦線を突破して外に出ちまう!
 8……いや、10人だな! 少数精鋭で探索と討伐に当たれ! 志願者、頼む! 俺たちはこいつらを散らし続ける!」
 叫ぶ戦士に、10名のイレギュラーズ達は頷いた。その10名の中に、あなたの姿もある。この悪夢を突破するには、根源たる夢見るものを倒さなければなるまい。それは今はカロンではなく、ここで悪夢を生み出し続ける、黒き母、とでもいうべき存在だろう。
 あなたは仲間達と共に、戦場をかけた。深奥へ。エリアの深奥へ。探索と戦闘を繰り返しながら夢の奥へと進む。無数のナイトメアと切り結び、下し、向かった先にあったのは、あまりのも悍ましき、巨大な木のような物体だった。
「なんだこいつは……神樹、なのか?」
 仲間がそういうのへ、あなたは頷いた。神聖さと、邪悪さ。そう言った相反するものを感じられるそれは、ファルカウの体内に育った神聖なる大樹が、悪夢に飲み込まれ、邪悪の母と化した光景であった。
 ぞわり、と大樹が身を震わせた。その枝葉から、ぼとり、ぼとりと黒い怪物が生まれる。それは、これまで遭遇したナイトメアよりも、より異質なものであった。根源たる悍ましき母、そこから生まれた、より力を与えられた子供。
 邪悪なる母をバクアロン・ニグラートと呼ぶならば、そこから生まれた落とし子達を、バクアロン・ウトゥルスと呼ぼうか。ウトゥルスたちは、より悍ましい粘性の化け物のような姿で、イレギュラーズ達を迎え撃つべく這いまわる。
「なんてこと……こんな悪夢が、許されていいはずが……!」
 その狂気的な光景に、仲間達もたまらず呻いた。その光景は、まさに悪夢だ。ぐちゃぐちゃに接続された、ただ根源的な『怖い』という感情を刺激する映像をひたすらに魅せられているような、そのような感覚。本能的に嫌悪と恐怖を抱かせる、悍ましき怪物、ウトゥルスたち。それがかつては、悪夢を喰らうバクだったとは信じられないほどの変容。そしてそれを生み出す吐き気を催す母、ニグラート。もはや神樹としての聖性は失われかけ、今は世界に対する呪詛を吐くだけの怪物に過ぎない……!
「まずい、ナイトメア共も集まってきた!!」
 仲間が言うのへ、あなたは周囲を警戒する。恐らく、対応する仲間達の包囲をすり抜けてきたナイトメアたちが、ここに集結しつつある。もし仲間達がそれを許せば、多くのナイトメアが、ここに殺到し、ニグラートの討滅をより困難なものにするだろう。
 だが、今は仲間達を信じるしかない。そしてあなた達を信じ、ナイトメアたちを討伐する仲間達の信頼に、応えるしかない。
「やるしかない……たとえ増援が無限にやってこようとも、ここであの大樹を狩る!」
 仲間の言葉に、あなたは頷いた。
 武器を手にし、息を吸い込む。
 悪夢の世界の空気は、甘ったるく感じる。しかしその気持ち悪さすら、四肢を動かすための活力に変えて、今こそ悪夢を終わらせるために、その一歩を力強く踏み出すのだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 悪夢の怪物、バクアロン・ニグラート。
 その落とし子、バクアロン・ウトゥルス。
 これらをせん滅し、深緑の地を守りましょう。

●成功条件
 『汚聖夢樹、バクアロン・ニグラート』及び、すべての『堕妖怪夢、バクアロン・ウトゥルス』の討滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●注意
 此方のシナリオは、リミテッドクエスト『<太陽と月の祝福>Recurring Nightmare』の達成度の影響を、特に強く受けます。

●状況
 深緑、ファルカウ上層内にてバクアロン・ナイトメアの群れに遭遇した皆さんは、その雪崩を外に出さないために決死に防衛作戦にうつります。
 しかし、このままでは終わらぬ防衛線に戦力を裂かれるだけ……防衛はしつつ、しかし根源を断たなければならないのです。
 悪夢の群れの中で、根源たる母を探す。あなたたち10名のイレギュラーズ達は、決死隊として悪夢の中に突撃しました。
 無数の悪夢を退けながら、ようやく悍ましき母、バクアロン・ニグラートと遭遇したあなたたち。しかしニグラートは、落とし子たる『バクアロン・ウトゥルス』を生み出し、あなた達にけしかけてきました。そして防衛を抜けたバクアロン・ナイトメアも、あなた達に迫っています。
 破滅的な状況ですが、ここでニグラートを倒せなければ、仮にカロンを退けられたとしても、深緑に甚大な影響を与えかねません。
 すべてのイレギュラーズと協力し、ここでニグラートを倒すしかないのです……。
 作戦エリアは、悪夢の中。この空間では、あなたたちの持てる力を最大限に活用できるはずです。
 あなたたちの力全てを総動員し、この悪夢を終わらせてください。

