PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<13th retaliation>朽ちる霊樹『レテート』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――長い夢を見ていた気がする。

「おかあさま、待って下さい」
 追掛ければ、笑い声が木霊した。
 脚が縺れそうになれば慌てて、抱き締めてくれた白い腕。
 幼い頃から、憧れた『ファルカウの巫女』の在り方。わたしという存在が目指す場所。
「どうしたのですか。クエル」
「おかあさまが先に行くから……本日はクエルもお連れ下さると約束したではありませんか」
 そうだったかしら、と。首を傾げた『母』はそれならばと手を引いて下さった。

 ……彼女は本当の母ではない。親元を離れることとなった私の母代わりになった、ファルカウの巫女。
 霊樹『レテート』の別称は『朽衰の霊樹』――その名は霊樹に仕える者が霊樹と共にあるために生命力を糧にすることからであった。
 歴代の『レテート』の巫女はその命が潰える前に次代の巫女を見付けてきた。
 選ばれたばかりの私(クエル)は『レテート』と相性が良かった。直ぐにでも親元を離れ、霊樹に仕える事となった私(クエル)を不憫に思い彼女は母代わりを名乗りだしてくれたのだ。
 そう聞かされたのは10になった頃であったか。まだ言葉も話せぬ私(クエル)が巫女となってから母は随分と長い時間を掛けて世話をしてくれた。
「おかあさまをお守りするために強くならなくてはならないのです」
「ふふ……有り難う。でも、貴女はレテートの巫女。レテートをお守りすることを第一にするのですよ」
「けれど……」

 ――長い夢を見ていた気がする。

 浮上する意識を手繰り寄せれば、目の前には白き虎が腰掛けていた。
 ああ、レテート。その様に悲しんでどうしたというのですか。
 ……私も、悲しんでいる? ああ、そうでしょう。母が息災であるか心配なのです。
 本当の母でなくとも、私にとっては大切な母上。リュミエ様。
 レテート? ええ、そう。私とあなたはもうすぐ朽ちる命運でしょう。その前に、せめて、母だけでも――


「大樹の嘆き。魔種の影響?」
 そう口にしてから小金井・正純(p3p008000)は眉を吊り上げた。
「ええ。大樹の嘆きはR.O.Oでも相対したことで知っている人も居るでしょう?
 そもそもはこれは大樹ファルカウの『防衛機構』であるそう。成り立ちについては詳細は分からないけれどね」
 アンテローゼ大聖堂内部にて静かな声音で告げたフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)は其れそのものは『生きている』ファルカウやその周辺の霊樹がこの森を護る為に作り出したことである事は容易に想像できると告げた。
「それでも正純さんや風牙さんが相対した『白虎』の姿をかたどっていた大樹の嘆き――レテートについては説明が付かない。
 その辺りを少し調べてみたの。色々とそうした存在を相手にしたイレギュラーズの皆の情報を収集してね」
「……レテートは敵対する相手じゃないんだろ? だって、イルスさんだって心配してた。
『巫女』さんが何か知っているかも知れないって言ってたしさ。正直調べている時間も惜しくないか」
 フランツェルが穏やかに話すからだろうか。気にもなったと言うように新道 風牙(p3p005012)は肩を竦めた。
「一先ずは霊樹レテートの郷に向かいながら説明するわ。
 クエル・チア・レテート――レテートの巫女に何かあった時用に聖葉の確保はしておいたから」
 説明は道すがらよ、とアンテローゼ大聖堂から出たフランツェルは「ちょっと裏技」と笑った。
 ヘイムダリオン然り、遺跡を使用すれば『呪い』の効力が薄い場所がある。ファルカウ内部にはすすめやしないが、周辺ならば、そうした箇所を見付けることで周辺集落への移動は行えそうなのだという。

