PandoraPartyProject

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13番目の彼女の伝言


 ――ファルカウの巫女にだけ、教えておくわ。
   ずっと、ずっとこの『伝言』は大切にして頂戴?
   冬が目覚めて、雪と氷に閉ざされたとしたら。
   私は春の魔法を隠しておくわ。ファルカウの近い場所に。

 それは、誰から聞いたのかさえも覚えていない。
 酷い眠気と茨に覆われた空間は指先一つ動かすことも叶わなかった。
 大樹はこの危機に各地の霊樹に救援の信号を発した。木々の嘆きが身を軋ませ、悲鳴が耳を劈いた。
レテート』は無事に抗えただろうか。あの樹は特別だから……悪しき者の影響を受ければ巫女の身も危ない。
 ああ、けれど、レテートならば信頼して良い。あれだけ優しい子なのだ。自身が朽ちる前に何とかあの子も護ってくれる筈だ。
アンテ・テンプルム』は難を逃れるはずだ。こういう時の為に、あの霊樹は地下庭園に隠してあった。
 祈りは結界となり、アンテローゼを護ってくれている筈だ。加護を持つ司祭ならば危機を外に知らせてくれるだろう。
 ……大樹の嘆きが、響く。
 無垢なる精霊が悲しむ声が木霊する。

 ――ファルカウの巫女には好きな人はいる?
   わたしは長い旅をしてきて、天才だって謳われて。
   だから、だからね、そういう感情を理解出来なかったの。
   ……けど、アイオンのことは好きよ。フィナリィのことだって。
   あの人達のためだったら何でも出来ると思うもの!

 だから……?

 ――だから、森を護る為の手助けはするわ。
   いつかフィナリィが帰ってきて『ただいま』を言えるように。

 そう笑っていたという『彼女』の伝言は限られた人間だけが知っていた。
 外から訪れるモノは悪いモノばかりではないのだと。
 魔法の才能に秀でていたが故に、世間より奇異の目で視られて泣いていた小さな少女を『天才魔法使い』と呼ぶまでに手を引いた青年は素晴らしい人であったと。
 だから、強く信じていて欲しい。
 絶望をしないで欲しい。

 ざわめく大樹の声を、眠りの淵で聞いていた。

 ――……それは、月英(ユグズ=オルム)の禁書庫が紐解かれた音。

 ――……それは、常世の夢を追い求める誰かの声。

 ――……それは、森を救わんとした一人の青年の悔恨の叫び。

 ――……それから……ああ、マナセさんの秘宝の在処。春の気配。

 ファルカウの巫女は夢を見る。まだ、まだ、夢を見る。

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