●エネミーデータ
 バクアロン・ナイトメア ×???
  さらに凶悪に変異したバクアロンたちです。HA吸収を持つ攻撃を行い、回復と同時に皆さんをじわじわと消耗させてくるはずです。
  毎ターン、0~3体がランダム数で増援として登場します。増援数は、リミテッドクエストの達成度の影響を特に強く受けます。
  このシナリオにおいては、基本的には雑魚として設定されていますが、放っておいてはじり貧です。
  まとめて薙ぎ払うなど、処理手段をは用意しておきましょう。

 バクアロン・ウトゥルス ×8
  ニグラートより生み出されたより強力な落とし子達です。
  前述のナイトメアより強力。戦闘開始時点では8体が戦場に配置されます。
  ナイトメアのようにHA吸収の攻撃を行うほか、『スマッシュヒット時にパンドラ直接損耗』という恐るべきスキル攻撃も持ちます。
  強力な敵ですが、まだ前座です。前述のスキルを使わせぬように足止めし、せん滅するのを狙いましょう。

 バクアロン・ニグラート ×1
  悪夢におかされた聖なる大樹。そして今は悪夢の子を生み出す悍ましき魔樹とかした『穢れた母』です。
  HA吸収攻撃こそは持ちませんが、『スマッシュヒット時にパンドラ直接損耗』という能力は持ち合わせています。
  また、遠距離広範囲にBSの『毒系列』『不吉系列』などをばらまいても来ます。
  攻撃力そのものはあまり高くないのが弱点です。また、『移動できません』。
  もちろん、足元が絶対の安全地帯ではないですが、距離を詰めれば範囲攻撃からは逃げられるはずです。
  なお、HP50%に到達した段階で、バクアロン・ウトゥルスを4体生成します。

 以上となります。
 それでは、皆様のご武運を、お祈りしています。

  • <太陽と月の祝福>夢に囁くもの完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月30日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

