シナリオ詳細
<13th retaliation>灰薔薇と眠りの詩人
オープニング
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祈りを捧げなくては。
アンテローゼ大聖堂の地下には庭園がある。灰色の薔薇が咲き誇ったその場所は『灰の霊樹(アンテ・テンプルム)』を央に頂き、神聖なる祈りを捧げる場とされていた。
立ち入る事は司教クラスが許諾しなくてはならないという。
つまり、アンテローゼ大聖堂の司教である『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)の許諾があってこそ入ることの出来る場所だ。
「一度だけイレギュラーズを呼んだのよね。
霊樹の管理のついでに……イレギュラーズの『力試し』をしてみたくって。
ふふ、そんなことをしなくったって貴方達はとっても強いことを識ってたのだけれど」
にんまりと笑ったフランツェルは『灰の霊樹』の前へと跪く。
幹も葉も、何もかもが銀にも思える灰の色。美しき色彩を眺めながら、フランツェルは祈り捧げ、願いを口にする。
――お助け下さいませ、我らが『灰の王』よ。
灰色の王冠(グラオ・クローネ)を頂きしファルカウと『最初の彼女』の愛した庭園の主よ。
指を組み合わせたフランツェルの言葉に、聞き覚えのあった者も居るだろう。
『グラオ・クローネ』、それは再現性東京では『バレンタイン』と呼ばれる日である。
今の幻想種さえ知らない――もっと、もっと古い言い伝え。深緑の大樹ファルカウと共に生きたと言われる『最初の少女』の物語。
その物語を紡ぎ、そして保存し続ける事がアンテローゼ大聖堂の司教にして魔女『ヘクセンハウス』に求められる事なのだ。
アンテローゼ大聖堂には『ヘクセンハウス』の家名を継ぎ代替わりする『灰の魔女』と呼ばれる記憶守が存在している。
当代の『ヘクセンハウス』――フランツェルは過去のヘクセンハウスの『記憶』を頼りにして『灰の霊樹』に祈りを捧げるのだ。
「直向きなる彼女がこの地に残した『美しき景色』を――灰の庭園の聖なる力を我らへと僅かばかり……」
杖を握る女は頭を下げた。
彼女の眸は全ての景色を灰色に見ていた。
故に、ファルカウは『灰色だけで構築された美しき庭園』をこの地に残したのだという。
ファルカウを起点にして広がった呪いの影響を受けなかったのは、あの大樹がこの地を護りたいと願ったから――なのかも知れない、と。
フランツェルは祈りを捧げ終えてから笑った。
「ここは、護らなくってはならないの。『灰の霊樹』が分け与えてくれた『聖葉』が私達をお守り下さるはずだから。
ごめんなさいね、こんな事をお願いしなくてはならないけれど……この地はどうやら安全地帯。
深緑の何処に行くにしても――例えば、近くの集落や、霊樹の近くなんか――『灰の霊樹』は護るべき存在なの」
フランツェルはかたかたと揺らぐ窓を眺めた。
「……誰か、来るみたい」
●
春の訪れさえ識らぬ深緑内部には冬の寒々しさが感じられる。
先の戦いで斥けられた『敵軍』が此方の出方を見ているのだろうとフランツェルはイレギュラーズに言った。
「何が来るかしらね」
囁くフランツェルは窓の外をそう、と眺める。
「この外に出れば、『茨咎の呪い』が皆を苛むわ。……それは、仕方が無い事なの。
呪い全てをキャンセルできるほどに『灰の霊樹』の力を無駄遣いできない。これが枯れてしまえば、霊樹達のバランスが狂ってしまうから」
故に、呪いという制約下の中で動き回ることが求められるらしい。
フランツェルは『灰の霊樹』から分け与えられる『聖葉』は幻想種の救出に使用して欲しいと告げた。
そして、その『葉』を分けて貰うために捧げる祈りのタイミングで伽藍堂になるアンテローゼ大聖堂を護って欲しいと言う。
「魔種、精霊達……邪妖精……この場所は相手にとっても『奪われたく無かった場所』でしょうからね」
がたん、と大仰に音を立てた扉を眺めてからフランツェルは「レンブランサ」と呟いた。
外に立っていたのは『茨』と共に動く邪妖精であった。
その背後には一人の男が立っている。
「……」
深くフードを被った人。
彼は幻想種であろうか。俯いた男はどこか悲しげに呟く。