「まず、大樹の嘆きはファルカウや霊樹の防衛機構である、という話ね。
 それはその字面通り。森が危機に陥れば霊樹やファルカウは嘆き苦しみ精霊を思わす姿で実体化して、敵対者を攻撃するの」
「はい。それはレテートも同じでしたね。……私達が敵対者であると認識したのは謎ですが」
 正純が相対した『大樹の嘆き』は魔種の味方をしているように見受けられたからだ。
「『大樹の嘆き』の更に上位存在と呼ぶべき『オルド種』が観測されたの。反転状態には至っては居ないけれど洗脳に近い魔種による影響を大いに受けた存在ね」
「……反転状態に至ってない?」
「多分。個体によりけりでしょうね。最早、元に戻すことの出来ない『嘆き』も存在するかも知れない」
 風牙は「難しいな」と呟いた。全固体が共通している訳ではない状況ならば、対処にも手を尽くさねばならないだろう。
「レテートは『オルド種』ではなかったでしょうけれど、魔種の影響を受けていることは確かね」
「その魔種が、私達が相対したライアム、でしょうか」
「ええ。彼についてはイルスが改めて調べているから……少し待って頂戴ね」
 小さく頷いた正純は「防衛機構が『魔種』の影響を受けて暴走している、と見れば良いのでしょうね」とフランツェルへと返した。
「つまり、レテートは魔種の影響を受けて、何かを目的に味方してたってことか? 例えば……ほら、大切な巫女さんを護る為、とか?」
「あり得なくはないわ。レテートと巫女は命運を共にする奇異な霊樹。
 レテートよりも早く寿命の来る巫女は次代の巫女を探すと言われているけれど……『相性の良すぎた今代の巫女』は霊樹の衰えをその身体に反映してしまっているもの」
「その、霊樹の衰えを反映って?」
 問うた風牙にフランツェルは応える前に「目で確かめて」とそう言った。
「確かめる――って言っても……」
「ええ。困ったわね。どうやらレテートの郷は来客を拒んで居るみたい」
 白虎が牙を剥きイレギュラーズを待ち構えていた。何人たりとも通さぬと言いたげな様子で――

GMコメント

 夏あかねです。

●目的
 ・『レテートの巫女』クエル・チア・レテートからの情報収集
 ・『レテートの巫女』との謁見のために『レテート』に謁見を認めさせる

●フィールド『レテートの郷』
 霊樹レテートが存在する小規模な集落です。住民の姿は見当たらず、伽藍堂としています。
 霊樹レテートは遠目より見ることが出来ますが、太い幹が特徴の堂々とした霊樹です。
 その傍に『レテートの巫女』が居る事が推測されますが、大樹の嘆き『レテート』が侵入を拒んでいるようです。
 例に漏れず郷の周囲には茨が存在し、イレギュラーズを攻撃してきます『茨咎の呪い』も郷周辺に存在しているようです。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●霊樹レテート
 別名を朽衰の霊樹と呼ばれる、巫女と命運を共にする霊樹です。但し、巫女の寿命が先に尽きる際には『次代継承』が行われます。
 そうして脈々と生を繋いできたレテートではありますが、今代の巫女クエル・チア・レテートは相性が良すぎたことでレテートの衰えをその身に反映して老女の姿となったそうです。
 ……どうやらレテートの傍には『茨咎の呪い』は存在していないようです。霊樹の効力によるものでしょうか。
 故に、その地に立ち入るには『レテート』に認めさせる必要があります。

 ・『大樹の嘆き』レテート
 白き虎の姿をした精霊を思わせた存在。非常にHPが高く優れた単体攻撃能力を有します。
 レテートには対話能力はなく(幻想種ならば考えている事は伝わってきそうです)、見聞きしたものは巫女へと伝わるようです。
 巫女が魔種による影響で精神的に疲弊しているため、現在はレテートが巫女への面会を『しても良い人物』か見定めようとしています。
 どうやらフィールドに存在する茨からはレテートも攻撃を受けているようですが……。

●クエル・チア・レテート
 レテートの巫女。老女の姿をしていますが、母代わりのリュミエを「お母様」と呼びます。
 レテートの見聞きした者を曖昧ながら理解する能力に長けています。レテートは現在『クエルとクエルの目的のために戦う』事を選んでいます。
 どうやらクエルは魔種の青年と出会った後であり、精神的に不安定に陥っているようです。現在はレテートの庇護下にあります。
 彼女と謁見しファルカウについての疑問を質問しましょう。
 どうやら、『国がこうなる前』まで、彼女はリュミエの傍に居たようです。
 霊樹レテートと命運を共にするために霊樹が受けている『影響』にも過敏に反応しそうですね。

●『聖葉』
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。
 ……今回はクエルに茨のように纏わり付いた不安を拭うために見せて上げましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>朽ちる霊樹『レテート』完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
木漏れ日の優しさ
サイズ(p3p000319)
妖精の守護鎌
マルク・シリング(p3p001309)
那須 与一(p3p003103)
メイジン
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
小金井・正純(p3p008000)
燻る微熱