リプレイ

●悪夢の大樹
 るうぅぅぅぅ、おぉぉぉぉぉ。
 るぅぅぅぅぅ、おぉぉぉぉぉ。
 奇妙な鳴き声にも、悲鳴にも聞こえた。
 風を切る様に聞こえるそれは、間違いなく、目の前の奇怪な大樹から発せられたものだった。
「嘗ては森を加護した筈の聖樹も、今は森を害する側。
 怠惰って奴は趣味が悪いわね。
 他人に仕事を押し付けるのが上手いってのも考え物だわ?」
 嘆息するように言うのは『風と共に』ゼファー(p3p007625)だ。ゼファーの言う通り、目の前の大樹は、かつてはファルカウの内部にてその聖性の元に加護を与える、一本の神樹だったのだ。
 だが今は、悪夢の内に囚われ侵食され、バクアロンという悪夢を生み出す汚泥の母へと姿をかけられてしまっている。
「……確かに、変質していますね。
 この空間もまた、現実ではあり得ぬ……まるで、混沌世界の現実を塗りつぶすかのような。
 これが、冠位の権能というものなのですか……」
 感心するように、分析するように、或いは愉しむように。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)はそう言った。
「興味深いですが……これを分析している暇はありませんね」
 アリシスが言うのへ、ゼファーが頷く。
「ええ、まったく。
 多分、こうしてる間にも、あちこちからバクアロン・ナイトメアの方が生まれてるはずだわ」
「けれど、ここに来るまで、思っていたよりもナイトメアたちの攻撃は少なかったです」
 そういうのは、『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)だ。
「きっと……わたくしたちを送り出してくれた皆が、がんばって戦っている、から……」
 ネーヴェの言葉は、事実だ。外部でナイトメアたちと戦いってたイレギュラーズ達の活躍をここで描くことはないが、少なくとも彼らの活躍が、同じフィールドで戦うネーヴェたちへの大きな支援となったのは事実。
「行きましょう。わたくしたちがこの悪夢の根を断つことが、送り出してくれた皆への最大のお礼になるはず、です」
「その通りだ……だが、一筋縄ではいかない様だね」
 そういう『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の言葉通りに、侵食された神樹、いまやバクアロン・ニグラートとなった汚泥の母から、どろり、どろりと汚泥が垂れ堕ちる。それはすぐに形を作り、悍ましく凶悪な、落とし子となってイレギュラーズ達の前に立ちふさがる。
 名をつけるならば、バクアロン・ウトゥルス。ニグラートの落とし子。
「……危険な感じがするね。ナイトメアよりも、厄介そうだ」
 るるるるぅぅぅぃぃぃぃぃ、とウトゥルスたちが声をあげる。奇怪な声はの意味は分からないが、或いは空腹故に餌を……人の魂を求めているのか。
「ふっ……中々に難儀な戦場ではあるが……騎士としての私から言わせてもらうと恰好の活躍の場というやつだ。
 誰一人欠けることなく守り抜いてみせようじゃないか!」
 堂々と笑みを浮かべるは、『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)だ。その隣には、同じく騎士――『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が立つ。
「例え元が深緑の根源たる母の一樹であったとしても、この戦いを未来に繋げる為に」
 二人の騎士が、威風堂々と仲間達の前に立ち、その武器を構えた。悪夢の世界にあって、その騎士たちの輝きは、唯一の救いの光のようにも思える。悪夢を打ち払う、輝きの騎士たち。
「目を開けば、まさに悪夢のような光景が広がっているのでしょうね」
 そう呟いたのは、『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)だ。マグタレーナはしかし目を閉じ、静かに呟いた。
「わたくしはその光景を否定しましょう。
 偉大なる神樹よ、一つの母であったものよ。
 今はあなたの子が害をなすならば、同じ母として、わたくしが誅しましょう」
 汚泥にまみれた母より生まれた忌子よ、世にあだなすのであれば、ここでその生命を断とう。
 苦しかろうとも、辛かろうとも。
 それこそが、ある意味で母の役目であるのならば。
「送るぞ。あの神を、あるべきところへ」
 『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、静かにそうとだけ言った。アーマデルの故郷では、神は巨大な神樹の姿をしていると伝えられている。
 故に、歪められ魔樹とかした神樹に、思う所がないわけではない。
 だが、今はこれこそが、打てる最善の策であれば。
 今はそれを、実行するのみだ。
「彼らの在り方は、ボクに似ているようでまるで違う」
 呟く、『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)。
「夢は叶えるもの。奪うことしかできない悪夢には退場してもらおうか」
 今は、その言葉だけでいいだろう。悪夢に送る言葉などは。その一言だけで充分だろう。
「悪夢はお帰り願わなくちゃね。
 楽しい夢をご覧に入れて差し上げましょう」
 そういう『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は、静かな所作を見せた。
 さながら決死隊だ、と、あの場に残った誰かが言った。
 ナイトメア達を撃つメンバー、そして元凶を撃つこのメンバー。どちらかが失敗をしても、達成できぬ任務であることは、理解していた。
 ましてや、敵の懐にもぐりこむ彼ら。退路を断たれた場合は、大きな損害は免れまい。
 だが……仮にそうだとしても、彼らには、やる理由があった。もしもこの場でこの悪しき母を逃してしまえば、仮に冠位を倒せたとしても、この悪夢たちを深緑の大地に解き放つこととなる。
 それだけは、避けなければならないのだ。
 故に。
「悪夢は終わりよ?」
 ポシェティケトのいうとおり。悪夢はここで終わらせなければならない!
「残存ナイトメアが来るよ」
 ゼフィラが言った。
「だが……やはり、数は少ない! 勝機は十分にある!」
 その言葉通り、戦闘の気配に引き寄せられてやってきたナイトメアたちの数は片手で事足りるほどだった。他のメンバーの活躍によるものだろう。
「ならば、彼らの働きに報いましょう。
 まずは、ウトゥルスを薙ぎ払います!」
 アリシスの言葉に、仲間達は頷いた。
 かくして悪夢の中、目覚めのための戦いが始まろうとしていた。