「ああ、アンテローゼまでもが土足でわたしたちの森を荒らす異邦の者達に占拠されて終ったのか」
それは泣いていた。
その背後からさらさらと流れ落ちた砂は、一体何だったのだろうか。
- <13th retaliation>灰薔薇と眠りの詩人完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年04月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「アイツは何かあるのかな? フランツェルは知っているような雰囲気だったけれど」
アンテローゼ大聖堂を振り仰いだ『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は茨に包み込まれるようにして佇んだ無機質な聖堂に眉を寄せた。本来ならば美しい花々に囲まれた場所であると言うのに、その気配さえも感じさせず寒々しさだけが肌を刺す。
「私はただ深緑に春を取り戻したいだけなのに……なーんでこんな寒い中で戦わないといけないのかしらねぇ」
呟く『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は嘆息する。初夏の爽やかさも忘れ去った茨ばかりの園。
やっとの事で手に入れた拠点前での戦闘となるのだ。念のためにと浮かび上がった小さな少女は「追い払うだけなら得意分野よ」と唇を吊り上げる。
「どれほど悪戯で故郷の森から人間追い払ってきたと思ってるのよ、見せてやるわ」
「悪戯精霊! 定番じゃな。良いぞ良いぞ。そして目の前には同じく悪戯邪妖精!」
「同じじゃないわ!」
唇を尖らせるオデットに『殿』一条 夢心地(p3p008344)がからからと笑う。小さくずんぐりむっくりとした邪妖精はイレギュラーズの姿を双眸に映してからぴょいんぴょいんと跳ね続ける。
「いや、何。ボギー退治ならば麿に任せておくが良い。
全盛期は一日5匹のボギーを狩ったこともある……ボギー狩りの夢ちゃんとは麿のことよ。もはや逃れられんぞボギー……!!」
何が夢心地をそこまで駆り立てるか――全盛期(?)を思い出す夢心地へと「頼もしいね!」とイグナートが笑う。
事情は後でフランツェルに問えば良い。だが、物静かではあるが接敵した際に告げられた言葉からも彼が何を考えているかは推測できそうだと『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は眼前のフードの幻想種を両の眼に映してから嘆息した。
「大事に思っている場所に、知らない間に敬意も持たないよそ者が来ていたら気分を害する、というのは理解できます。
ただ現状この森において、茨の呪いを振りまいている邪妖精とその一味がよからぬ事をしていますので対処ぐらいはさせて頂きたい所」
「そうさ。呪いの茨……それは此方の所為ではなくてね。『何故』と問われれば弱ってしまうけれど」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はそもそもにおいて『呪いの茨』とは何であろうかと思考する。植物でも動物でもない厄介な代物は『冬の王』を封じていたとされる魔法使いの封印具によるものだともされている。
「だが、知らないのだろう。異邦人。アンテローゼを土足で踏み荒らすあなた方は。
この森の嘆きを。砂の旅人の悲しみさえも愚弄して行くのだろう……?」
フードの幻想種が涙ながらに語る声に『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)はきゅ、と唇を噛んだ。
皆を目覚めさせるために此処を護らなくては。折角の拠点だ、と張り切っていたニルは呪いの出所となる魔道具はこの周囲には存在していないことを苦しげに走る小さな栗鼠の目を借りて知る。
「あなたは誰? どうして泣いているの? 司教様のお知り合い、なのですか?」
緊張を滲ませるニルに幻想種は小さな声で『レンブランサ』と返した。それはフランツェルが漏した名と同じだ。
それが幻想種の名前で、森を害されて悲しんでいるとでも言うのだろうか。ニルは後ろ手に魔力を貯めた。時間の制限が肌を撫で粟立たせるかのようである。