リプレイ


「レテート?」
 その名を耳にして『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は頭を抱えた。それはヘイムダリオンで出会った『大樹の嘆き』と同じ名称であったからだ。
 ヘイムダリオンRTAを称していたサイズは思いきり敵対した経験がある。それがヘイムダリオンの固有幻影である事を願うと頭を抱えながらも、転に祈らずには居られない。そんな様子をちら、と見遣ってから『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は「大丈夫?」と問いかけた。
 深緑を救う為に自らが出来ることを。その為には情報が多く必要であるとオデットは霊樹レテートの元へと赴いていた。なるべく攻撃をしたくない、というのは森の木々から出でた存在である大樹の嘆きを思ってのことである。それでも、足を踏み入れればレテートはイレギュラーズに牙を剥くだろう。
「……まだわからないことだらけ、私に何ができるかわからない、でも精霊達のためにも立ち止まってられないのよね」
「そうですね。同胞を救うため、です」
 ここが霊樹の里、と呟いた『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は閑散として人の気配を感じぬ周辺に違和感を拭う事は出来なかった。
 柘榴色の瞳で眺め見遣れど、伽藍堂。調査を事細かに行いたいが――そうもいかぬのが森の現状だ。
「この里の同胞達が何処へ行ってしまったのか気になるトコロですが、余り長居は出来ないようです。まずは此処へ来た目的を果たすとしましょう」
 そう、彼女達の目的はこの里の中心である『霊樹』レテートの巫女との謁見である。彼女は深緑と呼ばれた共同体の実質的な指導者にあたる巫女リュミエ・フル・フォーレとも親交が深く補佐たる存在でもあったらしい。
「巫女さんからは、色々と聞かなきゃいけないことがある……か。
 今回の一連の出来事の核心に近づくため。そして、深緑に平穏を取り戻すために。やってやらなくちゃな」
 拳を打ち付けてやる気を漲らせた『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)は霊樹の巫女『クエル』との謁見を何が何でも成し遂げねばならぬと考えていた。
「その為にはレテートに敵意がないことを知ってもらわねばならない、と。
 ……それから巫女さんに逢わせて良いと認めて貰う……そのためにも茨は此方で払除けなくてはならない……。
 認めてもらうだけなら恐らく聖葉を見せるだけでも大丈夫でしょうが、巫女さんからの信頼も勝ち取らないと情報はもらえませんでしょうし頑張りますよ!」
『メイジン』那須 与一(p3p003103)の云うとおり聖葉のひとひらだけでも関門突破が出来る可能性はある――が、それをどの様に使用されるかをレテートが不安がる可能性もある。
「いや、それだけでは不安だ。レテートの信を得る、か……正直なところまったく自信は無いけれど、誠心誠意、伝えようと努力するしかないね」
 コレばっかりは誠意を見せるしかないと頬を掻いたマルク・シリング(p3p001309)に『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は頷いた。
「レテートが私達を拒む理由……推察はつきますけど、今は進むしかありません。
 ……この先に何が待ち受けていようと、会いに行くしかないんですから」
 レテートの立場に立てば簡単だ。同胞である幻想種はドラマのみ。幻想種達が閉鎖的に暮らしていたこの森に、救う為だとはいえ様々な人種が踏み入れているのだ。古き時代より、長耳の者達との友誼で過して来た霊樹にとってはシフォリィやマルクと『魔種』の判別もそう簡単に付くものではないだろう。
 何よりも、霊樹との相性が良すぎたが故にその影響を一身に受けているという巫女クエルを護る為の行いだ。この抵抗は決して責めるべき事ではない。
「……霊樹との相性が良すぎるばかりに、その影響を一身に受ける。他人事とは思えません、その苦労いかばかりか。
 それでも、己を保ち、こうして耐えている。一刻も早く、クエルさんをお助けし、今回の異変についての話をお伺いせねば」
 胸に誓うように『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は囁いた。クエルとの対話を行う事でレテートを救うこと。
 その為には武器を構えず対話の姿勢を崩さない。正純が踏み込む背後でオデットは周囲への保護を心掛けた。
 自然を守り、自然を愛する。木々はレテートの同胞だ。決して傷付けないという友誼を此処に結ぶが為に。