●落とし子
「陣形を組んでくれ! 敵の数は多い、好き勝手にさせたら落とされるぞ!」
 ゼフィラがその手の義手を構えた。ぶぅん、と機械が励起する音、そして魔術式が起動する音が鳴り響き、義手の加速魔術と防御魔術が起動する。ゼフィラがその義手を振るうと、殲滅術式が起動する。放たれたそれが、ウトゥルスの一体に圧力のごとく振りかかった。
「ううううるるるるるるる」
 ウトゥルスが吠える! その口のギザギザとした牙を見せつけ、涎を吐き出し。飢えが、彼らの思考を支配している。
「そんなに魂を喰らいたいかい? 悪いね、私の魂はキミたちには食べさせてやらないよ」
 ぱちん、と指先を鳴らすと、抹殺の術式が解き放たれた。ぐるぅり、とウトゥルスが白目をむき、どのまま汚泥へと潰れ堕ちる。
「奴らは魂を喰らう」
 続いて飛び込んだのは、アーマデルだ! 手にした蛇鞭剣を振るう。刃と刃を繋ぐワイヤーが霧きりと音を奏で、それはさながら怨嗟を謳う歌声のごとく響いた。在りし日の、英霊の残響。未練のこせし英雄の声が、ウトゥルスたちを捉えて掴む。
「直撃は避けるんだ……常に足を止めるな!」
 ひゅぅぅぅぃぃ、ひゅううぃぃぃ、それは嘆くような、未練の歌だ。蛇鞭剣の奏でる歌だ。ウトゥルスたちの苦鳴の声をかき消すように、指揮者(アーマデル)は指揮棒(つるぎ)を振るい、歌を奏でる。
 ウトゥルスたちが、雄叫びをあげながら突撃する! 獏のような長い口、だが耳元迄裂けたような、例えるなら牙のついた花弁のように開きながら、ウトゥルスたちは魂を喰らうべく食らいつく!
「守り抜く、と言った!」
 二振りの長剣を構えたヴァルキリー。ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル。悪夢よ、その名と姿をしかとその眼に刻め! ブレンダは長剣で以って、ウトゥルスの攻撃を受け止めた! 殺到するウトゥルスたち! 一匹、二匹、三匹! 次々と迫るそれを、ブレンダは長剣でいなしつつ、攻撃を引き付ける!
「まずは厄介な貴様らから片付けさせてもらおうか!」
 ブレンダが長剣を振り払う! ウトゥルスの穢れた口吻、それが切り裂かれる! が、残った口で、うるるるぃぃぃぃい、叫びながらも迫るそれを、今度は貫く、黒狼の槍!
「この世界に、悪夢の居場所はない」
 讃えよ、彼のものを! ベネディクト=レベンディス=マナガルム! 黒狼の勇者ぞ! 悪夢を切り裂く、白銀の騎士を見よ!
「皆、警戒しろ! ニグラートが動くぞ!」
 ベネディクトの言葉に、仲間達は頷いた。るうううう、おおぉぉぉおお。嘆きの声が、汚れた母から発せられる。べちゃ、べちゃ、とその穢れた枝から滴り落ちるは、生まれる前の悪夢。それが弾丸の雨あられのごとく降り注ぐ!
「分かりやすい広範囲攻撃ね!
 さあさ。今日が此の悪趣味な舞台の大一番。
 あらゆる無茶も無理も通させて貰うわよ?」
 ゼファーが叫び、その槍を激しく回転させた。ひゅるるるる、と風を切ってまう槍が、降り注ぐ汚泥を次々と叩き落す! 汚泥は槍に接触した瞬間、ウトゥルスの顔になった。がちり、と醜い口が閉じるのを、ゼファーは目視していた。
「なるほど!
 まともに食らうと魂もってかれる奴よ!」
「あなたが、どれだけ危険だろうとも。