「森を荒らす異邦の者だとか結構な言い草だね……ただでさえ此処は茨咎の呪いとやらで嫌な感じだし……。
あまり外で長居はできないからボクとしては回れ右して早々にお帰り願いたいのだけど?」
森を護る為にやってきたのだと言いたげに肩を竦める『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)に小さく頷いたのは『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)であった。
「私たちローレットのイレギュラーズに深緑の森を荒らすような不届き者はいないと信じているが、そう思われ憎まれているなら仕方がないかな。――私たちの邪魔をするなら倒すのみ!」
地を踏んだモカがレンブランサへ向けて走り寄って行く。涙を流す幻想種の前へと躍り出たのは悪戯めいた笑いを浮かべているボギーであった。
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深緑のほぼ全土と言っても良いだろう場所に――一方で、アンテローゼの地下やそうした『閉鎖空間』は覗くことが出来る――地を這い蹲る茨が存在していたのは魔法道具の所為だとされている。
例えば、ニルは周辺に設置されているのではないかと考えた。ゼフィラはそれが『マナセによる封印術式』の暴走であるならば、そもそもにおいてソレがどうして呪い転じたのかと思案しておきたかった。レンブランサの所持は瑠璃やモカの目で見遣ってもその線は薄そうだ。
レンブランサはイレギュラーズを足止めするためにこの地を訪れたと考えるべきだろう。アンテローゼ大聖堂の中に茨が入り込まないようにと扉を閉めた瑠璃は「こちらの呪いにも効果があればいいのですが」と海洋王国伝統のベッツィータルトを口に含んだ。ほろ苦く、そして甘いキャラメリゼのアップルパイを頬張った彼女の傍をするりと走り抜けて行くのはゼフィラ。
白い花の装飾を施した機械式義手が展開されて簡易盾を組み上げる。
「おっと失礼。あちらには行かせないよ。
別段、森を荒らすつもりはないのだけれど……ここは退いてもらえないものかな?」
「だが、なんて有様だ。あなた方は『砂の妖精』を虐げるだけには飽き足らず、常春に踏み入れ、この地までを蹂躙したのでしょう」
悲しげに呟くレンブランサは佇むだけか。その行く手を遮るゼフィラは仲間達を支援役として立っていた。
何処から湧き出ているか。それを確認するために広域を眺めるイグナートは「まさか?」と首を捻る。茨の中へと飛び込み、最強の拳士の『ナレハテ』の呪いをその身に宿して勢いよく乱撃を放つ青年は遠方より見定める目で其れ等を眺めやっては首を捻った。
(根っこがあるわけでもなく、何処からともなく――とは聞いていたケド……
『全てが大樹ファルカウ』からのものだとすれば、魔法道具だって『ファルカウ』にあるんじゃないか……!?)
茨を無力化することは叶わない。その前にボギーを斥け、レンブランサを撤退させることが吉か。
レンブランサの前へと飛び込んだモカは雀蜂の如く鋭き突きをレンブランサへと放つ。ばちり、と音を立てたのはレンブランサが掲げた杖か。
「……嘆かわしい」
「何がかな?」
「わたしを排除してまでこの地を蹂躙したいと願うだなんて――」
悲しげに呟くレンブランサに「だから、蹂躙しているのはイレギュラーズでは!」とモカは嘆息した。無数に地を這い蹲った茨達。それらはイグナートの傍を抜け、モカやラムダをも害し続ける。
「……全く……浮かび上がっても茨が追いかけてくるだなんて可笑しな話だよ。
所詮、魔法道具が生み出しただけ。操作をして動かしているわけじゃないならば、此方を見て反射的に動いているだけ。戦略も何もない!」
ラムダの魔導兵器――美しき刃はぎらりと輝きを帯びる。排出された魔力は走り回らんとするボギーを盛り上がった土壁で葬り去らんと迫った。
身を震わせたずんぐりとした邪妖精は「キィ!」と声を上げ土壁を蹴り破る。其れだけでは止まらないのかとニルは苦虫を噛み潰したような顔をする。
(レンブランサ様にも早く撤退をして欲しいのです。ニルたちはレンブランサ様を傷つけたくはありません……!)