 ――何者だ。

 低く、問いかける声音に背筋をぴんと伸ばしたシフォリィは巨大な白虎が此方を睨め付けていることに気付いた。
 それが霊樹レテートである事は一目瞭然である。「成程」とサファイアの眸を細め頷いた。
 深緑を助ける意志があるか、敵ではないか。それ以上に、『巫女クエル』を思うレテートの想いを汲み取れるかを品定めするかのような視線だ。
「聞いて欲しい、霊樹レテートよ! 僕たちは貴方に危害を加えに来た者ではない! 僕たちは『聖葉』で、貴方の巫女、クエルさんを救いに来たんだ!」
 声を上げたマルクはレテートに絡みつく茨を払うべく聖光を放った。悪をも滅する天光が瞬き、レテートの周囲の茨を一度引き剥がす。
 与一は言葉に自信は無いが行動ならば、とレテートを避ける鋼の驟雨を持って茨を攻撃し続けた。

 ――……危害を加えぬと易々と納得すると思うたか?

「いいえ! 貴方様が納得して下さるように私達は、対話を行う為に此処に来ました。
 レテート、偉大なる大樹の嘆きよ。私たちは今回の異変を、貴方の巫女に起こっている異常を祓いに来ました。
 どうか、手助けをさせてください。そのための聖葉もございます。信じられぬと云うならば、貴方様を蝕む茨を払う事を以て示させて頂きたい!」
 正純は真摯に言葉を重ねた。ただ、言葉をぶつける事こそが必要だ。巫女とは何か、ということだ。
 巫女とはただその祈りを言葉に乗せて捧げる存在である。余計な邪念が伝われば、それだけでこの対話は破綻してしまうと知っていたからだ。
「はじめまして、霊樹レテート! そしてクエルさん! オレたちはローレットのイレギュラーズ!
 この深緑を異変から護るために動いています! 色々と聞きたいことがあって来ました! お目通りを許してください!」
 深く繋がっているならば、巫女クエルとて子の声は聞いている。風牙は素直に通してくれないと知りながらも『除草作業』の前にしっかりと身分を明かし、挨拶を行っておきたかった。
「私はドラマ、幻想種のドラマです。貴方や貴方の巫女を傷付けるつもりはありません。
 レテートの巫女、私は今の状況が同胞達にとって良い状況だとは思わない。少しでも早く事態を収拾する為に、お知恵をお貸し頂けないでしょうか?」

 ――クエルは傷ついているのだ。何故か分かるか?

「何故、か。貴方はどう思っていらっしゃるのですか」
 ドラマは問いかけ、レテートの至近距離へと走った。白き虎を害する茨を打ち払う。武器は霊樹に向けるためではない、救う為のものであると示すように。

 ――世界の均衡が『滅び』から遠離るからこそ、奴らは強硬手段に出た。そして我が巫女もファルカウも傷ついたのだ。

 シフォリィは「そうなのかもしれませんね」と呟いた。茨を払除け、レテートを救うが為にと剣を振り上げる。
 長き間を過してきた霊樹であるからこそ、大召喚を経てから世界が大きく変化したことを実感してきたのだろう。そして、それが己の巫女に及ぼした危機に憤っているのだ。
「それでも――それでも納得できないわ。此処を救わなくっちゃいけないもの。
 みんな、手伝って。ここから茨を遠ざけたいの……レテート! 私達が敵対したいのはあなたじゃない。この茨とそれを生み出している存在よ」
 苦しげに叫ぶオデットに続きサイズはレテートの前で己の意志を示すように堂々と名乗り上げた。
「俺の名はサイズ! 妖精の武器! 妖精に害を成す茨よ! ぶったぎる! 茨のせいで深緑に取り残された妖精を助けるまで止まる気ない!」
 与一はレテートの周りの茨を打ち払い、ちら、と見遣った。茨は幾重にも伸び上がることが分って居る。
 最大限に警戒を示しておかねばならない。押し止めるだけの戦いというのも骨が折れる。
 正純は祈りを込めて、認められる条件が対話で構わないか――戦闘の意欲をレテートが見せないかと警戒を怠らない。
「オレ達は敵じゃない。あんたたちの力になりに来た!」
 望むならば刃交える気もあると態度で示す風牙は怯む事は無い。
 前線で茨を押し止めるドラマに、出来うる限りの手を尽くして見せんとするシフォリィと正純の背を眺めてから風牙が「サポートするぜ」とマルクに告げた。
 頷いた青年はレテートに向けて癒やしの力を発生させる。孤独にクエルを護り続けていたレテートの傷を少しでも癒やしておきたかったからだ。
「これが通じるかわからないけれど、せめて、心だけでも伝われば……!
 ただ助けたいんだ。レテートを。クエルを。ファルカウを。この森に暮らす幻想種達を。
 深緑を、元の静謐な森に戻すために、どうか僕たちを認めて欲しい……!」