 あなたが、どれだけ可能性(パンドラ)を削り取る悪夢であろうとも。
 わたくしたちは、負けるわけには、いかないの、です!」
 ネーヴェは義足を使って跳躍し、ニグラートの降らす汚泥の雨から逃れる。がちり、と義足を雨が噛みつくのを感じたが、しかしそこに肉はないのだ。
「残念です。前の兎でしたら、噛まれていたかもしれません、ね」
 ネーヴェはそのまま、鋭く足を振り払った。不完全に生成されたニグラートの雨が、吹き飛ばされて汚泥として地に染みる。ニグラートの攻撃を乗り切ったイレギュラーズ達は、残るウトゥルス・ナイトメアたちへの掃討に乗り出した。
「まずは、落とし子たちを討伐しなければ、ニグラートに近づけません……!」
 ネーヴェの言葉に、頷いたのはアリシスだ。
「ええ、ええ。
 その不浄なる魂、ここで浄化して差し上げましょう」
 戦乙女の槍を高らかに掲げる矢、その先端に光がともる。悪夢を切り裂く断罪の光! 放たれたそれは、断罪の槍となって解き放たれる! 空間を疾走! ウトゥルスの顔面に突き刺さったそれは、爆発とともにウトゥルスを消滅させた!
「突破を!」
 アリシスの言葉に、続いたのはポシェティケトだ。
「傷の治療は鹿にお任せを。
 ああ、此度の戦場は鹿と兎が舞うのね。
 もっと緑あふれる地であればよかったのだけれど」
 ネーヴェが、柔らかく笑った。
「取り戻しましょう、ここに、緑を」
 ポシェティケトの謳う聖歌が、ネーヴェの、仲間達の負った傷をいやす。活力と共に、再び戦場をかける仲間達を、ポシェティケトとマグタレーナは全力で支え続ける。
「悪夢をおらわせましょう。
 ええ、終わらない悪夢など、繰り返す悪夢などはないのです。
 見せてあげましょう、良き夢を」
 マグタレーナの号令に、仲間達は背中を押される。
「こんなでもお腹の足しにはなるかな。
 ボクの夜食? になってもらうよ、異形の落とし子、悪夢の汚泥たち」
 ロロンがその背後に、無数の氷槍を生み出した刹那、一気に解き放つ! 眼前に迫るウトゥルス+ナイトメアの群れに、ロロンの氷槍が突き刺さった! 奇声をあげながら消えていくナイトメア。残ったウトゥルスに、ロロンは覆いかぶさるようにその身体を拙速させた。
「ぷるるーんぶらすたーだ!」
 その身の内で爆発する、強烈な魔力の奔流! 叩きつけられたウトゥルスは、たまらずにその存在を汚泥へと変える。飛びずさったロロンが着地。ふるり、と身体を震わせた。
「やっぱりおいしくないね、悪夢なんてものは」
「そうね。食べるなら、甘いお菓子がいいわ」
 ポシェティケトが笑う。悪夢の中にあっても、皆は希望を捨てない。絶望に足を止めない。進み続けるという意思で、彼らは突き進み続けるのだ。
「ウトゥルスは全滅させました」
 マグタレーナがいう。
「ニグラートへの接近を――!」
 その言葉に、仲間達は頷く。何名かの仲間がニグラートへと接敵。その巨大な偉容に、思わず息をのむ。
「神樹、か……かつては、本当に……その祝福を以って、この地を愛していたのだろうな……」
 アーマデルが、辛そうにそう言った。今や反転したかのように、狂わされた神樹。異形の母と化したその心中は、凶器と悲しみ、絶望に染まっているのかもしれない。
「ベネディクト殿、ロロン殿、頼む……!」
「ああ、任せてくれ」