悲しげに目を細めるニルの傍らで、オデットは破壊力を己のその身に宿し、太陽の恵みを受けたリボンを揺らがせた。
「吹き荒れて砂嵐! 本物じゃない茨に情けなんて不要だわ!」
「ああ、あなたも砂を使うのですか……」
レンブランサの背後から降り注ぐ砂がオデットの眼前へと降り注ぐ。それは視界を塞ぐように意識を混濁とさせるがイレギュラーズは其れ如きでは退く事もない。
地を踏み締めて、瑠璃は敢えてボギーを狙った。レンブランサの行動はあくまでも此方への威嚇行動だろう。
「キミはそっちのフードの彼の手下なのかな? オヤブンに泣きつかなきゃ何も出来ないなら最初からこんなアブナイところに来ないことだね」
「ギギィ!」
「なんて? ……あ、なんとナク分かった! 手下じゃないけど、森を荒らすヤツがキライって?
――ソレは勘違いだよ! 森を荒らすヤツらを成敗しにやってきたのがオレ達なんだから!」
イグナートはボギーへと勢いよく拳を叩きつけた。それは不可能なる幻想を穿つ竜撃。事態に手を拱いているばかりでは何も進まない所か、責任所在をなすりつけられるとは何とも心地が悪い。ぼやいたラムダが地を蹴り上げる。
「ボクの本気を魅せてあげるよ……起きろ無明世界。華散らせ彼岸花!」
茨を焼き払う勢いであれば、それを一時的に無効化は出来るか。直ぐにでも伸びてこようとするそれは『茨咎の呪い』の様に煩わしい。
だが、ラムダの言うとおり所詮は『操縦者のいない反射的な行動』を繰り返しているだけの茨である。一時的にでも無力化さえしてしまえば、残るはボギーに撤退を促すだけ。
深追いをしたくはないと願うニルの高位魔法は美しき霧氷魔の空間を展開し続けた。まるでファルカウを包む冬の如き輝きを周囲へと落とす。
「茨で覆われて、みんなが目覚めなくて……ふるさとが閉ざされて、家族に会えないひとがいて……。
かなしいのは、ニルはいやです。だから、ニルたちは来たのです。荒らしに来たんじゃないのです。
ここをまもるために、来たのです。あなたも、ここを、まもりたいんじゃないんですか?」
ニルが声を投じれば、レンブランサは「あなたは」と酷く悲しげな声を漏した。嗄れた声音は長く伝承を歌ってきたからだろうか。
握りしめた杖がさらさらと砂のように零れ落ちて行く。
砂の魔道士と呼ぶべきなのだろうか。彼はモカの攻撃を砂で作った盾で遮断し、ゼフィラを斥けんとしていた。
それでも、今はニルを視ている。フードの奥深くから穏やかそうに覗いたその顔が切なげに歪められる。
「あなたは、分かって下さると思っていたというのに。
わたしたちはこの森を護りたい。だからこそ『森を閉ざす選択』をするのでしょう。
異邦の者が踏み荒らせば、変化する。わたしやあなたの様に『変化が少ない』生き物でさえも、否応なしに変えてしまうのです」
歌うように言葉を紡いだレンブランサに「閉ざすだなんて、意味が分からない!」とオデットは叫んだ。
「それは貴方の勝手じゃない! 私達は妖精達と仲良くなって、彼女達の不安を聞いてやってきたの。隣人の不幸を良しとして言い訳がない!」
「異邦より来た精霊のお嬢さん。それでも大樹ファルカウは『変化を望んでいなかった』のですよ」
涙ながらに語らうレンブランサの砂がオデットが願い手繰った熱砂とぶつかり合った。肉体の痛みを堪えたゼフィラが唇を噛みしめる。
「難しいことは分からぬがの! 麿は森を土足では踏み荒らしてはおらぬからの。セーフじゃセーフ!