 ――このレテートに『そうありたい』『そう為したい』と持ちかけた青年は……悪に堕ちてしまったが、お前達ならば。

 レテートは警戒を緩めるようにその場に身を伏せた。その上を征く茨を打ち払う与一が身に刻まれた傷に唇を噛みしめる。
 茨全てを纏めて引き寄せたサイズに「無理しないでよね!」と叫んだオデットは精霊達の力を借りてそれらを斥けた。
「青年って……ライアムか? やっぱり、レテートと逢ってたんだな。それで――?」

 ――彼に渡した『一枝』は消えた。悪の傍に立った私の形代を倒したのはお前達であったのだろう……?


「こちらを」
 そっと膝を突いて視線を合わせる正純に深い息を吐いてからクエルは「助かりました」と微笑んだ。
「大丈夫かしら。休んで頂戴ね」
 林檎を差し出してリラックスして欲しいと微笑むオデットにクエルは小さく頷く。
 幻想種と云えば若々しい女性を想像する。それは共同体の代表者であるリュミエの外見が妙齢の女性である事にも起因しているのだろう。
「あー……なるほど、『目で確かめて』ってそういうことな。自らこうなる道を選んだのか、この人は……」
 ぽつりと零した風牙はフランツェルに言われた見てこいと云う言葉の意味が良く分かった。
 重ねた年齢で云えば若々しい少女の外見をしているドラマが傍に居れば感覚も麻痺するが、クエルは老女の姿をその身に映していた。
「驚かれましたか? ……幻想種であるのに老女である私を見ることで驚かれる方は多いのです」
「……まあ、けどクエルさんが選んだ道だもんな」
 風牙は少し驚いたと緩い笑みを浮かべ返した。クエルの背後で木々がざわめき、レテートが風牙の返答を良しとしたことが分かる。
「ご無沙汰しております」
 ドラマは衰えた同胞の姿は見たことはなかったが『その面影』は見たことがあった。彼女は木々の映し身、リュミエの傍に居たのならば若かりし彼女の姿を見たこともある筈だ。
「ええ、ご無沙汰しております。貴女は『月英』の書架守ですね」
 頷くドラマに「衰えた私を見分けて下さって有り難う」とクエルは喜ばしいと微笑む。
「其れで、どの様なご用件でしょう。わざわざレテートに対話を求めていらっしゃったのでしょう?」
 マルクと正純が顔を見合わせてこくりと頷く。老女は此方に向き合ってくれるのだ。
「大樹の嘆きと現れた魔種たち、そして、クエルさん自身の状況について。
 霊樹が受けている影響、それが分かれば少しでも前進できるはずです。……どうかご教授ください」
「僕が知りたいのは、異変が生じた『その時』の事です」
 ファルカウでリュミエの傍に居たのならば、レテートとの『深い繋がり』で退避が叶った彼女はファルカウの内部が、中枢が、良く分かるのではないか、と。
「異変、と云うと……」
「リュミエとファルカウに何があったのかが知りたいの」
 オデットの不安げな声音にドラマが続いた。リュミエは幻想種達や深緑にとっての支柱でもある。
 聞きたいことは山ほどにあるが現状こそ把握しておきたかったのだ。
「お母様――リュミエ様は、眠られておりましょう。ファルカウの力が『悪しき者』に利用されているのはお母様が眠っているからこそです」
「眠っている? 外の幻想種と同じように?」
 サイズの問いかけにクエルは頷いた。ファルカウの内部には濃い眠りの呪いが蔓延している。特に、リュミエや中枢に存在した深緑の幻想種達は深い眠りに閉ざされているのだという。
「私は『例外』ですが――幻想種であればこの数ヶ月も瞬きの内。まだご無事でしょう。
 ええ、長き命を転た寝しているだけとも言えるかも知れません。ですが……此の儘であれば肉体は朽ち衰え、死へ至る可能性もあります」
「やっぱり早期的に助けないと行けませんね」
「そうだな。足踏みしてる時間はなさそうだ」
 特に、定命を歩む自身等にとっては幻想種の瞬きの刹那の歩調ではこの森を救う為の手が伸ばせぬのだ。
「なら、倒すための話です。魔種の存在。このレテートやオルド種に影響を与えているという『魔種』は、一体何者なのか。
 手がかりになる情報が少しでも欲しいのです。難しいことかも知れません……この森を取り戻すために、どうか僕達を信じて欲しい」