「この悪夢を終わらせよう!」
 ベネディクト、ロロンが頷き、攻撃を敢行する! 大樹の根元より駆け上がり、表皮に突き立てる、黒狼の槍! ぐしゃり、と鮮血のように汚泥の樹液が吹き出し、ニグラートが悲鳴を上げた。
「傷口をさらに広げようか!」
 ロロンがすぐさまそこに飛びつき、内部へと爆発的な魔力の奔流を打ち放つ! 内部で爆発したそれが、内側からニグラートを抉った。ぐおぅん、と爆砕したそれが、ニグラートの破片を辺りにばらまく。樹皮と一体化した、ぐねぐねと動く肉のような、泥のようなものが見えた。内部まで侵食した悪夢が、神樹を変貌させてしまったのだという事に、ロロンもベネディクトも気づいた。
「……痛ましいな。お前に意識があるのなら、今も苦しみ、嘆いているのか……」
 ベネディクトがそういうのへ、ニグラートは答えない。答えられないのかもしれない。だが、それでも、ベネディクトには、ニグラートが終わらせてほしいと願っているように感じた。かつては、幻想種たちに愛を、恵みを、祝福を与えていたそれが、悪夢を振りまく魔へと変貌してしまったのだ。この悪夢を、終わらせてほしいと、そう願ってもおかしくはあるまい。そして、この悪夢を終わらせることができるのは、間違いなくイレギュラーズ達だけなのだ……!
「永く、永く見守ってきた世界を自らの手で壊すってのはどんな気持ちなのかしらね。
 少なくとも、気持ちの良いものではないのでしょうけど」
 ゼファーがそう言って、飛び掛かった。手にした槍を、力強く構え。
「だからこそ、ええ。
 私達が止めてあげるわ。絶対に」
 突き出される、必殺の一撃! 絶技の贋作。命を命たらしめる何かを狙うそれは、贋作が故に、ゼファーの身体にも強烈な痛みを発する。
「ええ、ええ、受け止めてあげましょう。あなたの痛み、あなたの苦しみ。
 それがきっと、私ができる、唯一の事だから」
 身体を奔る痛みをこらえつつ、放たれた一撃は、ニグラートの身体を抉った。強烈な破砕音と共に、ニグラートの身体が撃ち抜かれる。染み出す汚泥。血液のごとく一体化したそれの内部に、さながら悪夢の心臓のような塊を見つけた。
「こいつを――」
 ゼファーが叫んだ瞬間、それは逃げ去る様に、ニグラートの体内へとしみこんでいった。そして同時に、ニグラートが体を震わせる。ぼとり、ぼとり、と落着する、汚泥。新たに生まれる落とし子。バクアロン・ウトゥルス。その数は4――。
「増援ですか……!」
 マグタレーナが叫ぶ。同時、うぞり、とナイトメアが姿を現した。だが、それは片手で数えられる程度の、少ない増援だった。
「どうやら、作戦は順調に進んでいるらしい!」
 ゼフィラが叫ぶ。
「もう少しだ! ニグラート組は攻撃を続行! 私たちで増援のウトゥルスとナイトメアを叩く!」
 この段階でも、味方は相応のダメージを負っている。魂(パンドラ)を直接吸われたものも、もちろんいる。
 だが、だとしても――ここで逃げ帰る選択肢はない!
「お任せします――ニグラートは、私たちにお任せを」
 アリシスが言うのへ、ゼフィラは頷いた。そして仲間達も、己の役割を実行すべく、武器を構える。
 絶望がひしめく悪夢の中、僅かに見えた光明に手を伸ばし、イレギュラーズ達は最後の猛攻へと、その身を投じることとなる。