冬に閉ざすことは本意でなかろう! 花咲く季節になったと言うに、いつまでも不穏な風が吹いていたのでは、ゆっくり団子も食べておれぬ。
ババっと解決して春薔薇のシーズンを迎えたいものじゃ。なーーーーっはっはっは!」
腹を抱えて笑った夢心地が狙うはボギー。レンブランサは「我が隣人よ、無理はいけません」と静かに紡ぐ。
「はじめて会うはず、なのに……あなたは、ニルのことを、知ってるのですか……? そのかなしみ……にくしみは……ニルの、せい……?」
――ニルが、変わってしまったから?
呟いたニルにレンブランサは酷く悲しげに囁いた。
「いいえ、あなたならば変わらないと願ってしまったわたしの所為です。あなたとて、異邦の人であったのでしょう」
呟かれた声に「え?」とニルが目を見開くが、レンブランサはそれ以上は何も紡ぐことはない。
ゼフィラは膠着状態となっている戦況を打開すべく瑠璃を振り仰いだ。
ボギーへと叩き込んだのは精神力の弾丸。抜き身となった射干玉の刃に乗せる黒き靄は総ゆる苦痛をボギーへと施して行く。
「ボギー最大の弱点はズバリめちゃくちゃ殴ると死ぬという点じゃ。これは予め皆に共有しておこうかの。ぬおおおおおおお逃がすかボギィィイイイイイイーーーーーッ!!!!」
「ギエィ!」
夢心地の『めちゃめちゃ』殴る勢いは小動物を狩る猛禽の如く。膝を突いたモカを飛び越えて夢心地は「任せろォい」と胸を張った。
「ボギーは『めちゃくちゃ殴ると死ぬ』か。成程、まあ、確かに何だって殴れば死ぬ」
「単純でイイネ!」
笑うイグナートとラムダの背後で支え続けるニルはゼフィラが膝を突いたことに気付く。アンテローゼ大聖堂にボギーを、レンブランサを近づけまいと戦う瑠璃は目視にてボギーが引き際を伺っていることに気付いた。
「……協力してくださいますか?」
「ええ。妖精達も協力的だもの!」
にんまりと笑ったオデットに瑠璃は小さく頷く。熱砂の如く舞い上がった嵐がボギーの足下を狙う。「ギイ」と驚愕に体を捻ったボギーを追いかけて瑠璃の刃が地へと叩きつけられる。
「ギギィ!」
「卑怯だなんて。戦略ですよ」
囁く瑠璃の声音に被さるように「ボギィイイイイとったりいいい!」と夢心地の声が響く。
辛勝ではあるが、勝てば官軍。そう言いたげな夢心地を眺めやったボギーは慌てふためいたように走り逃げ出した。
「……ああ、」
残されるレンブランサはじり、じりと後退する。追撃の手を緩めたラムダが睨め付ければフードの幻想種は悲しげにはらはらと涙を流してその場を後にした。
さらさらと毀れる砂だけがその場に残され、まるでそこにレンブランサがいた事を告げるかのようであった。
●
「……レンブランサは?」
「向こうに。ファルカウまで自由に走れるだなんて、あのヒトはひょっとして――」
イグナートの言葉にフランツェルは「ああ」と呻いた。それはレンブランサが敵であるかどうかの判断に他ならない。
イレギュラーズでさえも茨咎の呪いで苦しんでいるというのに、自由に動き回れるという時点でその陣営が知れてしまう。
「あの妖精と一緒に現れた幻想種のような、彼は一体――何なのですか?」
瑠璃の問いかけにフランツェルは「旧友よ」と呟いた。
アンテローゼ大聖堂に訪れていた信心深き巡礼者。幻想種は『眠りの精』の御伽噺を語るザントマンの伝承を言い伝える存在であったらしい。
レンブランサとニルが出会ったのが何時であったかは分からないが、フランツェルは近頃になってから彼の姿を視ることはなくなったと言う。
「ザントマンの……? ザントマンそのものは深緑ではなく豊穣で――」
「おお、そうであった、そうであった! 肉腫として姿を見せ、麿達に屠られたのであろ?」
ゼフィラと夢心地に「眠りの精だって言われたけれど、その性質は『大地の癌』だったものね」とオデットは唇を尖らせた。
豊穣はある意味でも縁が深い。ザントマンの伝承と熱砂の恋心が語られたのはラサの地であったが、豊穣に持ち込まれた眠りの呪いはザントマンの伝承の如く霞帝の身を包み込んでいたではないか。