「そう。オルド種と呼んでいる大樹の嘆き達について、魔種の影響から救うことはできないのかが気になるの」
 ずい、と身を乗り出したオデットにクエルは首を振った。
 マルクの問いかけた魔種の存在は強大な者であろう事しか想像が出来ない。
 クエルは云う――「『冠位魔種』と言っていました」と。
「冠位……」
「ええ。魔種の統率を行う七柱。そうした者が居ると聞いたことはあります。
 其れだけの強大な力ならばファルカウをコントロールすることも出来ましょう。
 私が出会った青年はそれに唆されたのでしょう。レテートは一枝の力を貸しましたが……どうやら、皆さんにご迷惑をおかけしたようですね」
 マルクは息を呑んだ。ライアム・レッドモンドと呼ばれた青年は冠位魔種の手に落ちていたのか。
 やはり、相対するのは冠位魔種だ。其れ等を倒すための策を講じなくてはならない。
「じゃあ、オルド種は……」
「元には戻せないと考えた方が良いでしょう。それにレテートは、聖葉を齎すアンテ・テンプルムのような浄化の力は持ち合わせておりません」
 自身では救えないと苦しげに眉を寄せたクエルにオデットは「そう」とぽつりと呟いた。
「この眠りの病もレテートでは解くことは出来ませんか?」
「レテートは自身と私を護る為のみの防衛の力を発揮しました。
 ……あの眠りの呪いは、冠位魔種と呼ばれる存在の力を『魔法使い』の宝珠に乗せて広めたものでしょう」
 推測でも語ってくれるのは、彼女がイレギュラーズを信用した証なのだろう。ドラマは「分かりました」と静かに頷き返すしかない。
「私は一つ聞きたいんです」
「構いませんよ」
 レテートの傍に腰掛けていた巫女はシフォリィが浮かべた沈痛なる面差しに何かを察したように微笑んだ。
 枯れゆく美貌の幻想種はゆっくりと立ち上がり、シフォリィと向き合うことを選ぶ。
「……クエルさん。私は母を先に失いました。貴女は逆に母と呼ぶ方より先に旅立つことを覚悟している。
 母が亡くなった時、私はとても悲しかった。逆もきっと同じ、リュミエ様も悲しむと思います」
「ええ……」
「それでも……貴女は、巫女の命を全うするのですか? まだ生きて、もう一度会いたいと思わないんですか……」
 クエルはシフォリィの手をそう、と握りしめて微笑んだ。
「……貴女は、勇者の伝説に語られる封印術士フィナリィに良く似ていらっしゃり、お優しいのですね」
「ッ……」
「かの伝説では魔法使いマナセは旅立つ際にフィナリィに問われたそうです。
『その幼い身の上で冒険の旅に出て良いのか。何時、故郷に戻れるかも分からぬ旅となる。
 両親とも二度とは会えぬ可能性がある。それでも、貴女は征くのですか』と」
 シフォリィはクエルの微笑みに『万が一』を覚悟した。ああ、違う――影響を受けて朽ちるだけならば、もう一度会える可能性はあった。
 違うのだ。
 この霊樹は――
「マナセはこう答えたそうです。『それでも、己が為せることが母のために、父のために、誰かのためになるならば』
 同じ気持ちです。クエル・チア・レテートはお母様の事を愛しています。あの方が愛するこの森のためならば霊樹と共に朽ちることを選びましょう」
 聖域で微睡んでいた淑女のたった一欠片にも満たぬ力であるかも知れない。
 それでも、この地を覆う闇を斥ける為ならば、無数の霊樹の力を集め、枯れ果てるまで――霊樹『レテート』はそう決めていたのだろう。
「ああ、『レテート』に来て下さったのが貴女達でよかった。
 私は、秘匿しておこうと、思って居たのです。何処かで、我が命が可愛かったのかも知れませんね。
 ……貴女たちにとっておきの秘密をお教えします。アンテローゼに帰ってお伝え下さいね」

 ――巫女『クエル・チア・レテート』はこの命を賭して霊樹の力を集め、奇跡の一端なる反撃のための一柱となる事が出来ます。

成否

成功

MVP

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女

状態異常

那須 与一(p3p003103)[重傷]
メイジン

あとがき

 お疲れ様でした。
 クエルにとってのとっておきの策です。
 たとえ、自分の命が潰えても、お母様と呼び慕ったリュミエを救う為ならば。

PAGETOPPAGEBOTTOM