●穢れし母、悪夢の終わり
「引き続きニグラートへ攻撃を行います。背後の敵をよろしくお願いします」
 アリシスが声をあげる。その身体に渦巻く、魔力。奔流は黒の堕天使の秘蹟となりて、咎死の鎌と化す。呪い。呪い。呪い。そう言った概念を叩きつける、アリシスの秘儀。放たれた呪はニグラートの身体を包みこんだ。空気を震わせるような音が響き、ニグラートの身体の内側を、死と破滅の呪が駆け巡る!
「黒の聖典、その業がひとつ。悪夢の母よ、受けてもらいます」
 アリシスが、ぐ、と拳を握ると、凝縮した呪いが中心ではじけた。ニグラートの身体の中で爆砕した呪が、死という概念をニグラートの身体にばらまく!
「ニグラート攻撃組に、ウトゥルスとナイトメアを近づけるな!」
 ゼフィラが叫ぶ。放つ破滅の術式が、ナイトメアを破砕。泥へと還す。同時、ゼファーが一体めのウトゥルスへと跳躍。上段から振り下ろした槍で、ウトゥルスを断罪!
「悪いわね、今はお母さんの相手でいっぱいいっぱいなの」
 反撃に転じるウトゥルスの口を槍でいなして回避しながら、再撃の槍を叩きつける。ウトゥルスがばちん、とはじけて泥へと消える。残り、3と、3か。
「ナイトメアよりウトゥルスを優先してくれ! パンドラを削られる分、厄介だ!」
「任せてくれ!
 さぁ、悪いが貴様たちをここから先に通すわけにはいかないのでな。貴様らの進軍もここで終わりだ!」
 ブレンダが、その長剣を高らかに掲げる。群がる様に襲い来るウトゥルス+ナイトメアを、ブレンダが長剣で捌いて見せる。
「さぁて――私の魂、喰らえるものならやってみるがいい。
 ただし、ただで、とはいかない!」
 ヴァルキリーの斬撃が、ナイトメアを切り裂く。突っ込んできたウトゥルスの、口と長剣でつばぜり合いを演じて見せると、力強くそれを振り払った。後方へ跳躍したウトゥルスへ、アーマデルの銃剣が突き刺さる。
「終わりとしよう」
 引き金を引けば、ウトゥルスの内部でさく裂が踊った。ウトゥルスがばぁん、と破裂して泥へ。残り2。
「無理はしないで、ワタシが歌うから」
 ポシェティケトの歌は、悪夢の猛烈な攻撃に負けないくらいに輝いて、聖なる領域を広げる。光が、悪夢の中を照らし、光が、仲間達の傷をいやす。
「とどいて、とどいて、ワタシの歌。
 あなたに、あなたに。夢の中を。
 どうか、どうか、立ち上がる力を」
 ポシェティケトの聖歌が、悪夢の中で輝いた。ほのかに光る光明、手を伸ばすそれ。
「ゼファーさん、もう一息です」
 マグタレーナの光も、また悪夢の中で清く輝いた。巻きあがる魔力が、支援の光となってゼファーに降り注ぐ。疲労していた力が、手に戻る。荒い息が、整う。まだ戦える。まだ護れる。
「ええ、ええ、もちろん!
 マグタレーナ、頼りにしてるわ!」
「もちろん、ですよ」
 マグタレーナの言葉を受けて、ゼファーがウトゥルスへと斬りかかる。薙ぎ払う槍の一撃が、ウトゥルスを半身に切り裂いた。ばちゃん、とウトゥルスが破裂する。
「アーマデル!」
「分かっている!」
 アーマデルの蛇鞭剣が、残るウトゥルスを切り裂いた。
「ウトゥルスは終わった! このままナイトメアの警戒にうつる!」
「了解! というわけで、ニグラート組、任せた!」
 ゼフィラが叫ぶのへ、ロロンが頷いた。
「おっけー! すぐに鎮めて見せる!」
 ロロンが張り付き、内部に爆発せんばかりの魔力を打ち放つ! 強烈な破砕音と共に、ニグラートの巨大な枝が轟音と共に地に落着した。落下した枝が、破裂するとともに汚泥に溶けていく。ロロンが少しだけ、悲しそうに言った。
「もう、あんなにも飲まれているんだね……」
「ああ。もう救うことができないのなら、せめて少しでも早く、終わらせてやることだけが……!」
 ベネディクトが、ニグラートの表皮に槍を叩きつけた。破砕した樹皮が飛び散り、内部のどろどろとした汚泥をまき散らす。
 うるるるぃぃぃぃい! ニグラートは鳴いた。刹那、足下のイレギュラーズ達へ向けて、巨大な汚泥の槍を形成し、狙いつける。
「させ、ない……!」
 ネーヴェが駆けた。その身を囮に、その攻撃を引き付けるように。果たしてその目論見は成功した。放たれた汚泥の槍が、ネーヴェ目がけて飛翔! ネーヴェは無理矢理に身体をひねると、その義足で汚泥の槍を蹴りつけた。走る、衝撃。痛み。だが、直撃でないならば、ネーヴェは沈むことはない!
「大丈夫、わたくしは跳べなく、とも……!
 わたくしは失わないために、ここにいる。
 だから……わたくしは、悪夢などに負けません、よ!」
 それは決意であり、それは事実であった。負けない。ネーヴェも。此処にいるだれもが。今、この地を襲う悪夢に、悪に、負けたりはしない!
「聖なる大樹だったモノ。このままでは、あなたが守っていたはずのものまで、傷ついてしまいます。
 もう終わりにいたしましょう。
 安らかな、安穏たる眠りが訪れるよう、お手伝いしますから」
 うるるるぃぃぃぃい、と、それは泣いた。
 ニグラートの声なのか。
 神樹の声なのか。
 今は分からない。
 わからないが――。
 ネーヴェは、その声を、受け取った。