この地から少し歩んだ先の吹雪に踏み入れればまるで霞帝の眠りの呪いのように昏睡する事があるらしい。幻想種達に言わせればザントマンの呪いそのものだともいう。
「そうですか、深緑で語られるザントマンの伝説の語部……。
そのザントマンが屠られたとしても伝承は残して行くべきものでしょう。どうして、姿を消すなど……」
「ひょっとすれば、レンブランサは『変わってしまった』のかもしれない」
ぴくり、と瑠璃の肩が揺れた。変わってしまったと紡ぐニルが不安げにフランツェルを見遣る。穏やかな幸福を分け合うような時を過した彼がどうして――その言葉に応える言葉は出ない儘、魔女は目を伏せた。
「どうしてか、分からないけれど、多分……きっと。
レンブランサは大樹の嘆きを目にして心を痛めてしまったのね」
そうしてアンテローゼ大聖堂にやってきて、同胞ではないイレギュラーズこそが森を陥れた存在であると認識したのか。
茨の出所がファルカウに存在する魔法道具であるというならば、地を這い蹲る茨こそファルカウの嘆きであるとでも、そう言うかのようで。
「目指すのはファルカウだね」
イグナートにオデットは「そうね」と頷いた。語り継いだ眠りの詩。
――夜の森は危険だよ。さっさと眠ってしまいなさい。
そうしないと眠たい砂が降ってきて『ザントマン』に攫われてしまうよ――
誰もが耳にする御伽噺のように、この国は眠りについた。寒々しい空気に混じった冬の気配。
「……雪、降りそうね」
全てを閉ざして、眠りに誘う冬の気配から逃れるようにオデットは呟いた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
とってもギリギリな戦いとなりましたがなんとかアンテローゼは守り切れたようです。
ボギーは執念深く殴られて驚いたことでしょう……。
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
レンブランサ及び敵勢対象の撃退
●フィールド情報
アンテローゼ大聖堂前。外では『茨咎の呪い』が蔓延しています。
美しき花々を忘れさせるような冬風が吹いています。
足下には『茨』が這いずり回り、エネミーのようにイレギュラーズの行動を邪魔しようとするようです。
●『茨咎の呪い』
大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。
●『レンブランサ』
幻想種――だった筈の存在です。それはイレギュラーズを酷く恨んでおり、悲しげに涙を流しています。
イレギュラーズは森を土足で踏み荒らす存在であると、そう認識しているようです。
大樹ファルカウの信仰者であり、『ザントマンの伝説』を語り継ぐ詩人でもありました。
司教フランツェルにとっては既知の存在であり、ニル(p3p009185)さんも過去に出会ったことがあります――が忘れています。
その戦闘能力は不明ですが、彼の傍に居る邪妖精が支援を行っているようです。
彼は邪妖精が撤退する際には同時に撤退します。
●邪妖精『ボギー』 1体
悪戯好きの小さな妖精。魔法と手にした鈍器での攻撃を駆使します。
レンブランサをこの戦場まで連れて出た張本人であり、主に戦闘はボギーが行うようです。
すばしっこく、茨と連携して戦います。
・『茨』
フィールドに存在する魔法生物的存在です。植物ではなく、根が存在するわけではありません。
どうやら、この茨は『魔法道具』から生み出されて居るようですが……?
●司教フランツェル
フランツェル・ロア・ヘクセンハウス。アンテローゼ大聖堂の司教です。
アンテローゼ大聖堂の中に隠れて見ています。レンブランサには思う事があるのか青ざめた表情をしているようですが……。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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