「行きましょう、みなさん……!」
「ええ。決着の時だ!」
 ロロンが頷いた。
「ニグラート攻撃のメンバーに最大の援護を」
 マグタレーナの言葉に、回復手たちが祝福をもたらす。悪夢を切り裂く、聖なる祝福。知なる導き。未来を手にするための、悪夢を終わらせるための、導き手。
 るおおおおお、と、ニグラートが叫んだ。それは、まぎれもなく、その聖樹の中に住まう、悪しき夢の叫びだった。自身を打倒する者たち、傷つき、命を食われたとしても、諦めずに戦うもの達。
 勇者、と呼ぶべきもの達。
 その姿が――。
 悪夢の主に、恐怖を覚えさせたのであったのなら。
 もうじき、この夢も終わるのだろう。
 それは予感であり確信であった。
 ニグラートが、足下に小さな汚泥の槍を降らせる。無数に降り注ぐそれは、確かにイレギュラーズ達の身体を傷つけた。だが、この程度で止まるイレギュラーズなどでは、断じてない!
「あなたの悪夢、ここで断罪しましょう」
 アリシスが放つ、断罪の光槍。悪夢を切り裂く光。導く光。それが、ニグラートの身体に突き刺さり、さく裂した時――。
 それが、最後の攻撃の合図だった。
「やることは変わらない! 全力全開で、ぷるるーんぶらすたーだ!」
 ロロンが、再びニグラートへと張り付く! 爆発する、魔力! 強烈な閃光と破砕音と共に、ニグラートの身体が派手に吹き飛んだ。ずるり、ずるり、と汚泥が流れ出す! その破砕された身体の中に、汚泥の核が見える。先ほど逃げた、核。悪夢の中心。
 ずるずると音を立てて、核が再び、体の中へと逃げようともがく!
「あなたも母たる大樹であったというのなら──その力を深緑を守るために、僅かでも良い、力を貸してくれ……!」
 ベネディクトが、声をあげた。
 それは、奇跡か。偶然か。
 今となっては分からない。
 だが、その時確かに――悪夢の核は、動きを止めたのだ。
 まるで、何か、聖なるものに立ちはだかられたかのように。
 僅かに、逃げる速度が遅れた。
 一瞬。刹那。そういう間。
 ベネディクトにとっては、十分すぎる時間。
「貰った――」
 突き出される、黒狼の槍。貫かれる、悪夢の核。
 訪れたのは、静寂。最初は静寂があった。だが、ほんの数秒の後に、その核が吠えた。うるるるぃぃぃい、るるるるぃぃぃぃぃ! 悲鳴! 悪夢の主が上げる、それは痛みと恐怖の悲鳴だった。もし彼に悪夢があったのだとしたら、今この瞬間こそが悪夢に違いなかった。しかしそれは、世界にとって正しき夢であったのだ。
 どろり、と、ニグラート……いや、神樹の身体から、どろり、と汚泥が零れ落ちた。腐った葉が落ち、腐った枝が落ち、泥が大地に落ち、蒸発するように消えていく。途端、辺りの景色が、ファルカウ内部の景色に、徐々に、徐々に、切り替わっていった。映像が、別の映像と混ざって、重なったり消えたりするように、そんな風に、現実と悪夢が混ざり合って、それからは離れていくように思えた。
 ありがとう、と聞こえたような気がした。それは、神樹の声かもしれなかった。愛するものを、祝福をもたらすものを、愛し深緑を、傷つける姿となってしまった己、それを終わらせてくれたことへの、感謝に思えた。
「いや……助かった。ありがとう。あなたの勇気に、敬意を」
 ベネディクトが笑った。それで、神樹も救われるような気がした。あっという間に、世界は現実の色を取り戻した。ニグラートも、ウトゥルスも、ナイトメアも、もはやこの空間には存在しなかった。清浄な空気が満ちた、ファルカウの内部の景色が、ここにはあった。
 ボロボロの神樹が、朽ちるように崩れ落ちていく。もはやその姿を維持できるほどの力は、神樹にはなかった。仕方のない事だった。こうなることは、誰にも、神樹自体にも、分かっていたことだった。恨むのならば、それは冠位魔種にすべきであった。自分に力がないと嘆くのでもない。これは、仕方のない事だったのだ。
「ありがとう……」
 ネーヴェも、静かに祈りをささげた。さらさらと、神樹が朽ちてこぼれていった。さらさらと、風に流れて消えていった。
 かつては神樹があった場所には、もう何もなかった。それが、あの悪夢が現実だったという事を、現実で生きる人に、伝えていくのだろうと思った。
 だが……それは同時に、悪夢は真実、終わりを告げたのだという事の証左でもあった。
 悪夢はおわったのだ。多くの勇者たちの手によって。
 悪夢はおわったのだ。正しき心の持ち主の手によって。
「ふ……流石に、疲れた、な……」
 ブレンダは苦笑し、その剣で己の身を支える。ブレンダだけではない、誰もが傷ついていた。酷く疲労していた。
 それでも……間違いなく、良い結果を、つかみ取ったのだと。
 確信できるような、そんな、心地の良い痛みだった。

成否

成功

MVP

ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 悪夢はおわりました。皆さんの力によって――。

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